2021年5月30日

肌色休暇一日目~幕開け 17

 「空腹は最上の調味料、とか言うけれど、夕食前に体力使わせ過ぎよね」

 半身捻られ後ずさりでの上がり階段というご無理な体勢は、さすがのお姉さまでもお辛かったようで、ンーッと背伸びされ腰を伸ばされました。
 撮影は再度広場に出るまで中断されるおつもりなのでしょう、ビデオカメラを私に向け直すこともせず踵を返されるお姉さま。
 それなら広場へ戻るあいだだけでもお姉さまと並んで歩きたいなと、私も開かずのドアに背中を向けたとき…

「あぁ~んっ、あっ、あんっ、んふうっ、いぃっ、あぁーんっ、んぅふぅぅぅー…」

 そういった種類の行為に専念していればどうしても零れ出てしまう、艶っぽい女性の切なげなため息が夕暮れの風に乗って聞こえてきました。
 そう言えば来るときも、ドアの向こうのお廊下でこの手のお声を洩れ聞きました。
 
 あのときはお部屋の壁越しに耳を澄ませて微かに漏れ聞こえくるようなボリュームでしたが、今はもっと生々しいライブな感じ。
 該当するお部屋からは今のほうが距離もあるはずなのに。

「呆れたっ、まだヤッてるの!?」

 心底呆れられてる、というお気持ちがよくわかる大きめなお声とともに、一歩先に進まれていたお姉さまも立ち止まられます。
 呆れた、とおっしゃるなら今の私の格好も相当のものなのですけれど。

「あれから何時間経っているのよ?まさかずっとなのかしら?だとしたらこのオンナ、まさに盛りのついた牝ライオンそのものね」

 お姉さまのお喩えには今ひとつピンときませんが、私も唖然とはしています。
 そして、不思議そうなご表情を浮かべられるお姉さま。

「でも変じゃない?来るとき廊下で聞いたときよりもずいぶんと生々しく聞こえない?」

 私と同じ疑問を抱かれるお姉さま。
 そうなんです。

 あのお部屋はお外へのドアからも数メートル離れたお部屋でしたし、壁越しのお声も耳をそばだてなければ聞こえないくらい微かなものだったはず…
 あらためて記憶を反芻するだけの私とお姉さまが違うところは、お姉さまはすぐにお答えを導き出すことがお出来になられるところ。

「わかった!部屋付きの露天風呂でシているのよ、一緒に水が跳ねるピチャピチャする音も聞こえない?うわー、外でシてると屋外でこんなに聞こえちゃうんだ」
「まわりが森でシンとしているから、この手の声は余計通っちゃうのかな。なんかオトコのンッンッていう低い唸り声みたいのまで聞こえない?」

「たぶん、あたしがドアをガチャガチャしていたときは、向こうも人の気配に感づいて息を潜めたのよ」
「でも、ほら、近くに誰か来たぞ、かなんかオトコが相手の羞恥心煽って、ふたりとも堪えきれなくなってまた始めたんじゃないかな」
「仕事とは言え、連日あちこちでこんな調子だったら、そりゃあ女将さんや仲居さんたちがエロに諦観しちゃうのも無理ないわよね?」

「着いてすぐ入ったあたしたちの部屋の露天風呂や、さっきの大露天風呂でも、直子のいやらしい声が周りに想像以上に響いていたんじゃない?」
「あっ、でもあたしたちの部屋のは裏庭に面していたんだっけ。でもきっと大露天風呂でのオナニーショーのほうはきっと、この辺りまで筒抜けだったわよね?」

 からかうように愉しげにおっしゃるお姉さま。
 そのご主張に対するお応えは、でもさっきの大露天風呂ではその後、お姉さまだってご遠慮なしに可愛らしく喘いでいらしたんですよーっ、です。

 どなたかの悩ましいお声は、木々のトンネルを引き返そうとドアから数メートル離れ、でもやっぱり気になってしまい立ち止まった今でも、緩やかな風に乗ってボリュームは下がりましたが明瞭に聞こえています。
 ゴール間近なのか、あっあっ、というリズミカルな吐息のBPMがどんどん上がり、いくぅ、いっちゃふぅーんっ、あっあーーんっ!という断末魔のような悲鳴の後、唐突にシンと静まり返りました。

 すぐにパチャパチャという派手な水音。
 今、私たちのすぐそばで、見知らぬ男女がセックスし終えたんだ…
 私の心臓はドッキドキ。
 
 お姉さまが不意に、何も聞かなかったかのように再び歩き始めます。

「あのアルト気味な声音からしてあの部屋のカップルは、さっきコンパニオンの子たちが言っていた、オンナのほうが遥か歳上な年齢差カップルだわね」
「要求に応えつづけるのもツライだろうに、オトコにも頑張れるだけの気力も体力もあるみたいだし、きっと相手のおばさまでDT卒業させられてヤリたい盛りがイキオイづいちゃったサル男子大学生ってとこかしら」

「知ってる?ライオンやトラの牝って発情期は執拗に数日間も、相手に交尾をおねだりしつづけるんだって。まさに牝ネコビッチ状態」
「なんだかドマゾモードに嵌っちゃったときの直子とも重ならない?」

 どうしてそんな下ネタ雑学にお詳しいのかは謎ですが、ご好奇心旺盛で博識なお姉さまですから、きっとその通りなのでしょう。
 空腹と無駄足でやさぐれ気味だったお姉さまに、いつものご様子がお戻りになられたことが嬉しいです。
 逆戻りとなってしまったトンネル階段を再度下りつつ、お姉さまがしきりに語りかけてくださいます。

「あーあ、あたしの脳内予想、半分外れちゃった」
「さっき直子に下の道行こうかって誘ったとき、地上から行けば確実に正面玄関から入ることになるな、って思ったの。フロント通れば確実に誰か人が居るはずだなって」
「それが男性だったとしても、従業員なら我慢し切れずに直子に襲いかかるようなことも無いだろうし、面白い映像が撮れそうだなって」

 私がそのとき、提示された選択と現状に取り乱した逡巡なんて、すっかりお見通しだったお姉さま。

「でも一方で、女将さん側はいくらなんでも今のあたしたちを旅荘の表玄関たるフロントは通らせたくないはず、とも思えたのよ」

 お姉さまの右手が私の剥き出しな右肩にやんわり掛かります。
 肩を抱かれたま横並びで歩きつつ、お姉さまからのご説明。

「万人を相手にする客商売、人気商売なんだから宿泊客に限らず、出入りの業者とか下見客が来たり取材だったり、いつ何どきどんな人が訪れても不思議は無いし」
「もしたまたま、その手の耐性皆無のメンドクサそうな常識人が今の直子と鉢合わせしたら、絶対ひと悶着起こるのは火を見るより明らかでしょ?」

「今の直子のその格好って、公序良俗を嘲笑っているような破廉恥とインモラルの極地だし、万が一のクレーム、今の時代SNS投稿とかお手軽だしさ、そうされたときに旅荘側が被るデメリット、イメージダウンは相当だろうなって」
「女将さんはその辺、しっかり見極められているはずだし、あたしたちだって、自分たちの快楽だけのためにご商売の足を引っ張っちゃうのはイヤじゃない」

「あたしたちの挙動をGPSで逐一チェックしているなら、庭側ルートを選んだら正面玄関まで進む前に大急ぎで誰かが足止めに来るだろうなって思ったのよ。もちろんシレッと直子の浴衣持参でね」
「それで、来たときと同じルートで戻るほうが余計なお手数も掛けずに済んで無難かな、って思っちゃったのよ」

 お姉さまのご説明に、なるほど確かにおっしゃる通り、と顎とおっぱいでいちいち頷いているあいだに、三たび開けた広場部分に舞い戻っていました。

「さてと、ここからは生おっぱい見せびらかしイベントの正解ルート。ここからは絶対に何が起きてもバストを隠してはダメだからね」
「女将さんがせっかくそれほど危ない橋を渡る決定をしてくださったのだから、直子もそれ相応の覚悟を決めないと失礼よね?」

「…はい…」

 自分の胸元に視線を落とすと、宙を衝くように尖りきったふたつの乳首の目に余るほどの存在感。
 こんな恥ずかし過ぎる恰好なのに、いやらしく感じてしまっていることが一目瞭然です。

 再びハンディビデオカメラを構えられ、レンズを私へと向けられるお姉さま。
 周囲の薄暗さゆえか、ビデオカメラの録画中を告げるランプがやけに目立って視界に飛び込んできます。
 
 これから向かうお散歩道にも、要所要所に常夜灯らしき外灯が煌々と灯っています。
 おそらく建物の窓から覗けば、目立つ光に自然と目が行き、その下を歩く人物が着衣か裸かはわかるくらいに明るく。

 お姉さまが再び、半身捻られた後ずさりな撮影体勢になられていますから、どうしたってゴールまでの歩みはのろくなってしまいます。
 金輪際おっぱいを隠すことを禁じられた私は、丸出しで熱を持つ乳頭を夕暮れの生温い風に愛撫されながら、ゆっくりと砂利道を進みます。

 一足踏み出すたびにプルンプルン震えてしまう、生おっぱい。
 首筋以下が汗ばんでいるのは残暑のせいだけではありません。

 汗の粒に外灯の光が反射して、日焼けの茶と日焼け残りの白さ、乳暈のピンクとの卑猥なコントラストをよりキラキラ目立たせているよう。
 自分で踏みしめているジャリジャリと鳴る足音さえ、ほら、ヘンタイ露出狂女が恥ずかし過ぎる格好を晒してのろのろ歩いているよ、と知らしめるアピール効果音のように聞こえてしまいます。

 普通に歩いていたならそのお見事さに思わず足を止めてしまいそうな、隅々までお手入れの行き届いた美しい日本庭園。
 白、黄色、薄紫、淡いピンク…色とりどりな草花さまたちが可憐に咲き誇っていらっしゃいます。
 私はと言えば、この美しいお散歩道を早く駆け抜けてしまいたいような、抜けきってしまうのが怖いような…

 結局、道中どなたともご遭遇しませんでした。
 なにぶん、外灯の光が届かない場所は薄暗闇でしたから、私が気づけなかっただけで木陰や物陰にどなたかの視線があったのか、階上を含めた窓から眺めていたかたがいらっしゃたのかはわかりませんが。

 そうこうして辿り着いてしまった正面玄関石畳は、居並ぶ常夜灯が広く明るく照らし出す昼間並みに明るい空間。
 数メートル先で、こちらも明るく照らし出されている、乗ってきたマイクロバスを含めた数台の自動車が整然と駐車している駐車場の佇まいからも、この施設は普通に平穏平和な営みを日々暮らされている公衆の場なのだと、あらためて思い知らされます。

 そんな場所で私は、現行犯の公然わいせつ痴女…
 これから確実に自分の身に降りかかるであろう、屈辱、侮蔑、嘲笑…
 かろうじて少しだけ残っていた理性が示唆する罪悪感もあっさり被虐願望に飲み込まれ、自分を辱めの渦中へ追い込もうとしている自虐の興奮に、マゾマンコがジンジン痺れてきます。

 正面玄関前からあらためて仰ぎ見る建物の立派さ。
 このくらいの規模の旅荘だと、一体何名くらいの方々が働いていらっしゃるのでしょう。

 お出迎えしてくださったときは、女将さまと運転手さまの他に女性3名と男性2名がこの場所に並ばれていました。
 でも総勢7名さまだけできりもりされているとは、規模から言って考えられません。
 お料理を作られる方々やお庭や調度品をお手入れされるかたなどおられるでしょうし、仲居さまだってお出迎えの3名さまだけでは無いはずです。

 一般的に温泉旅館の場合、お食事は和食が主。
 和食の厨房で働かれる方々はとくに男性の場合が多いようですから、いくら宿泊客さまに男性が少ないと言っても、館内でそういった男性と遭遇しちゃうことは充分ありえます。

 館内では今まで、女性である仲居さまたちばかりをお見かけしていたのですっかり油断していましたが、館内に入れば見知らぬ従業員男性と遭遇する確率も格段に上がる、ということに気がついてしまい、あらためて緊張度が高まります。

 隠すことは断固禁じられていますから、歩くたびにプルンプルン揺れるおっぱいはそのままに、お姉さまが向けてくださっているレンズをドキドキ追いつづけます。
 
 やがて後ずさりなお姉さまが正面玄関ドア前まで達せられたとき、ドアの素通しガラス部分の向こう側にどなたかのお姿がハッキリ見えました。
 怖いのに思わず目を凝らしてしまう私。
 
 キサラギさまではない、初めてお目にかかると思うお若そうな仲居さま。
 そのかたも私たちの姿を認められたらしく一瞬、ギョッとたじろがれたお顔を、とくに私に向けてお見せになりました。

 不意の第三者からの視線に咄嗟の条件反射でおっぱいを庇おうとしてしまう私。
 おっぱいの前を両腕が遮るような遮れ切れないような中途半端な防御姿勢…
 お姉さまのおからだをセンサーが察知したようで、スーッと開く自動ドア。

「お帰りなさいませー」

 それでもその仲居さまは、一瞬のご判断で状況を把握されたらしく、あらためてにこやかなお作り笑顔に豹変なさり、お元気良い明るいお声でお出迎えしてくださいます。
 深々とお下げになった黒髪はポニーテールに結んでおられます。

「お草履はこちらでお履き捨ていただき、お部屋履きに履き替えてくださいませ。新しいお草履が順次お部屋にご用意してありますので」

 こんな破廉恥極まる格好の私にも、御愛想の良い笑みを浮かべられ、お親しげなご対応をしてくださる仲居さま。
 スリッパを二足分、私たちの足元に揃えてくださいます。

 三和土からそっと中を覗くと、ロビーと言うか大広間に新たな人影は見えません。
 お姉さまがおっしゃっていたように、この時間帯の仲居さまがたはお夕食のご配膳でお忙しいのでしょう。

「ありがとう」

 一たんカメラをお下げになったお姉さまもお愛想良くお答えになられ、お草履を脱がれスリッパに履き替えられます。
 履き替えられてから私のほうをわざとらしくなく見遣り、まだ中途半端に胸の辺りを庇っている私の左腕を軽くつつかれました。

 ビクッと硬直し視線を向ける私を細めた目で見つめられ、わからないくらいに微かに、お顔を左右に振られます。
 おっぱいを隠すな、というご警告です。

 ポニーテールの仲居さまは、私たちより一メートルちょっとくらい離れた右側にしりぞかれ、飲食店の看板等でよく見かける、いらっしゃいませ、のポーズで、私たちの挙動を上目遣いに見守っていらっしゃいます。
 お姉さまからご警告を受けてしまった私は、胸の前で揉み手しているみたいになっていた両手を、なるべく不自然に見えないように左右にダランと下げました。
 
 自分でも赤面してしまうくらい、熱を帯びて濃いピンク色に充血した両乳首があからさまにそそり勃っています。
 その持ち主が性的興奮を催していることは、どなたの目にも明々白々。

 おっぱい、乳首、視られてる…
 恥ずかしい…
 でも…なのに…あぁんっ、気持ちいい…
 
 スリッパに履き替えて板の間に上がってから、お姉さまが再びビデオカメラのレンズを私に向けてこられます。
 チラッと盗み見たポニーテールの仲居さまも、相変わらず上目遣いの好奇爛々な瞳で見守っていらっしゃるご様子。
 思い切って仲居さまと目を合わせてみようか…
 
 そんな大胆な考えが思い浮かんだそのとき…

「あ、あのお客様…恐れ入りますが館内でのご撮影はご遠慮いただいているのですが…」

 仲居さまとは逆方向、私から見て左側から、ずいぶん慌てたようなガタガタンという物音の直後、どなたかのかしこまったような良く通るお声が聞こえてきました。
 突然浴びせかけられた軽い叱責を帯びたお言葉にビクンと震えて反射的に目線がそちらへ向きます。

 左側はフロントカウンター。
 最初にここを通ったとき、フロントと言うよりお帳場と呼ぶほうがしっくりくるな、と思ったフロントの中からでした。

 そして、耳にした少しソプラノ気味に上ずられたお声は、上ずられながらもどう聞いても男性のお声。
 そちらを仰ぎ見た私の視界に、濃紺のスーツ姿で、これまでこちらでお目にかかった男性の方々よりかなりお若そうな黒縁眼鏡の男性が、他のホテルとかのフロントでもよく見る、取り澄まされたご表情でカウンター越しに私たちのほうを向かれていました。

 えっ!?男性!?初めて拝見するお顔!?それでとうとう叱られちゃった!?
 一瞬にしてパニクってしまう私のお豆腐メンタル。
 お姉さまさえ、想定外、みたいなお顔で憮然とされています。

「え、えっと…どちらのお部屋のお客様でしたでしょうか?…」
「館内の規則は最初にご説明差し上げたはずなのですけれど…」
「と、とにかく、そのビデオカメラはお下げくださいませんと…」

 最初はお姉さまの半身捻られ後ずさりなお背中しか、その男性からは見えなかったのでしょう。
 お声に呼ばれて私が男性のほうを向いたときも、普通に接客用の笑顔を浮かべられていました。

 やがて私の破廉恥過ぎる姿に気づかれたのでしょう、一瞬えっ!?という驚愕されたお顔に変わり、ささっとお顔を背けられました。
 それでも、言うべきことは言わなければ、と思われたのか、慌てられた感じで背けたお顔を元に戻され、お言葉をつづけられました。

 最初の取り澄まされた口調から、どんどん気弱げになられていったフロント男性のご口調。
 二度目にこちらを向かれたときからずっと、今見ているものが信じられない、というご表情。

 その視線は頻繁に私に向けられ、剥き出しおっぱいを軸として私の顔と赤いおふんどしとを忙しなく行き来されます。
 動揺の色が濃かったそのまなざしが徐々に不埒な色合いへと侵食されているような…

 お姉さまが私にレンズを向けたまま立ち止まってしまわれたので、私もその場を動くことは出来ません。
 フロント男性のほぼ真正面に横向きで。
 先ほどお姉さまからご警告をいただいたばかりですから、おっぱいを隠すことも出来ません。

 あぁんっ、私の丸出しおっぱい、男性に視られてる…
 尖りきった乳首と赤いおふんどしをご熱心に交互に視てくる…
 横向きだから尖った乳首がより丸わかりなはず…
 男性の視線て女性のよりも、なんかねっとりしつこい感じ…
 いきなり襲われたりはしないよね?ここは旅荘のフロントなのだし…
 
 フロント男性からご遠慮がちに浴びせられる好色を帯びてきた視線に、少しの恐怖とそれを補って余りある羞じらいが全身を駆け巡っています。

「こちらのお客様は如月の間のおふたりっ!露天大浴場からお戻りになられたところっ!」
「ユタカっ、今朝の朝礼の女将さんからの通達事項、ちゃんと聞いていなかったのっ!?」
「団体様ドタキャンは出てしまったけれど、今日は末永くお付き合いくださりそうなお客様もいらしゃるから、心しておもてなししましょうって!」

 思いがけずフロント男性に反撃をしてくださったのは、ポニーテールの仲居さまでした。
 先ほどの御愛想良いご対応からは別人のように、幾分ヒステリックにもなられているご様子。
 そして、お姉さまのご推理がお見事に的中されたことを教えてくださった瞬間でもありました。

「そ、そうでございましたか…これは大変失礼をいたしてしまいました…」

 フロント男性が深々とお辞儀をくださいます。
 再びお顔をお上げになったフロント男性は、一転して嬉しそうに満面の笑顔。
 そういうことなら遠慮会釈無くじっくり拝見させていただきますよ、とでもおっしゃりたげな。

 駅前のお蕎麦屋さん去り際の一件が私の脳裏をかすめたそのとき…
 カウンター奥に掛かっている小豆色の暖簾がフワッと揺れて、女将さまがお顔を覗かせます。

「あらあら、ムツキさんも、お客様の前であまり大きな声を出すものではなくてよ」

 女将さまが悠然とされたお足取りで、フロント男性の左横に並ばれます。
 そのご登場のされかたが、何て言えばいいのか、わざとらし過ぎるくらいの自然さで、まるでテレビのホームドラマのワンシーンのよう。
 ひょっとして、本当にずっと暖簾の後ろに待機されていて、事の成り行きを見守りつつ、出番のタイミングを計られていたのかもしれません。

「ユタカさんがびっくりするのも無理ないのよ。彼は朝礼の後すぐに瀧川屋さんまでお使いに出て、さっき帰ってきたばかりだもの」
「ですのちゃんたちがご到着されたときもご挨拶していないから、その後のわたくしからの指示も聞いていないし、フロント業務もまだまだ見習い中ですしね」

 今度は女将さまに足止めをされる形で、私はまだフロントカウンター前から動けません。
 それをいいことに、すでにご遠慮が一切無くなられたフロント男性=ユタカさま?の両目が容赦なく舐めるように、私の全身を吟味されています。

 ユタカさま、というお名前で思い出されるのは、つい先々月、まだ夏の始めの頃にお姉さまの会社の先輩リンコさまからのご依頼で、リンコさまの甥っ子であるユタカさま他三名の小学生さまの前で淫らにくりひろげた、夏休み全裸女体研究観察会。
 
 あのときのいたいけな好奇に満ちた熱い視線さながらな、今現在眼前におられるユタカさまからの熱っぽい視姦で、あの日の記憶と現実が混ざり合い、私の被虐メーターが陶酔に振り切れそう。
 
 更に、女将さまにまで、ですのちゃん、呼びが浸透されていることも知り、この旅荘の方々全員から慰み者にされている気分です…


2021年5月22日

肌色休暇一日目~幕開け 16

 「あたしが着けてあげるから、こっちへいらっしゃい」

 空間に余裕のある鏡の前まで移動され、手招きされるお姉さま。
 全裸のままビクビク及び腰で従う私。

「脱衣所みたいな裸になる場所が鏡張りだと、なんだか照れくさいわよね」

 鏡に映ったご自分のお顔を覗き込まれ、その前髪をチョイチョイと弄りつつお姉さまがおっしゃいます。

「あ、でもそっか。直子はこういう部屋でのオナニー、大好物だったっけ」

 からかい口調でお姉さまがおっしゃるのは、私が住むマンションの一室、マジックミラー張りのサンルームのことです。
 夜になって室内の灯りを点けると三方のガラスがすべて鏡と化すサンルーム、通称お仕置き部屋。
 4階なので容易にお外からは覗けないのをいいことに、自分の恥ずかし過ぎる痴態をあらゆる角度に映しながら自虐的自慰行為に励む夜がままあるのは事実でした。

「鏡に向かって真っすぐ立って。足は少し開いて」

 ご自分は一歩下がられ、私を大きな鏡面のすぐ前へと誘導されます。
 スッピン素っ裸の自分の姿が、よく磨き込まれてピカピカな鏡面に等身大で鮮明に映っています。

 背後にはスッピンでも充分お美しく、浴衣姿も超絶お似合いな麗しのお姉さまのお姿。
 自然と両手が後頭部へ伸び、ご命令無しなのに自らすすんでマゾの服従ポーズとなってしまう私。

 真紅の布地の端から左右へと伸びている細い紐をそれぞれの手に持たれたお姉さまの両手が、背後から私のウエストを抱くように交差され、絞るみたいに少しきつめに巻きつかせた紐の両端を、おへその前くらいで蝶結びにされました。
 この時点では、赤い布はお尻側にダランと垂れ下がり、まだ丸出しな恥丘。

 お姉さまの手がお尻側に垂れ下がった布地を持たれ、尻たぶを隠すように股下を前方へとくぐらせて恥丘と下腹部を下から覆ってから、さっき作ったウエストの蝶結びと肌のあいだをくぐり抜かせます。
 まだ余っている長さ30センチに満たないくらいの真っ赤な長方形の布地が、もう一度下腹を覆って垂れ下がりました。

 お姉さまにされるがままになっているあいだ、ふと気づきました。
 これって股縄の縛り方とほぼ同じじゃない?…
 股縄するときは結び目でコブを作って気持ちいいところに当たるようにしたりするけれど…
 そんなことを考えていたら、キュンキュンヒクヒク、赤い布に覆われてしまった股間が疼いてきます。

「へー、かなりイケてるんじゃない?赤フン直子」

 鏡越しに私のおふんどし装着姿を、まじまじと見つめられるお姉さま。
 生まれて初めての自分のおふんどし姿は、何て言うか、すさまじい恥ずかしさ。

 下半身は完全に覆われ下着としての機能性は申し分ないのに、真っ赤というその派手すぎる色のせいか、却って下腹部を強調して注目させたがっているみたい。
 下腹部にハラリと垂れ下がっている前垂れ部分は、その下がちょうど性器部分ですし、ちょびっとめくってみたい、という衝動を思わせぶりに掻き立ててきます。

 鏡のおかげで自分の全身を客観的にも見れるので、おっぱい丸出しで真紅のおふんどし一丁なその姿が他の人からどう見えるのかも想像でき、どんどん恥ずかしさが増してきます。
 
 たとえばワンピースとかスーツとか普通の服装をしていて、何かの拍子で下着姿にならなければいけない場面があって脱いだらおふんどしだったら、見た人たちは面食らうだろうな…
 それで絶対、あの子ヘンタイだ、って噂されちゃうんだ…
 恥ずかしい、というキーワードでみるみる膨らんでしまう私の被虐妄想。

「いい、本当にいいわよ直子、直子と赤フンて相性バッチリ」

 背後からお姉さまの片手が私の肩に軽く置かれ、その手に導かれて私は回れ右をさせられました。
 至近距離で向き合ったお姉さまの瞳が、今度は生身の私のからだを上から下まで舐めるように見つめてきます。

「そう言えば、女子にふんどしを流行らせようとするステマみたいなのって、女性誌やネットでたまに見かけたわよね」
「ゴムの締め付けが無いとか通気性がいいとか、夜寝るときだけでも安眠効果抜群とか。実際に愛用しているって子には会ったこと無いけれど」

 最後の、無いけれど、をなんだか皮肉っぽくおっしゃったお姉さま。

「でも女子とふんどしの組み合わせって言ったら、やっぱりエロ絡みで推すべきよね?直子のその姿見て確信しちゃった」
「まず、そのミスマッチ感がいいわ」

 お姉さまってば、なんだかお仕事モード並に真剣なお顔つきになられています。
 お仕事で新作アイテムのサンプルが上がってきたとき、トルソーに着せてその改善点を吟味されているときのようにバストの下で両腕を組まれ、おふんどし姿の私の周囲を行きつ戻りつされつつ、ご自身の頭の中に渦巻くお考えの要点をおまとめになられているかのようにつぶやかれます。

「年頃の女子なら自分ではまず選ばない種類の下着だから、していたらそれは誰かに無理矢理着せられているのよ。命令とか脅迫とかされて」
「下着っていうことで、その着させている相手との関係が性的なものっていうことも、着せられている子がマゾ気質寄りってことも容易に想像出来ちゃう」

 私の下腹部に垂れる赤い布をピラピラめくったりしながら、お姉さまがつづけられます。

「あと構造のシンプルさゆえの、儚さ、っていうか、あやうさ、みたいなのもいいわよね」
「もちろんふんどし自体、使い勝手の良い実用性に富んだ優れた下着ではあるのだけれど」
「紐をスッと解いたらハラリと崩れて、大事な部分があっさり丸出しになってしまうところとか、一度解いたらただの一枚の布片になって、すぐには元通りに戻せないところとか」

 お姉さまの指が再び赤い前垂れをめくられたので、紐を解かれてしまわないかとハラハラする私。
 お尻の穴の少し手前部分の布地が早くもジワジワ濡れ始めているのを自分でわかっていましたから。

「まあ、中には自分で選んであえて日常的にしている子もいるかもしれないわね。まんまとステマに乗せられちゃった子は別としても、サブカル関係とは相性良さそうだし、厨二病女子が、特別な私、を演じたくてこっそりとか」

「そうだとしても、そのチョイスって、その子の深層心理下で欲している何らかの特殊性癖のあらわれだと思えない?だって、あえてのふんどしだよ?」
「あー、何か面白そうなビジョンが見えてきた。東京帰ったら早速ふんどしの研究しなくちゃ」

 お姉さまがおひとりで、思慮深げに大きく頷かれました。
 それから私の右肩を軽くポンと叩かれ、明るくおっしゃいます。

「さあ、それじゃあ部屋に戻ろっか?」

 ロッカーのところまで戻られてポシェットを取り出され、ロッカー内に他に何も残っていないことをご確認になり扉を閉じられます。
 テーブルの上にビデオカメラとポシェットとカッパさまこけし。
 お姉さまがビデオカメラとポシェットをお取りになり、こけしは直子が持ってって、とお声がけ。

 えっ!?
 ちょ、ちょっと…そんな…

「あ、あの、お姉さまっ!?」

 ドアのほうへと歩き出そうとされていたお姉さまを、思わず服従ポーズを崩して切羽詰まった声で呼び止めます。

「何よ?いきなり大声出して」

 ゆっくり振り向かれるお姉さま。
 両腕を胸の前でX字に組み、丸出しおっぱいを庇うようなポーズに変わった私。

「あの、上のほうは、わ、私の上半身、な、何か羽織るもの…とか…」

 振り向かれたときの不機嫌そうなお顔は、絶対わざと作られたお顔。

「ないわよ」

 素っ気なく吐き捨てられた後、ニンマリとイジワルい笑顔。

「あたし考えたのよ。これって女将さんからの大サービス。あたしたちに気分良く宿泊してもらおうっていう気持ちのこもったサプライズおもてなしなのじゃないかって」

 おふんどしについてご考察されていたときとは一転され、嬉々としたお顔てご自分のお考えをご説明くださるお姉さま。

「直子の浴衣は、汚れているからってキサラギさんが持っていっちゃったワケでしょ?で、代わりにその赤フンを置いていった」
「あたしたちは裸になって露天風呂に入るのだから、帰りに浴衣が無かったら困るのはわかりきっているはずよね?」

「でも、あれから二時間近く経った今も洗濯した直子の浴衣を戻しに来る気配が無い。もしもまだ乾いていないとかなら代替品でも戻すべきよね?」
「夕食の時間も近いのだから、あたしたちがそろそろ部屋に戻るであろう頃なのも、承知のはず」
「それはつまりそういうことなのよ」

 自分のおっぱいに密着させた腕に、ドキンドキンという自分の心臓の音を感じます。
 そんな私をご愉快そうに見つめつつ、お姉さまがつづけます。

「あたしはね、あたしたちの行動はある程度、旅荘側にモニターされていると思っているの。たぶんこのリストバンドにGPSか何か仕込んであるのね」
「だってタイミング良すぎたもの。部屋を出ていったん露天風呂まで直行して、途中で脱衣所に戻ったタイミングを見計らったみたいにキサラギさんが現われたんだよ?」
「まあ、ある程度宿泊客の行動を把握しておかないと、配膳とかアメニティの補充指示の都合とかがあるだろうからね。スマートにおもてなしするためには」

 そこで一呼吸置かれ、少しだけお声を潜められるお姉さま。

「あたしがね、これは女将さんたちの粋なふるまいだな、って確信を持てる事実があるの」
「それはね、あたしがここにひとりで来てロッカー開けたときは、ロッカーの中に湯浴み着もバスタオルもちゃんとふたり分用意されていたのよ」
「それが今見たら、それらも消えていて赤フンだけしか残っていなかった…」

 お姉さまが私をまっすぐに見つめ、その端正な頤を私へと突き出すように動かされました。
 服従ポーズのご合図です。

「未使用のバスタオルか湯浴み着がまだあれば、直子もそれを纏うとかして上半身も隠せるワケじゃない?だけどキサラギさんはそれをも持ち去ってしまった」
「それらのことから導かれる結論はひとつ、直子はトップレスで自由に旅荘内を歩いていい、っていうお墨付きが出た、ってことでいいんじゃない?」
「仲居さんだけの采配で出来ることじゃないから、つまり女将さんからの粋なプレゼントね。女将さん、直子のこと気に入ったぽかったし」

 後頭部に両手を添えておっぱいと両腋を全開にしている私を、お姉さまが何かまだ意味ありげに見つめてきます。
 その愉し気な瞳を見つめ返しながら、これから自分の身に起こることを考えてみます。

 赤フン一丁のおっぱい丸出しで、お部屋まで戻る…
 驚かれ、やがて好奇か憐憫か劣情か、いずれにしても侮蔑満点な見知らぬいくつもの視線に晒される…
 お姉さまの目の前で、両乳首にグングン血液が集まり全身がみるみる火照っていくのが死ぬほど恥ずかしい…

「たぶんそこの電話でフロントに連絡して、浴衣が無いんですけど、とか言えば、すぐに持ってきてくれるとは思うわ。遅れて申し訳ございません、とかシレッと謝りながら」
「でも、今は夕食時の配膳時間で仲居さんたちがてんてこまいだろうからお手数取らせるのは申し訳ないし、何よりそれだと優しい女将さんからのせっかくのご好意をないがしろにしちゃうことになるわよね?」
「見せたがり見られたがりな露出狂の直子がそんな無粋なこと、するわけないわよね?」

 ないわよね?と決めつけるようにおっしゃられたら、はい、ありません、とお答えするほかありません。
 その瞬間私の、赤フントップレス温泉旅荘館内引廻しの刑、が確定しました。

 他の宿泊客さまや従業員さまも往来していらっしゃる旅荘の敷地内を、真っ赤なおふんどし一枚のおっぱい丸出し姿で歩く…
 想像するだけで頭がクラクラ、頬がカッカと熱くなってきます。
 いくら女将さまのお許しが出ているとしても、そんな正しく公然わいせつそのものな行為を本当にやってしまって大丈夫なのでしょうか…

 到着したときも正面玄関で、かなり恥ずかしい着衣で従業員ご一同さまのご歓迎を受けました。
 それでもあのときは、前結びチビTと言えどもおっぱいはちゃんと布地に包まれていました。
 でも今回は、剥き出し、丸出し、トップレス…恥辱と背徳のレベルが格段に違います。

 ここまで来るときに辿った道順を思い出してみます。
 木々のトンネルは遮蔽物が多かったけれど、開けた場所では旅荘の母屋も見渡せたし、階下はお散歩道ぽくベンチも置いてあったような…
 
 館内に入ったら、明らかにお客様がご逗留されているお部屋はあったし、お廊下を仲居さまがたも行き来されていたような…
 つい数時間前のことなのに記憶が曖昧模糊ですが、とにかく、絶対どなたかに視られちゃう、とゾクゾクが止まりません。

「上半身何も無いないのも心細いだろうから、帰りは直子にこれを譲ってあげる」

 お姉さまが嬉しそうにハート型ポシェットを私の肩に掛けてくださいます。
 剥き出しの素肌にパイスラッシュ掛けで。
 素肌に白い紐状ストラップの斜めアクセントが入ったことで、却って余計に剥き出しおっぱいを目立たせている気がします。

「さあ、もう服従ポーズは解いていいから出かけましょう」

 おっしゃりながらビデオカメラレンズを向けてこられるお姉さま。
 こんな姿までもデジタルで残されてしまうんだ…
 赤いおふんどしにおっぱい丸出しな素肌パイスラで片手にこけしを握りしめている女性を目撃したら、そのかたは一体その女性のことを何と思われるのでしょうか…
 
 今の自分の姿の喩えようのない破廉恥さにクラクラしながら、お姉さまが開けられたドアをくぐれば、そこはもうお外。
 大自然の中、絵葉書みたいな黄昏時の綺麗過ぎる夕陽と、自分が今している格好とのそぐわなさに、露天風呂で全裸になったときのン十倍もの羞恥を感じています。

「ほらほら、せっかくの生おっぱい隠してちゃダメじゃない?直子は見せたがりやさんなんでしょ?」

 そのお言葉に、両腕X印でバストを庇っていた姿勢を渋々改めます。
 夕方の優しい風がバストトップを撫ぜていき、その愛撫のせいで乳首が乳暈もろともますます背伸びしてしまいます。

 レンズをこちらにお向けになるために半身捻られた後ずさり、みたいなご体勢で砂利道を進まれるお姉さま。
 自撮り棒持たせてセルフで撮影させればよかったかな…なんて愚痴をつぶやかれています。
 やがて二階へと繋がる木々のトンネルが始まる広場部分へと到着しました。

 二階への上り口前には、↑矢印二階・西側客室入口、の看板。
 その左側には、←矢印母屋正面玄関、という別の看板があり、敷地内のお庭を通るのでしょう、細かい砂利石を敷き詰めた小路が植え込みを左右にしてつづいているようです。

「ああ、こっちの地続きな道からでも建物に戻れるんだ。ねえ、帰りは下の道を通ってみよっか?」
「薄暗くなってきたし、お庭をお散歩している宿泊客なんてもういないんじゃないかな?」

 いたずらっぽくご提案くださるお姉さま。

「えっと、私たちが温泉に入っているあいだに新しく男性のお客様がたが大勢みえていらっしゃるかもしれませんし…」

 ご提案を思いとどまっていただきたくて、とっさに思いついた可能性をあわてて口にしました。
 お散歩道よりもその後に、どうしても回避したい最難関が待ち構えていることに気づいていたからです。

 だってもしも一階から戻るのなら…
 確かにもう薄暗くなってきていますし、お庭では何事も起こらなかったとしても、確実にもう照明が灯っているであろう玄関を通って明るいフロントを横切り、燦々と照明降り注ぐ階段を上がってお部屋まで辿り着かなければなりません。
 
 いくら宿泊客さま少なめと言えども、ご熱心に働いていらっしゃる従業員さまがたには、確実に多数目撃されてしまうでしょう。
 更に、本当に新しい宿泊客さまがたまでご到着されていたら…

 着いた途端に恥ずかしすぎる着衣を従業員さまがたに晒してしまった私でしたが、今の私は、それを充分上書きして余りある程のヘンタイ過ぎる姿なのです。
 目撃され次第、頭のおかしい公然わいせつ痴女、と後ろ指をさされて然るべき機関にツーホーされても何も弁解出来ないくらいに。

 上への道ならば、出会っても仲居さまがた、運が良ければ私の性癖をすでにご承知なキサラギさまだけで済みそうな予感もするので、ここはなんとか下の道を回避したいところでした。
 おそらく今にも泣き出しそうなほど、憐れみを乞う顔付きになっていたと思います。
 私の顔をじっと視られ、それから少し上目遣いに何か考えられた後、お姉さまがお答えくださいました。

「そうね。あたしも何だかんだでお腹空いちゃったし、知らない道行って迷っちゃったら面倒だし、来た道戻ってササッとご馳走にありつきましょう」

 意外と簡単にあきらめてくださったお姉さまのご決断にホッと一息。
 少しだけリラックスして木々のトンネル、お部屋への帰りは上り階段、へと進みました。

 トンネル内は、お外からの目を緑の葉っぱさまたちが遮ってくださいますし、段々と地上よりも高い位置へと導いてくださいますので気分的にラク。
 憂慮すべきは、露天風呂へと逆方向から来られるかたとの至近距離でのすれ違いですが、今はちょうどお夕飯前。
 こんな時間帯にわざわざお風呂へと向かうかたもいらっしゃらないでしょう。

 相変わらず、半身捻られた後ずさりなご体勢で私の赤フンおっぱい丸出し姿を記録されながら、一段一段の距離が長めな階段状通路をゆっくり上がっていかれるお姉さま。
 果たして館内二階のお廊下へとつづくはずのドアまで、どなたとも遭遇せず無事上りきりました。

 檻のような柵で囲まれた踊り場で一息。
 どなたにも視られずに到着してしまうと、逆になんだか残念に感じてしまう…っていうのはムシが良すぎますよね。

 だけどこの先は、従業員さま、宿泊客さま、どなたと出会っても仕方のない建物内です。
 あらためて緊張しつつ、お姉さまがドアを開かれるのを待ちます。

 って、あれ?
 開かないのかな?
 お姉さまがドアノブをガチャガチャさせて押したり引いたりされていますが、一向に開きません。

「そう言えばここ、内鍵だったっけ…」

 ポツンとつぶやかれたお姉さま。
 どなたかが建物内から施錠されてしまわれたみたいです。
 こちら側のドアノブに小さな鍵穴はあるものの、合う鍵なんてもちろん持っていません。
 お外に締め出されてしまった形のお姉さまと私。

「どうやらいったん引き返して庭を抜けて行くしか、部屋に帰る道は無いようね」

 無駄足が確定して、やれやれ、というニュアンスも混じるお姉さまのご宣告に、私の被虐はキュンキュン再燃。
 絶対どなたかが常駐されているはずのフロントを、この公然わいせつ確信犯痴女な姿で通り過ぎなくてはいけないことが確定してしまいました。

2021年5月15日

肌色休暇一日目~幕開け 15

 お三かたよりも遠くの一点を呆けたように見つめている私に気づかれたようで、カレンさまが怪訝そうに後ろを振り返られました。

「あれ?姐さん!もう戻ってきちゃってたんだ」

 バツが悪そうにお道化たカレンさまのお声に、他のおふたりもお姉さまのほうへと振り向かれます。

「あ、これはその、どのくらいマゾなのか、ちょこっと見せてもらってたんだ…」
「スゴいイキオイでイッてたよ、大股開きで腰ガクンガクンさせて…」
「どうして湯浴み着なんか着ちゃってるのかしら、女湯状態なのに…」

 お三かたとも私にお尻を向け、湯船の中をビデオカメラ片手にゆっくり近づいていらっしゃるお姉さまに小さく手を振ってらっしゃいます。
 その揺れるお背中と声音がどなたも何て言うか、ビミョーに後ろめたそう。
 ちょっとヤンチャし過ぎちゃったかな…みたいな。

「お相手していてくださったのね、ありがとうございます」

 島のすぐ近くまで歩み寄られたお姉さまが優雅に会釈されます。
 ストンとしたワンピース型の湯浴み着はホルターネック。
 そこだけ剥き出しになっている両肩の肌色が妙に色っぽくて、まじまじと見惚れてしまいます。

「なんで湯浴み着なんて着ちゃってるわけー?ここ、女しかいない貸切状態なんですけどぉ」

 たじろぎ気味だったカレンさまが仕切り直されるように、先ほどシヴォンヌさまもつぶやかられていた違和感を、ご冗談ぽくなじるようにお姉さまへぶつけられます。

「あたしは裸でも別に構わないのだけれど、この子が嫌がるのよ」

 薄い笑みを浮かべたお姉さまが、ベンチの上でまだM字開脚な私を指さします。

「自分以外があたしの裸を見るのはダメなんだって、男でも女でも」
「他人があたしを、そういう目、で見ること、が許せないらしいわ。自分は辺り構わず脱ぎ散らかして、誰にでも性器の奥まで晒してる露出狂のクセにね」

 お三かたのすぐそばまで来られたお姉さまが、いたずらっぽい笑顔でおっしゃいました。

 でも私、今までお姉さまにそんなことをお願いした覚えはありません。
 確かに、お姉さまのお綺麗過ぎる裸身がたとえ温泉とは言え私以外の目に触れてしまうのは、私にとって愉快なことではないのは事実ですが…

「へー、意外にふたりはラブラブなんだねー」
「ですのちゃんの姐さんは、ご主人様としてただイジワルするだけじゃないんだー」

 サラさまカレンさまの冷やかすようなご指摘に、なんだか照れ臭くも嬉しくなってしまう私。
 お姉さまは、と見ると、余裕綽々のお澄まし顔でみなさまと対峙されています。

「まあ、そんな感じなんで、みなさんはあたしにお構いなく、思う存分この子を慰み者にしてくださって結構よ」

 艶然とした笑みを浮かべつつ、どうぞどうぞ、という感じに両手のひらを上に向けたジェスチャーで煽られるお姉さま。

「あー、でもやっぱりこの姐さん、ドエスだー、キチクだー」
「思う存分慰み者にって、ですのちゃんカンペキにオモチャ扱いじゃん」
「お許しが出たってことは、うちらもですのちゃんのカラダ、あれこれイジっちゃってかまわないのよね?」

 私のほうへと向き直られるお三かた。
 そのすぐ後ろからお姉さまの瞳がまっすぐに私を見つめてきます。

「ほら、あなたからもみなさんに、どうして欲しいのかちゃんとお願いしなきゃダメじゃない?」

 ご愉快そうに唇の両端を歪めた笑顔で、お姉さまからの無慈悲過ぎるサジェスチョン。
 自分の口で自分から辱めを乞いなさい、というご命令。

「あ、は、はい…ど、どうぞみなさま…わ、私をお好きなように虐めてくださいませ…」
「わ、私は、は、恥ずかしいご命令されると感じて濡れてしまうヘンタイマゾですから、ど、どんどん、は、辱めて欲しいんです…」

 なんとか声にした言葉は、マゾを自覚した中学生の頃から自虐オナニーのときに何度も何度も、妄想の中のお相手に向けて訴えかけていたセリフでした。
 言い終えた途端にマゾマンコの奥がヒクンヒクンと盛大に疼きます。
 ついさっき、みなさまに視ていただきながら、頭の中が真っ白になるくらいイキ果ててしまったというのに。

 気がつくとまだM字状態の股間にあてがっていた両手の指が、知らず知らずラビアの左右にかかっていました。
 それだけではなく軽く外側に引っ張るみたいに、その部分の皮膚を引き攣らせてさえいます。

 パックリ開いた私の膣口、濡れそぼった粘膜に当たる空気。
 脳内では電車の中でお姉さまに教わったあの恥ずかし過ぎるセリフを反芻しています。

 …これが直子のマゾマンコです、奥の奥まで、どうぞじっくりご覧ください…

 私のその部分に釘付けなお三かたの呆然とされているような視線。
 どなたよりも早くその瞳孔が細まり、妖しげに揺らいだのはシヴォンヌさまの瞳でした。

「それなら今度はお尻をこちらに向けて、四つん這いになってもらおうかしら」

 シヴォンヌさまが右手に持たれたカッパさまこけしをゆらゆら揺らしながらおっしゃいました。
 シヴォンヌさまのお声でハッと我に返られたようにビクンと肩を震わせる他のおふたり。
 申し合わせたように見合わせられたお顔がみるみるお緩みになり、ご興味津々なご表情に染まっていきました。

 四つん這い…
 その屈辱的なお言葉の響きに私のマゾ性は狂喜乱舞。
 早速体勢を変えようと両足を地面に下ろしたところで、はたと考えてしまいます。

 この狭いベンチの上で、お尻をみなさまに向けて四つん這いって?横向きではダメなのよね?
 ベンチの座席部分は当然ながらお尻を置くほどの幅しかありませんから、その狭い幅に四つん這いって…

「あー、ごめんごめん、ベンチの上でって意味じゃなくて、ベンチ降りてこちらにお尻を突き出しなさい、っていう意味ね」

 シヴォンヌさまの苦笑交じりなご訂正のお声。
 でもお顔を盗み見ると、目だけは笑っておられず、少々苛立ち混じりなのもわかりました。

「ベンチを降りて、後ろ向きになって、両手をベンチに預けて、両脚を開きなさいって言ってるのっ」

 シヴォンヌさまの声音がどんどんSっ気を帯びてきているように感じます。
 ゾクッと両肩が震え、急いでベンチを降りご命令通りの姿勢になります。

「両手をベンチに着くんじゃなくて、頭ごとベンチにひれ伏すのっ。土下座みたいに顔面はベンチに擦り付けてケツをこっちに突き出すのよっ!」
「ほらほら、もっと高くオマンコとコーモンを差し出しなさいっ」

 シヴォンヌさまのヒステリックに上ずったお声が間近に聞こえてきます。
 ご指示通りにからだを動かしているあいだに垣間見えたシヴォンヌさまは、すでに湯船から上がられ、そのゴージャスな全裸ボディを惜しげもなくお陽さまに晒されつつ、あからさまに嗜虐的な笑みを浮かべられていました。

 バシッ!
 あうぅ!

 小気味よい音を立て、シヴォンヌさまの右手のひらが私の左尻たぶを打擲しました。
 石のベンチの上に両手の甲を枕にして顔を押し付けたまま、両膝はほとんど曲げず腰だけ突き出す前屈姿勢な私のお尻を。

 だらしなく垂れ下がった私のおっぱいは、乳首の先端とベンチのコンクリート座面が触れるか触れないかのスレスレ。
 お尻を叩かれた瞬間に緊張していた筋肉が緩み、膝も少し落ちて両乳首先端が石の座面をザリっと擦りました。

 はうっ!
 その予期せぬ強烈な刺激に思わず両膝もいよいよ開いてしまい、弾みでよりパックリ開いた秘唇からダラリとはしたない涎を垂らしてしまう私のマゾマンコ…

「あら、お尻軽くぶっただけなのにずいぶん敏感な反応なのね。さすが、マゾですの、なんて自称するくらいの淫乱ぶりですこと」
「それで顔は出来るだけこっちに向けたまま、さっきのつづきをなさい。第2ラウンド」
「その不自由な格好で手を伸ばして自分の指で弄って。淫らに高まってきたら、今度こそこれをワタシの手でたっぷりご馳走してあげる」

 首だけ捻じ曲げ必死にお声のするほうへと向けている私の顔先に、カッパさまこけしをお見せくださったシヴォンヌさま。
 何もかもを晒し切っている私のお尻の割れスジを、カッパさまの滑らかな木肌がツツーッと撫ぜていかれました。

「はうんっ!は、はい…わかりました…」

 全身被虐の塊と化した私が、ご命令通り右手をそこへ伸ばそうとしたとき…

♪ンターターターター、タータ、タータンタッタッタッタッタター…

 どこからともなく流麗な弦楽の調べがたおやかに流れてきました。
 えっと、このメロディは確かシューベルトさんの、ます、だったっけか…
 ふっとそんな事を考えて伸ばしかけた手が途中で止まったとき、悲鳴にも似た叫声が近くであがりました。

「げげぇーーっ!?もうそんな時間?」
「うちら夕食の仕込みと配膳手伝うって、きり乃さんと約束したじゃん、チョーやべえ」
「これって5時のチャイムだよね?秒で行かんとヤバくね?」

 お三かたが軽くパニクっていらっしゃるご様子。
 私も座面に手を着いて少しだけ上体を起こし、左肩越しに湯船の方を見遣ります。
 お姉さまは、あらま何事?という感じに唖然とされたお顔。

「ですのちゃんも姐さんも本当にゴメンっ!うちら仕事あんのすっかり忘れてたわ」

 カレンさまサラさまがお湯をザブザブと掻き分けて脱衣所に通じる陸地のほうへと急いでいかれます。
 シヴォンヌさまだけがお姉さまとしばし何やらお話をされた後、先に行かれたおふたりの後を追われました。

 最後に湯船から上がられたシヴォンヌさまが剥き出しのお尻をフリフリしつつ視界から消えていきます。
 何がなにやらわからないまま、相変わらずお尻を湯船側に高く差し出したまま、お見送りする私。

「やれやれ。賑やかな人たちだったわね?」

 お姉さまが島のすぐそばまで近づいてこられ、私にニッコリ微笑んでくださいました。
 この恥ずかし過ぎる姿勢をいつ解けばいいのか、タイミングが掴めない私。

「なんかあの人たち、安く泊めてもらう代わりに女将さんにお手伝いを約束していたみたい」
「でもノリのいい人たちだったから面白かったわよね?愉しそうな虐めはお預けになっちゃったけれど」

 湯船に立たれているお姉さまは、湯浴み着の裾ギリギリくらいまでがお湯に浸っています。

「あたしたちはまだ夕飯まで時間あるし、もう少し愉しみましょう、せっかくの露天温泉混浴大浴場が完全貸切状態なのだし」

 おっしゃりつつ背後を振り返られ、何かをご確認されているようなご様子。
 やがてご安心されたお顔で再び私のほうへと向き直られたお姉さまは、おもむろにホルターネックの首後ろの紐をスルスルと解かれました。
 不意にしゃがまれたお姉さまのおからだごと湯浴み着がお湯の中にのみ込まれ、十秒くらい置いて立ち上がられたとき、お姉さまは全裸になられていました。

 そのお姿で両腕をお広げになり、私を迎え入れてくださるポーズをお取りになるお姉さま。
 飼い主に呼ばれたワンちゃんみたいに、一目散にお姉さまの胸中に飛び込んだのは言うまでもありません。

 それからふたり、お湯の中でお互いの気持ち良くなれる秘所をまさぐりまさぐられ。
 両腕、両手、左右の指、唇と両脚は片時も求め求められる感触を外すことを知らず、悩ましい淫声を抑制することも無く、大自然の中で本能のおもむくままに愛し合いました。
 もの凄い開放感、高揚感、満足感、幸福感…

 どのくらいの時が過ぎたでしょうか。
 ようやく一般的に夕方と認識されるくらいにお陽さまが翳った頃、お姉さまと私は裸で湯船の縁に並んで腰掛け、ハアハア荒い息を吐きつつぐったりと足先だけを湯船に浸けていました。

「ハア…やっぱり直子ってスゴい。あたし、ここまで快楽に溺れたことってないわ。溜め込んでいたあれこれ、ぜーんぶ浄化されちゃった気分」

 お姉さまの疲れ切って掠れた、心の底から絞り出されたようなお声に、私も告げたいことが頭の中で大渋滞状態。

 …さっきお姉さまが湯浴み着姿で来てくださった時、凄く嬉しかったんです…
 …その後のお言葉、私がうまく言えなかったことをちゃんとわかっていてくださっていたんだなって思って、涙が出そうなくらい感動でした…
 
 …シヴォンヌさまたちを、ちゃんと私を虐めるように仕向けられるお姉さまの的を射た話術も凄いです…
 …私、お姉さまの笑顔のためなら本当に何でもしますから、どうかお嫌いにならないでください…

 告げたいことは山程あるのに、ハアハアし過ぎて声帯が着いて来ず声には出来ず、ただただお姉さまのお顔を見つめつづけるばかり。
 そんな私をお優しげに見つめ返してくださっていたお姉さまが、一区切り着けるみたいにわざとらしくニッと笑われました。

「おーけー。そろそろお部屋に戻りましょう。帰る頃には、お膳いっぱいに美味しそうなご馳走が並んでいるはずよ」

 温泉から出た岩場の少し離れた岩の上に、真っ白なバスタオルが置いてありました。
 きっとお姉さまが脱衣所から持ってこられたのでしょう。

 最初にお姉さまが丁寧におからだをお拭きになられ、それから私に手渡してくださいます。
 私がからだを拭いている傍らで、お姉さまは湯浴み着の水気を軽く絞った後、手早くおからだに湯浴み着を巻きつけられ、首の後で紐を結ばれました。
 私もからだを拭き終わり、お姉さまには湯浴み着があるから、と自分のからだにバスタオルを巻き付けようと広げると、すかさず伸びてきたお姉さまの右手。

「直子は裸のままでいいでしょう?せっかくまだまだ屋外で全裸で過ごせるのだから。こんな直子好みの不健全なチャンス、滅多に無いわよ?」

 没収したバスタオルを小脇に挟み、ビデオカメラのレンズを向けてくるお姉さま。
 あらためてお言葉でご指摘されると、今私はお外に全裸でいるんだ、ということに全意識が持っていかれてしまい、お姉さまとのラブラブな交わりで満足しきった快楽とはまた別の、マゾ性ゆえの被虐願望みたいな欲求が、イキ疲れているはずのからだを性懲りもなく疼かせ始めてしまいます。
 戻りかけていた理性も、出番を間違えた舞台役者さんみたいにバツが悪そうにフェイドアウト。

 シヴォンヌさまたちがここを去られるきっかけとなったチャイムが5時とおっしゃられていましたから、きっともう夕方6時近いのでしょう。
 あれほどギラギラ全開だったお陽さまも森の向こうに沈みかけ黄昏色間近になった岩場の坂道を、お姉さまが私に向けていらっしゃるカメラのレンズを追いながら歩いていきます。

 私が生まれたままの姿で屋外を歩いている姿が映像に残されちゃっているんだ…
 あられもなく乳首を尖らせたおっぱいも、歩くたびにヌルヌル潤んでくる無毛の女性器も、全部デジタルで鮮明に記録されちゃっているんだ…
 羞恥心と背徳感に煽られ駆り立てられる自虐への衝動は、私のどうしようもないマゾ性をムラムラと蒸し返してきます。

 来たときには素通りした脱衣所に入ります。
 キャンプ場のバンガロー風外見を裏切らないログハウス仕様でウッディな内装。
 水捌けを考慮したプチ高床式なコンクリートの床に素朴な木製スノコを敷き詰めた足元。

 そんな朴訥な空間に、駅前とかによくあるコインロッカー然とした無機質無骨なロッカーが壁に沿って整然と並び、もう片方の壁面はお外を覗ける大きな出窓を真ん中に挟んで、バレエのレッスンルームのような鏡張り。
 木材の温かみと無機質な冷たさのアンバランスな趣が近未来ぽい非日常感を醸し出していて、鏡に映った自分の肌色が妙にエロティックに見えてしまいます。

 お姉さまが右手首に巻かれていたリストバンドから鍵をお取り出しになり、プレートに205と書かれたロッカーの水色の扉を開かれます。
 そそくさとご自分の浴衣を取り出されて傍らのテーブルの上に置いた後、サクサクと和装用下着を身に着けられました。
 つづいて悠然と浴衣を羽織られ、ご自身の着付けへと進まれます。

 私もお手間をお掛けしないように、とロッカーの中を覗き込みます。
 あれ?
 
 ロッカー内に残っているのは、お姉さまにお貸しした私のハート型ポシェットとビニール袋に包まれた真っ赤な手ぬぐい?タオル?いずれにしても小さくて薄っぺらそうな布地だけ。
 お姉さまにお持ちいただいたはずの私の水色の浴衣は、帯もろとも影も形もありません。

「…あのぅ、お姉さま?」

 とっさに感じた切ない予感にドキドキ震えつつ、お姉さまを窺います。
 着付けに夢中になれられているお姉さまから、なあに?という素っ気ないご返事。

「あのぅ…私の浴衣は…」

 チラッとロッカーと私に視線をくださったお姉さま。

「ああ、それね」

 帯を締め終わり、袖やウエストの撓みなど着こなしをご修正されつつ、お姉さまがご説明くださいました。

「直子の浴衣、背中側の裾にけっこう派手に泥が跳ねて汚れていたのよ」

 浴衣をお召し終わり、今度は使われた湯浴み着やバスタオルを丁寧にたたみ直されているお姉さま。

「あたしがここで湯浴み着に着替えているときにちょうどキサラギさんが備品の点検にみえられてね」
「汚れに気づいたのも彼女よ。湯船までの道すがら水たまりかなんか踏まれて跳ねたのでしょうって」
「今ちょうど洗濯機回していますからって言うから、あたしは、いいですよそのくらい、って言ったんだけどさ」

 湯浴み着とバスタオルを返却籠に収められたお姉さまが、私のそばまでやってこられます。

「あたしも湯浴み着に着替え終えたところだったからさ、自分の浴衣とかをロッカーに入れようとしていたら、わたくしが入れておきますから、どうぞごゆっくり露天風呂を楽しんできてくださいって言われて」
「ロッカーは閉めれば自然に鍵がかかっちゃう方式なんだって。それであたしはお言葉に甘えてそのまま外に出て、直子の浴衣の件はうやむや」

 お姉さまがロッカーの中を覗き込まれ、あら本当に入っていないわね、なんて悠長なことおっしゃいます。
 そしてロッカー内のビニール袋に気づかれたのでしょう、手を伸ばされ、それをお取りになりました。

「そう言えばあたしがドアから出ようとしていたら、お連れさま用にこちらを入れておきますね、なんて背中から声が聞こえたっけ」
「あたしも直子がカノジョたちに何されているのか早く視たかったから、確認もせずに、はーい、なんて生返事で出てきちゃったんだ」

 お姉さまの手がビニール袋を破られ、出てきた真っ赤な布地を広げ始めます。
 少し広げられたところで、プッ、と吹き出されるお姉さま。
 ご愉快この上ないというような満面の笑顔で私の顔を覗き込んできました。

「ちょっとこれ、直子ってばVIP待遇並みにこのお宿からおもてなしされているみたいよ」

 どうしたって笑いを噛み殺せない、みたいなニコニコなお顔で私にその真っ赤な布片を広げて見せてくれるお姉さま。
 フェイスタオルを広げたくらいの幅の長めで長方形な布片が真紅に染まっています。
 片方の端に同じ色で左右へと細長く伸びる紐。

「これってどう見てもふんどし。日本が誇る伝統の勝負下着、赤フンだわよね?」