濃茶のビジネススーツにペッタンコになったバーキンを肩に提げたお姉さまと、ピッタリフィットなニットワンピースにウエスト上までのショートジャケットだけ羽織った私が手をつないで歩き始めたとき、時計は夜の7時を半分近く過ぎていました。
昨日のお姉さまとの待ち合わせが夕方の6時40分でしたから、すでに丸一日以上、片時も離れず、お姉さまと一緒に過ごしたことになります。
お姉さまを我が家の玄関にお迎えしたのが昨夜の8時頃だったので、ほぼ24時間ぶりのお外の空気、ということにもなります。
あ、でも着いてすぐに、全裸でバルコニーに出たっけ。
それをきっかけに丸一日分、お姉さまとシーナさまからされたあれこれをどんどん思い出してきて、急に火照り始めたからだを、まだ少しだけ肌寒い春の夜風が心地よく撫ぜてくれます。
「直子ったら、手が少し汗ばんできてるわね?また何かいやらしいこと考えているの?」
住宅街の薄暗い路地をゆっくり歩きながら、お姉さまがイジワルっぽく尋ねてきます。
「あ、いえ、あの、ちょっと、昨夜のことを思い出しちゃって・・・」
「すごかったわよね。昨日一日だけで、直子、何回くらい気持ち良くなったの?」
「えーと、わ、わかりません・・・たくさん過ぎて・・・」
「でしょうね。ひっきりなしにイっていた印象だもの」
愉快そうに微笑むお姉さま。
「それで今、下着も着けずにニット一枚だけで素肌覆って、外を歩いているご感想は?」
からかうように弾んだお声。
「も、もちろん、恥ずかしいです・・・」
「だけど気持ちいいんでしょ?見せたがりマゾだから」
「それは、いえ、は、はい・・・」
「丈がもっと短いほうが良かったわね、せっかくノーパンなのだから。ねえ?もう垂れてきた?」
「あん、いえ、大丈夫です・・・」
「今度、キワドイ長さに改造してあげる。あ、でも新しく作っちゃったほうが早いか」
人通りが少ないのをよいことに、お姉さまのお言葉責め、絶好調です。
住宅街が終わり、車が行き交う広い通りに出ると、お姉さまがつないでいた手をそっと解きました。
「ここらへんからは、あたしのビジネステリトリーだから、スール関係はいったん忘れて、チーフと新入社員の関係らしく振舞ってね。フリだけでいいから」
「ビル内にはそれなりに知っている顔が多いから、つまらないウワサとかたてられたくないの。ごめんね」
お姉さまの背筋が心なしかシャキッとして、歩き方が変わった気がしました。
颯爽と歩くお姉さまの半歩後ろくらいを追いかけながら、大人の女性って凄いな、って感心していました。
一方で、外灯も歩行者も増えた明るい通りを、こんなボディコンニット姿で歩いている自分に、アソコがウズウズし始めるのも感じていました。
お姉さまとの初デートのとき、裸ブレザーにノーパンミニスカートで深夜バス待ちの団体さん前を横切った、あのターミナルから、今回はビル内へと入りました。
お外とは比べものにならない眩しいくらいの明るさ。
ショッピングモールは閉店間際とは言え、週末を楽しむ大勢のお客さまが行き交っていました。
モールの左右にあるショップのショーウインドウに、私とお姉さまの姿が映ります。
確かにこのコーディネートだと、ピッチリした私の白いお尻の丸さがすごく目立ちます。
行き交う人、とくに男性がすれ違いざまに振り返り、私のお尻をじーっと見つめてくるのに気がつきました。
下着を着けていない、ニットの下はモロに素肌な私のお尻。
昨夜はそこに、柘榴石の珠を何個も埋め込まれた私のお尻。
からだの奥がジンジン痺れてくるのがわかりました。
エスカレーターを乗り継いでレストラン街へ。
こちらは10時までなので、もっとたくさんの人たちが楽しげに行き交っていました。
お姉さまは迷いの無いご様子で、スタスタとあるお店に入っていきます。
昨日のイタリアンとは違うお店。
店内に漂う香りから推測すると、どうやらエスニック系お料理のようです。
「あら?社長さん。いらっしゃいませ。珍しいわね、土曜日のこんな時間に」
アジアンな民族衣装っぽいいでたちの、お顔立ち派手系美人なご中年のおばさまがニコニコ迎えてくれました。
「うん。今日はちょっとね。これから上に行くから、その前の腹ごしらえ」
「それとママさん、その、社長、っていうのやめてってば。ナベちゃんとかエミちゃんでいいからさ」
お姉さまが笑いながら抗議されます。
「いいじゃない。だって本当に社長さんなのだもの。立派なものよ。知ったときはびっくりしたけれど」
ママさんも笑顔で応酬です。
入口から遠い、一番奥のテーブルに案内されました。
他のテーブルは8割がた埋まっていて、女性だけのグループやカップルさんばかり。
少し暗めの店内には、聞き慣れない言葉の軽快なポップスがうるさくない程度に流れていました。
「カオパットふたつとトートマンクンひとつ。あとソムタムを辛くしないでひとつ」
「こちらのお客さまは、パクチー、大丈夫?」
注文を取りにいらしたママさんが、突然私に聞いてきました。
「えっ?あの、えっと・・・」
「パクチーよ。香菜。この手のお料理によく入っているエスニックな香りの」
「あ、はい。大丈夫です。て言うか、大好きです」
以前、お友達に連れて行ってもらった台湾料理のお店で遭遇して、最初はなんだかヘンな感じでしたが、いつの間にかクセになっちゃう香りで、今では大好きになっていました。
「オーケー。お飲み物は?とりあえずシンハでいい?」
ママさんがニコニコしながら、お姉さまに尋ねます。
「あ、ごめん。今日はこの後、上行ってちょっと仕事して、車で帰るから呑めないんだ。チャーイェンふたつちょうだい」
「オーケー。すぐに作るから、待っててね」
ママさんが厨房のほうへ戻るすがら、現地語らしき言葉で注文を通していました。
「ここはね、うちの御用達みたいなお店なの。打ち上げや、ゲストや下請けさんとの打ち合わせでも使っているから」
ママさんがアイスティのような飲み物のグラスをふたつ置いて去った後、お姉さまが教えてくださいました。
「へー。あのママさんは、そちらの国のかたなのですか?さっきそれっぽい言葉で流暢にお話されていましたよね?」
「ううん。彼女は日本人。顔立ちはエキゾチックだけれどね。旦那様兼料理長が現地の人なの」
「へー」
「なんかこうシャキッと刺激のあるものが食べたくなって、何も考えずにここを選んじゃったけれど」
お姉さまがイタズラっぽく私を見つめてきました。
「よく考えると、直子は昨日、ずっとお尻を虐められつづけていたのよね」
お姉さまがクスクス笑っています。
「えっと、どういう意味でしょう?」
「注文するときに、急に思い出して、急遽あんまり辛くないものに変更したの。これ以上虐めると直子のお尻が可哀想だから」
「ほら、あまりにも辛いものって、食べた後、お尻にくるじゃない?それ以上ヒリヒリしたくないでしょ?」
笑いを堪えきれないご様子のお姉さま。
「あ、そ、それは、ありがとうございます」
何とお答えしていいかわからず、とりあえずお礼を言って一口飲んだ飲み物は、とっても甘くて美味しいアイスティでした。
やがてママさんが、大きなトレイにお料理を満載してやって来ました。
「はい、カオパット。これがトートマンクン。海老のすり身を揚げたもの。こっちがソムタム。パパイヤとライムのサラダね。そっちの赤いタレはかなり辛いから気をつけて」
初対面の私にお気を遣われたのか、お料理の解説をしつつ、並べてくださいました。
テーブルの上から立ち上るエスニックな香り。
「あと、これはわたしからのサービス。うちの一推し特製生春巻きね」
美味しそうな生春巻きが1本づつ載った小さなお皿をお姉さまと私の前に置いてから、ママさんが私の顔をじっと見つめてきました。
「こちらは、やっぱりモデルさんとかされているかたなの?」
私をじっとみつめつつ、お姉さまに尋ねるママさん。
「へっ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった私に苦笑いしながら、お姉さまがご説明してくださいました。
「この子はね、これからうちで働いてもらうことになった新入社員。これからちょくちょく、このお店にもお世話になると思うから、ママさん、今後ともよろしくしてあげて」
おっしゃってから私の顔を見るお姉さま。
「あっ、あの森下直子といいます。よろしくお願いいたします」
急いで立ち上がり、ぺこりとお辞儀をひとつ。
「あらあらそうだったの。可愛らしいお顔でスタイルもよろしくていらっしゃるから、てっきりモデルさんかな、って思ったのよ。それはそれは、どうぞこちらこそよろしくね」
立ち上がった私のウエストから腰くらいまでに視線を走らせた後、ニッコリ微笑むママさん。
「社長さんが連れてこられる女の子は、みんな可愛くてお綺麗なのよね。女のわたしでも羨ましくなっちゃうほど」
「そういうかたたちがいらっしゃると、うちのお店も華やぐから、あなた、えっと森下さん?じゃんじゃん通ってちょうだいね。お金なくても社長さんのツケで食べさせてあげるから」
冗談ぽくオホホホって笑いながら、厨房のほうへ戻っていかれました。
「新作のプレゼンやショーで頼んでいるモデルの娘たちも、たまに連れてくるからね」
ハーブの香る美味しいエスニックチャーハンに舌鼓を打ちながら、お姉さまとの楽しいおしゃべり。
「ああいう娘たちはさ、見られることに慣れているし、目立ちたい欲求も強いからね。仕事絡みで会うとき、凄い格好で来るのとか、いるよ」
「夏場だと、胸元からバスト半分くらい出しちゃってたり、背中丸開きだったりね」
「ミニスカートだって、中が見えちゃう前提で当然、見せパン穿いているしね。ノーブラだって、むしろ誇らしげに見せているわ」
「そういう娘たちを、あのママさんも何度か見ているから、もし今、直子がそのジャケット脱いでワンピ一枚になっても、たいして驚かないと思うよ」
そこまでおっしゃって、お姉さまがニッて笑いました。
「やってみる?」
「えっ?あの、いえ、それは・・・」
お箸でつまんだ生春巻きを落としそうになり、あわてて口に運んで、もぐもぐしながらそっと周りを見回しました。
着飾って幸せそうにお食事しているカップル、お酒のせいなのかキャッキャと嬌声をあげて盛り上がっているグループ。
週末のお店は、相変わらずの大繁盛です。
私に注目している人たちなんていないでしょうけれど、この場で恥ずかしいノーブラ突起を見せびらかせる勇気はありません。
でも一方では、お姉さまのご命令でボディコンワンピ一枚になり、周りの人たちから、ふしだらとか露出狂とかヘンタイとか、蔑まされてみたい欲求もありました。
だけどここは、これから何度も訪れることになりそうなお店だし、一度レッテルを貼られたら、ずっと私=見せたがりのヘンタイのままになっちゃいそうだし。
頭の中は混乱し、胸はドキドキ脈打ち始め、せっかくのお料理のお味もわからなくなっちゃう。
「ほらね。直子の新鮮なところは、そうやって、モジモジ恥ずかしがるところなのよ」
嬉しそうなお姉さまのお声で、我に返りました。
「モデルの娘たちだと、どう?わたしってキレイでしょ?セクシーでしょ?たまんないでしょ?って感じで、肌を出しても羞じらいがほとんど無いのよね。異性にも同性にも」
「それだけ自分の容姿に自信をもっているからこそだし、自分の肉体の商品価値を認識しているという意味でプロらしいとも言える」
「でもそれって、ある意味高慢だし、逆に媚びているとも言えるわよね。だからちっともエロティックに感じない。まあ、男性だったら、そんなことどうでもよくて、可愛い女の子がキワドイ格好していれば、それだけでラッキーって大喜びなのだろうけれどね」
「直子の場合は、少し過敏すぎる気もするけれど、あたしが辱めると、いちいち真剣に羞じらってくれるから、萌えちゃうのよね」
「今、あたしが直子に、ジャケット脱いでみる?って聞いてからの、直子の仕草や表情を見ているだけで、あたし疼いちゃったもの」
確かにお姉さまの瞳に、妖しい炎が灯っているような気もしました。
「今日のところは、ここでは脱がないで、普通に食事して早くオフィスに行きましょう」
お姉さまが少しだけ残っていたお料理を取り分けてくださいました。
「あたし今、直子のことしゃべっていて、自分でどんどん興奮してきちゃった。香辛料とかハーブのせいなのかな?からだがムズムズしちゃって、なんだかえっちな気分が再燃しちゃっている」
「直子の裸がすごく見たくなっちゃった。早くふたりきりになりましょう」
「は、はい」
お姉さまのお言葉が嬉しくって、ひとつ残っていたトートマンクンを急いであんぐりと頬張りました。
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*面接ごっこは窓際で 03へ
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