お約束通り、5時から講堂で演劇とバンド演奏を観て、この日は6時半に文化祭が終わりました。
クラスのお教室で後片付けをしてから、美術部の人たちと打ち上げがあるというしーちゃんと別れ、私も文芸部の部室でささやかな打ち上げをして、お家に帰ったのは夜の8時過ぎでした。
寝る前に、どうしてもニノミヤさんの裸の絵とレオタード姿が思い出されて、オナニーをしたい気持ちもあったのですが、それ以上にからだが疲れきっていたみたいで、あっさり眠りに就いていました。
翌日は振り替え休日。
文化祭の後片付けが残っている人は登校しなければいけませんが、それ以外の人はお休み。
私は昨夜、ヤキソバに使った重たいホットプレートも持って帰っていましたし、図書室もすっかり普段通りに戻しておいたので登校する必要は無く、朝の10時過ぎまで、ゆっくり惰眠を貪りました。
お昼は、母と一緒に食べながら文化祭でのしーちゃんのゴスロリ姿や描いてくれた絵のことをコーフン気味におしゃべりして、午後からは、読みかけのコミックスを自分のお部屋でベッドに寝転んで読んだりしてダラダラ過ごしました。
午後の3時前に携帯電話が鳴って、出てみるとしーちゃんからでした。
これから私の家に遊びに行っていいか?という内容で、もちろん私にノーと言う理由は今も昔もまったく無いので、しーちゃんが来ることになりました。
3時少し過ぎくらいに現われたしーちゃんと、最初はリビングで母と3人でお茶を飲みながら、また文化祭の話題をしばらくしていました。
3時半頃、母がお夕食のお買い物へ行くと席を立ったので、しーちゃんと二人で私のお部屋に移動しました。
お部屋でもしばらくは、昨日の友田さんのステージはカッコ良かったね、とか、演劇部のお芝居はなんだかよくわからなかったね、とか他愛もないおしゃべりをしていました。
しーちゃんは、なぜだかいつもより言葉少なでした。
会話が途切れて、何気なくしーちゃんのお顔を見たとき、なんだか思いつめたような表情になっているのに気がつきました。
「しーちゃん、どうかしたの?何かあったの?」
「うんとネ、今日はネ、どうしてもなおちゃんにお話しておかなければならないことがあって、来たの・・・」
「・・・たぶんなおちゃん、びっくりすると思うけど・・・なるべくびっくりしないで、聞いて・・・」
「なおちゃんには、ちゃんと言っておかないといけない、って思ったから・・・」
しーちゃんのお顔は、今までみたことないくらい真剣でした。
「ワタシネ、今、二宮先輩とおつきあい、してるの・・・」
しーちゃんが思い切るみたいに言って、私の顔を見つめてきます。
「おつきあいって言っても、百合ごっこ、みたいのじゃなくてネ、キスもしたし、もっと先までももう・・・」
しーちゃんの突然の告白に、私は文字通り、口をポカンと開けて絶句していました。
「気持ちワルイよネ?女同士でなんて・・・」
ポツンとつぶやいたしーちゃんの言葉に、私は激しく反応しました。
「ううん。ぜんぜん気持ち悪くなんてないっ!女同士だって私、ぜんぜんいいと思う!」
「ほんと?なおちゃん・・・」
しーちゃんがうつむいていたお顔を上げて、再び私を見つめてきました。
私の頭の中は、激しく混乱していました。
しーちゃんが二宮先輩とおつきあいしている・・・
もうキスも、その先までもヤっちゃった・・・
女同士は気持ちワルイ?・・・
その三つしか言われていないのに、それらが何を意味するのか、まったく理解できませんでした。
混乱している頭をごまかすみたいに、思いついたことを口にしていました。
「いつから、そんな感じになってたの?詳しく聞かせて」
しーちゃんが宙に目を泳がせ、思い出すような表情でお話し始めました。
私にも教えてくれた6月のヌードクロッキー会の後、もう一度その機会が訪れたのは、明日から夏休みという終業式の放課後、場所は、三年生の鳥越先輩のマンション。
鳥越先輩は、ご両親のお仕事の関係で、学校の近くのマンションに一人暮らししていました。
て言うか、社会人のお姉さんと一緒に暮らしているのですが、お姉さんがカレシさんのお部屋に入り浸って帰ってこないので、結果的に一人暮らしになっていたのだそうです。
前々から、その日はみんなで集まる、って先輩がたに言われていて、しーちゃんも、きっとあの日のつづきをするんだな、って薄々思っていたので、ちょっとワクワクしていたそうです。
いったんお家に帰って、私服に着替えて再び集まったのは、あの日と同じメンバー、三年生の鳥越先輩と落合先輩、二年生の小川先輩と村上先輩、二宮先輩、そしてしーちゃん。
午後の三時過ぎに集まった6人は、そのままお泊り会をする予定でした。
鳥越先輩のマンションは結構広くて豪華で、
「一部屋改造して、アトリエみたいになってるんだヨー」
と、なぜだか自分のことのように自慢そうなしーちゃん。
広いリビングで一息ついて、アトリエでクロッキーを始めたのが午後の4時頃。
今回は、短時間ではなく、しーちゃんのが仕上がるまでっていうことだったので、クロッキーではなくてデッサンでした。
当然のように、二宮先輩がお洋服をすべてスルスルっと脱ぎ、アトリエのソファーに寝そべって、みんな真面目にデッサンを始めました。
アトリエは、美術室より断然明るかったので、二宮先輩のからだの細かいところ、筋肉のつき方や毛の生え際とかまでクッキリとわかり、二宮先輩は、やっぱり薄っすら頬を染め、恥じらいと高揚感が交錯しているように見えたそうです。
休憩を何度か挟んで2時間弱、なんとかしーちゃんも納得出来る作品に仕上がったので、そこでデッサン会は終わりになりました。
二宮先輩以外の先輩がた4人が、お夕食のお買い物に行ってくる、と言って外出してしまい、お部屋にはしーちゃんと二宮先輩だけが残されました。
「たぶん、先輩たちがあらかじめ打ち合わせてて、ワタシたちを二人きりにしたんだヨ」
デッサンが終わっても二宮先輩はお洋服を着ようとせず、しーちゃんは目のやり場に困ったそうです。
ソファーに並んで座って、しばらくお話タイム。
「しのぶさんには、カレシさんとかいるの?」
「いいえ、ワタシはまだそんなの・・・」
「興味ないの?」
「はい・・・」
「わたしのからだ見たの久しぶりだったよね、どうだった?」
「あ、はい。やっぱりすんごくキレイだと思います。憧れちゃう」
「わー、ありがとう。わたし、しのぶさんのこと部室で初めて見たとき、なんてカワイイ子なんだろう、って思ったの」
「はあ・・・ありがとうございます」
二宮先輩が少し黙ってから、内緒話をするみたいなヒソヒソ声で聞いてきました。
「しのぶさん、女同士でおつきあいするのって、ヘンだと思う?」
「あ、いえ、ワタシは別に・・・」
しーちゃんは実際、女の子同士の恋愛もアリだと思っていたし、これから百合マンガを描いていくためにも、自分の身で経験してみたいなーとも思っていたのだそうです。
「それなら藤原さん、わたしとおつきあいしてみない?」
二宮先輩に小さな声でそう言われたとき、たぶん先輩がからかっているんだろうと思ってお顔を見たら、頬をピンクに染めて思いっきり恥らっていて、その姿がすっごく可愛らしくって、たまらなかったそうです。
「それとも、誰か他に好きな人がいるの?」
そう聞かれたとき、パッと浮かんだのが私の顔・・・でも、何も言えず・・・
「こんなふうに人前で裸になっちゃう、はしたない女じゃ、イヤ?」
「そんなことありませんっ!」
この問いにだけは、しーちゃんはすぐに反発しました。
「二宮先輩は、やさしいし、絵もお上手だし、教え方もうまいし、お顔もからだもキレイだし、お話していて楽しいし、ワタシ憧れてます」
「うわー。今まで生きてきて、一番嬉しい褒め言葉よ、それ。ねえ、お願い、藤原さん?わたしとおつきあいしてください」
二宮先輩は、先輩なのに哀願するような言葉遣いになりました。
「わたしはもっとしのぶさんのことが知りたいし、しのぶさんにももっともっと、わたしのことを知って欲しいの。わたしたち絶対うまくいくと思う」
二宮先輩は、そのつぶらな瞳でしーちゃんのことをすがるようにじーっと見つめ、今にも泣き出しそうな感じだったそうです。
しーちゃんは真剣なそのまなざしにあがらえきれなくなって、首をコクンと縦に振りました。
その途端に、泣き出しそうだったお顔が、雲の切れ間からお日様がパーッとお顔を出したように、満面の笑みに変わって、その笑顔が本当に綺麗で、背中に電流が走ったみたいにゾクゾクッてしちゃうほど。
「嬉しいーっ!」
横向きのしーちゃんに抱きついてきた二宮先輩の裸の胸やお腹がしーちゃんに押し付けられ、そのふうわり柔らかい感触といい匂いは、うまく言葉にできないほど心地良いものだったそうです。
やがて先輩がたが帰ってきて、お夕食の支度。
二宮先輩は、裸にピンクのフリルのエプロンだけかけて、せっせとご馳走を作って、みんなでワイワイ食べました。
「クリスがあんなに上機嫌ていうことは、しのぶちゃん、オッケーしたんだね?」
小川先輩が二宮先輩の目を盗んで、しーちゃんに小声で言いながらウインクしてきます。
やっぱりこの会合は、先輩がたに仕組まれたもののようでした。
お夕食の後、しばらく経ってお風呂タイム。
最初に落合先輩と村上先輩、次に鳥越先輩と小川先輩が入り、必然的にしーちゃんと二宮先輩が一緒に入ることになりました。
二宮先輩の前で裸になるのは、しーちゃんにとってかなり恥ずかしいことでしたが、お風呂上りの先輩がたがみんな、下着だけとか、ノーブラにキャミソールとかでお部屋をウロウロしているので、恥ずかしさの感覚が麻痺しちゃって、ま、いいか、になっちゃったらしいです。
「しのぶさんのからだ、スベスベでお人形さんみたいね」
二宮先輩は、そんなことを言いながらしーちゃんのからだをすみずみまで、やさしく丁寧に洗ってくれました。
フワフワのスポンジをたっぷり泡だてて。
「胸とかをやさしく撫ぜられて、ワタシすんごく感じちゃった・・・」
しーちゃんが照れ臭そうに言いました。
その後、二人でゆったりとバスタブに浸かって、見つめ合っているうちになんとなく、キスしてしまいました。
「なぜだか、そうしないとお風呂から出れないような気がしたんだヨ」
しーちゃんが盛大に照れました。
お風呂から上がると、みんな相変わらず下着姿で、三年の先輩は缶ビールなんかも開けて、ワイワイおしゃべりしていました。
二宮先輩が素肌にタオルを巻いたままの格好でその輪に加わったので、しーちゃんもパジャマを着るのがためらわれ、空気を読んで下着だけの姿でおしゃべりに参加しました。
「でもね、えっちい話なんかぜんぜんしなくて、絵の具の混ぜ方のこととかポスト印象派がどーたらとか、えらく真面目な話ばっかりなんだヨ」
「みんな裸に近いセクシーな格好なクセに、すんごく真剣にマジメな話しているから、何て言うか、シュールでネ。少し笑っちゃった」
「好きなマンガの話もしたから、ワタシもすんごく盛り上がっちゃったヨ」
夏休みに入って、しーちゃんと二宮先輩は何度もデートしました。
「ショッピングしたり、映画観たり、遊園地も行ったしプールも行ったヨ」
そういう場では、二宮先輩はごく普通なやさしい先輩で、しーちゃんのことをすごく気使ってくれて、別れ際にはいつもやさしいキスをして。
二宮先輩は、デートのときにセクシーな服装をしてくるとか、ノーブラで来るとかもぜんぜん無くて、本当にこの人が美術室で裸になりたがる彼女と同じ人なのかな、ってしーちゃんが思うくらいいい人で、しーちゃんもどんどんますます二宮先輩のことが好きになっていったそうです。
そしてこの頃、しーちゃんはひとりエッチがちゃんと出来るようになっていました。
*
*しーちゃんのこと 18へ
*
直子のブログへお越しいただきまして、ありがとうございます。ここには、私が今までに体験してきた性的なあれこれを、私が私自身の思い出のために、つたない文章で書きとめておいたノートから載せていくつもりです。
2011年7月3日
2011年7月2日
しーちゃんのこと 16
「それじゃあなおちゃん、ちょこっとこっち来て?」
お話が一段落して訪れた束の間の沈黙を待っていたように、しーちゃんがスッと席を立ち、私の肩に背後から手を置きました。
私も立ち上がります。
しーちゃんは、展示物が飾ってあるお部屋の壁際奥のほうに私を連れていきました。
「ほら、これ」
そこには、正面を向いた人物の油彩の肖像画が飾られていました。
A3を縦にしたくらいの大きさで、濃いエンジ色をバックにこちらを見て薄っすらとやさしく微笑んでいる、写実的タッチな女性の顔。
それは、紛れもなく日頃鏡で見慣れている私の顔でした。
「どう?」
「えっと・・・これ、しーちゃんが描いてくれたの?スゴイッ!綺麗!上手っ!天才っ!」
食い入るようにその絵を見ながら私は、どんどん高揚してきていました。
絵の中の私は、鮮やかな深碧の瞳を緩やかにたわませて、何とも言えない慈悲深い笑みをたたえています。
濃いエンジ色をバックに、首筋から肩の少し下までの透き通るような肌色と、鎖骨の陰影がすっごくセクシー。
どう見ても、実際の私より数段綺麗でオトナっぽい、私が、そうありたいな、って思い描いている理想に限りなく近い笑顔でした。
絵画のタイトルは、ガールフレンド、と名づけられていました。
「文化祭の展示、何にしよっかなー、って迷ってたときに、ふと思いついたのネ。文化祭終わったら、もうすぐなおちゃんのお誕生日だナー、って」
「なおちゃんを描いて、それをプレゼントにしちゃうのも手かナー、って思って」
「8号ていう大きさは、風景画では慣れてたけど、人物描いたのは初めてでちょっと戸惑ったけど、写真見ながらがんばったヨ」
「それじゃあ、これ・・・?」
「うん。お誕生日にこの額ごとなおちゃんにプレゼント!」
「ありがとうっ!すっごく嬉しい!一生の宝物にするっ!」
私は、心の底から感動して、しーちゃんの両手を私の両手で包み込むように取り、ギューッと私の胸に押し付けました。
「いやいや、こうして実物のかたとご一緒すると、しのぶさんの技術の巧みさがよくわかりますなあ」
「いえいえ、実際のモリシタさまのほうが、もっともっとお美しくあらせられましてよ?」
いつの間にかトリゴエさんやオガワさんたちに囲まれていて、みんながワイワイ囃したててきました。
その後、美術部のみなさんと一緒に展示物を一通り見て回りました。
トリゴエさんが描かれた淡い色彩が上品な水彩の大きな風景画、オガワさん作のカラフルでキッチュなポップアート、ニノミヤさんの大胆な色彩で鮮烈に描かれたアクリル画らしい静物画。
その他の方々の作品も、私なんかから見るとみんな、すっごく上手い、って驚嘆するしかないものばかりでした。
でも、私にとってのナンバーワンは、言うまでもなくしーちゃんの作品なんですけど。
美術室にずいぶん長居してしまい、そろそろ図書室に戻らなければいけない時刻になっていました。
「それじゃあ私、そろそろ・・・」
言いかけたとき、オガワさんが私の顔を見てニッと笑って、
「ねえ、お姉さまがた?モリシタさんとお近づきのシルシに、最後にあの作品、ご覧いただくっていうのはどうかしら?」
貴族ごっこがつづいているのかいないのか、中途ハンパな口調にイタズラっ子なお顔で言いました。
「どう?クリス」
トリゴエさんがニノミヤさんに聞くと、ニノミヤさんのお顔が薄っすらと紅潮してうつむきます。
「モリシタさまに、見ていただくかい?」
ニノミヤさんは、うつむいていた顎を少し上げ、上目遣いに私の顔をじっと見つめてから小さく微笑み、完全にお顔を上げてトリゴエさんを見つめました。
「よくってよ。お姉さま」
私たちは、ゾロゾロとさっき見たニノミヤさんの絵のところまで戻りました。
ニノミヤさんの絵は、お部屋の入口から一番奥まった壁際に飾ってありました。
美術室は現在、少しだけお客様の来訪が途絶えて、テーブルに2組、5名のお客様がお茶を楽しんでいらっしゃるだけでした。
モーツァルトのオーボエ協奏曲が軽やかに流れています。
私としーちゃん、トリゴエさん、オガワさん、ニノミヤさんの他に、ベルバラ衣装の三年生、オチアイさんと、フレンチメイドな二年生のムラカミさんもついてきました。
7人でニノミヤさんの絵を取り囲むように立つと、背の高いトリゴエさんが自身の背後に垂れ下がっていたエンジ色の布を、カーテンを引くようにスルスルっと横に滑らせました。
エンジ色の布が私たちの背後を覆うように広がって、その絵の周辺の空間だけが美術室から一層薄暗く遮断されました。
ムラカミさんが、絵の下に置いてある照明のスイッチをひねると、絵の周辺だけがまばゆい白色ライトで一段と浮かび上がりました。
ニノミヤさんの絵は、乱暴に二つに割られて乱雑な断面を見せている真っ赤なスイカの横に、これまたパックリ割れてツヤツヤした赤いルビーのような中身を見せているザクロの実が二つ、漆黒をバックに写実的かつ大胆な色遣いで描かれた静物画でした。
新聞紙を半分にしたくらいの大きさの横向きの構図で、スイカとザクロの中身の鮮烈な赤と、スイカの皮やザクロの葉の緑とのコントラストが印象的な作品。
タイトルは、夏の円熟。
見方によっては、なんだかエロチックな感じもしてきます。
この絵は確かにスゴイと思うけれど・・・
真意が掴めず私が戸惑っていると、ニノミヤさん自らその絵を額ごと壁からはずし、クルッとひっくり返して再び壁にかけました。
「どうぞ・・・見て・・・ください・・・」
消え入るような、恥ずかしげなニノミヤさんのお声がしました。
誘われるように視線を壁に戻すと、そこには・・・
裸のマヤ・・・
一糸纏わぬ裸で横向きにソファーに寝そべる美しい女性の姿が、写真と見紛うような精巧な筆致で描かれていました。
ふんわりとした髪、瑞々しい肌の艶、まろやかな曲線を描く乳房、両内腿の間の翳り、少しだけ膝を立て気味のしなやかな右脚のライン・・・
すべてが生々しく息づいていて、溢れるばかりの迫力です。
それに、このソファーが置かれている場所は、どう見てもこの美術室。
特徴のある壁の木目まで鮮やかに再現されていました。
これは、コンピューターグラフィック?
「その絵のモデルが誰か、モリシタさん、おわかりになるわよね?」
オガワさんに聞かれて、私は黙って、ニノミヤさんのお顔を見ます。
ニノミヤさんは、薄闇の中でもお顔が真っ赤に火照ってらっしゃるのがわかります。
それでも私は不躾に、絵を見てはニノミヤさんを見て、絵を見てはニノミヤさんを見てをくりかえしてしまいます。
絵のタイトルは、紅百合の后、でした。
「クリスの裸は、本当にキレイなんだ。だからワタクシたちの創作意欲が抑えきれなくなってしまってね。頼み込んでモデルをしてもらったの」
オチアイさんが説明してくれます。
「この絵は、ワタクシたち6人の合作なの。下絵はしのぶさんが描いたのを採用して、それをパソコンに取り込んで彩色はクリスも含む全員」
「いろんなCGの技法が盛り込まれているのよ」
「このおっぱいの感じが難しかったのよねー。クリスから、私の乳首、こんなに黒ずんでいない、とかNG出されて」
「下の毛も揉めたわねー。もうちょっと濃く、いいえもっと薄く、なんて」
オガワさんとムラカミさんが楽しそうに言い合ってます。
「だからおヘソの下周辺は、ワタシが責任を持って担当したんだヨ」
しーちゃんがこれまた嬉しそうに教えてくれました。
「クリスはね、普通絶対裸にならないようなところでこっそり恥ずかしい格好をしたり、誰かに自分の裸を見てもらったりすることが好きな、ちょっと変わった子なのね。今だってこの子、モリシタさんにこの絵を見てもらって、嬉しくってしょうがないんだから」
トリゴエさんが、ニノミヤさんの肩に手を置いて、からかうみたいにモミモミしています。
「クリスったら、この文化祭中もはりきって、ずっとレースクイーン的なハイレグのえっちぽいレオタード着ているのだけれど、過度に肌を露出するような衣装は学校から厳重に禁じられてるから、仕方なくワイシャツを羽織っているの」
オガワさんがヒソヒソ声でつづけます。
「昨日はそれでも、ワイシャツ脱いで記念撮影とかできたんだけどね。今日は、風紀の先生が見回りにくるっていうウワサもあるから、とりあえず一人ワイシャツ祭りの人になってるクリスちゃん。これもこれで相当色っぽいけどね」
「そうだ。今ここでならワイシャツ脱げるじゃん?カーテンで仕切ったから向こう側からは見えないし。モリシタさんにも見せてあげなよー。セクシーなレースクイーン姿」
ムラカミさんが、イイことを思いついた、って調子ではしゃぎ気味に言いました。
私はまだ、絵と実際のニノミヤさんを飽きることなく見比べていました。
ずいぶんと無遠慮な視線だったと思います。
ニノミヤさんは、チラッとしーちゃんのほうに視線を向けます。
しーちゃんがかすかにうなずくように首を動かした気がして、ニノミヤさんが上から、ボタンを一つ一つ、ゆっくりはずし始めました。
こんなふうに、精緻に描かれた自分の裸の絵を前にして、実際の自分と見比べられるのって、どんな気持ちなんだろう?
おっぱいも、乳首も、アソコの毛も、精密なタッチで再現された自分の裸が描かれた絵の前で、シャツのボタンを一つづつはずしていくニノミヤさん・・・
その姿を見ていたら、ニノミヤさんをうらやましいと感じている自分の気持ちが隠せなくなってしまい、ニノミヤさんが感じているであろう、その恥ずかしさに私も共鳴して、そのあまりの恥ずかしさにいたたまれなくなってきてしまいました。
心臓がドキドキドキドキ高鳴って、甘美な性的高揚感をからだの奥に感じていました。
シャツを両袖から抜いたニノミヤさんは、バストの谷間も露な深い襟ぐりの濃いグリーンのレオタード姿になりました。
プロポーションは絵のまんま。
ほどよく豊かなバスト、キュッとくびれたウエスト、ゆるやかに張ったヒップ、深いハイレグの切れ込み、スラっと伸びた生脚。
背筋をピンと伸ばして私の目の前に立ったその姿から、もっと見て、よーく見て、という声と、いやっ、恥ずかしい、見ないで、っていう声が、同時に聞こえてくるようです。
私は、まじまじとニノミヤさんのしなやかな肢体を上から下まで、舐めるように見つめていました。
そして、気づいてしまいました。
「あーっ!先生。見回りご苦労様でっすー!」
ドアが開いた音と同時に、なんだかわざとらしいような誰かの大声がカーテンの向こうから聞こえてきて、カーテンの内側はちょっとしたパニックになりました。
オガワさんがニノミヤさんの絵をクルッとひっくり返して元通りの静物画に戻し、ニノミヤさんはあわててワイシャツに袖を通してボタンを嵌め始めています。
オチアイさんとムラカミさんが、スススッとカーテンの陰から出て行き、
「先生、おかげさまで大盛況ですよー。ポストカードもたっくさん売れました。さ、こっちでお茶でもどうです?」
なんて、愛想のいい声を出しています。
その調子のいい声を聞いて、私としーちゃんは顔を見合わせ、プッと吹き出してしまいました。
ニノミヤさんの身繕いも素早く終わり、オガワさんがさりげなくカーテン代わりの布を元に戻し、私としーちゃんはニノミヤさんの絵に見入っていたフリを少しした後、さりげなく振り向きました。
いつの間にか来訪のお客様がまた増えていて、テーブルはほぼ満卓、入口の近くのテーブルでは、オチアイさんとムラカミさんが見回りの先生らしい初老の女性のかたをもてなしています。
「おおっ、カゲヤマうじ。お見えになっていたのか。水くさいでござるよ」
トリゴエさんもお知り合いをみつけたのか、男装の麗人貴族に戻って、お芝居口調の大声を出しながらそちらに駆け寄っていきました。
でも、その口調、貴族じゃなくて武士・・・
「すっごく楽しかったです」
しーちゃんとワイシャツ姿に戻ったニノミヤさんが廊下まで見送ってくれました。
「しーちゃんの絵、すっごく嬉しかった。ありがとう」
「ニノミヤさんの絵も本当にステキでした。とくに裏側は、なんて言うか、本当に美しかったです。うらやましいです」
「わあ。ありがとう」
ニノミヤさんが蕩けそうな笑顔で私に握手してくれます。
「それじゃあしーちゃん、また後でね。5時くらいに講堂行って、演劇と友田さんのバンド、一緒に観よう」
「うん。また後でネー」
しーちゃんが明るく手を振ってくれて、私は図書室に急ぎました。
廊下を早足で歩いている間中、ずっと同じことばかりを考えていました。
ニノミヤさん、レオタの下、ノーブラだった・・・
ニノミヤさん、乳首、勃っていた・・・
ニノミヤさん、ハイレグの股布、濡れて色が変わってた・・・
ニノミヤさん、私に見られて、感じてた・・・
*
*しーちゃんのこと 17へ
*
お話が一段落して訪れた束の間の沈黙を待っていたように、しーちゃんがスッと席を立ち、私の肩に背後から手を置きました。
私も立ち上がります。
しーちゃんは、展示物が飾ってあるお部屋の壁際奥のほうに私を連れていきました。
「ほら、これ」
そこには、正面を向いた人物の油彩の肖像画が飾られていました。
A3を縦にしたくらいの大きさで、濃いエンジ色をバックにこちらを見て薄っすらとやさしく微笑んでいる、写実的タッチな女性の顔。
それは、紛れもなく日頃鏡で見慣れている私の顔でした。
「どう?」
「えっと・・・これ、しーちゃんが描いてくれたの?スゴイッ!綺麗!上手っ!天才っ!」
食い入るようにその絵を見ながら私は、どんどん高揚してきていました。
絵の中の私は、鮮やかな深碧の瞳を緩やかにたわませて、何とも言えない慈悲深い笑みをたたえています。
濃いエンジ色をバックに、首筋から肩の少し下までの透き通るような肌色と、鎖骨の陰影がすっごくセクシー。
どう見ても、実際の私より数段綺麗でオトナっぽい、私が、そうありたいな、って思い描いている理想に限りなく近い笑顔でした。
絵画のタイトルは、ガールフレンド、と名づけられていました。
「文化祭の展示、何にしよっかなー、って迷ってたときに、ふと思いついたのネ。文化祭終わったら、もうすぐなおちゃんのお誕生日だナー、って」
「なおちゃんを描いて、それをプレゼントにしちゃうのも手かナー、って思って」
「8号ていう大きさは、風景画では慣れてたけど、人物描いたのは初めてでちょっと戸惑ったけど、写真見ながらがんばったヨ」
「それじゃあ、これ・・・?」
「うん。お誕生日にこの額ごとなおちゃんにプレゼント!」
「ありがとうっ!すっごく嬉しい!一生の宝物にするっ!」
私は、心の底から感動して、しーちゃんの両手を私の両手で包み込むように取り、ギューッと私の胸に押し付けました。
「いやいや、こうして実物のかたとご一緒すると、しのぶさんの技術の巧みさがよくわかりますなあ」
「いえいえ、実際のモリシタさまのほうが、もっともっとお美しくあらせられましてよ?」
いつの間にかトリゴエさんやオガワさんたちに囲まれていて、みんながワイワイ囃したててきました。
その後、美術部のみなさんと一緒に展示物を一通り見て回りました。
トリゴエさんが描かれた淡い色彩が上品な水彩の大きな風景画、オガワさん作のカラフルでキッチュなポップアート、ニノミヤさんの大胆な色彩で鮮烈に描かれたアクリル画らしい静物画。
その他の方々の作品も、私なんかから見るとみんな、すっごく上手い、って驚嘆するしかないものばかりでした。
でも、私にとってのナンバーワンは、言うまでもなくしーちゃんの作品なんですけど。
美術室にずいぶん長居してしまい、そろそろ図書室に戻らなければいけない時刻になっていました。
「それじゃあ私、そろそろ・・・」
言いかけたとき、オガワさんが私の顔を見てニッと笑って、
「ねえ、お姉さまがた?モリシタさんとお近づきのシルシに、最後にあの作品、ご覧いただくっていうのはどうかしら?」
貴族ごっこがつづいているのかいないのか、中途ハンパな口調にイタズラっ子なお顔で言いました。
「どう?クリス」
トリゴエさんがニノミヤさんに聞くと、ニノミヤさんのお顔が薄っすらと紅潮してうつむきます。
「モリシタさまに、見ていただくかい?」
ニノミヤさんは、うつむいていた顎を少し上げ、上目遣いに私の顔をじっと見つめてから小さく微笑み、完全にお顔を上げてトリゴエさんを見つめました。
「よくってよ。お姉さま」
私たちは、ゾロゾロとさっき見たニノミヤさんの絵のところまで戻りました。
ニノミヤさんの絵は、お部屋の入口から一番奥まった壁際に飾ってありました。
美術室は現在、少しだけお客様の来訪が途絶えて、テーブルに2組、5名のお客様がお茶を楽しんでいらっしゃるだけでした。
モーツァルトのオーボエ協奏曲が軽やかに流れています。
私としーちゃん、トリゴエさん、オガワさん、ニノミヤさんの他に、ベルバラ衣装の三年生、オチアイさんと、フレンチメイドな二年生のムラカミさんもついてきました。
7人でニノミヤさんの絵を取り囲むように立つと、背の高いトリゴエさんが自身の背後に垂れ下がっていたエンジ色の布を、カーテンを引くようにスルスルっと横に滑らせました。
エンジ色の布が私たちの背後を覆うように広がって、その絵の周辺の空間だけが美術室から一層薄暗く遮断されました。
ムラカミさんが、絵の下に置いてある照明のスイッチをひねると、絵の周辺だけがまばゆい白色ライトで一段と浮かび上がりました。
ニノミヤさんの絵は、乱暴に二つに割られて乱雑な断面を見せている真っ赤なスイカの横に、これまたパックリ割れてツヤツヤした赤いルビーのような中身を見せているザクロの実が二つ、漆黒をバックに写実的かつ大胆な色遣いで描かれた静物画でした。
新聞紙を半分にしたくらいの大きさの横向きの構図で、スイカとザクロの中身の鮮烈な赤と、スイカの皮やザクロの葉の緑とのコントラストが印象的な作品。
タイトルは、夏の円熟。
見方によっては、なんだかエロチックな感じもしてきます。
この絵は確かにスゴイと思うけれど・・・
真意が掴めず私が戸惑っていると、ニノミヤさん自らその絵を額ごと壁からはずし、クルッとひっくり返して再び壁にかけました。
「どうぞ・・・見て・・・ください・・・」
消え入るような、恥ずかしげなニノミヤさんのお声がしました。
誘われるように視線を壁に戻すと、そこには・・・
裸のマヤ・・・
一糸纏わぬ裸で横向きにソファーに寝そべる美しい女性の姿が、写真と見紛うような精巧な筆致で描かれていました。
ふんわりとした髪、瑞々しい肌の艶、まろやかな曲線を描く乳房、両内腿の間の翳り、少しだけ膝を立て気味のしなやかな右脚のライン・・・
すべてが生々しく息づいていて、溢れるばかりの迫力です。
それに、このソファーが置かれている場所は、どう見てもこの美術室。
特徴のある壁の木目まで鮮やかに再現されていました。
これは、コンピューターグラフィック?
「その絵のモデルが誰か、モリシタさん、おわかりになるわよね?」
オガワさんに聞かれて、私は黙って、ニノミヤさんのお顔を見ます。
ニノミヤさんは、薄闇の中でもお顔が真っ赤に火照ってらっしゃるのがわかります。
それでも私は不躾に、絵を見てはニノミヤさんを見て、絵を見てはニノミヤさんを見てをくりかえしてしまいます。
絵のタイトルは、紅百合の后、でした。
「クリスの裸は、本当にキレイなんだ。だからワタクシたちの創作意欲が抑えきれなくなってしまってね。頼み込んでモデルをしてもらったの」
オチアイさんが説明してくれます。
「この絵は、ワタクシたち6人の合作なの。下絵はしのぶさんが描いたのを採用して、それをパソコンに取り込んで彩色はクリスも含む全員」
「いろんなCGの技法が盛り込まれているのよ」
「このおっぱいの感じが難しかったのよねー。クリスから、私の乳首、こんなに黒ずんでいない、とかNG出されて」
「下の毛も揉めたわねー。もうちょっと濃く、いいえもっと薄く、なんて」
オガワさんとムラカミさんが楽しそうに言い合ってます。
「だからおヘソの下周辺は、ワタシが責任を持って担当したんだヨ」
しーちゃんがこれまた嬉しそうに教えてくれました。
「クリスはね、普通絶対裸にならないようなところでこっそり恥ずかしい格好をしたり、誰かに自分の裸を見てもらったりすることが好きな、ちょっと変わった子なのね。今だってこの子、モリシタさんにこの絵を見てもらって、嬉しくってしょうがないんだから」
トリゴエさんが、ニノミヤさんの肩に手を置いて、からかうみたいにモミモミしています。
「クリスったら、この文化祭中もはりきって、ずっとレースクイーン的なハイレグのえっちぽいレオタード着ているのだけれど、過度に肌を露出するような衣装は学校から厳重に禁じられてるから、仕方なくワイシャツを羽織っているの」
オガワさんがヒソヒソ声でつづけます。
「昨日はそれでも、ワイシャツ脱いで記念撮影とかできたんだけどね。今日は、風紀の先生が見回りにくるっていうウワサもあるから、とりあえず一人ワイシャツ祭りの人になってるクリスちゃん。これもこれで相当色っぽいけどね」
「そうだ。今ここでならワイシャツ脱げるじゃん?カーテンで仕切ったから向こう側からは見えないし。モリシタさんにも見せてあげなよー。セクシーなレースクイーン姿」
ムラカミさんが、イイことを思いついた、って調子ではしゃぎ気味に言いました。
私はまだ、絵と実際のニノミヤさんを飽きることなく見比べていました。
ずいぶんと無遠慮な視線だったと思います。
ニノミヤさんは、チラッとしーちゃんのほうに視線を向けます。
しーちゃんがかすかにうなずくように首を動かした気がして、ニノミヤさんが上から、ボタンを一つ一つ、ゆっくりはずし始めました。
こんなふうに、精緻に描かれた自分の裸の絵を前にして、実際の自分と見比べられるのって、どんな気持ちなんだろう?
おっぱいも、乳首も、アソコの毛も、精密なタッチで再現された自分の裸が描かれた絵の前で、シャツのボタンを一つづつはずしていくニノミヤさん・・・
その姿を見ていたら、ニノミヤさんをうらやましいと感じている自分の気持ちが隠せなくなってしまい、ニノミヤさんが感じているであろう、その恥ずかしさに私も共鳴して、そのあまりの恥ずかしさにいたたまれなくなってきてしまいました。
心臓がドキドキドキドキ高鳴って、甘美な性的高揚感をからだの奥に感じていました。
シャツを両袖から抜いたニノミヤさんは、バストの谷間も露な深い襟ぐりの濃いグリーンのレオタード姿になりました。
プロポーションは絵のまんま。
ほどよく豊かなバスト、キュッとくびれたウエスト、ゆるやかに張ったヒップ、深いハイレグの切れ込み、スラっと伸びた生脚。
背筋をピンと伸ばして私の目の前に立ったその姿から、もっと見て、よーく見て、という声と、いやっ、恥ずかしい、見ないで、っていう声が、同時に聞こえてくるようです。
私は、まじまじとニノミヤさんのしなやかな肢体を上から下まで、舐めるように見つめていました。
そして、気づいてしまいました。
「あーっ!先生。見回りご苦労様でっすー!」
ドアが開いた音と同時に、なんだかわざとらしいような誰かの大声がカーテンの向こうから聞こえてきて、カーテンの内側はちょっとしたパニックになりました。
オガワさんがニノミヤさんの絵をクルッとひっくり返して元通りの静物画に戻し、ニノミヤさんはあわててワイシャツに袖を通してボタンを嵌め始めています。
オチアイさんとムラカミさんが、スススッとカーテンの陰から出て行き、
「先生、おかげさまで大盛況ですよー。ポストカードもたっくさん売れました。さ、こっちでお茶でもどうです?」
なんて、愛想のいい声を出しています。
その調子のいい声を聞いて、私としーちゃんは顔を見合わせ、プッと吹き出してしまいました。
ニノミヤさんの身繕いも素早く終わり、オガワさんがさりげなくカーテン代わりの布を元に戻し、私としーちゃんはニノミヤさんの絵に見入っていたフリを少しした後、さりげなく振り向きました。
いつの間にか来訪のお客様がまた増えていて、テーブルはほぼ満卓、入口の近くのテーブルでは、オチアイさんとムラカミさんが見回りの先生らしい初老の女性のかたをもてなしています。
「おおっ、カゲヤマうじ。お見えになっていたのか。水くさいでござるよ」
トリゴエさんもお知り合いをみつけたのか、男装の麗人貴族に戻って、お芝居口調の大声を出しながらそちらに駆け寄っていきました。
でも、その口調、貴族じゃなくて武士・・・
「すっごく楽しかったです」
しーちゃんとワイシャツ姿に戻ったニノミヤさんが廊下まで見送ってくれました。
「しーちゃんの絵、すっごく嬉しかった。ありがとう」
「ニノミヤさんの絵も本当にステキでした。とくに裏側は、なんて言うか、本当に美しかったです。うらやましいです」
「わあ。ありがとう」
ニノミヤさんが蕩けそうな笑顔で私に握手してくれます。
「それじゃあしーちゃん、また後でね。5時くらいに講堂行って、演劇と友田さんのバンド、一緒に観よう」
「うん。また後でネー」
しーちゃんが明るく手を振ってくれて、私は図書室に急ぎました。
廊下を早足で歩いている間中、ずっと同じことばかりを考えていました。
ニノミヤさん、レオタの下、ノーブラだった・・・
ニノミヤさん、乳首、勃っていた・・・
ニノミヤさん、ハイレグの股布、濡れて色が変わってた・・・
ニノミヤさん、私に見られて、感じてた・・・
*
*しーちゃんのこと 17へ
*
2011年6月26日
しーちゃんのこと 15
私が参加している文芸部は、三年生が4人、二年生が3人、一年生が4人という小じんまりな規模の部活動でした。
先輩がたはみんな、おっとりした感じのやさしくてキレイなかたばかりで、部会のときはお菓子とか持ち寄って、まったりと好きな小説や作家さんのお話をする、みたいなのんびりホンワカした雰囲気でした。
でも、去年作った機関誌を見せてもらったら、人気アニメの主人公を借りた二次創作のBLもので、かなりアブナイ描写のあるお話があったり、すごく意味シンな言葉が並ぶ詩が掲載されていたりして、意外とムッツリさんの集まりなのかもしれないな、なんて思いました。
私も人のことは言えないですけど。
文化祭で頒布する機関誌では、私は、見開き2ページ分を埋めるノルマをいただきました。
エッセイでも、小説でも、詩でも、マンガでもイラストでも何でもいい、って言われて、かえって迷ってしまいました。
最初は、夏休みに行ったヨーロッパ旅行の紀行文を書いてみようかと思い、考えがまとまらないまま書き始めたのですが、一通り書き終えて読み返したら、なんだか小学生が書いた遠足の感想文みたいになっていて、ひどく落ち込みました。
そこでウンウン唸りながら構想を練って、今度は、私の大好きなビートルズがアルバムジャケットにして有名になった横断歩道を歩いたときのお話に絞って、自分が好きな曲やそれにまつわる思い出とかとからめて書いてみたら、なんとなくエッセイっぽい感じになりました。
部会のたびに、先輩がたからアドバイスをもらい文章を改め、なんとか締め切りまでに間に合わせることが出来ました。
とくに、去年まで部長だった麻倉さんという三年生の先輩が、絵に描いたようなお嬢様、っていう感じのかたで、いつもたおやかな笑顔で適切なアドバイスをくれて、本当に助かりました。
気恥ずかしかったらペンネームを使っても良い、ということでしたが、自分でもかなりうまく書けたと思ったので、本名で掲載することにしました。
そんなこんなで晴天の空の下、文化祭が始まりました。
一日目はクラスのお教室で、しーちゃんとお揃いの淡いグリーンのエプロンを制服の上にかけ、ヤキソバを焼きまくりました。
お役目の合間にしーちゃんや中川さんたちと他のクラスの展示を見たり、校庭に並んだ屋台で買い食いしたりして文化祭の雰囲気を満喫しました。
さすがに由緒ある学校の文化祭だけあって、外来のお客様もたくさんお見えになっていて、プラカードを掲げた着ぐるみのパンダさんやカエルさんが校庭を右往左往し、小さな子供たちが駆けずり回る人混みの中、ナンパらしく声をかけてくる他校の男の人たちのお誘いを丁重にお断りしつつ、いつもの学校とはまったく違う非日常的な空間を楽しみました。
文化祭初日は午後六時で終了となり、久しぶりにしーちゃんと二人で帰りました。
「さすがに高校の文化祭はスケールが違うヨネー。お化け屋敷も凝ってたし、クイズ大会も楽しかったー」
「ヤキソバも好評で、明日は材料足りなくなりそうだって」
「今日はちょこっとしか部のほうには顔出せなかったから、明日はしっかりお手伝いしなきゃナー」
しーちゃんも私もすっかりコーフンしていました。
「そうそう、なおちゃん。明日、そうだなー、1時から2時くらいの間に美術室に来てネ。なおちゃんにぜひ、見せたいものがあるんだ」
「へー。何?何?」
「それは言っちゃったらツマンナイから内緒だヨー。それにうちの先輩たちもなおちゃんに会いたがってるヨ」
「え?なんで?」
「だってなおちゃん、痴漢を捕まえた我が校の英雄だもん。ワタシの親友です、って先輩たちにいっぱいイバっちゃった」
しーちゃんがニコニコ顔で私の手を取りました。
「だから絶対、来て、ネ?」
「うん」
わたしもしーちゃんの手を握り返しながら返事しました。
「明日は演劇もあるし、友田さんのステージもあるし、楽しみだネー」
次の日は、世間的には休日の日でしたが、朝早くから学校に行き、クラスのお教室に顔を出してから部室に向かいました。
午前中いっぱいは図書室で、バザーのお手伝いや来訪されたお客様のお相手をしました。
愛ちゃんとあべちん、ユッコちゃん、そして曽根っちとカレシの人も、みんな別々にでしたが、遊びに来てくれました。
曽根っちとカレシの人は、ラブラブ真っ只中っていう感じですっごくシアワセそうでした。
午後になって自由時間をもらった私は、美術室に足を向けました。
美術室の扉は、西洋のお城みたいな雰囲気に綺麗に飾られていました。
正面に流麗なレタリング文字で、
『●●女子高校名物!!喫茶 紅百合の城 美術部』
って描いてあります。
その下に、CAUTION!、として、
『男性のみでのご入城は、固くお断りいたします。カップルさんなら可!』
って、ポップな書体の但し書きが貼ってありました。
入口の荘厳な感じと、名物!!っていう俗っぽい単語とのギャップが可笑しくてクスクス笑いながらドアを開けました。
「いらっしゃませぇぇ~~」
複数の女の子たちの無理矢理揃えたような華やいだ声に迎えられました。
室内は、少し薄暗い感じで、真っ白なクロスをかけたテーブルが数卓置かれ、それぞれにLEDの青い光が灯っています。
窓や壁には、ステージの緞帳のようなエンジ色の光沢のある布が何枚も垂れ下がり、その間に展示品の絵画や彫刻がまるで美術館のように、下から白い光を当てられて飾ってありました。
天井の蛍光灯も隠されて、代わりにシャンデリア風の照明や豆電球が吊るしてありました。
ゆるやかにたなびいているモーツアルトのピアノ曲。
何よりも驚いたのは、美術部員らしい人たちの衣装。
ざっと見回してお客様らしい人たちが10数人、今日は休日ですから思い思いの私服を着て、テーブルでお茶を楽しんだり、展示物を熱心に見たりしています。
全員女の子ばかり。
そのお相手をされているのが美術部員のかたたちだと思うのですが、そのかたたちの衣装がスゴイんです。
本格的なフレンチメイド服の人、ベルバラみたいな中世風衣装の人、タカラヅカ風男装の麗人、ピンクのナース服、裾が大きく広がったお姫様ドレス、人気アニメのセーラー服コスプレ・・・
ドアを閉めるのも忘れてしばしたたずんでしまいました。
「あっ、なおちゃん!来てくれたんだっ!」
私が入口で呆然としていると、奥から声がかかり、黒地に青のフリフリがキュートなゴスロリドレスを身にまとったニーソックスの女の子が、私のほうに駆けてきました。
「しーちゃんっ?」
「えへへー。前になおちゃんのお母さまにいただいたこのドレス、人前で初めて着ちゃった。どう?似合う?」
「うん。すっごくカワイイ。へーー。すっごく似合ってる!」
私の母は、以前からしーちゃんには絶対、ゴスロリが似合うと主張していて、私たちがこの高校に入学が決まったとき、お祝いにって、3人ではるばる都心までお買い物に出かけ、母が見立ててプレゼントしたものでした。
買ったその日に、私と母の前では着て見せてもらったのですが、学校の美術室でその姿を再び見るとは、思ってもいませんでした。
「しのぶさん、大きな声をお出しになって、はしたないわよ?」
艶やかな白のローブデコルテにレースのショールを纏ったスタイルの良い女性が、優雅な足取りで私たちのところへ近づいてきました。
「ごめんなさい。オガワお姉さま。ワタシ、ついはしゃいでしまって・・・」
しーちゃんもお芝居っぽく返しています。
「こちらがアナタのご学友のモリシタさまなのね。しのぶさん、ワタクシにぜひご紹介してくれませんこと?」
オガワお姉さま、と呼ばれた女性が私を見つめてニコッと笑います。
「レディたち、何をそこでコソコソやっているんだい?」
盛大にお芝居がかった声を出しながら近づいてきたのは、タカラヅカ風男装の麗人の人でした。
「あ、トリゴエお姉さま。ちょうどいいところへいらしたワ。こちらが先日お話していたモリシタさんですの」
しーちゃんは、半分吹き出しながらも、お芝居っぽく返しています。
しーちゃんが私の耳に唇を近づけてささやきます。
「ごめんネ。この空間は上流貴族の社交パーティっていう設定なのネ。だからああいうお上品ぶったしゃべり方が義務づけられてるの。テキトーに合わせといて、マリみてみたいな感じで」
私の耳からお顔を離したしーちゃんが先輩がたのほうへ向いて言いました。
「みなさん、ご紹介します。こちら、ワタシの親友のモリシタナオコさん。モリシタさん、こちら、二年生のオガワサトミお姉さま」
オガワさんが一歩前に出て、レースの手袋をした右手を差し出してきます。
「おウワサはかねがね、おうかがいしていましたわ。小川です。お会いできて光栄だわ」
私もオガワさんの手を軽く握り、
「こちらこそ、お会いできて光栄です。よろしくお願いします」
その場の雰囲気に合わせるつもりで、バレエの演技が終わったときにやるレヴェランス、片脚を軽く後ろに引いて、もう一方の脚の膝を曲げるお辞儀の動作、をスカートの布をちょこっとつまんで軽い感じで付け加えると、みなさんのお顔が、おぉっ!っていうふうになりました。
「こちらは、三年生のトリゴエキヨミお姉さま」
男装の麗人の人です。
S字を横にしたようなお鼻の下のおヒゲは、墨か何かで肌に直接描いているようです。
「アナタは勇敢な女性だとしのぶさんから聞いています。それにノリもいいようだ。はははは」
トリゴエさんがお芝居笑いをして、私の右手を強く握ってきました。
私はまたご挨拶してレヴェランス。
「そしてこちらが二年生のニノミヤクリスティーナお姉さま」
いつの間にか、しーちゃんの右横にもう一人女性が立っていました。
私より5センチくらい身長が高くて、ふうわりした柔らかそうな髪を両肩に垂らした瞳の大きなキレイな女性。
この人が・・・
お顔から視線を落としていくと、ニノミヤさんは、男物らしい大きめの白い長袖ワイシャツを腕まくりして着ていました。
胸元のボタンが3つはずれていて、その下に大きめに開いた襟ぐりの白い肌と水着と思われるグリーンの布地が見えます。
ザックリしたシャツのシルエットのため、バストはあまり目立ちませんが、充分に大きそう。
シャツの裾が膝上10センチくらいまでを隠して、その下からスラっとした白い生脚が見えています。
足元は、黒い皮のショートブーツ。
すっごくセクシー。
「はじめまして。二宮です。おウワサはしのぶさんからいろいろうかがっていますわ。今日、お話出来るのをとても楽しみにしておりましたのよ」
鈴を転がしたような、という形容詞がまさにピッタリくる、可愛らしいお声でそう言われ、なんだかドギマギしてしまいました。
「森下直子です。今日はお招きいただいてありがとうございます」
ニノミヤさんの右手をしっかり握って、レヴェランスも一番丁寧に決めました。
「はじめましてではないよ、クリス。モリシタさまは、春にしのぶさんと一度ここに来ている。そのときキミもお会いしたはずさ。ボクは憶えているよ」
「まあ、立ち話もあれだから・・・おお、ちょうどあそこのテーブルが空いている。あちらでゆっくりとお話しようではないか」
男装のトリゴエさんが相変わらず芝居ッ気たっぷりな調子でみんなを促し、お部屋奥の大きな丸いテーブルに向かいました。
ニノミヤさんが私の椅子を引いてくれて、5人でまあるくなって腰掛けました。
「今日は、モリシタさまがいらっしゃると聞いていたので、特別に用意させたものがあるの。どうぞ召し上がって」
オガワさんがそう言ってから、近くに居たナース服の人に何か言うと、美味しそうな苺のミルフィーユと紅茶がテーブルに運ばれてきました。
おしゃべりは、私が痴漢を捕まえたときのことが中心でした。
おしゃべりの間、お芝居口調を崩さなかったのはトリゴエさんだけで、他の人たちは、普通の口調に戻って興味シンシンでいろいろ聞かれました。
おしゃべりしている間も、ナース服の人やメイド服の人、ベルバラの人などが入れ替わり立ち代りご挨拶に現われ、トリゴエさんやオガワさん、しーちゃんが誰かに呼ばれて途中で席を立つと、すかさず他の人がやって来て座ってまた質問されたりと、かなり忙しくしゃべらされました。
でも、美術部の人たちはみんなノリが良くて、それでいてどこかしらお上品な感じで、みんな仲が良さそうで、私はすっごく好印象を持ちました。
*
*しーちゃんのこと 16へ
*
先輩がたはみんな、おっとりした感じのやさしくてキレイなかたばかりで、部会のときはお菓子とか持ち寄って、まったりと好きな小説や作家さんのお話をする、みたいなのんびりホンワカした雰囲気でした。
でも、去年作った機関誌を見せてもらったら、人気アニメの主人公を借りた二次創作のBLもので、かなりアブナイ描写のあるお話があったり、すごく意味シンな言葉が並ぶ詩が掲載されていたりして、意外とムッツリさんの集まりなのかもしれないな、なんて思いました。
私も人のことは言えないですけど。
文化祭で頒布する機関誌では、私は、見開き2ページ分を埋めるノルマをいただきました。
エッセイでも、小説でも、詩でも、マンガでもイラストでも何でもいい、って言われて、かえって迷ってしまいました。
最初は、夏休みに行ったヨーロッパ旅行の紀行文を書いてみようかと思い、考えがまとまらないまま書き始めたのですが、一通り書き終えて読み返したら、なんだか小学生が書いた遠足の感想文みたいになっていて、ひどく落ち込みました。
そこでウンウン唸りながら構想を練って、今度は、私の大好きなビートルズがアルバムジャケットにして有名になった横断歩道を歩いたときのお話に絞って、自分が好きな曲やそれにまつわる思い出とかとからめて書いてみたら、なんとなくエッセイっぽい感じになりました。
部会のたびに、先輩がたからアドバイスをもらい文章を改め、なんとか締め切りまでに間に合わせることが出来ました。
とくに、去年まで部長だった麻倉さんという三年生の先輩が、絵に描いたようなお嬢様、っていう感じのかたで、いつもたおやかな笑顔で適切なアドバイスをくれて、本当に助かりました。
気恥ずかしかったらペンネームを使っても良い、ということでしたが、自分でもかなりうまく書けたと思ったので、本名で掲載することにしました。
そんなこんなで晴天の空の下、文化祭が始まりました。
一日目はクラスのお教室で、しーちゃんとお揃いの淡いグリーンのエプロンを制服の上にかけ、ヤキソバを焼きまくりました。
お役目の合間にしーちゃんや中川さんたちと他のクラスの展示を見たり、校庭に並んだ屋台で買い食いしたりして文化祭の雰囲気を満喫しました。
さすがに由緒ある学校の文化祭だけあって、外来のお客様もたくさんお見えになっていて、プラカードを掲げた着ぐるみのパンダさんやカエルさんが校庭を右往左往し、小さな子供たちが駆けずり回る人混みの中、ナンパらしく声をかけてくる他校の男の人たちのお誘いを丁重にお断りしつつ、いつもの学校とはまったく違う非日常的な空間を楽しみました。
文化祭初日は午後六時で終了となり、久しぶりにしーちゃんと二人で帰りました。
「さすがに高校の文化祭はスケールが違うヨネー。お化け屋敷も凝ってたし、クイズ大会も楽しかったー」
「ヤキソバも好評で、明日は材料足りなくなりそうだって」
「今日はちょこっとしか部のほうには顔出せなかったから、明日はしっかりお手伝いしなきゃナー」
しーちゃんも私もすっかりコーフンしていました。
「そうそう、なおちゃん。明日、そうだなー、1時から2時くらいの間に美術室に来てネ。なおちゃんにぜひ、見せたいものがあるんだ」
「へー。何?何?」
「それは言っちゃったらツマンナイから内緒だヨー。それにうちの先輩たちもなおちゃんに会いたがってるヨ」
「え?なんで?」
「だってなおちゃん、痴漢を捕まえた我が校の英雄だもん。ワタシの親友です、って先輩たちにいっぱいイバっちゃった」
しーちゃんがニコニコ顔で私の手を取りました。
「だから絶対、来て、ネ?」
「うん」
わたしもしーちゃんの手を握り返しながら返事しました。
「明日は演劇もあるし、友田さんのステージもあるし、楽しみだネー」
次の日は、世間的には休日の日でしたが、朝早くから学校に行き、クラスのお教室に顔を出してから部室に向かいました。
午前中いっぱいは図書室で、バザーのお手伝いや来訪されたお客様のお相手をしました。
愛ちゃんとあべちん、ユッコちゃん、そして曽根っちとカレシの人も、みんな別々にでしたが、遊びに来てくれました。
曽根っちとカレシの人は、ラブラブ真っ只中っていう感じですっごくシアワセそうでした。
午後になって自由時間をもらった私は、美術室に足を向けました。
美術室の扉は、西洋のお城みたいな雰囲気に綺麗に飾られていました。
正面に流麗なレタリング文字で、
『●●女子高校名物!!喫茶 紅百合の城 美術部』
って描いてあります。
その下に、CAUTION!、として、
『男性のみでのご入城は、固くお断りいたします。カップルさんなら可!』
って、ポップな書体の但し書きが貼ってありました。
入口の荘厳な感じと、名物!!っていう俗っぽい単語とのギャップが可笑しくてクスクス笑いながらドアを開けました。
「いらっしゃませぇぇ~~」
複数の女の子たちの無理矢理揃えたような華やいだ声に迎えられました。
室内は、少し薄暗い感じで、真っ白なクロスをかけたテーブルが数卓置かれ、それぞれにLEDの青い光が灯っています。
窓や壁には、ステージの緞帳のようなエンジ色の光沢のある布が何枚も垂れ下がり、その間に展示品の絵画や彫刻がまるで美術館のように、下から白い光を当てられて飾ってありました。
天井の蛍光灯も隠されて、代わりにシャンデリア風の照明や豆電球が吊るしてありました。
ゆるやかにたなびいているモーツアルトのピアノ曲。
何よりも驚いたのは、美術部員らしい人たちの衣装。
ざっと見回してお客様らしい人たちが10数人、今日は休日ですから思い思いの私服を着て、テーブルでお茶を楽しんだり、展示物を熱心に見たりしています。
全員女の子ばかり。
そのお相手をされているのが美術部員のかたたちだと思うのですが、そのかたたちの衣装がスゴイんです。
本格的なフレンチメイド服の人、ベルバラみたいな中世風衣装の人、タカラヅカ風男装の麗人、ピンクのナース服、裾が大きく広がったお姫様ドレス、人気アニメのセーラー服コスプレ・・・
ドアを閉めるのも忘れてしばしたたずんでしまいました。
「あっ、なおちゃん!来てくれたんだっ!」
私が入口で呆然としていると、奥から声がかかり、黒地に青のフリフリがキュートなゴスロリドレスを身にまとったニーソックスの女の子が、私のほうに駆けてきました。
「しーちゃんっ?」
「えへへー。前になおちゃんのお母さまにいただいたこのドレス、人前で初めて着ちゃった。どう?似合う?」
「うん。すっごくカワイイ。へーー。すっごく似合ってる!」
私の母は、以前からしーちゃんには絶対、ゴスロリが似合うと主張していて、私たちがこの高校に入学が決まったとき、お祝いにって、3人ではるばる都心までお買い物に出かけ、母が見立ててプレゼントしたものでした。
買ったその日に、私と母の前では着て見せてもらったのですが、学校の美術室でその姿を再び見るとは、思ってもいませんでした。
「しのぶさん、大きな声をお出しになって、はしたないわよ?」
艶やかな白のローブデコルテにレースのショールを纏ったスタイルの良い女性が、優雅な足取りで私たちのところへ近づいてきました。
「ごめんなさい。オガワお姉さま。ワタシ、ついはしゃいでしまって・・・」
しーちゃんもお芝居っぽく返しています。
「こちらがアナタのご学友のモリシタさまなのね。しのぶさん、ワタクシにぜひご紹介してくれませんこと?」
オガワお姉さま、と呼ばれた女性が私を見つめてニコッと笑います。
「レディたち、何をそこでコソコソやっているんだい?」
盛大にお芝居がかった声を出しながら近づいてきたのは、タカラヅカ風男装の麗人の人でした。
「あ、トリゴエお姉さま。ちょうどいいところへいらしたワ。こちらが先日お話していたモリシタさんですの」
しーちゃんは、半分吹き出しながらも、お芝居っぽく返しています。
しーちゃんが私の耳に唇を近づけてささやきます。
「ごめんネ。この空間は上流貴族の社交パーティっていう設定なのネ。だからああいうお上品ぶったしゃべり方が義務づけられてるの。テキトーに合わせといて、マリみてみたいな感じで」
私の耳からお顔を離したしーちゃんが先輩がたのほうへ向いて言いました。
「みなさん、ご紹介します。こちら、ワタシの親友のモリシタナオコさん。モリシタさん、こちら、二年生のオガワサトミお姉さま」
オガワさんが一歩前に出て、レースの手袋をした右手を差し出してきます。
「おウワサはかねがね、おうかがいしていましたわ。小川です。お会いできて光栄だわ」
私もオガワさんの手を軽く握り、
「こちらこそ、お会いできて光栄です。よろしくお願いします」
その場の雰囲気に合わせるつもりで、バレエの演技が終わったときにやるレヴェランス、片脚を軽く後ろに引いて、もう一方の脚の膝を曲げるお辞儀の動作、をスカートの布をちょこっとつまんで軽い感じで付け加えると、みなさんのお顔が、おぉっ!っていうふうになりました。
「こちらは、三年生のトリゴエキヨミお姉さま」
男装の麗人の人です。
S字を横にしたようなお鼻の下のおヒゲは、墨か何かで肌に直接描いているようです。
「アナタは勇敢な女性だとしのぶさんから聞いています。それにノリもいいようだ。はははは」
トリゴエさんがお芝居笑いをして、私の右手を強く握ってきました。
私はまたご挨拶してレヴェランス。
「そしてこちらが二年生のニノミヤクリスティーナお姉さま」
いつの間にか、しーちゃんの右横にもう一人女性が立っていました。
私より5センチくらい身長が高くて、ふうわりした柔らかそうな髪を両肩に垂らした瞳の大きなキレイな女性。
この人が・・・
お顔から視線を落としていくと、ニノミヤさんは、男物らしい大きめの白い長袖ワイシャツを腕まくりして着ていました。
胸元のボタンが3つはずれていて、その下に大きめに開いた襟ぐりの白い肌と水着と思われるグリーンの布地が見えます。
ザックリしたシャツのシルエットのため、バストはあまり目立ちませんが、充分に大きそう。
シャツの裾が膝上10センチくらいまでを隠して、その下からスラっとした白い生脚が見えています。
足元は、黒い皮のショートブーツ。
すっごくセクシー。
「はじめまして。二宮です。おウワサはしのぶさんからいろいろうかがっていますわ。今日、お話出来るのをとても楽しみにしておりましたのよ」
鈴を転がしたような、という形容詞がまさにピッタリくる、可愛らしいお声でそう言われ、なんだかドギマギしてしまいました。
「森下直子です。今日はお招きいただいてありがとうございます」
ニノミヤさんの右手をしっかり握って、レヴェランスも一番丁寧に決めました。
「はじめましてではないよ、クリス。モリシタさまは、春にしのぶさんと一度ここに来ている。そのときキミもお会いしたはずさ。ボクは憶えているよ」
「まあ、立ち話もあれだから・・・おお、ちょうどあそこのテーブルが空いている。あちらでゆっくりとお話しようではないか」
男装のトリゴエさんが相変わらず芝居ッ気たっぷりな調子でみんなを促し、お部屋奥の大きな丸いテーブルに向かいました。
ニノミヤさんが私の椅子を引いてくれて、5人でまあるくなって腰掛けました。
「今日は、モリシタさまがいらっしゃると聞いていたので、特別に用意させたものがあるの。どうぞ召し上がって」
オガワさんがそう言ってから、近くに居たナース服の人に何か言うと、美味しそうな苺のミルフィーユと紅茶がテーブルに運ばれてきました。
おしゃべりは、私が痴漢を捕まえたときのことが中心でした。
おしゃべりの間、お芝居口調を崩さなかったのはトリゴエさんだけで、他の人たちは、普通の口調に戻って興味シンシンでいろいろ聞かれました。
おしゃべりしている間も、ナース服の人やメイド服の人、ベルバラの人などが入れ替わり立ち代りご挨拶に現われ、トリゴエさんやオガワさん、しーちゃんが誰かに呼ばれて途中で席を立つと、すかさず他の人がやって来て座ってまた質問されたりと、かなり忙しくしゃべらされました。
でも、美術部の人たちはみんなノリが良くて、それでいてどこかしらお上品な感じで、みんな仲が良さそうで、私はすっごく好印象を持ちました。
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*しーちゃんのこと 16へ
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