2011年2月5日

メールでロープ 01

結局、やよい先生が東京へ発つ日のお見送りはできませんでした。

やよい先生からは、あのお泊りの翌日別れて以来、連絡はありませんでした。
私が訪ねたとき、まだ家具類や日常品の荷造りなどがまったく手つかずでしたから、きっと、お引越しの準備で忙しいのだろうと思い、がまんしてがまんして、その5日後の夜遅くに、電話をしてみました。

「ごめんねー。全然電話できなくて。いろいろ忙しくてさー。でもおかげさまですっかり片付いたよ」
やよい先生のお元気そうな声が返ってきます。
「えっ?東京行く日?あさって。8月最初の日。引越し屋さんや現地での手配の関係で昼の1時には新居にいなきゃいけないから、朝の10時頃に出発かな?」
その日は、間の悪いことに高校の夏休み登校日で、午前中はつぶれてしまいます。
私は、半泣き声になっていました。

「いいよ、お見送りなんて。もう二度と逢えないワケじゃないんだから。あたしもヒマができたらこっちに来るよ。なお子の家に泊めてくれる?」
「・・・もちろんです。母もますます先生のファンになっちゃってるし・・・」
「それは光栄。だからその日、なお子は学校にちゃんと行きなさい。これは先生命令よ」
少し沈黙してから、やよい先生がつづけました。

「それになお子、その日もし逢ったら絶対泣くでしょう?あたし、そういうのちょー苦手だし。あっち行って落ち着いたらスグ電話入れるから。そしたらメール課題開始ね」
「・・・」
「あたしは、なお子のことずーっと好きだよ。今までも、これからもずーーーっと。だからなんかあったら、あたしを身内だと思っていつでも頼ってきてね」
「・・・」
「あ、ごめん。家電鳴ってる。たぶん引越し屋さん。それじゃあ切るからね。なお子、愛してるよ。ありがとね」
プチっと電話が切れました。
私は、ベッドに倒れこんでくすんくすん泣きました。

その夜はよく眠れず、次の日も朝早くに目が覚めてしまいました。
東京に行ってしまう前にやよい先生のお顔をもう一度見るとしたら、今日がラストチャンスです。
どうにもいてもたってもいられなくなってしまい、母に、お友達のところに行って来る、と言って家を出て、やよい先生のマンションがある駅に降り立ちました。

あの日のような快晴でした。
駅に降り立ったものの、考えてみるとあの日はやよい先生の愛車で連れて行かれたので、マンションへの道順がまったくわかりません。
やよい先生やユマさんにも電話してみたのですが、両方とも電波が届かないと言われて通じませんでした。
電話が通じないとなると、たとえマンションの前にたどりつけても、逢えるかどうかもわかりません。
それでもいい、と思いました。
やよい先生とユマさんに、今の時刻と、このメールに気がついたらご連絡ください、ってメールを入れてから、記憶と勘を頼りに駅周辺をあちこちさまよいました。

ようやくやよい先生のマンションの前にたどりついたのは、午前10時前。
約一時間以上、炎天下の町中をさまよっていたことになります。
汗びっしょりで、着ているTシャツが肌にペッタリ貼りついていました。

たどりついたものの、今度はどうやってやよい先生を呼び出したらいいか、わかりません。
お部屋にいるのかどうかも。
ケータイも相変わらずつながらないし、メールの返信もありません。

でも、せっかく来たんです。
たとえやよい先生が今、お部屋で寝ていたり、どっかにお出かけ中だとしても、夕方までには起きてケータイをチェックするはずです。
私は覚悟を決めました。
やよい先生が姿を現わすまで、あの日、やよい先生がお話ししてくれたミーチャンさんのように、マンションの前で待つことにしました。

マンションの入口から少し離れた塀際に、マンションのお庭にある大きな木の葉っぱが道路にはみ出て日陰を作っている場所があって、その下にちょうど飲み物の自動販売機がありました。
お茶のペットボトルを一本買い、その日陰に入って涼をとりながら、自販機の脇にもたれてしばらくボーッとします。
ときどき、やよい先生のお部屋のあたりを見上げます。
正確にどれがやよい先生のお部屋の窓かはわからないのですが。
刑事ドラマの刑事さんの張り込みみたいだな・・・
一人でクスッと笑います。
って言うよりも、これってなんだか、今流行のストーカー?

マンション前の通りは、ほとんど人通りが無く、時おり、自転車に乗った子供たちがワイワイ通り過ぎたり、自動車がブーンと走り去っていったり。
真夏日にどこの窓もピッタリ閉ざされて、ジージジジジジとアブラゼミの声だけが遠く近く響いています。

20分くらいして、駅へつづく曲がり角のほうから4~5人の人影が現われました。
だんだんこちらに近づいてきます。
私は、自販機の陰から身を乗り出して目を凝らします。

全員女性で6人いました。
道一杯に広がっておしゃべりしながら近づいてきます。
みなさん、何て言うか、結婚式の二次会帰りみたいなセミフォーマルで肩や胸元が露出した服装をされていますが、なんだか疲れているようで、少しだらだらとした歩き方でした。

右手に大きな花束を持って真ん中を歩いているのが、やよい先生でした。
両耳と胸元のアクセサリーが陽射しを受けてキラキラ光っているのが、遠くからでもわかりました。
母がプレゼントしたネックレスと私があげたイヤリング、着けてくれてるんだ。
私は、すっごく嬉しくなりました。

きっと、やよい先生のさよならパーティをした朝帰りなんでしょう。
ユマさんとシーナさんの姿もわかります。
二人とも裾の長い綺麗なドレスを着て、見違えています。
やよい先生と腕を組んだ青いドレスの女性は、ミーチャンさんでしょう。
やよい先生が見せてくれたビデオの女性に髪型や雰囲気が似ています。
その他に知らない女性が二人。
そのうちの、やよい先生よりも背の高い女性が伸びをしながら口元も押さえずに大きな欠伸をしました。
誰もこちらには目を向けず、お互いの顔に視線を向けながらガヤガヤと親しげにおしゃべりしつつ、こちらにだんだんと近づいてきました。

私は、なぜだかもう一度、自販機の陰に身を隠しました。
6人の姿を見ていたら、急に怖気づいてしまいました。
知らない女性が二人いることもあったのでしょう。
私がまだ知らない、やよい先生たちの世界・・・

これからみんなで、やよい先生のお部屋でもう一騒ぎするのでしょうか?
それとも、みんなで眠るのでしょうか?
今、やよい先生のお部屋は何も無くてガランとした状態のはずです。
明日がお引越しの日なのですから。
どうするんだろ?
ひょっとすると、あの中にもう一人、このマンションに住んでいる人がいるのかもしれない・・・

自販機の裏でそんなことを考えているうちに、おしゃべりの声がはっきり聞こえるほど、やよい先生たちは近づいてきていました。
「ふぁーあっ、と。やっとついた、ついたー」
「今日はさすがに疲れましたねー」
「さ、はやくこんなドレス脱いで、寝るべ寝るべ・・・」
「悪いねー、クーコ・・・」

私は、またそーっと顔だけ出してやよい先生たちを窺い、すぐ引っ込めます。
やよい先生たちは、ワイワイ言いながらマンションの門をくぐるところでした。
やがて、足音がマンションのエントランスのほうへゆっくり遠ざかっていきます。
私は、もう一度そーっと門のほうを窺います。

目が合いました。
青いドレスの女性。
ビデオで見たのと同じお顔をしたミーチャンさんが一人だけ、門の前にポツンと立って私のほうを見ていました。
ニッコリやさしそうに微笑んで。
私がびっくりして固まっていると、ミーチャンさんが小さくおいでおいでをするように、右手をヒラヒラさせました。
深く切れ込んだ胸元の白い肌がセクシーに揺らぎます。
私は、一瞬迷いましたが、腰を90度曲げて深くお辞儀してから、踵を返してその場を逃げるように立ち去りました。
間近で見たミーチャンさんのお顔は、大人の女性の愁いと気品と色気がある上に小さく儚げで、アンティークなフランスの貴婦人のお人形のように、すっごく綺麗でした。

私は、やよい先生たちの前に姿を現わすことができませんでした。
やよい先生のお仲間さんたちは、みんなステキでした。
それぞれ、ちょっとセクシーなドレスを堂々と着こなして、全員が夏の陽射しの中でキラキラ輝いて見えました。
高校生の私とは、まったく違う世界の住人。
自分の仕事で自分で生活している自信と余裕、みたいなものに私は、今の自分とは決定的に違う何か、を感じていました。
みんなステキな大人の女性でした。
私がその輪の中に入るのは、まだまだおこがましいと思ったんです。

私ももっといろいろとしっかりして、やよい先生たちみたいなステキな大人の女性にならなきゃ・・・
電車に揺られながら、私の気持ちはすっかりスッキリしていました。
今度、やよい先生に会ったとき、びっくりさせちゃうほどステキな女性になれるように精一杯努力しよう・・・
そう決めました。

私が降りる駅に着いたとき、ケータイがブルブルっと震えました。
やよい先生からのメールでした。
近くに来ていたなら、一緒に来ればよかったのに、みたいなことの最後に、
「ずーーーっと愛してるよ」
って書かれていました。
私は、短かくこう返信しました。

「ありがとうございます。またお逢いしましょう。ずーーーーーーっと愛しています。」


メールでロープ 02

2011年1月30日

図書室で待ちぼうけ 24

「とーってもステキな男の子に出会っちゃったの、こないだのパーティで」
ケーキを食べ終え、ティッシュで口元を拭った相原さんが弾んだ声で話し始めました。
「なんて言うか、わたしが常日頃思い描いていた理想通りの人なの」
それから相原さんは、乙女チックな表情で延々と、その男の子のことを熱心に話してくれました。

立食形式のパーティでたまたま隣り合って、向こうから話しかけてきたから最初は警戒していたのだけれど、話しているうちに趣味や興味がことごとく合うことがわかって、意気投合しちゃったそうです。
「わたしとすごく似ている感じなの。考え方とか感性とか」
「世の中を斜めに見てる、って言うか、カレのお父さんも政治家で、そこの三男なんだけど、政治なんてくだらないから絶対やりたくない、って。もっと創造的なことがしたい、って」
「お笑いのツボとか見てるネットのサイトとかがわたしともろかぶりなの。でも文科系オンリーじゃなくて、スポーツジム通ってからだも鍛えてるし柔道も習ってるんだって」
「ガキっぽいえっちな感じとかも全然なくって、すっごくイイ感じの人なの」
相原さんは、文字通り瞳をキラキラ輝かせてしゃべりつづけます。

相原さんのお母さまもパーティ会場で二人が盛り上がっているのを目撃してるから当然公認で、パーティ翌日の日曜日に早速デートをして、その日もたくさんたくさんおしゃべりして、相原さんのお家にも寄ってご挨拶したそうです。
その男の子は、現在高一で、県下でも一番優秀と言われている男子校に通っているから、相原さんもその系列の女子高を受験することに決めたそうです。
「だって、再来年にその男子校と女子高、統合するんだって。そしたらカレと一年間は、同じ高校に通えるじゃん」
勉強やスポーツに忙しいその人が自由に出来る時間が火曜日の放課後しかないので、火曜日の放課後にその人に苦手な科目のお勉強を教えてもらって、その女子高の受験に備えるんだそうです。

それが今週の火曜日、図書室に相原さんが現われなかった理由でした。

「へー。ステキな人と出会えてよかったねー・・・」
私は、どんどん沈んでいく自分の気持ちを悟られないように、つとめて明るく言いました。
「うん。これはきっと、運命的な出会い、だと思う」
相原さんは、頬を紅潮させて無邪気に言い放ちます。
照れながらも自信に満ちた相原さんがすっごく魅力的で見蕩れそうになりますが、見ているとどんどん心が痛くなってくるので、うつむいて目をそらしました。

「それでね・・・」
ずーっとしゃべりっぱなしだった相原さんが急に声を落とし、私の顔を今日初めてまっすぐに見つめました。
「しばらくの間、わたし、えっちなこと、封印することにしたの」
ひそめた声で私に言います。

やっぱり。
私には、次につづく言葉が予想できました。
落胆が顔に出ないように心の中で身構えます。

「だから、森下さんとのアソビももう、できない」
「・・・う、うん。そのほうがいいと、思う・・・」
「だよね?学校の教室や公園で裸になったりするの、やっぱりヘンだよね?ヘンなオンナだよね?」
「・・・」
「だから森下さん、わたしがあんなことやってたってこと、ぜーったい、誰にも言わないでね。秘密にしといてっ。お願いっ!お願いっ!」
私に向かってペコペコお辞儀をくりかえしています。
「うん。もちろん。今までだって誰にも言ってないし、これからも・・・」
「そうだよね?森下さんはそういう人じゃないもの、ね?あーよかったー」
心底ホッとした、って表情になりました。

「これがそのカレ」
パーティで撮ったらしい何枚かの写真を手渡してくれました。
相原さんより7~8センチくらい背の高い、どちらかと言えば細身でショートウルフカット、表情に少し幼さが残るものの整った顔立ちな、見るからに爽やかそうなスーツ姿の男の子が相原さんと並んでニーッって笑っています。
「カッコイイでしょ?」
「うん。相原さんのドレスもすっごくステキ」
私は、わざと男の子のことにはふれず、相原さんのドレスを褒めました。
実際、相原さんのドレス姿はすっごく綺麗だったんです。
髪を少しアップめにして、両肩の出たデコルテを着こなしてポーズをとる相原さんは、オトナっぽくてセクシーで、私にとってはその男の子よりも何百倍も魅力的でした。

「でも、まだ森下さんにはカレの実物、会わせてあげない。わたしたちがもっと親密になってからじゃないとカレ、森下さんに盗られちゃうかもしれないから。カレとわたしが気が合うってことは、カレと森下さんも趣味が合う、ってことでしょ?森下さんカワイイから、あぶないあぶない」
相原さんが冗談めかして、私が見ていた写真をバッと取り上げました。
「そんなことしないよ。二人はお似合いだと思う。がんばってね」
私は、なんだか疲れてきました。

「本当は、カレが望むならすぐにでもヤッチャテいいんだけど、ほら、今わたしちょっとマズイじゃない?」
相原さんがまた声をひそめます。
「えっ?なんのこと?」
「剃っちゃったじゃないアレ。毛。カレがアレ見たら、ナンダコイツ?って思われちゃうじゃない?あーあ。なんであんなバカなことしちゃったんだろう・・・生え揃うまで見せられないよー」
バカなことじゃないよ、すっごくキレイだよ・・・
言いたいけれど言えません。

それからもしばらく相原さんのお惚気につきあいました。
私の心の中は、真っ暗く沈み込んでいましたが、うんうんて相槌をうって、がんばってって激励して、そのうちお母さまがいらしてリビングでまたシュークリームをご馳走になって、世間話をして、そろそろおいとましようとおトイレを借りたとき、やっぱり生理が始まりました。
一応必要なものはバッグの中に入れてきてたので、あわてずにはすみましたが。

エレベーターまで送ってくれた相原さんは、別れ際にこんなことを言いました。
「わたし、森下さんにすっごく感謝してる。だって森下さんがパーティ行ったほうがいい、って言ってくれなかったら、行かないつもりだったんだもん。そしたらカレとも知り合えなかった」
私は、小さく左右に首を振りながらも黙っていました。
「それで、うちの母親が、森下さんってたぶん、あげまん、だって言ってた」
「あげ?まん?」
「なんだか、その人とつきあうと相手の運気が上がる女性のことをそう呼ぶんだって。母親、この前のとき森下さんの手相見てたじゃん?それでだと思うんだけど」
「ふーん・・・」
「わたし、まさしくそれだった。ありがとう。ね?」
「私、何もしてないよ・・・」
「ううん・・・」
相原さんは、ゆっくり私の背中に両腕をまわして、ぎゅーっと抱き寄せました。
でも、すぐにからだを離してニッコリ笑います。
「それじゃあまた学校で、ね?たまに教室まで会いに行くから」
「・・・うん」
「バイバーイ」
「・・・ばいばい」
もちろんキスは、くれませんでした。

エレベーターの扉が閉まって、私はズルズルとその場にへたり込みました。
なんだか疲れきっていました。
悲しいとか、寂しいとか、悔しいとかよりも、とにかく疲れて心が空っぽになっていました。

その夜は、どうにも眠くて早くにベッドに入りました。
グッスリ寝込んで夜明け近く、時計を見ると午前三時半、なぜだかパッチリと目を覚ましました。
その途端、数時間前に相原さんから聞いた言葉の数々が、雪崩のように頭の中を埋め尽くしました。
暗闇の中で上半身を起こします。

もう相原さんと秘密のアソビ、出来ないんだ。
もう相原さんとキス、出来ないんだ。
もう相原さんの裸、見れないんだ。
もう相原さんは私のからだ、さわってくれないんだ。
もう相原さんとえっちなお話、出来ないんだ。
涙がポトポトポトポト、パジャマやお布団を濡らします。

相原さんのことが大好きで、ずっと一緒にいたかった・・・
そんな気持ちに今さらながら気づきます。
私、フられちゃったんだ・・・
いいえ、相原さんにとっては、私とのことに恋愛的な感情はまったく無かったでしょう。
たとえば子供の頃、仲のいい女の子同士でお医者さんごっこをするのと同じようなアソビの感覚。
勝手に恋愛感情を抱いていたのは私だけ・・・
相原さんの中では、本当の恋愛ができそうな相手をみつけたから、子供っぽいアソビから卒業することにしただけ。
私とは、ずっと気の合うお友達でいられる、って思っているはずです。
つきあうとかフられる以前の問題だったんです。

でも私は、相原さんに対して普通のお友達以上の感情、たぶん愛情を感じていました。
それは、相原さんからカレシが出来たから、って言われてすぐに、はいそうですか、と忘れられるものではありません。
かと言って、相原さんにこれ以上、二人でえっちなことしようよ、って迫るなんて、私には到底出来ません。
幸いなのは、相原さんとは違うクラスだから、会わないと決めれば意外とかんたんに会わずにすむこと。
そうやって忘れていくのが一番なんでしょうけど・・・

同性を好きになると、こういうすれちがいがあるのか・・・

私は、ひとしきり泣いた後、いつの間にかまた眠っていました。

次の週の火曜日。
期末試験間近なので、図書室はまあまあ賑わっていました。
当然ですが、相原さんは来ません。
私は、図書室を閉めた後一応、三年一組のお教室を覗きました。
誰もいませんでした。

その次の週は、期末試験期間で図書室はお休み。
私は、かなり真剣にお勉強に励みました。

試験が終わってホッとした頃には、相原さんショックからもだいぶ立ち直って、えっちなことをしたい気分も戻ってきていました。
お部屋でひとりえっちをしていると、相原さんの手や唇の感触を思い出して、せつなくなることもありましたが・・・
雨の中を傘をささずにズブ濡れで帰って、スケスケ露出の気分を味わったりもしました。

その次の火曜日は、いつものヒマな図書室に戻り、まったりと過ごしました。
もう帰りに相原さんのクラスを覗くこともしませんでした。

その次の週の火曜日が中学生の私にとって最後の図書室当番でした。
3年生は受験が控えているので、一学期末までで現場での委員活動はおしまいということになっていました。
私は、ひそかに何か思い出になることがしたいな、って思っていました。

その日もまったりとした図書室でした。
補佐の子は、いつか少女コミックを貸してくれた2年生女子でした。
まったく利用者が来なくて、二人でずっと小さな声でおしゃべりしているうちに4時になりました。
「もう今日はいいわね。後は全部私がやるから、あなたもう上がっていいよ」
「あ、そうですか?ありがとうございます」
補佐の子がニッコリ笑います。
「先輩、ご苦労さまでした。お世話になりました。受験勉強、がんばってくださいね」
「うん。ありがとう。あなたも元気でね」
「はい!」
補佐の子が嬉々として廊下に飛び出していきました。

静まり返った私一人だけの図書室。
私は席を立ち、カウンターから出て、奥の書庫にゆっくりと歩いていきます。
一番奥まったところで立ち止まり、からだを屈めてスカートをまくり上げ、ショーツをスルスルっと脱ぎました。
上履きも脱いでショーツを足元から抜き、スカートのポケットに突っ込みます。
上履きを履き直し、そのまま閲覧机のほうまで戻り、ノーパンを意識しながらぼんやりと夏の夕方の西日が射し込む窓の外を眺めました。

あと10分位したらもう一度書庫の奥に行って、ブラウスを脱いでブラもはずすつもりです。
オールヌードになってしばらくたたずむつもりです。

相原さん、早く来ればいいのに・・・


しーちゃんのこと 01

2011年1月29日

図書室で待ちぼうけ 23

一応お教室の中に入って、相原さんの机のところまで行ってみます。
バッグとかも置いてなくて、相原さんが学校に残っている形跡はありませんでした。
どうしちゃったんだろう?
廊下に出て、図書室前の女子トイレも覗いてみましたが、個室は全部空いていました。
私は、急におろおろしてしまいます。

何か急用が出来て、今日は都合悪くなったのかもしれない・・・
何か急病になってしまって、今日は学校をお休みしたのかもしれない・・・
相原さんの携帯電話の番号を聞いておけばよかった・・・

一人とぼとぼと帰り道を歩きながら、私はどんどん寂しい気持ちになっていました。
あらためて考えてみると、私と相原さんは、お互いの家の電話番号も教えあっていませんでした。
なんだかとても心配な気持ちなのですが、かと言って、これから相原さんのお家まで訪ねていくのも大げさな気がするし。
とにかく明日のお昼休みに相原さんのクラスまで会いに行ってみよう。
いつも相原さんと別れる商店街の交差点で、そう決めました。

次の日のお昼休み。
私は、愛ちゃんやあべちんたちと集まってお弁当を食べながら、気もそぞろでした。
相原さんのクラスを覗いて、もしいなかったら、どうしよう?
クラスの他の子に聞いてみるべきよね・・・
また、学校のどこかでえっちなアソビしてるかもしれないし・・・
学校中の女子トイレを探してみようか・・・
お弁当を食べ終わって立ち上がろうとしたとき、ドア際の席の男子に大きな声で呼ばれました。
「もりしたーっ、お客さんが呼んでるよー」
ドアのところに相原さんが立って、小さく手を振っていました。

「昨日はごめんっ!森下さんに言うヒマがなくって、勝手に約束破っちゃて・・・」
相原さんは、本当に申し訳無さそうに胸の前で両手を合わせて深くお辞儀をします。
「う、うん・・・お教室に行ってもいなかったから、ちょっとビックリしちゃったけど・・・でも昨日、何かあったの?」
「昨日の昼にも、放課後行けないこと森下さんに断わっておこうと思って、ここ来たんだけど、森下さんいなかったから」
「昨日は、お昼休みも図書室当番だから・・・」
「あっ、そっかー。図書室行けば良かったんだー。わたしってバカー」
相原さんは、なんだかいつもよりルンルン明るい感じです。

「それで、昨日は何かあったの?」
「そうそう。それで、これは説明するとすっごく長くなる話なんだけど、でも森下さんには絶対聞いて欲しい話なんだけど、火曜日がもうダメになっちゃうから・・・」
「えっ?」
「あ、だから、わたしこれから火曜日の放課後に時間がとれなくなっちゃうんで、森下さんとの約束をキープすることができなくなっちゃうの、ね?だから、えーっと、今週の土曜日、時間ある?」
「え?うん・・・今週の土曜日は別に予定ないけど・・・」
「よかった!じゃあ2時にこの間と同じ場所で。またわたしの家へ来て」
「う、うん。それはいいけれど・・・でも、昨日は何かあったの?」
「うん。だからそれは土曜日に教えてあげる。ごめん。わたしこの後すぐ職員室に行かなければならないから。じゃあ、土曜日2時ねー」
そう明るく言って、相原さんは小走りに廊下を戻って行きました。
結局、相原さんがなぜ昨日現われなかったのか、私にはまったくわからないまま、土曜日を待つことになりました。

「ねえねえ、今の2年のときに同じクラスだった相原さんでしょ?」
私が自分の席に戻ると、すかさずあべちんが聞いてきました。
「うん。そう」
「なお姫、相原さんと友達だったんだー?」
「うん。3年になって図書室で会ってから、お話しするようになったの」
私は瞬間、だいたい一ヶ月前の出会いから今までのアレコレを思い浮かべて、ちょっとどきどきしながら答えます。

「へー。あの人、2年のときは無口で目立たない人だったよねー。アタシ、一回もしゃべったことなかったんじゃないかなー?」
曽根っちが横から口をはさみました。
あべちんが肯いて、
「相原さんて、なんとなく1年のときの、まだわたしらと打ち解けていない頃のなお姫に似てるなー、って思ってた」
「育ちの良さそうな感じとか、いつも一人で本読んでるとことか。だからわたし、相原さんのことひそかに、なお姫2号、って呼んでたんだ、心の中で」
お弁当箱を片付けながらあべちんがつづけます。
「相原さんって黙ってると、なんとなく人を見下しているみたいな表情に見えない?とくに目が。だから近寄り難かったんだよねー」
「でも、今見た感じだとずいぶん明るめになったねー。元々キレイな顔の人だなーとは思ってたけど、なんだか見違えちゃってた」
私は、そうそうその通り、って感じに大きく肯きました。

土曜日。
私は、何を着ていこうか迷っていました。
生憎、朝から小雨がパラつく梅雨どき特有の気温も湿度も高いジメジメしたお天気でした。
今日、相原さんから何をお話しされるのか、私には皆目見当がつきませんが、えっちな展開になって欲しいなあ、ていう願望は溢れるほどありました。
ただ、少し気になっているのは、そろそろ生理がやって来る周期なこと。
でもまあ、だいじょうぶでしょう。

やっぱり脱ぎやすい服がいいよね・・・
あれこれ考えて結局、生成りのコットンのシンプルな半袖ワンピースにしました。
約束の時間前には一応雨も上がっていたので、折りたたみの傘をバッグに入れて家を出ました。

相原さんは、この間の帰り際に着ていたインディゴブルーのざっくりした半袖ワンピース姿で待っていてくれました。
「なんだかはっきりしない天気。早くカラッと夏にならないかなあ」
相原さんが空を見上げながら、少し前を歩いていきます。
今日の相原さんがノーパンノーブラなのか、見ただけではわかりません。
でも、私はこうしていつもの相原さんに会えただけでも、とても楽しい気分になっていました。

相原さんのお家に着くと、グレーのスウェット姿な相原さんのお母さまが迎えてくれました。
「森下さん、いらっしゃい。涼しくしてお待ちしてたのよ。さ、どうぞどうぞ中へ入って」
あれ?
お母さま、いるの?

相原さんのお家におじゃまするのは、これで2回目ですが、もはやお母さまともすっかり打ち解けた感じになっていました。
そして、この前おじゃましたときよりも、相原さんもお母さまも、何て言うか楽しげで、明るめで、ウキウキしているように感じました。
あれ?

私の頭の中を急速に?が埋めていきます。
何かがおかしいんです。
私と相原さんは、靴を脱ぐとそのまま二人で相原さんのお部屋に直行しました。
相原さんのお部屋は、カーテンが大きく開かれ、明るくキレイに整頓されていました。
お部屋の真ん中に小さなガラスのテーブルが置かれて、私と相原さんはクッションを敷いて絨毯の床に向かい合って座りました。
相原さんは、カエルさんのぬいぐるみをひとつ、膝の上に置いてニコニコしています。
ほどなくドアがノックされ、お母さまがケーキと紅茶のポットを運んできてくれました。
「どうぞ召し上がって。今日はゆっくりしてってね」
お母さまが私に向けてニッコリ笑いかけてから、静かにお部屋を出て行きました。

私は、戸惑っていました。
なんて表現したらいいのか・・・
すっごくヘンな言い方ですが、健全すぎるんです。
普通にお友達のお家に遊びに来て、普通に迎えられてる感じ。
それはつまり、いたって普通なことで、戸惑うようなことでは全然ないのですが、私と相原さんがそういう健全な空間に身を置いていることに対して、大きな違和感を感じていました。

つまり、こういう状況では、今まで私と相原さんが共有してきた、えっちなこと、が入り込んでくる余地がまったく無いんです。

「じゃあ、とりあえずケーキ食べましょ?」
相原さんは、なんだかルンルン系シアワセっぽいオーラを発しながら、私を見てニッコリ微笑みます。
「う、うん」
私は、得体の知れない悪い予感が胸の中に広がるのを感じながら、相原さんがお話しし始めるのを待ちました。


図書室で待ちぼうけ 24