踊り始めたら、夢中でした。
旋律に合わせてからだが勝手に動き始めていました。
このヴァリエーションをレッスンしていた頃、いつもやよい先生からいただいていた注意点をご指摘されるお声が、頭の中で鮮やかに再生されていました。
「ピルエット・アン・ドゥ・オール、ペアテ、音にちゃんと乗って、膝伸ばして・・・」
「指先と爪先まで気を遣ってデベロッペ、上へ上へ伸ばしてー。脚もっと高くキープ・・・」
「ピケ・ターンでマネージュ。アラベスクはちゃんと一瞬止まって、ジュネは思い切りよく・・・」
パチパチパチ・・・
気がついたら踊り終えていました。
レヴェランス、お辞儀したまま上目使いで窺がうと、早乙女部長さまたちが盛んに拍手をしてくださっています。
そのまま、自分の胸元に視線を移すと、汗でインナーが肌に貼りつき、乳首の形が露骨過ぎるほどクッキリ浮き出ていました。
スペースがあまり広くないので全体に動きがチマチマとしてしまったし、裸足なので爪先立ち、ポワントすべき箇所もドゥミ・ポワントまでにしか出来なかったのですが、久しぶりにしては自分でも、うまく踊れたほうだと思いました。
そして、こんな裸に近い姿でのダンスをじーっと注目されていた状況に、マゾのほうの私もゾクゾク悦んでいました。
「すごいわ。よくあれだけクルクル廻れるものねー。しなやかで、とても美しかったわ」
「表情もとても良かった。誘惑の踊りって言うだけあって、艶やかで、いつもの直子さんとは別人みたいだった」
「そうそう。セクシー過ぎてアタシ、ヘンにドキドキしちゃったもの」
みなさま、私の全身を遠慮無く眺めつつ、口々に褒めてくださいました。
右の肩紐が落ちて乳首ギリギリで止まっていた胸元の布をさりげなく直し、もう一度ペコリとお辞儀をしました。
予想通り、ショーツの布がお尻に食い込んで尻たぶほとんど露出の超ハイレグ状態でしたが、みなさま私から視線を逸らさないので、こっそり直すわけにもいきません。
踊っている最中に、何度か乳首が風を切る感触がしていました。
激しい動きで、胸ぐりや腋からときどき露になってしまっていたのは間違いありません。
「それだけ踊れれば、気持ちいいでしょうね。やっぱり森下さんは思った通り、フィッティングモデルに最適だわ」
部長さまが目を細めて、私の全身をあらためて見返しながらおっしゃいました。
「おかげで、いろいろアイデアも浮かんだし、この衣装が完成したら、もう一度踊ってもらいたいわ。それまでにわたくしも、有名なバレエ音楽を調べて、ライブラリーに揃えておくから」
嬉しそうに微笑んでから、みなさまを見渡す部長さま。
「ま、今日はこんなところでしょう。たまほのも森下さんも、ご協力、どうもありがとう」
「今日出た問題点を加味した上で、煮詰めていきましょう」
リンコさまもノートをパタンと閉じ、突然のアイドル衣装開発会議はどうやら終了のようでした。
私もホッと一息。
「わたくしはこの後、恵比寿寄ってからアトリエに戻るから、リンコは5時過ぎに合流してちょうだい。ミサは、早速Bタイプのインナーのパターンを修正してアトリエにメールで送ってください」
「わかりました」
リンコさまとミサさまのユニゾンなお答え。
部長さまはご自分の上着とバッグを掴み、早々とお出かけの態勢です。
ドアに向かいかけた部長さまが足を止め、私に振り向きました。
「そうそう、森下さん?」
「あ、はい」
「これから着替えるのでしょうけれど、そのチョーカーは外さなくていいわよ」
「はい?」
「それ、とても似合っているから、プレゼントするわ。今日のお礼の意味も込めて」
「えっと・・・」
「モノはいいわよ。レザーもチェーンもジュエリーも。職人さんの手造り。今日頑張ってくれた、お礼」
「あ、はい・・・あ、ありがとうございます」
部長さまは、ニコッっと笑みをひとつくださり、スタスタとドアの向こうへ消えました。
「よかったじゃん、ナオっち。確かにそれはいいモノだよ」
部長さまのお姿が見えなくなったらすぐに、リンコさまが寄ってきて私の首のチョーカーを指さしながらおっしゃいました。
「それに確かに、ナオっちに超似合ってる」
リンコさまの横でコクコクうなずくミサさまとほのかさま。
「そ、そうでしょうか?」
ドキドキしつつ、首のチョーカーをそっと指で撫ぜる私。
全身にビビビッと、マゾの電流が走ります。
「うん。さっき、それ着けて飛んだり跳ねたりしているのを見ていたら、フェアリー系?妖精っぽいて言うのかな?とにかくすっごく可憐だった」
そういう捉え方もあるのか・・・
私は、首輪、これはチョーカーですけれども、そういった首輪っぽいもの、と言えば、マゾとかドレイとかSM的なイメージしか浮かばないのだけれど、ちゃんとファッション的に捉えて似合っていると言われたことを、嬉しく感じました。
それなら普段着けていても大丈夫かも、とも。
「首にアクセントがあると全体が引き締まるのよね。ナオっち首細いし。それにやっぱり、そこはかとないエロさも加わる」
リンコさまが私の胸元をチラ見しつつ、イタズラっぽくおっしゃいました。
「それは今の服装のせいもある」
ポツンとつぶやくミサさま。
そんなおしゃべりをしながらゾロゾロと、着替えるために応接ルームへと移動しました。
テキパキと衣装を脱いで下着姿になってから、スルスルっとワンピースをかぶるほのかさま。
「ふー、やっと落ち着いた。ああ、恥ずかしかったー」
カワユクおっしゃるほのかさまは、膝下まで届く裾にご満悦。
「あ、ファスナー上げてあげて」
リンコさまがすかさずミサさまをつつき、ほのかさまの背中を指さしました。
照れたようにお顔を火照らせて、おずおずとほのかさまに近づくミサさまもカワユイ。
この隙に私もさっさと、と、みなさまに背中を向け、ほとんど役に立たなかったスカートをストンと足元に落とし、大急ぎでジーンズに両脚を突っ込んでずり上げました。
ショーツのお尻はハイレグ状態のままでしたが、一刻も早くジーンズで覆いたかったので仕方ありません。
後でおトイレにでも行って直さなくちゃ。
脱いだ衣装はリンコさまが回収され、丁寧にたたまれました。
次に上、と思ってテーブルを見ると、白いフリルブラウスはあったのですが、ブラジャーが見当たりません。
「あれ?」
ブラウスの下にも、ひょっとしてと思いテーブルの下も見てみましたが、どこにもありません。
「直子さん、どうかした?」
キョロキョロしている私を不思議そうに見ているほのかさま。
「あの、私のブラジャー、知りませんか?」
「あっ!」
私の質問に、ほのかさまの横にいたリンコさまが大きなお声をあげました。
「さっきあっちでナオっちがブラ外したとき、アタシが受け取ったでしょ?それで部長の傍に戻ったら、部長が手を差し出してきたの、渡しなさい、っていう感じで」
「それで渡したら、部長は丁寧に折りたたんで、当然のことみたいに自分のバッグにしまっちゃったのよね」
「えーっ?本当ですか?」
「アタシも一瞬あれっ?って思ったのだけれど、そう言えば、このブラはサイズが合わないから取り替えてあげます、みたいなことをナオっちに言っていたなーって思い出して」
「それから今まで、ぜんぜん疑問に思わなかった。考えてみれば、今日取り替えるっていう話ではなかったんだよね。止めなきゃいけなかったんだ。アタシって、ほんとバカ」
リンコさまがすまなそうに、上目遣いで私を見ました。
「余ってるブラとかなかったっけ?サンプルで」
「直子に合いそうなサイズは、たぶんない」
リンコさまのご質問にミサさまが即答。
ひょっとして私、これから家に帰るまで、ブラウスにノーブラで過ごすことになるのかしら?
それはマゾ的には、なかなか蠱惑的なハプニングではありました。
でも、オフィスを出て家までの帰り道は、ひとりなのでちょっと怖いけれど。
「わたし、下のお店で買ってきてあげましょうか?」
ほのかさまがおやさしくおっしゃってくださいました。
「あ、いえ、そこまでしていただかなくても・・・」
私の心は、思いがけずに訪れた、強制ノーブラ勤務の自虐に傾き始めていました。
みなさまの視線が当然のように、薄いインナーの布を露骨に浮き上がらせている、私の胸元のふたつの突起に集中しているのを感じながら。
「そうだ。いいものがある。ちょっと待ってて」
いつものようにポツリとおっしゃったミサさまが、デザインルームのほうに駆け出されました。
すぐに戻ってこられたミサさまの手には、肌色の薄くて小さなゴムっぽい物体。
「ああ。ニップルパッドか」
リンコさまが少し拍子抜けされたようなお声でおっしゃいました。
「アタシは別に、乳首が浮こうが気にしないけどなー」
いつもノーブラなリンコさまが、私をからかうみたいにおっしゃいました。
「リンコはそうだろうけど、直子はたぶん気にする。恥ずかしがり屋だから」
ミサさまの助け舟。
「そうですね。同じノーブラでも、トップを気にしなくていいのは、気分的にずいぶん楽です」
ほのかさまも同調してくださいました。
「ふーん。そういうもんですかねー」
ちょっぴり拗ねたように、おふたりのバスト周辺に視線を走らせたリンコさま。
「使い方わかる?」
ミサさまが手渡しながら尋ねてきます。
「はい。貼る、のですよね?」
「うん。ぺったり」
手渡していただいたニップルパッドは、池袋でお姉さま、いえ、チーフと再会したとき、居酒屋さんで裸にされて貼られたものと同じ製品でした。
再びみなさまに背を向けて、インナーのジッパーを下ろしました。
インナーを脱ぎ去ると、ミサさまが回収してくださいました。
上半身裸になって、バストトップにニップルパッドを貼り付けます。
ヘンにコソコソせず、出来るだけ自然な感じで。
貼り付け終えても、どなたも私にブラウスを手渡してくださいませんでした。
自分で振り向いて、テーブルの上のブラウスを取り、みなさまの前で袖に腕を通すしかないようです。
トップは隠れているとはいえ、ついにみなさまに、私の生おっぱい全体をご披露することになりました。
極力平静を装いながら、内心マゾマンコをキュンキュンさせつつ、ゆっくりとみなさまと向き合いました。
6つの瞳から放たれた視線が値踏みでもするように、一斉に私ののっぺらおっぱいに群がるのがわかりました。
私がブラウスを着るあいだ中、どなたも何もおっしゃいませんでした。
ただただ視線たちが名残惜しそうに、私の全身を縦横無尽に這い回るのだけを感じていました。
ボタンを留め終えると、肩の荷を降ろしたような、ホッと一息ついた雰囲気が一同に広がりました。
「いけない。もうこんな時間になっちゃった。急いでアトリエ行かなきゃ」
リンコさまがあわててオフィスを飛び出して行きました。
「直子は、やっぱり総受けだね」
ミサさまは、謎の科白を残してデザインルームへ。
ほのかさまとは、しばらくふたりでバレエのお話をしました。
ほのかさま、ずいぶんご興味をお持ちになったみたい。
「直子さん、さっきヴァリエーションっておっしゃっていたけれど、あれは、ひとつの曲でいろいろ踊り方がある、っていう意味?」
「いえ。ヴァリエーションていうのは、バレエ用語で、ソロの踊りっていう意味で・・・」
これから少しづつ、初歩的なステップから、ほのかさまにお教えすることになりました。
結局、最後までどなたも、私の尖った乳首やショーツの濡れジミを話題にしたり、からかわれるかたはいませんでした。
否が応にも目についたはずの、恥ずかし過ぎる性的反応。
私のマゾ性が丸わかりだったはずなのに。
みなさま大人なんだなー。
安堵した反面、残念に思う気持ちも少なからずありました。
社長室にひとり戻り、暗くなったガラス窓に自分の姿を映してみました。
首に赤いチョーカー、ブラウスの下は乳首こそ隠しているもののノーブラ。
ジーンズの下のショーツは、ヌルヌルに濡れそぼっているはず。
朝オフィスに来たときには、予想だにしなかった私らしい姿に変わり果てていました。
こんな姿で、オフィスにいることが不思議でした。
つい数時間前からさっきまで、みなさまの前でご披露した恥辱的行為と、それをすることで味わった自分の昂ぶりを反芻すると、もういてもたってもいられなくなってきました。
今日は早めに帰らせてもらおう。
一刻も早くお家に帰って、思い切りオナニーしたくて仕方ありませんでした。
その日の夜、ひとしきり自分を慰めた後、どうしても我慢出来ずにチーフ、いえ、お姉さまにお電話をして、出来事をすべて包み隠さずご報告しました。
不意の男性お客さま襲来から、突然のフィッティングモデル抜擢、羞恥のノーブラバレエご披露まで。
もちろんクチュクチュクチュクチュ、マゾマンコをまだ弄りながら。
お姉さまは神戸のホテルでリラックスされていたようで、興味津々なご様子で一部始終を聞いてくださいました。
「へー。そんなことがあったんだ。あたしもその場にいたかったなー」
「スタンディングキャットの彼らは、ユニークな連中よ。何も怖がる必要はないわ」
「そう言えば、あたしの前でちゃんと直子がバレエを踊ったことって、なかったわよね?今度見せてもらおうっと。うんと恥ずかしい衣装みつけなくちゃ」
「アヤたちは絶対、直子がサカっているの、気がついていたはず。でも気づかないフリをしたの。オトナの嗜みとしての、見なかったフリね」
神聖なオフィスでそんなにいやらしく発情して、って叱られるかも、とも思っていたのですが、お姉さまは愉快そうにクスクス笑いながら会話してくださいました。
中でも一番ウケたのは、部長さまがチョーカーをくださったことと、私のブラジャーを持って帰ってしまったことでした。
「つまり直子は、ノーブラにニプレスで、首輪着けたまま池袋の夜道をひとりで歩いて帰ったのね?濡れすぎちゃって困ったんじゃない?」
からかうようにおっしゃって、お電話の向こうで愉しげに笑っています。
「そろそろうちのスタッフにも、直子のドマゾバレが時間の問題みたいね。それから直子とみんなの関係がどうなっちゃうのか、とても愉しみだわ」
そこで少し沈黙があってから、そうだ!というお姉さまの弾んだお声が聞こえてきました。
「アヤがチョーカー似合うって言ったのなら、直子がオフィスに着けて来るのも問題無いのよね?」
「そうだと思います」
「この前、直子、出来ることならずっと首輪を着けて過ごしたい、って言っていたじゃない?それが叶うわけよね?」
「えっと、そう・・・ですか?」
「さすがに犬の首輪という訳にはいかないから、あたしが、直子にピッタリなアクセっぽいチョーカーを探してプレゼントしてあげる。つまりそれが、直子からあたしへの、マゾドレイ服従の証としての首輪となるの」
「直子がそれを着けていたら、私はムラムラ期です、発情しています。っていうサインなワケ。あたしも、虐めて欲しいんだな、ってすぐわかるし。いいアイデアだと思わない?ふたりだけの秘密のサイン」
「えっと・・・」
「決まりね。このへんいい宝石商多いし、明日真剣に探してみるわ」
ノリノリなお姉さまがどんどん決めてしまいました。
「それまでは、そのアヤがくれたチョーカーをずっと着けていなさい。どうせあたしに会うまでムラムラは鎮まらないのでしょう?」
「はい・・・」
「あたしは明後日戻るから、それまでの辛抱よ。今週末は休めそうだから、たっぷり虐めてあげる」
お姉さまとの長電話が途切れても私の指は、執拗にマゾマンコを責め立てていました。
お姉さまと、ふたりだけの秘密のサイン。
その甘美な響きに、私のからだは何度も何度も、グングン高まっていきました。
頭の中では、そんな私の淫らではしたない姿を取り囲んで、早乙女部長さま、ほのかさま、リンコさま、ミサさまが、蔑むような冷やかなまなざしで、じっと私を見下していました。
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*オートクチュールのはずなのに 33へ
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