2015年8月23日

オートクチュールのはずなのに 17

 プリペイドカードを持ってきていない私のために、切符を買ってきてくださったお姉さま。
 ご自分のカードを抜いた後、私が左肩に提げているビニールトートに、お財布を戻されました。
 
 そのとき、気がつきました。
 さっきお姉さまが私の左肩にビニールトートを掛けてくださったとき、表に見える側をバスタオルではないほうにしちゃったみたい。
 今現在、バッグのシースルーなビニール側面からは、とぐろを巻いた麻縄や鎖、えっちなお道具の数々が見えているはずです。
 
 だけど私が勝手に提げ変えることは許されません。
 お姉さまがそうされたということは、それがお姉さまのご意志であり、こう提げなさい、というご命令なのですから。

 改札を抜けると、数メートル先にホームへと下りる下りエスカレーター。
 そこへ向かっている途中、ちょうどホームに電車が侵入してきて、ここでも凄い風が吹き上げてきたので、ミニワンピースの裾前を手で押さえることが許されました。

「ただし、さっきの階段のときと同じように、押さえていいのは下腹部のあたりまでよ」
 お姉さまの念を押すような耳打ち。
「はい。わかっています・・・」
 少しでも風圧がかかれば裾の前立てがあっさり左右に割れ、はしたないおツユで濡れそぼったショーツの恥丘部分を、みなさまに見せつけながら下りることになるはずです。

「今度は先に行きなさい」
 お姉さまに促され、エスカレーターのステップ左端に立ちました。
 すぐ後ろにお姉さまもつづきます。
 下りエスカレーターの右隣は、ホームから改札口へと向かう人たちのための上りエスカレーター。
 今到着した電車に乗っていたのであろう人たちが次々と、その上りエスカレーターに乗り込んできます。

 下りエスカレーターに乗っている私の前には、一番下まで誰も乗っていませんでした。
 すなわち、私が先頭状態。
 上りエスカレーターで上がってくる人のうち、うつむいている人以外は、その視界に否応無く、私の姿が入り込んでくるはずです。
 
 いくつもの視線がまず私の首に貼りつき、次に股間へと移動していくのを感じていました。
 自分では見えませんでしたが、ミニワンピの裾が絶えず左右に割れてはためいているのは、わかっていました。
 
 私は、ずっとそ知らぬ顔を作り、目の焦点をどこにも合わせさず、まっすぐ眼前の宙空を見つめていました。
 内心では、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うくらいのドキドキで、キュンキュン感じまくっていました。

「ずいぶんジロジロ注目されていたわね。すれ違った後もずーっとこっちを振り向いていたオジサンまでいたわよ」
 エスカレーターを降りた途端にお姉さまに肩を叩かれ、ヒソヒソされました。

 たまらず私は、お姉さまの左腕にギューッとしがみつきました。
 誰かにしがみついていないとヘナヘナとへたり込んでしまいそうなほど、下半身がジンジンかつフワフワしていたのです。
 お姉さまは、私がしがみついてくることについては別に何もおっしゃらず、そのままゆっくり、ホームの中央のほうへと進んでいかれました。

「なんだか狭いホームなのね。それなりに有名な駅なのに、ホームドアも無いし。混雑したら危なそうよね?」
 ホームをしばらく進み、何本目かの太い円柱で足を止めたお姉さま。
 私を振り向き、世間話みたいにそうおっしゃいました。
「それに、予想通りではあるけれど、人が少なすぎ。これじゃあ直子もがっかりでしょう?」
 からかうように私の顔を覗き込んでくるお姉さま。

「いえ、そんなことは・・・」
 少ないと言っても、エスカレーターを降りてからここまでで十数人の人たちとすれ違いましたし、そのうち半数以上の人から、首輪やバッグへの不躾な視線をいただいていました。
「次の駅行けば、もっとたくさんいるはずだから、もう少しの我慢よ」
 あくまでも私が残念がっていると決めつけるお姉さま。
 やがて轟音と共に電車が到着しました。

 各ドアから乗る人、降りる人、ほんの数人づつ。
 電車内も、都会の地下鉄にしては珍しいくらいガラガラでした。
 空席のほうが目立つロングシート、プラス、これだけ席が空いていてもなぜだか立っている人がドア際にポツンポツン。

「見事にガラガラね。これじゃあ痴漢ごっこも出来やしない」
 お姉さまが冗談めかしておっしゃいました。
「一駅だけだけれど、座りましょう」
「はい」
 私たちが乗り込んだドアのすぐ脇のロングシートが丸々空いていたので、私がドア脇の一番端に座る形で、ふたり並んで腰掛けました。

 この服装で腰掛けると裾がせり上がり、ショーツのクロッチ先端が見えっ放しになることは、車の助手席に座ったときにわかっていました。
 でも、私たちが座っているシートの周辺、お姉さまから向こうにも対面側にも、誰もいませんでした。
 
 この位置から見える人影といえば、対面側シート脇のドア際で、手摺りにもたれかかってお外を向いている男性の背中だけ。
 その男性の両耳にはイヤホンが見え、まったく周囲を気にされていないご様子。
 なので、私も安心して座ることが出来ました。
 もちろん座ってすぐ、肩から外したトートバッグを膝の上に乗せ、剥き出しショーツを隠しました。

「エスカレーターでは失敗しちゃった。バッグを右肩に提げ直すように命令すればよかった」
 お姉さまが地下鉄の騒音に負けないように私の耳に唇を近づけ、大きめヒソヒソ声でおっしゃいました。
 視線はずっとビニールトートに注がれていて、私もつられて見たら、あら大変!
 私ってば、無造作に麻縄や鎖が見えるほうを表側に向けていました。

 あわててひっくり返そうとする手を制され、お姉さまがつづけました。
「さっきのエスカレーターって、すれ違うとき、かなりの至近距離だったでしょ。でも直子のバッグは左肩で、壁のほうに向けて提げていたから、すれ違う人に中を見てもらえなかったじゃない?」

「直子の姿を見て、このバッグの中身も見てもらえれば、直子がどんな種類の女なのか、いっそう明確にわかってもらえたと思うのよね」
 お姉さまが本当に残念そうなお声でおっしゃいました。
 お得意のお芝居とは思いますが。

 それよりも私は、膝の上のバッグにもっと恥ずかし過ぎる事実を発見していました。
 シースルーのビニールトート表面ほぼ中央左寄り、麻縄がとぐろを巻いているその上に、さっき撮った証明写真がハッキリ表向きで見えていたのです。
 顔は隠しているものの、おっぱい丸出しの自分の写真。
 
 写真が小さいので、遠目からはなんだかわからないでしょうけれど、このくらいの距離なら、えっちなおっぱい写真だとバッチリわかっちゃいます。
 私、こんなもの見せびらかせたまま、駅の中を歩いてきたんだ・・・
 今更手遅れなのですが、さりげなく右手をバッグの上に置き、写真の部分を隠しました。

「そう言えば、次の駅で小銭が必要なのだったわ。ちょっとバッグ貸して」
 写真を隠した私を見透かしたみたいに、お姉さまの手が私の膝からバッグを奪い去りました。
 再び剥き出しとなった、私のびしょ濡れショーツ先端。
 周囲に人がいないのが本当に幸いです。

 バッグの中をガサゴソして目的を果たされた後も、お姉さまはバッグを返してくださいません。
 一度周囲を見回してから、ヒソヒソ耳打ちしてきました。

「膝小僧をぴったりくっつけちゃって、ずいぶんお行儀がいいのね?どうせ誰も見ていないのだから、もうちょっとリラックスしたら?」
「えっと、あの、やっぱり一応は、電車の中ですから・・・」
「そんなお堅いこと言っても、今だってパンティ、隠しきれていないじゃない?」
「それは、そうですけれど・・・」
「ふーん。素直じゃないわね、マゾのクセに。これならどう?」
「んふぅっ!」

 ショーツの奥でローターが強烈に震え始めました。
 思わず眉間にシワが寄ってしまうほど。
「うわー。エロい顔になっているわよ?そんな顔をしていたら、遠くから見た人にだって、感じているのがバレちゃうわよ?」
 愉しげなヒソヒソ声が右耳をくすぐりました。

 両腿をピッタリ閉じてローターを締め付けていると余計感じてしまうので、仕方なく徐々に両膝を開き始めました。
 両足は揃えたまま膝だけ大きく開いたので、もしも誰かが視ていたら、すごく卑猥かつお下品な格好だったことでしょう。

 股を開いて震動は幾分ラクにはなりましたが、今まで昂ぶりつづけていたところに、今回の刺激は強烈でした。
 お姉さまは、まだローターを止めてくださいません。
 両膝が無意識に、パクパク開け閉めの動きをしちゃっています。

 私、こんな走っている地下鉄の中で、感じちゃっている・・・
 他のお客様も普通に乗っている明るい車両の中で、イキそうになっちゃっている・・・
 そんな背徳的な想いが被虐の炎に油を注ぎ、益々敏感に疼き悶える下半身。
 感じていないフリを必死に繕いながらも、どんどん高まっていました。

 間もなく次の駅に到着、というアナウンスと共にローターがピタッと止まりました。
 ああんっ、もう少しでイケたのに・・・
 ホッとする気持ちと残念に思う気持ちが半々の私。
 髪の生え際にジンワリ汗が滲むほど火照った顔は、すごくエロくなっていたと思います。

 両膝を無駄にパクパク開け閉めしちゃったせいでしょう、ワレメが割れておツユがもっと染み出してしまったようで、ショーツのクロッチは滴らんばかりのぐしょ濡れ。
 事実、座っている両腿のあいだから見える紫色のシートに少し白濁した水滴が一粒、半透明な宝石のようにキラッと光っていました。

 電車が減速し始めると、お姉さまがバッグを持ったまま、おもむろに立ち上がりました。
 私もあわててつづきます。
 立ち上がるとき、シートの水滴と私の股とのあいだに、細い糸が一本スーッと伸びて、すぐ切れたのがハッキリ見えました。
 からだ中の血液が沸騰しそうでした。

 入ってきたときと同じドアの手摺りに掴まり、電車が停まるのを待ちました。
 お外の暗闇で鏡と化した窓ガラスに映る、赤い首輪の女。
 その辛そうな顔がなんとも悩ましく淫ら過ぎて、今すぐどこかに逃げ去りたい気持ち。
 鏡の奥には、そんな私を愉しそうに見つめるお姉さまのお顔もありました。
 やがて窓ガラスが明るくなり、電車がホームへと滑り込みました。

 駅のホームに降り立つと、お姉さまが再びビニールトートを私の左肩に提げさせました。
 もちろん、タオルの側ではないほうを表に出して。
 私も再び、お姉さまの左腕にしがみつきました。
 
 広くて明るいホーム内に、聞き覚えのある日常的な雑踏と喧騒。
 閑散とした電車内から一変した雰囲気に戸惑ったのか、電車内でのローター陵辱による昂ぶりの余韻が急激に引き始めたのが、少し残念でした。

「ず、ずいぶん人が多いですね・・・」
 さっきの駅のホームとは打って変わって、それなりの人数の人たちが広めのホームを右へ左へ、忙しそうに歩いていました。
「ここの駅一帯に、確か五種類の地下鉄路線が乗り入れている一大乗換え駅だからね。ここからなら、池袋でも渋谷でも銀座でも浦安でも、なんなら神奈川にだって埼玉にだって一本で行けちゃうのよ」
 お姉さまが人波を優雅にすり抜けながら、教えてくださいました。
「でもやっぱり、普段に比べれたらかなり少ないほうね。歩いている人種も違うし。普通の日はほとんどサラリーマンだけだもの」

 確信を持った足取りで、いくつものエスカレーターや階段を上ったり下りたりしながら、歩きつづけるお姉さま。
 置き去りにされないように、私もその左腕にくっついています。
 絶えず誰かとすれ違い、追い越され、ときどき首輪に視線を感じました。
 そして歩いているうちに、さっきみたいな空いている駅よりも、このくらい混んでいたほうが気がラクなことに気がつきました。

 誰かにすれ違いざま注目されたとしても、それはほんの数秒間の出来事。
 ずっと歩きつづけているので、お互い違う方向に歩き去れば、すぐに忘れてしまう。
 二度見しようとしても、私の姿はすでに人混みの中に消えているでしょう。
 そんな、人混みに紛れている感、が、安心感をもたらしてくれたのだと思います。
 もちろんたくさん人がいる分、私の首輪や股間に気がつく人数も増えているはずですけれど。

「ずいぶん広い駅なのですね?」
 優雅に歩きつづけるお姉さまにお尋ねしました。
「うん。この駅は構内で別の駅ともつながっているの。まだ改札出ていないでしょ?」
「そう言えば・・・」
「降りたのは永田町駅だったけれど、あたしが目指しているのは赤坂見附の改札。取引先がいくつかあるから、そっちから出たほうが土地勘があるのよ」
 短かいエスカレーターに乗ったところで、お姉さまが教えてくださいました。

「そんなことより直子はさ、さっき電車の中でローターに感じまくっていたとき、誰かにずっと、じーっと視られていたの、気がついていた?」
 エスカレーターを降り、まっすぐの通路になってお姉さまと並んだとき、ヒソヒソ耳打ちしてきました。
 青天の霹靂でした。

「えーっ!?だってあのときは、前にも横にも、誰も座っていませんでしたよ?」
「そうね。座ってはいなかったわね。でもひとり、直子の斜め前くらいに、いたでしょう?」
「あっ!」
 イヤホンをしてドア際に立っていた、あの男性のことのようです。

「でもでも、あの人はずっと背中を向けて、お外を見ていましたよ?窓ガラス越しに・・・」
 自分で言い訳している途中に、はっ、と気がつきました
 人混みの安心感から余裕が出て、せっかく装えていたお澄まし顔が、みるみる崩れてしまいました。

 「やっと気がついたみたいね。さっき直子も自分の顔に見惚れていたじゃない?地下鉄って外がずっと暗いままだから、窓ガラスが鏡みたいになって、車内の様子が鮮明に映り込んじゃうのよ」
 お姉さまのヒソヒソ声がすっごく愉しそう。
 ゆっくりと歩きながら、お姉さまのお話がつづきました。

「あたしが見ていた感じでは、かなり早い段階で気づいていたみたいよ。あたしが直子の膝からバッグを取り上げたとき、彼の肩が一瞬、ビクンと揺れたもの」
「たぶんその前、乗り込んで座ったとき、直子のパンティが見えていることに気づいて注目していたのだと思うわ。そうじゃなくても、そんな首輪をしているのだもの、ヘンな女だなって注目しちゃうでしょうけれど」
 ご自分でやらせたクセに、イジワルなことをおっしゃるお姉さま。

「後姿を見た感じ、若めで細身でスーツ姿でもあったし、害は無さそうって判断して、サービスしてあげることにしたの」
「あたしの姿も一緒に窓に映り込んでいるはずだから、あたしが彼に気づいていることに気づかれないように観察するのが大変だったかな。なるべく視線を動かさないようにしてね。でも見ていてすごく面白かったわよ、ふたりとも」
「直子が膝を広げ始めたとき、手摺りを握っている彼の右手に力が入って、白くなってたのが可笑しかったわ。きっと彼も充分愉しめたでしょうね」

「あたしたちが降りるまで一度も振り向かなかったのは偉かったわね。あんなの見せつけられたら、一度は肉眼で、生で拝みたかったでしょうに」
「降りる前にドアのところに立って確認してみたら、対面の端のシート一帯がガラスにバッチリ映っていたから間違いないはず。彼の位置から直子の挙動は、鏡状態で丸見えだったの」

「あれだけ長い時間視ていれば、直子の股間の黒いものがマン毛でないことも、だったらなぜ黒くなっているのかも、わかっちゃったでしょうね」
「それに、あたしたちがどういう関係で、直子が何をさせられていたのかだって、ちょっと知識があればわかったはずよ。あの女は露出狂マゾだって、彼が正しく理解してくれたら、直子も本望でしょう?」
「彼が交差点のオタク君たちみたいに、えっちな知識をたくさん持っていてくれることを祈るわ。降り際にやっとこっちを振り向いたのを見た感じでは、気弱そうなメガネ君だったけれど」

 お姉さまが愉しげにお話されているあいだ中、私はお姉さまの腕にギューッとしがみついていました。
 お話が進むごとに、いてもたってもいられなくなりました。

 全部、視られていた・・・
 周囲に目がないことに安心しきって、自らいやらしく開け閉めしていた股間も、ローターで感じているのを必死に取り繕う顔も、愛液がジュクジュク滲み出るショーツも、立ち上がったときに引いた糸までも・・・
 知らない男性に全部、視られていた・・・
 やよい先生やシーナさま、そして最近ではお姉さまにしかお見せしたことのない、マゾ女直子がイク寸前まで高まった姿、私のヘンタイな本性・・・

 恥ずかしいとか、羞恥とか、そういう言葉では到底収まりきらないほどの恥辱感が、全身を駆け巡っていました。
 でもその恥辱感には不思議なことに、今までに感じたことの無い甘美な開放感も少し、混ざっていたのも事実でした。

「ふう。やっと着いた。ここからが丸の内線、赤坂見附駅のホーム。それで、ここに寄りたかったの」
 お姉さまからのショッキングな暴露で腑抜けのようになった私を、お姉さまが引き摺るみたいに誘導してくださいました。
 通路からホームへ向かう少し広くなったスペースの片隅に、見覚えのある形がありました。
 さっきの駅にあったのと同じような、証明写真機のブースでした。

「またここで、おっぱい写真を撮ってもらうおうと思ってさ」
「はい・・・」

 どんなに恥ずかしいめに遭わされても、それを見知らぬ人に視られても、していただいたこと、視ていただいたことを、悦んで受け入れなければいけない・・・
 だってそれは、マゾでヘンタイな私のことを想うお姉さまが、敢えてしてくださることなのだから・・・
 私はそういう女なのだから・・・
 そんな気持ちになっていました。

 傍らを人々がひっきりなしに行き交う証明写真機ブースの前で、お姉さまと向かい合わせに見つめ合いました。

「おっぱいの出し方はさっきと同じ。ブラを下にずらす。わかるわよね?」
「はい」
「今回あたしは覗かないから、全部ひとりでやりなさい」
「はい」
「おっぱい出して、今度は顔を隠さないで写真を撮りなさい」
「はい」
「撮り終わったらおっぱいはしまわずに出したまま、ワンピのボタンだけ留めて出てきなさい」
「・・・はい」

「なんだか急に素直になっちゃったのね?ちゃんとわかってる?」
「はい。わかっています。直子はお姉さまの言いなりドレイですから、何でもお姉さまのおっしゃる通りにいたします」
「うふふ。あのメガネ君に視られちゃったと知って、開き直っちゃったみたいね。ますます愉しくなってきたわ」

 お姉さまの瞳がエス色に妖しく揺れて、私のマゾ度も臨界点を突破。
 今の私は心身ともにドエム一色でした。
「これ、お金ね。あと、これ」
 ウェットティッシュを数枚渡されました。

「パンティから雫が今にも垂れそうよ。直子の剥き出しマゾマンコを、中でキレイに拭ってきなさい。まあどうせ、すぐにまた濡らしちゃうのでしょうけれど」
「お心遣いありがとうございます、お姉さま」
「バッグは持っていてあげるから、早くやっていらっしゃい」
「はい、お姉さま」
 右手にお金、左手にウェットティッシュを握り締め、ブースの中に入りました。


オートクチュールのはずなのに 18


2015年8月16日

オートクチュールのはずなのに 16

 低めのビルが立ち並ぶ、いかにもオフィス街というたたずまいの一画を、お姉さまとふたり、歩いていきます。
 たまにみつかる飲食店もお休みばかりで、街全体がまさしく、休日、という感じ。
 当然、人通りもとても少ないのですが、まったく無いというわけではありません。
 奥様風のご婦人や子供連れのご家族とすれ違ったり、曲がり角から突然、若い男性が現われたり。
 
 そのたびに私はビクビクしてしまい、寄り添ったお姉さまから、うつむかない、顔を上げて堂々と、って小さなお声で叱られました。
 少し風が出てきたみたいで、向かい風が吹くとワンピースの裾の真正面が完全に左右に割れて、はためきました。

 どうやら先ほど車で走ってきた幹線道路のほうへ戻るようです。
 四つ角を二、三度曲がり、路地から幹線道路が見える頃には、道行く人たちもけっこう増えていました。
 お姉さまに叱られるので一生懸命頑張って、まっすぐ前を向き普通の顔をしているように努めました。
 ミニワンピースの裾からは濡れそぼったショーツの股間が始終チラチラしているはずです。
 リモコンローターはいつの間にか止まっていました。

 うつむかずに歩いていると、行き交う人たちが私を視たときの反応がわかりました。
 最初に視線が注がれるのは、やっぱり首輪。
 一瞬チラッと見てから、たいていの人が二度見してきました。
 首輪をじっと見て、それから視線が上下して顔と全身。

 ただ、私に気づく人は、正面からやって来てすれ違う人たちばかりで、視られている時間もほんの数秒間。
 後ろから追い越して行く人や道幅を隔てた反対側を行く人たちなど、ほとんどの人たちは、私のことなど一瞥もせず、ただ通り過ぎていきました。
 そっか、道を歩いているときって、意外と他人のことなんて見ていないものなんだ。
 それがわかって、気持ちがかなりラクになりました。

 路地が尽きて、幹線道路の歩道に入りました。
 どこかの駅が近いみたいで、開いているお店も並び、賑わっている、というほどではないにしろ、それなりに人通りがありました。
 少し歩くと交差点があり、信号待ちの人波が出来ていました。
 人波と言っても、10数人ほど。
 お姉さまに手を引かれ、その最前列に立ちました。
 幸い、風は弱まっています。

「平日のお昼時とか、この交差点にもかなりの人数が集まるのだけれどね」
 のんびりしたお声で教えてくださるお姉さま。
 つないでいた手をいったん解き、その手をジーンズのポケットに入れました。
 同時に股間のローターが震え始めます。
「んっ!」
 唇を真一文字に結んで、なんでもないフリを装う私。
 お姉さまは、スイッチを入れたり止めたりして遊んでいます。

「あっ、あそこのふたり、直子に注目しているみたいよ?」
 お姉さまが、軽く顎を突き出して示される視線の先を追ってみます。
 片側3車線の幅広い交差点の向こう側には、こちらと同じくらいの数の歩行者の方々が信号の変わるのを待っていました。
 全員の目がすべてこちらに向いているので、最前列で対面している私は、それらの視線にじっと観察されているような錯覚を覚えました。

 お姉さまがおっしゃったおふたりは、すぐにわかりました。
 年齢は私とそう変わらなそうな、学生さん風男性二人連れ。
 おふたりとも中肉中背で、遠いのでお顔まではわかりませんが、ひとりはリュックを、もうひとりはショルダー掛けのバッグを提げていました。
 リュックの人がこちらを指差し、ショルダーの人に何やら耳打ちしていました。

 交差点をまばらに車が通過して、ミニワンピの裾がそよそよと風に揺れます。
「いい?まっすぐ前を見て、絶対裾を押さえては駄目」
 お姉さまのささやきが、私の右耳をくすぐりました。
「ほら、あたしにもっとくっついていいわよ」
 おっしゃると同時にローターが強く震えだし、ポケットに突っ込んだままのお姉さまの左腕に、自分の右腕を絡めてしがみつきました。

 ようやく信号が変わって歩き始めます。
 ローターは止まっています。
 一歩踏み出すたびに裾がヒラヒラ割れています。
 すれ違う人や追い越す人たちが、チラチラと私の首輪に視線をくれるのがわかりました。
 お姉さまにピッタリ寄り添って、視られていることを充分意識しながら、それでも普通のフリで歩きました。

 学生さん風の二人連れも、向こう側から歩き始めていました。   
 時折何かおしゃべりしては、おふたりともずーっと私たちのほうを向いたまま。
 近づくにつれて、その視線がとくに下のほう、すなわち私の股間周辺に集中して注がれているのがわかりました。
 一歩先を歩くイジワルなお姉さまは、横断歩道を斜めに誘導し、わざとその人たちに近づくように仕向けています。
 その人たちとの距離がみるみる縮まってきました。

 その人たちと絶対目を合わせないように前を見つつも、その視線の行方がすっごく気になって仕方ありません。
 ヒシヒソ話しているのは、お姉さまがおっしゃった通り、股間にチラチラ見え隠れしている黒いものが、陰毛だと思っているからかもしれない。
 そんなふうに考えるともう、いてもたってもいられない気持ちになります。
 あと2メートルくらいですれ違う、というときに、股間のローターが突然震え始めました。
「ぁふぅっ」
 小さく喘いでお姉さまの左腕にギュッとしがみつく私。
 同時に目もつぶってしまったので、すれ違いざまの彼らのリアクションを知ることは出来ませんでした。

 彼らとすれ違った後も、首輪に他の人たちから、いくつかの視線を感じながら、交差点を渡り終えました。
 渡りきった後、お姉さまが一度背後を振り向き、それから再び手をつないできました。

 そこからは、車がすれ違えるくらいの道幅の下り坂になっていました。
 交差点を渡る前の路地よりは、人通りが若干多い感じ。
 お店は開いていたり閉まっていたり。
 ローターは止まっています。

「さっきの二人組、直子のことガン見していたわね」
 お姉さまが少し歩調を緩めて、耳打ちしてきました。
「すれ違うとき、背の低いほうがニヤニヤ笑っていて気持ち悪かった。すれ違った後も振り返って、まだあたしたちのこと見ていたのよ」
 背の低いほうというと、リュックの人のほうです。
 でも、私はと言えば今の体験にドキドキし過ぎて何も考えられず、お姉さまのお言葉にお返事出来ません。

「ずーっと直子の股間ばかり視ていたわよね?たぶんあいつら、直子がノーパンで、マン毛が見えていると思ったのよ」
 お姉さまも私と同じことを考えていたようです。

「いでたちからいってオタクぽかったわよね?あの手の人種は知識だけは豊富だから、あたしたちが何をしているのか、わかっちゃったでしょうね」
「女同士で腕組んで、片方が首輪なんか着けてエロい格好していて、もう片方はそ知らぬ顔で先に立って歩いている・・・」
「すなわち、レズビアンのエスとエムの野外露出調教羞恥プレイ。まあ、あたしたちが今やっていることって、実際その通りなのだけれどね」
「オトコのオタクって、そういう妄想ばっかりしているらしいじゃない。現実で目の当たりにしちゃったから、あの子たち今夜、いろいろと捗っちゃうでしょうね」
 愉快そうなお姉さまの弾んだお声。

 そんなお話をしながら歩いているあいだも、いくつもの通り過ぎる視線を自分の首に感じていました。
 そうです。
 少しでもその手の知識がある人なら、首輪をしている女イコール、マゾ性癖を持つ女、とみなすのです。
 そして、そのマゾ性癖の女がきわどくエロっぽい格好をしていれば、露出願望を持つ視られたがりマゾ女なのだな、とも理解するでしょう。
 自分からしているのか、強制されてイヤイヤしているのかまではわからないでしょうけれど。
 今現在、私がそういう格好、つまり、自分のヘンタイ性癖を赤裸々に露にした格好で、公衆の面前を歩いているという現実に、今更ながら全身の血液がカーッと萌え上がってしまいます。

「見えた見えた、あれね」
 一歩先を歩くお姉さまが指さす先には、地下鉄の駅があることを示すマークがありました。
「あたしもここから乗ったことはないのよね。って直子、なんだか目がトロンとしちゃってる。さてはまた、えっちな妄想をふくらませていたでしょ?」
 お姉さまの冷やかすようなお声。
 私を振り向いてくださったお姉さまを、すがるように見つめました。

「あの、いえ・・・私、あの、さっきから感じっぱなしなんです・・・」
 思い切って正直に告白しました。
「ふーん。視られることが恥ずかしいっていう気持ちより、気持ちいいっていう感覚が勝ってきたのね。いい傾向よ。それこそ直子の本性なのだから。でもまだまだこんなものでは終わらないからね」
 握っていた手を解くお姉さまと、股間の振動に備えて身構える私。

 今日のお姉さまは、かなり本気。
 お部屋を出てから今までのあれこれで、それがはっきりわかりました。
 本気で、公衆の面前で私を辱めようとしている。
 それで私が悦ぶから、私がそれを望んでいるから。
 自分のマゾ性を何に臆することなく、さらけ出せる喜び。
 それを与えてくださるお姉さまに、精一杯お応えしなければ。
 そう考えるようになっていました。

 地下鉄の駅へ降りる階段は狭く、傾斜も急でした。
 そして何よりも風がすごい勢いで吹き上げていました。
 
 その前に立ったとき突風を浴び、私のミニワンピの裾はあっさり大げさにひるがえり、ちょうど上がって来たご中年の男性にパンモロをバッチリ視られてしまいました。
 さすがの私もあわてて前を押さえるほど。
 それでも風に煽られてふくらみつづけるスカート。
 歩道を歩いていた人たちには、丸出しショーツのお尻をしっかり見られちゃったことでしょう。

「まあ仕方ないわね。この風でミニスカの裾を押さえない女性なんて、それこそ頭がヘンだと思われちゃうもの」
 お姉さまも苦笑いで、いったん階段入口の脇にふたりで避難しました。

「おーけー。あたしが先を歩くから、直子は後ろに着いてきなさい」
 愉しそうにおっしゃるお姉さま。
「前も押さえていいわ。ただし、一番下を押さえるのは駄目。そうね、下腹部の、その留まっている一番下のボタンのとこらへんを押さえて、クロッチ前は、はためくようにしておくこと」
「もちろん直子は、完全に隠しきれていると思って余裕の表情をしていること。常にあたしの二段後ろね、それ以上詰めちゃ駄目」
「・・・はい、わかりました」
 お姉さまのイジワル声が一段と愉しげです。

「これからこの階段を上がってくる、とくに男性にはご褒美タイムね。もれなく直子の愛液が滲み出たシミつきパンティのクロッチがバッチリ拝めるの。それをマン毛だと思い込むのも自由」
「何人とすれ違うかは、日頃の直子の行ない次第かしら。あ、それと、前屈み気味に歩けば、すれ違うときおっぱいも覗いてもらえるかもよ?」

 そうなのです。
 強い風を孕んだワンピースは上半身の布も浮かせ、さっきの突風であわてて前を押さえて前屈みになった私の視界には、風を孕んで浮き上がったVゾーンからブラジャーも丸見えだったのでした。
「さあ、行きましょう」
 お姉さまに右腕を引っ張られ、再び階段の入口に立ちました。

 人がやっとすれ違えるくらい狭く、普通の膝丈スカートだったとしても一番下から一番上を見たらスカートの中が覗けちゃいそうな、長くて急勾配な階段。
 その左側をゆっくり下りていくお姉さまの背中を追って、私も下り始めました。
 強い風が正面から、絶えず吹きつけて来ます。
 お言いつけ通り、裾の少し上を押さえ、急勾配なので幾分前屈みになって。
 風が内腿のあいだを吹き抜けて行くのがわかりました。

 三段も下りないうちに、一番下に人影が現われました。
 スーツ姿のご中年サラリーマン風男性。
 休日出勤なのかな。
 通路をうつむきがちに歩いてきて、階段一段目の前でおもむろに上を見上げました。

 まず、前を行くお姉さまに目を留め、つづいてその背後の私にも。
 そこで、おやっ?、というお顔になり、上を見上げたまま、階段の向かって右端の一段に、ゆっくりと右足を踏み出しました。

 距離と勾配と私のミニワンピの裾丈を考えれば、風が吹いていようがいまいが、前を押さえていようがいまいが、あの位置からなら、裾の中身は丸見えでしょう。
 本来であれば、バッグなどを前に持って防御するべき、ミニスカ女性の天敵のような階段でした。

 必要以上にゆっくりと階段を下りていくお姉さま。
 お言いつけ通り、その二段後ろを、少し前屈み気味に着いていく私。
 風を孕むミニワンピース。
 始終左右に割れっぱなしの裾で、剥き出しとなっているクロッチ。
 その男性は私とすれ違うとき、なぜだか少し申し訳無さそうなお顔をされていました。

 最初の階段を下り終えると、少し平地を歩いてまた次の長い階段。
 運が良いのか悪いのか、ちょうど電車が到着した後だったようで、最初の男性につづいて、十数人の人たちと次々にすれ違いました。

 女性にはあまり関心を示されませんでしたが、男性は老いも若きもみな一様に、私を視界に認めたときから歩調が緩くなり、首輪と股間へ交互にチラチラ視線を送ってくださいました。
 その視線を感じるたびに、全身がゾクゾク疼きました。
 すれ違った後にも振り返ってくる気配を感じ、更に前屈みになって胸元を覗き込みやすいような姿勢になってあげたりもしました。

 お姉さまは、ときどき振り向いてはカメラを向けてきました。
 そんなふたりを呆気にとられたお顔でまじまじと見てくるご婦人もいらっしゃいました。
 階段を降りているあいだ中、注がれる視線のすべてが心地良く私を陵辱してくださいました。
 ローターが震えてもいないのに、膣内がヒクヒクしっぱなしでした。

 階段を下りきると風も弱まり、電車が行ったすぐ後なので、数メートル先の切符券売機近くにも人影は無く、私たちの後から階段を下りてきた人たちがちらほら、私たちを追い越して改札を通っていきました。

「かなり注目を集めちゃったわね?」
「お姉さまがお綺麗で、人目を惹いてしまうからだと思います」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。おだてても、直子への命令が甘くなることはないわよ?」
「はい。わかっています」
「たくさん視てもらって、どう?濡れちゃった?」
「あ、はい・・・」
 はしたないけれど真実だから仕方ありません。

「あの階段、下りだったからまだマシだったかもね。上りだったら、下りてくる人からは直子の谷間覗き放題、直子の後ろに着いた人には、パンティのお尻ずっと丸出し状態だもの」
 私の手を取ってゆっくりと、券売機方向へ向かうお姉さま。
 お姉さまのお言葉に、どうせならそれもやってみたいかも、なんて思っちゃう、ふしだらな私。

「あっ!この駅にもあるんだ」
 もうすぐで券売機というところで、お姉さまが立ち止まりました。
 お姉さまがご覧になっている方向にあるのは、駅や街角にたまに設置してある、証明写真の撮影ブースでした。
「ちょうどいいわ。ちょっとここで練習していきましょう」
 お姉さまが謎なことをおっしゃり、私の手を引いてブースに近づきました。

「直子、入って」
「はい・・・」
 開きっ放しのカーテンの向こうに、作り付けの小さな椅子がひとつだけ。
「直子も使ったことあるでしょう?こういう証明写真機」
「あ、はい。学生の頃、何度か・・・」
「お金はあたしが出してあげるからバッグをちょうだい」
「あ、はい」
 肩に提げたビニールトートをお姉さまに差し出して、椅子に腰を下ろしました。

「それじゃあ、閉めるわよ」
「えっ?お姉さまは?」
「そんな狭いところに二人で入っていたらヘンに思われるでしょ?プリクラじゃあるまいし」
 苦笑しながらカーテンが閉じられたと思ったら、ブースの壁とカーテンの隙間から、お姉さまがニュッとお顔だけ入れてきました。

「もうわかっているとは思うけれど、そこでカメラに向かって、おっぱい出しなさい」
 隙間から顔だけお姉さまの、抑えた声でのご命令。
 もちろん、えっ?とは思ったのですが、ご命令には絶対服従なので、一度うなずいてから、胸元のボタンを外し始めました。
 だけど、お姉さまが覗いて撓んでいるカーテンに隙間が出来ていないか、内心気が気ではありません。
 ドキドキしながらおへそ近くまでボタンを外し終えました。

 これからどうすればいいのでしょう。
 ブラジャーも外すのかな?
 考えながら、お姉さまをすがるように見ました。
「ブラを下にずらして、おっぱいを出しなさい。カップを下乳まで下げて」

 お姉さまに促され、ブラジャーのハーフカップ全体をお腹のほうへ引き下げました。
 尖った乳首がプルンと跳ねて、おっぱい全体が露になりました。
 下げたハーフカップに下乳が持ち上げられ、いつもよりひと回り大きく見えます。
「ちゃんとおっぱいまで写るように背筋を伸ばしてね。あと、そのおっぱいの出し方、しっかり憶えておいて」
 そうおっしゃって、お姉さまのお顔が一度引っ込みました。

 カーテンの端が意地悪するみたいにユラユラ揺れて、お外がチラチラ覗けます。
 目の前の鏡に映る、赤い首輪を嵌めて不自然な形に両乳房を露出した不安げな女の上半身。
 カーテン越しに駅のアナウンスや電車が走り去る轟音、人々のざわめきが聞こえてきて、私のドキドキは最高潮。
 どんどん心細くなっているとき、お姉さまのお顔がニュッと、再び現われました。

「はい。お金」
 小銭を渡され、投入口に入れました。
「顔は隠していいから、おっぱいはバッチリ写るようにね。顔は、右の手のひらをカメラに向けて、目と鼻だけ隠しなさい」
「こう、ですか?」
 試しにお言いつけ通りの方法で顔を隠すと、お姉さまからおーけーをいただきました。
「写真撮ったらさっさとおっぱいしまって、元通りに服装直して出てきなさい」
 それだけおっしゃると、お顔がまたひっこみました。

 操作盤の説明に従って、写真を撮りました。
 ストロボが光ったとき、かなりびっくりしてしまいました。
 それから大急ぎでブラジャーを直し、胸元のボタンも留め直しました。
 出来上がった写真は、お外の取り出し口から出てくるということなので、自らカーテンを開けてお外へ出ました。
 写真はすでに出来ていたみたいで、お姉さまがお手に取ってニヤニヤされていました。

「なんだか、どこかの風俗嬢の紹介写真みたいね」
 お姉さまが差し出してきた紙には、両目と鼻付近だけを手のひらで隠したおっぱい丸出し女のバストアップ写真が、無機質な青色をバックにまったく同じ構図で4枚、鮮明に印刷されていました。
 赤い首輪と尖った乳首が淫猥で、ひと目でこの女はマゾだとわかっちゃうように感じました。
 それよりも何よりも、こんな自分の恥ずかし過ぎる写真を、すぐ横を見知らぬ人たちがたくさん行き交う駅の改札近くで見せられていることに、アブノーマルな興奮を感じていました。

「この写真は、あたしが記念にいただくわ。お金を出したの、あたしだもの」
 お姉さまがイタズラっぽく微笑み、ビニールトートをガサゴソし始めました。
「それで、あたしのものっていうことは、あたしがどうしようが勝手っていうことよね?」
 お裁縫セットから取り出したちいさなハサミで、写真を上下2枚づつの二分割にチョキンと切り離しました。

「こっちは、バッグに仕舞って・・・」
 ビニールトートのバスタオル側ではないほうに、写真が透けて見えるようにわざわざ表を向けた形で無造作に突っ込むお姉さま。
「そして、残りのこっちは・・・」
 お姉さまがニッと微笑み、証明写真ブースの中に入り込んで、操作盤の下の狭い台になったところの隅っこに、裏を向けて置きました。

「散歩の帰りにもう一度ここに立ち寄って、この写真が残っているか確認するの。賭けみたいなもの。面白いと思わない?」
 お姉さまの超愉しそうな笑顔。
「つ、つまり、もしかしたらこの写真が、誰かに視られちゃう、ということですよね?」
 自分で尋ねながら、誰かがこの写真をみつけたときの光景を想像して、キュンキュン感じてしまう私。

「この時期に証明写真を撮ろうなんていう人は少ないとは思うけれど、中に入ったら絶対に気づくわよね?それで写真見れば、まあ、オトコなら絶対持って帰るでしょうね」
「直子はどう思う?残っているか、誰かが持っていっちゃうか」
「うーん・・・やっぱりこの時期だと、誰もここを使わなくて、そのままのような気も・・・」
「おーけー。それじゃあ、もしなくなっていたら直子の負け、ということで、特別なお仕置き。それで決まりね。ちょっとここで待ってて」
 お姉さまは、ビニールトートの提げ手を私の左肩まで強引に通した後、お財布だけ持って券売機のほうへと向かいました。

 その背中を見送りながら、私は帰りに再び、あの階段を下りなくてはいけない、ということに、ふと気づきました。
 帰りの頃の私は、いったいどんな姿にされているのだろう・・・
 変わらず下着を着けているとは、到底考えられませんでした。
 
 そして、あの写真があるかどうかを確認したら、今度は電車に乗るのではなく、下りてきたあの急階段を上がって戻らなければならないのです。
 ノーパンノーブラにされていたら・・・
 そのときの自分を思うだけで、頭がクラクラするほどムラムラ疼いてしまいました。


オートクチュールのはずなのに 17


2015年8月14日

オートクチュールのはずなのに 15

 階下へ降りるエレベーターの奥に貼ってあった大きな鏡で、今、自分がどんな姿になっているのか、その全身をまじまじと視ることが出来ました。

 何よりも一番最初に目が行くのは、首に巻かれた赤い首輪。
 えんじ色に近いダークな赤色のベルトにメタリックな銀色の金具。
 着ているフェミニンなワンピースとのコーディネートとしては、明らかに異質な装飾具。
 その違和感が否が応にも視線を引き寄せてしまいます。

 視線を少し下ろすと、濃紺ワンピースの胸元にハーフカップのブラジャーに押し上げられた胸の谷間がクッキリ。
 ウエストを絞ったおかげで上半身のシルエットがふんわり逆三角形となり、バストのふくらみがより強調されています。
 
 ウエストから若干の末広がりとなった裾は、膝上25センチくらい。
 股下でいうと5、6センチ幅くらいの布地が太腿周りを覆っている状態。
 更に最下部を留めるはずのボタンが取り去られてしまい、留まっている一番下のボタンは、ちょうど私の恥丘の位置。
 今はまっすぐ立っているので大丈夫ですが、歩き始めたら両腿が裾を蹴り、ショーツのクロッチ部分が常時チラチラ見え隠れしてしまうことでしょう。

 そんなきわどい着衣の上に、生意気メイクを施された加虐心をそそる顔が乗り、こんなこと自分で言うのは本当にはしたないのですが、見るからにエロくて扇情的、いろいろとえっちな妄想がふくらんでしまう姿だと思いました。

「自分の姿に見惚れちゃってるの?」
 鏡から目を離せない私の背後で、お姉さまがからかいます。
「街に出たら、かなり注目を集めそうな格好よね?えっちなオーラがムンムンしてる」
 愉しそうな声音でお姉さまがおっしゃいました。

 マンション地下の駐車場は誰もいなく、しんと静まり返っていました。
 思った通り、一歩歩くごとにショーツに直に空気があたる感触があり、両腿のあいだがスースーします。
 
 助手席に乗り込もうと、腰を曲げた途端にワンピースの裾が全体にせり上がりました。 
 腰掛けると前立てが派手に割れ、銀色ショーツのクロッチ部分が剥き出しとなりました。
 座るために脚を大きく開いたとき、ラビアが開いて漏れ出してしまったようで、クロッチ中央の私のワレスジと同じ位置に、一筋の濡れシミが黒くクッキリ浮き出て、その先端部分が僅かに見えていました。
 全身がカッと熱くなり、あわててビニールトートバッグを膝の上に乗せ、その部分を隠しました。

 お姉さまは、それについては何もおっしゃらず、滑るように車が発進しました。
 お外は相変わらずの曇り空。
 でも雲の切れ間ところどころに青空も覗いていました。
 時刻は午後の2時15分。
「この感じなら、雨降らないかもしれないわね」
 人も車もまばらな街並みを、快調に車は進んで行きます。

「昼間の街中で露出遊びするなんて、アユミのとき以来かな。すごく愉しみ」
 信号待ちで停まったとき、お姉さまが独り言みたいにおっしゃいました。
「アユミとしたのは横浜だったから、東京では初めてよ」
 今度はしっかり私に向いて、語りかけてきました。

「アユミさんとは、どんなことをされたのですか?」
 ワクワクとドキドキのリズムが急激に跳ね上がり、思わず聞いてしまいます。
「そんなこと、今教えちゃったら面白くないじゃない。安心なさい。これから直子に身をもってひとつひとつ体験させてあげるから」
 イタズラっぽく微笑むお姉さま。
 安心どころか、不安のドキドキがよりいっそう高まる私。

「思った通り、道路も空いているわね。普段はなかなか停められないコインパーキングもガラガラだし」
 再び走り出して前を向いたままのお姉さまが、気怠そうにおっしゃいました。
「まあ、連休最終日でこんなお天気じゃ、仕方ないか。でもせっかくそんなエロい格好してきたのに、あんまりギャラリーが少ないと、直子もつまらないでしょう?」
 冷やかすようにおっしゃいながらハンドルを右に切るお姉さま。
 
 道幅の広い幹線道路から、小さめなビルが建ち並ぶ路地へと入っていきました。
 すぐにビルの谷間の空き地のようなコインパーキングに侵入して駐車。
 走り始めてからまだ10分も経っていませんでした。

「さあ、ここからいよいよお散歩開始ね」
 エンジンを切って静まり返った車内に、お姉さまの嬉しそうなお声が響きました。
 車に乗っているあいだ、別にこれといってえっちなイタズラをされなかったことが、かえって不気味です。

「あの、えっと、ここって、どの辺なのですか?」
 お姉さまのご様子を探りたくて、とりあえず車から降りるのを引き伸ばそうとする私。
「うーん、 麹町というか半蔵門というか、まあその辺」
 そうおっしゃられても、東京の地理に疎い私には何が何やら。

「ここにひとまず車を停めて、これから地下鉄に乗って永田町まで行くの」
「えっ?私、この格好で電車に乗るのですか?」
 尋ねながら体温がグングン上がっていくのがわかりました。
「そうよ。それで永田町界隈をうろうろ散策しつつ、またここまで歩いて戻ってくる。距離的にはひと駅ぶん。永田町って知っているでしょ?国会議事堂とか首相官邸とかがある」

「・・・はい、それは一応」
「この辺り一帯はビジネス街プラス官庁街だから、平日昼間と夜との人口差が20倍なんて言われているのよ。つまり企業や官庁が休みの休日は、普段の二十分の一しか街に人がいなくなっちゃうわけ」
「ほどよく閑散としていて、直子の街角露出デビューにはうってつけじゃない?」
 お姉さまがシートベルトを外し、私のほうを向きました。

「手始めにそのパンチラワンピで電車に乗って、直子に慣れてもらおうかと思うのよ、他人から視られることを」
 後部座席に置いたご自分のバッグをガサゴソさせつつ、お姉さまがおっしゃいました。
「その首輪だけでも、かなり人の目を惹きつけちゃうでしょうね。その上、谷間見せつけーの、ミニスカ裾割れパンチラだもの。視線独り占め間違いなし」
 お姉さまが冷やかすようにおっしゃいました。

「アユミたちと遊んだときの経験から言うと、直子は、視たければいくらでも見せてあげる、くらいの気持ちで堂々としていればいいわ」
「必要以上に照れたり恥ずかしがったりしていると、逆に目立って、勘違いしたオトコどもがちょっかい出しやすいスキが出来ちゃうから」
「あと、一緒にいる友人たち、今日の場合はあたしだけれど、と親密な雰囲気を醸し出していると、不思議とギャラリーがみんな遠巻きになるのよね」

「まあ、そのへんはあたしに任せて、直子は、誰かの視線を感じたら、その視線に臆さないで、自分の性癖に正直に、もっと視て、って思っていればいいの。事実、直子は露出狂のヘンタイで、視られたくて仕方ないマゾ女なのだから」
  お姉さまが私の顔をじっと覗き込んできました。
「ずっと妄想で思い描いていた恥辱の悦びを現実で味わうのよ?それも、これまでにない大勢の人の前で。愉しみでしょ?」

 お姉さまからのご説明のひとつひとつが、私の淫らな官能を強烈に揺さぶりました。
 私がこれから街に出てしようとしていることを、生々しく頭に思い描くことが出来ました。
 思い描くだけならば自由ですが、実際に街に出てやってしまったら、それは明らかに異常、アブノーマル。
 私、これからどうなってしまうのだろう・・・
 内腿のあいだが痺れるように、ムズムズウネウネ疼きました。

「・・・はい」 
 お姉さまに対するそのうなずきは、自分が露出マゾとして新たな一歩を踏み出す覚悟を込めたものでした。

「念のため再確認しておくわよ?散歩のあいだ、直子はあたしの言葉に絶対服従、でも、だって、は全面禁止。何を命令されても粛々と従うこと」
「あ、はい・・・」
「なんだか気のない返事だけれど、これはね、街中での露出遊びでは凄く重要なことなのよ?下手したらふたりともハンザイ者になってしまうのだから」
 真剣なまなざしで、怖いお顔になられたお姉さま。

「たとえばあたしがあるタイミングで、ここでおっぱい出しなさい、って命令したとするでしょ?だけど直子がグズグズしていると、どんどん周りの状況が変わってしまうわけ」
「あたしは、周りの状況を見計らって、ベストのタイミングで命令したのに、グズグズモジモジされると、その振る舞いが悪目立ちして、人が集まってきちゃったりすることになる」

「それで通報されたりしたら、あたしも直子も望んでいない状況になりかねないの。直子があたしを信頼して、すべてを委ねてくれないと」
「脱いで見せても大丈夫そうな相手、場所、なのか、みたいな状況判断は、あたしが真剣にするからさ、それを信頼して、すべて、あたしの言う通りに動くドレイに成りきりなさい」

 おでこがくっつくほどお顔を寄せ、私の瞳を見つめてくるお姉さま。
「わかりました。お姉さまのご命令にすべて従います」
 私の露出願望を満たそうと、とことん真面目につき合ってくださるお姉さまの真摯なご忠告を、とても頼もしく感じました。

「おーけー。それじゃあ最初の命令。直子の剥き出しマゾマンコにローターを突っ込みなさい」
 冷たくおっしゃったお姉さまが、ハンディカメラを私の股間に向けてきました。
「パンティのクロッチちょっとずらして、脇から挿れなさい」
「・・・はい」

 絶対服従の私は、ビニールトートからピンク色のローターを取り出し、一度しゃぶりました。
 それからワンピースの裾をまくり、銀色ショーツのクロッチを右内腿のほうへずらします。
 膣口を指先で抉じ開けると、中からねっとりとした熱いおツユが滲み出てきて、指先を濡らしました。

「はぅぅ」
 楕円の物体を指でワレメへと圧し込むと思わず小さくため息が洩れ、先っちょの紐だけを覗かせて楕円全体がズブリと膣内に隠れました。
 溢れ出たおツユがショーツとシートを汚しました。

「あらあら、瞬く間にパンティにシミが滲んじゃったわね」
 同時にローターが最強で震え始めました。
「ぅぁあぅうぅ」
「黒いシミがどんどん広がっていく。本当にいやらしい子」
 蔑むようなからかい声とともにローターがピタッと止まりました。
「裾を戻しなさい」
 裾を戻すと、左右に割れた前立てのあいだから、微かにショーツの先端が黒く覗いていました。

「直子がサカっている証拠の、そのパンティ先っちょの黒いシミって、ワンピの隙間から見えたら絶対、マン毛だと思われるでしょうね」
 わざとらしいお下品口調で私を嘲るお姉さま。

「ローターが突然震えても、出来る限り普通のフリをすること。感じても感じていないフリ。そのほうがあたしが萌えるから」
「せっかく生意気顔メイクしてあげたのだから、今日はツンデレ風でいきましょう。もちろんデレるのはあたしにだけ。街中ではツンツン直子ね」
 お姉さまの愉しげな瞳は、完全にエスの人のそれになっていて、加虐の炎が舌なめずりするみたいにチロチロと揺れていました。

 車を降りる前にお姉さまは、ビニールトートバッグにお化粧ポーチとお裁縫セットも突っ込みました。
 ご自分は右手にハンディカメラだけ、私は左肩にビニールトートを、もちろんバスタオルの側をお外に向けて提げ、コインパーキングのコンクリートに降り立ちました。

 7、8台駐車出来そうなコインパーキングに停まっている車は2台、私たちが3台目。
 敷地内にも、入ってきた路地周辺にも人影はまるでありません。
 周囲には5、6階建てくらいの小さめなビルが立ち並んでいました。
 遠くで車の走る音が小さく聞こえるのは、たぶんさっき走ってきた幹線道路からのものでしょう。

「出かける前に、まずはここで記念撮影しておきましょう。直子の記念すべき初、都心露出散歩のスタートなのだし」
 お姉さまが辺りをキョロキョロ見回してから、カメラを構えておっしゃいました。
「そこに立って」
 指さされたのは、コインパーキングのチェーン店名を記した大きな看板の前でした。
 その看板は、路地から曲がって駐車場へと入る入口ゲートの、ちょうど真正面奥に立っていました。

 トートバッグを左肩に提げたまま、その看板の前に立ちました。
 お姉さまが私から2メートルくらい離れた正面に来て、カメラを構えました。
「笑わなくていいからね。カメラを睨みつける感じで。今日はツンツン直子だから」
 写真を撮っているのかビデオなのか、ずっとカメラ脇のモニターを凝視したまま、お姉さまがおっしゃいました。
 お言いつけ通り、真面目な顔でレンズを睨みました。

「うーん、ただ突っ立ってるだけじゃ面白くないわね。スカートまくってパンツ、おっと、パンティ見せなさい」
「えっ!?」
 一瞬うろたえて躊躇してしまった私に、すかさずカメラを下ろしたお姉さまからツッコミが入りました。

「ねえ?さっきの話をもう忘れちゃったの?あたしが何か言ったら、直子はどうしなければいけないのだっけ?」
「あ、はい。ごめんなさい。お姉さまのお言葉には絶対服従です」
 あわててワンピースの裾に両手をかけました。

「そう。命令、即、実行。タイムラグは一切認めないから」
 お姉さまが、カメラを構え直し、モニターを覗き込みました。
 私もあらためて、完全に覚悟を決めました。

 マゾの服従ポーズをするときのように、両足を、やすめ、の形に開きました。
 両手でワンピースの裾を握り、その両手を少しずつ上げていきます。
 うつむいてみても持ち上げた裾が邪魔をして、自分ではどのくらいショーツが見えているかはわかりません。

「うつむかないの。まっすぐこっちを見て。もっと上までまくりなさい。おへそが見えるくらいまで」
 お姉さまのご命令をいちいち忠実に実行します。
 お腹に直に空気が当たる感触がするので、小さな銀色ショーツは丸出しのはずです。

「黒ずんだシミがさっきより広がっているわよ?パンティのフロント全体に。こんなことでもう感じちゃったの?」
「いえ、あの、はい・・・ごめんなさい」
「それに、何?そのいやらしい、泣きそうなマゾ顔。もうちょっとまともな顔出来ないの?」
「あ、はい、ごめんなさい・・・」
 そのお言葉に開き気味だった唇を一直線に結び直し、一生懸命カメラのレンズを睨みました。

 そのとき、視界の右端に動くものを捉えました。
 私の正面は、コインパーキング脇の路地。
 その路地をひとりの男性が向かって右のほうから歩いてくる姿が、敷地と路地を隔てる格子の鉄策越しに見えたのでした。
 ドキン!
 実際に肩がビクンと震えるくらい、心臓が飛び跳ねました、

 姿をみつけたときからもはや目が離せなくなり、視線がその姿を追ってしまいます。
 その男性は、けっこう若い感じで、グレーのスエット上下というラフないでたちなので、地元のかたでしょうか。
 携帯電話を片耳にあてて何やらお話しながら、リラックスされた感じで路地を歩いてきます。

 鉄柵が途切れて駐車場入口となり、再び鉄柵が始まるまでの幅3メートルくらいの空間では、その人と私を隔てる目隠しとなりそうなものは、お姉さまの背中しかありません。
 その空間に差し掛かったとき、その人がふっとパーキングのほうに目を遣れば、ほんの5、6メートル先に、たやすく私の姿を認めることでしょう。
 自らワンピースの裾をまくり上げ、えっちなおツユで汚れた銀色ショーツを、カメラに向かって丸出しにしている私の姿を。
 もちろん、それ以前の鉄柵の格子越しでも、こちらに目を向ければ私が何をしているのかは、充分に認識できるはずです。

 私の目の動きで、背後の路地に誰か現われたのは充分ご承知のはずなのに、お姉さまから、裾を戻してよい、というお許しは出ませんでした。
 ずっとカメラのモニターを覗きこんだまま。
 その唇が薄く微笑んでいらっしゃるように見えました。

 男性は、もう入口のすぐそばまで進んでいました。
 お電話しながら、そのお顔がフラフラ動くたびに、私の心臓がドッキンドッキン飛び跳ねます。
 どうか気づかないで、そのまま通り過ぎてください・・・こっちを視ないで・・・
 同じ言葉を心の中でお祈りのようにくりかえしました。
 裾を握る両手が、小刻みに震えていました。

 その男性が現われてから視界左端に消えるまで、実際には十数秒ほどだったでしょう。
 でも私には、永遠のように長い時間に感じられました。
「スカート、戻していいわよ」
 お姉さまのお声を聞いた途端、からだ中の力が一気に抜け、その場にへたり込みそうでした。

「誰かその道を通ったみたいね?」
 お姉さまが背後を振り返り、路地を指さしました。
「は、はい・・・」
「直子ったら目がオドオドしちゃって、すごいキョドりかただったわよ。オトコ?オンナ?」
「男性です・・・」
「で、直子のことを見たの?」
「いえ・・・気がつかなかったみたいです。携帯電話に夢中だったみたいで、そのまま通り過ぎていきました」
「そう。それは残念だったわね」
「いえ・・・それは別に・・・あの、でも・・・はい・・・」

 その人が私に気づかないまま駐車場入口を通り過ぎ、鉄柵の陰に隠れそうになったとき、私は急に、気づいてもらえないことが、残念に思えてきました。
 お外でこんな破廉恥な姿を晒している私を、視て、驚いて、呆れて、蔑んで欲しいと、心の底から望んでいました。
 さっきまでとは正反対に、遠ざかっていくその人の背中を目で追いながら心の中で、私を視て、このいやらしい姿に気がついて、って、見えなくなるまでお願いしました。
 
 そして、そんなことをお願いしてしまっている自分のどうしようもないマゾ性に、甘美な陶酔を感じていたのも事実でした。
 その人が男性だったのに、不思議と怖さを感じなかった理由が、お姉さまが傍にいてくださるから、なのも間違いありません。

「あたしが、残念だったわね、って言ったのは、そのオトコに対してよ。ちょこっと顔をこっちに向けさえすれば、間近で凄いヘンタイ女の姿を拝めたのにね、って」
 お姉さまが呆れたようにおっしゃいました。

「そっか。直子も視てもらえなくて残念だったんだ。キョドりながらも妙に艶かしい淫らなドマゾ顔だったのは、そういうワケなのね?」
「・・・は、はい・・・」
 自分でもコントロール出来ないほど、辱めを受けたい、という欲求が全身を駆け巡っていました。
「今日の直子は、完全に露出狂モードが覚醒しちゃったみたいね。愉しみだわ。良い絵がたくさん撮れそう」

 お姉さまの左手が私の右手をギュッと握りました。
「さあ、出発しましょう」
 恋人同士のように肩を寄せ合う今日のふたりは、ご主人様と、その言いなり露出ドレイ。
 股間のローターが緩く振動し始めて、私は一瞬ビクン。
 それでも、お言いつけ通り極力、何でも無いフリを取り繕って、昼下がりの街中へと一歩踏み出しました。


オートクチュールのはずなのに 16


2015年8月2日

オートクチュールのはずなのに 14

 私の舌と指で精一杯ご奉仕して、お姉さまに心行くまでご満足していただいた後、ふたりで軽くシャワーを浴びました。
「今日は直子の裸を、街の景色の中で視ることが出来るのね。愉しみだわ」
 私の全身をボディソープのヌルヌルで、やさしく愛撫してくださるお姉さま。
「そういうアソビにつきあうのって久しぶりだから、なんだかドキドキしてきちゃった」

 お姉さまが背後から抱きつくみたいに、からだを合わせてきました。
 お姉さまの乳首が硬くなっているのを背中に感じます。
 私もさっきのお姉さまのお言葉で即座に、都会のビル街の一角に全裸で立つ尽くす自分の姿を想像し、不安と期待がシーソーみたいにぎっこんばったんしていました。
 泡まみれのからだをピタリくっつけ滑らせて、しばらくその心地良い愛撫に身を任せました。

 バスルームから出てからだを拭いているとき、お姉さまが私を見ながらおっしゃいました。
「だけど慎重にやらないとね。もしもそのスジの人にみつかったら、ややこしいことになっちゃう。あたしたちが、と言うか、直子がこれからしようとしていることって、コーゼンワイセツっていう、一応立派なハンザイだもの」
 その現実的で不穏な内容とは裏腹に、お姉さまのお声はウキウキ弾んでいるように聞こえました。

「あたしはこれから寝室で、出張の準備も含めていろいろ荷造りしてくるから、直子も自分の荷物をまとめておいて。もうここへは戻らず、夜には池袋へ向かうから」
「はい」
「冷蔵庫に残っている食材は、直子が持って帰って。あたしはまた当分戻れないから。あ、直子のオモチャはまだ仕舞わないでね。いくつか今日使いたいものがあるから」
「・・・わかりました」
 全裸のままスタスタ寝室へ向かうお姉さまの背中をお見送りしつつ私の右手は、シャワーの前に外した赤い首輪へと自然に伸びていました。

 キッチンとソファー周辺をお片づけしてから、お洗濯ものを取り込みました。
 お外は相変わらず、どんよりジメジメでしたので、タオルもお姉さまのワンピースも生乾きでした。
 それらを窓際に吊るし直してから、さて、と考えました。

 外出するのですから、当然何らかのお洋服を着ることになるはずです。
 一昨日、お姉さまのお部屋に伺った目的が、全裸家政婦、で当然ずっと裸でいるつもりでしたから、来たときに着てきた前開きのミニワンピース以外、着替えは持ってきていませんでした。
 となると、選択肢はそのミニワンピしかないのですが、このお部屋では、お姉さまのお許しがないと着衣は認められない決まりです。
 なので私は裸のまま、お姉さまの準備が終わるのを、ソファーに浅く座って待ちました。

 待っているあいだも、いろいろ考えました。
 おそらくお姉さまは、ノーパンノーブラ、ミニワンピ一枚でお外に出るようにご命令されるだろうな。
 そうなると私は、一昨日のスーパーでの恥辱を、昼間の街中でもう一度味わうことになりそう。
 ボタンをジワジワ外されて、誰かいるところで前を開くようにご命令されて・・・
 妄想がどんどんふくらんで、全身がぐんぐん火照ってきました。

「お待たせー」
 大きめなカートといつものバーキンバッグを手にしたお姉さまが、リビングに戻ってこられました。
 着古した感じのスリムなウォッシュアウトジーンズに黒Tシャツ、その上に、これも着古した感じのタンガリーシャツを羽織っています。
 こんなにラフなコーデのお姉さまを見るのは初めて。
 でもカッコイイ!
「雨になるみたいだからね、濡れてもいい感じでざっくりしてみた」
 驚いたような私の視線に気がつかれたのか、お姉さまが言い訳するみたくおっしゃいました。

「準備は終わった?」
「あ、はい。一応・・・あの、お姉さま?」
「ん?」
「私もお洋服を着て、よろしいでしょうか?」
「なあに?あたしの許しが出るまで着ないで待っていたの?いい心がけじゃない」
「・・・はい、決まりですから」
「さすがのあたしも、この部屋からずっと裸のまま街中を連れ回す勇気は無いわ。着ていいわよ」

「何を着ればよいのでしょう?」
「えっ?あのミニワンピ以外に何か着替え持ってきているの?」
「いいえ」
「それなら、それしかないのじゃなくて?」
「あ、はい。それで、下着は・・・」
「ああ、そういうことね。ちょっと待って。あたしに考えがあるから」
 お姉さまが嬉しそうに薄く笑って、バーキンの中から何か小さめな箱を引っ張り出しました。

「まずは下着ね。初日に穿いていた黒以外、替えの下着も持ってきているの?」
「はい。一応お姉さまがお店で見立ててくださった他の3種類は持ってきました」
「ああ。フロントホックのストラップレスブラと紐パンね。どこでもこっそり脱ぎやすいっていうコンセプトの。確か前割れとかスケスケのパンツもなかったっけ?」
「はい・・・ありました」
「それしか持ってきていないということは、あたしといるときはいつでも、直子は下着を脱ぐ気満々ていうことなのね。やらしい子」
「そ、そんなつもりではありません・・・」
「うふふ。最初から露出マゾ全開でいくなら、ノーパンノーブラでワンピだけ着ててもらったほうが手間が省けるのだけれどさ、今日は直子に、何て言うのかな、合法的な辱めも存分に味わってもらおうかなって考えているの。そのためには、脱ぎやすい下着だとつまらないのよね」
 お姉さまの唇両端が、イジワルそうに少し吊り上がりました。

「スケスケも前割れも、それはそれで面白いのだけれど、それは次の機会にして、今日はあたしの下着を貸してあげる。安心して、買って一回しか身に着けたことないやつだから」
「ちょっと待ってて」
 お姉さまがそそくさと寝室に向かわれました。
 さっきからお姉さまがおっしゃっていることの意味をほとんど理解出来ていない私は、お姉さまの下着をお借り出来るんだ、どんなやつなのだろう?私なんか想像も出来ないほどのえっちさだったりして、なんて考えながらドキドキ待ちました。

「はい、これ」
 お姉さまが差し出されたのは、グレイというよりシルバーと呼ぶべきテラテラ光沢の有る生地で出来たブラジャーとショーツでした。
 ショーツに触ってみると、この滑らかさは明らかにシルク。
 縁取りとかにレースっぽい装飾も施してあって、ゴージャスなのに可愛いらしい感じです。

「ブラは、直子にはキツイはず。直子のほうがボインだものね。まあ、ハーフカップだからなんとかなると思う」
「それに直子、そういうのも好きでしょう?おっぱい締め付けられるの。最初にお店来たときもそうだったものね?」
 お姉さまがからかうように笑いながら、ショーツとお揃いのブラジャーも手渡してくださいました。
 私が早速身に着けようと、まずショーツを広げて身を屈めようとしたら、お姉さまから、待った、がかかりました。

「このワンピなのだけれどさ、何か物足りないのよね。ゆったりめだからシルエットがストンとしちゃって、いまひとつ色っぽさに欠ける気がするの」
 昨日お洗濯して壁際に吊るしておいた私のミニワンピースをはずし、私に手渡してきました。

「下着着ける前に、ちょっと着てみてくれる?あ、全体を裏返しにしてね」
 お言いつけ通り裏返しにしてから、両袖を通して羽織りました。
「ウエストを絞るともっと可愛くなると思うのよ。あたしが応急処置してあげる。たぶん、いい感じのシルエットになるはず」
 羽織り終えると、お姉さまの両手が前を合わせてきました。
「ボタンも嵌めてね。胸元からおへそあたりまででいいから」
「あ、はい」
 裏返しになって、ボタンと穴との関係がややこしくなっている前立てを、苦労してちまちまと、なんとか留め終えました。

「おーけー。そのままじっと立っていて。針を使うから動くと危ないわよ」
 お姉さまがメジャーと、カップケーキみたいな形の可愛らしい針山を持って近づいてきました。
 さっきお姉さまがバッグから取り出した箱は、お裁縫セットだったようです。

「こんなものかな・・・うーん、もう少し詰めちゃおうか・・・」
 お姉さまが小声でブツブツおっしゃりながら、私のウエストにメジャーを当て、針山から抜いたマチ針で手際良く布を留めていきます。
 さすが元服飾部部長さまで、今はアパレル会社の社長さま。
 その手馴れた手つきに見惚れつつ、じーっと眺めていました。

「これでよし、っと。脱いで」
「あ、はいっ」
 一歩離れたお姉さまの一声が聞こえ、あわててまたちまちまと、ボタンを外し始めました。
「あたしはこれをちゃちゃっと縫っちゃうから、直子はそのあいだに下着を着けちゃいなさい」
「わかりました」
 ワンピとお裁縫箱を持ったお姉さまがダイニングのほうへと移動し、裸に戻った私は、お姉さまがご用意くださった銀色の下着たちに再び手を伸ばしました。

 確かにブラジャーは、少しきつめな感じがしました。
 ハーフカップなので下乳を持ち上げる形になり、その分普段より、上から見るとおっぱいの谷間がクッキリ出来て、強調されています。
 これでワンピースを着てVゾーンを広めに開けたら、かなりエロそう。
 生地が薄いので、私の尖った乳首だとカップの上からでもその位置が、かすかに突起していました。
 でもワンピースを着ちゃえば、たぶんわからなくなるでしょう。

 ショーツのほうはローライズ気味ながら、いたって普通な感じで、下腹部とお尻をしっかり覆ってくれていました。
 ブラジャーもショーツもすごく肌触りが良く、着け心地はいい感じ。
 ただ、およそ二日ぶりの下着の布地の感触に皮膚がとまどっているみたいで、なんだかこそばゆい。
 そう言えば、お姉さまも一度着けたことがある、っておっしゃっていたっけ、なんて思い出し、キュンと感じちゃいました。

「出来たわよー」
 ワンピースを手にしたお姉さまが戻っていらっしゃいました。
「おおお、直子ったらまたいっそう、ボインちゃんになっちゃって」
 ハーフカップで下から持ち上げられた私の谷間を指さして、お姉さまがからかいました。
「はい、着てみて」
 お直しされたミニワンピースを手渡され、そそくさと腕を通す私。

「お姉さま、すごいです。ほんの少しの時間で、こんな見事にお直しが出来てしまうなんて」
 両袖を通しただけで、ワンピースが生まれ変わっているのがわかりました。
 ルーズめなシャツワンピだったのに、ウエストを詰めただけで、ゆるふわな感じのフェミニンワンピに様変わりしていました。
「ボタンも全部留めてみて」
 ご自分の成果にニコニコ満足そうなお姉さま。
「はい」

 上からボタンを留め始めると、お姉さまの意図がだんだんと見えてきました。
 ウエストが絞られ胴回りがタイトになり、その分バストとヒップ部分は前にも増してゆったりめ、つまり布地が肌から浮いた状態になっていました。

 たとえばVゾーンを開け過ぎたら外部から中身が覗けやすいし、スカート部分も前より横に広がりがちなので、よりひるがえりやすい状態。
 もしもこのワンピースをノーパンノーブラで着たなら、以前よりも容易に、生おっぱいや生お尻が露出しやすいルーズフィット状態になっていたのでした。
 なるほど、だからお姉さまは、まずは下着をちゃんと着けるようにご命令されたのでしょう。
 このワンピースでお外に出て、ノーパンノーブラにされてしまったときのことを考えると、頭がクラクラしてきます。
 それでもなんとかがんばって、震える指でボタンを留めつづけました。

「あの、お姉さま?」
 9個のボタンを嵌め終わり、最後のひとつを嵌めようとしたとき、気がつきました。
 10個目のボタンが、無いのです。

「ん?なあに?」
 ソファーに腰掛けたお姉さまが、満面に笑みを浮かべて私を見ました。
「あの、一番下のボタンが無いのですが・・・」
「あ、それね。ごめんごめん。さっき縫っていたとき、そこのボタンだけ取れそうだったのに気づいて付け直そうと思って、いったん取ったのよ」
 ニヤニヤ笑いなお姉さまの、白々しいお芝居口調。

「そしたら誤って落としちゃって、床の上をコロコロって。いくら探してもみつからないの。仕方が無いからそれでがまんして」
 お姉さまのてへぺろは、ちっとも可愛くありませんでした。
 
 一昨日のスーパーから駐車場へ戻るときの夜道を、あざやかに思い出していました。
 ここのボタンが留まっていないと、割れた隙間から私の股間が、一歩歩くたびにチラチラ覗いてしまうはずです。
 その上、ウエストを絞ったために布地が引き攣り、裾全体も以前より1、2センチ短かくなっていました。
 広がり気味フンワリめとなったこととも相俟って、今だって、ちょっと動いたら両腿の付け根付近が覗きそうでした。
 ありったけのジト目でお姉さまのお顔を睨みました。

「なーんてね。いいじゃない?パンツ穿いているのだから」
 お姉さまも薄笑みを引っ込め、まっすぐに冷たい視線を合わせてきました。
「合法的な辱めっていうのは、そういうこと。パンチラならハンザイではないもの。直子も、ボタン嵌めていないことに気づいていないフリをして、平気な顔して歩けばいいのよ。そういうの、得意でしょ?直子は」
「で、でも・・・」

 お姉さまから強気に出られると、すぐ、本来のドエムに戻ってしまう私。
「見せたがり露出マゾなのだから、パンツくらい、いくらでも見せてあげればいいじゃない。まあ、いずれ、そのパンツだって脱がなくてはいけないことになるのだけれどね。それも、こっそりとではなくて、街中で、大胆に」
「そのために、脱ぎやすい紐パンではなくて、普通のパンツを穿かせたのよ。どう?愉しみでしょ?」
 イジワルさ全開のお姉さまからの淫靡なお言葉が、私のマゾ性をブルブル揺さぶって、それ以上の抵抗を諦めさせました。

「事前のネタバラシはこれくらいにして、最後の仕上げをしましょう。こっちに来て」
 お姉さまがまた、バッグから何かを取り出し、腰掛けているソファーの横をトントンと指さしました。
「は、はい・・・」
 私が横に腰掛けると、お姉さまがテーブルの上にお化粧ポーチを広げました。
「これからすることを考えると、やっぱり多少は、リスク回避の策も施しておかないとね。いくら人口が多い東京砂漠とは言え、万が一直子を知っている人に視られてしまう可能性もあるわけだから」
 おっしゃりながら、私の顔をメイクし始めるお姉さま。

「それでなくてもこんな真っ赤な首輪嵌めて、否が応でも人目を惹くマゾ丸出しの姿でお散歩するのだから、とくにヘンなオトコどもが近寄り難い雰囲気を作っておかないと」

 そうでした!
 すっかり慣れきってしまっていましたが、私、この首輪も嵌めたままお外に出るのでした。
 ファッショナブルなチョーカーとは明らかに一線を画す、見るからにペット用な赤い首輪。
 すっごく目立って、ジロジロ視られちゃうのは間違い無さそう。
 それは、私にとって生まれて初めての経験です。
 一昨日の夜もしたことでしたが、夜と昼間とは大違いでしょう。
 そして、3日間首輪を嵌めていること、とお姉さまとお約束した以上、私に拒める術はないのでした。

「直子って、いつもナチュラルメイクでしょう?オトコが一番声掛けやすいのがナチュラルメイクなんだって。オトコってすっぴん美人が大好きだから。でも、街行く女子のほとんどは、ナチュラルっぽい厚塗り化粧なのよね」
 苦笑しながらおっしゃるお姉さまと、されるがままの私。
「うちのスタッフと、そのへんを研究したことがあってさ、オトコが近寄らないメイクってどんなのだろう、って。それで出た結論のひとつが、失敗メイク。塗りたくって、すっぴんより残念になっちゃうメイク」
「もうひとつが、どちらかと言うとお水寄りのゴージャスメイク。こっちは、奇麗な人がすると本当奇麗になるの。なのに、気後れしちゃうのか怖がっちゃうのか、オトコは寄ってこない、遠巻きにするだけ」

「はい。出来た」
 お姉さまが間髪を入れず、目の前にコンパクトをかざしてくださいました。
「えーーっ!」
 ひと目見てびっくり、これが私?

 いつもより小さめに、でも艶やかなツヤツヤローズピンクで塗られたルージュ。
 アイラインパッチリ、睫毛クルクル、眉毛クッキリ。
 チークがずいぶん色濃くて、いつもより顔が細く見えます。
 お姉さまがドライヤーで髪の分け目を変え、左サイドに流してくださいました。
 鏡を覗いての全体の印象としては、なんだかこの女、生意気そう。

「うん。けっこう化けたわね。意識して顔にメリハリつけたから、予想通りハーフっぽくなって、その上、妖艶にもなったわ。それでツンと澄ましていれば、首輪していようがパンツ見せていようが、ビビッて誰も声かけてこないはずよ」
 お姉さまが愉快そうにおっしゃいました。
 私的には、やり過ぎな感じもしましたが、お姉さまが良いとおっしゃってくれているし、確かにこれなら私を知っている人でもわからないだろうな、とも思い、いいことにしました。

「ちょっとあたしを睨みつけてみてよ、さっきみたいに」
 お姉さまにせがまれて、ワザと取り去られた一番下のボタンのことを思い出し、同じようなジト目をしてお姉さまを見つめました。
「うわ、生意気そう。あたしこれから、この生意気な女を好きなだけ虐めていいのよね?すっごく愉しみ。めちゃくちゃやって泣かせてやりたい」
 お姉さまも今の私の顔に関して、私と同じご感想をお持ちになったようでした。

「本当、直子とのアソビって面白い。メイク変えただけで、これだけ盛り上がれるのだもの。あたし今、この生意気女を辱める方法が次から次へと湧き出てきている。直子があたしのパートナーで、本当に良かったわ」
 お姉さまからの嬉しいお言葉に悦ぶべきか、ちょっぴりフクザツ。
 だけど何よりもお姉さまが愉しそうなので、これもよしとしました。

「はい。直子はこのバッグを持ち歩くのよ」
 お化粧ポーチをバーキンに仕舞った後、お姉さまから今度は、少し小さめなトートバッグを渡されました。
 持ち手のラインと縁取りが濃いブルーで、バッグそのものは水色の透明なビニールで出来たトートバッグでした。
 中にはすでに、白いバスタオルとビニールシートのようなものが入っていました。

「それで、これと、これと・・・」
 お姉さまがしゃがみ込み、ソファー周辺に並べておいた私がお家から持ってきた虐め道具のうちのいくつかを、無造作にそのバッグに詰め始めました。
 リモコンローターふたつ、円錐形のバイブレーター二個、アナルビーズ、手錠、首輪のリード、短いロープ、木製洗濯バサミたくさん・・・
「あ、あの、お姉さま?・・・」
 あわてる私の声も聞こえないフリで、それらがバッグに詰め込まれ、最後にお姉さまのお財布が入れられました。

「あたしのお財布も入っているのだからそのバッグ、絶対に失くさないでよね?」
 お姉さまにビニールトートバッグを手渡され、しげしげと眺めました。
 バッグの片方の面は、バスタオルの白地が全面に見えていて、何の問題もありません。
 でも裏返すと、先ほどお姉さまがお入れになったおどろおどろしいお道具たちが、水色のビニール越しに透けて見えていました。
 ピンク色した卵型の物体、見るからにえっちぽい銀色の円錐形、鎖、麻縄、どう見ても、それ以外のものには見えない手錠と洗濯バサミ・・・
 透けたバッグの中身を少し目を凝らして見れば、それらが何に使われるものかピンときてしまうえっちな人も、都会には少なからずいることでしょう。

「残ったオモチャは直子のバッグに仕舞って持って帰っていいわ。準備が出来たら出発よ。あ、冷蔵庫の中は片付けたのよね?」
「はい。今入っているのはお飲み物だけです」
「お散歩のときはそのビニールトートのほうだけ持ち歩いて、あたしが、出して、って言ったものは、いつでもどこにいても、すぐ取り出すこと。それが出来なかったら、その後、直子はもっと恥ずかしいお仕置きをされることになるから、よーく憶えておいてね」
「・・・はい」
「あたしはお散歩中は、このビデオカメラしか持ち歩かないつもりだから」
 お姉さまがニッと笑って、ちっちゃなハンディカメラをこれ見よがしに見せてから、立ち上がりました。

「戸締りはしたし、カーテンもおっけー。ガスの元栓も締めた。さあ行きましょう。直子はそっちのゴミ袋も持ってね。一階のゴミ置き場に出しちゃうから」
 お姉さまがカートとバーキンともうひとつのゴミ袋を持って、スタスタ歩き始めました。
 私も自分の荷物を持って、後を追います。
 もちろんビニールトートは、バスタオルの面を表側に出して。

 玄関で靴を履いているとき、お姉さまが不意におっしゃいました。
「どう?直子。マゾの首輪嵌めたまま外出する気分は?」
「どう、って聞かれましても・・・かなり恥ずかしいし・・・怖いです・・・」
「それだけ?えっちなオモチャが透けたバッグ持って、パンツすれすれのミニ穿いてお出かけだよ?直子みたいなヘンタイ露出マゾ女には、夢みたいなシチュエーションじゃなくて?」
「・・・あ、あの、えっと、それは・・・」
 私が口ごもっていると、お姉さまが私の耳に熱い息をヒソヒソ吹きかけてきました。

「出発前に、もうひとつだけネタバレしてあげる。あたしがなぜ、直子にグレイのパンツを穿かせたと思う?」
「・・・わ、わかりません・・・」
「グレイのシルク地だとね、直子がいやらしい気持ちになってマゾマンコを濡らしちゃったとき、そのシミが一番クッキリ目立つのよ。黒々と、遠くから見てもわかるくらい」
「・・・」
「そんなのみんなに見られたら、ある意味ノーパン見られるより恥ずかしくない?サカっている証拠だし、ぱっと見でもお漏らしみたいだし。だからせいぜい濡れないように、がんばりなさい」
 そこまでおっしゃって私の右耳から唇を離し、玄関ドアをゆっくりと開けるお姉さま。

「あっ、言い忘れてた。胸元のボタンをふたつ外しなさい」
 振り向いたお姉さまが、冷たく微笑んでおっしゃいました。
「は、はい、お姉さま・・・」
 ゴミ袋をいったん靴脱ぎに置き、右手だけでボタンを外しているとき、股間の奥がヒクヒクっと震え、ジンワリ潤んできたのが、自分ではっきりわかりました。
 

オートクチュールのはずなのに 15