2014年2月2日

コートを脱いで昼食を 28

 ブラシのか細い毛先がチロチロと、上気した肌をじれったく愛撫してきます。
 視線を落とすと、真紅の薔薇が濃い緑色の葉っぱを二枚従えて、右乳首の左斜め下に鮮やかに咲いていました。
 お花の大きさは、普通よりやや広めな私の乳暈とだいたい同じくらい。
 桜子さまのブラシが繊細に踊り、棘を散らした茎が乳房の上部分へ伸びるように描き加えられていきます。
 桜子さまのお顔は私のおっぱい目前まで迫り、掌がときどき肌を擦ります。

 その感触に集中してしまうと、どんどん高まるムラムラにいてもたってもいられなくなってしまいそうなので、気を逸らすために顔を上げました。
 試着室のほうを横目で窺がうと、どうやら普通に試着が始まったようでした。
 ぴったりと閉ざされたカーテンの前で、シーナさまがうつむいてケータイを弄っていました。

 カランカラン・・・ありがとうございましたー。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
 新規のお客様がお店に出入りする音が、頻繁と言うほどではない間隔で聞こえていました。
 そのたびにドキッとはするけれど、そのドキッは、さっきまでのような不安なドキッではなくなっていました。
 試着のお客様に視られたときに感じた、もっと視て欲しい、という自分のマゾ性丸出しのはしたない高まり。
 それをもう一度味わいたくて仕方なくなっている私。
 また誰かこっちに来ればいいのに、というふしだらな期待のドキドキに変わっていたのでした。

 見ず知らずの人に剥き出しのおっぱいを視られてしまうのは、それはもちろんすっごく恥ずかしいことです。
 でも、さっき試着のお客様からの視線を受けたとき、その恥ずかしさ以上の、なんて表現したらいいのか、息苦しいのに甘酸っぱいような、えもいわれぬ快感を感じていたのは事実でした。
 ありえない場所でありえない姿を晒している自分に対する自虐の昂ぶり。
 信じられない・・・正気なの?・・・露出狂?・・・ヘンタイ?・・・
 そんな視線の陵辱をからだの隅々にまで浴びてみたい。
 頭の中で渦巻く願望が抑えきれなくなっていました。

 根っから臆病な私がそれほど大胆な気持ちになれたのは、紛れもなく純さまと桜子さま、そしてシーナさまのおかげでした。
 私をからかい虐めながらも、同時に、社会的にヘンなことにならないようにいろいろ気を配ってくださっているのも感じていました。
 このかたたちがそばにいてくだされば、こんな場所でこんな姿をしていても、さほど大変なことにはなったりしないだろう、という甘えた安心感が私を大胆にさせていたのだと思います。
 ひとりアソビでは絶対に出来ない、不特定多数の人たちへの露出行為。
 シーナさまたちが整えてくださったそのシチュエーションに、私はどっぷり、ハマっていました。

「うん。サイズもバッチリですね。お客様、お顔が小さくて細身だから、シルエットもクールでぐうお似合いですよ!」
 試着室のほうが騒がしくなり、シーナさまと着替え終えたお客様が試着室の中の鏡を見ながら、ニコニコ顔でお話されています。
 お客様もお洋服を気に入ったらしく、お買い上げを決めたご様子。
 お洒落なワンピースを着たそのお客様は、薄い笑みを浮かべて鏡の中の私を一瞥してから、再び試着室のカーテンを閉じました。

 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
「ハーイ、シルヴィア。ハーイ、エレナ。おひさしぶりー!」
「ハロー!ニュードレス、サガシニキマシタ」
 入口のほうからカタコトの日本語が聞こえてきました。
 どうやら外国人のお客様がいらっしゃったみたい。
 途端に店内が賑やかになりました。
 カタコト日本語と英語っぽい外国語によるハイテンションな会話が響き渡り、入口との目隠しのために移動したハンガーラックがユサユサ揺れ始めました。
 そのハンガーラックには、純さまおっしゃるところの、セクシードレス、がたくさん吊るされています。

「ワオ!ソゥセクスゥイー!」
「イッツキュート!」
「コレモカワイイ!」
「コッチモイイネー」
 ラックの向こう側でドレスを選んでいるのでしょう、楽しそうに弾んだお声が聞こえてきます。
 これって、ひょっとしたら・・・
 私のドキドキが一段と高まりました。

「キャナアイトライディスオン?」
「シュア。バットウェイトフォアラホワイル、ビコーズアナザカスタマー・・・」
 純さまが流暢な発音で応対されているのを聞いて、私のドキドキは最高潮。
 外国人さんたちが試着でこちらにやって来るみたい。

「はい。お疲れ様でしたー。こちらとこちら、両方お買い上げでよろしいですね?ありがとうございます」
 試着室のほうからもお声が聞こえてきました。
 試着室のカーテンが開け放されて、中の鏡に再び横向きな私の裸が映し出されています。
「純ちゃーん、お客様お買い上げでーす。フィッティングルームも空いたのでどうぞーっ!」
 シーナさまが大きなお声をあげながら、お客様と一緒に私のほうへと近づいてきました。

「はーい!オッケー、プリーズフォロウーミー・・・」
 純さまの元気の良いお声に導かれ、外国人さんたちがハンガーラックの陰から現われました。

 おふたりとも西洋系の整ったお顔立ち。
 白くて小さなお顔にパッチリな瞳、スッと通った鼻筋にアヒル口、誰が見ても、あ、美人さんだ、と思わざるをえない美形さんたちでした。
 ボリューミーなブロンドヘアーの人のほうが背が高く胸も豊かそうで、絵に描いたようなゴージャス系西洋美人さん。
 もうおひとかたは、栗色がかったブルネットのセミロングで、やや小柄で機敏そうな感じの小悪魔的な美人さん。
 おふたりともシンプルなブルゾンにジーンズと言うラフなファッションでしたが、そんな格好でも、夜のお仕事で培ったのであろう色っぽいオーラが全身から滲み出ていました。

 そんな彼女たちも私の姿をみつけると、試着のお客様と同じようにまず一瞬、息を呑んでその場に立ち止まりました。
 でもやっぱり外国人のかたはオープンなのでしょう。
 唖然としたお顔が瞬く間に興味津々のお顔に切り替わり、私のほうに駆け寄ってきました。

「ワオ!ワッツゴーイノオン?・・・タトゥ?」
「ナイスブーブス!イズディスジャパニーズボディペインティン?・・・」
 おふたりが私の傍らに来て、私の剥き出しのおっぱいを指さしながら口々に何かおっしゃっています。
 
 試着を終えたシーナさまたちもちょうど通りがかったところで、試着のお客様も今度は私の目前で足を止めました。
 そのお客様の目が、驚きでみるみる見開かれます。
 私が下半身も裸だということに気づかれたみたいです。
 伏目がちにお客様の視線を追うと、私の無毛な下半身を凝視して、それから私の顔を見て、おっぱいに移動してからもう一度私の顔に戻りました。
 そのときお互いの目と目が合ってしまいました。
 試着のお客様の瞳には、ありありと侮蔑の色が浮かんでいました。

 シーナさま、純さま、外国人の彼女たち、そして試着のお客様と、今や5人の女性がほぼ全裸の私を取り囲んでいました。
 そんな中でも黙々と作業をつづける桜子さま。
 外国人の彼女たちは、いつしか英語ではない、私にはわからないお言葉で声高々にお話されていました。
 シーナさまがそんな彼女たちの会話のお相手をされ、何やらご説明されています。
 試着のお客様は純さまと、私をチラチラ視ながらコソコソクスクス密談中。
 ああん、恥ずかしい・・・でも、もっと視て・・・
 桜子さまのブラシの愛撫を右おっぱいに受けながら、みなさまの不躾な視線を全身に浴びて、私はすぐにでもイっちゃいそうなくらいの昂ぶりを感じていました。

「ハズカシイデスカ?」
 桜子さまのブラシが交換のためか私の肌を離れたとき、ブルネットのほうの外国人さんが好奇心を抑えきれないご様子で、話しかけてきました。
 その瞳は遠慮無く、私の全身を舐めまわしています。
「ほら、直子さん?答えてあげなさい」
 シーナさまがニヤニヤしながらおっしゃいます。
「あ、はい・・・恥ずかしい・・・です・・・」
 私のすぐそばで腰を屈めている美形な外国人さんにお答えした途端に、股間がウルッとぬるみました。

「彼女たちはね、東欧から来ているんだって。ブロンドのほうがミス・シルヴィア。栗毛がミス・エレナ」
「ハジメマシテ」
 おふたり揃って、ペコリとお辞儀されました。
 再びブラシをかまえかけていた桜子さまは、作業に戻るタイミングを逸したようで、テーブルにブラシを戻し、ちょっと休憩ね、とつぶやいてニヤニヤしています。

「なぜこんなところで裸なんだ?日本ではこういうことが許されるのか?彼女は恥ずかしくないのか?とかいろいろ聞かれたから、丁寧に説明しておいてあげたわよ」
 シーナさまがイジワルそうに笑います。

「直子さんのバストに描かれている単語を見て納得したみたいね。ノーティだとかキンキーだとか、やっぱりニッポンジンはクールだけれどヘンタイばかりだ、とかいろいろ言っていたけれど」
 そうおっしゃってからシーナさまが彼女たちを振り向いてニッと笑いました。
 それを受けて妖艶に微笑み返すおふたり。
 私のおっぱいに描かれた単語は、Masochist と、まだ途中だけれど Exhibitionist。
 英語がわかる人なら、それだけで私のヘンタイ性癖はバレバレです。

「アナタノハダカ、トテモキレイデス。ソゥキュート」
 ブロンドのシルヴィアさんが私の目をじっと見ながら話しかけてきました。
「ダカラ、ミセタイキモチ、ワカリマス」
「ワタシモソウデスカラ。セクシーナドレス、ダイスキネ」
 私は何も言えず、魅入られたようにシルヴィアさんのお顔に見蕩れていました。
「ダカラ、コノドレスキテ、アナタニミセマス。ワタシモセクシーデスヨ?」
 シルヴィアさんがいたずらっぽく微笑みました。
「ダケドワタシハ、マゾヒストジャナイデスケド」
 そうおっしゃってパチンとウインクしました。
 私のからだ中がカーッと熱くなりました。

 シルヴィアさんとエレナさんが試着室に向かい、シーナさまがお手伝い。
 純さまとお客様は、お会計のためにレジのほうへ消えました。
 再びふたりきりになって桜子さまがブラシを手にされ、作業が再開しました。
 横目で窺がう試着室では、まずシルヴィアさんが中に入ったよう。
 カーテンの前でシーナさまとエレナさんが私のほうを向いたまま、何かおしゃべりされています。
 自分の胸元に視線を落とすと、そろそろ完成間近。
 薔薇の茎のようなグリーンの装飾字体が右乳首の下半分を囲むように弧を描き、逆から綴られてきたスペルの最初の E の字の装飾に取り掛かっていました。

 試着室のほうが騒がしくなり、また横目で窺がうと、シルヴィアさんが着替え終えて出て来たところでした。
「ワーオゥ!」
 エレナさんもシーナさまも大はしゃぎです。

 シルヴィアさんが試着したのは、光沢のあるブルーでテラテラな生地のホルターなノースリーブロングドレス。
 胸元のV字が大胆におへそのあたりまで割れ開いていて、横乳丸見え。
クルッと一回転すると背中もお尻の割れ始めあたりまで大きく開いていて、腿のスリットも腰まで切れ込んでいました。
 それなのに上も下も下着がまるで見えないっていうことは、全部脱いでから着たのかしら?
 大胆だなー。
 他人事ながらドキドキしてしまいました。

 交代にエレナさんが試着室へ入り、シルヴィアさんとシーナさんが何語かわからない言葉でキャーキャーおしゃべりしています。

「よーしっ!完成!」
 試着室に気を取られていた私は、あわてて桜子さまに視線を戻しました。
「フゥーーッ、フゥーーッ」
 桜子さまが私の右おっぱいに目一杯お顔を近づけ、尖らせた唇で完成したての作品に息を吹きかけてきます。
 火照った肌にこそばゆい感触。
「はぅぁ・・」
 思わず小さく吐息が漏れてしまいました。

「我ながらいい出来映えだわ。Exhibitionist はスペルが長いから、乳首の円周で収めるのが大変だったけれど」
「あ、出来たと言ってもまだ染料が乾いていないから、ナオはしばらくシャツ下げちゃだめよ?」
 イジワルくおっしゃる桜子さまも、心なしかお顔が紅潮されて、なんだか高揚されているみたい。
 前屈みだった姿勢を直されて、座ったまま私のからだ全体を、今更のようにしげとしげと無遠慮に眺めてきます。

 そんな桜子さまの視線が、ふっと私から逸れて右側に動きました。
 つられて私もそちらに視線を動かします。
 セクシーなブルーのドレスに身を包んだシルヴィアさんが妖艶な笑みを浮かべつつ、ファッションモデルさんのウォーキングみたいな優雅な足取りで私たちのほうに近づいて来るところでした。
 うわー、カッコイイ!
 桜子さまのお顔は、シルヴィアさんと私を見比べるように交互に動いています。

「そうだ!」
 桜子さまが不意にお声をあげました。
「染料が乾くまでただ座って待っているのもつまらないから、ナオにサービスしちゃうわ」
「そこに」
 おっしゃりながら座っている私の下半身を指さします。
「えっ?」
 おっしゃっている意味がわからずドギマギする私。

「シールをひとつ、貼ってあげるわよ。せっかく綺麗な花が2つも咲いたのに、蝶々がいないのはバランスが悪いもの」
「特別にサービスでやってあげる。時間的に模様は描けないけれどね。シールならすぐ終わるし」
 桜子さま、なんだか嬉しそう。
 それに気のせいか、目つきもいやらしくなっているような・・・

「それでナオ?どっちにして欲しい?お尻?それとも前?」


コートを脱いで昼食を 29