2010年8月28日

お医者さんごっこと私 06

「ねえ?なおちゃん?」

 由美ちゃんが視線を落としたままポツリと言いました。

「弓子ちゃんのスジも見てみたいね…」

 私もそう思っていました。
 でも、それはたぶん無理。

「でも弓子ちゃん、大きなお注射だってイヤがるでしょ?お尻見せるのもイヤなんだから、前のほうはもっと無理なんじゃ…」
「無理矢理脱がせるのはかわいそうだし、第一、泣かせちゃったりしたら、あのお兄さんに叱られちゃうよ?」

「お兄さんに嫌われるのはやだなー」

 由美ちゃんが真剣に言います。

「弓子ちゃんて、パン屋さんの子だよねえ?」

「ヒロも何度も会ったことあるでしょ?確か一年生のときは同じ組だったんじゃない?」

「ボク、一年生のときはあまり学校行かなかったから…でも知ってるよ。運動会の練習のとき、一緒になったし」
「あの子、カワイイよね。ボクもあの子の裸、見たいなあ…」

「ぜーーったい、ダメ!同じ学校の男子になんか、わたしたちの裸、見せるもんですか」

「だって、ボクも男子だよ?」

「あんたは弟じゃん」

「それじゃあ、直子お姉ちゃんの裸は?」

「あっ!」

 私はまた急に恥ずかしくなってしまい、胸と股間を隠してしまいます。

「こら、ヒロ、あんた学校行って、なおちゃんの裸見たー、とか言いふらしちゃダメだからね!もしそんなことしたら…」

 由美ちゃんがビンタのバックスイングポーズで威嚇します。

「ボ、ボク、そんなことしないよ?直子お姉ちゃんも可愛くてキレイだから、大好きだもん」

 私はまたまた違う恥ずかしさに火照ってしまいます。

「ゆみーーっ、ひろゆきぃーーっ、いるのぉ?----っ」

 突然、階下から大きな声がしました。

「あーーっ、ママが帰ってきちゃった!?」

 時計を見ると4時55分でした。

「ほら、ヒロユキ、早くパンツとズボン穿いて、下に降りてって、ママが上がって来ないように食い止めて!」

 由美ちゃんが素早く立ち上がって、私にお洋服のかかったハンガーを渡しながらヒロくんに指示します。

「うん!わかった。まかせてっ!」

 ヒロくんも素早く立ち上がり、さっき由美ちゃんにパンツごと脱がされた半ズボンを目にも止まらぬ早さでパンツごと穿いて、

「ママァーー、おかえりぃーーー」

 と大きな声を出しながら、バタバタと階段を駆け下りていきました。

「今ねぇー、直子お姉ちゃんが来てるのぉーっ。三人でトランプしてたのぉーっ…」

 ヒロくんがワザとらしいくらい大きな声をあげています。

 私もあわてて机の上のショーツを取って穿いてから、スリップ、ブラウス、ジーンズの順に大急ぎで身に着けました。
 由美ちゃんはとりあえず裸の上にワンピースをかぶって、お医者さんごっこのお道具とワイシャツを片付けてからトランプを床の上にばら撒きました。
 姉弟のコンビネーション、バッチリのようです。

 それから由美ちゃんがゆっくりとショーツを穿こうとしたときに、ドアがバタンと開きました。
 由美ちゃんはショーツをあわててワンピースのポケットに突っ込みます。

「あら、直子ちゃん、いらっしゃい」

「こんばんはー。おじゃましてまーす」

 私は床にペタリと座り込んだまま、ペコリと頭を下げます。

「さっき駅前のスーパーで直子ちゃんのママに会ったわよ。まだ帰らなくていいの?」

「はい。5時半までには帰ることになっています」

 由美ちゃんは顔を伏せたまま、床に散らばったトランプを集めています。

「そう。じゃあこれ飲んでって。もうお夕食近いからジュースだけね」

「ありがとうございます。ごちそうになります」

「あら由美?裸足で寒くないの?」

 由美ちゃんのお母さんがトランプを切っている由美ちゃんに目を向けて聞きます。

「うん。このお部屋暖かいし、勝負が白熱してるから、だいじょうぶ」

 由美ちゃんが顔をあげてニコっと笑いました。

「そう。ならいいけど。じゃあ直子ちゃん、ごゆっくりね」

 そう言って由美ちゃんのお母さんは、お部屋を出て行きます。
 お母さんの後ろからついてきたヒロくんがペタンと床に座ります。
 ドアがパタンと閉じた瞬間、私たち三人は同時に顔を見合わせてニターって笑いました。

 私はその日、お家に帰ってからもいろいろと思い出しては、その日にした、させられた恥ずかしさに興奮してしまい、なかなか眠れなくて困りました。

 それからしばらくのあいだは、お医者さんごっこをやるチャンスがありませんでした。
 由美ちゃんちなら一度チャンスがあったのですが、ヒロくんも家にいるので話が別です。

 一応、弓子ちゃんに、

「明日、由美ちゃんち誰もいないんだけど、お医者さんごっこ、やる?」

 って聞いてみました。

 弓子ちゃんは、しばらくやっていなかったので嬉しそうに、

「うん」

 て答えました。
「でも、弟がいるかもしれないんだよね…」

 由美ちゃんが言いにくそうに付け加えました。

「弟って、ヒロユキくん?」

 弓子ちゃんが不安そうに聞き返します。

「それだと…ちょっと、イヤかな…見られたら恥ずかしいし…」

「そうだよね。じゃあ普通に遊ぼうか」

「うん」

 結局その日は四人でトランプとゲームで遊びました。
 ヒロくんは本気で弓子ちゃんのことが好きみたいで、照れながらもすごく嬉しそうでした。

 相変わらず三人で誰かの家に集まっては遊んでいましたが、季節も冬になって、寒くて厚着になっていましたし、お医者さんごっこを是が非でもやりたいという雰囲気は薄れていました。
 それでも、由美ちゃんと私のあいだでは、弓子ちゃんのスジを見よう計画、をことあるごとに練っていました。

 実行場所は私の家。
 それだけは決まっていました。
 三人だけの秘密にするには、かわいそうだけれどヒロくんは邪魔者です。
 
 問題は、どうやって弓子ちゃんが自分から脱ぐようにしむけるか、です。
 いいアイデアが浮かばないまま二学期の終業式を終えて、年が変わっていました。

 1月に入って始業式から帰ったとき、私の4年生進級に合わせて、遠くへ引越すことになった、と母から告げられました。
 
 ショックでした。
 私はずーっと由美ちゃんと弓子ちゃんと一緒に遊べると思い込んでいたから…
 さんざん泣いて両親を困らせました。

 しばらくは誰にも言わずに、落ち込んだ日々を過ごしていました。
 由美ちゃんと弓子ちゃんだけには、早めに言わなくちゃ、と思っていると、由美ちゃんのほうから聞かれてしまいました。

「なおちゃん、3月に引越しちゃうんだって?」

「うん。そうなんだけど、なんで知ってるの?」

「うちのママが言ってた…残念だねえ…」

 母親ルートを忘れていました。

「私、悲しくて…」

「うん。でもしょうがないよ。親の都合だもん…」

「私、由美ちゃんと弓子ちゃんと、ずっと一緒に遊んでいたい…」

「わたしももちろんそうなんだけどさ…」

 由美ちゃんがうつむいてちょっと泣きそうな顔になりましたが、顔を上げて無理に明るく大きな声で言いました。

「でもさ、悲しんでてももったいないよ?これから3月まで、絶対三人で毎日遊ぼうよ」
「いっぱい思い出作れば、きっと大人になったとき、また会えるよ」

「うん…そうだよね?…」

 由美ちゃんに抱きついてワンワン泣いてしまいました。

 それから本当にほとんど毎日、三人の誰かの家で遊びました。
 トランプをやっていても、ゲームをやっていても、楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。
 そうこうしているうちに、お医者さんごっこをやる絶好のチャンスが訪れました。

 2月の真ん中へんの土曜日、私の両親がお引越しの関係で遠くへ出かけなければならなくなりました。
 私も連れて行くつもりだったらしいのですが、私が由美ちゃん弓子ちゃんと遊ぶために頑として、イヤ、と言いはったので、私を残して行くことになりました。

 その日は、夕方になったら由美ちゃんちに行ってお夕食をご馳走になり、夜の9時過ぎくらいに母が迎えに来る、ということになりました。
 ということは、その日の日中は誰もいない私の家で遊べる、ということです。

 早速、由美ちゃんと計画を練りました。


お医者さんごっこと私 07

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