記憶を頼りに住宅街の路地を適当に曲がりながら、とりあえず地下鉄の駅を目指しました。
私が以前その商店街に迷い込んだときは、その地下鉄の駅からあてのないお散歩をしていて、4、5分歩いた頃に突然たどり着いた記憶があったからです。
駅はあっちのほうだから、ここを逆に曲がってみようか。
何の気なしにすごく細い路地へ入って抜けると、唐突にそれらしき商店街に突き当たりました。
自動車が一台通れるくらいな幅の道路に沿って、道の両側に小さなお店がいくつも並んでいます。
私が路地から出た場所は、商店街の途中みたい。
小さな八百屋さんが正面に見えました。
あそこからすんなり出れちゃったっていうことは、意外と地下鉄の駅から近いのかな?
駅との位置関係はいまいちわかりませんが、来方はなんとなくわかったような気がしました。
とりあえず、駅とは反対方向になるであろうほうへと、商店街をブラブラ歩き始めました。
八百屋さん、お肉屋さん、お花屋さん、金物屋さん・・・
狭い道路の両側に、お休みなのか閉店してしまったのか、閉ざされたお店をいくつか挟んでは、開いているお店がポツポツと並んでいます。
どのお店も古くからやってらっしゃるみたいで、小じんまりしていてなんだか懐かしい感じ。
時刻は、午後の三時半過ぎ。
晩御飯用のお買物時間にはまだ少し早いのか、お年を召したおばさまがちらほら歩いているくらいで、全体的にまったりのんびりしたムード。
ワンちゃんのお散歩をしてるおばさまや、学校帰りの小学生、宅配便の配達の人とかと、たまにすれ違います。
クリーニング屋さんちのエアコン室外機の上で、大きな三毛猫さんがまあるくうずくまっていたり。
裸コートのクセに、私もつられてリラックスムード。
まったりゆっくり歩いていたら、商店街の終わりらしきところまで来てしまいました。
見たところそこから先は、普通の住宅街みたいです。
今度は逆方向に歩いて、とりあえずどこかで何かお買物をしてみよう。
そう思って来た方向へ振り返ろうとしたとき、私のすぐ横に、さっき思い立ってしまった、私の罰ゲーム用の商品を扱っているであろうお店があることに気がつきました。
あっ!
そのお店を見た途端、再び心臓がドキドキし始めました。
どうしよう・・・本当にやる気なの?・・・
だけど、まだここに来てから何もお買物していないし、そのお店でどういう会話をするのかも考えていないし・・・
いざとなったら、途端に臆病な風が吹いてきました。
いきなりだと、何か大変な失敗をしちゃいそうだし・・・
やっぱり怖気づいてしまった私は、そのお店を素通りして、来た道を戻り始めます。
商店街のあっちの端まで行くあいだに気持ちを落ち着けて、やるかどうか決めよう。
どこかのお店でまず何か普通なお買物をして、誰かと何か会話をしてみてからにしよう。
そうだ。
さっき通り過ぎたお肉屋さんの店先で、お店で揚げたらしいトンカツやコロッケをガラスのショーケースに並べて売っていたっけ。
通り過ぎたときいい匂いがして美味しそうだったから、まずあそこでお買物してみよう。
そんなことを考えながら歩く私には、もはやさっきまでのリラックスムードは微塵もありませんでした。
このコートの下は真っ裸。
そんな格好なのに、なんでもないフリして商店街お散歩を愉しんでいる私。
背徳感がからだを火照らせ、下半身が盛大にムズムズしてきました。
「いらっしゃーい。今日は鳥のから揚げが大サービスだよ。うちのはカラッと揚がってて冷めてもすごく美味しいよー」
お肉屋さんのショーケースを前屈みになって覗き込んでいた私に、ケースの向こう側にいた恰幅の良いおばさまから大きなお声がかかりました。
「あ、は、はい・・・それならえっと、鳥のから揚げを100グラムとその、野菜コロッケをください」
「はいはいー。まいどありー」
陽気そうなおばさまが、愛想良くニコニコ笑って応対してくれます。
「それ、キレイな色のコートだねえ。よくお似合いよー」
「あ、ありがとうございます」
「はいっ、から揚げサービスしといたからねー。美味しかったらまた買いに来てちょうだいねー」
私の顔をじーっと見つめつつ、おばさまが満面の笑みで私に品物を手渡してくれました。
から揚げのいい匂いが、ふうわり漂ってきます。
「あ、ありがとうございます」
お金を払ってから自分でも不自然と思うくらい大きくお辞儀をして、逃げるようにお店から離れました。
たぶん顔も真っ赤だったと思います。
やっぱり、この格好で知らない人と会話していると、それだけでゾクゾクキュンキュン感じちゃう。
自分のはしたなさにジタバタしちゃうくらい恥ずかしくなって、被虐メーターがどんどん上がってしまうんです。
お肉屋さんを離れた私は、もう一度来た道を引き返すことにしました。
今のお肉屋さんのおばさまとの会話で、計画通り、より一層の辱しめを受ける決心がつきました。
いいえ、決心がついた、なんていう消極的なものではなくもっと積極的に、一刻も早く自分をもっと恥ずかしい立場に置いてみたい、という衝動が抑えきれなくなっていました。
から揚げを買っただけの、あんな普通な会話でこんなにゾクゾクしちゃうのだから、これから私が買おうとしているものだったら、どれだけ恥ずかしい思いをしちゃうのか・・・
被虐願望メーターが完全に振り切れていました。
相変わらず人通りもまばらな道を今度は足早に歩いて、さっきみつけたお店の前に舞い戻りました。
商店街のはずれにひっそりと佇むそのお店は、いかにも古くからやってらっしゃる感じで、小じんまりとした見るからに個人経営という雰囲気。
表側はガラスの引き戸になっていて店内が覗けます。
外から見た感じでは、中に他のお客さまはいない様子。
ここで種明かしをしちゃうと、今私が立っているのは薬屋さんの前。
ここであるものを、お店の人にそれを告げて対面で買うこと。
それが私の思いついた羞恥プレイでした。
ここまで言えば、私がそこで何を買おうとしているのか、ピーンときたかたもいらっしゃるでしょう。
ただ、ひとつ心配なのは、お店番の人が男性だった場合でした。
そのときは残念だけれど計画を中止して、当たり障りの無いもの、たとえば風邪薬か何かを買って帰るしかありません。
でも、こういう町の小さな薬屋さんだと、お化粧品も扱ってらっしゃる場合が多いので、お店番の人が女性の確率は高いはず。
せっかく決意したのに計画中止ではがっかりです。
そうならないといいな、お店の人が女性でありますように・・・
祈る気持ちでお店の引き戸をガラガラッと開けました。
「ごめんくださいぃ」
小さな声で言ってから、お店の中を見回しました。
フワッとした中にもケミカルな気配が混じる、薬屋さん独特の香りに包まれます。
決して広いとは言えない店内に、ガラスケースや棚が上手に並べられ、所狭しといろいろなお薬やサニタリーが置いてあります。
コスメ系のキレイなモデルさんのポスターも賑やかに貼ってあるので、お化粧品も扱っているのは確実。
店内は意外と奥行きがあるらしく、今いる場所からはレジが見えないので、商品を眺めつつ奥へと進みました。
今のところ、陳列棚に私のあめあてのものはみつかりません。
「いらっしゃいませぇ」
明るくて華やかなお声のしたほうを見ると、お店の一番奥の左側がレジになっていて、何かのお薬の箱がたくさん並べてあるガラスケースの向こう側に、白衣を着たおばさまが椅子に座ったまま、はんなりとした笑顔で私を見ていました。
よかったー、お店の人、女性だった。
ホッと一安心して、そのおばさまのほうに近づいていきました。
「今日は何かお探しものかしら?」
白衣のおばさまは、ちょっぴりしもぶくれなお顔にまあるい銀ブチメガネでショートカット、品の良い薄化粧がよく似合う和風な美人さんでした。
和服を着たらすっごく似合いそう。
私にかけてきたお声の調子も気さくっぽくて、見るからにお話し好きそうな雰囲気がありました。
お年は・・・うーん・・・35、いえ、たぶん40歳よりは上だと思うけれど、ちょっとわからない感じ。
何て言うか、にっぽんのおかあさん、的な母性が滲み出ている佇まいで、相手に安心感を抱かせる感じのステキな女性でした。
こういう人なら、あまり緊張せずにお話し出来そう。
でも、逆にすんなりお買物が終わってしまって、あんまり私が恥ずかしさを感じられないかもしれないな。
もう少し怖そうな人のほうがよかったかな。
そんなムシのいいことを考えてしまう私は、本当に自分勝手な女だなって思います。
「どこかおからだの調子が悪いのかしら?それとも何かお化粧品をお探し?」
おばさまが立ち上がり、ガラスケース越しに私をじっと見つめてきました。
「あ、あの、えっと・・・」
本当ならここで、そのものズバリ、商品の名前を言ってしまう予定でした。
それで、お店の人に根掘り葉掘り聞かれて、っていうシチュエーションを妄想していました。
だけどやっぱり、恥ずかし過ぎて言えませんでした。
「えっと、ちょっと、あの、お通じのお薬を・・・」
「えっ?お習字?ああ、お通じね。便秘のお薬っていうことね?」
「あ、は、はい」
「まあまあ、それは大変ね。便秘はつらいからねー」
おばさまが心底心配そうなお声で、私を気遣ってくれます。
「それなら飲むお薬と座薬とがあるけれど、どっちがいいかしら?」
「あ、はい、えっと・・・」
すぐに答えられない私を見かねてか、おばさまは質問の仕方を変えてきました。
「いつからお通じが無いの?」
「えっと、4日前くらい、かな?・・・」
「普段から便秘がちなの?それとも突然?」
「あ、普段からっていうことはありません。今までそんなことなかったのだけれど・・・」
今だって実は便秘ではないのだけれど、まさか本当のことは言えません。
「そう。たぶん食生活が乱れちゃったのね。無理なダイエットとかしなかった?それかストレスか」
おばさまが相変わらず心配そうに言ってくださり、ニコッと笑ってつづけました。
「それなら座薬のほうがいいわね。飲み薬は体質によって、効きすぎちゃったり、ぜんぜん効かなかったりもするから」
「それですっきり出したら、その後は、バランスのいい食事と規則正しい生活を心がけること。お薬なんかに頼らずに自然なお通じを維持することが大切なの」
おばさまが子供に教えるみたいに、やさしい口調でおっしゃいました。
「お嬢ちゃん、座薬ってわかるわよね?」
「あ、は、はい・・・」
「これのこと」
言いながらおばさまが背後の棚に振り向き、私もよく知っている青色の箱を取り出して私の前に置きました。
「これね。お浣腸」
とある果実の実に容器の形が似ていることから、その果実の名前を冠した有名なお薬。
私がここで買おうとしていたのは、まさしくそれでした。
とりあえずこの格好でお買い物をしようと思い立ち、公園を出てこの商店街を探す道すがら、最近切らしちゃったもの、って考えていて思いついたのがお浣腸薬でした。
夏休みの全裸家政婦生活中に、ストックしてあった最後のふたつを使ってしまい、近々また買いに行かなきゃな、と思っていたのでした。
お浣腸プレイ自体は、あまり好きなほうではないのですが、3ヶ月に一回くらい、自虐が極まって無性にやりたくなるときがあるんです。
東京に来て最初に買ったときは、繁華街にあるセルフ式の大手ドラッグストアチェーン店で、レジの人が女性なのを確認してから、生理用品と一緒に思い切って5箱まとめ買いしました。
そのときもかなりドキドキ恥ずかしかったのですが、セルフだったし、お会計まで一言も発さずただうつむいていただけなので、今日の比ではありません。
目の前に置かれたお浣腸薬の箱をまじまじと見つめてしまいます。
ごめんなさい、おばさま。
私本当は便秘でも何でもないんです。
このお浣腸のお薬は、お家でえっちなヘンタイ遊びをするために買うんです。
今もこのコートの下には何も着ていなくて、そんなことが大好きな私は正真正銘のヘンタイなんです。
心の中で目の前にいる白衣のおばさまにそうお詫びしながらも、ピッタリ閉じた私の両脚の付け根から内腿を伝ってふくらはぎ、そしてショートブーツの中へと、すけべなおツユがトロトロ滑り落ちていました。
「お嬢ちゃんは、今までにお浣腸をしたことはあるの?」
今自分がしていることの恥ずかしさにこっそりどっぷり酔い痴れていた私を、おばさまのお声が現実へと引き戻しました。
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*コートを脱いで昼食を 06へ
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