2016年11月20日

非日常の王国で 06

「あの、えっと、つまり、今ここでショーツを脱ぐ、ということですか?」
 そんな卑俗なご命令が清楚なほのかさまのお口から出た、という事実が信じられない私。

「そうよ。そういうことをするのが、直子さんはお好きなのでしょう?」
「・・・はい」
 つぶらな瞳をワクワクに輝かせて問いかけられたら、私も正直にお答えするしかありません。

「そのワンピースの下は下着だけ?」
「はい」
「最近、雨が降らなくても蒸すものね。確実に夏に近づいている感じ。そのワンピース、からだのラインが綺麗に出て、とても似合っていてよ」
 たおやかな笑みを口許に浮かべ、イタズラっぽく私を見つめてくるほのかさま。

 私は首を後ろにをひねって、店内の様子を確認しました。
 私たちが座った場所はお店の突き当り奥、壁際の四人掛け席で、ほのかさまが壁側に、私がテーブルを挟んだ向かい側に座ったので、私は店内すべてを完全に背にしていました。

 そろそろお昼近くということで、広めな店内の七割方まで埋まっていました。
 男性六、女性四くらいの割合。
 おひとり客はケータイ、スマホや新聞に、グループ客はおしゃべりに夢中という感じで、みなさまそれぞれご自分の時間を楽しまれているご様子。

「あんまりキョロキョロ、不審な挙動をすると、却って目立っちゃうような気もするんだけどなあ」
 ほのかさまが可笑しそうにおっしゃいました。
「でも、直子さん的には、せっかく脱ぐのだから、誰かから注目されていないと面白くないのかしら?」
 無邪気な口調で、天然のお言葉責めを投げつけてくるほのかさま。

「いえ、そんなことは・・・」
 お答えしながらほのかさまに向き直り、居住まいを正しました。
 
 椅子の背もたれもあるし、背後から誰かに見られても何をしているのかまではかわからないはず。
 そう自分に言い聞かせます。
 ただひとつ気にかかるのは、お帰りになったお客様のテーブルのお片付けのために、ときどき出てくるウェイトレスさんの動きですが、今なら大丈夫そう。
 こういうことは躊躇せずササッとやってしまったほうがいいことは、シーナさまやお姉さまとの露出アソビの経験上知っていました。

「・・・脱ぎます」
 小声で宣言して、ほのかさまのお顔に視線を向けたまま、両手をワンピースの裾に潜り込ませます。
 
 今日穿いているのは、純白レースのタンガショーツ。
 リンコさまたちが毎日、私の手持ちの下着類を着衣のまま脱ぎやすいように魔改造してくださっているのですが、私物の下着すべてリフォームするというお約束なので、手持ちのあるうちはそれを身に着けてこなければなりません。
 したがって、その日の下着も私物、脱ぎやすく改造はされていないものでした。

 椅子から少し腰を浮かし、左右の腿に貼り付いた布地にかけた両手を一気に引き下げます。
 ワンピースの裾から、一直線に白く伸びた布地が現われ、膝のところで一旦停止。
 前屈みになって右足、左足とヒールに引っかっからないように慎重にくぐらせました。

「・・・脱ぎました」
 左手の中に、まだホカホカ体温の残るジットリ湿った小さな布片を、隠すように丸めて持ったまま、ほのかさまを見ました。

「すごーい。本当に脱いだんだ。わたし、見ているだけなのにすごくドキドキしちゃった。脱いでいる最中、お店の喧騒が聞こえなくなっちゃうほど集中して見入っちゃっていたわ」
 興奮されているのか、少し赤味の差したお顔でほのかさまがおっしゃいました。

「下着、見せて」
 ほのかさまのお言葉で、握り締めた左手のこぶしをゆっくりとテーブルの上に差し出します。
 指のあいだから白い布地が少し飛び出ています。
 ほのかさまが右手を伸ばしてきて、そのしなやかな指先で私の握りこぶしをおやさしく開かせました。

「素敵なのを穿いてきたのね。あ、そっか。今日はチーフが出張からお戻りになる日でしたものね」
 ショーツを広げた形でテーブルの上に置かれました。
 そ、そんな大胆な・・・
 カフェのオシャレ木調なテーブルに、これみよがしに置かれた布地少なめの真っ白なショーツは、アートっぽいような、ただお下品なだけのような、場違いな猥褻さを醸し出していました。

「やっぱりクロッチのところが湿っている。これは、直子さんが悦んでいるから、って理解していいのよね?」
 指先でヌメっているクロッチ部分を撫でるほのかさま。
「・・・はい」
 私の左手のひらもベトついていました。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。

「悦んでいるのは、わたしの命令に?それとも、今下着を脱いだ、っていう行為に対してかしら?」
「・・・どっちも、です」
 
 ほのかさまが私の性癖についてお話を始められた時点で、私のマゾマンコはジワジワとヌメり始めていましたから、正直な答えでした。
 ほのかさまは、その指先をご自分のお鼻のところに持っていき、クンと一度嗅いでから、傍らのおしぼりで丁寧に拭われました。

「今見ていて、直子さんのご趣味の醍醐味がわたしにもなんとなくわかった気がしたの。とてもスリリングよね。ハラハラドキドキ。こんなに人がいっぱいいるカフェでこっそり下着を脱ぐなんて、わたしには考えられないもの」

 ときどき背中の後ろを誰かが通るのを感じます。
 このテーブルは、奥のおトイレへつづく通路脇にあるのです。
 ショーツに気がつきませんように・・・
 私は、ワンピースの裾をひっぱるみたく股間の上に両手を置いて、テーブルのショーツを隠すように前屈み気味になり、自分が置かれた状況にゾクゾクキュンキュン感じていました。

 ほのかさまは、私が脱いだショーツを綺麗にハンカチのように折りたたみ、おしぼりの横に置きました。
「どう?自分が脱いだ下着がテーブルの上に置かれているのって」
「は、恥ずかしいです・・・」
「だけどそれが気持ちいいのでしょ?直子さん、ますますえっちなお顔になっているもの」
「・・・はい。その通りです。ごめんなさい」
 私の返答にご満足そうにうなずかれるほのかさま。

「せっかく脱いでも、ただ、そうして座っているだけでは、直子さんはつまらないわよね?」
 ほのかさまは、私をじっと見つめつつ、何かを考えられているご様子。
「片足、椅子の上に乗せてみて」
「えっ!?」

 小首をかしげての、ほのかさまの可愛らしいおねだりも、私にとっては絶対服従のご命令。
「直子さんがそのワンピースの下に何も身に着けていないっていうことを、実際にこの目で確かめたいの」
 ほのかさまのお言葉のイジワル度が、どんどん増している感じです。

 それ以上は何もおっしゃらず、期待に満ちたまなざしでじっと私を見つめてくるほのかさま。
 私は観念して、テーブルの下で右足のパンプスを脱ぎました。
 それからゆっくりと右膝だけを、テーブルの高さまで上げていきます。

 膝上20センチくらいのニットワンピースの裾が大きく割れ、それに従ってヌルみきった股間の亀裂が徐々に裂け始めるのがわかります。
 皮膚と皮膚が離れていく感覚はベトついていて、ヌチャっていう音さえ聞こえてきそう。
 やがて右足のかかとが椅子の縁に乗り、右の膝小僧がテーブルの上まで顔を出しました。

 お腹の方へとせり上がって大きく開いたワンピースの裾。
 無防備な下腹部の粘膜まで、外気に晒されているのがわかりました。
 テーブルに覆いかぶさるように身を乗り出し、その部分を覗き込んでくるほのかさま。

「すごい。全部見えちゃってる。ピンク色の中身まで全部。直子さん、とてもエロティックだわ」
 ほのかさまがケータイのレンズを私に向けながらおっしゃいました。
「でも周りを見渡すと、普通のオフィス街のカフェなのよね。そこのところがなんだかシュール」

「こっちを見て」
 ほのかさまのお言葉で、うつむいていた顔を向けました。
 カシャッとシャッターを切る音。
 同時に私はビクン。
「ずいぶんと辛そうなお顔なのね。イベントのときと同じ。でもそれがマゾの人の快感なのよね?」
 パックリ割れたマゾマンコからトロリと、淫液が椅子に滴りました。

「それにしても直子さんのハイジニーナ、いつ見ても惚れ惚れするほどツルンツルンで素敵」
 ケータイをかざしたままはしゃぐほのかさま。
 遠くのほうから、いらっしゃいませー、のお声。
 背後でガタンという、椅子を引くような音。
 眼下に剥き出しの自分のマゾマンコ。
 いやっ、もう許して・・・
 たまらず足を下ろそうとしてしまう私。

「だーめ。まだ足を下ろしてはだめよ。大丈夫。窓際のお客様が席を立っただけだから。もう一枚写真撮るから、足は上げたままよ」
 どんどんご命令口調が滑らかになってきたほのかさま。
 私は、片足を椅子に上げ直す、というそれだけの行為に、ハアハア息を荒げてしまいます。

「ほら、これが直子さんのえっちな姿」
 足を下ろしていい、というお許しをいただいてお水を一口。
 目の前にほのかさまのケータイが差し出されました。
 液晶に記録された私の浅ましい姿。

 頬を火照らせ唇は半開き、眉間を悩ましく寄せたいやらしい顔。
 顎の下に右の膝小僧。
 その下に白いワンピースの裾が大きく開かれて覗く肌色。
 その中心部に、顔と同じように下腹部の唇も半開きにして濡れそぼったピンクのヒダヒダを覗かせているマゾマンコ。
 唇の先端でこれみよがしに腫れ上がっている肉の芽までが鮮明に映っていました。

「シャッター切るときの音で、何人かがこちらに注目していたの。わたしは少し焦ったけれど、直子さんは、注目して欲しいのよね?」
「いえ、そ、そんなこと・・・」
「でも、その人たちからは直子さんの背中しか見えないから、こんな写真を撮っていたなんてわからないわよね。仲のいい女子が撮影ごっこしてるようにしか見えなかったかしら」
 ほのかさまがはんなりと微笑まれました。

「直子さん的にはちょっと物足りない?やっぱり恥ずかしい格好、誰かにちゃんと視られたいのでしょう?」
「いえ、今ので充分スリリングでした。こんな会社のご近所のお店で、自分のアソコを撮影されるなんて・・・それに、ほのかさまがじっくり視てくださいましたし・・・」
「本当に?ちゃんと興奮出来た?」
「は、はい・・・さっきもご覧になったように、私のマ、いえ、あの、性器は溢れるくらい濡れていますし、ち、乳首も、痛いほど尖っちゃってます。ほのかさまのおかげです」
 優雅なほのかさまがお相手だと、どうしてもお下品な言葉を使うのをためらってしまいます。

「そう・・・」
 ご納得されていないご様子のお顔で、しばし宙を仰ぐほのかさま。
 チラッと腕時計を覗いてから少し考え、パッと何か閃いたお顔になりました。

「それならこうしましょう。直子さん、ここでブラジャーも取ってしまうの。それで素肌にワンピース一枚だけになって、一緒にオフィスに戻りましょう」
「えっ!?」
「イベントのときも、裸に近い格好になればなるほど、どんどんえっちなお顔になっていったじゃない?辛そうなのに無理に無表情を作って。とてもエロティックだった」
「それに、わたしのせいで感じている直子さんのバストトップ、ブラを外せばワンピース越しでも、わたしにも実感出来るでしょう?わたし、直子さんのバストの形、とても好きよ」
 ご自分の思いつきに夢中なほのかさまが、無邪気に私を追い詰めてきます。

「で、でも、このワンピースってピッタリめですから、ブラを取ったら乳首が浮き出て、わ、私の乳首は大きめなのでとくに目立って、ノーブラが丸わかりになってしまいます・・・」
 とうとう私は、白昼に職場の周辺までもノーブラで闊歩することになるんだ、と、半ば観念しつつも、その行為に対する不安感から無駄な抵抗が口をついてしまいました。
「大丈夫よ。この時期にノーブラの女性なんて、街にいくらでもいるでしょう?誰もそんなに気にしないのではないかしら?」

 いいえ違います、ほのかさま。
 たとえ真夏にだって、ノーブラを誇示するように街を歩いている女性は、そんなに存在しません。
 ほのかさまだって、普段ノーブラで外出されないでしょう?
 それに、ノーブラの胸が他人の、とくに男性の視線を惹き付ける威力は、凄いんです。
 心の中で反論しつつ、どんどん疼いてきちゃってもいました。

「直子さんはスタイルいいし、ノーブラでなくたって注目を集める女性だと思うの。だから綺麗なからだは、より魅力的に視せてあげればいいのではなくて?」
「それに直子さん、視られたがり屋さんなのでしょう?欲望を我慢するのはからだに良くないわ」

 真剣なご表情でアドバイスしてくださるほのかさまを見ていて、ふと気づきました。
 ほのかさまは、こういうアソビに慣れていらっしゃらない。
 街中の露出行為に関しても、どこまでが安全で、どこからが危険なのか、その線引きがわかっていらっしゃらないんだ、と。

 お姉さまやシーナさまなら、こんな平日のお昼時に会社の近くをノーブラで歩かせるなんてことはしないでしょう。
 やらせるなら普段のテリトリー外、なるべくヘンな男性が出没しなそうなところ。
 私の身の安全を第一に考えてくださっていることを、経験上知っていました。
 でも、ほのかさまは、その加減がわかっていらっしゃらないので、無邪気に私を追い詰めてくるのです。
 それは、ほのかさまが私を悦ばせたい一心で、私の性癖に合うようなご命令を真剣に考え、私に接してくださっているからなのでしょう。

 新鮮でした。
 もちろん、怖い、という気持ちもあるのですが、お姉さまと一緒のプレイで感じているような、そこはかとない安心感を伴わない露出強要は、ひとりアソビばかりしていた頃、脳内ご主人様に従いながらビクビクしていた露出行為のときのスリルを思い出させました。

「わたしの命令、聞けない?」
 ほのかさまが私の顔を覗き込んできました。

 いずれにせよ、私に選択権は無いのです。
 チョーカーを着けて出社した以上、スタッフ全員のご命令に絶対服従の身なのですから。
 でも、や、だって、は絶対に許されない存在。
 ほのかさまが、脱げ、とおっしゃったら脱がなくてはいけないのです。
 それがいつであろうと、どこであろうと。
 ビタースイートな被虐感がゾクゾクっと背筋を走りました。

「口答えをしてしまい申し訳ありませんでした。ほのかさまがお望みなのですから、悦んでブラジャーも外します」
 マゾ度100パーセントでお詫びしました。

「よかった。直子さん、今日一番えっちなお顔になっている。悦んでもらえて嬉しいわ」
 ほのかさまが艶っぽくウフッと微笑みました。
 きっとほのかさまも今、両腿のあいだを熱くしていらっしゃる、となぜだか確信しました。

 こういった場でこっそりショーツを脱いだ経験は何度かありましたが、ブラジャーをこっそりひとりで外すのは初めてでした。
 えっと、どうすればいいのかな・・・
 ちょっと考えてからモゾモゾとからだを動かし始めました。

 ワンピースの両袖から内側に両腕を抜き、左手を背中に滑らせてブラジャーのホックを外しにかかります。
 リンコさまの改造ブラをしてこなかったことが悔やまれます。
 あれならワンピの上からでも後と肩のホックが外せてラクチンだったのに。

 それから左腕、右腕とストラップをくぐらせます。
 ワンピの中で両腕がおっぱいを無造作に愛撫して、声を我慢するのが大変。
 外側でもモゾモゾ動きに合わせてワンピの裾がどんどんせり上がってしまい、自分の視界に恥丘の白い肌が露わになっています。

「向こうの席のサラリーマン風の男性が怪訝そうにこちらを見ているわ」
 ほのかさまがヒソヒソ声で教えてくださいました。
 傍から見ても、布地がモゾモゾ動いているのや、中身が消えてダランと垂れ下がった両袖は不審に見えるでしょう。
「わたしが冷たく睨んだら、あわてて視線を外したけれど、急いだほうが良さそうね」
 ほのかさまの愉快そうなヒソヒソ声。

 やっと外れたブラを襟口から取り出そうか裾から取り出そうか、一瞬迷いましたが、襟口からだと動作が大きくなって目立ちぞうなので裾へ。
「あふっ!」
 ブラのカップの縁が尖った乳首を引っ掛けて、思わず小さく喘いでしまいました。
 テーブルの下に伸びてきたほのかさまの手で、私のブラジャーは人知れず回収されました。
 両袖に腕を急いで通し直します。

「うふ。まだ温かい」
 私から取り上げたブラジャーを、テーブルの上でたたみ直すほのかさま。
 うつむいて自分の胸元を見ると、やわらかい布地にうっすらとバストトップの位置が示されていました。
 うつむいてこうだと、胸を張ったら丸わかり確実・・・

「本当だ。わたしのために硬くしてくれているのね」
 私の素肌に貼り付く唯一の布地となった、ニットワンピースの胸元をじっと見つめてくるほのかさま。
「可愛い。ぴょこんと突き出ていて、思わずつまみたくなっちゃう」
 ほのかさまの右手が私のはしたないバストに伸びてきたとき・・・

「いらっしゃいませー」
 店員さんの元気のいいお声の後、ガヤガヤという一際大きいおしゃべり声が聞こえてきました。
 大人数のグループがご来店したみたい。

「もう少し楽しみたかったけれど、そろそろランチタイムだから混むでしょうし、長居しちゃ悪いから出ましょうか」
 さすがに社会人としての公共マナーはバッチリなほのかさま。
 ご自分のショルダーバッグに私のショーツとブラジャーを仕舞い込み、代わりに派手めのファッショングラスを差し出してきました。
 イベントの行き来のときに着けた、タレントさんがするような無駄に目立つ鼈甲縁。

「わたしがこんな格好だし、直子さんがそれしてふたりで歩けば、ファッションモデルとそのマネージャーっていう感じになるでしょ?モデルさんならノーブラだってファッションみたいなものよ」

 スーツ姿のほのかさまが立ち上がりました。
 やっぱりほのかさまも、少しは世間様の目のことを考えていらっしゃるんだ。
 ちょっぴり感心しつつ、私もあわててファッショングラスをかけ、つづきます。
「モデルウォークで颯爽とね。ランウェイのときみたいに」
 ほのかさまがイタズラっぽくウインクをくださいました。

「ごちそうさまー」
 少しわざとらしいくらいの、ほのかさまの明るいお声。
「ありがとうございましたー、したー」
 それを追いかける店員さんたちの元気なご唱和。
 お声にふとお顔を上げる他のお客様たち。
 その視線の幾つかが、吸い寄せられるように私の胸元に集中するのがわかりました。

 ほのかさまのカートの後ろを、背筋を伸ばして気取った感じで歩く私。
 その胸元にはふたつの突起がクッキリ、ボディコン気味な純白のやわらかいニット生地を押し上げ、私の勃起乳首の所在を公衆に知らしめていました。
 膝上20センチの裾下にもスースー風が入り込んできます。
 今の私は、素肌の上にボディライン通りのシルエットを描くワンピース一枚。

 そんな姿で、たくさんの人とすれ違いました。
 ちょうどランチタイムを迎えたオフィス街は、あちこちのビルからわらわらと人々が溢れ出てきていました。
 数え切れない視線が私のおっぱいや太腿付近を通り過ぎていくのがわかりました。
 そんな中をほのかさまと私は、小声でおしゃべりしながらゆっくり歩いていきました。

 話題は、イベント後から今日までのオフィスの様子。
 必然的に、私がリンコさまとミサさまからされた辱めのお話が主となってしまいます。

 いきなり全裸勤務を言い渡されたこと。
 コスプレ姿のミサさまに鞭打たれたこと。
 綾音部長さまのデスクの上で自慰行為を撮影されたこと。
 社長室に監視カメラを取り付けられたこと。
 裸白衣でお客様にお茶をお出したこと。
 下半身丸出しで綾音さまとお仕事の打ち合わせをしたこと、などなど。

 なるべくお下品にならないように言葉を選んで、ほのかさまにお話しました。
 ほのかさまは、びっくりしたり呆れられたり。
 ふたりで熱心に、まるで周りの人たちのことなんか気にもしていないそぶりでおしゃべりをつづけました。

 それでも信号待ちで立ち止まったりすると、四方八方から視線が飛んで来ているのがわかりました。
 信号の向こうからこちらを見て、何やらヒソヒソ話してい女子学生の集団。
 すれ違いざま露骨に振り向いて二度見してくる年配のサラリーマンさん。
 不躾にじーっと視つめてニコニコ笑いかけてくる外国人さん。
 おすまし顔を繕いながらも、私の無防備なマゾマンコはヒクヒク疼きっ放しでした。

 オフィスビルに入っても視線の洪水。
 ショッピングモールでは、ヤングミセスぽい女性たちからのあからさまな呆れ顔が目立ちました。
 オフィス棟では、スーツ姿のビジネスマンたちの好奇の視線。
 エレベーターホールでは、ちょうど降りてきたOLさんたちのグループが訝しげに私の全身をジロジロ眺めつつ散っていきました。
 唯一の救いは、ランチタイムの始まり時間だったからでしょう、上りエレベーター内はふたりきりだったこと。

 正面の大きな鏡に私の姿が映っています。
 ノーブラです、って宣言しているみたいにこれみよがしに浮き出ているバストの突起。
 ほんの10センチもずり上がったら、たちまち淫靡な亀裂まで露になってしまうニットワンピースの裾。
 背後から寄り添うように、スーツ姿のほのかさまの笑顔があります。
「直子さん、火照っちゃって、とてもえっちなお顔」

「すごく注目を集めちゃっていたわね。愉しかったでしょう?」
 屈託のないほのかさまの弾んだお声。
「わたし、来週も出張だけれど、次に戻るまでにまた、直子さんが悦ぶような命令、考えておくからね。楽しみにしていて」

 私は今すぐほのかさまにギュッと抱きついてキスしたい衝動を、必死に抑え込んでいました。


非日常の王国で 07


2016年11月13日

非日常の王国で 05

 おふたりのお背中がドアの向こうに消えたのを確認してから、自分のおっぱいに視線を落としました。
 乳首にガブッと噛み付いて銀色に輝くふたつの目玉クリップ。
 そのうち右のほうの持ち手をそっと指でつまみます。

「はうっぅぅ!」
 目尻に涙が滲みそうな激痛の後に訪れる疼痛をともなう甘い開放感。
 潰されていた皮膚がゆっくりと膨らんでいくのがわかります。
「あうっぅん!」
 2度めの激痛に身を捩らせると同時に、左右の手のひらでおっぱいをひとつづつ、ワシづかみで揉みしだいていました。

 リンコさまがデスクの上に残してくださったバスタオルで、とくにビショビショヌルヌルな股間を押さえつつ、社長室に戻りました。
 これからオフィス外の給湯室まで行ってお水を汲んできて、汚してしまった綾音部長さまのデスクや周辺の床をキレイに拭き掃除しなければいけません。
 バスタオルで軽く全身の汗を拭ってから、お外に出るとき私に唯一許された衣服、先ほど持ってきてくださった白衣をハンガーから外しました。

 手に取ってみると、クタッとした柔らかい生地で軽い感じ。
 そそくさと両腕を通しました。
 敏感になっている乳首や腫れたお尻を布地が滑り、ゾクゾク感じてしまいます。

 着丈は膝上で7分袖、ストンとしたAラインシルエットでちゃんとボタンが左前のレディース仕様。
 ボタンはおっぱいの谷間あたりから下腹くらいまでの4つ。

 ボタンをすべて留め終えると、我ながら妙に似合っている感じ。
 なんだか自分がインテリになって、何やら難しい分野の研究者にでもなったような錯覚を覚えちゃいます。

 ただし、よく見ると∨ゾーンが意外と空いていて、前屈みになったっら隙間からおっぱい全部が覗けちゃいそう。
 更に、柔らかい生地なので、少しでも胸を張ると、白衣上にバストトップの位置があからさまに明示されてしまいます。
 この格好で廊下に出るんだ・・・
 まさしく裸コートに臨むときと同じドキドキ感に全身が震えました。

 そっとオフィスのドアを開き、廊下を窺います。
 夕方5時前のオフィスビルはしんと静まり返り、人影はありません。
 リノリュームの床をカツカツと早足のヒールで蹴り、廊下の直線上右手にある給湯室へと急ぎました。

 給湯室に飛び込んでホッと一息。
 幸い誰にも会わず視られずに済みました。
 蛇口をひねってバケツにお水を汲みつつ、シンクの前の鏡を覗きます。
 白衣の胸元から覗く白い肌が少し汗ばんで、ほんのり上気しているのがわかります。

 せっかくお水を使えるのだから、ここでちゃんとからだを拭いていこうか。
 汗まみれ汁まみれになった後、乾いたバスタオルで拭いただけだったので、からだがベトベトしている気がしていました。
 この給湯室は我が社専用なので、知らない誰かが入ってくる心配はありません。

 そそくさと白衣を脱いで全裸になり、濡らしたタオルで全身を拭きました。
 ミサさまの鞭さばきで熱病のように疼くお尻に、冷たいタオルをあてがったときの気持ち良さと言ったら・・・
 思わず、あーーーっ、と深い溜め息を洩らしてしまったほど。

 この数ヶ月の勤務で見慣れた場所となった給湯室で全裸になったことで、入社する前にお姉さまに案内されて初めて訪れたオフィスでの面接のことを、唐突に思い出していました。
 
 あのときは土曜日でフロアが閑散としていたとは言え、バスタオル一枚で廊下を歩かされ、給湯室のすぐ隣のおトイレで全裸にされちゃったんだっけ。
 それで戻るときは、全裸で廊下に立たされ坊主みたいに放置され、お姉さまが放リ投げたショーツをワンちゃんみたく四つん這いで拾いに行かされて。
 そうそう、正確には全裸じゃなくて、首輪から繋がったチェーンで乳首にチャームをぶら下げ、ラビアクリップで粘膜を押し広げられ、クリットはテグスで絞られてるという破廉恥ドマゾな姿でした。
 あの日感じた、胸を締めつけるような恥辱感が鮮やかによみがえり、性懲りもなく股間が潤んできます。

 だめだめ。
 さっさとお片付けをしなくっちゃ。
 股間に伸びそうになる右手を諌めて再び白衣を着込み、片手にはお水をなみなみとたたえたバケツと雑巾、もう一方の手にはモップと数枚のタオルを持って、給湯室を出ました。

 出てすぐ、廊下の向こうに人影があるのに気づきました。
 淫らモードですっかり気が緩んでいたので、思わず、えっ!?と声をあげて立ちすくむほどびっくりしてしまいました。

 給湯室の脇にあるおトイレへ向かう、同じフロアの別会社の社員さんのようでした。
 白い半袖ワイシャツにストライプのネクタイ、髪をきっちりと七三に分けた30代くらいの男性がズンズンと私のほうに近づいてきました。

 私は、人影に気づいた瞬間にサッとうつむき、廊下の端を重いバケツのせいで幾分ヨタヨタという感じで歩を進めたので、その男性が私をみつけて、どんなリアクションをされたかはわかりません。
 でも、すれちがうときにちょっと会釈気味に頭を動かして窺った感じでは、困惑されているご様子でした。

 それはそうでしょう。
 お医者さまか研究員のような白衣を着た女性が、場違いなバケツとモップを持って廊下をトボトボ歩いているのですから。
 普通に考えてミスマッチ。
 すれ違った後も、振り返った男性からの怪訝そうな好奇の視線を背中に感じていました。

 それとももっと踏み込んで、この不自然に開いた胸元の谷間や、布を押し上げる突起まで気づかれちゃったのかも。
 白衣には合わない首輪型チョーカーまでしているし。
 そっちの方面に詳しい人なら、それだけで私がどんな女なのか、ピンときちゃったかもしれません。

 このフロアの廊下にときどきエロい女が出没する・・・なんて噂になっちゃったりして。
 心の中に得体の知れないどす黒い霧のようなものがモヤモヤと広がりました。
 すれ違った後も極力ゆっくりと歩き、いったん自分のオフィスのドアを通り越し、振り向いて廊下に男性の姿が無いのを確認してから、急いで後戻りしてオフィスのドアに飛び込みました。

 オフィスに戻ったら白衣は脱がなければなりません。
 全裸になって綾音部長さまのデスクを拭き始めます。

 廊下で他の会社の男性社員と出会ったことで、今自分がしている行為のアブノーマルさを今更ながらに思い知らされました。
 このオフィスの壁一枚向こうは普通の世界。
 健全な社会人のみなさまが健全に社会生活を営む公共の場所なのです。

 先ほどの男性がおトイレから戻るとき、まさか廊下沿いの壁の向こう側で、さっきすれ違った白衣の女が全裸になって床掃除をしているなんて、思いもしないでしょう。
 私がしていることは、それほど世間的に考えて異常、つまりヘンタイ的なことなんだ・・・
 被虐と恥辱と背徳に身悶えしながら、モップも使わず自ら四つん這いになり、精一杯の罪滅ぼしのつもりで一所懸命床の拭き掃除をしました。

 リンコさまとミサさまは、その日からほぼ毎日、オフィスで私を恥ずかしい格好にして愉しまれました。
 たいていは午後、綾音部長さまがお出かけになって3人になったとき。

 ある日は、イベントのときに着たシースルーのスーツ上下で勤務。
 ある日は、本当に全裸に白衣だけで、初めてのお客様にお茶出しをしました。
 お茶をお出しするときはどうしても前屈みになってしまうので、∨ゾーンから生おっぱいが丸見えになっていたと思います。
 リンコさまのお客様としていらしたアジア地域の生地のバイヤーだという妙齢のお綺麗な外国人女性のかたは、困ったような呆れたようなお顔で、アリガトと微笑んでくださいました。

 綾音部長さまがずっとオフィスにいらっしゃるときは、メールで指令が来ました。
 その日のご命令は、素肌に短いブラウスだけ着て、下半身は丸出しで勤務。
 綾音さまがいらっしゃるのに、とドギマギしながらもご命令に従って社長室でパソコンに向かっていると、綾音さまから呼び出しがかかりました。

 どうしよう!と思い、その日穿いてきたジーンズに思わず手が伸びたのですが、ブルルっとケータイが震え、そのまま行きなさい、というメール。
 私の行動はすべてリンコさまとミサさまに監視カメラでお見通しなのでした。
 おずおずとそのままの格好で綾音さまの前へ出ました。

 私の姿を視た綾音さまは、一瞬ギョッとされたようでしたが、すぐにニヤッと唇の端をお上げになりました。
 それから、まるで変わったことなんか何ひとつ無いかのようになお顔で、業務の打ち合わせを始められました。

 はい、はい、と綾音さまのお言いつけのメモを取りつつ私は、このオフィスで私がこんな破廉恥な格好をしていることもスタッフのみなさまには普通のことになってしまったんだなー、と、ひどくみじめなような、でも嬉しいような、フクザツな気持ちになっていました。

 そんなこんなの日々が過ぎて迎えた金曜日。
 お姉さまが出張からお戻りになる日なので、朝からルンルン気分。
お姉さまが似合うとおっしゃってくださった、ボディコン気味な白いニットのミニワンピを着て出社しました。
 もちろん首にはお姉さまからのプレゼントの首輪型チョーカーを嵌めて。

 オフィスには綾音部長さまと開発部のおふたり。
 綾音さまには午後、ご来客のご予定があるので、今日はお出かけされないのでしょう。
 お姉さまは午後2時頃出社予定なので、今日はリンコさまもミサさまもちょっかいをかけてこないのではないかな、と勝手に予想していました。

 午前中、いつものルーティーンワークで郵便局や銀行を回り、頼まれごとのおつかいなども済ませた11時過ぎ。
 オフィス最寄りの地下鉄の入口付近で、誰かに後ろからポンと肩を叩かれました。

「直子さん?」
 振り返るとほのかさまが人懐っこく、ニコッと笑っていらっしゃいました。
「あ、ほのかさま。お疲れさまです。今お戻りですか?」
 そう言えば今日は、ほのかさまも出張からお戻りになる日でした。

「そうなの。名古屋で間宮部長と別れて、わたしだけ一足お先にね」
 大きめ無機質なトラベルキャリーカートとシュッとした濃紺のビジネススーツ姿のほのかさまは、いかにも仕事の出来る営業ウーマン、という感じでカッコいい。

「直子さんは銀行?」
「はい。今日はどこも空いていて早く終わったので、これからオフィスに戻ろうかと」
 ほのかさまとお顔を合わせるのはイベント開けの月曜日以来なので、なんだか気恥ずかしい感じです。

「そうなんだ?それならちょっとお茶していかない?わたし、昨日の夜から何も食べていないから、はしたないのだけれど、とってもお腹空いちゃっているの」
 ほのかさまが、お綺麗なお顔を情けなさそうに少し歪め、可愛らしくおっしゃいました。
「直子さんとは、イベントの後ほとんどお話出来なかったし、お昼までに戻れば大丈夫よね?今オフィスには、どなたがいるの?」
 私がお答えするとほのかさまはすぐ、ご自分の携帯電話を取り出してかけました。

「早乙女部長からお許しをいただいたわ。ちょこっとお茶して、それからふたりでオフィスに戻りましょう」
 ニッコリ笑いかけてくるほのかさま。
 そのままカートを引っ張って颯爽と歩き始めました。

 腰を落ち着けたのは、オフィスビルにほど近い、あちこちでよく見かけるチェーン店のカフェテラス。
「お昼前だからあんまり混んでいなくてよかった」
 差し向かいのテーブル席で、ツナを挟んだイングリッシュマフィンとサラダの乗ったプレートとミルクティを前にしたほのかさまがおっしゃいました。
 ガラス張りの明るい店内は、半分くらいの入り。
 ご年配な男性おひとり客と、ショッピングらしきヤングミセスのグループが目立ちます。

「直子さんは、今日もおべんとなのね?」
 アイスレモンティだけ前にした私を見て微笑むほのかさま。
 大きなカートを引っ張っていたので、カートを脇に置ける一番奥壁際の席に通されました。

 お食事のあいだは、ほのかさまがご出張中にお相手されたユニークなクライアントさまの話題。
 マフィンを優雅に頬張りつつ、面白おかしくお話してくださるほのかさまに、何度もクスクス笑わされました。
 やがてお上品にお口許をナプキンで拭ったほのかさまがお紅茶で一口喉を湿らせてから、じっと私を見つめてきました。

「イベントのときの直子さん、凄かった。びっくりしちゃった」
 周りに聞かれてはいけない種類のおしゃべりをするときみたいに、グッとお声を沈めておっしゃいました。
 そのお言葉を聞いた瞬間、私は、来たっ!と思いました。

 実は、ほのかさまにお茶のお誘いいただいたときから、ほのかさまとふたりきりになることについて、そこはかとない居心地の悪さをずっと感じていました。
 その原因は、イベントのときのほのかさまのご様子でした。

 他のスタッフのみなさまは、私が破廉恥な格好をしてはしたない振る舞いをするたびに、何て言うか、好色な好奇心を露わにして愉しんでくださっているように感じました。
 だけど、ほのかさまだけは始終、当惑されているような、動揺されているような、俗な言葉で言えば、ドン引きされているようなご様子に見えました。

 ひょっとしたらほのかさま、こういうヘンタイ性癖には、まったくご理解をお持ちにならないかたなのかもしれない。
 プレイとしての虐めではなく、人間として本気で嫌悪されてしまったらどうしよう・・・
 いくらマゾで人から虐げられるのが好きな性癖と言っても、私が大好きで尊敬しているほのかさまから生理的に嫌われてしまうのは悲しいことでした。

 おそらくほのかさまは、イベントのときの私の浅ましい振る舞いに対して、何かご意見があって私を誘ったんっだ・・・
 あなたみたいな不潔な人は大嫌い。
 もしくは、今からでも遅くはないから、真っ当な人間に戻りなさい。
 面と向かって、そう言われたらどうしよう・・・
 ニコニコとフレンドリーな今のご様子も却って不気味に不安感を煽り、胸が張り裂けそうにドキドキし始めました。

「直子さんは、あんなふうに恥ずかしい服装を人に見せたり、辛い命令に従ったりすることが嬉しくて、気持ちいいのよね?」
 相変わらずヒソヒソ人目を憚るように尋ねてくるほのかさま。
「は、はい・・・ご、ごめんなさい・・・」
 私には小さな声で、そう正直に答えるしかありません。

「ううん。直子さんが謝ることではないの。わたし、そういうの疎くてよく知らなかったからびっくりしてしまって」
 ほのかさまのお声が幾分普通に戻り、ティーカップに一口、唇をつけられました。

「そういうご趣味の人がいるらしい、っていうことはなんとなく知っていたのだけれど、まさか自分のこんな間近にいるとは思っていなくて・・・正直、直子さんがみんなの目の前でオシッコし始めちゃったときは、心臓が止まるかと思うくらい、ショッキングだったわ」
 その場面を思い出すかのように、形の良い顎を少し上げて天を仰ぐほのかさま。

「あの、ごめんなさい。あのとき、ほのかさまがあのペットボトルを・・・」
「あはは。そうだったわね。でもいいのよ。あのときわたし、ドキドキし過ぎちゃって、あれ以上直子さんの前に居られそうになかっただけだから」
 おやさしく微笑まれるほのかさま。

「あの後、まだ生温かいペットボトルの中身をおトイレに流しながら、世の中っていろんな人がいるんだなー、って、しみじみ思っちゃった」
 ほのかさまのイタズラっぽいお声。

「出張中二日間、間宮部長と一緒だったから聞いちゃったの。直子さんのこと、どう思われますか?って」
 ほのかさまが優雅にポットからティーカップへおかわりのお紅茶を注ぎながらつづけました。
「そしたら間宮部長、すごく嬉しそうにいろいろ教えてくださったの」

「チーフたちと学校で服飾部の頃、同学年に亜弓さんていう、直子さんと同じご趣味をお持ちの同級生がいらしたのですってね」
「それで、風でめくれやすい軽いスカートとか、濡れたら見事に透けちゃうブラウスとかを着せて街に出て、いろいろ虐めて遊んでいたって愉しそうにおっしゃっていたの」

「そのかたと同じ匂いがするから直子さんだって、傍から見ると辛そうだけれど、あれで内心は絶対悦んでいる、って断言されていたわ。マゾってそういうものだ、って」
「だから直子さんが虐められている、って気に病むことはないし、ほのかも直子が悦ぶようなことをどんどんしてあげればいいって」
「そんなふうに諭されて、わたしもずいぶん気がラクになって、どんどん好奇心が湧いてきちゃったの」

 私の頭の中では、ほのかさまと雅部長さまが瀟洒なホテルの一室で、お互い裸に近い格好でからだを寄せ合い、私のことを楽しげに話題にしている妄想が浮かんでいました。
 それはとても耽美で美しく、うっとりするほど理想的な百合ップルの光景でした。

「・・・なのよね?」
 すっかり妄想に耽っていた私の耳に、ほのかさまが私へ問いかけるようなお声がぼんやり聞こえました。
「えっ、あっ、ごめんなさい・・・ほのかさまに私のはしたない性癖を知られてしまった恥ずかしさで、少しボーッとしてしまいました」
 訳の分からない言い訳を口走る私。

「ううん。気にしなくていいのよ。それが本当の直子さんなのだったら、わたしも協力したいなって」
「だから、わたしも何か命令したら、直子さんは従ってくれるの?、って聞いておこうと思ったの」
 私の首のチョーカーをじっと見つめつつ、相変わらずたおやかに微笑んでいるほのかさま。

「あ、はい、もちろんです。チョーカーをした私は、スタッフのみなさま全員のせ、性的なドレイ、ですから・・・」
 自分で言葉にしながらゾクゾクっと被虐感が背筋を駆け上ります。
 調子に乗って、こんなことまで付け加えてしまいました。
「大好きなほのかさまが虐めてくださるのなら・・・マ、マゾな私にとって、こんなに嬉しいことはありません」
 私のショーツのクロッチ部分は、もうグショグショでした。

「間宮部長が面白いことをおっしゃっていたの」
 ほのかさまが今まで見たことの無かった艶っぽい表情でおっしゃいました。
「SMっていうと、一般的にはMの人が虐められて可哀想っていうイメージだけれど、実はMの人のほうが愉しんでいる、って」
「虐める側の人は、マゾな人が悦ぶように工夫して虐めなくちゃならないから、SMのSはサービスのSで、Mはサービスを受けて満足のMなのですって」

「わたし、誰かを喜ばせることって大好きだから、直子さんがそういうご趣味なら、これからはそれに沿うように喜ばせてあげよう、って思ったの。わたし、直子さんのこと、好きだから」
 あくまでも生真面目に、じっと私を見つめて語りかけてくださるほのかさま。
「あ、ありがとうございます・・・」
 
 その真剣なご様子に、リンコさまたちとは違うエスっぽい迫力を感じて、タジタジとしてしまう私。
 でも心の中では、ほのかさまも私の本当の姿を受け入れてくださった、という嬉しい気持ちでときめいてもいました。

「わたしに命令されるの、嬉しい?」
「はい・・・」
「何でもわたしの言う通りにしてくれる?」
「はい。何でもします」
「それが直子さんにとっても、嬉しいことなのよね?」
「はい。そうです」
「うふっ。わたしも嬉しい」
 ほのかさまの無邪気な笑顔。

「それなら今、ここで下着をこっそり脱いで、どれだけ嬉しく思っているのか、その証拠を見せてもらっていいかしら?」
 ほのかさまの形良い唇の端が、ちょっぴりイジワルそうにクイッと吊り上がりました。


非日常の王国で 06