2021年8月28日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 07

「ぬぐぅっ!」

 首輪の少し下の喉首に再び、気道を軽く締め付けられる感覚が。

「いいかい?これからお前の手足の戒めを解いてやるけれど、間違っても暴れたり逃げ出そうなんて考えるんじゃないよ?」

 お声と一緒に首をジワリと一段強く締め付けられる感覚。
 私は黙って頭を上下にコクコク振り、服従を示します。

「目隠しを取ろうとするのもダメだ。わたくしの許可が出るまではな。もしも許可なく取ろうとしたら…」

「んぐぅっ!」

 いったん緩んでいた首への締め付けが再び強くなりました。

「素っ裸のお前の手足を縛って、生きたまま山奥に捨ててやるからね?」
「からだにワインをたっぷりふりかけておくと、蛾やらムカデやら蜘蛛やら、虫たちがごっそり群がってくれるらしいから、さぞや賑やかに最期を迎えられることだろうよ」

 人の不幸を嘲笑うような残酷かつ無慈悲に溢れたおっしゃりようは、この人ならやりかねないな、と思わせるのに充分な嗜虐性が感じられました。

「わかったのかい?」

 バチン!
 お答えしようと口を開きかけたときに首への締め付けが緩み、その代わり左頬にビンタ。

「あうっ!」

「わかったら返事は?」

「は、はいっ…お言いつけの通りにしますっ…私は、オナ子は決して、あの、あの…せん、先生さまのお言いつけを破ったりはいたしませんっ…」

 バチン!
 今度は右頬にビンタ。

「おまえごときに気安く先生呼ばわりされたくないね。オナ子はわたくしが名付けたわたくしの奴隷、所有物なのだから」

 別に気安くお呼びしたわけではなく、何とお呼びすればいいのかわからず、みなさまがされている呼び名を真似しただけの苦肉の策だったのですが…
 第一私は、この女性のお名前はおろかお顔もお姿も、一切の素性もわからないまま虐められているのです。

「主従関係には相応のけじめが必要。わたくしのことは主さま、あるじさま、と呼びなさい」

 乗馬鞭のベロで私の顎を撫でながらのご命令。

「は、はい…わかりました、あ、あるじさま…」

 完全に絶対服従マゾ性全開状態に陥っている私。

「ようし。では戒めを解いてやろう」

 まず背もたれ側の両手が自由となり、つづいて両足が動かせるようになりました。
 でも繋がれていた鎖が外されただけで、手足に巻き付いているレザーっぽいベルトはそのままみたい。

「立ちなさい」

 お言葉と一緒に首輪がグイッと前に引っ張られます。
 いつの間にか私の首輪にリード、引き綱が繋げられたみたい。

 リードに引かれてよたよたと二歩三歩前につんのめりつつソファーから立ち上がります。
 同時にからだのあちこちに中途半端にへばり付いていたブラウスやスカート、下着の布片がどなたかの手で取り去られます。

 って、おひとり増えている?
 首輪に繋がっているリードは変わらずどなたかが握っていらっしゃるようなのに、私のからだから衣服を取り去っていくどなたかの手…
 気づいてみると私の周辺に、嗅ぎ慣れたローズの香りとはまた違うフローラルな香りが漂っているような気もします。

「そのままもっと前に出てきなさい。両手は頭の後ろだよ」

 あるじさまのお声が前方から聞こえ、再び首輪がグイッと前へと引っ張られました。
 ご指示通りマゾの服従ポーズになったものの目隠し状態なので、足を踏み出そうにも恐る恐るのへっぴり腰状態。

 足の裏で畳を擦るようなロボット歩行でリードに引かれるまま数メートル歩きました。
 後ろでどなたかがクスッと笑われたようなお声が聞こえた気がします。

「そこでいいわ」

 あるじさまのお声が正面から聞こえ、私も前進を止めます。
 あらためて両足を休めの形に開き、マゾの服従ポーズ。

「ふふん、いい眺めだね。わたくしの座敷に目隠しされた若い全裸の女の為す術もない降参ポーズ。不安だろう?これから何をやらされるのか、ここから生きて帰れるのか?心細くて胸が張り裂けそうだろう?」

 多分にお芝居がかった声音ですが、確かに私はそんな心持ちになっていました。
 なのにお構いなくヌルヌル潤んでしまう私のどうしようもないマゾマンコ。

「でもまあ目隠ししたまま庭まで歩かせるのはやはり無理なようだな。フラフラユラユラ危なっかしくてしょうがない」
「わたくしも無駄に怪我をさせて悦ぶような無粋な鬼ではないから、目隠しを外すことを許してやろう。取っていいぞ」

 あるじさまのお慈悲深いお言葉に、おずおずと後頭部の手を動かそうとしたとき、ワンテンポ早くシュルシュルっと目隠しが外れ、視界に眩しい光が飛び込んできました。

「あっ!?」

 唐突に溢れる光の眩しさで最初は使い物にならない視覚。
 ただ目を細めつつだんだん慣れて来るとぼんやり眼前に見えてくるお姿。
 その、自分の予想をたやすく超えた裏切られっぷりに思わず、えっ!?と出かかった声を慌てて飲み込みます。

 私の首輪から伸びている引き綱を握られ立たれているのは、小柄でやや痩せ気味なご中年以上のご年齢に見えるおばさま。
 ただし、服装こそグレイのスウェット上下ですが、お綺麗に整えられた清潔感のある短髪と人のよさそうなうりざね顔にご聡明さを感じさせる縁無し眼鏡、と全体的に品のある感じ。
 
 デパートの婦人服売り場の和服コーナーで同年代のセレブなお客様に高額なお着物のご接客をされていそうな、ご愛嬌と知的な感じが共存しているたおやかな雰囲気のご婦人でした。

 私は、そのお声のトーンやお言葉遣いから、たとえば女子高の生活指導主任教師として睨みを効かせていそうなぽっちゃり気味ひっつめ髪の、意識高い系お局様的な女性を想像していましたから、大外れ。

 あるじさまが左手に持たれているのは、やっぱり乗馬鞭。
 お姉さまのと同じブランド物の色違い、柄とベロの部分が緑色のものでした。

 そしてもうひとつ私をびっくりさせたのが、私の傍らに寺田さまがおられたこと。
 それもレースクイーンさんが着るような、超ハイレグお背中がら空きな真っ白でテラテラ輝く素材のレオタードをお召しになられて。

 寺田さまはわざとなのでしょうが、初対面のときのフレンドリーな雰囲気はすっかり消え、端正なお顔に薄い笑みをよそよそしく浮かべられて私を見ています。
 均整の取れたボン・キュッ・ボン、スラッと伸びる右脚だけクロス気味に前へと出したレースクイーンさんがよくやられている立ちポーズも決まっていて、しばし見惚れてしまいます。

「ふうん、可愛らしい顔しているじゃない?虐めたくなる顔とも言えるけれど」

 クイッとリードを引かれてあるじさまのほうを向きます。
 確かにあのお声が、そのお顔から出ています。
 人のよさそうなお顔に薄笑みを浮かべられて。
 
 このおばさまがさっきから、私をビタンビタンビンタされ首をギュウギュウ締めていたなんて信じられません。
 目隠しをされていたときの脳内イメージと現実のギャップを埋めるのに、もう少し時間がかかりそう。

 私たちが向き合っているのはお座敷のほぼ中央。
 あるじさまは縁側へと出る側のガラス戸を背に立たれ、その一メートルくらい離れた真向かいに服従ポーズな私。
 あるじさまより私のほうが背が数センチ高いみたい。
 寺田さまはふたりのほぼ真ん中右側、お相撲の立会いで言うと行司さんの位置にスクっとモデルポーズで立たれています。

 と思ったら寺田さまが優雅に壁際まで歩かれ、立て掛けてあった折りたたみ椅子を持たれ、再びあるじさまの傍らへ。
 その椅子にちょこんと座られたあるじさま。
 あるじさまの右手には私の首輪へと繋がるリードがしっかり握られています。

「でも顔に比べてからだのほうは、ずいぶんな開発のされっぷりじゃないか。その年ごろにしては熟し過ぎ、つまり、ふしだらだ」

 腰掛けられたあるじさまが私の裸身を低い位置から、まじまじと見つめ、決めつけてこられました。

「たっぷり重そうな下乳がいやらしくて掴みやすそうな乳房、鴇色の幅広い乳輪、物欲しげにツンと飛び出ている小指大の乳首…」
「くびれているくせに薄っすら脂肪の乗ったウエスト、まっすぐなお腹のおかげで余計に目立つ、ぷっくりと膨らんで卑猥に誘う無毛な恥丘…」

 服従ポーズな私の裸体を文字通り舐めるように両目を細められて見つめつつ、そのご感想を一々お言葉にされて私に告げてくださるあるじさま。
 傍らで寺田さまが見守られていることもあり、同性であるがゆえの恥ずかしさ、こそばゆさはまさに筆舌に尽くし難いほどです。

「女性器は前付き気味だな。陰毛が皆無なおかけで陰裂はおろか、萼を脱ぎ去った陰核まで飛び出しているのが見えている。陰核は標準より大きめ、つまり助平ってことだ。もちろんツヤツヤ濡れそぼっているのも…」
「腕と脚、あと腹にも、それなりに筋肉が付いているようだが、何か運動をやっているのか?」

「は、はい。趣味でクラシックバレエを少々…」

「ふん、バレエか。それならからだも柔らかいだろうし、少々窮屈な体位での責めも大丈夫そうだな…」

 あるじさまがご満足そうに小さく笑われ、握られていた引き綱の持ち手をスッと離されました。
 引き綱は麻縄にも似た、何かの繊維を編み込んだ縄状ロープで、お色も使い込んだ麻縄ライク。
 
 輪っか状となった持ち手の部分が空中を走り、ロープの途中が私のお腹に当たって首から両脚のあいだにぶら下がります。
 私の両膝下20センチくらいの空間にユラユラ揺れている持ち手。

「後ろも見せてみろ」

 あるじさまのご命令で素直に背中を向ける私。

「ははっ、さっき寺田が笑っていたのは、これを見たからだな。とんだど変態のご令嬢がいたもんだっ!」

 背中に浴びせられるあるじさまからの嘲笑。
 お尻上の恥ずかし過ぎる日焼け跡のことをすっかり失念していた私は、今更ながらの大赤面。

「こんな身も蓋もない自己紹介文をからだに落書きされて生活しているマゾ女なら、ケツの穴も充分開発済みなんだろうな?」

「は、はい…一応は…」

「よし、前屈みになってわたくしにケツを突き出してみろ」

「は、はい…」

 後頭部に両手を置いたまま前屈姿勢になると、お尻は自然にあるじさまへと差し出す形になります。
 リードの持ち手は畳の上にパサッと落ちました。
 すかさずツルッとお尻を撫ぜる感触、たぶん乗馬鞭のベロ。

「ひゃんっ!」

「ひゃん、じゃない。そのままの形でもう少し私に近づきなさい。後退二歩ぐらい」

 ベロでお尻をスリスリさすりながらのご命令。
 その鞭がいつヒュンと唸るかと、ビクビクしつつ摺足で後退します。

「そんなもんでいいだろう」

 ストップがかかったときに私のお尻は、座られているあるじさまの眼前50センチ無いくらい?
 剥き出しのお尻に至近距離から熱いまなざしが注がれているのがわかります。
 ただ、ここまで近づいてしまえば乗馬鞭も振るえないでしょうから、私は少しひと安心。

「よし、今度は自分の手で肛門を拡げて見せろ」

「えっ?」

「えっ、じゃない。両手をケツに回して左右それぞれの尻肉を引っ張ってケツの穴を押し広げろと言っている」

「ひっ!」

 右尻たぶをバチンとビンタされ、おずおずと両手をお尻に回します。
 お尻の割れスジに両手を掛け、左右それぞれ力を入れて引っ張ると、肛門粘膜に空気が当たるのがわかります。
 そんな行為を明るいお部屋で数十センチの至近距離から見られていると思うと、もう恥ずかしさの大洪水。

「ふうん、変態のわりには奇麗な襞並びじゃないか。ちゃんと菊の形をしているし爛れてもいない」
「粘膜に弾力はありそうだな。結構太いのまで飲み込みそうだ」

 ご冷静な分析を聞かされるほど、羞恥という名のヘモグロビンが体内を駆け巡ります。
 こんな状態、いっそのことズブリと指でも挿していただいてウネウネ掻き回していただき、アンアン喘いでいたほうがどれだけ楽か…

「よし、ついでに今度は両手を少し下へずらして、膣口を拡げて見せろ」

「えっ!?」

「だから、えっ、じゃない。おまえのパイパンマンコの襞の奥まで覗いてやるから、自分の両手で陰唇を広げろと言っている」

「あ、あの、でも……、、、ひぃぃっ!」

 バッチーンという甲高い打擲音と共に左尻たぶに強烈な一撃。
 弾みで私の両手も自分のお尻から外れてしまうほど。

「オナ子は本当に頭が悪いね、三歩歩いたら忘れる鳥頭なのかい?さっき言っただろ?奴隷に、でも、だの、だって、だのは無いって」
「それともあれか?ドマゾだからわたくしのビンタが欲しくて、わざとわたくしに逆らっているのかい?」

 激昂気味なあるじさまのお声。
 でも私は前屈姿勢で自分の両脚のあいだからあるじさまを覗き込む格好なので、残念ながらあるじさまのお顔まではアングル的に見えません。

「ち、違うんです、私の、マゾ子のマゾマンコならいくらでもお見せするのですが、マゾ子のマゾマンコの中は今、はしたないおツユでいっぱいなんです…それを押し開いてしまったりしたら、せっかくの奇麗な畳を汚してしまいます…そうお伝えしたかったのです…」

 一生懸命、本心で弁解しました。
 全マゾ性を込めてしまったおかげで自分の呼び名まで間違えてしまいましたが…

「ふふん、そうかい。つまりおまえは、自分のマンコにマン汁が溢れ出ているから、マンコを抉じ開けて滴らせてこの座敷を汚したくない、そう考えたわけだ?」

「は、はい…」

「ふん、その心遣いはいい心がけだ。が、わたくしが名付けた自分の呼び名を間違えたのは重罪だな?自分でドマゾだと自覚しているからこその言い間違いなのだろうが」

「はい、ごめんなさい、申し訳ありません。私はオナニー大好きでドマゾで淫乱レズベンキな露出狂で、あるじさまの所有物セイドレイ、オ、オナ子です…」
 
 もはや私は、あるじさまから滅茶苦茶に辱めて欲しくて堪らなくなっています。

「ふん、ずいぶん躾の行き届いたマゾ女ぷりだな?まあいいわ。説明してやると、この座敷の畳は毎年十何人ていうオナ子みたいなしょーもないマゾ女のマン汁を吸い込んでいるんだよ。でもまあ、毎年4月には全部畳替えしちゃうんだけれど」
「今年はオナ子で8人目だったかな。だから畳が汚れることに気を回す必要なんてさらさらなかったんだね、余計なお世話って言うか」

 お芝居っぽかったあるじさまのご口調が、そこからガラッと愉しげに弾みました。

「ま、それはそれとして、わたくしがわざわざ付けてやった呼び名を勝手に間違えたことと、でも、と逆らった重罪の償いはしてもらわなくちゃねぇ。歯を食いしばりなさいっ!」

 あるじさまがガタンと立ち上がられる気配がして、私はギュッと目をつぶります。
 ほどなくヒュン、ヒュンという空を切り裂く甲高い音が二回して、右尻たぶ、つづけざまに左尻たぶに、焼きごてを押し当てられたような熱すぎる痛みが…

「あうぅぅっ!!」

 まさしくこれは乗馬鞭のベロ部分のクリーンヒット。
 この後数日間、ベロ部分の矢羽状の打痕は赤く残ったまま、ヒリヒリする痛みも数日消えないことでしょう。

 あ、もちろん今まで私は焼きごてを肌に押し当てられたことなんてありませんから、おそらくそんなふうな痛みなのだろう、という想像です。
 乗馬鞭のクリーンヒットは何度か経験しているので、こちらは体験談です。

「そういうことだから、さっさと自分でマンコをおっぴろげなさい」

 椅子にご着席し直されたのでしょう、お声の出処が低くなられたあるじさまのお言葉が聞こえてきます。

「は、はい…」

 ジンジン疼く、肛門位置の横延長線上左右尻たぶに記されたふたつの打擲痛に身悶えしつつ、再び両手をお尻のスジ沿いにあてがいます。
 さっきより低め、蟻の戸渡りを通り越し、無毛の大陰唇のふくらみにあてがった両手を左右にグイッと押し開きました。

 トロトロトロッ…
 いきなり開かれた扉に活路を見い出した粘液たちが、我先にと溢れ出ていくのが自分でわかりました。
 
 先ほどの強烈な乗馬鞭二連発で私は小さくイッていました。
 なので私のマゾマンコ内発情分泌液は、どんな小さな隙間からでも滲み出たいギリギリ飽和状態。

 そんな恥ずかし過ぎるスケベなおツユに大放流の僥倖が訪れ、あるものは内腿から脛やふくらはぎを伝い、あるものはラビア襞に溜まって膨れた雫が重力に引かれるままに、トロトロポタポタ滴っています。
 両脚を滑る粘液は、私が白いハイソックスを左右まだ履いたままでしたから、その布地に滲み込んでくださっているようで、畳を汚す心配はありません。

 問題は開いた両脚の境目からポタポタ垂直に落ちる雫たち。
 これは確実に畳を汚してしまう…
 と自分の股のあいだから覗き込んでいると…

 ちょうど雫が滴り落ちる地点に、スウェットパンツを脛までまくられたあるじさまの裸足な右足の甲が差し出されていました。
 もちろん引っ切り無しに滴り落ちているので、あるじさまのお御足の甲をも滑り落ち、お御足左右の畳に滲み込んでもいるのですが、あるじさまのお御足の甲も満遍なく濡れそぼっています。
 何より恥ずかしいのは、あるじさまのお御足の甲を濡らす水溜りがほんのり白濁していることでした。

「いいでしょう、オナ子のマゾマンコの性質も概ね把握しました。上体を起こしてこちらを向きなさい」

 あるじさまからの厳かなお声に導かれ、精一杯押し広げていた自分の熱く濡れそぼった大陰唇から両手を離す私。
 あるじさまへと向き合うときにはもちろん両手は後頭部、その両手の指先はおツユの熱で少しふやけています。

「オナ子のマゾマンコって外見はラビアも飛び出してなくてツルンとしてるだけだけれど、膣内はずいぶんビラビラ派手なのねぇ?」

 からかわれるようにおっしゃるあるじさまの薄い笑顔は、舞踏会でお召し物をお互いに褒め合う品の良い貴婦人さまがたみたい。

「あ、ありがとうございます…」

 なぜだか感謝してしまう私。

「どうやらオナ子は筋金入りのドマゾのようだから、こうしてわたくしから虐められるのも嬉しくて仕方がないんだろうねぇ?」

 お芝居口調でそうお尋ねになるあるじさまの私の顔を覗き込む笑顔は、これまでで一番イジワルいご表情に見えました。


2021年8月21日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 06

  ボールギャグを噛ませられると口がずっと半開きとなってしまい、どうしても口腔内に唾液が溜まってきてしまいます。
 半開きの口ではうまく飲み込むことも出来ず、溢れ出た唾液はよだれとなって口外へ。

 お部屋にひとり取り残されてから体感で5分以上は経っていましたから、すでによだれは幾筋も私の顎を滑り落ちています。
 せっかく可愛いブラウスなのに、よだれなんて垂らして汚したくないな…
 そんなことを考えていたとき、ガタッと微かな物音が聞こえました。

 スーッと何かが滑る音は、引き戸が開いた音。
 パタッという音は引き戸を閉じた音。
 スッ、スッと畳を擦る音はどなたかがこちらへ近づいてこられる足音。
 視界を閉ざされているせいで、聴覚がとても敏感になっています。

 やがて漂ってきた甘いローズ系の香水の香り。
 嗅覚だけではなく空気の揺れ?ほのかな体温?みたいな体感で、私のそばにどなたかが居られるのがわかります。

 ほんの微かな衣擦れの音は、しゃがまれたのでしょうか、座られたのでしょうか。
 お姉さまのトランクケースが置いてあるはずのところ辺りから、ピラっと紙をめくるような音も聞こえます。

 音を頼りに見えないお相手のほうへと顔を向け、より多くの情報を得ようと耳をそばだてます。
 そんなことをしても私が手足を拘束されている以上、事態は改善しないでしょうことはわかっているのですが。

 再び衣擦れの音。
 直感的に、立ち上がられた、と感じました。

「ふうん。写真で見るより初々しい感じの子だね」

 女性のお声でした。
 それもアルトで落ち着いた感じの大人のお声。

 お声のトーンと言うかニュアンスに、他人、部下とか使用人とかを使い慣れているような感じがあって、そこがお姉さまの会社の早乙女部長さまに似ているような気もしました。
 部長さまよりももっと威厳と言うか貫禄のある感じ、なんて言うと部長さまに怒られてしまいそうですが。

 そんなことを考えていたらローズの香りがグッと近づいてきました。
 お声の主が私のからだに近づかれたのでしょう。

「おまえ、なんでここにいるんだい?」

 からかうような蔑むような、生理的に癇に障る声音。
 それより何よりいきなりの、おまえ、呼びにムッと眉根が曇ります。
 そんなこと、私のほうが知りたいですっ!

「むぐぅん、んぬぅぅぐぅ…」

 ボールギャグのおかげで言葉にならない反発を唸りに変えて投げ返します。

「ふふん、だいぶご立腹のようだね。おまえがなんでここにいるか教えて上げる。おまえは売られたのさ」

 女性のお声が多分にお芝居がかってきました。
 その分お声にグッと渋みが増し、おそらくご中年以上のお年を召しているかたのように思えます。

「あの渡辺って女社長がおまえに飽きて、わたくしに押し付けてきたのさ、好きにしていいって」
「女社長はさっさと東京に帰ってしまったよ。だからもうおまえはここで生活するしか生きる道は無いんだ」
「それでおまえは今日から性奴隷としての調教を受けることになる。おまえの両親が身代金を払ってこなければね」

 女性のおっしゃっているお言葉の意味がまったくわかりません。
 お姉さまが私に飽きた?お姉さまは東京へ戻られた?身代金?
 それに私はもうすでに着々とセイドレイ、レズベンキの道を歩んでいるのですけれど。

 おそらくこれもお姉さまが仕組まれたお芝居、ロールプレイングゲームなのでしょう。
 そう言えば先ほど、お金で売った、とか、あたしはいなくなる、とかしきりにお姉さまがおっしゃっていましたっけ。
 
 でも、それだったら今お相手してくださっているこのかたって、一体何の先生なのでしょう?
 偉い先生ともおっしゃっていましたが…

「むぐっ…」

 そのときスーッと左足ハイソックスのふくらはぎを撫ぜられて、思わず声が出てしまいました。
 経験上の感覚なのですが今、脚を撫ぜたのは人の手ではない気がします。
 おそらくですが乗馬鞭のベロの部分、オフィスで目隠しされてリンコさまミサさまに何度かやられた覚えがありました。
 そのベロが今はスカートの中まで潜り込み、私の内腿をスリスリ撫ぜさすっています。

「んふむぅ…」

 腿の付け根付近まで近づいては到達せずに去っていく、そのもどかしい愛撫に図らずも鳴ってしまう私の喉奥。
 両膝もぷるぷる震えてしまっています。

「ふうん、感度はいいようだな。遊び甲斐がありそうだ」

 右内腿に貼り付いていたベロがスッと引かれ、私の下顎に密着しました。
 力を込められているのでもないのに、ベロから逃げるように自然と顎が上がってしまいます。

「でもまあ、感度が良かろうが悪かろうが関係ないの。ここに三日も居たらどんな女だって、真っ逆さまに堕ちちゃうから」
「深窓のご令嬢だろうが貞淑な人妻だろうが、なんなら自称ドSの女王気取りだって、三日もすれば鞭や縄を見ただけでハアハアよだれを垂らしまくるド淫乱マゾメス性奴隷に成り果てているから」

 顎のベロが去り、女性のお声も少し遠のきました。
 それからカチャカチャと何か金具をいじる音。
 お姉さまのトランクケースを開けられたのかもしれません。

「さて、次におまえのからだを見せてもらうのだけれど、わたくしが何を聞いても、むうむう答えるだけでは面白くないね」
「いいでしょう、おまえの口枷を取ってあげましょう。その代わり騒ぐんじゃないよ?もし騒いだら…」

 そのお言葉の後に、ヒュンッ、という細い棒が空を切るような鋭い音がしました。
 マゾであれば身震いした後に期待に胸が高鳴ってしまうような蠱惑的な音。
 これで女性が乗馬鞭をお持ちなことは確定したようです。

 女性は相変わらずお芝居っ気たっぷりなご口調なのですが、それが妙に緊迫感があり真に迫ってもいて、私もなんだか不安感が募ってきます。
 お姉さま、本当に私に飽きちゃったのかも、本当にずっとここで過ごさなくちゃならないのかも…
 あり得ないこととは思うのですが、それほどこの女性のお言葉の端々に根拠の無い信憑性を感じてしまっています。

 不意にローズの香りがグンと濃くなりました。
 女性が私の背後に立たれたようです。
 ローズの香りに混ざってシャンプーなのかコンディショナーなのか、少し違うフローラルな香りも漂ってきます。

 冷たい指が私の首の後ろに当たりモゾモゾ動いています。
 ボールギャグのストラップを外してくださっているのでしょう。
 やがて頬を締め付けていたストラップが緩み、口腔から球状の異物がスルッと抜けました。

 んぐう…
 口中がやっと自由になり、下顎に溜まっていた唾液を慌てて飲み込みました。
 はあはあはあ…
 それから喉の通りを確かめるみたいに荒い息を吐いて呼吸を整えます。

「あらあら、ブラウスによだれ、こんなに垂らしちゃって、みっともない女だね」

 心底嘲笑うようなニクタラシイお声。
 聞いた途端にプチンと頭の中で何かが切れました。

「あ、あの、あ、あなた、なに…」

 バチーンッ!

 大きな声で抗議しようと声を上ずらした途端に、右頬に強烈なビンタ。
 今までされた中で一番強い、遠慮会釈のない本気のビンタ。
 ある意味、生まれて初めてのショッキングな体験。

「んぐぅっ!」

 間髪を入れず私の首が冷たい手のひらで掴まれます。
 右側は親指、左側は残りの4本?
 いずれにしてもその指たちがジワジワと私の首を締め上げてきます。

「さっき騒ぐなって言ったよね?それともおまえ、頭悪いの?日本語わからないの?ここで死にたいの?」

 ドスの効いた女性のお声に恐怖が5割、反発が4割。
 残りの1割は…

 お相手が女性声ということが大きかったと思います。
 男性相手だったら死に物狂いで抵抗していたことでしょう。

「んぐっ、ご、ごめんなさいぃっ、ごめんなさいーっ…」

 締め付けられる喉を震わせ、必死に謝りました。
 予想外の展開に動揺して息を潜ませていたマゾ性が、ムックリ目を覚ましちゃったみたいです。

「うん。素直に謝れるのはいいことだ。その態度を忘れないように」

 ご満足そうなお声と共にローズの香りが遠のいて行き、女性が私から離れられたよう。

「それじゃあ、おまえのからだを見せてもらうことにする。おっとその前に、おまえの名前は?」

 再び顎の下に乗馬鞭のベロをあてがわれつつのご質問。

「は、は、はいっ…んもっ、もりしたな…」

 バチンッ!
 私が言い終わるか終わらないうちに、今度は左頬に強烈ビンタ。

「いいわ、どうせ性奴隷に成り果てる身なんだから名前なんかどうでも。あ、でも呼びつけるときに必要だから、わたくしがおまえに奴隷ネームを付けてあげましょう」

 ますますお芝居がかられる女性のご口調が弾んでいます。

「そうね…おまえは…なお…おな…おなこ、そう、オナ子よっ!うん、ぴったり!だってそういうからだつきしているもの」

 ますますお声を弾ませる女性。
 私も言われた瞬間にドキンと心臓が弾みました。

 確かに私はオナニー大好き人間ですから、ぴったりと言えばぴったり。
 本名と微妙にかぶっているところもポイント高め。
 全人格を否定され、みっともない名前で呼ばれるセイドレイ。
 確かに私にうってつけな名前だ、と思ってしまう私のマゾ性…

「それじゃあオナ子のからだを見せてもらうことにしようか」

 再度ローズの香りが強くなり、女性がズイッと私に近づいた気配。
 私の開いた両膝のあいだに女性のお御足があるみたいで、少し自由に出来る両膝で挟むと女性の布越しのお膝上辺りの太腿に当たるみたい。
 ということは、それほど身長は高くない?

 そんなことを考えているあいだに、ブラウスの襟元に手が掛かる気配がしました。
 えっ!?ボタンを外すのではないの?一気に押し開いちゃうつもり?可愛いブラウスなのに…

 思う間もなくブチブチっとボタンが弾け飛ぶ音。
 一緒にビリっという音も聞こえたので、どこか破けちゃったかも知れません。
 ああん、もったいない…
 さらけ出されたお腹に外気を直接感じます。

「あら、色気のないブラジャーね。白の綿ブラ?今どき中学生だってもっと色っぽいブラ着けてるよ?」
「でもまあしょうがないか。契約書によるとさる財閥の深窓のご令嬢様なそうだから。そうやって躾けられちゃったんだね」
「これからおまえの知らないオトナの世界を嫌と言うほど叩き込んであげるから、愉しみにしていなさい」

 お姉さまってば、私をどんなふうにプレゼンされたのでしょうか?
 でもどんなに取り繕っても、ブラを外されたら私の性癖はモロバレなのですけれど。

 引き千切られたブラウスはそのままに、いったんローズの香りが遠のきました。
 と思ったらすぐに戻ってこられ、左頬に冷たい金属のような感触を当てられました。
 えっ!?と思わず顔を動かそうとすると…

「おっと、無闇に動かないほうが身の為だよ?ナイフだから。ヘンに動くとその可愛い顔にザックリと…」

 お芝居声でしたが、確かに頬に当てられたのは金属の感触。
 ゾクゾクっと背筋が痺れ、数ミリも動けなくなってしまいます。

「奴隷に下着は無用だからね、このナイフでおまえのブラジャーを役立たずに切り刻んであげるから」

 頬に当たっていた金属が今度は左肩に当たっています。
 肩紐を切ってしまうおつもりなのでしょう。
 でも、このブラジャーは私の数少ない私物、このブラを切り刻まれてしまったら、私は東京に戻るまで着るべき下着が皆無となってしまうのです。

 旅行の前にお姉さまがおっしゃった、失くしたり破られもいい下着、という意味がわかりました。
 それがわかっても、今どうすればいいのかはわからないのですが。

「ごめんなさい、わかりました…ブラジャーは自分で脱ぎますから、どうか切ったりしないでください…」

 回らない頭でなんとかそこまで告げたとき、再び右頬に強烈なビンタがバチーンっ!
 ぶたれた頬がヒリヒリ火照って、なんだか気持ちいい…

「何がわかったんだい?オナ子?おまえはまだ自分の立ち場がわかっていないようだね?奴隷がわたくしに、でも、だの、だって、だの、どうか、だの意見する権利はないんだ」

 来そう、と思ったら案の定、私の左頬にビンタ。
 私、なんだか女性からのビンタを心待ちにしているみたい。
 私が、あうっ、と呻くと同時にブラジャーの左紐の締付けが緩みました。

 左乳首が外気に晒されている感覚がありますが、それよりも気になったこと。
 ブラのストラップを切られたとき、ナイフで切られた、と言うより、裁ちバサミか何かでジョキンと切られた感じがしたこと。
 左肩にナイフの背の部分がずっと当たっていて、その上からもう一枚、別の刃が下りてきたような感触。

「ちょっと何?その乳首。おまえ、わたくしにこんな酷いことをされているのに感じちゃってるの?ビンビンにおっ勃てているじゃないか」
「それに何、その日焼け跡。どんな水着着てどこで焼けば、そんな卑猥な日焼け跡になるんだい?」
「おまえ、そういう女なの?虐められて悦ぶマゾ女?あの女社長にとんだ紛い物つかまされたってわけ?」

 演技なのかご本心なのか、おおげさにお嘆きになる女性。
 そのあいだに当然のように、右のブラ紐もジョキンと切り離されます。
 ブラジャーの残骸が虚しくお腹へと落ち、宙を突く両乳首が外気に晒されています。

「ちょっと、見ているほうが痛々しいくらい乳首がイキリ立っているじゃない?オナ子?興奮しているでしょう?」

「いえ、そんなんじゃないんです…自分でも何が何だかわからなくて…でもからだが熱くなってしまっているんです…」

 女性の癇に障るようなことを言えばビンタが貰えると思った私の、精一杯の大根演技。
 だけどちゃんと右頬にビンタをいただけました。
 ヒリヒリ火照る両頬が、やっぱり気持ちいい…

「そういう女なら話は早いけどさ。しのごの言ったってマンコを見ればおまえの本性は隠せないのだから」

 語気荒くおっしゃった女性の手が私のスカートにかかり、一気にまくり上げられます。

「うわ、何これ?ソファーにネットリ水溜りが出来てるじゃない?おまえ、何考えてるの?」
「手足の自由奪われて、さんざんビンタ食らって、口汚く罵られてこのザマかい?オナ子は正真正銘のドマゾみたいだな?」

 一段と冷ややかになられたお声と共にスカートのホックが外され、一気に摺り下げられます。
 でも私は大股開き状態ですからウエスト部分が膝で引っ掛かり、力任せになおも引っ張られたようでビリビリッという音が。
 スカートだった布片が脛のところに中途半端にへばりついた状態。

「パンツも綿パンかい?小賢しいね。おまえの本性はもうバレてるんだよっ」

 左腿に金属が当てられジョキンという音。
 腰周りを締め付けていたゴムの感覚が消えました。

「おまえ、陰毛はどうした?」

 約立たずとなったショーツが乱暴に摺り下げられます。
 おそらくマゾマンコからたくさんのか細い糸が布地裏へと引いては切れていると思います。

「そ、それは…」

 どうお答えすれば、どう嘘をつけば女性からまたビンタがいただけるだろう、と考えますが、良いお答えが浮かびません。

「ふん、おおかた女社長の戯れで丸坊主にされちまったんだろうよ。それでパイパンマンコにハート型の日焼け跡って、とんだ傷物のお下がりを押し付けられたってわけだ。剃毛はわたくしの大好物だと知っているだろうに」

 少し気落ちされたような沈んだお声がなんだか可愛らしく思えます。
 そんなことを考えているあいだに右膝の辺りに纏わり付いていたショーツの感覚が消えていました。

「オナ子のスケベ汁は一段とかぐわしいね、マゾメスの臭いがプンプン。それに何このパンツ、クロッチのあて布がわざわざ剥がしてあるじゃないか。そんなにまでしてパイパンマンコをアピールしたいのかい?」

 女性が私のショーツを手に取られているみたい。
 汚れたショーツにお鼻を近づけてクンクン嗅がれているお姿を想像すると、いたたまれない恥ずかしさとみじめさにゾクゾク興奮してしまいます。
 
 はい、私は、はしたなく浅ましいマゾメスセイドレイレズベンキなんです、どうか、こんなどうしようもないオナ子に罰を、ビンタを、鞭をお与えください…
 そんなふうに口に出して懇願したくてたまりません。

「おまえほどのドマゾなら、外に素っ裸で放り出されるのも大好きなんだろう?そのいやらしい裸を誰かに視てもらいたくて仕方ないんだろう?」

 鞭のベロで剥き出しの秘裂をベロンと逆撫でされながらのご質問。

「んふーっ!は、はい…直子は、あ、いえ、オナ子は露出狂ドレイです…お外で恥ずかしい格好で辱められるのが大好きなんです…ご、ごめんなさい…」

 目隠しのせいかマゾ性への没入感が凄まじく、そんな恥ずかし過ぎる台詞がスラスラっと口をついてしまいます。

「ふん。ならお望み通りにしてやる。外で、太陽の下で何もかもさらけ出して、失神するまで悶え苦しむがいい。言っておくが、おまえから望んだのだからな?後で後悔しても遅いぞ」

 冷え切ったお言葉にゾクゾクっと震える私のマゾ性。
 ローズの香りがすぐ傍まで近づいて来ていました。


2021年8月14日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 05

 大広間最奥にある幅の広い階段は、広間を見下ろせる円形の中二階バルコニーへとつづき、その先へ上がる階段が左右二手に分かれて曲線を描いていました。
 そのうちの左方向の階段へと足早に歩を進めます。
 お姉さまのトランクケースは、使うから、と階下に残され、私が、うんせ、と運んでいたキャリーケースを中村さまが一見軽々と運んでくださっています。

 階段が終わって二階へ到着。
 左方向へ広くて長い、これまた市松模様の床材が敷かれたお廊下。
 お廊下の右側にはところどころに大きな出窓、左側には瀟洒な扉が間隔をあけて三つ。

 外観の割にお廊下はあんまりゴテゴテしていなくてシックな感じ。
 白を基調とした石造りの落ち着いた雰囲気は、高校生の頃に訪れたことのあるパリのホテルのお廊下に似ている気がしました。

「このフロアの部屋はどこを使ってもいいんだけれど、ここが一番広いから、とりあえずここに落ち着いて」

 寺田さまがお廊下一番奥の扉を開けられます。
 ベージュを基調としたその広いお部屋の雰囲気は、まさにパリで泊まったホテルのスイートルームをよりシックにした感じ。
 お部屋の奥に寝相のいいかたなら並んで10名くらい余裕で寝られそうな、巨大なダブルベッドが見えます。

「これが先生からのご要望。そこがバスルーム。遅くとも2時50分までに階下へ降りてきて」

 中村さまが一枚の紙片をお姉さまに手渡され、私には軽めな風呂敷包みが渡されました。

「それじゃ、くれぐれもなるはやでお願いよ」

 寺田さまがお姉さまの肩を軽くポンと叩かれ、お部屋を出ていかれるおふたり。
 紙片を渡されると同時に読み始められていたお姉さまがお顔を上げられ、私を見ました。

「直子、今朝ちゃんとトイレで出した?大きいほう」

「あ、えっ?あ、はい…」

「いつも通り?」

「あ、は、はい…」

 昨夜のお酒のせいか、いつもより少し緩めではあったのですが…

「そう。じゃあすぐに服全部抜いでバスルームに入って。首輪も外して」

 服全部とおっしゃられても、もともとこのワンピース一枚しか身に纏っていないのですが…
 有無を言わせぬご命令口調に気圧されて、ワンピのボタンを急いで外します。
 首輪を外していると、お姉さまもそそくさと脱衣されているご様子。

 バスルームは窓際にあり、お部屋とを隔てる壁は全面ガラス張り。
 すなわち、お部屋内からバスルーム内部は丸見え状態。

 中に入ると広い脱衣所と小洒落たシンク、素通しガラスで区切られて広いバスルーム。
 バスタブ際の外壁となる側面には大きな鏡が嵌め込まれていて、全裸の私が等身大で映り込んでいます。
 そこに全裸のお姉さまも入っていらっしゃいました。

 シャワーキャップをかぶせられ、いきなりぬるま湯シャワーの洗礼。
 激しい水圧の飛沫が顔と言わずからだと言わず、全身満遍なく浴びせかけられました。
 
 汗ばんだからだが洗い流されて気持ちいいと言えば気持ちいいのですが、お姉さまが終始無言なので映画で見たことのある戦争中の捕虜の消毒風景をなぜだか思い出してしまい、ちょっと不気味な感じも。

「排水口にお尻を向けて、四つん這いになりなさい」

 ひとしきりシャワーを浴びせられた後、お姉さまから冷たいお声でのご命令。

「はい…」

 お姉さまの右手にはいつの間にか、200ミリリットルのガラスのお浣腸器が。
 それが見えた瞬間、これから何をされるのかを察します。
 ゾクゾクっと身震いしつつ、えっと、排水口は…

 シャワーのお水が流れる方向を辿ると排水口はバスタブの手前にあり、つまりお外に面した窓の側。
 その窓はバスタブと同じ高さから天井まである素通しの大きなガラス。
 お外の庭園が完全に覗けていますから当然、庭園からもバスルーム内が見えていることでしょう。

 そんな窓に背中を向けてひざまづき、両手をタイル床に突いて四つん這いに。
 両腕をたたんで肩を沈め、そのぶんお尻を窓に向かって高く突き上げます。

「もう少し前へ」

 ご指示され、その格好のままタイル床を這うように前進。
 お姉さまが私のお尻側に回られた、と思ったらお尻を襲うぬるま湯シャワー。

 でもそれもすぐ終わり、少し間を置いて唐突にブスリと、私の肛門に何か硬くて冷んやりした異物が挿し込まれます。
 すぐに体内に液体が流れ込んでくる感覚。

「あーーーっ…あーっ、あっ、あっ…」

 お尻の穴から注ぎ込まれる人肌より少しぬるめな水流に、思わずいやらしい声が漏れ出してしまいます。

「まだ入りそうね…」

 お姉さまのつぶやきの後、いったん抜かれたガラスの異物が再び私の肛門に挿し込まれます。

「あっ、あっあ、あーーーっ!」

 こうして浴室で四つん這いになりお姉さまにお浣腸をされていると、まだ梅雨の頃、会社のファッションショーイベントで急遽モデルを務めなければならなくなったときのことが思い出されます。
 あのときも、これから自分がどうなるのか、何をされるのかまったくわからないままお姉さまにお浣腸を施されたのでした。
 事の顛末はみなさまも御存知の通り、私のヘンタイ性癖の華々しすぎるお披露目会となってしまったのですが。

 あのときはお姉さまが私のマゾマンコを指で蹂躙してくださりながら、絶頂と同時の排泄だったのですが、今回は慰めてくださる気配もありません。
 私の素肌には指一本触れようともされず、ぬるま湯をたっぷり注入し終えた私のお尻に、ひたすらぬるま湯シャワーを浴びせかけるだけ。
 
 その淡々と流れ作業をこなすかのようなお振る舞いが却って不気味と言うか、妙な緊張感を醸し出しています。
 この後、先生、と呼ばれているかたとご対面することになるのでしょうが、私、どうされちゃうのでしょう…

「とりあえず5分我慢ね。あたしが、いい、って言ったらその場にしゃがんで、床にぶちまけなさい。くれぐれも四つん這いのままではダメよ。直子のお尻からの水流が放物線描いてバスタブ飛び越えちゃうから」

 お姉さまがガラス窓を開け放しながら可笑しそうにおっしゃいます。
 スーッといい風が入ってきて私の剥き出しなお尻を撫ぜていきます。
 でも、もしも大きな音まで出ちゃったら、お外まで聞こえてしまうかも…

 そのまま刻々と時だけが過ぎ、私のお腹はどんどん切羽詰まってきます。

「んんっ…あうっ、んんーっ…」

 ゴロゴロ荒ぶる苦痛をはしたない唸り声で耐え忍びながら、お姉さまからのお許しをひたすら待ち侘びます。
 ただし、お許しをいただいたところで今度は、無様に排泄姿をお見せしなければならない、という屈辱が待ち受けているのですが。

 やがてお姉さまがシャワーヘッド片手に私の正面に来られました。
 土下座のように突っ伏している私の眼前にお姉さまのスラッとしたお御足。
 上目遣いに見上げるとお姉さまのイジワルそうな笑顔とぶつかりました。

「おーけー。起き上がってしゃがみなさい」

 お姉さまのご指示で上半身を起こし、その場にしゃがみ込みます。
 蹲踞の姿勢、和式トイレの便器に跨る格好です。

 ふと振り返って排水溝を見ると、さっきはかぶせてあった網目状のカバーが取り外してありました。
 もしも大きめな固形物が排泄されても、すんなり下水溝へと流れ去っていくように、というご配慮でしょう。
 そのご配慮がますます羞恥心を煽り立ててきます。

「腰を充分浮かせて跳ねや飛沫に注意しなさい。オシッコも一緒に出しちゃっていいから、思い切り踏ん張って、入ったお水は全部出しちゃいなさい」

 おっしゃりながら激しいシャワーの水流を私の両足のあいだのタイル床に流し始められるお姉さま。
 お姉さまに真正面から見つめられる形となり、とてつもなく恥ずかしいのですが、腹痛を伴う便意は容赦なく下腹部をヒクつかせてきます。

「ああん、出ちゃいます…お姉さま、見ないでください、あっ、出る、出ちゃう、いやーっ!見ないでくださあい、恥ずかし過ぎですぅーっ!」

 両手で顔を覆っても目の前にお姉さまが居られる現実は覆せません。
 タイル床を勢い良く叩くビシャーっという音は、シャワーの水流の音だけではありません。

 しばらくつづいた水音が治まった、と思ったらすかさず襲い来る排泄欲求の第二波、第三波…
 ときどき混ざる間の抜けた破裂音と、ほんのり漂い始める何とも言えない臭いが死ぬほど恥ずかしい…
 力を入れ過ぎたのかオシッコも一緒にチョロチョロ漏れちゃったみたい…
 お姉さまの水圧強めシャワーは、いつの間にかしゃがんだ私のマゾマンコに直接当たっていました。

「全部出した?もう何も出なそう?そしたらもう一度四つん這いになりなさい」

 お姉さまがシャワーは止めずに床を打ち付けつつ、再び私の背後に回られます。
 濡れたタイル床に再度突っ伏す私。
 シャワーの水圧が私の肛門周辺を乱暴に打ち据えてくださいます。

「あうっ!」

 何の前触れもなく再び私の肛門に挿入されたガラスの異物。
 抜かれては挿され、手早く注入された液体はさっきよりも多い感じ。
 
 どうやらお姉さまは私の腸内を出来るだけ空っぽにされるおつもりみたい。
 私がお浣腸に興味を持った頃、どなたかが教えてくださった、まさしく腸のうがい状態。
 お腹が張ると同時に、すぐに腹痛と排泄欲求も膨らんできました。

「今度は我慢しなくていいわよ。すぐにしゃがんで吐き出しちゃいなさい。もう何も出てきません、って思えるまで」

 お姉さまのお言葉が終わるや否や起き上がります。
 少し慌てたご様子で私の正面に回られるお姉さま。

 しゃがむや否や下腹部の違和感を解消しようといきむ私。
 ブッシャーっと勢い良く床を跳ねる水飛沫、マゾマンコ直撃なお姉さまからのシャワー。
 やがて恥ずかし過ぎるお腹の咳払いも落ち着いて、私はぐったりうなだれました。

「うん。吐き出す水も濁らなくなったし、こんなもんでいいでしょう。お疲れさま」

 そのお言葉に、やっぱり始めの頃の私の排泄物は茶色く濁っていたんだ、と今更ながらの羞恥で打ちのめされる私。
 そんな私を知ってか知らずか立ち上がるように促され、もう一度全身に水圧高めなぬるま湯シャワー。
 
 お姉さまにおやさしく肩を抱かれ、脱衣所でふうわり蕩けそうに柔らかなバスタオルに包まれました。
 お姉さまもご自分のおからだを拭かれ下着を着けられた後、上下真っ黒で細く白いサイドラインが二本通ったスリムフィットなスウェットスーツ、お姉さまが来るときの電車個室で私を愛してくださったときの服装、に着替えられました。

 そこからはまさに電光石火でした。
 私が家から着けてきたブラとショーツを久しぶりに着けさせられ、上半身には真っ白な半袖フリルブラウス、下半身にはこれまた真っ白なミモレ丈のプリーツスカート。
 ご丁寧に真っ白なハイソックスまで両脚に履かせられました。

 ここまでで終われば、避暑地を訪れた清楚なお嬢様、的な出で立ちなのですが、もちろんそこでは終わらず、お姉さまと私で育んできたヘンタイ性癖ゆえのアクセサリーが追加されます。
 首にはいつもの赤色首輪、両手首足首に黒いレザーっぽいベルト、金属の輪っかが複数付いていて先ほどの広場でのとは違うものっぽい、を嵌められました。

 ここでやっとシャワーキャップが外され髪を梳かれた後、私の顔面をチョチョイと薄化粧。
 ただし口紅だけは物欲しそうに濡れ気味なコーラルピンクでした。

 そんな格好でバタバタと階下へ降りるふたり。
 円形大広間に着地したとき時計を見たら2時48分を指していました。

「おおっ、エミリー直っち、意外と早かったじゃん」
「直子ちゃん、可愛いっ!素晴らしい!バラスーシっ!これなら弁天さまもお悦びになるわーっ!」
「先生は今ヘアドライヤー中。謁見も10分くらい押すそうだから、どうやら余裕で間に合いそう」

 口々に謎なことをおっしゃりながら、ズンズン急かすように私たちを誘導される寺田さまと中村さま。
 円形大広間の階段下の扉の向こう側に通路があり、そこから建物左側へと向かうお廊下へと連れ出されました。

 二階と同じように左横へと張り出した建物に伸びるお廊下。
 二階と同じように左側にいくつかの扉が並び、その行き止まりが更に右側へと直角に折れていました。
 これが二階とは違うところ。

 折れ曲がった先は、それまでとまったく趣を異にしていました。
 市松模様の欧風床材からいきなり木の板張りのお廊下。
 そのお廊下は10数メートルくらい先で突き当りとなっています。
 
 お廊下沿いのお部屋の外観も純和風。
 灯籠を模した照明器具が並ぶ木目の奇麗な壁に横滑りで立派な木製の敷居戸。
 まるで昨日の和風旅荘に舞い戻ってしまったかのよう。

 先頭を歩かれていた寺田さまがスルスルっと敷居戸を開けられました。
 薄暗い中からモワッと香る畳の匂い。
 お姉さまと私はそこで室内履きを脱ぎ、畳の上に上がります。

 寺田さまはそのままお部屋の奥まで行かれ、障子張りの引き戸をスルスルっと開かれました。
 途端に差し込む眩しい陽射しにお部屋の中もグンと明るくなりました。
 障子戸の向こう側は少しの板の間を経て、お庭へ出られる縁側になっているみたい。
 半分以上がガラス窓の木戸の向こうに鮮やかな緑が覗けて見えました。

 そのお部屋は10畳くらいの畳のスペースがメインで、各壁際は板の間となっています。
 入り口に背を向ける形で大きめな文机がポツンと置かれ、その後ろに座椅子。
 壁際の板の間には総桐の重厚立派な箪笥とオーディオセット、そこから少し離れた壁際に一人がけの黒いソファーがこれまたポツンと置いてあるだけ。

 お部屋の右側が襖四枚で仕切られていますから、それらを開け放てばお廊下の長さから言って、この倍くらいの広々とした和室になるはずです。
 障子戸や襖を仕切る柱や鴨居はどれも太くて年季の入った頑丈そうな木材。
 さっきまで居た欧風宮殿や高級ホテルみたいな空間と本当に同じ建物内なのか?と混乱するほどのギャップ空間です。

「エミリーたち、靴のサイズ、いくつ?」

 中村さまから唐突なご質問。

「あたしは24、直子は23だわね」

 サクッとお姉さまがお答えくださいました。

「おっけ。クロックス用意しとくから庭に出るときはそれ履いて。エミリーは青、直っちはピンクね」

 おっしゃりながら中村さまが私の手を引っ張られます。
 寺田さまは総桐箪笥に取り付かれ、何やら物色されています。

「ここに座って」
 
 中村さまに手を引かれた私。
 お部屋の壁際の板の間、仕切りの襖を向こうに見る位置に置かれた黒いソファーに座らされます。
 
 そのソファーは、鉄のパイプで椅子の形を造り、そこに合皮のクッションを乗せたようなタイプ。
 座面が低く安定して頑丈そうで、背もたれはたっぷり、クッションも適度な柔らかさで座り心地はとてもいいのですが…

 いつの間にか傍に来られた寺田さまが、やにわに私の左手首を掴まれました。
 えっ!?と思っているうちに左腕を背もたれの裏側に回されてカチリ、同じように右腕もカチリ。
 おそらく背もたれの裏側にそれ専用の金具か何かが取り付けられているのでしょう、あれよと言う間に背もたれを挟んだ後ろ手錠状態にされてしまいました。

 つづけて左足首が持たれてソファーの左前方の金属足部分にカチャリ、同じように右足首もカチャリ。
 かなり大きく股を開いた状態で固定されてしまい、最早どう足掻いてもソファーから抜け出せない状態に。

「どうする?膝も支柱に縛って固定しちゃう?」
「うーん、少しくらいジタバタ抵抗出来る状態のほうが先生も悦ぶんじゃないかな?」

 中村さまと寺田さまが愉しげにそんな不穏な会話を交わされています。

「あ、あの、お姉さま?わ、私、これから…」

 私が手足の自由を奪われる様子を傍らで愉しそうに眺めていらっしゃったお姉さまに、縋る思いで助けを求めます。

「だから言ったでしょ?直子はこれから宿泊費をカラダで払うのよ。いけにえになるの」

 ソファーの前にはお姉さまのトランクケース、その上にレポート用紙のような紙片が一枚、そしてふうわり柔らかそうな紫色のお座布団が一枚。
 その横に立たれたお姉さまが、怯える私を嬉しそうに見つめています。

 その視界が不意に塞がれました。
 背後から目隠しされたみたい、頭の後ろで布片がきつく結ばれる感触がありました。

「んぐぅ…」

 つづけて鼻をつままれ、思わず開けた口腔に強引に、硬過ぎず柔らか過ぎずな球形の何かが詰め込まれます。
 同時に首上後ろ側にストラップぽい何かがきつく巻き付けられました。
 詰め込まれた異物を舌で触ると、球形のところどころに穴が空いているみたいなので、硬さから言ってシリコン製のボールギャグ?

「あたしが先生に、直子のカラダをお金で売ったのよ。先生はそういうお仕事だから」
「これから先生がいらっしゃって、身動き出来ない直子のカラダにいろいろイタズラなさるはず」

 お姉さまのお声が正面から聞こえてきます。

「いつもだったら、直子はマゾドレイなのだから先生には絶対服従、って命令するところだけれど、今回はその命令は無し」
「嫌だったらどんどん抵抗して反抗なさい。そのほうが先生も盛り上がれるでしょうから」
「これからあたしはかなちゃんと車で町に買い出しに出かけてくるから、何が起きても金輪際助けは来ないから、先生のご機嫌を損ねないようにせいぜいがんばりなさい」

 視覚を奪われているせいかお姉さまのお言葉の感情が読み取れず、とても冷淡冷徹に響いてきます。
 すぐに複数のかたが動く気配がして引き戸がカタンと閉まる音がし、その後は耳をそばだててもずっと無音。
 エアコンの静かな振動音以外しんと静まり返った室内に、手足を拘束されたままひとり取り残されてしまいます。

 ここへ来る途中の広場につづいて今日二回目の放置プレイ。
 広場のときとは違って屋内ですし着衣もきちんとしているところは救いですが、お姉さまご不在な上に、先生と呼ばれている見知らぬかたと差し向かいのお相手というところに、却って屋外全裸放置よりももっと何かおぞましい、得体の知れない不気味さを感じてしまっています。

 そのゾクゾクっとする不安感にすぐさま私のどうしようもないマゾ性が感応してしまい、スカートの下で大きく広げた股の付け根部分がショーツの中心部の裏地をジワジワ湿らせ始めていました。


2021年8月7日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 04

「すげえ…」

 助手席の橋本さまがお独り言みたいにつぶやかれて絶句。
 運転席の本橋さまも前方を見つめて呆気に取られていらっしゃるみたいで、車のスピードが徐行に近いくらいダウンしています。

 緩い上り坂の道をアーチのように囲む左右の木々が徐々にまばらになり、平地になった途端眼前に広がる大庭園。
 敷地を囲う塀とかフェンスは建ってなく、広大なお庭を森の木々たちが遠巻きに囲んでいる感じ。

 庭園の広さはさっきの広場と同じくらい?
 とても丁寧にお手入れされた生け垣で区分けされたスペースごとに木々と植物が端正に配置され、その合間に大きな石や岩を優美に並べたロックガーデン風。
 車道も石畳となり、その行き着く先に聳え立つのが…

「お城?」
「いやちょっと、ヤバいな、コレ…」

 男性がたおふたりが絶句されているということは、おふたりもここを訪れたのは初めてなのでしょう。
 お城と言っても天守閣とか金のシャチホコとか和風な造りではなく、中世ヨーロッパ風味、剣と魔法のRPGでいかにも王様が住まわれていらっしゃいそうな佇まい。

 正面玄関とおぼしき大きな扉の前に広い石の階段が三段あって、玄関部分が手前へと、長方形に盛大に出っ張っています。
 出っ張り部分と建物の一番高い部分の屋根は半円のドーム状。
 出っ張りの左右にも凸の字を逆さにした形に建物が横に広がっています。
 ただ、二階建てなのか三階まであるのか、高さはそれほどではなく塔のような高い施設も隣接していないので、お城というより宮殿という印象かな。

「こんな建物、建てちゃうやつがいるんだ」
「見た感じずいぶん年季入っているみたいだから、けっこう昔に建てられたんだろうね」
「大金持ちっていうのは、いつの時代にもいるんだよな」
「この辺りにこんなヤバイ別荘があったなんて、全く知らなかったよ」

 ご興奮気味な運転手席側のおふたり。
 私も呆気にとられています。

「でもさ、なんとなくちょっと昔の、田舎の国道沿いとかにありがちだったバブリーなラブホ的テイストも感じなくね?」

 ずいぶん失礼なことをおっしゃるのは橋本さま。

「いや、そんなにセンス悪くないよ。このお庭とか建物の感じとか、ゴシックとかルネッサンスとかバロックとか、史実に沿っていろいろ考えられている気がする…」

 なぜだか真剣に擁護に回られる本橋さま。

「こんな山間の別荘地にこんなの建てちゃうなんて、金だけじゃなくて権力も相当持っていないと無理だよな?」
「うん。それにこのメルヘン寄りなデザイン、男だけの発想じゃない気がする。惚れた女にねだられてイイ格好したくて、とかだったりして」
「ああ、ありうるわな。金に糸目はつけないって言われて、設計任されたデザイナーが暴走しちゃった感じ?」

 なんだか嬉しそうにおふたりで妙にご納得されいるご様子。
 そうこうしているうちに車が玄関前までたどり着きました。
 橋本さまがエンジンをお切りになると、お待ちかねたように我先にとドアを開けられたお姉さま。
 私も手を引かれ、丁寧な幾何学模様が優美に描かれた石畳に降り立ちます。

 ワンッ!

 向かって左側の木立の陰のほうからワンちゃんが一声吠えるお声が聞こえた、と思ったら、茶色くて大きなワンちゃんがお姉さまに飛びかかってきました。
 あっ、と思う間もなくワンちゃんに後ろ足立ちでしがみつかれたお姉さま。
 お姉さまも中腰になられ腕と言わず顔と言わず、ワンちゃんにベロベロ舐められています。

「ジョセもやっぱり来ていたんだねー。ほぼほぼ一年振りなのに覚えていてくれたんだ?どう?元気だった?」

 とても嬉しそうなお姉さま。
 ワンちゃんのフサフサなしっぽも千切れそうなくらいブンブン振られています。
 盛んに飛びついてくるワンちゃんの頭や首や背中をワシワシ撫ぜながら、お姉さまがご紹介してくださいます。

「この子はジョセフィーヌ、先生の数年来のパートナー。会う度に大歓迎してくれるの」
「ジョセ?こっちはあたしのパートナーの直子、よろしくね。あ、首輪の色がおそろいじゃない」

 ご指摘されてあらためて見ると、確かに首輪の色も形も私が嵌めているのとよく似ています。
 お姉さまが指さされる私を見つめられ、束の間思案顔だったワンちゃんが、今度は私めがけて飛びついてきました。

「あんっ!」

 ワンちゃんのしっぽが相変わらずブンブン振られていますから敵意は無いのでしょう。
 思わずしゃがんでしまった私の両肩に前足を乗せてこられ、顔をベロベロ舐められます。

「おお、ジョセも直子のこと気に入ってくれたみたいね。これから数日だけれど、よろしくね?」

 お姉さまがワンちゃんに語りかけられると、すぐさまお姉さまにまとわりつかれるワンちゃん。
 私の顔はワンちゃんのよだれでベトベト。

「直子も怖がらなくていいわよ。この子は今年確か三歳か四歳のとても賢い女の子。先生が愛情たっぷり注ぎ込んでいるパートナー。この子の犬種、わかる?」

 お腹を見せて寝転がっちゃったワンちゃんとじゃれ合われているお姉さまから突然クイズのご出題。
 えっと、テレビで見たことあって、確か人間のためにもすごく役立って盲導犬にも多い犬種で、お名前が何かSFっぽい感じで…そうだ、レが付くんだった、レ、レト、あ、レトリバー!

「あの、えっと、ラ、ラブドールレトリバー!」

「ブッ、ブー。惜しいけれど不正解」

 お姉さまが若干及び腰になってしまっている私に近づいてこられ、ワンちゃんも起き上がって今度は私にまとわりついてくださいます。
 相変わらず嬉しげにしっぽをブンブン振られながら。

「レトリバーは合っているけれど、この子はゴールデンのほう。ゴールデンレトリバー」
「それにラブドールって何よ?等身大美少女ダッチワイフじゃないんだから」

 からかうように私の顔を覗き込まれるお姉さま。

「正確にはラブラドールね。ラブラドールレトリバー。でもこの子はゴールデンレトリバー。見分け方は毛足の長さかな。ジョセみたいにモコモコなのがゴールデンね」

 お姉さまのご説明中もずっと私にじゃれついてくださっているワンちゃん。
 背後に回られたワンちゃんが私のワンピースの裾に頭を突っ込まれ、剥き出しのお尻をフワフワの毛でくすぐってこられます。
 ああん、そんなー、気持ちいいー。

 バタン、バタン…
 ドアが開閉する音がして男性陣も車を降りられました。
 すぐにトランクに取り付かれ、お姉さまのであろうお荷物を引っ張り出されました。

 物音で気づかれたのでしょう、ワンピの裾から頭を抜かれたワンちゃんも、男性陣のほうを見遣っています。
 ただし、しっぽは垂れ下がったままスーンとしたご興味なさげなお顔で。
 このワンちゃんも私と同じく男性は眼中に無いのかな。

 お姉さまのお荷物は、いつも出張時にお持ちになっている大きめのキャリーケースとアンティークなトランクケース、それといつものバーキンと先ほどお持ちになられたトートバッグ。
 それらを玄関の前まで運んでくださった本橋さまと橋本さま。

「荷物はこれだけでいいですかね?」

「あら、ありがとう。うーんと、あれ?直子のポシェットは?…あ、バッグに入っていたわ」

 本橋さまとお姉さまの会話。

「それじゃあぼくたちはここで。車は明日の昼過ぎまでに戻しますから」

「うん、本当にありがとね。道わかる?」

「あ、はい、ナビありますから」

「そっか。気をつけて。良い休日を」

「チーフたちも良い休日を。森下さんもね」

 おやさしいお言葉を残されて車に引き返されるおふたり。
 ゆっくりと方向転換され、滑るように木立の中へと消えていったお姉さまの愛車。

 再びしっぽをブンブン振り回して私のワンピのお尻側の裾に潜り込んでくるワンちゃん。
 ああん、そんなところ舐めないで…

 そのとき荘厳な玄関の観音開きな扉が、スーッと外開きになりました。

 どなたが開けられたのか、そのお姿は大きな扉と壁の影になってしまい最初は見えませんでした。
 ただ、その空間から垣間見えた内部のゴージャスさに目を奪われました。

「あ、お出迎えよ。行きましょう」

 お姉さまに促され石の階段を上がります。
 ワンちゃんは入らないように躾けられているみたいで、階段下にチョコンとお座りになられ名残惜しそうにしっぽが揺れています。
 玄関と同じ高さまで上がったとき、目の前に広がる壮麗な空間。

 床は大理石、高い天井から優美なシャンデリアが大小五基も吊り下がっています。
 横幅だけでも10メートル以上はありそうな空間の左右の壁際には、ゴシックデザインのシックなクロゼット?靴箱?がズラリ。
 更に一段上がった床は、ベルサイユ宮殿でおなじみのヘリボーン柄。

 ずっと奥にもう一枚観音開きの扉があり、その扉の左右脇に弓矢を構えた愛らしいキューピッドの彫刻。
 明かり採りらしき高い場所にある窓には万華鏡を覗いたみたいな模様のステンドグラスが貼られ、今まさに淡い光を床に落としています。
 
 玄関だけでテニスコートが一面分、余裕で取れそうな広さ。
 ただ単に玄関という一言では至極失礼な、敬意を込めて、玄関の間、とも呼ぶべき絢爛豪華な空間。

「エミリー、ひっさしぶりーっ!相変わらず美人さんだねー」

 私が内装に見惚れていると左脇のほうからお声が聞こえ、あわててそちらへ顔を向けます。
 絢爛豪華な玄関の間にはあんまり似つかわしくない、見るからに庶民の普段着な姿の女性がお姉さまとハグされていました。
 おからだを離されたので、その女性のお姿を見ると…

 上はゆったり長めな黄色い半袖Tシャツ、下は真っ黒ピチピチのレギンスだけで裸足。
 ゆるふわなショートボブヘアが細面のくっきりした目鼻立ちによくお似合いな美人さん。
 背はお姉さまと同じくらいで、スラッとスレンダーながら出るべきところはしっかり出ていらっしゃる感じ…Tシャツがゆったりなので確かなことはわかりませんが…

「何言ってるの?6月だったか7月だったかに仕事で会ったじゃない」

「で、こちらがエミリーがぞっこんのプティスールちゃんね。へー可愛い子じゃない?」

 お姉さまのツッコミにはお応えされず私のほうへと近づいてこられたその女性。
 間髪を入れずギュッとハグされました。

「きゃっ!」

「うーん、いい抱き心地、合格よ。よろしくね」

 何がどう合格なのかはわかりませんが、からだが離れてニコッと微笑みかけられます。

 抱きすくめられてわかりました。
 この女性もTシャツの下は素肌なことに。
 しっかり大きくて弾力に富んだふたつの膨らみが私の胸にギューッと押し付けられました。
 女性にも私がノーブラなことはわかってしまったでしょうけれど。

「直子、こちら寺田さん。先生の秘書と言うかマネージャーと言うか、お仕事全般を取り仕切っている偉いかた」

 お姉さまがご紹介してくださり、私はペコリと頭を下げます。

「あ、森下直子です。このたびはお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

 偉いかたと聞かされ、いささか緊張気味にご挨拶。

「もちろんよ。直子ちゃんっていうんだ?じゃあ、直っちだね。アタシのことは寺ちゃんとか寺っちとか気軽に呼んでいいから、さあ、早く中へ入りましょう」

 フレンドリーにご対応くださる寺田さま。
 正面で見るとTシャツには、ポケットなんとかっていう大流行中ゲームのキャラクターのお顔のイラストが大きく描かれていました。

「あ、スリッパ履く?アタシら的には裸足でも全然構わないのだけれど」

「一応いただくわ。何しろ暑くって足の裏も汗かいちゃっているだろうから」

 お姉さまがお応えになり出てきたスリッパも見た目レザーっぽい有名ブランドロゴマーク付きの高級そうなもので、室内履きとかルームシューズなんて呼びたくなっちゃう。
 お姉さまがバーキンとトランクケース、私がキャリーを畳んで手持ちにして、うんせと運びながらもう一枚の扉の前へ。

 その扉が開いた途端に絶句…うわっ、とか、凄い、とかの声も出ませんでした。

 広大に拡がる円形の空間。
 どこのコンサートホール?って言いたくなるほど高い天井。
 フロアは黒と白の床材で奇麗な市松模様を描き出しています。
 
 奥のほうにはグランドピアノまで置いてあり、今すぐにでもオーケストラを入れて宮廷大舞踏会が開けそう。
 これだけ広いのに玄関の間も大広間もちゃんと涼しいのですから、エアコン代が凄そう。

「いつ見ても凄いわよね、この大広間。来るたびに圧倒されちゃう」

「無駄に広くてね。お客さんがいなくてアタシらだけだと寒々しいだけだよ。アタシらが使うのはあの辺一帯だけだしね」

 お姉さまの感嘆に素っ気なくお答えになられた寺田さまが指さされた方向にもうおひとかた。
 入り口から見て右45度の位置ら辺にシックなワインレッドの立派な三人がけソファー。
 それが向かい合わせに置いてあり、あいだに大きな楕円形のテーブル。
 家具全部が猫足でクラシカルかつお洒落なデザイン。

 そのソファーの私たちが見える位置に、寺田さまとおそろいぽいTシャツを召した妙齢の女性がこちらに軽く手を振っていらっしゃいます。
 ぞろぞろとそちらに移動する私たち。

「こちらは中村さん。しゅっぱ、あ、かなちゃんは会社やめたんだっけ?」

「はーい。7月からプー太郎でーす。寺っちに食べさせてもらってまーす」

 お道化たご様子でお姉さまにお応えになられた中村さまは、肩までのウルフカットがよくお似合いなこちらも小顔な美人さん。
 ボトムはグレーのジャージに裸足。
 寺田さまよりも目と唇が大きめで、なんとなくやんちゃそう、って言うか、ロックバンドでボーカルとかしていそうな印象です。

「でもフリーで同じようなお仕事、つづけられるのでしょう?」

「うん。そのつもりだけど、まあしばらくは寺っちのヒモでいるのもいいかなー、なんてね」

 屈託なく笑われた中村さま。

「ま、そんなことよりここは再会を祝してカンパイといきましょうや。さ、座って座って」

 中村さまに促され対面の高級そうなソファーにお姉さまと並んで腰掛けました。
 テーブルの上にはシャンパングラスとアイスペールに刺さった真っ黒なボトル。
 大きなお皿の上にチーズやクラッカー、キスチョコ、ピスタチオ…

 中村さまがアイスペールから黒いボトルをお抜きになり、両手でお持ちになりました。
 瓶の飲み口のところをチマチマされた後、その部分に白い布地をかぶせられます。
 片手で瓶の底、もう一方で飲み口のほうを持たれ、何やら慎重に作業をされている中村さま。

 やがて、ポンッ!という小気味の良い音がして、中村さまが並んだグラスに飲み物を注ぎ始めます。
 あれって、多分とてもお高いシャンパンだ…

 中村さまが私に飲み物が注がれたグラスを差し出してくださいます。
 受け取った途端に、自己紹介がまだだったことを思い出しました。

「あ、ありがとうございます。森下直子と申します。このたびはお世話になります。よろしくお願いいたします」

 慌てて立ち上がりペコリとご挨拶。
 あはは、と笑われる中村さま。

「うん。知ってる。エミリーから話聞いているし、写真もたくさん見せてもらったし」

 イタズラっぽく笑われる中村さま。
 うわっ、お姉さま、どんな写真をお見せになったのだろう、と急激にモジモジしてしまう私。

 カンパイの後はしばしご歓談。
 お姉さまと寺田さま中村さまの共通のお知り合いのお話がしばらくつづきました。
 私は、このシャンパン美味しいな、とチビチビ舐めつつ蚊帳の外。

「ところで先生は?」

 お話が一段落されたのか、お姉さまが投げかけられた素朴な疑問にかますびしくお応えになられる寺田さまと中村さま。

「昨夜遅くまで仕事されていたみたいで、さっき起きられて今はシャワーでも浴びてるんじゃないかな?」
「先週、百合草ママ御一行が来ていて凄かったのよ。酒池肉林。絵に描いて額に飾ったような酒池肉林」
「それで先生もご愉快が過ぎちゃって、お仕事がちょっと押しちゃった感じ?」

「えっ?百合草ママたちが来ていたんだ?誰と?何人で?メンツは?」

 お姉さまが喰い付かれます。

「総勢八名。ママとミイチャン以外見覚え無い顔ぶれだったから比較的新しいお知り合いとかお客様がたなんじゃないかな?」
「話したらアタシたちをお店で見たことある、って人がふたりいた」

「その中にマダムレイって呼ばれてるノリのいいマダムがいてね。本人がアラフォーにはまだ早い三十路って言ってたな。子供が一人いるけど実家に預けてきたって」
「そうそう、それでそのマダムが連れて来ていたM女を先生がえらく気に入っちゃって」

 愉しそうにご説明してくださる寺田さまと中村さま。

「そのM女、たぶんマダムと同じくらいの三十路だと思うんだけど、に先生がセーラー服着せたりスク水着せたり体操服着せたり」
「滞在中何度も呼び出していたよね?で、その三十路M女の場違いなコスプレがかなり似合うんだ、ヤバイ色気で。相方のマダムも嬉しそうにあっけらかんとはしていたけれど…」

「うん、ちょっと緊張したよね?マダム、実は密かに怒っているんじゃないかって。子供いるくらいだから両刀のバイだろうけど、マダムとM女は完全に主従の雰囲気だったから。人のドレイを好き勝手に、って思ってたりしないかなって」
「で、このM女がまたえらく芸達者でさ…」

 そのとき、大広間の振り子時計が、ボーンッ、とご遠慮がちな音を響かせました。

「あ、やばい。もうこんな時間じゃん。先生には三時見当って言ったよね?」
「だね。そろそろエミリーと直っちには準備してもらわなきゃ…」

 にわかに慌て出されるおふたり。
 お席をお立ちになられ、私たちも急かされるように立ち上がります。

「二階のお部屋に案内するから段取り通り、なるはやで用意してくれると助かる」

 寺田さまが真剣なお顔でおっしゃいました。