エントランスホールには誰もいませんでした。
柏木のおばさまに帰ってきたことを一応ご報告しておこうと、管理人室のインタフォンのボタンを押しました。
「はーい」
「あ、森下です。今戻りましたので、荷物をお部屋にいったん置いてからまた・・・」
言っているあいだに、柏木のおばさまがエントランスに出ていらっしゃいました。
「おかえりなさい。意外と早かったわね」
私のものであろう大きなダンボール箱を両手で抱えた柏木のおばさまが、ニッコリ笑いかけてくれます。
「ありがとうございます。いったん荷物を置いてからまた降りてきますので、それはそのへんに置いておいてください」
「あら、直子ちゃん、両手が塞がっているのね。だったらおばさんが一緒にお部屋まで持って行ってあげるわよ」
おばさまがそう言って、スタスタとエレベーターのほうへ歩いていってしまいました。
「あっ、ありがとうございます。お手数おかけしてごめんなさい」
「いいの、いいの、ヒマだから」
狭いエレベーターの中でおばさまとふたりきり。
今自分がしていることに負い目があるので、すっごく緊張してしまいます。
「やっぱり今の季節じゃまだ、そういうコートだと少し暑いのかしらね?直子ちゃん、お顔が火照っているわよ?」
「は、はい・・・けっこう歩いたので、ちょっと疲れちゃったみたいかな・・・」
ドキドキしながら答えます。
「あら?あそこの商店街まで行ってきたのね?」
私が肩に提げたトートバッグから覗いている、お肉屋さんの包み紙に目をやるおばさま。
「はい。以前お散歩していてみつけて、今日、ふと行ってみようかなって・・・」
マンションの門をくぐる前に、お薬屋さんの包みはバッグの奥底にしまい、から揚げの包みを一番上にしておいたんです。
エレベーターが私のフロアに着きました。
「わたしもたまに行くわよ。やっぱり自家製、作りたては美味しいものね。そういう揚げ物とかパンとか」
「あそこはとても古くからあって、昔はもっと賑わっていたのよ。お店も今の倍以上あって、わたしもその頃は、ちょっと遠いけれどよく行っていたの」
「今は高齢化と再開発で、閉めちゃったお店のほうが目立つけれどね。わたしが子供の頃からだもの」
「うちもここに住んで長いから、お知り合いもいっぱいいるのよ。そのお肉屋さんとも顔なじみよ」
私のお部屋のドアまで歩きながら、おばさまが懐かしそうにおっしゃいました。
私は、柏木のおばさまが、あのお薬屋さんのおばさまともお知り合いなのかどうか、聞いてみたくて仕方ありませんでした。
でも、脈絡なく突然そんなことを聞くのは絶対ヘン。
逆に、なぜだか尋ねられて、やぶへびになっちゃいそうなのでやめました。
「そのから揚げも絶対美味しいから、また、たまに買いに行ってあげてね」
おばさまが我が事のようにお肉屋さんの応援をして微笑みます。
「はい。あっ、荷物はそこに置いてください。後は自分でやりますから」
「そうね。よいしょっと。それじゃあまたね」
「わざわざありがとうございました」
「ううん。いいのよ。何かあったらまたいつでも言ってね」
ドア脇の棚の花瓶に活けたセイタカアワダチソウの束をちょいちょいと直してから、おばさまは優雅に会釈してエレベーターのほうへと戻っていかれました。
お辞儀をした頭を下げたまま、おばさまの背中をお見送りします。
おばさまがエレベーターの中へ消え、扉が閉じるとすぐに、エレベーターのほうに駆け出しました。
エレベーターの表示が3、2、1と変化して、1のまま動かなくなったのをしっかり確認してから、コートのボタンをはずし始めました。
お部屋のドア前に戻るまでに、一番下までボタンをはずし終えました。
コートの前を開いて、自分の裸を覗き込みます。
全身が満遍なくじっとりと汗ばみ、淡いピンク色に上気しています。
左右の乳首は、これでもかというくらいに背伸びして、その存在を誇示しています。
両脚の付け根付近は、ぱっと見でもわかるくらいテラテラと濡れそぼっています。
欲情している女のからだ、そのもの。
ゆっくりと両腕を袖から抜き、コートを脱ぎました。
脱いだコートを軽くたたんで、おばさまに運んでいただいたダンボール箱の上に置き、その場にしゃがんでショートブーツを脱ぎ始めます。
しゃがんだ途端に、通路の床にポタリとおツユが垂れました。
今日履いていたショートブーツは、ブーツの筒部分と足との隙間に余裕があるデザインだったので、腿から滑り落ちたいやらしいおツユは、みんなふくらはぎを伝ってブーツの中に消えていました。
そんなブーツの中は、まるで雨の日に誤って水溜りにはまってしまったように、左右ともじっとりと濡れていました。
裸コートになってお外を歩いているあいだに、こんなにもえっちなおツユを垂れ流していたんだ・・・
今更ながら、強烈な恥ずかしさがこみ上げてきました。
ブーツを両足とも脱ぎ終えたら、完全な全裸です。
これでお部屋に入れます。
通路のグレイな大理石風タイルの上を裸足で歩くと、濡れた裸足の足跡がうっすらと残ります。
このブーツ、よく洗ってからじゃないと履けないな・・・もしも臭っちゃったらどうしよう・・・
そんなことを考えながら、玄関の鍵を開けました。
夕方5時前。
薄暗い玄関の電気を点けました。
同時に目に飛び込んできたのは、鏡に映った自分の姿。
今、お外からお部屋に戻ってきたばかりなのに、なぜだか全裸な私。
まるで全裸のままお外を歩いてきたみたい。
鏡に映っている自分の顔は、私がよく知っている、えっちなことで頭がいっぱいになっているときの、トロンとした目で口許に締まりの無い、いやらしい私の顔でした。
今すぐにでも、全身をまさぐって気持ち良くなりたい欲求を懸命にがまんして、買ってきたものを所定の場所にしまいました。
実家からの荷物は、開けもせずそのままウォークインクロゼットへ。
ブーツは、中を乾拭きしてから除菌消臭スプレーをして窓際に日陰干し、コートも裏返しにしてサンルームの窓際に吊るしました。
そんな作業をしているあいだも、乳首はずっと尖ったまま。
早くさわって、って私を急かします。
ちょっとつまんでみたくなる気持ちを必死にこらえて、片づけを終えました。
汗ばんだからだにシャワーを浴びたい感じもありましたが、とりあえず一度慰めてから、ゆっくり浴びることにして、すぐさま快楽への準備に移りました。
ベッドルームに行き、ローソクプレイのときに使ったレジャーシートと他数点のお道具を取り出して、サンルームに向かいました。
お外が暗くなると窓全面が鏡張りになる、マジックミラーのサンルーム。
今回は久しぶりに、ここでしてみるつもりでした。
もちろん、この時間帯に中で電気を点けると、お外からは素通し丸見えになっちゃうことは知っています。
でも、よほど私が窓際に近づかない限り、中で何をしているのかがわかるような建物は、近くに無いことも確認していました。
これからする行為は、鏡があるほうが都合がいいし、ずっと寝そべっていれば遠くのビルからでも見えないだろうし。
裸コートをしたためなのか、すっごく気持ちが大胆になっていました。
それに、ここのほうがリビングよりおトイレに近いし・・・
ところどころに赤いローソク痕がこびりついている銀色のレジャーシートを、サンルームの入口付近に敷きました。
ここからおトイレまでは、直線で5メートルくらい。
サンルームのドアもおトイレのドアも開け放しておきます。
それから、お外の地面が駐車場なバルコニーに面した側の大きな窓にかかるブラインドを、次々に開いていきました。
鏡と化した大きな窓ガラスが、私の全裸な全身を映し出しました。
もしも今、バルコニーに誰かいたら、オールヌードの私がガラス越しの至近距離で、暗闇に煌々と浮かび上がって見えているはず。
そう考えただけで、キュンキュン感じてきちゃいます。
レジャーシートを少し窓のほうに寄せ、窓にお尻を向けて四つん這いになってみます。
大丈夫。
ちゃんとお尻が映ってる。
位置が決まって、その手元となるあたりに準備したお道具を並べました。
今日買ったお浣腸のお薬、ベビーオイル、バスタオル、お水を溜めたバスボウル、念のための木製洗濯バサミ数個とピンクローター。
そう。
これから私は、あのお薬屋さんのおばさまからお浣腸をされる妄想で、シミュレーションオナニーをしてみるつもりなのです。
両手に極薄の白っぽいゴム手袋をはめます。
看護婦だったというあのおばさまなら、絶対そうするはず、と思って用意したものでした。
この手袋をして自分のからだをさわると、自分の手でさわられているのではないような感触がして、好きなグッズのひとつでした。
その手で、今日買ったベビーオイルを開けました。
おばさまにお浣腸していただくなら、やっぱり四つん這いだろうな。
スカートを捲り上げられるのと、ズボンを下ろすのとでは、どっちがより恥ずかしいだろう?
そうだ、オールインワンのサロペットやコンビネゾンを着ていけば、上半身もろとも脱がなきゃいけなくなっちゃう。
そういうのもいいかな?
でも、お浣腸してもらおうって訪問してるのに、そんなややこしい服を着てくるのは、ちょっとわざとらし過ぎるかも。
どうするか、行くときまでに服装をちゃんと真剣に考えたほうがいいな・・・
銀色のレジャーシートの上で実際に四つん這いになってから、ベビーオイルをゴム手袋の右手のひらにたっぷり垂らしました。
それから下着を取られて、最初は肛門の消毒かな?
それからオイルでマッサージ。
おばさま、どんなふうにマッサージしてくれるだろう?
四つん這いのまま右手を背中からお尻に回し、穴のあたりをオイルまみれにしました。
あっ、その前に、私のその周辺に毛が無いこと、絶対聞かれるだろうな。
今はとくに、入念にお手入れしちゃった直後で、まったく無い状態だからなー。
何て答えようか?
生まれつき薄いからかっこ悪いと思って、いっそのこと、って思って全部剃っちゃいました、で、ご納得してくださるかな?
看護婦さんなら、そういうのも見慣れているだろうし、あら、そうなの、って、あっさり流してくれるといいな・・・
そんなことを考えながら、お尻の穴を中心に周辺を右手でヌルヌル愛撫しています。
指先が肛門に触れると、肛門がヒクっとすぼまるのがわかります。
お浣腸器を挿れやすくするためのマッサージなのだから、滑りをよくするために、当然おばさまの指が穴に、アナルに入ってくるのだろうな。
どんな感じなんだろう?
自分でお尻に手をやって、広げたほうがいいのかな?
昔、やよい先生にタンポンを突っ込まれたことがあったけれど、アナルに何か挿れるなんて、あれ以来かな。
そう言えばアナルって、響きがなんともいやらしい感じだな。
そうそう、アヌスっていう言葉もいやらしい・・・
頭の中の妄想を具現化するように、私の右手人差し指がそろそろと、肛門の中に進入してきました。
「んっ!」
ヌルヌルしているから別に痛くは無く、むしろ、むず痒い官能にゾクゾクしていました。
指が少しづつ、より深く前進するたびに、肛門がキュッと締まるのがわかります。
「んんーっ」
埋まった指を中で少し動かすと、下半身全体がモゾモゾ悶えてしまいます。
考えてみると私は今まで、さほど積極的に自分のアナルを虐めたことはありませんでした。
お浣腸のほかは、ローターを当てて震わせたりがせいぜい。
やよい先生のタンポン挿入が一番ハードな責めだったかもしれません。
やっぱり、そこから出てくるもの、に対する禁忌感、嫌悪感が大きかったのだと思います。
だけど今、なんだかすごく気持ちいい。
人差し指は、第二間接くらいまで埋まっていました。
指先をクイクイ動かすたびに新鮮な官能を感じていました。
「んあんっ、んーぅんっ」
やだっ、私ったら、ここでこれに目覚めちゃったら、おばさまとの本番でもマッサージだけであんあん喘いじゃいそう・・・
気持ちはいいのですが、四つん這いという格好に無理がありました。
これだと疲れるし、右手しか使えないし、鏡を見るにも首を大きく捻らなければなりません。
そこでいったん手を止めて、別の体勢になることにしました。
おばさまがおっしゃっていた、もっとも恥ずかしいお浣腸の体勢。
でんぐり返しの途中みたいな、赤ちゃんがオムツを取り替えるときのような格好。
窓に足を向けて仰向けになった私は、そのまま両脚を大きく開いて自分の肩のほうにぐるんと跳ね上げ、代わりに上体を少し起こしました。
後転の途中みたいな格好、と言うよりも、俗に言うまんぐり返しの格好、と言ったほうがわかりやすいでしょう。
からだが柔らかい私は、この姿勢になると自分の目で、自分のアソコもお尻の穴もほぼ正面から目視することが出来ました。
ああんっ!なんて恥ずかしい格好・・・
そしてもちろん、窓である鏡にも自分の姿がバッチリ映っていて、突き出したお尻越しに鏡の中の自分とバッチリ目が合っちゃいました。
もしもこの姿勢でおばさまからお浣腸を受けたなら、私は始終おばさまとお顔を合わせたまま、束の間の恥辱に耐えなければならなくなるのです。
こんな姿勢だと、私の開いたアソコからとめどなく溢れ出るいやらしいおツユを、おばさまの目から隠すことも出来ません。
お浣腸されながら愛液を垂らす女・・・
さすがの純粋なおばさままも、私のそんな姿を見たら、この女は淫乱な変態娘だ、と思い知ることになるでしょう。
それはたぶん、私の身の破滅、でもやってみたい・・・
そんな妄想にいてもたってもいられなくなり、自由な両手が私の下半身に伸びていきました。
左手は性器、右手はアナル。
そのとき何を思ったのか、右手をお尻に伸ばす前に何の気なしに自分の鼻先に持ってきて、人差し指の匂いを嗅いでしまいました。
手袋のゴムのケミカルな匂いに混じった、形容し難い、ケダモノじみたお下品な匂い。
匂いと書くより臭いと書くべき、はしたない臭い。
それを嗅いだ瞬間、私の中で何かがバチンと、音をたてて弾け跳びました。
*
*コートを脱いで昼食を 10へ
*
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