2010年8月15日

お医者さんごっこと私 01

 小学校3年生の頃、私たち一家は父の会社が用意してくれた一軒家二階建ての借家に住んでいました。
 とある地方都市のベッドタウンに位置する町です。

 私がものごころついて、幼稚園から小学校3年生の終わりまでその町にいました。
 まわりにはまだ自然も多くて、住宅街を少し離れるとのどかな田園風景が広がるのんびりした町でした。

 ご近所には同年齢くらいの子供を持っている家族が多く住んでいたので、私は毎日その子たちと元気に遊んでいました。
 その中でもとくに仲良し幼馴染な遊び友達の女の子が二人いました。

 同い年で小学校3年のときはクラスも一緒だった由美ちゃんと、一つ年下の弓子ちゃん。
 母親同士も仲が良くお互いのお家も近かったので、母親ぐるみでよく行き来していました。
 お誕生日的に年長さんな由美ちゃんがリーダーシップをとって学校から帰った後、誰かのお家に集まっては三人で仲良く遊んでいました。

 由美ちゃんのお父さんは、お医者さんでした。
 と言っても開業医ではなくて、その町から一番近い大きな駅の駅前にある総合病院に勤めていました。
 
 お母さんも元看護婦さんだそうです。
 一つ違いの弟くんが一人いて、やっぱりお姉ちゃん気質というか今思えば何かと仕切りたがる性格でした。

 弓子ちゃんちはパン屋さんで、遊びに行くといつもキレイなお母さんが甘い菓子パンとジュースを出してくれて嬉しかった。
 弓子ちゃんには、4つ上の当時小6になるカッコイイお兄さんがいて、そのお兄さんが弓子ちゃんのことをすごく可愛がっていました。

 弓子ちゃんが学校で男の子に泣かされて帰ってきたりするとお兄さんがすぐに、その泣かせた子をとっちめに行っていました。
 弓子ちゃんは背が小さくて甘えん坊ですっごく可愛いのだけれど、わがままが過ぎたりちょっとテンポがずれているところもあったので、そのへんが男の子としてはイジメ甲斐があったのかな?

 その三人の中では、私だけ一人っ子。
 家に帰っても遊び相手がいる二人が羨ましくて、当時、兄弟姉妹が欲しくてたまりませんでした。

 兄や姉はもう無理だとわかっていたので、弟か妹が欲しい、とずいぶん母にねだった記憶があります。
 
 母はいつも、

「なおちゃんがいい子にしていれば、来てくれるかもしれないわねえ」

って笑っていました。

 その数年後には赤ちゃんが生まれるまでの過程のことを知ってしまい、恥ずかしくなってパッタリ言わなくなりましたが…

 学校でも、窓際の席になったとき、校庭で下級生が体育の授業をしていると、可愛らしい子はいないかなあ、みたいな感じでじーっとお外を眺めていて先生によく叱られた記憶があります。
 可愛い子をみつけると、あの子が私の妹だったら弟だったら、こんなふうにして遊ぶのになあ、なんて空想して。

 どっちかって言うと妹が欲しかったな。
 そんな感じだったので私は、弓子ちゃんのことを妹のように可愛がっていました。

 由美ちゃんと弓子ちゃんと何して遊んでいたか思い出してみると、おままごとやお人形遊び、なわとび、トランプやゲームなど、その年頃の女の子が普通に好んでする遊びばかりだったと思います。
 弓子ちゃんちで遊ぶときは、トランプやゲームのときに、たまに弓子ちゃんのカッコイイお兄さんもまざってくれて一段と楽しかった。
 私もそうでしたが、由美ちゃんはすごく弓子ちゃんのお兄さんのこと、好きだったんじゃないかな?

 で、きっかけは忘れてしまったけれど私が小学3年生のとき、お医者さんごっこ、が仲良し3人組の遊びのレパートリーに加わりました。

 今思うと、由美ちゃんのお父さんがお医者さんだったことや、由美ちゃんが大きくなったら看護婦さんになりたい、っていつも言っていたからかもしれません。
 それと、由美ちゃんが 『お医者さんセット』のおもちゃを持っていたから。
 おもちゃの聴診器や注射器、お薬の袋なんかがセットになってるやつです。

 お医者さんごっこ、と言っても女の子三人で、です。
 一人がお医者さん、一人が看護婦さん、一人が患者さんの役。

 お医者さん役が、

「今日はどうしました?」 
「はい、それじゃあ見せてください」 

 みたいなことを言って、患者さん役がブラウスやシャツをまくってお腹や胸を出すと、おもちゃの聴診器をあてて診察のフリをします。

 ひとしきりさわった後、

「では、お注射をしておきましょう」

 お医者さん役が言って、看護婦さん役が濡らしたハンカチかなんかで腕の脈のところとか二の腕を拭きます。
 その後、お医者さん役がおもちゃの注射器を拭いた場所に突き立てます。

 由美ちゃんが持っていた『お医者さんセット』 には、小さな注射器と大きな注射器が入っていました。
 大きな注射器は、お尻用、ってなぜだか決まっていました。

お医者さんが、

「これはちょっと悪いですね。大きなお注射をしておきましょう」

 て言うと、患者さんは、その場にうつぶせになって、お尻を出さなければいけません。

 お尻の柔らかいところにおもちゃの注射器をあてて、

「ちょっと痛いですけど、がまんしてくださいね」 

 みたいな台詞を言いながら押し付けて、終わるとお尻をモミモミしてくれます。

 看護婦さん役はお注射の場所を拭く以外は、そういうお道具を先生に渡したり、診察が終わった後、患者さんの名前を呼んでお薬の袋を渡すのがお仕事です。

 看護婦さんがお薬を渡すと、その日のお医者さんごっこは終了して、なにごとも無かったようにまたいつものお人形遊びとかに戻りました。

 今思えば他愛もないものです。
 でもそれが私はなぜだかすごく好きだったんです。

 女の子は小さいときから、人前で裸の胸を見せてはいけない、と躾けられます。
 プールのときとか男の子は下半身だけを覆う海パンなのに、女の子はワンピースの水着で、ふくらんでもいない胸も隠します。
 私も普通に、胸とお尻とオシッコのところを誰かに見られるのはすごく恥ずかしいこと、と刷り込まれて育ちました。

 なので、トイレやお風呂以外で裸になることやお友達同士で恥ずかしいところを見せ合う遊びは、すごくイケナイコト、って子供なりに感じていました。
 でも、イケナイコトをするのって楽しいんです。

 そして私は、由美ちゃんや弓子ちゃんに胸をはだけて見せたり、お尻を見せたりすることが好きでした。
 すごく恥ずかしいくせに、好きでした。
 由美ちゃんや弓子ちゃんの裸を見るのも好きでした。

 由美ちゃんもたぶん私と同じだったと思います。
 弓子ちゃんは患者さん役になると、ものすごく恥ずかしがりました。
 とくに大きなお注射だけは本気でイヤがるので、弓子ちゃんが患者さんのときは、小さなお注射だけ、って暗黙の了解ができていました。

 でもお医者さんごっこ自体をイヤだと弓子ちゃんが言ったことは、一度もありませんでした。
 今思うと、イケナイコトをしているというスリルとそれを共有しているという三人の共犯者意識と言うか仲間意識が、子供心を大きくくすぐっていたのでしょう。


お医者さんごっこと私 02

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