2011年11月5日

ピアノにまつわるエトセトラ 10

「わたしはね、小学校2年生からピアノを習い始めたの」
 ゆうこ先生は、ワイングラスではなくて、傍らのコップに入ったお水を一口含んだ後、私を見つめてお話し始めました。

「その頃は近所の音楽スクールに通ってね。なんだかわたしとピアノは相性良かったみたいで、すんなり順調に上達していったの」
「わたし、負けず嫌いだから、わたしより上手な子がいると、絶対あの子より上手くなってやろう、みたいな気持ちでがんばって練習してね」

「親の躾が良かったのか、その頃のわたしは、自分で言うのもアレだけど、優等生でね。お勉強も運動もそこそこの苦労で難無く出来たし、ほとんどの学年でクラス委員に推薦されるような、勝気で活発な子供だった。生意気な男子とかやりこめたりして」
 小さく笑うゆうこ先生。

「それで、中学生になったら、音楽スクールの先生の熱心な紹介で、偉い先生の本格的な個人レッスンを受けることになったの」
「コンクールの優勝も狙える、なんて親も含めて大人たちが本気になっちゃってね。わたしもノせられて、その気になっちゃった」
 ゆうこ先生のフクザツそうな苦笑い。

「中学校でもわたしは相変わらず優等生で、お友達もたくさん出来て、女子とも男子ともそれなりに楽しくやっていたの」
「男子からラブレターとかももらっていたけれど、まだそいういうことにはぜんぜん興味を持てなくて、全部断ってたな」
 ゆうこ先生が言葉を切って、私を見つめていた視線をフッとはずしました。

「一方で幼い頃からわたしは、テレビのドラマや映画なんかで、誘拐されて椅子に縛り付けられた女の人とか、悪い魔物にさらわれて洞窟に鎖で繋がれたお姫さまとかを見ると、異常にドキドキしてしまう、ヘンな子供でもあったの」
「その女の人に感情移入してしまうのね。わたし、これからどうされちゃうんだろう?助けが来なかったら、どうなっちゃうんだろう?って」
「まだ性的な知識なんて、ほとんど無かったけれど、なんとなくモヤモヤとした気分になっちゃうの。なんだか気持ちのいいモヤモヤ」

「もしも助けが来なかったら、あのお姫さまは、たぶんわたしがまだ知らない、とんでもないことをされちゃうのだろう、それで、その、とんでもないことはきっと、すごく恥ずかしいことなのだろうな、って想像してた」
「それで、そのモヤモヤを感じることは、わたしにとって、とても気持ちいいことだったの。お姫さまに感情移入して、まだ見ぬ恥ずかしさにドキドキすることがね」

「小学生の女の子にとって、容易に想像出来るすごく恥ずかしいことって、人前で裸にされちゃうことじゃない?自分だけ裸にされて誰かにジロジロ見られちゃうこと」
「だから、幼いわたしの感情移入の行き着く先は、誰も助けが来なくって、お姫さまは、その魔物や手下どもの前で真っ裸にされてしまう、っていうものだったの。その先は、当時はまだ想像も出来なかったけれど」
「でも、裸にされちゃう、ってことまででも、想像して充分モヤモヤ出来たの」

「もっとも、現実のドラマでは、ってヘンな言い方だけれど、ドラマでは確実に誰かが助けに来てくれて、我が家のテレビの中に美しいお姫さまの裸が映し出される、なんてことは絶対、無かったのだけれどね」
 そこでまた、ゆうこ先生の小さな笑顔。

「個人レッスンの講師は、当時20代後半の女の先生で、すごく綺麗な人だった」
 お話が、突然大きく跳びました。

「スレンダーで、スラッっとしていて、ちょっと長めな栗色のウルフカットで、大きめの唇がポッテリしていて」
「やっぱり子供の頃からピアノを期待されて、それなりのところまで行った人らしい。その当時は、けっこう有名な大人向けミュージックスクールの講師が本職だったのかな?」
「レッスンは先生のご自宅でやるのだけれど、そのご自宅がまた、ご近所でも有名な高級マンションでね。ピアニストって儲かるんだなー、なんて子供心に思ったもの」
「わたしの見た限りでは、お独りで暮らしているみたいだった。一室がレッスンルームになっていてね。隣のわたしのレッスンルームを数倍豪華にした感じ」
 ゆうこ先生は、テーブルの上で両手の指をピアノを弾くみたいにパタパタ動かす運指のストレッチをしながら、お話をつづけます。

「その先生のレッスンは厳しくってね。いつも30センチくらいのプラスティックの定規を片手に持って、わたしがちょっとでも運指を間違えたら、すかさず手首のあたりをピシッて」
「勝気なわたしは、最初のうちはかなり憤慨した。叩かなくてもわかりますっ!なんて大声あげたりして」
「でも、ちゃんと弾けたときは、正面からわたしを抱きしめてくれて、ほっぺにチューとかしてくれるの。それがすごく気持ち良くってね」
「スキンシップも激しい先生で、背後から覆いかぶさるみたいにからだをくっつけて、私の腕に自分の腕を重ねたり、耳元でささやいてきたり」

「中学生のわたしにとって、その先生は10いくつも年上だから、いわゆるオトナの人よね。言うことは聞かなくちゃいけない、みたいな」
「その上、先生は基本やさしくて、ときには姉みたいに、ときには母親みたいな感じで接しているうちに、わたしはその先生には、どうにも逆らえなくなっていたの」
「ピアノは先生のほうが何十倍も上手いし、先生の言う通りにすれば確かに上手く弾けるのも事実だったし」
「わたしの背中に当たる、先生の少し硬めなバストの感触、今でも憶えてる・・・」
 ゆうこ先生がうっとりしたお顔つきになりました。

「でも高校進学間近になって、ちょっとした事件が起きちゃったの」
「その先生は、わたしを有名な音大の付属高校に進ませたかったのね。より音楽にのめりこませるために」
「でもわたしは、その頃ちょっと挫折した、って言うか、先が見えちゃった気がしていて」
「ピアノを弾くのは好きだし、先生のことも大好きだったのだけれど、音大に進んでまでピアノを極めたいかな、って考えたら疑問に思えて」
「普段の中学校生活もすごく楽しかったから、出来れば普通に公立高校に入って、お友達といろいろ楽しくやりながら、ピアノは趣味の一つでもいいかな、って」

「両親も先生も、せっかくの才能なんだから、みたいなことを言ってくれたのだけれど、わたし、たぶん飽きちゃってたんだと思う」
「今思うと、わたしと同年代くらいで、わたしより少し上手い子とかが周りにいれば、負けず嫌いでつづけられたかもしれないのだけれど、中学校でもわたしよりピアノ上手い人いなかったし、先生は、わたしの手が届かないほど上のほうにいるしで、ピアノに対してモチベーションを上げるための刺激がみつからなくて、満足しちゃってたんだろうな」
 ゆうこ先生の瞳が、少し寂しげに翳りました。

「結局、一時は先生とかなり気まずくなったのだけれど、さっきも言ったけど、わたし、ピアノを弾くのも好きだし、先生のことも好きだったから」
「だから、先生とのレッスンはつづける、っていう条件で、わたしの希望通り、公立高校に進んだのね。先生もそれで最終的には納得してくれたの」
「当時ですでに3年のおつきあいだから、わたしと先生はかなり親密になっていたし」
「わたしは、さっき言った、さらわれたお姫さまの話とかもしていたし、先生は、自分に女性の恋人がいることを教えてくれてた」
 ゆうこ先生がワイングラスに唇をあてました。

「そこから、わたしと先生のレッスンがミョーな方向に変わっちゃったのね」
「先生はたぶんもう、わたしを一流のピアニストに育てるのはあきらめちゃったみたい」
「あ、でもわたし、中2のとき、県のコンクールの中学生部門で優勝したんだぞっ!」
 ゆうこ先生が突然おどけて胸を張りました。
 もう一度ワイングラスに唇をあててから、ゆうこ先生の唇が再び動き始めます。

「それから先生は、わたしとのレッスンのときに、自分の趣味、って言うか性癖?をあからさまにしてきたの」
「レッスンに行くと、先生がなんだか肌の露出が多い服を着ていることが多くなって、スキンシップも激しくなってきて」
「すごく難しい課題曲ばかり用意して、リストかなんかだったかな、で、ペシペシ腕を定規で叩かれて」
「なんだか、主従関係のはっきりしたお芝居をやっているようなレッスン。わたくしの言うことには絶対服従よ、みたいな雰囲気」

「言葉ではわたしを虐めたり蔑むようなことばかり言うのに、その割には、やたらにわたしを抱き寄せたり、からだをすり寄せたりしてくるの」
「わたしも、最初は戸惑ったけれど、そんなレッスンが段々なんだかワクワク楽しみになってきちゃったのね」
「ちょうど性的なものに関心が芽生えてきた頃でもあったし」
「先生が着ているピッチリしたニットに浮いたノーブラのポッチとか、これ見よがしに組み替える短いスカートから伸びた太股とかに、すごくドキドキしてた」

「忘れもしない、高校一年の夏休み前のレッスンのこと」
「先生がいきなり、これからミスするたびに、大貫さんは服を一枚ずつ脱がなきゃいけないルールにします、って宣言したの」
「何それ?って思うと同時に、わたし、その言葉が意味する行為に、ドキンッて胸が破裂した」
「ストラヴィンスキーのペトリューシュカだったな。あの曲難しくて、それまでさんざんペシペシ定規でぶたれて、わたしの心の中では、悔しいような、狂おしいような、もっとして、みたいなワケのわからない感情がずーっとモヤモヤ疼いていたの」
「当時、自分ではわからなかったけれど、わたしの心の奥底に眠っていた、マゾ性、みたいなものがパチンて弾けた瞬間だったと思う」

「わたしには、先生に逆らう、なんて選択肢はまったく浮かばず、黙ってコクンとうなずいちゃった」
「たぶん、そのときのわたしの目は、すごく淫らだったと思う」
 ゆうこ先生がまっすぐに、私を見つめてきました。
 今のゆうこ先生の瞳もウルウル潤んでて、充分淫らです。

「学校帰りの夏服の制服姿だったから、まずソックスから脱ぎ始めて」
「とても難しい曲だから、下着姿になっちゃうまで時間はかからなかった」
「セーラー服かスカートか、どっちを先に脱ぐかは迷ったな。ピアノ弾くときは座っているから、見えにくいだろう、ってスカートを先に脱いだ」
「先生は背後に立って見下ろしているのだから、意味無いのにね」

「脱いだものはそれぞれ、先生が丁寧にたたんでくれて、たたみ終わるとわたしのほうを向いて、黙ってわたしのからだをじーっと見るの。上から下まで、文字通り舐めるように」
「恥ずかしいです、先生、って言っても、その先を弾くように促すだけなの」
「そんな、裸に近い格好で上手く弾けるワケないじゃない?恥ずかしくて集中出来ないし、股間はムズムズしてきちゃうし」
「結局すぐにミスタッチしちゃって、ブラジャーかショーツのどっちかを脱がなきゃならないことになっちゃったのね」

「ねえ?直子ちゃん?」
 不意にゆうこ先生が私に問いかけてきました。
「直子ちゃんだったら、どっちを先に脱ぐ?」


ピアノにまつわるエトセトラ 11

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