2021年5月30日

肌色休暇一日目~幕開け 17

 「空腹は最上の調味料、とか言うけれど、夕食前に体力使わせ過ぎよね」

 半身捻られ後ずさりでの上がり階段というご無理な体勢は、さすがのお姉さまでもお辛かったようで、ンーッと背伸びされ腰を伸ばされました。
 撮影は再度広場に出るまで中断されるおつもりなのでしょう、ビデオカメラを私に向け直すこともせず踵を返されるお姉さま。
 それなら広場へ戻るあいだだけでもお姉さまと並んで歩きたいなと、私も開かずのドアに背中を向けたとき…

「あぁ~んっ、あっ、あんっ、んふうっ、いぃっ、あぁーんっ、んぅふぅぅぅー…」

 そういった種類の行為に専念していればどうしても零れ出てしまう、艶っぽい女性の切なげなため息が夕暮れの風に乗って聞こえてきました。
 そう言えば来るときも、ドアの向こうのお廊下でこの手のお声を洩れ聞きました。
 
 あのときはお部屋の壁越しに耳を澄ませて微かに漏れ聞こえくるようなボリュームでしたが、今はもっと生々しいライブな感じ。
 該当するお部屋からは今のほうが距離もあるはずなのに。

「呆れたっ、まだヤッてるの!?」

 心底呆れられてる、というお気持ちがよくわかる大きめなお声とともに、一歩先に進まれていたお姉さまも立ち止まられます。
 呆れた、とおっしゃるなら今の私の格好も相当のものなのですけれど。

「あれから何時間経っているのよ?まさかずっとなのかしら?だとしたらこのオンナ、まさに盛りのついた牝ライオンそのものね」

 お姉さまのお喩えには今ひとつピンときませんが、私も唖然とはしています。
 そして、不思議そうなご表情を浮かべられるお姉さま。

「でも変じゃない?来るとき廊下で聞いたときよりもずいぶんと生々しく聞こえない?」

 私と同じ疑問を抱かれるお姉さま。
 そうなんです。

 あのお部屋はお外へのドアからも数メートル離れたお部屋でしたし、壁越しのお声も耳をそばだてなければ聞こえないくらい微かなものだったはず…
 あらためて記憶を反芻するだけの私とお姉さまが違うところは、お姉さまはすぐにお答えを導き出すことがお出来になられるところ。

「わかった!部屋付きの露天風呂でシているのよ、一緒に水が跳ねるピチャピチャする音も聞こえない?うわー、外でシてると屋外でこんなに聞こえちゃうんだ」
「まわりが森でシンとしているから、この手の声は余計通っちゃうのかな。なんかオトコのンッンッていう低い唸り声みたいのまで聞こえない?」

「たぶん、あたしがドアをガチャガチャしていたときは、向こうも人の気配に感づいて息を潜めたのよ」
「でも、ほら、近くに誰か来たぞ、かなんかオトコが相手の羞恥心煽って、ふたりとも堪えきれなくなってまた始めたんじゃないかな」
「仕事とは言え、連日あちこちでこんな調子だったら、そりゃあ女将さんや仲居さんたちがエロに諦観しちゃうのも無理ないわよね?」

「着いてすぐ入ったあたしたちの部屋の露天風呂や、さっきの大露天風呂でも、直子のいやらしい声が周りに想像以上に響いていたんじゃない?」
「あっ、でもあたしたちの部屋のは裏庭に面していたんだっけ。でもきっと大露天風呂でのオナニーショーのほうはきっと、この辺りまで筒抜けだったわよね?」

 からかうように愉しげにおっしゃるお姉さま。
 そのご主張に対するお応えは、でもさっきの大露天風呂ではその後、お姉さまだってご遠慮なしに可愛らしく喘いでいらしたんですよーっ、です。

 どなたかの悩ましいお声は、木々のトンネルを引き返そうとドアから数メートル離れ、でもやっぱり気になってしまい立ち止まった今でも、緩やかな風に乗ってボリュームは下がりましたが明瞭に聞こえています。
 ゴール間近なのか、あっあっ、というリズミカルな吐息のBPMがどんどん上がり、いくぅ、いっちゃふぅーんっ、あっあーーんっ!という断末魔のような悲鳴の後、唐突にシンと静まり返りました。

 すぐにパチャパチャという派手な水音。
 今、私たちのすぐそばで、見知らぬ男女がセックスし終えたんだ…
 私の心臓はドッキドキ。
 
 お姉さまが不意に、何も聞かなかったかのように再び歩き始めます。

「あのアルト気味な声音からしてあの部屋のカップルは、さっきコンパニオンの子たちが言っていた、オンナのほうが遥か歳上な年齢差カップルだわね」
「要求に応えつづけるのもツライだろうに、オトコにも頑張れるだけの気力も体力もあるみたいだし、きっと相手のおばさまでDT卒業させられてヤリたい盛りがイキオイづいちゃったサル男子大学生ってとこかしら」

「知ってる?ライオンやトラの牝って発情期は執拗に数日間も、相手に交尾をおねだりしつづけるんだって。まさに牝ネコビッチ状態」
「なんだかドマゾモードに嵌っちゃったときの直子とも重ならない?」

 どうしてそんな下ネタ雑学にお詳しいのかは謎ですが、ご好奇心旺盛で博識なお姉さまですから、きっとその通りなのでしょう。
 空腹と無駄足でやさぐれ気味だったお姉さまに、いつものご様子がお戻りになられたことが嬉しいです。
 逆戻りとなってしまったトンネル階段を再度下りつつ、お姉さまがしきりに語りかけてくださいます。

「あーあ、あたしの脳内予想、半分外れちゃった」
「さっき直子に下の道行こうかって誘ったとき、地上から行けば確実に正面玄関から入ることになるな、って思ったの。フロント通れば確実に誰か人が居るはずだなって」
「それが男性だったとしても、従業員なら我慢し切れずに直子に襲いかかるようなことも無いだろうし、面白い映像が撮れそうだなって」

 私がそのとき、提示された選択と現状に取り乱した逡巡なんて、すっかりお見通しだったお姉さま。

「でも一方で、女将さん側はいくらなんでも今のあたしたちを旅荘の表玄関たるフロントは通らせたくないはず、とも思えたのよ」

 お姉さまの右手が私の剥き出しな右肩にやんわり掛かります。
 肩を抱かれたま横並びで歩きつつ、お姉さまからのご説明。

「万人を相手にする客商売、人気商売なんだから宿泊客に限らず、出入りの業者とか下見客が来たり取材だったり、いつ何どきどんな人が訪れても不思議は無いし」
「もしたまたま、その手の耐性皆無のメンドクサそうな常識人が今の直子と鉢合わせしたら、絶対ひと悶着起こるのは火を見るより明らかでしょ?」

「今の直子のその格好って、公序良俗を嘲笑っているような破廉恥とインモラルの極地だし、万が一のクレーム、今の時代SNS投稿とかお手軽だしさ、そうされたときに旅荘側が被るデメリット、イメージダウンは相当だろうなって」
「女将さんはその辺、しっかり見極められているはずだし、あたしたちだって、自分たちの快楽だけのためにご商売の足を引っ張っちゃうのはイヤじゃない」

「あたしたちの挙動をGPSで逐一チェックしているなら、庭側ルートを選んだら正面玄関まで進む前に大急ぎで誰かが足止めに来るだろうなって思ったのよ。もちろんシレッと直子の浴衣持参でね」
「それで、来たときと同じルートで戻るほうが余計なお手数も掛けずに済んで無難かな、って思っちゃったのよ」

 お姉さまのご説明に、なるほど確かにおっしゃる通り、と顎とおっぱいでいちいち頷いているあいだに、三たび開けた広場部分に舞い戻っていました。

「さてと、ここからは生おっぱい見せびらかしイベントの正解ルート。ここからは絶対に何が起きてもバストを隠してはダメだからね」
「女将さんがせっかくそれほど危ない橋を渡る決定をしてくださったのだから、直子もそれ相応の覚悟を決めないと失礼よね?」

「…はい…」

 自分の胸元に視線を落とすと、宙を衝くように尖りきったふたつの乳首の目に余るほどの存在感。
 こんな恥ずかし過ぎる恰好なのに、いやらしく感じてしまっていることが一目瞭然です。

 再びハンディビデオカメラを構えられ、レンズを私へと向けられるお姉さま。
 周囲の薄暗さゆえか、ビデオカメラの録画中を告げるランプがやけに目立って視界に飛び込んできます。
 
 これから向かうお散歩道にも、要所要所に常夜灯らしき外灯が煌々と灯っています。
 おそらく建物の窓から覗けば、目立つ光に自然と目が行き、その下を歩く人物が着衣か裸かはわかるくらいに明るく。

 お姉さまが再び、半身捻られた後ずさりな撮影体勢になられていますから、どうしたってゴールまでの歩みはのろくなってしまいます。
 金輪際おっぱいを隠すことを禁じられた私は、丸出しで熱を持つ乳頭を夕暮れの生温い風に愛撫されながら、ゆっくりと砂利道を進みます。

 一足踏み出すたびにプルンプルン震えてしまう、生おっぱい。
 首筋以下が汗ばんでいるのは残暑のせいだけではありません。

 汗の粒に外灯の光が反射して、日焼けの茶と日焼け残りの白さ、乳暈のピンクとの卑猥なコントラストをよりキラキラ目立たせているよう。
 自分で踏みしめているジャリジャリと鳴る足音さえ、ほら、ヘンタイ露出狂女が恥ずかし過ぎる格好を晒してのろのろ歩いているよ、と知らしめるアピール効果音のように聞こえてしまいます。

 普通に歩いていたならそのお見事さに思わず足を止めてしまいそうな、隅々までお手入れの行き届いた美しい日本庭園。
 白、黄色、薄紫、淡いピンク…色とりどりな草花さまたちが可憐に咲き誇っていらっしゃいます。
 私はと言えば、この美しいお散歩道を早く駆け抜けてしまいたいような、抜けきってしまうのが怖いような…

 結局、道中どなたともご遭遇しませんでした。
 なにぶん、外灯の光が届かない場所は薄暗闇でしたから、私が気づけなかっただけで木陰や物陰にどなたかの視線があったのか、階上を含めた窓から眺めていたかたがいらっしゃたのかはわかりませんが。

 そうこうして辿り着いてしまった正面玄関石畳は、居並ぶ常夜灯が広く明るく照らし出す昼間並みに明るい空間。
 数メートル先で、こちらも明るく照らし出されている、乗ってきたマイクロバスを含めた数台の自動車が整然と駐車している駐車場の佇まいからも、この施設は普通に平穏平和な営みを日々暮らされている公衆の場なのだと、あらためて思い知らされます。

 そんな場所で私は、現行犯の公然わいせつ痴女…
 これから確実に自分の身に降りかかるであろう、屈辱、侮蔑、嘲笑…
 かろうじて少しだけ残っていた理性が示唆する罪悪感もあっさり被虐願望に飲み込まれ、自分を辱めの渦中へ追い込もうとしている自虐の興奮に、マゾマンコがジンジン痺れてきます。

 正面玄関前からあらためて仰ぎ見る建物の立派さ。
 このくらいの規模の旅荘だと、一体何名くらいの方々が働いていらっしゃるのでしょう。

 お出迎えしてくださったときは、女将さまと運転手さまの他に女性3名と男性2名がこの場所に並ばれていました。
 でも総勢7名さまだけできりもりされているとは、規模から言って考えられません。
 お料理を作られる方々やお庭や調度品をお手入れされるかたなどおられるでしょうし、仲居さまだってお出迎えの3名さまだけでは無いはずです。

 一般的に温泉旅館の場合、お食事は和食が主。
 和食の厨房で働かれる方々はとくに男性の場合が多いようですから、いくら宿泊客さまに男性が少ないと言っても、館内でそういった男性と遭遇しちゃうことは充分ありえます。

 館内では今まで、女性である仲居さまたちばかりをお見かけしていたのですっかり油断していましたが、館内に入れば見知らぬ従業員男性と遭遇する確率も格段に上がる、ということに気がついてしまい、あらためて緊張度が高まります。

 隠すことは断固禁じられていますから、歩くたびにプルンプルン揺れるおっぱいはそのままに、お姉さまが向けてくださっているレンズをドキドキ追いつづけます。
 
 やがて後ずさりなお姉さまが正面玄関ドア前まで達せられたとき、ドアの素通しガラス部分の向こう側にどなたかのお姿がハッキリ見えました。
 怖いのに思わず目を凝らしてしまう私。
 
 キサラギさまではない、初めてお目にかかると思うお若そうな仲居さま。
 そのかたも私たちの姿を認められたらしく一瞬、ギョッとたじろがれたお顔を、とくに私に向けてお見せになりました。

 不意の第三者からの視線に咄嗟の条件反射でおっぱいを庇おうとしてしまう私。
 おっぱいの前を両腕が遮るような遮れ切れないような中途半端な防御姿勢…
 お姉さまのおからだをセンサーが察知したようで、スーッと開く自動ドア。

「お帰りなさいませー」

 それでもその仲居さまは、一瞬のご判断で状況を把握されたらしく、あらためてにこやかなお作り笑顔に豹変なさり、お元気良い明るいお声でお出迎えしてくださいます。
 深々とお下げになった黒髪はポニーテールに結んでおられます。

「お草履はこちらでお履き捨ていただき、お部屋履きに履き替えてくださいませ。新しいお草履が順次お部屋にご用意してありますので」

 こんな破廉恥極まる格好の私にも、御愛想の良い笑みを浮かべられ、お親しげなご対応をしてくださる仲居さま。
 スリッパを二足分、私たちの足元に揃えてくださいます。

 三和土からそっと中を覗くと、ロビーと言うか大広間に新たな人影は見えません。
 お姉さまがおっしゃっていたように、この時間帯の仲居さまがたはお夕食のご配膳でお忙しいのでしょう。

「ありがとう」

 一たんカメラをお下げになったお姉さまもお愛想良くお答えになられ、お草履を脱がれスリッパに履き替えられます。
 履き替えられてから私のほうをわざとらしくなく見遣り、まだ中途半端に胸の辺りを庇っている私の左腕を軽くつつかれました。

 ビクッと硬直し視線を向ける私を細めた目で見つめられ、わからないくらいに微かに、お顔を左右に振られます。
 おっぱいを隠すな、というご警告です。

 ポニーテールの仲居さまは、私たちより一メートルちょっとくらい離れた右側にしりぞかれ、飲食店の看板等でよく見かける、いらっしゃいませ、のポーズで、私たちの挙動を上目遣いに見守っていらっしゃいます。
 お姉さまからご警告を受けてしまった私は、胸の前で揉み手しているみたいになっていた両手を、なるべく不自然に見えないように左右にダランと下げました。
 
 自分でも赤面してしまうくらい、熱を帯びて濃いピンク色に充血した両乳首があからさまにそそり勃っています。
 その持ち主が性的興奮を催していることは、どなたの目にも明々白々。

 おっぱい、乳首、視られてる…
 恥ずかしい…
 でも…なのに…あぁんっ、気持ちいい…
 
 スリッパに履き替えて板の間に上がってから、お姉さまが再びビデオカメラのレンズを私に向けてこられます。
 チラッと盗み見たポニーテールの仲居さまも、相変わらず上目遣いの好奇爛々な瞳で見守っていらっしゃるご様子。
 思い切って仲居さまと目を合わせてみようか…
 
 そんな大胆な考えが思い浮かんだそのとき…

「あ、あのお客様…恐れ入りますが館内でのご撮影はご遠慮いただいているのですが…」

 仲居さまとは逆方向、私から見て左側から、ずいぶん慌てたようなガタガタンという物音の直後、どなたかのかしこまったような良く通るお声が聞こえてきました。
 突然浴びせかけられた軽い叱責を帯びたお言葉にビクンと震えて反射的に目線がそちらへ向きます。

 左側はフロントカウンター。
 最初にここを通ったとき、フロントと言うよりお帳場と呼ぶほうがしっくりくるな、と思ったフロントの中からでした。

 そして、耳にした少しソプラノ気味に上ずられたお声は、上ずられながらもどう聞いても男性のお声。
 そちらを仰ぎ見た私の視界に、濃紺のスーツ姿で、これまでこちらでお目にかかった男性の方々よりかなりお若そうな黒縁眼鏡の男性が、他のホテルとかのフロントでもよく見る、取り澄まされたご表情でカウンター越しに私たちのほうを向かれていました。

 えっ!?男性!?初めて拝見するお顔!?それでとうとう叱られちゃった!?
 一瞬にしてパニクってしまう私のお豆腐メンタル。
 お姉さまさえ、想定外、みたいなお顔で憮然とされています。

「え、えっと…どちらのお部屋のお客様でしたでしょうか?…」
「館内の規則は最初にご説明差し上げたはずなのですけれど…」
「と、とにかく、そのビデオカメラはお下げくださいませんと…」

 最初はお姉さまの半身捻られ後ずさりなお背中しか、その男性からは見えなかったのでしょう。
 お声に呼ばれて私が男性のほうを向いたときも、普通に接客用の笑顔を浮かべられていました。

 やがて私の破廉恥過ぎる姿に気づかれたのでしょう、一瞬えっ!?という驚愕されたお顔に変わり、ささっとお顔を背けられました。
 それでも、言うべきことは言わなければ、と思われたのか、慌てられた感じで背けたお顔を元に戻され、お言葉をつづけられました。

 最初の取り澄まされた口調から、どんどん気弱げになられていったフロント男性のご口調。
 二度目にこちらを向かれたときからずっと、今見ているものが信じられない、というご表情。

 その視線は頻繁に私に向けられ、剥き出しおっぱいを軸として私の顔と赤いおふんどしとを忙しなく行き来されます。
 動揺の色が濃かったそのまなざしが徐々に不埒な色合いへと侵食されているような…

 お姉さまが私にレンズを向けたまま立ち止まってしまわれたので、私もその場を動くことは出来ません。
 フロント男性のほぼ真正面に横向きで。
 先ほどお姉さまからご警告をいただいたばかりですから、おっぱいを隠すことも出来ません。

 あぁんっ、私の丸出しおっぱい、男性に視られてる…
 尖りきった乳首と赤いおふんどしをご熱心に交互に視てくる…
 横向きだから尖った乳首がより丸わかりなはず…
 男性の視線て女性のよりも、なんかねっとりしつこい感じ…
 いきなり襲われたりはしないよね?ここは旅荘のフロントなのだし…
 
 フロント男性からご遠慮がちに浴びせられる好色を帯びてきた視線に、少しの恐怖とそれを補って余りある羞じらいが全身を駆け巡っています。

「こちらのお客様は如月の間のおふたりっ!露天大浴場からお戻りになられたところっ!」
「ユタカっ、今朝の朝礼の女将さんからの通達事項、ちゃんと聞いていなかったのっ!?」
「団体様ドタキャンは出てしまったけれど、今日は末永くお付き合いくださりそうなお客様もいらしゃるから、心しておもてなししましょうって!」

 思いがけずフロント男性に反撃をしてくださったのは、ポニーテールの仲居さまでした。
 先ほどの御愛想良いご対応からは別人のように、幾分ヒステリックにもなられているご様子。
 そして、お姉さまのご推理がお見事に的中されたことを教えてくださった瞬間でもありました。

「そ、そうでございましたか…これは大変失礼をいたしてしまいました…」

 フロント男性が深々とお辞儀をくださいます。
 再びお顔をお上げになったフロント男性は、一転して嬉しそうに満面の笑顔。
 そういうことなら遠慮会釈無くじっくり拝見させていただきますよ、とでもおっしゃりたげな。

 駅前のお蕎麦屋さん去り際の一件が私の脳裏をかすめたそのとき…
 カウンター奥に掛かっている小豆色の暖簾がフワッと揺れて、女将さまがお顔を覗かせます。

「あらあら、ムツキさんも、お客様の前であまり大きな声を出すものではなくてよ」

 女将さまが悠然とされたお足取りで、フロント男性の左横に並ばれます。
 そのご登場のされかたが、何て言えばいいのか、わざとらし過ぎるくらいの自然さで、まるでテレビのホームドラマのワンシーンのよう。
 ひょっとして、本当にずっと暖簾の後ろに待機されていて、事の成り行きを見守りつつ、出番のタイミングを計られていたのかもしれません。

「ユタカさんがびっくりするのも無理ないのよ。彼は朝礼の後すぐに瀧川屋さんまでお使いに出て、さっき帰ってきたばかりだもの」
「ですのちゃんたちがご到着されたときもご挨拶していないから、その後のわたくしからの指示も聞いていないし、フロント業務もまだまだ見習い中ですしね」

 今度は女将さまに足止めをされる形で、私はまだフロントカウンター前から動けません。
 それをいいことに、すでにご遠慮が一切無くなられたフロント男性=ユタカさま?の両目が容赦なく舐めるように、私の全身を吟味されています。

 ユタカさま、というお名前で思い出されるのは、つい先々月、まだ夏の始めの頃にお姉さまの会社の先輩リンコさまからのご依頼で、リンコさまの甥っ子であるユタカさま他三名の小学生さまの前で淫らにくりひろげた、夏休み全裸女体研究観察会。
 
 あのときのいたいけな好奇に満ちた熱い視線さながらな、今現在眼前におられるユタカさまからの熱っぽい視姦で、あの日の記憶と現実が混ざり合い、私の被虐メーターが陶酔に振り切れそう。
 
 更に、女将さまにまで、ですのちゃん、呼びが浸透されていることも知り、この旅荘の方々全員から慰み者にされている気分です…


2021年5月22日

肌色休暇一日目~幕開け 16

 「あたしが着けてあげるから、こっちへいらっしゃい」

 空間に余裕のある鏡の前まで移動され、手招きされるお姉さま。
 全裸のままビクビク及び腰で従う私。

「脱衣所みたいな裸になる場所が鏡張りだと、なんだか照れくさいわよね」

 鏡に映ったご自分のお顔を覗き込まれ、その前髪をチョイチョイと弄りつつお姉さまがおっしゃいます。

「あ、でもそっか。直子はこういう部屋でのオナニー、大好物だったっけ」

 からかい口調でお姉さまがおっしゃるのは、私が住むマンションの一室、マジックミラー張りのサンルームのことです。
 夜になって室内の灯りを点けると三方のガラスがすべて鏡と化すサンルーム、通称お仕置き部屋。
 4階なので容易にお外からは覗けないのをいいことに、自分の恥ずかし過ぎる痴態をあらゆる角度に映しながら自虐的自慰行為に励む夜がままあるのは事実でした。

「鏡に向かって真っすぐ立って。足は少し開いて」

 ご自分は一歩下がられ、私を大きな鏡面のすぐ前へと誘導されます。
 スッピン素っ裸の自分の姿が、よく磨き込まれてピカピカな鏡面に等身大で鮮明に映っています。

 背後にはスッピンでも充分お美しく、浴衣姿も超絶お似合いな麗しのお姉さまのお姿。
 自然と両手が後頭部へ伸び、ご命令無しなのに自らすすんでマゾの服従ポーズとなってしまう私。

 真紅の布地の端から左右へと伸びている細い紐をそれぞれの手に持たれたお姉さまの両手が、背後から私のウエストを抱くように交差され、絞るみたいに少しきつめに巻きつかせた紐の両端を、おへその前くらいで蝶結びにされました。
 この時点では、赤い布はお尻側にダランと垂れ下がり、まだ丸出しな恥丘。

 お姉さまの手がお尻側に垂れ下がった布地を持たれ、尻たぶを隠すように股下を前方へとくぐらせて恥丘と下腹部を下から覆ってから、さっき作ったウエストの蝶結びと肌のあいだをくぐり抜かせます。
 まだ余っている長さ30センチに満たないくらいの真っ赤な長方形の布地が、もう一度下腹を覆って垂れ下がりました。

 お姉さまにされるがままになっているあいだ、ふと気づきました。
 これって股縄の縛り方とほぼ同じじゃない?…
 股縄するときは結び目でコブを作って気持ちいいところに当たるようにしたりするけれど…
 そんなことを考えていたら、キュンキュンヒクヒク、赤い布に覆われてしまった股間が疼いてきます。

「へー、かなりイケてるんじゃない?赤フン直子」

 鏡越しに私のおふんどし装着姿を、まじまじと見つめられるお姉さま。
 生まれて初めての自分のおふんどし姿は、何て言うか、すさまじい恥ずかしさ。

 下半身は完全に覆われ下着としての機能性は申し分ないのに、真っ赤というその派手すぎる色のせいか、却って下腹部を強調して注目させたがっているみたい。
 下腹部にハラリと垂れ下がっている前垂れ部分は、その下がちょうど性器部分ですし、ちょびっとめくってみたい、という衝動を思わせぶりに掻き立ててきます。

 鏡のおかげで自分の全身を客観的にも見れるので、おっぱい丸出しで真紅のおふんどし一丁なその姿が他の人からどう見えるのかも想像でき、どんどん恥ずかしさが増してきます。
 
 たとえばワンピースとかスーツとか普通の服装をしていて、何かの拍子で下着姿にならなければいけない場面があって脱いだらおふんどしだったら、見た人たちは面食らうだろうな…
 それで絶対、あの子ヘンタイだ、って噂されちゃうんだ…
 恥ずかしい、というキーワードでみるみる膨らんでしまう私の被虐妄想。

「いい、本当にいいわよ直子、直子と赤フンて相性バッチリ」

 背後からお姉さまの片手が私の肩に軽く置かれ、その手に導かれて私は回れ右をさせられました。
 至近距離で向き合ったお姉さまの瞳が、今度は生身の私のからだを上から下まで舐めるように見つめてきます。

「そう言えば、女子にふんどしを流行らせようとするステマみたいなのって、女性誌やネットでたまに見かけたわよね」
「ゴムの締め付けが無いとか通気性がいいとか、夜寝るときだけでも安眠効果抜群とか。実際に愛用しているって子には会ったこと無いけれど」

 最後の、無いけれど、をなんだか皮肉っぽくおっしゃったお姉さま。

「でも女子とふんどしの組み合わせって言ったら、やっぱりエロ絡みで推すべきよね?直子のその姿見て確信しちゃった」
「まず、そのミスマッチ感がいいわ」

 お姉さまってば、なんだかお仕事モード並に真剣なお顔つきになられています。
 お仕事で新作アイテムのサンプルが上がってきたとき、トルソーに着せてその改善点を吟味されているときのようにバストの下で両腕を組まれ、おふんどし姿の私の周囲を行きつ戻りつされつつ、ご自身の頭の中に渦巻くお考えの要点をおまとめになられているかのようにつぶやかれます。

「年頃の女子なら自分ではまず選ばない種類の下着だから、していたらそれは誰かに無理矢理着せられているのよ。命令とか脅迫とかされて」
「下着っていうことで、その着させている相手との関係が性的なものっていうことも、着せられている子がマゾ気質寄りってことも容易に想像出来ちゃう」

 私の下腹部に垂れる赤い布をピラピラめくったりしながら、お姉さまがつづけられます。

「あと構造のシンプルさゆえの、儚さ、っていうか、あやうさ、みたいなのもいいわよね」
「もちろんふんどし自体、使い勝手の良い実用性に富んだ優れた下着ではあるのだけれど」
「紐をスッと解いたらハラリと崩れて、大事な部分があっさり丸出しになってしまうところとか、一度解いたらただの一枚の布片になって、すぐには元通りに戻せないところとか」

 お姉さまの指が再び赤い前垂れをめくられたので、紐を解かれてしまわないかとハラハラする私。
 お尻の穴の少し手前部分の布地が早くもジワジワ濡れ始めているのを自分でわかっていましたから。

「まあ、中には自分で選んであえて日常的にしている子もいるかもしれないわね。まんまとステマに乗せられちゃった子は別としても、サブカル関係とは相性良さそうだし、厨二病女子が、特別な私、を演じたくてこっそりとか」

「そうだとしても、そのチョイスって、その子の深層心理下で欲している何らかの特殊性癖のあらわれだと思えない?だって、あえてのふんどしだよ?」
「あー、何か面白そうなビジョンが見えてきた。東京帰ったら早速ふんどしの研究しなくちゃ」

 お姉さまがおひとりで、思慮深げに大きく頷かれました。
 それから私の右肩を軽くポンと叩かれ、明るくおっしゃいます。

「さあ、それじゃあ部屋に戻ろっか?」

 ロッカーのところまで戻られてポシェットを取り出され、ロッカー内に他に何も残っていないことをご確認になり扉を閉じられます。
 テーブルの上にビデオカメラとポシェットとカッパさまこけし。
 お姉さまがビデオカメラとポシェットをお取りになり、こけしは直子が持ってって、とお声がけ。

 えっ!?
 ちょ、ちょっと…そんな…

「あ、あの、お姉さまっ!?」

 ドアのほうへと歩き出そうとされていたお姉さまを、思わず服従ポーズを崩して切羽詰まった声で呼び止めます。

「何よ?いきなり大声出して」

 ゆっくり振り向かれるお姉さま。
 両腕を胸の前でX字に組み、丸出しおっぱいを庇うようなポーズに変わった私。

「あの、上のほうは、わ、私の上半身、な、何か羽織るもの…とか…」

 振り向かれたときの不機嫌そうなお顔は、絶対わざと作られたお顔。

「ないわよ」

 素っ気なく吐き捨てられた後、ニンマリとイジワルい笑顔。

「あたし考えたのよ。これって女将さんからの大サービス。あたしたちに気分良く宿泊してもらおうっていう気持ちのこもったサプライズおもてなしなのじゃないかって」

 おふんどしについてご考察されていたときとは一転され、嬉々としたお顔てご自分のお考えをご説明くださるお姉さま。

「直子の浴衣は、汚れているからってキサラギさんが持っていっちゃったワケでしょ?で、代わりにその赤フンを置いていった」
「あたしたちは裸になって露天風呂に入るのだから、帰りに浴衣が無かったら困るのはわかりきっているはずよね?」

「でも、あれから二時間近く経った今も洗濯した直子の浴衣を戻しに来る気配が無い。もしもまだ乾いていないとかなら代替品でも戻すべきよね?」
「夕食の時間も近いのだから、あたしたちがそろそろ部屋に戻るであろう頃なのも、承知のはず」
「それはつまりそういうことなのよ」

 自分のおっぱいに密着させた腕に、ドキンドキンという自分の心臓の音を感じます。
 そんな私をご愉快そうに見つめつつ、お姉さまがつづけます。

「あたしはね、あたしたちの行動はある程度、旅荘側にモニターされていると思っているの。たぶんこのリストバンドにGPSか何か仕込んであるのね」
「だってタイミング良すぎたもの。部屋を出ていったん露天風呂まで直行して、途中で脱衣所に戻ったタイミングを見計らったみたいにキサラギさんが現われたんだよ?」
「まあ、ある程度宿泊客の行動を把握しておかないと、配膳とかアメニティの補充指示の都合とかがあるだろうからね。スマートにおもてなしするためには」

 そこで一呼吸置かれ、少しだけお声を潜められるお姉さま。

「あたしがね、これは女将さんたちの粋なふるまいだな、って確信を持てる事実があるの」
「それはね、あたしがここにひとりで来てロッカー開けたときは、ロッカーの中に湯浴み着もバスタオルもちゃんとふたり分用意されていたのよ」
「それが今見たら、それらも消えていて赤フンだけしか残っていなかった…」

 お姉さまが私をまっすぐに見つめ、その端正な頤を私へと突き出すように動かされました。
 服従ポーズのご合図です。

「未使用のバスタオルか湯浴み着がまだあれば、直子もそれを纏うとかして上半身も隠せるワケじゃない?だけどキサラギさんはそれをも持ち去ってしまった」
「それらのことから導かれる結論はひとつ、直子はトップレスで自由に旅荘内を歩いていい、っていうお墨付きが出た、ってことでいいんじゃない?」
「仲居さんだけの采配で出来ることじゃないから、つまり女将さんからの粋なプレゼントね。女将さん、直子のこと気に入ったぽかったし」

 後頭部に両手を添えておっぱいと両腋を全開にしている私を、お姉さまが何かまだ意味ありげに見つめてきます。
 その愉し気な瞳を見つめ返しながら、これから自分の身に起こることを考えてみます。

 赤フン一丁のおっぱい丸出しで、お部屋まで戻る…
 驚かれ、やがて好奇か憐憫か劣情か、いずれにしても侮蔑満点な見知らぬいくつもの視線に晒される…
 お姉さまの目の前で、両乳首にグングン血液が集まり全身がみるみる火照っていくのが死ぬほど恥ずかしい…

「たぶんそこの電話でフロントに連絡して、浴衣が無いんですけど、とか言えば、すぐに持ってきてくれるとは思うわ。遅れて申し訳ございません、とかシレッと謝りながら」
「でも、今は夕食時の配膳時間で仲居さんたちがてんてこまいだろうからお手数取らせるのは申し訳ないし、何よりそれだと優しい女将さんからのせっかくのご好意をないがしろにしちゃうことになるわよね?」
「見せたがり見られたがりな露出狂の直子がそんな無粋なこと、するわけないわよね?」

 ないわよね?と決めつけるようにおっしゃられたら、はい、ありません、とお答えするほかありません。
 その瞬間私の、赤フントップレス温泉旅荘館内引廻しの刑、が確定しました。

 他の宿泊客さまや従業員さまも往来していらっしゃる旅荘の敷地内を、真っ赤なおふんどし一枚のおっぱい丸出し姿で歩く…
 想像するだけで頭がクラクラ、頬がカッカと熱くなってきます。
 いくら女将さまのお許しが出ているとしても、そんな正しく公然わいせつそのものな行為を本当にやってしまって大丈夫なのでしょうか…

 到着したときも正面玄関で、かなり恥ずかしい着衣で従業員ご一同さまのご歓迎を受けました。
 それでもあのときは、前結びチビTと言えどもおっぱいはちゃんと布地に包まれていました。
 でも今回は、剥き出し、丸出し、トップレス…恥辱と背徳のレベルが格段に違います。

 ここまで来るときに辿った道順を思い出してみます。
 木々のトンネルは遮蔽物が多かったけれど、開けた場所では旅荘の母屋も見渡せたし、階下はお散歩道ぽくベンチも置いてあったような…
 
 館内に入ったら、明らかにお客様がご逗留されているお部屋はあったし、お廊下を仲居さまがたも行き来されていたような…
 つい数時間前のことなのに記憶が曖昧模糊ですが、とにかく、絶対どなたかに視られちゃう、とゾクゾクが止まりません。

「上半身何も無いないのも心細いだろうから、帰りは直子にこれを譲ってあげる」

 お姉さまが嬉しそうにハート型ポシェットを私の肩に掛けてくださいます。
 剥き出しの素肌にパイスラッシュ掛けで。
 素肌に白い紐状ストラップの斜めアクセントが入ったことで、却って余計に剥き出しおっぱいを目立たせている気がします。

「さあ、もう服従ポーズは解いていいから出かけましょう」

 おっしゃりながらビデオカメラレンズを向けてこられるお姉さま。
 こんな姿までもデジタルで残されてしまうんだ…
 赤いおふんどしにおっぱい丸出しな素肌パイスラで片手にこけしを握りしめている女性を目撃したら、そのかたは一体その女性のことを何と思われるのでしょうか…
 
 今の自分の姿の喩えようのない破廉恥さにクラクラしながら、お姉さまが開けられたドアをくぐれば、そこはもうお外。
 大自然の中、絵葉書みたいな黄昏時の綺麗過ぎる夕陽と、自分が今している格好とのそぐわなさに、露天風呂で全裸になったときのン十倍もの羞恥を感じています。

「ほらほら、せっかくの生おっぱい隠してちゃダメじゃない?直子は見せたがりやさんなんでしょ?」

 そのお言葉に、両腕X印でバストを庇っていた姿勢を渋々改めます。
 夕方の優しい風がバストトップを撫ぜていき、その愛撫のせいで乳首が乳暈もろともますます背伸びしてしまいます。

 レンズをこちらにお向けになるために半身捻られた後ずさり、みたいなご体勢で砂利道を進まれるお姉さま。
 自撮り棒持たせてセルフで撮影させればよかったかな…なんて愚痴をつぶやかれています。
 やがて二階へと繋がる木々のトンネルが始まる広場部分へと到着しました。

 二階への上り口前には、↑矢印二階・西側客室入口、の看板。
 その左側には、←矢印母屋正面玄関、という別の看板があり、敷地内のお庭を通るのでしょう、細かい砂利石を敷き詰めた小路が植え込みを左右にしてつづいているようです。

「ああ、こっちの地続きな道からでも建物に戻れるんだ。ねえ、帰りは下の道を通ってみよっか?」
「薄暗くなってきたし、お庭をお散歩している宿泊客なんてもういないんじゃないかな?」

 いたずらっぽくご提案くださるお姉さま。

「えっと、私たちが温泉に入っているあいだに新しく男性のお客様がたが大勢みえていらっしゃるかもしれませんし…」

 ご提案を思いとどまっていただきたくて、とっさに思いついた可能性をあわてて口にしました。
 お散歩道よりもその後に、どうしても回避したい最難関が待ち構えていることに気づいていたからです。

 だってもしも一階から戻るのなら…
 確かにもう薄暗くなってきていますし、お庭では何事も起こらなかったとしても、確実にもう照明が灯っているであろう玄関を通って明るいフロントを横切り、燦々と照明降り注ぐ階段を上がってお部屋まで辿り着かなければなりません。
 
 いくら宿泊客さま少なめと言えども、ご熱心に働いていらっしゃる従業員さまがたには、確実に多数目撃されてしまうでしょう。
 更に、本当に新しい宿泊客さまがたまでご到着されていたら…

 着いた途端に恥ずかしすぎる着衣を従業員さまがたに晒してしまった私でしたが、今の私は、それを充分上書きして余りある程のヘンタイ過ぎる姿なのです。
 目撃され次第、頭のおかしい公然わいせつ痴女、と後ろ指をさされて然るべき機関にツーホーされても何も弁解出来ないくらいに。

 上への道ならば、出会っても仲居さまがた、運が良ければ私の性癖をすでにご承知なキサラギさまだけで済みそうな予感もするので、ここはなんとか下の道を回避したいところでした。
 おそらく今にも泣き出しそうなほど、憐れみを乞う顔付きになっていたと思います。
 私の顔をじっと視られ、それから少し上目遣いに何か考えられた後、お姉さまがお答えくださいました。

「そうね。あたしも何だかんだでお腹空いちゃったし、知らない道行って迷っちゃったら面倒だし、来た道戻ってササッとご馳走にありつきましょう」

 意外と簡単にあきらめてくださったお姉さまのご決断にホッと一息。
 少しだけリラックスして木々のトンネル、お部屋への帰りは上り階段、へと進みました。

 トンネル内は、お外からの目を緑の葉っぱさまたちが遮ってくださいますし、段々と地上よりも高い位置へと導いてくださいますので気分的にラク。
 憂慮すべきは、露天風呂へと逆方向から来られるかたとの至近距離でのすれ違いですが、今はちょうどお夕飯前。
 こんな時間帯にわざわざお風呂へと向かうかたもいらっしゃらないでしょう。

 相変わらず、半身捻られた後ずさりなご体勢で私の赤フンおっぱい丸出し姿を記録されながら、一段一段の距離が長めな階段状通路をゆっくり上がっていかれるお姉さま。
 果たして館内二階のお廊下へとつづくはずのドアまで、どなたとも遭遇せず無事上りきりました。

 檻のような柵で囲まれた踊り場で一息。
 どなたにも視られずに到着してしまうと、逆になんだか残念に感じてしまう…っていうのはムシが良すぎますよね。

 だけどこの先は、従業員さま、宿泊客さま、どなたと出会っても仕方のない建物内です。
 あらためて緊張しつつ、お姉さまがドアを開かれるのを待ちます。

 って、あれ?
 開かないのかな?
 お姉さまがドアノブをガチャガチャさせて押したり引いたりされていますが、一向に開きません。

「そう言えばここ、内鍵だったっけ…」

 ポツンとつぶやかれたお姉さま。
 どなたかが建物内から施錠されてしまわれたみたいです。
 こちら側のドアノブに小さな鍵穴はあるものの、合う鍵なんてもちろん持っていません。
 お外に締め出されてしまった形のお姉さまと私。

「どうやらいったん引き返して庭を抜けて行くしか、部屋に帰る道は無いようね」

 無駄足が確定して、やれやれ、というニュアンスも混じるお姉さまのご宣告に、私の被虐はキュンキュン再燃。
 絶対どなたかが常駐されているはずのフロントを、この公然わいせつ確信犯痴女な姿で通り過ぎなくてはいけないことが確定してしまいました。

2021年5月15日

肌色休暇一日目~幕開け 15

 お三かたよりも遠くの一点を呆けたように見つめている私に気づかれたようで、カレンさまが怪訝そうに後ろを振り返られました。

「あれ?姐さん!もう戻ってきちゃってたんだ」

 バツが悪そうにお道化たカレンさまのお声に、他のおふたりもお姉さまのほうへと振り向かれます。

「あ、これはその、どのくらいマゾなのか、ちょこっと見せてもらってたんだ…」
「スゴいイキオイでイッてたよ、大股開きで腰ガクンガクンさせて…」
「どうして湯浴み着なんか着ちゃってるのかしら、女湯状態なのに…」

 お三かたとも私にお尻を向け、湯船の中をビデオカメラ片手にゆっくり近づいていらっしゃるお姉さまに小さく手を振ってらっしゃいます。
 その揺れるお背中と声音がどなたも何て言うか、ビミョーに後ろめたそう。
 ちょっとヤンチャし過ぎちゃったかな…みたいな。

「お相手していてくださったのね、ありがとうございます」

 島のすぐ近くまで歩み寄られたお姉さまが優雅に会釈されます。
 ストンとしたワンピース型の湯浴み着はホルターネック。
 そこだけ剥き出しになっている両肩の肌色が妙に色っぽくて、まじまじと見惚れてしまいます。

「なんで湯浴み着なんて着ちゃってるわけー?ここ、女しかいない貸切状態なんですけどぉ」

 たじろぎ気味だったカレンさまが仕切り直されるように、先ほどシヴォンヌさまもつぶやかられていた違和感を、ご冗談ぽくなじるようにお姉さまへぶつけられます。

「あたしは裸でも別に構わないのだけれど、この子が嫌がるのよ」

 薄い笑みを浮かべたお姉さまが、ベンチの上でまだM字開脚な私を指さします。

「自分以外があたしの裸を見るのはダメなんだって、男でも女でも」
「他人があたしを、そういう目、で見ること、が許せないらしいわ。自分は辺り構わず脱ぎ散らかして、誰にでも性器の奥まで晒してる露出狂のクセにね」

 お三かたのすぐそばまで来られたお姉さまが、いたずらっぽい笑顔でおっしゃいました。

 でも私、今までお姉さまにそんなことをお願いした覚えはありません。
 確かに、お姉さまのお綺麗過ぎる裸身がたとえ温泉とは言え私以外の目に触れてしまうのは、私にとって愉快なことではないのは事実ですが…

「へー、意外にふたりはラブラブなんだねー」
「ですのちゃんの姐さんは、ご主人様としてただイジワルするだけじゃないんだー」

 サラさまカレンさまの冷やかすようなご指摘に、なんだか照れ臭くも嬉しくなってしまう私。
 お姉さまは、と見ると、余裕綽々のお澄まし顔でみなさまと対峙されています。

「まあ、そんな感じなんで、みなさんはあたしにお構いなく、思う存分この子を慰み者にしてくださって結構よ」

 艶然とした笑みを浮かべつつ、どうぞどうぞ、という感じに両手のひらを上に向けたジェスチャーで煽られるお姉さま。

「あー、でもやっぱりこの姐さん、ドエスだー、キチクだー」
「思う存分慰み者にって、ですのちゃんカンペキにオモチャ扱いじゃん」
「お許しが出たってことは、うちらもですのちゃんのカラダ、あれこれイジっちゃってかまわないのよね?」

 私のほうへと向き直られるお三かた。
 そのすぐ後ろからお姉さまの瞳がまっすぐに私を見つめてきます。

「ほら、あなたからもみなさんに、どうして欲しいのかちゃんとお願いしなきゃダメじゃない?」

 ご愉快そうに唇の両端を歪めた笑顔で、お姉さまからの無慈悲過ぎるサジェスチョン。
 自分の口で自分から辱めを乞いなさい、というご命令。

「あ、は、はい…ど、どうぞみなさま…わ、私をお好きなように虐めてくださいませ…」
「わ、私は、は、恥ずかしいご命令されると感じて濡れてしまうヘンタイマゾですから、ど、どんどん、は、辱めて欲しいんです…」

 なんとか声にした言葉は、マゾを自覚した中学生の頃から自虐オナニーのときに何度も何度も、妄想の中のお相手に向けて訴えかけていたセリフでした。
 言い終えた途端にマゾマンコの奥がヒクンヒクンと盛大に疼きます。
 ついさっき、みなさまに視ていただきながら、頭の中が真っ白になるくらいイキ果ててしまったというのに。

 気がつくとまだM字状態の股間にあてがっていた両手の指が、知らず知らずラビアの左右にかかっていました。
 それだけではなく軽く外側に引っ張るみたいに、その部分の皮膚を引き攣らせてさえいます。

 パックリ開いた私の膣口、濡れそぼった粘膜に当たる空気。
 脳内では電車の中でお姉さまに教わったあの恥ずかし過ぎるセリフを反芻しています。

 …これが直子のマゾマンコです、奥の奥まで、どうぞじっくりご覧ください…

 私のその部分に釘付けなお三かたの呆然とされているような視線。
 どなたよりも早くその瞳孔が細まり、妖しげに揺らいだのはシヴォンヌさまの瞳でした。

「それなら今度はお尻をこちらに向けて、四つん這いになってもらおうかしら」

 シヴォンヌさまが右手に持たれたカッパさまこけしをゆらゆら揺らしながらおっしゃいました。
 シヴォンヌさまのお声でハッと我に返られたようにビクンと肩を震わせる他のおふたり。
 申し合わせたように見合わせられたお顔がみるみるお緩みになり、ご興味津々なご表情に染まっていきました。

 四つん這い…
 その屈辱的なお言葉の響きに私のマゾ性は狂喜乱舞。
 早速体勢を変えようと両足を地面に下ろしたところで、はたと考えてしまいます。

 この狭いベンチの上で、お尻をみなさまに向けて四つん這いって?横向きではダメなのよね?
 ベンチの座席部分は当然ながらお尻を置くほどの幅しかありませんから、その狭い幅に四つん這いって…

「あー、ごめんごめん、ベンチの上でって意味じゃなくて、ベンチ降りてこちらにお尻を突き出しなさい、っていう意味ね」

 シヴォンヌさまの苦笑交じりなご訂正のお声。
 でもお顔を盗み見ると、目だけは笑っておられず、少々苛立ち混じりなのもわかりました。

「ベンチを降りて、後ろ向きになって、両手をベンチに預けて、両脚を開きなさいって言ってるのっ」

 シヴォンヌさまの声音がどんどんSっ気を帯びてきているように感じます。
 ゾクッと両肩が震え、急いでベンチを降りご命令通りの姿勢になります。

「両手をベンチに着くんじゃなくて、頭ごとベンチにひれ伏すのっ。土下座みたいに顔面はベンチに擦り付けてケツをこっちに突き出すのよっ!」
「ほらほら、もっと高くオマンコとコーモンを差し出しなさいっ」

 シヴォンヌさまのヒステリックに上ずったお声が間近に聞こえてきます。
 ご指示通りにからだを動かしているあいだに垣間見えたシヴォンヌさまは、すでに湯船から上がられ、そのゴージャスな全裸ボディを惜しげもなくお陽さまに晒されつつ、あからさまに嗜虐的な笑みを浮かべられていました。

 バシッ!
 あうぅ!

 小気味よい音を立て、シヴォンヌさまの右手のひらが私の左尻たぶを打擲しました。
 石のベンチの上に両手の甲を枕にして顔を押し付けたまま、両膝はほとんど曲げず腰だけ突き出す前屈姿勢な私のお尻を。

 だらしなく垂れ下がった私のおっぱいは、乳首の先端とベンチのコンクリート座面が触れるか触れないかのスレスレ。
 お尻を叩かれた瞬間に緊張していた筋肉が緩み、膝も少し落ちて両乳首先端が石の座面をザリっと擦りました。

 はうっ!
 その予期せぬ強烈な刺激に思わず両膝もいよいよ開いてしまい、弾みでよりパックリ開いた秘唇からダラリとはしたない涎を垂らしてしまう私のマゾマンコ…

「あら、お尻軽くぶっただけなのにずいぶん敏感な反応なのね。さすが、マゾですの、なんて自称するくらいの淫乱ぶりですこと」
「それで顔は出来るだけこっちに向けたまま、さっきのつづきをなさい。第2ラウンド」
「その不自由な格好で手を伸ばして自分の指で弄って。淫らに高まってきたら、今度こそこれをワタシの手でたっぷりご馳走してあげる」

 首だけ捻じ曲げ必死にお声のするほうへと向けている私の顔先に、カッパさまこけしをお見せくださったシヴォンヌさま。
 何もかもを晒し切っている私のお尻の割れスジを、カッパさまの滑らかな木肌がツツーッと撫ぜていかれました。

「はうんっ!は、はい…わかりました…」

 全身被虐の塊と化した私が、ご命令通り右手をそこへ伸ばそうとしたとき…

♪ンターターターター、タータ、タータンタッタッタッタッタター…

 どこからともなく流麗な弦楽の調べがたおやかに流れてきました。
 えっと、このメロディは確かシューベルトさんの、ます、だったっけか…
 ふっとそんな事を考えて伸ばしかけた手が途中で止まったとき、悲鳴にも似た叫声が近くであがりました。

「げげぇーーっ!?もうそんな時間?」
「うちら夕食の仕込みと配膳手伝うって、きり乃さんと約束したじゃん、チョーやべえ」
「これって5時のチャイムだよね?秒で行かんとヤバくね?」

 お三かたが軽くパニクっていらっしゃるご様子。
 私も座面に手を着いて少しだけ上体を起こし、左肩越しに湯船の方を見遣ります。
 お姉さまは、あらま何事?という感じに唖然とされたお顔。

「ですのちゃんも姐さんも本当にゴメンっ!うちら仕事あんのすっかり忘れてたわ」

 カレンさまサラさまがお湯をザブザブと掻き分けて脱衣所に通じる陸地のほうへと急いでいかれます。
 シヴォンヌさまだけがお姉さまとしばし何やらお話をされた後、先に行かれたおふたりの後を追われました。

 最後に湯船から上がられたシヴォンヌさまが剥き出しのお尻をフリフリしつつ視界から消えていきます。
 何がなにやらわからないまま、相変わらずお尻を湯船側に高く差し出したまま、お見送りする私。

「やれやれ。賑やかな人たちだったわね?」

 お姉さまが島のすぐそばまで近づいてこられ、私にニッコリ微笑んでくださいました。
 この恥ずかし過ぎる姿勢をいつ解けばいいのか、タイミングが掴めない私。

「なんかあの人たち、安く泊めてもらう代わりに女将さんにお手伝いを約束していたみたい」
「でもノリのいい人たちだったから面白かったわよね?愉しそうな虐めはお預けになっちゃったけれど」

 湯船に立たれているお姉さまは、湯浴み着の裾ギリギリくらいまでがお湯に浸っています。

「あたしたちはまだ夕飯まで時間あるし、もう少し愉しみましょう、せっかくの露天温泉混浴大浴場が完全貸切状態なのだし」

 おっしゃりつつ背後を振り返られ、何かをご確認されているようなご様子。
 やがてご安心されたお顔で再び私のほうへと向き直られたお姉さまは、おもむろにホルターネックの首後ろの紐をスルスルと解かれました。
 不意にしゃがまれたお姉さまのおからだごと湯浴み着がお湯の中にのみ込まれ、十秒くらい置いて立ち上がられたとき、お姉さまは全裸になられていました。

 そのお姿で両腕をお広げになり、私を迎え入れてくださるポーズをお取りになるお姉さま。
 飼い主に呼ばれたワンちゃんみたいに、一目散にお姉さまの胸中に飛び込んだのは言うまでもありません。

 それからふたり、お湯の中でお互いの気持ち良くなれる秘所をまさぐりまさぐられ。
 両腕、両手、左右の指、唇と両脚は片時も求め求められる感触を外すことを知らず、悩ましい淫声を抑制することも無く、大自然の中で本能のおもむくままに愛し合いました。
 もの凄い開放感、高揚感、満足感、幸福感…

 どのくらいの時が過ぎたでしょうか。
 ようやく一般的に夕方と認識されるくらいにお陽さまが翳った頃、お姉さまと私は裸で湯船の縁に並んで腰掛け、ハアハア荒い息を吐きつつぐったりと足先だけを湯船に浸けていました。

「ハア…やっぱり直子ってスゴい。あたし、ここまで快楽に溺れたことってないわ。溜め込んでいたあれこれ、ぜーんぶ浄化されちゃった気分」

 お姉さまの疲れ切って掠れた、心の底から絞り出されたようなお声に、私も告げたいことが頭の中で大渋滞状態。

 …さっきお姉さまが湯浴み着姿で来てくださった時、凄く嬉しかったんです…
 …その後のお言葉、私がうまく言えなかったことをちゃんとわかっていてくださっていたんだなって思って、涙が出そうなくらい感動でした…
 
 …シヴォンヌさまたちを、ちゃんと私を虐めるように仕向けられるお姉さまの的を射た話術も凄いです…
 …私、お姉さまの笑顔のためなら本当に何でもしますから、どうかお嫌いにならないでください…

 告げたいことは山程あるのに、ハアハアし過ぎて声帯が着いて来ず声には出来ず、ただただお姉さまのお顔を見つめつづけるばかり。
 そんな私をお優しげに見つめ返してくださっていたお姉さまが、一区切り着けるみたいにわざとらしくニッと笑われました。

「おーけー。そろそろお部屋に戻りましょう。帰る頃には、お膳いっぱいに美味しそうなご馳走が並んでいるはずよ」

 温泉から出た岩場の少し離れた岩の上に、真っ白なバスタオルが置いてありました。
 きっとお姉さまが脱衣所から持ってこられたのでしょう。

 最初にお姉さまが丁寧におからだをお拭きになられ、それから私に手渡してくださいます。
 私がからだを拭いている傍らで、お姉さまは湯浴み着の水気を軽く絞った後、手早くおからだに湯浴み着を巻きつけられ、首の後で紐を結ばれました。
 私もからだを拭き終わり、お姉さまには湯浴み着があるから、と自分のからだにバスタオルを巻き付けようと広げると、すかさず伸びてきたお姉さまの右手。

「直子は裸のままでいいでしょう?せっかくまだまだ屋外で全裸で過ごせるのだから。こんな直子好みの不健全なチャンス、滅多に無いわよ?」

 没収したバスタオルを小脇に挟み、ビデオカメラのレンズを向けてくるお姉さま。
 あらためてお言葉でご指摘されると、今私はお外に全裸でいるんだ、ということに全意識が持っていかれてしまい、お姉さまとのラブラブな交わりで満足しきった快楽とはまた別の、マゾ性ゆえの被虐願望みたいな欲求が、イキ疲れているはずのからだを性懲りもなく疼かせ始めてしまいます。
 戻りかけていた理性も、出番を間違えた舞台役者さんみたいにバツが悪そうにフェイドアウト。

 シヴォンヌさまたちがここを去られるきっかけとなったチャイムが5時とおっしゃられていましたから、きっともう夕方6時近いのでしょう。
 あれほどギラギラ全開だったお陽さまも森の向こうに沈みかけ黄昏色間近になった岩場の坂道を、お姉さまが私に向けていらっしゃるカメラのレンズを追いながら歩いていきます。

 私が生まれたままの姿で屋外を歩いている姿が映像に残されちゃっているんだ…
 あられもなく乳首を尖らせたおっぱいも、歩くたびにヌルヌル潤んでくる無毛の女性器も、全部デジタルで鮮明に記録されちゃっているんだ…
 羞恥心と背徳感に煽られ駆り立てられる自虐への衝動は、私のどうしようもないマゾ性をムラムラと蒸し返してきます。

 来たときには素通りした脱衣所に入ります。
 キャンプ場のバンガロー風外見を裏切らないログハウス仕様でウッディな内装。
 水捌けを考慮したプチ高床式なコンクリートの床に素朴な木製スノコを敷き詰めた足元。

 そんな朴訥な空間に、駅前とかによくあるコインロッカー然とした無機質無骨なロッカーが壁に沿って整然と並び、もう片方の壁面はお外を覗ける大きな出窓を真ん中に挟んで、バレエのレッスンルームのような鏡張り。
 木材の温かみと無機質な冷たさのアンバランスな趣が近未来ぽい非日常感を醸し出していて、鏡に映った自分の肌色が妙にエロティックに見えてしまいます。

 お姉さまが右手首に巻かれていたリストバンドから鍵をお取り出しになり、プレートに205と書かれたロッカーの水色の扉を開かれます。
 そそくさとご自分の浴衣を取り出されて傍らのテーブルの上に置いた後、サクサクと和装用下着を身に着けられました。
 つづいて悠然と浴衣を羽織られ、ご自身の着付けへと進まれます。

 私もお手間をお掛けしないように、とロッカーの中を覗き込みます。
 あれ?
 
 ロッカー内に残っているのは、お姉さまにお貸しした私のハート型ポシェットとビニール袋に包まれた真っ赤な手ぬぐい?タオル?いずれにしても小さくて薄っぺらそうな布地だけ。
 お姉さまにお持ちいただいたはずの私の水色の浴衣は、帯もろとも影も形もありません。

「…あのぅ、お姉さま?」

 とっさに感じた切ない予感にドキドキ震えつつ、お姉さまを窺います。
 着付けに夢中になれられているお姉さまから、なあに?という素っ気ないご返事。

「あのぅ…私の浴衣は…」

 チラッとロッカーと私に視線をくださったお姉さま。

「ああ、それね」

 帯を締め終わり、袖やウエストの撓みなど着こなしをご修正されつつ、お姉さまがご説明くださいました。

「直子の浴衣、背中側の裾にけっこう派手に泥が跳ねて汚れていたのよ」

 浴衣をお召し終わり、今度は使われた湯浴み着やバスタオルを丁寧にたたみ直されているお姉さま。

「あたしがここで湯浴み着に着替えているときにちょうどキサラギさんが備品の点検にみえられてね」
「汚れに気づいたのも彼女よ。湯船までの道すがら水たまりかなんか踏まれて跳ねたのでしょうって」
「今ちょうど洗濯機回していますからって言うから、あたしは、いいですよそのくらい、って言ったんだけどさ」

 湯浴み着とバスタオルを返却籠に収められたお姉さまが、私のそばまでやってこられます。

「あたしも湯浴み着に着替え終えたところだったからさ、自分の浴衣とかをロッカーに入れようとしていたら、わたくしが入れておきますから、どうぞごゆっくり露天風呂を楽しんできてくださいって言われて」
「ロッカーは閉めれば自然に鍵がかかっちゃう方式なんだって。それであたしはお言葉に甘えてそのまま外に出て、直子の浴衣の件はうやむや」

 お姉さまがロッカーの中を覗き込まれ、あら本当に入っていないわね、なんて悠長なことおっしゃいます。
 そしてロッカー内のビニール袋に気づかれたのでしょう、手を伸ばされ、それをお取りになりました。

「そう言えばあたしがドアから出ようとしていたら、お連れさま用にこちらを入れておきますね、なんて背中から声が聞こえたっけ」
「あたしも直子がカノジョたちに何されているのか早く視たかったから、確認もせずに、はーい、なんて生返事で出てきちゃったんだ」

 お姉さまの手がビニール袋を破られ、出てきた真っ赤な布地を広げ始めます。
 少し広げられたところで、プッ、と吹き出されるお姉さま。
 ご愉快この上ないというような満面の笑顔で私の顔を覗き込んできました。

「ちょっとこれ、直子ってばVIP待遇並みにこのお宿からおもてなしされているみたいよ」

 どうしたって笑いを噛み殺せない、みたいなニコニコなお顔で私にその真っ赤な布片を広げて見せてくれるお姉さま。
 フェイスタオルを広げたくらいの幅の長めで長方形な布片が真紅に染まっています。
 片方の端に同じ色で左右へと細長く伸びる紐。

「これってどう見てもふんどし。日本が誇る伝統の勝負下着、赤フンだわよね?」

2021年4月25日

肌色休暇一日目~幕開け 14

 帯が浴衣からすっかり離れてしまうと、胸の前で合わさっていた両襟も当然のことながら左右へハラリと割れてしまいます。
 浴衣の下は肩先からくるぶしまであますところなく素肌ですから、当然のことながら浴衣の前が開いてしまう前に襟を掴み、露呈を阻みます。

「こら。あなたはそんなしをらしいことするような種類のオンナじゃないでしょう?」

 イジワルそうな薄い笑みを浮かべ、からかうようなお姉さまのお声。
 私をまっすぐ見つめつつ、ご自分の両手をご自身のおへそのあたりに集め、おもむろに左右へ大きくパッと開くような仕草。

「あなたよく言っているじゃない、一度でいいから裸コートのとき人混みでこうしてみたい、って」

 ご愉快そうにおっしゃるお姉さま。
 でも私、お姉さまにそんなこと、一度も告げたことないはずです。
 
 だけどつまり、それはお姉さまからのご命令。
 えっちなマンガとかでよくある局部見せたがりなヘンシツ者みたく、自ら前をバッと開いてハダカを視ていたただきなさい、というご指図。

 胸の前で浴衣の布地をかき抱くように掴んでいた両手が、諦めたみたいに緩みます。
 左右の指先がそれぞれ左右の衿先を掴みます。
 それからギュッと目をつむり、思い切って両腕をバッと左右へと広げました。
 今まさに滑空しようとしている飛膜を広げたモモンガさんみたいに。

 目を瞑っていてもまぶたにお陽様の強い光を感じます。
 ああんっ、まだ全然明るくておまけにお外なのに、出会ったばかりの見ず知らずの方々の前で私ったら、何て格好をしているの…
 絵に描いて額に飾ったような、まさに、the 露出狂…
 羞恥と被虐と背徳と快感がないまぜとなり、下半身の裂けめを痺れさせてきます。

「おおぅっ!…」
 
 ザバザバと水面が波立つような音と一緒に、どよめくお声が大きく聞こえてきて束の間の陶酔が破られ、恐る恐る目を開けるとお三かたが思いがけずもずいぶん近くまで来ていらっしゃいました。
 お湯の深さは、一番小さくてロリっぽいサラさまでも太ももの付け根辺り。
 お三かたともオールヌード丸出しのお姿で、the 露出狂ポーズを晒している私のカラダをシゲシゲと見つめてきます。

「すげえ、超パイパンっ!」
「その日焼け跡、何よ?どこで焼いたの?どんな水着着たらそんなふうにエロやらしく焼けるのよ?」
「尖った乳首がツンツンにイキリ勃ってて痛そう。下乳は意外に垂れ気味なんだ…」
「クリもでかっ!皮がすっかり剥けちゃって、こっちもビンビンに飛び出してる…」
「首の白いスジは、チョーカーとか首輪の日焼け跡なのかしら…」

 口々に私のハダカの感想を投げ合わられるお三かた。
 温泉の湯船は一段低くなっていますし私は岩場でヘンシツ者ポーズですので、裸のお三かたから股間を仰ぎ見られる態勢。
 その好奇に満ちて不躾な視線の圧、何もかもが視られ吟味されている…という被虐に、マゾの血脈が全身で波打ちます。

「あなたの性癖も、みなさんに愉しめていただけているみたいでよかったじゃない?」
「引かれちゃったらどうしようかと思っていたわ」

 岩場に優雅に腰掛けられたお姉さまも嬉しそうに微笑まれ、片手に持たれていたスマホの画面をチラッとご覧になられました。
 それからスクっとお立ちになると、まだthe 露出狂ポーズな私の背後に来られました。
 
 間髪入れず、剥ぎ取られるように強引に私の背中から離れていく浴衣。
 少し緩めてしまっていた指先から、いとも簡単に私の唯一の着衣はお姉さまの腕の中へ。
 お外で全裸!?と意識するや否や条件反射のように、胸と股間を庇うヴィーナスの誕生ポーズへと移る私。

「だからー、あなたの両手はそこではないでしょ?何今更ぶりっ子しているのかしら?」

 すかさず投げつけられるお姉さまの呆れたような叱責。
 優美な曲線を描くアゴを優雅に、でも私にしかわからないくらい微かにしゃくられるお姉さま。

 はい…ごめんなさい…
 おずおずと両足を休めの姿勢くらいまで開き、両手を重ね合わせ自分の後頭部へと持っていく私。
 
 マゾの服従ポーズで間近のお三かたと向き合います。
 隠そうと思えばたやすく隠せるのに、自ら両手を後頭部にあてがい裸身の何もかもをさらけ出した私の姿を、唖然としたお顔つきで凝視されるお三かた。

「あたしはこれからさっきの脱衣所に戻って、タオルやら何やら、露天風呂を楽しむ準備をしてくるから、あなたはその格好のまま回れ右して、背中の自己紹介もみなさんに見ていただきなさい」
「あなたがどうしようもないヘンタイ性癖なんだって理解してもらえれば、みなさんもあなたも気兼ねなく愉しめるでしょうし」

 おっしゃりながら岩場に落ちていたカッパ様こけしを拾い上げられ、湯船のお三かたのほうへ軽く放られました。
 ポチャンと飛沫を上げて湯船に落ちたカッパ様。
 木製だから沈まずに、お三かたの背後でプカプカ浮かんでいらっしゃいます。

「この子、それ大好きだから、みなさんで好き放題しちゃっていいですから」

 無慈悲なお言葉を残されたお姉さまは、私がさっきまで着ていた浴衣と帯を手早くおまとめになって小脇に挟み、ハンディビデオカメラだけ岩場の高い位置に置き去りにされ、その場を離れられます。
 
 服従ポーズをお三かたに向けたまま首だけ捻じ曲げた姿勢で、脱衣所のほうへと戻られるお姉さまのお背中を未練がましく追っていると、お姉さまが不意に立ち止まられ、こちらを振り返ってくださいました。
 私に向けてニッコリ微笑まれ、右手の指先で空中にクルリと大きな円を描かれ、再びプイッという感じで向き直られ、脱衣所のほうへと歩き始められます。

 そうでした…
 私はお三かたに背中をお向けしなければいけないのでした。
 ある意味、おっぱいや性器を見られるのより恥ずかしい、私の素肌に刻まれた自分のヘンタイ性癖の自己紹介…

 再び湯船のほうへと顔を向け直します。
 お三かたとも湯船の縁まで集まられ、興味津々に舐め回すような六つの瞳が私の裸体を見上げています。
 その視線たちから目をそむけて意を決し、ゆっくりとその場で180度ターン。
 一瞬の沈黙の後、キャハハハと甲高い嘲笑が弾けました。

「なにそれ!マゾですの、だってー!」
「ですのって何よ?ちょーウケるんですけどぉ」
「日焼け跡って、引くまで消えないじゃん。あの姐さん、マジ鬼畜」
「だろうとは思ったけど、そんな言葉を肌に焼きつけちゃうなんて、正真正銘のヘンタイじゃん」
「やっぱり首の白いのは首輪の痕なんだ。マゾだから首輪を普段からさせられてるのね…」

 容赦無い好奇の嘲りが私のお尻に浴びせられます。
 侮蔑的なお言葉責めが切なくて唇をギュッと噛んでしまうのに、ジンジンと火照ってしまう私の乳首とマゾマンコ。
 ひとしきりお三かたのかまびすしい哄笑がつづきました。

「でもまあ、せっかく裸になったんだからさ、マゾですのちゃんも温泉、入んなよ。うちらと楽しもう」

 半笑いのお声ですが、お優しいお言葉を投げてくださったのは、最初にお声がけくださった金髪のカレンさまでしょう。
 そっと振り向くと案の定、さっきお姉さまが放られたカッパ様こけしを右手に握ったカレンさまがお湯の中で立ち上がられ、カッパ様をぶんぶん振っておられます。

 どうしよう…
 お姉さまが戻られるのを待ったほうがいいのかな…
 でもさっきお姉さま、この子を好きにしちゃっていい、ともおっしゃられていたけれど…

 少し迷ったのですが、お言葉に甘えさせていただくことにしました。
 一番の理由は私の股間。
 さっきからの羞恥辱責めで感じ過ぎてしまい、このまま服従ポーズでいるとだらしないマゾマンコから滴り落ちる恥ずかしいおツユまで目撃されてしまいそうだったからです。

「あ、はい…お心遣いありがとうございます。それでは失礼させていただきます…」

 丁寧にお答えしてポーズを解いて向き直り、湯船の縁までゆっくり歩を進めます。
 縁に立つとお三かたが少しだけ後退され、身を屈めた私は右足の先をちゃぷんとお湯に浸けてみます。
 
 熱すぎもせず温すぎもせず、人肌よりちょっと高いくらいの温度。
 両足をそろりと挿し入れ浴槽に立つと、お湯の深さは膝上、腿の真ん中少し上くらい。
 湯船の底は自然石のタイル状石畳になっていました。

 その場にしゃがみ込み肩まで浸かってみます。
 お湯は、ほんのり濁っていて少しポテっと重たい感じで、お肌に優しく絡む感じの滑らかな泉質。
 
 火照った全身がしっとり潤いの人肌に包まれ、うーんっ、気持ちいい…
 裸身もお湯に隠せてホッと一息ついたのも束の間、あっと言う間にお三かたに取り囲まれました。

 それからは、ご質問に次ぐご質問攻め。
 お姉さまとはどういう関係なの?から始まって、本当の仕事は何?それどこで焼いたの?剃毛?それとも永久脱毛?普段はどんな命令をされてるの?イジメじゃないの?今も感じちゃってるの?etc…etc…

 それらのご質問にすべて、正直にお答えしました。
 ご質問のあいだ中、お三かたのどなたかが私のからだに手を伸ばしてくることは無く、それはちょっと意外でした。

「ふーん。ですのちゃんは同性とでしか感じないレズでマゾで露出狂なのかー。けどそれって特殊性癖盛りすぎじゃない?もしオトコ好きだったら引く手あまたでモテモテだろうに…」

 金髪のカレンさまが感心されたようにおっしゃいます。

「アタシも男相手ならドスケベだけど、同性に見られたいってのは信じられないなー。だって、自分がサカって乱れてる姿を見ず知らずの同性に見られるなんて超恥ずくない?屈辱的っていうか…」
「ああ、女はそういうの見下してくる傾向ってあるよね。とくに自分より若かったり可愛かったりすると、嫉妬が絡んだマウンティングっていうか虚勢を張るための軽蔑っていうか。シモネタNGがカワイイと思ってる女ってまだまだ多いから」

 ロリなサラさまのご意見に賛同されるカレンさま。

「こないだのハコネでの宴会、ひどかったじゃない?うちらが何かやるたびに凄い目で睨まれて」
「あー思い出した。なんであんな女性交じりの場にアタシら呼ぶかな?中でも一番薹が立ってたお局様?の目がスゴかった」
「そうそう。他の女も野球拳とか見たくないならさっさと部屋に戻ればいいのに、なぜだかいるんだよね、最後まで」
「でもまあオトコ共も大半萎縮しちゃってある意味、仕事は超ラクだったよね。お酌だけしてりゃいいって感じで」
「場がシラケきってた。あの会社、あの後揉めたろうな。潰れてたりして」

 ご愉快そうな笑い声をあげられるカレンさまとサラさま。

「ですのちゃんのお姉さまって、ですのちゃんが他の女性とえっちなことをしても怒らないのよね?」

 話題を仕切り直すみたいに、ナイスボディなシヴォンヌさまがお口を挟まれてきました。
 そして私の呼び名はいつの間にか、ですのちゃん、で定着しちゃったみたい。

「あ、はい…怒らない、って言うか、私が他の女の人に虐められているのを見るのもお好きみたいです…」

 至近距離で向き合っているシヴォンヌさまの、お湯の波間から見え隠れしているハリウッド女優さんみたいなお胸の谷間にドギマギしながらお答えします。

「やっぱり。ですのちゃんのご主人様は寝取られ属性があるんだ。それじゃあですのちゃんも、いろいろやらされて大変でしょうね」
「…ネトラレ?ですか?」

「あれ?知らない?大好きな人が他の知らない人にヤラれちゃうのを見て悦ぶ特殊性癖。夫婦の旦那のほうが奥さんを他の男にヤラせて、それをこっそり覗き見したり。エスな人の調教の一環だったりもするらしいけれど」
「そんなの…知らなかったです」
「でも、あの姐さんは、そんな感じなんでしょ?そういうのをネトラレって呼ぶのよ」

 妖艶な笑顔のシヴォンヌさまにそう諭されて、確かに私のお姉さまはネトラレなのかな、って思いました。

「おっと、シヴォンヌ姐さんがノッてきたよ」
「アタシらん中じゃ姐さんが一番、エスエムとか詳しいもんね」
「姐さんはエムっぽくにもエスっぽくも変幻自在の百戦錬磨だから」

「じゃあ、ですのちゃんに何かマゾっぽいことしてもらおうよ」
「ですのちゃん見てると、たしかに何かこう、イジメたくなっちゃうの、わかる気がする」
「ドマゾって、痛いのとか屈辱的なのも好きなんじゃなかったっけ?」

 カレンさまとサラさまが俄然はしゃぎ始めます。
 私もお三かたからの虐められモードに突入したことを察知して、お湯の中でぐんぐんムラムラしてきています。

「それじゃあ、ですのちゃんにはとりあえず、オナニーショーでもしてもらおっか?ご主人様の置き土産のこけしもあることだし」

 シヴォンヌさまが艶っぽい半笑いのまなざしを私に向けたまま、他のおふたりにご提案されます。

「いいねいいねー」
「ですのちゃんのえっちなイキ顔見てみたーい」
「アタシ、他の女が男に姦らてるのは見たことあるけど、ひとりえっちでイクとこは見たことなーい」
「でもお湯の中でモゾモゾチャプチャプされてもうちらにはよく見えないし、なんかつまんなくね?」

 カレンさまサラさまの無慈悲なお言葉。

「あー、それもそうね。それじゃあ、あの真ん中の島に上がってやってもらおっか」

 シヴォンヌさまが我が意を得たり、みたいなご表情で温泉中央に設えられている東屋を指さされます。
 私はさっきの、シヴォンヌさまの妖しく翳る瞳を見て、ある程度の覚悟はしていました。
 シヴォンヌさまは絶対最初から、そこで私を晒し者にされるおつもりであったはずです。
 お姉さまが私に残酷なご命令を企まれているときと同じまなざしでしたから。

「いいねいいねー。あそこちょうど足湯っぽく腰掛けられるようになってるから、そこでバーっと大股開きで」
「ライブショー、最前かぶりつきだね」

 カレンさまサラさまがキャッキャとはしゃがれる中、お湯の中でシヴォンヌさまにサッと右手を掴まれました。
 初めてのボディタッチにビクンと震えた刹那、シヴォンヌさまがザバッと立ち上がられたので私も引っ張られて立ち上がらざるを得ません
 
 ナイスボデイな全裸女性に手を引かれ、刑場に連行されるみたいに湯船中央の東屋のほうへ。
 私たちの後からサラさまカレンさまがつづかれ、全裸女性4名での湯中の行進を、ずいぶん傾いてもまだまだ明るい夕陽が煌々と照らしてくださっています。

「さあ、ですのちゃんはこの上にお上がりなさい」

 シヴォンヌさまの声音はあくまでおやさしげでしたが、有無を言わせぬ威厳と言うか高貴さと言うか、人にご命令され慣れているような感じのカリスマ的オーラを感じました。
 
 目の前にある小島には、ちゃんと湯船から陸地まで上がれる石の階段もあり、ふたりぐらい並んで腰掛けられる石のベンチが湯船を見渡す位置に三脚、そして島の中央部分は、更に一段上がっていて陽射しを遮る木製の屋根を設えた東屋になっています。
 
 湯船の中からお三かたが見上げる中、私はシヴォンヌさまのご命令に従い、ひとり島へと上がりました。
 温泉から出た一糸まとわぬ素肌を微かに吹いている風が優しく撫ぜてくださいます。

「そのベンチに座って、まず最初は、ですのちゃんが普段ヤッてるみたいにからだをまさぐって、気分を盛り上げてみて」
「いい感じになってきたら、このこけしを渡してあげる」

 カレンさまから手渡されたのでしょう、カッパさまこけしを片手にシヴォンヌさまからのディレクション。
 湯船の縁に両肘をついた横並びのお三かたがベンチに腰掛けた私を見上げています。

「は、はい…」

 すっかり覚悟を決めた私は、恥ずかしさ半分、辱めていただける嬉しさ半分のマゾモードで両脚を大きく開きました。
 両足はベンチの上に置き、自ら進んでのM字開脚。
 
 左手を右おっぱいに当てると、ビクンと電流。
 乳首が今にもポロリと零れ落ちそうなほど大きく硬く背伸びしています。

 右手をそっと股間に滑らせると同時に、あふんっ。
 手のひらがもろに、充血して腫れ上がった肉芽を擦ったからです。

「うわ、自分からあんなに思いっ切り股広げちゃって、パイパンだからケツの穴まで何もかももろ見えじゃん」
「オマンコの中がビチャビチャにテカってない?」
「呆れた、もう感じちゃってるんだ。本当に視られるのが好きなんだね」
「あ、早くも指の出し挿れし始めちゃった。へー、中指と薬指使うんだ…」

 みなさまからのにぎやかな実況中継が聞こえてくるのですが、私の両手は怯むこと無く自分の性感帯を陵辱しつづけています。
 これまでのあれこれで疼ききっていた私のからだにやっと訪れた快楽のチャンスに、恥も外聞も消し飛んでいます。

 おっぱいを揉みしだき、乳首をつまみ、ひねり潰し、ひっぱり。
 右手のひらでクリットを擦りつつ、膣口に埋めた二本の指でジュブジュブ膣壁を捏ね回します。
 それでもお外にいる、という意識はあるみたいで、目と唇を真一文字に結んで歯を食いしばり、淫らな声は極力我慢しています。

 甘美な刺激は的確に蕩けるような昂りへと変換され、その蓄積がめくるめく頂きへと徐々に昇り詰めていきます。
 ああんっ、そろそろっ、あとちょっと、もう少しぃ…
 
 お三かたは固唾を呑んで見守っていらっしゃるのか、実況中継のお声も聞こえなくなっています。
 視られている、という被虐を実感したくて、そっと顔を上げて瞑っていた瞼を開きます。
 視界の先に唖然という面持ちのみなさまのお顔。

 ああんっ、視て…こんなお外で、みなさまの目の前で、マゾな直子が浅ましくイッてしまうふしだらな姿を、どうぞ存分に視てやってください…んっ!…

 ふと視線を上げると、お三かたの後方数メートルの位置にお姉さまのお姿が見えました。
 濃いめなブルーグレイの湯浴み着をお召しになり、ビデオカメラのレンズをまっすぐ私に向けられたお姉さまのお姿が。
 それに気づいた瞬間、強烈な快感の波が下腹部から全身へと駆け巡り、頭の中が真っ白になりました。

「イッたね…」
「うん…間違いなくイッてる…」
「早くね?始めてからまだ5分も経ってないっしょ?」
「ぐったりハアハアしてるのに、からだのあちこちがヒクヒク痙攣してる…やだっ、ケツの穴まで…」

 そんなお声がどこか遠くのほうから聞こえた気がしました。

2020年10月11日

肌色休暇一日目~幕開け 13

 「女将さん、直子のからだ、凄い勢いでガン見してたね」

 おふたりをお見送り出してお部屋の中へと戻りつつ、お姉さまが嬉しそうにおっしゃいました。

「あの調子なら、館内で多少はっちゃけても、大目に見てくれそうじゃない?」
「たとえば廊下を四つん這いリードでメス犬プレイとか、庭でヌード撮影とか、ね?」
「ま、とりあえず散歩がてら、女将さんご自慢の野外露天風呂まで行ってみましょうか」
「タオル類は現地に用意してあるから手ぶらでいい、って言っていたわね」

 お姉さまが座卓の上に置きっ放しだった鍵入りの透明リストバンドを右手首に嵌められました。

「あとは小銭と部屋のカードキーか…直子のポシェット、借りるわよ」

 私のポシェットの中身が全部出され、代わりにお姉さまのスマホと小銭入れ、カードキーだけを入れてお姉さまが斜め掛けに提げられます。
 お淑やかな青色浴衣に白いハート型のポップなポシェット。
 一見ミスマッチなコーデなのに、お姉さまが提げるといっそうエレガントになるから不思議です。

 貴重品類はセーフボックスに入れ、座卓の上にはまだ充電中な私のスマホとリモコンローター本体だけが置き去り。
 カッパさまこけしは、私が締めている帯の結び目付近に無造作に挿され、私と行動を共にすることに。
 最後にお姉さまがハンディビデオカメラを剥き出してお持ちになられて準備完了。

「それじゃあ行きましょう」

 玄関にご用意いただいたお草履をそれぞれ履き、お部屋を出ます。
 玄関扉はカードキーなので、オートロックなのでしょう。

 よく磨き込まれて木目が綺麗な板張りのお廊下。
 灯籠を模した照明器具が淡く照らす中、お姉さまが先をお行きになりなり、時折私にレンズを向けてきます。

「ほどよくレトロで風情があって、いい旅館よね、ここ」

 ビデオカメラを下ろされたお姉さまが私と並び、やがて十字路。
 野外露天風呂、と記されたプレートの矢印が示す方向、一階へと下りる階段とは逆方向、つまり建物の奥へと向かうべく左へ折れます。

 すぐに右側の壁沿いに扉が見えたので、こちらも客間となっているのでしょう。
 高い天井には組木細工の模様が施され、相変わらず低く流れている艶っぽいジャズピアノの調べ。
 その静謐な雰囲気になぜだか官能がくすぐられ、秘めた願望をお姉さまに告げたくなりました。

「お姉さま?私、あのお部屋で…」

 先を行かれるお姉さまのお背中にそこまで言いかけたとき、クルッと振り向かれ、しっ、と唇に人差し指。
 右側の客間の扉を過ぎて少し進まれたところで立ち止まられ、板張りの壁にお顔の側面を寄せられています。
 どうやら聞き耳を立てていらっしゃるご様子。
 私も一緒に耳を澄ますと…

「…んんぅ、はぁぅ、んぅぅーんっ、はぁぁんっ…」

 せつなそうな女性のくぐもった息遣いが漏れ聞こえてきました。
 んっ、んっ、と男性の踏ん張るような低い唸り声とピタンピタンと肌と肌がぶつかるような音も。

「真っ最中みたいね」

 ご愉快そうなヒソヒソ声を私の耳元で囁くお姉さま。
 つまりこれって、今このお部屋の中で男女がイタしている生ライブ音、っていうこと?
 思考がフリーズし、カーッと全身が熱くなりました。

「…あっ、あんっ…くっぅ、いいっ、そ、そうよっ、ひぃぃんっ…」

 30秒くらいその場に佇んでから、お姉さまがスッと歩き始めました。
 いろいろ混乱して固まっていた私もあわてて後を追います。

 お廊下は行き止まりとなり、突端の扉上のプレートに矢印と共に、野外露天風呂。
 お姉さまがガチャリと内開きのドアを開けると、その先は屋外でした。

 立派な木枠の渡り廊下が、まだ奥へとつづいています。
 周りには、ポツンポツンと大きな岩肌、その合間をお廊下を覆うように草木が生い茂っていますが、お廊下はさほど汚れていないので日常的にお手入れされているのでしょう。
 二階から出たので5、6歩行くと一段降りる式の階段状となった木々のトンネル渡り廊下。
 10メートルくらい先までまっすぐつづいています。

「あの感じだとバックスタイルで奮闘中ってところかしらね。こんな時間からお盛んなこと」
「まあ、互いに合意の上のお愉しみなんだろうし、余計なお世話だけどさ」

 お姉さまが私にビデオカメラのレンズを向けつつおっしゃいました。
 さっき聞いた生々しい物音を思い出します。
 確かにありふれた男女の営みなのでしょうが、胸の奥がチリチリ騒ぐ私には、その光景をあまり想像したくないものでもありました。
 頭の中に浮かんできそうな絵面を振り払いたくて、無意識のうちに二度三度と首を振る私。

「そう言えば直子さっき、何か言いかけていたわね、何?」

 私の動揺にお気づかれたのでしょう、ビデオカメラを下ろして私の顔を覗き込み、話題を変えてくださるお姉さま。
 そのお優しさにホッと安堵し、何を言おうとしていたのかド忘れてしまう私。
 あれ、何だっけ?えっと…あ、そうだった…

「あの、私、今日泊まるお部屋の昔の日本のお座敷っぽい雰囲気が妙にツボに入ってしまって、以前にそういう写真やビデオを見たことがあったので…」
「それで、あのお部屋で、お姉さまに荒縄で、思いっ切り恥ずかしい格好で柱とかに縛り付けられてみたいな、なんて…」

 お姉さまに、というところをとくに強調して告白しました。

「呆れた。廊下歩きながらそんなこと考えていたんだ?アナタの頭の中って、えっちなことしか入っていないの?」

 心底呆れた、というご表情で眉間にシワを寄せられるお姉さま。
 でもすぐにシワは消えて、真面目なお顔に戻られます。

「でもごめん。それはちょっと無理。あたし、ここにロープとか拘束具とか直子の好物、持ってきていないんだ」

 そっけなくおっしゃったお姉さまが私の反応を探るみたいに束の間私を見つめた後、一転して今までで一番イタズラっ子のお顔に豹変されました。

「でも明日、別荘に着いたらそんなことを言ったの後悔するくらい、あれこれヤられちゃうはずだから、愉しみにしていなさい」
「言ってみれば、今日のふたりだけの温泉バカンスはアペリティフ、前菜なの。明日からがメインディッシュだと思って、今日は成り行き任せでまったり過ごしましょう」

 ご愉快さとイジワルさを一緒くたにされたお顔で、お姉さまがビデオカメラのレンズを向けてこられました。
 ヤられちゃう、とおっしゃったということは、別荘ではどなたか別のかたもいらっしゃる、ということなのでしょう。
 お姉さまとふたりきりでいられるのは、今日だけなのかな?
  少しの落胆と少しの期待。

 そうこうしているうちに渡り廊下が地面に接し、木々が途切れて少し開けた場所に出ました。
 正面にはキャンプ場のバンガローみたいな建物があり、脱衣所、というプレートが掛かっています。
 
 その右側には矢印の付いた立て看板に、野外露天風呂、という表記。
 おそらくそこまで連れて行ってくださるのでしょう、草木の刈り取られた地面にスノコ状の板が敷かれ、もう少し低いほうへとつづいています。

「着いたみたいね。いいじゃない、見渡す限り360度自然の岩と草木で、まだ現物は見えないけれど、これぞ露天風呂のあるべき姿、ってロケーション」

 お姉さまがご満足そうにおっしゃいました。

「でも一応入る前に、先に来ている人がいないかチェックしておきましょう。混浴だって言っていたし、先にオトコが入っていたりしたらいろいろメンドクサそーだから」

 お姉さまがお迷いの無いお足取りで脱衣所の脇を通り越され、露天風呂へつづくのであろうスノコの上を進まれます。
 もちろん私も後ろにつづきます。

 緩やかな下り坂が終わると、岩肌と樹木が目隠しフェンス状に囲んでいる場所に出ました。
 ジョボジョボという永続的な水音も聞こえてきます。
 ワクワクしながらフェンスの内側へ入ってみると…

 想像していたより広くて立派。
 大きな岩盤をいびつな楕円形にくり抜いたかのような、広大な楕円ドーナツ状の湯溜まりが目の前に広がっていました。

 広さは小中学校によくある25メートルプールくらい?
 湯溜まりの真ん中が岩場の大きめな島になっていて、木造の東屋が設えてあります。
 温泉の周りを木々が囲っているとは言え、湯溜まりの真上は青空なので、午後4時を回っていくらか和らいだ残暑の陽射しが湯溜まりの水面に燦々と降り注ぎキラキラ光っています。

 お姉さまと一緒に湯溜まりのすぐ縁まで進んでみます。
 水面はやや白く濁った感じで独特の匂いも強く、見るからに何かしらの効能がありそうな感じ。
 思わずお姉さまとお顔を見合わせ、お互いにニッコリ微笑み合いました。

「誰もいないし、入ってみようか」

 お姉さまがおっしゃると同時に、対面の東屋の陰からポチャンという水音が聞こえ、すぐに白い人影が現われました。
 
 東屋のある島の脇の湯船にまっすぐに立たれた人物。
 その曲線的なフォルムで女性だとわかります。
 お湯の深さは膝上、腿の半分くらいまでらしく、そのかたの両腿の付け根に小さく翳っている黒い茂みが、白濁したお湯とのコントラストで絶妙に目立っています。

 お姉さまとふたり、唖然として見つめる中、そのかたにつづいて東屋の陰からもうおひとかた、いえ、もうおひとりも加わり総勢お三かたの女性が湯船の中から、こちらを見つめてきました。
 やがて最初に現われた女性が右手を高々とお上げになり、左右にヒラヒラと腕を振り始めます。

「おーいっ!」

 こちらを呼ばれるお声とともに、大きめのおっぱいがユサユサ揺れています。

「なんか、呼んでるね」

 さすがのお姉さまも戸惑い気味に、私と見つめ合います。
 私たちがその場から動かないことに業を煮やしたのか、お三かたが横一列に並ばれ湯船の中をバシャバシャと、こちらへ近づいていらっしゃいました。

 どなたも一糸まとわぬスッポンポン。
 全員髪の毛はヘアバンドなどで上にまとめられ、三者三様のおっぱいをプルンプルン揺らしながら。
 真ん中のかたが一番背が低くて、左端のかたが一番背が高い。

 あれよという間に私たちの前に全裸の女性が三名、並ばれました。
 お近くで見ると、ご年齢も私たちとはそう変わらなそう。

「おたくら、さっき送迎バスでここに来たお客さんだよね?」

 最初にお姿を現わされた一番右側の女性がお声をかけてきました。
 お三かたの中では一番派手っぽく、髪を一番明るめな金髪に染められています。
 それなのに下のヘアーは漆黒なのが凄くアンバランス。

「うん、そうだけど…」
 
 お姉さまがお答えされたお声は、幾分ご警戒気味。

「おたくらってさ、エーブイギョーカイの人でしょ?」

 金髪の女性が消えかかった眉毛を上下させ、ご興味津々なお顔でつづけられました。
 私にこのご質問が向けられるのは本日二回目です。

「えっ!?違いますよ。あたしたちは東京から遊びに来たただのしがないOLです」

 お姉さまがそっけなく言い返すと、真ん中の一番背が小さな女性が初めてお口を開かれました。

「えーっ、だってそっちのカノジョ、凄い大胆にエロい格好してたじゃん。おっぱいはみ出そうなトップスに土手丸出しのボトムス、おまけに犬の首輪まで着けちゃってて」

 真ん中の女性は、髪は濃いめの茶系、全体的に小柄で瞳だけが大きく胸の膨らみも控えめ、ヘアーも薄め、お声も多少舌足らずで、小悪魔ロリータぽい雰囲気。
 とんがらかした唇に、容姿に反したお気の強さが感じられます。
 お三かたの好奇丸出しな視線が集中的に私へと注がれました。

「あー、それね。あれはこの子の趣味なの。あたしたちはそういう関係で、今日はこの温泉宿でえっちなアソビでも愉しもう、って思っているのよ」

 お姉さまはお三かたのご様子にご警戒をすっかり解かれたようで、打ち解けた口調になっています。
 私はと言えば、三名の全裸女性から相変わらずジロジロ注がれる視線に、浴衣を着ているのにドッキドキ。
 
 考えてみれば、私だけ裸で周りは着衣、という経験は何度もありましたが、その逆は初めてかも。
 あまりジーッと視るのも失礼だろうし、でもお三かたともお綺麗な裸なのでじっくり視ていたいし…
 
「なーんだ、アタシ絶対AV女優とマネージャーが先乗りで来て、撮影隊が後から合流して今夜にも撮影するんだろうって、ワクワクしてたのに…」
「だよね?さすが、きり乃さんの宿、って思ってた。うまくすれば今夜のエイギョウに結びつくかな、くらい期待してたんだ…」

 ロリータさんと金髪のかたがワイワイと内輪話をお始めになります。
 そのあいだも一番左端の女性、一番背が高く黒髪でおっぱいも一番大きくボンキュッボンな美人さん、は、お一言も発さずニコニコ笑顔で私たちを見つめられていました。

「大胆て言うなら、あなたたちだってずいぶん大胆じゃない?」

 お姉さまがお三かたに、イタズラっぽくお問いかけになります。
 ロリータさんと金髪さんのおしゃべりがピタッとやみました。

「ここって混浴なのでしょう?なのにあなたたちったら、タオル一枚も持たずに、こんな明るいうちから優雅にマッパで湯治アンド日光浴。もしスケベなおやじ軍団でも入ってきたら…」

「あ、それは大丈夫なんだなー」

 お姉さまのお言葉が終わる前に、金髪さんが遮ります。

「今日は団体のドタキャンがあったせいで、逗留してるのはうちら以外、昨日から連泊の女子会OL4人組とカップル二組だけなんだ」
「カップルの一組は大学生ぽい初々しい感じで、もう一組はどう見てもオンナのほうがかなり年上のワケ有りそうな組み合わせ」

「両方ともどう見ても、ヤリに来た、って感じだったから、今頃ふたりだけの世界にズッポリよ。無粋な邪魔が入りそうな露天風呂になんて顔出すワケない」
「つまりオトコはふたりっきゃいないってこと。それも両方ウブそうな若いヤツだから、入ってきたとしてもどうとでもなるし。ま、来ないだろーけど」

 ロリータさんと金髪さんが口々にご説明してくださいました。
 私はさっきのお廊下で聞いた物音を思い出します。

「へー、ずいぶん内部事情にお詳しいのね。あなたたちも連泊なの?」

 お姉さまのお尋ねに、初めて黒髪の女性がお口を開かれます。

「て言うかワタシたちは厳密に言うと宿泊客ではないの。今夜の宴会に呼ばれたコンパニオンなの。でも今朝方別のホテルからこっちへ移動中に、予定客のキャンセルを告げられて」
「明日もこの近くの別の旅館に呼ばれているって言ったら、そういうことなら今夜はここに泊まっていきなさい、って、女将さんが格安でお部屋を提供してくれたの」

 黒髪の女性のお声は落ち着いていて、他のおふたりよりも少しお年上みたい。

「へー、コンパニオンて宴会に呼ばれてお酌とかする人のことでしょ?ああ、それでさっきエイギョーがどうとか言っていたんだ」

 お姉さまのお言葉に金髪さんがお答えになります。

「うちらの場合はピンパニ、ピンクコンパニオンだけどね」
 
 そのお答えに俄然お身を乗り出されるお姉さま。
 好奇心満々なお顔でご質問攻め。

「それってお色気全開のコンパニオンのことでしょ?ねえねえ、具体的にどんなことするの?」
「うーんまあ、基本的にはセクシーな衣装でお酌して回ったり、あと野球拳とかツイスターゲームとか」
「乳揉まれたり、おサワリくらいは仕方ないかな、って感じ」

「全部脱いじゃったりするの?」
「ケースバイケースだけど、その場のノリだよね」
「うちなんかワザと後出しして負けて、先に脱いじゃうよ。明るい部屋でじじいのキタネー全裸なんぞ見たくもねーし、酔っぱらいじじいに下手に先に半勃ちチンコなんか出させたら、ヌケだのヤラせろだの、その後のフォローが超メンドクサそーじゃん」

「じゃあやっぱりその先も、ヌイたりヤっちゃったりもあるんだ?」
「表向きにはもちろんNGだけどね。ただ、旅館によってはわざわざ別室用意してるところもあったりはする。アタシはもちろん断わるけど」

「でも客がお金持ちだったら、チップもはずんでくれるんじゃない?」
「昔は凄かったみたいだけど最近は不景気でそうでもないのよ。どっちにせようちらのチームはウリはしないな」
「シヴォンヌ姉さんは前に特別料金で女体盛り、してたよね?」

 そんなふうにいささか品位に欠ける会話がしばらくつづきました。
 お三かたは思い思いに湯船におからだを沈められ、私たちは陸地の平らな岩に腰を落ち着けています。

「へー、あなたたちってチームなんだ?」
「そう。事務所から組めって言われて、たいていこの3人で営業してる。うちがカレンで、こっちの小柄なのがサラ、ナイスバディなのがシヴォンヌ姉さん」
「あっ、それって…」

 金髪さんのご紹介に思い当たる節があり、思わず声が出てしまいました。

「あ、カノジョわかるんだ?事務所が勝手につけた源氏名なんだけど、なんでも昔の外国のガールズグループのメンバーの名前らしい」
「これでもマシになったのよ。チーム組まされた当初なんて、うちがスー子でサラはラン子、姉さんがミキ子だったんだから」

 カレンさんのご説明に他のおふたりが苦笑されています。

「そっちのカノジョなんかエロ可愛いから、パニオンやれば一発で人気者になれるだろーね。うちの事務所、紹介しよっか?」

 カレンさんがからかうみたいにお湯の中から私を指さしてきました。
 ビクンと震えた私の肩に右手が置かれ、お姉さまが代わりにお答えくださいます。

「確かにこの子はエロいし、頭の中はいつもスケベなことで一杯なのだけれど、そのお話には乗れないの」
「なぜならこの子は男性嫌悪症で、女性からの辱めにしか性的興奮を覚えないどうしようもないヘンタイ娘だから」

 一斉に、あらま、というお三かたのお顔。
 お姉さまに促され、ふたりで岩から立ち上がりました。
 お姉さまの右手が私のウエストの帯に掛かります。

「今日ご一緒したのも何かのご縁でしょうから、みなさんのお暇潰しに、ここでちょっと虐めていただきなさい」

 お言葉と一緒に私の浴衣の帯がスルスルっと解けていきます。
 帯に挟んであったカッパさまこけしがスルスルッと滑り落ち、岩盤の地面に当たってコツンと小気味良い音を響かせました。

* 

2020年9月27日

肌色休暇一日目~幕開け 12

  一度イッたくらいじゃカッパさまは許してくださいませんでした。
 イッているのがわかっているのに、お姉さまに操られたカッパさまは、私のマゾマンコへの出挿りを止めてはくださいませんでした。
 たてつづけに二度、三度、結局合計4回もイカされてしまいました。

 はしたない声を抑えるのも困難になっていたので、最後のほうは手ぬぐいで猿轡をされ、それを噛み締めながらてイキ果てました。
 その時間、旅荘のお庭にいたかたなら間違いなく、私のあられもない喘ぎ声を耳にされたはずです。

「可愛かったわよ。呼吸が落ち着いたら、お部屋に戻りましょう」

 浴槽の縁に腕と顎を乗せ、息だけをハアハア荒げぐったりしている私の上半身を、お姉さまが背後からお優しく抱いてくださっています。
 まだドキドキ跳ねている私の胸を、お姉さまの両腕がやんわり包んでくださっています。
 背中に当たっているお姉さまの硬くなったニップルが心地よく、いつまでもこうしていたい気持ち。

 しばらくそうしているうちにドキドキも鎮まってきて、お姉さまに促されて浴槽を出ました。
 幾分弱まったかな、くらいの残暑の陽差しの中、紛れもない屋外で全裸のふたり。
 お姉さまが先にサクサクと全身の水滴をバスタオルで拭われ、それから私のからだも拭いてくださいました。

 バスタオルのザラついた感触が肌を擦るたび、ゾクゾクッと官能がぶり返します。
 やだっ、たてつづけのオーガズムで、最近よく陥るイキ癖の状態になっちゃったみたい…

「なに肌に触られるたびにビクンビクン感じているの?ひょっとしてもう、どMモードに入っちゃった?」

 お姉さまは私のイキ癖状態を、どMモードとお呼びになります。

「は、はい…なんだかメチャクチャにして欲しい気分です…」

 今の気持ちを正直に告げ、媚びるようにお姉さまを見てしまいます。

「まだ着いたばっかりじゃない?早過ぎ。それに、あたしとふたりきりでメチャクチャにされても、直子には刺激が足りないのではなくて?直子は、辱められる姿を誰かに視られてこそ乱れるヘンタイさんなのだから」

 お部屋への引き戸が開けられ、私の肩を抱いて室内へと押し込まれるお姉さま。
 お部屋に入ると引き戸をピシャリと閉められ、スタスタと冷蔵庫のほうへと向かわれました。

「ほら、これでも飲んで少し落ち着きなさい。まだ陽があるうちに、お庭や館内も散策してみたいじゃない?」

 冷蔵庫から取り出されたスポーツドリンクを手渡してくださいました。
 キャップを捻ってゴクゴクっと一口。
 
 ふーっ。
 冷たい液体が喉からお腹へと染み渡り、性的ではない心地良さ。
 少しだけ理性が戻り、あらためて室内を見回します。

 座卓の上では、私とお姉さまのスマホ、それにハンディビデオカメラが仲良く並んで充電中。
 電車のあいだ中、私の中に埋まっていたローターも、フェイスタオルの上に無造作に置かれています。
 その横に、私を存分に悦ばせてくださったカッパさまがお仲間入りして甲羅干し。
 箪笥のそばでは、お姉さまが全裸のままで、ご自分のバッグ内を物色中。

 考えてみると、ベッドルームならともかく日中の普通の室内でふたりとも全裸、という状況も、あまり記憶にありません。
 こちらへ突き出されている形の良いお尻を眺めながら、温泉旅行に来ている、というありがたみを実感します。

 お隣の、おそらく寝室なのであろう畳のお部屋との襖が開け放たれ、太い木の立派な柱が一本剥き出しとなっています。
 途端に以前見たことのある純日本風な緊縛写真を思い出し、あの柱にあられもない姿で縛リ付けらてみれたい、と思ってしまいます。
 縄を掛ける梁もあるし、後ろ手縛りで片足だけ大きく吊り上げられて…

 目を瞑ってそんな妄想にふけってから目を開けたら、お姉さまはいつの間にか下着姿。
 それも上はスポーツブラみたいな形、下は男性用のボクサーショーツみたいないでたち。
 薄いベージュの布地でお姉さまの宝物が隠されしまいました。

「お姉さま?それって…」
「うん。温泉なら浴衣、と思って持ってきたのよ、和装用の下着。わかっていると思うけれど、直子の分は無いわよ」

 お姉さまがニヤニヤ笑いで近づいてこられました。

「本来着物とか浴衣って素肌の上に下着無しで直に着るものだしね。裸コート大好き人間の直子が浴衣の下に下着なんてありえないでしょ?」
「ちなみに直子が今日着ていた服一式、ワンピも下着も前結びシャツもデニムパンツも、今、洗濯してくれているから明日の朝まで返ってこないわ」

「えっ?いつの間に?」
「キサラギさんを呼んだのよ、直子を露天風呂に締め出した後に。チップ渡すの忘れちゃったから」
「袖の下って、着いた途端に渡しておかないと意味ないじゃない?」
「呼ぶ口実でランドリーサービスを頼んだの。直子がサカって汚したショーツとパンツは渡す前に洗面で軽く水洗いしておいたから安心なさい」

「だから、この宿に宿泊中、直子が着てもいい服はその浴衣一枚だけ。もしくは全裸ね」
「あたしが着終えたら直子に着付けしてあげるから、ちょっとそのまま待っていなさい」

 お姉さまがご自分で選ばれた紫色寄りの青い浴衣の入ったビニール袋を破り、取り出されます。
 その脇には私の水色浴衣のビニール袋。

 そそくさと袖を通されたお姉さまは、慣れたお手つきで前を合わせられ、手際よくウエストに帯を巻きつけます。
 温泉浴衣ですから幅広のちゃんとした帯ではなく、細い一本帯。
 それでも器用に巻きつけた帯に帯の端を何度かくぐらせ、ウエストの左前に羽を開いたトンボさんが上を向いてぶら下がるみたいな、綺麗な帯締め姿になられました。

「どう?」

 浴衣を着終えられ、ちょっとお胸を反らして気取られたポーズをお取りになるお姉さま。
 スレンダーなおからだのラインに沿って真っ直ぐに伸びる浴衣の生地。
 適度に開いた襟元、ほどよく覗く細い足首。
 落ち着いた青色もよくお似合いで、全体的にスラッとシャープで粋な浴衣美人さま。

「ス、ステキです、お姉さま!ステキ過ぎます」

 思わず上ずった声でのお返事になってしまいます。

「ありがと。直子にも着せてあげるから、こっちへいらっしゃい」

 水色浴衣のビニール袋をお手に取り、座卓から離れて引き戸前の広めなスペースに移動されるお姉さま。
 全裸の私も喜んでお姉さまの御許へ。
 ビニール袋を破って浴衣を取り出され広げられたお姉さまのお顔が束の間、おや?という具合に曇りました。

「あたしに背中向けて立っていて」

 ご指示通りに露天風呂のほうへ顔を向けて立ちます。
 ほどなく両肩にパサッと布地が掛かり前合わせが胸を覆ったので、そそくさと両腕を袖に通します。

「ああ、やっぱり…」

 お独り言のようなお姉さまのお声。
 私も羽織った瞬間に気がつきました。

 私が羽織っている水色浴衣、裾が余って床面まで落ちてしまっているんです。
 つまり丈が長過ぎる。
 お姉さまの浴衣姿を見て、同じサイズだったら私が着たらくるぶしまですっぽり隠れちゃうかな、なんて思ってはいたのですが、それどころではない余りよう。

「これじゃあ、おひきずりさんになっちゃうわね。明らかにサイズ違い。取り替えてもらわなくちゃダメね」

 後ろ襟が背後から引っ張られ、スルスルっと私のからだから去っていく水色浴衣。
 あっという間に全裸に逆戻り。
 お姉さまのほうへ振り向くと、水色浴衣の裏地側を丹念に調べられています。

「ほらやっぱり、TLって書いてある。キサラギさんに言って取り替えてもらいましょう」

 水色浴衣を素早く軽くたたんで座卓のビニールの上に置き、館内電話の受話器をお取りになるお姉さま。
 あの、えっとお姉さま?ということは私、キサラギさまを全裸のままお迎えしなくちゃ、ですか?
 しばらく鳴りを潜めていたマゾ性がキュンキュン戦慄き始めました。

「すぐ来てくれるって。よかったじゃない?キサラギさんにハダカ視てもらえて」

 受話器を置いたお姉さまがニヤニヤ笑いで近づいてこられます。
 ぶつかるほどの距離まで対面して、お姉さまの右手のひらが私の両腿の付け根を覆いました。
 声を出す暇もなく薬指だけが直角に立てられ、粘膜穴にズブリと差し込まれました。

「はぅんっ!」
「またこんなに濡らしちゃって。マゾマンコもずいぶん熱くなっているわよ?」

「キサラギさんが来る、って聞いただけで、こんなに興奮しちゃっているの?本当、浮気者なんだから」
「どうする?服従ポーズでお迎えする?それとも待受画像のポーズがいいかしら」
「でも直子は恥ずかしがりたいのよね?なんなら精一杯隠していてもいいわよ。それで直子が興奮出来るのなら」

 イジワルなお顔で膣穴をクチュクチュ虐めながらの、お姉さまからのお言葉責め。
 後頭部に両手を当てて、アウアウ喘ぐ私。
 そのとき、コンコン、と玄関扉をノックする音。
 
 お姉さまの右手がスッと下腹部から離れたとき、お姉さまの薬指と私の膣穴のあいだにか細い糸がススーっと引き、プツンと切れました。
 その指をご自分のお口でジュルルっと舐め取ったお姉さまが、はーいっ、どうぞぉ、と大きなお声でお応えされました。

「このたびはお手数をお掛けしてしまい、申し訳御座いません」

 平身低頭なご風情のキサラギさまが風呂敷包みを抱えて座卓前へ。
 あれ?背後にもうおひとかたいらっしゃる…

「ごめんなさいね。お見せする浴衣を選ぶとき、係の者がそのお色だけサイズを取り違えてしまったようですの」
「ここ最近は、ありがたいことに外国人のお客様も増えてまいりまして、背の高い女性の外国人様用に丈の長いサイズを導入してから、まだ日が浅いものでして…」

 キサラギさまにつづいてお部屋へ入ってこられたのは、レモンイエローの付け下げがエレガントな女将さまでした。
 女将さまはキサラギさまの斜め後ろにスッとお立ちになり、まっすぐに私を見つめています。

 私は玄関が開く音を聞いた瞬間に、ヴィーナスの誕生ポーズを取っていました。
 すなわち、右腕でバストを庇い、左手で股間を隠す羞じらいのポーズ。
 お部屋に人が訪れてくるのがわかっていたのに全裸で待っていたのですから、今更羞じらいも何もないのですが。

「あらあら、直子さまは裸のまんまでしたのね。本当にごめんなさいねぇ」

 女将さまが薄い笑みを浮かべたお顔で私におっしゃいます。
 その視線が舐めるように、私の頭の天辺から爪先までを幾度か往復しました。
 股間を押さえている左手のひらの指先近辺が、ヌルっと潤みました。

「いいんですよ。バスでもご説明したように、この子はそういう子ですから」

 お姉さまがご愉快そうにフォローにならないフォロー。

「やはりトールサイズでした。Mサイズの保管ラックに何かの拍子でトールサイズが紛れ込んでしまったようです。申し訳ございません」
「わかりました。二度とこんな間違いが起こらないように、戻ったらすぐ、保管庫内の全色全サイズを点検し直してください」

 キサラギさまと女将さまの緊張をはらまれた遣り取りの後、キサラギさまがご持参された風呂敷包みを解かれました。
 中には同じ水色の浴衣が入ったビニール袋。

「念の為、MサイズとSサイズをお持ちしました」

 キサラギさまが座卓の上に並べられ、女将さまが私とお姉さまを交互に見遣ります。

「渡辺さま、のお姉さまがお召しになられているのは、Mサイズですよね?」
「あ、はい。たぶん…」

 女将さまに尋ねられ、お姉さまが自信なさげなお答え。
 キサラギさまがスタスタっとお姉さまへ歩み寄られます。

「失礼いたします。少し身を屈めていただいて、襟足をお見せいただけますか?」

 キサラギさまにおっしゃられ、お姉さまが少し前屈みになられて後ろ髪を上げて手で押さえ、お綺麗なうなじをキサラギさまに差し出します。
 お姉さまの後ろ襟に手を差し入れ、お姉さまの横からつま先立ちで襟足を覗き込まれるキサラギさま。
 やがて、Mサイズでした、というキサラギさまのお声が聞こえました。

「ごめんなさいね。浴衣の衣紋にサイズ表記が見えてしまうのは無粋ですから、タグの裏側に小さく書いてありますの。お召しになられていなければ、掛衿の裏にもあるのですけれど」
「それにしても、お姉さまの着こなしはお見事ですわ。どなたかに習われたのですか?」

 女将さまが嬉しそうにお姉さまへお尋ねになります。

「あ、いえ、あたしも一応アパレル関係を仕事にしていますので、和装も一通りのことは学校や独学で」
「ああ、服飾関係っておっしゃっていましたっけ。それにしても、帯はお綺麗な元禄結びですし、衣紋抜きもちゃんとお作りになられていて、さすがですわ」

「お褒めいただいてありがとうございます。この子の浴衣も、少しくらいの余りだったら、おはしょり作ればいけるかな、とも思ったのですが」
「いえいえ、浴衣帯でこの余分な長さでおはしょり作るのは、わたくしどもにも無理です。ご迷惑をお掛けしてしまって、本当に申し訳ございません」

 女将さまとお姉さまの、私にはチンプンカンプンな和装談義が終わり、再びみなさまの視線が私に集まります。

「お姉さまでこの着丈でしたら、直子さまにはSサイズのほうが可愛らしいでしょう。キサラギ、着付けして差し上げなさい」
「かしこまりました」

 女将さまのご指示でキサラギさまがビニール袋をお開けになり、水色浴衣をお広げになります。
 それを小脇に抱え私の背後へ回られるキサラギさま。
 私のすぐ目の前には、お姉さまと女将さまが並ばれて、私の裸身をじっと見つめています。

 純和風な木と畳のお座敷で、粋な和装のお綺麗な女性お三かたに囲まれた全裸の私。
 またもや以前見たSM緊縛写真の一コマが脳裏によみがえります。

「それではお嬢さま、着付けをさせていただきますので、両腕をだらんと左右に下げてお立ちください」

 いきなり、お嬢さま、と呼ばれて面食らったのも束の間、おっしゃられた内容はお言葉責めそのもの、自ら手をどけて、目の前の方々に何もかもをお見せなさい、という私へのご命令。
 ヴィーナスの誕生を禁じられてしまいました。
 目前のおふたかた、とくに女将さまのほうがググっとお顔を突き出されるようにお身を乗り出されてこられます。

 今の私は、普通の全裸ではありません。
 ふたつの乳首と股間の割れスジを、否が応にも視線を惹きつけたいみたいに日焼けさせられた全裸。
 広めの乳輪と尖りきった乳首、無毛の恥丘と割れスジ、腫れ上がった肉芽に嫌でも目がいってしまう、それらの部分だけをピンポイントに青白く焼け残した日焼け跡。
 
 首周りの首輪状の日焼け跡も含めて、この全裸では、どんな言い訳も出来ないのです。
 私が視られたがりのマゾ女であるという事実に対して。
 
 それらを遂に、私のヘンタイ性癖をご存知ではない第三者さまにお披露目しなくてはなりません。
 それもこんなにお綺麗でエレガントな若女将さま、きり乃さまの至近距離ご面前で。

 まずゆっくりと左腕を、両乳房から外します。
 女将さまのお口が、あらまあ、の形に動かれ、痛いほどの視線が精一杯背伸びする両乳首に注がれます。

 それから今度は、マゾマンコを覆っていた右手をそっと外しました。
 覆っているあいだ中、下腹部でどんどん高まる熱気を手のひらに感じていました。
 指先が離れたとき、糸が幾筋か引いた気がします。

 私は、お言いつけ通り両腕を左右にだらんと垂らし、生まれたままの姿で女将さまの前に立っています。
 女将さまの視線は吸い寄せられるように私の股間へと移り、じっと視つめられた後、傍らのお姉さまに何やらコソコソ耳打ちされています。
 ハイジニーナ、という単語が聞こえた気がします。
 
 破顔一笑、ご愉快そうな笑顔のお姉さま。
 私は恥ずかしくってたまりません。

 なのにキサラギさまは、なかなか浴衣を羽織らせてはくださいません。
 絶対ワザとです。
 私の肩越しから女将さまをご覧になり、女将さまがご満足されるまで、私の裸を晒し者にされるおつもりなのでしょう。

 実際には10数秒くらいだったでしょうか。
 私が両腕を垂らしてから、私には永遠にも感じられる恥辱の時間が過ぎた後、唐突に両肩に布の感触がありました。

 それからは あれよあれよ。
 キサラギさまにご操縦されて、右を向いたり左を向いたり、両腕を上げたりグルっと回ったり。
 あっという間にお姉さまと同じくらい綺麗に、浴衣を着せられていました。

 お姉さまは、と見ると、女将さまと何やらくだけたご様子でご談笑中。
 おふたりがときどき私のほうをチラ見されるのは、たぶん私の性癖について、お姉さまが面白おかしくご説明されているのでしょう。

「お姉さまとお揃いに、帯は元禄結びにしておきました。もし解いたら、いつでも呼んでくださいましね。もちろん、お姉さまに頼まれてもかまいませんが」

 キサラギさまがお優しくおっしゃってくださり、スタスタと座卓のほうへ戻られ、間違ったほうの水色浴衣をお綺麗な正座姿でたたみ始めます。

「あら、終わったのね。いいじゃない。やっぱりSサイズで正解ね。丈もぴったり、可愛らしいこと」

 女将さまが嬉しそうなお顔で私に近づいてこられます。
 今度の浴衣の丈はくるぶしの上、脛も少し見えちゃうくらい短いので、少し子供っぽいかな、とも思うのですが。

「やだ、直子ったら、浴衣着ても乳首の位置、ちゃんと丸わかりじゃない。本当に元気のいいド淫乱乳首だこと」

 お姉さまに呆れられたお顔でご指摘され、自分の胸元に目を落とすと…
 確かに左右のその位置に、水色の布地を突き破らんばかりに、尖りきった乳首が自己主張していました。
 瞬く間に全身がカーッと羞恥色に染まります。

「まあまあ、色っぽくっていいじゃない?直子ちゃんも和服は素肌に着たいタイプなのよのね?わたくしもそうなの」

 女将さまが助け舟?を出してくださいます。
 さま、から、ちゃん付けに呼び方が変わったのは、打ち解けてくださった、と理解して良いのでしょうか。
 女将さまもキサラギさまも、到着した当初とはずいぶんご対応がくだけられた気がします。

「わたくしも和装のときは下着類は一切、身に着けないの。今だってそうよ。襦袢は着ているけれどね。そのほうが身が引き締まるの」
 
 女将さまがお胸を張るように、シナを作られたポーズを取られます。
 もちろん女将さまのニップルの位置はわかりません。

「そうそう直子ちゃん、早速差し上げたこけしも使ってくださったのね?どうだった?」

 女将さまの視線が座卓の上のローターのお隣のカッパさまを見遣り、ご興味津々なお顔で再び私に戻ります。

「あ、いえ、あの、えっと、あ、ありがとうございますっ」

 何てお答えしていいかわからず、しどろもどろな私。

「そう。あれよりも一回り太いのもあるのよ。お使いになられたい?」
「あ、いえ、あの、あれで結構です。あ、いえ、あれが、あれでちょうどいいです…」
「そう。お役に立てたようで、良かったわ」

 ひょっとしたら女将さまって、すごくえっちなかたなのかもしれません。

「とにかくこのたびは、余計なお手間をお取らせしてしまいまして、本当に申し訳ございませんでした。この後もどうぞ、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

 責任者のお顔に戻られた女将さまがキサラギさまともども深々とお辞儀され、お戻りのご準備。

「そう言えばおふたり、裏の野外露天風呂にはもうお入りになられました?」

 玄関口までおふたりをお見送りに出て、女将さまがこちらを振り返ってのお一言。
 お姉さまとふたり、フルフル首を左右に振ります。

「ぜひお入りになってくださいませ。手前味噌になりますが周りの景色が見事で広くて、本当に気持ち良いんですのよ。まだ4時過ぎですし、暗くなるまで間もありますし」
「まったりとお肌に絡みつくような泉質で、直子ちゃんのお気に召すこと間違いないの」
「他にお客様がいらっしゃなければビデオ撮影されても結構ですのよ。直子ちゃんのお綺麗過ぎるパイパンに、晩夏の緑がとても良く映えると思いますし、きっとあのこけしも悦びます」

 恥ずかし過ぎるご助言を残され、女将さまとキサラギさまがお部屋を出ていかれました。


2020年9月22日

肌色休暇一日目~幕開け 11

 スリッパに履き替え、キサラギさまのお背中に着いていきます。
 フロントと言うよりも、お帳場、と呼んだほうがしっくりくる、純和風な調度品で統一された板の間の広間。
 館内に低く流れているジャズピアノが微妙にミスマッチで却ってお洒落。
 その脇にある緩い傾斜で上へとつづく幅広な階段を、ゆっくりと上がられるキサラギさま。

 階段を上りきると、その先にも広めな廊下が奥へとつづいています。
 この旅館、正面からの見た目より、ずいぶん奥行きのある造りみたい。
 やがて十字に交差した廊下を左に折れ、少し歩いたところで立ち止まられました。

「こちらのお部屋でございます」

 お部屋の扉脇の柱に、如月、という木製プレートが掛かっています。
 外開きの扉を開けると小じんまりとした三和土。

「お部屋には裸足でお上がりください」

 スリッパを脱ぎ、玄関入ってすぐの障子を開くと…

「うわー、ひろーいっ」

 お姉さまと私、同時に声が上がりました。
 板の間と畳で分けられた純和風の広々としたお部屋。
 全体で20畳くらいあるのではないかしら。
 襖で隔てられてまた別の間もあるみたい。

「ここは角部屋になりますから、二面に窓があって採光も良く、存分に景色を楽しんでいただけると存じます」

 お綺麗な正座姿でお茶を淹れてくださりながら、キサラギさまがおっしゃいました。
 居間のほぼ中央に大きめな座卓、差し向かいに立派な座椅子が二脚。

「さ、お茶をどうぞ」

 キサラギさまに促され、お姉さまと私は座椅子へ。
 座卓の上には真っ白なお茶碗に淹れられた熱い緑茶と急須、そして丸くて薄茶色いお饅頭がふたつ。
 キサラギさまのご説明が始まりました。

「そちらの窓の向こう側がお部屋付きの露天風呂でございます。掛け流しですので24時間、いつでもご利用いただけます」
「お外は当旅荘の裏庭で、森を隔てて山並となっております。人目に付くご心配はまったくございません」
「シャンプーや石鹸を使われる場合は、恐れ入りますが内風呂か当館一階の大浴場をご利用ください」

「そこの扉の向こう側が洗面所、お手洗いと内風呂となっております。内風呂もお外に面したガラス張りですので、お外の景色を楽しみながらご入浴いただけます」
「お部屋を出て、先ほどお廊下を曲がったところをそのまま奥へとまっすぐしばらく進んでいただきますと、野外露天風呂となります」
「館内の大浴場は殿方とご婦人で分かれていますが、野外露天風呂は混浴となります。本日は殿方のご逗留は少ないですが、抵抗がおありであれば湯浴み着のご用意もありますので、お気軽にお使いください」

「大浴場、野外露天風呂ともに脱衣所に手ぬぐいとバスタオル、湯浴み着他を専用ロッカー内にご用意してありますので、手ぶらでお出かけされて結構です」
「各脱衣所にこのお部屋専用のロッカーがございます。この鍵が渡辺さまのロッカーとなりますので、恐れ入りますがこれだけは携帯してくださいませ。ご使用されたタオル類はロッカーへ戻さず、備え付けの籠にお捨て置きください」
「このお部屋専用ロッカーの番号は205、となります」

 腕時計のベルトのような、ビニール製らしき中に小さな鍵が収められた透明のリストバンドが座卓の上に置かれました。
 ほぼ同時に、コンコンと扉がノックされる音。
 キサラギさまが優雅にお立ちになり、玄関へと向かわれます。

 開け放された障子の向こうを注目していると、現われたのはキサラギさまとお揃いの作務衣を召した、キサラギさまより一回り以上お若そうな可愛らしい女性。
 大きな風呂敷包みをキサラギさまにお渡しになり少しのあいだ小声で会話され、淡い微笑みの会釈で去っていかれました。

 座卓前に戻られたキサラギさまが濃紺の風呂敷包みを開くと、中はなにやらカラフルな色合い。

「浴衣でございます。どうぞお好きなお色をお選びください」

 赤、青、黄、オレンジ、ピンク…
 ビニール袋に包まれた色とりどりの浴衣が座卓の上に並べられます。
 基本的に単色の生地に、白抜きの可愛らしいお花模様が散りばめられたデザイン。
 数えてみると8色ものバリエーション。

「あたし、これにする」

 お姉さまがその中でも一番渋い、紫色寄りの青い浴衣を手にされました。
 私も迷った末、お姉さまに倣って青色系の水色のものに。

「館内履きとしてお部屋玄関に草履もご用意しました。浴衣も草履もお発ちの際にはお持ち帰りになられて結構です」
「館内どこでも、どうぞ浴衣でお寛ぎください。お庭に出られる際は、下駄をご用意いたします。肌寒いようであれば、そちらの箪笥に半纏のご用意もございます」

 残った浴衣を風呂敷にお戻しになられながら、キサラギさまの立て板に水のご説明。
 それから細長い紙の箱が座卓の上に、あらためて置かれます。

「これは女将から、ご逗留の記念として、ぜひお納めください、とのことです」

「へー、ありがとうございます。何かしら?」

 お姉さまが気さくなご様子で箱をお手に取り、パカッとかぶせ蓋を開けました。

「あ、こけし」

 箱の中に横たわっていたのは、木彫りでツヤツヤとした、お土産屋さんでよく見る形の素朴な民芸品、こけし。
 制汗スプレー位の長さ、太さで、頭は球形、胴は円柱状で少しだけくびれがついています。
 頭の天辺近くにまあるく切れ込みの段差が入っていて、お顔にはお鼻なのか嘴なのか小さな突起。

「これは…カッパさん?」

 思い浮かんだ言葉が思わず口をついてしまいました。

「はい。この辺りは川沿いですし河童にまつわる言い伝えがいくつもありますから、昔から当地の一般的なお土産品となっております」

 キサラギさまがお優しい笑顔で私を見つめつつ、穏やかにおっしゃいます。

「女将さんにありがとうございます、とお伝えください。このお気遣いはとくに、うちの直子が悦ぶと思います」

 お姉さまがご愉快そうに笑いながらおっしゃいました。

「はい。それでお夕食なのですが、何時頃がご希望でしょうか?」

 風呂敷をしっかり結わい終えたキサラギさまが、お姉さまにお尋ねになります。

「そうね、7時くらいかしらね」

「かしこまりました。それでは6時半よりご用意を始めさせていただきます」
「お食事は、そちらの小上がりのお座敷にご用意いたします。しばらく配膳のものが出入りしますが、お客さまはご不在になられていてもかまいません」

 窓際の一段高くなった畳敷きのスペースを指さされたキサラギさま。
 窓の外には陽射しに照らされた鮮やかな緑が広がっています。

「お布団はご夕食のお片付けを終え次第、そちらの襖の向こうの寝室にご用意いたします。それと…」

 ずっと明朗だったキサラギさまが珍しく口ごもられました。

「これは女将からたってのお願いなのですが、蝋燭のご使用とお手洗い以外での排泄行為だけは、ご勘弁願いたい、とのことです…」

 キサラギさまが私を見透かすみたいにじっと見つめつつ、薄い笑顔でおっしゃいました。
 私はそのお言葉の意味を瞬時に理解してしまい、居ても立っても居られないほどの羞恥が全身を駆け巡ります。

「わかりました。御旅荘のみなさまに余計なご迷惑はお掛けしないことを、お約束いたします」

 お姉さまがキリッとしたお顔つきに戻られ深々とお辞儀をされたので、私もあわてて頭を下げます。
 キサラギさまも正座でお辞儀。

「女将から万事申し付けられておりますので、どうぞごゆっくりお寛ぎ、ご自由にお愉しみくださいませ」
「恐れ入ります。よろしくお願いいたします」

 お姉さまとキサラギさまがもう一度交互にお辞儀され、キサラギさまだけ優雅に立ち上がれました。

「何かありましたら遠慮なくそこの館内電話で呼びつけてくださいませ。それでは失礼いたします」

 キサラギさまがもう一度深々とお辞儀され、しずしずとご退室されました。

「キサラギさんて、絵に描いたようにきちんとした仲居さんだわね」

 お部屋にふたりきりになった途端、お姉さまと私は同時に立ち上がりました。
 お部屋内の至るところが物珍しくてたまりません。

 床の間の何て書いてあるのかわからない掛け軸、白い百合と胡蝶蘭の生花。
 襖を開け、障子を開け、箪笥を開け、冷蔵庫を開け。
 貰われてきたネコさんが自分の新しい縄張りを確認するみたいに、ふたりそれぞれお部屋の気になるところをチェックしました。

「あの女将さんもお茶目よね。あのこけし、絶対そういう意味じゃない?」
「直子も見た途端に、挿れたい、って思ったのじゃなくて?女将さんに敬意を表して、ここに滞在中はマゾマンコにはあれしか挿れちゃいけないことにしましょう」

 一通りお部屋内を見て回った後、ふたりはお部屋付きの露天風呂へと出られる引き戸の大きな窓ガラスの前で合流しました。
 ベランダ状に突き出たスペースに、檜造りらしい四角く大きな湯船と木製のベンチが置かれています。

 私の背後に立たれたお姉さまの両腕が私に覆い被さるように私のお腹の前に来て、スルスルっと前結びシャツのリボンが解かれます。

「あん、いやんっ」

「何が、いやん、よ。あたしと会ってからずーっと乳首に血液集めっ放しのクセに」
「早く裸になりたくて仕方ないんでしょ?」

 お姉さまの手でスルスルっとシャツを脱がされ、おっぱい丸出し。
 両手で胸を庇った隙に無防備となった下半身のデニムがずり降ろされました。
 お姉さまの手首の時計を見ると、まだ午後3時を少し回ったくらい。

「ああ、これも挿れていたんだっけ。すっかり忘れて使うの忘れてた」

 膣穴から少しだけ覗いた紐状アンテナが引っ張られ、充分に濡れそぼっている膣穴をローター本体がヌプヌプっと抜け出していきます。
 抜かれたローターからポタポタ滴る私の欲情のシルシ。

「床を汚しちゃうから舐め取りなさい」

 アンテナからぶら下げられたローターを鼻先に突きつけられ、舌を伸ばして咥え込み、ジュブジュブしゃぶります。
 アンテナが引っ張られ、私の口腔から抜け出るローター。

「あふぅん」

 肩まで伸びた髪をまとめてひとくくりに後頭部まで押し上げられ、手際よくゴムで括られます。
 お姉さまの両手が露わとなったうなじへと伸び、首輪も外されました。

「今の直子は、何もしなくても天然の首輪をさせられているようなものだものね」

 首周りの白い日焼け跡をスーッと撫ぜられました。

「ほら、一番風呂は直子に譲るわ。汗まみれのからだと愛液まみれのマゾマンコを洗い流してきなさい」

 露天風呂への引き戸がガラガラっと開けられ、裸のお尻をピシャっと叩かれ背中を押され框を跨いで露天風呂の簀の子の上へ、すかさず引き戸がピシャリと閉ざされ、カチャッとご丁寧に鍵までお掛けになるお姉さま。

「ああん、お姉さまぁ…」

 全裸でベランダに締め出されてしまいました。
 たちまち心細くなりガラス越しにお姉さまのお姿を追ってしまいます。
 お姉さまは、しばらくご自分のバッグをゴソゴソされた後、キサラギさまが洗面所へ繋がるとおっしゃっていた扉を開くと、中へと消えていかれました。

 仕方なく空を見上げると相変わらずの青空。
 全裸でも少し暑く感じるくらいの残暑。
 時折吹く風が心地よく全裸を撫ぜてきます。

 恐る恐るベランダの突端まで近づいてみます。
 私のおヘソ位置くらいの高さで、粗い格子状の木の柵が空間を囲っています。
 見えるのは辺り一面の、緑、緑、緑。
 階下を見下ろすと、この旅荘がお山の中腹くらいに建っているのがよくわかります。

 キサラギさまのお言葉通り、この露天風呂がまったく人目を寄せ付けない造りだとわかり、盛大な安堵感と少しの失望感。
 それと同時に凄い開放感に包まれました。

 掛け湯をして汗をざっと洗い流した後、ざぶんと湯船に浸かります。
 広い湯船で大きくからだを伸ばし、んーっと深呼吸。
 大自然の中で生まれたままの姿で、ちょうどいい温度のお湯に身を任せる快感。
 リラックスという状態の本当の意味を、生まれて初めて体感した気がします。

 湯船ギリギリまで満たされたお湯は、絶えず床へと溢れているのですが、湯船のお湯が一向に減らない不思議。
 温泉て本当に湧いて出ているんだな、って実感。
 お湯に肩まで浸かりすっかり寛いでいたら不意に、引き戸がガラガラっと開きました。

「あ、お姉さまっ!」

 湯船の中で息を呑む私。
 だって、お姉さまが裸で、こちらに向かって来るのですもの。
 胸の前に片腕で押さえた手拭いを前に垂らしただけの全裸のお姿で。

 私と同じようにお姉さまも、まずは周囲の状況をご確認されたかったのでしょう。
 ベランダを囲む木の柵まで歩まれてお外の景色を見渡されました。
 柵沿いを少し歩かれてご安心なさったのでしょう、前を覆っていた手拭いを外され、何もかも丸見えのお姿で湯船のほうへと戻ってこられます。

 こんな屋外の明るい陽射しの中で、お姉さまのオールヌードを拝見するのは初めてでした。
 お姉さまが湯船の縁にお立ちになり、私を見下ろしてきます。

 湯船からお姉さまを仰ぎ見る形となった私。
 照りつける陽射しにいっそう輝く白いお肌。
 やはり興奮されていらっしゃるのか、突起されたニップルが陽射しに影を作るほど。
 ショートヘアーが風にそよぎ、少し開いたスラッとしたおみ足のあいだから覗く亀裂。
 状況の新鮮さとも相俟って、そのお美しさは神々しいほど。

「外で裸になるっていうのも、開放感あって意外と気持ちいいものね」
「お湯加減はどう?窓から見ていたら直子、すっごく気持ち良さそうだった」

 お姉さまがしゃがみ込まれ、私の目の前に剥き出しのアソコ。
 思わず顔を近づけたくなってしまいます。
 お姉さまは桶でお湯を汲み、数回の掛け湯の後ザブンとお湯に入られました。

「あーーっ、気持ちいいっ!」

 両手両足を全開にして大の字でおからだを湯船に沈められるお姉さま。
 私は縁側に身を寄せて、お姉さまの一挙手一投足を見守ります。

「見上げると青い空って、すっごい開放感ね。シアワセーッ!」

 水中に沈んだ白い裸身、一箇所だけ翳りを作るお手入れされたヘアーが可憐な海藻みたいに揺れています。
 やがて満足されたのか、伸ばしきった手足をまとめられ、姿勢を変えられました。

「ほら、直子もこっちにいらっしゃい」

 湯船の真ん中あたりで膝立ちになられているのでしょう。
 形の良いバストを惜しげもなく陽射しに晒して、手招きされるお姉さま。

 飼い主に呼ばれたワンちゃんみたいに、バシャバシャお湯を掻き分けてお姉さまのお傍へ。
 すかさず顔を捕まえられ、唇が重なったと思ったら舌がねじ込まれ、熱いくちづけ。
 思わずお姉さまの細いウエストをギュッと抱き寄せてしまいます。

「ハア、ハア、これでお姉さまも野外露出デビューですね」

 蕩けるようなくちづけが離れ、なにか言わなくちゃ、と思い口をついたセリフがこれ。
 お姉さまは至近距離で私を見つめたまま、ニヤリと微笑まれます。

「何言ってるの?あたしはただ単に露天風呂を楽しんでいるだけよ?浴衣に着替える前に汗を流してサッパリしたいしね」
「誰かさんみたいに誰彼構わず裸を視てもらいたいようなヘンタイさんではありませんよーだ」
 
 からかうようにおっしゃったお姉さまの右手が私の下腹部に伸びてきます。
 無毛の割れ目を抉じ開けて侵入してきた二本の指。

「はうんっ!」
「呆れた。お湯の中だっていうのに直子のマゾマンコの中、相変わらずヌメっているじゃない?ひょっとしてあなたの愛液って油性なのじゃなくて?」

 軽口をたたかれるお姉さまのニクタラシイ笑顔。
 私も負けじとお姉さまのソコへ手を伸ばそうとすると、スイっとおからだが引かれました。

「あたしはいいの。まだそんな気にならないから。直子は電車以来イケてないから疼いちゃっているんでしょ?たっぷり可愛がってあげるからちょっと待ってなさい」

 いったん湯船から上がられ、引き戸のそばまで行かれると何かを拾い上げられ、再び戻っていらっしゃいました。

「ほら、せっかく女将さんがくださったのだから、早速使わせてもらいましょう。直子の温泉一発目オーガズムは、ご当地代表の河童こけしに犯されながら味わうの」

 お姉さまの右手に握られたカッパさんがお湯に潜り、お姉さまの左手が私の背中を引き寄せます。

「あたしにイタズラ出来ないように、両手は頭の後ろよ。直子はマゾなのだから」
「はうっ!」

 ラビアに何か当たったと思った途端、ズブリと何の抵抗もなくカッパさんの頭を飲み込んでしまう、私のふしだら過ぎる女性器。
 やがて水面がユラユラ波立ち始めたのは、水中でお姉さまの右手がストロークし始めたから。

「あ、あっ、あ、あんっ、あっ、あんっ、あんんっ…」

 カッパさまの頭が出し挿れされる同じタイミングで、はしたない淫声がほとばしってしまいます。

「そんな大きな声上げたら、他の宿泊客や仲居さんたちに聞こえちゃうわよ?直子のいやらしいヨガり声」
「んっ、んっ、んふっ、んふぅ、んふぅーんっ…」

 お姉さまに諌められ、必死で声をガマンします。
 カッパさまの頭のお皿の段差と嘴が、凄く効果的に膣壁を擦り上げてくださいます。
 お湯の中で人肌ぐらいに温まったカッパさまの木肌は今まで味わったことのない官能に誘ってくださいます。
 出し挿れされるたび膣内に、お湯も一緒に入ってきているからかもしれません。

「んふぅっ、んふぅっ、んふぅぅん、うふぅんっ、んふぅぅぅーっ…」

 湯船の水面がますます波立ち、お姉さまの右腕のピッチが上がりました。
 こけしの胴を握られたお姉さまの拳が、ラビアを打ち付けては引くをくりかえしています。
 そのたびに押し潰される私の腫れ上がりきった肉の芽。
 腟内がひっきりなしに痙攣しながら蠢いているのが自分でわかりました。

「あんっ、おっ、お姉さまっ、も、もうダメですっ、イッ、イッちゃいますぅ…」
「おねえさまぁ、イッてもよろしいでしょうかっ、イッてもよろしいでしょうかっ、イッてもよろしいでしょうかぁーっ…」

 バシャバシャ跳ねる水音。
 ざぶざぶ波立つ湯船の中で、マゾの服従ポーズでうねうね身悶えしながら懇願する私。

「そう。イキなさい。イッちゃいなさい。直子は河童に犯されて、自然の中であられもなくイッちゃいなさい」

 水面に見え隠れするお姉さまの美乳がプルプル揺れているのが見えました。
 襲いくる凄まじい快感に身を任せ、大きくのけぞると眼前いっぱいの青い空。
 
「んーーーーっ、あぁーーーーーっ!!!」

 その瞬間、頭の中でいくつもの星が弾け、やがて真っ白になりました。


2020年9月6日

肌色休暇一日目~幕開け 10

「でもまあ、そんなしょーもないハプニングがこの時間帯で良かったわよね?」
「えっ?」
「直子たちの会話、あたしが居た場所でも途切れがちにだったけれど、意外に風に乗って聞こえてきてたわよ。ま、風向きにも因るのでしょうけれど」
「とくにあいつが目に見えてイラつき始めた後、直子でもあんなふうに怒ること出来るんだ、って、感心しちゃった」

 確かに嫌悪感が高まってからは、おのずと声も大きくなってしまっていたと思います。
 
「これが駅に電車到着直後の観光客で混み合った時間帯だったら、直子たちの下ネタ満載な修羅場、もっと大勢のギャラリーに注目されていたでしょうね。お蕎麦屋さんに入る前は、けっこうあちこち人がいたじゃない」
「お店から出た頃は、次の到着列車まで時間の空いている空白期間。駅前広場に人が少ない時間帯に解決出来たのだから、直子にとってはラッキーだったのではなくて?」

「人がいっぱいいるときに、私はマゾだから、なんて宣言していたら、たまたまそばにいて聞きつけたしょーもないオトコどもがゾンビみたいにワラワラ寄ってきたりしていたかもね」

 お姉さまのからかい口調に促され、あらためて広い駅前広場を見渡してみます。
 確かにお蕎麦屋さんへ入る前に比べたらグンとまばらとなった人影。
 サッカーコートが余裕で二面以上取れそうな広い敷地内に、相合い日傘のカップルさんニ組、女性のお二人連れ二組、単独の男女が3名くらい、あちらこちらにそんなもの。
 
 目前に迫ってきた立派な屋根が設えられた足湯処にも、若いカップルさんと、お蕎麦屋さんで出会った外国人さまとはまた違う欧米系らしき恰幅の良いカップルさんしか足を浸していません。

「あのヘタレ男子、どうせカノジョもいなそうだから今晩のオカズは当然、直子でしょうね」
「全裸画像も脳裏に焼き付いているでしょうし、半裸の生身も間近で視たし、声も聞いたし匂いもかいだし」
「おまけにいいようにあしらわれちゃって、おっぱいには触れずプライドも折られたしで、可愛さ余って憎さ百倍。あいつの妄想の中の直子は、目も当てられないくらいひどい凌辱を受けながら犯されちゃうのでしょうね」

 あきらかに面白がっていらっしゃるお姉さまをジト目で見つめてしまいます。
 他人の妄想の中でだって男性に凌辱なんてされたくありませんが、自分が可哀想な目に遭うことになる、とだけ考えると、ジワッとマゾの血が騒ぎ出してしまいます。
 あぁんっ、やっぱり今日の被虐欲求は制御不能ぽい。

 気がつくと足湯処に着いていました。
 神社とかお寺さんを連想させる立派な木造屋根の下の吹き抜けの一画。
 四角く囲った屋根の下、中央に台座を置いて六角形に仕切られた幅4~50センチほどの溝に、温泉なのであろうお湯がヒタヒタと溜まっています。

「この暑さなのに足湯ってなんだかな、とは思うけれど、せっかくあるのだから話のネタにちょっと浸かってみましょう」

 お姉さまがフラットシューズをお脱ぎになり、サブリナパンツの裾を捲くり上げられるのを見て、私も従います。
 座席は木製の一枚板、お湯が流れる溝は大理石みたい。
 
 座ってしまうと日焼け跡のある背中が気になりますが、ちょうど靴箱を背にする位置に座らせてくださったのは、お姉さまのお優しさでしょうか。
 足を浸してすぐは、ちょっと熱いかな、と思いましたが慣れるとちょうどいい感じ。
 屋根下の風通しも良いようで、こんな暑さなのに意外にふわふわリラックス出来て気持ちいい。

 余裕が出来て周辺を見渡すと、座席の余白を充分置いてポツンポツンと二組、寄り添い合うカップルさん。
 どちらさまも私たちのことをじっと窺っていらっしゃいました。
 今更ながらに今している自分の服装の非常識さを思い出し、羞恥が全身を駆け巡ります。

 羞恥心が汗となり、額や首筋を濡らし始めます。
 でもそのせいだけではないみたい。
 足先から吸収された熱は着実に血行を促進し、体温調節に余念のない私のからだ中の毛穴。

 前を見ると、六角形の台座越しほぼ対面にいらっしゃる恰幅の良い外国人カップルさんも、おふたりともお顔からTシャツまで汗みずく。
 私のお隣のお姉さまだって御髪の生え際がジットリですし、私の薄いブラウスは白シャツごと素肌に満遍なく貼り付いてしまっている始末。
 おかげで透け度も格段に上がり、本人の意識としてはまさに裸同然。
 
 そろそろいったん出たほうが、とお姉さまにご提案しようと思ったとき、どこからともない人影が、音も無くスッと背中に寄り添ってきました。
 
「失礼ですが、渡辺さまでいらっしゃいますか?」

 鈴を転がすようなお声のほうを首だけ捻って見上げると、鮮やかなレモンイエロー色の和服を涼しげに着こなされたスラッとした女性がおひとり。

「あ、はい」

 お姉さまが足湯からおみ足を脱出させつつ、お応えになられました。

「お迎えに上がりました。湯乃花屋旅荘で女将を務めさせていただいております、きり乃、と申します」
「わざわざご丁寧にありがとうございます。渡辺です。本日はお世話になります」

 お姉さまが立ち上がられたので私もあわてて立ち上がります。
 立ち上がると、薄いブラウスは満遍なく汗まみれで、私の素肌に肌色露わにぴったりと貼り付いています。
 バスト周りも白シャツもろとも凹凸通りにぴったり貼り付き、私のおっぱいそのものな形を白日下に晒しています。

 思わず胸を庇ってしまいますが、女将さまはそんな私にもお優しい微笑み。
 真正面から拝見した女将さまは、背筋がピン、立ち姿がシュッとされた和風美人さま。
 おそらくお年はお姉さまよりもふたつ三つ、お年上でしょうか、その凛とした佇まいに品の良い色香が薫る艶っぽいご婦人。

「本日はお暑いですからよろしければこちらをお使いください。それにお邪魔でなければこちらも」

 和装によくマッチしたシックなバッグからタオルとよく冷えたスポーツドリンクを、お姉さまへ私へと、おっとり手渡してくださいます。

「ありがとうございます」

 お姉さまと私で少しタイミングはズレてしまいましたが、お礼とともにありがたく頂戴し、顔や手足の水滴を拭います。
 火照った全身に沁み渡る冷たいドリンクの美味しさといったら…
 そのあいだも女将さまは、はんなりとした笑みを浮かべつつ、私たちを眺めていらっしゃいました。

「それではご案内いたしますね、こちらへどうぞ」

 靴を履き終えた私たちが一段落したとご判断され、女将さまの白いお草履がしずしずと足湯処から離れ始めます。
 そんな女将さまのお背中を追う、お姉さまと私。
 少し歩いた車道に、お宿のお名前が大きく書かれたベージュ色のマイクロバスが駐車されていました。 
 こんなふうな可愛らしいマイクロバス、幼稚園の頃に乗った記憶があります。

 女将さまに促され運転席脇から乗り込みます。
 運転手さまはニコニコ愛想の良い、青い半纏を羽織られたご中年の丸顔な男性。
 
 バスの中央付近、通路を隔てて前向きの二人掛けが並ぶ座席の奥窓際に私、通路寄りにお姉さま、通路を隔てたお隣に女将さまの順で腰掛けました。
 他にお客様はどなたも乗られていません。

「ほら、そんなビショビショを羽織っていたら風邪引いちゃうわよ?エアコンも適温だしタオルもあるし、さっさと脱いで汗を拭いておきなさい」

 お姉さまが私の耳元で囁かれ、私は座ったままポシェットを外し、ブラウスからもぞもぞと腕を抜き、濡れそぼったブラウスをお姉さまへとお渡ししました。
 そんな私たちをたおやかな微笑みとともに、お見守りになる女将さま。
 ああん、また下着同然、と身を縮こませつつ素肌にタオルをあてがったとき、ブルンと一際大きくエンジンが唸りました。

「本日は遠路遥々ようこそいらっしゃいました。それでは発車いたします」

 運転手さまの渋めなお声と共にマイクロバスが走り始めます。

「えっ?お出迎えって、あたしたちだけのためだったんですか?」

 私も思っていた疑問をお姉さまがストレートに投げかけました。

「あ、いえ、結果的にはそうなのですが、お気になさらないでください」

 女将さまのご様子に少しの動揺を感じました。

「実はこの時間帯に外国からの団体のお客様もお迎えする予定でスケジューリングしていたのですが、なんでも昨日からお国のほうに台風が直撃してしまって飛行機が飛べなくなってしまったそうで…」
「それで急遽宿泊がキャンセルとなってしまったのですが、わたくしどもの宿は人里離れていますしタクシーでもワンメーター以上はかかってしまいます。それではわたくしどもも心苦しいので、喜んでお迎えに上がった次第です」

 女将さまが深々とお辞儀くださいます。

「でもご心配なさらないでください。代理店からちゃんと所定のキャンセル代金はいただけますし、団体さまの振り替え日時も決まりました。渡辺さまにはご予約いただいたお部屋よりも更にゆったり出来るお部屋に御案内させていただきますし、ご用意していた食材も、よりふんだんに使わさせていただきます」
「余裕が出来た分、より充実したおもてなしが出来ると存じます。もちろんご予約時にお約束した料金以上はいただきません」

 あくまでご丁寧な女将さまが、そこまでおっしゃって一息おつきになられました。

「それで、お手数をお掛けしてしまい恐縮なのですが、宿帳のご記入をお願いします。渡辺絵美さまに直子さま、でしたよね?」

 お姉さまに下敷きを敷いた用紙とボールペンが渡されました。
 窓の外を見ると山間の川縁登り坂を、マイクロバスは快調に進んでいます。

 ほどなくお姉さまがお書き終えたのでしょう、女将さまに用紙をお戻しなりました。
 チラッと覗くと、渡辺絵美、渡辺直子、と書いてあり、住所はふたりともオフィスが入っているビルの番地になっていました。
 もちろん何階何号室までは書かれておらず、違うのはそれぞれの生年月日とケータイ番号だけ。

「それにしてもさっきの足湯で、よくあたしたちが渡辺だっておわかりになられましたね?お約束の時間よりも10分くらい早かったのに」

 お姉さまが女将さまにボールペンをお返しになりながらお尋ねになります。

「あ、それは、先ほどのお電話で、何か目印になるようなお持ち物は?と宿の者がお聞きしたところ、赤い首輪、あ、いえ首飾りをされた女性とご一緒されている、とお答えになったとお聞きしていましたので」
「ブランド物のバッグなどをご指定されると、偶然同じ物を持たれた方が複数いらっしゃって当惑することも偶にあるのですけれど」
 
 首輪、のところで少し言い淀まれたものの、あくまでたおやかに微笑まれる女将さま。
 お姉さまってば、そんなお教え方をされていたんだ。
 
「不躾なのですが、おふたりのご関係は、ご姉妹、ですか?」

 宿帳?にお目を落とされた女将さまが思慮深気なご様子でおっしゃいました。

「あ、いえ、血は繋がっていません。この子はあたしにとっての嫁と言うか、恋人と言うか、そんな関係ということで…」

 照れたようにおっしゃるお姉さまに胸がキュンキュン!
 きゃー、嫁だって!恋人だって!

「あらー、最近話題のエルジービーティーでしたっけ?まあ素敵!」

 心做しか女将さまのテンションが上がられたご様子。

「そう言えば本日、わたくしどもをご利用いただくのはミサキさまからのご紹介でしたよね?やはりそういったご関係のお仕事をされているのですか?」

 女将さまのご表情が興味津々のお顔になられた気がします。

「あ、いえ、直接的にそういう仕事ではないのですが、衣装協力でおつきあいをさせていただいています」
「それで、ミサキさまからお伺いしたところ、御旅荘はそういった点についてはけっこうご寛大でいらっしゃるとお聞きしましたので…」

 お姉さまがイタズラっぽく私を振り向きました。

「直子、ちょっと立って、女将さんにあなたのお尻を見ていただきなさい」
「えっ!?」

 私と女将さまでぴったりユニゾン二重唱。

「あ、お尻って言っても、ここでこの子がパンツを脱ぐとかっていう意味ではありませんから」

 女将さまにお愛想笑いを向けられるお姉さま。

「ほら、早く立って、これから一晩お世話になるのだから、ちゃんとお見せしておきなさい」
「は、はい…」

 バスの窓際で立ち上がり、おずおずと通路側に背中を向けていきます。
 お姉さまを除けば今日初めて、自らすすんで日焼け跡のイタズラ書きをご披露することになります。
 なぜだか両手も後頭部へ。
 ドキドキとムラムラでヘンになりそう。

 お姉さまが背もたれにお背中を押し付けて空間を作り、女将さまによく見えるようご配慮されているご様子。
 私の恥ずかしい性癖を読まれている…下腹部だけにジンジン熱が集まってきています。

「こういう子なもので、出来れば御旅荘のお部屋や露天風呂などで個人的な趣味的に、プレイや撮影が出来たらな、とは考えているのですが…」
 
 横目でそっと窺うと、女将さまに向けて上目遣い、お姉さまにしてはお珍しくおもねるようなお顔。
 対する女将さまは、顎を少しだけお上げになり思慮深気なご思案顔。
 顎から喉元へのラインがキリッとした鋭角を描き出し、もの凄くお美しい。
 きっとイタズラ書きをご覧になった直後は、あらまあ、というお顔だったのでしょうけれど。

「かしこまりました。本日は、先ほどもご説明申し上げました通りお客様も少ないですし、他のお客様の御迷惑にならない程度にならば、ご自由におくつろぎになられてくださいませ。スタッフと仲居たちにもその旨、伝えておきますから」

 フッと目線を上げられた女将さまと、首だけ曲げて通路側を窺っていた私と、バッチリ目が合ってしまいました。
 私に向けて蕩けちゃうくらい妖艶に微笑まれる女将さま。

「ありがとうございます。直子?もう座っていいわよ。良かったじゃない?今日は宿をあげて直子につきあってくださるって。ほら、ちゃんときり乃さまに、マゾらしくお礼なさい」

 満面の笑みのお姉さま。
 艷やかに微笑まれる女将さま。

「わ、私みたいなヘンタイマゾにご配慮いただきまして、本当にありがとうございます」

 言ってしまってからカーッと熱くなります。
 今日の私のマゾテンション、相当舞い上がっちゃってる…

 気持ちを落ち着けようとバスの窓へ目を向けると、草木が青々と生い茂るなだらかな坂の底を、バスとは逆方向へと滔々と流れる川が見えます。
 その川沿いをバスは快調に飛ばしています。

 速度を緩めたバスが広めな川幅を渡る橋で曲がり、橋を渡り終えると傾斜の緩い坂を登る山道に入りました。
 生い茂る木々のトンネルをしばらく走り、やがて見えてきた大きく開けた場所。

「お疲れさまでございました、到着です。お足元にお気をつけてお降りくださいませ」

 足湯で出会ったときのはんなりした雰囲気にお戻りになられた女将さま。
 旅館の正面玄関前にバスが横向きで停まり、私たちが座っている座席のすぐ後ろのドアがスルスルっとスライドしました。

 お姉さま、私、女将様の順に石畳に降り立ちます。
 目前に人影が五、六人。
 
「ようこそいらっしゃいませ!」

 お揃いの鮮やかなオレンジ色の作務衣を召された女性が3名、運転手さんと同じ青い半纏を羽織られた和装の男性2名が、お宿の出入口であろう軒下にズラリと並び、深々としたお辞儀と共にお出迎えしてくださいました。

 お出迎えのみなさまの背後にそびえる建物は、山間の温泉旅館、と言われてパッと思い浮かぶイメージそのものを具現化したような、決してホテルという単語は浮かばない、まさに旅荘。
 カオナシさんが出てくる有名なアニメ映画の舞台となったお風呂屋さんを、上から押し潰して地味めに二階建てにしたような外観。
 玄関先に広がる、木々の一本一本までよくお手入れされた閑麗な庭園とも相俟って、和風レトロテイスト全開のひなびた雰囲気。

 お辞儀からお顔を起こされたかたたちのほとんどが一瞬、えっ!?というお顔になられたのは、私の姿に気づかれたからでしょう。
 赤い首輪と前結びシャツにローライズショートパンツ姿で素肌の殆どを晒している私の姿は、この純和風な郷愁さえ漂う空間の中、著しく場違いなのですから。

 ただ私は、こんなふうに和風レトロな雰囲気の中で、梁や柱に荒縄で、世にも恥ずかしい格好で縛られてお顔を歪ませている和服女性の緊縛写真を何種類も見たことがあり、それが憧れでもあったので、人知れずときめいたりもしていました。

「ご逗留中、渡辺さまの身の回りのお世話をさせていただきます、仲居のキサラギです」

 女将さまのご紹介で、列の真ん中に立たれていたオレンジ色作務衣の女性が、しずしずとこちらへと近づいてこられました。

「キサラギと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 お姉さまの前で丁寧にお辞儀をされ、お顔をお上げになったそのご婦人は、女将さまよりもお年上っぽい?
 御髪をオールバックでキリリと束ねたご愛嬌のある丸顔のお顔に、人懐っこい笑みが浮かんでいます。
 いくぶんふくよかなその体躯とも相俟って母性を感じさせると言うか、頼り甲斐ありそうですごくいい人っぽい。

 そんなキサラギさまは、お姉さまから私へと視線を移され、私の形丸わかりバストを嬉しそうにじっと見つめた後、再びお姉さまへと視線を戻されました。

「それではお荷物をこちらへ。お部屋へご案内いたします」

 お姉さまから手渡されたバーキンを大事そうに抱えられたキサラギさまを先頭に、お姉さま、私、女将さまの順にお宿入口の自動ドアをくぐり広い三和土に到着、その後を残りの従業員さまたちがしずしずとつづかれました。

 三和土で靴を脱ぐお姉さまと私の背中を、みなさまが見守られています。
 これで私のお尻上の自己紹介、マゾですの、は、お出迎えに出られたみなさま全員に読まれてしまったことでしょう。


肌色休暇一日目~幕開け 11