2010年11月20日

トラウマと私 23

「それで・・・」
私は、その後に何を言えばいいのかわからないほど、恥ずかしさに翻弄されていました。
顔中真っ赤になって、やよい先生のお顔を見ることも出来ず、うつむいています。

「えっと、それはつまり、じーこーいってこと?」
やよい先生がポツリと言います。
「G・・・?」
やよい先生がくれた言葉が理解できず、私はそっと顔を上げました。
やよい先生は、やわらかく笑って私を見ています。

「自分で慰める、って書いて自慰。自慰行為。俗に言うオナニーのことよ?」
やよい先生の好奇心に満ちた目が私の顔を見つめています。
コクンと小さくうなずいたとき、私の恥ずかしさは最高潮に達しました。
心臓がドクドク音をたてて跳ね回り、息苦しくなって、なぜだか下半身もジワっときました。
私、こんなことを話しているだけで、性的に感じてしまっています。

「へー。なおちゃんでもそういうことするんだ?」
「あなた、少し浮世離れしてるところ、あるから、そういうことにはあんまり興味ないのかと思ってた・・・」

私がどんどん身を縮こませてプルプルからだを震わせているのに気がついたのでしょう、やよい先生は、そこまで言うと言葉を止めて、テーブル越しに右腕を伸ばして、私の左肩を軽くポンっと叩きました。
「ごめんごめん。そんなに恥じ入らなくてもいいのよ。普通のことだし。あたしも小六の頃から、もうしてたもん」
その言葉を聞いて私は、おそるおそる顔を上げます。

「あたしの場合、きっかけは、よくある話だけど、鉄棒。あたしお転婆だったから、休み時間によく鉄棒で遊んでたの。スカートの裾をパンツの裾にたくしこんでさ・・・逆上がりとか」
やよい先生が懐かしそうに目を細めて話し始めました。
「ある日、なんかの拍子で鉄棒を跨いじゃったのね。足掛け前転かなんかやってたときだったかなあ?そしたらパンツ越しに鉄棒がアソコにグイっと食い込んできて、あはんっ、てなっちゃってさあ」
「それがすごく気持ち良くってね。休み時間、足掛け前転ばっかりやってた。隙を見ては両脚で鉄棒跨いで、そのままじっとしてるの。ヘンな子供よね」
やよい先生は、クスクス笑いながらワイングラスに口をつけました。
「それから、いろんな棒をアソコに擦り付けるのが好きになっちゃって。ほうきやモップの柄とかバトンとか手すりとか。今でも擦りつけオナニーは、好きよ」
ウフっと笑ったやよい先生は、すごくえっちそうでステキでした。

「なおちゃんは、どんなことがきっかけだったの?」
やよい先生が子供の頃のお話を聞かせてくれたおかげで、私も一時の激しい恥ずかしさが少し薄れて、お話しやすい雰囲気になっていました。
顔を上げて、やよい先生をじっと見て、話し始めます。

「私の場合は・・・」
正直にお話すれば、初潮が来る前から本で知識を仕入れていて、初潮が来るのを心待ちにしていた、となります。
でも、それはちょっと、あまりにもあからさまなので、
「えーっと、父のお部屋で偶然みつけてしまった、えっちな写真集を見たのが・・・」
どんな種類の写真だったのかは、やっぱり恥ずかしくて言えません。
「その写真を見てたらドキドキしてしまって、自然に手が・・・」
「ふーん。そういうのもよく聞く話よね」
どんな写真だったの?って聞かれたらどうしよう・・・
ちゃんとお答えしなくちゃ・・・
どぎまぎしている私の予想とは裏腹に、
「それで、なおちゃんは、ちゃんと最後まで・・・」
やよい先生がそこまで言ってから急に言葉を切って、お水を一口飲みました。

「まあ、それは後で聞くことにして、話を進めましょう。えーっと、夏休みの出来事で男性のアレが怖くなって、オナニーができなくなった、っていうところまでよね?」
「は、はい・・・それで・・・」

「自分で自分のからだをさわっていても、あのときの感触を思い出してしまって、全然ダメで・・・」
「私、そういうことするときは、誰か女の人にさわってもらうのを想像することが多いんですけど、誰を想像してもあのときのイヤな感触になってしまって・・・」
「頭の中は、稲妻に映し出されたグロテスクな場面に支配されてしまって・・・」
まだ私は、オナニー、という言葉を実際に口に出すことが恥ずかしくって、できません。

「ああ、なおちゃん。そういうのって、トラウマ、っていうのよ」
「虎・・・?馬・・・?」
「心的外傷。心の傷ね。何か衝撃的なことを見たり、体験したりして精神的なショックを受けちゃって、それがずーっと心に傷となって残っちゃうこと。重い人は診察やお薬とかも必要みたい。そのことについてあんまり考えすぎないようにするのが一番らしいけど、それって難しいわよね・・・」
やよい先生は、最後のほう、しんみりとした口調でした。
やよい先生にも何か、そういう体験、あるのかしら?

「で、それで?」
少しの沈黙の後、やよい先生がまたニッコリ笑って先を促しました。
「あ、はい。それで、そんなときにお友達から、先生の・・・やよい先生と誰か女の人とのお話、さっき言ったお話を聞かされて・・・」

私はまた、どきどきが激しくなってきます。
とうとう告げるときがやってきました。
お水を一口飲んで、気持ちを落ち着けようと努力します。

「わ、私・・・私、やよい先生のこと・・・、ずっと前から・・・だ、大好きだから・・・」
小声で途切れ途切れに、やっとそう言いました。
やよい先生は、薄く笑みを浮かべながら真剣に聞いてくださっています。
私は、これではいけないと思いました。
もっとはっきり、ちゃんと伝えよう。

「私、やよい先生のこと大好きなんです。だから、やよい先生とそういうことをしてるって想像しながら、やってみたんです・・・オ、オナニー・・・を」
やよい先生の目をまっすぐに見て、勇気を振り絞って言いました。
オナニー、っていう言葉を口にしたとき、またアソコの奥からヌルっときました。
やよい先生のお顔が、一瞬固まってから、パっと嬉しそうな笑顔に変わったように見えたのは、私の贔屓目でしょうか。

「それで、そしたら、すっごくうまくいったんです」
「あのイヤな場面も全然思い出さずにすんで、ちゃんと最後まで出来て」
「それで、すっごく気持ち良かったんですっ!」
「本当に本当に気持ち良かったんですっ!」
たたみこむように一気に言いました。

私は、やよい先生の目を懇願するように、媚びるように、訴えるようにじーっと見つめます。
どうか私を受け入れてください・・・
どうか私を嫌わないでください・・・
どうか私の願いを叶えてください・・・


トラウマと私 24

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