2024年3月30日

彼女がくれた片想い 09

 両手を背中に回しブラジャーのホックに触れる。
 今日の下着はブラは黒レースのハーフカップ、ショーツもブラと同じ黒レースのビキニタイプ。
 誰に見せるあてもないけれど下着にはけっこう凝るほうだ。

 ホックを外しバスト周りが緩んだ時、再び軽い電流が背筋を走った。
 ストラップを両肩から抜き、ブラジャーも小さくたたんで便座蓋の上に。
 剥き出しになった乳首が外の空気に直に触れるだけでゾクゾクッと感じてしまう。
 その乳首は左右とも今まで覚えもないほど硬く大きく尖立していた。

 トイレの個室内で乳房丸出し。
 言いようのない疚しさ、後ろめたさ。
 視ている者など誰もいないのに思わず両腕でバストを庇ってしまう恥ずかしさ。

 でもここでは終われない。
 ここまで来たら最後まで体験しないと、毒を喰らわば皿まで、の心境だ。
 胸を庇っていた両手を外し、ショーツのゴムに指を掛ける。

 目を瞑って一気に膝までずり下ろした。
 覆うものを失った下腹部が外気に晒される感覚に恐る恐る目を開けてみる。

 最初に視界に飛び込んで来たのは自分の手入れをしていない濃いめの陰毛。
 そして両膝辺りにだらしなく引っかかっている黒い布片。
 こんなところで肌を晒して陰毛を見せている自分がとんでもなく猥雑な存在に思えてきて、その恥辱感に三度めの電流が背筋をヒリヒリと震わせた。

 しばし呆然と佇んでから、ゆっくりと足首まで下ろしたショーツを引き抜いた。
 ショーツのクロッチ部分は当然のようにジットリ濡れていた。
 自慰行為のたびに自分は愛液の分泌が少ないのかも、と悩んでいた耳年増の自分にとっては珍しいことだった。
 これで一糸纏わぬ全裸、大学のトイレの個室の中で。

 気がつくと乳房と陰毛を隠そうとしている自分に苦笑いしてしまう。
 全身がカッカと火照っているのに鳥肌のような悪寒が泡立ち、性器の奥がジンジン痺れている。
 今まで生きてきたうちで最大の性的興奮状態だと思う。

 身体中が更なる刺激を欲しており、このまま自慰行為に移ることにあがらう術はなかった。
 おそらくちょっと性器を弄るだけで全身が蕩けるほどの濃厚なオーガズムに達してしまうことだろう。
 大きな喘ぎ声だけは発さないようにしなければと自分に言い聞かす。

 行為に取り掛かる前にもう一度大きく深呼吸。
 そのとき思いついた。
 記念写真を撮っておこうと。

 もっと自分を惨めに辱めてみたいという欲求があったのかもしれない。
 生まれて初めての浅まし過ぎる変態行為を、そんなことをやってしまう、やってしまいつつある自分への戒めとして記録に残しておきたいと思った。
 もちろんその画像は誰にも見せることなく帰宅したらスマホには残さず家のPCにすべて移しパスワードもかけて厳重に管理するつもりだ。

 バッグからスマホを取り出しインカメラにして右腕を伸ばす。
 ズームアウトが出来ないので立ったままだとバストアップしか映らない。

 少し考えて相撲の蹲踞の姿勢のようにしゃがみ込み、腕を思い切り伸ばすと顔から足までがかろうじて画面に収まる。
 でも下半身まで裸だということがよくわからない。

 試しに踵がお尻につくほど両膝を大きく開いて姿勢をより低くし、なおかつ上半身を縮こまるように丸めたら頭の天辺から爪先まで綺麗に縦長の画面に収まった。
 ただし、綺麗にというのはあくまで構図上の意味で、絵面的には頭を上から見えない力で押さえつけられた全裸の女が大股開きを強要されているといった趣だが。

 自分のヌード写真を自画撮りするのももちろん生まれて初めての経験だ。
 画面には上気しきっただらしない困惑顔で左右の乳房をそれぞれの腿に押し付けるような大股開きで身体を丸めた、見るからに助平そうな下卑た女が映っている。
 恥ずかしげもなく左右に広げた両膝の中心に黒々とした陰毛の茂み、その茂みの隙間にピンクの肉弁が濡れそぼって芽吹いているのまでが見えている。

 最初の一枚を撮った時、カシャッというシャッター音が異様に大きく響いたように感じた。
 大丈夫、今このトイレ内には私以外誰もいないと自分に言い聞かせる。

 カシャッ、カシャッとたてつづけにシャッターを押していると今度は他の誰かに撮影されているような気持ちになってきた。
 いやっ、視ないで、撮らないでっ、と心の中で懇願しつつ、尖った乳首を誇示したり性器を押し広げてみせたり、より扇情的なポーズを取っていた。
 シャッター音が私の心に第三者の存在を想像させている。

 異様な興奮の中で何枚も写真を撮ってからスマホの時計表示を見ると三限目が終わるまでまだ30分くらいあった。
 これなら自慰行為も心いくまで愉しめそうだ。
 スマホにロックを掛けてからバッグにしまう。
 そして、このあいだこの個室で何故、彼女が独り言を口走りながら独り芝居をしていたのかの理由がわかったような気がした。

 言い訳が欲しいのだろう。
 自分の意志で自分の快楽の為に、あえて他人の動向が気になるような場所で変態的な行為を行なっている自分をごまかす為に。
 誰かに強要され嫌々やらされているというエクスキューズを求めて、想像上のご主人様的命令者に従うのだ。
 こんな場所でひとり裸になって自慰行為に耽るのは紛れもなくアブノーマルな行為なのだが、自分がそれほどの非常識な変態性癖者だとは認めたくない葛藤の表れなのかもしれない。

 そういう流れで私も妄想の脅迫者にご登場願うことにした。

 …まあ、なんてはしたない恰好だこと。こんな所で下着まで脱いで丸裸になっているなんて…

 お嬢様風味な口調なのは、さっきまで読んでいた小説に引っ張られたのであろう。
 脅迫者の顔として真っ先に浮かんだのはもちろん彼女である。

 …あなたが悪いのよ。こんな所でこんな破廉恥なことしているのに、ちゃんと鍵を掛けていないのだもの…

 どうやら私は今、この現場を彼女に似た誰かに踏み込まれたようだ。
 便座の前に立ち竦んだ私は右腕でバストを、左手で股間を隠し、想像上の彼女と対峙している。

 …証拠写真も撮ったし、もうあなたはわたくしに逆らえないわね。通っている学校のトイレで真っ裸になっている写真なんてバラ撒かれたくないでしょう?…

 想像上の彼女が愉しげにほくそ笑む。
 羞恥と屈辱を感じながら想像上の彼女を私は睨みつける。

 …誰が隠していいって言ったのかしら?おまえはそのいやらしい身体を隅々まで誰かに見せたくて、こんな所で裸になったのでしょう?両手は後ろに回しなさい…

 あなたからおまえ呼びとなり主従関係が決定した。
 口調にも高圧的なニュアンスが交じり始めたので、あまりお育ちの良ろしいお嬢様ではないようだ。

 庇っていた両手を外して背中に回し、後ろ手を組む。
 乳房も陰毛も剥き出しの全裸。
 両乳首は痛いほど尖り、性器も子宮の奥から疼いている。

 このときふと、自分の性器を覆っているモジャモジャとした陰毛がとても邪魔なもののように感じた。
 少なくともこんな状況に陥ったこの手の女にこんな陰毛はそぐわない気がする。

 ツルツルにしたら、どんな気分になるのだろう…
 いっそのこと私も彼女のように剃り落としてしまおうか…

 …それでおまえは、こんな所で裸になって何がしたかったのかしら?正直に答えなさい…

 想像上の彼女が蔑みきった目で覗き込むように私を見てくる。

「…自慰…自慰行為…」

 実際にその場でつぶやくように声に出していた。
 自分で始めた妄想上の焦らしプレイなのだが、もう我慢しきれなくなっていた。
 今すぐ乳房や性器を滅茶苦茶に弄りたくなっている。

 …自慰?ああ、オナニーのことね。こんな所で真っ裸で発情しているおまえにピッタリな情けない醜態ね。いいわ。ヤりなさい。わたくしがちゃんとおまえのいやらしい姿を視といてあげる。おまえが浅ましくイキ果てる恥ずかしい姿をじっくりと視せてもらいましょうか…

 嘲笑と共に許しを貰いいよいよという時、トイレの出入口ドアが無遠慮に開けられたような物音がした。


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