「あ、はい…ごめんなさい…」
座ってもまだ肩から提げていたポシェットを開き、おどおどとスマホを取り出します。
手に持った途端に明るく浮かび上がる、自分のオールヌードくぱぁ画像。
おずおずとテーブルの上に表向きで置くと、しばらく公然に晒されてからスッと暗闇に消えてくれました。
それを見届けてから、今度はパイスラのポシェットを外し、ひとつだけ留めていたブラウスのボタンも外します。
こんなスケスケの役立たずなブラウスでも、こんな場所で自ら脱ぐ、という行為には羞恥と躊躇が生まれます。
これを脱いでしまったら、トップとボトムだけの下着姿も同然なのですから。
それでもお姉さまからのご命令、意を決して両袖から汗ばんだブラウスの袖を抜きました。
脱いだブラウスはお姉さまが引き取ってくださり、空席となっているお隣の椅子の背もたれに掛けてくださいました。
「こうしておけば、出る頃には乾くでしょ。さてと、直子は何が食べたい?」
お店には、軽やかなピアノを中心にしたジャズっぽい音楽が流れています。
でも、それを掻き消すみたいに、きっと随分年季が入っているのでしょう、店内二箇所に設えられた大きめなエアコンから発せられるブーンという低音もずっと聞こえています。
私にも読めるようにと横向きでメニューを開いてくださるお姉さま。
綺麗なカラー写真付きで美味しそうなお料理が満載です。
美味しそうではあるのですが、今の私はメニューに集中することが出来ません。
だってブラウスを脱いでしまった私は、素肌の殆どの部分を外気に晒してしまっているのですから。
それもプライベートなお部屋内ではなく、どなたでもお出入り自由な温泉地のお蕎麦屋さん店内で。
現に今も新しいお客様、ご年配のおじさまと若い女性のカップルさんがお見えになり、先客のおふたり連れのお隣のお席に着かれました。
おじさまが私の姿に目を惹かれたようで、たぶん首輪だと思いますが、女性に何やら耳打ちをされ、背中を向けていた形の女性も首だけひねって私を視てきます。
私は身を固くしてメニューに集中しているフリでうつむきます。
でもやっぱり気になって、そちらを上目でチラチラ窺ってしまいます。
今の私は、街中のお蕎麦屋さんにひとりだけキワドイ隙だらけの水着姿で座っているようなもの。
これがたとえば海水浴場の近く、とかならば、みなさま開放的でさして目立たないのでしょうけれど、ここでは明らかに日常の中の異物。
なんでここでその格好?なんで女連れ?なんでノーブラ?なんで首輪?
そんな疑問が湧くのは当然です。
私のマゾ性が理性を、ジワジワ隅っこへと追い詰め始めています。
「やだ、直子にぴったりのお蕎麦があるじゃない。ちくびそば、だって」
メニューの写真を指さし、はしゃいだお声を上げられたお姉さま。
「えっ?」
そのお声でフッと理性が戻る私。
そんなお蕎麦あるの?お姉さまのしなやかな指が置かれているメニュー写真を確認します。
本当だ、乳首そば(かけ・せいろ)って書いてある…あれ?でもこれって…
「あの、お姉さま、これ、首じゃなくて、きのこっていう字じゃないですか?」
「あ、本当だ。茸っていう字だね。じゃあ何て読むんだろう?ちちだけそば?」
「下にローマ字で小さく書いてあります。Chitake-Sobaって」
「ふーん、ちたけそばね。初めて聞くけど面白いんじゃない?字面が気に入っちゃった。注文お願いしまーすっ!」
お言葉の後半でお姉さまはまっすぐ高く右手をお挙げになり、お店のかたをお呼びになりました。
「はーいっ!」
先ほどの作務衣の女の子がいそいそと近づいてこられました。
あらためて見ると、小柄で目がパッチリ大きくて小さいお顔にひっつめポニーテール、どこかのアイドルグループの一員と言われても信じられるくらい可愛らしいかた。
「この乳茸そばっていうのは、たぶん乳茸っていう茸が入っているのよね?どんな茸なの?」
お姉さまがメニューを指さしつつ、お尋ねになります。
「あ、はい。具材としても入っていますが、よいお出汁が取れるんです、この茸」
私の胸にチラチラ視線を飛ばしつつ、お答えになる女の子。
「あたし最初、乳首そばって読んじゃって、ギョッとしちゃった」
「ああ、間違われるかた、たまにいますよ。ご年配の男性とか、嬉しそうにお下品なご冗談をおっしゃるかたも」
「乳茸っていうのはこの辺で夏から秋にかけて採れる茸で、切るとミルクみたいな白い液が出るのでこの名前になったそうです。香りが凄くいいんですよ」
お姉さまと傍らに立たれた女の子、フレンドリーに会話されています。
女の子はお愛想よくお姉さまのお相手をされながらも、視線が頻繁に私へ。
布地を突き上げているふたつの突起がどうしても気になるみたい。
少しつま先立ちになって、座っている私の剥き出しなお腹の更に奥を覗き込むような仕草も。
「なるほどね。それじゃあこの乳茸そばをせいろで二人分と…」
お姉さまがご注文を告げつつ、テーブルに置いたご自分のスマホを手に取られます。
ドキンと跳ねる私の心臓。
私のスマホは女の子からも、充分に画面を目視出来る位置に置いてあります。
「あと、湯葉刺しと卵焼きをひとつづつ、それと、この地酒の冷酒の2合ボトル1本ね。グラスはふたつ」
よどみなくご注文を告げられた後、ついでという感じでお手元のスマホをポンとタップされました。
「んっ!」
吐息を洩らしたのは私。
股間のローターが緩く振動し始めたのです。
「お酒はすぐにお持ちしていいですか?」
にわかに挙動が不審になった私を興味津々な瞳で見つめつつの女の子のお尋ね。
「うん。食前に乾杯したいからね。よーく冷えたやつ持ってきて。いいわよね、直子?」
直子?という呼びかけと一緒に、スマホ画面上のお姉さまの指がスッとスワイプしました。
「あんっ、あ、はいっ、はいぃ…」
ローターの震えが一段と激しくなり、股間からブーンという音さえ聞こえてそう。
椅子に座っている姿勢なのでデニム越しの膣穴は椅子の薄いお座布団に密着しています。
ローターのモーターがその下の民芸風な木製の椅子もろとも震わせているような感じ。
エアコンの音にうまく紛れてくれていれば良いのですが…
「それでは、ご注文は、乳茸そばをせいろで二人前、単品で湯葉刺しと卵焼き、冷酒二合を食前に、でよろしいですね?」
テーブルに前屈みになって快感に耐えている私の頭上を、女の子の涼やかなお声が通り過ぎていきます。
「あ、あと氷入りのお水を一杯、お酒と一緒に持ってきてくれる?この子、日本酒弱いから、チェイサーにしたいの」
「はい。かしこまりました。では少々お待ちください」
女の子がテーブルから離れたとき、やっとローターが止まりました。
ハァハァ息を切らし、うらめしげにお姉さまを見上げる私。
「お姉さまぁ…あんまりイジメないでください…それでなくてもこんな格好で恥ずかしいのに…」
「あら、何言ってるの?あの可愛い従業員さんが物怖じしないでじっくり直子のこと視てくれるから、あたしもちょっとサービスしてあげただけじゃない」
「直子だって嬉しかったでしょ?あの子の目の前でマゾマンコが震える音、聞いてもらって」
ヒソヒソ声で、私の抗議を一蹴されるお姉さま。
私がまだお姉さまをうらめしげに見つめていると、その視界に女の子が再びツカツカと近づいてこられました。
「あの、お客さま?そのお召し物、汗で湿っているのなら、このハンガーをお使いください。高いところに干したほうが乾くのも早いと思いますよ?」
空席な椅子の背もたれに掛けてあったブラウスを指差し、針金製のハンガーをお姉さまに差し出してくる女の子。
「あら、気が利くのね。遠慮なく使わせていただくわ」
「はい。その壁の上の鴨居に掛けると、ちょうどエアコンの風が当たってイイ感じかな、と」
私が背にしている壁の上のほうを指さされた女の子。
相変わらず私のバストをまじまじと見つめてきます。
「そうね。ほら直子、あなたが掛けなさい」
スケスケブラウスをハンガーに掛け直して一番上のボタンだけひとつ留め、対面の私に手渡そうと右腕を伸ばされるお姉さま。
受け取るために私も手を伸ばしたとき、いらっしゃいませ~、のご挨拶とともにガヤガヤと数人の方々がご来店。
今度は欧米系らしき外国人さん4人連れ、男性2女性2のグループさんでした。
つづけざまに大学生風カップルさんが一組。
ふと気づくとあまり広くない店内がほぼ満席、私たちの隣の四人掛けのお席以外、全テーブルが埋まっていました。
忙しくなってきたのに私たちのテーブルからまだ離れない女の子。
彼女はたぶん、私を立たせたくてハンガーを持ってきてくださったのだと思います。
私の全身、ブラウスを脱いだらどういう姿なのかを確認したくて。
ブラウスを鴨居に掛けるために立ち上がるとしても、店内のみなさまに背中を向けてしまうことは絶対に避けなければなりません。
私のお尻の少し上には、自分の性癖を明記した恥ずかしい日焼け文字が記されているのですから。
素肌が剥き出しとなっている今、どんなに素早く済ませたとしても、カタカナひらがなの5文字はいともたやすく読めてしまうことでしょう。
「ほら、何をもたもたしているの?さっさと掛けちゃいなさいよ」
すべてを察していらっしゃるであろうお姉さまが、ご愉快そうに煽ってこられます。
私は観念して、ハンガー片手に立ち上がります。
幸いなことに私たちのテーブルはお店の隅、私は壁を背にして座っているので、立ち上がっても横向きでいれば、その背中側も直角を作ってつづく壁面でした。
お尻をお店の内部側に向けさえしなければ、どなたにもイタズラ書きを読まれる心配は無い位置です。
ただし、立ち上がるとテーブルは私の腿の位置、剥き出しのお腹から狭すぎるデニム地パンツ下まで、半裸の肌色のほとんどが丸出しとなりました。
横向きになると、尖った乳首の突起も余計に目立つことでしょう。
私が立ち上がった途端、お店にいらっしゃるすべてのお客さま、従業員さまの視線が私のほうへと集中するのを感じました。
晒し者、という言葉が頭の中を渦巻く中、素早くハンガーを鴨居に掛け、素早く着席しました。
腰を下ろす途中、今しがた見えられた外国人男性のおひとりと目が合ってしまい、そのかたは、口笛を吹くように唇をすぼめられた後、パチンとウインクをくださいました。
作務衣の女の子もいつの間にかいなくなられて、お姉さまはうつむいてご自分のスマホを何やらいじられています。
いつまたローターがオンになるか、私のスマホが着信してしまうか、ドキドキソワソワしながら、ふと今しがた鴨居に掛けたスケスケブラウスを見上げました。
このお店の民芸調渋めインテリアの中でひどく不釣り合いな、ほんのり白いスケスケブラウス。
お店内のどなたの視界にも入る高さに、これ見よがしなセクシーアンドガーリーな異物。
それはまるで、こんな破廉恥な服を着ていた女が何食わぬ顔してここにいますよ、と知らしめる目印のようにも思えます。
お店中のみなさまから、ヘンタイ女と蔑まれる妄想に没入しかけたとき、近づいてくる人影に気がつきました。
「お待たせしました。こちら、冷酒となります」
えっ?男性?
お声のしたほうを見ると、先ほどの女の子とお揃いの作務衣を着たお若い男性が、お酒の瓶とコップを乗せたお盆を手に、お姉さまの横にたたずんでいました。
「ありがとう。お水はこの子の前に置いてあげて」
お姉さまのご指示で、お盆の上のものを次々にテーブルにお置きになる男性。
その視線がずーっと私に注がれています。
最初こそ驚いたようなお顔ですぐ視線を逸らされたのですが、それからチラチラと盗み見るように私の首輪、胸やお腹、下腹部へと散らばり、お盆が空になる頃には好奇心丸出しの好色なお顔で、バストの突起や太腿の付け根を凝視してきました。
「あ、それからこれはお通しの季節の山菜で、こちらが湯葉刺しになります。わさび醤油がお薦めですが、お好みでこちらのポン酢、ゴマダレもお使いください」
すべてをテーブルに並び終え、名残惜しそうに離れていく男性。
厨房に向かうあいだも何度もこちらを振り返っていました。
「凄い勢いで直子のからだ、ガン見していたわね、今の子」
お姉さまがお酒をグラスに注いでくださりつつ、ご愉快そうにおっしゃいました。
「見たところウブそうだから大学生のバイトくんってとこかしら。直子のその格好は刺激が強すぎたみたいね。困惑と嬉しさがごちゃまぜになって、どうしたらいいのかわからない、って顔してた」
「必死にお澄まし顔していたけれど直子も気づいていたのでしょう?どうだった?あれだけガン見されて」
「あ、はい、すごく、恥ずかしかった、です」
「でも気持ち良かった?」
「あ、はい…」
「直子が苦手な男性でも?」
「はい…」
男性とわかった瞬間は少し怯みましたが、チラチラ視られるたびにゾクゾク疼き、好色丸出しなお顔で凝視されると、蓋をされたマゾマンコがキュンキュンと咽び泣くのがわかりました。
「直子今、ちょっとヤバいくらいマゾ顔になっているわよ」
からかうようにおっしゃってからじっと私を見つめた後、お姉さまが気を取り直すようにつづけられました。
「ま、それはそれとして、あたしたちのバカンスの初日に乾杯しましょう。まずは温泉で直子がたくさん辱められますように、カンパーイ!」
身も蓋もないお姉さまの音頭で、グラスをチンと合わせます。
よく冷えた冷酒はフルーティで、冷たい液体が心地よく喉を滑っていきます。
お店に入ってから緊張の連続で、思いの外喉が乾いていたみたい。
「んーっ、平日の真昼間から温泉地のお蕎麦屋さんで冷や酒なんて、なんだか文豪にでもなったみたい」
お姉さまの可愛らしいご感想。
私もお酒が胃の腑に落ちた途端、からだも心もなんだかフワッと軽くなった感じ。
それにつられるように、ジワッと食欲が高まりました。
「直子は日本酒だとすぐに酔っ払っちゃうんだから、ちゃんと水も飲んでセーブしなさい」
「こんな時間から理性失くされちゃったら、いくらあたしでも面倒見きれないからね」
お姉さまから釘を刺され、氷の浮いたお水をゴクリと一口くちにしたとき、メインディッシュの乳茸そばが運ばれてきました。
運んで来られたのは先ほどの作務衣の男性。
再び舐めるように私の全身を視姦しつつ、お盆からお料理をテーブルに置いてくださいます。
お酒のせいかさっきより余裕の生まれた私は、視線を意識してときどきわざと胸を両手で庇ったりして、恥じらいながらも視られるがまま。
心の中では、ちゃんと視て、イヤらしいでしょ?もっとよく視て、と懇願しています。
マゾマンコの潤みはとうとう決壊して、腿から垂れたおツユが一筋、ふくらはぎへと伝い滑るのがわかりました。
「へー、本当にいい香り。これは食欲そそるわね。いただきましょう」
お姉さまのお言葉で私にしては珍しく、性欲から食欲モードへとあっさり切り替わりました。
それだけお腹が空いていたのかな。
確かにテーブル上から、まつたけにも似た良い香りが漂っていました。
「いただきます!」
お姉さまと差し向かいで手を合わせてから、せいろのお蕎麦に箸を伸ばします。
ズルズルズル…美味しい!
茸独特のコクのあるお出汁が効いたつけ汁には、乳茸と思われる茸とお茄子のザク切りが浮かび、これらもおツユをほどよく吸って、噛みしめるほどに滋味が広がります。
冷たいお蕎麦に温かいつけ汁というコンビも相性良く、スルスルと喉を通っていきます。
お出汁の効いた卵焼きとわさびの効いた湯葉刺しを箸休めにして、ふたり無言で食べ進めました。
時折チビッと口をつけるお酒の冷たさも格別で、どんどんお箸が進んでしまいます。
ただ、何気なく視線を上げたとき、厨房への出入り口のところで作務衣の女の子と男性がこちらを見ながら、何やらヒソヒソとお話されていたのが気にはなりましたが。
「ハァー美味しかった。おツユが美味しいからせいろとお酒追加、って言いたいところだけれど、やめておきましょう。温泉旅館のお夕食って量が多いらしいし」
「それにお蕎麦屋さんでのお酒は長居せずにほろ酔い腹八分が粋、って言うしね」
お姉さまがボトルに少し残っていたお酒をご自分のグラスに注ぎ、グイッと飲み干されます。
私はすでに、一杯目のお酒とチェイサーの氷水を両方、全部飲み干していました。
少しだけ胃の腑がポカポカしています。
「それじゃあそろそろ、待ち合わせ場所に行きましょうか。外は暑いだろうけれど、足湯も気になるし」
お姉さまが傍らの伝票をお手に取り、お背中ごと曲げて店内を見渡します。
私もつられて見渡すと、店内には外国人さんの4人連れと最後に入ってきた大学生風カップルさんしか残っていませんでした。
「さすがに昼間っからお酒飲んでまったりする人は少ないのね。まあ、みんなもこれから心待ちにしていた温泉だろうし」
お独り言ぽくおっしゃったお姉さまの右手がスクっと挙がります。
「お勘定お願いしまーす」
「はーい、ただいま」
どなたなのか、弾んだ女性のお声がやまびこみたいに返ってきました。
「直子はブラウス着直して、お勘定したら手を繋いで一緒に出ましょう」
嬉しいことをおっしゃってくださった後、ニッと笑って手招きされ、顔を近づけた私の右耳に唇を近づけられます。
「直子はわざとここに、このままスマホを置き忘れなさい。これは命令よ」
卓上の白い紙ナプキンを一枚お取りになり、私のすぐ前に置きっぱなしだったスマホ上にそっと置いたお姉さま。
私のスマホがすっぽり隠されてしまいました。
ずっとレジ前に陣取っていた和服姿のご中年のご婦人が私たちのテーブルへと、ゆっくり近づいてこられました。
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*肌色休暇一日目~幕開け 09へ
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