2021年7月24日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 02

 紛うこと無き男性おふたり。

 おひとりは、がっしり筋肉質で短髪日焼けな体育会系、茶色と紺色のストライプなラグビージャージに濃茶のバミューダパンツ、すね毛ボーボー。
 もうおひとりは、細身で天パ気味茶髪にベースボールキャップとミラーサングラスというちょっとチャラ男系、白いTシャツの上に目眩ましみたいなカラフルな幾何学模様のアロハシャツを羽織られ、ボトムは短髪のかたとおそろいのデザインのバミューダパンツ、すね毛はそうでもない。

 短髪のかたのお顔には、確かに見覚えがありました。

「悪いねー、わざわざ遠回りさせて拾ってもらっちゃって」

 行きましょうか、とおっしゃったわりに敷地内で女将さまとしばらくキャッキャウフフされていたお姉さまが、やっとお車の傍までやって来られました。

「いえいえ、親愛なるチーフからのお頼みですし、俺ら普段、こんないい車運転出来ないっすから、なんの問題もないっす」
「来るときも交代で運転してきたんすけど、やっぱりドイツの高級車は違いますね。ちょっとアクセル踏むだけでスーッと加速して」
「高速空いてたもんで、ちょっと試したらあっさり自己最速更新ですわ。なのにエンジンすげえ静かだし」

 代わる代わる興奮気味にまくし立ててこられる男性がた。

「ちょっと、あんまりやんちゃして捕まんないでよ?別荘までは安全第一でね」

「はいはい。麗しきレディおふたりのエスコートですから仰せの通りにいたしますって。クライアントに寄り沿った仕事を、というのが弊社のモットーですので」

 釘を刺されるお姉さまのお言葉にお道化た感じで返されたのは細身のほうの男性。
 このおふたりは、お姉さまの会社と提携関係にある男性用アパレル法人、スタンディングキャット社の社員の方々でした。
 確かマッチョなかたが本橋さまで、チャラ男なかたが橋本さま。

「お世話になった宿の女将さんがお迎えのあなたたち見て、なんだ、やっぱりおふたりともカレシが居るんじゃない、なんて言うから、ノーノーってちゃんと教えてあげたの」
「いえいえ、あたしらGL、あちらはBL。あたしたちと同類の同性愛者、ダンショクカのつがいよ、って」
「そうしたら女将さんてば、あら、本物のゲイカップルなの?って凄く喜んじゃって興味津々、ぜひ今度泊まりにいらして、って伝えてって頼まれちゃった。これ名刺ね」

 後部座席のドアを開けてくださった橋本さまに、旅荘の女将さまのお名刺を渡されたお姉さま。
 それから私が先に乗るように促されます。
 どうやら男性がたが運転席側、私たちは後部座席に乗るようです。

 ラグジャーの本橋さまが運転席、助手席に橋本さま、後部座席に私とお姉さま。
 本橋さまがエンジンをかけた途端、ビートの効いたダンサブルな曲が車内に響き渡りました。

 あ、この曲って確か、レディ・ガガさんのヒット曲…おふたり、こういうサウンドを大音量で響かせながらドライブされてきたんだ…意外とミーハー?
 本橋さまが慌ててボリュームを絞られ、耳障りのない音量になりました。

「今日は道が空いているみたいだし、二時間ちょっとくらいで行けそうですよ」

 助手席の橋本さまが上半身だけ捻られて、後部座席へ話しかけられてきます。

「お昼どきに着いたら先方にご迷惑だろうと思って、宿の人にランチのお弁当作ってもらったの。あなたたたちの分もあるから…ふわぁ…近づいたら途中休憩を取りましょう」

 お姉さまがあいだに小さな欠伸を挟まれ、お応えになりました。
 車は渋滞にも遭わず、快調に一般道を進んでいます。

 これから二時間、そのあいだずっとお姉さまが大人しくされているとは考えられません。
 おそらく高速道路に入ったら、私に何か恥ずかしいご命令やイタズラを仕掛けてくると思います。

 今日はまず、このかたたちの前で辱められてしまうんだ…
 ダンショクカの方々とは知っていても、密室で男性の目の前で、ということに不安と緊張を感じてしまいます。

 このおふたりはおそらく、私のはしたない性癖についてご存知のはずでした。
 お披露目は6月のファッションショー、私は破廉恥なモデルとして、彼らは裏方さんとしてご一緒。
 ステージ上でほぼ全裸な格好でイキ果てる姿までお見せしたのですが、そのときはウイッグも着けメイクも変えて別人、あくまでもショーの為に雇われたモデルという設定でした。

 その後、私がオフィスの慰み者ペットに成り果てた後も、何回かお顔を合わせていました。
 私は主にリンコさまのご命令により、全裸に短い白衣一枚だったり、極小ビキニ姿でお茶をお出ししたりしていました。

 お仕事仲間ということでイタズラ心もあったのでしょうリンコさまから、直子はもう少し男性の視線にも耐性をつけなきゃだめ、と両乳首と陰部のスジに絆創膏を貼り付けただけの全裸で応接室へ行くように命じられたときが一番恥ずかしかった。
 
 さすがにそのときは、私がお茶をお出しして立ち去った後に、あの新人の子、いつもエロい格好だけど何かの罰ゲームさせらてる?大丈夫?ってご心配いただいたそうです。
 ううん、彼女はああいうご趣味なの、って、ほのかさまがあっけらかんとお答えになられた、とお聞きしました。

 そんなふうに気心の知れたお仲間ではあるのですが、やっぱり、男性、というだけで気構えてはしまいます。
 お姉さまは橋本さまと、おそらく共通のお知り合いなのでしょうお取引先の男性のユニークなお噂話で盛り上がられています。

 お外はお陽さまギラギラ眩しいほどの快晴、車内はエアコンとバイブレーター微弱みたいな心地良い振動で快適。
 手持ち無沙汰な私は知らず知らずにふわーっと欠伸をひとつ…

 …

「んっ!」

 何かがゆっくり倒れるようなパタンという物音で目が覚めました。

「あっ、ごめん。やっぱり起こしちゃったか」

 助手席から本橋さまが覗き込まれます。

「高速に入るから運転交代したんだよ。ふたりとも運転したがりだから適当に交互に。そういう約束なんだ」

 大柄な体躯を縮こませて申し訳無さそうにおっしゃる本橋さま。
 まだぼんやりとしている頭で状況を把握しようと目だけで見回すと、私の左肩にお姉さまの右側頭部。
 どうやら高速道路に入る前に側道にいったん停車して運転手を交代したみたいで、さっきの物音はドアを閉じた音?

「チーフもぐっすり眠り込んでいるみたいだし、森下さんもそのまま、眠ってていいよ」
「どうせ、ゆうべはお楽しみだったんでしょ?遅くまで。睡眠不足はお肌の敵よ?安心して。ギリギリの安全運転で送り届けてあげるから」

 RPGの宿屋さんみたいなセリフをからかうみたいに散りばめつつ、口々におやさしくおっしゃってくださるおふたり。

 男性から、森下さん、なんて呼ばれたのいつぶりだろう?
 右肩におからだを預けてくださっているお姉さまの体温が愛おしい…
 あ、音楽がバラードに変わっている…これはジョージ・マイケルさんの…

 まだほとんど寝惚けた頭で受け取った情報に対して脈絡のないことばかり考えつつ、すぐにスブズブ眠気の沼へと引き摺り戻されたようでした。

 次に目覚めたのは、振動によってでした。
 なんだかお部屋全体がガタガタ揺れているな、と。

「んーっ!」

「あ、やっぱり起きちゃった。山道の上り坂だものね」
「さっきの凸凹がひどかったからね。誰でも起きちゃうよ」
「恨まないでね。ぼくはやめとこう可哀想だよ、ってとめたんだ…」

 男女入り混じったお声が聞こえてきます。
 寝惚けまなこを擦りつつ、周りを見ると車の後部座席。
 車は左右に高い木々が立ち並ぶ山道に入っていました。

 そこでふと自分のからだに視線を落としました。

「キャッ!」

 思わずあがる短い悲鳴、眠気も一気に吹っ飛びました。
 私のワンピースの前開きボタンがあらかた外され、はだけた胸元からおっぱいが左右とも完全にお外に露出していました。
 慌てて胸元を掻き合せると、今度は裾が大きく割れて…

「高速下りて山道に入って起きてきたチーフが、この子ぐっすり寝ていてヒマだからストリップしりとりやろう、って言いだしたんだ」

 助手席からマッチョな本橋さまのお声。

「ぼくらが負けたらぼくらのどちらかが一枚づつ服を脱ぐ、チーフが負けたら森下さんのワンピのボタンをひとつづつ外す、っていうルールで」
「ぼくは、森下さんは男性全般が苦手だって聞いていたから、やめておこうってとめたんだよ。起きたときにぼくらが裸だったらびっくりしちゃうだろうし」

 助手席の背もたれからはみ出している本橋さまの両肩が剥き出しなので、おそらくラグジャーは脱がされてしまったのでしょう。
 橋本さまのほうは無傷っぽい、と思ったら、かぶっていたはずのベースボールキャップが消えています。

「それでチーフ、いや森下さんのお姉さまは、とんでもなくイジワルなキチクだよ。どんどんわざと負けて、森下さんのワンピのボタンどんどん外しちゃうんだから」
「ほら、これが女のおっぱい、ほら、これがオマンコ、とか言いながら、森下さんのバスト揺らしたり、ラビア押し広げたり」

「勃った?」

 言い訳するみたいに懸命にご説明くださる本橋さまに、イジワルくお下品に混ぜ返されるお姉さま。

「勃ちませんよっ!女性の裸には。綺麗だな、とは思いましたけどっ!」

 子供のような反発声で嬉しいことをおっしゃってくださる本橋さま。

「しりとり始めたしょっぱなが一番笑ったよな?」

 運転席から橋本さまのお声が割り込んでいらっしゃいます。

「音楽家しりとりって決めて俺がバッハ、って言ったら、すぐにチーフがハイドン、だって」

 爆笑に包まれる車内。
 私はどうリアクションすればいいのかわからず、掻き合せた襟を握りしめつつお愛想笑い。

「さあ、直子のボタンも残すところあとひとつだし、さっさと素っ裸にしちゃいましょう」

 弾んだお姉さまのお言葉であらためて自分のからだを見遣ると、確かにおへそのとこらへんひとつしかボタンは留まっていません。
 さっきまで女神さまのように清らかな寝顔でおやすみになられていた人と同一人物とは思えない、イジワル魔法使いみたいなお姉さまの邪な笑顔。

「国名しりとりね。あたしからいくわよ、パラグアイ。次ハッシーね」

「イタリア。はいチーフ」

「ア?ア…アルゼンチン」

 お姉さまがあっさり負けられ、ついに私の前開きワンピースはフルオープン。
 ついでに左腕も組むみたいに捕まえられ、襟を合わせることも封じられました。
 運転席の橋本さまがルームミラー越しにニヤニヤ視線を注がれているのがわかります。

「あ、そこの二又、右に入って。左行くと別荘だけれど、ちょうどいい時間だしランチタイムにしましょう」
「突き当りが小さな駐車場になっているはずだから、そこに停めて。一時半くらいまで自由時間ね。二時前に着けばいいから」

 木立を抜けた先にポカンと開けた地面剥き出しのスペース。
 確かに車が三、四台くらい駐車出来そうな広さ。
 木立に沿って屋根付きのベンチも二台設えてありました。

「あたしたちは、ちょっと森の奥まで行ってお花摘んでくるから、あなたたちもこの周辺でくつろいでいて」
「はい、これあなたたちの分のお弁当」

 女将さまからいただいた風呂敷包みを広げ、上半分くらいを助手席に手渡されました。
 風呂敷を包み直され、私の右手に持たせます。

「さ、あたしたちは行きましょうか」

「えっ!?この格好でお外にですか?」

 右手に風呂敷包み、左手はお姉さまに掴まれ、私の前開きワンピは素肌全開見え放題なんです。

「大丈夫よ。ここはもう私有地なの。この山のこっちの面の森林、山全体の三分の一くらいは私有地なのよ。三名くらいの共同所有らしいけれど」
「だから部外者は立ち入れないように柵も囲ってあるはず。言わばちょっとした治外法権みたいなところなの」
「本当はここから全裸にしちゃってもいいんだけれど、森の中をちょっと歩くから。枝や葉っぱで素肌に傷つけちゃっても可哀想だから」

 さっさと車を降りられたお姉さまが後ろのトランクをお開けになり、なにやらゴソゴソと物色されています。
 やがてバーキンとは違う、それより少しだけ小ぶりなトートバッグを提げられて後部ドアまで戻ってこられました。

「さあ、行きましょう」

 強引に左手を引っ張られ車外へ出た途端、前開きワンピがマントみたいに風にひるがえります。
 全裸肢体が晩夏の陽射しのもとに丸出し。
 でも山に登って高度があるせいか、空気が澄んで陽射しのわりに嫌な暑さではありません。

「あなたたちも愉しむのはいいけれど、車の中ではやめてね」

 右手にハンディビデオカメラ、左手で私の手を握ったお姉さまが車中のおふたりにご通告。

「オトコ臭さがこもっちゃいそうだし、あたしの車にスケベな臭いを残していいのは直子だけだから」
「ヤるなら大空の下で思う存分にね。あと後始末。それだけはお願いよ」

 からかうようにおっしゃられてからグイッと手が引かれ、道があるのかないのか、木立の中の草むらを歩き始めます。
 
 背の高い木々が生い茂る木立に分け入ると太陽の光が薄れ、なんだか周囲が幻想的。
 緩い風にサワサワさざめく木々の葉っぱたち、時折チチチッとさえずる鳥さんの鳴き声。
 お伽噺の不思議の森にでも迷い込んだみたい。
 
 サクサクと踏みしめる草むらから立ち込める青臭い香り、草いきれって言うのかな?
 胸いっぱいに吸い込むとなんだか懐かしいような気持ちが込み上げてきます。
 五分も歩かないうちに周囲の木々がまばらになり、明るく開けた場所が見えてきました。

「よかったー、あってた。たぶんこっちの方角だと思ったけれど、かなり当てずっぽだったのよね」

 目の前に広がるのは広場と言うか公園と言うか、とにかく確実に人の手の入った草が生い茂るスペースでした。
 広さは、うーん、都心の小学校の校庭くらい?
 地面の基本は芝生で、ところどころ剥げて土が覗いていたり雑草が伸びていたりする、木々に囲まれたほぼ正方形の平地。
 
 真ん中らへんに太くて高くて四方に枝葉が生い茂った立派な樹木がお隣り合わせで二本あり、広めの木陰を作っています。
 私たちが出てきた位置からはずっと奥の木立沿いには、ベンチが並んだ屋根付き吹き抜けの東屋のような建物も見えます。

「去年来たときには、夜にみんなでここでバーベキューしたのよ。満天の星が今にもこぼれ落ちてきそうなほどで、キレイだったなー」

 東屋を目指しつつ、お姉さまがおっしゃいます。
 今でも見上げると文字通り、抜けるような青空です。

 東屋のある一角は、正方形を形作る一辺の木立が途切れていて、そこからお外へと車が一台通れるくらいの道が伸びているので、そこがこの広場の正面玄関なのでしょう。
 東屋は、コンクリートの四角い足場を四本の太い木の柱で囲んだ六畳くらいの長方形スペースで、中央にがっしりした木製のテーブルが置かれ、囲む形で背もたれ無しな石のベンチ。
 隅っこには、運動場などでよく見かける無骨なコンクリ製の水道手洗い場まで設けてありました。

「ここは風が通って気持ちいいわね。まずはお弁当をいただいちゃいましょう。直子はワンピを脱ぎなさい」

 お言葉の前半と後半がまったく無関係なご命令をくださったお姉さま。
 今でも全開で風にヒラヒラそよいでいるぜんぜん役に立っていないマントのようなワンピースではあるのですが、完全にからだから離してしまうことには躊躇いと抵抗が…

「ほら、お尻にこれ敷いていいから。さっさと脱ぎなさい」

 トートバッグの中から折り畳まれた水色のバスタオルを手渡してくださるお姉さま。

「残念ながら本当にここには、せっかく直子が全裸になっても見に来てくれる人は誰も現われそうにないのよね。あ、ひょっとして、それがつまんなくて出し惜しみしてるの?」

 木立側の石のベンチの前で、お姉さまがからかうみたいにおっしゃいます。
 私はビクビク周囲を見渡し、何か物音がしないかと耳をそばだてています。
 だってここってどう見ても、どなたでも立ち寄れる広場にしか思えないのですもの。

「何よりあたしが全裸の直子とランチタイムしたいのよ。ほら、マネだっけモネだっけ?大昔の絵画で貴族みたいな人たちのピクニックだか知らないけれど、草原で食事している構図」
「女性だけなぜだか全裸なのよね。あの絵みるたびにエロいなー、って思ってたんだ。CMNFってやつ?あたしたちだとCFNFだけど」

 そこまでおっしゃってから、あ、そうだ!というお顔になられたお姉さま。
 私の手からバスタオルを取り上げると同時に、背中からスルスルっとワンピースが遠ざかっていきました。

「あっ、いやんっ」

 とうとう真っ昼間の芝生広場で、赤い首輪とベージュのフラットシューズだけ残したスッポンポン。
 両乳首がみるみる背伸びを始めます。

「せっかくだからこんな屋根の下じゃなくて、あの木陰でくつろぎましょう。バスタオルもう一枚あるから、それを敷けばいいし。直子はお弁当だけ持ってきて」

 おっしゃるなり私のワンピースと水色のバスタオルを掴み、トートバッグを提げ直された右腕を私の左腕に絡められ、日向へと駆け出されるお姉さま。
 引っ張られる私も駆け出さざるを得ず、包むもの何もない無防備なおっぱいがブルンブルン乱暴に揺れてしまいます。

 全身に満遍なく陽射しを浴びつつ木陰に到着。
 お姉さまが草の上に水色バスタオルを広げられ陣地の確保。
 もう一枚広げた緑色のバスタオルの上に風呂敷包みを置いて準備完了。

 私を水色バスタオル上に横座りに座らせてからトートバッグをガサゴソ。
 細い棒状の何かを持たれて数メートル離れられました。

 棒状のものは三脚に形を変え、ビデオカメラをセット。
 そのレンズは正しく私に向いています。
 どうやら私の、草上の昼食、はデジタル映像に残されてしまうみたいです。


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