2015年7月12日

オートクチュールのはずなのに 11

 自宅のベッド以外で目覚めると、決まっていつも軽いパニック状態に陥ります。
 あれ?ここはどこ?私は誰?なんで裸で寝ているの?
 だけど、首周りにまとわりつく異物感に右手が思わず伸びてそれに触れ、自分が置かれている状況を即座に思い出しました。
 見慣れないお部屋を見回しているうちに全身がワクワク感に包まれ、眠気があっさり吹き飛びました。

 枕元に置いた携帯電話の時計を見ると、午前9時10分。
 んーーっ、って大きく伸びをして、立ち上がりました。

 お姉さまは、お昼ごろまで起きないつもり、っておっしゃっていたっけ。
 それまでに家政婦として一仕事、やっつけてしまいましょう。
 その前に洗面所をお借りして、顔を洗って歯を磨いて。
 リビングルームのドアを開け、洗面所に向かいました。

 洗面所の大きな鏡に、赤い首輪を嵌めた裸の上半身が鮮やかに映し出されます。
 首輪を嵌められている、イコール、私はお姉さまの所有物、飼い主とペット・・・
 そんな連想をした途端に、鏡の中のふたつの乳首がみるみる背伸びを始めました。

 歯を磨きながら、午前中の段取りを考えます。
 リビングのお掃除、お洗濯、お姉さまが起きる頃を見計らってブランチの用意。
 とりあえず、そのくらいかな。
 時間があったら、バスルームとおトイレもお掃除しちゃおう。
 それで午後は、お姉さまとゆっくり過ごせたらいいな。

 リビングに戻って、ソファーを元通りに直しました。
 真っ白なカーテン越しにでもわかるくらい、降り注ぐ陽射しがお部屋中を明るく照らしています。
 今日はすごく良いお天気ぽい。
 そう思って無意識にカーテンを開こうとして、ふと気づきました。

 私は今、全裸。
 カーテンを開いて、もしもお向かいにも窓があって誰かいたら、裸を視られてしまいます。
 お姉さまのお部屋の窓から裸の女が見えた、なんてご近所のウワサになったら、私はいいとしても、ここに住んでいるお姉さまにご迷惑がかかってしまいます。
 そう言えば私、ここが何階で、周囲がどんな状況か、ぜんぜん知らないことに、今気がつきました。

 気を取り直して、カーテンの境目から恐る恐る顔だけ出して、お外を覗いてみました。
 窓のすぐ外は広くて奥行きの有るベランダ。
 そのフェンスの向こうは大部分が青空で、遥か遠くにここより高そうな建物が見えました。
 そして、大きな5枚のガラス窓は完全な素通しで、カーテンを開けたら横長のスクリーンのように、お外から室内全体が丸見えになる、ということがわかりました。

 けっこう高い階のお部屋みたいだな。
 顔を引っ込めてから考えました。
 今見た感じでは、窓は大きいけれど、近くの建物から覗かれちゃう心配は少なそう。
 だけど・・・

 もしも、このお部屋をお掃除するとなると、窓を開けて換気をしながら、ということになりそうです。
 昨夜は気がつきませんでしたが、昼間の明るい光の中で見ると、やっぱり家具の上やお部屋の隅にうっすら埃が積もっているので、ダスターをかけて埃を床に落としてから、のほうが効率的なので。
 となると、お姉さまにお伺いを立ててからのほうが良さそうです。
 カーテンはそのままにして、バスルームのお掃除から始めることにしました。
 せっかく裸なのだし。

 バスルームとおトイレを一時間くらいかけてピカピカにしてから、次はお洗濯。
 お洗濯ものはそんなにたくさんはなく、タオル類と私のワンピース、それにお姉さまと私の下着類くらい。
 置いてあった説明書を読みながら洗濯機にはタオル類とワンピースを任せ、下着類は手洗いしました。
 
 出張中に溜め込んだのであろう、色とりどりのお姉さまの下着を手洗いしながら、ふと気がつきました。
 これらのお洗濯物を干すとき、否が応でも私は、あのベランダに裸で出ることになることを。
 からだの奥がキュンと疼きました。

 洗い終えた洗濯物はとりあえず放置して、お料理に移ります。
 お姉さまからのリクエストはホットケーキ。
 油を使うので、昨夜お姉さまから唯一許された着衣として託されたエプロンを広げてみました。

 一見すると真っ白な可愛らしいフリルエプロンなのですが、お姉さまがおっしゃったとおり、お下劣な細工が施してありました。
 バスト部分と腰周りだけ、ビニールみたいな透明な素材で見事にシースルーなのです。
 自分のからだにあてがってみると、尖った乳首が滑らかなビニールにペタッと貼りつきます。

 いやん、えろい。
 お姉さまったら高校のとき、こんなのをアユミさんていうかたに着せて愉しんでいたんだ。
 お会いしたこともないアユミさんが羨ましくて、ちょっぴり嫉妬してしまいます。
 首と背中の紐を結ぶと、とくに視ていただきたい部分だけがスケスケの、いかにも露出狂そのものな裸エプロン姿になりました。

 コールスローを作り、ホットケーキミックスをかき混ぜます。
 腕を動かすたびに、乳首がツツツとひきつるようにビニール地を擦り、ますます硬くなってしまいます。
 その感触でアソコの、いえ、剥き出しマゾマンコの奥もウルウル。
 お姉さま、早く起きてこないかなー。
 
 ホットケーキを、あとは焼くだけ、の状態にして、食器類をダイニングテーブルに並べ始めた頃、リビングのドアが開きました。

「おはよう」
 ざっくりしたシルエットでゆるふわな濃紺のマキシワンピース姿のお姉さまが、近づいてきました。
「あ。おはようございます、お姉さま。お早いですね?まだ12時前ですよ。ゆっくりお休みになられましたか?」
「うん。いつもだったらまだまだ寝ているのだけれど、直子がいると思うとワクワクしちゃって、早めに起きちゃった。あ、でも、昨夜はぐっすり眠れたから問題なし、よ」
 お姉さまが歩くたびに、柔らかそうな生地にからだのラインが浮き上がります。
 たぶんお姉さま、素肌にそれしか着ていないみたい。

「すぐにお食事にされますか?ホットケーキは、もう焼くだけになっていますけれど・・・」
「うん、そうね。って、直子、そのエプロン、やっぱり似合うわね」
 目の前に来られたお姉さまが、私の透けているバスト部分をまじまじと覗き込みました。
「赤い首輪ともよくマッチしている。えっちビデオのタイトルっぽく言うと、ヘンタイ肉奴隷マゾメイド直子、って感じ」
 そのお下品なお見立てが、私のマゾ心をゾクゾク煽り立てます。

「直子のほうがアユミよりおっぱい大きいから、尚更卑猥な感じ。乳首がペッタリ貼りついて、ひしゃげちゃってる」
 布地越しに私の右乳首を無造作につまんでくるお姉さま。
「ああんっ」
「相変わらずコリコリね。朝っぱらからサカっちゃって、いやらしい子」
 
 不意に私の唇が、お姉さまの唇で塞がれました。
 でもすぐ離れて、お姉さまが、んーーって、伸びをひとつ。
 お姉さまからのモーニングキスは、微かに歯磨き粉の香りがしました。

「あら直子?どうしてカーテン開けないの?」
 ふと窓のほうに目を遣ったお姉さまが、訝しげに尋ねてきました。
「あ、それは・・・」
 私がご説明しようと言葉を探しているあいだに、お姉さまはスタスタと窓際に行かれ、ザザーッとカーテンを全開にされました。
「あーっ!」
 お姉さまを追っていた私は、お部屋の中間あたりで、それ以上進めなくなりました。
 素通しガラス5枚分の陽射しで、お部屋の中が一段と明るくなりました。

「うわー、いいお天気だこと!まさに五月晴れだねー」
 のんきにはしゃぐお姉さま。
「直子も来てごらん、空が真っ青だよ」
「あの、えっと、大丈夫ですか?」
「何が?」
「私、今、裸ですから、えっと、その、ご近所さんとか・・・」
「ああ、それを気にして開けなかったんだ。大丈夫。いいから来なさい」
 最後はご命令口調に変わっていましたから、行かないわけにはいきません。
 腕で胸を庇う格好でおどおど近づきました。

「ほら見て。この窓の向こうは学校で、今日はお休み。その奥はずっと神社の森。おまけにここは坂の途中で高台のほうだから、この窓を覗ける建物なんて周りにないのよ」
 お姉さまのお言葉に勇気を得て、思い切って窓際まで行き、お外を覗いてみました。
 
 おっしゃる通り眼下には、ここより低い建物と校庭らしき敷地、その奥には緑がつづいていました。
 そしてお空は抜けるようなライトブルー。
「ね、わかったでしょ?だからおっぱい、隠さなくていいの」
 いつの間にか背後に来ていたお姉さまに、胸を庇った左腕を無理矢理剥がされました。
 腕に弾かれた乳首がプルン。

「向かいの学校はね、けっこう有名な名門女子高なのよ。幼稚園から大学までのお嬢様学園。大学だけ別のところにあるらしいけれどね」
「あたしがここに来るのは、たいてい休日か夜中でしょ?たとえ窓を開け放しでも、いつもしんとしているの。平日の昼間がどのくらいかまびすしいのかは知らないけれど、あたしにとってここの印象は、とても居心地のいい閑静な住宅街なのよ」

「このお部屋は、何階なのですか?」
「えっ?覚えていないの?そう言えば直子、スーパー出てからは、ずーっとボーッとしていたものね、なんだかやり遂げちゃった感じで」
「ここは8階。このマンションの最上階。ここを覗こうと思ったら、たとえば、あのビルからだったら.・・・」
 遥か遠くのビルを指さしてつづけます。
「かなりの高倍率の双眼鏡が必要なはずよ」
 そこまでおっしゃって、お姉さまが何かに気づかれたようなお顔になりました。

「そっか。そういう観点で見たことが無かったから気づかなかったけれど、ここって、直子の趣味にぴったりな部屋だったんだ!」
「まっ裸で窓辺に立とうが、ベランダに出ようが大丈夫っていう、裸になりたがりの露出狂にはうってつけの物件だったのね」
「それならさ、ブランチはベランダでしない?こんないいお天気だし、きっと気持ちいいから。確かガーデンテーブルが物置に入っていたはず」
 みるみるテンションが上がり、愉しそうなお声をあげたお姉さまが次々に窓枠のロックを外し、ススススーッと三面分開きました。
 お外の爽やかなそよ風がふわふわっとお部屋に侵入してきて、私の裸のお尻を優しく撫ぜました。

「あれ?直子はあんまり愉しそうじゃないのね?あ、そうか。誰も覗いてくれないって分かっているから、スリルが無くてつまらないのか」
「いえ!そんなことないです。視られないほうがいいですっ!」
 あわてて否定する私を、ニヤニヤ笑いが迎え撃ちます。
「あらあら、また嘘つき直子に戻っちゃったか。昨夜のスーパーでは、あんなに素直だったのにね?」
 お姉さまのからかうようなお声に、そのときの一連の恥辱が一気によみがえり、全身の体温が数度、カッと跳ね上がりました。

「ベランダのほうはあたしが用意しておくから、直子はパンケーキを焼き始めて」
 浮き浮き声のお姉さまの号令で、女子高の校庭を見下ろしての青空ブランチ開催が有無を言わさず決定しました。
 
 私がキッチンでパンケーキを焼いているあいだ、お姉さまは何度も、ベランダとリビングやキッチンのあいだを往復されていました。
 やがて、焼きあがったパンケーキをお皿に盛ってダイニングテーブルへとひとまず置いたときには、さっき私がテーブルに用意した食器類などはすべて消え失せていました。

 ホカホカのパンケーキを積み上げたお皿ふた皿とシロップ類をトレイに乗せ、しずしずとベランダに向かいます。
 だけど今の私は、赤い首輪におっぱいと下腹部だけスケスケの裸エプロン。
 いくら地上8階で周りから覗かれる心配の無いベランダとはいえ、そんな姿で青空の下に出るには、かなりの勇気を必要としました。
 フローリングから窓枠のレールを跨ぎ、ベランダのコンクリートへと片足を下ろす、その一歩に躊躇してしまいます。
「ほら、何しているの?早く早く」
 お姉さまからの非情な一言で、思い切ってコンクリートに足を着けました。

 横長長方形のベランダは、目隠しフェンスまでの奥行きが3メートルくらいと、かなり広め。
 空間の半分くらいが庇で覆われています。
 エアコンの室外機とフェンスのそばにお洗濯物用のパイプが通っている以外、他に装飾はありません。
 ベランダ中央付近に、大きくて真っ白な日除けパラソルが立っていました。
 その下に、キャンプで使うような木製のテーブルが置かれ、折りたたみの木製椅子が2脚。
 その片方にお姉さまが、優雅に腰掛けていらっしゃいました。

 テーブルには真っ白なクロスが掛けられ、私が作ったコールスローと、氷が詰まったワインクーラーに埋まった白ワイン一本。
 何枚かの取り皿とグラス、ナイフとフォークが奇麗に並べてありました。
 真ん中の空いているスペースにパンケーキのお皿を置きます。
「アーッ、気持ちいい。なんだかいいわよね?優雅な感じで。こんなことになるならもう少し、このベランダも飾っておけばよかった。観葉植物とかで」
 お姉さまがワインのコルク栓をグリグリしながらおっしゃいます。
「あ、でもあたし、めったに帰らないから世話できないか。それじゃ植物がかわいそうだわね」

「このアウトドアセットはね、確か一昨年、河原でみんなでバーベキューすることになって揃えたのよ」
「行きがかり上、保管はあたしに押し付けられて、邪魔って思っていたけれど、捨てなくてよかった」
「会社のみなさまとしたのですか?」
「そう。まだ、たまほのが入る前のことね」
「社員全員でご旅行とか、されるのですか?」
「うーん。とくに決まってはいないけれど、気が向けばね。去年は温泉に行ったな。全員が休めるようにスケジュールが取れればね」
「あ、でも今年は直子も入ったし、ぜひ行きたいわね、秋頃にでも」
 そうおっしゃって、なぜだかパチンとウインクをくださるお姉さま。
 そのときが、私のパイパンがみなさまにバレる日となるのでしょう。
 
 パンケーキを置き終わって、恐る恐る目隠しフェンスのそばまで行ってみました。
 高さは私の肩のちょっと下くらいで、茶色い金属の密なメッシュ状になっていました。
 これなら確かに、たとえ、ここと同じくらいの高さの建物が近くにあったとしても、フェンスの中は覗けなそう。
 唯一覗くことが出来るとしたら、ここより高い位置からだけ、という結論に達して見上げてみれば、近くにそんな建物はひとつもありません。
 ようやくずいぶんホッとして、テーブルのほうに戻りました。

「まだ向こうの部屋から持ってくるものある?無ければ早く席について」
「はい。もう大丈夫です。お待たせしました」
「休日って、昼間からお酒飲めるのも醍醐味よね。眠くなったら寝ちゃえばいいのだから」
 お姉さまがワイングラスにワインを注ぎ始め、私は向かい側に座ろうと椅子を引きました。
「だけど今日は寝るわけにはいかないのよね、直子をいっぱい虐めてあげなくちゃ。だからまあほどほどにしとく。そっちにお水とジュースも入っているから」
 私の足元に置かれたクーラーボックスを指さされました。

「それではカンパイということで」
「はい」
 腰を下ろしながらグラスを持ちました。
「あ、ちょっと待ちなさい」
 椅子にお尻が着く寸前、お姉さまからヒヤリと冷たいお声がかかりました。

「せっかくこうセレブの休日、っぽい雰囲気なのだから、あくまでも優雅にいきましょうよ。直子がエプロンしたままじゃ、ご主人様と使用人のブランチだわ。エレガントさに欠けるでしょう?」
 ドキン!
「えっと、つまり、エプロンを取れ、と・・・?」
「うん。だってそのエプロン、おっぱいが貼りついちゃって卑猥すぎるもの。優雅なブランチには似合わないわ」
 作ったご本人のお言葉とは思えません。
「わ、わかりました・・・」

 下ろしかけた腰を戻しグラスを置き、お姉さまの前で首の紐から解き始めました。
 胸当てがペロンと外れ、さらけ出されたおっぱいに五月の太陽が降り注ぎます。
 つづいて背中側。
 皮膚に触れていた布地一切が取り払われました。
 外したエプロンを折りたたんで置き場所に迷っていると、お姉さまの右手が伸びてきて取り上げられました。

 青空の下、丸裸。
 しかもこれで終わりではありません。
 これからゆっくり、お食事をしなければならないのです。
 全裸のままで、しかも優雅に。

 あんなにお下劣な薄っぺらエプロンでさえ、有ると無いとでは大違いでした。
 からだを覆う布が無くなった瞬間に、周囲からの音が大きくなっていました。
 遥か下を走る自動車の音、時折聞こえてくる誰かの小さな話し声や足音、鳥のさえずり、遠い木々のざわめき・・・
 そういった日常にありふれた喧騒のボリュームが格段に上がり、私の背徳感を煽ってきます。
 おまえはなんでこんなところで裸になっているんだ?と、喧騒たちが私を責め立てているように感じていました。

「うん。いい感じになった。それじゃあ、またひとつ、露出マゾレベルが上がった森下直子さんにカンパーイ!」
 イジワルイお言葉でたたみかけてくるお姉さまをニクタラシク思いながら、ワインのグラスをクゥーッと空けました。

「うん。美味しい。直子のパンケーキは絶品だね」
 本当に美味しそうに頬張りながら、合間合間に私のおっぱいをじーっと見つめてくるお姉さま。
 今の私には味なんてぜんぜんわかりません。
「コールスローも美味しい。これ、明日も作っておいて」
「今夜はパスタにしてね。カルボナーラ。あと夜食用にサンドウィッチも作っておいて欲しいな、チーズとハムのやつ」
 
 お食事のあいだはずっと、屈託の無いお姉さまの笑顔とおしゃべり。
 ご機嫌なご様子のお姉さまを見つめつつ、グラスワイン2杯のほろ酔いで、やがて私も少しづつ、リラックスしてきました。
 私もお腹は空いていたみたいで、パンケーキもけっこうな枚数、食べちゃいました。
 お皿が空になると、お姉さまはまだワイン、私はグレープフルーツジュース。

「西洋の名画とかでさ、ピクニックか何かなのか、着飾った貴族っぽい人たちが森で食事している絵画とかがあるじゃない?」
「ああ。はい・・・」
「ああいうのになぜだかひとりだけ、裸のご婦人とかが混ざっていることがあるけれど、それってつまり、その時代の直子みたいな趣味のご婦人なのかな?」
「そ、そんなの、知りません・・・わ、わかりません・・・」

「直子、今、どんな感じ?こんなところで全裸に首輪で」
「えっと、そ、それは、恥ずかしいです・・・すごく」
「でも、さっき言ったように、ここ、誰にも覗かれないよ?」
「で、でも、お外ですし・・・」
「気持ちいいんでしょ?乳首勃ってるよ?」
「・・・」
「濡れてる?」
「・・・はい・・・」
 もうっ!イジワルなお姉さまが戻ってきちゃった・・・

「あー美味しかった。ワイン3杯も飲んじゃった。ごちそうさまー」
 心底愉しそうなお姉さまがそうおっしゃったとき、下のほうから何か管楽器を合奏する音が小さく聞こえてきました。
 これはたぶん、コパカバーナかな?

「へー。休日でも部活の練習とかするんだ、あの学校も。あっ、そうか。午後一時開始だったのかな」
 お姉さまがふらりと立ち上がり、音のするほうに歩いていかれます。
 たどたどしい感じで曲が進み、ワンコーラスくらいで中断しました。
 音が消えて興味を失ったのか、すぐに戻ってきたお姉さまは、ご自分の席に着かず私の背後に立たれました。

「立って、直子」
「あ、はい」
 何をされるのか、ビクビクしながら立ち上がりました。
 間髪を入れず後ろから抱きつかれました。
 お姉さまの左手は私の胸元に、右手は股間へと。

「あふぅんっ!」
「うわっ、本当にグッショグッショ」
「あっ、あっ、あんっ!」
「だめよ!直子」
 私の右おっぱいを揉みしだき、マゾマンコをさすっていたお姉さまの両手がピタリと止まりました。

「ここは、覗かれはしないけれど声はだめ。前にも教えたでしょう?そういう声って意外と通るのよ?」
「下まで聞こえちゃうかもしれないし、すぐ両隣にだって住んでいる人がいるのよ?もし窓が開いていたら丸聞こえのはず」
「うちの左隣は、上品そうなイギリス人ご夫妻。右隣は知らないな。あたし、あんまり帰ってないから」
「今、お隣さんがいるかどうかわからないけれど、とにかく、あたしに恥をかかせないように、出来る限りがまんなさい」

 おっしゃりたいことだけを私に耳打ちしたお姉さまは、私の返事は待たずに、再び両手を動かし始めました。
 左手は右乳首をぎゅっと潰し、右手の二本の指がズブリと膣口に突き挿さりました。
「んんむぅーーっ!!」
 真一文字に口をつぐんで、必死に悦びの声を抑え込みます。
 私の両手はいつの間にか、後頭部にまわっていました。
 下のほうから再び、合奏の音が聞こえてきました。

「吹奏楽部の無垢なお嬢様たちには、自分たちが一生懸命練習している同じときに、まさかすぐ向かいのマンションのベランダで、素っ裸になった元お嬢様がマゾマンコからだらだらスケベ汁垂らして、いやらしい喘ぎ声を必死にがまんしているなんて、想像も出来ないでしょうね」
 
 とことんイジワルなお姉さまの残酷な囁きが、耳の奥深くに流し込まれます。
 クチュクチュクチュクチュ・・・
 お姉さまが動かす指が、コパカバーナのリズムに乗っています。

 どうか止めないでお姉さま・・・このままイかせてお姉さま・・・声は絶対がまんしますから・・・焦らして寸止めだけは勘弁してください・・・
 心の中でそうお願いしながら、お姉さまからの乱暴な陵辱に身を任せます。

「んっ、んゅ、んぐぅ、ぐぬぅー・・・」
 容赦なくどんどんどんどん高まってくる快感で、歓喜に震えそうになる声帯。
 下唇をギューッと噛みしめ、死に物狂いでそれを封じ込みながら、やがて私のからだは、五月の澄み切った青い空の高みへと、溶け込んでいきました。


オートクチュールのはずなのに 12


2015年7月6日

オートクチュールのはずなのに 10

 座ったまま、あらためてリビングルームを見回してみました。
 すっごく広い。
 確実に20帖以上ありそう。
 玄関からまっすぐ入って突き当たったドアが、リビングルームの横幅のちょうど真ん中あたりに位置して、その先に横長な長方形の空間が広がっています。

 お部屋の突き当たりは、横長な一面全体が白いカーテンで覆われているので、おそらく全面窓なのでしょう。
 だとしたらすごく陽当たり良さそう。
 窓を背にすると左側にダイニングテーブルセット。
 右側は、床にライトブラウンのふかふかそうなシャギーラグが敷かれたソファーコーナー。
 大きなモニターの壁掛けテレビが側面に掛かっていました。
 たとえば8帖のお部屋を横並びに三つ並べて、全部の仕切りを取り払った感じ。
 そのくらい広々とした空間でした。

 私は、そんなお部屋のほぼ中央、周りに何も無いフローリングの上に座っていました。
 私とお姉さまが転げまわったとおりに、床のあちこちに小さな水溜りが出来ていました。
 お姉さまと私の、欲情の落し物。
 大変!まずはお掃除しなくちゃ。
 立ち上がろうとしたとき、お姉さまが戻ってこられました。

「はい、これでとりあえず汗を拭くくらいで、しばらく我慢してね」
 ふかふかのバスタオルをくださいました。
「あと、お料理で油や熱湯を扱うときは、これだけは身に着けてもいいことにするわ」
 折りたたんだ真っ白い布を手渡されました。

「エプロンよ。飛沫が跳ねて、肌を火傷したりしちゃったら可哀相だからね」
 お姉さまが、そこまでおっしゃって、いたずらっぽくニッて微笑みました。
「もっとも、直子みたいな子なら、そういう痛ささえ愉しめるのかもしれないけれど」
「あの、いえ、お気遣い、ありがとうございます」
 まだ全裸のままのお姉さまの、形の良いバストに目が泳いで仕方ありません。

「さっき入ってきたドアを抜けて、左側の最初のドアが洗面所、その向かいのドアがトイレ。トイレ側にある別のドアはあたしの寝室だから開けちゃだめ」
「キッチンは、見れば分かると思うけれど、ダイニングの奥ね。掃除用具とかは洗面所に入ってすぐのロッカーにあるから」
「ということで、あたしはシャワーしてくるから、後はよろしくお願いね」
 左手にまだ何か持ったままの全裸なお姉さまが、今度は玄関のほうへつづくドアへとスタスタ歩いて行かれ、ドアの向こうへ消えました。

 いただいたタオルでざっとからを拭ってから、えいやっ、と家政婦モードに切り替えました。
 まずは、床に脱ぎ散らかしたお姉さまのお洋服一式を回収。
 お姉さまの残り香にアソコがキュン。
 玄関口に置きっ放しだったお買物のレジ袋やふたりの私物をリビングへと運び、片隅にひとまとめ。
 
 キッチンに移動して、お買い物の成果を所定の位置へ。
 キッチンも広々としていて使いやすそう。
 大きな冷蔵庫には、お姉さまがおっしゃった通り、数本の飲み物と調味料類しか入っていませんでした。

 教えていただいた洗面所へのドアを開けると、これまた広々。
 洗面所というより、パウダールームと呼びたいお洒落な内装でした。
 その奥がバスルームらしく、お姉さまがシャワーを使う音が微かに聞こえていました。

 ロッカーから拭き掃除のお道具一式をお借りし、玄関からずーっと廊下を雑巾がけ。
 確かにあまりお掃除していなかったみたいで、バケツに汲んでいたお水がみるみる汚れていきました。
 リビングに戻って、広大なフローリングを四つん這いで這い回りました。

 今日初めて訪れたお宅の床を、なぜだか全裸で雑巾がけしている私。
 自宅でしていた、妄想ごっこ、ではなくて、正真正銘、ご主人さまにお仕えする全裸家政婦状態。
 念願が叶っちゃった、なんて考えたら、四つん這いで垂れ下がったおっぱいの先端へと、血液がぐんぐん集まってきました。

 床のお掃除を終えてキッチンへ。
 お姉さまは軽くとおっしゃっていたけれど、冷凍ピザだけではさみしいので、簡単な野菜サラダを作ることにしました。
 レタスやキュウリを洗い、使いそうな食器類も念のため丁寧に水洗いしました。

 食器棚のガラスやステンレスに、自分の赤い首輪だけの全裸姿が映っています。
 使い慣れていないよそさまのシンクで、お腹の辺りの素肌を濡らしてくる水しぶきの飛沫に、ピクピク反応してしまいます。
 これから二日間、私はずっと裸のままお姉さまのお部屋で過ごすんだ・・・
 艶かしくも甘酸っぱい、エロティックな気分でレタスをちぎりました。

 ダイニングテーブルに食器やドレッシングを並べていたら、リビングのドアがバタンと開きました。
「ふぅー。いい気持ち。さっぱりしたぁー」
 頭にタオル、からだにバスタオルを巻きつけただけのお姉さま。
「サラダも作ったんだ、気が利くじゃん。洗面所で髪乾かしてくるから、もうピザ焼き始めていいわよ。あと、飲み物はビールね」
 それだけ言い残して、再びドアの向こうに消えました。

 ツヤツヤした布地、たぶんシルク、で薄いベージュ色のバスローブを羽織ったお姉さまがダイニングテーブルに着席するのと、二枚目のピザを入れたオーブンレンジがチーンと一声鳴いたのがほぼ同時でした。
 お風呂上りのほんのり上気した艶やかなお顔に、ついさっき、ふたりで貪り合ったときの、悩ましいお顔がオーバーラップします。

「カンパーイッ!」
 チンッ、とガラスが触れ合う音が響いた後、黄金色の液体がなみなみと注がれたくびれグラスをゴクゴク一気に飲み干したお姉さま。
「あーーっ美味しいっ!やっと休日が来た、っていう気分になれたわ」
 ピザをつまみ、サラダをつつき、楽しいおしゃべりタイムの始まりです。

「すごくステキなお部屋ですね。あんまり広いのでビックリしちゃいました」
「うん。西洋型1LDKっていう触れ込みだったの。最初はあたしもただっ広くていいな、って思ってたのだけれど、最近は持て余し気味かな。なんだか逆に寒々しい感じしない?」
「そんなことないです。うらやましいです」
「住み始めの頃は、こんな家具を置いてとか、いろいろ夢膨らませていたのにね。帰ってくるヒマがないから、ぜんぜん弄れなくて。結局今でも、ほとんど引っ越してきたときのまんまなの」
「だからあまり物が置いていないのですね?」
「たまに帰って来ても、結局寝室に閉じ籠っちゃうからね」
「ああ・・・」
「ここは誰かに貸しちゃって、会社のそば、って言うか直子んちのそばにでも引っ越そうかなって、最近は考えたりしてる」
「えーっ!?そんなのもったいないです、こんなにステキなお部屋なのに。あ、でもお姉さまが近くに住まわれたら、すっごく嬉しいですけれど」

「ところで直子、あのエプロンは着けてみた?」
「あ、いいえ。まだ・・・」
「あら残念。あれはなかなかの傑作なのよ。直子なら絶対気に入ると思う。もともとはアユミ用に作ったんだけれど」
「アユミさん?て?」
「忘れちゃった?あたしの学生の頃の友達」
「ああ、服飾部で、なんて言うか、私と同じような感じのかたっていう・・・」
「そう。思い出した?彼女のために作ったお下劣衣装のうちのひとつ。ほとんど彼女が持っていったはずだったのだけれど、なぜだかあれだけ、あたしの手許に残っていたの。捨てなくてよかった」
「へー。ちょっと着けてみましょうか?」
 席を立ち上がろうとして、お姉さまに止められました。
「いいわよ、焦らなくても。明日ゆっくり見せてもらうから」

「直子は、あっちのソファー周辺を陣地にして。一応ゲストテリトリー。背もたれ倒せばベッドになるから。毛布と枕は持ってきてあげる」
「あ、はい」
「ほとんどの電気製品は、あっちのテーブルのリモコンでオンオフ出来るから、勝手に使って」
「わかりました」

「明日起きたら、この部屋に直子が裸でいるのよね?なんだか不思議な感じ。いつの間にかあたしがマゾのメス犬ペットを飼うはめになっているのだもの、って、そうか!直子はゲストじゃなくてペットっだった」
「はい・・・それにそれは、私がお願いしたことですから・・・」
「うん。あたしもかなり愉しみではあるの、直子のマゾっぷり。明日はめいっぱい虐めちゃうつもりだから、覚悟しておきなさい。持ってきたグッズ類は全部出しておいてね」
「はいっ!お姉さま」

「モップもあったのに、わざわざ雑巾がけしてくれたのね?」
 リビングの隅に置きっぱなしの、雑巾を掛けたバケツをご覧になっての一言。
「やっぱりメス犬だから、四つん這いになりたがるのかしら?」
 愉しそうに笑って、グラスを飲み干すお姉さま。
「直子がこの部屋にいるあいだ、身に着けていいのは、さっきのエプロンと、拘束用にロープとかチェーン。あ、手錠と足枷もおっけー。あとは、そうね、洗濯バサミならいくつでもいいわよ」
「明日起きたとき、全裸家政婦直子がどんな姿で迎えてくれるか、今からとっても愉しみ」

 パクパク食べてビールもグイグイ飲んで、いっぱいしゃべる絶好調なお姉さまも、やがてだんだん、なんだかトロンとおねむさんなお顔になってきていました。
「ふぁーっ。なんだか気持ち良く酔ってきた。グッスリ眠れそう」
「少しのあいだ仕事は忘れて、直子をたくさん虐めなきゃ・・・」
 テーブルの上のお料理も、あらかたなくなっていました。

「この感じが消えないうちに、今夜は休ませてもらうわね。あたしって、ホロ酔いが醒めちゃうと、一転して寝付けなくなっちゃうタチだから」
 お姉さまがユラリと立ち上がりました。

「明日は多分、お昼頃まで起きてこないと思って・・・ブランチはホットケーキがいいかな・・・バスルームにはあたしのシャンプーやらが置いてあるし、ドライヤーとかもご自由に」
「あたしが寝ているあいだは、何をしていてもいいから・・・寝室は防音してあるから掃除機でも洗濯機でも使って大丈夫・・・オナニーも許しちゃう・・・あ、もちろん疲れていたら寝ちゃってもいいけれど」
「直子、歯ブラシとか、お泊りセットは持っているわよね?・・・ああ、眠い・・・」
 心底眠たそうなお声で、ゆっくりゆっくり思い出すようにおっしゃるお姉さま。

「あと、あたしの下着とかタオルとかを、洗濯しておいてくれると嬉しいかな、明日でいいから・・・えっと、あたしの服は・・・」
「はい。あそこにまとめてあります」
 部屋の隅を指さす私。
「ああ。ありがとね・・・スーツはクリーニングに出さなきゃだめかな・・・洗濯機は洗面所の奥、洗剤もそのあたりにあるはず・・・ふわーぁ」
 ご自分のバッグと衣類を手にしたお姉さまがフラフラ、ドアの向こうへ消えていきました。

 テーブルを片付け食器類を洗っていると、ドアの開く音。
 あわててリビングに出ると、お姉さまが毛布類を抱えて、ドアの前に立っていらっしゃいました。
「あ。わざわざありがとうございます」
「うん・・・それじゃあ、おやすみー」
 お姉さまのからだが、ふうわりと私を包みました。
 シルクのなめらかな感触に包まれる、私の天使さまからのハグ。

「あー、直子、かなり臭うわよ・・・えっちな臭い・・・寝る前にこんなの嗅いだら、いやらしい夢見ちゃいそう・・・早くシャワーしなさい」
 からだを離したとき、お姉さまがからかうみたいにおっしゃって、ふわーっと大きな欠伸。
 いくら眠くても、イジワル口調を忘れないお姉さま、
「おやすみー」
「おやすみなさい、お姉さま。良い夢を」
「愛してるよ、直子」
「私もです」
 
 今にも崩れ落ちそうなくらい眠たげなご様子だったので、それ以上のわがままは言わず、ドア口でお姿が消えるまでお見送りしてから、キッチンに戻りました。

 洗い物を片付けてから、お姉さまのお言いつけ通りバスルームへ直行。
 赤い首輪は濡らさないように脱衣所で外し、今さっき嗅いだばかりの、お姉さまと同じ香りのローションやシャンプーをお借りして、全身を入念に洗いました。
 お姉さまの香りに包まれながら全身を撫ぜ回していると、自然と今日一日、お姉さまとお逢いしてからのあれこれを思い出してしまいます。

 ほのかさまもいる前でのリモコンローター責め。
 人前での首輪姿ご披露。
 後部座席での全裸オナニーと四つん這いお尻露出行為。
 スーパーでの前開きボタン外しと自発的露出。
 駐車場での下半身丸出し。
 
 どの行為でも、今まで感じたことの無いほどの強烈な羞恥と恥辱、喩えようもないほどの興奮と快感を感じていました。
 とくに、裾の一番下のボタンを外してから、レジカウンターのみなさまに向けての自発的なお尻露出、そして、そのままの格好で駐車場までの夜道を歩いていくときに味わった被虐と羞恥は、このまま世界が終わって欲しい、と思うほどの恥辱感とともに、私でもここまで出来るんだ、という、達成感を伴う淫靡な高揚感で気がヘンになりそうなほどでした。

 同時に思い出す、大好きなお姉さまの蠱惑的なお言葉とその口調、お顔や振る舞い、その愉しげな表情・・・
 そして最後にたどり着いた、ケダモノの交わり。
 私の両手は自然に敏感な場所へと伸び、そこを中心に泡まみれの全身を執拗に、いつまでもいつまでも責め立てつづけました。

 バスルームを出てリビングに戻り、横になったのは夜の11時過ぎ。
 いつもの私なら、まだ眠るには早い時間でした。
 精神的にはとても高揚していて、もう少し起きていたかったのですが、全身が心地良い疲労感でぐったりしきっていました。
 今夜は早く寝て、明日は早く起きて、お姉さまが起きてくるまで家政婦のお仕事をがんばろう!
 そう心に誓って、目をつぶりました。

 さっき脱衣所でからだを拭った後、ごく自然に、当然のように、お化粧台の上に置いておいた赤い首輪に手が伸びていました。 
 今は枕に押し付けられて首周りに当たるそのレザーの感触を、とても愛おしく感じ始めていました。


オートクチュールのはずなのに 11


2015年6月28日

オートクチュールのはずなのに 09

 時間にしたらほんの10秒足らずのことだったでしょう。
 上半身を前に傾け、ワンピース背中側の裾がせり上がるのを意識し、裸のお尻が布地の外へ露出していることを感じて・・・
 前開きの一番下のボタンも外したので、前側の裾はもちろん思い切り左右に割れ、自分の視界には生々しい下腹部の白い肌が、女性器の割れ始めまで大胆に見えっ放しでした。
 
 右手を伸ばして床の500円玉を拾い上げ、ゆっくりと上体を起こすまで、いえ、起こした後も、私のからだは、制御不能の被虐的快感にプルプル打ち震えていました。

 そのあいだ、私の頭の中も大騒ぎでした。
 私、レジカウンターに向けてノーパンのお尻をわざと見せちゃっている・・・
 見知らぬ人たちに注目されていることを承知の上で、破廉恥なことをしている・・・
 剥き出しマゾマンコまで丸出しで・・・
 私のお尻、どんなふうに視えているのだろう・・・
 本当に、正真正銘の露出狂になっちゃったんだ・・・
 でも、気持ちいい・・・

 考えてみれば、公共の場で自らすすんで、まったく面識の無い人たちに自分の恥ずかしい箇所を見せつけるような行為をするのは、生まれて初めてのことでした。
 
 それまででも、同じような状況を味わったことはあります。
 神社やファミレス、デパートの屋上や試着室、営業中のセレクトショップなどで、キワドイ格好になったことが何度もありました。
 だけどそれらの体験では、マゾですからもちろん、そんな状況にゾクゾク感じてはいましたが、生来の臆病さからくる、やっぱり不特定多数の人には視られたくない、公衆の面前でそんな、はしたな過ぎる姿は見せたくない、という健全な羞恥心のほうが、いつも大きく勝っていました。

 今回、決定的に違っていたのは自分自身の意識でした。
 レジにお尻を突き出して500円玉を拾う、という動作をしているあいだ中、上に書いたように頭の中がパニックになりつつも、同時に心の中でずっと、視てください、視て呆れて、蔑んでください、私はこんな行為をして悦ぶヘンタイ女なんです、もっと良く視て、って唱えつづけていたのです。
 これまで無理矢理抑えつけていた自分の欲求に正直になったことで、それまでとは違った種類の、凄まじい性的高揚を感じていました。

 実際に何人くらいの方々が私のお尻を視てくださったかは、振り向かなかったのでわかりません。
 でも、空調の効いた少しヒンヤリとした外気にさらされた裸のお尻に、いくつもの粘り付くような視線を感じていました。
 
 その視線たちが、お尻や性器の穴を蹂躙するように突き刺さり、私の内面までもが犯され、陵辱されているように感じていました。
 500円玉を拾う直前には、ゆっくり拾いなさい、一秒でも長くみなさまに直子のいやらしい姿を視姦していただけるように、という、お姉さまからではなく、私自身からの内なる命令の声が聞こえていました。

 からだをまっすぐに直し、500円玉を手渡すためにお姉さまに顔を向けました。
 お姉さまは、少し唖然としたお顔をされていましたが、私が500円玉を握った右手をゆっくり差し出すと、唇の両端をキュッと上げて、すっごく妖艶な微笑を見せてくださいました。
 その笑顔で、私の恥辱は報われたような気持ちになりました。

 何度も同じことを書いてしまって申し訳ないのですが、私がこんなに大胆に自分の性癖嗜好を素直に曝け出せるのは、偏にお姉さまのおかげでした。
 お姉さまがご一緒してくださるからこそ、今までなら怖くて尻込みしてしまう大胆な行為が出来るのです。

 お姉さまは、大きなレジ袋を左手で持ち、空いている右手で私の右手を500円玉ごと握ると踵を返し、そのまま無言でスタスタとスーパーの出口のほうへ歩き始めました。
 右手を引っ張られる格好の私も、左手に大きなレジ袋を持って、よたよたと着いていきます。
 足を交互に動かすたびに裾が割れ、白い素肌がチラチラ覗きました。

 スーパーの自動ドアを抜け、灯りが届かない大きな木陰のところまで歩いて立ち止まりました。
 お外はすっかり夜。
 人影は、ビル周辺の明るいところにチラホラと見えるだけ。

「直子って、本当にからだが柔らかいのね」
 暗闇で見つめ合ったお姉さまからの第一声は、そんな拍子抜けするようなものでした。
「小銭を拾うとき、完璧な立位体前屈だったじゃない。膝をまったく曲げないで、手のひらを床にべったり着けて」
「そ、そうでしたか?」
 暗くて表情がよく見えないお姉さまに、そんな間の抜けたお返事しか出来ませんでした。

「さあ、あとは車に戻って、愛しの我が家へ一直線。だけどこの荷物、重いわね。ちょっと買いすぎちゃったかな」
 お姉さまが持っていたレジ袋を舗道に置きました。
 いったん右手を解いて500円玉をお姉さまがスーツのポケットに突っ込んでから、再びつなぎ直しました。

「そのワンピの裾、ボタン留め直さないでいわよね?駐車場まですぐだし」
「あ、えっと・・・」
「暗いし、人通りも無さそうだし、そのまま行きましょう」
「も、もしも私が、ボタンを留めさせてください、ってお願いしたら、お姉さまは許可してくださいますか?」
「うーん・・・許可しない」
 お姉さまのお声に、少し笑いが混ざっています。
「それでしたら、このままでいです・・・」

「あっ、直子、そうやってあたしに責任をなすりつけようとしているでしょう?何か起きたら、あたしの命令のせいだって」
 今度は、お姉さまのからかうようなイジワル声。
「いえ、そうではなくて、何て言えばいいか、私はお姉さまがお望みになること、悦ばれることを、したいだけなんです・・・」
 お答えしながら、なぜだか泣き出しちゃいそうな気持ちになっていました。

「ふーん。さっきのスーパーから直子、なんだか雰囲気が変わったわね。大胆になったというか、目覚めちゃったというか・・・」
 お姉さまのお言葉が少しのあいだ途切れ、私も無言でうつむいていました。
 つないだ手と手が、どちらのせいなのか、ジンワリと汗ばんでいました。

「おーけー。それじゃあこのまま行きましょう。そのお買物袋を左右にひとつづつ持ちなさい。ちょっと重いけれど、直子はあたしの使用人なのだから」
 私の手を離したお姉さまのお言葉に、冷たい響きが戻りました。

「わかっているとは思うけれど、両手に荷物を持ったら、ワンピの裾を押さえることは出来ないわよ?」
「はい。わかっています・・・」
「前から誰か来ても、隠すことは出来ないのよ?それでもいいのね?」
「・・・はい」
「つまり直子は、誰とすれ違うかわからない夜道を、剥き出しマゾマンコが覗いてしまう格好で歩きたいのね?」
「・・・はい」
「それは、私の命令だから?それとも直子がそうしたいから?」
「そ、それは、私がそうしたいから、です・・・」
 お答えしたとき、今日何度目かの快感電流がからだをつらぬきました。

 木陰を出て、暗い舗道を歩き始めました。
 両手に大きなレジ袋をぶら下げた私の左隣にお姉さま。
 先に立って私を隠してくださる気もないようです。
 
 うつむいた視線の先に、始終自分の下半身の白い肌がチラチラ見え隠れしています。
 こんなに無防備な、少し風でも吹いたらたちまち裸の下半身剥き出しになってしまうような服装で、夜の街を歩いている私。
 荷物の重さなんて感じる暇もありませんでした。

 歩き始めてすぐ、ビル側の明るい舗道を行くサラリーマン風の男性とすれ違いました。
 お姉さまを挟んで、その人との距離は2メートルくらい。
 私のワンピースのハタハタひるがえる裾を、明らかに凝視しながら近づいてきて、行き過ぎていきました。
 暗いせいなのか、今ひとつ、視られた、という実感が湧いてこなくて、一度振り向いたときに、その人も振り返っていてドッキーン!
 自分が今していることのヘンタイ性を思い知りました。
 
 ビルの敷地外にある歩道から聞こえてくるヒールの音や話し声。
 その向こうにある車道を行く車のヘッドライトが、私を横からぼんやり照らし出して走り去ります。
 そんな些細なことのひとつひとつに、背徳感を感じてしまいます。

 今度はOLさんらしき二人連れ。
 さっきの男性より近い距離ですれ違いました。
 暗い中でも、おふたりが私の下半身の異常に気がついているのがわかりました、
 私は一層身を縮こませながらも、必死に何でもない風を装います。
 私をチラチラ窺がいながら、ヒソヒソ耳打ちし合う、その内容が聞こえてくるようでした。
 お姉さまは私の横をゆっくり歩きながら、そんな私をじーっと視ていらっしゃいました。

 やっとたどりついた駐車場入口。
 しかしながら、駐車場内は夜になると、照明のせいで舗道よりもずいぶん明るく感じます。
 駐車場に向かう坂道に入ると弱い向かい風が吹いていました。

 「やんっ!」
 下り坂に一歩踏み出すと裾が風に煽られ、始終開きっ放しになってしまいました。
 お尻のほうへとマントのようにひるがえるワンピースの裾。
 全開剥き出し状態の私の下半身。
 お姉さまは振り向いたまま、私のそれをずっと視ながら下りていかれます。
 強烈な恥ずかしさに全身が包まれました。
 幸か不幸か、まわりに人影はまったくありませんでした。

 坂道を下りきると風は弱まり、裾が戻りました。
 静まり返った駐車場を進みます。
 さっきの坂道のあいだ数秒間の出来事に、胸のドキドキが収まりません。
 お姉さま以外に、その姿を視てくださる人がいなかったのを、残念と感じていました。

 お姉さまの車の助手席に乗り込んだとき、緊張が一気に解けました。
 からだ中が今更のようにカッカと火照り、心臓が早鐘のように脈打っています。
「あまり視てくれる人がいなくて、つまらなかったのじゃない?」
 ずっと無言だったお姉さまがポツンとおっしゃった一言で、私の欲望が爆ぜ迸りました。

 運転席のお姉さまに飛びついて、しがみつきました。
「私をめちゃくちゃにしてください、お姉さま!ぶって、虐めて、蔑んで、どうか無茶苦茶にしてください!」
「私、このままでは気がヘンになってしまいます!どうか、見捨てないでくださいっ」
 半泣き声で叫んで、やみくもにお姉さまの唇を求めました。

 お姉さまは、黙ってされるがままになっていました。
 唇を重ねても、お姉さまからの積極的な反応は無く、ただやんわりと私の背中に両腕を回してくれただけでした。
 それでも、お姉さまの体温を感じているうちに、私の激情がゆっくりと収まっていきました。
 しばらくそうして抱き合った後、どちらからともなく、ゆっくりとからだが離れました。

「もう少し辛抱していてね。あたしの部屋はもうすぐそこだから」
 お姉さまがシートベルトを締めながら、何も無かったようにそうおっしゃった後、不意に左手を伸ばし、私の股間にあてがいました。
「はぅっ!」
「グッショリ濡れているのにすっごく熱くなってる」
 私の耳奥に蕩けるようなため息を吹き込むお姉さま。
「安心なさい。今日の直子は、すごく可愛かったわ」
 私の股間で汚れた手のひらをペロッと舐めて、おもむろにエンジンをかけました。
 ブルンッ!
 同時に、性懲りも無く再び燃え上がる私のからだ。

 それからお姉さまのお家の玄関にたどり着くまでのことは、ほとんど憶えていません。
 どこをどう走り、どこで車を停め、お姉さまがお住まいのマンションがどんな形で、どういう風にお部屋までたどりついたのか。
 憶えているのは、そんなに時間がかからなかったことと、お姉さまがずっと無言だったことだけでした。

 気がついたら、お姉さまのお部屋の玄関口で、きつく抱き合っていました。
 お互いの唇を舌で貪り合い、右手を互いの股間に伸ばし合っていました。
 私はすでに全裸で、お姉さまはスーツのまま。
 お姉さまの股間は、パンストの上からでもわかるくらい濡れて、熱くなっていました。

「あうっ!お姉さまぁ、もっとぉ」
 お姉さまの右手が私のマゾマンコに深く侵入して、クチュクチュ音をたています。
 私も負けじとお姉さまのパンストを擦り上げます。
「あふうぅ」
 お姉さまの色っぽいお声。

 玄関ドア側に立っていたお姉さまにじりじりとにじり寄られ、しっかり抱き合ったままお相撲でもしているかのような形で、玄関ホールの廊下にあがりました。
 運転用のローファーを穿いたままのお姉さまも、土足であがってきました。

 そのまま抱き合った形でドアを開け、電気も点けず薄暗いリビングらしきお部屋まで入ってから、お姉さまが私に体重をかけてきて、私はそのフローリングの床へ仰向けに押し倒されました。
 私の腰の上に騎乗位の体勢になったお姉さまが、もどかしそうに着衣を脱いでいきます。
 上着を乱暴に脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを手際良く外し、サファイア色のブラジャーも床に投げ捨てました。
 仰向けになっても私の両手はお姉さまを求め、腕を伸ばしてお姉さまの股間を擦りながら、もう片方の手でスカートのフックを外そうとしていました。

 お姉さまが上半身裸になると、片時もからだを離したくないふたりは、まずお姉さまの上半身が私に覆いかぶさってきてキスを再開。
 そのあいだに私がお姉さまの下半身を脱がせにかかります。
 両手でスカートを剥ぎ取り、つづいてパンストごとショーツをずり下ろしました。
 膝くらいまで脱げた後は、お姉さまが自らの手で足首まで一気に下ろし、靴もろとも脱ぎ捨てて全裸。
 すぐに両脚を絡ませ、きつくきつく抱き合いました。

 フローリングを上に下になって転げまわりながら、互いを精一杯悦ばせました。
 唇を貪り、乳房を揉みしだき、乳首を噛み、指を潜り込ませ、肉芽を擦り、全身を舐めまわして、指を絡ませて・・・

「あぁ、もっと、もっとぉ」
「ううっ、いいわっ、そこ、そこぉぉ」
「つよく、もっとつよくぅぅ」
「あ、イっちゃう、イっちゃいますぅぅぅぅ」
「イきそう、イキそう、そこ、そこよ、もっと、もっとぉ、イクぅぅぅぅ」

 お姉さまと私の、汗とよだれといろんな体液がひとつに混じり合い、甘酸っぱい官能的な匂いに包まれます。
 肌が密着しているだけで感じる至福感。
 お姉さまがエロっぽく喘いでくださるたびに感じる満足感。
 何度イってもイキ足りないくらいの渇望感。
 お姉さまのお部屋に入って、しばらくのあいだ、ふたりはまさしくケダモノでした。

「はあ、はあ、はあ・・・」
 フローリングにぐったり横たわっていたら、不意にパッと電気が点きました。
 思った以上に広々とした空間が目の前に広がりました。

「はあ、はあ、こんなはずじゃなかったんだけどなあ・・・」
 お声のしたほうを向くと、お姉さまが汗まみれの全裸仁王立ちで、明るい光に照らされていました。
「直子をこの部屋に迎え入れるときは、もっとこう、いろいろ恥ずかしいことをさせて、なんて計画していたのだけれど、全部パーになっちゃった」
 冷たいお水の入ったグラスを差し出してくださるお姉さま。
 そのとき飲んだお水の美味しさは、忘れることが出来ません。

「まあ、仕方ないわね。あたしもどうにも我慢出来なくなっちゃったのだから」
 お姉さまが、まだ寝そべったままの私の傍らにしゃがみ込まれました。
 目の前に濡れそぼったお姉さまのかっこいい逆三角形ヘア。
 うっとり見惚れてしまう私。

「スッキリしたからよしとしましょう。それでここから、直子の全裸家政婦の本番開始ね。家事手伝い、がんばってよ?」
 お尻を軽くパチンと叩かれました。
「あ、はい!」
 あわてて起き上がり、床に正座の形になりました。

「とりあえずあたしは、ゆっくりシャワーを浴びてくるから、そのあいだに今の後始末と、軽く何か食べるものを用意しておいて。さっき買った冷凍のピザでいいわ」
「はい」
「シャワー浴びて一息ついたら、すぐに寝るつもりだから、直子は悪いけれどその後にシャワーしてくれる?」
「はい。もちろん大丈夫です」
「ここでもダイニングでも、戸棚や物入れは勝手に自由に開けて、中のものを自由に使っていいからね。見られて困るようなものは入っていないから」
「わかりました」
「エアコンも好きに調節して。風邪引かないようにね。それじゃあ頼んだわよ」

 立ち上がったお姉さまが、リビングの端にある扉のほうへと全裸のまま歩いて行かれました。


オートクチュールのはずなのに 10

2015年6月21日

オートクチュールのはずなのに 08

 ハム売り場でも私は当てることが出来ず、下から2番目のボタンを外すことを命ぜられました。
 その後もいろいろお買物中、たまに私に選ばせることで、ゲームはつづきました。
 ヨーグルト選びもドレッシング選びもパスタソース選びでも、悉くハズレでした。

 前開きワンピースには、全部で10個のボタンが付いていました。
 一番上とその次は、すでに駐車場で外していたので、残り8個。
 それらのボタンたちが、パスタ売り場にたどり着いた頃には、ほとんど外されていました。
 今現在留まっているのは、胸元の上から4番目と、裾の一番下、それにおへその上辺りのひとつ、合計たったの3箇所というキワドイ状態。

 まっすぐ立っている分には、胸元が広めに開いている以外は普通のワンピース姿ぽく保たれていますが、からだを少し動かすと軽い生地がフワリと揺れ、今にも前立てが割れて隙間から肌が覗いてしまいそうな頼りなさ。
 背筋をまっすぐ伸ばし、なるべくからだが揺れないようにしずしずとカートを押して、お姉さまの後ろを着いていきました。

 胸を張るように背筋を伸ばしていると、その部分を覆う薄い生地の曲線頂点に、ふたつの大げさな突起がクッキリ浮き上がりっ放し。
 他のお客様とすれ違うたびに、気づかれませんように、と、ビクビク祈る気持ちでしたが、気持ちとは裏腹に、下半身全体がムズムズ疼き、発熱量が増しているのもわかりました。

「さあ、あとはパスタを選べばショッピング終了かな。もう留まっているボタンも残り少ないみたいだから、がんばりなさいよ」
 お姉さまが振り向いて、からかうみたいにおっしゃいました。
「今回は特別にヒントをあげる。あたしはね、太めの麺のほうが好きなの。長さはロング。あとはさっき選んだソースとの相性とで考えてみれば、たぶん外さないはずよ」

 カートから離れ、陳列棚と向き合いました。。
 六段に分けられた陳列棚の上から下までぎっしりと、さまざまなメーカーの袋入り乾燥パスタが並べられています。
 上のほうが細くて、下のほうが太いみたい。
 そして、お姉さまがお好きなのは太め。
 
 そこまで考えて、小さくキュンと感じてしまう私。
 私が当てようが当てまいが、お姉さまは最後に絶対、私にパスタを取るようにご命令されるはずです。
 そして今度は、さっき耳打ちされたように、膝を曲げない前屈姿勢を守らなければならないのです。

 パスタの太さは0.9ミリから2.2ミリまで。
 お姉さまが選ばれたのは、カルボナーラソースでした。
 カルボナーラなら確かに少し太めのほうが美味しそう。
 以前、好奇心から2.2ミリのパスタを買ったことがあって、すごく太いのにびっくりしたことがありました。
 お姉さまも、これは選ばないだろうな・・・

 陳列棚の左のほうでは、若奥様風の女性がパスタソースを熱心に選んでいます。
 私はなるべく直立不動のまま、目線だけ動かして棚のパスタたちを吟味しました。
 若奥様風女性が棚を離れて去っていくのを確認してから、一種類のパスタを指さしました。
「これ、ですか?」
 陳列棚の下から二段目に並べられた、青色の袋に包まれた1.9ミリのロングパスタ。
 指さしたままお姉さまを、すがるように見つめました。

「惜しいなあ。太さは合っているけれど、あたしが好きなのは、こっちのブランドなの」
 私が指さしたパスタのすぐ右隣を指さすお姉さま。
 緑色の袋に入った、イタリアからの輸入物でした。

「せっかくヒントあげたのに、また外しちゃったのね。直子、ひょっとしてわざと間違えて、ボタン外すの愉しんでいるのじゃなくて?」
「そ、そんなことありません・・・」
 ちっちゃな声で抗議します。
「ふーん。あと三箇所でしょ?直子の好きなところを外していいわよ」
 お姉さまが冷たく微笑みました。

 好きなところ、って言われても・・・
 胸元を外したら、おへそのところまでVゾーンがはだけてしまうし、一番下を外したら、歩くたびに裾が大きく割れてしまうはず。
 素早く周りを見渡した後、素早く真ん中のボタンを外しました。
 
 その結果、今現在ワンピースが開いてしまうのを阻止しているボタンは、もしもブラジャーを着けていたらセンターモチーフが来るであろうところくらいに位置するボタンひとつと、裾の一番下のひとつ、合計たったのふたつに成り果てていました。
「やっぱりそこよね。ま、いいか。そのパスタをふたつ取ってカートに入れてくれる?」
 お姉さまが、当然のようにおっしゃいました。

 お目当てのパスタは、私の脛くらいの位置。
 そのパスタを、膝を曲げない前屈姿勢で取らなくてはなりません。
 そんな格好になれば、現在辛うじてお尻全体を隠している背中側の裾が大きくせり上がり、営業中のスーパーマーケットの明るい蛍光灯が、私の剥き出しとなったお尻を煌々と照らし出すことになるでしょう。

「ほら、早く」
「ほ、はい・・・」

 陳列棚のそばに一歩踏み出しました。
 念のため一度通路側を振り返ると、私の背後には薄い笑みを浮かべたお姉さまだけ。
 この通路全体に他のお客様はひとりもいません。
 今がチャンスと棚に向き直り、素早く右手を伸ばして前屈みになりました。

 裸のお尻全体が外気にさらされるのが、はっきりわかりました。
 その上、上半身を折り曲げたせいで、たわんだワンピースの襟ぐりの空間が視界に飛び込んできて、その中の自分の乳房の尖った乳首まで全部見てしまいました。
 真ん中のボタンも外したので、胸元から太腿のあいだの生地も楕円に開き、その隙間から、おへそ、下腹部、土手までもが覗いていました。
 自分が今、いかに危うい服装で人前に出ているのか、ということを、一瞬のうちに目の前に突きつけられた気がしました。
 パスタを2束握って上体を起こしたとき私の顔は、火傷しそうなくらいに火照っていたはずです。

 お姉さまのほうに向き直り、カートにパスタをそっと置きました。
 お姉さまの満足そうなニヤニヤ笑い。
 その笑顔から視線を外したとき、更なる事実が待ち受けていました。

 私の視界の右端に、まったりとカートを押していく、いかにも休日の旦那様風な若い男性の姿がありました。
 そして、その男性と手をつないだ小学校低学年くらいの女の子。
 男性は私たちから5メートルくらい離れた対面側の棚で立ち止まり、何かを選び始めました。
 
 その傍らで女の子が、手をつながれたままこちらを振り向き、私のことをじーっと見ていました。
 何か不思議なものでも目撃したような、ぽかんとした表情でした。

「直子が前屈みになったとき、ちょうどあの人たちが後ろを通過して行ったのよ」
 お姉さまが再び、私にヒソヒソ耳打ちしてきます。
「残念ながらパパは気づかなかったみたいだけれど、あの子には見られちゃったみたいね」
「お尻丸出しだったもの。私の位置からだと、スジが濡れているのも、肛門のシワまでハッキリ見えていたのよ、こんな営業中のスーパー店内で」
 私をいたぶるのが愉しくて仕方ないご様子な、お姉さまのイジワル声。

「あの子、びっくりしたでしょうね。なんであのお姉さん、お尻見せているのだろう?パンツ穿いていないのだろう?って」
「きっと今、迷っているはずよ。パパに今見たことを教えたほうがいいのかな、って」

 そんなやり取りをしているあいだにも、陳列棚の陰から学生さん風の男性が現われ、私たちをチラチラ見ながら通路を通り過ぎていきました。
 その男性の粘り気ある視線が束の間、私の首の赤い首輪に絡みついたことを、私は全身で感じていました。

 首輪を見て、あの人はどう思ったろう?
 首輪はマゾ女の象徴だと、理解してくれたかな・・・
 そう考えた瞬間、からだ中が官能的な陶酔感に包まれました。

 私はこの場の、晒し者なんだ。
 こんな目立つ首輪を嵌めて、素肌に羽織った前開きワンピースのボタンのほとんどを外したままうろうろしているヘンタイ女なのだから、注目されるのはあたりまえ。
 そしてこれは、私自身が望んだこと。
 全身を駆け巡る激しい羞恥と同じくらい、いえ、それを凌駕するほどの性的興奮を感じていました。

 もっと興奮したい、もっと視てもらいたい。
 どうせならボタンを全部外すまで、お姉さまがご命令してくださればいいのに。
 そんな自虐的な願望すら、躊躇無く湧き出てきました。
 自分をもっと辱めたくて、仕方なくなっていました。
 あれほど恐れていた男性からの視線さえ、まったく恐怖に感じていませんでした。
 それはつまり、お姉さまが一緒にいてくださるがゆえの安心感がもたらした、今まで抑え込んできた欲求の発露だったのだと思います。

「完全なドマゾ顔になっているわよ、直子。トロンとしちゃって。やっぱり視られて嬉しいのね?」
「はい・・・」
「あら、ずいぶんと素直になったのね。でも残念。ショッピングはもうおしまいよ。お会計しましょう」
 先に立ってスタスタと歩き出すお姉さま。
 ふらふらと後を追う私。

 レジカウンターへ向かう道すがら少し遠回りして、先ほどの女の子連れパパさんと、もう一度すれ違うようにしてくださったのは、お姉さまの計らいだったのかもしれません。
 女の子は私の姿をみつけると、みつけてからすれ違うまで、可愛らしいお顔を180度動かして、再びじーっと見つめてきました。
 私はドキドキしつつも、曖昧な笑みを唇に浮かべ、ゆっくりすれ違いました。
 女の子の視線が、今度は首輪に釘付けなことに、背徳感を感じてしまいます。

 レジカウンターには先客がふたり。
 ひとりは、さっきの学生さん風男性でした。
 みっつあるレジのうち、一番奥にある右端だけ空いていました。
 そちらに向かっていたお姉さまが不意に立ち止まり、少しわざとらしく大きめな声をあげました。

「あっ!ホットケーキミックス!忘れてた。あたしこれ、大好きなの!」
 レジ前の棚に方向転換。
 お姉さまのそのお声に、レジ係の店員さんとお客様、全員が私たちのほうを向きました。
 注目されている・・・
 それだけでキュンとしてしまう私。
 学生さん風の男性を含め、すべての視線が私の首輪に注がれている気がしました。

「直子んちに行ったときも作ってくれたっけね。あれ、美味しかった。うちでも作ってよ。このブランドのが一番好きなの」
「あ、はい・・・」
 お姉さまが棚に手を伸ばそうとして、なぜだかすぐひっこめました。
「直子が取って」
「あの、えっと・・・」
 お姉さまを見ると、無言のイタズラっぽい笑顔。

 ホットケーキミックスは、幸いなことに私の胸くらいの高さの棚に並んでいたので、前屈姿勢にはならずにすみます。
 お姉さまが伸ばしかけた腕の角度から推理して、恐る恐るひとつの箱を手にしました。
 ここのスーパーのオリジナルブランド製品のようでした。

「ううん。それも美味しいのだけれど、あたしの一推しは、そっちの青い箱。シロップが絶妙なの」
「以前はレモンタイプっていうのもあったのだけれど、いつの間にか見なくなっちゃったのよね。人気無かったのかな、あれも美味しかったのに」
 お姉さまの腕が横から伸びてきて、青い箱を掴み、カートに入れました。
「そうなると、ミルクも必要ね。あたし取って来る」
 普通のお声でそうおっしゃった後、嬉しそうに私の耳に唇を近づけてきました。

「また間違えた。あたしが戻ってくるまでに一番下のボタンを外しておきなさい」
 絶望的なヒシヒソ声が、私の耳奥に吹き込まれました。
 腿の付け根から脳天へと、眩暈にも似た痺れるような快感がつらぬきました。
「ぁぅぅ・・・はぃ」
 小さくうなずいた私は、小さくイってしまいました。

 お姉さまがその場を離れ、私は右手を裾に伸ばします。
 このボタンを外したら、その後は一歩、歩を進めるたびに、股間を覆う布が割れてしまうことでしょう。
 お姉さまから命名された剥き出しマゾマンコを、文字通り剥き出しにしながら、少なくともここからお姉さまの車までは、歩いていかなければなりません。
 望んだ恥辱が現実となるのです。
 そう、これは私が望んだことなのだから。
 覚悟を決めてボタンを外し終えたとき、お姉さまが戻っていらっしゃいました。

「おっけー。これでバッチリね。お会計しちゃいましょう」
 持ってきた牛乳パックをカートに入れて屈託ない笑顔のお姉さま。
「はい、これ」
 ご自分のバッグからお財布を取り出し、何枚かのお札を剥き出しで握らされました。
「これだけあれば足りるでしょう。あ、変な気は遣わないでね、これはあたしの買い物だから、直子は一銭も出さなくていいの」
「あたしはレジ出たところで待っているから、よろしくね」
 スタスタと私の傍から遠ざかるお姉さま。
 急に心細くなる私。

 私たちがホットケーキミックスでごたごたしているうちに、レジに並ぶお客様はいない状態に戻っていました。
 ということは、しばらくのあいだレジ係の女性店員さんたちは、私たちの挙動に注目していたかもしれません。
 私は始終レジには背を向けていたから、自らワンピースの一番下のボタンを外したことには気づかれていないはず、と自分に言い聞かせ、しずしずとカートを押してレジカウンターに向かいました。

 思った通り、一歩足を踏み出すたびに腿がワンピースの裾を蹴り、フワリハラリと生地が左右に割れてしまいます。
 カートに下半身を押し付けるみたいにして隠しながら、3名いるレジ係さんのうち、一番お優しそうなお顔をされた左端の女性店員さんを選んで、カートを進めました。

「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
 カウンターに入ると、カートをからだから引き剥がされ、無防備になりました。
 レジ係さんは、なんだか困ったような笑顔を浮かべながら、商品を丁寧にスキャンしてはレジ袋にてきぱき詰めていきます。
 そのプロフェッショナルなお仕事ぶりの合間にときどきチラチラ、ボーっと突っ立っている私へと視線を走らせてくることに気づきました。

 首輪をチラッ、開きすぎた胸元をチラッ、生地を浮かせているふたつの突起をチラッ、外れているボタンをチラッ、そして顔をチラッ。
 湧き上がる好奇心を隠し切れないご様子。

 それはそうでしょう。
 赤い首輪を嵌めて胸元を大きく開いたノーブラ丸分かり女が、前開きワンピースのボタンをほとんど外して顔を赤らめているのですから。
 私とあまり変わらないお年頃っぽいレジ係さんでしたから、何かしら不純なえっちぽい雰囲気を感じ取っていたとしても、何の不思議もありません。
 ああん、恥ずかし過ぎる・・・早くこの場から立ち去りたい・・・
 レジを出てすぐの左斜めでは、お姉さまが壁にもたれて、そんな私を愉しそうにじっと見つめていました。

「ありがとうございます。合計で・・・円になります」
 突然の元気良いお声に、遠くのお姉さまと見つめ合っていた私は大げさにビクン。
 レジ係さんが相変わらず困ったような笑顔で、私をまっすぐ見つめていました。
 私たちが選んで買った荷物は、大きなレジ袋ふたつ分になっていました。
「あ、はいっ」
 お金払わなくちゃ、と動揺した私は、あわてて一歩踏み出しました。
 ワンピースの裾が一瞬大きく割れて、私の目にもハッキリ、無毛の土手が丸見えになりました。

 ハッとして思わずレジ係さんに視線を移すと、レジ係さんの目線はまさしく私の股間の位置。
 その可愛らしいお口をポカンと開けて、唖然とした表情になっていました。
 すぐに見つめている私に気づいたようで、こちらに向き直り、取り繕うような笑顔を無理矢理みたく引っ張り出した後、さっきよりも一層困ったような笑顔に落ち着きました。
 
 その一連の表情の変化を見ていた私のほうも大パニック。
 視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった・・・
 その言葉だけが頭中に渦巻いていました。
 それでもなんとか、お姉さまから預かったお札をトレイに置くことは出来たようでした。

「・・・円お預かりしまーす。・・・円のお返しでーす」
 レジ係さんのお言葉に反応したのはお姉さまでした。
 ツカツカと近寄ってきて、レジ袋をひとつ持ちました。
「ありがとう。お釣りとレシートはあたしにちょうだい」
 
 突然のお姉さまの登場に、レジ係さんは一瞬驚かれたご様子でしたが、店内で私がずっとお姉さまと一緒だったのをご存知だったのでしょう、すぐになんだかホッとされたようなお顔になって、お釣りをお姉さまに渡しました。
「ありがとうございましたー。またのご利用をお待ちしていまーす」
 お姉さまに向けてにこやかに微笑んだ後、私を一瞥して、憐れむような表情を見せてくださいました。

 この人、私がマゾ女だって理解してくれた。
 そのとき私は、直感的にそう思いました。
 お姉さまと私の関係性もわかっている。
 そして、私は蔑まれ、しょうがないヘンタイ女だと思われた、と。

 一番下のボタンを外しておきなさい、とご命令されたときに勝るとも劣らない快感が、再び私の下半身を震わせました。
 このレジ係さんにもっと私を視て欲しい。
 私がどんな女なのか、もっと深くわかって欲しい。
 そして心の底から蔑んで欲しい。

「ほら直子、もうひとつのほう持って。行くわよ」
「あ、はい」
 お姉さまに促され、大きなレジ袋を左手に持って、片足を一歩踏み出しました。
 もはや裾が割れるのも気にしていません。
 二歩、三歩。
 立ち止まって待っていてくださったお姉さまに追いつきました。

 チャリーン!
 私を待つあいだ、お財布にお釣りを戻していたお姉さまが、誤って小銭を落としてしまわれたようでした。
 いいえ、たぶんわざとでしょう。
 レジカウンターからはまだ3メートルも離れていない距離でした。
「あ、500円玉一個落ちちゃった。悪い、直子、拾って」

 500円玉は、レジカウンターに背を向けている私の足元50センチくらい先に転がっていました。
 さっきのチャリーンという音で、レジカウンター周辺の人たちの注目も集まっていることでしょう。
 私はレジ袋を床に置き、そのまま躊躇せずに上半身を前に傾け始めます。
 両膝は折らず、お尻をレジカウンターに突き出すように。
 心の中で、視て、視て、よく視ていて、ってレジ係さんに訴えながら。


オートクチュールのはずなのに 09


2015年6月14日

オートクチュールのはずなのに 07

 お姉さまが降りてしまったので、仕方なく私もドアを開け、薄暗い駐車場のコンクリートの床に降り立ちました。
 小ぶりなクラッチショルダーだけ持ったお姉さまが、ツカツカと近づいてきました。

「なかなか可愛いわよ。ブルーのワンピと赤い首輪のコントラスト」
 頭のてっぺんから爪先までジロジロ見つめてくるお姉さまに、私は気をつけのままモジモジ。
「でもずいぶんきっちりボタン留めちゃったのね?ちょっと暑苦しくない?開けなさい。そうね、上からふたつ」
「は、はい・・・」

 せっかく喉元まで留めていたワンピースのボタンを、少し震える指で外していきます。
 ふたつ外すと、バストの膨らみ始めがちょこっと覗くようになってしまいました。

「うん、いい感じ。ちょっぴりエロっぽくなった。ついでにちょっと、裾もまくってみせて」
「こ、ここで、ですか?」
「大丈夫よ。ほら、今ここには誰もいないじゃない。直子の剥き出しマゾマンコ、なぜかしら急に無性に見たくなっちゃったのだもの」
 お姉さまのお芝居がかった、からかうようなお声。
 確かに広めの駐車場なのに車は少なくガランとして、しんと静まり返っています。

 お姉さまの車の横には、大きめな黒いワゴン車。
 その隙間に隠れるように向かい合っているふたりですから、もしも誰かが来たとしても、お隣の車の人でない限り注目されるようなことは無いでしょう。
 覚悟を決めてワンピースの裾に手をかけました。

「はいストップ。そのままにしていなさい」
 両手で持ったワンピースの裾を胸元くらいまで引き上げたとき、お姉さまからのお声がかかりました。
 剥き出しとなった下半身に、外気が直に触れているのがわかります。
 私、こんなところでアソコを出しちゃっている・・・
 お姉さまが一歩近づいてきてしゃがみ込みました。
 下から覗き込むように浴びせられるその視線が恥ずかし過ぎて、思わず目をつぶってしまいます。

「こんなに薄暗くても、濡れちゃってるのが分かるくらい、マゾマンコの周辺がテラテラ光ってる」
 下のほうからお声が聞こえてきます。
「こんな調子じゃ、買い物中もよだれダラダラ垂らしちゃいそうね?唇の端に今にもこぼれ落ちそうな雫がしがみついているもの。この後だって、どうなることやら」
 お姉さまが立ち上がられた気配。
「でもまあそれも直子次第ね。スーパーの床汚して、店員さんに叱られないようにがんばりなさい」

 そんなことをわざわざおっしゃるお姉さまは、お買い物中、いったい私に何をなさるおつもりなのでしょう。
 目をつぶったまま不安と期待の鬩ぎ合いにゾクゾクしていたら、不意に左手を取られ、裾がパサリと戻りました、

「さあ、行きましょう」
 おずおずと瞼を開いて見えたお姉さまのお顔には、エスモードに入ったときにだけお見せになる、冷ややかな薄い笑顔が宿っていました。

「エレベーターもあるけれど、どうせだから歩いて行きましょう。スーパーは一階だし」
 私の手を引いたお姉さまが、ツカツカとさっき下りてきた駐車場への短いスロープを上がっていきます。
 歩き始めると内腿が粘性のおツユで擦れ、歩いているだけでクチュクチュ音がしちゃいそう。

 お外へ出ると、もう夜と呼んでいいほど暗くなっていました。
 規則正しく並んだ街路灯の周りだけが、明るく照らし出されています。
 私たちが立っているのは、池袋のビルほどではありませんが、ずいぶんと高いビルのふもとでした。

「この辺りはね、大きな病院と大学がいくつか集まっている一帯なの。それで最近出来たのがこのビル。上のほうはオフィス棟」
「だから、駅からほど近いのに、休日だとあまり人がいないのよ。落ち着いていて、いい感じでしょう?」
「春になると沿道の桜が満開になって綺麗なのよ」

 ビル敷地内の遊歩道に入るとお姉さまが歩調を緩め、のんびりしたお声でおっしゃいました。
 大きな建物を囲むように植えられた緑と綺麗な石畳、全面ガラス張りのカフェテラスや、時折置かれているクラシカルなベンチなど、確かに都会的な、オシャレな雰囲気に満ちていました。

「さすがに日が暮れると気温が若干下がるわね。少し風も出てきたし。直子は大丈夫?寒くない?」
 お姉さまが立ち止まり、私を振り返りました。
 私はさっきから、その風が気になって仕方ありませんでした。

 それほど強くはない風なのですが、素肌にゆったりめのワンピース一枚、それも裾がかなり短め、という心細いいでたちの私にとって、時たま裾をふんわり揺らしてくるその風に、気が気ではありませんでした。
 いくら暗くて人もまばらとは言え、駐車場を出てからここまで来るあいだ、4、5人の人たちとすれ違っていました。
 左手はお姉さまに握られているので、右手でお尻の右側を押さえながら、うつむきがちにびくびく歩いていました。
 もちろんからだはこの状況に、ドキドキウズウズ疼いているので、気温なんか感じている余裕もありません。

「だ、大丈夫です・・・」
 うつむいていた顔を上げ、お姉さまにお答えしました。
「そうみたいね。頬がピンクに上気しているもの。ノーパンノーブラに興奮しちゃっているのでしょう?」
「えっ?いえ、そんな・・・」
「そんなにモジモジしていると、却って悪目立ちするわよ?目立ちたくないのなら、普通にしていることね。ま、あたしはどっちでもいいけれど、注目されちゃうのは直子なのだから」
 お姉さまがイジワルクおっしゃってニッと笑い、再び前を向いて歩き始めました。

「着いたわ。あそこよ」
 ほどなくガラス張りのスーパー入口が、明るく光っているのが見えました。
 お洒落なスーパーとしてよくお名前を聞くチェーン店。
 想像していたよりも小さめっぽい。
 お外から見た限りでは、中に他のお買い物客の姿は見えません。

「駅ビルにもっと大きなスーパーもあるのだけれど、駅ビルは休日でも混んでいるからね。直子のノーパンノーブラショッピング・デビュー戦には、このくらいのお店でいいかな、と思ったの」
 おっしゃりながらお店に近づいていくお姉さま。
 
 足元がどんどん明るくなり、うつむいた目に自分の服装がどんどんクッキリ見えてきます。
 ふうわりふくらみ気味のワンピース、開いた胸元、短い裾から覗く生足。
「そのカートを押して、あたしの後を着いてきてね」
 入口前に並んだショッピングカートを指さすために、握っていたお姉さまの手が離れました。

「それから」
 自動ドアの手前で立ち止まったお姉さまが、振り向いておっしゃいました。
「お店に入ったら、あたしの言葉すべてに従うこと、でも、だって、は一切禁止。すぐにさくっと従って。モジモジしてヘンな動きをすると万引きとかを疑われて、もっとひどいめに遭うのは直子自身なのだから」
「こういうお店には監視カメラとか鏡とか、挙動をチェックする目がいっぱいあるのを忘れないで、あくまでも普通にお買物すること。わかった?」
 そのお姉さまの語気があまりに鋭かったので、びっくりしてすぐにお答え出来ませんでした。

「返事は?」
 苛立ったようなお声が追いかけてきました。
「はいっ!」
 その迫力に煽られて、うつむいていた背中がピシッと伸びました。

 お店の中は眩しいくらい明るく、左胸のシミがまだ乾ききっていないことを再確認しました。
 他にもワンピースのところどころに、シミっぽい痕が。
 そして、歩くたびに両胸の先端に突起が浮いては隠れしていることも。

「まずは、全体をざっと巡ってみて、何を作るか決めましょう」
 お姉さまは入口に近い一番端から、色とりどりの商品が左右に整然と並べられた川の字みたいなレイアウトの店内通路を、ゆっくりと歩き始めました。

「今夜は、どうせ帰ったらすぐ寝てしまうでしょうし、お手軽なものでいいわ。明日も昼過ぎまでは起きないつもりだから、食べるのはランチと夕食。最終日の夕食は外で食べましょう」
 歩きながらお姉さまが、少しヒソヒソ気味に語りかけてきます。

「連休終わったら、次いつ帰れるかわからないし、材料余らせて腐らせちゃってももったいないから、あまり手の込んだものはやめておいたほうが無難かもね」
「ワインは確か、開けてないのが一本あったな。調味料類はどうだったかな?」
「ま、余ったら直子が持って帰ればいいし、そんなに深刻に考えることも無いか」
「どう?何かいいメニュー、思いついた?」

 ところどころにある鏡やガラスに映る自分の首輪姿ばかり気になっていた私は、とてもそこまで気がまわりません。
 それでもなんとか頭を働かせ、口から出任せのご提案。
「それでしたらやっぱり、パスタとかサンドウィッチとか・・・あとはサラダや卵のお料理とか・・・」
「うん、いいわね。いつだったか直子がくれたサンドウィッチ、芥子バターにチーズとハムが挟んであったやつ、美味しかったもの。あとコールスロー、あれ作ってよ」
 ふぅ、なんとかごまかせたみたい。

 お外からは誰もいないように見えた売り場内には、それでも10名前後のお客様がお買物されていました。
 お年を召したご夫婦、OLさん風二人連れ、学生さん風男性おひとり客、ベビーカーを押した若奥様風・・・エトセトラエトセトラ。
 ジャズピアノ風のゆったりしたBGMが流れる中、そんな人たちのあいだを私とお姉さまは、まるで私のインモラルな首輪姿をお披露目しているみたいに、しずしずと歩き回りました。

 すべての川を巡り終えてたどり着いた、入口の側の一番奥まったところがお会計レジになっていました。
 そのとき、レジ周辺にお客様は皆無でした。
 みっつあるレジには、スーパーのレジ係さんにしてはお洒落な制服を召した奇麗な女性がおひとりづつ、曖昧な笑顔を浮かべて所在無げに、お客様の到来を待ち受けていたようでした。
 私たちがその場に姿を見せた途端、いらっしゃいませー、と奇麗なハーモニー。
 一斉にじっくりと注目されているのがわかりました。

 お姉さまは余裕たっぷりで会釈を返し、そのまま近くの飲み物類のコーナーに向かいました。
 私もあわてて追いかけます。
 レジ係のお三方すべての視線が、私の赤い首輪に集中しているように思えて仕方ありません。
 数秒後に、いらっしゃいませえー、と背後からお声が聞こえ、誰か他のお客様がレジに来たことがわかりました。
 レジに背中を向け、飲み物を選ぶお姉さまの背中を見つめつつ、早くこの場から逃れたくて、居ても立ってもいられませんでした。

 そんな私の気持ちも知らずお姉さまは、外国ビールのパックと白ワインを二本、じっくり選んでカートに入れ、ついでみたいな感じでお水とソフトドリンクの大きなペットボトルも2本、カートに入れました。
「さ、入口に戻って、今度は食材を選んでいきましょう」
 お姉さまのお声に弾かれたように、一刻も早くこの場を去るためにカートを押して先を行く私。
 お姉さまは、ゆっくりと後から着いてこられました。

 レジから離れた入口のところに戻って一安心。
 と思った途端に新しいお客様がご来店。
 私のドキドキは休まる暇がありません。

「そのワンピ、明るいところで見たらあちこち、シミだらけね」
 お姉さまが私の耳に唇を近づけ、ヒソヒソ教えてくださいました。
「お尻のところに、まあるくシミが広がっているの。まるでお漏らししたみたいに」

 えーーっ、と思わず大きな声をあげそうになって、あわてて口を押さえました。
「座っていたから乾くヒマがなかったのね。感じまくっていた直子の自業自得よ」
 からかい声のお姉さま。
 ということは、さっき私がレジ前で背中を向けていたとき、レジのお姉さんたちに、私のお漏らしシミのお尻をずっと誇らしげにお見せしていたんだ。
 私の中で何かがパチンと弾けた気がしました。

「さてとまず、野菜類ね。コールスローならキャベツとニンジン。あと、適当にサラダも欲しいから、レタスとキュウリ、タマネギも押さえておこうか」
 入口近くのお野菜と果物のコーナー。
 お姉さまがキャベツとレタスを見繕ってカートに入れました。
「キュウリとニンジンは直子に選ばせてあげる。直子が挿れたい太さのにしていいわよ」
 もうっ!イジワルなお姉さま。

 私が適当なのをカートに入れようとすると、
「あれ?そんなのでいいの?こっちのほうが太いわよ?」
 なんておっしゃるのです。
「バナナもいいわね。あら、そこにゴーヤもあるわよ」
「ゴーヤ、気持ち良かったのでしょう?直子言ってたじゃない。帰ったら料理する前にあたしにやって見せてね」

 矢継ぎ早の淫靡なお言葉たちにジワジワと翻弄され、私の理性はどんどん隅っこに追いやられつつありました。
 その代わりに頭の中を支配し始めたのは、欲情。
 ゴツゴツしたゴーヤを手にした途端、奥がキュンと疼き、雫が内腿を滑り落ちるのがわかりました。
 もはや風前の灯火な理性では、自分のはしたない欲情をコントロール出来ないところまできていました。

 公衆の面前で赤い首輪を着けて、裸の上に短いワンピース一枚の、見るからにマゾな私。
 辱められて悦ぶ私なのだから、こんな状況を作ってくださった最愛のお姉さまに、精一杯お応えしなければいけないんだ。
 私の首輪に、何人のお客様が気がついてくださったかな?
 あ、あの女、マゾなんだ、って蔑んでくれていたらいいな・・・
 そんな、被虐と恥辱の願望ばかりが、どんどんどん膨らんできていました。

 お野菜類を選んだ後は、サンドウィッチ用のパンを選び、卵のパックを選び、今夜のお夜食用の冷凍食品をいくつか選びました。
 移動するたびに何人かのお客様とすれ違います。
 チラチラとこちらに投げかけられてくる、見知らぬ人からの視線。
 ついさっきまでは、ひたすら恥ずかしいとしか感じられなかったその視線が、恥ずかしさと同時に、からだの奥を甘く切なく気持ち良く震わせてくるようになっていました。

 チーズの売り場に移動して、そのゲームは始まりました。
「さっき冷凍食品売り場で、あたしお気に入りのピザはどれでしょう、って直子に選ばせたとき、直子、当てられなかったわね?」
「あ、はい・・・ごめんなさい」
「それは、直子があたしのことを真剣にわかろうと思っていない証拠よ。悲しいことに」
「いえ、そんなことは決して・・・」
「ううん。そうに決まってる。だから今後は、間違えたら罰を与えることにした。さ、あたしの好きなチーズを選んで」
 厳しいお言葉とは裏腹に、薄く笑みを浮かべたお姉さまに促され、たくさん並んだチーズを真剣に見渡しました。

 私はゴーダが好きだけれど、お姉さまがさっき選んだピザはモッツァレラ、でも同じものでは飽きちゃうっておっしゃるかもしれないし・・・
 真剣に悩んで、一番一般的なチェダーチーズを指さしました。
「ぶー。何よ、さっきせっかく直子の作ったハムとチーズのサンドウィッチが美味しかった、って褒めてあげたのにさ。直子が使ったチーズは何?」
「ゴーダチーズです・・・」
「そう。あたしもゴーダが好きなの。ほら、それ取って」
 お姉さまがショーケースに並べられたゴーダチーズを指さしました。

 私の膝くらいの高さのショーケースから目的のものを取り出すには、前屈みにならなければなりません。
 私たちの背後では、社会人ぽいカップルさんが、まったりとジャム類の棚を眺めていました。
 もしも私が屈んだとき、その人たちが振り返ったら、突き出してせり上がったワンピースの裾から、お尻の中身まで覗けてしまうかもしれません。
 一瞬のうちにそう考えて、それもいいかも、とも考えたのですが、結局私は、両膝を軽く曲げ、しゃがむように素早く屈んでゴーダチーズを取り、カートに入れました。

「はい。それでおっけーよ。でも間違えたからペナルティひとつね。上からみっつめのボタンを外しなさい」
「えっ?」
「ここに入る前にあたしが言った忠告と言うか命令、忘れちゃった?でももだってもえっも無し。ほら、さっさとしなさい」
「・・・はい」
 
 右手を胸元に持っていき、素早くボタンを外しました。
 襟元が前よりも開き、膨らみの肌がより目立つようにりました。
 全身がキューッと火照りました。

「次はハムを選びましょう。ハム類は確か、こっちだったはず」
 お姉さまが歩き出そうとして、ふと立ち止まり、私の耳に唇を寄せてきました。
「それと、今度から前屈みになるときは、両膝を曲げるの禁止ね」
 耳の奥に熱い息をフーッと吹きかけられ、下の奥が盛大にヌルンと潤みました。


オートクチュールのはずなのに 08


2015年6月7日

オートクチュールのはずなのに 06

「四つん這いになった?なったら好きなだけ、剥き出しマゾマンコを虐めていいわよ。実況は忘れずにね」
 運転席の背もたれの向こう側から聞こえてくるお姉さまの冷静なお声に促され、右手をそろそろと股間に伸ばしました。
 そのときでした。

「あの、お姉さま・・・」
「何?」
「ローターが止まってしまったのですけれど・・・」

 乳首でイった後も、ずっと私の中でブルブル震えつづけていたリモコンローター。
 少し弱くなっているような感じはしていましたが、私が股間に右手を伸ばしたタイミングを見計らっていたかのように、プツンという感じで完全に止まってしまいました。
 ああんっ、またお姉さまお得意の焦らしプレイ、と思っていたら、返ってきたお答えは違っていました。

「ああ、たぶん電池切れでしょう。ずっと最強にしていたから、力尽きちゃったのよ。挿れててもオナニーの邪魔でしょうから、抜いちゃいっていいわよ」
「あ、はい・・・」
「あら、直子ったら、さすが露出狂ね。窓に向けてそんなにお尻突き上げちゃって。本当に誰かに剥き出しマゾマンコ見て欲しくてしょうがないのね?」
 ルームミラーで私の格好を確認されたのでしょう、お姉さまのからかうようなお声。

「え?いえ、これは違うんですぅ、たまたまこっち向きに・・・」
 あわてて腰を落とそうとシートに這いつくばってみますが、お尻の高さはそんなに変わらないみたい。
「ふーん。その自慢のマゾマンコからローター抜くところを、窓からみんなに見せたいからじゃないの?」
「そ、そんなことありません」
「まあいいわ。早く抜いちゃいなさい」

 下半身へと伸ばした右手でワレメから飛び出しているはずのアンテナ部分を探り当て、じわじわと引っ張りました。
「あうぅ」
 ローターの楕円が内側から、名残惜しそうに膣口を抉じ開けてきます。
 そのもどかしい感触で、知らずにまた、お尻が突き上がってしまいます。
「んんんぅっ」
 ヌルンという感じで、ローターが抜けました。

「抜いたらしゃぶってキレイにして、助手席に置きなさい」
「はい・・・」
 自分の愛液がベッタリついたローターを口に含みます。
 少し生臭くしょっぱ苦い味が口腔に広がります。
 んっぐぅ、じゅぶじゅぶ・・・

「どう?今日のマゾマンコ汁のお味は?」
「ふぁぃ、ひょっろ、ひょっふぁいれふぅ」
「あたしは好きよ、直子のマゾマンコ汁」
 お姉さまからの嬉しいお言葉!

 助手席で丸まっている黒ショーツの上にローターを置くと、お姉さまが尋ねてきました。
「直子のマゾマンコ、今、どうなってる?」
「はい・・・ヌルヌルに濡れて、すごく熱くなっています」
「そんなにサカっているなら、あの卑猥なクリットもパンパンに腫れているはずよね?ちょっと軽く弾いただけでも、きっとすぐでしょう?今度はクリちゃんだけでイってごらんなさい」
「はい・・・」

「はぁぅんっ!」
 シートとからだのあいだに右腕を潜らせて、股間へと伸ばしました。
 右手中指の腹が、その腫れた肉芽に触れただけで、全身を電流がつらぬき、腰全体がビクンと跳ねました。
 ガクンと崩れたお尻を再び精一杯突き上げて、手探りで人差し指と中指のあいだに突起物を挟みます。
「あうぅぅっ・・・ぅぅぅーんぅぅぅ」
 指を擦り合わせるように、挟んだおマメをグリグリ虐めます。
「あっ、あっ、いぃっ、あーっ」
 下半身全体がグングン熱くなって、奥がキュンキュン啼いているのがわかります。
「気持ち良さそうな声だこと。でもほら、実況は?」

「あぅ、はい・・・い、今、ク、クリトリスを虐めてますぅ・・・指で挟んで、引っ張るみたいに、ぐりぐりぐりぃ、って」
「すごく硬い・・・あぅっ、どんどん熱くなってますぅ、あ、いやっ、痛いっ、けど、もっと、もっと、もっとぉぉ」
「指がヌルヌルですぅ、気持ちいい、ぃぃ、ぃぃ、いぃぃーっ!」
「あっ、もうすぐぅ、いやっ、んぎゅっ、あっ、あっ、あっ・・・」
「つ、爪で、かりかり、あ、いやっ!だめ、あ、いたぃ、だめっ、あっ、あっ、いぃぃいくいくぅ・・」
「あん、ぃぃぃ・・・もうだめ、イきます、イっちゃいます、あ、いくいくいくいくいくいくぅぅぅぅ!!!」

 天井に届きそうなほど思い切り突き上げた腰全体が硬直したまま、ヒクヒク痙攣しているのがわかりました。
「はぁはぁはぁはぁ・・・」
 そんな腰がゆっくりと下がり始め、シートに突っ伏す格好になりました。

「ずいぶんあっさりイっちゃったのね?気持ち良かった?」
「はぁ、はぁ、はぃぃ・・・」
「だけど今度は、中を掻き回したくて仕方なくなっているでしょう?」
「はぁ、はぁ、な、なんでわかるのですかぁ?」
「なんでって、あたしがもう何回、直子のオナニーにつきあっていると思う?乳首とクリでからだに火を点けて、最後に中を滅茶苦茶掻き回して、ふかーく何度もイキまくる、っていうパターンなのよね、たいがい」
「だから、今その状態で行為を中断させられることが、一番辛い、っていうこともね」

 お姉さまのおっしゃる通りでした。
 クリ虐めで果てた後も私の右手は股間を離れず、ずっとラビアをもてあそんでいました。
 指先を中へ潜り込ませたくて仕方ありませんでした。

「でも残念なことに、あと5分も走ると高速出口なのよ。思っていたよりずいぶんスイスイ進んじゃった」
「一応降りるときには、ちゃんと座ってシートベルトをしていて欲しいわけ。白バイが出口付近で待ち構えていたりすることもあるらしいから」
「だからひとまずおあずけ。座り直してベルトしてくれる?」
「はい・・・」
 未練たらしく股間に右手をあてがったまま、両足をシートから下ろしました。

 窓の外はずいぶん暗くなっていました。
 運転席の真後ろに座り直すと、半分鏡と化した窓に私の顔が映りました。
 一際目立つ赤い首輪。
 そうだ、これを着けていたんだ、って久しぶりに思い出しました。

「ワンピだけ羽織ってもいいわよ。でも、直子が裸のままがいい、って言うのなら、強制はしないけれど」
「いえ、まさかそんな・・・」
 高速を降りたら一般道。
 いくら窓ガラスにスモークが施されているといっても、都会の街中を裸のまま後部座席に座りつづける度胸なんてあるはずがありません。

「もしも検問していて、後ろに首輪だけ着けた全裸の女が座っていたら、おまわりさんもビックリするでしょうね。あたしのペットです、って紹介しようかしら。人間ではなくてメス犬なんです。だから裸なんです、って」
 愉快そうなお姉さまのお声。
 と同時に車内が急に騒がしくなりました。

「直子のいやらしい喘ぎ声と熱気で、車内がなんだかねっとり蒸し暑くなっちゃったから、換気よ」
 運転席側の横の窓が半分くらい開いて、エンジン音や風を切る音が騒々しく車内になだれ込んできました。
 今更ながら、天下の公道を走っていることを思い出します。
 それなのに、私のこの格好・・・
 あわてて助手席に手を伸ばしました。

「下着は着けずに、ワンピだけ素肌に直にね!」
 車内が騒々しくなったので、お姉さまのお声も怒鳴るみたいになっています。
 助手席から手に取ったネイビーブルーのワンピースは、ちょうど左胸の下くらいに色が濃くなった大きなシミがついていました。
 私の愛液でグッショリ濡れたショーツを上に置いていたせいでした。

 右袖に腕を通そうとしたとき、私の側の窓もゆっくり開き始めました。
「後ろの席も換気してあげる。淫靡な臭いがこもっちゃってるでしょ?風が気持ちいいわよ」
 私の顔が映っていた窓がどんどん下がっていき、夕暮れのお外の景色がクッキリ見えてきました。
 ちょうどすぐ横を白いワゴン車が並走しています。

「いやんっ」
 まだ右袖だけしか通していなかった私は、焦って左腕をバタバタさせています。
 窓は全開となり、まだぜんぜん隠しきれていない剥き出しおっぱいに、お外からの乱暴な風がまとわりついてきます。

 白いワゴン車に目を向けると、あちらも窓にスモークが施されていて中はよく見えません。
 でも、後部座席に人がいるような気配・・・
 窓に背中を向け、ようやく両袖が通りボタンを留め始めたとき、両方の窓がスーッと閉じられ、車内に静寂が戻りました。

「さっき直子が外にお尻向けてクリオナニーしていたときにね」
 お姉さまが急に思い出したみたく、お話し始めました。
 私はワンピの前開きボタンを全部留めてシートベルトをし、運転席の後ろに大人しく座って、左胸下の派手なシミを気にしていました。

「すっと横を並走してくる車がいたの。着かず離れずっていう感じで。あれは、気がついていたと思うわ、この車の窓からお尻が覗いているの」
「あたしがスピードを少し落とすと、そっちも落としていたし。助手席か後部座席の人が気づいて運転手に指示したのでしょうね」
「窓越しに見た感じでは、学生っぽい若そうな子たち。助手席は派手めな女の子だった。その子はしっかりこちらを見ていたわ、後部座席にも人がいるのはわかったけれど、性別まではわからなかった」

「よかったわね直子、見てもらえて」
 お姉さまから投げかけられたそのお言葉に、奥が性懲りも無くキュンと疼きました。
 やっぱり誰かに視られちゃっていたんだ・・・

「そ、そんな・・・それで、その車は?」
 今更ながらの強烈な羞恥に全身がカーッと火照って仕方ありません。
「右側は追い越し車線だからね、いつまでも90キロくらいで走っていられないの。後ろの車に煽られて、スピード上げて離れていったわ」
「直子が四つん這いになって、ローター抜いて、クリット虐め始めたくらいまでかな、並走していたのは。残念ながらイクところまでは見られていないわね」

 お姉さまが、見て欲しくてしょうがないのね、って私をからかったとき、実際に本当に隣の車から視られていたんだ・・・
 そう思い当たって、居ても立ってもいられないほどからだが疼いてしまいます。

「並走されているの気がついたとき、後ろの窓を開けたい衝動を抑えるのが大変だったわ。窓越しじゃなくてライブで見せてあげたいじゃない?」
 冗談ぽくおっしゃるお姉さま。
「だけど窓開けたら、直子が怖がってオナニーやめちゃうと思ったから、がまんしたの。せっかくやる気マンマンなのに中断させたら可哀相だものね」
「その車は、ずいぶん先に行ってから左車線に移ってたわ。今もこのトラックの前にいるかもね」

 視線をフロントグラスに遣ると、お姉さまの車の前には、ずいぶん大きな箱型のトラックが視界を塞いでいました。
 右隣の車線には、追い越していく車が次から次へと、びゅんびゅん走り去っていきました。
 不意にカチカチという音がして、お姉さまの車がゆるやかな左カーブの側道へと逸れました。

 ずいぶん久しぶりの赤信号で停車した信号待ち。
 お外はもうすっかり日が暮れていました。
 歩道橋や行き交う歩行者、途切れることの無い車の流れ、遠くで瞬くネオンサイン。
 現実に戻ってしまった気がしました。
 そして窓ガラスに映る、赤い首輪を着けた女。
 日常的な風景の中で、その姿だけ明らかに浮いていました。

「さあ、もうひとっ走りで恋しい我が家だわ。でもその前にもうひと仕事しなくちゃ」
 お姉さまの心なしかリラックスされているようなお声。
「ちょっと一軒、寄っていくけれど、そこに着くまで直子は、自由にそこでオナニーのつづき、していていいわよ。そのワンピなら裾をちょっとめくれば、剥き出しマゾマンコを直に弄れるでしょ?」
「あ、いえ、それは・・・」

 周囲をひっきりなしに人や車が行き交うこんな状況で、そんなことが出来るほどの大胆さは持ち合わせていません。
「周囲も暗くなったし、バレやしないって。あ、バレたほうがいいのなら、窓開けてあげよっか?」
 イジワルっぽく尋ねてくるお姉さまがニクタラシイ。
「いえ、そ、それより、どこへお寄りになるのですか?」
「いいところ」

 走っては止まりをくりかえしていたお姉さまの車は、やがて大きなビルの駐車場に侵入しました。
「あの、ここは?」
「買い物よ。今、うちの冷蔵庫空っぽだもの。備蓄ゼロ。食料無しでこれから二日間、どうやって暮らすの?」
「それに直子は全裸家政婦なのだから、お料理もしてくれるのでしょう?」
「はい。そのつもりですけれど・・・あの、私も一緒に、お買い物についていくのでしょうか?」
「あたりまえじゃない。家政婦なのだもの、メニュー考えて、食材選んでくれなきゃ」
 駐車スペースに車を停め、エンジンを切ったお姉さまがこちらを振り向きました。

「この格好で、ですか?」
「そう」
「首輪も着けたまま?」
「もちろん」
 背筋を何かもどかしい感覚が、ゾクゾクっと駆け上りました。

「直子はこのへんに、誰か知り合いいる?」
「えっと、ここは飯田橋の辺ですか?」
「そう」
「それなら、たぶんいない、と思いますが・・・」
「ならいいじゃない。完全アウェーなのだから、少しくらい目立ったって、その場限りの行きずりなのだし」

「それに、これから行くスーパーは、輸入食材とかを扱っている、一般的にちょっとハイソって言われているお店で、普通のスーパーよりも客層がお上品なの。だから不躾にジロジロ見られたり、からかわれたりはしないと思うわ」
「たぶんみんな、怪訝そうな顔くらいはすると思うけれど、若い子のあいだで流行っているファッションなのかな、くらいにしか気にしないはずよ」
 無責任な楽観的推測をおっしゃるお姉さま。

「で、でも私、下着も着けていないですし・・・」
 やわらかなリネンのワンピースはボディコンシャスではなくゆったりめなので、ずっとというわけではありませんでしたが、おっぱいと布地が密着するたびに、そのネイビーブルーの布地にクッキリと乳首の形を浮き上がらさせ、ノーブラであることを主張してしまいます。

「ああ、そうだったわね。でも直子、そういうこと、一度やってみたかったのでしょう?」
「あ、あのえっと、それは・・・」
「だけどひとりでは出来ないから、ずっとがまんしていたって言ってたじゃない。今日は新しい扉を開くチャンスなのよ。せっかくあたしが一緒にいるのだから」
 お姉さまが真剣に、子供に諭すみたいにおっしゃいました。

「もしも不埒な輩が直子にちょっかい出してきたら、あたしがぶん殴って撃退してあげる。それは約束する。だから直子も勇気を出して、露出マゾとしての新しいステップに進むべきだと思う」
「今までだって、シーナさんや百合草女史と何回かそういうことしてきたのでしょう?それともあたしじゃ信頼出来ない?」

「いえっ!決してそんなことはないですっ!でも、スーパーみたいにたくさん人がいそうなところには、今までノーブラで出たこと無いから・・・」
「だからこそして欲しいのよ。あたしは直子のパートナーの中で、忘れられない一番になりたいと思っているの」
 お姉さまの真剣なまなざし、その瞳の中にはエスの炎が大きく燃え盛っているのがわかりました、に射すくめられ、私はコクリと頷く他はありませんでした。

 私の承諾に満足そうに微笑んだお姉さまの視線が、私の下半身に移りました。
「パンツはどうする?穿きたい?」
「はいっ、それはもちろん」
「ふーん。その黒いパンツって、けっこう目立っていたの、直子知らないでしょう?後部座席に乗ってきて座った途端、丸見えだったのよ」
「えーっ?」
「直子って、ミニスカ慣れしていないでしょう?だから足捌きとか隠し方がわかっていないのよね」

「たまほのは、たぶんそれにびっくりしていたの。そのワンピ、裾がちょっと上がると中身丸見えなんだもの。ルームミラーにもずーっと映ってた」
「たまほのがちょくちょく後ろを振り返っていたのも、きっとそれを確認するためだと思うわ。ヘアなのかパンツなのかわからなかったのじゃないかな?」

 ほのかさまが振り向くたびに、私の太腿をチラチラと見ていらっしゃったのは知っていたけれど、実はその奥まで目を凝らしていらっしゃったんだ・・・
 私のこと、どんな女だと思われたろう。
 今日何度目かもわからない、今更の羞恥に包まれました。

「ヘアが無い直子の場合、黒パンツなんか穿かないほうが、却って股間に注目がいかないような気もするのよね、肌色のまんまのほうが」
「これはあたしからの忠告だから、参考にしてね。それで直子に選ばせてあげる。パンツを穿くか穿かないか・・・」
 お姉さまがそこまでおっしゃってお言葉を区切り、イジワルそうにニッと笑いかけてきました。

「もしもパンツを穿きたいなら、ローターも挿れること。電池の予備はあるから。それでシャッフルをあたしが持ってショッピング」
「穿かないでいい、って言うなら、このまま車を降りるだけ。剥き出しマゾマンコ見せ放題。どっちがいい?」

 リモコンローター責めショッピングか、ノーパンノーブラショッピングか・・・
 どう考えてもリモコンローターのほうがリスクが大きい気がします。
 それでなくても、今までのドライブで私の中は、更なる刺激を欲してうねうね疼きっぱなしでした。
 そんなところに挿入されて、人がたくさん居るところで最強にされでもしたら、間違いなく思い切りはしたない声をあげてしまうことでしょう。
 ただノーパンなだけならば、自分が気をつけることで何とかなりそう。

「ノ、ノーパンで、いいです」
 ちっちゃな声でお姉さまに告げると、嬉しそうに微笑んだお姉さまは、何も答えず運転席のドアを勢い良く開きました。


オートクチュールのはずなのに 07


2015年5月24日

オートクチュールのはずなのに 05

 崩れる落ちるようにバックシートに倒れ込むと、自然と右手が胸元のボタンへ。
「あぁぁぅぅぅふぅぅ・・・」
 中を激しく震わせてくるローターの振動に急き立てられて、一刻も早くおっぱいをわしづかみたくてたまりません。
「んふぅぅぅ・・・」
 とりあえず座席に浅く腰掛けた体勢ではあるのですが、ボタンを外しながら上半身がくねくね身悶えてしまい、ズルズルと横座りで寝そべるような格好になってしまいます。

「こらこら。まだ寝そべっちゃ駄目。高速に入るまでは、ちゃんと座っていて」
 車を発進させたお姉さまのお叱り声と共に、ローターの振動が急に緩やかになりました。
 ああん、またおあずけ?お姉さまのイジワル、なんて思いましたが、上半身を直して窓の外に目を遣ると、すぐ横を他の車が並走していて、助手席の女性のお顔までハッキリと見えました。
 そう、ここは紛れも無く天下の往来。
 黒のショーツ全開で、だらしなく投げ出していた両脚を大慌てでピタッと閉じ、胸元を押さえて窓から顔を背けました。

「あたしの真後ろに座って、ちゃんとシートベルトもしていてね。来るとき、高速出口にパトカー止まっていたから念のため。高速の入口過ぎるまではね」
「あ、はい」
「高速に入っちゃったら、好きにしていいから。リアは横も後ろもスモーク貼ってあるし、これから暗くもなるし、まず大丈夫だと思うわ」
「わかりました」

「もうブラは取った?」
「あ、いえ、まだです」
「早く取っちゃいなさい」
 お姉さまに促され、すでにウエスト近くまでボタンを外していた胸元を開き、フロントホックを外しました。

「取ったら助手席に置いて」
「はい・・・はあぅっ!ぁふぅぅん」
 からだを助手席のほうに乗り出すと、右肩から斜めに掛けたシートベルトがはだけた右おっぱいを押し潰してきて、尖った乳首の側面をベルトのザラザラが直に擦りました。
「直子にかかったら、シートベルトも拘束具のひとつになっちゃうのね。呆れちゃう」
 お姉さまは、ルームミラーで後部座席の私の動向をチラチラ確認されているようです。

「そうそう、忘れていた。直子、あたしがあげた首輪は持ってきたわよね?」
「あ、はい。メールでご指定いただいたものは、全部持ってきましたけれど・・・」
「じゃあ、その首輪を着けて。リードはまだ付けなくていいから、首輪だけ」
「今、ここで、ですか?」
「そうよ。あたしは直子を連休中、家政婦、つまり使用人として雇ったのだもの。だから首輪は、雇い主に対して絶対服従な使用人としての、証、みたいなもの。それを着けたら直子は、あたしのしもべになるの」
 お姉さま、私を虐める気満々だ・・・
 すっごく嬉しくなって、自分のバッグをガサゴソします。

 でも、首輪を着けている最中、一気に不安になってきました。
 首輪を着けたまま、お外に出たことは、もちろん今まで一度もありませんでした。
 こんなアクセサリーを身に着けて出歩く女の子なんて、そうそうお目にかかれません。
 強いて言えば、ゴスロリ趣味の子とか、パンクとかヘビメタのバンドをやっている子、あとはコスプレの一環、そのくらいかな。
 今日の私の服装は、それのどれにも当てはまらないですから、首輪を着けたら違和感ありまくりでしょう。

 そして首輪という器具は、ある種の趣味嗜好を持つ人たちにとって共通の、とある性的イメージを象徴しています。
 それは、さっきお姉さまがおっしゃった通り、服従の証としての拘束具。
 ご主人様と奴隷、飼い主とペット、サディストとマゾヒスト。
 いずれの場合でも、後者が着けるべき装飾品として広く認知されているアイテムでした。

 数年前、白昼のデパートのティーラウンジで、シーナさまからワンちゃんの首輪そっくりなチョーカーを渡され、ここで着けなさい、とご命令されたとき。
 着けるそばからみるみる私の顔が、はしたないドマゾ顔に変わっていった、と呆れたシーナさまは、以降、人前での装着禁止を言い渡しました。
 そして事実、私はそれを着けたその場で、ショーツをたくさん濡らしていました。

 私にとって、人前で首輪を着ける、ということは、そういうことなのです。
 首輪を着けてお外を出歩くということは、私はマゾです、と、周りのみなさまに宣伝しながら歩いているようなもの。
 お姉さまのご命令で、これからその恥辱を味わうことになるんだ・・・
 ドキドキする不安感と、未知の被虐へのワクワク感を半々に感じつつ、赤い首輪を着け終えました。

「着けた?着けたらちょっと身を乗り出してみて。このミラーによく映るように」
 お姉さまが前を向いたままおっしゃいました。
「はい」
 上半身をミラーのほうへ寄せると、再びシートベルトが私のおっぱいを押し潰してきます。
「あふぅん・・・こ、これで、見えますか?」
「うわっ。首輪したら一段とサカっちゃったわね。いやらしい顔。どエムそのものじゃない」
 シーナさまと同じ感想をおっしゃるお姉さま。
 助手席にはまだ、私が外した黒いブラジャーが、所在なげにポツンと置いてありました。

「最初はね、車に乗せたらすぐに首輪させて、高速を使わずに下走ってゆっくり帰ろうと思っていたの」
 まっすぐ前を向いて運転しつつ、ミラー越しに私をチラチラ窺がいながら、お姉さまが教えてくださいました。

「助手席に乗せて、下半身だけ丸出しにさせて、直子のイキ顔を信号待ちの歩行者や対向車、あと、それこそ前の車のミラー越しとか、街中のみんなに愉しんでもらおうかな、って」
「おっぱい出しているわけじゃないから、ちょっと見じゃ気づかれないじゃない?窓から覗き込みでもしない限り、下半身は見えないだろうし」
「でも、ぜんぜん気づかれないのも面白くないって考えて思いついたの。首輪をしていれば、目を惹くでしょ?おや、なんだかあの子、おかしいぞ、って」
「それで、みんなの視線を惹きつけつつ、思う存分直子にオナってもらって、淫ら顔を飯田橋まで晒し者にしたかったのだけれど、たまほのを拾っちゃったから、作戦変更になっちゃった」

「拉致監禁、ていうキーワードから、裸で手足縛って目隠しに猿轡でトランクに放り込む、っていうのも考えたわ。本物の誘拐犯みたいにね」
「もちろん、ローターのスイッチは最強で入れっぱなし。直子は、窮屈なトランクでからだ丸めたまま身動き出来ず、情け容赦無く震えつづける快感に悶え苦しむの」
「でも、そうすると運転中はあたしひとりになっちゃうから、直子をイジれなくて、思うよりはつまんなさそうなのよね。それに、万が一検問とかひっかかってトランク開けなくちゃいけなくなったりしたら、えらく面倒くさいことになりそうだし」

 今のふたつのご提案を、自分の身で実行することを想像してみます。
 助手席での下半身裸オナニーと、トランクに全裸緊縛監禁。
 どちらも背筋がゾクッとするくらいスリリングで、怖いけれどぜひともやってみたいと思いました。
 いつか機会があるかな?
 それと同時に、ひとりでは絶対出来ない、そういうアソビを私のために考えてくださる、お姉さまと出逢えて本当に良かったと、心の底から思いました。

「ま、いずれにしてもこれからの3日間、直子はその首輪を着けて過ごすこと。それが全裸家政婦に許された唯一の制服よ。寝るときは外していいわ。それ以外は外しちゃだめ。首輪以外の衣服は、あたしの許可無しでは一切着せないから、そのつもりでね」
「・・・はい」
「そろそろ高速入口だわ。ベルト直して、一応ちゃんとしていて」
「はい」

 開けすぎた胸元のボタンを留め直しながら考えました。
 そう言えばお姉さまは、お休み中はほとんど、ひきこもり状態っておっしゃっていたっけ。
 ということは、外出しないでずっとお部屋の中でふたりきり、ということになるわけで、それならば首輪を着けつづけることなんて、まったくプレッシャーにはならなそう。
 なんだかそれも残念な気も少ししたのですが、ずいぶんホッとしたのは事実でした。

「ほら、高速に入ったわよ?好きにしていいのよ?」
 考えごとでボーっとしている私を煽るように、お姉さまの投げつけるようなお声が響きました。
「あ、はいっ!」
 ビクンと我に返って窓の外を見ると、薄暗くなり始めたお空と、びゅんびゅん飛び去っていく何本もの外灯が見えました。
 お姉さまは左寄りの車線を走っているので、窓のすぐ横を後ろから追いついてきた他の車が、瞬く間に追い越していきます。
 
 私、こんなところで今から、オナニーしようとしているんだ・・・
 後ろめたい罪悪感と背徳感は、それをしなくてはいけない、という被虐感へと姿を変え、蔑まれたいというマゾの恥辱願望が、どんどん昂ぶってきます。

「だけどさ、後部座席でコソコソグチュグチュやられても、何しているのか見えないあたしには退屈なだけだから、こうしない?」
 お姉さまのよく通るお声が、運転席の背もたれの向こうから聞こえてきました。
 流れていたモーツアルトのボリュームが少し下がっています。

「正直言って、さすがのあたしもけっこう疲れていて、運転しながら眠くなりそうなのね。だから、あたしの眠気を吹き飛ばすくらい、派手にやって欲しいのよ」
「これから直子は、自分のしていることをあたしに全部、言葉で説明しなくちゃいけない、っていうルールにしましょう。つまり、セルフ実況中継」
「ルームミラーに見入ることもできないあたしが、たやすく想像出来るくらい、こと細かに説明するのよ?それと、あたしの質問には正直に答えて、命令には絶対服従すること。いい?」
「は、はい・・・」
「おっけー、じゃあ始めて」
 そのお声と共に、ローターの振動が最強に跳ね上がりました。

「あぁふぅぅぅ・・・」
「早速いやらしい声。直子はこれから、何をしようとしているの?」
「あん、はいぃオナニーです」
「こんな走っている車の中で、オナニーしちゃうんだ?それってヘンタイじゃない?」
「あぁん、はい、直子はヘンタイなんですぅ」
 振動が高まったローターに私のからだも、みるみるうちに回転数が上がっていました

「なんかカサカサ音がしているけれど。今何しているの?」
「はい、ワンピースのボタンを外しています」
「ほら、だからそういうのはちゃんとわかるように実況しなきゃだめでしょう?」
「あ、はい。ごめんなさい。今、おへそのところまでボタンを外しました。襟元がはだけて、おっぱいが見えていますぅ」

「隣を車がびゅんびゅん通り過ぎるところで、おっぱい出しちゃっているんだ?恥ずかしくないの?」
「あぅぅ、恥ずかしいです。今、ボタンを全部外しました。ショーツまで全部見えちゃってますぅ」
「それなら、シートベルトしたままワンピースを脱ぎなさい」
「はい・・・あうぅ、あああんっ・・・脱ぎましたぁ。乳首がベルトに弾かれて気持ちいいですぅ・・・」

「乳首はどうなってる?」
「両方ともコリコリですぅ、んんん、ああん、硬いぃ、それに熱いですぅ」
「今、パンツ一丁ってことね?脱いだワンピも助手席に置きなさい」
「はいぃぃ、ああん、またベルトさまが、乳首を虐めてきますぅ、うぅぅぅ・・・」
「じゃあまず、おっぱい揉んで、おっぱいと乳首だけでイキなさい。直子ならイケるでしょ?ロータも入っているし。シートベルトに虐めてもらいなさい。ちゃんと実況するのよ」
「わかりましたぁ、やってみますぅ」

「ぁあん、えっと今、左手は左のおっぱいを掴んで、あうっ、むにゅむにゅ揉んで、右手はシートベルトの縁で右乳首をカリカリ虐めています。あうっ!いたぁいぃ」
「ベルトさまのギザギザがすごく気持ちいいですぅ、表面もザラザラしててぇ、ぁあん、もっと、もっと、ぁああんっ!」
「ベルトごと右おっぱいを掴んで揉んでいます。ああん、気持ちいいぃぃ」
「んふ、んふ、んふうぅぅ・・・おっぱいがジンジン熱いですぅ、ぁぁぁ、ローター気持ちいぃぃっ」
「あっ、あっ、あぁ・・・なんだかアソコの奥が、どくどく波打っているみたいです、もうすぐイケそうぅ・・・」

「はぁふぅ、乳首が伸びるぅ、いたぁい、でもきもちいいぃぃぃ、いっ、いっ、いぃぃぃl」
「乳首に爪立てて引っ張ってまぁすぅ・・・ううぅぅぅ、もっとぉ、つよくぅぅ・・・」
「本当は、お姉さまに噛んで欲しいんですぅ・・・直子のいやらしく尖った硬い乳首、噛み切るくらいに・・・ああん、いたぃ、いやあ、いたぁいぃ、ちぎれそぉー!でも、もっと、もっとぉぉぉ」
「あ、あ、あ、お姉さまぁ、ごめんなさいぃ、イっちゃいますぅぅ、あ、あ、あ、あ、あぁ、イキますイキますぅぅぅ・・・!!!」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

「本当に、おっぱいだけでイっちゃったみたいね。たいしたものだわ。でも、ずいぶん溜まっているみたいだから、まだまだイケるでしょ?ねえ、パンツはどうなっている?」
「はぁ、はあ、はぁ・・・パ、パンツは、あ、いえ、ショーツはもうグッショリですぅ、あぁん、冷たいぃ」
 股間に手を遣ることを許されて、あてがったら、愛液がベットリ。
 滴り落ちたおツユで、茶色いシートが黒ずむほどシミになっていました。

「ごめんなさいお姉さまぁ、シートを汚してしまいましたぁ」
「いいわよそんなの。気にしなくて。なんなら潮だって吹いちゃっていいから。車内が直子臭くなるなら大歓迎」
「ああん、お姉さま、私、ショーツも脱ぎたいです。脱いでもいいですかぁ?」
 窓の外がずいぶん暗くなったこともあり、私もずいぶん大胆になっていました。
 おっぱい虐めで味わった、ほぼひと月ぶりのオーガズムに、理性のタガの2、3本は、とっくに外れていました。

「なあに?ここでスッポンポンになっちゃうんだ?さすが全裸家政婦を自認するだけあるわね。いいわよ。脱いじゃいなさい」
「あ、でも、紐を解かないで、ずり落としなさい。そのほうが後々ラクだから」
「はぁい。ありがとうございますぅ」

 元々ローライズなのがシートに擦れ、一本の細い紐のようになっていたショーツを、座った姿勢で一気に足首までずり下げました。
 股間のワレメとクロッチとのあいだに、何本もの透明な糸が引いては切れました。
 クロッチ部分は、プールから上がったときみたいにグッショグショ。
 ショーツを足先から抜くときに、履いていたミュールも一緒に脱いじゃいました。
 これで私は、赤い首輪以外、一糸纏わぬ全裸です。
 脱いだショーツはご命令される前に、助手席に献上しました。

 走行中の車の中で全裸になっているという事実に、私のマゾ性が歓喜していました。
 もしもお姉さまが、高速降りてもそのままでいいわね、なんておっしゃったら、私は、お姉さまのお部屋にたどり着くまでずっと、全裸でいなければなりません。
 高速を降りたら、歩行者も行き交う一般道。
 その道中も、駐車場からお姉さまのお部屋までも、首輪のみ全裸のままかもしれません。
 そう考えただけで、マゾの被虐心が下半身を激しく疼かせます。
 もちろんそんなこと、絶対に出来ないのですが、心のどこかで、そんな非情なご命令さえ、待ち望んでいました。

「それじゃあ今度は、下半身でイってもらおうかな。早く弄りたくて仕方ないのでしょう?」
「はいぃ」
「何だっけ?直子のその、普通は生えているべきヘアさえわざわざ抜き去っちゃった、いつもよだれを垂らしている淫乱な箇所の名前は?」
「あの、えっと、性器です・・・女性器・・・」
「ずいぶんお上品なこと。でも直子のは、そんなお上品なものではないでしょう?今だってよだれダラダラのくせに」
「あぁんっ、ごめんなさい。オ、オマンコです・・・直子のよだれダラダラ、淫乱オマンコですぅ」
 
 こんなになっても私は、その言葉を誰かに向けて口にするとき、恥ずかしくてたまりません。
 一方で、その恥ずかしさに興奮しちゃう、別な私もいるのですけれど。

「よくそんなお下品な名称を大きな声で口に出来るものね。だけど、直子のだったら、それでもまだ上品過ぎるわ。オなんか付けちゃって生意気よ。そもそも御って、丁寧語や尊敬語の接頭辞だもの」
「あたしが直子にピッタリのお下品な名前を付けてあげる。うーんとそうね・・・」
 お姉さまがしばし長考。
 私はそのあいだ、股間のローターの振動に意識を集中していました。

「よし決めた!直子のソコはね、今日から、剥き出しマゾマンコ、に決定ね。あたしに聞かれたら、いつもそう答えること。わかった?」
「あ、はいっ!」
「言ってごらんなさい、直子の剥き出しマゾマンコ!」
「あぁん、直子の、剥き出し、マゾマンコ・・・」

 一言一句、実際に声に出すごとに、ゾクゾクッと背筋が震え、私のソコの呼び名にはピッタリな感じがしました。
 淫乱で、貪欲で、救いの無い私の万年発情女性器。
 パイパンにしたのは、へアで隠さずじっくり視ていただきたいためだし、はしたないクリトリスはすぐ剥き出しになっちゃうし、ピッタリすぎ。
 頭の中で、その呼び名を反芻するだけでイっちゃいそう。

「ああん、お姉さま、ありがとうございます。直子は自分の性器を、これからずっと、直子の剥き出しマゾマンコって呼ぶことを誓います」
「あら?気に入っちゃったの?そんなの恥ずかしくて言えませーん、みたいなリアクションを期待していたのに」
「いえ、お姉さまがおっしゃる通り、直子のは、どうしようもないマゾマンコですから。今だって弄りたくて仕方ないんです。お姉さま、直子の剥き出しマゾマンコ、弄ってもいいですか?」
 理性が薄れた私は、お下品な言葉、恥ずかしい科白をワザと自虐的に口にする快感に酔っていました。

「仕方ないわね。そうなっちゃった直子は行き着くところまで行くしかないものね。今半分くらいまで来たから、高速はあと残り20分位かな?何回イケるか、がんばりなさい」
「そうだ!せっかく首輪しているのだから、シートベルト外して、シートに四つん這いになっちゃいなさいよ。全裸のお尻突き上げて、メス犬みたいにイキなさい」
「わかりました。きっとシートを汚してしまいますけれど・・・」
「だから、それはいいから。さっさとメス犬になりなさい」
「はい」

 シートベルトをはずし、後部座席に両膝を乗せ、四つん這いになりました。
 顔を助手席のほうに向けたので、今まで私の頭が見えていた窓から、今度は剥き出しのお尻が覗いていると思います。
 そのすぐ横を他の車が追い越して行っているはず。
 喩えようの無い甘美な恥辱感が、全身を覆いました。


オートクチュールのはずなのに 06


2015年5月17日

オートクチュールのはずなのに 04

 少し早く着いてしまったので、ビルの周辺をプラプラ。
 休日なので子供連れさんが多く、中高生らしき子たちのはしゃぐ声も目立ちます。
 アソコにローターを挿れている、という事実だけでムラムラ度MAXな私は、ワンピースの短い裾を気にしつつも努めてお澄まし顔で、沿道に並ぶアニメショップのワゴンを眺めたりしていました。

 お約束10分前から、待ち合わせ場所で待機。
 ホテルエントランスの柱に寄りかかって行き交う車を見張っていると、ホテルの利用客らしきアジア系の人たちの団体が何組か目の前を通り過ぎていきました。

 ガヤガヤとかまびすしい聞き慣れない言葉と共に、いくつもの視線が自分に注がれているのを感じます。
 日本人のそれと比べて、遠慮が無く不躾な、お野菜を品定めするような視線を、とくに私の剥き出しの太腿に感じます。
 あんなに短かいの着ちゃって、やっぱり日本人はふしだらだ、なんて思われちゃったかな。
 あの人たちが私のバッグやショーツの中身のことを知ったら、どんなお顔になるだろう、なんて、恥辱願望は募るばかり。

 そうこうしているうちに、見覚えのある青っぽい車を視界の右端に発見しました。
 いよいよです。
 お姉さまにお会いしたらまず、これから3日間、どうぞよろしくお願いいたします、とご挨拶して、リモコンローターのコントローラー、私とお姉さまは、それの形状が小型のイヤホン式音楽プレイヤーにそっくりだったので、シャッフル、と呼んでいました、をお渡しするつもりでした。

 すぐに動かしてくれるかな?
 でもきっと、なんだかんだで焦らされちゃって、なかなかスイッチを入れてもらえないのだろうな・・・
 なんてワクワクしている間に、その車が道の左端に寄って、ゆっくりとこちらへ近づいてきました。

 あれ?
 車が近づくにつれて、すでに助手席に誰かが乗っているのがわかりました。
 舗道側の窓を開けて、左手を小さく振りながら近づいてきます。
 ほのかさまでした。

「なんだかずいぶんお久しぶりな感じね?直子さん、お休み楽しんでいる?」
 お姉さまに促されて乗り込んだ後部座席に落ち着いたとき、ほのかさまが嬉しそうにお声をかけてくださいました。
「ちょっと早く着いたんでオフィス寄ったら、たまほのがこれから羽田行くって言うから、ついでだから送ることにしたのよ」
 お姉さまが前を向いたまま、教えてくださいます。

「空港バスで行くつもりだったのだけれど、チーフがタイミング良くいらっしゃったから助かりました。今夜は札幌でゆっくり泊まって、明日早朝、会場の設営からお手伝いです」
「雅と合流するのだったわね?」
「はい。元町のナハトさん主催のイベントです」
「ああ、あそこの社長さん、お話がくどいのよね、このあいだも・・・」
 運転席側で、お姉さまとほのかさまが楽しそうに談笑されています。

 お姉さまの車に乗り込んだときから、ふたりきりの辱めの時間が始まるはず、と期待していた私には肩透かしでしたが、お仕事ならば仕方ありません。
 気持ちを切り替えて、東京に来て初めての、空港へのドライブを楽しむことにしました。
 車内には、モーツアルトのピアノ曲が流れていました。

「それにしても驚いちゃった。直子さんてオフのときには、そういう服も着るのね?」
 お姉さまとの会話が一区切りしたらしいほのかさまが、振り返って私に話しかけてきました。
「えっ?あ、これは・・・」
 モジモジとワンピの裾をひっぱる私。
「カワイイじゃない?いつもの長めなスカートやジーンズ姿に慣れていたから、遠目で一瞬誰だかわからなかった。女の子全開、ピチピチ溌剌って感じね」
「いえ、あの、えっと、今日は暖かいし、たまにはこういうのもいいかなー、って・・・」
「うん。すごくいい。そんな姿を見せられちゃうと、やっぱりわたしは直子さんよりセンパイなんだなーって、つくづく思い知らされちゃう」
 冗談ぽくおっしゃる今日のほのかさまは、なんだかずいぶんテンション高めです。

「さっきチーフからお聞きしたのだけれど、チーフのお家のお掃除をお手伝いしに行くのでしょう?」
「あ、はい・・・」
「偉いのね」
「あ、いえ、どうせお休み中は、することなくてヒマですし・・・」
「休み前にあたしが、帰るの久しぶりで、最近ぜんぜん掃除していない、って言ったら、森下さんが押しかけ家政婦に立候補してくれたのよ。だからお言葉に甘えちゃおうかなー、ってね」
 運転しながら、お話に割り込んでくるお姉さま。

「帰ったらあたしは、ベッドに倒れこんで死んだように眠り込んで、ちょっとやそっとの物音じゃ起きないからね。そのあいだ森下さんがあれこれしてくれる、って言うから。もちろんご褒美も出すつもりよ。豪華なディナーとか、ね」
「へー。なんだか楽しそうですね?わたしも参加したかったかも」
「あら、たまほのには雅が待っているじゃない?美味しいものいっぱい食べてくるんでしょ?」
「そうですね。この時期の北海道だとアスパラと、やっぱり捕れたてのズワイガニかなあ」
「うわー。なんだか接待費の清算が心配になってくるわね」
「大丈夫ですよ。みやびさまによると、向こうでは一切ナハトさん持ちらしいですから」
「それを聞いて一安心。まあ、しっかりやってきてちょうだい」
 お姉さまとほのかさまの楽しそうなおしゃべり。

「そうそう森下さん?頼んだアレ、入れてきてくれた?」
 信号待ちで止まったとき、お姉さまがからだをねじって私のほうを向き、突然尋ねてきました。
「えっ?あの、えっと・・・」
 一瞬意味がわからず、でもすぐに思い当たって、急速にドキドキしてきます。

「ほら、休み中にメールでお願いしておいたじゃない?アレよ」
 お姉さまのお顔がイタズラっぽく蕩けています。
 間違いありません。
 お姉さまがお尋ねになっているアレは、私のアソコに埋まっている、アレ。
 でもこんな、ほのかさまもいらっしゃるときに聞いてくるなんて・・・
「あ、はい・・・挿れてきました・・・」
 正直にお答えした途端に、アソコの奥がヒクヒク蠢きました。

「そう、よかった。それでシャッフルは?」
「あ、はい。これです・・・」
 車に乗り込む前からずっと、左手に握り締めていたローターのコントローラーをおずおずと差し出すと、お姉さまはそのピンク色の小箱と私の顔を見比べるみたく交互に見てから意味ありげにニッて微笑み、さっと手に取ると同時に前へ向き直りました。
「ありがとう」
 ちょうど信号が変わって、スイーッと発進。

「アレって何ですか?」
 当然、今度はほのかさまが怪訝そうに、誰にとも無く尋ねてきます。
「うん。実は森下さんって、趣味が広くってね・・・」
 そう答えるお姉さま。
 お姉さまってば、ほのかさまに、いったい何を告げるおつもり・・・
 埋まっているローターを締め付けるみたく、中がキュンと疼きました。

「あたしが持っていないクラシックバレエのCDをたくさん持っているのよ。だから音楽プレイヤーに入れておいてくれるように頼んでいたの。それを今引き取ったわけ」
 しれっと大嘘をつくお姉さま。
 いえ、CDがたくさんあるのは事実ですけれど。
 ホッと小さくため息をつく私。

「ああ、それでシャッフルですか。わたしもあまり詳しくはないけれど、そういうの聞くのは大好きなんです。お部屋で小さく流していると、何て言うか、落ち着きますよね?」
「オフィスでもクラシック流しているでしょう?あれも最近マンネリだからね。もっとバリエーションを増やしたかったのよ。でもあれだってCD百枚分以上は入っているのよ」
「そうなのですか。直子さんはそれよりもっとお持ちなわけですね。わたしも頼んじゃおうかな?」
 お姉さまのお車は、いつの間にか高速道路に入っていて、快調に進んでいました。

「ねえ直子さん?バレエの曲っていうと、何が有名だったっけ?」
 ほのかさまがお顔をひねり、私のほうを向いて尋ねてきました。
「えっと、そうですね・・・」
 チャイコフスキーの、ってつづけようとしたとき、股間に小さく震動が伝わってきました。
「んっ!」
 思わず上半身がビクンと跳ねてしまい、ほのかさまも、んっ?というお顔をされました。

「首都高って道路の継ぎ目がガタガタして、相変わらず走り心地悪いわよね。早く何とかして欲しいものだわ」
 お姉さまが助け舟のつもりか、のんきなお声でそんなことをおっしゃいました。
「そうですか?わたしの車に比べたら静かなものですよ?さすが高級車はちがうなー、って思っていたところです」
 ほのかさまがそうお答えしてすぐに、お姉さまがおっしゃった道路の継ぎ目をタイヤが乗り越えたのか、車がガタンと今までに無く盛大に揺れて、おふたりで、あはは、って大笑いされていました。

「それで、何が有名なのだっけ?」
 車が揺れたことでいったん前に向き直っていたほのかさまが、再び後部座席を向いてきました。
 私の股間のローターは、ずっと弱く震えつづけています。
 でも、最初の衝撃が去った後は、だんだん震えにも慣れてきて、お話を出来ないほどではありません。
 なるべく意識をそちらへ向けないように、平気なフリでお答えします。

「チャイコフスキーのくるみ割り人形とか、白鳥の湖、眠れる森の美女。プロコフィエフのロミオとジュリエット。メンデルスゾーンの真夏の夜の夢。あとミンクスのドン・キホーテとか・・・」
「へー。いくつかタイトルを聞いたことあるのもあるし、面白そう。お休みが明けたら、そういうCD、貸してくださる?ちょっとづつでいいから」
「はい。もちろんです。音楽だけではなくてバレエにもご興味があれば、DVDもお貸し出来ます」
「わー。それは楽しみ」
「でも、オフィスでバレエ音楽がかかるたびに、森下さんが突然踊り始めちゃったりしたら、経営者としては困りものよね」
 突然会話に横入りしてきたお姉さまのご冗談に、ほのかさまが笑いながら前に向き直りました。

 それと同時に、股間の震えが強くなりました。
 経験上の目盛りで言うと、最弱、弱、中、強、最強のうち、最弱から一気に中まで上がった感じです。
 私がひとりで焦らしオナニーをするときは、この、中、の感じで挿れたまま放置しつつ、ロープや洗濯バサミ、ルレットやローソクで、からだのあちこちを虐めるのがお気に入りでした。

 前を向いたほのかさまは、幸い今度はお姉さまと、お仕事関係のお取引先さまのお噂に夢中なご様子。
 私は後部座席でうつむいて、両膝をぴったり合わせたまま、股間への刺激に必死に耐えていました。
 とろとろとろとろ、弱火で炙られるように、官能が下半身に蓄積されていきます。

 こんな走行中の車の中で、会社の先輩であり私のヘンタイな性癖のことなんて露とも知らないはずのほのかさまの前で、あられもない姿を晒すわけにはいきません。
 でも、股間を震わす快感に意識を向けないようにしようとすればするほど、却ってそんな状況の被虐感が私のマゾ性を活性化させ、どんどん恥辱的妄想が膨らんでしまいます。
 
 イキたい・・・イっちゃいたい・・・
 今すぐワンピースに両手を突っ込んで、尖った乳首を捻り潰し、腫れ上がった肉芽に爪を立てれば、私は呆気なく自分の淫らではしたないイキ顔を、ほのかさまにご披露する事態となってしまうことでしょう。
 そんなの絶対ダメ・・・でもイキたい・・・

「さあ、高速降りたからそろそろよ。空いていてよかった。連休中のこの時間帯って案外スムースなのよね」
 お姉さまのお言葉が合図だったように、股間の震えがピタリと止まりました。
 えっ?
 ほのかさまの眼前で、がまんし切れずとうとう痴態を晒してしまい、侮蔑の視線を浴びせられる淫靡な妄想に耽っていた私は、拍子抜けして顔を上げました。

 窓の外には、道路とコンクリートと無機質な建物、そしてところどころの緑が織り成す、人工的で殺風景な景色が延々と広がっていました。
 未来都市的と言うか、廃墟っぽいと言うか、とにかく非日常的で不思議な空間。
 こんなところに、全裸でひとり放り出されちゃったら、私、どうなっちゃうだろう・・・
 結局、焦らされておあずけでした。
 もどかしいまま徐々に昂ぶりが引いていくのが、更にもどかしい感じ。
 早くお姉さまとふたりきりになりたい、と心の底から思ったとき、車が止まりました。

「ありがとうございました。助かりました」
 車を降りて空港入口まで、ほのかさまをお見送り。
「気をつけていってらっしゃい。雅にもよろしくね。休み明け、成果を期待しているわよ」
「はい。チーフも、そして直子さんも、お休みをゆっくり楽しんでください。あ、いえ、これは、わたしたちは仕事っていう皮肉とかじゃなくて」
 ほのかさまがイタズラっぽく可愛らしく、ペロッと舌先を出されました。

「あら?直子さんてもしかして、乗り物苦手?なんだかお顔が熱っぽそうよ?とろんとしてる」
「えっ?あ、いえ、そんなことは・・・」
 私の下半身に蓄積された、発散されなかった快感の余韻は、まだまだ引ききってはいませんでした。
「本当だ。頬が火照って、汗ばんでいるわね。でも車酔いって、普通は蒼くならない?冷や汗とか」
 お姉さまもお芝居っぽくおっしゃって、わざとらしく心配そうなお顔。

「あの、いえ、これは、ちょっと車の中が暑かったのにウトウトしちゃったから、のぼせちゃったのかも・・・」
 わけのわからない言い訳をする私。
「そう?そんなに暑いとは思わなかったのだけれど。後部座席のほうが暑いのかしら?でも、車酔いでないのだったら、よかった」
 ほのかさまの無邪気な笑顔と、お姉さまの愉快そうな笑顔。

「それでは、いってまいります。ごきげんよう」
 白の麦わら風つば広帽子に真っ白なフリル半袖ワンピで真っ赤なカートを引きながら、ときどき振り向いて小さく手を振りつつ空港の奥へ消えていくほのかさまは、どこからどう見ても、これから高原へとバカンスに旅立つ深窓のご令嬢のお姿でした。

「さあ、あたしたちは我が家へ帰りましょう」
 お姉さまがやっと、私を正面から見つめてくださいました。

「あのぅ・・・」
「ん?何?」
 車まで戻る道すがら、どうしてもがまん出来ずにお尋ねしてしまいました。

「ほのかさまに、あんなことおっしゃって、良かったのですか?今日のお泊りのこと」
「えっ?だって本当のことだもの。ヘンに隠すより教えておいたほうがいいのよ。たまほのは、ちゃんと言葉の通りに受け取っているはずよ。家政婦だって、全裸のことまでは言わなかったでしょ?」
「そ、それに、シャッフルのことや、あんなイタズラまで・・・」
「直子もうまくごまかしたじゃない。どうだった?スリルあったでしょう?」
「はい。それはそうですけれど・・・」
 でもまだなんとなく、ほのかさまに本当の私を知られるのは、イヤと言うか、怖い気がしていました。

「それに、なんとなくだけれど、たまほのは、あたしと直子の関係を直感的にわかっているような気もするのよ。彼女、勘が鋭いから。だから彼女にバレたとしても、そんなに大騒ぎにはならないような気もしているの」
 お姉さまが運転席のドアを開けました。
 
「それに彼女は今日、舞い上がっていたから、あんまり他人事には関心が向かないとも思ったし」
「それは、間宮部長さまとのことですか?」
 そう言えばさっきほのかさま、間宮部長さまのことを、みやびさま、ってお呼びしていたっけ。
「うん。さあ、他人の話はこれでおしまい。これからはあたしたちの休日を存分に楽しみましょう」

 そして不意に、お姉さまが左手でワンピの裾をめくり、同時に右手のひらを私の股間にペたっとあてがいました。
「あっ!いやんっ!」
「うわっ。ビチャビチャじゃない?それにものすごく熱い」
 すぐに離した右手のひらをペロッと舐め、お姉さまが車に乗り込みました。
 私も助手席の側へ向かいます。

「のんのん。直子の今日の席はそこじゃないの。後部座席に乗りなさい」
「えっ!?なぜですか?」
「なぜって、直子が教えてくれたんじゃない。助手席だと、前の車のルームミラーが気になるって」
「えっと・・・」
「後部座席なら寝そべっちゃえば、おっぱい出そうが真っ裸になろうが、覗き込まれない限り、周りからは見えないってこと」
 ブルンとエンジンがかかります。

「高速道路なら覗き込んでくる歩行者もいないし、ここから飯田橋までだと少し迂回することになるから、さっきより長い時間、直子は愉しめるはずよ。約束通り、ずっとオナニーしていないのでしょ?」
「は、はい」
「だったらそのムラムラを、まずは車の中で発散しちゃいなさい。後ろに乗ったらまずブラジャーをはずすこと。いいわね?」
「はい・・・ああんっ!」

 いきなり股間のローターが最強で震え始めました。
「ああぁ・・・うぅぅ・・」
 反射的にしゃがみ込んだ私は、快感に耐えながらよろよろなんとか立ち上がり、後部座席のドアノブに手を掛けました。


オートクチュールのはずなのに 05


2015年5月10日

オートクチュールのはずなのに 03

 四月最終週の火曜日。
 すごく久しぶりにお姉さま、いえ、チーフとオフィスで長い時間、ご一緒出来ました。
「けっこう早く引き継げたわね。よくがんばったわ」
 そんな嬉しいお言葉もいただき、社長室でふたりきり、それぞれのデスクに向かっていました。

 お仕事に対して余裕が出てきたことと比例して、日に日に強くなるムラムラ感。
 オフィスに通い始めてしばらくは、そんなこと考える余裕なんてまったく無かったのですが、先週の半ばくらいにふと思い出だしたら、それからはそのことが、頭から離れなくなっていました。

 その朝、徒歩でオフィスへ向かう道すがら、高くそびえるビルをふと見上げて、なんとなく自分のオフィスの窓を探し始めました。
 左端の窓を上から下へ順番に数えて、カーテンに閉ざされたひとつの窓に見当をつけたとき、そう言えば私、あの夜あの窓辺に、全裸の服従ポーズでお外を向いたままマネキンのように放置されたんだっけ、って、突然、鮮烈に記憶がよみがえりました。
 見上げた窓はかなり小さかったのですが、もし今そこに人影があれば、その人が着衣か裸か、くらいの識別は容易に出来る気がしました。
 そう思った途端に全身がざわざわと、淫らにざわめき始めました。

 一度思い出してしまうと、もう止まりませんでした。
 建物内へとつづくバスターミナルを横切れば、大勢のバス待ちの人たちの前を、裸ブレザーにノーパンミニスカで歩かされたことを思い出し、エレベーターホールへ向かう通路では、素肌にボディコンニットだけで歩いた衣擦れの感触を、思い出してしまいます。
 オフィスフロアに着くと、えっちなジュエリーだけ着けた全裸をバスタオル一枚で隠して廊下を歩いたこと、トイレでは、そのバスタオルさえ剥がされちゃったこと、そして、オフィスの入口ドアの前でオナニーを命じられ、一生懸命声を殺して身悶えたこと・・・

 妄想ではなく現実に、つい一ヶ月前くらいに自分でやったヘンタイ性癖丸出しな行為の数々。
 社会人一年生という緊張と慌しさから、記憶を無理矢理頭の隅に追いやって極力触れないようにしていた、淫靡で甘美で背徳的な体験。
 ひとたび気がついてしまうと、このオフィスビルとその周辺には、お姉さまがもたらしたえっちな思い出が、そこここに満ち溢れていました。
 そして、その強烈なスリルと恥辱と快感を、もう一度味わいたいという欲求が、そろそろ限界なほどにまで、大きくなってきていました。

「チーフはこの連休は、どうされるのですか?」
 ふたりともタイミングよくお仕事が一区切りしたとき、お茶を煎れてくれる?というチーフの一声で、窓辺のテーブルに差し向かい。
 窓からは抜けるように澄んだ健全な青空が覗いていますが、私は、このテーブルの上でM字になって、敏感な箇所をチェーンで引っ張られながら、はしたないお写真をいっぱい撮られたんだなー、なんて不健全な記憶が、頭の半分以上を占めていました。

「うーん。前半は全部仕事で埋まっているから、丸々休めるのは最後の二日くらいかしら」
 チーフが気怠そうにティーカップを置き、正面からじっと見つめてきました。

 それはスケージュール表で、わかっていました。
 チーフのスケジュールは、日付が赤い日も何がしかの予定が書き込まれていて、空白なのは最後の二日だけ。
 だから私は、就職の報告も兼ねた実家帰りを、お休みの前半にして、後半は何も予定を入れないようにしていました。

「世間様が休日だとメーカーや小売店が、ここぞとばかりにイベントを打ってくるのよ。ファッションショーとか展示会とか」
「だから、お得意様先にはチラッとでもいいから顔を出しておかないとね。うちの大事なイベントも六月に控えていることだし」

 六月のイベントというのは、来年度の自社ブランド春夏もの新作を、お得意様を大勢集めてご披露する、会社にとってすごく大がかりで重要なイベントらしく、とくに開発部のかたたちは、私が入社した頃からずっとその準備で大忙しのご様子でした。
 開発部のリンコさまのお言葉をお借りすれば、連休?何それ?美味しいの?という状況だそうです。
 営業のお仕事に移られたほのかさまも、間宮部長さまの補佐で、チーフと同じように連休中もお得意様まわりだそうで、連休をちゃんと休めるのは、社内で私だけみたいでした。

「はい。それは存じています。それで、その二日間のお休みは、どうされるご予定なのですか?」
 どうしても、縋るような口調になってしまいます。
「そうね、あたしは、そういう少しまとまった休みっていつも、飯田橋の自宅にこもって死んだように寝るだけなの。お盆休みも年末年始も。あ、年末は鎌倉で死んでるんだ」
 クスッと笑うチーフ。

「そうですか・・・」
 五分五分で予想していた悪いほうのお答えが返ってきました。
 毎日お忙しくされているチーフだもの、たまのお休みくらいゆっくりされたいと思うのがあたりまえ、と自分に言い聞かせますが、もしかしたらお休みのうち一日くらいは、ずっとお姉さまと過ごせるかな、なんて期待していたほうの私が、自分でも思った以上にがっかりしていました。

「あら、なんだかずいぶんうなだれちゃったわね?ひょっとして、あたしと遊びたかった?」
 からかうようにおっしゃるチーフ。
「あたりまえですっ!」
 そのおっしゃりかたがニクタラシクて、思わずちょっと大きな声をあげてしまいました。

「ふーん」
 うつむいた私の顔を下から覗き込むようにお顔を近づけてきたチーフが、少しヒソヒソ声になってつづけました。

「そう言えば直子、あたしたちがシーナさんと遊んだとき、あたしが言ったこと憶えている?今後オナニーするときは、必ずあたしの許可を得ること、って」
「えっ?あ、はい。もちろん憶えています」
「でも、あたしも仕事が忙しいときは、いちいちそんなことにかまってあげられないと思うから、原則としてオナニーするしないは直子の自由にして、でも、したらその都度必ずメールであたしに報告すること、っていうルールにしたのよね?」
「はい。そうでした」

「それで、直子がここに通い始めてから今日まで、あたしは一度も報告を受けていないのだけれど」
「はい」
「直子が三週間以上も、一度もオナニーしていないなんて、あたしには信じられないのだけれど」
「いえ、本当にしていないんです。お仕事のプレッシャーでそれどころではなくて。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ最近は、少しだけ心とからだに余裕が出てきちゃったみたいで、そうなるとやっぱり疼き始めてしまって・・・」
「うん」
「だから、お休みはお姉さま、いえ、チーフと過ごせたらいいな、って思っていたんです」

「ふーん。つまり直子は、あたしに虐められることを期待しているのね?連休中に」
「はい。だから正直に言うとこの数日間は、すごくえっちなことをしたくてたまらないのですが、でも、もしもお会い出来るのなら、どうせならお姉さまと一緒に気持ち良くなりたい、って思ってがまんしていたのですが・・・」
「直子の連休の予定は?」
「前半は実家に帰って、後半は何もありません・・・だから連休中は、たくさん恥ずかしいご報告をすることになっちゃうと思います」
 お答えしているうちに、なんだか自分がとてもみじめに思えて、悲しくなってきちゃいました。

「そっか。なかなか正直でいいわね。それに、そこまであたしに期待してくれていたなんて、あたしも正直言って嬉しい」
 チーフがニコッと笑ってくださいました。
「そこまで乞われたら期待に応えたくもなっちゃうわよ。直子が慣れない仕事をずいぶんがんばっていたのも知っているし、ご褒美をあげてもいいかな」
「本当ですか!?」
 真っ暗だった私の目の前に、一筋の光明が見えてきました。

「経営者に必要な飴と鞭の飴のほうね。あ、でも直子だと鞭もご褒美になっちゃうのか」
「それに、そんな状態の直子を休み中ひとりで好き勝手やらせたら、何しでかすかわからないもの。休み明けたらうちの社員が、公然猥褻容疑で逮捕、ケーサツに身元引取り、なんて御免だわ」
 冗談ぽくおっしゃっておひとりでクスクス。

「休み中の最後の出張は関東圏だから車で行って、夕方にはこっちに戻れるはず。その足で直子を拾って、あたしのマンションに拉致監禁してあげる」
 萎んでいた気持ちが一気に花開きました。
「直子お得意の全裸家政婦として雇ってあげる。休み中、あたしの身の回り一切の面倒を見ること」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
 思わず大きな声で言ってしまい、チーフにシーッとたしなめられました。

「その代わり、絶対にあたしの睡眠の邪魔だけはしないこと。とくに帰って一日目は、すぐにベッドに倒れこんで寝込んじゃうと思うから、たぶんつまらないわよ」
「大丈夫です。お姉さまと一緒にいられるだけでシアワセです」
「暮れ以来、掃除らしい掃除もしていなかったから、この機会にピッカピカにしてもらおっかなー?」
「はい。お任せください。がんばります」
 嬉しくて嬉しくてたまらない私は、頬が緩んでしまうのを止めることが出来ません。
「さっきまであんなにうなだれていたのに、すごい変わりようね」
 チーフの呆れたようなお声さえ、天使のささやきのように聞こえました。

「そうと決まったら、これも付け加えておかなくてはね。直子は今日から、あたしに会うときまでオナニー禁止」
「えっ?」
 私の笑顔が少しだけ曇りました。
「だってさっき言っていたじゃない?どうせならあたしと一緒に気持ち良くなりたい、って」
「あ、はい。そうですけれど・・・」
 チーフのお家に拉致監禁で全裸家政婦、と聞いたときから妄想が広がりまくって、今夜はそれでお祝いオナニーをしよう、って考えていたところでした。

 でもすぐに、考え直しました。
 もう今日、たった今からお姉さまとのプレイは始まっているんだ、って。
 オナニーが出来ないのはとても辛いけれど、がまんするほど、ふたりきりになったときに思いっきり気持ち良くなれるはず。

「まあ、会ってすぐは、サカッた直子の相手をしてあげられるほど体力残っていないだろうから、あたしの前でだったらオナニーしていいわよ。なんなら車の中ででも」
 お姉さまの愉快そうなお顔。
「あと、あたしの寝顔をオカズにするとかね。起こさないでいてくれたら、寝ているあいだに何してもいいから」
 本気とも冗談ともつかない、チーフのお言葉。
「何にせよ、休み中の気乗りしない仕事を乗り越えるための、お愉しみが増えてよかった。休み中、全裸家政婦直子に何をやらせるか、いろいろ考えておくことにする」
 締めくくるようなチーフのお言葉に合わせるかのように、チーフ宛てにお電話がかかってきたことを知らせる呼び出しが入り、そのお話は、そこでおしまいとなりました。

 その日を指折り数えているうちに連休に入り、その日の前日までゆっくり実家で過ごしました。

 お正月以来の実家は、相変わらずまったりと時間が流れていて、母や同居している篠原さんとたくさんおしゃべりして、篠原さんの娘さんで中学生になったともちゃんのお勉強を見たり、一緒にケーキを焼いたり。
 久しぶりにピアノを弾いたり、バレエの真似事をしたり、お部屋に置きっ放しの昔のマンガ本や映画やアニメのDVDを見直したりと、のんびりゆったり過ごしたので、えっちな欲求も束の間、息を潜めていました。

 実家にいるあいだ、何度かお姉さまからメールが入りました。
 待ち合わせの場所と時間とか、当日の服装のこととか、私のオモチャ箱から持ってくるものとか、思いついたときにメールしているご様子でした。

 ちょうど、ともちゃんと一緒にいたときにメールが来たときは、もう興味津々。
「だれだれ?カレシさん?」
 なんて冷やかされ、見せて見せて、ってせがむのをなだめるのが大変でした。

「残念ながらカレシじゃなくて、私が勤めている会社の社長さんなの。お仕事の大事なメールだから、誰にも見せてはいけない決まりなの」
 そう言ってごまかしました。
 そのときのメールは、待ち合わせ当日の私の服装についてのことで、とても中学生の女の子に見せられるような内容ではありませんでした。

「へー。直子おねーちゃんは社長さんに気に入られているんだ。それならうまくいけば、将来は大金持ちセレブだね」
 ともちゃんの無邪気な発言に苦笑い。
「そうかもしれないけれど、社長さんも女性だからねー」
 ケータイに入っていたお姉さまの写真、もちろんあたりさわりのないやつ、を見せると、うわーカッコイイ人、って、嬉しい感想をくれました。

 そしていよいよ待ちに待った当日。
 少し曇りがちのハッキリしないお天気でしたが、気温は春っぽくポカポカめで風も弱く、過ごしやすい一日でした。
 待ち合わせは、午後4時半、オフィスビルエリアにある有名ホテルのエントランス付近の路上。

 そして、当日着てくるようメールで指定された服装。

 下着は、横浜でお姉さまに見立てていただいた、両サイドを紐で結ぶ式の黒で小っちゃめスキャンティタイプと、それに合わせた黒のストラップレス、フロントホックブラ。
 
 その上に、胸元から裾まで全部ボタンで留める式でネイビーブルーのミニワンピース。
 これは、私が一年前くらいのムラムラ期のときに、とあるお店でみつけて、前全開ボタン留めという形式にえっちな妄想が、それこそむらむら湧いて、衝動買いしてしまったものでした。
 お家に帰って冷静になってから着てみると思いの外、私の安心基準よりも裾が短くてお外に着て出る勇気が出ず、そのままクロゼットの肥やしとなっていたものでした。
 約一ヶ月前に、、私のクロゼットを一度チェックしただけのお姉さまが、わざわざこんないわくつきのワンピを指定してくる、その洞察力と記憶力の良さに驚いてしまいました。

 足元は、素足に白のミュールがお姉さまのご指定でした。

 これらのご指定って、どう見てもすぐに脱がして裸にする気満々の仕様に思えます。
 きっと早速車の中で、いろいろ恥ずかしい目に遭わされちゃうのだろうな・・・
 そう考えただけで、からだがカーッと熱く火照ってしまいます。

 その上、最後に決定的なご命令が書いてありました。

 当日は、直子の一番好きなリモコンローターを挿入してくること、ただし、あたしに会うまで絶対に動かしてはダメ、と。
 こんなメールをともちゃんに、見せられるわけありません。

 その日は、朝とお昼の二回、シャワーでからだを丁寧に磨き、午後3時には、お姉さまから命ぜられた姿になっていました。
 メイクにも少しだけ気合を入れて、準備万端。
 リネンのミニワンピースの裾は、膝上20センチくらいでやっぱりとても気恥ずかしいですが、お姉さまがいるのなら、勇気も出ます。
 肩から提げたトートバッグには、えっちなお道具がいくつも詰め込まれているから、もし落として散らばったら大変。

 そんなドキドキとワクワクの鬩ぎ合いの中、きっかり午後の4時、初めての出張全裸家政婦、二泊三日の任務へ赴くため、いそいそとお家を出たのでした。


オートクチュールのはずなのに 04


2015年5月3日

オートクチュールのはずなのに 02

「さあ、カップを洗ってしまいましょう。うちの給湯室はね、室外にあるの。水周りもそこだから。ついてきて」
 使用済ティーカップをすべてトレイに乗せ、テーブルを拭き終えたほのかさまが、私の傍らにいらっしゃいました。
「あ、社員証ね。オフィスフロアの出入りに必要だから失くさないでね」
 テーブルの上に置かれたままの裏向きカードホルダーをみつけたほのかさまが、カードと私の顔を交互に見ています。

「さっきチーフが、履歴書の写真をスキャンして貼っておいた、なんておっしゃていたわね。見ていい?」
「あっ!それは・・・」
 動揺している私の右手がカードホルダーに届くより一瞬早く、ほのかさまの右手がカードを取り上げていました。
「なあに?写真が恥ずかしいの?確かにこの手の証明写真て、気合入れすぎて力んじゃって、変な感じで撮れちゃうことが多いのよね」
 ほのかさまがイタズラっぽく微笑んで、手に取ったカードを表向きにしようとしています。

 ああ、見られちゃう・・・
 社長室の窓際のテーブルの上で、乳首とラビアとクリトリスに繋がったチェーンをお姉さまに引っ張られながらイキまくった、はしたない私のアヘ顔写真。
 今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られ、晴天の青空が覗いている窓を見ました。
 あっ、でもここの窓って、開かないんだった。

「なーんだ。悪くないじゃない。これって一年位前?今よりちょっと幼い感じだけれど、それも可愛い」
 ほのかさまが社員証を手渡してくださいました。
 そこには、私が履歴書に貼った、本来の写真が付いていました。
 お姉さまが、ちっともあなたらしくないもの、とおっしゃった、今日と同じリクルートスーツ姿での証明写真。

「はい、かけてあげる。市民証も一緒に入れて、こうしておくのが基本ね」
 ほのかさまがストラップを私の首にかけてくださいました。
「だけど、出歩くときはカード部分を胸ポケットに入れるとか、いっそ外したほうがいいわ。好き好んで個人情報を見知らぬ人たちに見せびらかすことはないもの」
「大人数の会社なら、社員かお客様かわからなくなるから常にぶら下げておかなければいけないのでしょうけれど、うちは全員、顔見るだけでわかるものね」
「ただ、失くすとそれこそオフィスにさえ入れなくなっちゃうし、再発行の手続きも面倒だから、管理はしっかり、ね?」
「はぁい」
 極度の緊張状態から、盛大に安堵して、腑抜けになったような声でお答えしました。

 ほのかさまと室外の給湯室まで行き、ポットとカップを洗いながら、お客様が見えたときのお茶の出し方などのレクチャーを受けました。
 それからふたり揃って社長室へ。
 社員証を胸にぶら下げている私を見て、チーフがイタズラッ子みたく愉快そうに、唇の端を歪めました。

 でも、そこから先はずっと本気お仕事モードで、チーフとほのかさまのおふたりがかりで、私に任されるお仕事について丁寧に教えてくださいました。
 覚えなくてはいけないことが沢山。
 必死にノートをとりました。

 ただ、ほのかさまがお仕事のお電話でお席を外されたその隙に、どうにも我慢出来ず、姉さまにお尋ねしてしまいました。
「あのぅ、私の履歴書、ひょっとして早乙女部長さまにお見せになったのですか?」
 恐る恐る尋ねる私の不安気な表情が、お姉さまのツボにはまったのでしょう、唇が、うふふ、の形になるのをこらえるみたく、ワザとらしく無表情を作っておっしゃりました。

「うん。そのほうが話が早いからね。一昨日、この履歴書見せながらアヤと雅とで打ち合わせしたの」
 お姉さまのデスクの上に無造作に置かれた一枚の裏向きの書類を掴み、私の目の前でヒラヒラさせてきます。
「あ、それは・・・」
 手を伸ばす私を左腕で制し、焦らすみたいにゆっくりと、その書類を表に返しました。

「イタズラ書きする前にコピーとったのよ。わざわざ履歴書と同じような紙でね」
 してやったりの表情で、お姉さまに履歴書を手渡されました。
 私が提出したときのままのオリジナルな履歴書でした。
「直子が書き足したのはそのコピーのほう。そっちもその金庫の中に大事に保管されているけれどね。あの写真付けたままで」
 にんまり微笑まれるお姉さま。
 そのお顔は、会社のチーフとしてのオフィシャルなお顔ではなく、私だけが知っているエスっ気たっぷりなプライベートでのお姉さまの、それでした。

「だいたい、あんなふざけた履歴書をアヤに見せたら、激怒ものよ。即却下されちゃう。彼女、一見さばけているように見えるけれどシモネタ耐性は低めだから」
 再び私の手から履歴書を奪い取ったお姉さまは、ご自分のデスクの抽斗にそれをしまいながらつづけました。
「それに、そういうのって、周りがだんだんわかってくるほうが愉しいじゃない?まさか、こんな子だったなんて、って」
「うちに勤めて、直子が自分のえっちな嗜好をずっと隠し通せるなんて、あたしはこれっぽっちも思っていないの」
 お姉さまが立ち上がり、エスの瞳で私を見つめてきます。

「うちはエロティックなアイテムも少なからず扱っているから、そういうのに接したときの直子の反応が凄く愉しみ」
「うちのスタッフもそのへんの嗅覚は鋭いからね。遅かれ早かれ直子の恥ずかしい性癖が全員に知れ渡るときが来るはずよ。ちょうど、あたしと直子があの試着室の中で、だんだんとお互いを知っていったようにね」
「それで何が起こるか、が、あたしにとって一番愉しみなことなの」
 ゾクッとするほど艶っぽく微笑むお姉さま。

「だからまずは、仕事を普通にこなせるように一生懸命頑張ること。仕事も一人前に出来ないような人には、愉しむ権利なんてないから」
「しばらく見てみて、使えないなと思ったら即クビよ。あたしの性格から言って、そういう人には個人的な興味も薄れちゃうから、おつきあいもご破算、ジエンド。いい?わかった?」
「はいっ!一生懸命がんばりますっ!」
 おっしゃっている最中に、お姉さまのお顔がプライベートからオフィシャルなチーフのお顔に変わっていき、最後の、わかった?は、取り付く島も無いほどの冷たさ。
 それだけはイヤ、と思った私は、背筋をピンと伸ばし、心の底からお答えしました。

「お待たせしましたー」
 ちょうどそのとき、お電話を終えたほのかさまが社長室に戻っていらっしゃいました。
「あら、おふたりともなんだか怖いお顔されて。何かありました?」
 ほのかさまがチーフと私を交互に見て、少し戸惑ったご様子。
「ううん。森下さんにちょっと、社会人の心得みたいなものを説明していただけ。森下さんもがんばるって張り切っているから、たまほのも指導、よろしくね」
「あ、はい。わたしも早く直子さんに引き継いでもらって、営業のお仕事に力を入れたいですから」
 ほのかさまがはんなりと微笑まれ、その場の空気が和らぎました。

 それからしばらく、慌しい日々がつづきました。
 私に任されたお仕事は、事務職全般、メインはお金の管理でした。
 もちろんお金そのものではなく、その流れの管理って言うのかな。
 仕入れと納品の出納、送られてくる請求書、小口現金、ネット通販の売上げ、エトセトラ・・・
 ありとあらゆるお金の流れをパソコンで管理し、その数字を日々チーフと部長おふたりにメールでご報告することでした。
 それに加えて、郵便物の仕分け、ご来客の対応、お電話取次ぎ、お買い物のお使い・・・
 ほのかさまのご指導の下、チーフから見捨てられないよう、必死でがんばりました。

 覚えることが多すぎて、頭の中では桁数の大きな数字と計算式とアパレル業界用語がおしくらまんじゅう。
 家に帰っても、ほのかさまからお借りした本で勉強しなければいけないことが多く、本当に大変でした。
 そんな感じでも一週間が過ぎた頃から、ようやく周りにも目を遣る余裕が少しづつ出てきました。

 間宮雅営業部長さまは、初出勤から3日目の月曜日、朝のミーティングのときに初お目見えしました。
 第一印象は、本当に格好いい人。
 デヴィッドボウイさん、という先入観もあったせいで中性的な二枚目イメージを思い描いていたのですが、実際にお会いしたら、ぜんぜん違っていました。

 襟足長めのウルフカットに細面の端正なお顔立ち、背もスタッフの中でもっとも高く、長いおみあしにパンツスーツがスラリと似合って、と、見た目は某歌劇団の男装の麗人そのものなのですが、とても人懐っこいご性格のよう。

「あなたが森下のナオちゃん?へー、カッワイイねえ。写真よりぜんぜん可愛いじゃん」
 私を見ての第一声が、これでした。
 そしてその後、立ち上がって自己紹介しようとした私の傍らにいらっしゃり、先に自己紹介してくださいました。

「営業の間宮雅です。ナオちゃんみたいに可愛い子が我が社に加わってくれるのは大歓迎。よろしくね」
 間髪をいれず、そのしなやかで長い両腕が伸びてきて、ギュッとハグされちゃいました。
 スタッフのみなさま全員が見ているその目の前で。
 ひたすらびっくりしている私の鎖骨の下辺りに、間宮部長のシルクのブラウス越しの、そのしなやかな体躯にしては意外に豊かなバストの感触がありました。

 そんな間宮部長は、ほとんどオフィスにいらっしゃることは無く、毎日どこかへ出かけれられていました。
 全スタッフの業務スケジュール、ご自身の出張やご来客の予定などは、決まり次第逐一私宛てにメールや口頭で連絡が入り、それを私がスケジュール表としてまとめ、会社のSNSみたいな場所にアップ、更新することになっていました。
 そこにアクセスすれば、いつ誰がどこにいるのか、いつ誰が来社するのか、が一目でわかる仕組みです。
 間宮部長のスケジュール表は、3ヶ月先くらいまで、お取引先や仕入先、顧客様のお名前と共に日本全国、いいえ、アジア諸国やヨーロッパをも含めた地名であらかた埋まっていました。

 これはチーフも同じことで、チーフのスケジュールも、海外を含めた広範囲のご予定が、ずいぶん先まで書き込まれていました。
 したがってこのおふたりは、たとえ朝出社されてもずっとオフィスにいらっしゃることはまず無くて、そのまま数日お顔が見れない、なんてこともままありました。

 反対にずっとオフィスに入り浸りなのは、開発部のヴィヴィアンガールズコンビ、リンコさまとミサキさま。
 このおふたりは、ほとんどずっと開発のお部屋に篭りきりで、おふたりで何かされているようでした。
 チーフから、開発のお部屋には立ち入り禁止と言い渡されていたので、入ってみたことが無い分、内部への好奇心も湧きました。

 早乙女部長さまは、オフィスを出たり入ったり。
 オフィスにいらっしゃるときの、そのほとんどの時間は、ご来客のお相手かお電話に費やされていました。
 たまに開発室の中にも入られて、長いあいだ出てこないこともあります。
 いつも品の良いエレガントな感じのスーツ姿で、テキパキと優雅に業務をこなされていました。

 ほのかさまとは、初出勤から三日間くらい、ずっと一緒に行動を共にしたので、すっかり打ち解けていました。
 ほのかさまからの業務引継ぎのご説明はとてもわかりやすく、何のためにそれをやるのか、なぜそうするのか、間違うとどんなリスクがあるのか、まで丁寧に教えてくださるので、飲み込みの遅い私でも、与えられたお仕事のノウハウをひとつひとつ着実に身に付けることが出来ました。

 ランチタイムは、ほのかさまと一緒に社長室や応接で、それぞれ持参のお弁当を食べました。
 最初のうちは、オフィスビル市民専用の合同社員食堂?や階下のレストラン街に連れて行ってくださいました。
 もの珍しさも手伝ってワクワクもしていたのですが、やっぱりお昼時はどこも混んでいますし、それに外食のランチだと私には量が多すぎる感じでした。
 外食慣れしていない私が思い切ってそのことをほのかさまに告げると、ほのかさまはほのかさまで私に気を遣っていたらしく、それまでずっとお弁当持参だったのを、新社会人なら、そういうのにも憧れているだろうと思い、無理して外食に誘ってくださっていたのでした。

「わたしも実はあんまり、お昼時の外食は好きではないの。量が多いし、がやがやしているし」
 というわけで、私とほのかさまはお弁当仲間となり、私は毎朝のサンドイッチ作りが楽しみのひとつとなりました。

「このビルの隣に公園があるでしょう?あの公園にはね、人懐っこい野良ネコがいっぱいいるの。お弁当食べていると寄ってくるのよ。あ、直子さんはネコ好き?」
「はい、大好きです。飼ったことはないけれど」
「よかった。今日はそこでお昼にしない?」

 お勤めを始めて2回目の週末、きれいに晴れ上がったポカポカ陽気のお昼時、ほのかさまに誘われて初めての屋外ランチタイム。
 公園には、あちこちにお弁当をまったりつつく、OLさんやサラリーマンさんたち。
 そのあいだをウロウロする10匹以上のネコさんたち。
 私たちも空いているベンチに腰を下ろし、お弁当を広げました。

「直子さんもだいぶ慣れてきたみたいよね。どう?うちの会社」
 ほのかさまのお弁当はいつも、ちっちゃくてオカズぎっしり、ご飯少な目。
 オカズは和風なものが多く、ひじきとかおひたしとか和え物とか、愛らしい見た目に似合わず渋い感じでした。
「わたし、濃い味の食べ物ってだめなの。すぐお腹いっぱいになっちゃって」
 可愛らしくおっしゃるほのかさまに、こういうかたこそ本物のお嬢様なのかもしれないな、なんて思いました。

「慣れたなんて・・・まだまだです。みなさんおやさしいし、親切に良くしてくださるので、一日も早く追いつきたいです」
「ううん。直子さんはよくやっているわよ。昨日も早乙女部長が褒めていたの、直子さんが作った試算表見て」
「本当ですか!?それは嬉しいけれど、あのかた、ちょっと怖いですよね?いつも冷静で、あまり笑われないみたいだし」

「そう?お話してみるとけっこう楽しいかたなのだけれど。でも確かに、仕事には厳しいわね」
「はい!このあいだなんかお電話で、どれだけ時間がかかったかは、こちらの問題ではありません。結果が出せないのであれば、他を当たるしかありませんね。なんて、平然とおっしゃっていました」
「ふふ。あのかたらしい言い方だわ」
「それも、別に怒っているふうではなくて、さも当然、ていう感じだったんです。私、それを聞きながら、このかた、怖いなーって」

 お答えしながら、ほのかさまがなぜ私をお外へ誘ってくださったのか、わかったような気がしました。
 私のガス抜きをしてくださっているんだ。
 オフィス内ではこんなお話、出来ませんから。

「間宮部長は?」
「あのかたも、つかみどころのないかたですよね。すごくお優しいのだけれど、接し方が独特と言うか・・・」
 めったにお会い出来ない間宮部長さまには、初顔合わせのあと2回だけ出勤され、そのたびに私に抱きついてきてペタペタ触られていました。
 あーいい匂い、気持ちいいなー、とかおっしゃりながら。

「あのかたは、誰にでもあんななのですか?その、ボディコンタクトと言うか、スキンシップと言うか・・・」
「そうね、誰にでも、ということはないわ。そういう意味で直子さんは好かれちゃったみたいね」
 なぜだか嬉しそうに、ほのかさまが微笑まれました。
「あのかた基本、博愛主義者だから」
 お弁当を食べ終わったほのかさまが、足元でうずくまる黒ぶちネコさんの背中をやさしく撫ぜながらおっしゃいました。

 そう言えばチーフは、間宮部長さまとほのかさまが惹かれあっているようなことをおっしゃっていたっけ。
 そうすると私は、あまり間宮部長さまに馴れ馴れしくしてはいけないのかも。

「開発のおふたりとは、すっかり仲良くなれたみたいね?」
「はい。アニメのお話で気が合ったので。今度コスプレ衣装も作ってくださるって。たまに息抜きしたくなると、社長室へもおふたりで遊びにいらっしゃいます」
「へー。わたしも直子さんに教えてもらって、アニメ仲間に入れてもらおうかしら。シャイな美咲さんのほうとは、未だにあまりお話したことないから」
「はい。いつでもおっしゃってください。ミサキさんも、好きな作品のお話になると、かなりおしゃべりになりますよ」

 そんなこんなで、初出勤から2週間を過ぎた頃には、ほのかさまのお手を煩わせなくても、どうにかひとりで業務がこなせるようになっていました。
 それと同時に、それまでムラムラのムの字さえ感じる暇も無かった緊張感が、ゆっくりと解けていくのがわかりました。
 考えてみればそのあいだ、お姉さまとのイチャイチャはおろか、オナニーさえ一度もしていませんでした。
 そんなこと、東京に出てきて以来、初めてのことでした。

 お姉さまがおっしゃった通り、この会社が扱っているアイテムの中には、私のえっちな妄想を駆り立てるエロティックなアイテムがけっこうありました。
 ボディコンシャスなドレス、ローライズジーンズ、マイクロビキニの水着、シースルーの下着、キャットスーツ、ヌーディティジュエリー・・・
 そういうものを目にするたびに、お姉さまが冷たい瞳で言い放った、ジエンド、というお言葉を思い出し、気を抜けば広がり始めるえっちな妄想を必死にシャットアウトしてきました。

 そんな我慢もそろそろ限界に達しそうな頃、世間は春の大型連休を迎えようとしていました。


オートクチュールのはずなのに 03


2015年4月26日

オートクチュールのはずなのに 01

 お姉さまの会社に伺ってえっちな面接ごっこをした翌週、お約束通りにご連絡をいただき、その週の木曜日からお世話になることになりました。

 木曜日の午前10時前、一階のエレベーターホールでお姉さまと待ち合わせ。
「うちは服装自由だけれど、せっかくの新入社員なのだから初々しい感じで、しばらくリクルートスーツで来るっていうのはどう?」
 お電話越しにイタズラっぽいお声でのお姉さまからのリクエストにお応えして、就職活動時期に着ていた黒のリクルートスーツに身を包み、待ち合わせ時間の10分前にはオフィスビルに到着しました。

 土曜日に訪れたときとは打って変わって、スーツ姿の男性やOLさんたちがたくさん、忙しく行き交っています。
 普段穿き慣れていないパンティストッキングの圧迫感とも相俟って、なんだか不安ばかりが増してきます。
 私、お姉さまのご期待通り、ちゃんとお仕事が出来るだろうか・・・

 目の前をさまざまな人たちが通り過ぎていきます。
 溌剌とした人、憂鬱そうな人、だらけている人、怒っているみたいな人・・・
 エレベーターホールの隅でじっとひとり立ち尽くしていると、お電話の切り際にお姉さまから釘を刺されたことを思い出しました。

「それと、このあいだのことは超特別な例外的事例だからね?会社は仕事をするところ。社員になったら、オフィスでヘンなことしたい、なんてくれぐれも考えないで、ひたすら仕事だけがんばること」
 大丈夫です、お姉さま。
 私にそんな余裕なんて、当分生まれそうにありません。

「ずいぶん緊張しているみたいね?」
 エレベーターから降りてきたお姉さまにお声をかけられました。
「あっ、お姉・・・」
 いつもの調子でお答えしようとしてお姉さまのお顔を見た途端、あわててつづきの言葉を飲み込んだ私。

 プライベートのときとは明らかに違う、キリッと引き締まったご様子のお姉さまに、ドギマギしつつ深々とお辞儀をしました。
 何て言うのか、真剣に働いている大人の女性オーラ、みたいなもので、お姉さまがいつもの何倍も眩しくカッコ良く見えたのでした。

「やっぱりリクルートスーツって独特よね。着馴れていないのがすぐわかって、思わず、がんばって、って応援したくなっちゃう」
 そんなお姉さまは、メンズっぽいシンプルな白シャツブラウスにグレーのパンツ。
 広めに開けた胸元から覗く白い肌が超セクシーです。

「うちのスタッフはみんな気さくだから、そんなに身構える必要は無いのよ?」
「あ、はい・・・」
 お姉さまの物腰もなんとなくよそよそしい感じがして、いつものように気安く、でも、だって、ってお答えすることが出来ません。
 エレベーター内でもふたりきりでしたが、それ以上の会話は無く、直通で目的のフロアに着きました。

「あなたはあそこの応接で座って待っていて。区切りのいいところで、皆に紹介するから」
 オフィスに入ったところで、お姉さまはそう言い残し、スタスタとご自分のお部屋のほうへと向かわれてしまいました。

「お邪魔しまーす」
 入口から応接ルームへ向かうあいだに、オフィス内の様子をそっと窺がいました。
 お部屋の奥の大きめのデスクにおひとり、パソコンのモニターを見つめている後姿の女性しか、人はいないようでした。
 クラシックのピアノ曲、これは確かプーランク、が優雅に低く流れています。

「失礼しまーす」
 無人の応接ルームに入ってドアを閉じ、さて勝手に座っちゃってもいいものか、と迷っていると、コンコンとノックが聞こえました。
「あ、はいっ!」
 いったん座りかけた椅子を大あわてで戻し、直立不動になりました。
「失礼しまーす。こんにちはー」
 ティーポットとティーカップの載ったトレイを手にしたスラッとした女性が、にこやかに入ってきました。

「あなたが森下直子さんね?」
「はいっ」
「あ、どうぞお掛けになって。すぐにチーフたちも来ると思うので」
 おっしゃりながら優雅な手つきで、次々にティーカップを満たしていきます。
 
 私より少し背が高く、それなのに私よりも腕も脚も細くてしなやか、全体的にすごくスラッとされているスレンダー美人さん。
 土曜日に写真で拝見した、愛称たまほのさん、ってすぐわかりました。
 写真でもお綺麗でしたが、実際はその数十倍、お綺麗です。

 八人くらい掛けられそうな楕円形の応接テーブルの、窓を背にした真ん中の席を勧められ、ご自分は私の隣に、チョコンという感じで軽く腰掛けました。
「はじめまして。わたしは玉置穂花。あなたがわたしのお仕事を引き継いでくれるのよね?」
「あ、はい、はじめまして。えっと、あの、チーフさま、あ、いえ、チーフから、そのように承っておりますが・・・」
 緊張し過ぎてしどろもどろな私。

「これから引継ぎで、当分のあいだご一緒することも多いと思うから、よろしくね」
 はんなりした笑みで真横から見つめられ、胸がドキンドキン。
「はいっ!こちらこそよろしくおねがいしまっす」
 大げさなお辞儀と共に、ヘンに力が入った声でのお答えになってしまいました。
 
 その様子を苦笑まじりのおやさしげなまなざしで見守ってくださる玉置穂花さま。
 シンプルな白いカットソーにピンクのカーディガンを羽織り、ボトムも茶色のコットンパンツっていういたってラフないでたちなのに、動作や物腰に品があって、すごく優雅に見えます。

「森下さんは、今年新卒なの?」
「あ、はい、一応」
「四大?」
「いえ、短大です」
「そっか。わたしも新卒でここに来て一年だけれど、四大だったから年齢的には少し差があるのね」
 ちょっぴり残念そうに首を傾げられると、柔らかそうな巻き毛がふうわりと揺れました。

「あなたのこと、直子さんて呼んでいい?うちの会社ではみんな、下の名前で呼び合うのが普通だから。もちろん身内のあいだでだけだけれど」
「あ、はい、もちろんです。呼び捨てだってかまいません、みなさま先輩ですから」
「うーん。わたし個人的には、そのセンパイっていう呼び方はしないで欲しいの。学生の頃はかまわなかったけれど、社会人になって、部活一緒だった年下の子たちからセンパイって呼ばれると、わたしのほうが年上、っていちいち指摘されているように感じちゃってなんだか落ち着かないの」
「ヘンに思うでしょう?事実なのにね」
 いたずらっぽく微笑みながら、私の目をじっと見つめてきます。

「いえ、ぜんぜんヘンじゃないと思います。でしたら私、絶対センパイは付けません」
 こんなに魅力的な人がイヤがっていることなんて、私に出来るはずがありません。
「わたしのことは、たまほのとかたまちゃんとかほのかとか、みんな好きに呼んでいるから、直子さんも、気に入ったのを使えばいいわ」
「では私は、ほのかさんて呼ばせていただきます。これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね、直子さん」
 すごくチャーミングな笑顔で差し出された右手におずおずと自分の右手を差し出しながら、心の中では、ほのかさま、とお呼びすることに決めました。

「お待たせー」
 ほのかさまとの固い握手の手が離れたとき、ノックも無しに応接のドアがいきなり開き、お姉さまを筆頭にゾロゾロと女性たちがお部屋に入ってこられました。
 ほのかさまがさりげなくお席を立つのを見て、私もあわてて立ち上がりました。

「紹介するわね。こちらが開発部部長の早乙女綾音。それと開発部スタッフの大沢凜子と小森美咲。あ、たまほのとはもう自己紹介済んだみたいね」
「それで、あちらが今日から我が社に加わる期待の新人、森下直子さんよ」
 ざっくばらんなご紹介の後、お姉さまにまっすぐ指をさされ、腰を直角に折るくらいの大げさお辞儀。
「森下直子です。未熟者ですが、みなさまよろしくお願いいたします」
「まあ、立ち話もなんだから、座りましょう」
 お姉さま、いえ、チーフの一言で、みなさま席にお着きになりました。

 私の斜め右前にチーフ。
 そのお隣、つまり私の真正面に、早乙女部長さま。
 そのお隣にスタッフのおふたりが座り、ほのかさまは私の隣に残ってくださいました。
「あともうひとり、営業部長がいるのだけれど、昨日から出張で出社するのは来週月曜だから、そのときあらためて紹介するわね」
 チーフが私を見ながら教えてくださいました。
 そっか、デヴィッドボウイさまは、今日はご不在なんだ。

「はじめまして。この会社の企画・開発部門を担当している部長の早乙女です」
 あらためてご挨拶くださる部長さま。
 見れば見るほどお美しいかたでした。

 肩から袖がシースルーになったスクープネックの黒いシフォンブラウスにウエーブヘアがふわりとかかり、ツンと通った鼻筋とキュッと締まった理知的なお口元が高貴な雰囲気さえ醸し出して、女優さんよ、って言われれば、やっぱりそうですよね、って迷うことなくお返事しちゃいそうなほど。

「そして、こちらのふたりが、わたくしの優秀なスタッフ、大沢凜子さんと小森美咲さんコンビ」
 早乙女部長さまに促されて、部長さまの左隣の女性が会釈してくださいました。

「大沢です。主にパターン関係、デザイン画とか造形全般を担当してます。よろしくね」
 ベリーショートのボーイッシュなネコさん顔、という印象は写真と同じでしたが、こちらも実物は数段チャーミング。
 ヨーロッパの名門少年合唱団とかにひとりはいそうな、おめめクリクリのソプラノ美少年、みたいなキュートなお顔です。
 ボートネックでゆったりしたネイビーの長袖ロングTシャツ姿で、胸元に小さな音楽プレイヤーをチェーンでぶら下げています。
 あまり目立たないバスト部分に布地が当たると、うっすら突起が出来るので、確かにノーブラみたいです。

「小森美咲。担当はコンピューター関係全般。よろしく・・・」
 こちらは人見知りさんのようで、うつむきがちの小さなお声でした。
 立ち襟フリルのロリータな純白ブラウスが絵に描いたようにお似合いな幼顔ながら、フリルのラインが大げさにカーブしちゃうほどバーンと張り出したバストとの、見事なアンバランスさがコケティッシュ。
 上目遣いにじーっと見つめられると、そのあどけない可愛さになんだかドギマギしてしまいます。

「それで、森下さんは、幼稚園教諭が志望だったのよね?免許もちゃんと学校で取って。なぜやめたのかしら?」
 先ほどから私の顔と上半身をじっと交互に見つめていた早乙女部長さまが、世間話でもするような自然な感じで、投げかけてきました。
 どうやらここからは、私への質問タイムのようです。
 そんなこともあるかもしれないと思い、お家でシミュレーションはしてきました。

「あ、えっと、それは、何て言うか、よそさまのお子様をお預かりする、という責任の重さに怖気づいてしまった、と言うか・・・」
「なるほど。ちっちゃい子の相手って大変だし、最近は口うるさい保護者も増えているらしいからね。内定は、あ、幼稚園の場合内定ってあるのかは知らないけれど、そういうのはあったの?」
「はい。実習もして試験も受けて、来てくださいっておっしゃっていただいた園はあったのですが、ずいぶん悩んでお断りしました」

「あらもったいない」
 部長さまがポツリとおっしゃり、周りの方々が一斉にクスッと笑われました。
「でもまあ、それだけ真剣に考えた、っていうことなのね。お顔が真っ赤で暑そうだから、上着取ったほうが良いのではなくて?」
 部長さまのお言葉に、ほのかさまがさっと立ち上がり、ほどなくハンガーを持ってきてくださいました。
「あ、ありがとうございます」
 私も立ち上がり、大急ぎでスーツのジャケットを脱ぎました。

「森下さんて、クラシックバレエがご趣味なのよね?立ち上がったついでに、ちょっとその場でクルッと回ってみせてくれるかしら。その靴ではポワントは無理でしょうから、そのへんは適当でいいから」
 私の全身をじーっと見つめてくる部長さまに、お姉さまがおっしゃっていた、着衣でも見ただけでその人の身体サイズを把握してしまう、という、部長さまの神業のことを思い出していました。

 テーブルから離れて充分なスペースを確保し、ドゥミポワントで膝と背筋を伸ばしてからグランフェッテぽく、クルリと回ってみました。
 みなさまが、おおっ、って小さくどよめかれます。
 ペコリとお辞儀して自分の席に戻りました。
 おそらく今の一連の動作で、私のスリーサイズから体重や股下の長さまで、部長さまに全部把握されてしまったことでしょう。

「森下さんはその他にも、英検とか簿記とか、いろいろ使えそうな特技を持っていらっしゃるようだから、頼もしいわ。ぜひともこの会社のために、がんばってください」
 部長さまの表情が和らぎ、初めて笑顔らしきものを見せてくださいました。
 ホッとする反面、私にとっては恐ろしすぎる、とある懸念が脳裏に浮上していました。
 ひょっとしたら部長さまは、私の、あの履歴書、をご覧になったのではないか、チーフがお見せしてしまったのではないか、という懸念。

 今までのご質問で、事前にチーフから部長さまへ、私についての何らかのご報告があったであろうことは推察出来ました。
 でも先ほど、いろいろ使えそうな特技、とおっしゃったときの部長さまの口ぶりに、見透かしているような、すべて知っているのよ的なニュアンスが含まれているように、感じられたのです。
 
 まさか・・・
 思わずチーフのほうを見ると、チーフ、いえ、私のイタズラ好きでイジワルなお姉さまは、薄い笑みを唇にたたえ、目を細めて愉しそうに私を見ていました。

「そう言えば森下さんがうちにいらしたのは、シーナさんからのご紹介なのよね?シーナさんとはどういうご関係なのかしら?」
 一度懸念を抱いてしまった私の耳には、部長さまからのご質問すべてがもはや、何かしらの意図があってのものなのではないか、と勘ぐってしまいます。

 シーナさま、この会社とも少なくないおつきあいがあるらしいけれど、スタッフのみなさまは、どのくらいシーナさまのことをご存知なのだろう?
 シーナさまって、ご自分の嗜好を誰にでもあけすけにお見せ出来ちゃうタイプみたいだから、ここでも有名だったりしたら・・・
 あのシーナさまからの紹介なら、きっと子飼いのマゾドレイのひとりに決まっているって、最初からみなさまにバレバレだったりして・・・
 急激に高まってきたドキドキでよく働かない頭を無理矢理動かし、一生懸命無難なお答えを探しました。

「あの・・・地元が同じで、地元に居た頃からいろいろとよくしていただいていて・・・」
 捉えようによっては、そんな頃からシーナさまにいろいろされていたことを自白しているような言い方になってしまいました。
 本格的にいろいろされたのは、東京に出てきてからなのに・・・

「ああ、なるほどね。あのかた、面倒見が良いかただから。うちも、彼女から良い仕入先を教えていただいたり、腕の良い工房を紹介してくださったり、ずいぶん助けていただているの」
 部長さまの普通なリアクションにも、もはや心底安心出来ない私の懸念。

「それと森下さんには、リンコたちが大好きなアニメやマンガのご趣味もあるの。コスプレもされるみたいだし。あなたたちは、そのへんから仲良くなるといいのではないかしら」
 部長さまがスタッフのおふたりに向けておっしゃいました。
「へー、そうなんだ。ねえねえ、何のコスプレしたの?今シーズンのアニメは何チェックしている?」
 大きな瞳をキラキラさせて、ボーイッシュ美少女の大沢凜子さまが、部長さまのふった話題に即座に飛びついてきました。

 パン!パン!
 それまでずっと黙って微笑んでいたチーフが、びっくりするほど小気味の良い高音の拍手をふたつ。

「はいはいはい。そういう個人的友好は仕事が終わってからゆっくりやってね。とりあえず森下さんとの顔合わせはこんなところでいいわね。各自、仕事に戻って、今日も一日がんばりましょう」
 チーフの鶴の一声でみなさま、がたがたと席をお立ちになります。
 大沢凜子さまは去り際に、あとでゆっくりねー、とおっしゃって私に手を振ってくださいました。
 その陰に隠れるようにして、小森美咲さまの右手も小さく揺れていました。

 応接ルームに残ったのは、私とチーフとほのかさま。
 チーフが私の正面にいらして、何か差し出してきました。
「はい。まずこれが、このオフィスのカードキー。使い方は後で説明します。こっちは、このビルで働いている人全員に配られる市民証。これを提示すれば、上の水族館や展望台が半額になったり、レストラン街で割引があったりの優れもの」

 目の前に定期券大の2枚のカードが置かれました。
「あ、はい。ありがとうございます・・・」
 そのカードを手に取って、しげしげと見つめました。
 だけど私の目には、何も見えていませんでした。
 頭の中は、お姉さまに今すぐ投げかけたい、ひとつの疑問だけでいっぱいになっていました。
 あの履歴書を部長さまに、お見せになったのですか?という。

「それから・・・」
 お言葉を区切ったチーフが、私をしばらくじっと見つめ、愉しそうにニッと笑いかけてきました。
 私もすがるように、チーフを見つめ返します。
「これが、森下さんの社員証ね。IDカード」
 首から提げる用のストラップが付いたカードホルダーが、テーブルの上に裏向きで置かれました。
 見えているのは裏側ですから、もちろん真っ白。

「顔写真は、先日預かった、履歴書の写真をスキャンして、勝手に、貼っておいたから」
 ワザとのように、ゆっくりハッキリ区切るようにおっしゃって、意味ありげに私を見つめ、再びニッと笑うチーフ。
 私は、チーフのお口から、履歴書、という単語が出たときにズキンと鼓動が跳ね、それからは早鐘のよう。
 意味も無く辺りをキョロキョロ見回すと、ほのかさまがテキパキとテーブルに残されたティーカップを片付けられています。

「森下さんは、たまほのの後片付けの手伝いをして、終わったらふたりであたしの部屋にきてください。あ、それと、これからは来客のお茶の用意は、森下さんの仕事となりますから」
「はいっ」
「はいっ」
 ほのかさまに一呼吸遅れて、なんとかお返事は出来ました。
 チーフが満足そうにうなずいて、スタスタと応接ルームをあとにしました。

 大きなテーブルの上にポツンと置かれた、裏向きの社員証。
 私は、どうしてもそれに、手を伸ばすことが出来ないでいました。


オートクチュールのはずなのに 02


2015年4月19日

面接ごっこは窓際で 10

 ハンガーに掛かったまま手渡されたのは、シックなワインレッド色のロングカーディガンでした。
 ふうわりとしたルーズなシルエットで、たぶんウールかな。
 太めの毛糸をざっくり手編みした感じが、とても素敵でした。

「昨シーズン、けっこう出た人気アイテムよ。これは素材を選ぶために作らせた試作品でウールだけれど、製品版はコットンになったの。クリーニングがラクだからね」」
「これ羽織っておけば監視カメラも問題ないでしょう?直子の大好きな裸コートのニット版よ。着てみて」
 お姉さまに促され、カーディガンを注意深くハンガーからはずし、袖に腕を通しました。

 丈は膝上5センチくらい、袖も一折すれば問題ありません。
 でも、それ以外は問題山積みでした。

 前合わせがおへそのちょっと上くらいの、かなり深めなVネックなので、胸元がほとんどはだけて覗いてしまいます。
 ボタンはふたつ、おへその少し上と腿の付け根あたり、だけ。
 透かし編み、と言うのでしょうか、隙間を多用したざっくりした編み方なので、全体にそこはかとなくシースルーな感じ。
 その上、ルーズフィットなだぶっとしたつくりなので、少しからだを屈めただけで生地と素肌に大きく隙間が出来、胸元からおっぱいが丸見えになってしまいます。

「あの、お姉さま、これ、少し私には大きいような・・・」
「あら、いい感じよ。甘えんぼ袖でかわいいじゃない」
「それに、胸元が開きすぎでは・・・」
「だってカーディガンって、本来何か着ている上に羽織るものだもの、仕方ないわ。チェーンネックレスが胸元を飾っているから、それはそれでセクシーな感じになっているわよ」
 確かに首からかけたチェーンが胸の谷間で三方に分かれ、左右の乳首へと繋がっているであろうことまでバッチリ丸わかりでした。

「安心なさい、ボタンは留めちゃダメ、なんてイジワルは言わないから。さ、行きましょう」
 ロッカーを閉じ、バーキンを肩に提げてモップ片手のお姉さまが、ツカツカとドアに向かいます。
 私もあわててショートジャケットとハンドバッグをショッパーに押し込み、もう片方の手に重いバケツを持って、お姉さまの後を追いました。
 からだを動かすと裏地が肌に擦れ、ウールのチクチクが尖った乳首を挑発してきて私はモヤモヤ。
 股下以降ボタンが無いスリット状態な裾は、歩くたびに大きく割れ、太股から付け根まで、大胆にキワドク覗いてしまいます。

「あっ!いっけなーい!」
 オフィスの電気を全部消して、あとは廊下に出るだけ、とドアノブに手をかけたお姉さまが、真っ暗な中で小さく叫びました。
「えっ!?」

「直子の履歴書、あたしの机の上に出しっ放しだったわ」
「えーーーっ!?」
「あたし、出張から帰るの火曜日の予定だから、そのあいだずっと置きっ放しになっちゃうわね」
「あの、そのあいだに誰か社長室に入ったりはしないのですか?」
 焦ってお姉さまに尋ねました。

「もちろん入るわよ。今はたまほのがあたしの仕事の補佐だから、あたしの代わりにね」
 何言っているの、この子は?みたいなニュアンスの笑いを含んだお声が、暗闇から聞こえました。
「でも、たまほのなら気を利かせて、黙って机の抽斗にでもしまってくれるだろうから、まっ、いっか?」

「いくないですっ!!」
 お姉さまの語尾が消えないうちに、覆いかぶせるように抗議の声をあげました。
 私のイキ顔が添付された、あんな破廉恥な履歴書を早々と社員のかたに見られちゃったら、私はどんな顔をして初出勤すればいいのでしょう。

「あんな履歴書、早くどっかにしまっちゃってください!いえ、会社に置いておかないで、お姉さまがお家へ持って帰ってください!」
 お姉さまとの面接ごっこで自分の恥ずかしい性癖をひとつひとつ、自筆で書き加えさせられたときの恥辱感が全身によみがえり、いてもたってもいられなくなって、強い調子で抗議してしまいました。
「おー怖い。でも直子って、怒ったときさえマゾっぽい感じなのね。嗜虐心をくすぐるって言うか。あたし、そういうのも好きよ」
 余裕のお姉さまが再び灯りを点けました。

「わかったわ。そんなに言うならしまってくる。可愛いスールからの切羽詰ったお願いだもの」
 社長室に向かうお姉さまを、私も追いかけます。
「でもね、社員の履歴書を持って帰ることは出来ない決まりなの。社外秘書類は持出禁止。これは会社のルールだから」

 ご自分のデスクの上に無造作に置いてあった履歴書をつまみ上げ、一瞥してからクスッと笑い、たくさんある抽斗のひとつに、これまた無造作に放り入れました。
「今は金庫の鍵持っていないから、とりあえずね。大丈夫よ。たまほのはこの抽斗、絶対に開けることはないから」

「あの・・・もしも社員のかたが、私の履歴書を見たい、っておっしゃってきたら、お姉さま、あ、いえ、チーフは、お見せになるおつもりですか?」
「そうねえ・・・取締役のアヤか雅が見たいって言ってきたら、断る理由は無いわね。もっとも今までそんなこと、ふたりとも言ってきたこと一度もないけれど」
 とりあえず少しだけホッとする私。
 だけど私のあの破廉恥な履歴書は、この会社の正式な社外秘書類になってしまったようでした。

 なんとなくモヤモヤしたままオフィスを出て、給湯室に用具を戻し、片手が空くとすぐにその手でカーディガンの大きく開いているVゾーンの襟端を両方握って隠しました。
 そのままエレベーターホールへ向かいます。

「こうしてあらためてよく見ると、全体にけっこう透けるのね、それ。でも色っぽくて、いい感じよ」
 お姉さまが私を振り返り、しげしげと見ながらおっしゃいました。
 手をどけなさいって叱られるかな、と思ったのですが、胸元Vゾーンを隠していることについては、とくに何も触れられませんでした。

 エレベーターの箱はみんな一階で待機しているようでした。
 お姉さまが呼び出しボタンを押し、やって来るのを黙って待ちます。
 ここには監視カメラがあるはずなので、お姉さまの陰に寄り添うようにくっつきました。

 やがて1基のエレベーターがやって来て、扉が開きました。
 正面に大きな鏡。
 そこに映った自分の姿に思わず息を呑みました。

 エレベーター内の明るい光に照らし出されたワインレッド色のストンとしたシルエット。
 その内側に私のからだのライン全体がハッキリわかるほど、白くクッキリ透けていました。
 その上、網目が詰まった部分と粗い部分で交互に、忙しくボーダー模様になっているデザイン。
 私が着るとちょうどバスト部分と土手部分が粗いほうの網目に当たっています。
 なので、バストに目を凝らせば、私の乳首の位置も色も、ちゃんとわかります。
 下半身も、両腿の付け根部分が、見事に透けています。

 お姉さまをにぴったり寄り添い、来るときに教えていただいた監視カメラに背を向けるように、横歩きで乗り込みました。
 お姉さまのおからだが監視カメラの盾になるような位置で背中を向け、じっとちぢこまります。
 この際、お尻ぐらいは映っちゃっても、仕方ありません。

「お姉さまの会社って、こういうえっちなお洋服ばかり作っているのですか?」
 ヒソヒソ声で少し嫌味っぽく愚痴ってしまいました。
「あら失礼ね。直子だからそうなるのよ。サイズがちょっと大きめだから。あたしが着たらちゃんと、見せたくないところは見えないデザインよ」
 愉快そうなお姉さまのご反論。
 お姉さまったらやっぱり、計算されてこのカーディガンを選ばれたんだ。

 エレベーターはどの階にも停止することなく、あっという間に地下の駐車場に到着しました。
 駐車場内は、フロアに較べればずいぶん暗めで一安心。
 人っ子一人いないようで、しんと静まり返っていました。
 コンクリートをカツカツ叩くお姉さまのヒールの音。
 私も早く自動車内に逃げ込みたい一心で、ショートブーツの底をパタパタ鳴らしました。

 やがて一台の乗用車の前で立ち止まったお姉さま。
 それがお姉さまの愛車のようです。
 薄暗いので紺色なのか青色なのかハッキリしませんが、割と大きめな車でした。
 ずっと昔からある美味しいサイダーのマークに似たエンブレムを、お顔に付けていました。
 自動車のことはほとんど何も知らない私でさえ、そのマークが付いた車は高級外国車であるということは知っていました。

「すごいですね。さすが社長さん、っていう感じです」
「それって皮肉?これ、実家から借りているのよ。こっちに出てきて借りっ放し。ナンバー見てごらん、横浜でしょ?」
「あ、本当だ。ご実家もすごいのですね」
「うーん、どうだかね。そんなことより、早く乗りなさい」
 お姉さまが運転席のドアを開けてローファーみたいなお靴を取り出し、履き替えられています。

 助手席のドアを開けて乗り込もうとしたとき、躊躇いが生じました。
 私は今ノーパン。
 そしてもちろん、今の自分の恥ずかし過ぎる格好で、充分に潤んでいます。
 このまま座ればカーディガンのお尻を汚してしまうし、生尻じか座り、するならタオルを敷かなくちゃ。
 懐かしい言葉を久しぶりに思い出して、ちょっと顔がほころびました。
 それから持っていたショッパーを覗き込んで、キレイめのタオルを探し始めました。

「どうしたの?早く乗りなさい」
 訝しげなお声でお姉さまが尋ねてきます。
「えっと、あのですね、私は今ノーパンで濡れているので、このまま座ったらカーディガンを汚してしまうし、お尻をまくって直に座ったらお車のシートを汚してしまうし・・・」

「へー。ずいぶんな気配りさんなのね。それで直子はどうしようとしているの?」
「なので、シートの上にタオルを敷いてから、生尻じか座りをすれば、カーディガンもシートも汚れないから・・・」
「生尻じか座り、って面白い表現ね。あたしは別に、そのカーディガンは直子にあげたつもりだし、助手席に直子のおツユが染み込んで車内が直子臭くなっちゃっても、別に構わないのだけれど」
 そこまでおっしゃって、少し考えるふうに視線を宙に向けるお姉さま。

「おっけー。決めたわ。生尻じか座り、っていう言葉が気に入ったから、それでいきましょう」
「タオルも敷かなくていいわ。どうせその中のタオルはみんな、直子の愛液がたっぷり染み込んでいるのだもの、敷いたって同じよ。文字通り、生尻じか座り、でいいわ」

「でも、これって本革では・・・」
「そうかもしれないけれど、いいわよ。どうせ乗ったら、ものの5分もしないうちに着いちゃうもの」
「それとも直子は、何か期待しているの?車に乗って家に着くまでに、車内中が直子臭くなっちゃうほどおツユが溢れちゃうような出来事を」
「いえ、そ、そんなことないです。わ、わかりました」
 お姉さまのイジワル口調にキュンとなってトロリ。

 車に乗り込んで腰を下ろす前に、お尻側の裾に両手を遣って思い切りまくり上げました。
 それからストンと、裸のお尻をシートに沈めました。
「ひゃぁっ」
 ひんやり冷たい感触と、ちょうど良い柔らかさの革の肌触りがお尻を包みました。
 お姉さまは、そんな私の一挙一動をじーっと見つめていました。

「直子?」
「あ、はい?」
「左のおっぱいが襟から全部零れ落ちていてよ。それともワザと?」
「あ、いえ!」
 からだを折り曲げた拍子におっぱいがはみ出てしまっていたようです。
 あわててカーディガンの前をかき合わせました。

「タオルを敷くとか、そんな気配りが出来る、っていうことは、似たような格好で誰かの車に乗ることが過去に何回かあったのよね?」
 私が座り終え、助手席側のドアをバタンと閉めても、お姉さまはまだエンジンをおかけにならず、私に質問してきました。

「はい。やよい、あ、いえ、百合草先生と、あとシーナさまのお車にも」
 かき合わせた胸元をギュッと握り締めてお答えしました。
「ふーん。そのときはいつも、生尻じか座りのタオル敷き、だったわけね?」
「はい・・・」
「ふーん」

 意味ありげに私の顔を覗き込んでから、やおら前を向き、車のエンジンをおかけになるお姉さま。
 車内を低くエンジン音が包み込み、その中を綺麗なバイオリン曲が小さく漂い始めました。

「直子?」
「はい?」
「シートベルトをしたら、そのニットのボタン、全部外しなさい」
「えっ?」

「直子さっき、そのニットに絡めて、あたしの会社に対して失礼なこと言ったわよね?それに、この車見たときも、何か皮肉っぽいことを」
「あ、いえ、決してそんなつもりでは・・・」
「ううん。言ったことは間違いないわ。あたしに馴れ過ぎて直子は、自分の立場を忘れかけているのよ。だからこれは躾。お仕置きよ」
「直子とあたしがどういう関係なのか二度と忘れないように、命令します。ボタンを外しなさい」
 私の顔をじっと見据えて、冷たいお声でおっしゃいました。

「は、はい・・・申し訳ございませんでした・・・」
 おずおずと右手を下腹部に伸ばし、ボタンを外し始めました。

 カーディガンの裾はまくり上げているのでお尻に敷かれていず、シートの背もたれと私の背中のあいだでクシャクシャになっています。
 そんな状態でボタンを外せば、前合わせはそこに留まっていることが出来ず、左右にハラリと簡単に割れてしまいます。
 一個外すと土手と割れ始めのスジが覗き、2個目で太腿から下腹部まで、完全に露になってしまいました。
 その影響は上半身にも及び、左側はシートベルトでも押さえられているので無事でしたが、右側は襟部分までペロリとめくれて、右おっぱいがチャームをぶら下げた乳首まで顔を出していました。

「そのまま、絶対直しちゃだめ。これはお仕置きなのだから」
 おっしゃりながらお姉さまの左手が背後から、私の左肩を抱くように伸びてきて、左おっぱいを覆っていた布地が肩先から引っ張られ、せっかく隠れていた左乳首も、こんにちは、してしまいました。
 左おっぱいの上部分を斜めにシートベルトが締め付け、少し歪んだ肌の先に、尖った乳首にチャームをぶら下げた左乳首。
 つまり、私の肌でニットに隠れているところは両袖だけ、という状態になってしまったのでした。

「そのまま夜のドライブよ。もう深夜だから、いくら土曜の夜でも、人も車もたいしていないでしょう。直子の家までなら大通りを通るわけでもないし」
「ずっとこのままで、ですか?」
「そう。おっぱいも下も丸出しで。と言っても外から下半身は見えないでしょうけれどね。どう?ドキドキしちゃう?シート、思う存分汚していいわよ」

「あの、あの、えっと、以前、やよい先生に教えていただいたのですけれど・・・あ、えっと百合草先生です」
 お姉さまご提案の大冒険にワクワクしつつも、万が一の危険性がどんどん脳内で膨らんできて、動揺と共に言い出せずにはいられませんでした。

「んっ?」
 お姉さまの眉がピクリと動いて、先を促す仕草。
「えっと、こういう車の中での露出では、みんな周りばかり気にするけれど、一番注意しなくちゃいけないのは前を走っている車だ、って」
「前?どういうこと?」
「あの、これ、えっとバックミラーでしたっけ?これで後ろの車の運転席のことは丸見えだから、もし前の車が覆面パトカーだったりしたら・・・」
 フロントグラスの上真ん中くらいに付いている小さな鏡を指さしながら、おずおずとご説明しました。

「ああ、なるほど。確かにね。あたしも以前、信号待ちのあいだキスしてるバカップルをルームミラー越しに見たことあるわ」
「さすが百合草女史ね。あたしそんなこと考えたこともなかったわよ」
 心底感心されたご様子のお姉さま。
「もっともあたしは今まで、助手席で裸になりたがるようなヘンタイを、自分の車に乗せたこともなかったけれどね」
 お姉さまの左手の指が、私の右乳首のチャームをチョンとつつきました。
「やんっ」

「おーけー。それならこうしましょう。前の車との車間距離が詰まっているときと、狭い道で対向車とすれ違うときは、直子は腕でバストを隠してもいいわ。腕組むみたいにして」
「車を降りるまで、それ以外の動作は一切禁止ね。まっすぐ前を見て、大人しく座っていること」
「それにせっかくのチャンスなのだから、まるべく隠さないように努力しなさい。視られたって一過性なのだから」
「直子だって誰かに視られたほうが興奮するのでしょう?あたしが隣にいるのだから、大丈夫よ」
「は、はい・・・」
 なんとなく覚悟が決まりました。

 ヘッドライトがパッと点いて、車が音も無く動き始めました。
 薄暗い駐車場に人がいる気配はまったく無く、音楽はクライスラーの愛の喜びに変わっていました。
 段差を乗り越えるたびに車が少し揺れて、私の剥き出しのおっぱいもチャームごとタプンと弾みました。
 長いスロープをゆっくり登りきると、駐車場の出口が見えました。

 駐車場出口で一旦停止。
 ここから先は、私が慣れ親しんだ生活圏内の一帯です。
 そんな場所を、車の中とは言え、おっぱい丸出しの上半身をガラス窓から覗かせて走っていくのです。
 喩えようのない恥ずかしさと背徳感が全身をつらぬきました。

 出口から出て左折したお姉さまの車は、数秒も走らないうちに最初の信号に捕まりました。
「ここは右折できないから、ビルをぐるっと一周することになるわね」
 幸い交差点には人も車もいません。
 と、思う間もなく対面からヘッドライト。
「大丈夫よ。もう信号変わるから」
 腕を組みたくてムズムズしている私を制するように、お姉さまのハンドルがゆっくりと左に切られました。

 片側二車線の右寄り路線をゆっくりと直進するお姉さま。
 そのあいだ、2台の対向車がけっこうなスピードですれ違っていきました。
 私は呆気に取られ、腕で隠すヒマもありませんでした。
 やがて見えてきたのは、通い慣れたアニメ関係のお店が立ち並ぶ通りです。
 お姉さまが車を左へ寄せていきます。
 この辺りははまだ少し人通りもあり、私の腕がまたムズムズし始めますが、今度は信号に捕まることも無く左折出来たので、隠すタイミングを失なっていました。

「そう言えば、さっきの信号の手前あたりに交番があったはずよね。もう通り過ぎちゃったけれど。ちょっとヤバかったかな」
 愉快そうにおっしゃるお姉さま。

 お姉さまのお言葉で、その交番の佇まいが瞬時に思い出せるほど、しょっちゅうその前を歩いていました。
 私、あの交番の前でも、おっぱい丸出しだったんだ・・・
 右に目を遣れば立ち並ぶ、見慣れたアニメショップ群。
 自分が今していることのあまりのヘンタイさに、からだがどんどん熱くなってきます。

 次の交差点も捕まらずに左折すると、今度は24時間スーパーがある通りです。
 スーパー側、つまり対向車線側の舗道には、けっこう人が行き来していますが、お姉さまが選んでくださったこちら側の舗道側路線は、照明も暗く、人もぜんぜんいません。
 この通りを抜ければ住宅街。
 人も車もガクンと減るはずです。

 その信号を抜ければ住宅街、という交差点で信号待ちに捕まりました。
 片側2車線道路の右寄りに車が一台信号待ち。
 お姉さまの車は左寄り車線を進んでいます。

「どうしよっか?後ろにつくか、隣に並ぶか」
 信号待ちをしている車は、黄色くて可愛らしい感じの車でした。
「あの車の感じだと、女性ドライバーぽいわね。それなら後ろについてみましょう。直子はまだ隠しちゃだめよ」
 お姉さまが右寄りに車線変更して、ゆっくりと黄色い車の後ろに近づいていきます。

「ああ、やっぱり女性みたい。それもけっこう若そう。初心者マークまで付けているし」
 お姉さまが身を乗り出すようにして、黄色い車のリアウインドウ越しの車内に目を凝らしています。
「これも何かの縁だわ。これは直子、見せてあげるしかないわね。いい?絶対隠してはだめよ」
 おっしゃりながら、黄色い車の後ろにゆっくりと、ご自分の車を停車させました。

「あ、なんだか気がついたみたい。ルームミラーを弄って角度変えている」
 気にはなりますが、私はそれどころではありませんでした。
 うつむいてギュッと目を閉じ、胸を庇いたい欲求と一生懸命戦っていました。
 自分の乳首にグングン血液が集まってきているのがわかります。
「視てる視てる、信号が変わったのも気づかないみたいね」

 パァッ!
 お姉さまが鳴らしたのであろう短く鋭いクラクションの音に、私もビクンとして顔を上げ、自然と前を見ました。
 なんだかあわてたみたいに黄色い車がよたよた発進して、交差点を渡りきったところでウインカーを左に出し、路側帯に停車しました。
 その脇をお姉さまがゆっくり通過していきます。
 通過するとき、黄色い車のドライバーさんと助手席の私とのあいだは1メートルも離れていませんでした。

 お姉さまがおっしゃった通り、まだお若そうな学生さんぽいボブカットの女性ドライバーさんは、運転席脇の窓ガラスに顔をくっつけるようにして、私を見送ってくださいました。
 私のバストに、目を皿のようにした好奇の視線が、2枚のガラスを隔ててまっすぐに浴びせられるのを肌に感じていました。

「やれやれ。あの黄色い車の彼女、びっくりし過ぎちゃって、このあと事故ったりしなきゃいいけれど・・・」
 黄色い車を追い越して住宅街の路地に入った頃、お姉さまが苦笑い気味にポツンとつぶやきました。

 いつの間にか車は、私のマンションの入口前に横付けされていました。
「ほら直子、着いたわよ?おっぱい出しっ放しでいいの?」

 私も黄色い車との一件でなんだか呆けてしまい、おっぱい丸出しのままボーっとしていました。
 お姉さまのお声で、あわてて前をかき合わせました。
 まわりをキョロキョロ見渡すと、さすがに住宅街、しんと静まり返って人影はありません。

「直子もずいぶん度胸が据わってきたのかしら、一度もおっぱい隠さなかったわね。偉かったわ」
 お姉さまが私のほうを向いて、ニッと笑いかけてくださいました。
「でも、あの女の子ドライバーだけではなくて、他にも舗道からとか、けっこう注目されていたみたいよ?こっちを二度見してくる人が数人いたもの」
「えーっ!?」
「その様子じゃ気づいていなかったみたいね。露出マゾの境地に達していたみたいだったし」
 うふふと笑ったお姉さまが、私のシートベルトをカチッと外してくださいました。

「少し腰を浮かせてごらんなさい?」
 おっしゃるままに従うと、股間は身悶えして逃げ出したいほどヌルヌルで、革のシートにもベッタリ垂れていました。
「うわー、予想以上の大洪水。これじゃあ拭き取ったくらいじゃ直子臭さは取れないかしら?」
 お姉さまが笑いながら私の頬を軽くつつきました。

「ああん、ごめんなさい、お姉さま・・・」
「いいのよ。それだけ気持ち良かったのでしょう?どう?車での露出の思い出で、あたしとのが一番になりそう?」
「もちろんです。こんなにすごかったの、初めてです」
 自分の生活圏内の街で、こんなに大胆なことが本当に出来るなんて、思ってもいませんでした。
 ああん、今すぐお姉さまに抱きつきたい!

「さあ、名残惜しいけれど、今夜はここでお別れね。出張から帰ってきたら電話入れるから、そのとき初出勤の日時を決めましょう。無論、早いほうがいいからね」
「はいっ!」
「ほら、一応お股拭いて、自分の部屋に入るまではきちんとしておいたほうがいいのではなくて?もっとも、そのニットではあまりきちんとは出来ないけれど」

 お姉さまの笑顔に促され、ショッパーからタオルを取り出し、まず自分の股間を拭いて、それから裏返して車のシートを拭いて、再びショッパーにしまおうとしたら、お姉さまの手で阻まれました。
「それはまだ、しまわなくていいから、ボタンを留めて先に身繕いしちゃいなさい」
 背中の裏でくしゃくしゃになっていたカーディガンの裾を引っ張り出し、今度はその中にお尻を隠してから、ボタンをふたつ留めました。

「いいみたいね。忘れ物もないわね?」
「お姉さまったらなんだか、ママ、あ、いえお母さんみた・・・」
 いですね?って軽口を叩こうと思ったら、お姉さまに唇を塞がれました。
 お姉さまの唇で。
「むぅぐぅう・・・」

 お姉さまの両手が私を抱きしめ、お姉さまの舌が私の口腔すべてを舐め尽してくる、そんな情熱的なくちづけでした。
 もちろん私もお姉さまに縋りついてお応えし、お互いの舌をニュルニュル絡ませ合いました。
 長い長いくちづけでした。

「はぁー・・・気持ち良かった。これでスッキリ仕事モードに入れそうだわ。直子はどうせ部屋に着いたら、すぐに始めちゃうのでしょうけれど」
 ご自分のお口の周りをテカらしているふたり分のよだれを、タオル、私のおツユがたっぷり染み込んだタオルで拭いながら、笑顔のお姉さま。
 その後、私の口の周りも、そのタオルで丁寧に拭いてくださり、指で髪を軽く梳いてくださいました。
「このタオルはあたしが持って帰るわね。出張中に直子に会いたくなったら、クンクン嗅ぐの」
 冗談めかしておっしゃって、丁寧にたたんでからバーキンの中にしまい込みました。

「それじゃあごきげんよう。おやすみ。良い夢を」
「はい。おやすみなさい。くれぐれもお家までの運転、お気をつけてください」
「うん。わかっているわ。直子の初出勤、楽しみね」
「はいっ!」

 テールランプが見えなくなるまでお見送りしてから、マンションに入りました。
 幸いにも、そのあいだずっと路上に人影はありませんでした。
 今更ですが今の私は、知っている人に見られたら絶対に言い逃れ出来ない、ヘンタイ過ぎる格好なのです。

 エレベーターに乗り込むと監視カメラに背を向けてうつむきます。
 管理人さんがこんな時間まで起きていらっしゃるとは思わないけれど、たぶん録画もされているはずなので。

 エレベーターから降りて扉が閉じると同時に、カーディガンのボタンを外し始めました。
 お部屋のドアの前に立ったときは、カーディガンも脱ぎ去っていました。
 バッグから鍵を取り出すのももどかしく、ショートブーツを脱ぎ始めます。
 扉を開けたときには、両乳首から垂れ下がったチェーンのリングを左手で引っ張り始めていました。
 もう一方の右手は、ショッパーの中にあるはずのあるものを、一生懸命探しています。
 みつけて引っ張り出すと同時に、玄関ホールの上がり框に全裸で倒れ込みました。

 私がその夜、と言うかもはや朝方、何時頃に眠りに就いたのかは、ご想像にお任せします。


オートクチュールのはずなのに 01