2016年4月24日

オートクチュールのはずなのに 47

 即席のメイクルームとした場所は、リビングルーム中央にあるダイニングテーブルのすぐ脇。
 リビングへ入った途端、真っ先に視界へと飛び込んでくる場所で、私はご丁寧にもリビングの入口のほうに向いて立っていました。

 先頭を歩いていらした早乙女部長、いえ、綾音さまと目が合うと同時に、ガヤガヤがピタリと止まり、お部屋の中が静まり返りました。
 綾音さまだけが笑みを浮かべられ、他の4名の方々は、立ち止まったままギョッとしたようなお顔で私を見ていました。
 咄嗟に胸と股間を隠そうと、両手がピクッと動いたのですが、訪れた沈黙の重さにそのまま固まってしまい、結局、元の立ち尽くし姿勢のままでいました。

「すごくいいじゃない?しほりさん」
 綾音さまがツカツカと近づきながら、私の横のしほりさまにお声をかけられました。
「ええ。わたし自身も納得のいく出来栄えです」
 しほりさまが満足そうにおっしゃって、私を視ました。

 綾音さまから数歩遅れで、恐る恐るという感じでこちらへとジリジリ近づいてこられる他のみなさま。
「ナオっち・・・だよね?」
 私の顔を穴が空くほど見つめたまま、リンコさまが尋ねてきました。
「あっ、しほりん、オハヨー」
 取ってつけたようにしほりさまに小さく手を振るリンコさま。

「違うわよ。わたくしが東奔西走してようやくみつけてきた、代役のモデルさんよ」
 綾音さまがご冗談ぽくおっしゃる横で、コクンと首を縦に振る私。

「やっぱりナオちゃんなんだ。すごい、見違えちゃったじゃない」
 間宮部長、いえ、雅さまのお顔がパッとほころび、私に駆け寄ってきました。
 
 いつものように抱きつこうとされたのでしょうが、私が全裸なことに今更ながらお気づきになったようで、50センチ手前くらいで立ち止まると、嬉しそうなお顔であらためて、私の全身を吟味するようにしげしげと見つめてきました。
 ほのかさまとミサさまはまだ、信じられない、という微妙なお顔つき。

 不躾な視線、好奇の視線、気まずそうな視線・・・
 それらをいっぺんに集中放火され、私、どうにかなっちゃいそう。
 それも昨日までは普通に、同じオフィスでお仕事をご一緒してきたかたちから。

「みんな揃ったわね。早乙女部長から聞いたと思うけれど、そういうことになっちゃったの。今日は破れかぶれでいいから、イベントが成功するように、一丸となってがんばりましょう」
 いつの間にか背後にいらしたお姉さまが、私の頭越しにみなさまにおっしゃいました。
 それから私の正面に来られ、顔をじーっと見つめられました。

「いい感じじゃない、しほりさん。これなら直子を知っている人が見ても、絶対、直子とは思わないはずよ」
 お姉さまのご登場で、ようやく場が和み始めたようでした。

「そうですよね。アタシ、部屋に入った途端、なんだ、絵理奈さん来ているんじゃない、って思いましたもの。ウイッグ変えたんだ、って」
 リンコさまのお言葉に雅さまも大きくうなずかれました。
「うんうん。ワタシは絵理奈さんをよく知らないから、単純に、ずいぶんセクシーなモデルさんがいるな、って思った」

 さすがに晴れのイベントの日。
 みなさま、とてもおめかしされていました。

 シックな黒のタイトスーツでビシっとキメたお姉さま。
 光沢のあるワインレッドのイブニングドレスを艶やかに着こなした綾音さま。
 ストライプのパンツスーツがマスキュリンかつエレガントな雅さま。
 ミルキーベージュのアフタヌーンドレスで清楚に佇むほのかさま。
 いつもの服装からは想像できないベアトップのパーティドレスで超フェミニンなリンコさま。
 本番でパソコンや機材をを駆使しなくてはならないミサさまは、動きやすそうなミリタリーっぽいオシャレな制服風、きっと何かのアニメのコスプレなのでしょう。

 しほりさまも含めて、そんなオシャレに着飾ったレディたちに取り囲まれた私だけ、一糸も纏わぬ丸裸。
 顔だけは綺麗に飾っていただいたとは言え、女性として普段みなさまに隠しておかなければいけない、性的な箇所はすべて剥き出しのまま立ち尽くす、みじめな私。
 今日何度目かわからない、ほろ苦くも甘酸っぱい羞じらいと屈辱に、全身が熱く火照りました。

「ねえ、ナオっちの顔って、なんか、ゴーゴー、って感じがしない?」
 リンコさまが誰に、というわけでもなさそうな感じでポツンとおっしゃいました。
「わかる。キルビルでしょう?」
 逸早く応えられたのは、雅さまでした。
「ワタシ、あの女優さん、大好きなんだ」

「ハーイ!」
 突然ミサさまに向けて、お顔の横で小さく手を振るリンコさま。
「ゴーゴーダネ」
 すかさずミサさまが、外国人さんぽいカタコトな発音で受けられました。
「ビンゴ。そっちはブラックマンバ」

 そこまでつづけたリンコさまが、ミサさまとお顔を合わせてクスクス。
 雅さまもほのかさまもしほりさまもお姉さまも、知ってる、というふうにうなずく中、ただおひとり、綾音さまだけが怪訝そうなお顔。

「なにそれ?」
 そのお顔のまま綾音さまが、傍のリンコさまに尋ねられました。
「キル・ビルっていう、そこそこ話題になったヘンテコな映画がありまして、それに出てくるゴーゴー夕張っていう女子高校生の殺し屋が、今の森下さんの顔によく似ているんです」

「へー、そうなの?わたくしは、こんなヘアスタイルを見ると真っ先に、山口小夜子さんを思い出してしまうけれど」
「ああ。パリコレに日本人モデルで初めて出演されたっていう、伝説のモデルさんですね」
 一同が深く頷かれました。

「なるほどね。それじゃあ直子のモデルとしての芸名は、夕張小夜、にしましょう。ちょうどさっきひとりで、どんな芸名にしようか考えていたところだったの」
 お姉さまが私の顔を見ながらおっしゃいました。

「ゆうばりさよ、なんだかカッコいいじゃない?」
「ええ。この容姿にぴったりな、聞いた途端、なるほど、って思う、らしい名前ね。いいと思うわ」
 ひとしきり、いいねいいね、のざわめきが立ちました。

 私の顔についての議論が一段落してモデル名が決まる頃には、みなさまの視線は当然の事ながら、私の顔以外に散らばり始めていました。
 とくに、胸のふくらみの先端と下腹部に、興味津々な好奇の視線が頻繁に突き刺さってきます。
 誰も何もおっしゃらず、しばし決まりの悪い沈黙がつづきました。

「さあ、本番前の最終確認をするから、みんなホワイトボードの前に集まって」
 沈黙のあいだ、ずっとニヤニヤとみなさまのご様子を眺めていたお姉さまが、ふと時計を見てあわてたようにパンッとひとつ拍手をし、少し離れたホワイトボードの方へとみなさまを誘導されました。
 ホワイトボードには、今日のイベントの段取りや会場の見取り図が書かれていて、結婚式の二次会パーティみたいに着飾った華やかなみなさまが、ぞろぞろそちらへと移動していきました。

「さ、わたしたちも仕上げてしまいましょう。座って」
 しほりさまに促されて座ると右手を取られ、マニキュアが始まりました。

 ホワイトボードの前では、お姉さまと綾音さまを中心にキビキビと、最終打ち合わせをされています。
 時折お姉さまがこちらを指さし、みなさまが一斉にこちらを振り向きます。
 みなさまから見ると横向きに座っている私は、相変わらず尖りきっている乳首が恥ずかしくてたまりません。

 マニキュアが終わり、つづいてペディキュアのために両脚を向かい側のソファーへ投げ出すように指示されたとき、打ち合わせが終わったようでした。
 みなさまが再びこちらへ集まってこられ、私は座ったまま、右足を向かいのソファーの上に、股を30度くらい開いた左足をしほりさまの手に取られた格好で、みなさまを迎えました。

 立っているみなさまから、私の30度くらいに開かれた両腿の無毛な付け根を、ちょうど真下に見下ろされるような姿勢でした。
 当然のことながら、みなさまからの視線はソコに集中していました。

 ちょっと離れたところでは、お姉さまとリンコさまがおふたりで、私のほうをチラチラ見ながら何かヒソヒソとお話しされていました。
 その他のみなさまは私としほりさまを取り囲み、ペディキュアされつつある私の足先を含む下半身全体を、じっと無言で見守っていました。

 おそらくみなさまも、裸の私に内心ではドギマギされていたのだと思います。
 おちゃらけて冷やかしたり、からかうワケにもいかないし、かといって、会社のためにごめんね、とか、がんばって、ていうのもなにか違うし。
 かける言葉がみつからないから、黙っている。
 そんな、何て言うか、お気遣いをされているような重苦しい雰囲気でした。

 少しして、お話しが終わったらしいお姉さまとリンコさまが輪に加わりました。

「直子、じゃなくて夕張小夜さんは、開演時間、つまり3時になったらここを出て会場に向かって」
 戻ってこられたお姉さまがみなさまにもお聞かせするみたいに、少し大きめなお声でおっしゃいました。
 ようやく沈黙が破られ、私はホッ。

「えっ!?そんな時間で大丈夫なのですか?」
 再び場が沈み込むのが怖かったのと、実際、段取りが不安になったので、間髪を入れずにお尋ねしました。

「もうそろそろお客様が集まって来る頃だからね。開場して、お客様を会場に収容し終わってからのほうがいいと思って」
「入場待ちのお客様がゾロゾロいるところにノコノコ出て行って、せっかくのシークレットモデルが開演前に顔バレしちゃったらつまらないじゃない」

「大丈夫よ。最初はあたしの挨拶だし、早乙女部長の挨拶もあるし。それに、しょっぱなのアイテムは着付けに手こずらないシンプルなやつだから」
「直子も、楽屋入ってスグ本番、無駄にドキドキする時間が無いほうが気がラクでしょう?3時20分見当でお願いね」

「という訳で、あたしたちは先に会場に入っているから。夕張さんの付き人はリンコね。もともと絵理奈さんだったとしてもリンコがする役目だったから、問題無いわよね?」
「はい。もちろんです」
 リンコさまが、なぜだかずいぶん嬉しそうにうなずかれました。

「夕張さんは、あとはリンコの指示に全面的に従って。しほりさんは頃合いを見計らって楽屋でスタンバってください。それじゃあみんな、無事終演までがんばりましょう」
「おーーっ」
 お姉さまの後ろをみなさまがゾロゾロとついて、玄関へと向かわれました。

 私の傍を離れるとき、ほのかさまが私の右耳に唇を寄せてきました。
「なんだか大変なことになっちゃったけれど、がんばってね。今日の直子さん、とっても素敵よ」
 ヒソヒソ声で早口におっしゃってからニコッと微笑まれ、あわててみなさまの後を追っていかれました。
 雅さまとミサさまは笑顔で振り向きつつ、大げさに手を振ってくださいました。

 玄関ドアが閉じる音がして、再び静寂が訪れました。
「ふぅー。これにてすべて終了。乾くまであと5分くらい、動かず、触らずでお願いね」
 私の右足をソファーに戻され、しほりさまが立ち上がられました。
 私の両手両足の爪はすべて、艶やかなローズピンクに染まっていました。

「わたしも大急ぎで片付けて、楽屋でまたお店を広げなくちゃだわ」
 しほりさまがお道具のお片付けを始められました。
「アタシも手伝うよ」
 リンコさまが姿見をどかしたり、散らばったティッシュを拾い始めます。
「ありがと」
 リンコさまに向けてニコッと微笑むしほりさま。

「しっかし驚いたよねえ。ナオっちがこんなことになっちゃうなんて」
 テキパキとお片づけしながらも、おしゃべりは止まらないリンコさま。
 興味津々なご様子が、全身からほとばしっています。

「わたしだって驚いたわよ。いきなり全裸の女の子に出迎えられて、社長さんからは、この子マゾだから、って紹介されたのよ?」
「そうなんだ。それはびっくりするよねー」
 おふたりでキャハハと屈託なく笑い合うお姿は、どうやらとっくに仲良しさんのようでした。

「ナオっちがマゾっちていうのは薄々感じていたけれど、チーフとSMスールの関係だったなんて、アタシには晴天の霹靂だったよー」
「ロープもローソクも楽しんでいらっしゃるご関係だそうよ」
 そのへんはとっくに取材済みよ、とでもおっしゃりたげな、しほりさまのお得意げなお顔。

「さっきもナオコ、じゃなくて夕張さんにボディローション塗っていたら、どんどん感じちゃって苦しそうだったの。だから、イカセてあげようか?って聞いたら、とても嬉しそうだったわ」
「うわー。しほりん大胆。って言うか、しほりんまで、ナオコって、呼び捨てなんだ?」
「うん。社長さんがそう呼べって。それにナオコも自分から、わたしに絶対服従するって宣言してくれたのよ」
「うわー。なんだかエロ小説の世界だね。でもアタシも、さっきチーフに言われたんだ。ナオっちを好きにオモチャにしていい、って。スタッフ全員に絶対服従って言い聞かせてある、って」

 そうおっしゃって、私の顔をイタズラっぽく覗き込んでくるリンコさま。
 ペディキュアが乾くまで動くなというご命令ですから、私は同じ姿勢のまま、気弱に微笑み返すくらいしか出来ません。

「それに、もしナオっちがサカっているようだったらイカせちゃってくれ、って頼まれちゃった。裸を視られているだけで感じちゃうような子だから、本番でヘマをしないように、って」
「それが賢明よね。今だって、ほら」

 しほりさまが呆れたようなお顔で、私の股間を指さされました。
 しほりさまは、気心の知れたリンコさまとおふたりきりになってリラックスされているのか、私に対する口調や表情、態度にエス度が露骨に増していました。

 その指さされた股間は、自分で形容するのがためらわれるくらい、はしたない状態でした。
 しほりさまとリンコさまの、私の性癖に関する情け容赦無いあけすけな会話をお聞きしていて、羞恥と被虐が股間に蓄積された結果でした。
 脚を30度くらいにしか開いていないのに、ラビアがパックリ開ききり、溢れ出た淫液が合皮のソファーにこんもり水溜りを作っていました。

「うわー。これってつまり、感じちゃっているんだよね?ナオっち、インラーン」
「わたしは仕事だから、もう行かなくちゃだけれど、リンちゃんは役得ね、いいなあ」
「ガンガンイカせちゃっても大丈夫よ。メイクもボディも、イベント中保つように強力なウォータープルーフにしたから、ちょっとやそっとじゃ崩れないはず」

 臨時のメイクルームはすっかり片付き、テーブルの上にはしほりさまの大きなバッグだけ。
「ナオコももう動いていいわよ。ただ、まだあんまり塗った所をさわらないこと」
 お言葉に促され、投げ出していた両脚をそっと床に下ろしました。
 潤んだ股間を閉じるとひんやり。

「おおー。しほりん女王様、っていう感じじゃん」
 リンコさまのからかうお声に、ニッと微笑むしほりさま。
「もっと面白いもの、見せてあげる。ナオコ、立ちなさい」
 すっかりエスモードとなった冷たいお声のご命令に、私はゾクゾクしながら立ち上がりました。

「わたしの真正面に」
 しほりさまが照明の真下の明るい場所に移動され、私もついていきました。
 もちろんリンコさまも。

「いい?よく見ていてね」
 斜め後ろのリンコさまを一度振り向いて念を押し、再び私と向き合います。
 あれだろうな、と思ったら、やっぱりあれでした。

 正面に立たれたしほりさまが私を無表情で見つめ、一瞬間を置いて、少し上を向くような仕草をされました。
 お綺麗に尖った顎が私に向けられます。
 同時に私は、下ろしていた両手をまず、降参、みたいな形に肩のところまで上げ、それから頭の後ろ側に回して重ねました。
 
「なにそれ?なにそれ?なんかヤバイ。ゾクッとした」
 リンコさまが身を乗り出してこられ、私としほりさまを交互に見比べています。

「マゾの服従ポーズ、っていうみたいよ。恥ずかしい箇所を無防備にして、服従の意志を表わしているんですって」
「もともとは社長さんとナオコのあいだだけの取り決めだったらしいけれど、なぜだか今日、わたしも使えるようになっちゃった」
 しほりさまが可笑しそうにおっしゃいました。

「顎をしゃくるだけでいいの。もちろんリンちゃんも使えるはずよ。そうよね?ナオコ?」
「・・・はい、もちろんです・・・よろしくお願いいたします、リンコさま」

 私はこんなふうにして、社員のみなさまに服従を誓い、全員の共有マゾドレイになっていくんだ・・・
 そんな想いに全身を震わせながら、すがるようにリンコさま見つめました。
 すっごく嬉しそうなお顔のリンコさま。

「ああん、もうこんな時間。早く行って準備しなくちゃだわ」
 しほりさまが時計をご覧になって、残念そうにショルダーバッグに手をかけました。
「開演まであと一時間ちょっと。わたしにはギリギリだけれど、リンちゃんにはたっぷりよね?羨ましい」
 しほりさまが右肩にバッグを担ぎ終え、私を正面から見つめたままつづけました。

「あたしの代わりにナオコをたっぷり可愛がってあげて。本番でサカッちゃわないように」
「うん。任せといて。あ、カートは玄関までアタシが引いていってあげるよ」
 弾んだお声のリンコさまが、しほりさまのカートに手をかけました。

「それじゃあ、また後ほどね、ドマゾの夕張小夜さん。それと、さっきの約束、忘れないでよ」
 背中を向けたしほりさまをリンコさまが追いかけました。

 私はマゾの服従ポーズのまま、おふたりのお背中を眺めていました。
 この後ふたりきりになったら、リンコさまは私を、どう扱われるおつもりなのだろう?
 人懐っこくて気さくで、いつも明るいリンコさまをよく知っているだけに、お姉さまや綾音さま、そしてしほりさまのように、エスに傾いたリンコさま、というのが、ちょっと想像しにくい感じでした。
 心の中で期待と不安が半分ずつ、シーソーのようにギッタンバッコンしていました。


オートクチュールのはずなのに 48

2016年4月17日

オートクチュールのはずなのに 46

「ふーん。マゾね。裸を視られるだけで感じちゃうんだ?」
 しほりさまが、私の背後に立たれ、正面の鏡越しに視線を合わせてきました。

「あの、えっと・・・」
「でも、相手が男ならともかく、女同士じゃない?そんなのでいちいち感じていたら、お友達と温泉旅行にも行けないんじゃない?」
 私の頭からウイッグを外しながら、しほりさまがからかうようにおっしゃいました。

「だけど興奮しているのは、本当みたいよね。さっきからあなたの乳首、見ていて痛々しいくらい起き上がっちゃってる」
「そういう反応って、なんだか新鮮だわ。わたしが呼ばれるイメージビデオとかの現場って、羞じらいとか、ほとんどないから」

「場数を踏んだグラビアアイドルなんて、カメラが向いているときこそ、えっちな衣装着せられてハズカシー、なんて顔しているけれど、撮影の合間は、平気でスッポンポンで食事とかケータイ弄ったりしているもの」
「撮影スタッフや裏方なんて、それが男でも女でも、人とも思っていないのじゃないかしら?ビジネスライクと言えば、そうなのだけれど」

 しほりさまが私の髪からウイッグ用のネットを外してくださり、半乾きの髪をブラッシングしつつドライヤーをかけてくださっています。

「絵理奈さまも、そうなのですか?」
 ふと気になって、お尋ねしました。

「彼女も堂々としたものよ。一昨日のゲネプロでも、ずっと裸かガウン一枚羽織っただけで、キワドイ衣装を取っ換え引っ換え、淡々とこなしていたわ」
「まあ、自分のからだに自信があって、それが売り物だっていう自覚もあるからでしょうね。そういう現場にも慣れているし」

「わ、私も、そんなふうにもっと、何て言うか、堂々としなくては、いけないでしょうか?」
 絵理奈さまのお話を聞いて、不安になってきました。
 今だってこんなに恥ずかしくてドキドキしている私に、沢山の人たちを前にしたイベントのモデルなんて務まるのでしょうか・・・

「あなた?あなたには無理なんじゃない?だって、視られるだけで感じちゃうマゾなのでしょう?」
「今だって、鏡の中でわたしと目が合うたびにビクビク感じているみたいじゃない?肌もずいぶんと火照っているみたいだし」

 おしゃべりされながらも、しほりさまの両手はテキパキ動き、乾いた髪を再び頭上にまとめられ、ネットをかぶせられました。
「あなたは、そういう人なのだから、そのままでいいんじゃない?」

「でもでも、モデルするときは、不機嫌なくらいのポーカーフェイスにして、決して表情を出してはダメ、って言われているんです。お姉さまから」
「ああ。それは正論だわね。ショーの最中ずっとモデルがそんなエロい顔してランウェイを行ったり来たりしていたら、見ているお客様のほうが困っちゃうもの」

「安心して。わたしが精一杯、生意気そうな顔に仕立ててあげるから。そんなエロ顔さえ怒っているみたいに見えるくらいにさ。それじゃあ、顔に移るわよ」
 しほりさまが愉快そうにおっしゃり、私の顔にファンデーションを塗り始めました。

 しほりさまの少しひんやりとしたしなやかな指が、私の顔を満遍なく撫ぜ回してきます。
 目尻が引っ張られ、鼻先を押し上げられ、唇をなぞられ、耳の穴を穿られ。
 なんだか、やさしく顔面嬲りをされている気分。

「あなたがさっきしたポーズ、社長さんが顎で指図したら取ったポーズって、よくアメリカのドラマとかで、ポリスがハンザイシャにやらせるポーズよね?抵抗するな、っていう感じで」
 しほりさまが私の顔を撫ぜ回しながら、尋ねてきました。

「はい。そう言われてみれば、そうですね・・・」
「ふたりのあいだで、そういう決まりがあるんだ?ああしたら、あのポーズになる、っていう」

「はい・・・あ、あれは、マゾの服従ポーズ、って呼んでいて、何もかも露わにして言いなりになりますから、このからだをご自由にされてください、っていう服従の気持ちを表わしています」
 お答えするために自分で言葉に置き換えながら、その被虐な内容にキュンとなりました。

「ふーん。マゾの服従ポーズかあ。マゾって言ったら、痛いのとか、縛られたりも好きなの?」
「はい・・・」
「縛られて、鞭とか、ローソクとか?」
「・・・はい」
「社長さんと、そういうことして遊んでいるんだ?」
「はい・・・たまにですけれど」
「ふーん」

 しほりさまの両手が私の顔から離れ、あらためて私の顔を鏡越しに、じーっと見つめてきました。

「決めた。やっぱりわたしもあなたのこと、呼び捨てることにするわ。いいわよね?」
「は、はい・・・もちろんです」
「そのほうがあなたも嬉しいみたいだし。本当に根っからのマゾなのね、ナオコって」
「は、はい。ありがとうございます」
 しほりさまから初めて、ナオコ、って呼び捨てにされて、ゾクゾクッとしちゃいました。

 しほりさまの手で、テーブルの上のさまざまなお道具が取っ換え引っ換え選ばれ、本格的なメイクアップが始まりました。
 至近距離にお顔を近づけられ、真剣な眼差しが私の顔面を刺してきます。
 私はずっとされるがまま、鏡の中の自分を見つめていました。

 眉はいつもよりクッキリ太めに。
 マスカラをフル盛りして、更に目尻に毛足の長いつけまつげ。
 アイラインもハッキリ、目尻を上げてシャドウも濃いめ。
 ノーズシャドウにチークも強め。
 リップは濡れたようにぽってりなチェリーレッド。

「はい。こんな感じで、どう?」
 鏡の中の私は、確かに別人になっていました。
 
 連休のとき、オフィス街での露出遊び用にお姉さまがしてくださったメイクより、もっともっと生意気風。
 小生意気じゃなくて、大生意気。
 試しにウイッグをかぶせてもらったら、顔の輪郭まで変わって、本当に別人。
 そして、自分で言うのもはしたないのですが、すいぶんキリッとした美人さんに見えました。

「我ながらうまくいったと思うわ。ほら、こうしても・・・」
 唐突に、しほりさまの両手が背後から、私のおっぱいを両方鷲掴みにしてきました。

「あぁんっ!そんなぁ!」
 生おっぱいを乱暴にギュッと掴まれ、思わずいやらしい声をあげてしまいました。

「ね?悶えてるっていうより、イヤがってるみたいな顔に見えるでしょう?」
 両手をニギニギ動かして私のおっぱいを揉みしだきながら、しほりさまが嬉しそうにおっしゃいました。

 確かに、眉間にシワを寄せて半眼になって身悶える自分の顔が、いつもなら媚びるようなだらしないアヘ顔になってしまうのですが、このメイクだと不快そうにジトッと睨むような顔になっていました。

「それにしてもナオコの乳首、すごい尖りよう。コリッコリに硬くなってる」
「あっ、あっ、あっ・・・」
 指と指のあいだで乳首を挟まれ、ギュギュッと絞られると、もうダメ・・・
 強く弱くおっぱいをもてあそばれ、瞬く間に下半身がムズムズ熱くなってきました。

「会ったときからずっと気になっていたのだけれど、ナオコって、見事に綺麗なパイパンよね?ひょっとしてそれって、生まれつき?」
 私のおっぱいを虐める手は止めず、しほりさまが尋ねてきました。
 鏡に映るしほりさまの視線が、両腿をピッタリ閉じて座った私の、その逆Yの字の部分を凝視しているのがわかりました。

「あんっ、い、いえ、あの、生まれつきではないです・・うぅぅ、薄かったけれど・・・」
「処理しているんだ。でも剃った感じじゃないわよね?抜いたの?永久脱毛?」
「あんっ、あっ、あっ、はいぃ、一年くらい前から、えっ、エステサロンに何度か通って、や、やんっ、やっていただきましたぁ・・・」

「へー。本格的なのね。グラドルにだってそんな子、なかなかいないわよ?ずっと一生パイパンでいいんだ?」
「あぁ・・・は、はいぃぃ・・・」
 しほりさまがおっしゃった、一生パイパン、というお言葉に、私のマゾ性が盛大に疼きました。
 始まったときと同じように、しほりさまの両手が私のおっぱいを、唐突に開放してくださいました。

「ねえ、ちょっと脚、開いてみてよ」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「あ、そっか。ナオコには、こういう言いかたじゃダメなんだ。こうかな?ナオコ、脚を開きなさい」
 しほりさまが、後半は学校の先生のような無表情になって、ご命令口調でおっしゃいました。

「はぁ、はいぃ・・・」
 お答えしたものの、今、脚を広げるのはすごく恥ずかしい。
 だって、今のおっぱい嬲りで私の下半身にはジンジン血液が集まり、ヌルヌルなことは明白でしたから。
 それでもご命令には逆らえません。
 揃えていた両足を左右に滑らせ、ゆっくりと両腿を開き始めました。

「もっと」
「もっともっと」
「もっともっともっと」
 しほりさまのお声に煽られて、私の両腿は180度近くまで開いていました。

「ここから見ても、中がヌレヌレなのが一目瞭然じゃない?鏡の中で粘膜がキラキラ光ってる」
「ラビアが開ききって、中がヒクヒク蠢いているわよ?いやらしい子」
「わたしに視られて、触られて、そんなに濡らしてくれちゃっていたんだ。なんだか嬉しい」
 しほりさまの恥ずかしすぎるご指摘に、私はビクンビクン震えてしまいます。

「ナオコの反応見ていると、社長さんがナオコを虐めたくなる気持ちがわかる気がする。人の嗜虐欲を絶妙にくすぐる、いちいちエロい反応なのよね。虐め甲斐があるって言うか」
 鏡に映った私の開ききったマゾマンコをじっと見つめながら、しほりさまが愉しそうにおっしゃいました。

 ふと鏡の中で目が合うと、しほりさまはニッとイタズラっぽく笑ってから、軽く顎を上に向けられました。
 それを合図に、もちろん私の両手は頭の後ろへ。
 ご満足そうなしほりさまの笑顔。

「おーけー。それじゃあ立って。今度は全身にファンデーションするから」
 しほりさまから次は、どんなご命令が下されるのか、とドキドキしていた私は肩透かし。
 でもすぐに、そのお言葉の意味に、えっ!?となりました。

「からだにも、ですか?」
「あたりまえじゃない。モデルのからだっていうのは、ショーで身に着けるアイテムを最大限に引き立てるためにあるのだから」

「とくに今回のイベントは、あえて裸を見せる方向のアイテムが多いのだから、からだも綺麗に見せるように、メイクするのはあたりまえなの」
「まあ、ナオコは、素肌も綺麗なほうではあるけれどね。でも、しておけば、汗を抑える効果もあるし。知らないでしょうけれど、舞台照明、とくにスポットライトって、浴びると、かなり暑いのよ」

 両手を後頭部に当てたまま、姿見の前で立ち上がりました。

「わたししかいないのに、そのポーズをしてくれるということは、わたしにもマゾとして絶対服従するつもり、ということよね?」
「はい。その通りです」
「うふふ。嬉しいわ。なんだかすごくいい気分。手、下ろしていいわよ」

「これからわたしがナオコのからだを隅々まで撫ぜ回すけれど、ナオコは絶対、感じてはいけない、ということにしましょう。声を出したり、顔をしかめるのもダメ」
「ショーのときの、社長さんから言われているポーカーフェースのいい練習になるでしょ?どんなに気持ちよくても我慢すること。いい?」
「・・・はい」
 ドキドキしながら、しほりさまの手の感触を待ちました。

 最初にウイッグが外され、すぐに背中にひんやりとした感触がきました。
 クリーミーな粘液が肌を滑るのがわかります。
 しほりさまの手のひらが背中を満遍なく滑っていきます。

 一度首筋まで登った手のひらは、やがて脇腹までいったん下がり、腋の下から右腕へ。
 こそばゆい感覚でやんわり愛撫され、そのもどかしい感触に思わずトロンとしちゃいそう。
 左腕も終わると今度は正面へ。
 鎖骨から胸元、そしておっぱいへと。

 うなじや脇腹、背骨の上など、私が弱いところを優しく撫ぜられるたびに、淫らな声が出そうになって、必死で耐えました。
 全身がポカポカ火照って、クネクネ身悶えたくて仕方ありませんでした。
 でも、我慢するようにとのご命令。
 鏡の中の自分の顔を睨みつけながら、一生懸命堪えました。

 だけど、おっぱいを両手でやさしく包み込まれたとき、とうとう唇が開いてしまいました。
 さっきのような、強く揉みしだくような感じではなく、ふうわりと慈しむような絶妙なタッチ。
 しほりさまの手のひらに、尖った乳首がやさしく押し潰されます。
 それがすっごく気持ち良かったんです。

「あふうぅ・・・」
 喉の奥が鳴ってしまってから、しまった、とあわてて口をつぐみました。
「こらあ。感じちゃダメだって言ったでしょ?」
 そうおっしゃるしほりさまの口調は、怒っているというより、面白がっている感じでした。

 しほりさまの両手は休むことなく下半身へ。
 私の足元にひざまずかれ、左足首からふくらはぎ、そして太腿。
 同じように右脚も太腿途中まで撫ぜてから、唐突にお尻へ。
 お尻の割れスジを抉じ開けるようにして隅々にまで、クリーミーな粘液に覆われました。

 おへそから下に塗るときは、いったんタオルで股間を拭かれました。
 溢れ出しそうな私の愛液を拭ってくださったのでしょう。
 それは、とても恥ずかしいことでした。

 しほりさまの真正面、目と鼻の先に私の股間。
 その部分に右手をあてがい、私の股間を撫でさするしほりさま。
 私は歯を食いしばって、湧き上がる快感に抵抗しました。

「こんなところでいいでしょう」
 立ち上がられたしほりさまが濡れタオルで両手を拭い、私にまたウイッグをかぶせてくださいました。

「うん。なかなかの仕上がりだわ」
 私の全身をしげしげと眺め、ご満悦な表情のしほりさま。
 鏡の中の私は、全身がツヤツヤ、テラテラと輝いていました。

「ナオコって、肌スベスベなのね。ずいぶん念入りにお手入れしているのでしょう?」
「あ、いえ、そんなには・・・」
「それって謙遜にならないわよ?本当だったら、ほとんどの女性を敵に回す発言ね」
 ご冗談ぽくおっしゃるしほりさま。

「そんなことを言うから虐めたくなるのよね。ナオコのクリトリスって、ずいぶんご立派だこと、とか」
 笑いながらおっしゃるしほりさまに、私は全身がたちまちカーーッ。

「テカテカになって爆ぜちゃいそうなくらいに飛び出ていたわよ?ずいぶん感じてくれちゃったみたいね」
「そ、それは・・・」
「今、すごくウズウズしているんじゃない?いっそのこと、ここでわたしが弄って、一度発散してあげようか?」
「あ、あの、えっと・・・」

「なんてね。期待した?でももう、あんまり時間がないから、ちゃっちゃと最後の仕上げをしなくちゃなのよね。残念ながら」
 相変わらずの笑顔で、テーブルの上の他のお道具を物色し始めました。

「でも今のは本心よ。時間があったら、ナオコが乱れるところ、この目で視てみたいと本心から思ったの」
「イベントが無事終わったら、機会作ってよ。社長さんも一緒でいいからさ。ナオコが社長さんに虐められてイッチャウとこ、すごく視てみたいのよ」
 背中を向けたまま、しほりさまがおっしゃいました。

「約束して。わたしからも社長さんにお願いしておくから」
「・・・はい・・・」
 
 そうお答えする他ありません。
 そしてきっとお姉さまも、しほりさまのご提案にご同意されると思いました。
 あたしじゃなくて、しほりさんが存分に虐めちゃっていいわよ、なんておっしゃって。

 私の性癖がみなさまに知られ、これからどんどん、私はそういう扱いの、みなさまの慰み者マゾドレイになっていく・・・
 そんな予感がありました。

「最後は、ペディキュアとマニキュアね。腰掛けていいわよ」
「あ、はい」

 私が座ろうと腰を落としかけたとき、玄関のほうで鍵を開けようとする、ガチャガチャという音がしました。
「えっ?」
 反射的に時計を見ると、午後1時を少し回ったところ。

 社員のかたたちがいらっしゃったんだ!
 開場が2時、開演は3時。
 時間的に、そろそろ集合して会場へ向かうべき頃合いとなっていました。

 とうとう社のスタッフ全員に、私の全裸姿を視られてしまう・・・
 ほのかさまに、リンコさまに、ミサさまに、そして雅部長さまに。

 今すぐどこかへ逃げ出したい、という羞恥と、遂にそのときがきてしまった、という被虐が、恥辱という塊になって全身を駆け巡り、それらは結局、ほろ苦くも甘酸っぱい、ある種の性的快感に姿を変えて全身を麻痺させ、座るのも忘れて立ち尽くしました。

 やがて、玄関のドアが開いて閉じるバタンという音につづき、女性声の華やかなガヤガヤという喧騒が、こちらへと近づいてきました。


オートクチュールのはずなのに 47


2016年4月11日

オートクチュールのはずなのに 45

 盛大にあわてました。

 えっ!?ど、どうしよう・・・私今、裸だし・・・メイクの人って?お会いしたこと、たぶんないし・・・あっ、今私、頭にタオル巻いたままだった・・・取ったほうがいいかな?でもまだ全然乾いていないし・・・
 初対面でタオル巻いたままなんて、失礼よね?でも、濡れ髪のザンバラじゃ、もっと失礼かも・・・ううん、失礼って言ったら、裸が一番失礼よね・・・
 そうだ、何かお飲み物のご用意もしなくちゃ・・・お湯は沸いているのかな?今から沸かしていたら遅くなっちゃうな・・・

 ピンポーン!

 ただただあたふたしているうちに、ご来訪を告げるチャイムが鳴り響きました。
 あ、はいはいーっ!
 反射的に大急ぎでインターフォンに飛びつきました。

「はいっ」
「あ、ヘアメイクの谷口と申します。早乙女部長様から、ここへ来るように言われまして・・・」
「は、はい。お待ちしておりました。少々お待ちください」
 
 受話器を戻して、今度は盛大にうろたえます。
 落とした視線のすぐ先に、剥き出しの乳房がプルプル震えていました。

 と、とにかくお出迎えしなくちゃ。
 左腕で胸を庇うように隠し、右手で股間を押さえた格好でペタペタと、玄関まで走りました。
 沓脱ぎで片足にサンダルをつっかけ、ドアノブに右手を伸ばして鍵を開けます。
 
 カチャン。

 自分でたてた音にビクンとしつつ、そーっと外開きのドアを開けていきます。
 左腕はずっとバスト、右手は伸ばしてドアノブにかけているので、股間は隠しようがありません。
 なので、内股でお尻だけ後方に突き出すように腰を引いた、絵に書いたような屁っ放り腰の私。

「このたびは、うちの絵理奈が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたっ!」
 
 ドアを半分くらい開けたところで、ドア前で黒ずくめな女性が、深々とお辞儀をされているのが見えました。
 両脚と上半身が腰で直角になるくらい折り曲げた、それはそれはご丁寧なお辞儀。
 そのかたの頭頂部のつむじを、私が見下ろすような格好で数秒が過ぎました。

「あ、いえ、あの、えっと、ど、どうぞ、とりあえず中へお入りください・・・」
 下を向きっ放しのそのかたへ、そうお答えする他ありません。
「はい。それではお邪魔させていただきます」
 多分そのかたも緊張されているのでしょう、ずいぶんと堅苦しい口調でおっしゃって、上半身をゆっくり起こし始めました。

 まだ沓脱ぎ内には入ってくださらないので、私の右手はドアノブを掴んだまま。
 股間を隠すことは出来ません。
 完全に上体を起こしたそのかたは、一瞬、呆気にとられた表情で私を見つめたまま固まりましたが、すぐにニッと白い歯を見せて微笑まれました。
 セシルカットっぽいショートヘアがよくお似合いな、人懐っこい感じの素敵な笑顔でした。

 身長は私と同じくらい。
 シンプルな黒のラウンドネックカットソーにブラックジーンズで、スリムなプロポーションがスラっと決まっています。
 胸元にゴールドの細いネックレスがキラキラ揺れて、いかにも仕事が出来そうな、華やかなギョーカイの人、という感じ。

「あ、ごめんなさい。間が悪かったみたいですね。シャワーの途中でしたか?」
「あ、いえ、そうじゃないんですけれど、あ、そうだ、スリッパ、スリッパ」
 なんとなくそのかたが、私が裸なことをさして気にされていないようなご様子だったので、私もなんとなく気がラクになり、バストを隠すのをやめ、しゃがみ込んでスリッパをご用意しました。

「えっと、とりあえず、こちらへおかけください。お荷物はテーブルの上にどうぞ」
 裸のお尻に強い視線を感じつつ先に立ち、お部屋の奥へと誘導しました。
 お部屋の真ん中にあるダイニングテーブルの椅子をひとつ引き、お勧めしました。
 そのかたは、右肩に大きなショルダーをかけ、アンティークなトランク風のオシャレなカートを引いていました。

「あ、今何か、お飲み物ご用意しますので、しばらくおくつろぎください」
「あ、いえいえ、おかまいなく。渡辺社長様は、まだお見えではないのですか?」
「あ、えっと、お姉さ、あ、いえ、社長、じゃなくてチーフは、今ちょっと別室で・・・あ、すぐに出てくるとは思います」
 ふたりでぎくしゃくした会話をした後、私はキッチンへと逃げ込みました。

 冷蔵庫にペットボトルの緑茶があったので、グラスに注いでお出しすることにしました。
 トレイにグラスを並べて注いでいると、リビングのほうからお声が聞こえてきました。

「わざわざありがとうね、しほりさん。今、ちょっと着替えていたところだったから、ご挨拶が遅れちゃった」
「あ、社長!」
 ここで、おそらくヘアメイクのかたがお席を立たれたのであろう、ガタガタッという物音。
「このたびは、うちの絵理奈がご迷惑をお掛けしてしまって・・・」

「いいっていいって。急病じゃ、仕方ないわよ。盲腸なんて、予防のしようがないもの」
「おかげで、うちとしても、思いがけなく面白そうな展開になってきたのよ。まあ、ある意味ギャンブルでもあるけれど」

「あのアイテムを着こなせる代理のモデルさん、よくみつけることができましたね?昨日の今日、いえ、今朝の今なのに」
「ラッキーだったわ。モデルを絵理奈さんに決めていたからこそ、みつけられたとも言えるのよ。絵理奈さんにそっくりな体型の子が、たまたま身近にいたから」

 ヘアメイクのかたの恐縮されたお声と、お姉さまの愉しそうなお声が交互に聞こえ、私は、お茶をお持ちするタイミングを掴めずにいました。

「そう言えばさっき、驚いたでしょう?いきなり真っ裸の子に出迎えられて」
「あ、はい。ちょっと焦りました。でもわたし、絵理奈とか、イメビの現場でそういうのは慣れていますから。それに、たまにアダルトの現場にも呼んでいただいていますし」
「へー。そういうお仕事もされるんだ。面白そうね。興味あるから、後でゆっくりお話聞かせて?」
「ええ。それはいいのですけれど、さっきの裸のかたが絵理奈の代役を務めてくださるのですね?確かにプロポーションがほぼ同じに見えました」

「そう。絵理奈さんに合わせたオートクチュールを、奇跡的に着こなせそうな、我が社を救ってくれる今回のイベントの救世主なの」
 お姉さまがご冗談ぽくおっしゃってから、声量を上げてこちらへお声をかけてきました。
「ほら、直子?早くこっちへ来てご挨拶なさい」

 グラスを載せた銀盆を両手で持って、しずしずとお姉さまたちに近づきました。
 お姉さまも、頭にはまだタオルを巻いたままで、ゆったり気味なマリンブルーのロングTシャツ一枚のセクシーなお姿。
 ファンデーションとアイブロウまでは終わった、みたいな、お化粧真っ最中なお顔でした。

 お姉さまもヘアメイクのかたも、にこやかなご様子でこちらを向いて、じーっと私を見つめてきます。
 両手が塞がっているので、おっぱいも股間も、もちろん隠せません。

「直子、こちらが今回お世話になる、ヘアメイクアップアーティストの谷口しほりさん」
 私がトレイをテーブルに置くのを待って、お姉さまがご紹介してくださいました。
「しほりさん、この子が今日、絵理奈さんの代わりをする、臨時モデルの森下直子」

「あ、はい。森下さん、はじめまして。よろしくお願いします」
 しほりさまが立ち上がられ、私に向けてペコリとお辞儀をしてくださいました。
「あ、こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
 私もあわててお辞儀を返します。
 おっぱいがプルンと揺れました。

「あら、いいのよ、しほりさん。この子のことは、直子って呼び捨てにしちゃって。うちの社員なの。今日いらっしゃる他のお客様がたには内緒にして欲しいのだけれど」
「えっ!?でも今日、モデルをやられるのですよね?ぶっつけ本番で」
 私とお姉さまのお顔を交互に見つつ、信じられない、というお顔をされるしほりさま。

「この子にしか、今回のアイテムは体型的に着こなせないから、苦肉の策なの。幸い本人もやる気になってくれたし、まあ、素養もあるみたいだから」
「そうだったのですか」
「だから、ショーのモデルのノウハウに関しては、ドが付くくらいの素人なの」

 そこまでおっしゃって、お姉さまがしほりさまに、再び腰掛けるよう促しました。
 しほりさまはお座りになられましたが、私にはご指示がないので、そのまま立っていました。

「それで今日はね、この子をメイクの力で、出来るだけ別人に仕立て上げて欲しいのよ。イベントにいらしたお客様が後日、素の直子に会っても気づかないくらいに」
「ああ、なるほど。あくまで実在する架空のモデルさん?あれ?変な言い方でしたね、だと思わせちゃうわけですね?」
 しほりさまが興味津々のお顔でうなずかれました。

「確かに、今日絵理奈が着るはずだったアイテムですと、ショーのモデルが社員さんてわかったら、後々のお仕事が、いろいろとやりづらいかもしれませんね、お取引先さんとか」
「でしょ?」
「絵理奈も本来なら今日は、名前は売らないイレギュラーなお仕事として、過剰気味なメイクで臨むはずでしたので、その点は用意もしてあるし、大丈夫と思います」

 腰掛けられたおふたりが、私をジロジロ眺めながら会話を弾ませていらっしゃいました。
 視線が来ているのはわかっていたのですが、今更バストや下を隠すのもヘンなので、両手をだらんと下げたまま、手持ち無沙汰で立っていました。
 ちゃんとお洋服を召したおふたりの前にひとり全裸で立ち尽くしている、というのは、見世物にでもされているようで、なんだかみじめで、とても恥ずかしいものでした。

 しほりさまは、とくに私の下半身を熱心にご覧になられているような気がしました。
 恥丘のあたりをじっと視て、それから顔を視て、私に向けてニッと微笑まれる。
 そんなことが数回、ありました。
 そのたびに私の頬は、どんどん火照っていきました。

「それで、直子の扱い方、なのだけれど、この子って、マゾなの」
 お姉さまが世間話するみたいに、サラッと言い放ちました。
「へっ?」
「それも、ドがつくほどのヘンタイマゾ」
「はあ・・・」
 しほりさまがリアクションに困られています。

「だから、何て言えばいいのかな、恥ずかしがりのクセに視られたがりで、人がたくさんいるところで裸になりたがり、って言うか」
「つまり、恥辱願望。露出狂女。恥ずかしいメに好んで遭いたがる、みたいな。そんな種類のドマゾなの」
「・・・」
「そうよね?直子?」

 お姉さまがこちらを向いて、冷たい瞳でニヤッと微笑まれ、一瞬間を置いて、顎を軽く上にしゃくられました。
 私とお姉さまにしか、わからない秘密の合図。
 その合図があったら、私は直ちに、あるポーズを取らなくてはいけません。

 両手を合わせて頭の後ろへ、両足を、やすめ、に広げ、顔はまっすぐお姉さまに向けて。
 おっぱいも腋の下もマゾマンコも、すべてを包み隠さずお姉さまにご覧いただく、マゾの服従ポーズ。
「・・・はい。おっしゃる通りです、お姉さま」

「ね?」
 お姉さまがしほりさまに微笑まれました。
 マゾの服従ポーズな私をまじまじと見つめ、唖然としたお顔のしほりさま。

「直子にとって、あたしはお姉さまで、あたしの言うことは何でも聞かなくてはいけないの。あたしたちは、そういう関係」
「それで、今日のイベントモデルは、そんな直子のヘンタイ性癖を、堂々と仕事として、たくさんのお客様がたにご披露出来る、直子にとってご褒美イベントでもあるの」

「その代わり、失敗は許されないから、イベントが終わるまで、あたしのどんな命令にも絶対服従。ううん。あたしだけではなく、早乙女部長にも、他のスタッフ全員にも。そう言い渡してあるの」
「そこに今、しほりさんも加わったというワケね。しほりさんのご命令にも絶対服従よ、いいわね?直子?」

「・・・はい。よろしくお願いいたします、しほりさま」
 マゾの服従ポーズのまま、しほりさまをすがるように見て、お辞儀をしました。
「好きなように弄っちゃって、もしも何かわがまま言ったら、ひっぱたいちゃっていいからね。多分それで、直子は悦んじゃうでしょうけれど」
 お姉さまがイジワルっぽくおっしゃって、しほりさまは困ったような苦笑い。
 でも、なんとんなく嬉しそうなご様子でした。

「とりあえずわかりました。それではまず、ウイッグから決めちゃいましょう」
 苦笑いが引っ込むと、抑えきれない好奇心で、そのおふたつの瞳が爛々と輝き始めたしほりさま。
 私の全身を遠慮無い視線で舐めるみたいにじっくりと眺められてから、お姉さまにお尋ねになられました。

「大きめな鏡ってありますか?違うお部屋にあるなら移動してもよいですけれど」
「ああ、洋間に姿見があったわね。ここに移動してくるから、そこのソファーのところを使いましょう」
 お姉さまが答えられ、席をお立ちになりました。

「ほら、直子も手伝って。しほりさんのお荷物をお持ちなさい」
「は、はい」
 マゾの服従ポーズを解くお許しが出て、テーブルに駆け寄りました。

「それじゃあ直子さん、これ、持ってくれる?」
 しほりさまが肩から提げられていたショルダーバッグを指さされました。
 なんだか急に気安くなったそのおっしゃりかたで、しほりさまも私を蔑むことに決めてくださったのだとわかりました。

「重いから、落とさないように気をつけてね」
 両手で持ち上げてもかなり重い。
 しほりさま、あの細い肩にこんなに重いバッグを提げられていたんだ。
 思わず尊敬の眼差し。
 両手で持ってヨタヨタとソファーまで運びました。

 お姉さまが洋間からキャスター付きの姿見を転がしてこられ、いったんソファーのところに置きましたが、壁際でちょっと暗い、ということになり、それからソファーごといろいろ移動して、最終的には中央のテーブルから少し離れた、照明下の明るい場所に落ち着きました。

 私の座るソファーを中心にして、周りにソファーやテーブルを囲むように置き、即席のメイクルームが出来上がりました。
 テーブルの上には、しほりさまのメイクアップお道具がズラリと並べられました。

「これが絵理奈が着けるはずだったウイッグです」
 しほりさまが黒髪がツヤツヤなウイッグを取り出しました。
「ちょっと失礼するわよ」
 鏡に向かっている私の背後に立ったしほりさまが、私の髪に巻いたタオルをスルスルッと解きました。

「あっ、まだ濡れているかもです」
「大丈夫よ、今は試すだけだから」
 地毛を手際よく頭上にまとめられ、慣れた手つきでネットをかぶせられました。

「こんな感じですね」
 明らかにお姉さまだけに向けられた、しほりさまのお言葉。
 緩いウエーブのサイド分け、胸に届かないくらいのセミロング。

「へー。なんだかゴージャスだけど、ちょっと重いかしら」
「もうひとつは、こんな感じです。黒髪限定ということだったので、今日は黒髪しか持ってきていませんが」
 スポッと外され、スボっとかぶされました。
 もっとウエーブの派手めな、もっとゴージャスなセミロング。

「ふーん。なんかピンとこないかな。あとは無いの?」
「あとは、これですね」
 目の上で前髪をまっすぐパッツン、ストレートセミロング。
「あっ!」
 思わずお姉さまと鏡の中で目が合いました。

「これね。これで決まりだわ」
 お姉さまと私の様子に、しほりさまは目をぱちくり。

 あれはまだお姉さまとおつきあいする前、大学一年の初秋の頃。
 ひとりで街に出て裸コート遊びをしていたら、偶然シーナさまにみつかってしまい、連れて行かれた西池袋のオシャレなアパレルセレクトショップ。
 そこではスキンアートという、素肌に絵を描くサービスをされていて、コートを脱がされ、当然のようにおっぱいやお尻を出すはめになりました。
 見知らぬお客様がたが頻繁に出入りする白昼の店内で、丸裸同然の姿で晒し者になった私。

 そのときシーナさまが、距離的には離れているとはいえ地元の駅でもあることだし、と私の身バレを心配してくださり、変装のためにかぶせてくださったウイッグ。
 もっと短かいフレンチボブタイプのウイッグでしたが、鏡に映った前髪パッツンな私の正面顔は、そのときのふしだら露出狂女にそっくりでした。
 お姉さまもシーナさまから、そのときの写真を見せてもらっているはずですから、瞬時に思い出されたようでした。

「このウイッグに合わせてメイクをお願い。そうね、かなり小生意気風に、ね」
 お姉さまが愉快そうにおっしゃいました。
「生意気風、とすると、キツネ顔っぽく、がいいのかな?でも直子さんて、どちらかと言えばタヌキ顔ですよね?」
「ああ、そう言われれば、そうね」

「絵理奈は、どちらかと言えばキツネ顔で、雰囲気変えるために今回、タヌキ顔っぽくしようとしていましたから、直子さんの場合、素の絵理奈に寄せればいいのかな。要は素顔から離れれば離れるほど、いいのですよね。」
「ええ、それでいいと思うわ。何て言うか、お高くとまりやがって、っていう感じ?それで、思わず虐めたくなっちゃうような」
 お姉さまがご冗談ぽくおっしゃいました。

「なんとなくわかりました。それでは、そういう方向で努力してみます」
「うん。あとはしほりさんに任せるから、お願いね。あたしも急いでメイクして、着替えもしなくちゃいけないし」

 お姉さまがチラッと壁の時計に目を遣りました。
 つられて見ると、お昼の12時を10分ほど過ぎていました。

「何かあったら、あたしはそこの部屋にいますから。直子は、ちゃんとしほりさんの言う通りにするのよ」
 それだけ言い残して和室に戻るお姉さま。

 お姉さまが引き戸の向こう側に消えると、しほりさまが好奇に溢れた、ちょっとイジワルそうなお顔で鏡の中の私を視つめ、嬉しそうにニッと微笑まれました。


オートクチュールのはずなのに 46

2016年4月3日

オートクチュールのはずなのに 44

「凄いわね。最初はギクシャクしていたけれど、今はもう、歩きかたも仕草も、プロのモデル顔負けじゃない?」
 マンションに着き、部室の階まで昇るエレベーターホールで、やっとお姉さまと向き合いました。
「後ろから見ていて、惚れ惚れしちゃった。すれ違う人のほとんど、男も女も、みんな直子に見蕩れていたわよ」

「そ、そうですか?」
 お姉さまのおやさしいお声に、フッと我に返るような感覚があり、同時に、過剰なほど張りつめていた背筋と心の緊張が解けていくのがわかりました。
 
 やがてエレベーターが到着。
 降りる人はなく、乗り込むのもお姉さまと私だけ。

 エレベーターの箱内に足を一歩踏み出したとき、とんでもないものが視界に飛び込んできました。
 私の真正面に、等身大以上の大きな鏡、そして、そこに映った自分の姿・・・

 鏡に映った私は、胸のVゾーンが乳首寸前まで大きくはだけ、裾もワレメギリギリまでせり上がった、目のやり場に困り過ぎるほど破廉恥な、裸コート姿でした。
 
 こんな姿で自信満々で前から歩いてこられたら、注目するのはあたりまえです。
 心の片隅に無理やり追いやっていた羞恥心が一気によみがえり、火照りとなって全身を駆け巡りました。

「わ、私・・・私、こんな姿でモールやお外を歩いてきたのですね・・・」
「そうよ。みんなの注目の的だったじゃない。でも直子もひるまずに堂々と歩き切って、偉かったわ」
 それって単に、驚いていたのか、呆れていたのだと思います。

「でもでも私、よく行くお店もあるし、知っている店員さんもたくさんいるし、どうしよう・・・もう恥ずかしくてお店に行けない・・・」
 やってしまったことの重大さに今更、からだが震えてきました。

「ううん。その点は大丈夫と思うな。注目の的は首から下だったし」
 お姉さまのからかうようなお声。

「まず服装に目が行って、それからあわてて顔を確認する、って具合だったわ」
「こんな格好したがる女って、どんな顔なんだろう、って感じでね。だけど、そのド派手なメガネでしょ?顔が半分以上隠れているから、知り合いだってわかりゃしなかったわよ」
 今度は真面目に、諭すみたいにおっしゃいました。

「それを貸してくれたアヤに感謝しなくちゃ、ね?」
 最後はおやさしくおっしゃり、不意にギュッと抱きしめてくださいました。
「あんっ!?」

「だから、さっきの感じでいいの。さっきの感じでイベントもしっかり頑張って。やっぱり直子はやれば出来る子なのよ。あたしのパートナーが直子で、本当に良かった」
 耳元でそうささやかれ、唇に甘いキス。
 
 それだけでさっきまでの不安が、綺麗サッパリ吹き飛んでしまうのですから不思議です。
 お姉さまが悦んでくださっているのだから、これでいいんだ・・・
 唇が離れたとき、タイミング良くエレベーターのドアが開きました。

 手をつないでエレベーターを降りました。
 目の前には、ホテルみたいな間接照明のオシャレな廊下が、シンと静まり返っています。
 エレベーターのドアが完全に閉まるのを待って、お姉さまがおっしゃいました。

「ここまで来たら、そのコートももう、脱いじゃって大丈夫でしょう」
「えっ!?」
「さっきのあたしのキスで気が緩んじゃった?直子には今日一日、でも、や、だって、は許されていないはずよ」
「あ、はい・・・ごめんなさい・・・」

 お姉さまからのキスで引っ込んだはずの羞恥心が、まだ少し、心のどこかでくすぶっていました。
 私にはイベントまで服は一切着せない、って、オフィスでお姉さまも断言されたじゃない?
 むしろ、ここまでコートを着せていただけたことに、感謝しなくちゃダメ。
 自分に叱るように言い聞かせ、コートの残りのボタン3つを、思い切るように手早く外しました。

 脱いだコートはニヤニヤ顔のお姉さまにお渡しし、今度はマンションの廊下で全裸。
 サングラスも一緒に外されました。
 お部屋へたどり着くまでに通り過ぎる、他所様のドアふたつが開きませんように、とドキドキお祈りしながら、携帯電話のカメラをこちらへ向けているお姉さまを追いました。

 お部屋へ入るとすぐ、お姉さまが着ていたスーツをスルスルと、お脱ぎになり始めました。
 そのとき、きっと私は、不思議そうな顔になっていたのでしょう。
 お姉さまが照れ隠しみたいに微笑みつつ、おっしゃいました。
「言ったじゃない?部室に着いたらご褒美上げる、って」

 ブラジャーも取り、ストッキングもショーツもお脱ぎになって、生まれたままのお姿になられたお姉さまが、そのままギュッと私を抱きすくめてくださいました。
「はぅぁぁー」
 お洋服を着ていらっしゃらなくても、いい匂いなお姉さま。

「これから直子を、シャワー浴びながらとことんイカせてあげる」
 耳元をくすぐる甘いささやき。
「今日は、あたしをイカせようとか、余計なことは考えないで、自分がイクことだけ考えていなさい」
 おっしゃるなり、お姉さまの右手人差し指が私のマゾマンコへズブリ。
「はぅっん!」

「相変わらずグッショグショなのね。スケベな子。モールでの注目がそんなに良かった?」
「イベントでは、それ以上の熱い視線が待っているからね」
「あうっ!あっ、あっ、あーっ}
 しばらくグチョグチョ掻き回されてから、唐突に指が抜かれました。

「おっと、その前にすることがあった。直子、今日のお通じは?」
「あん、えっ・・・お通じ、ですか?えっと、普通ですけれど・・・」
「いつしたの?」
「えっと、起きて、シャワーして、朝ごはん食べて、その後、です」

「朝食は何?」
「あのえっと、レタスとキュウリのサラダにジャムトースト一枚。あとミルクティで、食後にバナナを一本・・・」
「ふーん。ヘルシーね。今日は、イベント終わるまで何も食べられないけれど、我慢してね」
「はい。それは、構いません・・・」

「終わったら何食べてもいいから。あたしが何でもご馳走してあげる。だけど今はお腹の中、すっからかんにしちゃいましょう」
 おっしゃりながら全裸のお姉さまは、ご自分のバッグの中を物色されていらっしゃいました。

 バッグから引っ張りだされたのは、オフィスを出るときに綾音さまから手渡された小さなショッパー。
 その中から出てきたのは、私もお姉さまも見慣れている青地に白十字の箱に入ったあのお薬でした。

「そこに四つん這いになりなさい」
 お姉さまの右手が、ご自分の足元のフローリングの床を指しました。
「は、はい・・・」
 冷たさが戻ったお姉さまのご命令口調に、ゾクゾクっと鳥肌を立たせつつ、床に手を着きました。

 確か綾音さまは、あのショッパーをお姉さまに渡されるとき、絵理奈さまのためにご用意された、とおっしゃっていたっけ・・・
 ということは、本来なら絵理奈さまがイベントの前に、綾音さまの手でお浣腸されるはずだったんだ・・・

 ふと、そんな考えが浮かび、思わずその図を妄想していました。
 絵理奈さまの急病が無かったら今日の綾音さまは、盗聴のときとは打って変わって、絵理奈さまに対してエスのお役目をされていたんだ・・・
 その妄想は、私を凄く興奮させました。

「さっきアヤに診せていたときも思ったのだけれどさ、直子の肛門、確実に拡がっているわよね?少なくとも連休のときよりは」
 ギクッ!
 お姉さまのその一言で、綾音さまと絵理奈さまについての妄想が消し飛びました。

「連休明けからずっと、アヌスばっかり弄ってオナニーしていたんじゃない?凄い開発具合だもの」
 からかうようなお姉さまのあけすけなお言葉に、身を縮こませながらもキュンキュン感じちゃう私。
「・・・は、はい・・・そ、その通りです・・・」
 お姉さまに嘘をつくことは出来ません。

 アヌスばっかり、というワケではありませんが、ムラムラがひどくて激しくオナニーするとき、シャワーしながらお浣腸をして、がまんしながらイクこと、イッた後、シーナさまから就職祝いでいただいた柘榴石のアナルビーズを出し挿れすることが、ルーティーンワークとなっていました。
 
 さすがにまだ、直径40ミリの珠が付いたランダムなほうのアナルビーズは無理でしたが、直径10ミリから5ミリづつ大きくなるほうのであれば、8個の珠全部を収められるようにまでなっていました。
 あのなんとも言えない、もどかしい圧迫感がクセになっちゃったみたいなんです。

 そんなことを途切れ途切れに白状しました。

「ほら、もっと高く、お尻突き上げなさい、このヘンタイ女」
「はうっ!」
 ピシャっとお尻を叩かれて、ビクンとお尻が突き上がりました。

 お姉さまの指が私のマゾマンコから愛液をすくい取り、お尻の穴周辺になすりつけられます。
「あっ、はぅぅぅっ」
 お尻の穴が抉じ開けられ、指が内部へと埋没してくるのがわかります。
「ずいぶん挿れやすくなっているわよ?淫乱ケツマンコ」
「あう、あう、あうぅ」

「あたしにも開発の余地、残しておいてよね。一番大きな珠は、あたしの手で挿れるんだから。今度すっごく太いアナルバイブでも、買ってあげるわ。この穴が引き裂かれちゃうくらいのやつ」
 指がしばらくグリグリしてからスポンと抜け、代わりに今度は、何かもっと細いものが奥深く挿入されたのがわかりました。

「あああぁぁ・・・」
 間髪を入れず、直腸の中に冷たい刺激が注ぎ込まれてきます。
「今日は念のため、3つ入れておくわね」
 代わる代わるに細いものを突き立てられ、最後に何か柔らかいもので穴を塞がれました。

「うふふ。アナルプラグまで用意しちゃって、あのふたりも、かなりヘンタイな遊びを日常的にしているみたいね?」
 愉快そうなお姉さまのお声。
「そっか。あたしのプレゼントもアナルプラグにしようっと。これの2倍位太いやつ」

 挿入されたものは、柔らかいのですが中で膨らんでいる感じで、その圧迫感が妙に心地良くムズムズするものでした。
 でも、これの2倍って言ったら・・・
 本当に私の、裂けちゃうかも。

「直子って、マゾマンコにならあるでしょうけれど、ケツマンコに何か挿れっ放しで歩いたことって、あったっけ?」
「あ、いえ、お尻には、ないです・・・」
「今日のアイテムの中には、アナルにプラグ挿れっぱのものもあるから、それならいい練習にもなるわね。さ、バスルームへ行きましょう」

 お姉さまが差し伸べてくださった右手にすがって立ち上がり、手を引かれてバスルームに向かいました。
 お浣腸されたお尻の穴に、プラグを挿し込んだたままで。

 バスルームでのお姉さまとの行為は、いつもとちょっと違ったものになりました。
 ぬるめのシャワーを勢い良く全開にして、まず、その下で抱き合いました。
 髪の毛が顔にベッタリ貼りつくのもおかまいなく、唇を貪り合いました。
 湯気で曇る前の鏡に映った私のお尻には、赤ちゃんのおしゃぶりの先っちょのような輪っかが、滑稽に覗いていました。

 抱き合った胸元にボディソープを垂らし、からだを擦りつけ合います。
 やがて泡立つと、いったんシャワーの雨から避難して、お姉さまが私を愛撫し始めました。
 シャワーは出しっ放しで、相変わらず激しい水音がふたりを包んでいました。
 
 お姉さまは、これからモデルをする私の肌に痕を残してはいけない、と思われたのでしょう。
 いつものように叩いたりつねったり、もちろん縛ったりも無く、マッサージするみたいにやんわりジワジワとした愛撫がつづきました。
 おっぱいが念入りに揉みしだかれ、腋やうなじなど私が弱い場所を集中的に弄られたり。
 
 私の大好きな、痛い、という刺激は皆無なものの、お姉さまのおやさしいマッサージは執拗につづき、私が人肌に飢えていたこともあって、どんどん高揚してきました。
 焦らされていた乳首への責めで、最後はあっという間に昇りつめました。

 一度私がイッてからは、お姉さまの右手が、ずっと私の股間に吸い付きっ放し。
 最初から私の腫れた肉芽を執拗にいたぶってきました。
「んぐっ、んぐぅーーーっ!!!」
 お姉さまの唇で塞がれた自分の喉奥から、くぐもったような歓喜の嗚咽。
 それをかき消すような、激しいシャワーの水音。

 私がビクンビクンとイクたびに、お姉さまは攻撃の仕方を変えてきました。
 指が2本、マゾマンコ奥まで潜り込んで掻き回され、尖った乳首が噛み切られるくらい歯を立てられました。
「あああーーっ、あんあんっ、いぃぃーーーっ!!!」

 私の両手もお姉さまの乳房や秘唇をまさぐってはいるのですが、お姉さまは気にも留めていらっしゃらないご様子。
 ひたすら私を責め立てて、そして私はどんどん、お腹が痛くなってきました。

「あん、お姉さま、そ、そろそろダメです・・・出、出ちゃいそうですぅ・・・」
「うん、知っているわ。さっきから直子のお腹、グルグルゴロゴロ、煩いくらい鳴っているもの」
「だ、だから、あんっ、いったん離れてくださいぃ・・・でないと、お姉さまのおからだまで、わ、私の汚いもので汚してしまいますぅ・・・」

 私の膣壁をしたい放題いたぶってくる、お姉さまの指が与えてくださる快楽に飲み込まれそうになりながらも、なんとか必死に訴えました。
 そのあいだ下半身はずっと、プルプル震えっ放し。

「大丈夫よ、お尻に栓をしているのだから。直子の意志や諦めだけでは、派手に漏れだしたりしないはず」
「それに、出してもシャワーがすぐに流しれくれるから、あたしのことも気にしなくていいわよ」
 お姉さまが激しいシャワーの下で私のマゾマンコを責める手は止めず、クールにおっしゃいました。

 おっしゃる通りでした。
 一生懸命ガマンはしているのですが、お姉さまがくださる快感に気を許すと、どうしてもガマンのほうの力が緩んでしまうのです。
 栓をしていなかったら、もはやとっくに垂れ流してしまっていたはずでした。

「それに、もうちょっとがんばってみなさい。ほら、アヌスに力を入れて」
 ご命令通り、キュッと肛門を締め上げると、同時にお姉さまの指に陵辱されている穴の方も締め上げることになります。

「そう、その調子。あたしの指が奥へ奥へと咥え込まれていくわ。もう一本挿れちゃおうかしら、ほら締めて」
「んんーーっ!」
 膣壁がパンパンに圧迫され、尿意みたいなものまで催してきました。
 耐え難いお腹の痛みさえ、快感に変換されています。
 もちろん昂りも、頂上まであと一息のところまで。

「あうっ!お、お姉さま・・・もう、もうダメです・・・もう、もう・・・いやぁーー」
「なあに?イキそうなの?いいわよ、イっちゃいなさい、ヘンタイ直子らしく、あたしの目の前でウンチ垂れ流しながら、イっちゃいなさい」
 
 お姉さまの左手でグイッと抱き寄せられると同時に、膣内への摩擦も最高潮になりました。

「いやーーーっ、あっ、あっ、いや、いや、だめ、はぁっ、はぁっ、でちゃう、イッちゃぅぅぅ」
 膣内への刺激が一瞬途切れ、同時に肛門に筆舌に尽くし難い爽快な開放感が訪れました。
 栓を抜かれた瞬間、スポンという音さえ聞こえたような気がしました。
 間髪を入れず膣内への摩擦が戻り、昂りが何十倍にも増幅して戻ってきました。

 すさまじい快感が全身を駆け巡っていました。
 私の肛門は、自分でも制御不能。
 からだ中の穴という穴から、何かしらの液体が放出されているような感じでした。
 自分自身が液体となって、溶け出しているような絶頂感でした。

 集中豪雨のようにけたたましいシャワーの水音の中でも、自分の下半身から断続的に発せられた、はしたない破裂音は聞こえていました。
 そして、そこはかとなく香ってくる、懐かしくも不穏な臭い。
 それらの恥ずかしささえ、そのときの私には快感の増幅を呼ぶスパイスに過ぎませんでした。

「ああああーーーごめんなさいぃ、イキます、イキます、もうイキますうぅぅぅぅ!!!」
 お姉さまのおっぱいに顔を擦りつけ、シャワーの音に負けないくらいに叫びました。
 シオなのかオシッコなのか、マゾマンコからも何らかの液体がほとばしる感覚がありました。

 いつの間にか両膝が崩れ、シャワーの下で四つん這いに力尽きたまま、それでもたてつづけに何度もイキました。
 シャワーが背中に、お尻に当たる、その打擲の刺激だけで、果てしなくイッちゃいそう。
 そのくらい全身の肌がビンカンになっていました。

 シャワーの勢いがだんだん弱まり、やがて止まりました。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
 水音が消えたバスルームに、自分の荒い息遣いだけがエコーしていました。

「どうだった?あたしからのご褒美」
 裸のお姉さまがしゃがみ込んで、四つん這いでうなだれている私の顔を覗き込んできました。
「は、い・・・ありがとう、ございます・・・さ、サイコーでした・・・」
「これで底無しな直子のムラムラも、いくらかは落ち着いたでしょう。からだ拭いちゃって、イベントの準備に移りましょう」
「は、はい・・・」

 ぐったり疲れきったからだをお姉さまに助け起こされ、フラフラたどり着いた脱衣場では、ただ立ち尽くす小さな子供状態。
 お姉さまにからだの隅々まで丁寧に拭いていただきました。
 ブラジャーの跡もパンストのゴム跡も、跡形もなく消え去り、両手の指なんてもうシワシワ。

 頭にタオルを巻いてもらい、私は裸、お姉さまは真っ白なバスローブ姿で部室のメインルームであるリビングルームに移動しました。
 お姉さまがグラスに冷たいスポーツドリンクをたっぷり注いで、持ってきてくださいました。
 
 お部屋壁際のソファーにタオルを敷いて裸のお尻で腰掛け、最初はそれをグイッと、残りはゆっくりといただきました。
 お姉さまは、脱ぎ散らかしたご自分のスーツ類を拾い集めてはハンガーやトルソーに掛け、それからバスローブのまま和室に入られました。

 バスルームで、何回くらいイッたのかしら?
 さすがに今は大人しくなっている自分の乳首を見下ろしながら考えました。
 数えてみようか、とも思いましたが、イキグセがついてからはずっと、頭の中が真っ白に吹っ飛んでいて正確には思い出せないことに、すぐ気づきました。
 そのぐらいたくさんイッたはずです。

 だんだん冷静になるとともに、この場でまだ自分が全裸であることを恥ずかしく思い始めた頃、ご来客を告げるチャイムが室内に鳴り響きました。
 すぐにバスローブ姿のお姉さまが和室から出てこられ、インターフォンの受話器を取られました。

「はい。あ、どうも。わざわざありがとうございます・・・」
 その後、フロア階数とルームナンバーを告げられ、受話器を置かれました。

「メイクのしほりさんがみえたわ。今エントランスだから、ほどなく上がってこられるはず」
「あたし今、手を離せないから、次にチャイムが鳴ったら、直子、玄関でお迎えしてあげて」

 それだけ告げて、再び和室に戻られるお姉さま。
 和室の引き戸がピシャリと閉じられます。

 私、どうやら全裸のまま、見知らぬお客様をひとりで、お出迎えしなくてはいけないみたいです。


オートクチュールのはずなのに 45