物音が聞こえたと同時にその場にしゃがみ込んだ。
ここが誰でも自由に出入り出来る場所だったということをあらためて思い知らされる。
個室なので中まで入ってこられる恐れはないのに裸を隠すように縮こまってしまう。
無遠慮な足音がコツコツと響き、個室のドアを閉じたのであろうバタンという音がする。
少なくとも隣の個室ではないようだが。
再び静けさが訪れる。
衣擦れの音も排尿の音も聞こえてこない。
ここからだいぶ離れた個室、たぶん出入口から一番近い個室に陣取ったのであろう、ホッと安堵の息をついた。
しゃがみ込んでいるので手の位置が性器に近い。
闖入者が退出するまで大人しくしていなければとわかっているのだが、考える前にすでに右手が性器に触れていた。
それくらい身体が物理的刺激に飢えていた。
下腹部全体がねっとりと熱い。
陰毛に隠れた割れ始めの包皮が皮を被ったまま、しこりのように腫れている。
その下の穴の方に中指を滑らせるとヌルッと難なく侵入した。
思わず、んふっ、と小さな淫声が洩れる。
ほんの入口に第一関節くらいを挿れただけなのに肉襞がヌメヌメ蠢き奥へと誘い込むようにキュンキュン締め付けてくる。
これ以上動かしては駄目、と自分に言い聞かせて真一文字に口をつぐむ。
右手の掌が腫れた包皮に当たっている。
私はクリトリスがかなり弱い。
その部分を極力刺激しないように性器を掌で包み込む。
凄く熱くなっている。
眉根に深いシワを刻ませたまま一分、二分とそのときを待つ。
やがてジャーッと水を流す音が聞こえ、しばしの沈黙のあとカタン、ギーッと扉が開く音が聞こえた。
コツコツという足音、ザーッと手を洗うらしい音が聞こえて再びしばし沈黙。
またコツコツと足音がしてカタン、バタンでやっとトイレから退出した物音。
その音が聞こえた瞬間、中指が私の膣を奥深くまでつらぬいていた。
掌も腫れた包皮に思い切り押し付ける。
あっという間に深く激しく達していた。
今まで味わったことのないオーガズムの波が何度も何度も打ち寄せてくる。
全身がプルプル震え、いつの間にか薬指も加わった二本の指がヒクヒク痙攣している膣壁をこれでもかと甚振っていた。
つぐんでいるはずの口なのに、んぐぅぅっ、という嗚咽が喉奥からほとばしる。
やがて最大級のオーガズムで頭の中に火花が弾け飛ぶ。
やっと本望を遂げた私はこの場から闖入者が去った安堵感もありハァハァと荒い呼吸音を発していた。
下半身を中心に今だにヒクヒクとあちこちで痙攣する全身の余韻を愉しんでいる。
これほどまでの絶頂快感は予想していなかった。
自分の吐息以外は再び静まり返った個室内で私は思いあぐねていた。
続行してもう一度天国を味わうか、ここで一区切りして四限目に向けて撤収するか。
けっこう長くこの場にいるのでそろそろ三限目終了チャイムが鳴りそうだとも思うが、スマホはバッグにしまったので時計を確かめることは出来ない。
私の中の良識はそんなふうに比較的冷静に状況を考えているのだが、身体は勝手に動いていた。
いつの間にか自分の部屋でいつもしている格好、すなわちお尻を突き上げた四つん這いになって行為を続行しようとしていた。
四つん這いと言ってもトイレの中なのでいくばくかの制御が効いていた。
両膝は広げて床に突き、顔面は便座蓋上の脱衣した着衣の上。
お腹側から股間に伸ばした右腕の中指と薬指がグチョグチョと膣中を捏ね繰り回していた。
一度達して敏感になっている性器はすぐに過剰反応。
キュンキュン疼く膣中、グングン昂る性感、クチュクチュ響く膣音。
さっきよりも強烈に寄せては返すオーガズム波に頭の中は真空状態。
意識まで飛んでしまうかもと思った瞬間、唐突にチャイムの音が響く。
ビクンとした拍子に膣壁がギュッと指を締め付けた。
便座の衣服に頬を埋めてハアハア言っていると講義が終わって廊下に出た学生たちで騒がしくなってきた。
トイレの出入口ドアも各個室のドアもひっきりなしにどこかしら開け閉めされている。
そんな中まだ私は起き上がれずにいた。
便座蓋に突っ伏して個室のドアに両膝を割ったお尻を向けたまま。
もしも今、切羽詰まった学生が満室な状態に血迷ってこの個室のドアに手を掛け、何かの間違いで鍵が外れて個室のドアが開いてしまったら…
その人物は白濁液にまみれた陰唇がだらしなくパックリ開いた膣口と、その上の肛門までを真正面からドアップで視ることになるだろう。
そう考えたらその目撃者として自然と彼女の顔が浮かんだ。
もっと滅茶苦茶になってみたいと思った。
休み時間中は我慢した。
指は挿入せず、口をつぐんで足の付け根から陰唇付近をさするだけで我慢した。
長い10分間。
膣内に潜りたがる指をなんとかなだめ悶々とそのときを待つ。
トイレ内の喧騒が徐々に落ち着き、やがて休み時間終了のチャイムが鳴る。
耳を澄ましても聞こえるのは、しーん、という自分の耳の神経細胞が活動する音のみ。
今日も四限目は自主休講となってしまうが、これで心置きなく行為が続行できると思う反面、ひとつの懸念が急浮上した。
本当に今、このトイレには誰もいないのか…
万が一、四限目に講義のない学生がまだ個室に籠っていたり、いないとは思うが自分や彼女のような人物が不埒な目的で個室に入っていても今の私にはわからない。
誰かが残っていた場合、大きな物音や声を発することは当然ながら憚れる。
懸念は不安へと変化し、どうしても確かめたくなっていた。
確かめるのは簡単、個室が空いているときは内開きドアが開いている筈なので、そっと覗いて確認するだけだ。
もし個室がひとつでも閉じていたら、そのときは慎重に行動して退出の物音を待てばいい。
方針が決まり立ち上がることにした。
顔を埋めていたジーンズがよだれで少し湿っていた。
裸足で個室ドアの前に立つ。
極力音を立てないようにドア鍵のスライドバーを外す。
そのままそーっとドアを内側に引いて隙間から顔だけ覗かせ、トイレ出入り口の方へと素早く視線を走らせる。
四つの個室はどれも内側に開いている。
よしっ。
安堵と一緒に顔を引っ込め、今度は音を気にせずドアを閉めて再び鍵を掛ける。
四限目も諦めたことだし、ここでもう少し愉しんでいくことに決める。
今度はどんな妄想にしようかと考えていたら、ある好奇心が湧き上がってきた。
トイレ内に誰もいないということは今なら個室の外に出ても大丈夫ということ。
個室内でこんなにドキドキするのだから、その個室からもっと広い空間に出たら、どんな気分になるのだろう。
ただし、個室なら鍵を掛けられるがトイレ全体の出入口はオールオッケーの誰でもウェルカム状態。
でもそれも、廊下の足音に注意深く耳を澄ませていれば大丈夫な気もする。
危険を察知したら素早く個室に逃げ込めばいいのだから。
少しの間、不安という理性と好奇心が逡巡していたが結局、猫をも殺す好奇心が天秤を傾かせた。
再び個室ドアのスライドバーに手を掛ける。
私は露出狂ではない。
誰かに自分の裸を見せたいという願望はさらさら無いし、逆に人前では極力ひっそり同化して目立ちたくないタイプだ。
それなら何故、個室の外に出るというような大胆な行動に惹かれてしまうのか。
おそらく、視られてしまうかもしれない、というスリルが今まで味わったことの無い興奮を呼ぶからだ。
自分の浅ましい姿を発見されてしまうかもしれないというリスク。
もちろん絶対目撃されたくはないのだが、行動しなければスリルは味わえない。
踏ん切りをつけるために、もう一度想像上の彼女にご登場いただいて命令を待つことにする。
…ほら、さっさと表に出なさい。誰もいないんだから…
思い切って個室ドアを開き、裸足で恐る恐る個室の外へ出る。
この期に及んで今更だが、胸と股間は庇ってしまう。
しんと静まり返った空間。
…またおっぱいとオマンコを隠しているの?おまえの腕はそこでは無いでしょう?同じことを何度も言わせないでちょうだい…
想像上の彼女に叱責された私は渋々両腕を下ろし、トイレ空間の真ん中あたりで後ろ手を組む。
見慣れた学校の女子トイレの通路で素っ裸になっている自分。
一時落ち着きを見せていた性感が前にも増してグングンと上がってきている。
命令されて嫌々トイレ通路で全裸を晒している自分、の屈辱気分に浸りつつ、何気に出入口の方を向くと出入口ドア脇に並んだ洗面台の鏡に私の臍から上くらいの裸が映っていた。
客観的に見せられる、ありえない場所で晒している自分の裸。
自慰行為でオーガズムに達したばかりの締りのない顔で上気した裸体を晒している女。
自分が今、いかに破廉恥な行為をしているのかを問答無用で突き付けられた。
もはや躊躇いは無かった。
一刻も早くこの場で性器を弄り倒し、すべてを忘れて性的快楽を貪りたくなっていた。
後ろ手に組んだ両腕を解いて前に回し、鏡に向かって立ち尽くしたまま右手を性器に近づけていく。
そのとき、トイレ外のどこかからカツカツと足音のような物音が微かに聞こえたような気がした。
空耳かとも思ったが、その足音はトイレから見て左側に位置する階段の方から実態を持ったテンポで徐々に音量を上げ、どんどん近づいてくる気配。
今は四限の講義中でずいぶん時間が経っているし足音も落ち着いていることから遅刻の学生とかではなさそうだ。
だとすると間違いなくこのトイレが目的地であろう。
案の定、そのハイヒールらしき靴音は高らかに響きながらこの場に近づいてくる。
もしかすると非番の教授か講師なのかもしれない。
慌てて個室に逃げ込んだ。
個室ドアを乱暴に閉めてカタンと鍵を掛けた三秒後、バタンとトイレ出入口ドアが開く音が聞こえた。
プルプル震える身体とハアハア押し殺した吐息。
個室の外で全裸を晒したという背徳感と期せずして鏡によって視せられた自分の裸体のいやらしさ。
ヒールの足音でなかったらみつかってしまっていただろうという危機一髪のスリルに、一切身体を触ってもいないのにビクンと小さく達していた。
左太股にツツツーと白濁した愛液が滑り、頭の中で想像上の彼女が蔑みきった瞳でニヤニヤ笑っていた。