2011年6月4日

しーちゃんのこと 07

高校へ進むのを機会に、心に決めていたことがありました。
念願だった女子校にも進めたことだし、今までの自分の性格を少し意識して変えてみよう、と。
なるべく明るくふるまうようにして、積極的に知らない人とも接するようにして、たくさんお友達を作って、たくさん楽しいことが出来るといいな、と。

もちろん中学での三年間でも、楽しいことはたくさんありました。
でも、入学時にこの地域に転居してきた関係で、知っている人がクラスに一人もいなかったこともあり、なんとなく人間関係全般で受け身な立場に慣れてしまい、愛ちゃんたちと仲良くなった後でも、なんだかいつも、みんなに引っぱってもらっているような感じをずーっとひきずっていました。
それに加えて、中二の夏休みに受けたトラウマ・・・
自分の内向きがちな性格とも相まって、中学での三年間は、自分から何かをする、ということがほとんど無かった気がしていました。
それを変えたいと思ったんです。

今度進む高校は、いろんな地域から生徒が集まりますから、みんな最初は知らない同士です。
今までの私を知っている人は、たぶんしーちゃんだけ。
それまでの人間関係が一度リセットされる進学は、自分の内向きがちなキャラを変える絶好のチャンスだと思ったんです。

卒業式の後で私はしーちゃんに、そんな自分の決意を告げました。
「それ、わかる気がする。ワタシもなおちゃんと同じようなことを考えてたヨ。ワタシももう少し社交的にならなきゃナー、って」
しーちゃんがニッコリ賛同してくれました。
「それに、新しい学校でまったくみんな知らない人ばっかだったら、やっぱりちょっと身構えちゃうけど、なおちゃんも一緒だしネ。もしも同じクラスになれなくても、同じ学内ならいつでも会えるし」
「ワタシもいろいろと、高校デビューしちゃうつもりだヨ」
しーちゃんも、まだ見ぬ女子高生活にすっごくワクワクしているようでした。
「でもやっぱり、なおちゃんと一緒のクラスになれるといいナー」
それは、私も同じ気持ちでした。

私が住んでいる町の最寄りの駅からターミナル駅を超えて5つめの駅に、その女子高校はありました。
初めての電車通学です。
入学式の朝、車で送ると言ってくれる母の申し出を断って、しーちゃんと駅で待ち合わせ、一緒に学校に向かいました。
朝の電車は混むし、痴漢とかのことも聞いていたので、女性専用車両に乗り込みました。
想像していたより全然、電車内は混んでいなくて、これなら別に無理して女性専用車両に乗らなくてもいいみたい。

私としーちゃんは、もちろん同じデザインの制服を着ています。
濃いめのグレーのブレザーに同じ色の膝丈スカート。
ブレザーの下には、ブレザーと同じ色で、ショルダーラインの幅が広く、両脇が大きく開いた、ちょうど和服の裃みたいなデザインのベスト。
その下には、白のブラウスに紺色のネクタイ。
全体的に直線の多いシャープなデザインで、なんだかオトナっぽくって、私は一目でこの制服をすっごく気に入っていました。
この制服が着たかった、っていうのもこの学校を選んだ大きな要因でした。
ショートヘアのしーちゃんが着ると、西洋の美少年お坊ちゃまみたいで、それはそれですっごく似合っていました。

校舎は、駅を出てから商店街、住宅街を10分くらい歩いて、周囲に田園風景が広がり始めるのどかな一角にありました。
昭和の戦争のずっと前からあったというその女子高は、さすがに時代を感じさせる厳かな雰囲気の校門とクラシカルながら立派な校舎。
受験のときは、ちらほらと雪が舞っていた畑沿いの道も、今日は、両脇に植えてある何本もの桜の木に、キレイなピンクの花びらが満開でした。

校門をくぐり、クラス分けが載っているプリントを受付でもらいました。
「やったヨー、なおちゃん!おんなじクラスだヨ!」
しーちゃんが大きな声をあげて私に飛びついてきました。
「よかったー。しーちゃん、また一年、よろしくねー」
私もすっごく嬉しくて、しーちゃんと抱き合って喜びました。

一年A組。
入学式を終え、クラスのお教室に入ると、私たちはとりあえず出席番号順に並んで着席させられました。
一クラス32名、全員女子。
なんだかホッとしてしまいます。

順番に短かく自己紹介をしていきました。
もしも知っている顔が誰もいない一人ぼっちの状態でしたらドキドキの瞬間ですが、私の3つ前の席にしーちゃんがいると思うと、ずいぶん気がラクになって、スラスラと自己紹介できました。
イイ感じです。
この調子でお隣の人にも声をかけてみようか・・・
担任となった30代くらいの女性の先生のお話が終わって解散になったとき、そう考えて右隣に顔を向けたら、
「森下直子さん、だったっけ?あたし、ナカガワアリサ、よろしくね?」
その人のほうから声をかけてきました。
肩くらいまでの髪を真ん中で分けて、左右を短くおさげにした人なつっこそうなカワイイお顔がニコニコ私を見つめていました。
「あ、はいっ。こちらこそよろしくですっ!」
私も精一杯明るい笑顔でごあいさつしました。
ナカガワさんは、なおいっそうやさしげな笑みになって、右手を小さく左右に振りながら、ご自分のお友達らしい人のところへゆっくりと歩いていきました。

早速お友達が出来そうです。
しーちゃんとも一緒のクラスになれたし、今のところ最高な滑り出し。
そんなふうに、私の高校生活が始まりました。

高校進学と前後して、我が家にも大きな変化がいくつかありました。

一つは、ハウスキーパーの篠原さん親娘が、我が家の二階で同居することになったこと。
それまで篠原さんが住んでいたマンションが更新になるのを機に、いっそのこと住み込みで働いたら?、という父の提案でした。
これ以上ご迷惑はかけられない、と篠原さんはずいぶんご遠慮されたそうですが、篠原さんのことをすっごく気に入っている母がモーレツに説得したようです。
家賃がもったいないし、我が家の二階には使っていないお部屋がいくつもあるし、私の受験も終わるし、ともちゃんも大きくなったし・・・
それまで、篠原さんが来られない日には、日中をずっと一人で過ごしていて、大いにヒマをもてあましていたらしい母の熱心な説得に篠原さんも恐縮しつつもうなずいてくれて、四月の中旬にお引越ししてきました。

もちろん私も大歓迎です。
篠原さんは、優しくて優雅でキレイで大好きですし、小学校二年生になったともちゃんは、私にとても懐いてくれていて、ちっちゃいからだでニコニコしてて本当に可愛らしくて、ずっと長い間、妹が欲しかった私は大喜び。
これからいつでも、お家に帰るとともちゃんがいて、一緒に遊んだり、お風呂に入ったりできるんだ、と思うと知らず知らず、顔がほころんでしまいます。

我が家の二階の改装は、私の受験が終わった2月下旬から始まっていました。
一階に、篠原さん宅専用の玄関を設けて、我が家の玄関を通らなくても篠原さん宅に入れるようにして、二階のお部屋も、篠原さんのほうからは、棟つづきの私のお部屋のほうには来れないようにすることになっていました。
「親しき仲にも礼儀あり、でしょ?篠原さんたちが気兼ねなくくつろげるように、お仕事以外のプライベートでは、お互いのプライバシーが完全に守れるようにしましょう」
という母の提案でした。
そのため、二階にもお風呂場やキッチンを増設したり、篠原さん宅用玄関からつづく階段を新たに加えたり、と大々的な改装工事となって、完成が予定より一週間ほど遅れてしまいました。

私がちょっぴり不安だったのは、お部屋でオナニーするときの声・・・
今までは、二階には誰もいなかったけれど、これからは篠原さん親娘がお部屋一つと壁を挟んだ向こう側にいつもいることになります。
もちろん今までも声はなるべく押し殺すようにしていたので、あまり気にすることもないとは思うのですが・・・

もう一つの変化は、パソコン一式と携帯電話を買ってもらったこと。
とくにパソコンは、中三のとき、相原さんのお家でさわらせてもらって以来、欲しいなあ、と思っていたものなので、すっごく嬉しかった。

高校の入学式が迫った日曜日の昼下がり。
めずらしく父と二人で、車でおでかけしました。
画面が大きめのノートタイプのパソコンとプリンター、その他を父が選んでくれて、お家に戻ると、設置も全部父がやってくれました。
「ほれ。これで一応インターネットの接続もプリンターも全部動くから。あとはこの本をよく読んで、自分で覚えなさい。なあに、直子ならすぐに使いこなせるようになるさ」
言いながら父は、分厚い本を3冊、私に手渡してくれました。
「タイピングの基本とワープロと表計算、それくらいをまず覚えればいいから」
父はなんだか嬉しそうに笑うと、私の肩を軽くポンッて叩いてお部屋から出て行きました。

パソコンを使いこなせるようになれば、あの日相原さんのお部屋で見たえっちなホームページとかも自由に見ることができる・・・
私は、早速その夜から、熱心にパソコン操作のお勉強を始めました。


しーちゃんのこと 08

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