2013年8月16日

コートを脱いで昼食を 03

 いっそのこと、ここでレオタードを脱いでしまおうか?
 さっきまでの不安はどこへやら、大胆過ぎる誘惑が私をそそのかします。

 コートのボタンを全部はずして、脱いで、レオタードの両ショルダーをずらして、足元まで一気にずり下げて両脚から抜いて、再びコートを着てボタンをはめるだけ。
 大急ぎでやれば30秒もかからないはず。
 40秒で支度しな。
 大好きなアニメの、そんな台詞がふと頭をよぎり、クスッとひとり笑ってしまいました。

 ふたつはずしたコートのボタンは直さず、胸元を押さえながらひねっていたからだを戻し、路地のほうをうかがいました。
 ブチネコさんは、相変わらず同じ場所に丸まっていました。
 私がそちらに顔を向けた途端、つむっていた両目が開きました。
 トクベツに、キミにだけ見せてあげよっか?
 ベンチに腰掛けたまま、左手が知らず知らずのうちにコートの3つ目のボタンをまさぐっています。
 って、私ってば、本気でやる気なの!?

 そのとき、私の視界の右端に何か動くものを捉えました。
 ドキンッ!
 私の上半身が大げさに跳ねて、はずみでベンチから立ち上がってしまいました。
 ブチネコさんもつられてお耳がピクン。

 路地の右側から現れたのは、自転車に乗ったおばさまでした。
 そのままスイーッと公園の前を通り過ぎて視界の外へ。
 私に気づいたのか気づかなかったか。
 いずれにしても、左手で胸元を押さえたまま立ち尽くす私の心臓は、爆発しそうにドクンドクン。
 そうしているあいだにもうひとり、別の自転車おばさまが今度は逆方向からフラフラと通り過ぎて行きました。
 そちらに顔を向けた瞬間、今度はバッチリ、そのおばさまと目が合っちゃいました。

 私が路地に背中を向けてコートの中を覗き込んでいるあいだも、ひょっとしたら何人かが背後を通り過ぎたのかも・・・
 いくら人通りが少ないとは言え、ここも一応天下の往来です。
 こんなところで、たとえ一瞬でも、全裸になるのはやっぱり危険過ぎる。
 今は、フォローしてくれるパートナーもいない、完全なひとり遊びなのだから。
 よみがえった理性が、復活したてで突っ走りだがるムラムラを懸命になだめ、妥協案をひねり出しました。

 いったんお家に戻り、今度はちゃんと裸コートになってお散歩続行。
 まだお家を出てから30分も経っていません。
 仕切り直して再チャレンジする時間は、まだまだ充分にありました。
 そうと決まればまっしぐらです。
 ブチネコさんに、ちょと待っててね、と声をかけてから胸ボタンを直し、一目散にお家へ急ぎました。

 公園を出て5分もしないうちに、マンションの自分のフロアの玄関ドア前に立っていました。
 さあ早く、このジャマなレオタードを脱いでしまおう。
 そう思いながらドアを開けようとしたとき、唐突に思い出しました。

 私は今、復活したムラムラ期真っ最中。
 私がムラムラ期のときは、夏休み中の全裸家政婦生活のときに自分に課したルール=室内では着衣禁止、が適応されなければなりません。
 その後いろいろ考えて、とにかくお部屋内では下半身は常に裸が最低条件、と一部ルール改正はありましたが、いずれにせよお部屋に上がる前には一度、全裸にならなくてはならないきまりでした。
 それどころか、夏休み後に最初のムラムラ期が訪れたとき、ふと気がついたことがあって、より大胆なルール変更もしていました。

 私が住んでいるマンションは、8階建てでワンフロアにつき一世帯だけ入居しています。
 エレベーターは、基本的に居住者だけが持っているキーにより、その居住者の階と1階でしか開かず、宅配便や郵便配達の人も1階の管理人室までしか立ち入り出来ないシステム。
 つまりエレベーターが自分のフロアに着いて降りたときから、そこは私だけの空間になるのです。
 そのことに気がついて、それからは自室の玄関前の通路で、すでに全裸になっていなくてはいけないという、より破廉恥なルールに変わっていました。

 いっそのことエレベーターに乗り込んだときから、とも思ったのですが、エレベーターの中には監視カメラが付いていることを思い出し、すぐにあきらめました。
 管理人室には、そのカメラからの映像が映るモニターがあること、誰かが乗って動き出したとき自動的に録画が始まるしくみなことも、管理人さんである柏木のおばさまからお聞きしていました。
「不審者とか、何かアクシデントがあったらすぐ、駆けつけてあげるからね」
 最初のご挨拶のとき、おばさまが頼もしく、そうおっしゃってくださったっけ。

 自室のフロアに着いてエレベーターを降り、エレベーターの扉がピタリと閉まったときから、お洋服を脱ぎ始めます。
 エレベーターホールから玄関ドアまで6~7メートルくらい。
 クリーム色の壁の上のほうに、明かり取りのために直径50センチくらいの丸いガラス窓が等間隔でいくつもはめ込まれていて、そこからお空が覗けています。
 そんな中をドアまでゆっくり歩きながら、着衣のボタンをはずしたり、ジッパーを下げたり、靴を脱いだりのひとりストリップ。
 玄関ドアに鍵を差し込むときは、下着まで全部脱いだ状態になっていなければならないのです。

 こういった、私がムラムラ期になったときに従わなければならない自分で課した一連のルール、この他にもいくつかあるのですが、それは追ってご説明出来る機会があると思います、を、私はシンプルに、マゾの服従ルール、と呼んでいました。

 いくら人が来ないことがわかっていると言っても、お家の玄関内で脱ぐのとドアの外の通路とでは、ドキドキ加減がぜんぜん違います。
 もし誰かこのフロアに降り立つとしたら、それは管理人である柏木のおばさまだけ。
 たまにモップ片手にエレベーターホールと通路のお掃除をされているのに出くわしたことがありました。
 あとは、たぶんありえないとは思いますが、おばさまの監視の目をかいくぐった不審者の人。
 なので、おおむね安全ではあるのだけれど100パーセントでは無く、もしも万が一、上記の人たちに見られてしまったら、それこそ取り返しのつかないことになってしまうという自虐的なスリルが、私の被虐心を大いにくすぐりました。

 通路で全裸にならなければならない、とマゾの服従ルールを改定した数日後に、こんなことがありました。

 全裸家政婦生活以来、ムラムラ期に学校へ行くときは、ノーパンジーンズが定番になりつつありました。
 その上からワンピースやチュニックを着て、前ジッパー全開にしてみたり、大胆にウエストのボタンまではずした状態でお教室移動してみたり。
 それ以前にも、ムラムラが強くてどうしてもガマン出来ないとき、講義中で出入りが少ないであろう時間帯におトイレにこもり、お洋服を下着まで全部脱いで、意味も無く全裸で佇んだり、とかのえっちな遊びはしていたのですが、ノーパンジーンズにしてからは、よりお手軽に、ひそやかな自虐羞恥プレイをキャンパス内でも出来るようになっていました。
 
 そんなノーパンジーンズ姿でお家に帰ってきたとき、うっかりブーツとかを履いていると、脱ぐのにかなり手間取ってしまうこともわかりました。
 靴を履いたままジーンズを脱ぐのはまず不可能ですから、先に靴を脱ぐことになります。
 パンプスやスニーカーならささっと脱げるけれど、ブーツはけっこうめんどくさい。
 レースアップブーツだったりすると、とくに時間がかかっちゃいます。

 その日は編み上げの、履くのも脱ぐのもややこしいハーフブーツを履いて登校しました。
 わざとでした。
 通路での全裸は、それまですでに3回ほどやっていて、とくに不安になる要素も無かったので、その日は、よりいやらしく時間をかけて脱いでみよう、と思っていたからです。
 朝、学校に行く前から、帰ってきて通路でストリップをするときのことを考えて、ややこしいブーツを選ぶなんて、我ながら呆れちゃうほどヘンタイだな、とは思います。

 夕方6時過ぎに、学校から我が家のエレベーターホールへ舞い戻りました。
 ムラムラ期真っ最中ですから、これから明日の朝までは、マゾの服従ルールに従わなければなりません。
 玄関ドアに向かいながら、チュニックブラウスの前ボタンをはずし始めました。

 それまでの通路ストリップは、まず靴なりブーツを脱いでからジーンズを脱ぎ、下半身裸になった後、上半身を脱いでいました。
 その日は、玄関ドアの前でまず、上半身を全部脱ぎました。
 チュニックブラウスを脱いでブラジャーをはずして。
 上半身裸、おっぱい丸出しになった後、ジーンズを膝の上くらいまでずり下げました。
 これでお尻もアソコも丸出し。
 それからその場にしゃがみ込み、ブーツの紐を解き始めます。

 中途半端な脱ぎかけジーンズ。
 こういうのも、半裸、って呼ぶのかしら?
 でもおっぱいもお尻もアソコも丸出しで、隠れているのは膝から下だけなんだから、四分の三裸くらいかな。
 
 和式のおトイレで用を足すときみたくしゃがみ込むと、裸の左腿の上に乗っかるように左おっぱいが擦りつけられ、腿の体温がおっぱいに伝わり、誰かに愛撫されているみたいに感じてきてしまい、乳首が痛いほど尖って益々敏感になってきちゃいます。
 マンションの通路で、こんな格好になってブーツを脱ごうとしている女なんて、世界中で私だけだろうな。
 自分がしている異常な行為を、客観視して羞恥心を煽っていると、どんどん性的に昂ぶってきます。
 しゃがんだ両膝が次第に開き、両脚が交わる付け根からポタリポタリと恥ずかしい雫が滴り、通路に小さな水溜りを作ります。
 こんな姿、誰かに視られたら、どれだけ軽蔑されることでしょう。

 時間をかけて愉しもうと思って選んだ編み上げブーツなのですが、なかなか脱げないもどかしさ。
 早くすっきり全裸になってお部屋に入りたい。
 自宅前の通路にこんな中途半端にいやらしい格好で長い時間いればいるほど、予想外のアクシデントに見舞われるリスクが高まるのに、それを許してくれないイジワルなブーツの靴紐。
 ああん、お願い、早く脱げて・・・
 裸のお尻の下の水溜りが、じわじわと大きくなっていきました。

 ようやく左足からブーツが取り除かれ、残るは右足。
 この時点で5分以上、両膝までジーンズをずり下げた四分の三裸で、マンションの通路にうずくまっている私。
 明るい蛍光灯、見慣れたクリーム色の壁、柏木のおばさまが生けてくれたのであろうドア脇の棚に花瓶のホトトギス。
 明かり取りの窓から、少し欠けたお月様が薄闇に浮かぶ様子がちょうど覗けていました。
 いっそここで、ツヤツヤ光るおマメをちょこっといたぶって、軽くイっちゃおうか・・・
 日常的な場所での非日常的行為に、めちゃくちゃ発情していました。

 そのとき。
 背後でくぐもった音がしました。
 ヴォン、っていう感じ。
 つづいて低いヴーンっていう持続音。
「あっ!」
 思わず声をあげてしまった私はあっさりパニック状態。
 これはエレベーターが動いた音です。
 私が降りて、待機していた4階から、誰かを迎えに下へと降りていったのでしょう。

 どうしよう!?
 私が通路ストリップを始めてから、それをしているあいだにエレベーターが動いたのは初めてのことでした。
 落ち着いて、落ち着いて・・・
 普通に考えれば、他の階の人が帰宅されて、ご自分のフロアに行こうとしているだけでしょう?
 だけどもし、柏木のおばさまだったら・・・
 でも、おばさまがお掃除されるのは、いつも午前中かお昼過ぎだったじゃない?こんな夕方にはされないんじゃない?
 でもでもでも、万が一・・・

 心の中は千々に乱れ、そうしているあいだにもエレベーターは動きつづけ、やがてしばしの沈黙。
 どうしよう、どうしよう・・・
 再びヴォンという鈍い音。
 1階から上昇を開始したようでした。

 結局、エレベーターが上昇を開始したと思った瞬間、ドアノブに跳びつき、焦る右手でなんとか鍵を差し込み、玄関内にからだだけ転げ込んでドアを閉じました。
 脱ぎ散らかしたお洋服や片方のブーツと持っていた荷物はすべて、通路に置き去りでした。

 靴脱ぎに横座りになり、はあはあと荒い息を吐きながらもドアに耳を当ててすませます。
 エレベーターの音は、聞こえなくなっていました。
 私のフロアでエレベーターの扉が開いたような気配もありません。
 そのまま2分くらい待ってから、玄関ドアをそーっと開けてみました。

 通路には片方だけのハーフブーツとトートバッグが転がり、脱ぎ捨てた淡いオレンジ色のチュニックブラウスの上に、ピンクのブラジャーが所在なげに乗っていました。
 それらを拾い集めて玄関内に回収した後、念のためと思い、エレベーターホールまで行ってみました。
 上半身は裸、ジーンズも下げたまま、左足は裸足、右足にはブーツの姿でひょこひょこ歩いていきました。

 エレベーターの表示は、6階が点灯していました。
 なんだ、やっぱり6階の人が帰ってきただけだった。
 心底ホッとすると同時に、ムラムラが盛大にぶり返してきました。
 玄関内に戻ると同時に、自分のアソコに指を突き立てていました。

 もしも本当に柏木のおばさまだったら、どうする気だったの?
 自分だけ玄関に隠れても、通路があんな状態じゃバレバレじゃない?
 ブラまで出しっぱなしだし、あんな水溜りまで作って、なんて言い訳するつもりだったのよ?
 まったくどうしようもないヘンタイ女なんだから!

 そんなふうに自分を責め立てながら、からだ中をめちゃめちゃにまさぐり、玄関先で大きな声をあげながら何度も何度もイったのでした。

 ごめんなさい。
 お話しが脇道に大きく反れちゃいました。
 えっとつまり、私にムラムラ期が戻ったので、マゾの服従ルールに従わなければいけない、ということを、そのとき思い出したのでした。


コートを脱いで昼食を 04


2 件のコメント:

  1. 毎週このサイトの更新を楽しみにしています。
    JUMPよりも。

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  2. 匿名さま

    コメントありがとうございます。
    楽しみにしていただいているとのこと、とても嬉しいです。

    最低でもひと月に4話は、お話を進めたいと思っています。
    またお時間のあるときに、覗きにいらしてくださいね。

    直子

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