2015年5月24日

オートクチュールのはずなのに 05

 崩れる落ちるようにバックシートに倒れ込むと、自然と右手が胸元のボタンへ。
「あぁぁぅぅぅふぅぅ・・・」
 中を激しく震わせてくるローターの振動に急き立てられて、一刻も早くおっぱいをわしづかみたくてたまりません。
「んふぅぅぅ・・・」
 とりあえず座席に浅く腰掛けた体勢ではあるのですが、ボタンを外しながら上半身がくねくね身悶えてしまい、ズルズルと横座りで寝そべるような格好になってしまいます。

「こらこら。まだ寝そべっちゃ駄目。高速に入るまでは、ちゃんと座っていて」
 車を発進させたお姉さまのお叱り声と共に、ローターの振動が急に緩やかになりました。
 ああん、またおあずけ?お姉さまのイジワル、なんて思いましたが、上半身を直して窓の外に目を遣ると、すぐ横を他の車が並走していて、助手席の女性のお顔までハッキリと見えました。
 そう、ここは紛れも無く天下の往来。
 黒のショーツ全開で、だらしなく投げ出していた両脚を大慌てでピタッと閉じ、胸元を押さえて窓から顔を背けました。

「あたしの真後ろに座って、ちゃんとシートベルトもしていてね。来るとき、高速出口にパトカー止まっていたから念のため。高速の入口過ぎるまではね」
「あ、はい」
「高速に入っちゃったら、好きにしていいから。リアは横も後ろもスモーク貼ってあるし、これから暗くもなるし、まず大丈夫だと思うわ」
「わかりました」

「もうブラは取った?」
「あ、いえ、まだです」
「早く取っちゃいなさい」
 お姉さまに促され、すでにウエスト近くまでボタンを外していた胸元を開き、フロントホックを外しました。

「取ったら助手席に置いて」
「はい・・・はあぅっ!ぁふぅぅん」
 からだを助手席のほうに乗り出すと、右肩から斜めに掛けたシートベルトがはだけた右おっぱいを押し潰してきて、尖った乳首の側面をベルトのザラザラが直に擦りました。
「直子にかかったら、シートベルトも拘束具のひとつになっちゃうのね。呆れちゃう」
 お姉さまは、ルームミラーで後部座席の私の動向をチラチラ確認されているようです。

「そうそう、忘れていた。直子、あたしがあげた首輪は持ってきたわよね?」
「あ、はい。メールでご指定いただいたものは、全部持ってきましたけれど・・・」
「じゃあ、その首輪を着けて。リードはまだ付けなくていいから、首輪だけ」
「今、ここで、ですか?」
「そうよ。あたしは直子を連休中、家政婦、つまり使用人として雇ったのだもの。だから首輪は、雇い主に対して絶対服従な使用人としての、証、みたいなもの。それを着けたら直子は、あたしのしもべになるの」
 お姉さま、私を虐める気満々だ・・・
 すっごく嬉しくなって、自分のバッグをガサゴソします。

 でも、首輪を着けている最中、一気に不安になってきました。
 首輪を着けたまま、お外に出たことは、もちろん今まで一度もありませんでした。
 こんなアクセサリーを身に着けて出歩く女の子なんて、そうそうお目にかかれません。
 強いて言えば、ゴスロリ趣味の子とか、パンクとかヘビメタのバンドをやっている子、あとはコスプレの一環、そのくらいかな。
 今日の私の服装は、それのどれにも当てはまらないですから、首輪を着けたら違和感ありまくりでしょう。

 そして首輪という器具は、ある種の趣味嗜好を持つ人たちにとって共通の、とある性的イメージを象徴しています。
 それは、さっきお姉さまがおっしゃった通り、服従の証としての拘束具。
 ご主人様と奴隷、飼い主とペット、サディストとマゾヒスト。
 いずれの場合でも、後者が着けるべき装飾品として広く認知されているアイテムでした。

 数年前、白昼のデパートのティーラウンジで、シーナさまからワンちゃんの首輪そっくりなチョーカーを渡され、ここで着けなさい、とご命令されたとき。
 着けるそばからみるみる私の顔が、はしたないドマゾ顔に変わっていった、と呆れたシーナさまは、以降、人前での装着禁止を言い渡しました。
 そして事実、私はそれを着けたその場で、ショーツをたくさん濡らしていました。

 私にとって、人前で首輪を着ける、ということは、そういうことなのです。
 首輪を着けてお外を出歩くということは、私はマゾです、と、周りのみなさまに宣伝しながら歩いているようなもの。
 お姉さまのご命令で、これからその恥辱を味わうことになるんだ・・・
 ドキドキする不安感と、未知の被虐へのワクワク感を半々に感じつつ、赤い首輪を着け終えました。

「着けた?着けたらちょっと身を乗り出してみて。このミラーによく映るように」
 お姉さまが前を向いたままおっしゃいました。
「はい」
 上半身をミラーのほうへ寄せると、再びシートベルトが私のおっぱいを押し潰してきます。
「あふぅん・・・こ、これで、見えますか?」
「うわっ。首輪したら一段とサカっちゃったわね。いやらしい顔。どエムそのものじゃない」
 シーナさまと同じ感想をおっしゃるお姉さま。
 助手席にはまだ、私が外した黒いブラジャーが、所在なげにポツンと置いてありました。

「最初はね、車に乗せたらすぐに首輪させて、高速を使わずに下走ってゆっくり帰ろうと思っていたの」
 まっすぐ前を向いて運転しつつ、ミラー越しに私をチラチラ窺がいながら、お姉さまが教えてくださいました。

「助手席に乗せて、下半身だけ丸出しにさせて、直子のイキ顔を信号待ちの歩行者や対向車、あと、それこそ前の車のミラー越しとか、街中のみんなに愉しんでもらおうかな、って」
「おっぱい出しているわけじゃないから、ちょっと見じゃ気づかれないじゃない?窓から覗き込みでもしない限り、下半身は見えないだろうし」
「でも、ぜんぜん気づかれないのも面白くないって考えて思いついたの。首輪をしていれば、目を惹くでしょ?おや、なんだかあの子、おかしいぞ、って」
「それで、みんなの視線を惹きつけつつ、思う存分直子にオナってもらって、淫ら顔を飯田橋まで晒し者にしたかったのだけれど、たまほのを拾っちゃったから、作戦変更になっちゃった」

「拉致監禁、ていうキーワードから、裸で手足縛って目隠しに猿轡でトランクに放り込む、っていうのも考えたわ。本物の誘拐犯みたいにね」
「もちろん、ローターのスイッチは最強で入れっぱなし。直子は、窮屈なトランクでからだ丸めたまま身動き出来ず、情け容赦無く震えつづける快感に悶え苦しむの」
「でも、そうすると運転中はあたしひとりになっちゃうから、直子をイジれなくて、思うよりはつまんなさそうなのよね。それに、万が一検問とかひっかかってトランク開けなくちゃいけなくなったりしたら、えらく面倒くさいことになりそうだし」

 今のふたつのご提案を、自分の身で実行することを想像してみます。
 助手席での下半身裸オナニーと、トランクに全裸緊縛監禁。
 どちらも背筋がゾクッとするくらいスリリングで、怖いけれどぜひともやってみたいと思いました。
 いつか機会があるかな?
 それと同時に、ひとりでは絶対出来ない、そういうアソビを私のために考えてくださる、お姉さまと出逢えて本当に良かったと、心の底から思いました。

「ま、いずれにしてもこれからの3日間、直子はその首輪を着けて過ごすこと。それが全裸家政婦に許された唯一の制服よ。寝るときは外していいわ。それ以外は外しちゃだめ。首輪以外の衣服は、あたしの許可無しでは一切着せないから、そのつもりでね」
「・・・はい」
「そろそろ高速入口だわ。ベルト直して、一応ちゃんとしていて」
「はい」

 開けすぎた胸元のボタンを留め直しながら考えました。
 そう言えばお姉さまは、お休み中はほとんど、ひきこもり状態っておっしゃっていたっけ。
 ということは、外出しないでずっとお部屋の中でふたりきり、ということになるわけで、それならば首輪を着けつづけることなんて、まったくプレッシャーにはならなそう。
 なんだかそれも残念な気も少ししたのですが、ずいぶんホッとしたのは事実でした。

「ほら、高速に入ったわよ?好きにしていいのよ?」
 考えごとでボーっとしている私を煽るように、お姉さまの投げつけるようなお声が響きました。
「あ、はいっ!」
 ビクンと我に返って窓の外を見ると、薄暗くなり始めたお空と、びゅんびゅん飛び去っていく何本もの外灯が見えました。
 お姉さまは左寄りの車線を走っているので、窓のすぐ横を後ろから追いついてきた他の車が、瞬く間に追い越していきます。
 
 私、こんなところで今から、オナニーしようとしているんだ・・・
 後ろめたい罪悪感と背徳感は、それをしなくてはいけない、という被虐感へと姿を変え、蔑まれたいというマゾの恥辱願望が、どんどん昂ぶってきます。

「だけどさ、後部座席でコソコソグチュグチュやられても、何しているのか見えないあたしには退屈なだけだから、こうしない?」
 お姉さまのよく通るお声が、運転席の背もたれの向こうから聞こえてきました。
 流れていたモーツアルトのボリュームが少し下がっています。

「正直言って、さすがのあたしもけっこう疲れていて、運転しながら眠くなりそうなのね。だから、あたしの眠気を吹き飛ばすくらい、派手にやって欲しいのよ」
「これから直子は、自分のしていることをあたしに全部、言葉で説明しなくちゃいけない、っていうルールにしましょう。つまり、セルフ実況中継」
「ルームミラーに見入ることもできないあたしが、たやすく想像出来るくらい、こと細かに説明するのよ?それと、あたしの質問には正直に答えて、命令には絶対服従すること。いい?」
「は、はい・・・」
「おっけー、じゃあ始めて」
 そのお声と共に、ローターの振動が最強に跳ね上がりました。

「あぁふぅぅぅ・・・」
「早速いやらしい声。直子はこれから、何をしようとしているの?」
「あん、はいぃオナニーです」
「こんな走っている車の中で、オナニーしちゃうんだ?それってヘンタイじゃない?」
「あぁん、はい、直子はヘンタイなんですぅ」
 振動が高まったローターに私のからだも、みるみるうちに回転数が上がっていました

「なんかカサカサ音がしているけれど。今何しているの?」
「はい、ワンピースのボタンを外しています」
「ほら、だからそういうのはちゃんとわかるように実況しなきゃだめでしょう?」
「あ、はい。ごめんなさい。今、おへそのところまでボタンを外しました。襟元がはだけて、おっぱいが見えていますぅ」

「隣を車がびゅんびゅん通り過ぎるところで、おっぱい出しちゃっているんだ?恥ずかしくないの?」
「あぅぅ、恥ずかしいです。今、ボタンを全部外しました。ショーツまで全部見えちゃってますぅ」
「それなら、シートベルトしたままワンピースを脱ぎなさい」
「はい・・・あうぅ、あああんっ・・・脱ぎましたぁ。乳首がベルトに弾かれて気持ちいいですぅ・・・」

「乳首はどうなってる?」
「両方ともコリコリですぅ、んんん、ああん、硬いぃ、それに熱いですぅ」
「今、パンツ一丁ってことね?脱いだワンピも助手席に置きなさい」
「はいぃぃ、ああん、またベルトさまが、乳首を虐めてきますぅ、うぅぅぅ・・・」
「じゃあまず、おっぱい揉んで、おっぱいと乳首だけでイキなさい。直子ならイケるでしょ?ロータも入っているし。シートベルトに虐めてもらいなさい。ちゃんと実況するのよ」
「わかりましたぁ、やってみますぅ」

「ぁあん、えっと今、左手は左のおっぱいを掴んで、あうっ、むにゅむにゅ揉んで、右手はシートベルトの縁で右乳首をカリカリ虐めています。あうっ!いたぁいぃ」
「ベルトさまのギザギザがすごく気持ちいいですぅ、表面もザラザラしててぇ、ぁあん、もっと、もっと、ぁああんっ!」
「ベルトごと右おっぱいを掴んで揉んでいます。ああん、気持ちいいぃぃ」
「んふ、んふ、んふうぅぅ・・・おっぱいがジンジン熱いですぅ、ぁぁぁ、ローター気持ちいぃぃっ」
「あっ、あっ、あぁ・・・なんだかアソコの奥が、どくどく波打っているみたいです、もうすぐイケそうぅ・・・」

「はぁふぅ、乳首が伸びるぅ、いたぁい、でもきもちいいぃぃぃ、いっ、いっ、いぃぃぃl」
「乳首に爪立てて引っ張ってまぁすぅ・・・ううぅぅぅ、もっとぉ、つよくぅぅ・・・」
「本当は、お姉さまに噛んで欲しいんですぅ・・・直子のいやらしく尖った硬い乳首、噛み切るくらいに・・・ああん、いたぃ、いやあ、いたぁいぃ、ちぎれそぉー!でも、もっと、もっとぉぉぉ」
「あ、あ、あ、お姉さまぁ、ごめんなさいぃ、イっちゃいますぅぅ、あ、あ、あ、あ、あぁ、イキますイキますぅぅぅ・・・!!!」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

「本当に、おっぱいだけでイっちゃったみたいね。たいしたものだわ。でも、ずいぶん溜まっているみたいだから、まだまだイケるでしょ?ねえ、パンツはどうなっている?」
「はぁ、はあ、はぁ・・・パ、パンツは、あ、いえ、ショーツはもうグッショリですぅ、あぁん、冷たいぃ」
 股間に手を遣ることを許されて、あてがったら、愛液がベットリ。
 滴り落ちたおツユで、茶色いシートが黒ずむほどシミになっていました。

「ごめんなさいお姉さまぁ、シートを汚してしまいましたぁ」
「いいわよそんなの。気にしなくて。なんなら潮だって吹いちゃっていいから。車内が直子臭くなるなら大歓迎」
「ああん、お姉さま、私、ショーツも脱ぎたいです。脱いでもいいですかぁ?」
 窓の外がずいぶん暗くなったこともあり、私もずいぶん大胆になっていました。
 おっぱい虐めで味わった、ほぼひと月ぶりのオーガズムに、理性のタガの2、3本は、とっくに外れていました。

「なあに?ここでスッポンポンになっちゃうんだ?さすが全裸家政婦を自認するだけあるわね。いいわよ。脱いじゃいなさい」
「あ、でも、紐を解かないで、ずり落としなさい。そのほうが後々ラクだから」
「はぁい。ありがとうございますぅ」

 元々ローライズなのがシートに擦れ、一本の細い紐のようになっていたショーツを、座った姿勢で一気に足首までずり下げました。
 股間のワレメとクロッチとのあいだに、何本もの透明な糸が引いては切れました。
 クロッチ部分は、プールから上がったときみたいにグッショグショ。
 ショーツを足先から抜くときに、履いていたミュールも一緒に脱いじゃいました。
 これで私は、赤い首輪以外、一糸纏わぬ全裸です。
 脱いだショーツはご命令される前に、助手席に献上しました。

 走行中の車の中で全裸になっているという事実に、私のマゾ性が歓喜していました。
 もしもお姉さまが、高速降りてもそのままでいいわね、なんておっしゃったら、私は、お姉さまのお部屋にたどり着くまでずっと、全裸でいなければなりません。
 高速を降りたら、歩行者も行き交う一般道。
 その道中も、駐車場からお姉さまのお部屋までも、首輪のみ全裸のままかもしれません。
 そう考えただけで、マゾの被虐心が下半身を激しく疼かせます。
 もちろんそんなこと、絶対に出来ないのですが、心のどこかで、そんな非情なご命令さえ、待ち望んでいました。

「それじゃあ今度は、下半身でイってもらおうかな。早く弄りたくて仕方ないのでしょう?」
「はいぃ」
「何だっけ?直子のその、普通は生えているべきヘアさえわざわざ抜き去っちゃった、いつもよだれを垂らしている淫乱な箇所の名前は?」
「あの、えっと、性器です・・・女性器・・・」
「ずいぶんお上品なこと。でも直子のは、そんなお上品なものではないでしょう?今だってよだれダラダラのくせに」
「あぁんっ、ごめんなさい。オ、オマンコです・・・直子のよだれダラダラ、淫乱オマンコですぅ」
 
 こんなになっても私は、その言葉を誰かに向けて口にするとき、恥ずかしくてたまりません。
 一方で、その恥ずかしさに興奮しちゃう、別な私もいるのですけれど。

「よくそんなお下品な名称を大きな声で口に出来るものね。だけど、直子のだったら、それでもまだ上品過ぎるわ。オなんか付けちゃって生意気よ。そもそも御って、丁寧語や尊敬語の接頭辞だもの」
「あたしが直子にピッタリのお下品な名前を付けてあげる。うーんとそうね・・・」
 お姉さまがしばし長考。
 私はそのあいだ、股間のローターの振動に意識を集中していました。

「よし決めた!直子のソコはね、今日から、剥き出しマゾマンコ、に決定ね。あたしに聞かれたら、いつもそう答えること。わかった?」
「あ、はいっ!」
「言ってごらんなさい、直子の剥き出しマゾマンコ!」
「あぁん、直子の、剥き出し、マゾマンコ・・・」

 一言一句、実際に声に出すごとに、ゾクゾクッと背筋が震え、私のソコの呼び名にはピッタリな感じがしました。
 淫乱で、貪欲で、救いの無い私の万年発情女性器。
 パイパンにしたのは、へアで隠さずじっくり視ていただきたいためだし、はしたないクリトリスはすぐ剥き出しになっちゃうし、ピッタリすぎ。
 頭の中で、その呼び名を反芻するだけでイっちゃいそう。

「ああん、お姉さま、ありがとうございます。直子は自分の性器を、これからずっと、直子の剥き出しマゾマンコって呼ぶことを誓います」
「あら?気に入っちゃったの?そんなの恥ずかしくて言えませーん、みたいなリアクションを期待していたのに」
「いえ、お姉さまがおっしゃる通り、直子のは、どうしようもないマゾマンコですから。今だって弄りたくて仕方ないんです。お姉さま、直子の剥き出しマゾマンコ、弄ってもいいですか?」
 理性が薄れた私は、お下品な言葉、恥ずかしい科白をワザと自虐的に口にする快感に酔っていました。

「仕方ないわね。そうなっちゃった直子は行き着くところまで行くしかないものね。今半分くらいまで来たから、高速はあと残り20分位かな?何回イケるか、がんばりなさい」
「そうだ!せっかく首輪しているのだから、シートベルト外して、シートに四つん這いになっちゃいなさいよ。全裸のお尻突き上げて、メス犬みたいにイキなさい」
「わかりました。きっとシートを汚してしまいますけれど・・・」
「だから、それはいいから。さっさとメス犬になりなさい」
「はい」

 シートベルトをはずし、後部座席に両膝を乗せ、四つん這いになりました。
 顔を助手席のほうに向けたので、今まで私の頭が見えていた窓から、今度は剥き出しのお尻が覗いていると思います。
 そのすぐ横を他の車が追い越して行っているはず。
 喩えようの無い甘美な恥辱感が、全身を覆いました。


オートクチュールのはずなのに 06


2015年5月17日

オートクチュールのはずなのに 04

 少し早く着いてしまったので、ビルの周辺をプラプラ。
 休日なので子供連れさんが多く、中高生らしき子たちのはしゃぐ声も目立ちます。
 アソコにローターを挿れている、という事実だけでムラムラ度MAXな私は、ワンピースの短い裾を気にしつつも努めてお澄まし顔で、沿道に並ぶアニメショップのワゴンを眺めたりしていました。

 お約束10分前から、待ち合わせ場所で待機。
 ホテルエントランスの柱に寄りかかって行き交う車を見張っていると、ホテルの利用客らしきアジア系の人たちの団体が何組か目の前を通り過ぎていきました。

 ガヤガヤとかまびすしい聞き慣れない言葉と共に、いくつもの視線が自分に注がれているのを感じます。
 日本人のそれと比べて、遠慮が無く不躾な、お野菜を品定めするような視線を、とくに私の剥き出しの太腿に感じます。
 あんなに短かいの着ちゃって、やっぱり日本人はふしだらだ、なんて思われちゃったかな。
 あの人たちが私のバッグやショーツの中身のことを知ったら、どんなお顔になるだろう、なんて、恥辱願望は募るばかり。

 そうこうしているうちに、見覚えのある青っぽい車を視界の右端に発見しました。
 いよいよです。
 お姉さまにお会いしたらまず、これから3日間、どうぞよろしくお願いいたします、とご挨拶して、リモコンローターのコントローラー、私とお姉さまは、それの形状が小型のイヤホン式音楽プレイヤーにそっくりだったので、シャッフル、と呼んでいました、をお渡しするつもりでした。

 すぐに動かしてくれるかな?
 でもきっと、なんだかんだで焦らされちゃって、なかなかスイッチを入れてもらえないのだろうな・・・
 なんてワクワクしている間に、その車が道の左端に寄って、ゆっくりとこちらへ近づいてきました。

 あれ?
 車が近づくにつれて、すでに助手席に誰かが乗っているのがわかりました。
 舗道側の窓を開けて、左手を小さく振りながら近づいてきます。
 ほのかさまでした。

「なんだかずいぶんお久しぶりな感じね?直子さん、お休み楽しんでいる?」
 お姉さまに促されて乗り込んだ後部座席に落ち着いたとき、ほのかさまが嬉しそうにお声をかけてくださいました。
「ちょっと早く着いたんでオフィス寄ったら、たまほのがこれから羽田行くって言うから、ついでだから送ることにしたのよ」
 お姉さまが前を向いたまま、教えてくださいます。

「空港バスで行くつもりだったのだけれど、チーフがタイミング良くいらっしゃったから助かりました。今夜は札幌でゆっくり泊まって、明日早朝、会場の設営からお手伝いです」
「雅と合流するのだったわね?」
「はい。元町のナハトさん主催のイベントです」
「ああ、あそこの社長さん、お話がくどいのよね、このあいだも・・・」
 運転席側で、お姉さまとほのかさまが楽しそうに談笑されています。

 お姉さまの車に乗り込んだときから、ふたりきりの辱めの時間が始まるはず、と期待していた私には肩透かしでしたが、お仕事ならば仕方ありません。
 気持ちを切り替えて、東京に来て初めての、空港へのドライブを楽しむことにしました。
 車内には、モーツアルトのピアノ曲が流れていました。

「それにしても驚いちゃった。直子さんてオフのときには、そういう服も着るのね?」
 お姉さまとの会話が一区切りしたらしいほのかさまが、振り返って私に話しかけてきました。
「えっ?あ、これは・・・」
 モジモジとワンピの裾をひっぱる私。
「カワイイじゃない?いつもの長めなスカートやジーンズ姿に慣れていたから、遠目で一瞬誰だかわからなかった。女の子全開、ピチピチ溌剌って感じね」
「いえ、あの、えっと、今日は暖かいし、たまにはこういうのもいいかなー、って・・・」
「うん。すごくいい。そんな姿を見せられちゃうと、やっぱりわたしは直子さんよりセンパイなんだなーって、つくづく思い知らされちゃう」
 冗談ぽくおっしゃる今日のほのかさまは、なんだかずいぶんテンション高めです。

「さっきチーフからお聞きしたのだけれど、チーフのお家のお掃除をお手伝いしに行くのでしょう?」
「あ、はい・・・」
「偉いのね」
「あ、いえ、どうせお休み中は、することなくてヒマですし・・・」
「休み前にあたしが、帰るの久しぶりで、最近ぜんぜん掃除していない、って言ったら、森下さんが押しかけ家政婦に立候補してくれたのよ。だからお言葉に甘えちゃおうかなー、ってね」
 運転しながら、お話に割り込んでくるお姉さま。

「帰ったらあたしは、ベッドに倒れこんで死んだように眠り込んで、ちょっとやそっとの物音じゃ起きないからね。そのあいだ森下さんがあれこれしてくれる、って言うから。もちろんご褒美も出すつもりよ。豪華なディナーとか、ね」
「へー。なんだか楽しそうですね?わたしも参加したかったかも」
「あら、たまほのには雅が待っているじゃない?美味しいものいっぱい食べてくるんでしょ?」
「そうですね。この時期の北海道だとアスパラと、やっぱり捕れたてのズワイガニかなあ」
「うわー。なんだか接待費の清算が心配になってくるわね」
「大丈夫ですよ。みやびさまによると、向こうでは一切ナハトさん持ちらしいですから」
「それを聞いて一安心。まあ、しっかりやってきてちょうだい」
 お姉さまとほのかさまの楽しそうなおしゃべり。

「そうそう森下さん?頼んだアレ、入れてきてくれた?」
 信号待ちで止まったとき、お姉さまがからだをねじって私のほうを向き、突然尋ねてきました。
「えっ?あの、えっと・・・」
 一瞬意味がわからず、でもすぐに思い当たって、急速にドキドキしてきます。

「ほら、休み中にメールでお願いしておいたじゃない?アレよ」
 お姉さまのお顔がイタズラっぽく蕩けています。
 間違いありません。
 お姉さまがお尋ねになっているアレは、私のアソコに埋まっている、アレ。
 でもこんな、ほのかさまもいらっしゃるときに聞いてくるなんて・・・
「あ、はい・・・挿れてきました・・・」
 正直にお答えした途端に、アソコの奥がヒクヒク蠢きました。

「そう、よかった。それでシャッフルは?」
「あ、はい。これです・・・」
 車に乗り込む前からずっと、左手に握り締めていたローターのコントローラーをおずおずと差し出すと、お姉さまはそのピンク色の小箱と私の顔を見比べるみたく交互に見てから意味ありげにニッて微笑み、さっと手に取ると同時に前へ向き直りました。
「ありがとう」
 ちょうど信号が変わって、スイーッと発進。

「アレって何ですか?」
 当然、今度はほのかさまが怪訝そうに、誰にとも無く尋ねてきます。
「うん。実は森下さんって、趣味が広くってね・・・」
 そう答えるお姉さま。
 お姉さまってば、ほのかさまに、いったい何を告げるおつもり・・・
 埋まっているローターを締め付けるみたく、中がキュンと疼きました。

「あたしが持っていないクラシックバレエのCDをたくさん持っているのよ。だから音楽プレイヤーに入れておいてくれるように頼んでいたの。それを今引き取ったわけ」
 しれっと大嘘をつくお姉さま。
 いえ、CDがたくさんあるのは事実ですけれど。
 ホッと小さくため息をつく私。

「ああ、それでシャッフルですか。わたしもあまり詳しくはないけれど、そういうの聞くのは大好きなんです。お部屋で小さく流していると、何て言うか、落ち着きますよね?」
「オフィスでもクラシック流しているでしょう?あれも最近マンネリだからね。もっとバリエーションを増やしたかったのよ。でもあれだってCD百枚分以上は入っているのよ」
「そうなのですか。直子さんはそれよりもっとお持ちなわけですね。わたしも頼んじゃおうかな?」
 お姉さまのお車は、いつの間にか高速道路に入っていて、快調に進んでいました。

「ねえ直子さん?バレエの曲っていうと、何が有名だったっけ?」
 ほのかさまがお顔をひねり、私のほうを向いて尋ねてきました。
「えっと、そうですね・・・」
 チャイコフスキーの、ってつづけようとしたとき、股間に小さく震動が伝わってきました。
「んっ!」
 思わず上半身がビクンと跳ねてしまい、ほのかさまも、んっ?というお顔をされました。

「首都高って道路の継ぎ目がガタガタして、相変わらず走り心地悪いわよね。早く何とかして欲しいものだわ」
 お姉さまが助け舟のつもりか、のんきなお声でそんなことをおっしゃいました。
「そうですか?わたしの車に比べたら静かなものですよ?さすが高級車はちがうなー、って思っていたところです」
 ほのかさまがそうお答えしてすぐに、お姉さまがおっしゃった道路の継ぎ目をタイヤが乗り越えたのか、車がガタンと今までに無く盛大に揺れて、おふたりで、あはは、って大笑いされていました。

「それで、何が有名なのだっけ?」
 車が揺れたことでいったん前に向き直っていたほのかさまが、再び後部座席を向いてきました。
 私の股間のローターは、ずっと弱く震えつづけています。
 でも、最初の衝撃が去った後は、だんだん震えにも慣れてきて、お話を出来ないほどではありません。
 なるべく意識をそちらへ向けないように、平気なフリでお答えします。

「チャイコフスキーのくるみ割り人形とか、白鳥の湖、眠れる森の美女。プロコフィエフのロミオとジュリエット。メンデルスゾーンの真夏の夜の夢。あとミンクスのドン・キホーテとか・・・」
「へー。いくつかタイトルを聞いたことあるのもあるし、面白そう。お休みが明けたら、そういうCD、貸してくださる?ちょっとづつでいいから」
「はい。もちろんです。音楽だけではなくてバレエにもご興味があれば、DVDもお貸し出来ます」
「わー。それは楽しみ」
「でも、オフィスでバレエ音楽がかかるたびに、森下さんが突然踊り始めちゃったりしたら、経営者としては困りものよね」
 突然会話に横入りしてきたお姉さまのご冗談に、ほのかさまが笑いながら前に向き直りました。

 それと同時に、股間の震えが強くなりました。
 経験上の目盛りで言うと、最弱、弱、中、強、最強のうち、最弱から一気に中まで上がった感じです。
 私がひとりで焦らしオナニーをするときは、この、中、の感じで挿れたまま放置しつつ、ロープや洗濯バサミ、ルレットやローソクで、からだのあちこちを虐めるのがお気に入りでした。

 前を向いたほのかさまは、幸い今度はお姉さまと、お仕事関係のお取引先さまのお噂に夢中なご様子。
 私は後部座席でうつむいて、両膝をぴったり合わせたまま、股間への刺激に必死に耐えていました。
 とろとろとろとろ、弱火で炙られるように、官能が下半身に蓄積されていきます。

 こんな走行中の車の中で、会社の先輩であり私のヘンタイな性癖のことなんて露とも知らないはずのほのかさまの前で、あられもない姿を晒すわけにはいきません。
 でも、股間を震わす快感に意識を向けないようにしようとすればするほど、却ってそんな状況の被虐感が私のマゾ性を活性化させ、どんどん恥辱的妄想が膨らんでしまいます。
 
 イキたい・・・イっちゃいたい・・・
 今すぐワンピースに両手を突っ込んで、尖った乳首を捻り潰し、腫れ上がった肉芽に爪を立てれば、私は呆気なく自分の淫らではしたないイキ顔を、ほのかさまにご披露する事態となってしまうことでしょう。
 そんなの絶対ダメ・・・でもイキたい・・・

「さあ、高速降りたからそろそろよ。空いていてよかった。連休中のこの時間帯って案外スムースなのよね」
 お姉さまのお言葉が合図だったように、股間の震えがピタリと止まりました。
 えっ?
 ほのかさまの眼前で、がまんし切れずとうとう痴態を晒してしまい、侮蔑の視線を浴びせられる淫靡な妄想に耽っていた私は、拍子抜けして顔を上げました。

 窓の外には、道路とコンクリートと無機質な建物、そしてところどころの緑が織り成す、人工的で殺風景な景色が延々と広がっていました。
 未来都市的と言うか、廃墟っぽいと言うか、とにかく非日常的で不思議な空間。
 こんなところに、全裸でひとり放り出されちゃったら、私、どうなっちゃうだろう・・・
 結局、焦らされておあずけでした。
 もどかしいまま徐々に昂ぶりが引いていくのが、更にもどかしい感じ。
 早くお姉さまとふたりきりになりたい、と心の底から思ったとき、車が止まりました。

「ありがとうございました。助かりました」
 車を降りて空港入口まで、ほのかさまをお見送り。
「気をつけていってらっしゃい。雅にもよろしくね。休み明け、成果を期待しているわよ」
「はい。チーフも、そして直子さんも、お休みをゆっくり楽しんでください。あ、いえ、これは、わたしたちは仕事っていう皮肉とかじゃなくて」
 ほのかさまがイタズラっぽく可愛らしく、ペロッと舌先を出されました。

「あら?直子さんてもしかして、乗り物苦手?なんだかお顔が熱っぽそうよ?とろんとしてる」
「えっ?あ、いえ、そんなことは・・・」
 私の下半身に蓄積された、発散されなかった快感の余韻は、まだまだ引ききってはいませんでした。
「本当だ。頬が火照って、汗ばんでいるわね。でも車酔いって、普通は蒼くならない?冷や汗とか」
 お姉さまもお芝居っぽくおっしゃって、わざとらしく心配そうなお顔。

「あの、いえ、これは、ちょっと車の中が暑かったのにウトウトしちゃったから、のぼせちゃったのかも・・・」
 わけのわからない言い訳をする私。
「そう?そんなに暑いとは思わなかったのだけれど。後部座席のほうが暑いのかしら?でも、車酔いでないのだったら、よかった」
 ほのかさまの無邪気な笑顔と、お姉さまの愉快そうな笑顔。

「それでは、いってまいります。ごきげんよう」
 白の麦わら風つば広帽子に真っ白なフリル半袖ワンピで真っ赤なカートを引きながら、ときどき振り向いて小さく手を振りつつ空港の奥へ消えていくほのかさまは、どこからどう見ても、これから高原へとバカンスに旅立つ深窓のご令嬢のお姿でした。

「さあ、あたしたちは我が家へ帰りましょう」
 お姉さまがやっと、私を正面から見つめてくださいました。

「あのぅ・・・」
「ん?何?」
 車まで戻る道すがら、どうしてもがまん出来ずにお尋ねしてしまいました。

「ほのかさまに、あんなことおっしゃって、良かったのですか?今日のお泊りのこと」
「えっ?だって本当のことだもの。ヘンに隠すより教えておいたほうがいいのよ。たまほのは、ちゃんと言葉の通りに受け取っているはずよ。家政婦だって、全裸のことまでは言わなかったでしょ?」
「そ、それに、シャッフルのことや、あんなイタズラまで・・・」
「直子もうまくごまかしたじゃない。どうだった?スリルあったでしょう?」
「はい。それはそうですけれど・・・」
 でもまだなんとなく、ほのかさまに本当の私を知られるのは、イヤと言うか、怖い気がしていました。

「それに、なんとなくだけれど、たまほのは、あたしと直子の関係を直感的にわかっているような気もするのよ。彼女、勘が鋭いから。だから彼女にバレたとしても、そんなに大騒ぎにはならないような気もしているの」
 お姉さまが運転席のドアを開けました。
 
「それに彼女は今日、舞い上がっていたから、あんまり他人事には関心が向かないとも思ったし」
「それは、間宮部長さまとのことですか?」
 そう言えばさっきほのかさま、間宮部長さまのことを、みやびさま、ってお呼びしていたっけ。
「うん。さあ、他人の話はこれでおしまい。これからはあたしたちの休日を存分に楽しみましょう」

 そして不意に、お姉さまが左手でワンピの裾をめくり、同時に右手のひらを私の股間にペたっとあてがいました。
「あっ!いやんっ!」
「うわっ。ビチャビチャじゃない?それにものすごく熱い」
 すぐに離した右手のひらをペロッと舐め、お姉さまが車に乗り込みました。
 私も助手席の側へ向かいます。

「のんのん。直子の今日の席はそこじゃないの。後部座席に乗りなさい」
「えっ!?なぜですか?」
「なぜって、直子が教えてくれたんじゃない。助手席だと、前の車のルームミラーが気になるって」
「えっと・・・」
「後部座席なら寝そべっちゃえば、おっぱい出そうが真っ裸になろうが、覗き込まれない限り、周りからは見えないってこと」
 ブルンとエンジンがかかります。

「高速道路なら覗き込んでくる歩行者もいないし、ここから飯田橋までだと少し迂回することになるから、さっきより長い時間、直子は愉しめるはずよ。約束通り、ずっとオナニーしていないのでしょ?」
「は、はい」
「だったらそのムラムラを、まずは車の中で発散しちゃいなさい。後ろに乗ったらまずブラジャーをはずすこと。いいわね?」
「はい・・・ああんっ!」

 いきなり股間のローターが最強で震え始めました。
「ああぁ・・・うぅぅ・・」
 反射的にしゃがみ込んだ私は、快感に耐えながらよろよろなんとか立ち上がり、後部座席のドアノブに手を掛けました。


オートクチュールのはずなのに 05


2015年5月10日

オートクチュールのはずなのに 03

 四月最終週の火曜日。
 すごく久しぶりにお姉さま、いえ、チーフとオフィスで長い時間、ご一緒出来ました。
「けっこう早く引き継げたわね。よくがんばったわ」
 そんな嬉しいお言葉もいただき、社長室でふたりきり、それぞれのデスクに向かっていました。

 お仕事に対して余裕が出てきたことと比例して、日に日に強くなるムラムラ感。
 オフィスに通い始めてしばらくは、そんなこと考える余裕なんてまったく無かったのですが、先週の半ばくらいにふと思い出だしたら、それからはそのことが、頭から離れなくなっていました。

 その朝、徒歩でオフィスへ向かう道すがら、高くそびえるビルをふと見上げて、なんとなく自分のオフィスの窓を探し始めました。
 左端の窓を上から下へ順番に数えて、カーテンに閉ざされたひとつの窓に見当をつけたとき、そう言えば私、あの夜あの窓辺に、全裸の服従ポーズでお外を向いたままマネキンのように放置されたんだっけ、って、突然、鮮烈に記憶がよみがえりました。
 見上げた窓はかなり小さかったのですが、もし今そこに人影があれば、その人が着衣か裸か、くらいの識別は容易に出来る気がしました。
 そう思った途端に全身がざわざわと、淫らにざわめき始めました。

 一度思い出してしまうと、もう止まりませんでした。
 建物内へとつづくバスターミナルを横切れば、大勢のバス待ちの人たちの前を、裸ブレザーにノーパンミニスカで歩かされたことを思い出し、エレベーターホールへ向かう通路では、素肌にボディコンニットだけで歩いた衣擦れの感触を、思い出してしまいます。
 オフィスフロアに着くと、えっちなジュエリーだけ着けた全裸をバスタオル一枚で隠して廊下を歩いたこと、トイレでは、そのバスタオルさえ剥がされちゃったこと、そして、オフィスの入口ドアの前でオナニーを命じられ、一生懸命声を殺して身悶えたこと・・・

 妄想ではなく現実に、つい一ヶ月前くらいに自分でやったヘンタイ性癖丸出しな行為の数々。
 社会人一年生という緊張と慌しさから、記憶を無理矢理頭の隅に追いやって極力触れないようにしていた、淫靡で甘美で背徳的な体験。
 ひとたび気がついてしまうと、このオフィスビルとその周辺には、お姉さまがもたらしたえっちな思い出が、そこここに満ち溢れていました。
 そして、その強烈なスリルと恥辱と快感を、もう一度味わいたいという欲求が、そろそろ限界なほどにまで、大きくなってきていました。

「チーフはこの連休は、どうされるのですか?」
 ふたりともタイミングよくお仕事が一区切りしたとき、お茶を煎れてくれる?というチーフの一声で、窓辺のテーブルに差し向かい。
 窓からは抜けるように澄んだ健全な青空が覗いていますが、私は、このテーブルの上でM字になって、敏感な箇所をチェーンで引っ張られながら、はしたないお写真をいっぱい撮られたんだなー、なんて不健全な記憶が、頭の半分以上を占めていました。

「うーん。前半は全部仕事で埋まっているから、丸々休めるのは最後の二日くらいかしら」
 チーフが気怠そうにティーカップを置き、正面からじっと見つめてきました。

 それはスケージュール表で、わかっていました。
 チーフのスケジュールは、日付が赤い日も何がしかの予定が書き込まれていて、空白なのは最後の二日だけ。
 だから私は、就職の報告も兼ねた実家帰りを、お休みの前半にして、後半は何も予定を入れないようにしていました。

「世間様が休日だとメーカーや小売店が、ここぞとばかりにイベントを打ってくるのよ。ファッションショーとか展示会とか」
「だから、お得意様先にはチラッとでもいいから顔を出しておかないとね。うちの大事なイベントも六月に控えていることだし」

 六月のイベントというのは、来年度の自社ブランド春夏もの新作を、お得意様を大勢集めてご披露する、会社にとってすごく大がかりで重要なイベントらしく、とくに開発部のかたたちは、私が入社した頃からずっとその準備で大忙しのご様子でした。
 開発部のリンコさまのお言葉をお借りすれば、連休?何それ?美味しいの?という状況だそうです。
 営業のお仕事に移られたほのかさまも、間宮部長さまの補佐で、チーフと同じように連休中もお得意様まわりだそうで、連休をちゃんと休めるのは、社内で私だけみたいでした。

「はい。それは存じています。それで、その二日間のお休みは、どうされるご予定なのですか?」
 どうしても、縋るような口調になってしまいます。
「そうね、あたしは、そういう少しまとまった休みっていつも、飯田橋の自宅にこもって死んだように寝るだけなの。お盆休みも年末年始も。あ、年末は鎌倉で死んでるんだ」
 クスッと笑うチーフ。

「そうですか・・・」
 五分五分で予想していた悪いほうのお答えが返ってきました。
 毎日お忙しくされているチーフだもの、たまのお休みくらいゆっくりされたいと思うのがあたりまえ、と自分に言い聞かせますが、もしかしたらお休みのうち一日くらいは、ずっとお姉さまと過ごせるかな、なんて期待していたほうの私が、自分でも思った以上にがっかりしていました。

「あら、なんだかずいぶんうなだれちゃったわね?ひょっとして、あたしと遊びたかった?」
 からかうようにおっしゃるチーフ。
「あたりまえですっ!」
 そのおっしゃりかたがニクタラシクて、思わずちょっと大きな声をあげてしまいました。

「ふーん」
 うつむいた私の顔を下から覗き込むようにお顔を近づけてきたチーフが、少しヒソヒソ声になってつづけました。

「そう言えば直子、あたしたちがシーナさんと遊んだとき、あたしが言ったこと憶えている?今後オナニーするときは、必ずあたしの許可を得ること、って」
「えっ?あ、はい。もちろん憶えています」
「でも、あたしも仕事が忙しいときは、いちいちそんなことにかまってあげられないと思うから、原則としてオナニーするしないは直子の自由にして、でも、したらその都度必ずメールであたしに報告すること、っていうルールにしたのよね?」
「はい。そうでした」

「それで、直子がここに通い始めてから今日まで、あたしは一度も報告を受けていないのだけれど」
「はい」
「直子が三週間以上も、一度もオナニーしていないなんて、あたしには信じられないのだけれど」
「いえ、本当にしていないんです。お仕事のプレッシャーでそれどころではなくて。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ最近は、少しだけ心とからだに余裕が出てきちゃったみたいで、そうなるとやっぱり疼き始めてしまって・・・」
「うん」
「だから、お休みはお姉さま、いえ、チーフと過ごせたらいいな、って思っていたんです」

「ふーん。つまり直子は、あたしに虐められることを期待しているのね?連休中に」
「はい。だから正直に言うとこの数日間は、すごくえっちなことをしたくてたまらないのですが、でも、もしもお会い出来るのなら、どうせならお姉さまと一緒に気持ち良くなりたい、って思ってがまんしていたのですが・・・」
「直子の連休の予定は?」
「前半は実家に帰って、後半は何もありません・・・だから連休中は、たくさん恥ずかしいご報告をすることになっちゃうと思います」
 お答えしているうちに、なんだか自分がとてもみじめに思えて、悲しくなってきちゃいました。

「そっか。なかなか正直でいいわね。それに、そこまであたしに期待してくれていたなんて、あたしも正直言って嬉しい」
 チーフがニコッと笑ってくださいました。
「そこまで乞われたら期待に応えたくもなっちゃうわよ。直子が慣れない仕事をずいぶんがんばっていたのも知っているし、ご褒美をあげてもいいかな」
「本当ですか!?」
 真っ暗だった私の目の前に、一筋の光明が見えてきました。

「経営者に必要な飴と鞭の飴のほうね。あ、でも直子だと鞭もご褒美になっちゃうのか」
「それに、そんな状態の直子を休み中ひとりで好き勝手やらせたら、何しでかすかわからないもの。休み明けたらうちの社員が、公然猥褻容疑で逮捕、ケーサツに身元引取り、なんて御免だわ」
 冗談ぽくおっしゃっておひとりでクスクス。

「休み中の最後の出張は関東圏だから車で行って、夕方にはこっちに戻れるはず。その足で直子を拾って、あたしのマンションに拉致監禁してあげる」
 萎んでいた気持ちが一気に花開きました。
「直子お得意の全裸家政婦として雇ってあげる。休み中、あたしの身の回り一切の面倒を見ること」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
 思わず大きな声で言ってしまい、チーフにシーッとたしなめられました。

「その代わり、絶対にあたしの睡眠の邪魔だけはしないこと。とくに帰って一日目は、すぐにベッドに倒れこんで寝込んじゃうと思うから、たぶんつまらないわよ」
「大丈夫です。お姉さまと一緒にいられるだけでシアワセです」
「暮れ以来、掃除らしい掃除もしていなかったから、この機会にピッカピカにしてもらおっかなー?」
「はい。お任せください。がんばります」
 嬉しくて嬉しくてたまらない私は、頬が緩んでしまうのを止めることが出来ません。
「さっきまであんなにうなだれていたのに、すごい変わりようね」
 チーフの呆れたようなお声さえ、天使のささやきのように聞こえました。

「そうと決まったら、これも付け加えておかなくてはね。直子は今日から、あたしに会うときまでオナニー禁止」
「えっ?」
 私の笑顔が少しだけ曇りました。
「だってさっき言っていたじゃない?どうせならあたしと一緒に気持ち良くなりたい、って」
「あ、はい。そうですけれど・・・」
 チーフのお家に拉致監禁で全裸家政婦、と聞いたときから妄想が広がりまくって、今夜はそれでお祝いオナニーをしよう、って考えていたところでした。

 でもすぐに、考え直しました。
 もう今日、たった今からお姉さまとのプレイは始まっているんだ、って。
 オナニーが出来ないのはとても辛いけれど、がまんするほど、ふたりきりになったときに思いっきり気持ち良くなれるはず。

「まあ、会ってすぐは、サカッた直子の相手をしてあげられるほど体力残っていないだろうから、あたしの前でだったらオナニーしていいわよ。なんなら車の中ででも」
 お姉さまの愉快そうなお顔。
「あと、あたしの寝顔をオカズにするとかね。起こさないでいてくれたら、寝ているあいだに何してもいいから」
 本気とも冗談ともつかない、チーフのお言葉。
「何にせよ、休み中の気乗りしない仕事を乗り越えるための、お愉しみが増えてよかった。休み中、全裸家政婦直子に何をやらせるか、いろいろ考えておくことにする」
 締めくくるようなチーフのお言葉に合わせるかのように、チーフ宛てにお電話がかかってきたことを知らせる呼び出しが入り、そのお話は、そこでおしまいとなりました。

 その日を指折り数えているうちに連休に入り、その日の前日までゆっくり実家で過ごしました。

 お正月以来の実家は、相変わらずまったりと時間が流れていて、母や同居している篠原さんとたくさんおしゃべりして、篠原さんの娘さんで中学生になったともちゃんのお勉強を見たり、一緒にケーキを焼いたり。
 久しぶりにピアノを弾いたり、バレエの真似事をしたり、お部屋に置きっ放しの昔のマンガ本や映画やアニメのDVDを見直したりと、のんびりゆったり過ごしたので、えっちな欲求も束の間、息を潜めていました。

 実家にいるあいだ、何度かお姉さまからメールが入りました。
 待ち合わせの場所と時間とか、当日の服装のこととか、私のオモチャ箱から持ってくるものとか、思いついたときにメールしているご様子でした。

 ちょうど、ともちゃんと一緒にいたときにメールが来たときは、もう興味津々。
「だれだれ?カレシさん?」
 なんて冷やかされ、見せて見せて、ってせがむのをなだめるのが大変でした。

「残念ながらカレシじゃなくて、私が勤めている会社の社長さんなの。お仕事の大事なメールだから、誰にも見せてはいけない決まりなの」
 そう言ってごまかしました。
 そのときのメールは、待ち合わせ当日の私の服装についてのことで、とても中学生の女の子に見せられるような内容ではありませんでした。

「へー。直子おねーちゃんは社長さんに気に入られているんだ。それならうまくいけば、将来は大金持ちセレブだね」
 ともちゃんの無邪気な発言に苦笑い。
「そうかもしれないけれど、社長さんも女性だからねー」
 ケータイに入っていたお姉さまの写真、もちろんあたりさわりのないやつ、を見せると、うわーカッコイイ人、って、嬉しい感想をくれました。

 そしていよいよ待ちに待った当日。
 少し曇りがちのハッキリしないお天気でしたが、気温は春っぽくポカポカめで風も弱く、過ごしやすい一日でした。
 待ち合わせは、午後4時半、オフィスビルエリアにある有名ホテルのエントランス付近の路上。

 そして、当日着てくるようメールで指定された服装。

 下着は、横浜でお姉さまに見立てていただいた、両サイドを紐で結ぶ式の黒で小っちゃめスキャンティタイプと、それに合わせた黒のストラップレス、フロントホックブラ。
 
 その上に、胸元から裾まで全部ボタンで留める式でネイビーブルーのミニワンピース。
 これは、私が一年前くらいのムラムラ期のときに、とあるお店でみつけて、前全開ボタン留めという形式にえっちな妄想が、それこそむらむら湧いて、衝動買いしてしまったものでした。
 お家に帰って冷静になってから着てみると思いの外、私の安心基準よりも裾が短くてお外に着て出る勇気が出ず、そのままクロゼットの肥やしとなっていたものでした。
 約一ヶ月前に、、私のクロゼットを一度チェックしただけのお姉さまが、わざわざこんないわくつきのワンピを指定してくる、その洞察力と記憶力の良さに驚いてしまいました。

 足元は、素足に白のミュールがお姉さまのご指定でした。

 これらのご指定って、どう見てもすぐに脱がして裸にする気満々の仕様に思えます。
 きっと早速車の中で、いろいろ恥ずかしい目に遭わされちゃうのだろうな・・・
 そう考えただけで、からだがカーッと熱く火照ってしまいます。

 その上、最後に決定的なご命令が書いてありました。

 当日は、直子の一番好きなリモコンローターを挿入してくること、ただし、あたしに会うまで絶対に動かしてはダメ、と。
 こんなメールをともちゃんに、見せられるわけありません。

 その日は、朝とお昼の二回、シャワーでからだを丁寧に磨き、午後3時には、お姉さまから命ぜられた姿になっていました。
 メイクにも少しだけ気合を入れて、準備万端。
 リネンのミニワンピースの裾は、膝上20センチくらいでやっぱりとても気恥ずかしいですが、お姉さまがいるのなら、勇気も出ます。
 肩から提げたトートバッグには、えっちなお道具がいくつも詰め込まれているから、もし落として散らばったら大変。

 そんなドキドキとワクワクの鬩ぎ合いの中、きっかり午後の4時、初めての出張全裸家政婦、二泊三日の任務へ赴くため、いそいそとお家を出たのでした。


オートクチュールのはずなのに 04


2015年5月3日

オートクチュールのはずなのに 02

「さあ、カップを洗ってしまいましょう。うちの給湯室はね、室外にあるの。水周りもそこだから。ついてきて」
 使用済ティーカップをすべてトレイに乗せ、テーブルを拭き終えたほのかさまが、私の傍らにいらっしゃいました。
「あ、社員証ね。オフィスフロアの出入りに必要だから失くさないでね」
 テーブルの上に置かれたままの裏向きカードホルダーをみつけたほのかさまが、カードと私の顔を交互に見ています。

「さっきチーフが、履歴書の写真をスキャンして貼っておいた、なんておっしゃていたわね。見ていい?」
「あっ!それは・・・」
 動揺している私の右手がカードホルダーに届くより一瞬早く、ほのかさまの右手がカードを取り上げていました。
「なあに?写真が恥ずかしいの?確かにこの手の証明写真て、気合入れすぎて力んじゃって、変な感じで撮れちゃうことが多いのよね」
 ほのかさまがイタズラっぽく微笑んで、手に取ったカードを表向きにしようとしています。

 ああ、見られちゃう・・・
 社長室の窓際のテーブルの上で、乳首とラビアとクリトリスに繋がったチェーンをお姉さまに引っ張られながらイキまくった、はしたない私のアヘ顔写真。
 今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られ、晴天の青空が覗いている窓を見ました。
 あっ、でもここの窓って、開かないんだった。

「なーんだ。悪くないじゃない。これって一年位前?今よりちょっと幼い感じだけれど、それも可愛い」
 ほのかさまが社員証を手渡してくださいました。
 そこには、私が履歴書に貼った、本来の写真が付いていました。
 お姉さまが、ちっともあなたらしくないもの、とおっしゃった、今日と同じリクルートスーツ姿での証明写真。

「はい、かけてあげる。市民証も一緒に入れて、こうしておくのが基本ね」
 ほのかさまがストラップを私の首にかけてくださいました。
「だけど、出歩くときはカード部分を胸ポケットに入れるとか、いっそ外したほうがいいわ。好き好んで個人情報を見知らぬ人たちに見せびらかすことはないもの」
「大人数の会社なら、社員かお客様かわからなくなるから常にぶら下げておかなければいけないのでしょうけれど、うちは全員、顔見るだけでわかるものね」
「ただ、失くすとそれこそオフィスにさえ入れなくなっちゃうし、再発行の手続きも面倒だから、管理はしっかり、ね?」
「はぁい」
 極度の緊張状態から、盛大に安堵して、腑抜けになったような声でお答えしました。

 ほのかさまと室外の給湯室まで行き、ポットとカップを洗いながら、お客様が見えたときのお茶の出し方などのレクチャーを受けました。
 それからふたり揃って社長室へ。
 社員証を胸にぶら下げている私を見て、チーフがイタズラッ子みたく愉快そうに、唇の端を歪めました。

 でも、そこから先はずっと本気お仕事モードで、チーフとほのかさまのおふたりがかりで、私に任されるお仕事について丁寧に教えてくださいました。
 覚えなくてはいけないことが沢山。
 必死にノートをとりました。

 ただ、ほのかさまがお仕事のお電話でお席を外されたその隙に、どうにも我慢出来ず、姉さまにお尋ねしてしまいました。
「あのぅ、私の履歴書、ひょっとして早乙女部長さまにお見せになったのですか?」
 恐る恐る尋ねる私の不安気な表情が、お姉さまのツボにはまったのでしょう、唇が、うふふ、の形になるのをこらえるみたく、ワザとらしく無表情を作っておっしゃりました。

「うん。そのほうが話が早いからね。一昨日、この履歴書見せながらアヤと雅とで打ち合わせしたの」
 お姉さまのデスクの上に無造作に置かれた一枚の裏向きの書類を掴み、私の目の前でヒラヒラさせてきます。
「あ、それは・・・」
 手を伸ばす私を左腕で制し、焦らすみたいにゆっくりと、その書類を表に返しました。

「イタズラ書きする前にコピーとったのよ。わざわざ履歴書と同じような紙でね」
 してやったりの表情で、お姉さまに履歴書を手渡されました。
 私が提出したときのままのオリジナルな履歴書でした。
「直子が書き足したのはそのコピーのほう。そっちもその金庫の中に大事に保管されているけれどね。あの写真付けたままで」
 にんまり微笑まれるお姉さま。
 そのお顔は、会社のチーフとしてのオフィシャルなお顔ではなく、私だけが知っているエスっ気たっぷりなプライベートでのお姉さまの、それでした。

「だいたい、あんなふざけた履歴書をアヤに見せたら、激怒ものよ。即却下されちゃう。彼女、一見さばけているように見えるけれどシモネタ耐性は低めだから」
 再び私の手から履歴書を奪い取ったお姉さまは、ご自分のデスクの抽斗にそれをしまいながらつづけました。
「それに、そういうのって、周りがだんだんわかってくるほうが愉しいじゃない?まさか、こんな子だったなんて、って」
「うちに勤めて、直子が自分のえっちな嗜好をずっと隠し通せるなんて、あたしはこれっぽっちも思っていないの」
 お姉さまが立ち上がり、エスの瞳で私を見つめてきます。

「うちはエロティックなアイテムも少なからず扱っているから、そういうのに接したときの直子の反応が凄く愉しみ」
「うちのスタッフもそのへんの嗅覚は鋭いからね。遅かれ早かれ直子の恥ずかしい性癖が全員に知れ渡るときが来るはずよ。ちょうど、あたしと直子があの試着室の中で、だんだんとお互いを知っていったようにね」
「それで何が起こるか、が、あたしにとって一番愉しみなことなの」
 ゾクッとするほど艶っぽく微笑むお姉さま。

「だからまずは、仕事を普通にこなせるように一生懸命頑張ること。仕事も一人前に出来ないような人には、愉しむ権利なんてないから」
「しばらく見てみて、使えないなと思ったら即クビよ。あたしの性格から言って、そういう人には個人的な興味も薄れちゃうから、おつきあいもご破算、ジエンド。いい?わかった?」
「はいっ!一生懸命がんばりますっ!」
 おっしゃっている最中に、お姉さまのお顔がプライベートからオフィシャルなチーフのお顔に変わっていき、最後の、わかった?は、取り付く島も無いほどの冷たさ。
 それだけはイヤ、と思った私は、背筋をピンと伸ばし、心の底からお答えしました。

「お待たせしましたー」
 ちょうどそのとき、お電話を終えたほのかさまが社長室に戻っていらっしゃいました。
「あら、おふたりともなんだか怖いお顔されて。何かありました?」
 ほのかさまがチーフと私を交互に見て、少し戸惑ったご様子。
「ううん。森下さんにちょっと、社会人の心得みたいなものを説明していただけ。森下さんもがんばるって張り切っているから、たまほのも指導、よろしくね」
「あ、はい。わたしも早く直子さんに引き継いでもらって、営業のお仕事に力を入れたいですから」
 ほのかさまがはんなりと微笑まれ、その場の空気が和らぎました。

 それからしばらく、慌しい日々がつづきました。
 私に任されたお仕事は、事務職全般、メインはお金の管理でした。
 もちろんお金そのものではなく、その流れの管理って言うのかな。
 仕入れと納品の出納、送られてくる請求書、小口現金、ネット通販の売上げ、エトセトラ・・・
 ありとあらゆるお金の流れをパソコンで管理し、その数字を日々チーフと部長おふたりにメールでご報告することでした。
 それに加えて、郵便物の仕分け、ご来客の対応、お電話取次ぎ、お買い物のお使い・・・
 ほのかさまのご指導の下、チーフから見捨てられないよう、必死でがんばりました。

 覚えることが多すぎて、頭の中では桁数の大きな数字と計算式とアパレル業界用語がおしくらまんじゅう。
 家に帰っても、ほのかさまからお借りした本で勉強しなければいけないことが多く、本当に大変でした。
 そんな感じでも一週間が過ぎた頃から、ようやく周りにも目を遣る余裕が少しづつ出てきました。

 間宮雅営業部長さまは、初出勤から3日目の月曜日、朝のミーティングのときに初お目見えしました。
 第一印象は、本当に格好いい人。
 デヴィッドボウイさん、という先入観もあったせいで中性的な二枚目イメージを思い描いていたのですが、実際にお会いしたら、ぜんぜん違っていました。

 襟足長めのウルフカットに細面の端正なお顔立ち、背もスタッフの中でもっとも高く、長いおみあしにパンツスーツがスラリと似合って、と、見た目は某歌劇団の男装の麗人そのものなのですが、とても人懐っこいご性格のよう。

「あなたが森下のナオちゃん?へー、カッワイイねえ。写真よりぜんぜん可愛いじゃん」
 私を見ての第一声が、これでした。
 そしてその後、立ち上がって自己紹介しようとした私の傍らにいらっしゃり、先に自己紹介してくださいました。

「営業の間宮雅です。ナオちゃんみたいに可愛い子が我が社に加わってくれるのは大歓迎。よろしくね」
 間髪をいれず、そのしなやかで長い両腕が伸びてきて、ギュッとハグされちゃいました。
 スタッフのみなさま全員が見ているその目の前で。
 ひたすらびっくりしている私の鎖骨の下辺りに、間宮部長のシルクのブラウス越しの、そのしなやかな体躯にしては意外に豊かなバストの感触がありました。

 そんな間宮部長は、ほとんどオフィスにいらっしゃることは無く、毎日どこかへ出かけれられていました。
 全スタッフの業務スケジュール、ご自身の出張やご来客の予定などは、決まり次第逐一私宛てにメールや口頭で連絡が入り、それを私がスケジュール表としてまとめ、会社のSNSみたいな場所にアップ、更新することになっていました。
 そこにアクセスすれば、いつ誰がどこにいるのか、いつ誰が来社するのか、が一目でわかる仕組みです。
 間宮部長のスケジュール表は、3ヶ月先くらいまで、お取引先や仕入先、顧客様のお名前と共に日本全国、いいえ、アジア諸国やヨーロッパをも含めた地名であらかた埋まっていました。

 これはチーフも同じことで、チーフのスケジュールも、海外を含めた広範囲のご予定が、ずいぶん先まで書き込まれていました。
 したがってこのおふたりは、たとえ朝出社されてもずっとオフィスにいらっしゃることはまず無くて、そのまま数日お顔が見れない、なんてこともままありました。

 反対にずっとオフィスに入り浸りなのは、開発部のヴィヴィアンガールズコンビ、リンコさまとミサキさま。
 このおふたりは、ほとんどずっと開発のお部屋に篭りきりで、おふたりで何かされているようでした。
 チーフから、開発のお部屋には立ち入り禁止と言い渡されていたので、入ってみたことが無い分、内部への好奇心も湧きました。

 早乙女部長さまは、オフィスを出たり入ったり。
 オフィスにいらっしゃるときの、そのほとんどの時間は、ご来客のお相手かお電話に費やされていました。
 たまに開発室の中にも入られて、長いあいだ出てこないこともあります。
 いつも品の良いエレガントな感じのスーツ姿で、テキパキと優雅に業務をこなされていました。

 ほのかさまとは、初出勤から三日間くらい、ずっと一緒に行動を共にしたので、すっかり打ち解けていました。
 ほのかさまからの業務引継ぎのご説明はとてもわかりやすく、何のためにそれをやるのか、なぜそうするのか、間違うとどんなリスクがあるのか、まで丁寧に教えてくださるので、飲み込みの遅い私でも、与えられたお仕事のノウハウをひとつひとつ着実に身に付けることが出来ました。

 ランチタイムは、ほのかさまと一緒に社長室や応接で、それぞれ持参のお弁当を食べました。
 最初のうちは、オフィスビル市民専用の合同社員食堂?や階下のレストラン街に連れて行ってくださいました。
 もの珍しさも手伝ってワクワクもしていたのですが、やっぱりお昼時はどこも混んでいますし、それに外食のランチだと私には量が多すぎる感じでした。
 外食慣れしていない私が思い切ってそのことをほのかさまに告げると、ほのかさまはほのかさまで私に気を遣っていたらしく、それまでずっとお弁当持参だったのを、新社会人なら、そういうのにも憧れているだろうと思い、無理して外食に誘ってくださっていたのでした。

「わたしも実はあんまり、お昼時の外食は好きではないの。量が多いし、がやがやしているし」
 というわけで、私とほのかさまはお弁当仲間となり、私は毎朝のサンドイッチ作りが楽しみのひとつとなりました。

「このビルの隣に公園があるでしょう?あの公園にはね、人懐っこい野良ネコがいっぱいいるの。お弁当食べていると寄ってくるのよ。あ、直子さんはネコ好き?」
「はい、大好きです。飼ったことはないけれど」
「よかった。今日はそこでお昼にしない?」

 お勤めを始めて2回目の週末、きれいに晴れ上がったポカポカ陽気のお昼時、ほのかさまに誘われて初めての屋外ランチタイム。
 公園には、あちこちにお弁当をまったりつつく、OLさんやサラリーマンさんたち。
 そのあいだをウロウロする10匹以上のネコさんたち。
 私たちも空いているベンチに腰を下ろし、お弁当を広げました。

「直子さんもだいぶ慣れてきたみたいよね。どう?うちの会社」
 ほのかさまのお弁当はいつも、ちっちゃくてオカズぎっしり、ご飯少な目。
 オカズは和風なものが多く、ひじきとかおひたしとか和え物とか、愛らしい見た目に似合わず渋い感じでした。
「わたし、濃い味の食べ物ってだめなの。すぐお腹いっぱいになっちゃって」
 可愛らしくおっしゃるほのかさまに、こういうかたこそ本物のお嬢様なのかもしれないな、なんて思いました。

「慣れたなんて・・・まだまだです。みなさんおやさしいし、親切に良くしてくださるので、一日も早く追いつきたいです」
「ううん。直子さんはよくやっているわよ。昨日も早乙女部長が褒めていたの、直子さんが作った試算表見て」
「本当ですか!?それは嬉しいけれど、あのかた、ちょっと怖いですよね?いつも冷静で、あまり笑われないみたいだし」

「そう?お話してみるとけっこう楽しいかたなのだけれど。でも確かに、仕事には厳しいわね」
「はい!このあいだなんかお電話で、どれだけ時間がかかったかは、こちらの問題ではありません。結果が出せないのであれば、他を当たるしかありませんね。なんて、平然とおっしゃっていました」
「ふふ。あのかたらしい言い方だわ」
「それも、別に怒っているふうではなくて、さも当然、ていう感じだったんです。私、それを聞きながら、このかた、怖いなーって」

 お答えしながら、ほのかさまがなぜ私をお外へ誘ってくださったのか、わかったような気がしました。
 私のガス抜きをしてくださっているんだ。
 オフィス内ではこんなお話、出来ませんから。

「間宮部長は?」
「あのかたも、つかみどころのないかたですよね。すごくお優しいのだけれど、接し方が独特と言うか・・・」
 めったにお会い出来ない間宮部長さまには、初顔合わせのあと2回だけ出勤され、そのたびに私に抱きついてきてペタペタ触られていました。
 あーいい匂い、気持ちいいなー、とかおっしゃりながら。

「あのかたは、誰にでもあんななのですか?その、ボディコンタクトと言うか、スキンシップと言うか・・・」
「そうね、誰にでも、ということはないわ。そういう意味で直子さんは好かれちゃったみたいね」
 なぜだか嬉しそうに、ほのかさまが微笑まれました。
「あのかた基本、博愛主義者だから」
 お弁当を食べ終わったほのかさまが、足元でうずくまる黒ぶちネコさんの背中をやさしく撫ぜながらおっしゃいました。

 そう言えばチーフは、間宮部長さまとほのかさまが惹かれあっているようなことをおっしゃっていたっけ。
 そうすると私は、あまり間宮部長さまに馴れ馴れしくしてはいけないのかも。

「開発のおふたりとは、すっかり仲良くなれたみたいね?」
「はい。アニメのお話で気が合ったので。今度コスプレ衣装も作ってくださるって。たまに息抜きしたくなると、社長室へもおふたりで遊びにいらっしゃいます」
「へー。わたしも直子さんに教えてもらって、アニメ仲間に入れてもらおうかしら。シャイな美咲さんのほうとは、未だにあまりお話したことないから」
「はい。いつでもおっしゃってください。ミサキさんも、好きな作品のお話になると、かなりおしゃべりになりますよ」

 そんなこんなで、初出勤から2週間を過ぎた頃には、ほのかさまのお手を煩わせなくても、どうにかひとりで業務がこなせるようになっていました。
 それと同時に、それまでムラムラのムの字さえ感じる暇も無かった緊張感が、ゆっくりと解けていくのがわかりました。
 考えてみればそのあいだ、お姉さまとのイチャイチャはおろか、オナニーさえ一度もしていませんでした。
 そんなこと、東京に出てきて以来、初めてのことでした。

 お姉さまがおっしゃった通り、この会社が扱っているアイテムの中には、私のえっちな妄想を駆り立てるエロティックなアイテムがけっこうありました。
 ボディコンシャスなドレス、ローライズジーンズ、マイクロビキニの水着、シースルーの下着、キャットスーツ、ヌーディティジュエリー・・・
 そういうものを目にするたびに、お姉さまが冷たい瞳で言い放った、ジエンド、というお言葉を思い出し、気を抜けば広がり始めるえっちな妄想を必死にシャットアウトしてきました。

 そんな我慢もそろそろ限界に達しそうな頃、世間は春の大型連休を迎えようとしていました。


オートクチュールのはずなのに 03