2013年6月2日

独り暮らしと私 12

 毎週の体育の授業は、お昼前の時間帯だったので、終わった後、着替えてから学食でランチをとります。
 そのときにたまたま相席になった同じ授業の人たちと、ポツポツ言葉を交わしているうちにいつしか親しくなって、体育の時間の仲良しグループみたいなものが出来ました。
 夏休み前までには、気軽におしゃべりするお友達が10人くらい出来、スポーツクラブに誘ってくれたのも、そのグループのお友達でした。

 私を含めて6人で、3時間ほどコートで汗をかき、その後は近くのファミレスでスイーツ&おしゃべりタイム。
 その席で、私にとってひどく刺激的で、興味深いお話を聞かされました。

「アヤさんて、テニスかなりうまいけど、高校のときからやってらしたの?」
 そう問いかけられた彼女は、水上綾乃さんといって、このグループのリーダー的存在な人でした。
 栗毛がかったベリーショートで、いかにもスポーツウーマンらしい、しなやかでスラッとしたからだつき。
 それでいて、よく冗談言って笑わせてくれる明るくて面倒見の良い姉御肌な性格なので、みんなから慕われていました。

 アヤさん以外の5人は、最近やっとテニスらしく打ち合いが出来る程度には上達していました。
 私も、アヤさんがお相手なら、いつまでもラリーをつづけることが出来るくらいにはなっていました。

「うまいって言われても、このグループの中でなら、っていう程度だけれどねー」
 そんな風に笑わせてくれてから、そのお話が始まりました。

「中学のときに、軟式はやっていたんだ」
「それで高校に入って、硬式をやってみようってテニス部に入ったんだけどさ」
「うちの高校、県内ではけっこうテニスで有名な学校でね。新入部員がすごい数なの」
 確かアヤさんは、東京と名古屋の中間くらいにある地方都市のご出身でした。
「うまい人はもう、最初からうまいんだ、これが。だから早々とあきらめてやめちゃった」
「それで、高校のときは、ずっと剣道部。うちの祖父が道場してたからそっちは子供の頃からやってて、なりゆきでね」

 うわーカッコイイ、とか、似合ってるーとかひとしきり大騒ぎ。
 おさまるのを待ってから、アヤさんがお芝居っぽく声をひそめてつづけました。

「それでね・・・」
「うちの高校のテニス部の妙な噂を聞いたことがあるんだ」
「何だと思う?」
 意味深そうにアヤさんが聞いてきます。

「八百長とか?」
「ドーピング?」
「部室に幽霊が出るとか」
 アヤさんは何も言わずに笑っています。
 みんな、うーん、って首をかしげて思案顔。

「聞きたい?」
 一斉にうんうんうなずく私たち。

「それがね、どうもこっそりと、ストリップテニス、っていうのをやっていたらしいの」
「えーっ!?」
「なにそれー?」
「テニスしながら、服脱いでいくわけ?」
「信じられなーい」
 と、またまた大騒ぎ。

「わたしも実際に見たわけじゃなくて、人から聞いた話なんだけれどね」
「教えてくれた人の話が妙に具体的で細かくて、ひょっとしたら本当なのかなー、とも思ったり」
「初めは、ノリのいい先輩たちが冗談ぽく始めたらしいのだけれど、それがだんだん上級生から下級生へのパワハラっぽく伝統化していったらしくて・・・」

 その後、アヤさんが説明してくれたお話を要約すると、こんな感じでした。

 ルールは、3ゲーム1セットの5セットマッチ。
 だから1セットで3ゲーム取れば、そのセットは勝ち。
 1セット負けるごとに、着ている服を一枚、脱がなくちゃならない。
 5セットマッチだから、3セット先に取ったほうが勝ち。
 つまり、そのマッチに負けた人は、三枚の着衣を脱いでいる状態になるわけです。

「だけど、いくらなんでも学校のグラウンドでもろに裸にしちゃうのはまずいでしょ?だから考えたらしいのね」
「普通なら、ウェアの下に三枚着ているじゃない?ブラとショーツ、それにアンスコ」
「それを負けるたびに一枚ずつ脱いでいくことにしたのね」
「だから正確に言えば、ノーブラノーパンテニスマッチ、ね」

「最初は誰でもアンスコを脱ぐわよね」
「2セット負けちゃうと、ノーブラかノーパン、どちらかで次のゲームに臨まなければならないわけ」
「ここは思案のしどころでさ。下ならその場でスルスルって脱げるけれど、でもその格好でゲームするのは・・・ねえ」
「上の場合だと、ウェアってたいていかぶりだから、脱がないでブラはずすのは大変よね。両腕袖から抜いて中でガサゴソ」
「たまたまかぶりのスポーツブラとかしていたら、もうしょうがない」
「そこにいる全員に囲まれた輪の中で、いったん上半身裸になってから、またウェアをかぶり直すことになるわけ」
「その頃、外国の女子選手がけっこうノーブラで試合してて話題にもなっていたから、やっぱりブラを先に取る子が多かったって」

 そのお話をアヤさんにしてくれたのは、中学の軟式テニス部時代のお友達で、アヤさんとは別の高校に進み、その高校の硬式テニス部に入って部の先輩から聞いた、ということなので、けっこう信憑性のあるお話と思う、とアヤさんは言っていました。
 アヤさんから一通りのご説明が終わると、次々に疑問点が投げかけられました。

「でもそんなこと部活の時間にしていたら、速攻で他の生徒や先生にみつかっちゃうんじゃない?」
「だからたぶん、夏休み中の練習のときとか合宿中とか、人の目が少ないときにやっていたんじゃないかな、って」
「うちの高校は、高い塀がめぐらされててグラウンド全体、外部からはぜんぜん見えなかったけれど、テニスコートは校舎の2階以上からなら丸見えだったから、一番警戒するのは学内の目のはず」

「それをやらされて、先生にチクった人とかいないのかな?」
「運動部の上下関係は、マジでやばいからねー。チクったりしたら後で何されるか、っていうのはあるよね」
「あと、そういうことやってたのは、大会とかには出れない、テニス一途ではない一部の人たちだと思うから、ノリのいい子だけ選んで、意外と楽しんでいたのかも」

「脱いじゃったらそこで終わりだったの?それからその格好で何かされるとかは?」
「負けた人たちは、その姿で玉拾いとか素振り、コートの後片付けとかをやらされたらしいわね。あと部室の掃除とか」
「ほら、ウェアのスコートって超短いじゃない。プリーツ入ってひらひらだしさ」
「だからちょっと動くとひるがえっちゃって、ワカメちゃんもオシリーナも全開、みたいな」
「それを、みんなでニヤニヤ見ていたらしいわよ」

「実際、いろんな人がいたみたい。絶対脱ぐもんかって勝負にマジになる人もいれば、対戦相手見て戦わずにギブして、その場で全部脱いじゃうあきらめのいい人」
「2敗目で下脱いでノーパンでコートを駆ける子もいたし、本当は強いはずなのにワザと負けて脱ぎたがる人とかもいたらしいよ」
「マゾっていうのかな?辱めを受けたがる人っているらしいじゃない」
「まあ、男子の目が無い女子校だからね。その手の恥じらいの概念が薄くなっちゃうのは確かだよね」

「ああ、やっぱり女子校だったのね、よかったぁー」
 グループの中で一番おっとりした性格なお友達が、心底良かったー、っていう感じでつぶやきました。
「なあに?ナナちゃん、男子も一緒だと思ってたの!?」
「男がいたら、そんなんじゃ終わらないよねー。て言うか、共学だったらありえないよー」
「ナナちゃんたら、聞きながらどんな想像してたのよー?」
 みんなに冷やかされて、ナナちゃんが真っ赤になっています。

 私も顔が赤くなっているはずです。
 ストリップテニス、という言葉が出たときから、お話を一言も聞き漏らすまいと真剣に聞いていました。

 その頃の私は、シーナさまからいただいたチョーカーを失くしてしまったショックから抜けきれてなく、ムラムラ感も相変わらず皆無でした。
 だけど、普段普通な会話ばかりしている学校のお友達から、この手のお話を聞かされるとは夢にも思っていなかった分、新鮮な驚きとともに痴的探究心がむくむく湧き上がりました。
 これは絶対、次のムラムラが来たときに役立つはず。
 そう思い、ワクワクドキドキしながら聞いていました。

 もしもこのお話を、私がムラムラ全盛期のときに聞かされていたら・・・
 お話にコーフンしすぎて、この場の全員に私のヘンタイ性癖を何らかの形でご披露してしまっていたかもしれません。

「ねえ?アヤさんも、ひょっとしたらそれがイヤでテニス部やめちゃったの?」
「ううん。最初に言ったみたいに、単純に見込みがなさそうだったから。夏休み前にはやめちゃってたわね」
「今でもそんなこと、やってるのかしら?」
「さあねー。在学中に校内でそんなウワサは一度も聞いたこと無かったし、テニス部つづけてた友達もいたけど、聞いたこと無かったな」
「たぶん、けっこう尾ひれが付いちゃって、都市伝説化してるとは思うけれど、テニス部の歴史の中で、そういうことをやってた時期があった、っていうのは本当なんじゃないかなー、って思うんだ。いろいろ具体的すぎるもの」

「なんか面白そうだから、うちらもやってみよっか?」
「えーーっ!?恥ずかしいよー」
「どこでやるのよ?」
「どっかペンションとか行ってさー」
「うちら大学生なんだから、男も呼んじゃう?」
「やだーっ、えっちーー」
「ただしイケメンに限るっ!」
「そう言えばプロのテニス選手で、つけ乳首してるってウワサになった人いなかったっけ?」
「あったあったー。いみねーって思った」
「そんなにちっこかったのかな?でもおっきくしたからってどーよ?って話よねー」
「いやいやいや、ツッコむところ、ソコじゃないから」
 私とナナちゃんを除いたみんなが、キャイキャイ盛り上がっています。

「ほらほら、アヤさんたちがお下品な話ばっかりするもんだから、ウブっ子なお姫がお困りよっ」
「ほんとだー。直子とナナちゃん、顔真っ赤ー」
 4人から盛大に冷やかされます。

 私の顔が赤いのは、照れているのではなく、ひそかにコーフンしているから。
 とくにさっき、アヤさんの口から、マゾ、という単語が発せられたとき、からだの奥がピクンと震えてしまいました。
 普通のお友達からそんな言葉を発せられると、なんだか自分が言葉責めされているように感じてしまいます。

 彼女たちからは、それまでに何度か合コンのお誘いもいただいていました。
 そのたびに私は、のらりくらりとお断りしていました。
 私、男の人、苦手だから・・・
 それがお断りの決まり文句で、私としては、いろいろな意味で本心なのですが、彼女たちはそれを、女子校育ちのお嬢様→恋愛経験が無い→男性が怖い→ウブ、と捉えているようで、いつもその線でいじられていました。
 男性がだめなら女性がいいの?って聞いてくれる人がいないことが、幸せなのか不幸なのか・・・

 その日、お家に帰ってから、早速ノーブラノーパンでテニスウェアを着てみました。
 リビングの鏡の前でラケットの素振りをしてみます。
 スイングするたびにウェアに乳首が擦れ、スコートの裾が大きくひるがえって、鏡の中で自分の無毛なアソコがチラチラと見え隠れしていました。
 うわーっ、本当にいやらしい姿・・・

 ムラムラ期の私なら即座に妄想がほとばしり、そのまま長時間オナニーへ突入していたことでしょう。
 でもその夜は、なんとなくそんな気になれず、アヤさんからお聞きしたお話を忘れないよう、パソコンに要点をメモしてから、シャワーを浴びて早々と眠ってしまいました。
 久しぶりに本気で運動して、からだが疲れきっていたこともあるのでしょうが、チョーカーがまだみつかっていない不安感からくるショック状態からも、まだまだ脱しきれていなかったのだと思います。

 その後、生理をはさんで、さも当然のようにムラムラが日に日にからだを満たし始め、今回の全裸生活スタートにつながったというわけです。
 
 あの夜ほとばしることのなかった妄想を、これから存分に味わっちゃおう。
 右手を伸ばして、テニスウェアをハンガーからはずしました。


独り暮らしと私 13


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