どなたかにからだを揺すられています。
「…急がないと…遅れちゃうわよ…」
耳覚えのあるお声が私の意識の中に入ってこられ、夢から現へと緩やかに引き戻されます。
「んーーっ…」
からだを覆っていた羽みたいに軽いふわふわお布団が、ゆっくりと起こした上半身をスススっと滑り落ちました。
瞼に差し込む光はすでに充分に明るく、そっと開けた瞳に飛び込んできたのは広すぎるくらいの真っ白なシーツの海。
あれ?私さっきまで、どこかの古びた和室の座卓の上に蟹縛りの股縄コブクリ固定で放置されていたはずなのに…
夢の残滓に現実が混ざり合い、いつもの、ここはどこ?私は誰?状態。
「8時前の約束でしょ?もうあと一時間切っているわよ?」
麗しのお姉さまのお声に、ハッと覚醒してあたりをキョロキョロ見回すも、相変わらずの???
嘘みたいに広過ぎるダブルベッド、薄いベージュ色を基調にシックに統一された広々とした瀟洒なお部屋、ふわっとしたオフショルダーのブラウスにジーンズ姿のお姉さま…
あれ?ここってお姉さまのお部屋だったっけ…?
起こしたからだに纏っているのは、ゆったりとした真っ白いTシャツ。
そのとき唐突に、就寝前にお姉さまと交わした会話を思い出します。
…だめよ裸じゃ、寝汗でシーツを汚してしまったらご迷惑でしょ?それに今夜の直子は絶対えっちな夢を見ると思う。愛液って無意識下でも分泌されるんだって。それでなくても直子のマゾマンコはだだ漏れ垂れ流しなんだから…
そこですべて思い出しました。
ここは名塚先生の避暑地の別荘で、今は一泊後の早朝、お姉さまとのバカンスの真っ最中だということを。
「ほら、さっさと顔洗ってシャワー浴びて、出すもの出して下に行かなきゃ」
お姉さまがバスタオルとシャワーキャップを投げてくださいます。
「朝食はひと仕事終えた後ね。ほら、急いで急いで」
私の下半身をまだ覆っていたふわふわ掛け布団をススッと剥がされ、たたみ始めるお姉さま。
よたよたとベッドから降りた私は、膝丈の真っ白いロング&ビッグTシャツ姿。
お姉さまとお揃いで二着、お部屋にご用意いただいていたものでした。
「ハミガキハブラシはバスルームの洗面台に置いてあるから。直子のは黄色のほうね」
広大なダブルベッドのシーツを念入りにチェックされつつ、ベッドメイクし直されているお姉さまからお声がかかります。
バスルームはリビング窓際の隅にあり、昨日の昼間、一度使わせていただきました。
リビングのソファーからゆったりじっくり中を眺められる、全面ガラス張りシースルー。
着いた早々ここで何をされたかをまざまざと思い出してしまい、ひとり赤面してしまいます。
入ってすぐの脱衣所一画が洗面台。
真っ白な陶器の棚上に、緑と黄色のハブラシとお姉さまご愛用のハミガキチューブ。
その横で丸まっているのは私の赤い首輪。
大きな鏡に私の寝惚け顔が映っています。
少し迷いましたが尿意を感じていたので、先におトイレを済ませてしまうことにします。
おトイレはバスルームの一番端。
さすがにそこだけはちゃんとした壁で仕切られ、お外から見えないようになっていました。
扉を開けるとすぐ便器。
便座に座ろうとTシャツの裾をまくりあげると、真っ赤な布地が目に飛び込んできました。
そうでした。
さっき思い出したお姉さまからのアドバイスで寝る前に私は、一昨日に宿泊した温泉旅館でいただいた赤いおふんどしを着けさせられてベッドに入ったのでした。
無性に恥ずかしくなり、カァーッと顔が火照ります。
その旅館でそのおふんどし姿で、何をされ何をやらされたのかを急に思い出してしまったのです。
Tシャツの裾を大きくまくりあげ、おふんどしを外しにかかります。
前垂れを抜いて、ウエストで縛った紐を解きます。
股間を通る布はすっかり直線状となり、割れスジにしっかり食い込んでいました。
スルスルッと腰から布地が外れる寸前、腿の付け根と紐状布地のあいだにツツッーとか細い糸が引きます。
私のその部分が密着していた一面だけ、赤い布地にサラダ油を垂らしたみたいに、より色濃くべっとり変色していました。
お姉さまのご忠告通り寝ているあいだも私は、やっぱりえっちな陵辱を夢見ていたようです。
剥き出しのお尻を便座に乗せた途端、オシッコが勢い良く飛び出します。
自分でもわからないうちにずいぶん我慢していたみたい。
ただよう香りが少しアルコール臭いのは昨夜のお酒のせいでしょう。
オシッコがひと段落したら一度流し、次に力を込めるのはその少し後ろの穴。
いつも通りに健康的にすっきりし、シャワーノズルを前に後ろに切り替えて丁寧に洗浄。
おそらく今夜も使うだろうからと、おふんどしはシャワー中に一緒に洗ってしまうことにして、ノーパンのままおトイレを出ました。
ハミガキ、洗顔をサクサク済ませ、Tシャツを脱ぎ去りシャワーキャップをかぶって浴室へ。
お姉さまと同じ香りのボディソープを熱いお湯で流していると、昨夜就寝前のお姉さまとのあれこれが思い出されます。
全裸人間テーブルでみなさまに全身を好き放題弄くられ、欲求不満不完全燃焼のままお座敷から放り出された私。
賭け七並べで最下位になってしまい、罰ゲームとして私の性的な要求に応えなければならないことになってしまわれたお姉さま。
「よかったねー、愛しのお姉さまが今夜はたっぷり可愛がってくれるってさ」
「エミリー、直子をちゃんと満足させてあげなさいよー」
冷やかしのお声を背中に浴びつつ、ふたりだけのお部屋に戻った途端に、お姉さまのほうから熱烈なくちづけ。
アルコールが香る互いの口腔を貪るように押し付け、口中で激しく絡み合う舌と舌。
自らスウェットのジッパーを勢いよく下げられ、スウェットパンツももどかしそうにずり下げられるお姉さま。
酔いのせいなのか、お姉さまのほうが積極的で少しビックリ。
もちろんその下には何も着けていらっしゃいません。
生まれたままの姿となったふたりは、ボクシングのクリンチみたいに固く抱き合ったまま、ジリジリとベッドのほうへ。
互いの右手は相手の股間に潜り、尖った乳首が相手の乳房を凹ませ、重ねた唇から垂れる唾液に負けないくらいお姉さまも濡れていらっしゃいました。
広いベッドに倒れ込んでからは、まさにケダモノのまぐわいでした。
お互いの弱いところが執拗になぶりなぶられ、歓喜の淫声はすかさず唇で塞がれ、挿入された指はどんなに締め付けられても抜かれず…
お姉さまから、もうダメ、お願い、許して…的なお言葉をいただくほど、ふたりで幾度も昇り詰めつづけました。
しばしグッタリした後はバスルームへ。
そこでは優しく愛し合い、日付が変わって小一時間ほど過ぎた頃に眠りに就いたのでした。
そんな甘美なひと時を反芻しながらぬるま湯シャワーを浴びていると、ガラスの向こうでソファーに座られたお姉さまと目が合いました。
ご自身の左腕に嵌められた腕時計を指し示され、手招きのジェスチャー。
もう時間が無いのだから早く出てこい、という意味でしょう。
あわてておふんどしを水洗いした後、脱衣所に戻ります。
同時にお姉さまも脱衣所まで入ってこられました。
「なにのんびりしているのよ?もう8時15分前よ?」
責めるようなご口調ですが、バスタオルでおやさしく私のからだを拭いてくださるお姉さま。
シャワーキャップを脱いだ髪を丁寧に梳いてくださり、仕上げに首輪も嵌めてくださいました。
首輪のひんやりした感触に喉元が覆われたとき、鎮まっていたマゾの血がゾワゾワっとざわめきます。
目の前の大きな鏡に映る、くすんだ赤い首輪を巻かれたおっぱい以下丸出しの女。
思えばここに来てから昨夜寝るまで、ほとんどこの首輪ひとつの全裸で過ごしていた気がします。
一昨日までまったく見ず知らずの関係だった年上のお姉さまがたに、屋内でも屋外でも着衣を禁じられ、いいようにもてあそばれ辱められる慰み者状態。
これから始まる今日一日も同じように過ぎていくのでしょう。
そんな境遇にソワソワ怯えながらも、ドキドキ期待もしちゃっている自分…
「ほらっ!なにをボーッとしちゃってるの?時間無いんだってばっ!」
バチンッ!
「ひゃんっ!」
お姉さまに剥き出しのお尻を強くひっぱたかれ、現実に引き戻されます。
「まったく、あなたって首輪した途端にマゾっ気全開で心ここにあらずになっちゃうんだから。さあ、さっさと下へ降りるわよ」
素っ裸のままの私の手を取り、強引に引っ張られるお姉さま。
「あの、でもでも、みなさまの前に出るのでしたら、せめてタオルとか巻いておいたほうが…それに少しくらいはメイクも…」
「なに言ってるの?もう寺さんたちとは知らない仲じゃないんだから、素っぴんで充分。それに昨日決めたでしょう?最初だからエプロン貸してあげるけれど、次からはずっと素っ裸で、って」
お姉さまが苛立ち気味におっしゃりつつ、私の手を引っ張っていかれます。
お部屋のドアを抜け長いお廊下そして階段、素っぴん素っ裸で引かれるままに付き従う私。
シャンデリアがまばゆく照らす一階のホールに降り立ったとき、ホールにはどなたもいらっしゃいませんでした。
しずしずといつものソファーコーナーのほうまで歩いていくと、向かって左側壁際のドアが勢いよく開き、中村さま、五十嵐さまがお姿をお見せになります。
「あ、おはようございます」
お姉さまがバレエのレヴェランス風で優雅にご挨拶。
私もつられてペコリとお辞儀。
「やっと来たー、まあギリ遅刻じゃないけど。そんなことより聞いてよエミリー、昨日の今日でわかってたつもりだったけどこのイガっち、厨房じゃまったく使い物になんないんだわ」
「だってうち、食事はコンビニかチェーン店、冷凍チルド、レトルトオンリー、たまに出前や宅配サービスつー女だもん」
中村さまの呆れたようなご抗議を、戯けるように受け流す五十嵐さま。
「そう言えば寺さん、今朝は早くから先生とお仕事って言ってたっけ」
苦笑い交じりのお姉さまにつられて私も、おふたりのお姿をまじまじと観察。
中村さまは、シルバーレースの膝丈キャミワンピで下に着けられている布少なめな黒いブラとショーツが薄っすら透けています。
五十嵐さまは昨日とは違うアニメキャラのダボッとしたTシャツにジーンズ地の短パン、バストトップの感じからノーブラっぽい。
「そんなことより直子っち、朝っぱらから完全完裸のマッパでご登場なんて、本当に見せたがりーの露出狂変態さんなんだねえ」
悪びれない五十嵐さまが私のほうに近づいてこられ、今度は私が全身をしげしげと眺められます。
「あれー、直子っちの左おっぱい上のところ、薄っすら紫になっているの、キスマークじゃない?」
五十嵐さまが私のからだを指さされ、からかうようにおっしゃいます。
「あー、よく見たらここにも、あ、こっちにも。エミリーさん、罰ゲームちゃんとがんばったんだね、えらいえらい」
ご愉快げにおっしゃる五十嵐さまと、さっきとは違った感じの照れ臭そうな苦笑いを浮かべられるお姉さま。
お姉さまの柔肌にだって、全身あちこちに私が夢中で吸い付けた薄い内出血痕が残っているはずです。
「ラブラブなのはいいけれど、さっきキッチンの窓から覗いたら、ジョセフィーヌちゃん、直子っちをお待ちかねみたいよ?快晴ドピーカンのお庭を舌垂らしてハアハアいいながらあちこちウロウロしてたし」
ますます嬉しそうに五十嵐さまがおっしゃりながら、テーブルの上に丸められていたリード綱が私の首輪にカチリと繋げられました。
中村さまも近づいてこられ、テーブルの上のビニールトートを広げて私に中身のご説明。
「ジョセの今日のおやつはビスケット無しでペーストだけにしたから、直子も思う存分好きなように愉しんでくるといいわ。あと、こっちの袋はジョセのお友達の猫ちゃん用カリカリ。そのフードボウル一杯くらい入れて、もうひとつのフードボウルには水道水入れて、あの大きな木の下に置いておいて。で、夕方に回収してきてね」
「猫さんもあの広場に来るのですか?」
「うん。ジョセと知り合いになった猫ちゃんがこの界隈に二、三匹くらいいるみたい、三毛とキジトラ、黒ブチも見たことあるかな。ま、今朝来てるかどうかなんてわからないけれどね」
ご興味なさそうにおっしゃった中村さまが、早口でつづけられます。
「で、フリスビーとシャベル、タオル、ゴミ用袋。こっちは直子用の凍らせたスポーツドリンク、何かあったとき用のスマホ。朝は直子用おやつは無し。それとこのビデカメでいやらしいことするなら極力自撮りしてくること」
立て板に水でご説明くださった中村さまが、ささっとお姉さまのほうに向かわれます。
「さ、そんなことよりエミリー、早く手伝ってよ。こんな調子じゃワタシらの朝食、ジャムかバターのトーストオンリーになっちゃうぅ」
急かすようにお姉さまのお背中を押され、厨房入口へと向かわれる中村さま。
ソファーに座られたままニヤニヤ私を見ていらっしゃる五十嵐さま。
「ほら、直子っちも早くお仕事しなきゃ。外でジョセがきっと焦れてる」
五十嵐さまからビニールトートを差し出され、剥き出しの左肩に掛ける私。
それをご確認された五十嵐さまがもうひとつ、細長いものを差し出してくださいます。
「外は朝から太陽ギンギラギンだからね。日傘、持ってくといい」
真っ白地に細かいお花柄の模様の散った見るからに高級そうな日傘。
持ち手が真っ直ぐな木製で、凸凹した細かな彫刻?が施され、その形状がなんだか卑猥な感じ…
全裸の左肩にビニールトートバッグ、その左手に畳まれた白い日傘、右手のひらにはハンディビデオカメラを携えた私の姿をご自分のスマホで数枚撮影された五十嵐さま。
私の背中を軽くポンと叩かれ、いってらー、というお声とともにお姉さまたちの後を追うように厨房入口のほうへとゆっくり歩み始めました。
途端にシンと静まり返る大ホール。
こうなってしまったら、私も課せられたお仕事を全うするしかありません。
すなわち、この別荘の持ち主である名塚先生の愛犬ジョセフィーヌさまのお散歩にご同伴すること。
全裸のまま屋外に出て、全裸のまま山道を歩き、全裸のまま広場でジョセフィーヌさまと戯れ、全裸のまま再びこの別荘へ帰還する…
それも、お姉さまはもちろん、どなたのサポートも無く、たったひとりと一匹で…
不安や逡巡、背徳感、それと同じくらいの未知への期待、高揚、開き直り…
昨日だって大丈夫だったし、ここは私有地だからってみなさまいたって楽天的だし…
子供の頃から一度はしてみたいと思っていたことでしょ?絶好のチャンスじゃない?
お姉さまが放っといているということは絶対安全なのよ、だからこれもお姉さまからのご命令と思えばいいでしょ?…
いろいろうじうじ考えつつもホール出口の扉の前まで歩く私。
扉前までたどりついた私に、唐突に左後方からお声がかかりました。
「覚えていると思うけど、イラクサは広場に入る入口周辺にたくさん生えてるからねーっ」
からかうようなお声は中村さま。
わざわざキッチンのドアを開いて伝えてくださったのでしょう。
そのお言葉の意味にズキンと疼いてしまう私のどうしようもないマゾマンコ。
扉を開けると瞳に広がる晩夏早朝自然光の明るさ。
短いお廊下を玄関まで歩いてやがて沓脱ぎ。
そこにポツンと一足だけ揃えられた私用のピンクのサンダル。
そのサンダルに素足をくぐらせる私。
意を決するまでもなく、マゾな私にはこうするしかないのです。
玄関の荘厳な観音開き扉を外側に開くと、まだ朝の8時少し前と言うのにお外は盛夏真っ盛り的な日本晴れ。
高地なので湿度が高くないのが幸いし、素肌に浴びる陽射しがなんとも清々しい気持ち良さ。
思わず両手を上に広げ、ンーーーっと全裸な全身をお陽様にフルオープン。
気持ちいぃーーーっ!
と、ひと息ついて、あれ?ジョセフィーヌさまは?と辺りを見廻したとき…
「ワンっ!」
一声聞こえたと思ったら、山道へとつづく敷地の門のほうから、私目がけて一目散に走ってこられるジョセフィーヌさまのお姿が…
*
*