2020年8月30日

肌色休暇一日目~幕開け 09

「あ、領収書ください。宛名は…」

 お姉さまが伝票の上に一万円札を乗せ、和服のご婦人に手渡しました。
 ご婦人はニコニコ微笑みながらお受け取りになり、正面に座っている私をまじまじと見つめてきます。
 笑みを浮かべたそのお顔の唇両端がわざとらしく不自然に上がっていることで、ご婦人が私の姿に呆れられ凌蔑されているのだとわかります。

「一万円お預かりいたします。お釣りと領収書をお持ちしますので、少々お待ちください」

 ご婦人が再びレジの方へと戻られるのを見届けてから、お姉さまがおっしゃいます。

「ほら、直子も立ってブラウス着ちゃいなさい」

 お姉さまのよく通るお声に促され、背中とお尻を店内に向けないように用心深く立ち上がります。
 鴨居に吊るしていたブラウスは、すっかり乾いていました。
 横向きのまま素早く袖を通してお姉さまのほうへと向き直ったとき、店内のすべてのかたの視線が自分に向けられていることに気づきました。

 それまでぎこちないお箸さばきでお蕎麦を啜っていた外国人さまたちのグループは男性も女性も一様にお箸を止め、こちらに背を向けている女性陣は背中ごと首を捻ってまでして、私の姿を凝視しています。
 
 学生さん風のカップルさんは、頬を寄せて私を見つつ何やらヒソヒソ内緒話。
 作務衣姿のおふたりももちろん厨房からのお料理受け渡し口のところにお立ちになり、じっと私を視ています。
 胃の腑を満たしていたお酒の火照りが瞬く間に全身に広がり、とくに両腿の付け根付近がジンジン熱を帯びていくのがわかりました。

 今やすべてのみなさまから目視できるであろうふたつの乳首突起を、わざと目立たせるみたいに無駄に胸を張り、ブラウスのボタンをおへそ近くのひとつだけ嵌めました。
 ポシェットをパイスラに掛けるとバストの谷間が凹み、なおさら勃起乳首が一目瞭然。
 ダメ押しするみたいにブラウスの裾まで引っ張ってしまう私。
 乳房が布地に押され潰れる感覚にキュンキュン疼く、ローターで蓋をされたマゾマンコ。
 
 お酒のせいでしょうか、理性が被虐願望を抑え込めません。
 快感に耐えつつ極力平然を装う私の視界正面に、和服のご婦人のニコニコ笑顔が再び近づいてきます。

「ありがとうございました。温泉、愉しんでいってくださいね」

 ご婦人からお釣りと領収書を受け取られ、お釣りのお札何枚かをチップとしてご婦人にお渡しになるお姉さま。
 いえいえ、まあまあ、お姉さまとご婦人との束の間の応酬の後、お約束通りお姉さまが私の右手を握ってくださり、手を繋いでゆっくりとお店の出口のほうへと歩き始めます。

 チラリと振り返ると、食べ終えた食器類が乱雑に並ぶお姉さまと私のテーブル。
 その中にポツンと置かれたまっ白い紙ナプキンの存在に、ドクンと跳ねる私の心臓。

 外国人さまたちのテーブル脇を通り抜けたとき、まるでお見送りくださるように私たちを視つづけていてくださったみなさまの中から、ヒュー、シーズソーフォクシー、という感嘆混じりな男性のつぶやき声が聞こえた気がしました。
 ドッという弾けたような笑い声から早口意味不明な外国語ガヤガヤの中、お店の出口までたどり着き、ありがとうございましたー、という男女混声ユニゾンのお声を背にお店の外に出ました。

 相変わらず情け容赦無くギラギラな残暑。
 冷房の効いたお店から野外の炎天下なのでうんざり加減もひとしおなのですが、今の私には大した問題ではありません。
 そんなことよりも…

「お姉さま?私のスマホ、大丈夫でしょうか?」

 お蕎麦屋さんからほどほど離れた、庇の飛び出た日陰でお姉さまが立ち止まられ、私に振り向かれたのをきっかけに、心中の不安を勢い込んで投げかけました。

「大丈夫って、何が?」

 わざとらし過ぎるお姉さまからの素っ気無いご返事。

「何がって、あの、そのまま盗られちゃったり、あ、忘れ物っていうことで交番に届けられちゃったりしたら…」

「そうね。遺失物として警察に届けられでもしたら猥褻物陳列罪で捕まっちゃうかもね。なんてたって直子の無修正女性器丸出しだもの」

 からかうようにイジワルい笑顔で私を見つめてくるお姉さま。

「なーんてね。びびった?でも、テーブルを片付けたらすぐに気がつくはずだし、すぐにお店の人が追いかけて来て返してくれるわよ」

 お姉さまはご愉快そうにそんなフォローをしてくださいますが、それが問題なんです。
 忘れ物スマホに気づいて手に取り、それを持ち上げた途端にディスプレイに浮かび上がる私の恥ずかし過ぎる待受画像。
 どなたかが手にしているあいだは、消えても何度でも呼び戻すことが出来るのです。
 あんな恥晒しな写真を、いったい何人のかたに視られてしまうのか…

「誰があたしたちのテーブルを片付けてスマホを手にするか、でその後の展開が変わりそうよね?あの店員の女の子か男の子か、それともお店の女将さんらしい、あの和服のおばさんか…第一発見者が面白がって店中のみんなに見せて回る、ってことも充分ありうるでしょうし」

 私が一番気になっていることをイジワル笑顔全開でお姉さまがつぶやかれます。
 第一発見者、私の希望としては、女の子、ご婦人、男性の順。
 そして、絶対ありえないとわかってはいるのですが、あの画像を万が一ダウンロードされてご自分のケータイなどに保存され面白半分にネットのSNSなどで公開されてしまったら…という恐怖が頭の中で渦巻いていました。

「まあしばらくこの辺で待ってみて、返しに来ないようだったらあたしから直子のスマホに電話してあげるわよ」

 お姉さまの笑顔が悪魔のよう。
 そんなことをされてしまったら恥辱画像だけではなく、私のヘンタイ過ぎる音声までお蕎麦屋さん店内に鳴り響いてしまいます。

「ま、仕方ないわよね。これは直子があたしとの約束を破った、お仕置きなのだから」

 お姉さまがご自分のスマホ画面にわざとらしく視線を落とされ、私の心臓がドキンッ!
 すぐにお顔を上げられニヤッとされたかと思ったら、あっ!とお声を上げられました。
 私の肩越し、遠くのほうの何かを見つめられています。
 私もつられて振り返ります。

 先ほどのお蕎麦屋さんの引き戸の前で、作務衣姿のどなたかがキョロキョロ周辺を見渡されています。
 その右手には、遠目で小さいながら見覚えのある私のスマホ。
 目を凝らすと作務衣姿のかたは、お料理を運んでくださった男性のようでした。

「ほら、言った通りでしょう?さっきの店員さんよ。さっさと返してもらってきなさい」

 お姉さまがまだ目を凝らしている私の背を軽く小突きました、
 小突かれるのと同時に、私は作務衣姿の男性のほうへと小走りに駆け出していました。

 男性への距離は10数メートルくらい。
 右手に私のスマホをお持ちになり、左手は手ぶら。
 周囲をキョロキョロ見回しつつ、時たま食い入るように私のスマホ画面を見つめています。
 ああん、完璧に視られちゃってる…

「ごめんなさい、私さっき、お店のテーブルにケータイ、忘れちゃったみたいで…」

 男性まであと数メートルと近づいたところで、息せき切ってお声掛けしました。
 まだ駆け寄っている最中なので、薄い布地の下のおっぱいがプルプル上下しています。

「あっ!」

 男性の視線が私へと向き、驚かれたようなご表情で私を見つめ、そして再び視線はスマホ画面へ。
 近づく私の胸はプルンプルン弾み、ブラウスの前立てや裾も風で割れて、おへそも下腹部も太股の付け根まで肌色丸出しのはずです。
 
 男性は何度かその動作をくりかえされていました。
 見比べていらっしゃるんです。
 生身の私とスマホ待受画面の私の画像とを。
 その画像の私は、覆う衣類一枚無い剥き出しのおっぱいと女性器をこれみよがしに晒し、おまけにご丁寧に自ら肉襞まで押し広げて膣内まで視せてしまっているんです…

「あの、わざわざお店の外まで探しに出てくださったのですね?ありがとうございます。お手数をおかけしてしまい申し訳ございませんっ!」

 今すぐどこかへ逃げ去りたいような恥ずかしさと被虐を感じつつ、なんとか作務衣の男性のすぐ傍らまで近づきペコリと頭を下げ、早口でお礼を述べてから右手をそっと伸ばしました。
 私の腕の動きにつられるように、スマホを握っている男性の右手もそろそろと私の差し出した手に近づいてきたのですが、あと十数センチというところでピタッと止まり、ススっと背中側に引っ込んでしまいました。

「えっ!?」

 思わず声が出ると同時に、初めて男性のお顔をまっすぐに見ました。
 街でよく見かける眉にかかるくらいのメンズマッシュ、中肉中背、全体的に小さめ地味めな目鼻立ち。
 一回目線を切ったらもう忘れてしまいそうな、印象薄いよくあるお顔立ち。
 ただ、その小さめな瞳だけが好奇心を抑えきれず、ランランと輝いていることだけはわかりました。

「ねえ、君ってエーブイ女優の人なの?」

 お店でのマニュアル的なご対応とは打って変わって、少し上ずったずいぶん馴れ馴れしい口調で尋ねられました。

「えっ!?ち、ちがいますっ!」

 ご質問があまりにも想定外過ぎて、思わず大きな声で即座に否定してしまいます。
 なんだか脱力してしまい伸ばしていた右腕がだらんと垂れ下がってから、問われたお言葉の意味を反芻し、男性の思考の身勝手さを垣間見た気がして、性的な意味ではなく生理的な拒否感で全身がブルッと粟立ちました。

「だって、そんな首輪なんかしてそんな格好で、こっちの写真なんて、全部見せちゃってるじゃん」

 一歩後ずさった私にお構いなしで待受画像を私に向けてくる男性。
 お言葉羞恥責め、と捉えることも出来るシチュエーションですが、男性の発しているオーラが性的に生々しいというか、生臭過ぎるんです。

 馴れ馴れしいを通り越して図々しさまで感じさせる、軽薄にくだけきった雰囲気。
 繁華街を歩いていると唐突に話しかけてくる種類の男性とも共通する口調、本心は別のところにあるのであろう胡散臭い薄笑み。
 被虐にも傾きかけていた私の中のマゾメーターは一気に、不安感へと揺り戻されました。

「あ、それともあの怖そうな女の人に脅されてるとか?何か弱み握られたとか、パワハラのイジメとか」

 男性が私の肩越し方向を、横柄に顎だけしゃくって指し示します。
 つられて振り返ると、お姉さまはさっきと同じ庇の下でこちらを向き、遠くから私を見守ってくださっているようです。
 右手でビデオカメラを構えてレンズ越しに、ではいらっしゃいますが。

「そ、そんなことありませんっ!お姉さま、あ、いえ、あそこにいるかたは、私の一番大切なかたで、脅したりパワハラするようなかたではありませんっ!」

 見守ってくださっているお姉さまのお姿を確認したことで、俄然勇気が湧いてきました。
 一刻も早くスマホを取り戻して、お姉さまのお傍に戻らなければ。

「そ、そんなことより、早く私のスマホ、返してくださいっ!」

「ふうん。AVでもなくて無理矢理誰かにやらされているんでもないんだったら、なんでそんなエロい格好して、わざわざ人目の多い観光地をウロウロしているんだよっ?」

 私の強気な勢いが癇に障ったのか、もはやフレンドリーな取り繕いも放棄して、野卑な性的好奇心丸出しのぞんざいな口調。
 これほど好色剥き出しでギラついている成人男性のお顔を間近で見るのは、生まれて初めてです。

 そしてやはり私は、男性ではダメだ、と今更ながらに再確認します。
 言葉の端々に滲む高圧的な根拠の無い俺様感、女性とは明らかに違う獣じみた体臭、肉体的にねじ伏せればこっちのもの的な威圧感、…
 その粗野な振舞いの前では、性的興奮や被虐願望など水中に没したワタアメみたいに萎び、恐怖と嫌悪しか感じられません。

「そ、それは…」

 どうやってスマホを取り返そうか、と頭をフル回転させながら、男性のご質問にもお答えしようと口を開きました。

「それは私が、私がマゾだからです…」

「えっ!?」

 自分でも思いもよらなかった答えがごく自然に自分の口から飛び出してしまい、言い終わえた後、心の中で、えっ!?という驚愕を男性とユニゾンしてしまいました。
 自分で言ってしまった言葉で、マゾの血が全身にジワジワぶり返し始めます。

 男性も一瞬、虚を突かれたように固まっていましたが、やがて言葉の意味を理解されたのでしょう、ますます下卑た笑みを浮かべてズイっと私のほうへ一歩、詰めてきました。

「マゾって、やっぱヘンタイ女じゃん。そんなエロい格好やこんなスケベな写真視られて悦んでるってことだよな?マゾってイジメられるのが嬉しいんだろ?」

 その粗暴な振舞いと口調にマゾの血は再びスーッと引き、滾るのは嫌悪感ばかり。

「そんなことはあなたには関係ないことです。早くケータイを返してください。返さないのならお店に入って店長さんとか偉い人に、あなたの失礼な振舞いを言いつけますっ!」

 勇気を振り絞って、頭に浮かんでいた脅し文句を、ありったけの怒りを込めて口にしました。
 男性に言葉を投げつけている最中、フッとやよい先生、中学高校時代私が通っていたバレエ教室の先生で私のSM初体験のお相手の女性、のお顔が脳裏を横切りました。

 男性はいまだに語気荒い私の反撃に少し怯んだようで、いたぶりを愉しんでいたのであろう、にやけた視線が気弱そうにスッと外れました。

「ま、まあそんなにマジになるなよ、ちょっとからかっただけじゃん。わかったから、ちゃんとケータイは返すから」

 男性がいきなり卑屈なお顔つきになり、後ろ手で隠していた私のスマホをおずおずと差し出してきます。
 せっかく暗くなっていたのに動かしたせいでディスプレイに浮き上がる私の裸身。

 受け取ろうと私が手を伸ばすと、再びスイっと腕を引っ込める男性。
 あーもうっ!なんなの?この人…

「ケータイは返してやるからさ、その代わりそのヤラシイおっぱい、触らしてくんない?服の上からでいいからさ。ノーブラ乳首、エロ過ぎ…」
「マゾだったら、そんなのむしろご褒美じゃん?誰でもいいから男にいじられたくて、ヤラれたくてウズウズしてるマゾ女なんだろっ?」

 ドスケベオーラ全開で迫りくる男性の汗臭い体臭。
 瞬時に跳ね上がる憎悪、そしてなぜだか恐怖よりも、必死な男性に対する呆れと侮蔑、そして憐憫。

 そのときでした。
 より縮まってしまった私と男性との物理的距離の、その僅かな空間に響き渡るエロさ全開の淫声。

「これが直子のマゾマンコです…奥の奥まで、どうぞ、じっくり、視てください…」

 男性と私、同時に固まりました。
 私の中のマゾっ気、被虐欲が瞬時に全身を駆け巡ります。

 おそらく着信と同時にスマホが振動しているのでしょう、後ろ手に隠していた私のスマホを怖いものでも見るように恐る恐るご自分の目の前へと持ってくる男性。
 無情にリピートする私のマゾ宣言。

「これが直子のマゾマンコです…奥の奥まで、どうぞ、じっくり、視てください…」

 男性にはくりかえし聞こえてくる着信音が告げる文言の意味が、掴み切れていないご様子。
 唖然とされたご表情で、私の目前で呆然とスマホ画面を凝視される男性。

「あんっ、ダメぇ!いやんっ!」

 先に我に返ったのは私のほうでした。
 無防備に握られていた男性の右手からスマホを文字通りの意味でひったくり、あわてて着信ボタンを押して自分の淫声を遮りました。

「あっ!てめえ…」

 スマホをひったくられてやっと我に返られた男性。
 私のほうへともうニ歩三歩詰め寄ろうとされたときには、私はお姉さまへと一目散に駆け出していました。

「おいっ、ヘンタイマゾ女っ、それじゃ話が違うだろうがっ!」

 男性の遠吠えが小さく届く頃には、私はすっかり頼もしいお姉さまの傍ら。
 今にもこちらへ向けて駆け出して来られそうな勢いでしたが、お姉さまにずっとビデオのレンズを向けられているのに気がつかれたのでしょう、最後に精一杯虚勢を張るように私たちを睨みつけた後、すごすごとお蕎麦屋さんの店内へと戻っていかれました。

「なんだか揉めていたみたいだったからさ、助け舟のつもりで電話してみたのだけれど」

 お姉さまとやっと再び手を繋いで庇を出て、旅館さまとのお約束場所だという足湯の方向へ向かっています。

「ありがとうございます。あれでなんとか私のスマホ、取り返せました」
「で、なんで揉めていたの?」
「それが、あの人がすぐにスマホを返してくださらなくて、AV女優か?なんでそんなエロい格好しているんだ?なんて聞かれて…」
「ふーん。それで直子は何て答えたの?]
「それが…自分でもそんなお答えするつもりはぜんぜん無かったのになぜだか、私はマゾだから、って…」
「あらら、真っ正直に教えちゃったんだ?」

 お姉さまがこれ以上ご愉快なことはない、というくらいの嬉しそうなご表情で私の顔を覗き込んでこられます。

「それで、あの男の子は何て言ってきたの?」
「あ、はい…マゾのヘンタイ女だったら、イジメられるのはご褒美だろう?おっぱいを触らせればスマホを返してやる、って…」
「ふふん。あの年頃の男ってそうよね。画像と生身の直子で下半身もギンギンだったろうし。でも男性苦手な直子にとっては、すごく怖かったんじゃない?」
「は、はい…それでどうしようかと迷っているときにお姉さまからの着信が来て」
「それであの男性ともどもフリーズしちゃって、一瞬早く隙を見つけた私が奪い返すことが出来たんです。これもお姉さまのおかげです、ありがとうございます」
 
 繋いでいる右手を、感謝を込めてギュッと握り返す私。
 お姉さまも私の顔を覗き込み、ニコニコ笑顔をお返してくださいます。

「なるほどね。やっぱりあの店員はあたしの読み通りのヘタレだったんだ。おっぱい触らせろ、ってガキンチョか。あたしは、一発ヤらせろ、くらい言われているんじゃないかって、ちょっとハラハラ心配していたのに」
 
 ご本心なのか、ただのご冗談としてのからかいなのか、お姉さまの少しだけ火照ったお顔からは読み取れませんでした。

「でも、今回のことではっきりわかりました。やっぱり私は、男性とは性的なあれこれは愉しめないんだな、って」
「これまでの色んなアソビで、心もからだもちゃんと気持ち良くなれたのは、全部お姉さまのおかけだったんだな、って」

「ふーん、あたしのお仕置きがちゃんと効いたみたいね」

 照れたようなお困り顔になられたお姉さま。
 繋いでいる手を握る力を、突然あからさまにお緩めになりました。
 私は、離しません、という想いを込めて、いっそう力を込めて握り締めました。


肌色休暇一日目~幕開け 10


2020年8月16日

肌色休暇一日目~幕開け 08

「あ、はい…ごめんなさい…」

 座ってもまだ肩から提げていたポシェットを開き、おどおどとスマホを取り出します。
 手に持った途端に明るく浮かび上がる、自分のオールヌードくぱぁ画像。
 おずおずとテーブルの上に表向きで置くと、しばらく公然に晒されてからスッと暗闇に消えてくれました。

 それを見届けてから、今度はパイスラのポシェットを外し、ひとつだけ留めていたブラウスのボタンも外します。
 こんなスケスケの役立たずなブラウスでも、こんな場所で自ら脱ぐ、という行為には羞恥と躊躇が生まれます。
 これを脱いでしまったら、トップとボトムだけの下着姿も同然なのですから。

 それでもお姉さまからのご命令、意を決して両袖から汗ばんだブラウスの袖を抜きました。
 脱いだブラウスはお姉さまが引き取ってくださり、空席となっているお隣の椅子の背もたれに掛けてくださいました。

「こうしておけば、出る頃には乾くでしょ。さてと、直子は何が食べたい?」

 お店には、軽やかなピアノを中心にしたジャズっぽい音楽が流れています。
 でも、それを掻き消すみたいに、きっと随分年季が入っているのでしょう、店内二箇所に設えられた大きめなエアコンから発せられるブーンという低音もずっと聞こえています。

 私にも読めるようにと横向きでメニューを開いてくださるお姉さま。
 綺麗なカラー写真付きで美味しそうなお料理が満載です。

 美味しそうではあるのですが、今の私はメニューに集中することが出来ません。
 だってブラウスを脱いでしまった私は、素肌の殆どの部分を外気に晒してしまっているのですから。
 それもプライベートなお部屋内ではなく、どなたでもお出入り自由な温泉地のお蕎麦屋さん店内で。

 現に今も新しいお客様、ご年配のおじさまと若い女性のカップルさんがお見えになり、先客のおふたり連れのお隣のお席に着かれました。
 おじさまが私の姿に目を惹かれたようで、たぶん首輪だと思いますが、女性に何やら耳打ちをされ、背中を向けていた形の女性も首だけひねって私を視てきます。

 私は身を固くしてメニューに集中しているフリでうつむきます。
 でもやっぱり気になって、そちらを上目でチラチラ窺ってしまいます。

 今の私は、街中のお蕎麦屋さんにひとりだけキワドイ隙だらけの水着姿で座っているようなもの。
 これがたとえば海水浴場の近く、とかならば、みなさま開放的でさして目立たないのでしょうけれど、ここでは明らかに日常の中の異物。
 
 なんでここでその格好?なんで女連れ?なんでノーブラ?なんで首輪?
 そんな疑問が湧くのは当然です。
 私のマゾ性が理性を、ジワジワ隅っこへと追い詰め始めています。

「やだ、直子にぴったりのお蕎麦があるじゃない。ちくびそば、だって」

 メニューの写真を指さし、はしゃいだお声を上げられたお姉さま。

「えっ?」

 そのお声でフッと理性が戻る私。
 そんなお蕎麦あるの?お姉さまのしなやかな指が置かれているメニュー写真を確認します。
 本当だ、乳首そば(かけ・せいろ)って書いてある…あれ?でもこれって…

「あの、お姉さま、これ、首じゃなくて、きのこっていう字じゃないですか?」

「あ、本当だ。茸っていう字だね。じゃあ何て読むんだろう?ちちだけそば?」

「下にローマ字で小さく書いてあります。Chitake-Sobaって」

「ふーん、ちたけそばね。初めて聞くけど面白いんじゃない?字面が気に入っちゃった。注文お願いしまーすっ!」

 お言葉の後半でお姉さまはまっすぐ高く右手をお挙げになり、お店のかたをお呼びになりました。

「はーいっ!」

 先ほどの作務衣の女の子がいそいそと近づいてこられました。
 あらためて見ると、小柄で目がパッチリ大きくて小さいお顔にひっつめポニーテール、どこかのアイドルグループの一員と言われても信じられるくらい可愛らしいかた。

「この乳茸そばっていうのは、たぶん乳茸っていう茸が入っているのよね?どんな茸なの?」

 お姉さまがメニューを指さしつつ、お尋ねになります。

「あ、はい。具材としても入っていますが、よいお出汁が取れるんです、この茸」

 私の胸にチラチラ視線を飛ばしつつ、お答えになる女の子。

「あたし最初、乳首そばって読んじゃって、ギョッとしちゃった」

「ああ、間違われるかた、たまにいますよ。ご年配の男性とか、嬉しそうにお下品なご冗談をおっしゃるかたも」
「乳茸っていうのはこの辺で夏から秋にかけて採れる茸で、切るとミルクみたいな白い液が出るのでこの名前になったそうです。香りが凄くいいんですよ」

 お姉さまと傍らに立たれた女の子、フレンドリーに会話されています。
 女の子はお愛想よくお姉さまのお相手をされながらも、視線が頻繁に私へ。
 布地を突き上げているふたつの突起がどうしても気になるみたい。
 少しつま先立ちになって、座っている私の剥き出しなお腹の更に奥を覗き込むような仕草も。

「なるほどね。それじゃあこの乳茸そばをせいろで二人分と…」

 お姉さまがご注文を告げつつ、テーブルに置いたご自分のスマホを手に取られます。
 ドキンと跳ねる私の心臓。
 私のスマホは女の子からも、充分に画面を目視出来る位置に置いてあります。

「あと、湯葉刺しと卵焼きをひとつづつ、それと、この地酒の冷酒の2合ボトル1本ね。グラスはふたつ」

 よどみなくご注文を告げられた後、ついでという感じでお手元のスマホをポンとタップされました。

「んっ!」

 吐息を洩らしたのは私。
 股間のローターが緩く振動し始めたのです。

「お酒はすぐにお持ちしていいですか?」

 にわかに挙動が不審になった私を興味津々な瞳で見つめつつの女の子のお尋ね。

「うん。食前に乾杯したいからね。よーく冷えたやつ持ってきて。いいわよね、直子?」

 直子?という呼びかけと一緒に、スマホ画面上のお姉さまの指がスッとスワイプしました。

「あんっ、あ、はいっ、はいぃ…」

 ローターの震えが一段と激しくなり、股間からブーンという音さえ聞こえてそう。
 椅子に座っている姿勢なのでデニム越しの膣穴は椅子の薄いお座布団に密着しています。
 ローターのモーターがその下の民芸風な木製の椅子もろとも震わせているような感じ。
 エアコンの音にうまく紛れてくれていれば良いのですが…

「それでは、ご注文は、乳茸そばをせいろで二人前、単品で湯葉刺しと卵焼き、冷酒二合を食前に、でよろしいですね?」

 テーブルに前屈みになって快感に耐えている私の頭上を、女の子の涼やかなお声が通り過ぎていきます。

「あ、あと氷入りのお水を一杯、お酒と一緒に持ってきてくれる?この子、日本酒弱いから、チェイサーにしたいの」

「はい。かしこまりました。では少々お待ちください」

 女の子がテーブルから離れたとき、やっとローターが止まりました。
 ハァハァ息を切らし、うらめしげにお姉さまを見上げる私。

「お姉さまぁ…あんまりイジメないでください…それでなくてもこんな格好で恥ずかしいのに…」

「あら、何言ってるの?あの可愛い従業員さんが物怖じしないでじっくり直子のこと視てくれるから、あたしもちょっとサービスしてあげただけじゃない」
「直子だって嬉しかったでしょ?あの子の目の前でマゾマンコが震える音、聞いてもらって」

 ヒソヒソ声で、私の抗議を一蹴されるお姉さま。
 私がまだお姉さまをうらめしげに見つめていると、その視界に女の子が再びツカツカと近づいてこられました。

「あの、お客さま?そのお召し物、汗で湿っているのなら、このハンガーをお使いください。高いところに干したほうが乾くのも早いと思いますよ?」

 空席な椅子の背もたれに掛けてあったブラウスを指差し、針金製のハンガーをお姉さまに差し出してくる女の子。

「あら、気が利くのね。遠慮なく使わせていただくわ」

「はい。その壁の上の鴨居に掛けると、ちょうどエアコンの風が当たってイイ感じかな、と」

 私が背にしている壁の上のほうを指さされた女の子。
 相変わらず私のバストをまじまじと見つめてきます。

「そうね。ほら直子、あなたが掛けなさい」

 スケスケブラウスをハンガーに掛け直して一番上のボタンだけひとつ留め、対面の私に手渡そうと右腕を伸ばされるお姉さま。
 受け取るために私も手を伸ばしたとき、いらっしゃいませ~、のご挨拶とともにガヤガヤと数人の方々がご来店。
 今度は欧米系らしき外国人さん4人連れ、男性2女性2のグループさんでした。

 つづけざまに大学生風カップルさんが一組。
 ふと気づくとあまり広くない店内がほぼ満席、私たちの隣の四人掛けのお席以外、全テーブルが埋まっていました。

 忙しくなってきたのに私たちのテーブルからまだ離れない女の子。
 彼女はたぶん、私を立たせたくてハンガーを持ってきてくださったのだと思います。
 私の全身、ブラウスを脱いだらどういう姿なのかを確認したくて。

 ブラウスを鴨居に掛けるために立ち上がるとしても、店内のみなさまに背中を向けてしまうことは絶対に避けなければなりません。
 私のお尻の少し上には、自分の性癖を明記した恥ずかしい日焼け文字が記されているのですから。
 素肌が剥き出しとなっている今、どんなに素早く済ませたとしても、カタカナひらがなの5文字はいともたやすく読めてしまうことでしょう。

「ほら、何をもたもたしているの?さっさと掛けちゃいなさいよ」

 すべてを察していらっしゃるであろうお姉さまが、ご愉快そうに煽ってこられます。
 私は観念して、ハンガー片手に立ち上がります。

 幸いなことに私たちのテーブルはお店の隅、私は壁を背にして座っているので、立ち上がっても横向きでいれば、その背中側も直角を作ってつづく壁面でした。
 お尻をお店の内部側に向けさえしなければ、どなたにもイタズラ書きを読まれる心配は無い位置です。

 ただし、立ち上がるとテーブルは私の腿の位置、剥き出しのお腹から狭すぎるデニム地パンツ下まで、半裸の肌色のほとんどが丸出しとなりました。
 横向きになると、尖った乳首の突起も余計に目立つことでしょう。
 私が立ち上がった途端、お店にいらっしゃるすべてのお客さま、従業員さまの視線が私のほうへと集中するのを感じました。

 晒し者、という言葉が頭の中を渦巻く中、素早くハンガーを鴨居に掛け、素早く着席しました。
 腰を下ろす途中、今しがた見えられた外国人男性のおひとりと目が合ってしまい、そのかたは、口笛を吹くように唇をすぼめられた後、パチンとウインクをくださいました。

 作務衣の女の子もいつの間にかいなくなられて、お姉さまはうつむいてご自分のスマホを何やらいじられています。
 いつまたローターがオンになるか、私のスマホが着信してしまうか、ドキドキソワソワしながら、ふと今しがた鴨居に掛けたスケスケブラウスを見上げました。

 このお店の民芸調渋めインテリアの中でひどく不釣り合いな、ほんのり白いスケスケブラウス。
 お店内のどなたの視界にも入る高さに、これ見よがしなセクシーアンドガーリーな異物。
 それはまるで、こんな破廉恥な服を着ていた女が何食わぬ顔してここにいますよ、と知らしめる目印のようにも思えます。
 お店中のみなさまから、ヘンタイ女と蔑まれる妄想に没入しかけたとき、近づいてくる人影に気がつきました。

「お待たせしました。こちら、冷酒となります」

 えっ?男性?

 お声のしたほうを見ると、先ほどの女の子とお揃いの作務衣を着たお若い男性が、お酒の瓶とコップを乗せたお盆を手に、お姉さまの横にたたずんでいました。

「ありがとう。お水はこの子の前に置いてあげて」

 お姉さまのご指示で、お盆の上のものを次々にテーブルにお置きになる男性。
 その視線がずーっと私に注がれています。

 最初こそ驚いたようなお顔ですぐ視線を逸らされたのですが、それからチラチラと盗み見るように私の首輪、胸やお腹、下腹部へと散らばり、お盆が空になる頃には好奇心丸出しの好色なお顔で、バストの突起や太腿の付け根を凝視してきました。

「あ、それからこれはお通しの季節の山菜で、こちらが湯葉刺しになります。わさび醤油がお薦めですが、お好みでこちらのポン酢、ゴマダレもお使いください」

 すべてをテーブルに並び終え、名残惜しそうに離れていく男性。
 厨房に向かうあいだも何度もこちらを振り返っていました。

「凄い勢いで直子のからだ、ガン見していたわね、今の子」

 お姉さまがお酒をグラスに注いでくださりつつ、ご愉快そうにおっしゃいました。

「見たところウブそうだから大学生のバイトくんってとこかしら。直子のその格好は刺激が強すぎたみたいね。困惑と嬉しさがごちゃまぜになって、どうしたらいいのかわからない、って顔してた」
「必死にお澄まし顔していたけれど直子も気づいていたのでしょう?どうだった?あれだけガン見されて」

「あ、はい、すごく、恥ずかしかった、です」

「でも気持ち良かった?」

「あ、はい…」

「直子が苦手な男性でも?」

「はい…」

 男性とわかった瞬間は少し怯みましたが、チラチラ視られるたびにゾクゾク疼き、好色丸出しなお顔で凝視されると、蓋をされたマゾマンコがキュンキュンと咽び泣くのがわかりました。

「直子今、ちょっとヤバいくらいマゾ顔になっているわよ」

 からかうようにおっしゃってからじっと私を見つめた後、お姉さまが気を取り直すようにつづけられました。

「ま、それはそれとして、あたしたちのバカンスの初日に乾杯しましょう。まずは温泉で直子がたくさん辱められますように、カンパーイ!」

 身も蓋もないお姉さまの音頭で、グラスをチンと合わせます。
 よく冷えた冷酒はフルーティで、冷たい液体が心地よく喉を滑っていきます。
 お店に入ってから緊張の連続で、思いの外喉が乾いていたみたい。

「んーっ、平日の真昼間から温泉地のお蕎麦屋さんで冷や酒なんて、なんだか文豪にでもなったみたい」

 お姉さまの可愛らしいご感想。
 私もお酒が胃の腑に落ちた途端、からだも心もなんだかフワッと軽くなった感じ。
 それにつられるように、ジワッと食欲が高まりました。

「直子は日本酒だとすぐに酔っ払っちゃうんだから、ちゃんと水も飲んでセーブしなさい」
「こんな時間から理性失くされちゃったら、いくらあたしでも面倒見きれないからね」

 お姉さまから釘を刺され、氷の浮いたお水をゴクリと一口くちにしたとき、メインディッシュの乳茸そばが運ばれてきました。
 
 運んで来られたのは先ほどの作務衣の男性。
 再び舐めるように私の全身を視姦しつつ、お盆からお料理をテーブルに置いてくださいます。
 
 お酒のせいかさっきより余裕の生まれた私は、視線を意識してときどきわざと胸を両手で庇ったりして、恥じらいながらも視られるがまま。
 心の中では、ちゃんと視て、イヤらしいでしょ?もっとよく視て、と懇願しています。
 マゾマンコの潤みはとうとう決壊して、腿から垂れたおツユが一筋、ふくらはぎへと伝い滑るのがわかりました。

「へー、本当にいい香り。これは食欲そそるわね。いただきましょう」

 お姉さまのお言葉で私にしては珍しく、性欲から食欲モードへとあっさり切り替わりました。
 それだけお腹が空いていたのかな。
 確かにテーブル上から、まつたけにも似た良い香りが漂っていました。

「いただきます!」

 お姉さまと差し向かいで手を合わせてから、せいろのお蕎麦に箸を伸ばします。
 ズルズルズル…美味しい!

 茸独特のコクのあるお出汁が効いたつけ汁には、乳茸と思われる茸とお茄子のザク切りが浮かび、これらもおツユをほどよく吸って、噛みしめるほどに滋味が広がります。
 冷たいお蕎麦に温かいつけ汁というコンビも相性良く、スルスルと喉を通っていきます。

 お出汁の効いた卵焼きとわさびの効いた湯葉刺しを箸休めにして、ふたり無言で食べ進めました。
 時折チビッと口をつけるお酒の冷たさも格別で、どんどんお箸が進んでしまいます。
 
 ただ、何気なく視線を上げたとき、厨房への出入り口のところで作務衣の女の子と男性がこちらを見ながら、何やらヒソヒソとお話されていたのが気にはなりましたが。

「ハァー美味しかった。おツユが美味しいからせいろとお酒追加、って言いたいところだけれど、やめておきましょう。温泉旅館のお夕食って量が多いらしいし」
「それにお蕎麦屋さんでのお酒は長居せずにほろ酔い腹八分が粋、って言うしね」

 お姉さまがボトルに少し残っていたお酒をご自分のグラスに注ぎ、グイッと飲み干されます。
 私はすでに、一杯目のお酒とチェイサーの氷水を両方、全部飲み干していました。
 少しだけ胃の腑がポカポカしています。

「それじゃあそろそろ、待ち合わせ場所に行きましょうか。外は暑いだろうけれど、足湯も気になるし」

 お姉さまが傍らの伝票をお手に取り、お背中ごと曲げて店内を見渡します。
 私もつられて見渡すと、店内には外国人さんの4人連れと最後に入ってきた大学生風カップルさんしか残っていませんでした。

「さすがに昼間っからお酒飲んでまったりする人は少ないのね。まあ、みんなもこれから心待ちにしていた温泉だろうし」

 お独り言ぽくおっしゃったお姉さまの右手がスクっと挙がります。

「お勘定お願いしまーす」

「はーい、ただいま」

 どなたなのか、弾んだ女性のお声がやまびこみたいに返ってきました。

「直子はブラウス着直して、お勘定したら手を繋いで一緒に出ましょう」

 嬉しいことをおっしゃってくださった後、ニッと笑って手招きされ、顔を近づけた私の右耳に唇を近づけられます。

「直子はわざとここに、このままスマホを置き忘れなさい。これは命令よ」

 卓上の白い紙ナプキンを一枚お取りになり、私のすぐ前に置きっぱなしだったスマホ上にそっと置いたお姉さま。
 私のスマホがすっぽり隠されてしまいました。
 
 ずっとレジ前に陣取っていた和服姿のご中年のご婦人が私たちのテーブルへと、ゆっくり近づいてこられました。


肌色休暇一日目~幕開け 09


2020年8月10日

肌色休暇一日目~幕開け 07

 お姉さまが私の傍らまで来てくださり、メイクを直してくださいました。
 向かい合って髪を軽くブラッシングしてくださってから、お姉さまのメイクアップパレットを使って。

 お姉さまとおそろいのファンデ、チーク、シャドウ、リップ…
 肌をくすぐるこそばゆいブラシの感触は、さっき私が味わった精神的高揚感に付け足された、気の利いたデザートみたい。
 しばしうっとり、至福の時間が流れました。

「よしっ!こんなもんかな。直子、立って」

 メイクキットを手早く片付けつつ、お姉さまも立ち上がられます。

「そこじゃちょっと窮屈ね。こっちのドアのところにもたれるみたいに立ってみて」

 個室の出入り口ドアのほうを指さされるお姉さま。
 テーブルの上から私のスマホを拾い上げられました。

「そう、そこでいいわ。こっち向いて笑って、うん、そんな感じ。もう少し胸張って」
「おーけー、今度は後ろ向いて。うん、ちょっとお尻突き出す感じで、そうそう、顔だけこっちに向けてみて」

 お姉さまのご指示の下、たてつづけなシャッター音が個室内に響き、即席の撮影会はすぐに終わりました。

「ほら、今の直子はこんな感じ。凄くキュートよね?夏の妖精さん、みたい」

 スマホのディスプレイをこちら側に向けてくださり、たった今撮影したばかりの写真を私にも見せてくださいます。

 メイクを直していただいたので、顔の各パーツが色味を帯びて、いくぶん艶やかになっています。
 そんな顔にミスマッチな、くたびれた感じに年季の入ったエンジ色の無骨な首輪。
 その下の胸周りを、乳房の形通りにぴったり包み込む、柔らかそうな薄くて白い布地。
 そのふたつの膨らみの先端は、ひと目で分かるくらい露骨に生々しく突き出ています。

 下乳の谷間から少し隙間を空けて、可愛らしく垂れ下がる真っ白いリボン結び。
 その下はおへそを経て恥丘の膨らみ始めまで、薄い小麦色の剥き出しなお腹。
 下腹部を狭く覆うデニム地もすぐに途切れ、再び小麦色の太腿と生足。

 背中を向けた写真では、上半身は普通に白いチビTを着ている感じですが、肩甲骨下からお尻の割れ始めまで背中丸出し。
 おまけに尾骶骨少し上あたりにハッキリ読める、マゾですの、の日焼け跡イタズラ書き。
 私、本当にこんな大胆な姿で、温泉街を観光することになるのでしょうか。

「ね?なかなかそそるコーデでしょう?小悪魔的にエロティック、ううんコケティッシュっていうほうが、ぽいわよね。電車降りたら注目の的、間違いなしだわ」

 スマホの画面と生身の私を交互に見比べながら、ご愉快そうなお姉さま。
 そんなお姉さまの視線が生身の私のバストに向いたまま射るように数秒見つめた後、ふっとお顔が曇りました。

「ただ、やっぱりそのおっぱいを白昼人目に晒すのは、ちょっと刺激的すぎるかな…」

 おっしゃりながらお姉さまの右手が伸びてきて、クッキリ浮き出ている左の乳首を布地ごと、ギュッと摘まれました。

「あぁんっ!」

「直子のおっぱいって、そんなに大きくはないくせに、形そのものがイヤらしいのよね」
「ぽってり丸くて重そうなのに乳首は上向きで大きくて、思わずこんなふうに手を伸ばして触りたくなっちゃうワイセツおっぱい」
「そんなふうに形丸わかりな布地で無駄に包まれていると余計に中身が拝みたくなるから、スケベ男に問答無用で襲われちゃうかも」

 お姉さまが右手のひらで私の左おっぱいを下から包み込み、ときに優しくときに乱暴に、ニギニギともてあそんてくださっています。

「あん、あんっ、あふんっ、あふぅっ…」

「だから特別に、上に一枚羽織ることを許してあげる。余計なトラブルを招くとメンドクサイもの」

 お姉さまがバッグから再び小さなショップ袋を取り出されました。
 中から出てきたのは、これまた小さく折りたたまれた衣服らしき布片。

 その布片を広げてみると、一応は半袖パフスリーブのシャツブラウスの形。
 ただし透け感全開、ところどころに小さなレース編みの白いお花模様が散らばっている以外、まったく肌色を隠すつもりのない見事にシースルーなヘナヘナブラウス。

 お姉さまに促され羽織ってみます。
 軽くて薄くて着心地は満点、でもやっぱり何の役にも立っていません。

 前を掻き合わせても肝心なところにお花模様は無く、薄い生地が密着して陰影を作るので、乳首の突起はかえって目立っちゃいそう。
 後ろはお尻の半分くらいまで丈が来てくれてはいますが、果たしてこの透け感でイタズラ書きが読めなくなるでしょうか。

「うん。いい感じにエレガントさが加わったわ。それならワイセツおっぱいもパッと見じゃ目立たないはず」

 お姉さまはそうおっしゃいますが、私はまったく賛成できません。
 だって私が少し視線を下げたら、そこにふたつの突起が二枚の薄い布地を突き上げてイヤラシく存在を主張しているのですから。
 かえってエロさが増している気がします。

「ボタンはおヘソのとこらへんのひとつだけ、留めていいわよ」
「駅降りたらしばらくその格好で様子を見ましょう。厄介そうな輩が見当たらなかったら、脱いで思う存分、ワイセツおっぱいを周囲に見せびらかせばいいわ」

 からかうようにおっしゃったお姉さまが再びバッグをごそごそされ、何かを私に差し出してきました。

「あと、ついでにこれも挿れておきなさい。ただ観光するだけじゃつまらないのでしょ?直子は」

 お姉さまから手渡されたのは、細長い円柱が少し反り返るようにカーブした、シリコンコーティングされた物体。
 片手で緩く握るのにちょうどいいくらいの太さ、軟らかさで、握った手のひらから1~2センチくらい飛び出るほどの長さ。
 私だからなのかもしれませんが、その形状と手触りで、手渡された瞬間に物体の用途がわかってしまいました。

「いいでしょ?ミサとリンコが直子の膣の深さと具合を計測した上で、直子のマゾマンコ専用に開発してくれたローターよ」
「それでこれ、あたしのスマホからコントロール出来るんだって。ほら、早く挿れて」

 お姉さまに急かされてショートパンツの前ボタンを外し、少しずり下げます。
 露わになったマゾマンコに円柱の丸まった先っちょをあてがい、慎重に内部へと侵入させます。
 充分に濡れそぼっている膣穴からヌルっとしたおツユが滲み出し、円柱は難なく私の中に収まりました。

「どう?ジャストフィットでしょう?」

 デニムパンツをずり上げる私に向けて、笑いかけてくるお姉さま。
 ボタンをはめ直すのを待ちかねていたかのように、ご自分のスマホをタップされました。

「あうっ!いやんっ!」

 お姉さまのお言葉通り、私の膣穴粘膜に満遍なく密着したローターがブルブル震え始めます。
 しばらく刺激を受けていなかった粘膜が悦びに打ち震え、盛大にざわめいているのがわかります。

「あんっ、だめっ、だめぇーっ、お姉さまぁ、これ以上はぁ…」

「それにこれね、バイブのバリエーションも豊富なの。たとえばこんなふうに」

 お姉さまがスマホの画面をタップされます。

「あっ…あっ…あっ…あん…あんっ!…」

 膣内のローターが等間隔な規則正しいリズムで、より深く侵入しようとしているみたいにドクンドクン震えてきます。
 そのたびにビクンビクンと淫声を洩らしてしまう私。

「ね?まるでピストンされているみたいでしょ?他にもいろいろあるみたいよ?もっと試してみる?」

「あんっ、お赦しくださいぃ、あんっ、これ以上つづけられたらもう、おっ、お姉さまぁ、イっ、イキそうっ、またイッちゃいますぅっ!!」

 コンパートメント出入り口ドアのすぐ傍らで、膝から崩れ落ちる私。
 ローターを挿入する前からすでにパンパンに腫れ上がっていた剥き出しクリトリスがざらつくデニムの裏地に盛大に擦れ、しゃがみ込むと同時にイキ果て、同時にローターの振動も止まりました。

「あーあ。またイッちゃったの?かなりの威力なのね、これ。まだ使い方マスターしていないから、リンコが作ってくれた取説でしっかり勉強しなくちゃヤバそうね」

 バッグからレポート用紙大の紙束を取り出されたお姉さま。

「そろそろ目的地に着くはずだから、降りる準備をしながら、しばしまったりしましょう」

 お姉さまに促され、乗車したときに着席した座席に向かい合わせで収まりました。
 お姉さまは、ご自分のスマホと取説を交互に眺め、ときどきスマホをタップすると私の膣中のローターがブルっと震えます。
 そのたびに私は、んっ、と身構えますが、振動が長くつづくことはなく、またしばらく沈黙。
 
 気まぐれに私を襲う振動には、確かにたくさんのバリエーションがあるようでした。
 強さだけでも、震えているのかわからないくらいの微弱から、股間からブーンと音が聞こえるくらいの最強。
 震えのパターンも、規則正しい震え、強弱をつけたランダムな震え、膣中を掻き回すような乱暴な震え、さっき味わったピストンのような震え、などなど。

 ただ、あくまでもお姉さまが操作方法の把握のためにいじられているわけですから、どんな振動も数秒で途切れ、お姉さまが取説を読まれる長い沈黙の後、再び唐突な数秒の陵辱、沈黙のくりかえし。
 結果的に私の中に、欲求不満が溜まっていくばかり。
 
 穿いているショートパンツの股部分は、デニム地のインディゴブルーが傍目でわかるほど色濃く変色していました。
 まるでお洩らしでもしてしまったみたいに。

 そんな焦らし責めを受けつつ、気を紛らわすために窓の外に目を遣ります。
 雲ひとつ無く晴れ渡った青空と山間の田園風景。
 お外はすごく暑そう。
 車内アナウンスによると次に停車してその次が終点みたいです。

 いつしかお姉さまは、ローターのコントロール方法を完全にマスターされたみたいで、私の膣中はずっと沈黙しています。
 お姉さまに視線を合わせると、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま黙って見つめてくださるばかり。
 テーブルの上は、私のスマホ以外すっかり片付けられ、もういつでも電車を降りる準備は万端。

 いよいよ次は終点となった途端、電車の速度が変則的になり、快調に飛ばしては停まりそうなほど減速、をくりかえし始めました。
 とうとう停まってしまったのは停車駅ではない見知らぬひなびた駅のホーム。
 アナウンスによると、どうやら対向線路の電車をやり過ごすためのよう。
 
 そのホームに人影はまったく無く、あわてて両腕で自分の胸元を隠した私の行為は無駄でした。
 そんな私を薄い微笑みを浮かべたお姉さまがじっと見つめていました。

 やがて電車のスピードが緩み始め、いよいよ終着駅のホームへと滑り込んでいきます。 
 終着駅の乗降口はこちら側の窓際でした。
 ホームには、おそらく折り返すのであろうこの電車を待っている人たちが、意外にたくさんいました。

 いよいよ私は、たくさんの見知らぬ人たちが往来する公共の場で、こんなヘンタイ性癖丸出しの格好を晒すんだ…
 おっぱいの形丸わかりの薄い布で包んだだけのバストに、完全シースルーのブラウス…
 恥丘の大半が見えているスーパーローライズなデニムショーパン直穿きの膣肉にはローターが埋め込まれ、背中には自分の性癖自己紹介文が刻まれた、こんなイヤらしい姿を…

 全身の毛穴が粟立つような興奮が脳天から股間をつらぬきます。
 乗車中あれほど何回もイッたのに、未だに鎮まることのない悩ましい疼き。
 一刻も早く視られたいと渇望する気持ちと、こんな恥ずかし過ぎる姿を公衆の面前に晒すなんてとんでもないという理性の逡巡は、呆気なく被虐という名の快楽に飲み込まれます。

「さあ降りましょう。これ返すわね」

 お姉さまが私のポシェットにテーブル上のスマホを入れ、私の首に掛けてくださいました。
 たすき掛け、俗に言うパイスラッシュの形にポシェットを掛けられたので、胸の谷間がより強調され、もちろん乳首の尖立もよりクッキリ。

 お姉さまと手をつなぎ、コンパートメントを後にします。
 通路に出ると、他のお部屋のみなさまはすでに降車したようで私たちだけ。
 ドキドキ高鳴る鼓動を感じつつ、うつむきがちにお姉さまにつづきます。

「ほら、もっと平然と歩きなさい。いつも言っているでしょう?やり過ぎな萎縮は悪目立ちするって」
「視たければ視なさいな、くらいの気持ちでモデルウォークよ」

 お姉さまから叱責され、視線を高めに戻します。
 乗降口からホームへ降りると、そこはまさに残暑真っ盛り。
 第一印象は、暑い!

 恐ろしげな漢字二文字の川の名前を冠した有名な温泉街の駅。
 そのホームをたくさんの人々が歩いています。
 今着いた列車から降りた人たち、乗る人達。
 そして、改札へと進んでいるのであろう降りた人たちでは、お姉さまのお言葉通り、若いカップルさんのお姿が目立ちます。

 改札を抜けると冷房が良く効いた広々とした駅舎内。
 そのあいだにもたくさんの人たちとすれ違いました。
 もちろん池袋の駅構内ほどではないですが。

 やっぱりいちばん目立つのは大学生っぽいカップルさんたち。
 中にはダブルデート、トリプルデートなのか、2対2、3対3のグループも。
 次に目についたのは女性同士や女性だけのグループ。
 男性だけのグループは見当たらず、あとは単独の老若男女。

 そして、それらの人たちすべてから、と言っても過言ではないくらい、私とお姉さまは注目されました。
 妙齢の女性同士が手をつないで歩いている、とういう点も興味を惹いた一因でしょうが、最大の好奇の的が私の服装であり姿であることは間違いありません。

 遠慮会釈のない無数の不躾な視線が私の首元に、胸元に、下腹部に、太腿に投げつけられました。
 チラチラ盗み見る人、ガン見する人、一瞥してすぐ目を背ける人。
 
 お姉さまのご忠告通り、カップルさんの場合は一様に、男性からは好色そうな興味津々の舐めるような視線、女性からは見下すような敵意ある険しい視線。
 女性グループの場合はもっとあからさまに、こちらを指さして蔑み交じりにドッと笑い声をあげられるかたたちも。
 なにあれ?撮影?わざと?首輪?調教?露出狂?
 そんなヒソヒソ声も聞こえた気がします。

 視てる、視られてる、私の恥ずかし過ぎるはしたない姿に、みなさまが侮蔑の眼差しを注いでくださっている…
 からだが火照っているのは残暑のせいばかりではありません。
 ドキドキが液体化したような熱を帯びた汗が腋の下周辺から噴き出し、薄いブラウスをべったり素肌に貼り付かせます。

 ローターで栓をされた膣肉の奥も、ジンジンと熱を帯び、粘性の汗がヌルヌルと出口を探しているのがわかります。
 出来るならこのまま、歩いているだけでイッてしまいたい。
 みなさまの視線に犯されてイキ果て、愛液が溢れ出して腿をつたうところまでを視姦されて更に蔑まれ、取り囲まれた屈辱の中でイキまくりたい…

 そんな束の間の妄想を掻き消したのも、ひどい暑さでした。
 お姉さまに引かれた手は、いつの間にか駅構内を抜け、屋外である駅前の広場まで連れてこられていました。

 時刻は午後の一時少し前、雲ひとつないドピーカンな青空の下。
 同じ列車で来られたのであろうカップルさんたちが、広い広場のあちらこちら相合い日傘でいちゃついておられます。

「ちょっと一本、連絡入れるから」

 駅舎内から出たドアのすぐ脇、庇で覆われた日陰。
 つないでいた手を解き、ご自分のスマホを構えられるお姉さま。
 お姉さまの手が離れた途端、急に心細くなってしまいます。
 今の自分の姿と、置かれている状況に。

 お姉さまがスマホをタップされます。
 ドキンと高鳴る心臓。
 まさかここで、私の中のローターでイタズラしようとされているのでは…
 でもそれは杞憂に終わり、どなたかとお話し始めるお姉さま。

 手持無沙汰でお姉さまから視線を逸らし、ぐるっと周囲を見回してみます。
 私たちからほんの4、5メートル先、同じ庇の日陰から私たちのほうをじっと視ているカップルさんに気づきました。

 男の子はボーダーのTシャツにジーンズで頼りな気な感じ、女の子はタンクトップにショートパンツで勝気な感じ。
 男の子がしきりに私を気にしているのを、女の子が怒っているみたい。
 男の子は女の子に脇腹を小突かれても、どうしても私が気になるみたい。
 女の子が時折私に向ける視線には、明確な敵意が感じられます。

 それでも私はお姉さまのお言いつけ通り、視たければ視なさいな、とばかりに平静を装います、表向きは。
 内心では視線にキュンキュン感じてしまっているのですが。

「2時10分までに車で迎えに来てくれるって」

「へっ?」

 突然お姉さまからお声をかけられ、間の抜けたお答えと共にビクンとからだを震わせる私。
 ノーブラおっぱいがプルンと跳ねました。

「だから旅館の人が2時過ぎに迎えに来るの、車で」
「今夜泊まる宿に電話していたのよ。駅に着いたら電話くれって言われていたから」

 再び私の右手を握ってくださるお姉さま。
 嬉しさにまたもやおっぱいがプルン。

「駅前の道路脇に足湯があるから、そこで待っていて、だって」

 お姉さまが周辺をグルリと見渡されます。

「あっ、あれね」

 お姉さまが指さされた先、ここから数十メートル先の広場が途切れる寸前あたりに何やら屋根で覆われた場所があり、数人の方々が腰かけていらっしゃる姿が見えました。

「そうと決まったら、時間までご当地グルメと洒落込みましょう。あたし、すっかりお腹空いちゃった」

 お姉さまに手を引かれ、広場に軒を連ねる食べ物屋さんを物色していきます。
 もちろん私は、すれ違う人たちからの好奇の視線をビンビン感じながら。

「やっぱりこういう山間の温泉地はお蕎麦かな。あ、ここなんかどう?ほどよくひなびてるし、空いているし」

 私の返事は待たず、青い暖簾をくぐって一軒のお蕎麦屋さんへ。
 いらっしゃいませー、の女性声とともに、ほどよく冷えた空調の冷気が心地良く迎えてくださいました。

 お店には先客で女性のおふたり連れが窓際にひと組のみ。
 レジ前でお出迎えくださった和服姿のご中年のご婦人に、そのお客さまたちとは対角線上に離れた壁際の4人掛け席に案内され、お姉さまのご指示で私が壁側の席、お姉さまは対面へ。

 ご婦人と入れ代わりに、厨房のほうから作務衣姿の若い女の子が冷たいおしぼりとお茶とメニューを運んでくださいました。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
 
 そうおっしゃって厨房のほうに戻るまで、女の子の視線は私の全身に釘付けでした。
 驚きと好奇と若干の軽蔑がないまぜになった、フクザツな視線。
 そんな女の子のご様子をニヤニヤ眺めていたお姉さまが、おしぼりで手を拭きながら、ご愉快そうにおっしゃいました。

「ねえ、そのブラウス、汗で満遍なく肌に貼り付いちゃっているわよ?脱いで乾かしといたほうがいいのではなくて?」

 そこで一呼吸置き、ニッと微笑まれた後、こうつづけられました。

「それと、忘れちゃった?お仕置き。ス・マ・ホ・」


肌色休暇一日目~幕開け 08