2013年8月25日

コートを脱いで昼食を 06

「あっ、えっと・・・実家にいた頃に母にしてもらったことはありました」
 私にそんな記憶はまったく無かったのですが、なぜだかそんな嘘がスラスラと口をついて出ちゃいました。
 私が誰かからそんなことをされたのは、高二のときのやよい先生だけでした。

「そう。実家にいた頃は、っていうことは、今は独り暮らしなのね?大学生?」
「はい」
「今年こっちに出てきたの?」
「はい」
「そう。それは心細いわねー」
 このおばさまは、本当に心優しい人みたいです。

「今のお住まいは、ここの近くなの?」
「いえ、そんなに近くはないです。あっちの広い通りの近くのマンションなので」
 たぶんそっちの方角だろうと思われる中空を指さして答えます。
「ああ、あの通りのほうね。それならここまでけっこうあるわね。それはそれはご苦労さま」
 おばさまがまたニコッと笑いました。

「そうよね。こういうもの買うのって、ご近所のお店だと気恥ずかしいものね。お嬢ちゃんみたいな若い子なら、とくにね」
「でも安心して。今日ここに来たのも何かのご縁よ。これからはわたしが、お嬢ちゃんのお薬の面倒は、全部見てあげる」 
「何かおからだのことで困ったことがあったら、恥ずかしがらずに何でも相談してちょうだい。きっとお力になれると思うわ」
 私の目をじーっと見つめて、任せてね、っていう笑顔を向けてくれました。

「は、はい、ありがとうございます」
 言いながらも私は、おばさまに申し訳なくてたまりません。
 こんなに親身になって心配してくださるのに、今私がやっていることといったら・・・
 おばさまの優しい目に見つめられて、ドキドキがいっそう激しくなっています。

「そうすると、お嬢ちゃんは一人でお浣腸は、したことないのね?」
「あ、えっと・・・は、はい。そうです」
 また、おばさまに嘘をついてしまいました。
 下半身がキュンキュン震えてしまいます。

「それだったら、これからやり方を教えてあげる。こう見えてもわたし、若い頃は看護婦だったのよ」
 おばさまがちょっと照れたようにはにかんでから、うふふ、って笑いました。
「薬剤師だった旦那と結婚して、ここの薬局を継いで、でも旦那はずいぶん前に亡くなっちゃった」
 一瞬しんみりしたお顔になりましたが、すぐに笑顔に戻り、お浣腸薬の箱をひとつ、開け始めました。
 ということは、おばさま、意外とけっこうお年を召しているのかな?

「ほら、これがお浣腸。この丸いところにお薬が入っているの」
 見慣れた薄いピンク色の丸っこいお浣腸容器が、おばさまの手のひらの上に乗っています。
「このノズルをお尻の穴に挿れて、丸いところを押してお薬を体内に入れるのね」
「ノズルの先っちょが尖っているみたいに見えるけど、まあるくカーブになっているから大丈夫。痛くはないわ」
 ノズルの先のキャップをはずして、実際に先っちょを見せてくれます。

「お浣腸液っていうのはね、実際のところ真水とグリセリンを混ぜただけなの。グリセリンが腸を刺激する作用を持っているのね」
「それでね、知ってる?グリセリンて甘いのよ。だからお浣腸液も甘いの」
 おばさまが突然私の右手を取りました。
 私は驚いてビクンと全身を震わせてしまいます。
 コートの中でおっぱいがプルン。

「あ、ごめんごめん。びっくりさせちゃった?ちょっと手のひらを貸してね」
 おばさまの左手に右手首を掴まれたまま、おばさまに向けて右手のひらを恐る恐る差し出しました。
 おばさまの手はひんやりとしていました。
 おばさまは、右手で持ったお浣腸容器を私の右手に近づけ、私の中指の先にお浣腸液を一滴、ポタリと落としました。

「舐めてみて」
「えっ?」
「大丈夫。毒じゃないから。舐めてみて」
「は、はい・・・」
 おばさまの左手から解放された右手を、雫をこぼさないように顔に近づけ、舌先でペロリと舐めました。
「本当だ。甘いです」
 これは知りませんでした。
「ねっ」
 おばさまは、イタズラが成功した子供のように満足気な笑顔で、嬉しそうにうなずきました。

「それで、これをお尻に挿すわけだけど、ひとりだとけっこうやりにくいのよね」
「ほら、自分ではお尻の穴って見えないじゃない?だから手探りでやることになるのだけれど」
 お浣腸容器にキャップを付け直して、おばさまはそれを手のひらの上でコロコロ転がしています。

「一般的なやり方としては、しゃがんだり、四つん這いになったり。それで手探りでこの先っちょをお尻の穴に挿れるのね」
「手探りだとやりにくいのは事実よね。いくら先が丸まっているといっても、無理に刺して粘膜を傷つけちゃうこともあるし」
「だからわたしとしては、四つん這いをお勧めするわ。それも出来れば鏡にお尻を映して、確認しながらがいいのだけれど」
 おばさまはそう言って、再び私の目をじーっと見つめてきました。

「いくらひとりきりとは言っても、お部屋で四つん這いになって、お尻出して、それを鏡に映して、って、とても恥ずかしいわよね?」
「でもそうしたほうが安全なのよ。誤って肛門や腸を傷つけてしまうより」

 私を見ながら熱心に語ってくれるおばさま。
 絶対におばさまは頭の中で、私がそうしている様子を想像していると思いました。
 私もおばさまのお話を聞きながら、自分がそうする姿を想像していました。
 からだの疼きが止まりません。

「お尻の穴もね、何か異物が入ろうとするとキュッて締まっちゃうものなの。だから余計に挿入しにくいの」
「だから挿れる前にお尻の穴付近をマッサージしておくのもいいわね。あとワセリンとかヌルヌルな、滑りが良くなる液体を塗ったり」
「お嬢ちゃん、そういうの持ってる?ヌルヌルするローション。ベビーオイルとかでもいいのだけれど」
「あっ、えっと、うーん・・・」
 いわゆるラブローションみたいなヌルヌルローションは、シーナさまからいただいたのがあるけれど、それをおばさまに言っていいのか悪いのか・・・
「そう、それならベビーオイルもあったほうがいいわね。お嬢ちゃんだからオマケしてあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
 おばさまったら、ご商売がお上手です。

「からだがやわらかければ、仰向けに寝転んででんぐり返しの途中みたいな格好、うーん、分かりにくいかな、赤ちゃんのオムツを代えるときみたいな格好ね、そういので挿れられるとだいぶラクなのだけれどね」
「お嬢ちゃんは、やわらかいほう?」
「あ、一応バレエをやっているので、普通の人よりはたぶん・・・」
「あらら、スゴイじゃない!クラシックバレエ?今でもおやりになってるの?へー、本当のお嬢様なんだ!」
  
 なんでバレエをやっていると本当のお嬢様なのかよくわからないので、私は曖昧にはにかんでお答えを保留します。
「それならきっと、でんぐり返しも出来るわね。よかったじゃない?」
「だけど、あれも相当恥ずかしい格好ではあるのよね」
 言いながら私の全身をジロジロ眺めるおばさま。
 おばさまったら絶対、私のそんな姿を、また想像しているはず・・・

「でもね、大昔はみんなお浣腸するときにそういう格好をさせられていたのよ」
「下半身裸になってから、自分の両手で両脚の膝の裏側を持って後ろにでんぐり返るの。お尻を突き出すように」
「子供だったら、男の子も女の子もみんなやらされていたわ。今考えると可哀相な話よね。恥ずかしさで泣き出しちゃう子がたくさんいたわ」
 おばさまが昔を懐かしむような遠い目をされました。

「あらあら、ちょっとお話しが脱線しちゃったわね。どこまで行ったんだっけ?」
「そうそう、それでめでたくお薬が中に入ったら、しばらくがまんするのね」
「腸の中にお薬が行き渡るように、四つん這いのままお尻を高く上げたり。ほら、液体は下に流れるから」
 おばさまの想像の中で、私のお尻が高く突き上げられたはずです。

「あと左向きに寝そべるのもいいっていうわね。腸って左巻きだから奥まで行き渡るの」
「それで後はひたすらがまん。お浣腸してすぐに、すごく出しちゃいたくなるんだけれど、そのとき出してもお薬がそのまま出ちゃうだけなの」
「お薬の効果が出るまで3分から5分はがまんしなきゃだめ。そのあいだはお腹が痛くなってもひたすらがまんがまん」
「だけど、本当にがまん出来ないようだったら、3分経ってなくても出しちゃっていいのよ。おトイレ以外でお漏らししちゃうのは、年頃の女の子にはすごいショックだからね」
「そうそう、だからもちろんお浣腸するときはおトイレの近くでね。かと言っておトイレにしゃかんだままだと、がまんが効かなくなっちゃうから、だめ」
「おトイレの外の廊下とか、お風呂場とおトイレが近ければ、お風呂場でやるのもいいわね」

 私は、おばさまのお話にいちいちコクコクうなずきつつも、なんだか言葉責めをされているような気分にもなっていました。
 実はおばさまは、私がヘンタイなことは始めからご存知で、私がしている恥ずかしい遊びのことも知っていて、その恥ずかしさを思い出させるために、いちいち言葉にして私の反応を愉しんでいる・・・
 そんなふうにも思えました。

「あと最後に、お浣腸をつづけてやるのもだめよ。がまんしきれなくて失敗しちゃっても一日に2本までね」
「何日もつづけるのもだめ。また便秘気味になってもすぐにお薬に頼らずに、出来るだけ自力で出すようにしてね」
「お浣腸に慣れちゃうと、腸が自分で排泄しようとする力が弱くなっちゃうのよ。それでお薬も効かなくなっちゃうの」
「だから、最初に言ったみたいに、普段から食生活とストレスに気をつけること、ね?」
「は、はい、ありがとうございます」

「さっきからいい匂いがしているけれど、それ、あそこのお肉屋さんのから揚げでしょ?」
 おばさまのお話しが突然大きく跳びました。
「えっ!あ、はい、そうですけど・・・」
 びっくりしながら答えました。
「油物はいいのよ、便秘がちのときは。腸を活性化するからね」
「最近の若い子は、カロリーだなんだって、脂っこいもの嫌うからね。まあ食べ過ぎはよくないけれど」
「お嬢ちゃんも、今でも充分おキレイだからダイエットとかする必要ないし、もう少しお肉が付いてもぜんぜん大丈夫よ」
「バレエもやってらっしゃるんだし、よく食べてよく動くのが一番!」
 おばさまがお話しを締めくくるみたいにそう言いながら、私の肩を軽くポンと叩きました。
 コートの中で私のおっぱいがプルン。

「そういうことだから、お嬢ちゃんは今日、お浣腸を4つ持っていきなさい。失敗しちゃったときや、もしもまたなっちゃっても、あわてないでいいように」
「使用期限はまだ4年近くあるから、当分のあいだは恥ずかしいお買物をしなくてすむはずよ」
 おばさまがクスッと笑いました。
 でも私、今年だけで、もう5つも使っちゃってるんですけど・・・

「ひとつ開けちゃったのがあるから、これはサービスにして3つ分のお代金でいいわ」
「えっと、それは・・・私に説明していただくために開けたのだから、そちらの分もお支払いします」
「いいのいいの。お嬢ちゃん聞き上手だから、お話ししててわたしも楽しかったし、お嬢ちゃんの恥ずかしそうなお顔、可愛かったし。わたしのお礼の気持ちよ」

「あ、それならえっと、ベビーオイルもいただきます。ちゃんと定価で」
「あら、そうだったわね。ベビーオイルね。じゃあこれを持って行ってくれる。植物性のすごくいいやつだから、ちょっとお高いけれど」
「はい。大丈夫です。それいただきます」
 提示されたお値段がベビーオイルとして高いのか安いのかよくわからなかったのですが、素直にお支払いしました。

「あと、これはうちのスタンプカードね。大サービスでいっぱい押しといたから、また何かお薬が必要なときは、絶対に来てね」
「は、はい。ありがとうございます」
 おばさまが、私がここに入ってきたときに見たのと同じ、はんなりした笑みを浮かべて私を見つめています。

 買ったものの中身が見えないように丁寧に包装紙で包んでから、手提げ袋に入れようとしていたおばさまの手が、その寸前でピタリと止まりました。
「そうだ!」
 同時に、おばさまにしては大きなお声。
「よかったら、ここでお浣腸していったらどう?」
「えーっ!!」
 今度は私の大きな声。
「ここで・・・お浣腸を・・・ですか?・・・」
 一言一言発するたびに、私の全身が盛大にざわめきたちます。

「そう。ここの2階がわたしの住まいなんだけど、独り暮らしで他に誰もいないし、おトイレもけっこう広いから」
「今日はお客さんもあまりないし、この時間帯はたいていヒマなのね。10分くらいならお店空けても大丈夫そうだから」
「お嬢ちゃんもひとりでやるのは不安でしょう?もし良かったらわたしがお手伝い出来ると思ったの」
「もちろん、わたしはお浣腸のお薬を挿れるのだけお手伝いしてお店に戻るから、あとはお嬢ちゃんがうちのおトイレで用を足せばいいだけ」

 このおばさまは、本当に、本当にいい人なのでしょう。
 私のことを親身になって心配して、純粋な親切心で申し出たご提案に思えました。

 どうしよう・・・
 私の性癖にとっても、すっごく蠱惑的なご提案です。
 さっきまでまったく見知らぬ同士だった和風美人なおばさまにお浣腸されて、そのおばさまのお家で排泄する・・・
 やってみたい・・・でも・・・
 私の被虐心が大きくざわついていました。


コートを脱いで昼食を 07


コートを脱いで昼食を 05

 記憶を頼りに住宅街の路地を適当に曲がりながら、とりあえず地下鉄の駅を目指しました。
 私が以前その商店街に迷い込んだときは、その地下鉄の駅からあてのないお散歩をしていて、4、5分歩いた頃に突然たどり着いた記憶があったからです。
 駅はあっちのほうだから、ここを逆に曲がってみようか。
 何の気なしにすごく細い路地へ入って抜けると、唐突にそれらしき商店街に突き当たりました。

 自動車が一台通れるくらいな幅の道路に沿って、道の両側に小さなお店がいくつも並んでいます。
 私が路地から出た場所は、商店街の途中みたい。
 小さな八百屋さんが正面に見えました。
 あそこからすんなり出れちゃったっていうことは、意外と地下鉄の駅から近いのかな?
 駅との位置関係はいまいちわかりませんが、来方はなんとなくわかったような気がしました。

 とりあえず、駅とは反対方向になるであろうほうへと、商店街をブラブラ歩き始めました。
 八百屋さん、お肉屋さん、お花屋さん、金物屋さん・・・
 狭い道路の両側に、お休みなのか閉店してしまったのか、閉ざされたお店をいくつか挟んでは、開いているお店がポツポツと並んでいます。
 どのお店も古くからやってらっしゃるみたいで、小じんまりしていてなんだか懐かしい感じ。

 時刻は、午後の三時半過ぎ。
 晩御飯用のお買物時間にはまだ少し早いのか、お年を召したおばさまがちらほら歩いているくらいで、全体的にまったりのんびりしたムード。
 ワンちゃんのお散歩をしてるおばさまや、学校帰りの小学生、宅配便の配達の人とかと、たまにすれ違います。
 クリーニング屋さんちのエアコン室外機の上で、大きな三毛猫さんがまあるくうずくまっていたり。
 裸コートのクセに、私もつられてリラックスムード。
 まったりゆっくり歩いていたら、商店街の終わりらしきところまで来てしまいました。
 見たところそこから先は、普通の住宅街みたいです。

 今度は逆方向に歩いて、とりあえずどこかで何かお買物をしてみよう。
 そう思って来た方向へ振り返ろうとしたとき、私のすぐ横に、さっき思い立ってしまった、私の罰ゲーム用の商品を扱っているであろうお店があることに気がつきました。
 あっ!
 そのお店を見た途端、再び心臓がドキドキし始めました。

 どうしよう・・・本当にやる気なの?・・・
 だけど、まだここに来てから何もお買物していないし、そのお店でどういう会話をするのかも考えていないし・・・
 いざとなったら、途端に臆病な風が吹いてきました。
 いきなりだと、何か大変な失敗をしちゃいそうだし・・・
 やっぱり怖気づいてしまった私は、そのお店を素通りして、来た道を戻り始めます。

 商店街のあっちの端まで行くあいだに気持ちを落ち着けて、やるかどうか決めよう。
 どこかのお店でまず何か普通なお買物をして、誰かと何か会話をしてみてからにしよう。
 そうだ。
 さっき通り過ぎたお肉屋さんの店先で、お店で揚げたらしいトンカツやコロッケをガラスのショーケースに並べて売っていたっけ。
 通り過ぎたときいい匂いがして美味しそうだったから、まずあそこでお買物してみよう。

 そんなことを考えながら歩く私には、もはやさっきまでのリラックスムードは微塵もありませんでした。
 このコートの下は真っ裸。
 そんな格好なのに、なんでもないフリして商店街お散歩を愉しんでいる私。
 背徳感がからだを火照らせ、下半身が盛大にムズムズしてきました。

「いらっしゃーい。今日は鳥のから揚げが大サービスだよ。うちのはカラッと揚がってて冷めてもすごく美味しいよー」
 お肉屋さんのショーケースを前屈みになって覗き込んでいた私に、ケースの向こう側にいた恰幅の良いおばさまから大きなお声がかかりました。
「あ、は、はい・・・それならえっと、鳥のから揚げを100グラムとその、野菜コロッケをください」
「はいはいー。まいどありー」
 陽気そうなおばさまが、愛想良くニコニコ笑って応対してくれます。

「それ、キレイな色のコートだねえ。よくお似合いよー」
「あ、ありがとうございます」
「はいっ、から揚げサービスしといたからねー。美味しかったらまた買いに来てちょうだいねー」
 私の顔をじーっと見つめつつ、おばさまが満面の笑みで私に品物を手渡してくれました。
 から揚げのいい匂いが、ふうわり漂ってきます。
「あ、ありがとうございます」
 お金を払ってから自分でも不自然と思うくらい大きくお辞儀をして、逃げるようにお店から離れました。
 たぶん顔も真っ赤だったと思います。

 やっぱり、この格好で知らない人と会話していると、それだけでゾクゾクキュンキュン感じちゃう。
 自分のはしたなさにジタバタしちゃうくらい恥ずかしくなって、被虐メーターがどんどん上がってしまうんです。

 お肉屋さんを離れた私は、もう一度来た道を引き返すことにしました。
 今のお肉屋さんのおばさまとの会話で、計画通り、より一層の辱しめを受ける決心がつきました。
 いいえ、決心がついた、なんていう消極的なものではなくもっと積極的に、一刻も早く自分をもっと恥ずかしい立場に置いてみたい、という衝動が抑えきれなくなっていました。
 から揚げを買っただけの、あんな普通な会話でこんなにゾクゾクしちゃうのだから、これから私が買おうとしているものだったら、どれだけ恥ずかしい思いをしちゃうのか・・・
 被虐願望メーターが完全に振り切れていました。

 相変わらず人通りもまばらな道を今度は足早に歩いて、さっきみつけたお店の前に舞い戻りました。
 商店街のはずれにひっそりと佇むそのお店は、いかにも古くからやってらっしゃる感じで、小じんまりとした見るからに個人経営という雰囲気。
 表側はガラスの引き戸になっていて店内が覗けます。
 外から見た感じでは、中に他のお客さまはいない様子。

 ここで種明かしをしちゃうと、今私が立っているのは薬屋さんの前。
 ここであるものを、お店の人にそれを告げて対面で買うこと。
 それが私の思いついた羞恥プレイでした。
 ここまで言えば、私がそこで何を買おうとしているのか、ピーンときたかたもいらっしゃるでしょう。

 ただ、ひとつ心配なのは、お店番の人が男性だった場合でした。
 そのときは残念だけれど計画を中止して、当たり障りの無いもの、たとえば風邪薬か何かを買って帰るしかありません。
 でも、こういう町の小さな薬屋さんだと、お化粧品も扱ってらっしゃる場合が多いので、お店番の人が女性の確率は高いはず。
 せっかく決意したのに計画中止ではがっかりです。
 そうならないといいな、お店の人が女性でありますように・・・
 祈る気持ちでお店の引き戸をガラガラッと開けました。

「ごめんくださいぃ」
 小さな声で言ってから、お店の中を見回しました。
 フワッとした中にもケミカルな気配が混じる、薬屋さん独特の香りに包まれます。
 決して広いとは言えない店内に、ガラスケースや棚が上手に並べられ、所狭しといろいろなお薬やサニタリーが置いてあります。
 コスメ系のキレイなモデルさんのポスターも賑やかに貼ってあるので、お化粧品も扱っているのは確実。
 店内は意外と奥行きがあるらしく、今いる場所からはレジが見えないので、商品を眺めつつ奥へと進みました。
 今のところ、陳列棚に私のあめあてのものはみつかりません。

「いらっしゃいませぇ」
 明るくて華やかなお声のしたほうを見ると、お店の一番奥の左側がレジになっていて、何かのお薬の箱がたくさん並べてあるガラスケースの向こう側に、白衣を着たおばさまが椅子に座ったまま、はんなりとした笑顔で私を見ていました。
 よかったー、お店の人、女性だった。
 ホッと一安心して、そのおばさまのほうに近づいていきました。

「今日は何かお探しものかしら?」
 白衣のおばさまは、ちょっぴりしもぶくれなお顔にまあるい銀ブチメガネでショートカット、品の良い薄化粧がよく似合う和風な美人さんでした。
 和服を着たらすっごく似合いそう。
 私にかけてきたお声の調子も気さくっぽくて、見るからにお話し好きそうな雰囲気がありました。
 お年は・・・うーん・・・35、いえ、たぶん40歳よりは上だと思うけれど、ちょっとわからない感じ。
 何て言うか、にっぽんのおかあさん、的な母性が滲み出ている佇まいで、相手に安心感を抱かせる感じのステキな女性でした。

 こういう人なら、あまり緊張せずにお話し出来そう。
 でも、逆にすんなりお買物が終わってしまって、あんまり私が恥ずかしさを感じられないかもしれないな。
 もう少し怖そうな人のほうがよかったかな。
 そんなムシのいいことを考えてしまう私は、本当に自分勝手な女だなって思います。

「どこかおからだの調子が悪いのかしら?それとも何かお化粧品をお探し?」
 おばさまが立ち上がり、ガラスケース越しに私をじっと見つめてきました。
「あ、あの、えっと・・・」
 本当ならここで、そのものズバリ、商品の名前を言ってしまう予定でした。
 それで、お店の人に根掘り葉掘り聞かれて、っていうシチュエーションを妄想していました。
 だけどやっぱり、恥ずかし過ぎて言えませんでした。

「えっと、ちょっと、あの、お通じのお薬を・・・」
「えっ?お習字?ああ、お通じね。便秘のお薬っていうことね?」
「あ、は、はい」
「まあまあ、それは大変ね。便秘はつらいからねー」
 おばさまが心底心配そうなお声で、私を気遣ってくれます。
「それなら飲むお薬と座薬とがあるけれど、どっちがいいかしら?」
「あ、はい、えっと・・・」

 すぐに答えられない私を見かねてか、おばさまは質問の仕方を変えてきました。
「いつからお通じが無いの?」
「えっと、4日前くらい、かな?・・・」
「普段から便秘がちなの?それとも突然?」
「あ、普段からっていうことはありません。今までそんなことなかったのだけれど・・・」
 今だって実は便秘ではないのだけれど、まさか本当のことは言えません。

「そう。たぶん食生活が乱れちゃったのね。無理なダイエットとかしなかった?それかストレスか」
 おばさまが相変わらず心配そうに言ってくださり、ニコッと笑ってつづけました。
「それなら座薬のほうがいいわね。飲み薬は体質によって、効きすぎちゃったり、ぜんぜん効かなかったりもするから」
「それですっきり出したら、その後は、バランスのいい食事と規則正しい生活を心がけること。お薬なんかに頼らずに自然なお通じを維持することが大切なの」
 おばさまが子供に教えるみたいに、やさしい口調でおっしゃいました。

「お嬢ちゃん、座薬ってわかるわよね?」
「あ、は、はい・・・」
「これのこと」
 言いながらおばさまが背後の棚に振り向き、私もよく知っている青色の箱を取り出して私の前に置きました。
「これね。お浣腸」
 とある果実の実に容器の形が似ていることから、その果実の名前を冠した有名なお薬。
 私がここで買おうとしていたのは、まさしくそれでした。

 とりあえずこの格好でお買い物をしようと思い立ち、公園を出てこの商店街を探す道すがら、最近切らしちゃったもの、って考えていて思いついたのがお浣腸薬でした。
 夏休みの全裸家政婦生活中に、ストックしてあった最後のふたつを使ってしまい、近々また買いに行かなきゃな、と思っていたのでした。

 お浣腸プレイ自体は、あまり好きなほうではないのですが、3ヶ月に一回くらい、自虐が極まって無性にやりたくなるときがあるんです。
 東京に来て最初に買ったときは、繁華街にあるセルフ式の大手ドラッグストアチェーン店で、レジの人が女性なのを確認してから、生理用品と一緒に思い切って5箱まとめ買いしました。
 そのときもかなりドキドキ恥ずかしかったのですが、セルフだったし、お会計まで一言も発さずただうつむいていただけなので、今日の比ではありません。

 目の前に置かれたお浣腸薬の箱をまじまじと見つめてしまいます。

 ごめんなさい、おばさま。
 私本当は便秘でも何でもないんです。
 このお浣腸のお薬は、お家でえっちなヘンタイ遊びをするために買うんです。
 今もこのコートの下には何も着ていなくて、そんなことが大好きな私は正真正銘のヘンタイなんです。

 心の中で目の前にいる白衣のおばさまにそうお詫びしながらも、ピッタリ閉じた私の両脚の付け根から内腿を伝ってふくらはぎ、そしてショートブーツの中へと、すけべなおツユがトロトロ滑り落ちていました。

「お嬢ちゃんは、今までにお浣腸をしたことはあるの?」
 今自分がしていることの恥ずかしさにこっそりどっぷり酔い痴れていた私を、おばさまのお声が現実へと引き戻しました。


コートを脱いで昼食を 06


2013年8月19日

コートを脱いで昼食を 04

 やっぱり服従ルールには服従しなくちゃ、ね。
 それによく考えてみれば、戻っては来たけれど、別にお家の中に入らなければならない用事もありません。
 それならさっさとここでレオタードを脱いで、お散歩続行したほうが効率的です。

 ケータイの時計を見ると、まだ午後の二時半過ぎ。
 こんな、まだ明るい時間にマンションの通路で裸になるのは、初めてでした。
 でも、さっきの公園で脱ぐことを考えれば、格段に安全。
 気をつけるべきは、エレベーターの動きだけです。

 すでに玄関ドアに差し込んでいた鍵は、念のためにそのままにしておきました。
 もしもエレベーターが動いたら、すぐさま玄関内に飛び込めるように。
 この時間帯だと、何かのご用時で柏木のおばさまがいらっしゃる可能性も大いにありますから。

 早く裸コートになりたいって、はやる気持ちは満々なので、すぐさまコートの前ボタンをはずし始めました。
 すべてはずしてから、そっとコートの前を開きます。
 うわっ、いやらしい・・・
 見下ろした自分のからだのあまりのいやらしさに、自ら両手でコートの前を開いたまま、えっちなマンガやお話によく出てくるヘンシツシャの人のような格好で、顔だけ下げたまましばし立ち尽くしてしまいました。

 肌に吸い付くようにピッタリなレオタードの白い布を、これでもかという勢いで不自然に突き上げている胸の頂の二つの突起。
 股間は、肌色が透けそうなほどにぐっしょり濡れて、くっきりとその形の通りなスジが刻まれていました。
 どう見ても、この女のからだが発情していることは明白です。

 そして今度は、この白い布も無しの真っ裸になって、コートひとつでお外をお散歩しなくちゃいけないんだ・・・
 別に誰に命令されたわけでもなく、自分で好きでやっているクセに、被虐感がどんどん募ってクネクネ身悶えしちゃいます。
 レオタードを着ていてもこんなに感じちゃったのだから、裸だったらどうなっちゃうのだろう・・・
 思わず妄想の世界に入り込みそうになりますが、現実がもはや、その一歩手前のところまで来ていることを思い出して苦笑いしつつ、コートの袖から両腕を抜いて脱いだコートを軽くたたみ、通路に置いたバッグの上に乗せました。

 大きく一つ深呼吸して気持ちを落ち着けてから、レオタードの両肩紐をそれぞれ外側にずらします。
 胸を隠していた布地が前方へペロンと垂れ下がり、押さえつけられいていた乳房が勢い良くプルンと跳ねました。
 そのままウエストを通り過ぎ腰骨へ。
 両腿を通過するときには、両脚の交わりから布の該当部分へと、透明なか細い糸が幾筋も下へ伸びては切れました。
 ふくらはぎまで下ろしたら、ショートブーツにひっかけないように、踏まないように、注意深く足元から抜き去ります。

 右手にクタッとした白い布片を持ち、足元のグレイのブーツ以外は丸裸になった私。
 心臓はもうドッキドキ。
 たたんだコートを大急ぎで広げて、袖に腕を通しました。

 ボタンを嵌める前にもう一仕事。
 バッグからティッシュを取り出し、前屈みになって股間の湿り気を丁寧に拭います。
 ティッシュごしの自分の手が、もっとえっちに活躍したがるのをなんとかなだめつつ入念に。
 脱いだレオタードは小さくたたみ,使ったティッシュをそのあいだに挟み、バッグの奥底にしまいました。

 コートのボタンを上から嵌めていきます。
 一番上だけは開けたまま、膝元まで。
 待ちに待った裸コートの完成です。

 その姿で通路を少し歩き回ってみると、レオタードを着ていたときとは、全身とコートとの関係と言うか、コートとあいだの空気と剥き出しの皮膚が、触れたり触れなかったりする感触がぜんぜん違うことを実感しました。
 さっきまでレオタードに押さえつけられていたおっぱいは、ルーズフィットなコートの中で自由奔放に揺れ動きます。
 そのたびに尖った乳首がコートの裏地に直に擦られ、ますます勢いづいて背伸びしちゃいます。
 内腿より上の部分も、そこを覆う布地が無くなったために、妙にスースーすると同時に、その一帯の皮膚の感度がより敏感になったのか、歩くたびに粘膜がヌルヌルと擦れている様子まで、生々しく脳に伝わってきます。
 
 すっごく刺激的。
 そんなことをしているあいだにも、股間がジワジワ潤ってきているのがわかります。
 さっきあれだけ拭ったのに・・・
 こんな状態でお外に出たら、絶対溢れちゃうだろうな・・・

 期待のワクワクと不安のドキドキ7:3くらいの割合でエレベーターに乗り込みました。
 お外に出たら、とりあえずもう一度、さっきのブチネコさんに会いに行ってみようかな。
 もしまだいたら、ブチネコさんの前でしゃがんで、下だけこっそり視てもらうのもいいかな。
 ブチネコさん、まだいるといいな。
 魔除けのおまじないを両耳に挿し直しながら、そんな不埒なことを考えていました。

 エレベーターが一階に到着し、エントランスホールをゆっくりと横切ろうとしたとき、
「あらー、直子ちゃん。もう帰ってらっしゃってたのね?」
 管理人室のほうから大きな声がかかりました。
「ひゃっ!」
 思わず小さく悲鳴をあげると同時に、心臓が早鐘のように波打ちました。

 背後から、スタスタとこちらに近づいてくる足音が聞こえます。
 私は仕方なく立ち止まり、足音の方向へ振り返りました
 黒いタートルネックのセーターに白いエプロン姿の柏木のおばさまが、ニコニコしながら近づいてきました。

「あっ、おばさま。ごきげんよう。いつもご苦労様です」
 内心はドキドキなのですがつとめて平静を装い、いつもより丁寧にお辞儀をしました。
 右手がなぜか、コートの胸元をつかんでいます。
「はい、ごきげんよう。急に声かけて驚かせちゃった?ごめんなさいねー」
「いえいえ。音楽に夢中になっていたので、ちょっとびっくりしただけです」
 耳から無音のイヤホンをはずして、胸元に押し込みました。

「今日はお帰りが早いのね?」
「あ、ええ。学校が早く終わったので、お昼過ぎには戻っていました」
 自分の引け目を意識しすぎて、受け答えがヘンに優等生っぽくなってしまいます。
「そうだったの。気がつかなかったわ。それで、これからお出かけ?」
「あ、はい、ちょっと・・・」
「いえね、直子さんにご実家からお荷物が届いているから。それで声をかけたのだけれど」
「あっ、そうたっだのですか」
「お荷物ランプ、点けておいたはずなのだけれど、気がつかなかった?」
 お荷物ランプというのは、管理人さんがお届け物などを預かったときに知らせてくれる装置で、各お部屋のインターフォン応答装置の横に付いていました。
「あ、えっと、ごめんなさい・・・」
「ううん、別にいいのだけれど。どうする?今持っていく?」
「お荷物自体は大きめだけれど、そんなに重くはないわよ」
 実家からの荷物というのは、数日前に電話で送ってくれるように頼んだ、私の冬物のお洋服だと思います。

「あっ、でもこれからお出かけなら、お時間の都合もあるわね」
 私が迷っているのがわかったのか、おばさまが気を遣ってくださいました。
「戻ってきてからでもいいわよ。おばさん今日は出かける予定ないから」
「あ、はい。ちょこっとお買物に行くだけですから、遅くとも5時までには戻ります」
「そう、それならお戻りになったら声かけてちょうだいね」
 おばさまがそう言って、私の姿をあらためて上から下まで、まじまじと見つめてきました。
「とってもステキなお色のコートね。よーくお似合いよ」
「あ、ありがとうございます。おばさまのセーターもシックですごくステキですね」
「やだあ。これはただの普段着よ」
 おばさまがコロコロ笑い、私の右肩を軽く叩きました。
 コートの下で生おっぱいがプルンと揺れました。

「それじゃあお気をつけて、いってらっしゃい」
「はい。それではごきげんよう。また後ほど」
 おばさまにお見送りされて、エントランスを抜けてお外に出ました。
 レオタードのときと同じ路地に入り、少し歩いて、周りに誰もいないのをよく確かめてから、立ち止まりました。

 ああん、びっくりしたー。
 私はぐったり疲れ、すっごくコーフンしていました。
 おばさまにお声をかけられたときから、心はドキドキ、からだはカッカと火照りつづけていました。
 裸コートをしていると、普通に会話するだけで、こんなにコーフンしちゃうんだ・・・

 私がおばさまと会話しているあいだ、頭の中のもうひとりの私が、いちいちその会話にツッコミを入れていました。
「何が、ごきげんよう、よ?お上品ぶったって、そのコートの下は真っ裸じゃない」
「びっくりしたときにヒクッとした、あなたのスケベなアソコをおばさまに見せてあげたいわね」
「何言ってるの?今日は裸コートをしたいがために早く帰ってきたクセに」
「頭の中、スケベなことでいっぱいだから、ランプなんて確認するヒマ無いわよね」
「正直に、裸コートでネコさんにアソコを見せに行きます、って言っちゃいなさいよ」
「コートを褒められたとき、中はもっとステキですよ、って開けて見せちゃえば良かったのに」

 おばさまにお見送りされたときには、すでにアソコから溢れ出したおツユが一筋、左腿からふくらはぎへと滑り落ちてブーツの中へ達していました
 たぶん今の私は、シーナさま言うところの、ドマゾオーラ、全開のはず。
 気を引き締めないと。
 イヤホンを挿し直し、背筋を伸ばして、無駄におっぱいが揺れないようにゆっくりと歩き始めます。
 すれ違う人は相変わらず少ないですが、そのたびにドキンとするのも相変わらず。
 さっきと同じルートで、さっきの小さな公園に着きました。

 ブチネコさんはもういませんでした。
 かなりがっかり。
 それでも同じカメさんベンチに腰を下ろし、これからどうしようかを考えます。
 このままでたらめに歩き回ってもいいのですが、それだけではもう面白くないかも。
 おばさまとの会話で得たコーフンをもう一度味わいたい、という気持ちになっていました。

 この格好で誰かとおしゃべりがしたい。
 恥ずかしい格好をしていることなんておくびにも出さず、普通に、いいえ、あえていつもよりお上品な感じで。
 そのギャップが大きければ大きいほど、コーフン出来ちゃうみたいでした。
 我がことながら、かなり変わったヘンタイ性癖だと思います。

 かと言って、そのへんですれ違う人に無闇に話しかけるワケにはいきません。
 見知らぬ人と会話するもっとも手っ取り早い方法と言えば、お買い物。
 まっさきに頭に浮かんだのは、このコートを買ったファッションビルのブティックでした。
 あのお店で適当にお買い物をして、店員さんのお姉さんとあれこれおしゃべりして。
 想像しただけでゾクゾクしてきました。

 だけど、あのファッションビル周辺は、この住宅街とは比べものにならないくらいたくさんの人たちが行き交っているはずです。
 もう午後の3時過ぎですから、学校帰りの高校生の子たちなんかも押し寄せているでしょう。
 裸コート初日で、そんな人混みの中に身を投じるのは、ハードルが高過ぎる気がしました。

 住宅街に普通にあるのはコンビニとかスーパー。
 でもああいうところは、それこそ一声も発せずともお買い物が出来ちゃうようなしくみです。
 何かを探してもらうくらいしか、店員さんとお話しすることはありません。
 ところどころに個人商店もあるから、行くとしたらそういうところかな。
 うーん・・・

 つまりは、店員さんと相談しながら買うようなものがあれば、それを買いに行けばいいのだけれど、そういうものって何かなー。
 お洋服と大げさな電気製品くらいしか思いつきません。
 本屋さんで本を取り寄せてもらう、っていう手もあるけれど、それって一瞬で終わっちゃうし。
 柏木のおばさまに、お買い物に行ってくる、と告げた手前、何かお買い物をして帰らなければいけない気分にもなっていました。

 そうだ!
 思い出しました。
 そういえば、確かこの界隈に小さな商店街があったはず。
 以前、闇雲に路地のお散歩をしていたときに、近くに駅も無いのに突然商店街が始まって、突然終わる一角があってびっくりしたことがありました。
 それも、八百屋さんお魚屋さんお肉屋さん、お豆腐屋さん金物屋さん雑貨屋さんとか、最近ではあまり見かけない、古くからやってらっしゃるのであろう小じんまりとした個人商店ばかりがつづくレトロな商店街でした。
 一度しか迷い込んだことはないけれど、ここからならなんとなく、記憶を頼りにたどり着けそうな気がします。

 あの商店街なら、何を買うにもいちいちお店の人とお話ししなければならないはず。
 レトロな商店街なので、お店の人もたぶん皆ご年配だろうから、お話しするのも気分的に楽そうだし。
 あそこで、精一杯世間知らずのお嬢様を気取って、お野菜とか、お惣菜とかを買ってみようか。
 思いついたアイデアにワクワクしてきました。
 早速ベンチから立ち上がり、レトロ商店街探しの冒険に旅立ちました。

 冒険の途上でも、しつこく、何か買うべきものはなかったかなー、って考えていました。
 前から欲しいなと思っていたもの、買わなきゃと思ってつい忘れちゃうもの、最近きらしちゃったもの・・・
 と考えていたとき、突然すごいアイデアが浮かんでしまいました。

 あまりに恥ずかしく、あまりに自虐的な、それゆえ今の私にぴったりお似合いな羞恥プレイ。
 これから行く商店街に、それを売っていそうなお店は・・・確かあったはずです。
 そんなことを思いついてしまった自分を、アクマだと思いました。

 本当にやってみるつもりなの?
 そう自問すると、さっき柏木のおばさまとの会話にさんざんツッコミを入れてきたもうひとりの自分が、即座にこう答えました。
「当然でしょ?思いついちゃったんだから。今日、最初にレオタードなんか着てもたもたしていたあなたへの罰ゲームよ。お望み通り、見知らぬ人の前で思う存分辱めを受けるがいいわ」


コートを脱いで昼食を 05


2013年8月16日

コートを脱いで昼食を 03

 いっそのこと、ここでレオタードを脱いでしまおうか?
 さっきまでの不安はどこへやら、大胆過ぎる誘惑が私をそそのかします。

 コートのボタンを全部はずして、脱いで、レオタードの両ショルダーをずらして、足元まで一気にずり下げて両脚から抜いて、再びコートを着てボタンをはめるだけ。
 大急ぎでやれば30秒もかからないはず。
 40秒で支度しな。
 大好きなアニメの、そんな台詞がふと頭をよぎり、クスッとひとり笑ってしまいました。

 ふたつはずしたコートのボタンは直さず、胸元を押さえながらひねっていたからだを戻し、路地のほうをうかがいました。
 ブチネコさんは、相変わらず同じ場所に丸まっていました。
 私がそちらに顔を向けた途端、つむっていた両目が開きました。
 トクベツに、キミにだけ見せてあげよっか?
 ベンチに腰掛けたまま、左手が知らず知らずのうちにコートの3つ目のボタンをまさぐっています。
 って、私ってば、本気でやる気なの!?

 そのとき、私の視界の右端に何か動くものを捉えました。
 ドキンッ!
 私の上半身が大げさに跳ねて、はずみでベンチから立ち上がってしまいました。
 ブチネコさんもつられてお耳がピクン。

 路地の右側から現れたのは、自転車に乗ったおばさまでした。
 そのままスイーッと公園の前を通り過ぎて視界の外へ。
 私に気づいたのか気づかなかったか。
 いずれにしても、左手で胸元を押さえたまま立ち尽くす私の心臓は、爆発しそうにドクンドクン。
 そうしているあいだにもうひとり、別の自転車おばさまが今度は逆方向からフラフラと通り過ぎて行きました。
 そちらに顔を向けた瞬間、今度はバッチリ、そのおばさまと目が合っちゃいました。

 私が路地に背中を向けてコートの中を覗き込んでいるあいだも、ひょっとしたら何人かが背後を通り過ぎたのかも・・・
 いくら人通りが少ないとは言え、ここも一応天下の往来です。
 こんなところで、たとえ一瞬でも、全裸になるのはやっぱり危険過ぎる。
 今は、フォローしてくれるパートナーもいない、完全なひとり遊びなのだから。
 よみがえった理性が、復活したてで突っ走りだがるムラムラを懸命になだめ、妥協案をひねり出しました。

 いったんお家に戻り、今度はちゃんと裸コートになってお散歩続行。
 まだお家を出てから30分も経っていません。
 仕切り直して再チャレンジする時間は、まだまだ充分にありました。
 そうと決まればまっしぐらです。
 ブチネコさんに、ちょと待っててね、と声をかけてから胸ボタンを直し、一目散にお家へ急ぎました。

 公園を出て5分もしないうちに、マンションの自分のフロアの玄関ドア前に立っていました。
 さあ早く、このジャマなレオタードを脱いでしまおう。
 そう思いながらドアを開けようとしたとき、唐突に思い出しました。

 私は今、復活したムラムラ期真っ最中。
 私がムラムラ期のときは、夏休み中の全裸家政婦生活のときに自分に課したルール=室内では着衣禁止、が適応されなければなりません。
 その後いろいろ考えて、とにかくお部屋内では下半身は常に裸が最低条件、と一部ルール改正はありましたが、いずれにせよお部屋に上がる前には一度、全裸にならなくてはならないきまりでした。
 それどころか、夏休み後に最初のムラムラ期が訪れたとき、ふと気がついたことがあって、より大胆なルール変更もしていました。

 私が住んでいるマンションは、8階建てでワンフロアにつき一世帯だけ入居しています。
 エレベーターは、基本的に居住者だけが持っているキーにより、その居住者の階と1階でしか開かず、宅配便や郵便配達の人も1階の管理人室までしか立ち入り出来ないシステム。
 つまりエレベーターが自分のフロアに着いて降りたときから、そこは私だけの空間になるのです。
 そのことに気がついて、それからは自室の玄関前の通路で、すでに全裸になっていなくてはいけないという、より破廉恥なルールに変わっていました。

 いっそのことエレベーターに乗り込んだときから、とも思ったのですが、エレベーターの中には監視カメラが付いていることを思い出し、すぐにあきらめました。
 管理人室には、そのカメラからの映像が映るモニターがあること、誰かが乗って動き出したとき自動的に録画が始まるしくみなことも、管理人さんである柏木のおばさまからお聞きしていました。
「不審者とか、何かアクシデントがあったらすぐ、駆けつけてあげるからね」
 最初のご挨拶のとき、おばさまが頼もしく、そうおっしゃってくださったっけ。

 自室のフロアに着いてエレベーターを降り、エレベーターの扉がピタリと閉まったときから、お洋服を脱ぎ始めます。
 エレベーターホールから玄関ドアまで6~7メートルくらい。
 クリーム色の壁の上のほうに、明かり取りのために直径50センチくらいの丸いガラス窓が等間隔でいくつもはめ込まれていて、そこからお空が覗けています。
 そんな中をドアまでゆっくり歩きながら、着衣のボタンをはずしたり、ジッパーを下げたり、靴を脱いだりのひとりストリップ。
 玄関ドアに鍵を差し込むときは、下着まで全部脱いだ状態になっていなければならないのです。

 こういった、私がムラムラ期になったときに従わなければならない自分で課した一連のルール、この他にもいくつかあるのですが、それは追ってご説明出来る機会があると思います、を、私はシンプルに、マゾの服従ルール、と呼んでいました。

 いくら人が来ないことがわかっていると言っても、お家の玄関内で脱ぐのとドアの外の通路とでは、ドキドキ加減がぜんぜん違います。
 もし誰かこのフロアに降り立つとしたら、それは管理人である柏木のおばさまだけ。
 たまにモップ片手にエレベーターホールと通路のお掃除をされているのに出くわしたことがありました。
 あとは、たぶんありえないとは思いますが、おばさまの監視の目をかいくぐった不審者の人。
 なので、おおむね安全ではあるのだけれど100パーセントでは無く、もしも万が一、上記の人たちに見られてしまったら、それこそ取り返しのつかないことになってしまうという自虐的なスリルが、私の被虐心を大いにくすぐりました。

 通路で全裸にならなければならない、とマゾの服従ルールを改定した数日後に、こんなことがありました。

 全裸家政婦生活以来、ムラムラ期に学校へ行くときは、ノーパンジーンズが定番になりつつありました。
 その上からワンピースやチュニックを着て、前ジッパー全開にしてみたり、大胆にウエストのボタンまではずした状態でお教室移動してみたり。
 それ以前にも、ムラムラが強くてどうしてもガマン出来ないとき、講義中で出入りが少ないであろう時間帯におトイレにこもり、お洋服を下着まで全部脱いで、意味も無く全裸で佇んだり、とかのえっちな遊びはしていたのですが、ノーパンジーンズにしてからは、よりお手軽に、ひそやかな自虐羞恥プレイをキャンパス内でも出来るようになっていました。
 
 そんなノーパンジーンズ姿でお家に帰ってきたとき、うっかりブーツとかを履いていると、脱ぐのにかなり手間取ってしまうこともわかりました。
 靴を履いたままジーンズを脱ぐのはまず不可能ですから、先に靴を脱ぐことになります。
 パンプスやスニーカーならささっと脱げるけれど、ブーツはけっこうめんどくさい。
 レースアップブーツだったりすると、とくに時間がかかっちゃいます。

 その日は編み上げの、履くのも脱ぐのもややこしいハーフブーツを履いて登校しました。
 わざとでした。
 通路での全裸は、それまですでに3回ほどやっていて、とくに不安になる要素も無かったので、その日は、よりいやらしく時間をかけて脱いでみよう、と思っていたからです。
 朝、学校に行く前から、帰ってきて通路でストリップをするときのことを考えて、ややこしいブーツを選ぶなんて、我ながら呆れちゃうほどヘンタイだな、とは思います。

 夕方6時過ぎに、学校から我が家のエレベーターホールへ舞い戻りました。
 ムラムラ期真っ最中ですから、これから明日の朝までは、マゾの服従ルールに従わなければなりません。
 玄関ドアに向かいながら、チュニックブラウスの前ボタンをはずし始めました。

 それまでの通路ストリップは、まず靴なりブーツを脱いでからジーンズを脱ぎ、下半身裸になった後、上半身を脱いでいました。
 その日は、玄関ドアの前でまず、上半身を全部脱ぎました。
 チュニックブラウスを脱いでブラジャーをはずして。
 上半身裸、おっぱい丸出しになった後、ジーンズを膝の上くらいまでずり下げました。
 これでお尻もアソコも丸出し。
 それからその場にしゃがみ込み、ブーツの紐を解き始めます。

 中途半端な脱ぎかけジーンズ。
 こういうのも、半裸、って呼ぶのかしら?
 でもおっぱいもお尻もアソコも丸出しで、隠れているのは膝から下だけなんだから、四分の三裸くらいかな。
 
 和式のおトイレで用を足すときみたくしゃがみ込むと、裸の左腿の上に乗っかるように左おっぱいが擦りつけられ、腿の体温がおっぱいに伝わり、誰かに愛撫されているみたいに感じてきてしまい、乳首が痛いほど尖って益々敏感になってきちゃいます。
 マンションの通路で、こんな格好になってブーツを脱ごうとしている女なんて、世界中で私だけだろうな。
 自分がしている異常な行為を、客観視して羞恥心を煽っていると、どんどん性的に昂ぶってきます。
 しゃがんだ両膝が次第に開き、両脚が交わる付け根からポタリポタリと恥ずかしい雫が滴り、通路に小さな水溜りを作ります。
 こんな姿、誰かに視られたら、どれだけ軽蔑されることでしょう。

 時間をかけて愉しもうと思って選んだ編み上げブーツなのですが、なかなか脱げないもどかしさ。
 早くすっきり全裸になってお部屋に入りたい。
 自宅前の通路にこんな中途半端にいやらしい格好で長い時間いればいるほど、予想外のアクシデントに見舞われるリスクが高まるのに、それを許してくれないイジワルなブーツの靴紐。
 ああん、お願い、早く脱げて・・・
 裸のお尻の下の水溜りが、じわじわと大きくなっていきました。

 ようやく左足からブーツが取り除かれ、残るは右足。
 この時点で5分以上、両膝までジーンズをずり下げた四分の三裸で、マンションの通路にうずくまっている私。
 明るい蛍光灯、見慣れたクリーム色の壁、柏木のおばさまが生けてくれたのであろうドア脇の棚に花瓶のホトトギス。
 明かり取りの窓から、少し欠けたお月様が薄闇に浮かぶ様子がちょうど覗けていました。
 いっそここで、ツヤツヤ光るおマメをちょこっといたぶって、軽くイっちゃおうか・・・
 日常的な場所での非日常的行為に、めちゃくちゃ発情していました。

 そのとき。
 背後でくぐもった音がしました。
 ヴォン、っていう感じ。
 つづいて低いヴーンっていう持続音。
「あっ!」
 思わず声をあげてしまった私はあっさりパニック状態。
 これはエレベーターが動いた音です。
 私が降りて、待機していた4階から、誰かを迎えに下へと降りていったのでしょう。

 どうしよう!?
 私が通路ストリップを始めてから、それをしているあいだにエレベーターが動いたのは初めてのことでした。
 落ち着いて、落ち着いて・・・
 普通に考えれば、他の階の人が帰宅されて、ご自分のフロアに行こうとしているだけでしょう?
 だけどもし、柏木のおばさまだったら・・・
 でも、おばさまがお掃除されるのは、いつも午前中かお昼過ぎだったじゃない?こんな夕方にはされないんじゃない?
 でもでもでも、万が一・・・

 心の中は千々に乱れ、そうしているあいだにもエレベーターは動きつづけ、やがてしばしの沈黙。
 どうしよう、どうしよう・・・
 再びヴォンという鈍い音。
 1階から上昇を開始したようでした。

 結局、エレベーターが上昇を開始したと思った瞬間、ドアノブに跳びつき、焦る右手でなんとか鍵を差し込み、玄関内にからだだけ転げ込んでドアを閉じました。
 脱ぎ散らかしたお洋服や片方のブーツと持っていた荷物はすべて、通路に置き去りでした。

 靴脱ぎに横座りになり、はあはあと荒い息を吐きながらもドアに耳を当ててすませます。
 エレベーターの音は、聞こえなくなっていました。
 私のフロアでエレベーターの扉が開いたような気配もありません。
 そのまま2分くらい待ってから、玄関ドアをそーっと開けてみました。

 通路には片方だけのハーフブーツとトートバッグが転がり、脱ぎ捨てた淡いオレンジ色のチュニックブラウスの上に、ピンクのブラジャーが所在なげに乗っていました。
 それらを拾い集めて玄関内に回収した後、念のためと思い、エレベーターホールまで行ってみました。
 上半身は裸、ジーンズも下げたまま、左足は裸足、右足にはブーツの姿でひょこひょこ歩いていきました。

 エレベーターの表示は、6階が点灯していました。
 なんだ、やっぱり6階の人が帰ってきただけだった。
 心底ホッとすると同時に、ムラムラが盛大にぶり返してきました。
 玄関内に戻ると同時に、自分のアソコに指を突き立てていました。

 もしも本当に柏木のおばさまだったら、どうする気だったの?
 自分だけ玄関に隠れても、通路があんな状態じゃバレバレじゃない?
 ブラまで出しっぱなしだし、あんな水溜りまで作って、なんて言い訳するつもりだったのよ?
 まったくどうしようもないヘンタイ女なんだから!

 そんなふうに自分を責め立てながら、からだ中をめちゃめちゃにまさぐり、玄関先で大きな声をあげながら何度も何度もイったのでした。

 ごめんなさい。
 お話しが脇道に大きく反れちゃいました。
 えっとつまり、私にムラムラ期が戻ったので、マゾの服従ルールに従わなければいけない、ということを、そのとき思い出したのでした。


コートを脱いで昼食を 04


2013年8月11日

コートを脱いで昼食を 02

 衣替えの時期を待っていたかのように、月が変わった途端に気候がどんどん秋らしくなってきました。
 ブラウス一枚では少し肌寒いな、と思う間もなくニットが恋しくなり。
 10月3週目に、一日中風が強く、細かい雨が降ってはやみをくりかえす日々が2日間つづいたときがありました。
 その日を境に、街中やキャンパスでも、コートを着用する人をちらほら見かけるようになりました。

 ただ、ちょうどその頃の私はタイミング悪く、けっこう激しいムラムラ期を終えたばかりで、あまりそういう気分になれないときでもありました。
 でも、約半年近く待ち焦がれてやっと到来した、裸コートの季節です。
 ここでぐずぐずしていると、お外はぐんぐん寒くなってしまいます。
 あんまり寒くなってからだと、別の意味でやる気が起きなくなっちゃうかも・・・
 せっかくステキなコートも手に入れたのだし、とりあえず一度やってみなきゃ、だよね。
 そう自分に言い聞かせて、とにかく実行することにしました。

 私の学校のスケジュール的に、講義が午前中しかなくて午後が丸々ヒマな火曜日か木曜日に決行、というのは以前から決めていました。
 実行を決めてから最初に迎えた火曜日。
 お空は、曇りときどき晴れの薄曇模様で気温は17度くらい、絶好のコート日和になりました。

 ブラウスとジーンズの上に、外出では初お披露目なオリーブグリーンのコートを羽織り、朝から学校へ出かけました。
「うわー、そのコート、ステキな色だねー」
 なんてお友達にも褒められてちょっといい気分。
 午前の講義が終わったら、いつものように遊びに誘ってくれるお友達に、ちょっと急な用事があって、と言い訳して、昼食もとらずにそそくさとお家へとんぼ返り。
 さあ、いよいよです。

 時刻は午後の一時ちょっと前。
 私の自宅周辺の住宅街は、午後の一時過ぎから四時頃までが一番人通りが少なく、まったりした時間帯なことを、お引越ししてきてからの約半年間、いろいろな時間帯にお買い物やお散歩でお出かけした経験上で知っていました。
 裸コートデビュー戦ですから、まずはそういう一番安全そうな時間帯で小手調べ、というのも以前から決めていました。

 お家に帰って、ミルクティーとイチゴジャムトーストで一息ついてから、とりあえず全裸になりました。
 あんなに思い焦がれていた裸コートがとうとう出来るというのに、気持ちがいまいち、盛り上がってきません。
 乳首もアソコもひっそりしたまま。
 やっぱり、ムラムラ期が通り過ぎたはっかりだからかなー?
 なんて思いつつ、コートの袖に腕を通そうとしたとき、急激に、不安な気持ちが胸の中いっぱいに渦巻いてきました。

 たとえば・・・
 全裸にコート一枚で通りを歩いていて、運悪く交通事故に巻き込まれ、その場で意識を失ってしまったら・・・
 たとえば・・・
 そういう持病は持っていないと思うけれど、急な貧血とか気分が悪くなって、道の真ん中で倒れてしまったら・・・
 そんなアクシデントに見舞われて救急車で運ばれたとき、コートの下が全裸だったら・・・
 万が一、いいえ何億分の一の確率かもしれないけれど、絶対起こらないという保証はありません。
 もしもそれが運悪く起こってしまったら、少なくとも両親には、そんなことをしていた事実が知られてしまう・・・

 後から冷静に考えれば、そんな可能性で尻込みしてしまうのなら、今までしてきた数々のえっちな屋外遊びだって、どれも出来ないはず。
 でも、そのときは真剣にそう考えちゃったのです。
 ムラムラのないときの私は、本当に臆病な小心もの。
 えっちな好奇心が性来の臆病さに勝てず、怖気づいてしまったようでした。

 そして、ここからが私のヘンなところです。
 そんなに怖いのならあっさりやめればいいのに、私は、とりあえず今日は全裸はやめておこう、って考えたのでした。
 せっかく早く帰ってきて準備万端なんだし、気乗りしないながらも、何もしないっていうのはイヤだったのでしょう。
 ハードルを下げて練習のつもり、というモードにいつの間にか移行していました。

 それで少し考えて、素肌に身に着けたのが白いレオタード。
 その姿なら万が一のときも、お家でバレエの練習をしていたとき急に外出しなければならなくなって、すっごく急いでいたし、すぐ戻れると思ったから、上にコートだけ着てお出かけしたのです、って両親に言い訳が出来ると真剣に思ったのでした。

 このときのことを思い出すと今でも、自分のおバカさ加減に苦笑いしてしまいます。
 今思えば、ムラムラしていないと言っても、やっぱり裸コートの練習くらいはしてみたいという気持ちは大きくて、そんな屁理屈みたいな言い訳をひねり出し、自分の臆病さをなんとか説き伏せようとしていたのでしょう。
 レオタードを身に着けた私は、さっきよりずいぶんホッとして、あらためてコートを手に取りました。

 そのとき着たレオタードは、実際に家でバレエの練習をするときに愛用している古いもので、カップもインナーも付いていないやつでした。
 これだって後から思えば、ある意味、裸よりいやらしい感じがするフェティッシュな着衣ですよね。
 でも、そのときの私は、乳首が大人しくていたので目立たなかったこともあるのでしょうが、そんなことまでまったく頭がまわらず、全裸はやっぱりハードルが高いから次にムラムラが来たときまで無理かなあ?なんて、のんきなことを考えながら、いそいそとレオタードの上にコートを着込みました。

 コートの前ボタンをきっちり嵌めて、鏡で全身をくまなくチェックしてから、携帯音楽プレイヤーのイヤホンを両耳に挿し込みます。
 プレイヤー本体はコートの内ポケットへ。
 これは、学校のお友達から教えてもらった、魔除けのおまじない、でした。

 春先に東京へ出てきて、初めてひとりで繁華街を歩いたとき、一番戸惑ったのは、声をかけてくる人の多さでした。
 メインストリートみたいな人混みを歩いていると、ひっきりなしと言っていいほど。
 実家にいた頃にも、大きな街に出ると駅前で何人か、そういう人を見かけましたが、そんなのとは比べものにならない多さ。
 大半は若い男性。
 たいがい髪を明るく染めていて、ホストさんみたくキメキメの派手めな格好。
 以前からお友達だったみたいに、とてもなれなれしい口調で話しかけてくるのです。

 ご存知の通り、男性は苦手な私です。
 東京に出てきた、という緊張感とも相俟って、とにかく怖くて、声をかけられた途端にうつむいて、逃げるように足早に、人混みに紛れ込むことにしていました。
 実家にいる頃から母ややよい先生に、そういうことをしてくる人たちは、たいてい何か騙そうとしている人たちだから、絶対に相手にしてはいけない、と教えられていたので、まともにお話しを聞く気はまったく無く、とにかく逃げることだけを考えていました。
 それが度重なるうちに、繁華街を歩くことさえ憂鬱に思えてきて、そういう場所を抜けなくてはならないときは、とにかくうつむいて、目的地まで足早に歩くようになっていました。

 大学で気軽におしゃべりするお友達が何人か出来た頃、そういう話題になったことがありました。
「ああ。とくに春先はあいつら、地方から出てきた純朴そうな女の子を騙そうって、舌なめずりして待ち構えているからね」
 ずっと東京に住んでいるお友達が教えてくれました。
「ホストみたいなのは、お店のキャッチかモデルとかのスカウト、あとナンパ。おばさんだと宗教とか自己啓発セミナーの勧誘。若い女だとエステとか絵画販売ってところかな」
「あとは居酒屋の客引きだの何かの寄付だの。アンケートがどうとか言ったって、結局何か買わせたいだけだからね。いずれにしてもロクでもない連中だから関わらないことだよね」

「森下さんは、見た目も素直そうだから、声かけやすいのかもしれないね?」
 別のお友達が同情してくれます。
「そうなんです。いっぱい声かけられて、なんだか怖くて・・・」
「気弱そうだったり、自信無さそうな女の子を狙う、って何かで読んだことがあるから、うるさいわね、あたしは今忙しいの!くらいの感じで堂々としてると、声かけにくいんじゃないかな?」
「そういうのが出来ればいいのだけれど・・・」
「あとはもう完全にシカト。聞こえないフリして相手にしない。あっ、そっちだったらいい方法教えてあげる」

 それで教えてもらったのが、携帯音楽プレイヤーのイヤホンを両耳に挿しておくことでした。
「でも私、音楽聴きながら歩くの、あんまり得意じゃないっていうか、つまづいたり、人とぶつかっちゃったり・・・」
「あはは。だから別に本当に聴かなくてもいいのよ。本体はオフっとけばいいの。イヤホンだけ耳に挿して聴いているフリしてるだけで、ずいぶん違うから」

 確かにそうしてみると、あまり声をかけられなくなりました。
 そういう人たちがいるところでは、真剣に音楽に没頭しているフリをして歩き、声をかけられてもそちらに顔を向けずに聞こえないフリで歩きつづければ、さっさとあきらめてくれます。
 この方法を教わって、繁華街を歩くのがずいぶんラクになりました。

 これからする遊びも、極力他人とは関わりたくないので、そんなおまじないを施してから、右肩に小さめなトートバッグを提げました。
 中身はお財布とタオル、ペットボトルのお茶とか。
 もう一度鏡で全身をチェック。
 大丈夫そうなので、玄関に向かいます。
 時刻は午後の二時ちょっと前。
 タイムスケジュール的には、ほぼ当初の計画通りです。

 ちょっと迷ってから、裸足にグレーのショートブーツを履いて、玄関ドアを開けました。
 エレベーターを待っているあいだ、心臓がドキドキドキドキしてきました。
 エレベーターで一階へ。
 エントランスを抜けると、そこはもうお外でした。

 秋のひんやりした風に全身が包まれます。
 コート一枚でも思っていたより寒く感じないのは、やっぱり興奮しているから。
 でもその興奮は、期待のワクワクより不安のドキドキのほうが何倍も勝っていました。
 今、このコートの下は薄いレオタード一枚だけ。
 普通の人なら絶対しない異常なコーディネート。
 バレることはまず無いのだけれど、やっぱりすっごく不安です。

 どこへ行こうという目的は、何もありませんでした。
 とにかくなるべく人通りの無い住宅街をでたらめに歩いてみるだけ。
 マンションを出てすぐの路地を住宅街のほうへ入り、普通に歩けば5分くらいでたどり着く地下鉄の駅を、なるべく遠回りしながら目指してみることにしました。

 私が住んでいるマンションの一帯は、かなり古くからの住宅密集地だったらしく、本当にたくさんの民家が脈絡無く建ち並び、いたるところに細い路地が迷路みたいに張り巡っていました。
 再開発の途中なので、すごく古いお家と、新築マンションなどが入り乱れて建っています。
 坂道も多く、唐突に細い石の階段があったり、突き当たり行き止まりがあったり。
 道端のところどころにほんの小さな休憩所のような公園みたいな場所、石のベンチがポツンと置いてあるだけみたいな、がいくつかあって、お昼休み時分には、サラリーマンの人がそこでコンビ二のお弁当を食べていたりもしました。
 かと思うと、突然小さな商店街がつづいたり、荒れ果てた廃屋があったり。

 お引越ししてきて、いくらか慣れた頃、そんな路地を探検するのが楽しくて、暇があるとひとりでブラブラ、冒険RPG気取りで歩いたものでした。
 この路地は、ここにつながっているのかー、とか、ここをまっすぐ行くとずいぶん遠くまで曲がる道がないんだー、とか。
 あっ、もちろんえっちな格好とかではなくて、普通の格好で、ですよ。
 どこにいても池袋の超高層ビルが見えるので、闇雲に歩いても大きく迷っちゃうことはありませんでした。

 そんな路地をゆっくりと歩いていきます。
 なるべく自然に、ごくごく普通にお散歩している感じで。
 ときどき人とすれ違うとき、やっぱりドキンとしてしまいます。
 
 もともとこのあたりの住民の方々は、ご年配のかたが多く、その上、今は平日の昼下がりですから、すれ違う人も、お仕事をリタイアされたらしいご年齢のおじさまやおばさまや、専業主婦のかたばかり。
 細い路地を前から歩いてきて、私を一瞥してただすれ違う。
 それは普段ならとても普通のことなのですが、自分が恥ずかしいことをしている、という引け目があるので、どうしても必要以上に緊張してしまいます。
 音の出ていないイヤホンの音楽に集中しているフリをして、伏目がちながら不自然にはならないくらいに背筋を伸ばして。

 ときおり風が吹いて、からだにコートがまとわりつきます。
 午前中にブラウスとジーンズの上に着ていたときとは、明らかに違う感触のまとわりつき方。
 そのたびに、今コートの下がどんな格好なのか、ということを思い出させてくれます。
 そういうときに限って、前から人が歩いてきたりします。
 何度か通った道だけれど、初めて歩くみたいにひどく新鮮に見えます。
 頭の中では、音の出ていないイヤホンから、ラヴェルのボレロがエンドレスでずーっと鳴っていました。

 5分くらい歩いて10人くらいの人とすれ違ったでしょうか?
 そのたびに心臓がトクンと跳ねていました。
 レオタードを着ていてこうなのだから、もし本当に全裸だったら・・・
 そう考えたと同時に、からだがムズッと疼きました。

 見覚えのある小さな公園のひとつにちょうど着いたので、そこでちょっと休憩することにしました。
 ここから地下鉄の駅までなら、あと3分も歩けば着けるでしょう。
 ペットボトルのお茶をゴクリと一口。
 さっきから気になっていることを確かめてみたいと思いました。

 カメさんの形をしたベンチに腰掛けて、周りを注意深く見回しました。
 大丈夫、誰もいません。
 お向かいにある木造のお家も窓が全部閉じて、しんと静まり返っています。
 脇の空き地に駐車している小さなトラックの下で、白黒ブチのネコさんがまあるくうずくまっていました。
 薄目を開けてこちらをうかがっているご様子。

 私はベンチの上でからだをひねり、ネコさんに背中を向けました。
 正面に見えるのは、小さな花壇と石塀だけ。
 それから、コートの胸元のボタンをふたつはずし、そーっと広げて中を覗き込みました。
 やっぱり・・・
 目を凝らすまでも無くあからさまに、二つの乳首がレオタードの白い布地を、とてもいやらしく突き上げていました。
 開いた胸元に右手を入れて、股間に当ててみます。
 しっとり・・・

 レオタードコートでお外を歩いているうちに、いつの間にかムラムラが舞い戻ってきていました。
 それも、たとえて言うなら、瀕死のパーティにせかいじゅのしずくを使ったような、完全回復。
 レオタードを着てきてしまったことを、後悔していました。
 一刻も早く、本当の裸コートになりたい、と熱烈に思っていました。


コートを脱いで昼食を 03


2013年8月5日

コートを脱いで昼食を 01

 自分がマゾな性癖を持っていることに気づいた頃からずっと憧れていて、独り暮らしになったらぜひとも一度やってみたい、と思っていたことがありました。
 素肌にコートを一枚だけ着用してのお出かけ。
 屋外露出の定番、羞恥プレイの王道とも言える、俗に言う、裸コート、というやつです。

 それっぽいことなら、すでに何度か経験していました。
 やよい先生と一緒に薄いワンピース一枚だけでお出かけしたり、駅のおトイレで下着だけ脱いで知らない町をノーパンでお散歩したり。
 裸コートも行為的には同じようなものですし、裸コート以上に恥ずかしい姿での屋外露出もいろいろ体験済みでした。
 でも、それらを体験してもなお、野外露出ものビデオや写真で女性の裸コート姿を目にするたびに、いつか私もやってみたい、と思いつづけていました。

 裸コートをするまでの過程には、2つのケースがあるように思います。
 ひとつめのケースは、誰かのご命令。
 ご主人さまやパートナー、あるいは脅迫者とかから、こういう格好をしてお外に出なさい、とご命令されての裸コート。
 えっちなビデオとかでは、こちらのシチュエーションが多いですよね。
 私も、裸コートではありませんでしたが、やよい先生とシーナさまから、似たようなご命令をいただいたことがありました。

 もうひとつは、自発的な裸コート。
 誰かにご命令されたのでもなく自分の意志で、全裸にコートだけを着て、ひとりでお散歩に出かける、という自虐的な行為。
 私がやろうとしているのは、こちらのほうです。

 外見上は、まったく普通なコート姿。
 だけど、そのコートの下には何も着ていなくて、コートの前を開いたらあっという間に街中で全裸。
 そのことを知っているのは自分だけで、それに気がついて欲しいような、欲しくないような。
 もしも何かの拍子でバレちゃったら、言い訳も逃げ場所もまったく無い、自分自身のヘンタイさゆえの自業自得。
 それはまさに、私みたいな性癖にはうってつけの、秘め事っぽい背徳感あふれる魅力的なひとり遊び。
 加えて、一番ポピュラーな屋外露出遊びなのだから、一度はやってみなきゃ、っていう羞恥願望マゾとしての義務感、みたいなものもありました。

 実際、裸コートを実行することを決めて、いろいろ妄想をふくらませていくうちに、裸コートが単純に屋外羞恥プレイとして、私みたいなノーブラ外出さえも躊躇しちゃうレベルの臆病マゾにとって、理想的な要素を揃えていることに気がつきました。
 裸コートは、その行為の異常さに比べて、発覚するリスクはとても小さく、安全性の高いヘンタイ行為なんです。

 コートの生地はおしなべて厚めですから、ノーパンノーブラワンピースのときみたいに乳首が布地に浮いちゃう心配をする必要がありません。
 ボタンをきっちり留めれば、裾が風に大きくひるがえることもないし、万が一雨とかで濡れても透けちゃう心配も皆無。
 普通に歩いているだけなら、周囲からは絶対に、そんなことをしているなんてわからないはず。
 街中でこっそりいやらしい格好をしたい、という自分のヘンタイ欲求を満たしながらも、周りにバレちゃう可能性は限りなく低い。
 そんなハードルの低さが、臆病過ぎる私のマゾ性好奇心を、大いにくすぐりました。

 見せたがりのヘンタイマゾのクセして、バレちゃう心配が少ないからやりたい、なんて、なんだか矛盾していない?って思われるかもしれませんね。
 でも、今までにも何度か書いたことですが、私の露出羞恥願望は、性来の臆病さに加えて幼い日のトラウマゆえに、ややこしくひねくれているんです。
 誰でもいいから裸を見せたい、恥ずかしい姿を視て欲しい、みたいな単純なものではないのです。

 ややこしくしている最大の要因は、たとえば露出行為をするとしたら、それを視てもらう相手として、私の場合、男性の目は一切欲していないことでした。
 男性には視られたくないのです。
 もし、私のあられもない姿を偶然視た男性が劣情を催し、何かしてきたら・・・
 それを考えると、どんなに激しいムラムラも、冷たいお水を浴びせ掛けられたようにへなへなと萎んでしまいます。
 男性からの好色を帯びた注目は、想像するだけでも、私にとって恐怖以外のなにものでもありませんでした。

 もちろん、誰かに恥ずかしい姿を視てもらいたい、という願望は大いにあります。
 ただし私の場合、そのお相手は同性限定。
 だけど実際、街に出れば老若男女さまざまな無数の目があります。
 その中から男性だけシャットアウトするなんて到底不可能。
 だから、裸コートでよくある展開、道行く人たちの前でバッとコートの前を開き、見知らぬ人たちに恥ずかしい格好を晒しちゃう、みたいなことは絶対出来ないし、やるつもりもありませんでした。

 たとえば、もしも傍らにパートナーがいるなら、もう少し大胆になれるでしょう。
 私の野外露出初体験だったやよい先生との遊びのときは、やよい先生やユマさんが傍にいつもいてくれたので、その安心感から人目もはばからず、ずいぶん過激なことも出来ました。
 夏にシーナさまとデパートを連れまわされたときも、いろんな人に恥ずかしい姿を視られてすっごくコーフンしちゃいました。
 でもそれが出来たのは、やよい先生やユマさん、シーナさまが周囲にいつも注意を払って、私のややこしい性癖にいろいろ気を遣ってくださったから。
 ひとり遊びでは、まったく状況が違います。

 なので、誰かに見せちゃう、という積極的な露出行為は、ひとり遊びのときにはやらない、と完全に割り切っていました。
 まったく人影の無いのを確認してチラッくらいがせいぜい。
 もっぱら、人知れずこっそり恥ずかしい格好や行為をすること、に徹していました。
 それだけでも充分満足出来ました。
 そんなメンドクサイ性癖を持つ私にとって、これからやろうとしている裸コートの安全性、は、とても頼もしく感じたのでした。

 そんなあれこれで、裸コートを実行することは決めたのですが、裸コートは季節を選びます。
 私が東京に来て、最初に裸コートに想いをめぐらせたのは、5月の始めでした。
 確かやよい先生のお家にお泊りで遊びに伺うちょっと前だったと思います。
 当然、コートの季節はとっくに終わっていましたし、次のコートのシーズンまでもずいぶんありました。
 それから、ひと月に一回くらい不意に思い出しては、いろいろ妄想しながらコートの季節の到来を心待ちにしていました。

 実行するのは秋。
 でも私は、秋用のコートは持っていませんでした。
 ウールのあったかコートが2着、カシミアも1着ありましたが、これらはどうみても秋口には早すぎます。
 春用のコートは色がピンクのと水色なので、これも秋にはちょっと。
 高校のときのスクールコートは秋に着てもおかしくない感じでしたが、襟に校章が付いてるし。
 あとはハーフコートやショートコート。
 必然的に、コートも新調する事にしました。

 ショップに秋物が出回り始めた9月上旬。
 私の裸コート計画が具体的に動き始めました。
 まずはコートの調達から。

 いろいろなコートの写真をネットで集め、どんなコートがいいか決めました。
 目立ちたくはないので、基本的にシンプルなどこにでもあるようなシルエットのコート。
 膝が隠れるくらいの長さでざっくりした感じ。
 形としては、ステンカラーかトレンチ。
 色は秋らしくシックな感じだけれど、出来れば春にも着れそうなの。
 そんなふうに決めて、学校帰りにいろいろとお店を回りました。

 9月の終わり頃。
 秋分は過ぎたけれど、お空にはまだ夏の名残がしぶとく居座っていて、コートを着るような雰囲気は微塵も無い秋晴れの日に、理想的なコートにめぐり会えました。
 場所は、高層ビルのふもとのファッションビル。
 学校の帰りにたまに寄って何度かお買い物もし、店員さんとも顔なじみになっているショップでした。

 明るめながらくすんだようなオリーブグリーン色のそのコートは、ステンカラーでストンとしたシルエット。
 シンプルなデザインだけれど、ポケットがふんわり可愛くてフェミニン。
 試しに着てみると、丈も理想通り。
 膝小僧がちょうど隠れるくらいの長さで、いい感じです。

「あら、今日はコートを探してるの?」
 顔なじみの店員のお姉さんが声をかけてきました。
「そのコートいいでしょ?あたしもお仕事別にして、一着買っちゃおうかなって思ってたんだ」
 なんて調子のいいことを言ってきます。
「色もシックだし、秋っぽいよね。それにライナーも付いているから真冬でも着れるし」
 ニコニコしながら盛んに勧めてくれます。

 私は、このお姉さん、私がこのコート着て恥ずかしい遊びをしようといているなんて、夢にも思っていないんだろうなあ、なんてはしたないことを思いながら、お姉さんの勧めるままにそのコートを買いました。
 一目見たときから、買うことは決めていたのですけどね。
 けっこう有名なブランド品だったので、お値段もそこそこしたのですが、すっごく嬉しい気持ちでいっぱいでした。

 お家に帰ると早速、お洋服をすべて脱ぎ捨てて、素肌にコートを羽織りました。
 前ボタンは全部で5つ。
 前の布が二重になっていてボタンが隠れちゃうフライフロントなので、ボタンとボタンの間から肌が覗けちゃう心配もまったくありません。
 一番上の喉元まで閉めちゃうと暑苦しい感じなので、一番上のボタンだけはずします。
 鎖骨がわずかに覗く感じ。
 胸元の布が浮いても僅かなので中は覗けないし、尖っている乳首もぜんぜんわかりません。
 鏡に映った自分のコート姿には、どこから見たって、この下が全裸だと思わせるような手掛かりはありませんでした。
 これで準備はバッチリです。

 そうだ、裸コートをしたら、この姿でさっきのお姉さんのところへお買い物に行ってみようかな・・・
 裸コートで繁華街を歩き、たくさんの人たちが行き来するファッションビルで、何食わぬ顔をしてお買い物している自分。
 そんな姿を想像するだけで、心臓がワクワクドキドキ高鳴ってきます。
 早くもっと涼しくなればいいのにな・・・
 コートを着ても不自然ではないくらいの気候になる日は、もうすぐでした。


コートを脱いで昼食を 02