2016年3月14日

オートクチュールのはずなのに 41

「・・・はい、お姉さま」
 私がコクンとうなずくと、お姉さまが私のそばまで寄ってこられ、応接テーブルの傍らで向き合うような形になりました。

 お姉さまにじっと見つめられながら、おずおずと両手を動かし始めます。
 まず、スーツの上着から両腕を抜きました。
 お姉さまが無言で右手を差し伸べてくださり、その手に脱いだ上着をお渡ししました。

 次にブラウスの襟元に結んだタイを外し、ブラウスのボタンを外し始めます。
 ひとつ、またひとつとボタンを外して素肌が露わになるにつれ、私は、自分がどこか遠いところへと連れ去られるような感覚に陥っていました。

 今、私はここで裸になろうとしています。
 これまでも、オフィスで裸になったことは幾度かありましたが、それは、お姉さまとふたりきりのときだけでした。
 
 でも今回は、応接ルームの閉じたドアの向こう側に、早乙女部長さまがいらっしゃいます。
 平日のまだ午前中、それに何よりも勤務中なのです。
 私が裸になったら、間違いなくお姉さまは裸の私を、早乙女部長さまの前に連れ出すでしょう。
 そして、やがて他のスタッフのみなさま、更にもっとたくさんのみなさまの前へ。

 今ならまだ引き返せる・・・
 頭ではそう思うのですが、両手の指はためらいながらも義務のようにせっせと動き続け、いつの間にかブラウスのボタンは、全部外れていました。

 ううん、もう引き返せない。
 行けるところまで行くしかないの。
 迷いを断ち切るようにブラウスの両袖から腕を抜くと、スッとお姉さまの右手が私のブラウスを取り上げました。

 自分の胸元に視線を落としてみます。
 上半身で肌色でないのは、お気に入りの淡いピンクレースのブラジャーに包まれた部分だけ。
 固くなった乳首がブラジャーの薄い布を押し上げているのがわかりました
 先にスカートを取ろうと両手をウエストへ伸ばします。

「違うでしょ?」
 ずっと無言だっお姉さまから、低く短く、叱責されました。
「先にブラ」
「は、はい・・・」

 おっぱいが丸出しになることを少しでも先延ばしにしたいという、私の上っ面の羞恥心を見事に粉砕するお姉さま。
 勤務中のオフィスで裸になる、という非日常的な行為に反応しまくりな私のふたつの乳首は、窮屈なブラが外れるのを待っていたかのように勢いよくお外へ飛び出し、その尖り切った切っ先をお姉さまに向けて、媚びるように揺れました。

 上半身丸裸になって、スカートを脱ぎます。
 ホックを外してパンプスを脱ぎ、上半身を屈めると、おっぱいが重力に引かれてだらしなく垂れ下がりました。
 そのとき視界に入ってきたパンティストッキングの股間は、あまりにもはしたないありさまになっていました。
  
 床に落としたスカートを拾うと同時に、それもお姉さまの手によって素早く攫われました。
 上体をゆっくり起こし、そっとお姉さまを盗み見ました。

 お姉さまは、私が脱いだお洋服をすべて、慣れた手つきでたたんでくださっていました。
 上着、タイ、ブラウス、ブラジャー、そして今脱いだスカート。
 
 どれも、これからお店のディスプレイに並べて売り物にするかのように、丁寧に綺麗にたたまれていました。
 その行為を見て、お姉さまが無言の背中で、もはやあなたには、こんな服なんて必要ないものね、とおっしゃっているような気がしました。

 残るはパンストと、その下のショーツだけ。
 ただ、その股間がある意味、裸よりも生々しく破廉恥な状態となっていたので、逆にさっさと脱ぎ捨てたい気分でした。
 お姉さまが背中を向けているうちに、と、パンスト内側のショーツもろとも、思い切って一気にずり下げました。
 
 再び前屈みになり、片膝を上げると内腿も開きます。
 妙に滑りの良い肌同士がヌルヌル擦れ、クチュクチュッという淫靡な音さえ聞こえてきそう。

 まず右足から抜こうと、更に膝を深く曲げたとき、お姉さまが振り向きました。
 膝で引っかかっているショーツの内側と私のマゾマンコのあいだを、透明で粘性のあるか細い糸が数本伸びては切れ、どちらかの端に収束していました。
 そんな私の無様な姿を見て、お姉さまが嬉しそうにニッと笑いました。

「あらあら。ずいぶんと濡らしちゃったのねえ。パンストの表面にまでたっぷり愛液が滲み出ちゃってる」
 お渡ししたくなかったショーツ入りパンストを私の手から奪い取ったお姉さまは、わざわざそれらを大きく広げ、私のマゾマンコが包まれていた部分を私の鼻先に突き付けてきました。

「ショーツなんて、前のほとんどがヌルヌルベチョベチョ。モデルの話で、そんなにサカっちゃったんだ?」
「いえ・・・そ、それは・・・」
「それにすごい匂いよ?サカった牝の臭い。あーあ。あたしの指もベットベト」

 ついに全裸になってしまった上に、自分が汚した下着類を見せつけられ、その臭いにまで言及されてしまった私は、ますます被虐的に興奮し、すがるようにお姉さまを見つめました。

「いいのよ。どんどん感じちゃって。どんどん感じて、どんどんエロくなりなさい」
 汚れたパンストとショーツも丁寧にたたんでテーブルに並べ終えたお姉さまは、ウエットティッシュで指を拭ってから、私にまた一歩、近づいてきました。
 間髪を入れず、お姉さまの右手が私の下腹部へ。

「あっ!お姉さまっ!な、何を?・・・」
「うわっ、お尻のほうまでぐっしょぐしょ。それに熱もって、ほっかほか」
 お姉さまの人差し指と中指が無造作に、ズブリと私の膣に突き挿さりました。

「はぁうぅっ!!」
 思わず淫らな声が出て、あわてて口をつぐみました。
 お姉さまの指たちが膣内でウネウネと動き回り、私の官能をいたぶってきます。

「あぅ、お姉さま・・・ダメです、ダメですってば・・・む、向こうには、ぶ、部長さまも・・・」
 喘ぎ喘ぎの掠れ声で赦しを乞いましたが、お姉さまは知らん顔。
 指の動きがどんどん激しくなってきました。

「アヤのことなら気にしなくていいわ。あたしと直子の関係、もう知っているもの。それより今は、直子のサカったからだを鎮めるのが先決。ほら、イッていいのよ」
「ほらほら、いつもみたいにいやらしい声あげてイキなさい。中だけじゃダメ?ならここも」

 ずっと腫れっぱなしだったクリトリスを擦られ、ぐぐっと頂上に近づきました。
 それでも早乙女部長さまに気が引けて、悦びの声を洩らすまいと唇を真一文字に結び、必死に我慢します。
「んーーっ、んーーっ、んんーーっ、んんんーっ!!」

「喘ぎ声、我慢しているんだ?ふーん。アヤに聞かれるのが恥ずかしいの?ま、好きにすればいいわ。ほら、もう一度イク?」
「直子のマゾマンコが、あたしの指を逃がしたくないって、すごい力で締め付けてるわよ?」
「ほら、ほら、何度でもイッていいから。もっと?もっと?」
「んんーーーーーっ!!!」

 お姉さまが、絵理奈さまの代わりを私にやらせるおつもりらしい、とわかったときから、被虐と恥辱の予感に打ち震え、疼きっ放しだった私のからだは、お姉さまの本気の指技の前に呆気なく、ほんの数分のあいだに立て続けに5回、昇りつめました。

「はあ、はあ、はぁ、はぁ・・・・」
 崩れ落ちそうになる腰を、なんとか両脚を踏ん張って支え、荒い吐息の中、私の股間から離れていくお姉さまの右手を見送りました。
 いつの間にか両手は、後頭部で組んでいました。

「見て、あたしの指。マゾマンコの熱気とよだれのせいで、フニャフニャにふやけちゃった」
 お風呂上りみたいな指先を、私の鼻先に突き付けてくるお姉さま。
 紛れもない私の臭いが、プーンと漂ってきました。
 自分の臭いなのだもの、顔をそむける訳にもいきません。

「うん。ますますいい顔になった。今日は、イベントのショー本番まで、直子を好きなだけイカせてあげるわ。イジワルな焦らしとか、一切なしでね」
 お姉さまがウエットティッシュで私の股間を拭いてくださりながら、おっしゃいました。
 ティッシュがまだ腫れの引かないクリトリスにちょっとでも触れると、途端にビクンと性懲りも無くまた感じてしまいます。

 お姉さまにオフィスでイカせていただいちゃった・・・
 この後も好きなだけイカせてくださるって・・・
 それは何て、夢のようなお言葉・・・

「ショーまでに、直子のムラムラを出来るだけ解消しておいたほうがいいと思ってさ。溜め込んだまま本番になって、とうとう我慢出来なくなってお客様におねだりなんてし始めたら、目も当てられないから」
 ご冗談めかして、そんなことをおっしゃるお姉さま。

「でも逆に、何度イッたとしても、直子の淫欲の泉が枯れることは無いとも思っているの。今だって乳首もクリトリスも相変わらずビンビンだものね」
 クスッと微笑んでから、不意に真面目なお顔に変わったお姉さま。

「直子って、イクたびにエロくなるから、それが狙いかな。今だってからだじゅう、ものすごく敏感になっているでしょう?その、ひとの嗜虐性を煽るような妙な色気が、ひとの目を惹きつけるのよね」
「その感じで今日のモデルをしてくれれば、今回のアイテムの特徴もより引き立ちそうだし、お客様の心が掴めるような気がするのよ」

「今日のイベントで直子が体験することは、あたしが知っているヘンタイドマゾな直子の妄想をも、軽く超えるものになると思うの。何て言うか、露出マゾとしての新しい扉を開く、みたいな?」
「だから、直子も自分の性癖に素直になって、さらけ出して、愉しみながら頑張って、って言いたいかな?お姉さまとしては」
 この場をまとめるみたいなお言葉をおっしゃりながら、私が脱いだ衣服をひとまとめにして小脇に抱えました。

「さあ、次は早乙女部長に、そのからだを隅々まで、存分に視てもらおっか。彼女、きっとお待ちかねよ」
 さも当然のことのように、イタズラっぽくおっしゃるお姉さま。
 お姉さまがイジワルでワザとおっしゃったのであろう、早乙女部長、というお堅い呼びかたで、私は性的快感の余韻から現実へと、一気に引き戻されました。

 ここは現実のオフィス。
 早乙女部長さまがいらっしゃるのも現実。
 私が今、全裸なことも現実。
 そして今日、キワドイ衣装を着てショーのモデルをしなくてはいけないのは、紛れもなく現実の私でした。
 
「おっけーお待たせーっ。交渉成立。イベント決行よ!」
 私の衣服一切を持ったお姉さまだけ、スタスタと応接ルームのドアへ向かわれ、何の躊躇無く開け放つと、大きなお声でメインルームに向けて宣言されました。
 そのままメインルームへと消えるお姉さまのお背中。

 取り残された私には、開け放たれたままのドアの向こう側が、前人未到の奥深いジャングルのように思えました。
 出来ることなら出たくない。
 今更ながら、急に怖気ついてしまいました。
 あのドアからメインルームへと一歩踏み出したとき、現実の私の、この会社での立場がガラッと変わってしまう・・・
 それがわかっていたからでしょう。

 あらためて自分のからだを見下ろしました。
 今日はチョーカーも着けてこなかったので、文字通りの一糸纏わぬ姿。
 私が着てきたお洋服は全部、お姉さまに没収されていました。
 そして、当然のことながら、お姉さまとお約束した私は、いつまでもここに隠れている訳にはいかないのです。

 唯一床に残されていたベージュのパンプスを裸足に履き直し、ゆっくりとドアに近づいていきました。
 なんだか慣れない感じがする。
 考えてみると、全裸にハイヒールだけで歩くの、って初めてかも。
 
 そんなどうでもいいようなことを考えて現実から目を逸らしつつ、おずおずとドアの外へと足を踏み出しました。
 早乙女部長さまがいらっしゃるということで、さすがに、堂々と、とは出来ず、左腕で胸を、右手で股間を隠しながらしずしずと歩みました。

 あらま、というお顔になってお口を軽く押さえていらっしゃる早乙女部長さまのお姿が、視界に飛び込んできました。
 お隣には、薄くニヤニヤ笑いを浮かべたお姉さまのお姿。
 おふたりとも応接ルームのドアすぐ近くまでいらっしゃっていました。
 私が近づくたびに早乙女部長さまは、一歩一歩後ずさりされました。

「ほら直子、こっちのもっと明るいところまで来なさい」
 お姉さまに窓際の、たまに私がメインルームでお仕事するときに使っているデスクのほうへと誘導されました。
 左腕で胸を右手で股間を押さえた姿の私は、そのデスクの前に立たされました。
 
「森下さん、イベントのモデル、引き受けて、くださったのね?」
 ドアのところでお見せになった、あれま、のお顔は引っ込んだものの、それでもまだ、信じられない、という雰囲気のままの早乙女部長さまが、ゆっくりとワンセンテンスごと区切って、お声をかけてくださいました。
 区切りの合間には、ゴクリと唾を飲み込まれる音が聞こえてきそうでした。

 それはそうでしょう。
 お仕事柄、女性の素肌には慣れていらっしゃるでしょうが、昨日まで普通にオフィスで顔を合わせていた社員のひとりが、パンプスだけの全裸姿で目の前にいるのですから。
 それも、チーフとの応接ルームでの話し合いの後、ひとりだけ全裸で出てきたのです。

 私も、部長さまのお顔をまともに見ることは出来ませんでした。
 全裸ということに加えて、私の顔は今さっき、お姉さまの指で立てつづけにイカされた直後、という、ふしだらなオマケ付きなのです。

「はい・・・わ、私しか、身代わりになれないとお聞きしましたので、僭越ながら、やらせていただきます・・・」
 胸と股間を押さえたまま視線を合わさずに、ペコリとお辞儀をしました。
 
「そう、ありがとう・・・このイベントの責任者のひとりとして、お礼を言わせてもらうわ」
 瞳を宙空に泳がせたままそうおっしゃり、私にひとつお辞儀を返してくださった部長さまを、お姉さまが嬉しそうに見ていました。

「さあ、そういうことだから、いつまでもグズグズしていないで、イベントに集中しましょう」
 なかなか本来のお姿にお戻りになれない部長さまに焦れたのか、お姉さまがワザとらしいくらい明るいお声でそう宣言され、早乙女部長さまの肩を励ますように軽くポンとお叩きになりました。
 それで部長さまも我に返られたのか、何か呪縛が解けたようなため息を、小さくホッとつかれました。

「そうね。集中しましょう。せっかくイベントが中止にならずに済むのだから」
 ご自分に言い聞かせるようにおっしゃった部長さま。
「それにしても、森下さんて、本当にそういう、女の子だったのね・・・」
 心の中のお気持ちがついお口から出てしまったようにポツリとつぶやかれ、あらためて私を見てくる部長さまの呆れたような瞳。
 部長さまの頭の中で、私という人物に対する認識が、ギュンギュン書き換えられているのが、手に取るようにわかりました。

「まずは早乙女部長に、モデルのからだを確認してもらわないと・・・」
 おっしゃりながら、私の顔を睨みつけてくるお姉さま。
「直子?あなたの両手は、そこではないでしょう?あなたのすべき、あなたも大好きなポーズが、あるのじゃなくて?」
 お姉さまったら、急なエスモード全開で、私はビクン!

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」
 いずれは注意されると覚悟はしていたものの、見知った部長さまに初めてすべてをお見せすることは、気恥ずかしさの上に肉体的な恥ずかしさ、更に自分の性癖をお披露目する恥ずかしさまで重なって、普通の何倍もの恥ずかしさでした。

 両足は、休め、の広さに開き、両手は重ねて後頭部へ。
 両腋の下からおっぱい、そして両腿の付け根まで、すべてが露わになって隠せない、マゾの服従ポーズ。
 部長さまがグイッと身を乗り出してくるのがわかりました。

 早乙女部長さまの射るようなプロの視線が、私の全身を隅々まで舐めるように、吟味していくのがわかりました。
 頭の天辺から爪先まで、5度6度と往復して、最後は下半身に留まりました。

「ずいぶんと綺麗なハイジニーナなのね?永久脱毛かしら?」
 部長さまの口調は、いつものお仕事のときと変わらない、クールな感じに戻っていました。
 私のからだをプロの目で吟味することで、いつものペースを思い出されたのでしょう。

「あ、あの、えっと・・・」
 私が、どうお答えしようか、と口ごもっていたら、お姉さまがお口を挟んできました。
「この子、エンヴィでやってもらったのよ」

「エンヴィって、あのアンジェラさんのところ?それはまたずいぶんと、お金がかかっているのねえ」
 部長さまが呆れたようなお声でおっしゃいました。

「この子は、シーナさんのお気に入りだったからね。あたしのモノになる前に、シーナさんからいろいろと仕込まれているのよ」
「高校生の頃から、自分で剃ってパイパンにしては、学校や街でこっそりノーパン遊びして悦に入っていたっていうから」
 きっとワザとなのでしょうが、お姉さまが思い切り蔑み切った口調でおっしゃいました。

「ふーん。そんなに以前からハイジニーナがお好きだったのね。いったいなぜなのかしら?」
 お姉さまの口調に引きずられるように、部長さまのお言葉にもイジワルな響きが混じり始めていました。
「そう言えば以前、森下さんにここでバレエを踊ってもらったとき、薄いな、とは思ったのだけれど、まさかここまでツルッツルとは思いもよらなかったわ」
 部長さまが薄い笑みを浮かべ、私の顔と股間を不躾に見比べながらおっしゃいました。

「ほら、直子?部長さんに、正直にお答えなさい」
 お姉さまに薄いニヤニヤ笑いで促されます。

「は、はい・・・それは、私が、マ、マゾだからです・・・」
 自分でお答えして、自分でゾクゾク感じていました。

「そう。マゾなの。マゾって、虐められたり、イタい思いをワザとしたがるような人たちのことよね?それと、ハイジニーナと、どうつながるの?」
 わたくしそんなこと、まったく存じません、みたいな感じで、シレッと私に問い返す部長さま。
 
 だけど、これは部長さまからの、私をからかうためのお言葉責め。
 いくら知らないフリをされたって、現に今、部長さまだって絵理奈さまのために、ご自分でヘアを処理されて、そのパンツスーツの奥がパイパンなこと、知っているんですから・・・
 心の中ではそんなふうに、部長さまに反撃してみるのですが、もちろん言える訳ありません。
「そ、それは・・・」

「露出狂のマゾだから、毛なんてジャマで、中身までよーく視てもらいたいのよね?」
 お姉さまの茶化すような合いの手。
「は、はい・・・その通り、です・・・ろ、露出狂マゾには、ヘアはいらないんです・・・」
「あらあら。露出狂でもあるんだ?それはそれは、多趣味だこと」

 おふたりで私を虐めにかかっている雰囲気がありました。
 部長さまから、最初の戸惑ったようなご様子は掻き消えていました。
 おふたりとも嗜虐的な瞳で、私を見下していました。
 それはきっと私が、そうさせるようなオーラを放っているからなのでしょう。

「身が美しいって書いて躾、って言うけれど、本当に良く躾けられた、美しいからだだこと。合格よ。あなたなら今回のモデル、絵理奈と遜色ないわ」
 部長さまが薄く微笑み、それからお姉さまを見ました。

「絵美ったら、いつの間にかこんな面白そうな子と愉しんでいたのね。わたくしに内緒で」
「アヤだって、いつの間にか絵理奈ちゃん、たらしこんでいたんでしょう?お互い様よ」
 束の間のおふたり、学生同士みたいな和気藹々な会話。

「でもまあ、直子の場合は、イベント終わったら本性バレで、うちの社員の共有ペットみたいになっちゃいそうだけれどね。とにかくこの子、恥ずかしがりたくて、虐めてほしくて仕方ないドマゾだから」
「今日のモデルの件は、あたしのプライベート調教ということになっているから、アヤも躊躇せず、どんなことさせてもいいからね。すべて従う約束だから」
 そこまでおっしゃって、お姉さまが私のほうを向きました。

「直子もここからは、アヤも含めてスタッフ全員の言葉は、すべてあたしからの命令だと思うこと。誰のどんな言葉にも絶対服従よ。それでイベントを必ず成功させましょう」
 傍に部長さまがおられて張り切っていらっしゃるせいでしょうか、お姉さまのエス度がいつにも増してストレートに感じられました。
「はい・・・わかりました。精一杯、やらせていただきます・・・」
 
 もはや私は、取り返しのつかない地点まで足を踏み入れたことを、今の一連のお姉さまのお言葉で実感しました。
 会社のスタッフ全員の共有ペット・・・
 ポイント・オブ・ノーリターン、というやつです。
 
「そうそう。どんなことでも、で思い出したけれど、この子、アヌスのほうは、どうなの?使えるの?」
 部長さまが、私の股間から視線を外さず、お姉さまに尋ねました。
 普段の部長さまなら、とてもお使いにならなそうな、お上品とは言い難い単語が、そのお口からスルッと出たので、妙にドキッとしました。

「ああ。プラグを使うアイテム、あったわね、大丈夫よ。直子、お見せしなさい」
「えっ?」
「こちらにお尻向けて前屈しなさい。あっ、その前に、ちょっと待ってて」

 ご命令通りお姉さまたちに背中を向けているあいだに、お姉さまは、社長室のほうにとっとっとっと駆けて行き、すぐに戻られました。
 その右手にはあの、ピンクのブランドもの乗馬鞭が握られていました。


オートクチュールのはずなのに 42


2016年3月6日

オートクチュールのはずなのに 40

「責任感じちゃっているのよ。絵理奈さんをモデルに決めたの、アヤだから」
 閉ざされたドアを見つめたまま、チーフがポツリとおっしゃいました。

「仕方ないのにね、急病なんて誰のせいでもないわ。不可抗力よ。盲腸なんて、当人にだって気をつけようが無いもの」
 ご自分に言い聞かせるみたく、独り言っぽくつぶやかれました。
 そして気を取り直すようにお紅茶を一口飲まれ、再び視線が私に戻りました。

「さっきあたしが言った、代わりのモデルさんを探すのがとても難しい理由、って、直子は何だと思う?」
 早乙女部長さまが退室されたからでしょうか、チーフの雰囲気が幾分柔らかくなり、その口調は、私たちがプライベートで会っているときに近い感じがしました。

「あの、えっと、よくはわかりませんが、みなさま口々に、今日ご披露するアイテムはどれも、何て言うか、とてもキワドイ、っておっしゃっていたので、そのため、ですか?」
 思っていたことを正直に、お答えしました。

「うん。まあ、確かにそれもあるけれど、でもそれだけだったら、どうとでもなったのよね」
 私の答えは想定内だったらしく、待ち構えていたような、さもつまらなそうなチーフからのご返事。

「そんな理由だったら、あたしたちにはアユミっていう最終兵器がいるからさ」
 アユミさまというかたは、チーフや早乙女部長さまの学生時代のお仲間で、今はグラビアアイドルをやっていらっしゃる、私と同じような性癖をお持ちのかたです。
 私はまだ、お会いしたことはないのですが。

「去年のイベントは、アユミにモデルやってもらって大好評だったのよ。でも残念ながら今回は、アユミは使えないの」
 なぜだかわかる?と尋ねるように、私の顔を覗き込んできました。
 お答えが浮かばず、無言のまま見つめ返していると、チーフはまた、フッと笑ってお言葉をつづけました。

「正解は、今日のために用意したアイテムは全部、絵理奈さんが身に着けるためにデザインしたものだから」
 学校の先生がクラス全員お手上げな難問のお答えを発表するときみたいに、厳かな中にもちょっぴり得意げなご様子で、チーフがおっしゃいました。

「絵理奈さんの体型に合わせて、絵理奈さんのからだ、そのプロポーションがより綺麗に、よりエロティックに見えるように工夫を重ねて作ったアイテムたちなのよ」
「トールとウェイト、スリーサイズはもちろん、脚や腕の長さや肌の感じ、お顔の雰囲気まで全部、絵理奈さんに合わせた、言うなれば、絵理奈さんだけが着こなせるオートクチュールだったの」

「もちろん、イベントを観てご注文くださるお客様たちが絵理奈さんと同じ体型でないのは、あたりまえ」
「アイテムのデザインが気に入って、ご注文くだされば、それを身に着ける人の魅力が最大限に引き出されるよう、親身になって懇切丁寧に取り組む会社です、って」
「今回のイベントは、お客様がたに、その点をアピールしたい、っていう思惑があったの」

「だからこそ今回は、まず絵理奈さんを輝かせるようなアイテムを揃えたの。オーダーメイドの一点ものは今までも少しは請け負っていたけれど、より広く、うちのオートクチュール受注システムと、その高品質ぶりを知らしめるために」
「それが裏目に出ちゃったのよ。一般的な常識に沿ったドレスとかスーツなら、まあまあ似た体系のモデルさんでもごまかせたかもしれないけれど、今回のアイテムは、非常識なのばかりだから」

 チーフは、ご自分でおっしゃった、非常識という単語が可笑しかったのか、クスッと小さく笑われました。

「絵理奈さんのプロポーションで、絵理奈さんみたいな肌でないと、今回のアイテムたちは、受け取る印象が変わってしまうような気がするの」
「だからどうしたって、絵理奈さんそっくりなモデルさんを探さなければならないのよ」

「アヤはね、ひとりだけ、絵理奈さんに体型も雰囲気も似たモデルさんに心当たりがあったんだって。それで、その子の所属事務所に連絡は取ってみたのだけれど」
「今、沖縄にいるんだって、イメージビデオの撮影で。もっともスケジュールが空いていたとしても、やってくれたかはわからないけれどね」

「その子は、そういう仕事、始めたばっかりで、水着のお仕事も、今回の沖縄が初めてなんだって。そんなにウブな子では、まあ無理よね」
 自嘲気味におっしゃって、お紅茶を一口。

 座っているのに飽きられたのか、突然スッとお席から立ち上がられたチーフは、私の前を右へ左へと5歩づつくらいで往復しつつ、お話をつづけられました

「そんな感じで、ふたりしてここで煮詰まっていたら、アヤがフッと、何か閃いたような顔になったの」
 右へ左へ、思索中の哲学者さんのように移動されるチーフのお姿。

「何?って聞いたら、もうひとり、絵理奈さんの代わりが出来るであろう人物に思い当たった、って」
「誰?って聞いたら、なかなか教えてくれないの。ひどく真面目な顔で考え込んじゃって」
「黙っていたって、状況は何も変わらないわよ?うちの会社の存亡に関わる一大事なのよ?って強く迫ったら、やっと教えてくれた」

「アヤの、見た目でプロポーションを数値化出来ちゃう神ワザ測定能力については、直子に教えたわよね」
「アヤが言うには、身長も体重もスリーサイズもほとんど同じはず、なんだって。もちろん肌の感じも」

「細かく言うと、おそらくその人は、バストが絵理奈さんよりも1センチくらい大きくて、脚は絵理奈さんのほうが数ミリ長い。その他は足のサイズまで、まったく同じだと思う、ですって」
「以前から、似ている、とは思っていたのだけれど、あんまり身近すぎて、今回のトラブルとすぐには結び付けられなかった、って言っていたわ。その人のこと」

 チーフが私の目の前に立ち止まり、こちらを向いていました。
 テーブルを挟んだ向こう側から、座っている私を瞬きもせず、じーっと見下ろしていました。

 いくら鈍い私でも、わかりました。
 早乙女部長さまが、そしてチーフがおっしゃる、その人、が私を指していることに。

 確かに自分でも絵理奈さまを見て、背格好が同じくらいだな、と親近感を覚えていたようなところがありましたし、オフィスに着ていらっしゃるファッションを見て、私にも似合うかも、なんて思うこともありました。
 だけど、そんなに同じだったなんて・・・

 でも、早乙女部長さまは、着衣の私だけではなく、裸に近い格好の私の姿もご覧になってらっしゃるので、見間違うはずもありません。
 絵理奈さまと私を見比べた上で、おそらく本当にそっくりなのでしょう。

 そして・・・
 それがつまり、どういうことかと言うと・・・
 絵理奈さまの代わりに、私なら、今日のイベントのモデルが出来る、ということ・・・
 えーーーーーっ!?
 声にならない叫びの代わりに、口を半開きにしてチーフのお顔をまじまじと見つめ返しました。

「気がついたようね?そう。それがあたしから、直子へのご相談」
 お姉さまが再び、私の目の前にストンと腰かけられました。

「どう?やってくれないかな?今日のモデル。やってくれるとあたし、すっごく嬉しいのだけれど」
 私にとっては、あまりにとんでもないご相談なのに、チーフはなぜだか茶化すみたいに、ご冗談ぽい笑顔で迫ってきました。

「あの、えっと、モデルなんて私、まさか本気で?だって私・・・」

 青天の霹靂?寝耳に水?鳩が豆鉄砲?・・・もう頭の中が大パニック。
 モデルって・・・この私が?昨日見た、あんなオシャレな会場で?たくさんの人たちの前で、ランウェイを行ったり来たりするの?まさか、ムリムリムリムリ・・・絶対にあがって、つまづいて転んじゃう、それに、お話によると、アイテムはみんな、えっちなものばかりだっていうし・・・
 あ、そうだ、それも確かめなきゃ!

「あ、あの、わ、私がモデルって、多分、無理だと思います。そんな度胸がないですし、そ、それに今日のイベントって・・・キ、キワドイアイテム、ばっかりなのですよね?」
 申し訳ないけれどお断りする気マンマンで、チーフをすがるように見ながら早口に言いました。

「ああ、そう言えば直子は、今日本番でビックリするために、イベントアイテムの事前情報をシャットアウトしていたんだっけ。はい。これが今回の出品アイテム」
 私が表紙だけしか見ないようにしてきた今日のイベントパンフレットを一冊、テーブルの上に滑らせてくださいました。

「あ、ありがとう、ございます」
 チーフから目線を切り、うつむいて手に取って、恐る恐る表紙をめくりました。

 1ページ目を開いた途端、心臓がドッキンと跳ね上がりました。
 その、あまりにキワド過ぎる下着だか水着だかわからないアイテムの仕様に、あっという間に頬が火照り、あっという間にファッショングラスが曇りました。
 ページをめくるたびに心臓がドキドキ跳ね、頬だけでなく全身まで、カッカと熱くなってきました。
 ひとつひとつのアイテムをいつまでもじっくり見ていたいような、逆に、早くページをめくらなくてはいけないような・・・

 絵理奈さま、こんなのを身に着けて、みなさまの前に出るはずだったんだ・・・
 これだったら、いっそ全裸のままのほうが、かえって健全かも・・・
 えっち過ぎ、エロ過ぎ、卑猥過ぎ・・・
 そして今チーフは、私にこんなのを着てショーに出てくれない?と、ご相談されているんだ・・・

 自分がイベントモデルをしているところを想像してみます。
 華やかな会場、着飾った大勢の人たち、鮮やかなレッドカーペット。
 その上を、キワド過ぎる衣装の数々を身に着けて、行ったり来たりする私。

 シーナさまや里美さま、それにほのかさま他スタッフのかたたちという、見知ったかたたちからの視線。
 その他の、全く知らないお客様の方々の視線。
 更に、スタンディングキャット社の、ダンショクカの方々とは言え、男性たちからの視線。
 そんな視線のシャワーを一身に浴びせられる、私のあまりに恥ずかしい姿。

 そんな状況になったら、マゾな私は絶対、股間を濡らしてしまうでしょう。
 世にも淫乱な露出狂のヘンタイマゾ顔を、みなさまに晒してしまうことになるでしょう。
 ひょっとしたら、ランウェイを往復しているだけで、みなさまからの視線だけで、イッてしまうかもしれません。

 そんなことになったら、その後、オフィスでスタッフのみなさまと、どう接すればいいの?
 今後もオフィスに来るお客様がたや、スタンディングキャット社のみなさまにも、私のヘンタイ性癖が知れ渡ってしまう。
 その後の私の社会人生活は、どうなってしまうの?

 そんなの無理無理絶対無理、と心と頭が全力で拒んでいるのに、両内腿のあいだがジュクジュクヌルヌル潤ってくる、私のはしたないマゾマンコ。
 今、ちょっと妄想しただけなのに。

「どうやらお気に召したみたいね、お顔が真っ赤よ?直子なら、着てみたいって思うのばかりだったでしょう?」
 私がパンフを閉じると、すかさずチーフがお声をかけてきました。
 いつの間にか私の右隣の席に移動してきていて、横からパンフに見入る私を観察されていたようです。

「あの、いえ、私が、こんなのを着て、みなさまの前に出るなんて・・・」
 どうやってお断りすればいいのかわからず、駄々をこねるような言い訳しか出来ません。
「うふふ。額にじっとり汗かくほどコーフンしているクセに。素直じゃないわね」
 チーフがイタズラっぽく、私の左頬をつつきました。

「いいわ。結論は急がずに、別の話をしましょう」
 チーフが再び立ち上がり、今度は窓際を右へ左へ、哲学者さん歩きでゆっくり優雅に往復され始めました。

「アヤと絵理奈さんて、デキているんですって。恋人同士」
「へっ!?」
 あまりに予想外な方向に話題が突然ブレたので、思わずマヌケな声が出てしまいました。

「あれ?あんまり驚かないのね?直子のことだから、えーーーーっ!?ってもっと盛大な、大げさなリアクションを期待していたのに。ひょっとして、何か、気づいていた?」
「あ、いえ、すっごく驚いています。あまりに驚いて言葉を失なってしまっただけで・・・」
 そのことを知った経緯が後ろめたいので、必死に驚いているフリをしました。

「彼女をモデルに決めたのとほぼ同時だったのだって。アヤの一目惚れ。公私混同はよくないよ、ってアヤには言っちゃったけれど、絵理奈さんて、仕事はきちんとされるプロフェッショナルなことも、見ていてわかったし、そういう意味では、似た者同士のお似合いカップルとも思うかな」
「おふたりで打ち合わせとかされているときは、何て言うか、親密な感じがありましたし、おふたりともお綺麗で華がありますから、私もお似合いだと思います」

 チーフにお話を合わせた訳ではなく、本心からそう思っていました。
 あんな現場を盗聴してしまったおかげで、羨ましくも感じていましたし。
 ただ、年上の早乙女部長さまのほうが、受け、だとは思ってもみなかったのですが。

「最近はずっとアヤんちで同棲生活だったらしい。だから今日もアヤは、絵理奈さんの隣で寝ていたの。救急車呼んだのも、手術に立ち会ったのも、全部アヤ」
「そうだったのですか」
「だからなおさら落ち込んじゃっているのよね。最愛の恋人は急病で、そのせいで自分の会社は大ピンチ。踏んだり蹴ったり。昨夜ふたりで食べたお刺身のせいかしら、とかつまらないことをいつまでもグジグジと・・・」

 薄い苦笑いを浮かべつつ、そんな憎まれ口をおっしゃるチーフ。
 古くからのご親友同士だからこその、辛口なのでしょう。

「絵理奈さん入院の一報を、朝の5時頃、私に電話くれたの、しどろもどろで。これから手術、っていう頃ね。あんなに取り乱したアヤなんて、長いつきあいで一度も見たことなかった」
「さっき直子には、6時頃知った、って言ったけれど、あれは横にアヤがいたから嘘ついたの。アヤもきっと、あの電話のことは思い出したくないだろうし」

「そのとき、あたしはひとり、部室で寝ていたのね。で、これは一大事だけれど、朝の5時じゃ何も出来ないでしょう?でも二度寝なんて出来るワケもないし、ひとまずシャワー浴びて、6時頃にここに来たの」
「知り合いに電話入れたり、まあ、繋がらない人が多かったけれど。中止の場合の損失計算したりね。アヤがここに来たのは8時過ぎくらいかな」

「来るなり、絵理奈さんとの関係をあたしに白状してきたの。ちょっと目がウルウルしていたけれど、泣きながらっていうほどではなかったな。手術が無事終わって、少しホッとしていたのでしょうね」

「それで、その後はふたりで対策会議。アヤは私に会う前に、モデル選びが一筋縄ではいかないことに気づいていて、さっき言った絵理奈さん似のモデルさんが在籍する事務所にも、ここから電話したの」
「それでフラれて、直子の名前が出たのが8時半くらいだったかな。でもアヤは、直子を巻き込むこと、ずっと反対していたのよ。せっかく入った優秀な社員に、エロティックな衣装のモデルを強制することなんて出来ない、って」

 チーフは、そこでいったんお言葉を切り、同時に立ち止まられました。
 窓からお外を眺めているようです。

「まあ、正論よね?直子の本性を知らないのだから」

 お外を眺めつつそうおっしゃったチーフは、それからもしばらくお外を眺めていらっしゃいました。
 私も横を向き、チーフの肩越しにお外へ視線を向けました。
 どんより曇ったガラス窓を、細かい雨粒がポツポツ叩いては流れ落ちていました。

「だから、あたしも白状しちゃったの」
 お外を見たままのチーフがポツリとおっしゃり、クルッとこちらを振り向いてニッと笑われました。
 その笑顔は、プライベートな遊びで私に何かえっちなイタズラを仕掛けるときにお見せになる、エスの快感に身を委ねて嗜虐的になった、マゾな私が一番好きな、お姉さま、の笑顔でした。

「直子があたしのランジェリーショップに来たときの馴れ初めから、初デート、面接、このあいだの連休のことまで、何もかもね」
「公私混同って、あたしもひとのこと、言えないわね」
 私の隣の席に舞い戻ったチーフが、ニコニコお顔をほころばせて、嬉しそうにおっしゃいました。

 とうとう私のヘンタイ性癖が、早乙女部長さまに知られてしまった・・・
 束の間、どうしていいかわからないほど、性感が昂ぶり、股間がジュンと潤みました。
 そんな私におかまいなく、チーフがお話をつづけました。

「アヤも最初は驚いていたけれど、だんだんと、ああ、そういう子なんだ、っていう顔になっていったわ」
「それに、何よりも直子が、モデルやります、って言ってくれれば、イベントを中止せずに済むのだもの、デザインから完成まで、アイテムの総責任者であるアヤが嬉くないはずがないわよね」

「あたしが思うに、そろそろ潮時だったのよ、社内に直子のヘンタイ性癖をカミングアウトする」
「今回のアクシデントは、その時期が直子に来たことを知らせる、カミサマの思し召しなのかもね」

「ここでスタッフみんなに直子の本性を知ってもらえば、今後、直子だって、ここで働くのがいろいろと愉しくなるはずよ」
「直子がそういう子だってわかっていれば、みんなだって弄りやすいじゃない?うちのスタッフは、多分みんな、直子が好きそうな虐め方、上手いと思うわ。学生時代、アユミ相手にいろいろやっていたから」

「それに何よりも、このモデルの話は直子の性癖にとって魅力的でしょう?エロティックな衣装を身に纏った直子の姿を、ほとんどが見ず知らずの50人以上の人たちに視てもらえるのよ?」
「直子が夜な夜な妄想して、ノートに書き留めていたことが、現実になるのよ?直子がやりたくないなんて思う理由がないわ」

「もちろん、メイクとウイッグで、うちのスタッフ以外には、直子だとわからないようにしてあげる。あくまでもモデル、としてね。お客様にモデルが社員だったってわかっちゃうと、後々いろいろめんどくさそうだもの」
「でも、直子のからだを知っているシーナさんや里美の目は、ごまかせないかな。まあ、口止めしとけば大丈夫でしょう」
「直子がモデルをしてくれれば、みんなめでたく丸く収まるのよ。ためらう部分なんて、どこにもないと思うけどな」

 チーフが立て板に水の饒舌さで、私を説得にかかってきました。
 おっしゃることも、いちいちごもっともでした。

 確かに私には、自分の本性を曝け出したい、という願望がありました。
 早乙女部長さまが私の性癖を知った、とお聞きして、ショックな反面、部長さまは今後、私にどんなふうに接してくださるのだろう、とワクワクを感じている自分がいました。

 私はやっぱり、真正のドマゾ。
 虐げられたくて、自分を虐めたくて仕方ないのです。
 やる、という方向にどんどん傾いていました。

「と、そういう訳で、直子の名前が出たときから、あたしは、直子なら絶対やってくれる、と思っていたの。だからあたし、あんまり焦っていないでしょう?」
「もしも・・・」
 自分に踏ん切りをつけるためにも、お聞きしておきたいことがありました。

「もしも私が、それでもお断わりしてしまったら、私とチーフの関係は、そのあとどうなりますか?」

「えっ?変なこと聞くのね。別に、どうともならないわ。イベントが中止になって、うちの経済事情が悪化して、その分仕事がいっそうハードになって、今にも増して遊んであげられなくなったりはするかもしれないけれど」
「断ったことによって、直子とあたしの縁が切れるのでは、っていう意味なら、答えはノーよ。あたしはヘンタイマゾな直子も大好きだけれど、普通のときの直子も同じくらい愛しているもの」

 チーフが至極真面目なお顔で、私をまっすぐに見つめておっしゃってくださいました。
 それをお聞きして、私も決心がつきました。

「さあ、そろそろ結論を出しましょう。そんな感じで、経営者としてのあたしは、あくまでも直子に、お願い、しか出来ないの。ダメと言われれば仕方ないわ。あたしに運が無かっただけ」
 
 さばさばした口調でチーフがそうおっしゃった後、フッと表情が消え、瞳を細めて、こうつづけられました。

「でも、もしもここがあたしのオフィスではなくて、うちの会社とは何の関係もない誰かのイベントでのアクシデントで、あたしが知り合いから頼まれたのだとしたら・・・」
「あたしは直子のお姉さまという立場で、おやりなさい、って一言、命令したい気分なのは確かね」
 
 おやりなさい、のご発声が、背筋がゾクゾクっとするくらい冷たい響きでした。

「わ、わかりました。ご命令してください。会社とは関係なく、私のお姉さまのお望みとして、私にご命令ください。それが大好きなお姉さまのお望みであるのなら、私は何でも従います」

 意志とは関係なく、口だけが勝手に動いている感じでした。
 自分でもびっくりしていました。
 でも、それが私の本心から出てきた言葉なのは確かでした。

「ふふ。いいマゾ顔だこと。そういうことで直子がいいのなら、お姉さまとして命令させてもらうことにするわね」
 嗜虐的なお姉さま、のお顔でおっしゃいました。

「ここから先、イベントが終わるまで、あたしが直子に言うことは全部、会社とは関係の無い、直子のお姉さまとしての言葉、すなわち全部が直子への命令。そういうことでいいのよね?」
「・・・はい」
「それにすべて、従う覚悟があるのね?」
「・・・はい」
「嬉しいわ。良い妹を持って、あたしはシアワセものよ」

「それでは最初の命令よ。直子はモデルをやりなさい。モデルになって、ご来場のお客様がたに、直子のからだの隅々まで、存分に視姦してもらってきなさい」
「・・・はい。わかりました。やらせていただきます、お姉さま・・・」
 お姉さまが右手を差し伸べてくださり、それに縋って私も立ち上がりました。

「これで、絵理奈さんの代役モデルとしての契約成立ね。それじゃあまず手始めに・・・」
 相変わらずのゾクゾクくる冷たいお声で、唇の両端を少し上げて薄い笑みのようなものを作ったお姉さま。
 静かに、こうつづけられました。

「着ているものをここで全部、お脱ぎなさい」


オートクチュールのはずなのに 41


2016年2月28日

オートクチュールのはずなのに 39

 翌朝は、いつもより少し遅めの8時過ぎに起床。
 カーテンを開けると、お空はどんよりと曇り、パラパラと小雨まで舞っていました。
 せっかくのイベントなのだから、晴れて欲しかったな。
 梅雨時なので仕方ないことではあるけれど、ちょっとがっかり。

 気を取り直す意味で、ゆっくりバスタブに浸かり、リラックスタイム。
 ボディシャンプーでお肌を磨き、上がったらローションで保湿ケア。
 髪にタオルを巻いてトーストをかじりつつ、これからの段取りを裸のままで考えました。

 まずメイクを先にしてから髪をセットして、最後にお洋服かな。
 でも、リップやシャドーは、スーツを着てから合わせたほうがいいかも。
 となると、まずファンデだけして、ヘア弄って、お洋服着てからメイクの仕上げ、の順番がいいのかな。

 スーツを着るとなると、ストッキングも穿かなきゃ、だな。
 だけど、どうもパンティストッキングって苦手。
 ショーツの上に重ね穿きになるから蒸れるし、腰からずり落ちて、たるんだりもするし。
 ショーツ無しで穿くのは、えっちぽくて好きなのだけれど、さすがに今日はマズイよね。
 確かガーターストッキングも何足かあったはずだから、そっちを試してみよう。
 スーツの色に合うのがあるといいけれど。

 朝食をちまちま摂りつつ、そんなことをうだうだ考えていたら、あっという間に9時を過ぎていました。
 いけないいけない、さっさとやるべきことに取り組まなければ。
 もう一度歯を磨いておトイレを済ませ、いそいそとドレッサーに向かいました。

 顔を弄り始めるとすぐ、傍らに置いた携帯電話が着信を知らせる振動。
 ディスプレイに示されたお名前は、お姉さまのものでした。

「もしもし。ごきげんよう。おはようございます、お姉さま」
「よかったー。つながったー。今、家?」
 ご挨拶無しで、いきなりホッとされたようなお姉さまの早口なお声が、耳に飛び込んできました。

「はい。そうですけれど・・・?」
「いや、ひょっとしたら美容院とか予約していて、外に出ているかな、とかも思って。とにかくつながって良かったわ」
 お姉さまの口調が、いつもの感じに戻りました。

「あ、いえ。生憎そこまで頭が回らなかったので、今、自力でおめかししようとしているところです」
 少しおどけた感じでお返ししました。

 私がお答えした後、少しのあいだ沈黙がつづきました。
 何か、傍らの人とコショコショお話されているみたい。
 ヘアサロンにでもいらっしゃるのかしら?
 
 ひょっとして暇つぶしで、お電話くださったのかな?
 せっかく出張からお帰りになられたのに、一昨日も昨日もほとんどお話し出来なかったから、気を遣ってくださったのかも。
 そうだったら、嬉しいな。

 そんな束の間のシアワセ気分は、お姉さまからの次の一言で、あっさり吹き飛びました。

「緊急事態なの。すぐにオフィスに来て。今すぐ」
 お姉さまの口ぶりが、切羽詰って真剣そのもの、という感じに変わりました。
 その口調の豹変に戸惑う私は、オウム返ししか出来ません。

「えっ!?きんきゅう・・・じたい、ですか?」
「そう。とにかくオフィスに来て。一分一秒でも早く。大至急」

「で、でも私、まだお化粧もお着替えもぜんぜん・・・」
「そんなことどうでもいいのっ。服装も適当でかまわないから、とにかく早くオフィスまで来なさいっ!」
 焦れて怒り始めたような、お姉さまのご命令口調。

「わ、わかりました。オフィスに行けばいいのですね?」
「そう。メイクとか服装とか本当にどうでもいいから、一刻も早くあたしの前に来て、あたしを安心させて。10分で来なさい」
 決めつけるようにそうおっしゃって、プツンと電話が切れました。

 何がなにやらわかりませんでしたが、何か大変なこと起こっているみたい、ということだけはわかりました。
 私はとにかく、お姉さまのご命令通りにする他はありません。

 あたしを安心させて、ってどういう意味なのだろう?
 って言うか、お姉さま、もう出勤されてらっしゃるんだ。
 だったら、さっきコショコショお話されていたお相手は、誰なのだろう?
 
 あ、きっと昨夜、部室にお泊りになったんだ。
 でもまだ集合時間まで2時間以上もあるし・・・
 頭の中はクエスチョンマークだらけでしたが、とにかく急いでお洋服を着ました。

 服装なんて適当で、というご指示でも、やっぱり華やかなイベント当日なのですから、それなりにはしなくちゃ。
 スーツとブラウス、下着類は、前の晩に用意しておいたので、すぐに着れました。
 迷っている暇は無いので、苦手なパンティストッキングをたくし上げました。
 
 髪にブラシをかけつつ戸締りと火の元を点検し、ファンデーションだけの顔にリップだけちょちょいと挿し、アイメイクを諦める代わりにドレッサーに転がっていたボストン風のファッショングラスをかけ、大急ぎでお家を出ました。

 お家からオフィスまで、普通に歩いたら7分くらい。
 出勤、通学時間帯はとっくに終わっているので、歩いている人は、主婦っぽい人とかご年配のかたばかり。

 お化粧ポーチは持ってきたから、本番までには、ちゃんとメイクする時間も取れるはず。
 思い切ってメイクをお姉さまにお願いしたら、やってくださるかもしれないな。
 でも、今日一日パンストで過ごすのは、気が重いなー。
 時間を見計らって、階下のショッピングモールでガーターストッキング買って、穿き替えちゃおうかな。

 そんなのんきなことを考えつつ、それでも出来る限りの早足で、しょぼしょぼ落ちてくる雨粒を青いパラソルで避けながら道を急ぎました。
 雨降りでも肌寒くは無く、梅雨時期特有の生ぬるい空気がじっとり湿った感じ。
 パンティストッキングに包まれた腰が、早くもなんだかムズムズしちゃっていました。
 もちろん性的な意味で、ではなく、正反対の不快感。

 出来る限り急いではみたのですが、エレベーターを降り、オフィスのドアの前に立ったとき、お姉さまのお電話が切れてから二十分近く経っていました。
 叱られちゃうかなー。

「ごめんなさい。遅くなりましたー」
 大きな声で謝りながら、ドアを開けました。

 曇り空なので午前中だけれど明かりを灯したオフィスのメインフロア中央付近に、ふたつの人影がボーっと立っていました。
 お姉さま、いえ、チーフと、早乙女部長さま。
 おふたりとも、普段から見慣れた普通のパンツスーツ姿。
 ヘアもメイクも、ぜんぜん気合の入っていない普段通り。
 そして何よりも、おふたりともなんだか疲れ切った表情をされていました。

「ごめんね。急に呼び出して。びっくりしたでしょう?」
 無理に作ったような薄い笑みを浮かべ、チーフが私に手招きをしています。
 早乙女部長さまも同じような表情で、微かに、ごきげんよう、とつぶやかれました。

 お電話の最後が怒ったようなご命令口調だったので、それなりに緊張していたのですが、気の抜けたようなおふたりのご様子に、なんだか拍子抜け。
 でも逆に、待ちに待ったはずのイベント当日に到底似つかわしくない、混迷しきったおふたりの表情で、どうやらただならぬことが起こってしまったみたい、っていう不穏な雰囲気が察せられました。

「あの、えっと、何かあったのですか?緊急事態って?」
「うん。それがね・・・」
 沈んだ表情でそこまでおっしゃったチーフは、再び作り笑いをニッと浮かべて、無理やり明るくこうつづけました。

「まあ、立ち話もなんだから、座って話しましょう。長くなりそうだし」
 おっしゃるなり、おひとりでスタスタ応接ルームに向かわれました。
 あわてて私も後を追います。
 早乙女部長さまだけ別の方向へ、静かに歩き出されました。

「直子はそこに座って」
 応接テーブルの窓際を指され、チーフは私の向かい側へ。
 少しして、早乙女部長さまがお紅茶を煎れたティーカップをトレイに載せてお持ちになり、3つのうちのひとつを私の目の前へ。

「あっ、あ、ありがとうございます・・・気がつかないで、ごめんなさい・・・」
 早乙女部長さまが自ら、私のためにお茶を煎れてくださるなんて、入社以来初めてのことでした。
 私は萎縮してしまって、恐縮しきり。
 
 早乙女部長さまは、私に向かって淡くニッと微笑まれ、すぐに無表情に戻るとチーフのお隣にストンとお座りになりました。
 応接ルームのドアは、開けっ放しでした。

「実はね・・・」
 ティーカップに一度、軽く唇をつけられたチーフが静かにカップを受け皿に置き、私の顔をじっと見つめながらつづけました。

「今日のイベント、中止しなければならなくなるかもしれないの」

 瞬間、おっしゃったお言葉の意味がわかりませんでした。
 ちゅうししなければならなくなるかもしれないかもしれない・・・・ん?ちゅうし?
 えっと・・・それって・・・つまり・・・えーーーーっ!
 最後の、えーーーっ!は、実際に、私の口から声として出ていました。

「な、何があったのですか?何か手違いとか・・・でも会場だって立派だったし、昨日ちゃんと見ましたよ?それに、えっと、雨降りなのは残念だけれど、つまり、えっと、それはどういう・・・」
 やっと事態を把握して、思いついたことを全部言葉にしようとしている私を、チーフが苦笑いと、私の眼前に差し出した右手のひらで遮りました。

「あたしも最初に聞いたときは、そんな感じだったけれど、まあ落ち着いて」
 苦笑いをひっこめたチーフが、真剣な表情で私を見据え、一呼吸置いてからおっしゃいました。

「今日、モデルをしてくれるはずの絵理奈さんが、今朝方、緊急入院しちゃったの」
「えーーーっ!」
 あまりに予想外な理由に絶句した後、再び、お聞きしたいこと、が堰を切ったように自分の口から飛び出ました。

「じ、事故か何かですか?急病?あっ、交通事故?そ、それで絵理奈さまはご無事なのですか?ご入院て、命に別状は無いのですよね?・・・」
「まあまあまあ」
 再びチーフの苦笑いと右手のひらで、私の大騒ぎが遮られました。

「急性虫垂炎。俗に言う盲腸ね。幸いそんなにひどくはなくて、運ばれた病院に、ちょうど専門の先生がいらしてすぐに手術してくださったから、今は予後。少なくとも四日間くらいは、ご入院ですって」
「腹腔鏡下手術とかいうので、傷跡も小さくて済むそうよ。ああいうお仕事は、ご自分のからだ自体が商品だから、そういう意味でも不幸中の幸いね」
 お姉さまが、ご自分でもひとつひとつ事実をご確認されているような感じで、ゆっくり静かに丁寧に、説明してくださいました。

「明け方、4時くらいに急に苦しみだしたのですって。一緒にいた人が素早く救急車呼んでくださって、手早く診察して即入院、即手術」
 チーフが、一緒にいた人、とおっしゃったとき、私は素早く、早乙女部長さまのほうを盗み見ました。
 早乙女部長さまは、うつむいていたので表情は見えませんでした。

「アヤが実際に病院まで行って、ベッドに寝ている絵理奈さんを確認してきたから、あたしが今言ったことは、紛れもない事実なの」
「そんなワケで絵理奈さんはご無事だったのだけれど、ご無事じゃないのがあたしたち」
 チーフが私を、前にも増して真剣な表情で見据えてきました。

「あたしがそれを聞いたのが、今朝の6時過ぎ。そのときにはもう絵理奈さんの手術は無事終わっていて、それはめでたしなのだけれど、あたしは大パニック」
 チーフが自嘲気味に微笑みました。

「朝早くから、モデル事務所関連の知り合い電話で叩き起こして、絵理奈さんの代わりが出来るモデルさんがいないか、聞いて回ったわ」
「でも、本番数日前ならいざ知らず、ショー当日にいきなり出来る人なんて、そうそういるワケないわよね」
「数人あたってオールNGもらった後、モデル交代する際の一番重大な問題に、やっと気がついたってワケ」
 そこで、チーフがいったん黙り込み、次に唇が開いたとき、話題がガラッと変わっていました。

「もしも今日、イベントを中止したとしたら、残念ながら、会社にけっこうな損害が出ちゃうのね」
「今日、見に来てくださるお客様がたは、みなさん、うちのお得意様でおつきあいも深いから、ちゃんと理由を話して謝れば、おそらくみんな、わかってくださるとは思うの、仕方ないなって」

「でも、今日のためにはるばる北海道や九州から駆けつけてくださるかたもいらっしゃるし、そのために東京でホテルまで取られているお客様もいる」
「そういった方々の旅費や宿泊代は、当然、負担しなくてはならないし、他のお客様にも一応なにがしかのものは、お出ししないと」

「それに、今日の中止を延期にして、日を改めてもう一度、というワケにもいきそうもないの。会場の問題、モデルさんの問題、集客の問題、何よりもわが社のスケジュール的な問題でね」
「7月からは、12月に開く、うちの主力である一般向けアイテムのショーイベントに向けた製作に取りかからなければならないから、日付を延期する余裕が無いのよ」

「今回のイベントが無かったことになれば、イベントで見込んでいた将来的な売り上げ、プラス、イベントの準備に今までかけてきた費用まるまるすべてが、水の泡と消えちゃうの」
「それは、うちにとって、かなり、いえ、そんな曖昧なことじゃなくて、会社の存亡が危ぶまれるくらい、キツイことなのね」
 お姉さまのお顔がとてもお悔しそうで、お話を聞いているだけの私も辛いです。

「8時過ぎにアヤとここで落ち合ってから、いろいろと策を練ってはみたのだけれど、これといった打開策が出なくてさ」
「アヤも絵理奈さん所属のモデル事務所にいろいろ掛け合ってくれたの。でもやっぱり、代役はいなくて。それにアヤも、このイベントの致命的な欠陥に気づいていてね。モデルの代替は利かない、って」
 その早乙女部長さまは、最初からずっとうつむいたきり、一言もお言葉を発していませんでした。

「と、ここまでは今日、あたしたちに起こってしまったことね。今更何をどうしようが、もう無かったことにはならない、冷たい現実」
「いくら予測出来ない、そうそう起こり得ないことだったにせよ、そいういう事態も起こり得ることを想定して、対策を取っておかなかった、この会社の社長である、あたしのミス。全責任は、あたしにある」
 チーフにしては珍しく、ご自分のことをはっきり、社長、とおっしゃいました。

「でも、あたしはどうしても、今日のイベントを中止にしたくないの」
「お金のことだけじゃなくて、今日のイベントで披露するアイテムたちに、何て言うか、すごく自信があるの。お蔵入りさせたくないの」
「うちのスタッフが総力を挙げで精魂込めて作り上げたアイテムたちを、ぜひお客様に、見て、感じて、喜んでもらいたいのよ」
「だから、あなたを呼んだの」

 チーフが熱っぽい口調で一気にそうおっしゃると、早乙女部長さまがゆっくりとお顔をお上げになりました。
 心なしか瞳が潤んでいるようで、そんな瞳で私を、まぶしそうに見つめてきました。

「それで、ここからは、これからのこと。これからあたしが、あるひとつの提案をするから、それを直子と相談したいの」
 チーフが睨みつけるように、まっすぐ私を見つめてきました。
 早乙女部長さまも潤んだ瞳で、なんだかすがるように私を見つめていました。

 相談て・・・なぜ私に?そもそも何の?
「・・・えっと・・・は、はい?」
 おふたりからの、私に返事を促すような視線の迫力に気圧されて、ワケがわからないながらも掠れ気味の声で一応、反応してみました。

 私の声が合図だったかのように、早乙女部長さまがフワッとお席をお立ちになり、静かに応接ルームのドアに向かわれました。
 ドアからお出になるとき、私たちのほうを向いて丁寧なお辞儀をひとつ。
 そして静かに、応接ルームのドアが閉じられました。


オートクチュールのはずなのに 40


2016年2月22日

オートクチュールのはずなのに 38

「うわーっ!」
 思わず感嘆の声をあげてしまうほど、予想外にオシャレな空間が、目の前に広がっていました。
 
 バスケットボールのコートが二面は取れそうな、広い長方形の空間。
 入って真正面が、階段にして三段分くらい高いステージになっていて、大きなお花スタンドが両サイドに飾ってあります。
 ステージの中央から幅二メートルくらいの赤いカーペットを敷いた直線が、入口のほうへと伸びてきています。
 これがショーのとき、モデルさんである絵理奈さまが歩くランウェイとなるのでしょう。

 ランウェイの両サイドには、カーペットから1メートルくらい離して、白いクロスを掛けた3人掛けの長テーブルと椅子が、ステージとランウェイの両方とも見やすいように、少し斜めになるような感じでゆったりと並んでいます。
 壁一面には、濃いワインレッド色の暗幕が張られ、要所要所に艶やかなお花スタンド。

 場内には、洋楽女性アーティストの聞き覚えあるバラードが、耳障りにならないくらいの音量で流れていて、ステージ近くの天井に吊り下げられたキラキラ煌く大きなミラーボールが、その曲に合わせてゆっくりと回転していました。
 ちょうどステージ上の大きなスクリーンの映写テストをされているところらしく、灯りを落として薄暗かったので、ステージ周辺にキラキラ降り注ぐ光がすっごく奇麗で幻想的。

「どう?なかなかのものでしょう?」
 うっとり見惚れていたら、いつの間にかお隣に来ていたリンコさまがお声をかけてくださいました。

「は、はい。凄いです。さっきまでオフィスに居たのに、突然、六本木かどこかのオシャレなクラブに迷い込んでしまったみたい」
「おや、ナオッち、クラブなんて行ったことあるの?」
「あ、いえ、ないですけれど・・・」
「あはは。クラブは、こういう感じではないなー。どっちかって言うと、結婚式場のチャペルに近いイメージ?」
 会場の奥へと進みながら、リンコさまとおしゃべりしました。

「私、会場は会議室、ってお聞きしていたので、なんだかもっとこう、事務的と言うか、学校の大教室みたく無機質なのを想像していたので」
「もうこのイベントも4回目だからね。アタシらも馴れてきたって言うか、どんどん理想に近いレイアウトが出来るようになってはいるんだ」

「本当に凄いです。テレビとかでしか見たことないですけれど、本当のファッションショーの会場みたいです」
「キミは中々失礼な子だねえ。アタシらは明日、本当にファッションショーをやるんだよ?」
 リンコさまが笑いながら私の脇腹を軽く小突き、ふたりで顔を見合わせて、うふふ。

「そっか。ナオっち、ファッションショーをライヴで観たことないんだ。今度、てきとーなのに連れて行ってあげよう」
「うわー。本当ですか?ありがとうございます」
 そんな会話をしていると、不意に場内が明るくなりました。
 スクリーンのチェックテストが終わったのでしょう。

 明るくなると、場内にけっこうな人数の方々がいらっしゃるのがわかりました。
 ステージ上には、チーフと早乙女部長さまが、左端に置いてある司会用の台のところで何かしら打ち合わせされていました。
 ステージ下では、間宮部長さまとほのかさまが、立ったまま仲良さそうに談笑されています。

 あとの方々は、ランウェイ沿いの椅子にポツンポツンとお座りになり、携帯電話されているかた、おしゃべりされているかた、ラップトップパソコンを開いているかた・・・
 オフィスへのお客様として見覚えのあるかたもいれば、まったく知らないかたもちらほら。
 あ、あそこにいらっしゃるのはシーナさま?あっちの女性は里美さま?

「ミサさんのお姿が見当たりませんね?」
「ああ、彼女はたぶん、ステージ裏でパソコン弄っているんじゃないかな。スクリーンに映す映像を作ったの、ミサだから。ライティングの構成やショーの選曲も、全部ね」
「へーー。凄いですね」
「あの子はそういうの、パソコンで全部3D映像で編集して組んじゃうの。本当、たいしたもんよ」
 リンコさまが、ご自分が褒められたみたく嬉しそうにおっしゃいました。

「大沢さんと小森さん。いたら至急、ステージまで来てください」
 突然、マイクを通した早乙女部長さまの澄んだお声が場内に響き渡りました。
「あ、ご指名かかっちゃった。ちょっと行ってくる。またあとでね」
 リンコさまがステージのほうへと駆け出すと、入れ代わるようにシーナさまが近づいてこられました。

「ごきげんよう。お久しぶりね、直子さん」
「ごきげんようシーナさま。お久しぶりです」
「いよいよイベントね。わたし、エミリーの会社のこのイベント、大好きなの。わたし好みなアイテムばかり出てくるから。直子さんなら、わかるでしょ?」

「あの、えっと私、今度のイベントでどんなアイテムがご披露されるのか、他のお仕事にかかりきりになっていて、ぜんぜん知らないんです」
「そうなの?」
「はい。そこまで知らないなら、いっそ本番まで知らないほうが数倍楽しめる、って他の社員のみなさまから勧められて、パンフの中もまだ見ていません」
「ふーん。なるほど、それはそうかもね。じゃあ、本番、愉しみにしていなさい。直子さんなら思わず、着てみたい、って思っちゃうようなえっちなアイテム揃いのはずだから」
 
 シーナさまも、他のみなさまと同じようにイタズラっぽい意味深な笑みを、私に投げかけてきました。
 それから、ふっと真顔に戻り、私におからだを寄せて来て、右耳に唇を近づけ、お声を潜めてつづけました。

「それはそうとして直子、ひょっとして会社のみんなにマゾばれ、しちゃったの?それともカミングアウト?」
「えっ!?それはどういう・・・」
「だって、堂々と首輪デザインのチョーカー着けちゃって、他の人も別に気にしていないみたいだし」
「ああ、これですか。これは何て言うか・・・成り行きで・・・」

 シーナさまに、例のアイドル衣装開発会議のことを簡単にご説明しました。
 もちろん、裸に近い格好にさせられたことや、その姿でバレエを踊らされたことは隠しました。

「ふーん、よかったじゃない。そのおかげで堂々と直子らしい恰好が出来るようになったってワケなのね。みんなが、どういう意味で、似合う、って言ったのかは知らないけれど」
 それから私の右耳にぐっと唇を近づけ、ヒソヒソ付け加えられました。
「わたしのマゾセンサーは、ビンビン反応しているわよ。チョーカー着けている直子は、着けていないときと比べて、マゾ度が約3倍増しね。そんなの着けていたら、ずっとムラムラしっ放しなんじゃない?」

 私がそれについて何か弁解しなくちゃ、と言葉を探していたら、ステージ近くでキャーという歓声が沸きました。
 何事?ってそちらを見ると、グレイのシャープなパンツスーツ姿の間宮部長さまが、赤いカーペットのランウェイの真ん中を、見事なモデルウォークでこちらのほうへと歩いてこられるところでした。

 少し気取ったようなお顔で淡く微笑み、スクッと姿勢良く、優雅に歩いてこられます。
 流れている軽快な音楽のビートに見事に乗って、本物のショーのモデルさんのよう。
 その両脇を、ほのかさまとリンコさま、それに数名の見知らぬ女性が、ヒューヒュー冷やかしながら嬉しそうに着いてきていました。

 途中で間宮部長さまの視線が私たちを捉えたようで、急にランウェイから逸れて、モデルウォークのまま私たちへと近づいてきました。

「やるじゃない?カッコいいわよミャビちゃん。さすがダブルイーのオスカル、男装のシン・ホワイト・デュークって呼ばれるだけのことはあるわね」
 シーナさまが間宮部長さまへ、からかうみたいにおっしゃいました。

「えへへ。こう見えても昔、モデルの真似事をしていたこともありましたからね。昔取ったなんとかっていう」
「どうせなら、明日のモデルもミャビちゃんがやったら?」
「いやいや、とんでもない。あの手の衣装は、もっと若い子じゃなきゃ、お客様にお見せできませんて。ワタシなんて、司会役だけで精一杯でーす」
 どうやらシーナさまと間宮部長さまも、打ち解けた間柄みたいです。

「ナオちゃんも見てくれた?ワタシの華麗なるモデルウォーク」
 間宮部長さまが笑顔で、私にお話を振ってきました。
「はい。すっごくカッコよかったです」
「嬉しいなあ。ありがと。あ、でもナオちゃん、バレエ踊れるんだし、モデルウォークなんか朝飯前の余裕のよっちゃんなんじゃない?」
「ま、まさか・・・いえいえ、そんなことは・・・」

 そうお答えしつつも、バレエ教室の頃、姿勢が良くなるからと、やよい先生からレッスンの息抜きに教えていただいたことを思い出していました。

「あー。その顔は何か、自信ありげじゃない?」
 イタズラっぽく私の顔を覗き込んでくる、間宮部長さま。
「そう言えば、百合草先生も昔、モデルをされていたことがある、って聞いたことがあったけ・・・」
 シーナさまが、若干ワザとらしい独り言、みたいにつぶやかれました。

「そっか、シーナさんて、昔のナオちゃんのことも、ご存じなのでしたね。その百合草先生っていうのが、ナオちゃんのお師匠さん?」
 間宮部長さまが、すかさず食いつかれました。
 でも、間宮部長さまはチーフと違って、やよい先生のことは、ご存じないのかな?

「それなら絶対、教わっているはずよね?さあ、ナオちゃん?もう逃げられないからね。バレエのときは除け者にされちゃったし、部長命令。今度はワタシと一緒に歩きましょう」
 右の手首を掴まれ、強引にステージのほうへと連れていかれました。
 ギャラリーのみなさまもゾロゾロと後を着いてこられます。

「さあ、ナオちゃんから、先に行っていいわよ」
 ステージを降りてすぐの、レッドカーペットの始まり真ん中に立たされました。
 実際に立つと、ランウェイも階段にして一段分、床よりも高くなっていました。

 やよい先生から教わった、モデルウォークの注意点を一生懸命思い出しました。

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る。
 あと他に、何だったっけ・・・

「ほら」
 考えている途中で、間宮部長さまに軽くポンと肩を押され、仕方なく歩き始めました。
 歩くうちにからだがどんどん思い出して、自分でもけっこう堂々としているかな、という感じになってきました。
 それにつれて、ギャラリーのみなさまが、おおっ、と小さくどよめくお声も。

「ほら。やっぱり上手いじゃない?」
 半分くらいまで歩いて立ち止まると、後ろから来た間宮部長さまにまた、軽く肩を叩かれました。
「そ、そうでしたか?」
「うん。後ろから見ていて惚れ惚れしちゃった。颯爽としていて、とてもエレガントだったわよ」
 周りのかたたちもにこやかに、ウンウンて、うなずくような仕草をしてくださって、なんだかとても嬉しい気分でした。

 そうこうしているうちに、会場設営もすっかり終わり、もうあとは、本番を残すのみ。
 お手伝いのかたたちと、お疲れ様、ありがとう、また明日、のご挨拶を交わして、お見送りしました。

 シーナさまとは、お帰り際にもう一度ヒソヒソ話が出来て、こんなことを教えてくださいました。
「明日は、直子にとってお久しぶりな人たちも来るはずよ。エンヴィのアンジェラと小野寺さんとか、あと、西池の純ちゃんも呼んだから。憶えているでしょ?純ちゃん」
「もちろんです」
 思いがけないお名前が次々に出てきて、懐かしい羞じらいに頬が火照ってきてしまいました。

「そ、それだったら、やよい、あ、百合草先生もお呼びになったのですか?」
 モデルウォークで思い出した懐かしさもあったのでしょう、火照りをごまかすみたいに、焦りながらの勢いでお尋ねしちゃいました。
「百合草女史は、業種が違うから。それに金曜日はお店、お忙しいでしょうしね」
「そうですか・・・」
 期待はしていなかったものの、やっぱりがっかり。

「でも、打ち上げの後、お店に寄る、っていう手はあるわね。エミリーたちと一緒に」
「それ、ぜひお願いしたいです」
 
 お尋ねして良かった・・・瓢箪から駒。
 本当にお久しぶりに、やよい先生にお会い出来るかもしれない・・・
 まだイベント前日なのに、こんなことを言っては、チーフをはじめ、社員のみなさまに叱られるでしょうが、イベントが終わるのが今から待ち遠しくなっちゃいます。

 シーナさまの背中をお見送りしたら、会場に残ったのは社員7人だけの状態となりました。
 チーフと開発部は、最終打ち合わせでステージ裏。
 場内には、私と間宮部長さまとほのかさまが手持無沙汰。
 ここに来たときからずっと気になっていたことを、スタッフの誰かにお尋ね出来るチャンスが、やっとやってきました。

「そう言えば、明日のモデルをされる絵理奈さんは、今日はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、もうそろそろ来るんじゃないかな」
 間宮部長さまが、屈託なく教えてくださいました。

「このイベントで誰がモデルをするか、っていうのは、トップシークレットなのよ。彼女もそれなりにネームバリュー持っているからサプライズ的な、ね」
「だから身内といえども、一応当日まで内緒にするの。お手伝いの人たちがみんなはけた後、こっそり来て最終チェックする手はずになっているの」

「でもまあ、オフィスでの打ち合わせとかで、たまに鉢合わせしちゃってたりしてるみたいだから、知っている人もいるかもしれないけれどね」
「さっきチーフがいらっしゃって、こっちはもう少しかかるけれど、あなたたちはもうあがっていい、っておっしゃっていたの」
「あなたたちって、いうのは、ワタシとほのかとナオちゃんのことね」
 おふたりで口々に教えてくださいました。

 早乙女部長さまと絵理奈さまのツーショットが見れないのは残念でしたが、間宮部長さまの、イベント前祝いに3人でどこかで食事でもして帰ろうか、というお誘いが嬉しくて、ご同行。
 美味しいイタリアンをご馳走になって楽しく過ごし、早めに帰宅しました。
 今日は、早めにシャワーして大人しくベッドに入り、脳内で明日の予習です。

 当日は、お昼の12時にオフィス集合。
 仕出しのお弁当を全員でいただいてから、荷物をまとめて部室へ移動して待機。
 わざわざ高層ビルを上り下りして行き来するより、部室からのほうが7階の会議室に断然近いからです。

 午後2時開場、3時開演、5時終演、6時まで商談会。
 打ち上げパーティは7時から隣接のホテルの宴会場。

 私に割り振られたお仕事は、開場までは、受付の補佐。
 スタンディングキャットの男性のかたと一緒にお仕事することになるので不安でしたが、今日少しお話した感じでは、みなさまとても物腰が柔らかく、やっぱり普通の男性とは違う感じがして、ホッとしました。
 なんとかなりそうです。

 開演してからは、一番後ろで会場全体のチェックという、曖昧なお仕事。
 一応インカムを着けて、スタッフの誰かに呼ばれたらすぐ駆けつけるように、というご指示でした。
 その後は、チーフに着いて回って、社長秘書のお仕事。
 打ち上げの席では、ご来場くださったお客様やお得意様のかたがたに、あらためて私をご紹介くださる、とのことでした。
 
 ちなみにイベントの司会は、間宮部長さまで、アイテムの解説役に早乙女部長さま。
 このおふたりがずっとステージに上がられます。

 リンコさまはスタイリストとして絵理奈さまにつきっきり。
 ほのかさまは、リンコさまの補佐。
 絵理奈さまには、その他に専属ヘアメイクのかたもつくそうです。

 ミサさまは、スタンディングキャットのみなさまを手足として使い、音響、照明、スクリーン映写の指示と大忙し。
 コンピューターにお強い里美さまが、ミサさまのお手伝い。

 チーフは、総監督として始終客席でスタンバイ。
 イベント始まりと終わりのご挨拶のために、ステージにも上がるそうです。

 当日は、フォーマルを基本に、自分で考え得る一番オシャレな服装とメイクをしてくること、と社員全員厳命されました。
 早乙女部長さまと間宮部長さま、それにほのかさまは、明日朝一番でヘアサロンのご予約をされているそう。
 そのせいで、集合時間がお昼になったと、間宮部長さまがご冗談めかしておっしゃっていました。

 私は、服装は買ったばかりのシックな茶系のスーツで、インナーのコーディネートもだいたい決めていましたが、メイクに手こずりそうな予感。
 明日は早めに起きてがんばらなくちゃ。

 いろいろ確認していたら、やっぱり私もどんどんワクワクしてきました。
 リンコさまが以前おっしゃっていた、学生時代の文化祭前みたい、というお言葉が、ぴったりな感じ。

 華やかな会場、着飾った人たち。
 生まれて初めて生で観るファッションショー。
 誰もがみなさまお口を揃えて、キワドイ、とおっしゃるアイテムの数々。
 それを身に着けてたくさんの人たちの前に立つ絵理奈さま。
 明日は、そんな絵理奈さまを見守る早乙女部長さまにも注目しておかなくちゃ。

 フォーマルに着飾ったお姉さま、カッコいいだろうな。
 エンヴィのアンジェラさまや小野寺さま、それに純さまにも再会出来るんだ。
 そしてイベントが終わったら、ひょっとすると、やよい先生にも。
 そして次の日から始まる、お姉さまとの休日・・・

 ごちゃごちゃとまとまりのつかない、楽しみ、の洪水の中で、いつの間にかシアワセに眠りに就いたようでした。


オートクチュールのはずなのに 39


2016年2月14日

オートクチュールのはずなのに 37

 翌日は、明後日に迫ったイベントのゲネラールプローベ、つまり、最終の通しリハーサル。
 チーフと早乙女部長、そして企画開発部のおふたりは、午前中から小石川のアトリエへ直行されました。
 営業部のおふたりは出張中で、ほのかさまだけ、お昼頃にオフィスへ戻られるご予定、間宮部長さまは直帰。
  したがって、ほのかさまがいらっしゃるまで、オフィスには私ひとりきりでした。

 朝、出社してすぐ、デザインルームのドアの前へと直行しました。
 昨日、あんなことがあったお部屋が、どんなふうになっているのか、一目見てみたかったからです。
 ドアノブに手を掛け、ノブを回しながら手前にそっと引いてみました。
 やっぱり思っていた通り鍵がかかっていてドアは開かず、デザインルームの内部を覗き見ることは出来ませんでした。

 それからメインフロアをひと通り見回りました。
 電話機とパソコン以外、余計なものは何ひとつ置かれていない、早乙女部長さまの広々としたデスク。
 塵ひとつ落ちていない、ついさっき磨き上げたようにピカピカなリノリュームの床。
 他のデスクもロッカーも、まったくいつもと同じで、各デスク脇に置かれたトラッシュボックスは、すべて空っぽ。
 昨日、私がオフィスを出てからくりひろげられたであろう、部長さまと絵理奈さまによる秘め事の痕跡は、何ひとつ残されていませんでした。

 そこまで確認してから、各窓のロールカーテンを上げました。
 ひとつ上げるたびに、どんどん明るくなる見慣れた室内。
 今日は良いお天気。
 広すぎるくらいの大きな窓一面に、青い空と薄いうろこ雲が広がっていました。

 昨夜のオナニーは、ずいぶんエスカレートしてしまいました。
 最初は、部長さまと絵理奈さまの会話を思い出しながら、それを再現する程度だったのですが、しているうちに、自分がしてしまった行為、すなわち盗聴という浅ましい行為に対する罪悪感と嫌悪感が、心の中でどんどんふくらんできました。

 そんな卑劣なマネをする社員には、徹底的なお仕置きが必要ね。
 私の中のもうひとりの私が、絵理奈さまの声色を借りて、おっしゃいました。

 久しぶりに麻縄で自分のおっぱいをギチギチに絞り出し、洗濯バサミをからだ中に噛ませました。
 両足首に棒枷、マゾマンコとお尻にはバイブレーター、クリトリスにローター、右手にローソク、左手にバラ鞭。
 マジックミラー張りのお仕置き部屋で夜が深く更けるまで、延々と自分を虐めつづけました。
 頭の中では、イヤーフォン越しに聞いた早乙女部長さまのあられもない悩ましいお声が、ずっとずっと、鳴り響いていました。

 早乙女部長さまと絵理奈さまのことは、誰にも言わない、と心に決めました。
 知ってしまった経緯が個人的にも社内的にも後ろめたいものですから、お姉さまにだって言えるはずもありませんけれど。
 一方で、今まで早乙女部長さまに抱いていたイメージが、大きく変わってしまったのも事実でした。
 今日はお見えにならないけれど、次に部長さまにお会いしたとき、私、普通でいられるのかしら?

 お昼ちょっと過ぎにほのかさまが出社してこられました。
 イベントでお客様にお配りするパンフレットやリーフレットを、会社の封筒に詰める作業をしながらおしゃべりしました。

「今度のイベントって、何人くらいのお客様がお見えになるのですか?」
「そうねー、身内っぽい人たちを除くと4~50人、ていうところかしら」
 少し小首をかしげて、可愛らしくお答えくださるほのかさま。

「身内っていうのは、たとえばシーナさんとか愛川さんとか、よくうちにお手伝いにいらしてくださる方々ね。あとスタンディングキャットの人たちとか」
 あの男のひとたちも、身内なんだ・・・

「だから、社員も含めて総勢6~70名っていうところかな。おかげさまで年々増えているの」
「お客様っていうのは、やっぱりお取引先さまとかなのですか?」
「うーん、この夏前のイベントっていうのは、少し特殊でしょ?誰でも呼べばいい、というワケではなくて、なんて言うか、こちらでも選んでいるのね」
 ほのかさまが、少し困ったようなお顔で、考え考え、説明してくださいました。

「ご披露するアイテムが特殊だから、そういう方面にご興味をお持ちの方々だけにご案内しているの」
「具体的に言うと一番のターゲットは、映像関係のお仕事に絡んでいるタレントさんに付いているスタイリストさんたち。映画やビデオ関係のお仕事ね」
「あと出版とか広告業界で、とくにファッション関連に従事されているデザイナーさん」
「プロダクションに所属されていたり、フリーだったり、いろいろ。カッコイイかたたちばっかりよ」
「もちろん、そういうものも扱っているアパレルの問屋さんやバイヤーさん、小売さんも来るけれど、一番お仕事につながるのは、スタイリストさんたちかな」

「あと、個人的なご趣味で毎回何かしらご注文くださる、個人のセレブなお得意さまもいらっしゃるわね」
「扱うアイテムが、ああいうデリケートなものだから、お客様集めにもけっこう気を遣うのよ。基本的に女性しか誘わないし、もし間違って、男性がいらしても入場出来ないから。あ、スタンディングキャットの人たちは例外ね」
 ほのかさまがお困り顔のまま、小さく微笑みました。

「実は私、開発のリンコさんたちから、すごくキワドイアイテムばっかり、ってお聞きはしているのですが、実際どんなのか、まったく知らないんです」
「あら、そうだったの?じゃあ、このパンフの中身もまだ見ていないんだ?」
「はい。どうせならまったく情報を入れずにイベントに臨んだほうが、絶対数倍楽しめる、ってリンコさんたちに勧められて」
「ああ。それはそうかも。それなら直子さん、パンフは広げてはだめよ。明日までおあずけね。きっと当日びっくりしちゃうから」
 イタズラっぽくおっしゃったほのかさまが、意味深な含み笑いで私を見つめました。

「そう言えば、ほのかさんは、デザインルームの中へ入ったことは、あるのですか?」
 朝からずっと気になっていたことがつい、口をついてしまいました。

「もちろんあるけれど、それが何か?」
「あの、いえ、私、ここに入ってから一度も、あのお部屋に入ったこと、ないんです」
「えっ?そうだったの?」
「はい。入社前の面接で、あ、みなさまがいらっしゃらないときに、ここでしたのですけれど、あのお部屋には無断で入ってはいけない、ってチーフがおっしゃってから、一度も・・・」

「ふーん。そうなの。なぜなのかしらね?別に普通のお部屋よ。いかにも、開発の現場、みたいな感じで、いくぶん散らかってはいるけれど」
「どんな感じなのですか?」
 興味津々、知らずに身を乗り出してしまいます。

「そうね。ミサキさんの立派なパソコンと周辺機器一式がデンとあって、リンコさんが使うミシンとかお裁縫用具が棚に整理されていて・・・」
「中は外からの見た目より意外と広い感じなの。デスクには何かアニメのキャラクターらしい美少女フィギュアが飾ってあったりして・・・」
 少し上をお向きになり、思い出すようにポツリポツリ教えてくださるほのかさま。

「そうそう。お部屋の奥のほうはウォークインクローゼットみたいに、サンプルのお洋服がズラーッとハンガーに架けて並んでるの。今まで作ったアイテムね。あと、等身大の、とてもリアルな女性のマネキンと、トルソーも4体くらいあったかな。奥は、倉庫みたいな感じね」
「そんな感じかな。別にチーフが直子さんに見せたくないものなんて、あるとは思えないけれど・・・」
 そこまでおっしゃって、ほのかさまが何か思いついたようなお顔になりました。

「ひょっとしたら、これが理由なのではないかしら。直子さんがチーフの面接を受けたのって、4月の初め頃よね?」
「はい」
「ちょうどその頃、今度のイベントでメインになるアイテムの開発真っ最中だったの。それは本当に、とてもキワドイデザインなの。普通の人だったら、まず着たいとは思えないくらい」
 苦笑いみたいな表情を浮かべたほのかさま。

「そのデザインの試行錯誤中だったから、きっとデザインルームに、その試作サンプルがたくさん飾ってあったはず」
「チーフは、それを直子さんに見せたくなかったのかもしれないわね」
「だって、これから入社しようっていう人に、いきなりそんなえっちなお洋服見せたら、呆れて逃げ出しちゃうかもしれないもの、ね?」
 愉快そうに微笑まれるほのかさまを、まぶしく見つめました。

「そのお洋服も、明後日のイベントでお披露目されるのですか?」
「うん。もちろんよ。モデルの絵理奈さんが、きっと物凄くセクシーに着こなしてくださるはずよ。直子さんも、楽しみにしていて」

 ほのかさまのお口から、絵理奈さん、というお名前が出たとき、私の心臓はドキンと波打ちました。
 一瞬、昨日の出来事を何もかも、ほのかさまにお話しちゃいたい衝動に駆られました。
 でも、なんとか我慢して、その後は当たり障りのないアニメや音楽の話題などで、楽しくおしゃべりして過ごしました。

 その翌日は、イベント会場設営の日。
 珍しく午前中に、社員スタッフ全員がオフィスのメインフロアに集合しました。
 ものすごくお久しぶりな間宮部長さまは、私の顔見るなり駆け寄ってきて、ギュッとハグしてきました。

「うわー。久しぶりー。相変わらずナオちゃんは可愛いねえ」
 私の髪をクシャクシャしながら、満面の笑みで見つめてくださいました。

「ほのかに聞いたよ。ナオちゃん、みんなの前でバレエ踊ったんだって?ワタシも見たかったなー」
「あ、いえ、そんなたいしたものでは・・・」
 やわらかいおからだにグイッと抱き寄せられながら、ドギマギしちゃう私。

「ワタシだけ見れないなんてズルイじゃない?そうだ。イベントが終わったら打ち上げで、踊って見せてよ。これは部長命令ね」
 ご冗談めかしておっしゃる間宮部長さまを、ほのかさまが嬉しそうに見つめていらっしゃいました。

 早乙女部長さまは、いつものようにご自分のデスクで、パソコンをあれこれ操作されていました。
 横にお座りになったリンコさまとミサさまと、パソコンのモニターを指さしながらなにやら小声でご相談されています。
 いつものようなポーカーフェイスで、いつものように凛々しく優雅に。
 一昨日、私が耳にした会話は全部、私の妄想がもたらした幻の空耳だったのではないかと思っちゃうくらい、いつもの気品溢れる早乙女部長さまでした。
 そんな早乙女部長さまを横目でチラチラ窺がっていると、チーフが私の横にお座りになりました。

「決算終了、ご苦労様。森下さん」
 ちょっとわざとらしいくらいのお声でそうおっしゃってから、私の右耳に唇を近づけられ、コショコショつぶやかれました。

「チョーカー、似合っているじゃない?直子。それをずっとしてるっていうことは、ずっとムラムラなのね?」
 それから、私が開いていたノートパソコンのキーボードに右手を踊らされ、素早くメモ帳を開いて素早くタイピングされました。

「イベントが終われば時間空くから、この週末はたっぷり虐めてあげる」

 スクッと立ち上がったチーフの後姿が社長室のドアの向こう側に消えるまで、ボーっと眺めていました。
 消えてからは、目の前の、たった今チーフがタイピングされた文字列を何度も何度も読み返しました。

 イベントが終われば、私のお姉さまが私の元に戻ってくる。
 大型連休以来、待望のふたりだけの時間。
 今度は、どんなご命令で虐めてくださるのだろう。
 そう言えば、社長室に飾ってあるピンクの鞭も、お姉さまから使われたことはまだなかったのだっけ。
 イベントが終われば、休日にまで出社してオフィスにこもるスタッフもいなくなるだろうから、このオフィスで虐めて欲しい、ってリクエストしてみようか。

 チラッとまた、早乙女部長さまを盗み見ました。
 部長さまと絵理奈さまの淫靡な会話が、頭の中によみがえります。
 私にだって、お姉さまがいるもの。
 ああん、早く明日が来て、早く明日が終わって、早く週末になればいいのに。

 お昼は、みなさまとご一緒に仕出しのお弁当をいただき、午後からはいよいよイベント会場の設営開始。
 イベント会場は、このオフィスビルに隣接されている多目的ホール7階にあるレンタル会議室の一室。
 本番は明日ですが準備のために、今日、明日と二日間借り切っているのだそうです。

「お手伝いの人たちには、午後1時に現地集合って伝えてあるから、そろそろ移動しましょう」
 早乙女部長さまの号令で、スタッフ全員立ち上がりました。
 だけど、ここでも私はお電話番でお留守番。

「イベント間近は、ご招待客からの確認電話がけっこうあるからね。今日、東京来て一泊する地方の方も多いし。しっかりお留守番、頼むわよ」
 オフィスを出て行く直前に、念を押すようにチーフがおっしゃいました。

「2時開場、3時開演、5時終演、6時まで商談会。打ち上げパーティは7時から隣接のホテルの宴会場、会費無料。聞かれたら間違えないでね」
「電話さえしっかり受けてくれれば、あとはマンガ読んでいようがネットサーフィンしていようが、かまわないから」

 チーフにポンと肩を叩かれ、それを聞いたミサさまは、わざわざデザインルームに戻り、大学のオタクサークルが舞台のコメディマンガ単行本を10数冊、私のデスクの上に積み上げてくださいました。
 でもこのマンガ、私、全巻持っているのですけれど・・・

 ときどき電話を受ける以外は、この週末、お姉さまにどうやって虐めていただくかばかりを考えて過ごしました。
 
 オフィスでするとしたら、あの面接のときみたいになるのかな?
 出来ればデザインルームにも入れてもらって、ほのかさまがおっしゃるところの、私が呆れちゃうくらいえっちなお洋服っていうのも着せてもらいたいな。
 それに、やっぱりオフィスの中だけではなく、連休のときみたいに、お外にも恥ずかしい姿で連れ回してもらいたいし。

 でも、そうなると池袋の街ということになるから、変装しなくちゃいけないかな。
 私はいいけれど、お姉さまにとって大事なお仕事の拠点なのだから。
 だったらウイッグも用意しておかなくちゃ。
 確かシーナさまが純さまのお店で買ってくださった、ショートボブのがあったはず・・・
 妄想はとめどなく溢れ出て、今からそのときが愉しみでたまらなくなっていました。

 5時を過ぎたら転送電話に切り替えて合流なさい、と言われていたので、5時過ぎに戸締りをしてオフィスを出ました。

 週末が一番の愉しみでしたが、明日のイベントもやっぱり楽しみでした。
 社員のみなさまがお口を揃えてキワドイとおっしゃるアイテムを、50人以上もの人の前で、あの華やかな絵理奈さまが身に着けて、ご披露するのですもの。
 
 そういうのって、どんな気持ちになるのだろう・・・
 他人事ながらワクワクドキドキしちゃいます。
 エレガント・アンド・エクスポーズ。
 一体どんなに恥ずかしい衣装なのだろう・・・

 エレベーターを乗り継いで、会場のある7階フロアにたどり着きました。
「あっ、ナオっち、おつかれー」
 目ざとく私をみつけてくださったリンコさまがお声をかけてくださいました。

 会場の出入り口ドアとなるのであろう周辺には、見慣れない人たちがガヤガヤとたむろされ、その奥にリンコさま。
「もう大体飾り付けも終わったから、中へ入ってみればー」
 大きなお声で私に手招きくださっています。

 入口にたむろされている方々は男性が多く、その数5~6名くらい。
 なんとなく見覚えがあるお顔も見えるので、おそらくスタンディングキャット社からの助っ人の方々なのでしょう。
 ということは、このかたたち、全員ダンショクカさん?
 モジモジしつつ、リンコさまのほうへ近づいていきました。

「あ、一応紹介しておくね。明日のイベントのお手伝いをしてくださるスタンディングキャットのみなさん。橋本さんと本橋さんには前に会ったことあるのよね?」
「は、はい・・・」
 見覚えのある体育会系マッチョのハンサムさんとインテリ風メガネのハンサムさんが、同時にニッと笑って会釈してくださいました。

「この子は、森下直子さん。うちの期待の新人でバレエの名手。バレーつってもハイキューじゃなくて白鳥とかのほうね」
 ほぉーっ、って感心されたような低めのお声が一斉にあがり、思わずうつむいてしまいました。

「でも、ぜんぜん男馴れしていないお姫様だから、ちょっとでも苛めたりからかったりしたら、このアタシが承知しねーからなっ!」
 リンコさまが、半分冗談ぽくドスの効いたお声で啖呵をお切りになると、そこにいた男性全員が一斉に野太いお声で、
「へいっ、姉御!」
 一瞬、間を置いて、一同がドッと沸きました。
 みなさま、ずいぶんよく訓練された王国民のようです。

「こっちが柏木さんで、こちらが右から阿部さん、道下くん、春日くん」
 がっちりした人や少しナヨッとした人、ドギマギしてしまってまともに視線を合わせられないのでよくはわかりませんでしたが、みなさまビジネススーツがよくお似合いなイケメンさん揃いでした。

「彼らは、明日のイベントの言わばボディガードみたいなもの。興味本位で潜り込もうとするゴシップ雑誌記者とかもいるのよ。そういう輩を見張ってくれるの」
「あと、受付とか音響とかパワポの操作とか。もちろん撤収のときの力仕事もね」

 私に向かって、さわやかスマイルを放ってくださるイケメンさんたち。
「よ、よろしくお願いしまーす」
 小さな声でモゴモゴ言って、ペコペコとお辞儀をしながら、だんだんドアへと近づき、ようやくイベント会場の中に入れました。


オートクチュールのはずなのに 38


2016年2月7日

オートクチュールのはずなのに 36

「うふふ。剃り残し発見。やっぱり自分では、お尻のほうまで丁寧に剃れないものね?お尻の穴の周りに縮れたヘアがポツポツ、チョロチョロって」
「あぁーーいやーっ、見ないでリナちゃん・・・」
「失敗したなー。カミソリ、持ってくればよかった。ま、いいや。イベント終わったらじっくり、キレイに剃ってあげるね」

「あんっ!痛ぁい!」
「才色兼備な部長さんは完璧じゃなくちゃ。これじゃあカッコ悪いもの。ほらー。こんなに長いのが肛門の縁に生えてたー」
「あぅぅぅ・・・」

 私もあわてて、自分のお尻の穴の周辺に指を滑らせました。
 幸か不幸かまったくのスベスベ。
 なので、早乙女部長さまの恥毛を抜いたのであろう絵理奈さまのイタズラは、再現できませんでした。

「ねえ、アヤ姉があたしのヘアを剃ったときのこと、憶えてる?」
「仰向けのまんぐり返しで、こーんなに脚を広げさせられて、アヤ姉がお尻にくっつくほど顔を近づけて」
「あうーーっ、いやーっ・・・」

 おそらく絵理奈さまが部長さまの両脚を無理矢理、思い切り押し広げられたのだろうと思い、私も両脚をMの字からVの字に変え、左右に150度くらい広げました。

「あのときのアヤ姉の顔、すごくいやらしかったわよ。目を爛々と光らせちゃって、口は半開きで、今にもよだれを垂らしそうな」
「あたしも仕事柄、ヘアのお手入れでサロンには通い慣れているけれど、あそこまで恥ずかしいことされたのは初めて」

「ピンセットで丁寧に、一本づつ抜いてくれたわよね?こんなふうに」
「あたしの前と後ろの穴に指を挿れたまま、動いちゃだめよ、って叱りつけて、こんなふうに」
「あたし、それをされながら、アヤ姉って、正真正銘のどスケベなヘンタイさんなんだって、確信したんだ」

 絵理奈さまがお話されているあいだ中、部長さまはアンアン喘いでいらっしゃいました。
 ときどき、痛いっ!っていう呻き声が混じるのは、きっと恥毛を抜かれているのでしょう。
 私も、前と後ろの穴に指を挿入し、部長さまが喘ぐお声にリズムを合わせました。

「初めて事務所で会ったときに、ピンときたの。あ、この人、あたしに興味持ったな、って」
「あたし、そういうとこ、鋭いのよ。自分が好かれたか嫌われたか、第一印象でわかっちゃうの」
「アヤ姉が初対面で、相手のからだのサイズを全部見破っちゃうのと同じね」

 部長さまがずっと、低く高くアンアン喘がれているのもおかまいなしに、絵理奈さまが冷静なお声でお話つづけます。
 部長さまの吐息が、着実に昂ぶっていくのがわかります。
 絵理奈さまの指は、お話のあいだも堅実にお仕事をされているようです。

「あたしたちって会って2回目で、もうしちゃったでしょう?あれは、言わばあたしの枕営業。ギャラ良かったから、アヤ姉の仕事、絶対獲りたかったの」
「あたしとしたがってるって、丸わかりだったもの。せっぱつまった顔であたしのことじーっと見て」
「だけど離れられなくなっちゃった。だって、アヤ姉、とても上手なんだもん、気持ちいいこと」

「アヤ姉のためなら、どんな恥ずかしい衣装だって着れるけれど、アヤ姉がいつも余裕綽々なのがニクタラシかった」
「だから、ちょっとゴネて交換条件出したの。アヤ姉にだって、絶対エムっぽい一面もあるはずだと思って」

「うふふ。いい格好。眉目秀麗で名高い部長さんのこんなにいやらしく歪んだ顔見れるのって、世界中であたしだけよね。いつもの、わたくしは何でもわかっています、みたいな上から目線は、どこにいっちゃったのかしら?」
「おっと、おあずけー。まだイカせてあげない。そんな顔したって、だめなものはだーめ。イキたかったらちゃんとあたしにお願いしなくちゃ」

「リナちゃんお願い、もっと、もっとして・・・もうちょっとなの、もうちょっとで・・・お願いぃぃ」
「うわー、お尻の穴がおねだりするみたいにヒクヒクしてる。指抜かれちゃって、そんなに寂しい?」
「もっとおねだりしていいのよ。ほら、自分で力入れて、開いて、すぼめて、開いて、すぼめて」

「肛門と一緒にラビアもウネウネ動くのね?こんな格好、いつも部長さんに叱られている他の社員や取引先の人が見たら、どう思うかしら」
「ほら、まだやめていいなんて言ってないわよ?やめたら金輪際、弄ってあげないから」
「あふぅぅ・・・」
 部長さまの、聞いているだけでゾクゾクしちゃうような、せつなげなため息。

「ふふん。株式会社イーアンドイーが誇るクールビューティも、こうなっちゃったらただのメス犬ね。乳首もこんなにおっ勃てちゃって」
「はぅっ!歯を立てないで・・・ううん、もっと立てて・・・ちぎれるくらいにぃ・・・」
「こう?すっごく固くなってるわよ?コリッコリ。こっちのおマメも」
「あぅっ!そう、そこぉ・・・そこよぉ・・・」
「仕方ないなあ、指も戻してあげる」
「あぅっ!そこ、そこ、そこそこぉ、もっと、もっとぉ・・・あああああーーーっ!!!」
  
 絵理奈さまの嗜虐的なお声と部長さまのあられもない懇願の果て、一際甲高い部長さまの悲鳴が響き、椅子の上の私の腰も、それに合わせて一段高く跳ね上がりました。

「ハアハア、あと、ねえリナちゃん、ハアハア、うちの社名は、イーアンドイーではなくて、ダブルイー、だから・・・」
 荒い息の中から振り絞るような、部長さまのお声が聞こえました。
「あれ?そうだったっけ?あたし、そういうのあんまり気にしないから」
 とぼけたような絵理奈さまのお声。
 その後すぐ、パッチーンという小気味良い打擲音がつづきました。

「はうぅっ!」
「アヤ姉ったら、こんなにされてもまだ、そんなことが指摘出来る余裕があるの?もー、ニクタラシイ。こうなったら徹底的に虐めちゃう。一切あたしに口答え出来ないくらいに。そこに四つん這いになって」
 もう一度パッチーンと音が響き、しばらくガサゴソする音が聞こえていました。
 ついさっきイッて間もないのに、早くも早乙女部長陵辱調教第2回戦の始まりのようです。

 私はと言えば、椅子の上では四つん這いになることが出来ません。
 かと言って、床の上でなるとイヤーフォンが届かなくなってしまいます。
 仕方がないので椅子を降り、デスクの上に上半身を伏せ、お尻を突き出すような格好になりました。
 デスクに押し付けたおっぱいがひしゃげ、尖った乳首がムズムズ疼きました。

 しばらくガサガサ、ジャラジャラが聞こえた後、絵理奈さまのお声。
「ほら、これ。見える?」
「あんっ、まさか、そ、それを、挿れるの?」
 怯えたような部長さまのお声。

「言ったでしょ?アヤ姉があたしにしたこと、全部やってあげる、って。言うなれば今日は、あたしがイベントでちゃんと気持ち良く仕事出来るように接待する、早乙女部長さんのアタシに対する枕営業なのよ。だから、どんな要求だって、部長さんはノーとは言えないの」

 絵理奈さまが部長さまに、何をお見せになったのかはわかりません。
 でも、お尻か性器をイタズラする何らかのお道具であることは確かだと思いました。

「もっと力抜かないと入らないわよ?段々太くなっていくんだから・・・」
 絵理奈さまのそのお言葉でお尻のほうだと思い、私も自分のお尻の穴に人差し指を挿入しようとあてがった刹那・・・
「トゥルルルルルッ・・・」
 電話機の呼び出し音が、びっくりするくらい大きく響きました。

 一瞬、頭の中が真っ白になってフリーズ。
 その後すぐ、あ、そうだ、お仕事なんだ、出なくちゃ、と理解し、あわててデスクから上半身を起こしました。
 その拍子にイヤーフォンが左右とも、両耳からスポンと抜け落ちました。

「は、はい。お待たせしました。お電話ありがとうございます。株式会社ダブルイーでございます・・・」

 全裸でお仕事のお電話に出るなんて、もちろん入社以来初めて。
 立ち上がって受話器を耳に押し付け、ふと視線を下に落とすと自分の尖った乳首が痛々しく背伸びしていました。
 私、なんて破廉恥なことをしているのだろう・・・
 今更ながらの強烈な背徳感と羞恥心が全身を駆け巡りました。

 そのお電話は予想通り、税理士の先生からのものでした。
 幸いなことに書類にも数字にも何の不備も無く、そのまま税務署に申告されるということで、納める税金の総額と明細を教えてくださいました。

 それをメモしながら、私はがっかりしていました。
 だって、その電話が終わってしまえば、私は帰宅しなければなりません。
 部長さまと絵理奈さまの淫靡なヒミツを、それ以上聞くことが出来なくなってしまうのですから。

 受話器を置いて壁の時計を見ると、まだ夕方の5時を少し過ぎたところでした。
 デザインルームにも電話機があるのは、今まで何度か部長さまやリンコさまに取り次いだ経験上、知っていました。

 今のお電話、気づいたかしら?
 おふたりがプレイに夢中になっていて、気づかなかった、ってこともありえるかも。
 部長さまには、7時くらいまでには、ってお教えしたから、もしも気づいていなければ、まだ帰るのを引き伸ばせるかもしれない。
 一縷の望みを託し、大急ぎで外れたイヤーフォンを両耳に挿し直しました。

「・・・だったのかしら?」
「あたしは、呼び出し音は聞こえなかったけれど、電話機のライトがピカピカしていたのは事実よ。この目ではっきり見たもの」
「そうね。音量は絞ってあるから。でも、通話は短かったわよね?ライト、すぐ消えたもの。あんっ!ちょっとお願い、動かさないでくれる?頭が働かないわ・・・あぁんっ」

「その、なんとかって子が帰ったら、堂々とフロアに出れるんでしょ?だったら早く帰しちゃいなさいよ」
「でも、今の電話がそうだったのか、わからないもの・・・」
 どうやら電話があったことには、気づかれたようでした。

「いっそのこと、こっちから内線しちゃえば?それで、そうだったら、さっさと帰れっ、って。違ってたら仕方ないし」
「あんっ。そ、それもそうね。違ったら、こちらからも一回、先生にかけてみなさい、って言うわ」
「うん。それがいい。ただし、そのオモチャは全部、挿したまんま電話するのよ。いつもみたいなお澄まし声で」
「えっ!?、そ、そんな・・・もしバレちゃったら・・・あんっ、どうするのぉ?うちの社員なのよ?」
「だったらバレないように、せいぜいガンバレばいいじゃないの?これもお仕置きの一環。さっきあたしに口答えした罰ね」
 心底楽しそうな絵理奈さまの弾んだお声。

「もたもたしていると、バイブのおかげで、もっともっと高まっちゃうんじゃない?それとも、イク寸前に電話して、いやらしい声を社員に聞かせたいのかしら?」
「わ、わかったわ。だから、あんっ、お願いだから、電話しているあいだ、それを、動かさないで・・・ああんっ」
「それって、これ?それともこっち?うーん。約束は出来ないなー」
 からかううような絵理奈さまのイジワル声の後、数秒して、こちらの内線が鳴りました。

 深呼吸して一呼吸置いてから、受話器を取りました。
 左耳にだけイヤーフォンを挿し、右耳に受話器を押し付けて耳を澄まします。
「はい・・・森下です」
「今、電話があったみたいだけれど、先生から?」
 部長さまの静かなお声が聞こえてきました。

 状況がわかっているためでしょうが、部長さまのお声はとても艶っぽく私の右耳に響きました。
 この電話の向こうで部長さまは、一糸纏わぬ姿で、パイパンにされた秘部と、おそらくお尻の穴にも異物を挿し込まれている状態。
 それなのに、極力平静を装う、わざとらしいくらいの事務的な口調。
 受話器の奥から、バイブレーターが唸るブーンという音まで、低く聞こえてくるような気がしました。
 そして、そんな電話を受ける私のほうも、マゾマンコをグショグショに濡らした全裸。
 数秒の沈黙が、何時間にも感じました。

 ・・・いいえ、違いました。保険の勧誘のお電話でした・・・
 ・・・だから私、まだ帰れません・・・
 
 帰りたくない言い訳が、まず頭に浮かびました。
 でも、この先ぜんぜん、誰からもお電話がかからなかったらどうしよう・・・
 帰るきっかけがつかめずに、あとで先生に直接確かめられたりしたら・・・
 嘘をつき通せる自信がありませんでした。

 ・・・そんなことより、おふたりは今そこで、何をされているのですか?・・・
 ・・・今、どんなお姿なのですか?・・・・
 ・・・私が今、何をしているのか、知りたくないですか?・・・
 
 つづいて、部長さまにお尋ねしたいことが次々と、頭の中を駆け巡りました。
 だけどそんなこと、言い出せるはずがありません。
 私が口にしようとしている言葉は、部長さまを裏切るような形、つまり盗聴と言う卑怯な手段で知ってしまったヒミツなのですから。

「はい。先生でした。何も問題は無かったそうです」
 ゆっくりと、正直にお答えしました。
「そう。よかった・・・」
「それで、今期の納税額は・・・」
「あっ、そ、それは後でいいわ。今聞いても忘れちゃうから、イベントが終わったらゆっくり報告してちょうだい」
 ホッとされた部長さまの一刻も早くお電話を切りたいご様子が、その焦ったような口ぶりでわかりました。

「はい。わかりました」
「ご苦労様。戸締りして帰っていいわよ。あ、帰るときはメインフロアの灯りと空調消して、外鍵も締めていってちょうだい。わたくしたちは、もうしばらく、ここにこもることになりそうだから」
「わかりました、それでは、お先に失礼させていただきます」
「はい。お疲れさま。ごきげんよう」
 プチッとお電話が切れました。

「やっぱり先生だったって。よかった。これでやっと、心置きなく愉しめるわ」
「さすがアヤ姉ね。とてもオマンコにバイブ突っ込まれて、アナルビーズ出し挿れされているようには思えない、名演技だったわよ?」
「あぁんっ、動かさないで、ってお願いしたのにもうっ!リナちゃんはイジワルなんだから」

「うふふ。その代わり名演技のご褒美に、ここからは全力でイカせてあげる。それで今度は、フロアに出て念願のオフィス陵辱プレイをするの」
「だ、だめよまだ。彼女がフロアに出たときに、わたくしが大声あげちゃったらどうするの?電気と空調を消すように指示したから、あの子が出て行くまで静かにしていましょう。空調消したら、そこのパネルでわかるから」

「そんなの、アヤ姉が声をがまんすればいいだけの話じゃない?イキたいんでしょう?あたしがイカせてあげるって言ってるんだから、大人しく従いなさいっ!」
「あっ、あっ、だめ、だめっ、そんな、激しく、あっ、あーーっ・・・」
 
 そこまで聞いたところで、私は静かにイヤーフォンを外しました。
 心の底から愉しそうな、和気藹々としたおふたりのご関係を、とても羨ましく思い始めていました。

 なんだか心身ともにすごくグッタリしていました。
 疲れとか驚きとか、そういうことだけではなく、ムラムラが溜まりに溜まり過ぎて、からだと気持ちが重くなっていたのだと思います。
 早くお家に帰って、心行くまで思う存分オナニーしたい。
 そんな心境になっていました。

 ウェットティッシュで自分のからだと汚した床や椅子の上を丁寧に拭き、モゾモゾと脱ぎ捨てたお洋服を着直しました。
 ブラジャーは着けましたがショーツは穿かず、ジーンズを素肌に直に穿きました。
 それからパソコンを消し電気を消し、わざと大きめな音がするように社長室のドアを閉じました。

 メインフロアに出て、そーっとデザインルームのドアまで近づき、聞き耳を立ててみましたが、何も聞こえてきませんでした。
 とてもしっかりした防音のようです。
 灯りを消してから空調を切り、デザインルームのドアに向かって、ごゆっくり、と一言つぶやいて一礼し、廊下に出ました。

 エレベーターでひとり階下へ降りているあいだ、忘れ物をしたフリをしてもう一度オフィスに戻ったら、どんなことになっちゃうのだろう?なんて妄想しました。
 もちろん実行に移すことは無くオフィスビルを出て、翳り始めた夕暮れの家路を急ぎました。

 もうすぐお家、というところまで歩いたところで立ち止まり、オフィスビルを振り返って見上げると、消したはずの明かりがまた、豆粒ほどの小さな窓に灯っていました。
 部長さまと絵理奈さまは、今もあの窓の中で淫靡な秘め事を、思う存分愉しんでいらっしゃるのだろうな・・・
 いいなあ、部長さまも、絵理奈さまも・・・
 
 今すぐにでもお姉さまにお逢いして、そのしなやかな腕で抱きしめて欲しくてたまらない・・・
 なぜだかそんな、人肌恋しいセンチメンタルな気分になっていました。


オートクチュールのはずなのに 37

2016年1月31日

オートクチュールのはずなのに 35

「自分でスカートめくり上げるの。今日はあたしの言うこと、何でも聞いてくれる約束でしょ?」
 しばらく沈黙がつづきました。
 監視カメラ、つまり、それに付随するマイクが天井に取り付けられているからでしょうか、お声がなくなると、空調の無機質な持続音がやけに大きく両耳に響いてきます。

「へー。奇麗になっているじゃない?ちゃんと約束守ってくれたんだ。嬉しい」
 また少し沈黙。
「いつやったの?」
「・・・ゆうべ・・・シャワーの後に・・・」
 やっと早乙女部長さまらしきお声が聞こえてきました。
 でも、いつもの余裕綽々なご様子ではぜんぜんなく、今にも消え入りそうなか細いお声。

「ねえリナちゃん?もう下ろしてもいいでしょう?こんなの恥ずかし過ぎるわ」
 切羽詰ったような部長さまのお声を、撥ねつけるように絵理奈さまの鋭いお声が遮りました。

「何言ってるの?あたしなんか誰かさんのせいで、イベント当日はその何十倍も恥ずかしい格好で人前に出るのよ?わかってるの?」
「あたしも着エロの仕事で、ずいぶんエロい衣装を着せられてはきたけれど、ここの会社のは次元が違い過ぎ。よくあんないやらしい、変態じみた衣装をいくつも考えられるものよね」
「それに、あたしがこの仕事を請ける条件、忘れちゃった?その代わり部長さんのからだを一日好きにさせて、って、あたしが提案したら、それにうなずいたのは、他でもない、部長さんでしたよね?」
 またしばらく沈黙。

「もっと近づいてよ。隅々までじっくり見せて」
「・・・ぁぅぅ・・・」
 部長さまの、小さく喘ぐようなお声が微かに聞こえました。

「それで、あたしとの約束通り、オフィスに誰もいなくなったら、すぐにノーパンになってあたしを待っていたのよね?パンツ脱ぐときは、窓際で外を向きながら、とも言っておいたはずよ」
「そ、それが、ちょっとアクシデントがあって・・・」
「しなかったの?」

「社員のひとりがどうしても残っていなければならない大事な仕事があって・・・だから今も社内にいるの・・・」
「だからさっき、どこかに電話をかけてたんだ。誰が残ってるの?」
「森下さんていう、新人の子」
「ああ、いつもお茶出してくれる、あの気の弱そうな子か」

「でも、それってスリリングで面白いんじゃない?部長さんのえっちな声が外に洩れて、その子にバレちゃったりして」
「・・・それはたぶん大丈夫。森下さんにはずっと社長室にいるように言ってあるし、ここと社長室は離れているから」
「それに、この部屋では、ミシンかけたり、けっこう大きな音を出す工具仕事もするから、防音を施してもあるの」
「ふーん。それであたしをこの部屋に連れ込んだんだ。でも、いくら防音だからって、過信はしないほうがいいと思うな。今日、あたし、部長さんのからだをとことん、思う存分愉しむつもりだから。それこそ、部長さんが、その奇麗な顔をクシャクシャにして泣き叫んじゃうくらいに」

「あ、それと、これも忘れないでね。今日という日付を指定したのも、オフィスでやりたい、って言い出したのも部長さんのほうなんだからね?社員が残っているのがアクシデントなら、それは部長さんのミス」
「もしも部長さんが、防音も役に立たないくらいのあられもない声をあげて、その新人の子に聞かれちゃって、社内での立場がおかしくなっちゃったとしても、それは全部、自己責任よ」

「部長さん、仕事のときは凄く凛々しくて社員にも厳しいものね?そんな部長さんが、自分でスカートめくり上げて、年下のあたしに、自分でパイパンにしたオマンコを見せつけているんだもの」
「森下さんとやらがこの光景を見たら、どう思うかしら?写真に撮って、持っていって見せてあげたいわ」
「いやっ。リナちゃん、写真だけはやめて」
 部長さまの悲痛なお声。

「冗談よ。あたしだって、別に部長さんを追い詰めたいわけじゃないもの。ただ、たまには変わったシチュエーションで愉しみたいだけ」
「はぅぅっ!」
 不意に部長さまの甲高い吐息。

「うわっ、ビッチャビチャ。いつもの倍くらい濡れてる。そんなにノーパン、気に入った?」
「あっ、あっ、あっぅん・・・」
「いつもはあたしに好き放題して悦んでいるのに、今日はすっかりしおらしいのね。ひょっとして部長さんも、マゾっ気、あるんじゃない?」
 部長さまの悩ましげなため息が、絶え間なく聞こえてきます。

「クチュクチュいってる。クリちゃんもフル勃起。早乙女部長さんって、いやらしーっ。指、増やしてあげよっか?」
 絵理奈さまのからかうみたいな、心底愉しそうななお声。

「さっきの話のつづきだけど、それならいつ、ノーパンになったの?」
「あんっ、か、彼女が帰れないことを知って、あぅ、あわててトイレへ行って・・・あっ、あっ・・・」
「約束を守ろうとする、その心がけはエライいじゃない?気づかれなかった?」
「あっ、い、いいっ、た、たぶん・・・」
 喘ぎながらも一生懸命お答えしようとしている部長さまのお声が、すっごくエロい。

「脱いだパンツ、見せてよ」
「あっ、あっ、あっ」
 喘ぎ声と共に、衣擦れのガサゴソ。
「脱いだパンツとパンストをスカートのポケットに入れとくなんて、エレガントな部長さんのすることではなくってよ」
「あん、だめ、あっ、ス、スカートが、汚れちゃうわ、ぁぅぅ・・・」
「こんなときでも、身だしなみには気を遣うのね。ご立派な部長さんだこと。汚したくなかったら、しっかりめくっていなさい」
「いい、いい、いいーっ・・・・」
「うわ。ちょうどオマンコのところがベチョベチョじゃない。パンツも、パンストにまで。パイパンにしたから感度上がったのかな?」
「ということは、部長さんたら、部下と仕事の話しながらも、ジワジワ、オマンコ濡らしていたんだ?」
「いやっ、あんっ、そんなイジワル、いぃぃ、言わないで・・・」

「それに、パイパンにすると、ただでさえ派手なラビアが丸出しになって、すごく卑猥。まるでブラックローズ。濃赤の薔薇の花みたい。ビラビラが指に絡み付いてきてるわよ?」
「あん、あん、いや、引っ張っちゃだめ、そこ、そこ、ああんっ・・・」
「でもあたし、部長さんのこのオマンコ、大好きだな。あったかくて、締め付けも良くて。部長さんて、ルックスはエレガントで品がいいのに、オマンコだけは思いっきりお下品なのよね?」
「・・・あふぅ、そこ、そこもっと、そこがいいのっ、リナちゃん・・・」

「たまには攻めと受けを変えてみるのも新鮮じゃない?いつも、あたしばっかりイカされてるから」
「あん、リナちゃん、もっともっとぉ・・・」
「ほら、そんなに腰をガクガクさせたら、おツユが飛び散って、それこそスカートが汚れちゃうわよ?」
「あうううっ、あーんっ、あーーーーーっ!」
 部長さまのお声がどんどん大きくなり、激しい衣擦れのような音と共に、ブチュブチュという淫靡な音まで聞こえてきました。
「今、3本よ。どう?イキそう?イクときは言うのよっ!」
「ああん、いいっ、いいっ、いいいいいぃぃぃっ・・・」

「はうぅんんんんぅぅぅ・・・」
 固唾を呑んで聴覚に集中していたら、突然、気の抜けたような部長さまのお声。
 やるせなさそうな、ハアハアという荒い息遣いがせわしなくつづきました。
「そんなにあっさりイカせてはあげないわよ。いつもあたしにしていること、そっくりそのままやってあげる。ほら、服、全部脱いで。早乙女部長さん?」
「そんな目で見たって駄目よ。今日は焦らしに焦らしまくってあげる」
 ガサゴソという衣擦れの音。

「・・・ねえ、リナちゃん?その、わたくしを、部長さん、て呼ぶのやめない?なんだかとても、気恥ずかしいわ」
「あら、なんで?せっかくアヤ姉のオフィスでの陵辱プレイなんだから、それっぽい雰囲気出るようにわざわざ呼んであげているのに」
「それは、そうなのだけれど、ここはわたくしの現実の職場だし、そこでこんなことをして・・・なんだかとてもイケナイことをしているような気になって・・・それに、社内に社員もまだいることだし・・・」
 途切れ途切れに弁明される部長さま。
 ときどきお声がくぐもるのは、お洋服を脱ぐためにうつむいたりされているせいでしょうか。

「そういうのを期待してアヤ姉は、今日、ここでしよう、って言ったんじゃないの?自分の職場っていう、何て言うか、背徳的なシチュエーション?」
「そうだけれど、まさか社員が残るとは思っていなかったのよ。ふたりだけになれると思って・・・」
「あたしだって心外だわ。本当は、早乙女部長さんの、あのご立派なデスクの上でM字開脚させて、パイパンオマンコをじっくり虐める心積りだったんだもの」
 絵理奈さまのお声もときどきくくぐもるので、おそらく絵理奈さまもお洋服を脱がれているのでしょう。

「それで、ビルの窓から外向かせて、アヤ姉のイキ顔を世間様に晒してもらおうと思っていたのに、とんだ計画倒れ。この部屋、窓がないんだもの」
「でも、まあいいわ。その、なんとかって子が帰ったらフロアに出ましょう、時間はたっぷりあるし。オモチャもたくさん持ってきたの。全部、部長さんがあたしに使ったものだから、それを部長さんに使ったって、文句を言われる筋合いはないわよね?」
「あっ!リナちゃん、ジーンズの下に、それを着てきたの?」
 突然、部長さまのびっくりしたようなお声が響きました。

「そうよ。部長さんたちが丹精込めてお作りになられた、この破廉恥なキャットスーツ。あたしのからだをさんざん撫で回しながら採寸して、あたしのボディラインが丸出しになるように仕立てられた、セクハラみたいなラテックススーツ」
「さすがに来るときはこの上に、Tシャツかぶってきたけどさ。通り歩いているだけで、なんだかムラムラしちゃったわよ」
「おまけに、ご丁寧に、おっぱいと股のとこだけジッパーでパカッと取り外して露出させるなんて、誰がこんな変態仕様を思いついたのよ?」
「それは・・・欧米のボンデージ界隈では普通のことなのよ。ラテックスフェティッシュはアートの世界でも一目置かれていて・・・」

「そんなこと聞いているんじゃないの。アヤ姉は3日後に、あたしにこれを着させて、大勢の人の前に晒すのでしょう?イベントのショーでは、ジッパーも外して、あたしのおっぱいとオマンコを見世物にするのでしょう?」
「ううん。もちろんちゃんとパスティーズと前貼りはするから」
「そういう問題じゃないのっ!」
 苛立ったような絵理奈さまの大きなお声が響き渡りました。

「あたしだってプロだから、一度引き受けた仕事はちゃんとやるわよ。でも今日、アヤ姉が、たかがオフィスでノーパンになったくらいで、恥ずかしいとか言ってるのに、カチンときちゃっただけ。あたしはもっと恥ずかしいのに・・・」
「うん。わかっているわ。ごめんねリナちゃん。だから今日はわたくしに、どんなことをしてもいいから。それでリナちゃんの気が晴れるのなら」
「ふん。アヤ姉のそういうところがニクタラシイのよね。真っ裸でオマンコグショグショにしているクセに、なんか余裕があるところが」
 絵理奈さまの拗ねたような憎まれ口。

「それに、やっぱりアヤ姉のからだって、奇麗過ぎる。おっぱいの形も、お腹もお尻も全部。ズルイくらいに」
 絵理奈さまのお声から、さっきまでの苛立ったご様子はすっかり消え、どことなく甘えているような口調に変わっていました。

「ま、いいか。今日は、その奇麗なからだをめちゃくちゃに辱めてあげるんだから。ほら、ぼーっと立っていないで、そこに四つん這いになって、あたしの脚をキレイに舐めなさい。株式会社イーアンドイーのナンバーツー、早乙女綾音、企画・開発部長さん?」
 パチン、と大きな音がしたのは、部長さまの裸のお尻を、絵理奈さまがぶたれたのでしょう。
「ほら、アヤ姉御自慢の変態衣装のエクスポーズ仕様を外して、あたしのおっぱいとオマンコ晒してあげるから、あたしが満足するまで、しっかり舌でご奉仕するのよっ!」

 ジジーッとジッパーを開けるような音がいくつかした後、またパチンッ!
「ああんっ!」
 紛れもなく、部長さまが淫靡に呻かれるお声。
 私は、もはや限界でした。

 あの理知的で気品と自信に満ち溢れたお美しい早乙女部長さまが、同じフロアの一室で全裸になって、年下の女性に虐められている。
 お相手は、今度のイベントでモデルをされる、これまた華やかでお美しい、私と年齢も変わらない絵理奈さま。
 どうやらおふたりは、おつきあいされているようで、今日はこのオフィスで、おふたりだけで心ゆくまで愛し合うご予定だった。
 前からのお約束だったらしく、昨夜、部長さまは、ご自分で剃毛され、おトイレでノーパンになった。
 私とお話しされているとき、すでに下着を濡らされていた。
 
 そして今、真っ裸の部長さまは、キャットスーツのおっぱいと股間だけを剥き出しにした絵理奈さまの足元に四つん這いでひざまづき、お尻をぶたれながら絵理奈さまをご満足させるため、懸命にご奉仕されている。

 私は、デザインルームの中に入ったことがなかったので、その間取りを具体的に思い浮かべることは出来ませんでした。
 なんとなく、ミシンやトルソーや、パソコン類が雑然と並んだ一室で、絵理奈さまが椅子にお座りになり、部長さまがひざまづいている絵が浮かんでいました。
 そしてその情景は、眩暈がしちゃうくらい蠱惑的でした。

 イヤーフォンからは、ピチャピチャという舌なめずりのような音と、あっ、あっ、と強く弱く響く絵理奈さまらしき悩ましいため息、そして、ときどきパチンと皮膚をたたく音、その直後に部長さまのせつなげな呻き、が、延々とつづいていました。
 絵理奈さまも無駄口は叩かず、部長さまの愛撫に意識を集中されているみたい。
 今すぐにでもここを飛び出してデザインルームのドアを開け、お美しいおふたりの、その淫らな営みを直接見てみたい、という衝動を抑えるのは、並大抵のことではありませんでした。

 いつの間にかパソコンのボリュームアイコンは最大まで上げられ、右耳奥深くイヤホンモニターを挿し直してから右手が右耳を離れ、お腹とジーンズのジッパーフライのあいだに潜り込んでいました。
 
 例のアイドル衣装開発会議以来、私は用心深くなっていました。
 いつなんどき、またフィッティングモデルを唐突に頼まれ、みなさまの前で着替えなくてはならないときが来るかもしれないと思い、ジーンズのときでもノーパンで来ることは、やめていました。

 でも今は、ノーパンであろうがなかろうが、大した問題ではありませんでした。
 右手が潜り込んだ股間のショーツは、すでにグショグショでした。
 知らぬ間にオシッコをお漏らししちゃったのではないか、と思うくらい、ジーンズの表布にまで滲み出しちゃうくらい、ビショビショに濡れそぼっていました。
 ショーツの薄い生地なんて、濡れてしまえばあってもなくても同じようなもの。
 紐状になって何の役にも立たず、指先はすんなり、生身のマゾマンコに到達していました。

 ブラウスも、なぜだかおへそ近くまでボタンが外れ、ハーフカップのブラジャーが下にずり下がって、両乳首とも精一杯、宙空を突いていました。
 もはやオナニーする気マンマン、しないでいられるワケがありません。
 オフィス内で、チーフに断りもなくオナニーまでしちゃおうと思ったのは、そのときが初めてでした。
 早乙女部長さまだって今、神聖なオフィスで裸になって、アンアン喘いでいらっしゃるのだから・・・
 それが私のチーフ、いえお姉さまに対する言い訳でした。

「あーーっ、いいっ、いいっ!いいっっーーーーー!!!」
 一際甲高い絵理奈さまの嬌声が、イヤーフォンスピーカーを通って両耳の鼓膜を震わせ、しばらくは荒い吐息と、何かガサゴソする音。
 束の間の休息。
 私も自分を慰める指を止め、しばしイヤーフォンからの音に耳を澄ませました。

「ふう・・・ちょっとスッキリしたから、今度はアヤ姉の番ね。その机に上がってみて」
 ガタガタという音。
「あーあ。床がビショビショ。アヤ姉がひざまづいていたところもトロトロじゃない?あたしの舐めていただけなのに、そんなに感じちゃった?」
 俄然イジワルそうな口調になった絵理奈さまのお声。

「違う!腰掛けるのではなくて、上がっちゃうの。お尻を奥に滑らせて、両脚はもちろんM字開脚よ」
 またパチンという音。
 絵理奈さま、鞭か何かお持ちなのかしら。

「ここって、誰の机?ずいぶんキレイに整頓されていて好都合だわ。部長さんのお尻を乗っけても、まだぜんぜん余裕がある」
「ここは、パタンナーのリンコ・・・」
「ああ、あのオタクコンビの貧乳で、なれなれしいほうね。でも、あの子って確かにデザインセンスあるわよね。顔も猫みたいで可愛らしいし」
 ずいぶんなおっしゃりようですが、そのエスっぽい冷たく棘のある物言いに、私のマゾ性がビンビン反応しました。

「ふふん。いい眺めだわ。手始めにまず自分で、広げてもらおうかな、その熟した黒薔薇パイパンオマンコを」
「こ、こう?」
「もっとめいっぱい。うわーっ、濁ったスケベ汁がダラダラ垂れてくる。もう本気モードなの?あとでちゃんと拭いておかないと、リンコさんに怒られるわよ?」

 絵理奈さまのお下品なお声にゾクゾク感じながら、ピンとひらめきました。
 そうだ、私も絵理奈さまに虐めていただこう。
 どうやらこれから部長さまにいろいろされるみたいだから、私もそのお言葉通りに従って、部長さまと一緒に辱めてもらおう。
 絵理奈さま、エス属性、強いみたいだし。

 我ながら良いアイデアだと、大急ぎでショーツもろともジーンズを脱ぎ捨て、まず下半身だけ裸になりました。
 おふたりの会話を一言も聞き漏らしたくないので、イヤーフォンが外れないように慎重に腕とからだを伸ばし、壁に掛かったチーフのピンクの乗馬鞭をどうにか手に取りました。
 絵理奈さまも鞭を手にされているようでしたから、必要だと思ったのです。

 それからちょっと考えて、やっぱり部長さまと同じ姿にならなくちゃと思い直し、ブラウスとブラジャーも脱ぎ捨てました。
 チーフのお許し無しに、オフィスで全裸になるのも初めてでした。
 アイドル衣装開発会議のときに、それに近い格好までにはなりましたが。
 
 見慣れた社長室で、勤務中にひそかに全裸になったことで、喩えようのない背徳感がジワジワッと背筋を駆け上がってきました。
 きっと普段、凛として気品溢れる部長さまも、ご自分の職場で裸にされて私と同じような気持ちになり、その感情を性的な快感として愉しんでいらっしゃるんだ。
 そう考えると、ある種、畏怖の念さえ抱いていた早乙女部長さまという存在が、身近なところまで降りてこられたような気持ちにもなりました。

 私の目の前にあるデスクにはデスクトップパソコンとモニターが乗って狭いですし、そのパソコンに繋がったイヤーフォンもしている状態なので、デスクの上に乗ることは出来ません。
 自分のデスクだと、イヤーフォンが届きそうもないし。
 
 仕方ないので、椅子に座ったまま両脚を引き上げてM字になりました。
 鞭はデスクの上に置き、絵理奈さまのお声が聞こえてくる方向、すなわち真っ暗なパソコンモニター画面に向き合って、絵理奈さまのご命令通り、両手で自分のマゾマンコを押し広げました。

 首には、今やオフィス内ですっかり私のトレードマークとなってしまった、マゾの証であるチョーカー。
 今日のは、首輪風エンジ色ので、これはシーナさまからいただいたもの。
 
 それ以外は全裸の私が、窮屈な椅子の上で両膝を立てて広げ、自らの性器を自らの両手で押し広げている浅ましい姿が、真っ暗なモニターに暗く、それでもハッキリと映っていました。
 乳首は、見ているほうが痛々しく感じるほどに尖りきり、広げた性器の穴からはドロドロと、粘性の液体が腿をつたい、茶色いビニールレザーの椅子の上に滴り落ちていました。
 
 部長さまも今、絵理奈さまの目前で、こんなお姿を晒されているんだ・・・

「ほら、もっと後ろにのけぞって、お尻の穴もあたしに見えるようにしなさい」
「はい・・・」
 
 早乙女部長さまの消え入りそうなお声にワンテンポ遅れて、私も小さく、はい、とお答えし、椅子の上でグイッと背中をのけぞらせました。
 真っ暗モニターに、私のお尻の穴まで映り込むように。


オートクチュールのはずなのに 36


2016年1月24日

オートクチュールのはずなのに 34

「あら。面白そうなものが映っているじゃない?」
 イベントまであと3日と差し迫った、その日の社長室。
 午前11時過ぎにリンコさまとミサさまが息抜きに訪ねてこられ、お部屋に入るなりパソコンのモニターに映し出された監視カメラの映像に気づかれたミサさまの一言です。

「たまほのがここを担当していた頃にも、こんな画面を見たことがあったな。たまほのに聞いたの?これ」
「あ、いえ。パソコン弄っていて偶然みつけて。あ、でも、ほのかさんに使っていいか、ご相談はしました」

「ふーん。そこの真っ暗な部分はアタシらの部屋なんだよね。アタシらはぜんぜん映されても構わないんだけどな。別に中でコソコソサボってるワケじゃないし」
「ほのかさんによると、来社されて中で着替えられるモデルさんのプライバシーにご配慮されたとか」
「うん。アヤ部長の方針でね。わざわざ外すのもめんどいから、カメラのレンズを黒い布で覆っただけだけど。ちょうど2年前くらいだったかな」
 思い思いの場所に腰を落ち着け、リラックスされたご様子でくつろがれるリンコさまとミサさま。

「でも、見ていてそんなに面白いものでもないでしょう?映っている場所、ずっと同じでしょ?それも見知ったオフィス内なんだし」
「確かにそうですね。でも、ドアのお外の通路が映るカメラだけは、重宝しています。ご来客さまがいらしたのが事前にわかるので。予定がある日は、そのカメラをメインにしています」
 
 そうお答えして、玄関先のカメラ画面だけに切り替えました。
「なるほどね。ナオっちはお茶とかの用意もしなくちゃだしね」
 うなずかれたリンコさまは、それきりモニター画面へのご興味は失われたようでした。

「アタシら今日は、早上がりしていいんだって。イベント準備でやるべき仕事はもうほとんど終わっているから。アヤ部長さまさまからの粋な計らいね」
 リンコさまが持参されたスナックお菓子を私にも勧めてくださいました。
 細長いプレッツェルにチョコレートがコーティングされた有名なお菓子。

「アヤ女史が来たら最終の打ち合わせしてお役御免。まあ、明日はアトリエでゲネプロだから、またコキ使われるんだけどね」
 ウサギさんが野菜スティックを食べるみたいに、前歯だけをしきりに動かしてお菓子をポリポリ齧るリンコさまがとても可愛らしいです。

「明日ゲネプロ、明後日は会場の設営、そんで当日本番。イベント前の雰囲気って浮き足立ってワクワクするよね。学生時代の文化祭前みたい」
 リンコさまのお言葉にミサさまもコクコクうなずいています。
「ボクら、今日の午後は、池袋と秋葉原を満喫してくるんだ」
 ピンクの乗馬鞭をヒュンヒュン振りながら、ミサさまが嬉しそうにおっしゃいました。

 ミサさまは、このお部屋に飾ってある、チーフのフランス製乗馬鞭がたいそうお気に入りのご様子で、ここにいらっしゃると必ず手に取り、もてあそびながらおしゃべりされます。
 ミサさまが乗馬鞭を振るたびに、豊かなお胸も一緒にブルンブルン。

「アタシら、先週もらった休みは、夏コミに向けてのコスプレ衣装の構想に費やしちゃったのよ。前半は、死んだようにひたすら寝てたし」
「だから、街にくりだしてアニメショップめぐりはすごい久しぶり。絶対ハンパなく散財しちゃいそうな予感」
 リンコさまが、ワクワクを抑えきれない表情でおっしゃいました。

「直子も、何か探しものあれば、みつけてきてあげる」
 ミサさまの乗馬鞭のベロが、私のジーンズの太腿を軽くペチペチ叩いてきます。
 うーん、何かあったかな・・・
 それからひとしきり、アニメの話題に花が咲きました。

「そう言えば私・・・」
 何が、そう言えばなのか、自分でも分からないのですが、ふと思いついたことを口にしていました。
「今度のイベントのショーで、どんなお洋服がご披露されるのか、まったく知らないんです」
「ああ。ナオっちは、ずっと決算の仕事だったものね」
 リンコさまがすかさず、うなずいてくださいました。

「だけど、今まで知らないでいられたのなら、いっそ当日まで一切情報を入れないことをお勧めするわ。そのほうが絶対、びっくり出来るから」
 イタズラっぽいお顔になるリンコさまとミサさま。

「明日のアトリエでのゲネプロも、ナオっちはお留守番なのでしょう?」
「はい。ほのかさんとふたりで電話番です。ほのかさんは明日のお昼頃、出張からお戻りになるご予定で」
「そっか。そこまで情報が遮断されているなら、明日上がってくるパンフも敢えて見ないほうがいい。全部当日のお愉しみにしとけば、アタシらの何倍も楽しめると思うわ」
 それからリンコさまが、今回のイベントについての社内的な変遷を、簡単に説明してくださいました。

「今年のテーマは、エレガント・アンド・エクスポーズ。そのテーマに負けないだけの仰天アイテム揃いよ」
「うちの会社名のダブルイーにちなんで、毎年このイベントのテーマは頭文字Eで統一するのね。具体的には、エレガント・アンドなんとか」
「最初の年は、社名と同じエレガント・アンド・エロティック。次の年は、エンヴィ。イーエヌヴィワイ。羨望、みたいな意味ね」

「それで3回目の去年は、エレガント・アンド・エンバラスっていうテーマで、一歩踏み込んだキワドめのアイテムを投入してみたのね。エンバラスってわかる?」
「えっ?あのえっと・・・」
「イーエムビーエーアールアールエーエスエス。当惑、とか、恥ずかしい、っていう意味ね」
「それで、肌色多めになるローライズとかシースルーみたいなイロっぽいアイテムを多めに投入したら大好評だったの。それで今年は、更にもう一歩、踏み出しちゃったワケ」

「エクスポーズは、わかるよね?さらけ出す、とか、暴く、とか。まあ、えっちな意味での、露出、ってことね」
 ノーブラのリンコさまのお口から艶っぽく、露出、というお言葉が聞こえたとき、まるで私の性癖をを見透かされたかのように感じて、心臓がドキンと大きく跳ね上がりました。

「・・・そんなに、凄いのですか?」
「うん。企画して作ったアタシらがこんなことを言ったらアレだけど、着ているほうより見ているほうがいたたまれなくなっちゃうようなキワドイのが何点もある」

「そういう意味では、今回、モデルをしてくれる絵理奈って子も凄い。よくこんな仕事、引き受けたなー、って」
「あれを着て澄ましていられる、そのプロフェッショナルぶりには感心した。ちょっとタカビーなところが鼻についたけど、その点にだけは素直に脱帽」
「タカビーってリンコ、それ死語」
 ミサさまがポツンとおっしゃり、三人でうふふ。

「そういうことで、ナオっちは当日まで情報遮断して、愉しみに待っているといいわ。絶対驚くから。ナオっちのリアクションが今から楽しみ」
 リンコさまとミサさまが意味ありげに見つめあった後、リンコさまは、私にイタズラっぽくウインクされ、ミサさまはまた、私の太腿を乗馬鞭で軽くペチペチ叩かれました。

「あっ!アヤ姉、来たみたい。アタシら戻るね」
 モニターに映った通路の映像に目ざとく早乙女部長さまのお姿をみつけたリンコさまがおっしゃり、お菓子を置き去りに素早くおふたりとも社長室を飛び出していきました。

 出社された部長さまと小一時間くらい打ち合わせされた後、リンコさまとミサさまは笑顔で退社。
 そのあいだにお弁当を済ませた私は、社長室でチーフのドキュメントフォルダーの中味を眺めていました。
 
 今日は、この後ご来客の予定も無く、チーフ、間宮部長さま、ほのかさまは出張中で明日のお戻り。
 オフィス内には私と早乙女部長さまだけ。
 かかってきたお電話を部長さまにお繋ぎする以外、これといったお仕事も無く、なんとも手持ち無沙汰でした。

 そろそろ3時になろうとする頃、内線が鳴り、部長さまに呼び出されました。
「森下さん、決算書類一式はすでに、すべて先生にお送りしたのよね?」
「はい。先週末にすべて終わりました」
「ご苦労様。それなら今日は早めに上がってください。明々後日のイベントに向けて、ゆっくりからだを休めるといいわ」

 繊細な白レースでシースルー気味のシックなブラウスを召された部長さまが、私を見ながらおやさしく微笑まれました。
 肩と胸元が程よく抜けて白いブラのストラップが微妙に透けているそのお姿が、いつもよりいっそう艶やかに感じられたのは、私の気のせいだったのでしょうか。

「お気遣いありがとうございます。だけど私、まだ帰れないのです」
 私が恐縮しつつお答えすると、部長さまは一瞬、意表を突かれたようなご表情をされました。
 間単に言えば、えっ!?っていうご表情。
 それからちょっと宙空を見上げ、何か考えるようなそぶりをされた後、落ち着いたお声で尋ねられました。

「帰れない、とは?」
「あ、はい。あの、今日中に税理士の先生から、お電話をいただくことになっているのです。先日お送りした決算書類に関する最終確認ということで」

「ああ、そういうこと」
「はい。書類を吟味してご不明な点をまとめてご質問いただけるということで。もしも何か不足している数字があったら、それを追加したり・・・イベント前に片付けておいたほうが、あなたも気が楽でしょう、って先生がおっしゃってくださって」
「わかったわ。それは席を外すわけにはいかないわね。わたくしでは細かいところまでは答えられないでしょうし」
 部長さまが再び、何かを考えるように両目を閉じられました。

「それで、いつ電話がかかってくるかは、わからないのよね?」
「はい。遅くとも夜の7時頃までには、としか」
「そう。わかりました。お忙しい先生ですからね。それでは森下さんは、その仕事が終わるまでここにいてください」
 部長さまの口調が、なぜだかご自身に言い聞かせているみたいな、覚悟を決めた、みたいなニュアンスに聞こえました。

「はい。せっかくのお心遣いをお受け出来なくて、申し訳ございません・・・」
「何言ってるの?仕事が一番大事だし、その仕事は我が社にとってもとても重要な案件よ。先生としっかり打ち合わせしてください」
「はいっ」
 一礼して社長室に戻ろうとすると、背後から部長さまに呼び止められました。

「あ、それでね、森下さん」
「あ、はい」
 振り向くと部長さまが、何か思いつめたようなお顔で、まっすぐに私を見つめていました。
 大急ぎでデスクの前に戻りました。

「このあと、そうね、たぶん4時ごろまでに絵理奈さんが来社することになっているの。絵理奈さん、わかるわよね?」
「はい。今度のイベントのモデルをやってくださるという、お綺麗な・・・」
「そう。明日アトリエで通しリハーサルだから、その前の大事な最終打ち合わせをすることになっているの」
「はい」

「彼女が来ても、お茶とかは出さなくていいから。わたくしたちはすぐに、デザインルームに入ってしまうから」
「はい」
「それで、わたくしたちがデザインルームに入ったら、もうわたくし宛ての電話は取り次がなくていいわ。不在と言って、お名前とご用件だけ承って、わたくしのデスクの上にメモを残しておいてくれればいいから」
「はい。わかりました」
 部長さまは、時折宙を見つめて、ひとつひとつ念を押すように、丁寧にご指示くださいました。

「それで、森下さんは先生との用件が終り次第、そのまま帰っていいわ。わたくしたちに声をかけなくていいから。社長室だけきっちり片付けていってください」
「はい」
「たぶんわたくしたちのほうが遅くなると思うから、戸締りはわたくしがやっておきます」
「わかりました」
「では、絵理奈さんがいらっしゃったら内線で伝えるから、その後は今言った通りにしてちょうだい」
「はい。わかりました」

 部長さま、なんだか今日はご様子が違うな。
 社長室に戻り、モニター画面を四分割に戻してから、椅子に座って考えました。
 いつものように自信たっぷりの優雅さも残ってはいるものの、なんだかソワソワしていらっしゃると言うか。
 モニターの右上には、どこかへお電話されている部長さまの後頭部が映っていました。
 お電話を終えられるとお席をお立ちになり、そそくさとドアのほうへ向かわれました。

 あれ?
 部長さまのスカート、いつもより短い。
 いつも絶対膝丈以上なのに、今日は太腿が10センチくらい見えていました。
 お話しているときはずっと、部長さまが座ったままでしたので、今まで気がつきませんでした。
 
 ベージュのストッキングに覆われてピカピカ輝くお奇麗過ぎるスラッとしたおみあしが、モニター越しにもわかりました。
 ドアをお出になった部長さまを追ってモニターの左上に目を移すと、向かわれた方向から、どうやらおトイレっぽい。
 
 やっぱり早乙女部長って、お綺麗だなー。
 そのときは、それ以上深くは考えず、のんきにそんなことを思っていました。

 5分くらいして、部長さまが戻られました。
 そのときの映像を見て、再び、あれ?
 太腿の光沢が消えていました。
 ストッキングを脱がれた?
 解像度の粗い監視カメラの映像ですから、確かなことはわかりませんが、そう見えました。
 でも、なぜ?

 そうしているうちに今度は、左上の映像に見覚えのある大きなサングラスのお顔が見えました。
 絵理奈さまでした。

 いつもファッション誌のグラビアから抜け出してきたような華やかな装いで来社されていたのですが、今日はずいぶん地味めなお姿でした。
 両袖をむしり取ったようなラフなジージャンにインナーは柄物のTシャツかな?
 ボトムは、スリムなダメージジーンズにミュール。
 
 それでも、タレントさんぽさを隠せない特徴あるサングラスと、いつも引いていらっしゃるブランド物のカートで一目瞭然でした。
 絵理奈さまは、インターフォンも押さず無言でドアを開け、いきなりオフィスに入ってこられました。
 ガタンとお席から立ち上がる部長さま。

 その後の光景が信じられませんでした。
 歩み寄ったおふたりが、互いに両腕を広げギューッとハグ。
 それも、部長さまのほうが力が入っているみたいに見えました。
 部長さまのほうが背が高いですから、絵理奈さまが包み込まれている感じ。
 天井からのカメラなのでよくはわかりませんが、おふたりの髪の毛が絡み合うようにくっついていたので、ひょっとしたらキスを交わされていたかもしれません。

 えっ?えっ?えーっ???
 ひとしきり呆気に取られた後、今すぐメインフロアに飛び出して、実際のところを自分の目で確かめてみたくてたまらなくなりました。
 同時に早乙女部長さまが、この監視カメラの存在をすっかりお忘れになられていることも確信しました。
 だって憶えていれば、私が社長室にいることを知っていながらあんなこと、絶対に出来るはずないですもの。
 
 両目でモニターを食い入るように凝視したまま、そこまで考えて思考停止に陥いりました。
 モニターの中の絵面が何を顕わしているのか、理解出来なくなっていました。
 立ちくらみみたいなものを感じて、咄嗟に両目をギュッとつむりました。
 突然、甲高く内線を告げる呼び出し音が鳴り響きました。
 モニターの中では、すでにおふたりのからだは離れていました。

 内線の音に驚き過ぎて本当にキャッと一声鳴いてから、あわてて受話器を取りました。
「森下さん?絵理奈さんがいらっしゃいました。打ち合わせを始めますので、さっき説明した通りにお願いね」
 努めて冷静を装うような、落ち着いた中にもどこか上ずったような、部長さまのお声。

「は、はい。かしこまりましたっ!」
 ドキドキが収まらず、掠れ気味な声を振り絞り、妙にバカ丁寧な応答をしてしまう私。
 すぐに電話は切れ、ツーツーツーという音だけになりました。
 モニターには、部長さまが受話器を戻し、絵理奈さまに何か耳打ちされてから、寄り添うようにデザインルームへと向かうお姿が映し出されていました。

 部長さまと絵理奈さまって、そういうご関係だったの?
 この後、デザインルームで一体何が行なわれるのだろう・・・
 私は、好奇心の塊と化していました。

 モニターには、デザインルームのドアを開き、中へと消える絵理奈さまの後姿が、画面の端っこに辛うじて映っていました。
 でも、それもすぐに消え、ドアが閉じられました。
 ああん、デザインルームの中は見ることが出来ないんだ・・・
 部長さまがご提案されたという、カメラの目隠しを心底怨みました。

 ん?ちょっと待って。
 目隠し?
 そのとき、パッと光明が見えました。
 確かリンコさまは、カメラは外していない、とおっしゃっていたっけ。

 すぐに机の抽斗から、お仕事中に好きな音楽を聴くためにこっそり使っていたイヤーフォンを取り出し、パソコンのイヤーフォン端子に挿しました。
 それを両耳に詰めてからモニター画面を真っ暗闇に合わせ、コントロールパネルのヴォリュームアイコンを上げていきます。
 
 ザザザ、ガサガサ、ゴソゴソ、ザザザ、ガサゴソ・・・
 衣擦れのような物音がハッキリと聞こえてきました。
 やっぱり。
 カメラに付いているマイクが、音だけは拾っているのです。
 場面を見ることは出来ないけれど、音なら聞こえる。

 モニターいっぱいに大映しとなった真っ暗画面に、イヤーフォンを突っ込んだ両耳に両手をあてがい、縮こまるようにして固唾を呑んでいる、自分の浅ましい顔が映っていました。
 これって、立派な盗聴行為、盗み聞き、プライバシーの侵害。
 わかってはいるのですが、溢れ出る好奇心を抑えることは出来ませんでした。

 しばらくガサゴソ音がつづいた後、ふいに明瞭なお声が聞こえてきました。
「ほら、早く見せてよ。ちゃんと約束通りにしているのか、確認するから」
 
 最初に聞こえてきたのは、早乙女部長さまではないお声でした。


オートクチュールのはずなのに 35


2016年1月17日

オートクチュールのはずなのに 33

 6月に入ると、5月末ですべての数字が出揃った期末決算書類の最終チェックに追われる日々が始まりました。
 遅くとも2週間以内に、税理士の先生に数字一式をお渡しすることになっていたので、毎日遅くまでパソコンとにらめっこ。
 その作業では、すべて社長室にあるデスクトップパソコンを使うため、社長室にこもりっきりの孤独な日々がつづきました。

 その日の私の服装は、白無地のスタンドカラーブラウスにモスグリーンのハイウエストなフレアスカート。
 我ながらシックな感じにコーディネート出来たと、気に入っていました。
 そして首には、黒いレザーで細めなベルト型チョーカー。
 もちろん、お姉さま、いえ、チーフからプレゼントしていただいたものでした。

 あのアイドル衣装開発会議のご褒美として早乙女部長さまからチョーカーをいただいて以来、ずっと私は、チョーカーを着けて出社していました。
 チーフとのお約束、私がムラムラ期なときはチョーカーを着けるという、ふたりだけの秘密のサイン、を守るために。

 アイドル衣装開発会議の翌朝、チョーカーを着けてお日様の下、初めてひとりだけで外出するときは、すっごくドキドキしました。
 部長さまやリンコさまから、ファッション的に似合っている、とお墨付きはいただいていたものの、私にとってチョーカーとは、マゾの首輪、以外の意味を考えることが出来ない、特別なアクセサリーでしたから。
 チョーカーを着けて人前に出るということは、見知らぬ人たちに、私はマゾです、と自己紹介しているのと同じことでした。

 前夜の激しい夜更かしオナニーにも関わらず早起きし、鏡の前で悩みました。
 なるべくファッショナブルに、と言うか、オシャレの一環として身に着けているように見えるよう工夫して、ガーリーな雰囲気の襟ぐり広めなフラワーモチーフのワンピースと合わせて出かけました。

 お家からオフィスまで徒歩で10分弱。
 そのあいだ、さまざまな人とすれ違ったり追い越されたり。
 その人たちの視線がすべて、私の首に集中しているように思えました。

 あの女、朝っぱらから首輪なんかして人前に出て、OLみたいだけれど、つまりそういう種類の女なんだ、と道行くみなさまに思われているんだ・・・
 そんな妄想で、人知れずマゾマンコをキュンキュン窄めていました。
 
 でもたぶん、それは自意識過剰。
 ほとんどの人たちは、チョーカーはおろか私自身にさえ目もくれず、お勤めに急いでいたと思います。
 いずれにしても、自分のマゾ性を大っぴらに目に見える形にして人前に出るという行為に、恥ずかしいという気持ちと表裏一体の自虐的な心地良さを感じ、本当の自分をさらけ出しているという、ある種の爽快感をも感じていたことは事実でした。

「今日も着けて来たのね。ずいぶん気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ」
 オフィスでは、部長さまを筆頭にみなさま普通に、私のチョーカー姿を受け入れてくださいました。
 リンコさまは、そんなに気に入ったのなら、と、今までコスプレ衣装で作ったチョーカーで私に似合いそうなのをプレゼントしてくださる、とまでおっしゃってくださいました。

 その翌日。
 出張からお戻りになったチーフは、お約束通り、お土産としてチョーカーをくださいました。
 幅1センチちょっとくらいのレザーベルトにこまかくバックルとホールがゴールドの金具で細工された、ワンちゃんの首輪っぽいけれど、ゴージャスでとてもオシャレなチョーカー。
 赤、白、黒の色違いを一本づつ、合計三本も。
 赤のにはハート型、白のには涙方、黒のには星型の小さなゴールドチャームが正面に吊るされていました。

「神戸のセレクトショップでみつけたの。店長さんがモデルと見紛うような奇麗なフランス女性で、扱っているアイテムもすごくチャーミングな品揃えだった」
「三色あれば服装に合わせたコーデもラクでしょう?直子のムラムラ期は長引く傾向があるからね、ずっと同じじゃ可哀相だと思ってさ」
 社長室でふたりきり、ヒソヒソ声でからかうように、そうおっしゃいました。

 シーナさま、部長さま、チーフ、そしてリンコさまからと、私のチョーカーコレクションが一気に充実して、朝のチョーカー選びが楽しくなりました。
 このお洋服だったら、どのチョーカーを合わせようか・・・
 毎日の生活の中で、チョーカーを着けている自分が普通となり、チョーカーを着けていない自分が物足りなくなっていました。

 だけど、チョーカーを着けて出社するということは、私がムラムラしているということをチーフにお知らせする、というサインでもありました。
 ということは、いつもチョーカーを着けていたいなら、いつもムラムラしていなければなりません。

 そのことについては自信がありました。
 だって、私にとってチョーカーは、いつまでも変わらずマゾの首輪で、マゾな私は、いつだってチーフ、つまり最愛のお姉さまに虐めて欲しい、と願っているのですから。
 
 チーフに逢えそうな日は、必ずチーフからプレゼントされたチョーカーを、それ以外の日はコーディネートを考えてコレクションから選ぶようにして、チョーカーは、私にとって欠かせない、毎日身に着けるファッションアクセサリーとなりました。

 そんなふうにして日々は過ぎ、決算書類の提出にも目処が付いた6月第2週の半ば。
 私は、白無地のスタンドカラーブラウスにモスグリーンのハイウエストなフレアスカート、黒のレザーベルトチョーカー姿で社長室にこもっていました。
 翌週末のイベントに向けての準備もほとんど整ったようで、その日はご来客も無く、オフィス内は束の間、平穏な雰囲気に包まれていました。

 開発のリンコさまとミサさまは、それまでのハードスケジュールから開放されて今週末まで一週間のお休み。
 チーフと営業のおふたかたは、相変わらずの外回りでおられず、オフィスには早乙女部長さまと私だけ。
 その部長さまもおヒマらしく、たまのお電話以外は、デスクで読書などをされていました。
 オフィスにはモーツアルトのピアノ協奏曲が、ゆったりと低く流れていました。

 私も決算のお仕事がやっと片付き、今日は早く帰れそうだな、なんて思いながら社長室のデスクトップパソコンをいたずらしていました。
 チーフのドキュメントフォルダーには、ネットから落としたらしきファッション関係の画像やショーの動画がたくさん入っていて、それらを眺めていました。

「この部屋にあるものは、鍵がかかっているところ以外、何をどうしても、どこをあさっても構わないわよ。見られたら困るようなモノは何も無いから」
 入社早々チーフがそうおっしゃっていたので、気兼ねする必要はありません。
 チーフが集めた画像や動画はセンスが良く、どれもエレガントで、中にはかなりエロティックなものも含まれていて、しばらく夢中で見ているうちに、どんどん時間が流れていきました。

 ひとつのフォルダーを見終わり、次のフォルダーへ、というタイミングで不意に電話が鳴り、ドキンと驚いてからあたふたしつつあわててマウスから手を離して受話器を掴みました。
 ふと時計を見ると、夕方の5時近く。
 部長さまへのお電話だったのでお繋ぎし、一息ついてあらためてパソコンの画面に向き直ったら、見たこともない画面になっていました。
 どうやらあわてた拍子に、知らずに何かクリックしてしまったみたい。

 大きなモニター画面が長方形に四分割されて、それぞれに違う画像が映っています。
 左上は、どこかの通路みたいな場所。
 右上は、どこかのオフィスみたいな場所。
 左下は、どこかの会議室みたいな場所。
 どれも天井から映したような、少し粗めの画像。
 そして右下だけ、真っ黒。
 画面の右端には、テレビのリモコンみたいな配置のコントロールパネルらしき画像のイラストが縦に通っていました。

 一見して、守衛室やエレベーターなどでよく見る、監視カメラからのモニター画像みたいでした。
 それにしても、どこの?
 と、思ったとき、ハッと気づきました。
 右上のオフィスのような画面の上のほうに、早乙女部長さまがお電話されているご様子が頭頂部から映っていました。
 ということはつまり、この画像は、このオフィス内?

 試しに各画面の上をクリックしてみると、その画面ひとつだけがモニターいっぱいにズーム出来るようでした。
 左上は、オフィスのドアの向こう側、すなわち、入口前の廊下の様子を、右上は、さっきの通りオフィスのメインフロアを、左下は、今は無人な応接室の様子を映し出していました。
 
 メインフロアを大きく映して、右側のパネルのスピーカーマークのフェーダーを上げると、パソコンのスピーカーからモーツアルトのピアノ曲とともに、部長さまがお電話されているお声も小さく聞こえてきました。
 
 これは画像ではなく、映像なんだ。
 それもライブで、リアルタイムの。
 つまり、監視カメラ。

 へー。
 このオフィスに、こんな仕掛けがあったんだ・・・
 画面を四分割に戻すと、音は聞こえなくなりました。
 四分割の左上では、部長さまがお電話を終え、読書にお戻りになっていました。

 無音の画面をじっと眺めていると、なんだかドキドキしてきました。
 後ろめたさと言うか、してはいけないことをしている感じ。
 盗聴、ではなくて、こういうのは何と言うのでしょう。
 覗き見?盗み見?盗撮?撮影はしていないから盗視?
 とにかく、何かこう背徳的な、罪悪感を感じる行為。
 見慣れたオフィスで、唯一映っている人物である部長さまだって、ただ普通に読書されているだけなのに、何かコソコソ、見てはいけないようなものを見ちゃっているような、後ろめたい感覚。

 チーフはやっぱり、他のスタッフのみなさまがサボっていないか監視するために、こんな装置を付けたのかしら?
 ああ見えて、あまり他のかたたちを信用されていらっしゃらないのかな?
 他のかたたちはこのことを、ご存知なのかしら?
 そんなことをとりとめなく考えていると突然、再び電話の呼び出し音が鳴り響きました。

 ギクッ!
 状況が状況でしたので飛び跳ねるほど驚き、焦って受話器を掴みました。
「お先に失礼させていただくわ。森下さんも適当に切り上げてお帰りなさい。戸締りよろしくね」
 お電話は内線で、部長さまからでした。
「は、はい。お疲れさまでした」
 ドキドキしつつお返事をして、モニターをメインフロアに切り替えました。
 受話器を置いた部長さまがスッと立ち上がり、更衣室のほうへ消えていくのが映っていました。

 部長さまが退社されたのを確認してからメインフロアに出て、カメラが設置されていそうな場所を確かめようと天井を見上げましたが、確かな場所はわかりませんでした。
 応接ルームも同様でした。
 たぶん、照明器具に紛れて付いているのだと思います。
 監視カメラのアプリケーションが、チーフのドキュメントフォルダーの中のCAMERAというフォルダーに入っているのを確認して、その日は私も早めに帰宅しました。

 その翌日。
 社長室に入りデスクトップパソコンを起動させ、カメラも起動させるかどうか迷っていると、軽いノックにつづいてドアが開き、ほのかさまがお顔をお見せになりました。

「おはよう。決算は終わりそう?たてこんでいるようなら、お手伝い出来ると思って。わたし、今日はヒマだから」
「あ、おはようございます。おかげさまで決算関係は昨日で終わりました。あとは先生にお送りするだけです」
「そう。よかった。ご苦労様。わたしも去年は、他の人たちがイベントの準備でてんてこ舞いの中、そのパソコンにつきっきりだったっけ」
 懐かしそうにデスクトップパソコンに近づくほのかさま。

「オフィスにわたししかいないとき、ここにこもっていると不意のご来客に対応出来ないから、画面の裏に監視カメラの映像を常駐させて、チラチラ見ながらの計算だったから、かえって落ち着かなかったなー」
 お顔を少し上に向けて、遠い日を思い出すようにおっしゃるほのかさま。
「へっ?!」
 思わずヘンな声をあげてしまいました。

「ほのかさん、あのカメラのこと、ご存知なのですか?」
「えっ?って、もちろんよ。これのことでしょう?」
 手馴れた手つきでフォルダーを開いていき、モニター画面にあの映像が広がりました。

「あの、実は私、昨日このパソコンをいたずらしていて偶然みつけてしまって、びっくりしちゃったのですけれど・・・」
「あら?チーフ、教えてくださらなかったの?なんでも、このオフィスを始めたときに取り付けたものだそうよ。早乙女部長の発案で」

「えっ?部長さまの?」
「そう。オフィスを起ち上げたとき、チーフと部長たち3人だけが正式な社員で、あとは各個人のお知り合いの人たちに臨時でお手伝いをしてもらっていたそうなの。そのお知り合いのお知り合いとかね」
 
 ほのかさまがマウスから手を離し、私に向き直ってお話してくださいました。
 モニターの四分割画面の片隅には、応接ルームで差し向かいになりお話されている部長さまとお客様の横顔が、斜め上からの映像で、比較的鮮明に映し出されていました。
 
「それで、チーフと部長おふたりの気心は知れているけれど、そのお知り合いとか、お知り合いのお知り合いとかだと、つまりはよく知らない人でしょう?」
「首脳陣がオフィスに誰もいなくて、その人たちだけに任せるようなこともあったから、最低限の防犯のために導入することにしたのだそうよ」

「最初のうちはチーフも面白がって毎日起動していたのだけれど、お手伝いしてくれた人たちもみんないい人たちばかりで、結局、そのカメラが活躍するような事件も、幸い何もおきなくて」
「そのうち飽きて、まったく起動しなくなった、っておっしゃっていたわ」
「へー。そういういきさつがあったのですか」

「わたしが去年、決算のお仕事を担当したときに、ここにこもってしまうとご来客の対応が出来ない、ってチーフにご相談したら、そう言えばこんな装置があった、ってやっと思い出されたくらいだもの。完全に忘れちゃっていたみたい」
「ということは、スタッフのみなさまは全員、カメラのことをご存知なのですね?」

「うん。その右下の黒いところは、デザインルームのカメラなの。数年前に早乙女部長がスカウトしてきたリンコさんとミサさんが入社して、しばらくはそこのカメラも生きていたのだけれど」
「ほら、あの中ではフィッティングとかで、モデルさんが裸になって着替えられたりされるでしょう?だからちょっとマズイんじゃないか、という話になったのですって。モデルさんのプライバシー的に」
「それでデザインルームのカメラには目隠ししたの。だからそこだけ真っ黒」
 ほのかさまが、さも可笑しそうに微笑まれました。

「だから、スタッフで監視カメラのことを知らない人は誰もいないの。チーフみたいに部長たちも、もう忘れてしまっていらっしゃるかもしれないけれど」
「それなら、私がここにこもるときは、このカメラ映像をつけっぱなしにしておいても、いいのでしょうか?」
「良いのではなくて?それで直子さんのお仕事が捗るのであれば。せっかくあるのだし」
「そうですよね」
 ほのかさまのご説明で、得体の知れない後ろめたさがずいぶんやわらぎました。

 それから私は、社長室にいるときはいつも、そのカメラの画面をモニターに映すことにしました。
 確かに、ご来客があればチャイムが鳴る前にどなたかすぐわかるし、部長さまが席を外されているときにお電話が来ても的確にご対応出来て、私のお仕事的に便利なものでした。
 ご来客さまとお話をされているほのかさまや早乙女部長さまをモニターで眺めるのも、イケナイ覗き見しているみたいで愉しく感じました。

 そうこうしているうちに、早くもイベント当日まで残り3日となっていました。


オートクチュールのはずなのに 34


DAVID BOWIE R.I.P. 

2016年1月11日

オートクチュールのはずなのに 32

 踊り始めたら、夢中でした。
 旋律に合わせてからだが勝手に動き始めていました。
 このヴァリエーションをレッスンしていた頃、いつもやよい先生からいただいていた注意点をご指摘されるお声が、頭の中で鮮やかに再生されていました。

「ピルエット・アン・ドゥ・オール、ペアテ、音にちゃんと乗って、膝伸ばして・・・」
「指先と爪先まで気を遣ってデベロッペ、上へ上へ伸ばしてー。脚もっと高くキープ・・・」
「ピケ・ターンでマネージュ。アラベスクはちゃんと一瞬止まって、ジュネは思い切りよく・・・」

 パチパチパチ・・・
 気がついたら踊り終えていました。
 レヴェランス、お辞儀したまま上目使いで窺がうと、早乙女部長さまたちが盛んに拍手をしてくださっています。
 そのまま、自分の胸元に視線を移すと、汗でインナーが肌に貼りつき、乳首の形が露骨過ぎるほどクッキリ浮き出ていました。

 スペースがあまり広くないので全体に動きがチマチマとしてしまったし、裸足なので爪先立ち、ポワントすべき箇所もドゥミ・ポワントまでにしか出来なかったのですが、久しぶりにしては自分でも、うまく踊れたほうだと思いました。
 そして、こんな裸に近い姿でのダンスをじーっと注目されていた状況に、マゾのほうの私もゾクゾク悦んでいました。

「すごいわ。よくあれだけクルクル廻れるものねー。しなやかで、とても美しかったわ」
「表情もとても良かった。誘惑の踊りって言うだけあって、艶やかで、いつもの直子さんとは別人みたいだった」
「そうそう。セクシー過ぎてアタシ、ヘンにドキドキしちゃったもの」
 みなさま、私の全身を遠慮無く眺めつつ、口々に褒めてくださいました。

 右の肩紐が落ちて乳首ギリギリで止まっていた胸元の布をさりげなく直し、もう一度ペコリとお辞儀をしました。
 予想通り、ショーツの布がお尻に食い込んで尻たぶほとんど露出の超ハイレグ状態でしたが、みなさま私から視線を逸らさないので、こっそり直すわけにもいきません。
 踊っている最中に、何度か乳首が風を切る感触がしていました。
 激しい動きで、胸ぐりや腋からときどき露になってしまっていたのは間違いありません。

「それだけ踊れれば、気持ちいいでしょうね。やっぱり森下さんは思った通り、フィッティングモデルに最適だわ」
 部長さまが目を細めて、私の全身をあらためて見返しながらおっしゃいました。

「おかげで、いろいろアイデアも浮かんだし、この衣装が完成したら、もう一度踊ってもらいたいわ。それまでにわたくしも、有名なバレエ音楽を調べて、ライブラリーに揃えておくから」
 嬉しそうに微笑んでから、みなさまを見渡す部長さま。

「ま、今日はこんなところでしょう。たまほのも森下さんも、ご協力、どうもありがとう」
「今日出た問題点を加味した上で、煮詰めていきましょう」
 リンコさまもノートをパタンと閉じ、突然のアイドル衣装開発会議はどうやら終了のようでした。
 私もホッと一息。

「わたくしはこの後、恵比寿寄ってからアトリエに戻るから、リンコは5時過ぎに合流してちょうだい。ミサは、早速Bタイプのインナーのパターンを修正してアトリエにメールで送ってください」
「わかりました」
 リンコさまとミサさまのユニゾンなお答え。
 部長さまはご自分の上着とバッグを掴み、早々とお出かけの態勢です。
 ドアに向かいかけた部長さまが足を止め、私に振り向きました。

「そうそう、森下さん?」
「あ、はい」
「これから着替えるのでしょうけれど、そのチョーカーは外さなくていいわよ」
「はい?」
「それ、とても似合っているから、プレゼントするわ。今日のお礼の意味も込めて」
「えっと・・・」
「モノはいいわよ。レザーもチェーンもジュエリーも。職人さんの手造り。今日頑張ってくれた、お礼」
「あ、はい・・・あ、ありがとうございます」
 部長さまは、ニコッっと笑みをひとつくださり、スタスタとドアの向こうへ消えました。

「よかったじゃん、ナオっち。確かにそれはいいモノだよ」
 部長さまのお姿が見えなくなったらすぐに、リンコさまが寄ってきて私の首のチョーカーを指さしながらおっしゃいました。
「それに確かに、ナオっちに超似合ってる」
 リンコさまの横でコクコクうなずくミサさまとほのかさま。

「そ、そうでしょうか?」
 ドキドキしつつ、首のチョーカーをそっと指で撫ぜる私。
 全身にビビビッと、マゾの電流が走ります。
「うん。さっき、それ着けて飛んだり跳ねたりしているのを見ていたら、フェアリー系?妖精っぽいて言うのかな?とにかくすっごく可憐だった」

 そういう捉え方もあるのか・・・
 私は、首輪、これはチョーカーですけれども、そういった首輪っぽいもの、と言えば、マゾとかドレイとかSM的なイメージしか浮かばないのだけれど、ちゃんとファッション的に捉えて似合っていると言われたことを、嬉しく感じました。
 それなら普段着けていても大丈夫かも、とも。

「首にアクセントがあると全体が引き締まるのよね。ナオっち首細いし。それにやっぱり、そこはかとないエロさも加わる」
 リンコさまが私の胸元をチラ見しつつ、イタズラっぽくおっしゃいました。
「それは今の服装のせいもある」
 ポツンとつぶやくミサさま。
 そんなおしゃべりをしながらゾロゾロと、着替えるために応接ルームへと移動しました。

 テキパキと衣装を脱いで下着姿になってから、スルスルっとワンピースをかぶるほのかさま。
「ふー、やっと落ち着いた。ああ、恥ずかしかったー」
 カワユクおっしゃるほのかさまは、膝下まで届く裾にご満悦。
「あ、ファスナー上げてあげて」
 リンコさまがすかさずミサさまをつつき、ほのかさまの背中を指さしました。
 照れたようにお顔を火照らせて、おずおずとほのかさまに近づくミサさまもカワユイ。
 
 この隙に私もさっさと、と、みなさまに背中を向け、ほとんど役に立たなかったスカートをストンと足元に落とし、大急ぎでジーンズに両脚を突っ込んでずり上げました。
 ショーツのお尻はハイレグ状態のままでしたが、一刻も早くジーンズで覆いたかったので仕方ありません。
 後でおトイレにでも行って直さなくちゃ。
 脱いだ衣装はリンコさまが回収され、丁寧にたたまれました。

 次に上、と思ってテーブルを見ると、白いフリルブラウスはあったのですが、ブラジャーが見当たりません。
「あれ?」
 ブラウスの下にも、ひょっとしてと思いテーブルの下も見てみましたが、どこにもありません。

「直子さん、どうかした?」
 キョロキョロしている私を不思議そうに見ているほのかさま。
「あの、私のブラジャー、知りませんか?」
「あっ!」
 私の質問に、ほのかさまの横にいたリンコさまが大きなお声をあげました。

「さっきあっちでナオっちがブラ外したとき、アタシが受け取ったでしょ?それで部長の傍に戻ったら、部長が手を差し出してきたの、渡しなさい、っていう感じで」
「それで渡したら、部長は丁寧に折りたたんで、当然のことみたいに自分のバッグにしまっちゃったのよね」

「えーっ?本当ですか?」
「アタシも一瞬あれっ?って思ったのだけれど、そう言えば、このブラはサイズが合わないから取り替えてあげます、みたいなことをナオっちに言っていたなーって思い出して」

「それから今まで、ぜんぜん疑問に思わなかった。考えてみれば、今日取り替えるっていう話ではなかったんだよね。止めなきゃいけなかったんだ。アタシって、ほんとバカ」
 リンコさまがすまなそうに、上目遣いで私を見ました。

「余ってるブラとかなかったっけ?サンプルで」
「直子に合いそうなサイズは、たぶんない」
 リンコさまのご質問にミサさまが即答。

 ひょっとして私、これから家に帰るまで、ブラウスにノーブラで過ごすことになるのかしら?
 それはマゾ的には、なかなか蠱惑的なハプニングではありました。
 でも、オフィスを出て家までの帰り道は、ひとりなのでちょっと怖いけれど。

「わたし、下のお店で買ってきてあげましょうか?」
 ほのかさまがおやさしくおっしゃってくださいました。
「あ、いえ、そこまでしていただかなくても・・・」
 私の心は、思いがけずに訪れた、強制ノーブラ勤務の自虐に傾き始めていました。
 みなさまの視線が当然のように、薄いインナーの布を露骨に浮き上がらせている、私の胸元のふたつの突起に集中しているのを感じながら。

「そうだ。いいものがある。ちょっと待ってて」
 いつものようにポツリとおっしゃったミサさまが、デザインルームのほうに駆け出されました。
 すぐに戻ってこられたミサさまの手には、肌色の薄くて小さなゴムっぽい物体。
「ああ。ニップルパッドか」
 リンコさまが少し拍子抜けされたようなお声でおっしゃいました。

「アタシは別に、乳首が浮こうが気にしないけどなー」
 いつもノーブラなリンコさまが、私をからかうみたいにおっしゃいました。
「リンコはそうだろうけど、直子はたぶん気にする。恥ずかしがり屋だから」
 ミサさまの助け舟。
「そうですね。同じノーブラでも、トップを気にしなくていいのは、気分的にずいぶん楽です」
 ほのかさまも同調してくださいました。
「ふーん。そういうもんですかねー」
 ちょっぴり拗ねたように、おふたりのバスト周辺に視線を走らせたリンコさま。

「使い方わかる?」
 ミサさまが手渡しながら尋ねてきます。
「はい。貼る、のですよね?」
「うん。ぺったり」
 手渡していただいたニップルパッドは、池袋でお姉さま、いえ、チーフと再会したとき、居酒屋さんで裸にされて貼られたものと同じ製品でした。

 再びみなさまに背を向けて、インナーのジッパーを下ろしました。
 インナーを脱ぎ去ると、ミサさまが回収してくださいました。
 上半身裸になって、バストトップにニップルパッドを貼り付けます。
 ヘンにコソコソせず、出来るだけ自然な感じで。

 貼り付け終えても、どなたも私にブラウスを手渡してくださいませんでした。
 自分で振り向いて、テーブルの上のブラウスを取り、みなさまの前で袖に腕を通すしかないようです。
 トップは隠れているとはいえ、ついにみなさまに、私の生おっぱい全体をご披露することになりました。
 極力平静を装いながら、内心マゾマンコをキュンキュンさせつつ、ゆっくりとみなさまと向き合いました。

 6つの瞳から放たれた視線が値踏みでもするように、一斉に私ののっぺらおっぱいに群がるのがわかりました。
 私がブラウスを着るあいだ中、どなたも何もおっしゃいませんでした。
 ただただ視線たちが名残惜しそうに、私の全身を縦横無尽に這い回るのだけを感じていました。
 ボタンを留め終えると、肩の荷を降ろしたような、ホッと一息ついた雰囲気が一同に広がりました。

「いけない。もうこんな時間になっちゃった。急いでアトリエ行かなきゃ」
 リンコさまがあわててオフィスを飛び出して行きました。
「直子は、やっぱり総受けだね」
 ミサさまは、謎の科白を残してデザインルームへ。

 ほのかさまとは、しばらくふたりでバレエのお話をしました。
 ほのかさま、ずいぶんご興味をお持ちになったみたい。
「直子さん、さっきヴァリエーションっておっしゃっていたけれど、あれは、ひとつの曲でいろいろ踊り方がある、っていう意味?」
「いえ。ヴァリエーションていうのは、バレエ用語で、ソロの踊りっていう意味で・・・」
 これから少しづつ、初歩的なステップから、ほのかさまにお教えすることになりました。

 結局、最後までどなたも、私の尖った乳首やショーツの濡れジミを話題にしたり、からかわれるかたはいませんでした。
 否が応にも目についたはずの、恥ずかし過ぎる性的反応。
 私のマゾ性が丸わかりだったはずなのに。
 みなさま大人なんだなー。
 安堵した反面、残念に思う気持ちも少なからずありました。

 社長室にひとり戻り、暗くなったガラス窓に自分の姿を映してみました。
 首に赤いチョーカー、ブラウスの下は乳首こそ隠しているもののノーブラ。
 ジーンズの下のショーツは、ヌルヌルに濡れそぼっているはず。
 朝オフィスに来たときには、予想だにしなかった私らしい姿に変わり果てていました。
 こんな姿で、オフィスにいることが不思議でした。

 つい数時間前からさっきまで、みなさまの前でご披露した恥辱的行為と、それをすることで味わった自分の昂ぶりを反芻すると、もういてもたってもいられなくなってきました。
 今日は早めに帰らせてもらおう。
 一刻も早くお家に帰って、思い切りオナニーしたくて仕方ありませんでした。

 その日の夜、ひとしきり自分を慰めた後、どうしても我慢出来ずにチーフ、いえ、お姉さまにお電話をして、出来事をすべて包み隠さずご報告しました。
 不意の男性お客さま襲来から、突然のフィッティングモデル抜擢、羞恥のノーブラバレエご披露まで。
 もちろんクチュクチュクチュクチュ、マゾマンコをまだ弄りながら。
 お姉さまは神戸のホテルでリラックスされていたようで、興味津々なご様子で一部始終を聞いてくださいました。

「へー。そんなことがあったんだ。あたしもその場にいたかったなー」
「スタンディングキャットの彼らは、ユニークな連中よ。何も怖がる必要はないわ」
「そう言えば、あたしの前でちゃんと直子がバレエを踊ったことって、なかったわよね?今度見せてもらおうっと。うんと恥ずかしい衣装みつけなくちゃ」
「アヤたちは絶対、直子がサカっているの、気がついていたはず。でも気づかないフリをしたの。オトナの嗜みとしての、見なかったフリね」

 神聖なオフィスでそんなにいやらしく発情して、って叱られるかも、とも思っていたのですが、お姉さまは愉快そうにクスクス笑いながら会話してくださいました。

 中でも一番ウケたのは、部長さまがチョーカーをくださったことと、私のブラジャーを持って帰ってしまったことでした。
「つまり直子は、ノーブラにニプレスで、首輪着けたまま池袋の夜道をひとりで歩いて帰ったのね?濡れすぎちゃって困ったんじゃない?」
 からかうようにおっしゃって、お電話の向こうで愉しげに笑っています。
「そろそろうちのスタッフにも、直子のドマゾバレが時間の問題みたいね。それから直子とみんなの関係がどうなっちゃうのか、とても愉しみだわ」

 そこで少し沈黙があってから、そうだ!というお姉さまの弾んだお声が聞こえてきました。
「アヤがチョーカー似合うって言ったのなら、直子がオフィスに着けて来るのも問題無いのよね?」
「そうだと思います」
「この前、直子、出来ることならずっと首輪を着けて過ごしたい、って言っていたじゃない?それが叶うわけよね?」
「えっと、そう・・・ですか?」
「さすがに犬の首輪という訳にはいかないから、あたしが、直子にピッタリなアクセっぽいチョーカーを探してプレゼントしてあげる。つまりそれが、直子からあたしへの、マゾドレイ服従の証としての首輪となるの」

「直子がそれを着けていたら、私はムラムラ期です、発情しています。っていうサインなワケ。あたしも、虐めて欲しいんだな、ってすぐわかるし。いいアイデアだと思わない?ふたりだけの秘密のサイン」
「えっと・・・」
「決まりね。このへんいい宝石商多いし、明日真剣に探してみるわ」
 ノリノリなお姉さまがどんどん決めてしまいました。

「それまでは、そのアヤがくれたチョーカーをずっと着けていなさい。どうせあたしに会うまでムラムラは鎮まらないのでしょう?」
「はい・・・」
「あたしは明後日戻るから、それまでの辛抱よ。今週末は休めそうだから、たっぷり虐めてあげる」

 お姉さまとの長電話が途切れても私の指は、執拗にマゾマンコを責め立てていました。
 お姉さまと、ふたりだけの秘密のサイン。
 その甘美な響きに、私のからだは何度も何度も、グングン高まっていきました。
 頭の中では、そんな私の淫らではしたない姿を取り囲んで、早乙女部長さま、ほのかさま、リンコさま、ミサさまが、蔑むような冷やかなまなざしで、じっと私を見下していました。


オートクチュールのはずなのに 33

2016年1月3日

オートクチュールのはずなのに 31

 戸惑っている私を察してくださったのか、早乙女部長さまがフッと微笑み、表情を柔らげて説明してくださいました。

「森下さんはうちに来てまだ間もないから、恥ずかしがるのもわかるわ。突然、スタッフみんなの前でブラを取れと言われてもね」
「でも、これはわたくしたちの大切な仕事なの。クライアントに頼まれて、その要求がエロティックさの追求であれば、それに応えなければならないのよ。スタッフみんなで協力して、いろいろアイデア出し合って」

「今まで見てきたところでは、森下さんて、とても恥ずかしがり屋さんのようね?でも、自信持っていいのよ。あなたのからだは、とても奇麗だわ」
「バレエやっていただけあって、柔軟でリズム感もいい。わたくしの要求に応えられる素養がある。アパレル開発のフィッティングモデルにうってつけなの」
「だから、協力して、ね?」
 私の目をじっと見つめながら、諭すように丁寧におっしゃってくださいました。

 お役御免となって見物側にまわったほのかさまを含め、八つの瞳が私の顔をじっと見つめていました。
 どなたのまなざしも真剣そのもので、お仕事に集中されているときにお見せになるお顔でした。

 そうでした。
 これは大事なお仕事なのです。
 みなさま、より良いものを造ろうと知恵を出し合っている現場なのです。
 それなのに私だけ、えっちな妄想ばかり先走ってしまって・・・
 性的な意味のほうでは無く、自分を恥ずかしく思いました。
 
「わかりました。やります」
 私もちゃんとお仕事に徹して、少しでもみなさまのお役に立たなければ。
 そんな決意を込めてうなずき、あらためてインナーのジッパーに手をかけました。

「恥ずかしいのなら、わたくしたちに背中を向けて着替えていいわよ」
 部長さまからのおやさしいお言葉。
「あ、はい」
 お言葉に甘えてみなさまに背を向けると、目の前に広がる青い空。
 そう、ここは窓際でした。

 だけど、見えるのは空だけの超高層ビルの窓。
 地上までだって二百メートルくらいあるのですから、覗かれる心配なんていりません。
 思い切ってジッパーを一気に下ろし、インナーの前を開きました。

「ホック、外してあげる」
 背中に回そうとした腕を遮るようにリンコさまが近づいてきて、コソッと外してくださいました。
「あ、ありがとうございます」
 
 インナーを脱ぎ去り、ブラのストラップを肩から外します。
 リンコさまが背後で待機してくださっているのがわかります。
 ヘンにおっぱいを隠したりせず、出来るだけ自然に、堂々と。

 上半身、裸になりました。
 脱いだ衣服はリンコさまが受け取ってくださり、代わりに着替えるべきインナーを無言で手渡して、退かれました。
 
 手渡されたインナーを広げながら、まっすぐ窓を向き、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をひとつ。
 さっきより陽が傾いて少しだけ翳り始めた青い空が、曇りひとつ無く磨かれた素通しガラスの向こうに広がっていました。

 窓の外、辛うじて視界に入る低いところを、一羽のカラスさんがスーッと横切って行きました。
 私、今、お外に向けておっぱいを丸出しにしているんだ・・・
 ついさっきの、お仕事に徹する、という決意はどこへやら。
 すぐにいやらしい妄想が頭をもたげてしまう、どうしようもない私。

 それと同時に気づいてしまいました。
 ピカピカのガラス窓に薄っすらですがハッキリと、私の姿が映りこんでいることを。

 首には、マゾの首輪と見紛うような赤いチョーカー。
 一糸纏わずさらけ出したおっぱいの先端はふたつとも、誰かに摘んで欲しくてたまらない、といった様子で尖りきっています。
 おへそからなだらかに下降する下腹部を、申し訳程度に覆い隠す幅の狭いスカート。
 その裾ギリギリにチラリと姿を見せている、黒い濡れジミの逆三角形。
 なんてはしたない、恥ずかしい姿。
 そして、私の後方1メートルくらいのところにズラリと並び、私をじーっと見つめているみなさまの目、目、目。

 その視線は、私の背中を通り越してガラスに映った私のおっぱいに集中しているように感じました。
 見られてる、視られちゃってる・・・
 こんな恥ずかしい状況で、露骨に反応してしまっている私のふしだらな乳首。
 ついにチーフ以外の会社のみなさまにも、私のいやらしい性癖をご披露してしまった・・・
 ドキドキが高鳴り、全身がキュンキュンざわめき始めました。

 ううん、いけない、いけない。
 このままマゾの血が騒ぐに任せてえっちな妄想に囚われていたら、またみなさまにご迷惑をかけてしまう。
 これはお仕事、これはお仕事なのだから・・・
 自分にそう言い聞かせながら、急いで着替えのインナーに腕を通しました。

「着終えたようね。こっち向いて、またわたくしたちのリクエストに応えてちょうだい」
 ジジーッというジッパーを上げ終わる音が合図だったようで、部長さまからお声がかかりました。
「はいっ」
 これはお仕事、これはお仕事と、呪文のように頭の中でくりかえしつつ、みなさまの前に向き直りました、

「今度のは、あまりピチピチではないでしょう?」
「はい。ウエストにも余裕があって、これならせり上がることはないと思います」
 そうお答えはしたものの、実際は問題大有りでした。

 さっきまでのインナーよりルーズフィットになった分、胸元も腋も浮きやすくなってしまい、少し前屈みになると胸ぐりからバスト全体が覗けそうなほど。
 たぶん腋からも。
 バスト周りも数ミリの余裕があるので、ノーブラになった分動くたびに裏地に乳首の先が直に擦れて、ますます尖ってしまいそう。
 薄い生地ですからもちろん、まっすぐ立っているだけでもバストトップの位置が丸わかりなくらいに布を浮かしていました。
 これでさっきみたいに飛んだり跳ねたりしたら・・・
 淫らな妄想に嵌まり込みそうになっているところを、部長さまのお声が遮りました。

「それではまず、さっきみたいにジャンプしてみて。いくわよ?はい、ワンツーワンツー」
 パンッパンッ!パンッパンッ!
 真剣なまなざしで両手を打ち始める部長さま。
「あ、はい」

 拍手を聞いた途端、条件反射のように跳ね始める私。
 さっきみたい、ということは、腕の動きも付け加えなくちゃ。
 両腕を水平から頭上へ、ワンツーのツーのところでパンッと両手を打ち鳴らします。

「ジャンプしながら90度くらいづつその場で回転してみてくれる?360度見たいから」
「は、はい」
 ぴょんと飛び跳ねたらからだをひねり、着地するときはみなさまに対して右向きになるように、次は背中、次は左向きとグルグル回りながら跳ねつづけます。
 ジャンプし始めてすぐに、さっき考えかけた妄想が現実になったことを知りました。

 ブラジャーの支えを失った乳房が、ジャンプするたびにインナーの中で自由奔放に暴れまわります。
 尖った乳首が裏地に擦れまくり、そのたびにピリピリと全身に心地良い刺激が走り、どうにかなちゃいそう。
 両腕を挙げると胸ぐりはがら空きで、今にもおっぱい全体がこぼれ出そう。
 肩紐は落ちそうになり、腋も全開。
 腋の空間から乳首まで、丸ごと見えてしまっているかも。
 もちろん超ミニスカートは、黒ジミショーツを隠す暇もなくひるがえりっ放しでした。

 部長さまは手を叩きながら私の全身にくまなく視線を走らせ、時折傍らのリンコさまに何かコショコショ耳打ちされています。
 逐一それをメモするリンコさま。
 ほのかさまとミサさまは、微動だにせず視線だけが上下していました。

「はい、そのくらいでいいわ。ありがとう」
 二分くらい連続でジャンプさせられ、ようやくお赦しが出ました。
 ハア、ハア、ハア・・・
 私の頬が火照り、息が上がり気味なのは、急に運動させられたせいだけではありませんでした。
 みなさまに、こんな裸に近い姿をずーっと見つめられつづけていることに、私のからだが私の意志とは関係なく大興奮していました。

「こちらのほうが、何て言うか、ダイナミックな感じがしない?布地の動き、とくにシワが動くことで柄も躍動して」
 部長さまが誰に尋ねるというわけでもなく、おっしゃいました。
「そうですね。ピッタリめだとからだのラインは奇麗に出るけれど、小じんまりしちゃうかもしれませんね」
 リンコさまのお答え。
「だけど、こっちの場合、胸元とサイドは再考の余地有りです。無防備に過ぎる、と言うか」
 そんなことをおっしゃるということは、やっぱり乳首まで見えてしまっていたのでしょうか。

「森下さんは、実際に着ていて、何か気がついた点、ある?」
 部長さまからの突然のご指名。
「あ、はい。気がついた点、ですか?あの、えっと・・・」
「遠慮しないで。率直な意見を聞きたいの」
 語気鋭い部長さまの、真剣そのものなお顔。
「は、はい・・・」
 その迫力に気圧されて、思ったことを素直に告げることにしました。

「えっと、ノーブラになって、激しくからだを動かすとですね、あの、ちく、あ、いえ、バストトップがお洋服の裏地に擦れて、な、何て言うか、気まずいって言うか、落ち着かないと言うか・・・」
「ああ。なるほどね」
「あ、その点は、当然ニップルパッドを着けることになるので、本番では問題ないかと」
 リンコさまがすかさず解決策を示されました。
「そう。でもかなり激しく動き回ることになるから、強力な接着力が必要になるわね。剥がれ落ちないように」
「はい。いっそ医療用のバンソーコーのほうがいいかもしれませんね」

「その他には?」
 部長さまが私に向き直りました。
「あとは、とくに、別に・・・」
「そう。では、森下さん的には、今のとさっきの、どちらがいいと思う?」
「私的には・・・うーん、こちらでしょうか。踊っていて裾がせり上がってしまうのは、やっぱり落ち着かないです」
「そっか。なるほどね。ありがとう。参考にさせていただくわ」
 そうおっしゃってから、少し考え込むような仕草をなさった部長さまが、思い切るようにお顔を上げ、まっすぐ私を見つめてきました。

「ねえ、森下さん?あなた、何かアイドルの曲で振付けまで憶えているような曲、ある?」
 突然のお尋ねに面食らう私。
「アイドル、ですか?・・・私、そういうの、ぜんぜん疎くて・・・」
 パッと思い浮かんだのはスパイスガールズでしたが、ダンスを全部憶えているワケではないし。
 日本のアイドルさんの曲は、まったくと言っていいほど知らないし。

「それならバレエでもいいわ。長くやっていらしたのでしょ?」
「はい。バレエであればいくつかは・・・でも、音楽がないと・・・」
「あら、わたくしのクラシックライブラリーは凄いのよ。プレイヤーにデーターにして詰め込んでいるのだけれど、CDで言えば優に1000枚は超えているはず」
 オフィスに絶えず低く流れているクラシック曲は、早乙女部長さまのライブラリーだったんだ。

「でもバレエ音楽は、あまりなかったかな・・・あ、そうそう。チャイコフスキー。チャイコなら定番よね?」
 クラシック音楽の話題になって、いつになくウキウキした感じの部長さまが新鮮です。
「白鳥の湖と眠れる森の美女、くるみ割り人形。この3つなら何種類かづつ入ってるはずよ」

「白鳥の湖なら、オディールのヴァリエーションはずいぶん練習したので、今でも憶えているとは思いますが・・・」
「よかった。それは何ていう曲で踊るの?」
「あの、えっと、第三幕のパ・ド・シスの・・・あの、今、ここで踊るのですか?」
 ご自分のデスクの上に置いてある音楽プレイヤーらしきものを操作し始めた部長さまに向けて、戸惑いながら問いかけました。

「お願いしたいのよ。さっきみたいにぴょんぴょん跳ねるだけではなくて、実際に曲に乗ってダンスしているところを見ることで、何かインスピレーションが湧いてくるかも、って思ったの」
「せっかく踊れる人材がいるのだもの、使わない手はないな、って」
 最後の部分だけ、お仕事の鬼な部長さまらしい言い回しでした。
「はあ・・・」

「やっぱりトゥシューズ履かないと難しい?」
 私があまり乗り気でないのがわかったのか、少ししょんぼりした感じの部長さまらしくないお声が聞こえて、胸がズキンと痛みました。

「いえ、そんなことはありません。裸足になれば何とかなるとは思いますが。でもちゃんと出来るかどうかは・・・」
 部長さまをがっかりさせたくなくて、期待させてしまうようなことを返してしまう私。
「出来なんて気にしなくていいわ。バレエ音楽はあまり詳しくはないけれど、見るのは好きなの。こんなに間近で見れるなんて嬉しい」
 部長さまをすっかりその気にさせてしまったようでした。

「それで、何ていう曲をかければいいの?」
「あ、えっと確か第三幕の第19曲目。パ・ド・シスのf、ヴァリシオン5という曲です」
「なんだか呪文みたいな曲名」
 ミサさまが独り言のようにポツンとつぶやかれました。
「この曲かな」

 麗しいハープの調べがボリュームの上がったスピーカーから流れてきました。
 つづいて始まる、どことなくオリエンタルで軽快なメロディ。
 懐かしさと共に、その振付けをはっきり思い出しました。
 やよい先生のご指導の下、ひとつひとつ身につけていったアラベスク、フェッテ、ピルエット・・・
 覚えるたびにうれしくなって夢中で練習した日々。

「ずいぶん短かい曲なのね」
 しばしノスタルジーに浸っていた私を、部長さまのお声が現実に引き戻しました。
「でも耳に残る面白い曲。この曲にどんなダンスが乗るのかしら?ここはどういう場面なの?」
「あ、はい。オディールっていうのは悪魔の娘の化身の黒鳥で、物語のヒロインである白鳥の女王オデットとそっくりさんなんです。それで、そのオディールが主人公を騙して誘惑するという場面です」

「誘惑の場面ということは、バレエだとしても何かしらセクシーな感じになったりするのかしら。ますます楽しみだわ」
 セクシー・・・
 部長さまの弾んだお言葉に、私もハッと思い出しました。
 バレエのお話と思い出に夢中になっていて、すっかり忘れていました。
 今の自分の服装のことを。

 この曲の振付けは、かなり大きな動きがいろいろ出てきます。
 クルクル回るフェッテやピルエットでは、短すぎるスカートがひるがえりショーツが丸出しになるでしょう。
 脚を大きく振り上げれば、ショーツの両腿の付け根まで丸見え。
 腕は常に鳥のように羽ばたいていますから、腋もがら空き。
 最後のほうでは、両脚を前後に広げて跳ぶグラン・パ・ドゥ・シャもあったはず。
 すべてやったら、おそらくショーツは股深く食い込み、肩紐はずれて、胸元ははだけて・・・
 踊り終えた後、私はどんな姿になっているのでしょうか。

 唐突に、ずいぶん昔、バレエレッスンのときに試してみた、ある冒険のことを思い出していました。
 
 あれはまだ高校生の頃。
 自分のヘンタイ性癖には気づいていたけれど、それにどう対処すればいいのかわからなかった臆病者の私が好奇心を抑えきれず、公然露出の心境を味わってみたいと精一杯勇気を出して挑戦したプチヘンタイ行為。
 その頃憧れていたバレエ講師のやよい先生の気を惹きたい、という気持ちもあったと思います。
 いつものバレエレッスンのとき、インナーショーツとタイツをわざと忘れて、素肌に直にレオタードだけ着てレッスンルームに出たのでした。

 ルームには他の生徒さんたち、学校の親友さえもいるのに、股間を濡らして、布をスジに食い込ませて、その姿を鏡に映して。
 あのときはまだ、薄めだけれど毛も生えていたっけ。
 
 タイツを忘れてきた私への罰、それはスジを食い込ませた恥ずかしい私の姿をみなさまに晒すこと・・・
 視ないで・・・でも視て・・・
 鏡の前で課題のパをひとり黙々と練習しながら、そんな行為に人知れず、まだ幼いマゾマンコを疼かせていた私。

 あのとき何食わぬお顔で話しかけてきたやよい先生。
 後にやよい先生と初めてSMプレイをしたときに、気づいていたことを知らされたけれど、そのときはバレていないと信じ込み、鏡に映った自分のいやらしい姿に心臓がバクバク波打っていました
 
 あのとき感じた、ほろ苦い中にもちょっぴり甘酸っぱい自虐の快感。
 スリル、羞恥、恥辱、背徳・・・
 それらが鮮やかによみがえってきました。
 
 あの感覚を、もう一度味わいたい。

「森下さん、準備はいい?曲、流すわよ?」
 部長さまからお声がかかり、我に返りました。
「あ、はいっ」

 みなさまの前で精一杯踊ろう。
 服装がどうなろうとなりふり構わず、私のすべてを視ていただこう。
 だって私は視て欲しくて、それがお仕事のためにもなるのだから。
 
 バレエ教室での最初の発表会のとき、確か中二だったかな、みたいにドキドキしていました。
 ひとつ深呼吸をしてから目をつぶり、最初の音を聞き逃さないように耳を澄ませました。


オートクチュールのはずなのに 32