2011年1月29日

図書室で待ちぼうけ 23

一応お教室の中に入って、相原さんの机のところまで行ってみます。
バッグとかも置いてなくて、相原さんが学校に残っている形跡はありませんでした。
どうしちゃったんだろう?
廊下に出て、図書室前の女子トイレも覗いてみましたが、個室は全部空いていました。
私は、急におろおろしてしまいます。

何か急用が出来て、今日は都合悪くなったのかもしれない・・・
何か急病になってしまって、今日は学校をお休みしたのかもしれない・・・
相原さんの携帯電話の番号を聞いておけばよかった・・・

一人とぼとぼと帰り道を歩きながら、私はどんどん寂しい気持ちになっていました。
あらためて考えてみると、私と相原さんは、お互いの家の電話番号も教えあっていませんでした。
なんだかとても心配な気持ちなのですが、かと言って、これから相原さんのお家まで訪ねていくのも大げさな気がするし。
とにかく明日のお昼休みに相原さんのクラスまで会いに行ってみよう。
いつも相原さんと別れる商店街の交差点で、そう決めました。

次の日のお昼休み。
私は、愛ちゃんやあべちんたちと集まってお弁当を食べながら、気もそぞろでした。
相原さんのクラスを覗いて、もしいなかったら、どうしよう?
クラスの他の子に聞いてみるべきよね・・・
また、学校のどこかでえっちなアソビしてるかもしれないし・・・
学校中の女子トイレを探してみようか・・・
お弁当を食べ終わって立ち上がろうとしたとき、ドア際の席の男子に大きな声で呼ばれました。
「もりしたーっ、お客さんが呼んでるよー」
ドアのところに相原さんが立って、小さく手を振っていました。

「昨日はごめんっ!森下さんに言うヒマがなくって、勝手に約束破っちゃて・・・」
相原さんは、本当に申し訳無さそうに胸の前で両手を合わせて深くお辞儀をします。
「う、うん・・・お教室に行ってもいなかったから、ちょっとビックリしちゃったけど・・・でも昨日、何かあったの?」
「昨日の昼にも、放課後行けないこと森下さんに断わっておこうと思って、ここ来たんだけど、森下さんいなかったから」
「昨日は、お昼休みも図書室当番だから・・・」
「あっ、そっかー。図書室行けば良かったんだー。わたしってバカー」
相原さんは、なんだかいつもよりルンルン明るい感じです。

「それで、昨日は何かあったの?」
「そうそう。それで、これは説明するとすっごく長くなる話なんだけど、でも森下さんには絶対聞いて欲しい話なんだけど、火曜日がもうダメになっちゃうから・・・」
「えっ?」
「あ、だから、わたしこれから火曜日の放課後に時間がとれなくなっちゃうんで、森下さんとの約束をキープすることができなくなっちゃうの、ね?だから、えーっと、今週の土曜日、時間ある?」
「え?うん・・・今週の土曜日は別に予定ないけど・・・」
「よかった!じゃあ2時にこの間と同じ場所で。またわたしの家へ来て」
「う、うん。それはいいけれど・・・でも、昨日は何かあったの?」
「うん。だからそれは土曜日に教えてあげる。ごめん。わたしこの後すぐ職員室に行かなければならないから。じゃあ、土曜日2時ねー」
そう明るく言って、相原さんは小走りに廊下を戻って行きました。
結局、相原さんがなぜ昨日現われなかったのか、私にはまったくわからないまま、土曜日を待つことになりました。

「ねえねえ、今の2年のときに同じクラスだった相原さんでしょ?」
私が自分の席に戻ると、すかさずあべちんが聞いてきました。
「うん。そう」
「なお姫、相原さんと友達だったんだー?」
「うん。3年になって図書室で会ってから、お話しするようになったの」
私は瞬間、だいたい一ヶ月前の出会いから今までのアレコレを思い浮かべて、ちょっとどきどきしながら答えます。

「へー。あの人、2年のときは無口で目立たない人だったよねー。アタシ、一回もしゃべったことなかったんじゃないかなー?」
曽根っちが横から口をはさみました。
あべちんが肯いて、
「相原さんて、なんとなく1年のときの、まだわたしらと打ち解けていない頃のなお姫に似てるなー、って思ってた」
「育ちの良さそうな感じとか、いつも一人で本読んでるとことか。だからわたし、相原さんのことひそかに、なお姫2号、って呼んでたんだ、心の中で」
お弁当箱を片付けながらあべちんがつづけます。
「相原さんって黙ってると、なんとなく人を見下しているみたいな表情に見えない?とくに目が。だから近寄り難かったんだよねー」
「でも、今見た感じだとずいぶん明るめになったねー。元々キレイな顔の人だなーとは思ってたけど、なんだか見違えちゃってた」
私は、そうそうその通り、って感じに大きく肯きました。

土曜日。
私は、何を着ていこうか迷っていました。
生憎、朝から小雨がパラつく梅雨どき特有の気温も湿度も高いジメジメしたお天気でした。
今日、相原さんから何をお話しされるのか、私には皆目見当がつきませんが、えっちな展開になって欲しいなあ、ていう願望は溢れるほどありました。
ただ、少し気になっているのは、そろそろ生理がやって来る周期なこと。
でもまあ、だいじょうぶでしょう。

やっぱり脱ぎやすい服がいいよね・・・
あれこれ考えて結局、生成りのコットンのシンプルな半袖ワンピースにしました。
約束の時間前には一応雨も上がっていたので、折りたたみの傘をバッグに入れて家を出ました。

相原さんは、この間の帰り際に着ていたインディゴブルーのざっくりした半袖ワンピース姿で待っていてくれました。
「なんだかはっきりしない天気。早くカラッと夏にならないかなあ」
相原さんが空を見上げながら、少し前を歩いていきます。
今日の相原さんがノーパンノーブラなのか、見ただけではわかりません。
でも、私はこうしていつもの相原さんに会えただけでも、とても楽しい気分になっていました。

相原さんのお家に着くと、グレーのスウェット姿な相原さんのお母さまが迎えてくれました。
「森下さん、いらっしゃい。涼しくしてお待ちしてたのよ。さ、どうぞどうぞ中へ入って」
あれ?
お母さま、いるの?

相原さんのお家におじゃまするのは、これで2回目ですが、もはやお母さまともすっかり打ち解けた感じになっていました。
そして、この前おじゃましたときよりも、相原さんもお母さまも、何て言うか楽しげで、明るめで、ウキウキしているように感じました。
あれ?

私の頭の中を急速に?が埋めていきます。
何かがおかしいんです。
私と相原さんは、靴を脱ぐとそのまま二人で相原さんのお部屋に直行しました。
相原さんのお部屋は、カーテンが大きく開かれ、明るくキレイに整頓されていました。
お部屋の真ん中に小さなガラスのテーブルが置かれて、私と相原さんはクッションを敷いて絨毯の床に向かい合って座りました。
相原さんは、カエルさんのぬいぐるみをひとつ、膝の上に置いてニコニコしています。
ほどなくドアがノックされ、お母さまがケーキと紅茶のポットを運んできてくれました。
「どうぞ召し上がって。今日はゆっくりしてってね」
お母さまが私に向けてニッコリ笑いかけてから、静かにお部屋を出て行きました。

私は、戸惑っていました。
なんて表現したらいいのか・・・
すっごくヘンな言い方ですが、健全すぎるんです。
普通にお友達のお家に遊びに来て、普通に迎えられてる感じ。
それはつまり、いたって普通なことで、戸惑うようなことでは全然ないのですが、私と相原さんがそういう健全な空間に身を置いていることに対して、大きな違和感を感じていました。

つまり、こういう状況では、今まで私と相原さんが共有してきた、えっちなこと、が入り込んでくる余地がまったく無いんです。

「じゃあ、とりあえずケーキ食べましょ?」
相原さんは、なんだかルンルン系シアワセっぽいオーラを発しながら、私を見てニッコリ微笑みます。
「う、うん」
私は、得体の知れない悪い予感が胸の中に広がるのを感じながら、相原さんがお話しし始めるのを待ちました。


図書室で待ちぼうけ 24

2 件のコメント:

  1. ご無沙汰をしております。
    相変わらず随分寒い日が続いております。
    お風邪など召せられてませんでしょうか?

    さて短めとお話されてた当小説ですが「トラウマと私」と同じぐらいの大作になりましたね。
    読者として長く楽しめてありがたかったのですが、ご本人としてはいかがだったのでしょう。
    きっと頭の中であれやこれやでいっぱいになったと思います。

    直子さんにとってまるで春風のように通り過ぎた相原さん。
    青春(性春?)のひとコマとして思い出深いものになったと思います。

    これからも頑張って下さいね。
    楽しみにしております。

    (以前携帯からコメント送ったのですが届かなかったですか? いつのことか忘れてしまいましたけど…)

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  2. あおいさま
    コメントありがとうございます。

    やっとこさで今、最終話(24)を投稿し終えました。
    終わってみると、書き始めた頃の私は、どうやってこのお話を短めに切り上げるつもりだったんだろう?って思っちゃいます。
    楽しんでいただけたなら、幸いです。
    あと、もうあんまり長い短いは、言わないことにしました(〃∇〃)

    あと、以前送っていただいたというコメントは届いていないみたいです。携帯からだとダメなのかな(*´д`)??
    せっかく皆様にいただいたリアクションの拍手も最近全部消えてしまったみたいだし、なんだかBloggerさん、おかしいみたい。

    来週から新しいお話を始めますので、またおヒマなときにでも、よろしくお願いいたします(≧∀≦)ノ 

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