「空腹は最上の調味料、とか言うけれど、夕食前に体力使わせ過ぎよね」
半身捻られ後ずさりでの上がり階段というご無理な体勢は、さすがのお姉さまでもお辛かったようで、ンーッと背伸びされ腰を伸ばされました。
撮影は再度広場に出るまで中断されるおつもりなのでしょう、ビデオカメラを私に向け直すこともせず踵を返されるお姉さま。
それなら広場へ戻るあいだだけでもお姉さまと並んで歩きたいなと、私も開かずのドアに背中を向けたとき…
「あぁ~んっ、あっ、あんっ、んふうっ、いぃっ、あぁーんっ、んぅふぅぅぅー…」
そういった種類の行為に専念していればどうしても零れ出てしまう、艶っぽい女性の切なげなため息が夕暮れの風に乗って聞こえてきました。
そう言えば来るときも、ドアの向こうのお廊下でこの手のお声を洩れ聞きました。
あのときはお部屋の壁越しに耳を澄ませて微かに漏れ聞こえくるようなボリュームでしたが、今はもっと生々しいライブな感じ。
該当するお部屋からは今のほうが距離もあるはずなのに。
「呆れたっ、まだヤッてるの!?」
心底呆れられてる、というお気持ちがよくわかる大きめなお声とともに、一歩先に進まれていたお姉さまも立ち止まられます。
呆れた、とおっしゃるなら今の私の格好も相当のものなのですけれど。
「あれから何時間経っているのよ?まさかずっとなのかしら?だとしたらこのオンナ、まさに盛りのついた牝ライオンそのものね」
お姉さまのお喩えには今ひとつピンときませんが、私も唖然とはしています。
そして、不思議そうなご表情を浮かべられるお姉さま。
「でも変じゃない?来るとき廊下で聞いたときよりもずいぶんと生々しく聞こえない?」
私と同じ疑問を抱かれるお姉さま。
そうなんです。
あのお部屋はお外へのドアからも数メートル離れたお部屋でしたし、壁越しのお声も耳をそばだてなければ聞こえないくらい微かなものだったはず…
あらためて記憶を反芻するだけの私とお姉さまが違うところは、お姉さまはすぐにお答えを導き出すことがお出来になられるところ。
「わかった!部屋付きの露天風呂でシているのよ、一緒に水が跳ねるピチャピチャする音も聞こえない?うわー、外でシてると屋外でこんなに聞こえちゃうんだ」
「まわりが森でシンとしているから、この手の声は余計通っちゃうのかな。なんかオトコのンッンッていう低い唸り声みたいのまで聞こえない?」
「たぶん、あたしがドアをガチャガチャしていたときは、向こうも人の気配に感づいて息を潜めたのよ」
「でも、ほら、近くに誰か来たぞ、かなんかオトコが相手の羞恥心煽って、ふたりとも堪えきれなくなってまた始めたんじゃないかな」
「仕事とは言え、連日あちこちでこんな調子だったら、そりゃあ女将さんや仲居さんたちがエロに諦観しちゃうのも無理ないわよね?」
「着いてすぐ入ったあたしたちの部屋の露天風呂や、さっきの大露天風呂でも、直子のいやらしい声が周りに想像以上に響いていたんじゃない?」
「あっ、でもあたしたちの部屋のは裏庭に面していたんだっけ。でもきっと大露天風呂でのオナニーショーのほうはきっと、この辺りまで筒抜けだったわよね?」
からかうように愉しげにおっしゃるお姉さま。
そのご主張に対するお応えは、でもさっきの大露天風呂ではその後、お姉さまだってご遠慮なしに可愛らしく喘いでいらしたんですよーっ、です。
どなたかの悩ましいお声は、木々のトンネルを引き返そうとドアから数メートル離れ、でもやっぱり気になってしまい立ち止まった今でも、緩やかな風に乗ってボリュームは下がりましたが明瞭に聞こえています。
ゴール間近なのか、あっあっ、というリズミカルな吐息のBPMがどんどん上がり、いくぅ、いっちゃふぅーんっ、あっあーーんっ!という断末魔のような悲鳴の後、唐突にシンと静まり返りました。
すぐにパチャパチャという派手な水音。
今、私たちのすぐそばで、見知らぬ男女がセックスし終えたんだ…
私の心臓はドッキドキ。
お姉さまが不意に、何も聞かなかったかのように再び歩き始めます。
「あのアルト気味な声音からしてあの部屋のカップルは、さっきコンパニオンの子たちが言っていた、オンナのほうが遥か歳上な年齢差カップルだわね」
「要求に応えつづけるのもツライだろうに、オトコにも頑張れるだけの気力も体力もあるみたいだし、きっと相手のおばさまでDT卒業させられてヤリたい盛りがイキオイづいちゃったサル男子大学生ってとこかしら」
「知ってる?ライオンやトラの牝って発情期は執拗に数日間も、相手に交尾をおねだりしつづけるんだって。まさに牝ネコビッチ状態」
「なんだかドマゾモードに嵌っちゃったときの直子とも重ならない?」
どうしてそんな下ネタ雑学にお詳しいのかは謎ですが、ご好奇心旺盛で博識なお姉さまですから、きっとその通りなのでしょう。
空腹と無駄足でやさぐれ気味だったお姉さまに、いつものご様子がお戻りになられたことが嬉しいです。
逆戻りとなってしまったトンネル階段を再度下りつつ、お姉さまがしきりに語りかけてくださいます。
「あーあ、あたしの脳内予想、半分外れちゃった」
「さっき直子に下の道行こうかって誘ったとき、地上から行けば確実に正面玄関から入ることになるな、って思ったの。フロント通れば確実に誰か人が居るはずだなって」
「それが男性だったとしても、従業員なら我慢し切れずに直子に襲いかかるようなことも無いだろうし、面白い映像が撮れそうだなって」
私がそのとき、提示された選択と現状に取り乱した逡巡なんて、すっかりお見通しだったお姉さま。
「でも一方で、女将さん側はいくらなんでも今のあたしたちを旅荘の表玄関たるフロントは通らせたくないはず、とも思えたのよ」
お姉さまの右手が私の剥き出しな右肩にやんわり掛かります。
肩を抱かれたま横並びで歩きつつ、お姉さまからのご説明。
「万人を相手にする客商売、人気商売なんだから宿泊客に限らず、出入りの業者とか下見客が来たり取材だったり、いつ何どきどんな人が訪れても不思議は無いし」
「もしたまたま、その手の耐性皆無のメンドクサそうな常識人が今の直子と鉢合わせしたら、絶対ひと悶着起こるのは火を見るより明らかでしょ?」
「今の直子のその格好って、公序良俗を嘲笑っているような破廉恥とインモラルの極地だし、万が一のクレーム、今の時代SNS投稿とかお手軽だしさ、そうされたときに旅荘側が被るデメリット、イメージダウンは相当だろうなって」
「女将さんはその辺、しっかり見極められているはずだし、あたしたちだって、自分たちの快楽だけのためにご商売の足を引っ張っちゃうのはイヤじゃない」
「あたしたちの挙動をGPSで逐一チェックしているなら、庭側ルートを選んだら正面玄関まで進む前に大急ぎで誰かが足止めに来るだろうなって思ったのよ。もちろんシレッと直子の浴衣持参でね」
「それで、来たときと同じルートで戻るほうが余計なお手数も掛けずに済んで無難かな、って思っちゃったのよ」
お姉さまのご説明に、なるほど確かにおっしゃる通り、と顎とおっぱいでいちいち頷いているあいだに、三たび開けた広場部分に舞い戻っていました。
「さてと、ここからは生おっぱい見せびらかしイベントの正解ルート。ここからは絶対に何が起きてもバストを隠してはダメだからね」
「女将さんがせっかくそれほど危ない橋を渡る決定をしてくださったのだから、直子もそれ相応の覚悟を決めないと失礼よね?」
「…はい…」
自分の胸元に視線を落とすと、宙を衝くように尖りきったふたつの乳首の目に余るほどの存在感。
こんな恥ずかし過ぎる恰好なのに、いやらしく感じてしまっていることが一目瞭然です。
再びハンディビデオカメラを構えられ、レンズを私へと向けられるお姉さま。
周囲の薄暗さゆえか、ビデオカメラの録画中を告げるランプがやけに目立って視界に飛び込んできます。
これから向かうお散歩道にも、要所要所に常夜灯らしき外灯が煌々と灯っています。
おそらく建物の窓から覗けば、目立つ光に自然と目が行き、その下を歩く人物が着衣か裸かはわかるくらいに明るく。
お姉さまが再び、半身捻られた後ずさりな撮影体勢になられていますから、どうしたってゴールまでの歩みはのろくなってしまいます。
金輪際おっぱいを隠すことを禁じられた私は、丸出しで熱を持つ乳頭を夕暮れの生温い風に愛撫されながら、ゆっくりと砂利道を進みます。
一足踏み出すたびにプルンプルン震えてしまう、生おっぱい。
首筋以下が汗ばんでいるのは残暑のせいだけではありません。
汗の粒に外灯の光が反射して、日焼けの茶と日焼け残りの白さ、乳暈のピンクとの卑猥なコントラストをよりキラキラ目立たせているよう。
自分で踏みしめているジャリジャリと鳴る足音さえ、ほら、ヘンタイ露出狂女が恥ずかし過ぎる格好を晒してのろのろ歩いているよ、と知らしめるアピール効果音のように聞こえてしまいます。
普通に歩いていたならそのお見事さに思わず足を止めてしまいそうな、隅々までお手入れの行き届いた美しい日本庭園。
白、黄色、薄紫、淡いピンク…色とりどりな草花さまたちが可憐に咲き誇っていらっしゃいます。
私はと言えば、この美しいお散歩道を早く駆け抜けてしまいたいような、抜けきってしまうのが怖いような…
結局、道中どなたともご遭遇しませんでした。
なにぶん、外灯の光が届かない場所は薄暗闇でしたから、私が気づけなかっただけで木陰や物陰にどなたかの視線があったのか、階上を含めた窓から眺めていたかたがいらっしゃたのかはわかりませんが。
そうこうして辿り着いてしまった正面玄関石畳は、居並ぶ常夜灯が広く明るく照らし出す昼間並みに明るい空間。
数メートル先で、こちらも明るく照らし出されている、乗ってきたマイクロバスを含めた数台の自動車が整然と駐車している駐車場の佇まいからも、この施設は普通に平穏平和な営みを日々暮らされている公衆の場なのだと、あらためて思い知らされます。
そんな場所で私は、現行犯の公然わいせつ痴女…
これから確実に自分の身に降りかかるであろう、屈辱、侮蔑、嘲笑…
かろうじて少しだけ残っていた理性が示唆する罪悪感もあっさり被虐願望に飲み込まれ、自分を辱めの渦中へ追い込もうとしている自虐の興奮に、マゾマンコがジンジン痺れてきます。
正面玄関前からあらためて仰ぎ見る建物の立派さ。
このくらいの規模の旅荘だと、一体何名くらいの方々が働いていらっしゃるのでしょう。
お出迎えしてくださったときは、女将さまと運転手さまの他に女性3名と男性2名がこの場所に並ばれていました。
でも総勢7名さまだけできりもりされているとは、規模から言って考えられません。
お料理を作られる方々やお庭や調度品をお手入れされるかたなどおられるでしょうし、仲居さまだってお出迎えの3名さまだけでは無いはずです。
一般的に温泉旅館の場合、お食事は和食が主。
和食の厨房で働かれる方々はとくに男性の場合が多いようですから、いくら宿泊客さまに男性が少ないと言っても、館内でそういった男性と遭遇しちゃうことは充分ありえます。
館内では今まで、女性である仲居さまたちばかりをお見かけしていたのですっかり油断していましたが、館内に入れば見知らぬ従業員男性と遭遇する確率も格段に上がる、ということに気がついてしまい、あらためて緊張度が高まります。
隠すことは断固禁じられていますから、歩くたびにプルンプルン揺れるおっぱいはそのままに、お姉さまが向けてくださっているレンズをドキドキ追いつづけます。
やがて後ずさりなお姉さまが正面玄関ドア前まで達せられたとき、ドアの素通しガラス部分の向こう側にどなたかのお姿がハッキリ見えました。
怖いのに思わず目を凝らしてしまう私。
キサラギさまではない、初めてお目にかかると思うお若そうな仲居さま。
そのかたも私たちの姿を認められたらしく一瞬、ギョッとたじろがれたお顔を、とくに私に向けてお見せになりました。
不意の第三者からの視線に咄嗟の条件反射でおっぱいを庇おうとしてしまう私。
おっぱいの前を両腕が遮るような遮れ切れないような中途半端な防御姿勢…
お姉さまのおからだをセンサーが察知したようで、スーッと開く自動ドア。
「お帰りなさいませー」
それでもその仲居さまは、一瞬のご判断で状況を把握されたらしく、あらためてにこやかなお作り笑顔に豹変なさり、お元気良い明るいお声でお出迎えしてくださいます。
深々とお下げになった黒髪はポニーテールに結んでおられます。
「お草履はこちらでお履き捨ていただき、お部屋履きに履き替えてくださいませ。新しいお草履が順次お部屋にご用意してありますので」
こんな破廉恥極まる格好の私にも、御愛想の良い笑みを浮かべられ、お親しげなご対応をしてくださる仲居さま。
スリッパを二足分、私たちの足元に揃えてくださいます。
三和土からそっと中を覗くと、ロビーと言うか大広間に新たな人影は見えません。
お姉さまがおっしゃっていたように、この時間帯の仲居さまがたはお夕食のご配膳でお忙しいのでしょう。
「ありがとう」
一たんカメラをお下げになったお姉さまもお愛想良くお答えになられ、お草履を脱がれスリッパに履き替えられます。
履き替えられてから私のほうをわざとらしくなく見遣り、まだ中途半端に胸の辺りを庇っている私の左腕を軽くつつかれました。
ビクッと硬直し視線を向ける私を細めた目で見つめられ、わからないくらいに微かに、お顔を左右に振られます。
おっぱいを隠すな、というご警告です。
ポニーテールの仲居さまは、私たちより一メートルちょっとくらい離れた右側にしりぞかれ、飲食店の看板等でよく見かける、いらっしゃいませ、のポーズで、私たちの挙動を上目遣いに見守っていらっしゃいます。
お姉さまからご警告を受けてしまった私は、胸の前で揉み手しているみたいになっていた両手を、なるべく不自然に見えないように左右にダランと下げました。
自分でも赤面してしまうくらい、熱を帯びて濃いピンク色に充血した両乳首があからさまにそそり勃っています。
その持ち主が性的興奮を催していることは、どなたの目にも明々白々。
おっぱい、乳首、視られてる…
恥ずかしい…
でも…なのに…あぁんっ、気持ちいい…
スリッパに履き替えて板の間に上がってから、お姉さまが再びビデオカメラのレンズを私に向けてこられます。
チラッと盗み見たポニーテールの仲居さまも、相変わらず上目遣いの好奇爛々な瞳で見守っていらっしゃるご様子。
思い切って仲居さまと目を合わせてみようか…
そんな大胆な考えが思い浮かんだそのとき…
「あ、あのお客様…恐れ入りますが館内でのご撮影はご遠慮いただいているのですが…」
仲居さまとは逆方向、私から見て左側から、ずいぶん慌てたようなガタガタンという物音の直後、どなたかのかしこまったような良く通るお声が聞こえてきました。
突然浴びせかけられた軽い叱責を帯びたお言葉にビクンと震えて反射的に目線がそちらへ向きます。
左側はフロントカウンター。
最初にここを通ったとき、フロントと言うよりお帳場と呼ぶほうがしっくりくるな、と思ったフロントの中からでした。
そして、耳にした少しソプラノ気味に上ずられたお声は、上ずられながらもどう聞いても男性のお声。
そちらを仰ぎ見た私の視界に、濃紺のスーツ姿で、これまでこちらでお目にかかった男性の方々よりかなりお若そうな黒縁眼鏡の男性が、他のホテルとかのフロントでもよく見る、取り澄まされたご表情でカウンター越しに私たちのほうを向かれていました。
えっ!?男性!?初めて拝見するお顔!?それでとうとう叱られちゃった!?
一瞬にしてパニクってしまう私のお豆腐メンタル。
お姉さまさえ、想定外、みたいなお顔で憮然とされています。
「え、えっと…どちらのお部屋のお客様でしたでしょうか?…」
「館内の規則は最初にご説明差し上げたはずなのですけれど…」
「と、とにかく、そのビデオカメラはお下げくださいませんと…」
最初はお姉さまの半身捻られ後ずさりなお背中しか、その男性からは見えなかったのでしょう。
お声に呼ばれて私が男性のほうを向いたときも、普通に接客用の笑顔を浮かべられていました。
やがて私の破廉恥過ぎる姿に気づかれたのでしょう、一瞬えっ!?という驚愕されたお顔に変わり、ささっとお顔を背けられました。
それでも、言うべきことは言わなければ、と思われたのか、慌てられた感じで背けたお顔を元に戻され、お言葉をつづけられました。
最初の取り澄まされた口調から、どんどん気弱げになられていったフロント男性のご口調。
二度目にこちらを向かれたときからずっと、今見ているものが信じられない、というご表情。
その視線は頻繁に私に向けられ、剥き出しおっぱいを軸として私の顔と赤いおふんどしとを忙しなく行き来されます。
動揺の色が濃かったそのまなざしが徐々に不埒な色合いへと侵食されているような…
お姉さまが私にレンズを向けたまま立ち止まってしまわれたので、私もその場を動くことは出来ません。
フロント男性のほぼ真正面に横向きで。
先ほどお姉さまからご警告をいただいたばかりですから、おっぱいを隠すことも出来ません。
あぁんっ、私の丸出しおっぱい、男性に視られてる…
尖りきった乳首と赤いおふんどしをご熱心に交互に視てくる…
横向きだから尖った乳首がより丸わかりなはず…
男性の視線て女性のよりも、なんかねっとりしつこい感じ…
いきなり襲われたりはしないよね?ここは旅荘のフロントなのだし…
フロント男性からご遠慮がちに浴びせられる好色を帯びてきた視線に、少しの恐怖とそれを補って余りある羞じらいが全身を駆け巡っています。
「こちらのお客様は如月の間のおふたりっ!露天大浴場からお戻りになられたところっ!」
「ユタカっ、今朝の朝礼の女将さんからの通達事項、ちゃんと聞いていなかったのっ!?」
「団体様ドタキャンは出てしまったけれど、今日は末永くお付き合いくださりそうなお客様もいらしゃるから、心しておもてなししましょうって!」
思いがけずフロント男性に反撃をしてくださったのは、ポニーテールの仲居さまでした。
先ほどの御愛想良いご対応からは別人のように、幾分ヒステリックにもなられているご様子。
そして、お姉さまのご推理がお見事に的中されたことを教えてくださった瞬間でもありました。
「そ、そうでございましたか…これは大変失礼をいたしてしまいました…」
フロント男性が深々とお辞儀をくださいます。
再びお顔をお上げになったフロント男性は、一転して嬉しそうに満面の笑顔。
そういうことなら遠慮会釈無くじっくり拝見させていただきますよ、とでもおっしゃりたげな。
駅前のお蕎麦屋さん去り際の一件が私の脳裏をかすめたそのとき…
カウンター奥に掛かっている小豆色の暖簾がフワッと揺れて、女将さまがお顔を覗かせます。
「あらあら、ムツキさんも、お客様の前であまり大きな声を出すものではなくてよ」
女将さまが悠然とされたお足取りで、フロント男性の左横に並ばれます。
そのご登場のされかたが、何て言えばいいのか、わざとらし過ぎるくらいの自然さで、まるでテレビのホームドラマのワンシーンのよう。
ひょっとして、本当にずっと暖簾の後ろに待機されていて、事の成り行きを見守りつつ、出番のタイミングを計られていたのかもしれません。
「ユタカさんがびっくりするのも無理ないのよ。彼は朝礼の後すぐに瀧川屋さんまでお使いに出て、さっき帰ってきたばかりだもの」
「ですのちゃんたちがご到着されたときもご挨拶していないから、その後のわたくしからの指示も聞いていないし、フロント業務もまだまだ見習い中ですしね」
今度は女将さまに足止めをされる形で、私はまだフロントカウンター前から動けません。
それをいいことに、すでにご遠慮が一切無くなられたフロント男性=ユタカさま?の両目が容赦なく舐めるように、私の全身を吟味されています。
ユタカさま、というお名前で思い出されるのは、つい先々月、まだ夏の始めの頃にお姉さまの会社の先輩リンコさまからのご依頼で、リンコさまの甥っ子であるユタカさま他三名の小学生さまの前で淫らにくりひろげた、夏休み全裸女体研究観察会。
あのときのいたいけな好奇に満ちた熱い視線さながらな、今現在眼前におられるユタカさまからの熱っぽい視姦で、あの日の記憶と現実が混ざり合い、私の被虐メーターが陶酔に振り切れそう。
更に、女将さまにまで、ですのちゃん、呼びが浸透されていることも知り、この旅荘の方々全員から慰み者にされている気分です…
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