2013年10月20日

コートを脱いで昼食を 16

 ソファー、テーブル、ソファーと川の字にレイアウトされた豪華な応接セット。
 みなさまがよーくご覧になれるようにとシーナさまに手を引かれ、ソファーが無い側のテーブルの後ろに立たされました。
 さっきまで私とシーナさまが座っていたソファーには、研修のお3人がお座りになり、5人全員が座ったまま少しからだを斜めにひねって、私に注目しています。
 小野寺さんは、入口近くの椅子に座ったままでしたが、視線はしっかりこちらに向けられていました。

「ほら、さっさと脱ぎなさいっ!」
 私の傍らにお立ちになったシーナさまが、どこから取り出したのか、アンテナ式のポインターペンを伸ばして、私のジャケットをつっついてきます。
「もう少しテーブルから離れなさい。みなさんから下半身が見えにくいでしょう?」
 シーナさまのご指示通りにしながら、私は観念しました。
 こんな状況になったら、もはやシーナさまに逆らえるはずがありません。
 それに私は、こんな状況をいつも妄想していたはず。
 シーナさまは、私の妄想を実現させてくれようとしているのです。
 だけど現実になると、やっぱりすごく、例えようもないほど恥ずかしいです。

 ジャケットのボタンをはずし、両腕を袖から抜きました。
 いつの間にか私の傍らに来ていた小野寺さんが、私が脱いだジャケットを受け取ってくださいました。
「あ、ありがとうございます・・・」
 小さな声でお礼を言うと、小野寺さんはニコッと笑い、ジャケットを持ったまま私の至近距離に立ち、そのまま待機されました。

 ちょっと迷ってから、先にスカートを脱ぐことにしました。
 ホックをはずして足元に落とし、スリッパを脱いで拾い上げました。
 小野寺さんが手を差し伸べてきたのでお渡しします。

 次はブラウス。
 このブラウスを脱ぐと、上半身はブラジャーだけになってしまいます。
 でも、それよりも心配なのは下半身でした。
 一枚づつ脱いでいるあいだずっとドキドキ心臓が高鳴り、それはもちろん性的興奮なので私の淫乱なアソコはヒクヒクとのたうち、恥ずかしいおツユをとめどなくジワジワ分泌していました。
 それは、淡いピンク色のショーツの薄いシルク地など、いともたやすく浸透して広範囲を色濃く変色させ、パンティストッキングの表面にまで滲み出ているはずでした。
 今はブラウスの裾でかろうじて隠れていますが、ブラウスを取れば、誰の目にもあからさまにわかってしまうくらいに。
 リボンをほどき、ボタンをはずしていきます。
 ブラウスを左右にそっと開くと案の定、股間がお漏らしでもしちゃったみたいに盛大に変色していました。

 私は、お洋服を脱ぐあいだ中ずっとうつむいていました。
 アンジェラさんたち6人のほうを、どうしても見ることが出来ませんでした。
 どんなお顔をされて、どんなお気持ちで、私の、この突然のストリップショーをご覧になっているのだろう?
 ちょっぴり知りたくもありましたが、それの100倍以上の恥ずかしさで、どうしても顔が上げられませんでした。
 みなさまも、誰も一言も発さず、まるでこのお部屋には誰もいないかのようにシンと静まり返っていました。
 ただ、痛いほどの視線が素肌に突き刺さってくるのだけを感じていました。

 ブラウスを開いたとき、この後、とめどなく襲われることになる、今すぐこの場を逃げ出したいほどの恥ずかしさの、最初のピークが訪れました。
 こんな恥ずかしいシミで汚れたソコは、絶対視られたくない。
 もういてもたってもいられず、クルッとみなさまに背中を向け、手早くブラウスを脱ぎました。
 すかさず小野寺さんの手がブラウスに伸び、レストランのウェイターさんのトーションのように左腕に掛けていた今までのお洋服とひとまとめにして両手で持ち、入口のほうへスタスタ歩いて行かれるのが、視界の端に映りました。
 
 シーナさまに叱られるかな?とも思ったのですが、何もおっしゃらないので、背中を向けたままの姿勢で一気にパンティストッキングもずり下げました。
 穿き慣れていないので、足首から抜くのに少し手間取り、からだが大きく揺れて、おっぱいがプルンと跳ねます。
 足首から抜いて丸まったパンティストッキングの一部分は、少し粘りのある液体でジットリ濡れていました。

 これでもう、あとはブラジャーとショーツだけになってしまいました。
 首にマゾの首輪も着けていますが、たぶんこれは、はずさないほうが良いのでしょう。
 シーナさまがまだ何もおっしゃってこないので今のうちと思い、みなさまに背中を向けたまま、両手を背中へまわしてブラのホックをはずし始めました。
 気が焦って手元が震え、なかなかはずれないホックにジリジリしながら、頭の中で考えていました。

 これはすべて、シーナさまの計算ずく。
 私におめかしさせたのも、みなさまの前で時間を掛けてお洋服を脱がさせることで、私の羞恥心を最大限に煽るための手段だったのでしょう。
 どうせ人前で裸になるのであれば、始めからノーパンノーブラのワンピース姿か何かで、一枚脱いで即全裸、みたいなほうが、気持ち的にラクだったような気がしていました。
 
 ノーパンノーブラで人前に現われること自体が、すでにかなり恥ずかしいことではあるのですが、そんな格好をする人はつまり、そういう人として見られますから、裸になったときのインパクトもそれなりのものになるでしょう。
 一方、お洒落してきちんとした格好をしていれば、一般的にごく普通の人として見られます。
 そんな人が、シーナさまのご命令ひとつで、お洋服を脱ぐ過程を第三者にじっと視られながら、裸になる。
 視ていらっしゃるかたも、この人はいったいどんな人なのだろう?って興味シンシンになられるだろうし、脱ぐほうも、出来ることなら隠しておきたい自分のヘンタイ性癖を、自らの手で、時間を掛けてあからさまにすることになるので、その恥辱感は相当キツイものになります。
 そこまでお考えになっての、シーナさまのご指示。
 シーナさまって、やっぱりスゴイな、って、そんな場合ではないのですが、感心してしまいました。

 ブラジャーをはずして足元に置き、覚悟を決めてショーツに手をかけたとき、シーナさまのポインターペンがヒュンと一閃、前屈みでショーツを脱ぎかけていた私の裸のお尻をペチッと叩きました。
「ぁんっ!」
「ちょっと何?みなさんにお尻なんか突き出して?失礼な子ね。みなさんのほうへ向きなさい!」
「あっ、は、はい!」
 膝の上までずり下げていたショーツを素早く足首まで下ろしました。
 中途半端に生え揃った翳りの下から垂れ下がる透明なか細い糸が、何本か足首のほうへとツーっと伸びては切れました。

「それと、悪いのだけれど小野寺さん?バスタオルか何か、一枚貸していただけるかしら?」
 再び私の傍らに戻っていた小野寺さんが、またスタスタと入口のほうへ行かれたようでした。
 私は背中を向けたままその場にしゃがみ、ショーツの濡れている部分が表に出ないように丸めてから、隠すように足元のブラジャーのカップに押し込みました。

「ほら、小野寺さんからタオル受け取って、自分の足元に敷いて、さっさとみなさんのほうに向きなさい!」
「直子、お股からえっち汁、ダラダラじゃない?綺麗なペルシャ絨毯が台無しになっちゃうわよ?この絨毯、お高いのよ?ほら、早くしなさいっ!」
 誰かがクスッと笑い声を洩らしたのが聞こえました。
 ポインターペンでお尻をペチペチされ、私は足元にバスタオルを敷き、右手は股間に、左腕でバスト全体を隠しながら、ゆっくり回れ右をしました。

 私がみなさまのほうを向いたと同時に、小野寺さんがその場にひざまずき、私が脱いだブラジャーとショーツとパンティストッキングを拾い上げました。
「あっ、それは・・・」
 小野寺さんは立ち上がってニッと笑い、丸まったパンティストッキングとショーツをもう一度広げ、丁寧に折りたたんでからブラジャーと一緒に入口のほうへ持って行ってしまいました。
 小野寺さんの指が私のおツユで汚れちゃった・・・
 言いようのない恥ずかしさが、全身を駆け巡りました。

「ねえ直子?あなたのさっきからのその態度は何?」
 シーナさまが怒ったみたいなお顔になり、私の顔を覗き込みます。
「今日はね、アンジーたちがあなたのからだをいっそうキレイにケアするためにわざわざ集まってくださったのよ?」
「それなのに、背中を向けるは、お尻を突き出すは。今だって、うつむいちゃって、隠しちゃっててどうするのよ?」
「直子が裸になったら、するべき姿勢があるでしょう?わたし、さんざん教えたはずよ?」
「ほら、まず顔を上げなさい!」
 同時にお尻をペチッとされて、私はうつむいていた顔を恐々上げました。

 アンジェラさんと蘭子さんは、困ったような曖昧な笑顔をされています。
 研修のお3人は、肩を寄せ合って興味シンシンのワクワク顔。
 小野寺さんは唇の両端だけを少し上げたクールな微笑。
 みなさんじっと私のからだを見つめていました。
 おのおののかたと視線が合うたびに、からだの奥がキュンキュン疼いてしまいます。
「顔を上げて、前を向いて、それから?」
 シーナさまが間髪を入れずにたたみかけてきました。
「直子のからだを隅々までじっくり視ていただくのに、ピッタリなポーズがあるでしょう?」

 シーナさまがおっしゃっているのは、マゾの服従ポーズ、のことだとわかっていました。
 ここまで来たらもう仕方ありません。
 私は、まず両脚を、休め、の姿勢くらいに開き、一呼吸置いてから意を決して、両手をゆっくり胸と股間からはずし、頭の後ろで組みました。
 私の動きに合わせて、アンジェラさんたちが少し身を乗り出し、隠されていた部分が露になるに連れて、視線がアチコチに散らばるのがわかりました。

 ああんっ!
 なんていう恥ずかしさ。
 なんていうみじめさ。
 みなさまがきちんとお洋服を着ている中で、ひとりだけ裸んぼの私。
 それもこんな豪華なお部屋の中で、全員がファッショナブルに着飾っている中で、私だけが首にマゾな証のチョーカーひとつだけの素っ裸。
 両腕を頭の後ろで組み、腋からおっぱい、アソコまで隠すことを禁じられた恥ずかしすぎるポーズで、シーナさまを含めて7人からの容赦ない好奇の視線を素肌に浴びせかけられている私。
 このセレブな空間の中で、一番身分が低いのは誰なのか、ということを嫌と言うほど思い知らされる、残酷なシチュエーションでした。

 妄想の中でなら今まで何度も思い描いたことがありましたが、現実でこんな目に遭うのは初めてでした。
 今日出会ったばかりの、昨日までは見知らぬ同士だった人たちに全裸を視られている私。
 この場にいるかたたち7人が全員お美しく、服装にも居住まいにも優雅な雰囲気を醸し出されているので、なおさら今の自分の立場が屈辱的でした。
 みなさまの慰み者・・・
 そんな言葉が頭に浮かび、狂おしい被虐感で今にも膝が崩れ落ちそう。
 今の私ほど、メス犬マゾペットの首輪が似合う女は、この世にいないでしょう。

「あら、ずいぶんと薄いのね・・・」
 私の股間をじっと見つめていたアンジェラさんが、ポツンとつぶやきました。
「そのくらいなら、たいした手間もかからなそうだし、研修にはうってつけね」
 張りつめていた緊張を和らげるみたいに、アンジェラさんがおやさしいお声でおっしゃり、ほっこり笑いかけてくださいました。
「それにミス・ナオコ、きれいな裸だわ。バストも良い形だし、腋も綺麗ね。肌も良くお手入れされているようだし」
「まあ、強いて言えばウエストをもう少し絞りたいかな?」
「ほら直子、褒められたのだからお礼を言いなさい」
「あ、ありがとうございます」
 シーナさまに促されて、服従ポーズのままペコリと頭を下げました。

「そんなに薄いのなら、うちに3、4回通ったら、永久ハイジニーナにもなれそうね。ミス・ナオコはそれがお望みなのでしょう?」
「あ、えっと、ハイジニーナって?・・・」
「パイパンのことよ。パイパンのエステ風おシャレな呼び方」
「直子はずっとパイパンのままが理想なんでしょ?視られたがりのマゾだから」
 シーナさまが教えてくださり、私は小さく、はい、とアンジェラさんにお答えしました。
 アンジェラさんが沈黙を破ってくださったおかげで、場にリラックスしたムードが若干戻り、研修のお3人も、私を視つつ、何やらヒソヒソしてはクスクス笑っていらっしゃいます。

「ご覧いただいた通り、直子はこういう女なの」
 シーナさまが私の横に立ち、アンジェラさんたちにお話し始めました。
「人前で裸にされて、恥ずかしがっているクセに、ここはこんなだし・・・」
 ポインターペンで、私の尖りきった左乳首をピンと弾きました。
「ぁあんっ!」
「ここも洪水みたいに濡らしちゃう、露出症のヘンタイ女」
 ポインターペンが私の土手をつつきます。
「その上、わたしの命令には絶対服従の真性マゾヒスト」
 ポインターペンが私の両腿の間を通過してから上に上がり、ワレメにグイッと食い込んできました。
「あっ、だめ・・・ですぅ・・・」
 シーナさま、ヒドイ。
 みなさまの前でそんなこと・・・

「だからくどいようだけれど、一切遠慮無しで、ぞんざいに扱っちゃっていいからね。虐めれば虐めるほど、この子は悦ぶはずだから」
「ほら、直子からもお願いしなさい」
 私の股間にポインターペンの側面を食い込ませてゆっくり前後しながら、シーナさまがニヤリと笑いました。
「ほ、本日は、よ、よろしくお願いいたしますぅ」
 ポインターペンの刺激にクラクラしつつ、マゾの服従ポーズのまま、悦びの声を抑え込んでなんとかご挨拶しました。
 アンジェラさんたちもそれぞれ、ビミョーな笑みを浮かべて会釈を返してくださいました。

「さあさあ、それではみんな着替えて。手早く準備をしましょう!」
 アンジェラさんの一声でみなさまが立ち上がりました。
「あ、直子のシャワーは、わたしが連れて行くから、蘭子さんたちはまだゆっくりしていて」
 シーナさまが蘭子さんと小野寺さんにそう告げて、私の右手を取りました。
「直子は、その今踏んでいるタオルで自分のオマンコを押さえて、わたしについてきなさい」
 アンジェラさんについてお部屋の外に出ようとしていた研修のお3人が、クスクス笑う声が聞こえてきました。


コートを脱いで昼食を 17


2013年10月14日

コートを脱いで昼食を 15

「ほら、直子?あなたもちゃんとご挨拶なさい」
 シーナさまが肘で私の脇腹をつっつきますが、私は恥ずかしさで顔を上げることが出来ません。
 今のシーナさまのお言葉を聞いて、アンジェラさんたちがどんなお顔をされているのか・・・
 うつむいたままモジモジするだけです。

 助けてくださったのはアンジェラさんでした。
「大丈夫よ。心配しないで。わたくしたちは、ミス・シーナがとてもイジワルな人だということを、みんな知っていますから」
 すっごくやさしいお声で、でもちょっぴりクスクス笑いながらおっしゃいました。
「親子ほども年の離れたマダムにイジワルしているところ、今まで何度も見ていますから、ね?」
 私がそっと顔を上げると、アンジェラさんももう一人の女性も、たおやかな笑顔を浮かべて私を見つめていました。

「ところで直子はさ、ここがどんなサロンなのか、わかっている?」
 シーナさまがニヤニヤしながら聞いてきます。
 私は首を小さく左右に振りました。
「あら、ミス・シーナは、ミス・ナオコに何も教えずに、ここにお連れしたの?」
 アンジェラさんが呆れたお顔でシーナさまを見ています。
 シーナさまはアンジェラさんには答えず、さらに私に聞いてきました。

「じゃあさ、想像でいいから、このサロンは、何をするところだと思う?」
「えっと・・・」
 言っちゃっていいのか、少し迷いましたが、正直に思ったことをお答えしました。
「あの・・・よくはわかりませんが、たぶん・・・な、なにか、えっちなことを、するところ?」
 本当は、SMプレイのサロンで、アンジェラさんたちは、おやさしそうなお顔をされているけれど、実は女王様なのじゃないかな、って考えていたのですが、それではあまりにストレート過ぎるので、少しぼかしました。

「ほらね。聞いたでしょ?直子、それは想像じゃなくて、あなたの願望よ」
「この子はね、こういう子なの。こんな澄ました顔してても、頭の中では年がら年中、いやらしいことばっかり考えているのよ」
 すかさずのシーナさまのツッコミに、私は再びうなだれてしまいます。
 うなだれる寸前に、アンジェラさんが苦笑いを浮かべているのが見えました。

「いい?直子。このサロンはね、知る人ぞ知る、とっても評判のいいエステティックサロンなの」
「それも富裕層のマダムやその子女限定で、完全紹介会員制。表立っては一切広告宣伝していなくて、ある種のステイタスがなければ施術を受けるどころか、この場に入ることさえ出来ない、隠れ家的な高級エステなの」
「こちらにいるアンジー、アンジェラ先生が、このサロンのチーフ・エステティシャンで、スゴイのよ。世界中の美容業界を飛び回って、最新の技術をいつも研究されているの」
「その上、看護師やら美容師やら整体師やら、あと何だっけ?とにかくその手の資格全部持っているから、美容関係のことは何でも出来ちゃうの」
「エンヴィって英語で、妬む、とか、羨む、っていう意味なのだけれど、ここに来れば誰でも、人から羨まれて妬まれるくらい美しくなれる、っていう意味が込められているんだって」
 シーナさまがまくしたてるみたいに説明してくださいました。

「わたしのアレのひとりがここの会員だったからさ、わたしも出入り出来るようになって、いろいろお世話になっているのよ」
「ミス・シーナには、良いお客様を何人もご紹介いただいて、感謝しているわ」
 アンジェラさんが嬉しそうにうなずきながらおっしゃいました。

「そう言えばミス・シーナ。マダム・ワカバヤシはお元気かしら?」
「あら?二週間前くらいに来なかった?わたし、バンコクにいたときにメールで命令を出しておいたのだけれど」
「ああ、ご存知だったのね。それならいいわね。確かにいらしたわ。いつものコースで」
「そうでしょう?キレイになっていたもの。相変わらずよ。あのメス犬の貪欲なド淫乱さには、わたしのほうが疲れちゃうくらいだわ」
「あらあら。だけどマダム・ワカバヤシがあのお年になっても若々しくてお綺麗なのは、80パーセントくらいはミス・シーナのおかげよね」
 シーナさまとアンジェラさんが楽しそうに笑っています。

 マダム・ワカバヤシさんて、たぶん私のマンションの一番上の階を所有している、シーナさまのドレイ兼パトロンなおばさまのことでしょう。
 楽しそうにお話されるシーナさまに、私はなんだかフクザツな気分。

「それにアンジー、さすがだわ。うちのメス犬とわたしとの関係は知っているクセに、無闇に顧客の情報を漏らさない、その姿勢はたいしたものよ」
 シーナさまが私のほうに向きました。
「アンジーはね、スペイン系のクォーターでね、日本語以外も5、6ヶ国語くらいペラペラなのよ」
「それでね、会員制とは言っても、めんどくさいお客も少しは来るのよね」
「なまじお金が有り余っているから傲慢になりがちなのよ、そういうマダムは」
「そんなときアンジーはね、そのお客に絶対わからない言葉、ドイツ語とかスペイン語とかでね、ちっちゃな声でヒドイ悪態ついてたりするのよ、その客の目の前でニコニコ笑いながら」
 愉快そうに笑うシーナさま。
「あらやだ!ミス・シーナ、気づいていたの!?困ったわ、あなたの前だったら何語で悪態をつけばいいのかしら?」
 ひとしきり、楽しげな笑い声が響きました。

「そんなわけで、今日は直子に、このサロンの超一流の技術で、よりいっそうキレイになってもらおうと思って連れてきたのよ」
「ここのエステのモットーはね、お客様が喜ぶことを全力でしてさしあげること、なんだって。直子が喜ぶこと、って、わかるでしょ?」
「だから安心して、わたしの言う通りにしなさい」
 シーナさまの目が一瞬、妖しく光った気がしました。

「そうそう、ご紹介が遅れてしまったわ。わたくしの隣のこの女性は、うちのスタッフの一人で・・・」
 アンジェラさんのお言葉が終わらないうちに、その女性がスクッと立ち上がりました。
「夏目蘭子です。どうぞよろしくお願いいたします」
 スッと私に名刺が差し出され、私も慌てて立ち上がりました。

 夏目蘭子さんは、三人の中では一番肉感的なタイプでした。
 と言っても決してふくよかなのではなく、出るところは出て、引っ込むべきとことは引っ込んでいる、つまりすっごくプロポーションが良いのです。
 薄手のカシミアらしいベージュのロングセーターに包まれたその肢体は、まさにボンキュッボン、見蕩れちゃうほどセクシー。
 細面に涼しげな目元、少しカールしたボブカットでニッコリ微笑んだ姿は、まるでファッションショーの一流モデルさんのようでした。

「蘭子さんのマッサージはね、本当、魔法みたいなのよ」
 シーナさまが嬉しそうに、お口をはさんできました。
「それはもう、からだ中が蕩けちゃうくらい気持ち良くて、終わったら何もかもがスッキリ。肩凝りでも筋肉痛でもストレスでも、跡形もなく消えちゃうの。まさにマジックね」
「あとでわたし、蘭子さんにマッサージしてもらうんだ。それで指名して、わざわざ今日来てもらったのよ」
 シーナさま、本当に嬉しそう。

「そして、あそこに座っているのがわたくしの秘書、小野寺梓さん。事務関係全般とスケジューリングなんかをやってもらってるの」
 アンジェラさんのご紹介で、受付の美人さんが立ち上がり、私に向かってさっきと同じような完璧なお辞儀をしてくださいました。
 私も丁寧にペコリ。

「さあ、これで今日来ているスタッフの紹介は終わったわね。ミス・ナオコも今日からわたくしのサロンの会員よ。ミス・シーナのご紹介だもの、大歓迎よ。いつでもお好きなときに遊びにいらっしゃい」
 アンジェラさんがニッコリ笑いながらおっしゃってくれました。
「もちろん、ペイのほうは全部、ミス・シーナにツケておくから。何も心配はいらないわ」
「望むところよ。わたしも直子がもっとキレイになるのなら、そんな出費なんてまったく気にもしないわ」
「でも、お振込みの名義はなぜだか、マダム・ワカバヤシなのでしょう?」
 またひとしきり、楽しげな笑い声が響きました。
 シーナさまもアンジェラさんも、どこまで本気なのだか。

「さて、それじゃあそろそろ始めたいと思うのだけれど、その前にやっぱり、もう一度確認しておくわ。ミス・シーナ、例の件だけれど」
「例の件、って・・・ああ、研修のこと?」
「そう。わたくし、てっきりミス・シーナはまた、誰かそういうマダムをお連れになると思っていたから、気軽にお頼みしちゃったのだけれど、お連れになったのはマダムどころか、可愛らしいマドモアゼルじゃない?本当にいいのかな、って」
「大丈夫よ。気にしないでやってちょうだい」
「でも、ああいうところを見られるのって、すごく恥ずかしいのじゃない?それも、年が近い子たちだと、とくに・・・」
 ご心配顔のアンジェラさんが私の顔を覗き込むように見てきます。

「大丈夫よ。モーマンタイ。直子なら、むしろそのほうがいい、っていうくらいよ」
 シーナさまも私の顔をチラチラ見ながら、つづけました。
「この直子はね、こう見えて、かなりのヘンタイ娘なのよ。見せたがり、っていうよりも、視られたがり、ね」
「だからこの後のことも、余計な気遣い、気配りは一切、まったくいらないから。うちのメス犬にするときみたいに、いいえ、もっと大胆な格好をさせてもかまわないわ」
「直子はクラシックバレエをやっているから、からだがかなり柔らかいの。だから研修もやりやすいと思うわよ。言うこときかなかったら遠慮なくお尻叩いちゃっていいから」
「だけどこの子、すごく敏感ですぐ濡れちゃうから、そういう意味ではちょっと、やりにくいかもしれないけれどね」

 えっ!?
 シーナさまったら、普通のお顔でシラッと、スゴイことをおっしゃっていません?
 私の恥ずかしい性癖をどんどんバラしちゃってる。
 それで、アンジェラさんも、それを真剣に聞いていらっしゃる。
 ここってエステなのよね?
 私、これから何されるの?
 再び頭がパニックになって、全身を火照らせたままうなだれてしまいました。

「そう。そういうことなら、お言葉に甘えて予定通りでいきましょう。ミス・ナオコがそれを望んでいらっしゃる、と聞いて安心しました」
 えーーっ!そんなこと私、言ってない・・・
「それなら一応、始める前に研修の子たちにもご挨拶させるわね。小野寺さん、呼んでちょうだい」
 私がうなだれているあいだに、事態はどんどん進行していきました。

「ほら、直子っ」
 シーナさまに肘で脇腹をつっつかれて、恐る恐る顔を上げました。
 新たに、それぞれカラフルな私服を着た可愛らしい系の女性が3人、アンジェラさんの後ろに並んでいました。
 私が顔を上げたと同時に、
「よろしくおねがいしまぁーす!」
 声を揃えて元気良く、ご挨拶されました。

「えーっと、向かって左から、アリナさんとマリナさんとセリナさん。偶然3人とも似たような名前だけれど、こういう名前を付けるのが流行っていた世代なのかしらね?」
「3人ともうちの見習いスタッフで、入ってまだ日が浅いから、アロマテラピーやマッサージはほぼ習得したのだけれど、これからやる施術の現場は初めてなのね」
「だから今日、わたくしがミス・ナオコに施術するところを見せて、覚えてもらおうと思っているの」
「ひょっとすると、実際にこの子たちにもやらせてみるかもしれないけれど、わたくしが付いて細心の注意を払っているから、どうかご安心してご協力くださいね?」
「どうぞよろしくおねがいいたしまぁーす!」
 再び声を揃えて元気良く、お願いされてしまいました。
「は、はい・・・」
 そう答える他ありません。

「それにしても、アンジーのサロンのスタッフって、全員もれなく美人よね?」
 シーナさまが前に並んだ5人をしげしげと見回しながらおっしゃいました。
 私もそう思っていました。
 それもみんなタイプの違う美人さん。
 アンジェラさんは華やかなエキゾティック・ビューティ、小野寺さんはインテリジェント・クール・ビューティ、蘭子さんはグラマラス・ビューティ。
 研修でご一緒されるという3人も、年齢は私とそう変わらない感じで、それぞれ、どこかの美少女アイドルグループや女性ファッション誌の読者モデルさんと言われても信じちゃうくらい、キュートな美人さん揃いでした。

「それはそうよ。わたくしたちは、女性の美を追求するエステティシャンなのですもの」
「ねえ、ミス・シーナ?たとえばあなた、頭に毛がなくなっちゃった社員が何人も働いている製薬会社の育毛促進剤、買う気になる?」
「つまりそういうこと。スタッフが美しくないビューティサロンなんて、誰も来やしないわよ」
「だからわたくしはいつも、スタッフには自分の美しさをキープする努力を、まず一番に要求しているの」
「ミス・ナオコ、あなたもその気があったら、うちで修行させてあげるわよ?」
 アンジェラさんがパチンとウインクをくださいました。

「さあ、それでは始めましょうか?」
 アンジェラさんのひと声で、その場にピーンと緊張感が走りました。
「ミス・ナオコには、あちらのドレッシングルームで準備していただいて、施術するみんなはユニフォームに着替えて・・・」
 アンジェラさんがそこまでおっしゃったとき、遮るようにシーナさまの鋭いお声が響きました。
「ちょっと待って。アンジー?わたし言ったはずよ?余計な気遣いは一切無用だって。直子にはドレッシングルームなんて贅沢なものは、いらないの」
「みなさんも、もう少しそこでラクにしていていいわ。今、面白いものをお見せするから」
 そして、シーナさまが私を見ました。

「直子?」
「は、はい」
「裸になりなさい」
「えっ?」
「今すぐ着ているものを全部脱ぎなさい」
「え、えっと、こ、ここで、ですか?」
「何回言わせるの?早く裸になりなさい」
 シーナさまの瞳にエスの炎がチロチロと揺れ始めていました。


コートを脱いで昼食を 16


2013年10月13日

コートを脱いで昼食を 14

 ジュエルケースにしまっておいたチョーカーを取り出しました。
 手に取っただけでからだが火照ってきます。
 鏡の前で、そっと首にあてがってみました。
 うわ、すっごく目立っちゃう・・・
 白いブラウスとベージュのジャケットといういでたちの中では、首元に艶のあるエンジ色はとても目立ちます。

 これを着けると街中にマゾオーラを撒き散らしてしまうので、外出時の装着は禁止されていた首輪型チョーカー。
 それなのに今日は、これを着けて外出、っていうご命令です。
 メス犬マゾペットの首輪を着けてマゾオーラ全開の私の姿を、シーナさまはいったい誰にお見せになる気なのでしょう?
 下半身がモヤモヤ疼いて仕方ありません。

 チョーカーをジャケットのポケットに入れて、ハンドバッグを片手にマンションを出ました。
 マンションの門から10メートルくらい離れた路上に、見覚えのある黄色くて四角張った可愛らしい感じのシーナさまの愛車が、ライトをチカチカさせて待っていました。

「お待たせしました」
 助手席に乗り込むと、シーナさまが右手のひらを上に向けて、黙ったまま私の前に突き出してきました。
「あ、はい・・・」
 ポケットからチョーカーを取り出し、シーナさまの手のひらの上に乗せて、背中を向けます。
 シーナさまが手際よく、私の首にチョーカーを装着してくださいました。

 前を向くと、車のルームミラーに私の首元が映りました。
 やっぱり目立つ・・・
 鏡の中の自分と目が合って、頬が火照ってきました。

「うん。いい感じ。とても直子らしくなったわ」
 首だけ左にひねってずっと私を見ていたシーナさまが、嬉しそうにおっしゃいました。
「今日はわたしと一緒だから、思う存分マゾオーラ発散しちゃっていいから。でも、普通にアクセとしても、ちゃんと似合っているわよ」
 シーナさまが私の右頬に軽くチュッとしてくれました。

 そのまま私の右耳に唇を寄せて、
「どうせまた、濡れてきてるんでしょ?」
 低くささやかれました。
「は、はい・・・」
 チョーカーを着けられたときから、アソコの奥がキュンキュンうごめきだし、今のシーナさまのささやきの途端に、自分でも、あっ、と思うくらいたくさん、分泌物が滲み出てきているのがわかりました。
「ふんっ。いやらしい子」
 シーナさまが投げ捨てるみたいにつぶやき、車がスイーッと滑り出しました。

 車の中でも、スカートをまくれとかいう類のえっちなご命令は一切無く、シーナさまは運転しながら、イスタンブールで食べたサバのサンドウィッチのお話などをされていました。
 私は首のチョーカーが気になって、お話をお聞きしながらも時折ルームミラーをチラ見してはドキドキしていたのですが、やがて気持ちが落ち着いてきました。
  
 車はしばらく、交通量の多い大通りを走ってから、住宅街ぽい脇道に入りました。
 その住宅街は、どのお家も一軒一軒の敷地が広く、ゆったりと立ち並んで、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出していました。
 どのお家もデザインが洒落ていて、塀や門が立派で緑も多く、どう見てもお屋敷、という感じな趣のあるお住まいもありました。

「もうすぐ着くわよ」
 窓の外をもの珍しげに、熱心に眺めている私に、シーナさまからお声がかかりました。
「あ、はい。えっと、ここは、このあたりは、どこなのですか?」
「駅で言うと目白になるわね。いわゆる高級住宅街っていうやつよ」

 目白って言うと、池袋の一つ隣です。
 駅一つ違うだけで、こんなに街の雰囲気が変わるなんて。
 あらためて東京ってすごいなー、って思っていると、車が減速して左へ曲がり、アーチ型のゲートをくぐって地下へつづくらしいスロープを降りていきました。

 ゲートをくぐるときに、その敷地内に建っている建物が見えました。
 高校のとき、家族旅行で訪れて見たことのある、パリの高級アパルトメントのような瀟洒な、目を惹く外観のアンティークぽい建物でした。
 リゾート地のホテルとかにありそうなデザイン。
 ホテルなのかな?
 でもまさか、こんな高級住宅街にはホテルなんて建てないだろうし・・・

 スロープを降りた先は、車が10台くらい置ける駐車場になっていました。
 シーナさまは空いているスペースに手慣れたハンドルさばきで車を停めました。
「充分間に合ったわね。よかった。土曜日だからもう少し渋るかと思ったわ」
「あの、シーナさま、ここは・・・何ですか?」
「え?あっ、ひょっとしてラブホかなんかだと思ってる?あの外観見て」
 シーナさまが可笑しそうにクスクス笑います。
「そんなわけないじゃない。ここは普通のマンションよ。あ、でも普通ではないわね、お家賃的には、高級マンション、に該当する物件だから」

 車を降りてふたり、駐車場に隣接したエレベーターホールへ向かいました。
「そうそう、今日の直子は、モリタナオコだから。その名前で先方には言ってあるから」
「だから、モリタさま、って呼ばれたらちゃんと返事してね」
「本名だとちょっとマズイかな、とも思ったのよ。だから、これからずっと、ここに来たらあなたは、モリタナオコだから、ね?」
「は、はい・・・」

 本名だとマズイこと、って何だろう?
 シーナさまが企てたことですから、えっちな事柄に関連することであるのは間違いありません。
 先方、とおっしゃったから、これから誰かと会うことになるのも確実です。
 本名を隠しておいて良かった、と思うくらい、その人の前でとんでもなく恥ずかしいめに遭わされちゃうのでしょうか。
 ドキドキがどんどん激しくなってきました。

「14時から予約を入れているシーナです」
 エレベーターの扉脇に付いたテンキーを操作してから、シーナさまがインターフォン越しに告げました。
 ほどなくエレベーターが降りてきて、扉が開きました。
 シーナさまが4階のボタンを押し、エレベーターが上昇を始めます。
 監視カメラが付いているらしく、天井付近のモニターに私たちふたりの姿が俯瞰図で映っていました。
 その映像の中でも、私の首のチョーカーは、かなり目立っていました。

「さあ、いよいよだわね、直子。いろいろがんばって、ね?」
 シーナさまが嬉しそうに謎な言葉を投げて、私にパチンとウインクしました。

 エレベーターの扉が開くと、そこはホテルのフロントみたいになっていました。
 大理石の床と壁に、木目も鮮やかで重厚なカウンターが置かれ、その向こうでスーツを着た綺麗な女性がニッコリ微笑んでいました。

「ようこそいらっしゃいませ、シーナさま、そしてモリタさま。お待ちしておりました」
 両手を前で揃えた完璧なお辞儀の後、またニッコリと微笑みます。
「どうぞ、こちらのお部屋へお入りください。チーフも中ですでに準備して、おふたりのご到着をお待ちしておりますから」
 カウンターから出てきて、私たちを案内するために一歩先を歩いていく彼女。
 そのタイトなスカートからスラリと伸びた脚線美に見蕩れていたら、お部屋のドアが開きました。

「お履物はここでお脱ぎいただいて、ご用意いたしましたその室内履きにお履き換えください」
 女性が一歩退いて、私たちを入口のお部屋側に通してくれました。
 そこから覗いたお部屋の様子に、もうびっくり。
 ゴージャス。
 その一言しか思い浮かびませんでした。

 応接間にしては、いささか広すぎる床のほとんどを覆っている、暖色系のグラデーションによるアラベスク文様鮮やかな、毛足の長いペルシャ絨毯。
 適材適所に置かれた、アンティークながらお手入れの行き届いていそうな、見るからに高級そうな猫脚の家具たち。
 品良く飾られた、どこかで目にしたことのあるような絵画と彫刻。
 きっとレプリカではなく本物なのでしょう。
 お部屋の中央付近には大理石の大きめなテーブルが置かれ、そのテーブルを挟んで、柔らかそうなソファーに腰掛けたご婦人がふたり、ティーカップを前にして談笑されていました。
 お部屋全体に、お香なのかアロマキャンドルなのか、何とも言えない甘くていい香りが漂っています。

 豪華すぎるお部屋を前にして呆然と立ち尽くす私を尻目に、シーナさまはスタスタとテーブルのほうへと歩いていかれました。
「ミス・シーナ、お久しぶりね。会いたかったわ」
 こちらを向いてソファーに腰掛けていたご婦人がゆっくりと立ち上がり、テーブルの脇に立ってシーナさまを迎え、やんわりとふたり抱擁されました。
「チーフのお仕事、順調に伸びているみたいね。下の駐車場で見たわよ。また車、変えたでしょ?」
「ああ。あれはお客様の送迎用の車よ。設備投資みたいなもの」
「ここのお得意様って、新型のジャガーで送り迎えしてもらえるんだ。リッチだわねー」
 おふたりがとても親しげに、お話されています。

 シーナさまのお相手をされているご婦人は、パッと見た感じ20代後半から30代前半。
 ゆったりとした品の良いパープル系のワンピースで、からだつきはスレンダー、胸元に3連の細いゴールドチェーンがキラキラ揺れています。
 お顔が小さくて彫りが深く、背もけっこう高めだから、ひょっとすると欧米系のハーフさんかもしれません。
 そのクッキリした目鼻立ちをキツクならないように上手にメイクして、ショートめの髪をゆるやかなウェーブで左右に分け、全体として、すっごく華やかな美人さん、という印象です。

「ほら、直子も早く、こちらにいらっしゃい」
 シーナさまに促され、案内していただいたスーツの女性にも、微笑みながら、どうぞ、という手振りで後ろから促され、おずおずと柔らかな絨毯をフワフワのスリッパで踏んで、シーナさまに近づきました。
「それにしても、ミス・シーナがこんなにお若いかたをお連れになるとは、思いもよらなかったわ。ミス・シーナ、あなた最近、趣味変わったの?」
 チーフと呼ばれた、ハーフなお顔のご婦人が、心底驚いたという感じで、シーナさまを見つめています。
「そういうことではないけれどね。この子はいろいろワケありでさ。まあそれはともかく、紹介する・・・」
 シーナさまが私のほうを向いて、チーフさんのことを私にご紹介してくれそうになったとき、チーフさんが私に向けて名刺を差し出してきました。
「ミス・モリタさん、だったわよね?わたくしはこういうものです。今後ともよろしくね」
 チーフさんがニコッと笑いかけてくれました。

 受け取った名刺を見てみます。

 サロン エンヴィ envy (艶美)
 代表 アンジェラ 樹里

 それに住所と電話番号が書いてありました。
 裏返すと同じことが英語で書いてあります。

「サロン?」
 思わず独り言を小さくつぶやいてしまいました。

「だからね、ここは・・・」
 シーナさまが私に説明しようとすると、再びチーフさん、つまりアンジェラさんが遮りました。
「まあまあ、立ち話もなんだから、一回みんな座りましょう。小野寺さん、お茶をご用意して」
 小野寺さんと呼ばれた、受付のスーツ姿の女性がお部屋の奥へ消え、私とシーナさまは、さっきまでアンジェラさんが座っていた側のソファーに並んで腰掛け、アンジェラさんは、先ほどまで談笑されていたもうひとりの女性の隣に腰掛けました。
 ほどなく小野寺さんが、お紅茶とチーズケーキを人数分持ってきてくださり、小野寺さんは、お部屋の入口近くにある椅子に、ひとり離れてお座りになりました。

「それじゃあまずわたしから、あらためてご紹介するわ」
 おのおのがティーカップを一口傾け、チーズケーキをひとかけら頬張り一息ついた後、シーナさまが口火を切りました。
「今日初めてこのサロンのお世話になる、こちらの女性は・・・」
 そこで一呼吸置き私のほうを見て、ニッと一瞬笑いました。
 すぐにアンジェラさんたちのほうに向き直り、私を右手でバスガイドさんのように指し示しながら、シーナさまがつづけます。
「一番新しいわたしのドレイ、モリタナオコです」

 えっ!?
 シーナさま今、私のことを、わたしのドレイ、っておっしゃらなかった?
 えーっ!?
 私の聞き間違いじゃないよね?
 えーーっ!?
 何それ?そんなこと言っちゃっていいの?えーーーーっ!何?何?何?何?
 思いもよらないシーナさまのお言葉に、私はあっさりパニックに陥りました。


コートを脱いで昼食を 15