「それでねママ。今日ね、百合草先生とお話してて、決めたの。私、ピアノ習う。それで幼稚園の先生になる」
「へえー。なおちゃん小学校まで習ってたよね。それじゃあピアノ買わなきゃね。ピアノの先生ならママのお友達にうまい人いるから、任せて」
「そうなの。なおちゃん、百合草先生とそんな将来のお話をしてたの・・・」
「百合草先生。何から何まで本当にありがとうございます。直子の将来の相談相手にまでなっていただいて。それに、直子がこんなにキレイなプロポーションに育ったのも先生のレッスンのおかけですし」
「いえいえ。森下さんがこんなに素直で賢くて、ものわかりのよいお嬢さんにお育ちになったのは、こんなステキなご家庭で、奥様の愛情をたっぷりお受けになったからですわ」
ちょ、ちょっと、その本人を前にして、くすぐったくなるような誉め殺し合戦はやめて欲しい・・・
「だ、だからね、私、百合草先生にこれ、プレゼントするの」
私は、二人の会話に強引に割り込んで、ポケットからイヤリングの箱を取り出して、やよい先生の手に押しつけました。
やよい先生がそーっとふたを開けます。
「わあー、綺麗。なおちゃん、本当にもらっていいの?」
言ってから、やよい先生は、いけない、って顔をして口を押さえました。
「なおちゃんは、百合草先生にも、なおちゃん、て呼ばれてるのねえ。良かったねえ」
「あらー。このイヤリングを差し上げるの?」
「うん。百合草先生と私、お誕生日、5日違いなの」
「あらー。それなら、百合草先生もターコイズがお誕生石なのね。ちょっと待っててね」
母が席を立って、自分の部屋のほうに向かいました。
やよい先生は、その間にイヤリングを自分の耳に着けてくれます。
「どう?似合う?」
トルコ石と金の鎖がキラキラ光ってすごくキレイです。
「なお子。ありがとうね」
やよい先生が席を立って、私のおでこにチュっとしてくれました。
「そのイヤリングなら、このネックレスが合うと思うわ」
大きな声で言いながら、母がリビングに戻ってきました。
やよい先生は、あわてて自分のソファーに戻ります。
母が持ってきたのは、細い3重の金の鎖に、小さなトルコ石と白い石が交互にいくつもぶら下がった綺麗なネックレスでした。
全体にキラキラしていて、本当にキレイです。
「奥様、こんなにお高そうなもの、いけません」
やよい先生が真剣な顔で辞退しています。
「いえいえ。受け取ってくださいな。直子を5年間も見守ってくれたのですもの。森下家からの心ばかりの贈り物と思って。私も2、3回着けたことがあるので、新品ではなくて心苦しいのですけれど」
「そうですよ。先生、受け取ってください。先生ならとっても似合うと思うよ」
「だ、だってなおちゃん、こっちの白いほうの石はダイヤモンドだよ・・・」
「へー。これ、ダイヤモンドなんだ。キラキラしてキレイー」
母は、そのネックレスを手にとって、やよい先生の後ろにまわり、やよい先生の首にかけてあげました。
やよい先生は、今はタンガリーシャツなので、今一ミスマッチですが、キレイなことには変わりありません。
やよい先生もそう思ったのか、シャツのボタンを3つめまで開けて、ネックレス全体がじかに肌に触れるようにしました。
そのおかげで、やよい先生の胸の谷間も半分くらい見えるようになりました。
「ほらー。やっぱりお似合いになるわー。ステキですわー」
「そ、それでは、奥様。遠慮なくいただきます。ありがとうございます」
やよい先生が深くお辞儀したので、シャツの隙間からノーブラのおっぱいがこぼれ落ちそうでハラハラしてしまいます。
「はい。それじゃあ、ね?」
そう言って、母はやよい先生に顔を突き出しています。
「あら?私にはチュっ、はしてくれないの?」
やよい先生は顔を真っ赤にして、母のおでこに軽く唇をあてました。
私も顔が真っ赤になっています。
母は、嬉しそうにきゃっきゃと笑っています。
「それで、百合草先生は、東京でお店をお始めになるのね?」
「はい」
やよい先生は、持ってきたビニール袋から菓子折りみたいのを取り出しました。
「これ、つまらないものですが、開店のお知らせの粗品です。お受け取りください」
熨斗紙には、『BAR 百合草』 と書いてあります。
「それは、やっぱり旦那様とご一緒に?それともお友達と?」
やよい先生は、返答に困っているようです。
「あら。私、不躾なことをお聞きしてしまいましたわね。先生は、ご結婚されてなかったのでしたっけ?」
やよい先生は、しばらく母の目をじっと見つめてから、私に視線を向けて、決心したように一度頷いて、口を開きました。
「お店は、あたしのパートナーとやるんです」
そこで一度言葉を切ってから、一呼吸置いてつづけました。
「あたしは、名前の通り、女性のほうが好きなんです。お店は新宿2丁目に開きます」
私は、えっ?言ってしまっていいの?って、ドキドキし始めます。
母は、一瞬きょとんとしていましたが、すぐにいつもの調子で、
「あらー。それはますますステキねえー」
と答えました。
「私も、もう少し若ければ先生のお相手になれたかしら?先生とだったらそういう関係にもなってみたかったわー」
あっさりと大胆なことをカミングアウトする私の母です。
「いえいえ。奥様でしたら、今でも充分に魅力的ですしー」
「あらー。それなら今度お願いしようかしらー」
二人であはははーと笑っています。
私は、かなりドキドキしていましたが、二人が笑っているのを見て、また幸せな気持ちが戻ってきました。
「長々とお邪魔しちゃって、すいません。そろそろおいとましないと・・・」
時計は6時半を示していました。
「あらー。8時までにお戻りになれば良いのでしょう?まだゆっくりしていってくださいな」
「ええ。でも道が混むといけないので・・・」
「7時にここを出ればだいじょうぶよね?それなら最後に3人で記念撮影しましょう」
母はそう言うと、ソファーを立って、また自分の部屋に戻っていきました。
「なおちゃんのお母様って、さばけた人ねえー」
やよい先生がまたヒソヒソ声を出してきます。
「あたし気に入っちゃった。いや、別にそういう意味ではなくてね。ああいうお母様だから、なおちゃんみたいなステキな子になったのねー」
「なお子。あなた、お母様大事にしなさいよ。お母様泣かせるようなことしたら、あたしが絶対許さないからねっ!」
最後にお説教までされてしまいました。
「お待たせー」
母がデジカメと三脚を持って戻ってきました。
「ここがいいかな?」
母は、リビングの壁にかかっている大きなロートレックの絵の前に三脚を立てています。
すごくウキウキしていて、プリクラを撮るときの私とお友達のようです。
「構図を決めるから、お二人ともその絵の前に立って」
母は、ファインダーを覗いては、三脚ごと前に行ったり、後ろに下がったりしています。
「こんな感じかなー。ウエストから上の構図だから、そのつもりでねー」
母は、三脚から離れて、私たちのところに戻ってきました。
「先生が真ん中で、なおちゃんは右、私は左ね。一枚目は一番いい笑顔よ」
そう言うと、またカメラのところに戻ってタイマーをセットしました。
「あのカメラが3、2、1ってカウントダウンしてくれるから、そしたら一番いい笑顔ねー」
母が戻って来て、やよい先生の左側に立ちました。
私は、右手をやよい先生の背中に回して右のウエストを軽く掴み、母は左手で同じことをしています。
やよい先生は、両腕を左右に広げて、母と私のウエストに手をやっています。
カメラが本当に英語で3、2、1と言って、私たちは、いっせいにニッコリ微笑みました。
パシャっとシャッターの音と同時にフラッシュが光りました。
母がまたカメラのところに行って、今撮った写真をモニターで見ています。
「うん。いい感じに撮れてるわ。次は一番セクシーな顔ねー」
私は、帰り際にユマさんたちと撮った写真のことを思い出して、クスっと笑ってしまいます。
あのときみたいな顔を母にも見せていいのかな?
やっぱりちょっとマズイと思い、パチンとウインクすることにしました。
「三枚めー。ラストはなおちゃんは右から、私は左から、先生のほっぺにチュウね」
やよい先生がまた真っ赤になって、テレテレになっています。
あの、苛め上手なやよい先生をここまで動揺させる、私の母ってスゴイ・・・
「先生。この写真大きくプリントして、先生の新居に送ってあげるねー」
「うん。ありがとう、なおちゃん。楽しみにしてる」
ガレージまで母とお見送りに出て、やよい先生が車に乗り込む前に、みんなでそれぞれとハグしました。
「奥様。ごちそうさまでした。本当に今日はこんな高価なものまでいただいてしまって。なおちゃんのイヤリングとセットで、一生大切にします」
「東京に出て来られることがあれば、ぜひ寄ってやってくださいね」
母はニコニコ笑って、うんうんって頷いています。
「なおちゃんも一生懸命お勉強して、東京の大学においでね。あたしがまたいろいろ、遊んであげるから」
やよい先生がパチンとウインクしました。
「百合草先生。お気をつけて行ってらっしゃい。またお逢いできる日を楽しみにしていますわ」
母は、そう言うと、やよい先生のおでこにチュッとキスをしました。
やよい先生が車に乗り込み、ゆっくりとバックで道路に出ました。
母と私も道に出て、やよい先生の車が曲がって見えなくなるまで手を振っていました。
曲がり角を曲がる直前に停止して、車のお尻のライトを5回点滅させました。
「あら、なおちゃん。あれ、何のお歌だったっけ?あれ、サインなのよね?」
「うん。確かお歌だと、アイシテルだったっけかな?コンニチワ?」
私はとぼけます。
「アリガトウ、かもしれないわね。それともサヨウナラ?」
母もとぼけたことを言っています。
「あー、今日は楽しかった。先生って本当にステキねー。なおちゃん、百合草先生にめぐり逢えて良かったねー」
お庭を歩いて、玄関に戻りながら母がしみじみと言います。
私と母は手をつないでいます。
「うん。私、やよい先生大好き」
私もしみじみ答えます。
たぶん、母はこの二日間、私たちが何をしていたか、うすうす勘付いていると思います。
ただ、あんなにヘンタイなことまでやっていたとは夢にも思っていないでしょうけど・・・
母の目は、何度もしっかりとやよい先生の肌に残るキスマークを見ていました。
それでも、私には何も言わず、やよい先生のことをステキだと言い切ってしまう母のほうこそ、もっとステキだと私はあらためて思いました。
「さ、早くお風呂に入っちゃいなさい。なおちゃん、少しだけ汗くさいわよ」
母が意味ありげに笑いながら、私の背中を軽くパチンと叩きました。
*
*メールでロープ 01へ
*
直子のブログへお越しいただきまして、ありがとうございます。ここには、私が今までに体験してきた性的なあれこれを、私が私自身の思い出のために、つたない文章で書きとめておいたノートから載せていくつもりです。
2010年8月14日
グノシエンヌなトルコ石 42
車をガレージの扉の前の車止めに停めてもらいました。
「へーー。本当に大きなお家だねえ。すごーい」
やよい先生が素で驚いています。
「そ、そんなことありません。それより先生、あがって冷たいものでも飲んで行ってください。母も先生の大ファンなんです」
「うーん。やめとくよー。あたしそういうの苦手だし」
「だいじょうぶですよー」
「いやいや、悪いしー」
「それじゃあ私、家に戻ってトルコ石のイヤリング取ってきますから、ここで待っていてくださいね。母も連れてきますから」
「うん。わかったわ。その前にじゃあこれを渡しとく」
やよい先生が大きなブティックのビニール袋を渡してくれました。
「イヤリングとか子猫ちゃんとか写真とかローターとか、その他いろいろ。あの黄色いわっかの洗濯バサミはミーチャン作のオリジナルで一つしかないから、今はあげられないけど、ミーチャンに言ってもう一つ作ってもらったら送ってあげる。今日撮った写真もね」
「ヤバそうなものは、下のほうに入ってるから。くれぐれもご家族にみつからないように保管場所に知恵を絞りなさい。上のほうは、あたしのお古の洋服。なお子に似合いそうなのを選んだつもりだけど、気に入らなかったらあっさり捨てちゃっていいからさ」
「ありがとうございます。一生大切にします」
「いやいや。それほどのもんじゃないからさー」
「あのー。はしたないんですけど、その赤いワンピもいただけますか?私すっごく気に入っちゃったんです」
後部座席に放ってある、さっきまで着ていた赤いワンピースを指さして、おずおずと言いました。
「あ。これ気に入ってくれたんだ。いや、いろいろ汚れちゃったからいらないかなーと思ってさ。どうぞどうぞ。着てちょうだい。ついでにこれもあげちゃう」
ピンクのレインコートもビニール袋に押し込んでくれます。
一瞬二人で沈黙して、見つめ合いました。
どちらからともなく唇を近づかせていき、しっかりと重なり合わせました。
お互いに軽く肩を抱き合い、舌をゆったりとからませて、静かに深くくちづけ合います。
時間が止まってしまったように、しばらくそうしていました。
私の目から涙がポロポロ落ちて頬をつたいます。
始まったときと同じように、どちらからともなく唇が離れました。
私は頬の涙を手で拭い、無理矢理笑顔を作ります。
「じゃあ先生、ちょっと待っててくださいね」
私は、もらったビニール袋を手に持って、万が一、先生が帰ってしまわないように、持ってきたボストンバッグは後部座席に置いたまま助手席のドアを開けて外に出ました。
そのとき、ガレージの扉がスルスルと左右に開いていきました。
開いた隙間から玄関のほうを見ると、母が部屋着にガウンをひっかけてこちらへ歩いて来るところでした。
私は、また助手席側のドアを開けて、やよい先生に呼びかけます。
「先生、ママが出てきちゃった」
「なおちゃん、おかえりなさいー。あらー。三つ編みおさげに結ってもらったの?かっわいいわー。とっても似合ってるわよー」
母は上機嫌で、やよい先生の車の前までやって来ました。
「百合草先生。ようこそおいでくださいました。このたびはうちの直子がご迷惑をおかけして・・・」
やよい先生は、頭をかきながら車から降りて、直立不動になってから、母にペコリと頭を下げました。
「いつもいつも直子がお世話になりっぱなしで。百合草先生、お夕食は?どうぞあがって召し上がっていって」
「ありがとうございます。でもあたし8時までには帰って、引越し屋さんと打ち合わせをしなければならないもので・・・」
「あらー。でもまだ6時前ですわよ。篠原さんがご実家に戻っているので、たいしたおもてなしもできませんけれど、どうぞ遠慮なさらず一休みしていってくださいませ」
母は、身内にしかわからない言い訳をしています。
「私、一度でいいからゆっくりと百合草先生とお話してみたかったんですの。今日は嬉しい日になるわー」
「さ、とにかく、こんなところで立ち話もアレですから、さ、お車を中に入れて」
父の車は、海外出張で空港に停めてあるので、一台分スペースが空いています。
やよい先生が車を中へ入れている間に、私はお庭で尋ねました。
「ねえママ。なんで私たちが外にいること、わかったの?」
「もうそろそろ帰ってくる頃かなー、って、門の監視カメラのモニターつけっ放しにいといたの。そしたら赤い自動車がスルスルスルって来て、ガレージの前にずっと停まっているから、ガレージの扉を開けてみたの」
「あのカメラ首振りだから、ずっと同じところは映らないのよね。ちょうどなおちゃんがお外に出てきたところが映ったから、私も出てきたの」
良かった。
やよい先生とのキスは映ってなかったみたい。
たぶん。
やよい先生が車を駐車し終えたので、私は車に走って行って、自分のボストンバッグをおろしました。
やよい先生は、また別のブティックのビニール袋を持って、車から降りてきます。
母は、玄関のところでニコニコしながら手を振っています。
「なお子、本当にスゴイお家ねー。なお子って本当にお嬢様だったんだねー」
「もう、先生ったらー、やめてくださいよー」
私は、いつもの調子でやよい先生にからだをすり寄せます。
そこで、あっ、そうだ、母が見てるんだった、と思い出し、あわててからだを離しました。
「さ、どうぞどうぞ。お掃除してなくて汚れてて、お恥ずかしいのですけれど」
やよい先生は、玄関に入ってからリビングに着くまで、落ち着き無くキョロキョロと周囲を見回しています。
「さ、そちらにお掛けになって。お時間が無いのでしたら、何かつまむものでも持ってまいりますわ。今日もお暑いですからお飲み物は冷たいのがよろしいですわね?」
「いえいえ、どうぞ、おかまいなく・・・」
やよい先生は、緊張しているみたいです。
母がダイニングに消えました。
私は、やよい先生を一人にしてしまうのもかわいそうなので、ボストンバッグとお土産の入ったビニール袋を持ったまま、ソファーのやよい先生の隣に腰掛けます。
なんていう偶然なのか、家のリビングにもサティのジムノペディが流れています。
「本当に広いお家ねえ。ここに3人で住んでいるの?」
やよい先生がヒソヒソ声で話しかけてきます。
「はい。あとハウスキーパーの篠原さんとその子供の可愛いともちゃんもいるんだけど、今は田舎に帰ってます」
「へー。ハウスキーパーねえ。なお子の部屋は2階?」
「そうです。後で見ます?」
そんなことを話していると、母がグレープフルーツの切ったやつと、大きなお皿に盛ったサンドイッチをまず運んで来てから、つづいてアイスペールとグラスとリンゴジュースの大きなペットボトルを持ってきて、テーブルに置きました。
「あらあら、なおちゃん。そちらはお客様のお席でしょう?なおちゃんはこっちに座って、お飲み物を作ってちょうだい」
おしぼりをやよい先生に渡しながら、私に言いました。
私は母の隣に座り直して、両手を冷たいおしぼりで拭いてから、人数分のグラスに氷を入れてリンゴジュースを注いでかきまわします。
「直子が帰ってきたら一緒に食べようと思って、作っておいたものなんですけど。このサンドイッチ。どうぞ召し上がって」
「はい。いただきます」
やよい先生は、パクリとサンドイッチを食べました。
もう大丈夫かな。
私は立ち上がって、母に言いました。
「私、自分のお部屋に荷物置いてくるね」
私がビニール袋を手に取ると、母が、
「あら、なおちゃん。それはなあに?」
ぎくっ!
「先生にいただいたの。先生が着ていたお洋服なの。とってもキレイなのばかり」
「あらー。百合草先生、ありがとうございます。本当にお世話かけっぱなしで。ママにも後で見せてね」
「うん。整理したら見せてあげる」
そう言いながら、私は小走りに階段を上がって、自分の部屋に飛び込みました。
ビニール袋を逆さにしてベッドに中身を投げ出して、お洋服の下のヤバソウナモノ袋を中身も見ずに他の袋に移し変えてから、とりあえずベッドの下に押し込んで隠しました。
それからもう一度お洋服だけビニール袋に押し込んで、机の上に置きました。
次に、やよい先生にプレゼントするトルコ石のイヤリングをアクセサリー箱から取り出して、タオルで軽く磨いてから、大事にとっておいたケースに収めてワンピースのポケットに入れました。
ワンピースのポケットには、昨日の午後、やよい先生と最初のプレイを始めるとき、あのユルユルレオタに着替える前に、私が期待に昂ぶって濡らした、いやらしい液を拭ったティッシュが丸められて入っていました。
テイッシュはもうすっかり乾いていました。
それをみつけた瞬間、私は、昨日と今日で体験したさまざまなプレイを一気に思い出して、あらためて、その恥ずかしさに、どこかに身を隠してしまいたいほど赤面してしまいます。
火照った頬を洗面所で洗ってからリビングに戻ると、母が熱心にやよい先生に語りかけていました。
どうやら、3月に開催されたバレエ教室の発表会で、最後にやよい先生がメインで踊った「花のワルツ」がいかに素晴らしかったかを語っているようです。
やよい先生は、グレープフルーツをスプーンで突っつきつつ、テレテレになりながらも時折冗談を交えて、まんざらでもないようです。
確かにあのときのやよい先生、すごくステキでした。
でも、母がそんなに熱心に見ていたこと、そして、それをこんなに嬉しそうに、楽しそうに語っているのが意外でした。
母がこんなに楽しそうに誰かとお話しているのを見るのは、久しぶりな気がします。
母とやよい先生。
私の大好きなキレイな大人の女性二人が、楽しそうに会話しているのを見ていると、私もなんだか幸せな気分になってきて、急にお腹が空いてきました。
サンドイッチをパクパク食べて、リンゴジュースをゴクゴク飲みます。
ガウンを脱いだ母は、下は黒のピッチリしたレギンスで上はゆったり長めの無地な黒いTシャツでした。
どうもノーブラみたいです。
胸のところが二箇所、ポチっと浮き出ているように見えます。
見ていると、やよい先生もときどき、そこに視線を泳がせているみたい。
私はますます幸せな気持ちになってきます。
ようやく会話が途切れたところで、私が口を挟みます。
「でもママ。ママがサティって珍しいね」
「あら、私サティ大好きよ。ほら、今日は午後から雨だったじゃない?こんな日は気分が滅入りがちになるから、サティを聞いて落ち着かすのよ。サティのピアノ曲聞いてると心が落ち着くの。選曲間違えるともっと滅入ったりもするけどね」
そう言って、母は、あははって笑いました。
やよい先生も、そうそう、って感じで頷いています。
*
*グノシエンヌなトルコ石 43へ
*
「へーー。本当に大きなお家だねえ。すごーい」
やよい先生が素で驚いています。
「そ、そんなことありません。それより先生、あがって冷たいものでも飲んで行ってください。母も先生の大ファンなんです」
「うーん。やめとくよー。あたしそういうの苦手だし」
「だいじょうぶですよー」
「いやいや、悪いしー」
「それじゃあ私、家に戻ってトルコ石のイヤリング取ってきますから、ここで待っていてくださいね。母も連れてきますから」
「うん。わかったわ。その前にじゃあこれを渡しとく」
やよい先生が大きなブティックのビニール袋を渡してくれました。
「イヤリングとか子猫ちゃんとか写真とかローターとか、その他いろいろ。あの黄色いわっかの洗濯バサミはミーチャン作のオリジナルで一つしかないから、今はあげられないけど、ミーチャンに言ってもう一つ作ってもらったら送ってあげる。今日撮った写真もね」
「ヤバそうなものは、下のほうに入ってるから。くれぐれもご家族にみつからないように保管場所に知恵を絞りなさい。上のほうは、あたしのお古の洋服。なお子に似合いそうなのを選んだつもりだけど、気に入らなかったらあっさり捨てちゃっていいからさ」
「ありがとうございます。一生大切にします」
「いやいや。それほどのもんじゃないからさー」
「あのー。はしたないんですけど、その赤いワンピもいただけますか?私すっごく気に入っちゃったんです」
後部座席に放ってある、さっきまで着ていた赤いワンピースを指さして、おずおずと言いました。
「あ。これ気に入ってくれたんだ。いや、いろいろ汚れちゃったからいらないかなーと思ってさ。どうぞどうぞ。着てちょうだい。ついでにこれもあげちゃう」
ピンクのレインコートもビニール袋に押し込んでくれます。
一瞬二人で沈黙して、見つめ合いました。
どちらからともなく唇を近づかせていき、しっかりと重なり合わせました。
お互いに軽く肩を抱き合い、舌をゆったりとからませて、静かに深くくちづけ合います。
時間が止まってしまったように、しばらくそうしていました。
私の目から涙がポロポロ落ちて頬をつたいます。
始まったときと同じように、どちらからともなく唇が離れました。
私は頬の涙を手で拭い、無理矢理笑顔を作ります。
「じゃあ先生、ちょっと待っててくださいね」
私は、もらったビニール袋を手に持って、万が一、先生が帰ってしまわないように、持ってきたボストンバッグは後部座席に置いたまま助手席のドアを開けて外に出ました。
そのとき、ガレージの扉がスルスルと左右に開いていきました。
開いた隙間から玄関のほうを見ると、母が部屋着にガウンをひっかけてこちらへ歩いて来るところでした。
私は、また助手席側のドアを開けて、やよい先生に呼びかけます。
「先生、ママが出てきちゃった」
「なおちゃん、おかえりなさいー。あらー。三つ編みおさげに結ってもらったの?かっわいいわー。とっても似合ってるわよー」
母は上機嫌で、やよい先生の車の前までやって来ました。
「百合草先生。ようこそおいでくださいました。このたびはうちの直子がご迷惑をおかけして・・・」
やよい先生は、頭をかきながら車から降りて、直立不動になってから、母にペコリと頭を下げました。
「いつもいつも直子がお世話になりっぱなしで。百合草先生、お夕食は?どうぞあがって召し上がっていって」
「ありがとうございます。でもあたし8時までには帰って、引越し屋さんと打ち合わせをしなければならないもので・・・」
「あらー。でもまだ6時前ですわよ。篠原さんがご実家に戻っているので、たいしたおもてなしもできませんけれど、どうぞ遠慮なさらず一休みしていってくださいませ」
母は、身内にしかわからない言い訳をしています。
「私、一度でいいからゆっくりと百合草先生とお話してみたかったんですの。今日は嬉しい日になるわー」
「さ、とにかく、こんなところで立ち話もアレですから、さ、お車を中に入れて」
父の車は、海外出張で空港に停めてあるので、一台分スペースが空いています。
やよい先生が車を中へ入れている間に、私はお庭で尋ねました。
「ねえママ。なんで私たちが外にいること、わかったの?」
「もうそろそろ帰ってくる頃かなー、って、門の監視カメラのモニターつけっ放しにいといたの。そしたら赤い自動車がスルスルスルって来て、ガレージの前にずっと停まっているから、ガレージの扉を開けてみたの」
「あのカメラ首振りだから、ずっと同じところは映らないのよね。ちょうどなおちゃんがお外に出てきたところが映ったから、私も出てきたの」
良かった。
やよい先生とのキスは映ってなかったみたい。
たぶん。
やよい先生が車を駐車し終えたので、私は車に走って行って、自分のボストンバッグをおろしました。
やよい先生は、また別のブティックのビニール袋を持って、車から降りてきます。
母は、玄関のところでニコニコしながら手を振っています。
「なお子、本当にスゴイお家ねー。なお子って本当にお嬢様だったんだねー」
「もう、先生ったらー、やめてくださいよー」
私は、いつもの調子でやよい先生にからだをすり寄せます。
そこで、あっ、そうだ、母が見てるんだった、と思い出し、あわててからだを離しました。
「さ、どうぞどうぞ。お掃除してなくて汚れてて、お恥ずかしいのですけれど」
やよい先生は、玄関に入ってからリビングに着くまで、落ち着き無くキョロキョロと周囲を見回しています。
「さ、そちらにお掛けになって。お時間が無いのでしたら、何かつまむものでも持ってまいりますわ。今日もお暑いですからお飲み物は冷たいのがよろしいですわね?」
「いえいえ、どうぞ、おかまいなく・・・」
やよい先生は、緊張しているみたいです。
母がダイニングに消えました。
私は、やよい先生を一人にしてしまうのもかわいそうなので、ボストンバッグとお土産の入ったビニール袋を持ったまま、ソファーのやよい先生の隣に腰掛けます。
なんていう偶然なのか、家のリビングにもサティのジムノペディが流れています。
「本当に広いお家ねえ。ここに3人で住んでいるの?」
やよい先生がヒソヒソ声で話しかけてきます。
「はい。あとハウスキーパーの篠原さんとその子供の可愛いともちゃんもいるんだけど、今は田舎に帰ってます」
「へー。ハウスキーパーねえ。なお子の部屋は2階?」
「そうです。後で見ます?」
そんなことを話していると、母がグレープフルーツの切ったやつと、大きなお皿に盛ったサンドイッチをまず運んで来てから、つづいてアイスペールとグラスとリンゴジュースの大きなペットボトルを持ってきて、テーブルに置きました。
「あらあら、なおちゃん。そちらはお客様のお席でしょう?なおちゃんはこっちに座って、お飲み物を作ってちょうだい」
おしぼりをやよい先生に渡しながら、私に言いました。
私は母の隣に座り直して、両手を冷たいおしぼりで拭いてから、人数分のグラスに氷を入れてリンゴジュースを注いでかきまわします。
「直子が帰ってきたら一緒に食べようと思って、作っておいたものなんですけど。このサンドイッチ。どうぞ召し上がって」
「はい。いただきます」
やよい先生は、パクリとサンドイッチを食べました。
もう大丈夫かな。
私は立ち上がって、母に言いました。
「私、自分のお部屋に荷物置いてくるね」
私がビニール袋を手に取ると、母が、
「あら、なおちゃん。それはなあに?」
ぎくっ!
「先生にいただいたの。先生が着ていたお洋服なの。とってもキレイなのばかり」
「あらー。百合草先生、ありがとうございます。本当にお世話かけっぱなしで。ママにも後で見せてね」
「うん。整理したら見せてあげる」
そう言いながら、私は小走りに階段を上がって、自分の部屋に飛び込みました。
ビニール袋を逆さにしてベッドに中身を投げ出して、お洋服の下のヤバソウナモノ袋を中身も見ずに他の袋に移し変えてから、とりあえずベッドの下に押し込んで隠しました。
それからもう一度お洋服だけビニール袋に押し込んで、机の上に置きました。
次に、やよい先生にプレゼントするトルコ石のイヤリングをアクセサリー箱から取り出して、タオルで軽く磨いてから、大事にとっておいたケースに収めてワンピースのポケットに入れました。
ワンピースのポケットには、昨日の午後、やよい先生と最初のプレイを始めるとき、あのユルユルレオタに着替える前に、私が期待に昂ぶって濡らした、いやらしい液を拭ったティッシュが丸められて入っていました。
テイッシュはもうすっかり乾いていました。
それをみつけた瞬間、私は、昨日と今日で体験したさまざまなプレイを一気に思い出して、あらためて、その恥ずかしさに、どこかに身を隠してしまいたいほど赤面してしまいます。
火照った頬を洗面所で洗ってからリビングに戻ると、母が熱心にやよい先生に語りかけていました。
どうやら、3月に開催されたバレエ教室の発表会で、最後にやよい先生がメインで踊った「花のワルツ」がいかに素晴らしかったかを語っているようです。
やよい先生は、グレープフルーツをスプーンで突っつきつつ、テレテレになりながらも時折冗談を交えて、まんざらでもないようです。
確かにあのときのやよい先生、すごくステキでした。
でも、母がそんなに熱心に見ていたこと、そして、それをこんなに嬉しそうに、楽しそうに語っているのが意外でした。
母がこんなに楽しそうに誰かとお話しているのを見るのは、久しぶりな気がします。
母とやよい先生。
私の大好きなキレイな大人の女性二人が、楽しそうに会話しているのを見ていると、私もなんだか幸せな気分になってきて、急にお腹が空いてきました。
サンドイッチをパクパク食べて、リンゴジュースをゴクゴク飲みます。
ガウンを脱いだ母は、下は黒のピッチリしたレギンスで上はゆったり長めの無地な黒いTシャツでした。
どうもノーブラみたいです。
胸のところが二箇所、ポチっと浮き出ているように見えます。
見ていると、やよい先生もときどき、そこに視線を泳がせているみたい。
私はますます幸せな気持ちになってきます。
ようやく会話が途切れたところで、私が口を挟みます。
「でもママ。ママがサティって珍しいね」
「あら、私サティ大好きよ。ほら、今日は午後から雨だったじゃない?こんな日は気分が滅入りがちになるから、サティを聞いて落ち着かすのよ。サティのピアノ曲聞いてると心が落ち着くの。選曲間違えるともっと滅入ったりもするけどね」
そう言って、母は、あははって笑いました。
やよい先生も、そうそう、って感じで頷いています。
*
*グノシエンヌなトルコ石 43へ
*
2010年8月8日
グノシエンヌなトルコ石 41
「メール調教、っていうのですね。ネットで見たことあります。ご主人様がM奴隷に、ノーパンで公園に行ってオナニーしてきなさい、とか。私、ちょっと憧れてたんです」
「えーとね。まず、調教、って言葉は、あたしあんまり好きじゃないの。なんだか傲慢で。ヤル側の目線よね。英語で言うとトレーニングなんだけどさ。そっちのほうがまだマシ」
「プレイ中なら使うこともあるけどね。あと、そういう侮蔑的な言葉を言われたほうが、より萌えちゃう、っていうMな人が多いみたいだけどさ。あたしは、素のときはあんまり使いたくない。それがSとしては甘いって、ミーチャンにもよく言われるんだ・・・」
「でも、あたしが本当に好きな人となら、プレイ中はともかく日常では・・・ね。だから、あたしがなお子に出すのは、課題、ね」
「それと、ネットのメール調教の告白文なんて、たいていSMプレイを実際にしたこともないような男の妄想作文よ。あんなの真に受けると、ご近所の笑いものになるか、すぐケーサツに捕まっちゃうから」
「もちろん、妄想の中でならどんなに非常識なことだって、やっちゃってかまわないんだけどさ。ただ、それを現実でもできると思って、やろうとするおバカさんがけっこういるのよね」
「ネットで野外露出の写真を披露してる人たちだって、たいがいちゃんとしたパートナーがいつも傍らにいて、見つからない場所探したり、マズイ事態に陥らないように目を光らせてるの。なお子も今日やってみてわかったでしょ?」
「・・・はい・・・」
「なお子は、けっこうネットでえっちなページ、見てるの?」
「はい。高校入学のときにパソコン買ってもらって、両親も制限ロックとかとくにかけなかったんで、自由にいろいろ見てみました」
「もちろんキャッシュはいちいち全部消すようにして。気に入った画像や動画は、外付けのハードディスクに保存するようにして」
「あらあ、キャッシュとか知ってるんだ。なお子らしいわあ。パソコンの使い方にも研究熱心ね」
やよい先生が笑います。
「でもでも、私の場合、難しいんです。男の人がダメだから・・・」
「最初の頃、調子に乗ってワクワクしながらいろんなサイト見ていたんです。百合とか露出とかレズSMとかって検索して」
「今思うと運が良かったんだと思います。注意深くやってたのもあるんでしょうけど、私好みのサイトがけっこう順調にみつかって・・・」
「だけど、ある日、なんのサイトだったか、いきなり無修正の男の人のアレが出てきて・・・」
「私、あわててパソコンの電源コード抜いちゃいました」
やよい先生が声をあげて、あっはっは、と笑いました。
「笑いごとじゃないんですう。私、その後しばらく恐くてネット見れなかったんですからー」
「それからすごく慎重になって、あの、グロテスクな形のバイブレーターもあんまり見たくないし・・・」
「今は女の人しか絶対出てこない外国のレズビアンSMのサイトとか、文字だけのサイト、さっき言った調教告白のとか官能小説とかばっかりを見ています」
「でも、文字だけのやつも、結局男の人が出てきちゃうのが多いんですよね。男の人が苛めているまではだいじょうぶなんですけど、少しでも男の人のアレがからみそうな気配の描写が出てきたら閉じちゃいます」
「ふーん。なお子はなお子なりに、いろいろと苦労があるんだねえ。なお子の場合は、トラウマが絵で刷り込まれちゃってるからねえ・・・」
「わかった。あたしがなお子でもだいじょうぶなえっちサイトをいろいろ教えてあげるよ。あと、なお子用に編集したオススメビデオとかも送ってあげる」
「ありがとうございます。すごく助かります」
私は、本気で感謝しています。
「それと、縛りのほうも、なお子のからだはまだ完全に成長しきってはいないから、そんなにハードなことはまだしないほうがいいと思った。もう少しからだが成長して、熟してからのほうが、苛め甲斐もあるからね」
「だからバレエのストレッチとか、これからもサボっちゃダメよ。常時ノーブラもまだ早いわね」
「はーい」
「そんなことを踏まえて課題を考えてあげるわ。もちろん、なお子の被虐心が満足できて、すごく気持ち良くなれるように工夫してね。まかせておいて。あたしも無駄にミーチャンのパートナー7年もやってきたわけじゃないから」
「だから、私の課題をやっておけば、近い内になお子は、世界中のレズビアンのためのセクシーMアイドルになれるわよ」
やよい先生が冗談めかして、私にウインクしました。
「あ、でも、何かの拍子でなお子のトラウマが治って、男性を受け入れられるようになったら、スグに言ってね。人間的にはそっちのほうが喜ばしいことだろうし。あたしも絶対怒らないから。すごくがっかりはするだろうけど・・・」
「それは、絶対にない、です」
私は、力強く断言してしまいました。
「それじゃあ、とりあえず最初の課題ね。なお子は、あたしが次に許すまでマン毛を剃らないこと」
「なお子、ずいぶん気に入ってたみたいだから、ちょろっと生えてきたらすぐ剃っちゃいそうだからね。その年であんまり頻繁にカミソリあてるのも良くないような気がするし」
「はいっ!。わかりましたっ!ゆり様っ!」
私の陰毛は、やよい先生にコントロールされるんだ、と思ったらゾクゾクしてきて、思わず元気良く答えてしまいました。
車はようやく渋滞を抜け出して、国道を私の家のほうへ快調に進んで行きます。
「おーけー。これで本当にヘンタイなお子モードは終了ね。お家に入る前に通常なお子モードに切り替えなきゃ。まじめな質問するわよ」
「はい。先生」
「なお子は高校卒業したら、どうするつもりなの?」
「一応、女子大に進もうかな、って思ってます。できれば東京の」
「でも私、どこかの会社に入って、男の人にまざってOLさんとかできそうもないんで、保育園か幼稚園の先生を目指そうかな、ってこの前から考えてたんです」
「うん。それはいいねえ。なお子ならピッタリだよ。でも、あなたピアノ弾ける?」
「えっ?」
「幼稚園の先生になるなら、ピアノは必須だよ」
「そうなんですか?私小学校3年までは習っていたのだけど・・・」
「なら基本は知ってるんだ。じゃあだいじょうぶそうね。なお子の飲み込みの早さなら、ちょっと練習すれば、ちょちょいのちょいだよ」
「がんばってお勉強して、東京においで。それでまた、みんなでえっちな遊びをしようよ」
「あ、でもなお子だったら、その前にいいパートナーが見つかっちゃいそうな気もするな」
「そんな。無理です。私はやよい先生が一番いいです」
「ううん。なお子には、あたしよりもっとしっくり来る女性が現れるはずよ。だから焦らないで、じっくりいい人探しなさい。その間は、あたしがミーチャンの目を盗んで、出来る限り遊んであげるから」
私は、ミーチャンさんが本当に羨ましいです。
「バレエはどうするの?」
「つづけるつもりです。夏休みが終わったら、また通うことにしました。今度の先生は・・・」
私がその先生の名前を告げると、
「あらー。彼女が次にあたしのマンションの部屋に入るのよ。あたしの友達よ。やさしくってすごくキレイ。踊りもうまいわ」
「はい。先週お会いしてきました。やさしそうなかたでした」
「でも彼女は、ちゃんと男性の恋人がいるマジメな女性だからね。なお子、ヘンなことして困らせちゃダメよ」
やよい先生は、笑いながら左手で私の右手を握りました。
気がつくと、私の家のすぐそばまで来ていました。
時計は5時15分。
ちょっと早いかな、とも思いましたが、車はどんどん家に近づいていきます。
「あっ、あの信号を左です」
私は、正直に道順を告げました。
「ここを道なりに。あの高い塀の家です」
*
*グノシエンヌなトルコ石 42へ
*
「えーとね。まず、調教、って言葉は、あたしあんまり好きじゃないの。なんだか傲慢で。ヤル側の目線よね。英語で言うとトレーニングなんだけどさ。そっちのほうがまだマシ」
「プレイ中なら使うこともあるけどね。あと、そういう侮蔑的な言葉を言われたほうが、より萌えちゃう、っていうMな人が多いみたいだけどさ。あたしは、素のときはあんまり使いたくない。それがSとしては甘いって、ミーチャンにもよく言われるんだ・・・」
「でも、あたしが本当に好きな人となら、プレイ中はともかく日常では・・・ね。だから、あたしがなお子に出すのは、課題、ね」
「それと、ネットのメール調教の告白文なんて、たいていSMプレイを実際にしたこともないような男の妄想作文よ。あんなの真に受けると、ご近所の笑いものになるか、すぐケーサツに捕まっちゃうから」
「もちろん、妄想の中でならどんなに非常識なことだって、やっちゃってかまわないんだけどさ。ただ、それを現実でもできると思って、やろうとするおバカさんがけっこういるのよね」
「ネットで野外露出の写真を披露してる人たちだって、たいがいちゃんとしたパートナーがいつも傍らにいて、見つからない場所探したり、マズイ事態に陥らないように目を光らせてるの。なお子も今日やってみてわかったでしょ?」
「・・・はい・・・」
「なお子は、けっこうネットでえっちなページ、見てるの?」
「はい。高校入学のときにパソコン買ってもらって、両親も制限ロックとかとくにかけなかったんで、自由にいろいろ見てみました」
「もちろんキャッシュはいちいち全部消すようにして。気に入った画像や動画は、外付けのハードディスクに保存するようにして」
「あらあ、キャッシュとか知ってるんだ。なお子らしいわあ。パソコンの使い方にも研究熱心ね」
やよい先生が笑います。
「でもでも、私の場合、難しいんです。男の人がダメだから・・・」
「最初の頃、調子に乗ってワクワクしながらいろんなサイト見ていたんです。百合とか露出とかレズSMとかって検索して」
「今思うと運が良かったんだと思います。注意深くやってたのもあるんでしょうけど、私好みのサイトがけっこう順調にみつかって・・・」
「だけど、ある日、なんのサイトだったか、いきなり無修正の男の人のアレが出てきて・・・」
「私、あわててパソコンの電源コード抜いちゃいました」
やよい先生が声をあげて、あっはっは、と笑いました。
「笑いごとじゃないんですう。私、その後しばらく恐くてネット見れなかったんですからー」
「それからすごく慎重になって、あの、グロテスクな形のバイブレーターもあんまり見たくないし・・・」
「今は女の人しか絶対出てこない外国のレズビアンSMのサイトとか、文字だけのサイト、さっき言った調教告白のとか官能小説とかばっかりを見ています」
「でも、文字だけのやつも、結局男の人が出てきちゃうのが多いんですよね。男の人が苛めているまではだいじょうぶなんですけど、少しでも男の人のアレがからみそうな気配の描写が出てきたら閉じちゃいます」
「ふーん。なお子はなお子なりに、いろいろと苦労があるんだねえ。なお子の場合は、トラウマが絵で刷り込まれちゃってるからねえ・・・」
「わかった。あたしがなお子でもだいじょうぶなえっちサイトをいろいろ教えてあげるよ。あと、なお子用に編集したオススメビデオとかも送ってあげる」
「ありがとうございます。すごく助かります」
私は、本気で感謝しています。
「それと、縛りのほうも、なお子のからだはまだ完全に成長しきってはいないから、そんなにハードなことはまだしないほうがいいと思った。もう少しからだが成長して、熟してからのほうが、苛め甲斐もあるからね」
「だからバレエのストレッチとか、これからもサボっちゃダメよ。常時ノーブラもまだ早いわね」
「はーい」
「そんなことを踏まえて課題を考えてあげるわ。もちろん、なお子の被虐心が満足できて、すごく気持ち良くなれるように工夫してね。まかせておいて。あたしも無駄にミーチャンのパートナー7年もやってきたわけじゃないから」
「だから、私の課題をやっておけば、近い内になお子は、世界中のレズビアンのためのセクシーMアイドルになれるわよ」
やよい先生が冗談めかして、私にウインクしました。
「あ、でも、何かの拍子でなお子のトラウマが治って、男性を受け入れられるようになったら、スグに言ってね。人間的にはそっちのほうが喜ばしいことだろうし。あたしも絶対怒らないから。すごくがっかりはするだろうけど・・・」
「それは、絶対にない、です」
私は、力強く断言してしまいました。
「それじゃあ、とりあえず最初の課題ね。なお子は、あたしが次に許すまでマン毛を剃らないこと」
「なお子、ずいぶん気に入ってたみたいだから、ちょろっと生えてきたらすぐ剃っちゃいそうだからね。その年であんまり頻繁にカミソリあてるのも良くないような気がするし」
「はいっ!。わかりましたっ!ゆり様っ!」
私の陰毛は、やよい先生にコントロールされるんだ、と思ったらゾクゾクしてきて、思わず元気良く答えてしまいました。
車はようやく渋滞を抜け出して、国道を私の家のほうへ快調に進んで行きます。
「おーけー。これで本当にヘンタイなお子モードは終了ね。お家に入る前に通常なお子モードに切り替えなきゃ。まじめな質問するわよ」
「はい。先生」
「なお子は高校卒業したら、どうするつもりなの?」
「一応、女子大に進もうかな、って思ってます。できれば東京の」
「でも私、どこかの会社に入って、男の人にまざってOLさんとかできそうもないんで、保育園か幼稚園の先生を目指そうかな、ってこの前から考えてたんです」
「うん。それはいいねえ。なお子ならピッタリだよ。でも、あなたピアノ弾ける?」
「えっ?」
「幼稚園の先生になるなら、ピアノは必須だよ」
「そうなんですか?私小学校3年までは習っていたのだけど・・・」
「なら基本は知ってるんだ。じゃあだいじょうぶそうね。なお子の飲み込みの早さなら、ちょっと練習すれば、ちょちょいのちょいだよ」
「がんばってお勉強して、東京においで。それでまた、みんなでえっちな遊びをしようよ」
「あ、でもなお子だったら、その前にいいパートナーが見つかっちゃいそうな気もするな」
「そんな。無理です。私はやよい先生が一番いいです」
「ううん。なお子には、あたしよりもっとしっくり来る女性が現れるはずよ。だから焦らないで、じっくりいい人探しなさい。その間は、あたしがミーチャンの目を盗んで、出来る限り遊んであげるから」
私は、ミーチャンさんが本当に羨ましいです。
「バレエはどうするの?」
「つづけるつもりです。夏休みが終わったら、また通うことにしました。今度の先生は・・・」
私がその先生の名前を告げると、
「あらー。彼女が次にあたしのマンションの部屋に入るのよ。あたしの友達よ。やさしくってすごくキレイ。踊りもうまいわ」
「はい。先週お会いしてきました。やさしそうなかたでした」
「でも彼女は、ちゃんと男性の恋人がいるマジメな女性だからね。なお子、ヘンなことして困らせちゃダメよ」
やよい先生は、笑いながら左手で私の右手を握りました。
気がつくと、私の家のすぐそばまで来ていました。
時計は5時15分。
ちょっと早いかな、とも思いましたが、車はどんどん家に近づいていきます。
「あっ、あの信号を左です」
私は、正直に道順を告げました。
「ここを道なりに。あの高い塀の家です」
*
*グノシエンヌなトルコ石 42へ
*
登録:
コメント (Atom)