盛大にあわてました。
えっ!?ど、どうしよう・・・私今、裸だし・・・メイクの人って?お会いしたこと、たぶんないし・・・あっ、今私、頭にタオル巻いたままだった・・・取ったほうがいいかな?でもまだ全然乾いていないし・・・
初対面でタオル巻いたままなんて、失礼よね?でも、濡れ髪のザンバラじゃ、もっと失礼かも・・・ううん、失礼って言ったら、裸が一番失礼よね・・・
そうだ、何かお飲み物のご用意もしなくちゃ・・・お湯は沸いているのかな?今から沸かしていたら遅くなっちゃうな・・・
ピンポーン!
ただただあたふたしているうちに、ご来訪を告げるチャイムが鳴り響きました。
あ、はいはいーっ!
反射的に大急ぎでインターフォンに飛びつきました。
「はいっ」
「あ、ヘアメイクの谷口と申します。早乙女部長様から、ここへ来るように言われまして・・・」
「は、はい。お待ちしておりました。少々お待ちください」
受話器を戻して、今度は盛大にうろたえます。
落とした視線のすぐ先に、剥き出しの乳房がプルプル震えていました。
と、とにかくお出迎えしなくちゃ。
左腕で胸を庇うように隠し、右手で股間を押さえた格好でペタペタと、玄関まで走りました。
沓脱ぎで片足にサンダルをつっかけ、ドアノブに右手を伸ばして鍵を開けます。
カチャン。
自分でたてた音にビクンとしつつ、そーっと外開きのドアを開けていきます。
左腕はずっとバスト、右手は伸ばしてドアノブにかけているので、股間は隠しようがありません。
なので、内股でお尻だけ後方に突き出すように腰を引いた、絵に書いたような屁っ放り腰の私。
「このたびは、うちの絵理奈が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたっ!」
ドアを半分くらい開けたところで、ドア前で黒ずくめな女性が、深々とお辞儀をされているのが見えました。
両脚と上半身が腰で直角になるくらい折り曲げた、それはそれはご丁寧なお辞儀。
そのかたの頭頂部のつむじを、私が見下ろすような格好で数秒が過ぎました。
「あ、いえ、あの、えっと、ど、どうぞ、とりあえず中へお入りください・・・」
下を向きっ放しのそのかたへ、そうお答えする他ありません。
「はい。それではお邪魔させていただきます」
多分そのかたも緊張されているのでしょう、ずいぶんと堅苦しい口調でおっしゃって、上半身をゆっくり起こし始めました。
まだ沓脱ぎ内には入ってくださらないので、私の右手はドアノブを掴んだまま。
股間を隠すことは出来ません。
完全に上体を起こしたそのかたは、一瞬、呆気にとられた表情で私を見つめたまま固まりましたが、すぐにニッと白い歯を見せて微笑まれました。
セシルカットっぽいショートヘアがよくお似合いな、人懐っこい感じの素敵な笑顔でした。
身長は私と同じくらい。
シンプルな黒のラウンドネックカットソーにブラックジーンズで、スリムなプロポーションがスラっと決まっています。
胸元にゴールドの細いネックレスがキラキラ揺れて、いかにも仕事が出来そうな、華やかなギョーカイの人、という感じ。
「あ、ごめんなさい。間が悪かったみたいですね。シャワーの途中でしたか?」
「あ、いえ、そうじゃないんですけれど、あ、そうだ、スリッパ、スリッパ」
なんとなくそのかたが、私が裸なことをさして気にされていないようなご様子だったので、私もなんとなく気がラクになり、バストを隠すのをやめ、しゃがみ込んでスリッパをご用意しました。
「えっと、とりあえず、こちらへおかけください。お荷物はテーブルの上にどうぞ」
裸のお尻に強い視線を感じつつ先に立ち、お部屋の奥へと誘導しました。
お部屋の真ん中にあるダイニングテーブルの椅子をひとつ引き、お勧めしました。
そのかたは、右肩に大きなショルダーをかけ、アンティークなトランク風のオシャレなカートを引いていました。
「あ、今何か、お飲み物ご用意しますので、しばらくおくつろぎください」
「あ、いえいえ、おかまいなく。渡辺社長様は、まだお見えではないのですか?」
「あ、えっと、お姉さ、あ、いえ、社長、じゃなくてチーフは、今ちょっと別室で・・・あ、すぐに出てくるとは思います」
ふたりでぎくしゃくした会話をした後、私はキッチンへと逃げ込みました。
冷蔵庫にペットボトルの緑茶があったので、グラスに注いでお出しすることにしました。
トレイにグラスを並べて注いでいると、リビングのほうからお声が聞こえてきました。
「わざわざありがとうね、しほりさん。今、ちょっと着替えていたところだったから、ご挨拶が遅れちゃった」
「あ、社長!」
ここで、おそらくヘアメイクのかたがお席を立たれたのであろう、ガタガタッという物音。
「このたびは、うちの絵理奈がご迷惑をお掛けしてしまって・・・」
「いいっていいって。急病じゃ、仕方ないわよ。盲腸なんて、予防のしようがないもの」
「おかげで、うちとしても、思いがけなく面白そうな展開になってきたのよ。まあ、ある意味ギャンブルでもあるけれど」
「あのアイテムを着こなせる代理のモデルさん、よくみつけることができましたね?昨日の今日、いえ、今朝の今なのに」
「ラッキーだったわ。モデルを絵理奈さんに決めていたからこそ、みつけられたとも言えるのよ。絵理奈さんにそっくりな体型の子が、たまたま身近にいたから」
ヘアメイクのかたの恐縮されたお声と、お姉さまの愉しそうなお声が交互に聞こえ、私は、お茶をお持ちするタイミングを掴めずにいました。
「そう言えばさっき、驚いたでしょう?いきなり真っ裸の子に出迎えられて」
「あ、はい。ちょっと焦りました。でもわたし、絵理奈とか、イメビの現場でそういうのは慣れていますから。それに、たまにアダルトの現場にも呼んでいただいていますし」
「へー。そういうお仕事もされるんだ。面白そうね。興味あるから、後でゆっくりお話聞かせて?」
「ええ。それはいいのですけれど、さっきの裸のかたが絵理奈の代役を務めてくださるのですね?確かにプロポーションがほぼ同じに見えました」
「そう。絵理奈さんに合わせたオートクチュールを、奇跡的に着こなせそうな、我が社を救ってくれる今回のイベントの救世主なの」
お姉さまがご冗談ぽくおっしゃってから、声量を上げてこちらへお声をかけてきました。
「ほら、直子?早くこっちへ来てご挨拶なさい」
グラスを載せた銀盆を両手で持って、しずしずとお姉さまたちに近づきました。
お姉さまも、頭にはまだタオルを巻いたままで、ゆったり気味なマリンブルーのロングTシャツ一枚のセクシーなお姿。
ファンデーションとアイブロウまでは終わった、みたいな、お化粧真っ最中なお顔でした。
お姉さまもヘアメイクのかたも、にこやかなご様子でこちらを向いて、じーっと私を見つめてきます。
両手が塞がっているので、おっぱいも股間も、もちろん隠せません。
「直子、こちらが今回お世話になる、ヘアメイクアップアーティストの谷口しほりさん」
私がトレイをテーブルに置くのを待って、お姉さまがご紹介してくださいました。
「しほりさん、この子が今日、絵理奈さんの代わりをする、臨時モデルの森下直子」
「あ、はい。森下さん、はじめまして。よろしくお願いします」
しほりさまが立ち上がられ、私に向けてペコリとお辞儀をしてくださいました。
「あ、こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
私もあわててお辞儀を返します。
おっぱいがプルンと揺れました。
「あら、いいのよ、しほりさん。この子のことは、直子って呼び捨てにしちゃって。うちの社員なの。今日いらっしゃる他のお客様がたには内緒にして欲しいのだけれど」
「えっ!?でも今日、モデルをやられるのですよね?ぶっつけ本番で」
私とお姉さまのお顔を交互に見つつ、信じられない、というお顔をされるしほりさま。
「この子にしか、今回のアイテムは体型的に着こなせないから、苦肉の策なの。幸い本人もやる気になってくれたし、まあ、素養もあるみたいだから」
「そうだったのですか」
「だから、ショーのモデルのノウハウに関しては、ドが付くくらいの素人なの」
そこまでおっしゃって、お姉さまがしほりさまに、再び腰掛けるよう促しました。
しほりさまはお座りになられましたが、私にはご指示がないので、そのまま立っていました。
「それで今日はね、この子をメイクの力で、出来るだけ別人に仕立て上げて欲しいのよ。イベントにいらしたお客様が後日、素の直子に会っても気づかないくらいに」
「ああ、なるほど。あくまで実在する架空のモデルさん?あれ?変な言い方でしたね、だと思わせちゃうわけですね?」
しほりさまが興味津々のお顔でうなずかれました。
「確かに、今日絵理奈が着るはずだったアイテムですと、ショーのモデルが社員さんてわかったら、後々のお仕事が、いろいろとやりづらいかもしれませんね、お取引先さんとか」
「でしょ?」
「絵理奈も本来なら今日は、名前は売らないイレギュラーなお仕事として、過剰気味なメイクで臨むはずでしたので、その点は用意もしてあるし、大丈夫と思います」
腰掛けられたおふたりが、私をジロジロ眺めながら会話を弾ませていらっしゃいました。
視線が来ているのはわかっていたのですが、今更バストや下を隠すのもヘンなので、両手をだらんと下げたまま、手持ち無沙汰で立っていました。
ちゃんとお洋服を召したおふたりの前にひとり全裸で立ち尽くしている、というのは、見世物にでもされているようで、なんだかみじめで、とても恥ずかしいものでした。
しほりさまは、とくに私の下半身を熱心にご覧になられているような気がしました。
恥丘のあたりをじっと視て、それから顔を視て、私に向けてニッと微笑まれる。
そんなことが数回、ありました。
そのたびに私の頬は、どんどん火照っていきました。
「それで、直子の扱い方、なのだけれど、この子って、マゾなの」
お姉さまが世間話するみたいに、サラッと言い放ちました。
「へっ?」
「それも、ドがつくほどのヘンタイマゾ」
「はあ・・・」
しほりさまがリアクションに困られています。
「だから、何て言えばいいのかな、恥ずかしがりのクセに視られたがりで、人がたくさんいるところで裸になりたがり、って言うか」
「つまり、恥辱願望。露出狂女。恥ずかしいメに好んで遭いたがる、みたいな。そんな種類のドマゾなの」
「・・・」
「そうよね?直子?」
お姉さまがこちらを向いて、冷たい瞳でニヤッと微笑まれ、一瞬間を置いて、顎を軽く上にしゃくられました。
私とお姉さまにしか、わからない秘密の合図。
その合図があったら、私は直ちに、あるポーズを取らなくてはいけません。
両手を合わせて頭の後ろへ、両足を、やすめ、に広げ、顔はまっすぐお姉さまに向けて。
おっぱいも腋の下もマゾマンコも、すべてを包み隠さずお姉さまにご覧いただく、マゾの服従ポーズ。
「・・・はい。おっしゃる通りです、お姉さま」
「ね?」
お姉さまがしほりさまに微笑まれました。
マゾの服従ポーズな私をまじまじと見つめ、唖然としたお顔のしほりさま。
「直子にとって、あたしはお姉さまで、あたしの言うことは何でも聞かなくてはいけないの。あたしたちは、そういう関係」
「それで、今日のイベントモデルは、そんな直子のヘンタイ性癖を、堂々と仕事として、たくさんのお客様がたにご披露出来る、直子にとってご褒美イベントでもあるの」
「その代わり、失敗は許されないから、イベントが終わるまで、あたしのどんな命令にも絶対服従。ううん。あたしだけではなく、早乙女部長にも、他のスタッフ全員にも。そう言い渡してあるの」
「そこに今、しほりさんも加わったというワケね。しほりさんのご命令にも絶対服従よ、いいわね?直子?」
「・・・はい。よろしくお願いいたします、しほりさま」
マゾの服従ポーズのまま、しほりさまをすがるように見て、お辞儀をしました。
「好きなように弄っちゃって、もしも何かわがまま言ったら、ひっぱたいちゃっていいからね。多分それで、直子は悦んじゃうでしょうけれど」
お姉さまがイジワルっぽくおっしゃって、しほりさまは困ったような苦笑い。
でも、なんとんなく嬉しそうなご様子でした。
「とりあえずわかりました。それではまず、ウイッグから決めちゃいましょう」
苦笑いが引っ込むと、抑えきれない好奇心で、そのおふたつの瞳が爛々と輝き始めたしほりさま。
私の全身を遠慮無い視線で舐めるみたいにじっくりと眺められてから、お姉さまにお尋ねになられました。
「大きめな鏡ってありますか?違うお部屋にあるなら移動してもよいですけれど」
「ああ、洋間に姿見があったわね。ここに移動してくるから、そこのソファーのところを使いましょう」
お姉さまが答えられ、席をお立ちになりました。
「ほら、直子も手伝って。しほりさんのお荷物をお持ちなさい」
「は、はい」
マゾの服従ポーズを解くお許しが出て、テーブルに駆け寄りました。
「それじゃあ直子さん、これ、持ってくれる?」
しほりさまが肩から提げられていたショルダーバッグを指さされました。
なんだか急に気安くなったそのおっしゃりかたで、しほりさまも私を蔑むことに決めてくださったのだとわかりました。
「重いから、落とさないように気をつけてね」
両手で持ち上げてもかなり重い。
しほりさま、あの細い肩にこんなに重いバッグを提げられていたんだ。
思わず尊敬の眼差し。
両手で持ってヨタヨタとソファーまで運びました。
お姉さまが洋間からキャスター付きの姿見を転がしてこられ、いったんソファーのところに置きましたが、壁際でちょっと暗い、ということになり、それからソファーごといろいろ移動して、最終的には中央のテーブルから少し離れた、照明下の明るい場所に落ち着きました。
私の座るソファーを中心にして、周りにソファーやテーブルを囲むように置き、即席のメイクルームが出来上がりました。
テーブルの上には、しほりさまのメイクアップお道具がズラリと並べられました。
「これが絵理奈が着けるはずだったウイッグです」
しほりさまが黒髪がツヤツヤなウイッグを取り出しました。
「ちょっと失礼するわよ」
鏡に向かっている私の背後に立ったしほりさまが、私の髪に巻いたタオルをスルスルッと解きました。
「あっ、まだ濡れているかもです」
「大丈夫よ、今は試すだけだから」
地毛を手際よく頭上にまとめられ、慣れた手つきでネットをかぶせられました。
「こんな感じですね」
明らかにお姉さまだけに向けられた、しほりさまのお言葉。
緩いウエーブのサイド分け、胸に届かないくらいのセミロング。
「へー。なんだかゴージャスだけど、ちょっと重いかしら」
「もうひとつは、こんな感じです。黒髪限定ということだったので、今日は黒髪しか持ってきていませんが」
スポッと外され、スボっとかぶされました。
もっとウエーブの派手めな、もっとゴージャスなセミロング。
「ふーん。なんかピンとこないかな。あとは無いの?」
「あとは、これですね」
目の上で前髪をまっすぐパッツン、ストレートセミロング。
「あっ!」
思わずお姉さまと鏡の中で目が合いました。
「これね。これで決まりだわ」
お姉さまと私の様子に、しほりさまは目をぱちくり。
あれはまだお姉さまとおつきあいする前、大学一年の初秋の頃。
ひとりで街に出て裸コート遊びをしていたら、偶然シーナさまにみつかってしまい、連れて行かれた西池袋のオシャレなアパレルセレクトショップ。
そこではスキンアートという、素肌に絵を描くサービスをされていて、コートを脱がされ、当然のようにおっぱいやお尻を出すはめになりました。
見知らぬお客様がたが頻繁に出入りする白昼の店内で、丸裸同然の姿で晒し者になった私。
そのときシーナさまが、距離的には離れているとはいえ地元の駅でもあることだし、と私の身バレを心配してくださり、変装のためにかぶせてくださったウイッグ。
もっと短かいフレンチボブタイプのウイッグでしたが、鏡に映った前髪パッツンな私の正面顔は、そのときのふしだら露出狂女にそっくりでした。
お姉さまもシーナさまから、そのときの写真を見せてもらっているはずですから、瞬時に思い出されたようでした。
「このウイッグに合わせてメイクをお願い。そうね、かなり小生意気風に、ね」
お姉さまが愉快そうにおっしゃいました。
「生意気風、とすると、キツネ顔っぽく、がいいのかな?でも直子さんて、どちらかと言えばタヌキ顔ですよね?」
「ああ、そう言われれば、そうね」
「絵理奈は、どちらかと言えばキツネ顔で、雰囲気変えるために今回、タヌキ顔っぽくしようとしていましたから、直子さんの場合、素の絵理奈に寄せればいいのかな。要は素顔から離れれば離れるほど、いいのですよね。」
「ええ、それでいいと思うわ。何て言うか、お高くとまりやがって、っていう感じ?それで、思わず虐めたくなっちゃうような」
お姉さまがご冗談ぽくおっしゃいました。
「なんとなくわかりました。それでは、そういう方向で努力してみます」
「うん。あとはしほりさんに任せるから、お願いね。あたしも急いでメイクして、着替えもしなくちゃいけないし」
お姉さまがチラッと壁の時計に目を遣りました。
つられて見ると、お昼の12時を10分ほど過ぎていました。
「何かあったら、あたしはそこの部屋にいますから。直子は、ちゃんとしほりさんの言う通りにするのよ」
それだけ言い残して和室に戻るお姉さま。
お姉さまが引き戸の向こう側に消えると、しほりさまが好奇に溢れた、ちょっとイジワルそうなお顔で鏡の中の私を視つめ、嬉しそうにニッと微笑まれました。
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*オートクチュールのはずなのに 46へ
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