やっぱりTシャツとかかなあ?
スープボウルを流しで洗いながら、何を着てびしょ濡れになるかを考えています。
やわらかめな生地のぴっちりTシャツをノーブラで着て、それが濡れて肌にぴったりくっついた様子は、とてもえっちだと思います。
乳房の丸みも、もちろん乳首も丸わかりになっちゃって恥ずかしさ満点。
午前中のお買いものときにTシャツを選んじゃったことにして、汗で濡れ透けしちゃった妄想を楽しむのもいいかな。
そう言えば、異国美人さまもTシャツノーブラだったっけ。
濡れてはいなかったけれど。
一方で、びしょ濡れっていうシチュエーションにこだわるなら、そういったもともと肉感的ボディコンシャスな衣類ではなく、もっと日常的な、ごく普通のお洋服姿でなったほうが理不尽さが増して、被虐感がいっぱい出るようにも思います。
たとえば大人しめのワンピースとか、学校の制服とか、パンツスーツとか。
服装がきっちりしていればしているほど、びしょ濡れ姿にありえない感が出て、哀れさが強調される、みたいな。
そう思うのは、今まで私がびしょ濡れになったのが、制服を着ていたときが多かったからだけなのかもしれませんが。
高校の時の制服はブラウスまで一式、クリーニングに出してからビニールのままクロゼットに保管してあります。
あれを引っ張り出してくるって、ずいぶん大げさになっちゃうなー。
あれこれ考えつつふと手元を見たら、無意識のうちにスポンジでキュッキュッと鎖を擦っていました。
夏の昼下がりにキッチンで全裸で、自分の股に巻いて汚した鎖を洗っている女の子って、世界中で私だけだろうなー。
ひとりで苦笑いしてしまいました。
大学からの帰りに降られちゃったことにして、通学で着ているブラウスに下も普段着スカートでいいかな。
リネンのブラウスだと、濡れちゃうと驚くくらい見事に透けちゃって、ぴったり肌に貼りついちゃうんだよね。
今日お洗濯した中にも確かあったはず。
せっかくそろそろ乾く頃なのにまた濡らしちゃうのもなんだかなー、って思うけれど、どうせ明日もお洗濯するんだし・・・
そんな思考の流れで、これから着るお洋服は、今日洗ったお洗濯物の中から選ぶことにしました。
洗い終えた鎖や手錠をベッドルームの所定の場所に戻した後、サンルームに寄りました。
いくつかのお洗濯物に触れてみたら、2回目のお洗濯物まではだいたい乾いているようでした。
サンルームいっぱいに吊り下がった、たくさんの衣類を見て回ります。
下着の数がすごい。
やっぱり下着まできっちり着けたほうがリアルさが増して、妄想しやすいかも。
そんなの着けていたら風邪をひいてしまうわよ?なんて言われてやさしく脱がされて・・・とか。
いろいろ考えながらサンルームの窓際まで来て、一番最初にお洗濯したものを干した一角で、とあるお洋服に視線が釘付けになりました。
そうだった!
これがあったんだ。
そのお洋服を見た途端、私の頭の中に、これから私が受ける恥辱のイメージが滾々と湧き出てきました。
そのお洋服は、テニスウェア。
お盆の頃に、大学のお友達に誘われて数人で、都内のスポーツクラブの室内コートで遊んだときに着用したものでした。
ということは私ったら、2週間位ずっと、お洗濯していなかったんだ。
大学の体育の授業で、なんとなく選択したテニス。
高校のとき、ほんのお遊び程度に数回、お友達にお借りしたラケットを振ったことはありましたが、まったくの初心者。
ウェアがかわいい着てみたい、っていう理由だけで選んだようなものでした。
大学での体育の授業は、出席さえしていればそれでいい、みたいな感じって、母ややよい先生に聞いていたので安易に選んじゃいました。
あわよくば、ちょっとでもテニスが上手になったらいいなー、なんて思いながら。
実際の授業では、そこそこ出来る人たちと初心者グループに自然に二分され、出来る人たちはコートで試合形式、初心者グループは講師の先生のご指導を受けて素振りから、みたいな形になって、それぞれそれなりにキャイキャイ楽しんでいました。
ラケットやシューズ、ウェアなど一揃いは、ネットでざっと検索して目星をつけてから、ひとりで繁華街のスポーツショップに買いに行きました。
初心者なのですけれど・・・って売り場のお姉さんに告げたら、その感じのいいお姉さんがとても親切にご相談にのってくださり、ネットで見ていいなと思ったもので揃えることが出来ました。
ウェアは、胸元が大きめに開いたタンクトップタイプのものにもすっごく惹かれたのですが、私の性格上、それを着た途端にヘンなスイッチが入ってしまう予感もあり、オーソドックスなポロシャツタイプのものにしました。
テニスのときはスカート、じゃなくてスコートって呼ぶのでしたね、の下に、見られることが前提の下着、アンダースコートっていうのを穿く、ということは知っていました。
なので、スコートは思い切って、かなり丈が短めのにしちゃいました。
プリーツがたくさん入ったヒラヒラでかわいいやつ。
私の持っているスカート類の中では、だんとつの短さ。
アンダースコートも、お尻にフリルがたくさん付いた、ちょっと派手過ぎかもだけれど超かわいいの、に決めました。
上下とも全部真っ白。
ネットで見て一目で気に入った、とあるカッコイイ日本の女子プロテニスプレイヤーのかたのお写真をお姉さんにお見せして、お姉さんのアドバイスも参考に選びました。
初めてのテニス授業の日。
スコート短すぎて悪目立ちしちゃったらどうしよう、って着替えるのがドキドキだったのですが、やっぱりみんなお年頃な女子大生。
男性の目が無い安心感もあってか、胸の谷間を見せつけている人、私のよりも短そうなワンピスタイルのウェアの人、からだの線が丸わかりなピチピチデザインのウェアの人とか少なからずいて、ドキドキは杞憂に終わりました。
もうちょっと大胆にしてもよかったかな、なんて思ったりもして。
このテニス授業を受け始めてからしばらくの間、私はひとつ、恥ずかしすぎる勘違いをずっとしていました。
テニスウェアに着替えるとき、スカートを穿いたままショーツを脱いで小さくたたんでからバッグの奥深くにしまい、代わりにアンダースコートを穿いた後にスカートをはずしてスコートを着けていました。
だから体育の授業がある日はいつも、長めのスカートを穿いていくことにしていました。
その頃、私のアソコは常時パイパン状態と言ってもいいくらい、まめにお手入れをしていたので、万が一でも着替えのとき、誰かに無毛地帯を目撃されないように、と考えての防衛策でした。
女性しかいない更衣室だし、誰かに見て欲しい気持ちも無いことはなかったのですが、その事実を知ったとき、みんなが私にどんなレッテルを貼るか、が、すっごく不安でした。
まだ入ったばっかりで、これからも通わなければならない学校ですから、一時の衝動で動いてヘマをして、とりかえしのつかないことになる可能性を考えると、極力、私の特異な性癖は隠して普通に過ごすべきだと考えていました。
テニスを始めてひと月経った4度目の授業のとき。
更衣室でいつものように着替えていると、背中をツンツンとつつかれました。
ちょうどアンダースコートを膝くらいまで上げたときでした。
ドキンと胸が波打って、うろたえ気味に振り向きました。
「それ、下着の上に穿くもの」
知らない女性が私の顔を見ながら小さな声で言いました。
正確に言えば、まったく知らないわけではなく、このテニスの授業や他の講義のいくつかでご一緒していた人でした。
お顔は知っていたけれど、まだお話したことがなくお名前も知らない同学年の人。
前髪だけ長めなショートカットで、お化粧っ気の無い小さなお顔。
小柄でスレンダーなからだにいつもモノトーンのお洋服を着て、お教室の後ろのほうで文庫本を読んでいる印象。
無気力そうで、つかみどころのない不思議ちゃんタイプの女性。
そのアンニュイな独特の存在感で、ある意味目立っていた人でした。
「えっ?」
私は、言われた言葉の意味がとっさにはわからず、屈んでアンダースコートに両手をかけたまま固まっていました。
「アンスコは下着を隠すためのもの。だから下着は脱がなくていい」
私の顔を前髪越しにじっと見つめたまま、その人は無表情に、そう言いました。
「あっ!」
言われている意味をやっと理解した私は、たちまち全身が熱くなってきました。
「あっ、あっ、そ、そうなのっ?}
自分の顔がみるみる真っ赤に染まっていくのが見えなくてもわかります。
膝のアンダースコートを上げるべきか下げるべきか、迷っています。
恥ずかしい・・・
なぜだか目元までウルウルしてきてしまいました。
「そ、そうなんだ、教えてくれてありがとう」
いたたまれない恥ずかしさに、出来ることならすぐにこの場から逃げ去りたい、と思いながらも、なんとか小さな声でお礼が言えました。
そんな私を、彼女はまだじーっと見つめてきます。
その視線に吸い寄せられるように見つめ返すと、前髪の隙間から覗く彼女の瞳は大きくて、白くて小さなお顔立ちとも相俟って、まるでフランス人形みたい。
「でも、したくてしているなら、それでもいいと思う」
彼女の唇の両端が微かに上がったような気がしました。
微笑んだのかな?
考えているうちに彼女はクルッと背中を向け、ラケット片手に更衣室を出て行きました。
とりあえず私は、ちょっと迷ってから、そのままアンダースコートを穿きました。
授業の間中、自分の下半身が気になって気になって、ずっとそわそわしっぱなしでした。
見せるための下着、という言葉をそのまま受け取っていた私は、アンダースコートも下着の一種だと思い込んでいました。
だから、テニスのときには通常の下着を脱いだ上でその下着を着ける、と解釈して穿き替えていました。
でも実際はみんな、下着の上にアンスコを穿き、本物の下着が見えちゃうのをカバーしているわけです。
ということは、下着を取ってアンスコを直穿きしている私は、隠すべき下着が無いわけですから、理論上はアンスコが下着ということになって、つまりは下着を盛大に露出しながらテニスの授業を受けている、っていうことになるのかな?
でも見ている人は、それをアンスコだと思って見ているのだから、別にヘンなこととは受け取らないだろうし。
だけど私にとってそれは下着姿なわけで・・・
考えているうちに、何がなにやらわけが分からなくなってしまいました。
でもとにかく私が、かなり恥ずかしいことを知らずにしていた、という思いだけは残りました。
たぶん彼女は、私が下着を脱いでアンダースコートを穿く、という一連の動作をずっと見ていたのでしょう。
ひょっとすると今回が初めてではなく、以前から見ていて、教えるタイミングを探していたのかもしれません。
少なくとも彼女だけは、知らずとは言え、私が実質上の下着丸出しで大学のグラウンドを跳ね回っていたことを知っていたわけです。
彼女に対する恥ずかしさに胸が張り裂けそうでした。
同時に不思議な雰囲気の彼女に興味も抱きました。
テニス授業の後、仲の良いお友達に彼女のことを尋ねてみました。
「ああ。あのオタクっぽい子?群れるのが好きじゃない、ってタイプだよね」
「腐女子なのかな?でも服のセンスとかいいんだよね。何気にいいもの着てるし。テニスもそこそここなしてる」
「無口だよね。しゃべってるの見たこと無いかも」
「語学で一緒になったとき、ちょっとしゃべったことがある。確か、小宮さん、じゃなかったかな?」
「なあに?何かあったの?」
「ううん別に、ちょっとね・・・」
って、その場は適当にごまかし、午後の講義で小宮さんと一緒になったとき、最後方の席で文庫本を読んでいた彼女に、あらためて、さっきは教えてくれてありがとう、ってお礼を言いに行きました。
なぜだかどうしてももう一度、ちゃんとお礼を言いたかったのです。
「うん」
お顔を少し上げた彼女がポツンとそう言って、また唇の端を微かに上げてくれた後、再び文庫本の世界に戻っていって、それっきりでした。
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*独り暮らしと私 12へ
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