2010年8月15日

お医者さんごっこと私 02

 イケナイコトをするのですから、時と場所を選ばなければなりません。
 母親や家族には絶対みつからないように、お医者さんごっこをやるためには、

『家族がみんな出かけて家にいなくて、いつごろ帰ってくるかだいたいわかっている時』

 という条件が必要です。

 弓子ちゃんちはお店屋さんなので、ご両親がいないことはめったにありません。
 必然的に私の家か由美ちゃんちになります。

 私の家では、おもちゃや遊び用具がたくさんあったためか、あまりお医者さんごっこはしなかったように記憶しています。
 なので、普通に遊んでいる時に由美ちゃんが、

「あさっては、うち誰もいないんだ」 

 って言うと、私と弓子ちゃんに何か特別な用事がない限り、その日は確実に三人でお医者さんごっこをすることになります。

 患者さん役は、最初のうちは一応三人でかわりばんこにやるルールだったはずでした。
 でも、由美ちゃんはお医者さん役が一番やりたいみたいで、弓子ちゃんは患者さん役をいつもすごく恥ずかしがり、大きいお注射のハンデもあったので、いつのまにか私ばかり患者さん役になるようになっていました。

 私ももちろん、胸やお尻を出すのはすごく恥ずかしいんですが、その恥ずかしさで得られるドキドキ感が気持ちいいことに、いつしか気づいてしまったみたいです。
 私が患者さんをやれば、三人でいつまでもお医者さんごっこがつづけられる…
 そんな変な使命感まで持っていたみたい。

 弓子ちゃんも看護婦さん役ばかりではやっぱりつまらないらしく、いつの間にか、まず弓子ちゃんが患者さんになって胸をはだけて小さいお注射をもらった後、今度は私が患者さんになって、小さいお注射と大きいお注射をしてもらう、というルーティーンが1セットになっていました。

 と言ってもそんなに毎日できるわけじゃなくて、1カ月に一、二回くらいだったかな?
 確か初めてやったのが5月のお休みの後だったと思います。

 夏の間はプールに一緒に行っていたりしたので、お互い裸になり慣れていたせいか、あまりやりませんでした。
 
 9月に入って久しぶりに由美ちゃんちでやったときは、由美ちゃんも患者さんをやりたがりました。
 ルーティーン1セットの後に、今度は弓子ちゃんがお医者さんで、由美ちゃんが患者さんていう組合わせが追加されました。

 お互いが日に焼けていて、水着で隠れていた肌のとこだけ白くて妙に艶かしくも生々しくて…
 それをシャワー室とかお風呂場ではなくて、由美ちゃんちのお部屋の蛍光灯の下で見てる、見られている、っていう非日常感にすごく興奮したことを覚えています。

 そんな日々の中、10月の運動会で、私はすごく可愛い男の子を見つけました。
 徒競走のとき一生懸命走っていたその男の子は、背中のゼッケンから2年3組の子だとわかりました。

 まっすぐな髪のぼっちゃん刈りで、華奢で小さくて、目が大きくて女の子みたいな顔をした大人しそうな子でした。
 
 あんな弟がいたらなあ…毎日可愛がるのになあ…
 運動会の間中、その男の子の姿ばかりを目で追っていました。
 私の初めての恋、だったかもしれません。

 もちろん誰にも言わずに、教室の窓から下級生の体育の授業が見えるとその子を探す、くらいの恋でしたが…
 この頃が一番、私が母に弟妹をねだって困らせていた時期だと思います。

 11月の始め、由美ちゃんが何かの病気で2、3日欠席したことがありました。
 幸いたいしたことはなくて、次の週には学校に元気に顔を出しました。
 その日、一緒に下校した私は、

「後でわたしの家に来て。二人でお医者さんごっこやろう」

 と由美ちゃんに誘われました。

「弓子ちゃんは?呼ばなくていいの?」

「うん。ちょっと新しいシンサツをしてみたいの」

 由美ちゃんは、これは内緒よ、という感じで私の耳に口を近づけて囁きました。
 私は、なんだかゾクゾクっとしてしまいました。

 寒い日だったので、スリップの上にブラウスを着て、ジーンズを穿き、カーディガンも着てきました。
 由美ちゃんのお部屋は二階で、六畳間の洋室。
 勉強机とベッド、本棚と鏡台がきちんと整頓されていました。

 由美ちゃんが持ってきてくれたお菓子とジュースでしばらくは、クラスの他の子の噂やテレビ番組のお話をしていました。
 今日はご両親は、5時までは絶対帰って来ないそうです。

「そろそろ、お医者さんごっこ、始めようよ」

 由美ちゃんが嬉しそうに言いました。

 由美ちゃんは、かわいい茶色のワンピースの上にお父さんのものらしい白いだぶだぶのワイシャツを羽織って、すっかりお医者さんの先生に変身しています。
 勉強机の上には、いつものお医者さんごっこセットの他に、ピンセットや脱脂綿、お水の入ったコップなど、見慣れないものも置いてあります。

 私はもう一つの椅子に腰掛けて、由美ちゃんと対面しています。
 由美ちゃんの部屋はエアコンが効いて暖かかったので、カーディガンはもう脱いでいてハンガーにかけてありました。

「今日はどうされました?」

いつものように由美ちゃん先生が聞いてきます。

「このへんがちょっと痛くて…」

私は適当にお腹のあたりを押さえて答えます。

「それはいけませんねえ。ちょっと見てみましょう。お腹を出してください」

 ブラウスのボタンを全部外してはだけてから、スリップを胸の上くらいまでまくりあげます。
 このまくりあげる瞬間の恥ずかしさが、私は大好きでした。

 由美ちゃんがいつものように、耳にかけたおもちゃの聴診器をペタペタと私のお腹や胸に押し付けてきます。
 聴診器のからだにあてる部分は、おもちゃと言えどもアルミみたいな金属でできていました。
 ヒンヤリとした感触が心地いいです。

「背中を向けてください」

 私が椅子を回転させると、由美ちゃんは自分で私のブラウスとスリップをまくり上げて、露わになった背中に聴診器を押し当ててきます。

「はい。それではこっちを向いてください」

 いつもならここで小さいお注射を打つことになるのですが、由美ちゃんは下を向いて考え込んでいます。

「シンサツしずらいので、上を全部取ってください」

「えっ!?」

 今までのお医者さんごっこでは、胸をはだけてもブラウスや下着を脱ぐことはありませんでした。
 今日の由美ちゃんは、ブラウスとスリップを完全に脱ぐように要求しています。

 私はちょっと迷いましたが、やがてドキドキしながらブラウスの袖を腕から抜きました。
 脱いだブラウスを持ったまま、スリップの裾をジーンズから出して上にまくりあげて脱ぎました。

 私の上半身が完全に裸になりました。
 胸をかばうように持っているブラウスとスリップをどうしようか?とキョロキョロしていると、由美ちゃんが受け取ってハンガーにかけてくれました。
 私は両腕を胸の前で交差して隠しながら、赤くなってうつむいています。

「それではもう一度、シンサツしてみます」

 胸を隠している私の両腕をどかしながら由美ちゃんはそう言うと、今度は聴診器ではなく自分の右手で私の裸の上半身をさわってきます。
 肩からだんだんと手が下がってきて、胸、あばら、おへそとやさしく撫でています。

「あーーん、由美ちゃん、くすぐったーいー」

 私はワザとおどけて言ってみますが、由美ちゃんの顔はいたって真剣です。
 お腹のあたりに手のひらをあてると、力を入れてグイグイ押してきます。

「それではまた、背中を向けてください」

 今度は背中をやさしく撫でられました。
 背骨のあたりを撫でられたとき、ゾクゾクゾクっとくすぐったい気持ち良さがからだに走りました。

 再び由美ちゃんと向かい合いました。
 私はもう胸を隠すことはしませんでした。
 由美ちゃんに裸の胸をジーッと見られることが、なんだか嬉しかったんです。


お医者さんごっこと私 03

お医者さんごっこと私 01

 小学校3年生の頃、私たち一家は父の会社が用意してくれた一軒家二階建ての借家に住んでいました。
 とある地方都市のベッドタウンに位置する町です。

 私がものごころついて、幼稚園から小学校3年生の終わりまでその町にいました。
 まわりにはまだ自然も多くて、住宅街を少し離れるとのどかな田園風景が広がるのんびりした町でした。

 ご近所には同年齢くらいの子供を持っている家族が多く住んでいたので、私は毎日その子たちと元気に遊んでいました。
 その中でもとくに仲良し幼馴染な遊び友達の女の子が二人いました。

 同い年で小学校3年のときはクラスも一緒だった由美ちゃんと、一つ年下の弓子ちゃん。
 母親同士も仲が良くお互いのお家も近かったので、母親ぐるみでよく行き来していました。
 お誕生日的に年長さんな由美ちゃんがリーダーシップをとって学校から帰った後、誰かのお家に集まっては三人で仲良く遊んでいました。

 由美ちゃんのお父さんは、お医者さんでした。
 と言っても開業医ではなくて、その町から一番近い大きな駅の駅前にある総合病院に勤めていました。
 
 お母さんも元看護婦さんだそうです。
 一つ違いの弟くんが一人いて、やっぱりお姉ちゃん気質というか今思えば何かと仕切りたがる性格でした。

 弓子ちゃんちはパン屋さんで、遊びに行くといつもキレイなお母さんが甘い菓子パンとジュースを出してくれて嬉しかった。
 弓子ちゃんには、4つ上の当時小6になるカッコイイお兄さんがいて、そのお兄さんが弓子ちゃんのことをすごく可愛がっていました。

 弓子ちゃんが学校で男の子に泣かされて帰ってきたりするとお兄さんがすぐに、その泣かせた子をとっちめに行っていました。
 弓子ちゃんは背が小さくて甘えん坊ですっごく可愛いのだけれど、わがままが過ぎたりちょっとテンポがずれているところもあったので、そのへんが男の子としてはイジメ甲斐があったのかな?

 その三人の中では、私だけ一人っ子。
 家に帰っても遊び相手がいる二人が羨ましくて、当時、兄弟姉妹が欲しくてたまりませんでした。

 兄や姉はもう無理だとわかっていたので、弟か妹が欲しい、とずいぶん母にねだった記憶があります。
 
 母はいつも、

「なおちゃんがいい子にしていれば、来てくれるかもしれないわねえ」

って笑っていました。

 その数年後には赤ちゃんが生まれるまでの過程のことを知ってしまい、恥ずかしくなってパッタリ言わなくなりましたが…

 学校でも、窓際の席になったとき、校庭で下級生が体育の授業をしていると、可愛らしい子はいないかなあ、みたいな感じでじーっとお外を眺めていて先生によく叱られた記憶があります。
 可愛い子をみつけると、あの子が私の妹だったら弟だったら、こんなふうにして遊ぶのになあ、なんて空想して。

 どっちかって言うと妹が欲しかったな。
 そんな感じだったので私は、弓子ちゃんのことを妹のように可愛がっていました。

 由美ちゃんと弓子ちゃんと何して遊んでいたか思い出してみると、おままごとやお人形遊び、なわとび、トランプやゲームなど、その年頃の女の子が普通に好んでする遊びばかりだったと思います。
 弓子ちゃんちで遊ぶときは、トランプやゲームのときに、たまに弓子ちゃんのカッコイイお兄さんもまざってくれて一段と楽しかった。
 私もそうでしたが、由美ちゃんはすごく弓子ちゃんのお兄さんのこと、好きだったんじゃないかな?

 で、きっかけは忘れてしまったけれど私が小学3年生のとき、お医者さんごっこ、が仲良し3人組の遊びのレパートリーに加わりました。

 今思うと、由美ちゃんのお父さんがお医者さんだったことや、由美ちゃんが大きくなったら看護婦さんになりたい、っていつも言っていたからかもしれません。
 それと、由美ちゃんが 『お医者さんセット』のおもちゃを持っていたから。
 おもちゃの聴診器や注射器、お薬の袋なんかがセットになってるやつです。

 お医者さんごっこ、と言っても女の子三人で、です。
 一人がお医者さん、一人が看護婦さん、一人が患者さんの役。

 お医者さん役が、

「今日はどうしました?」 
「はい、それじゃあ見せてください」 

 みたいなことを言って、患者さん役がブラウスやシャツをまくってお腹や胸を出すと、おもちゃの聴診器をあてて診察のフリをします。

 ひとしきりさわった後、

「では、お注射をしておきましょう」

 お医者さん役が言って、看護婦さん役が濡らしたハンカチかなんかで腕の脈のところとか二の腕を拭きます。
 その後、お医者さん役がおもちゃの注射器を拭いた場所に突き立てます。

 由美ちゃんが持っていた『お医者さんセット』 には、小さな注射器と大きな注射器が入っていました。
 大きな注射器は、お尻用、ってなぜだか決まっていました。

お医者さんが、

「これはちょっと悪いですね。大きなお注射をしておきましょう」

 て言うと、患者さんは、その場にうつぶせになって、お尻を出さなければいけません。

 お尻の柔らかいところにおもちゃの注射器をあてて、

「ちょっと痛いですけど、がまんしてくださいね」 

 みたいな台詞を言いながら押し付けて、終わるとお尻をモミモミしてくれます。

 看護婦さん役はお注射の場所を拭く以外は、そういうお道具を先生に渡したり、診察が終わった後、患者さんの名前を呼んでお薬の袋を渡すのがお仕事です。

 看護婦さんがお薬を渡すと、その日のお医者さんごっこは終了して、なにごとも無かったようにまたいつものお人形遊びとかに戻りました。

 今思えば他愛もないものです。
 でもそれが私はなぜだかすごく好きだったんです。

 女の子は小さいときから、人前で裸の胸を見せてはいけない、と躾けられます。
 プールのときとか男の子は下半身だけを覆う海パンなのに、女の子はワンピースの水着で、ふくらんでもいない胸も隠します。
 私も普通に、胸とお尻とオシッコのところを誰かに見られるのはすごく恥ずかしいこと、と刷り込まれて育ちました。

 なので、トイレやお風呂以外で裸になることやお友達同士で恥ずかしいところを見せ合う遊びは、すごくイケナイコト、って子供なりに感じていました。
 でも、イケナイコトをするのって楽しいんです。

 そして私は、由美ちゃんや弓子ちゃんに胸をはだけて見せたり、お尻を見せたりすることが好きでした。
 すごく恥ずかしいくせに、好きでした。
 由美ちゃんや弓子ちゃんの裸を見るのも好きでした。

 由美ちゃんもたぶん私と同じだったと思います。
 弓子ちゃんは患者さん役になると、ものすごく恥ずかしがりました。
 とくに大きなお注射だけは本気でイヤがるので、弓子ちゃんが患者さんのときは、小さなお注射だけ、って暗黙の了解ができていました。

 でもお医者さんごっこ自体をイヤだと弓子ちゃんが言ったことは、一度もありませんでした。
 今思うと、イケナイコトをしているというスリルとそれを共有しているという三人の共犯者意識と言うか仲間意識が、子供心を大きくくすぐっていたのでしょう。


お医者さんごっこと私 02

2010年8月14日

グノシエンヌなトルコ石 43

「それでねママ。今日ね、百合草先生とお話してて、決めたの。私、ピアノ習う。それで幼稚園の先生になる」
「へえー。なおちゃん小学校まで習ってたよね。それじゃあピアノ買わなきゃね。ピアノの先生ならママのお友達にうまい人いるから、任せて」

「そうなの。なおちゃん、百合草先生とそんな将来のお話をしてたの・・・」
「百合草先生。何から何まで本当にありがとうございます。直子の将来の相談相手にまでなっていただいて。それに、直子がこんなにキレイなプロポーションに育ったのも先生のレッスンのおかけですし」
「いえいえ。森下さんがこんなに素直で賢くて、ものわかりのよいお嬢さんにお育ちになったのは、こんなステキなご家庭で、奥様の愛情をたっぷりお受けになったからですわ」

ちょ、ちょっと、その本人を前にして、くすぐったくなるような誉め殺し合戦はやめて欲しい・・・

「だ、だからね、私、百合草先生にこれ、プレゼントするの」
私は、二人の会話に強引に割り込んで、ポケットからイヤリングの箱を取り出して、やよい先生の手に押しつけました。
やよい先生がそーっとふたを開けます。
「わあー、綺麗。なおちゃん、本当にもらっていいの?」
言ってから、やよい先生は、いけない、って顔をして口を押さえました。
「なおちゃんは、百合草先生にも、なおちゃん、て呼ばれてるのねえ。良かったねえ」

「あらー。このイヤリングを差し上げるの?」
「うん。百合草先生と私、お誕生日、5日違いなの」
「あらー。それなら、百合草先生もターコイズがお誕生石なのね。ちょっと待っててね」
母が席を立って、自分の部屋のほうに向かいました。

やよい先生は、その間にイヤリングを自分の耳に着けてくれます。
「どう?似合う?」
トルコ石と金の鎖がキラキラ光ってすごくキレイです。
「なお子。ありがとうね」
やよい先生が席を立って、私のおでこにチュっとしてくれました。

「そのイヤリングなら、このネックレスが合うと思うわ」
大きな声で言いながら、母がリビングに戻ってきました。
やよい先生は、あわてて自分のソファーに戻ります。

母が持ってきたのは、細い3重の金の鎖に、小さなトルコ石と白い石が交互にいくつもぶら下がった綺麗なネックレスでした。
全体にキラキラしていて、本当にキレイです。

「奥様、こんなにお高そうなもの、いけません」
やよい先生が真剣な顔で辞退しています。
「いえいえ。受け取ってくださいな。直子を5年間も見守ってくれたのですもの。森下家からの心ばかりの贈り物と思って。私も2、3回着けたことがあるので、新品ではなくて心苦しいのですけれど」
「そうですよ。先生、受け取ってください。先生ならとっても似合うと思うよ」
「だ、だってなおちゃん、こっちの白いほうの石はダイヤモンドだよ・・・」
「へー。これ、ダイヤモンドなんだ。キラキラしてキレイー」

母は、そのネックレスを手にとって、やよい先生の後ろにまわり、やよい先生の首にかけてあげました。
やよい先生は、今はタンガリーシャツなので、今一ミスマッチですが、キレイなことには変わりありません。
やよい先生もそう思ったのか、シャツのボタンを3つめまで開けて、ネックレス全体がじかに肌に触れるようにしました。
そのおかげで、やよい先生の胸の谷間も半分くらい見えるようになりました。
「ほらー。やっぱりお似合いになるわー。ステキですわー」

「そ、それでは、奥様。遠慮なくいただきます。ありがとうございます」
やよい先生が深くお辞儀したので、シャツの隙間からノーブラのおっぱいがこぼれ落ちそうでハラハラしてしまいます。
「はい。それじゃあ、ね?」
そう言って、母はやよい先生に顔を突き出しています。
「あら?私にはチュっ、はしてくれないの?」
やよい先生は顔を真っ赤にして、母のおでこに軽く唇をあてました。
私も顔が真っ赤になっています。
母は、嬉しそうにきゃっきゃと笑っています。

「それで、百合草先生は、東京でお店をお始めになるのね?」
「はい」
やよい先生は、持ってきたビニール袋から菓子折りみたいのを取り出しました。
「これ、つまらないものですが、開店のお知らせの粗品です。お受け取りください」
熨斗紙には、『BAR 百合草』 と書いてあります。

「それは、やっぱり旦那様とご一緒に?それともお友達と?」
やよい先生は、返答に困っているようです。
「あら。私、不躾なことをお聞きしてしまいましたわね。先生は、ご結婚されてなかったのでしたっけ?」
やよい先生は、しばらく母の目をじっと見つめてから、私に視線を向けて、決心したように一度頷いて、口を開きました。
「お店は、あたしのパートナーとやるんです」
そこで一度言葉を切ってから、一呼吸置いてつづけました。
「あたしは、名前の通り、女性のほうが好きなんです。お店は新宿2丁目に開きます」
私は、えっ?言ってしまっていいの?って、ドキドキし始めます。

母は、一瞬きょとんとしていましたが、すぐにいつもの調子で、
「あらー。それはますますステキねえー」
と答えました。

「私も、もう少し若ければ先生のお相手になれたかしら?先生とだったらそういう関係にもなってみたかったわー」
あっさりと大胆なことをカミングアウトする私の母です。
「いえいえ。奥様でしたら、今でも充分に魅力的ですしー」
「あらー。それなら今度お願いしようかしらー」
二人であはははーと笑っています。
私は、かなりドキドキしていましたが、二人が笑っているのを見て、また幸せな気持ちが戻ってきました。

「長々とお邪魔しちゃって、すいません。そろそろおいとましないと・・・」
時計は6時半を示していました。
「あらー。8時までにお戻りになれば良いのでしょう?まだゆっくりしていってくださいな」
「ええ。でも道が混むといけないので・・・」
「7時にここを出ればだいじょうぶよね?それなら最後に3人で記念撮影しましょう」
母はそう言うと、ソファーを立って、また自分の部屋に戻っていきました。

「なおちゃんのお母様って、さばけた人ねえー」
やよい先生がまたヒソヒソ声を出してきます。
「あたし気に入っちゃった。いや、別にそういう意味ではなくてね。ああいうお母様だから、なおちゃんみたいなステキな子になったのねー」
「なお子。あなた、お母様大事にしなさいよ。お母様泣かせるようなことしたら、あたしが絶対許さないからねっ!」
最後にお説教までされてしまいました。

「お待たせー」
母がデジカメと三脚を持って戻ってきました。
「ここがいいかな?」
母は、リビングの壁にかかっている大きなロートレックの絵の前に三脚を立てています。
すごくウキウキしていて、プリクラを撮るときの私とお友達のようです。
「構図を決めるから、お二人ともその絵の前に立って」
母は、ファインダーを覗いては、三脚ごと前に行ったり、後ろに下がったりしています。

「こんな感じかなー。ウエストから上の構図だから、そのつもりでねー」
母は、三脚から離れて、私たちのところに戻ってきました。
「先生が真ん中で、なおちゃんは右、私は左ね。一枚目は一番いい笑顔よ」
そう言うと、またカメラのところに戻ってタイマーをセットしました。
「あのカメラが3、2、1ってカウントダウンしてくれるから、そしたら一番いい笑顔ねー」
母が戻って来て、やよい先生の左側に立ちました。
私は、右手をやよい先生の背中に回して右のウエストを軽く掴み、母は左手で同じことをしています。
やよい先生は、両腕を左右に広げて、母と私のウエストに手をやっています。
カメラが本当に英語で3、2、1と言って、私たちは、いっせいにニッコリ微笑みました。
パシャっとシャッターの音と同時にフラッシュが光りました。

母がまたカメラのところに行って、今撮った写真をモニターで見ています。
「うん。いい感じに撮れてるわ。次は一番セクシーな顔ねー」
私は、帰り際にユマさんたちと撮った写真のことを思い出して、クスっと笑ってしまいます。
あのときみたいな顔を母にも見せていいのかな?
やっぱりちょっとマズイと思い、パチンとウインクすることにしました。

「三枚めー。ラストはなおちゃんは右から、私は左から、先生のほっぺにチュウね」
やよい先生がまた真っ赤になって、テレテレになっています。
あの、苛め上手なやよい先生をここまで動揺させる、私の母ってスゴイ・・・

「先生。この写真大きくプリントして、先生の新居に送ってあげるねー」
「うん。ありがとう、なおちゃん。楽しみにしてる」
ガレージまで母とお見送りに出て、やよい先生が車に乗り込む前に、みんなでそれぞれとハグしました。

「奥様。ごちそうさまでした。本当に今日はこんな高価なものまでいただいてしまって。なおちゃんのイヤリングとセットで、一生大切にします」
「東京に出て来られることがあれば、ぜひ寄ってやってくださいね」
母はニコニコ笑って、うんうんって頷いています。
「なおちゃんも一生懸命お勉強して、東京の大学においでね。あたしがまたいろいろ、遊んであげるから」
やよい先生がパチンとウインクしました。
「百合草先生。お気をつけて行ってらっしゃい。またお逢いできる日を楽しみにしていますわ」
母は、そう言うと、やよい先生のおでこにチュッとキスをしました。

やよい先生が車に乗り込み、ゆっくりとバックで道路に出ました。
母と私も道に出て、やよい先生の車が曲がって見えなくなるまで手を振っていました。
曲がり角を曲がる直前に停止して、車のお尻のライトを5回点滅させました。

「あら、なおちゃん。あれ、何のお歌だったっけ?あれ、サインなのよね?」
「うん。確かお歌だと、アイシテルだったっけかな?コンニチワ?」
私はとぼけます。
「アリガトウ、かもしれないわね。それともサヨウナラ?」
母もとぼけたことを言っています。

「あー、今日は楽しかった。先生って本当にステキねー。なおちゃん、百合草先生にめぐり逢えて良かったねー」
お庭を歩いて、玄関に戻りながら母がしみじみと言います。
私と母は手をつないでいます。
「うん。私、やよい先生大好き」
私もしみじみ答えます。

たぶん、母はこの二日間、私たちが何をしていたか、うすうす勘付いていると思います。
ただ、あんなにヘンタイなことまでやっていたとは夢にも思っていないでしょうけど・・・
母の目は、何度もしっかりとやよい先生の肌に残るキスマークを見ていました。
それでも、私には何も言わず、やよい先生のことをステキだと言い切ってしまう母のほうこそ、もっとステキだと私はあらためて思いました。

「さ、早くお風呂に入っちゃいなさい。なおちゃん、少しだけ汗くさいわよ」
母が意味ありげに笑いながら、私の背中を軽くパチンと叩きました。


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