2014年12月7日

就職祝いは柘榴石 11


「良かったわね、直子さん。こんなにあなたのことを想ってくれるお相手に巡り逢えて」
 気を取り直すように笑顔を作ったシーナさまが、私にそう投げかけてから、お姉さまに向き直りました。
「もちろん、いつだって相談に乗るわよ。わたしだって、直子さんの行く末はとても気になるもの。この子の躾、大変でしょうけれどがんばってね」
 しみじみ口調に戻ったシーナさまに、おだやかにうなずき返すお姉さま。

 そのやりとりを聞いていた私は、シーナさまがおっしゃった、躾、という単語のエスエムぽさに、ズキュンと感じてしまいました。
 
 そう言えば今の私ってなんだか、新しい飼い主に貰われていく出来の悪いワンちゃんみたい。
 最初はやよい先生に躾けられ、その後しばらくシーナさまに躾けられ、これからは愛するお姉さまだけに従うメス犬マゾペットな私
 シーナさまとのおつきあいでは、私生活は自由だったけれど、これからは自慰行為までもお姉さまに管理される、お姉さまだけの所有物。
 私のおっぱいも乳首も性器も肛門も全部、お姉さまに躾され、お姉さまだけが自由に出来る・・・
 躾、という一言から次々に湧き出てくる被虐性一色の甘酸っぱい想いが、下半身の奥で粘質な雫に姿を変え、棒枷で押し開かれた粘膜から溢れ出し、縁から垂れ下がったのが自分で分かりました。

「さあ、わたしは助手に徹するから、さっきみたいにエミリーの手で直子さんにご馳走してあげて。そのぬるま湯を、たっぷりと」
 シーナさまが私のお尻側に移動しました。
「やだ、この子ったら、また愛液垂らしているわよ?よっぽど待ちきれないのかしら」
 シーナさまの蔑んだお声。
 お姉さまのおみ足も視界から消えました。

「シリンジ持っていてあげるから、可愛いプティスールのアヌスをほぐしてあげるといいわ。それと直子さん、顔を逆側に向けてごらんなさい」
 シーナさまのお言葉で、床のタイルにへばり付くように右向きにしていた顔を、腕を少し浮かせて左向きに変えました。

 壁の鏡に私の姿が映っていました。
 高く突き上げたお尻から、急な下りスロープの肩先あたりまで。
 私のお尻を覗き込むように中腰になっているおふたりの姿も見えました。
 なんてみじめで浅ましい姿。
 思った途端にアソコの奥がヒクッて・・・

「あらあら、肛門すぼめたりして。ひょっとして催促しているの?直子って、本当にはしたないのね」
 え?今、お尻の穴まで動いちゃったんだ。
「ち、ちがいますぅぅ」
 消え入りそうな声でお姉さまに抗議しますが、言葉とは裏腹にからだ中が期待でカッカと火照り、グングンいやらしい気持ちが昂ぶっています。
 すっごく恥ずかしくて目をギュッと閉じてしまいたいのに、鏡の中の自分から目をそらすことが出来ません。

 鏡の中で、薄でのゴム手袋を嵌めたお姉さまの白い指が、私のお尻に近づいてきます。
「あふぅ!」
 まずは、アソコの粘膜に溢れているおツユを指先でからめ取ったのでしょう、ラビアを撫ぜられて吐息が洩れました。
 ラビアへのじれったい愛撫の後、複数の指がお尻の穴周辺を撫ぜ始めました。
 ときに優しく、ときに乱暴に。
 穴を前後左右にたわませるように、広げてはすぼめ、すぼめては広げ。
「あふうぅん、あふうぅぅ、んんんぅぅぅ」
 マッサージのリズムと同じテンポで、盛大に喘いでしまいます。

「なんだかさっき浣腸したときより、ここ周辺の皮膚が柔らかくなっているみたいですね」
 お姉さまの感想。
「喘ぎ声だって俄然艶っぽくなっているもの。やっぱり直子さんて、ここを弄られるの、相当好きみたいね。いいなあエミリー、開発出来て」
 羨ましそうなシーナさまのお声。

「くぅぅぅっ!」
 いきなり穴に何か差し込まれた感覚。
 どうやら指のよう。
 全身がゾクッと震え、怯えにも似た感情と共に、得体の知れない超気持ちいい快感が、からだを駆け抜けました。

「さっきは指先しか入らなかったのに、第二関節まで一気にズブッと入っちゃった」
 お姉さまの驚いたようなお声。
「すごい適応能力だこと。これは、メインイベントがすごく愉しみ」
 シーナさまのお声も弾んでいます。
「すごい。肛門があたしの指をギュウギュウ締め付けてきてますよ」
「オマンコからもダラダラおツユが垂れているわね。直子さんがすっごく感じている証拠よ」
「くぅっ、ふふぅぅぅん、んんんんぅぅぅっ・・・」
 おふたりの、私にとっては恥ずかし過ぎる会話を耳にしながら、お尻に指を挿れられているあいだ中、恥ずかしい愉悦の声をあげっぱなしでした。

 指が抜かれた名残惜しさを感じる暇も無く、入れ代わりに指よりも冷たい何かがお尻の穴にあてがわれました。
 もちろん、ガラスお浣腸器の、あの魅力的で淫靡な注入口。
「さあ、本番行くわよ?直子は鏡でしっかり、自分が浣腸される姿を見ていなさい」
 
 お姉さまのご命令口調は、シーナさまにとてもよく似ています。
 他人に命令することに慣れた人たちだけが出来る、冷酷で口答えを絶対許さない、加虐性に満ちたエスなお声。
 私のマゾ性がひれ伏して悦んでいます。

 指よりも細いお浣腸器の注入口は、難なく私の肛門に埋まり、冷たいガラスの筒がお尻のワレメ付近のお肉に押し付けられました。
 間髪を入れず、お腹の中に液体が流れ込んで来るのがわかります。
「はあああぅぅーん!」
 やだ、何これ、お浣腸薬のときとはぜんぜん違う!
 ピストンで押し出されるぬるま湯の勢いは激しく、まさに、鉄砲水、という感じで流れ込み、お腹の中に溜まっていきます。

「50ミリって、けっこうすぐですね?」
「そうね。さっきの浣腸薬で40ミリだから、量的にはほとんど変わらないから。でもグリセリンが無い分、お腹にはやさしいの」
「そっか、あの果実の容器で40なのか。それならまだまだ入りそうですよね?」
 おふたりが怖い会話をしつつ、再びお浣腸器をいそいそとぬるま湯で満たしています。
 私のお腹は、今のところ何の変化もなし。

 私のお尻側に戻られたお姉さまは、何の前置きも無く無造作に、お浣腸器を私の肛門に再び突き挿しました。
「あうっ!」
 水流が勢い良く、私のお腹に流れ込みます。
「くうぅぅっ!」
「これで100か。どう?直子?」
「あぁぅ、ぃ、今のところ、だ、だいじょうぶ、みたいですぅ・・・」
 喘ぎ声をあげつつ、なんとかそう告げましたが、内心では出すときのことが気になって気になって、生きた心地がしません。

「シーナさんは、どう思われます?」
「その口ぶりだと、エミリーはもっと入れたいみたいね。大丈夫よ、あと100くらい、いけるはず」
 シーナさまのお声は、まるで何か実験の指示をされる先生みたいに冷静でした。
「それにたくさん入っていたほうが、出るときの迫力が違うわよ」
 愉しそうに申し添えるシーナさま。
「そ、そんな・・・」
 絶望的な気持ちでつぶやいた私の声なんて聞こえなかったみたいに、お姉さまがツカツカとぬるま湯の入ったボウルに、もう一度歩み寄りました。

 結局その後2回、お浣腸器をお尻に突き立てられ、私のお腹には合計200ミリリットルのぬるま湯が注入されました。
「直子って、水が入っていくたびに、はぁーんっ、て、とてもエロっぽく啼くのね。可愛いわよ」
 お姉さまにからかわれました。
 4回目のときに、少しお腹が痛くなってきて、お姉さまにそう告げたのですが、がまんなさい、の一言だけ。
 4回目のお浣腸器が抜かれてから束の間、静寂が訪れました。

「こうして黙って待っていてもつまらないから、リミットが来るまで、直子さんを悦ばせてあげない?」
 静寂を破ったのは、少しのあいだバスルームを離れ、戻ってこられたシーナさまでした。
「エミリーにはこれね」
 鏡の中で、シーナさまがお姉さまに乗馬鞭を手渡したのが見えました。
「それと、わたしも協力するために、わたしが直子さんのからだに触れることを許してくださる?」
「それはもちろんです。今夜はシーナさんからレクチャーを受けるためにお呼びしたのですもの、お好きなように、どうぞ、うちの直子を存分に可愛がってやってください」
 お姉さまが鞭をヒュンと鳴らしました。

「ありがと。それではお言葉に甘えて」
 シーナさまが私の顔のほうに近づいてきて、しゃがみ込みました。
「直子さん、もうそんなふうに這いつくばっていなくていいのよ?あとは直子さんのお尻の穴から何かが飛び出すのを、あなたの愛するお姉さまとふたりで見物するだけだもの」
 イジワル全開なシーナさま。

「両腕伸ばして、普通の四つん這いになってくれる?」
 そう促され、両手を床に着き、上半身を上げました。
 お腹の中でお水がお尻側に動いた気がしました。

「ほら、これ」
「直子さん、これが大好きだったわよね。がまんしているご褒美に、まず、これをあげるわね」
 シーナさまが指でつまんでいたのは、木製の洗濯バサミでした。
 その手がゆっくりと、四つん這いの私の垂れ下がった乳首に伸びてきます。
「はうっ!」
 シーナさまの指が、私の左乳首に触れました。
「うわーコリッコリ。ずいぶんと硬くなったものねえ。血が集まり過ぎちゃったかしら」

 絞り込むように縛られたままの乳房の先端は、バスルームに入ってからずっとつづけられている怒涛の恥辱責めにより、休む暇なく尖りつづけていました。
 今、そこを強く挟まれたら、それだけでイってしまうかも・・・
 来たるべき快感に身構えていると、乳首に激痛が走りました。

「あーーーぅぅぅっ!」
 左の乳首の激痛が鈍痛に変わり、痺れるような快感が全身を駆け巡ります。
 つづいて右の乳首からも全身へ。
「いいいぃぃぃーーーーーーっ!」
 アソコの奥がジンと疼き、全身がビクッと硬直した後、弛緩しました。
 弛緩した瞬間にお腹がグルグルと大騒ぎ、腹痛が激しくなりました。
 あわてて下半身に意識を集中し、お尻の穴を精一杯すぼめます。

「あら?今、お腹がゴロゴロ鳴ったわね。そろそろなのかしら?」
 シーナさまのお言葉が終わらないうちに、お尻のほうでヒュンと音がしました。
 パシンッ!
「あっうっ!」
 お姉さまの乗馬鞭。

「まだまだがまんしなくちゃだめよ、直子。浣腸してから5分も経ってないのよ?」
 お尻の穴からアソコまでの狭い範囲を鞭のベロでスリスリ撫ぜられて、私はクネクネ身悶えます。
「はいぃ」
「それと、出すときはちゃんと事前に断ってね。あたしが直子の後ろにいて、不意打ちで直子のものを浴びるなんて、絶対に嫌だからね」
 ヒュン!
 パシッ!
「いたいっ!わ、わかりましたぁぁぁ・・・」

 お姉さまには乗馬鞭でお尻をビシバシぶたれ、シーナさまには四つん這いのお腹を下から両手でグイグイ押され、の責め苦がつづくうちに、私の排泄欲がみるみる切迫してきました。
 両乳首を噛む洗濯バサミの痛みも、お姉さまの鞭がくれるお尻のヒリヒリも霞んでしまうほどお腹が痛くなり、一刻も早くお外に開放してあげたくてたまりません。

「はぁ、はぁ、ぁ、あのぅ、そろそろ、はぁ、はぁ、そろそろ、限界、み、みたいですぅ、はぁ、はぁ・・・」
 息を荒くしていないと、がまんが効かなくなってしまいそうで、大きく息を吸っては吐きをくりかえしつつ、切れ切れにおふたりに訴えかけました。
「はぁ、はぁ、もう、もう、ほんとうにぃもう・・・」
 全身は熱いのに寒気を感じ、四つん這いの全身がプルプル震え始めました。
 鏡の中で、乳首にぶらさがった洗濯バサミも小刻みにフルフル震えています

「あら、いよいよなの?あたし顔フェチだから、その瞬間に直子がどんな顔になるのか、じっくり見せてもらわなくちゃ」
 お姉さまの鞭が止まり、私の傍らへ近づいてくるようです。
「だったらわたしは、その歴史的瞬間をお尻のほうから、カメラに収めさせてもらおうっと」
 シーナさまは、ハンディカメラを片手に、私のお尻側へと移動されました。

「さあ直子、しっかり見ていてあげるわよ。直子の恥ずかしい排泄の、その瞬間の顔」
 四つん這いの私の目の前にしゃがみ込んだお姉さまが、真正面から私を見つめてきました。
「はぁ、はぁ、ああんっ、お、お姉さまぁ・・・」

 お姉さまと至近距離で見つめ合い、お姉さまの肉声を間近でお聞きした瞬間、強烈な羞恥心が私の胸に湧き上がってきました。

 やっぱりこんな恥ずかし過ぎる姿、愛するお姉さまにお見せ出来ない、したくない。
 私の汚いものなんて、見ていただきたくない。
 排泄行為の、浅ましい姿なんて・・・

「はぁ、はぁ、お姉さま・・・やっぱり、やっぱり見ないでくださいぃ、はぁ、はぁ・・・」
「わ、私、はぁ、はぁ、お見せしたくないですぅ、はぁ、はぁ、大好きな、大好きなお姉さまに、はぁ、はぁ、こ、こんなすがた・・・」
 感情が昂ぶり、目尻に涙が溜まるのが分かりました。
「どうか、はぁ、はぁ、どうか、見ないでくださいぃ」

「あらあら、涙なんか浮かべちゃって、あたしに視られるのが、そんなに泣くほど嬉しいの?」
 私の渾身のお願いをはぐらかすみたいに、私から目をそらさずにクスクス笑うお姉さま。
「今のそのぐしゃぐしゃな顔も、かなりそそるわよ?色っぽくってゾクゾクしちゃう」
 後から思えば、そのときのお姉さまの瞳は、完全にエスの人のそれで、私の困惑さえも愉しんでいたのでしょう。

 そうこうしているうちにも、お腹の限界は刻々と迫り、もはや一刻の猶予も許されない状態となっていました。
「はぁ、はぁ、もう、もうだめです、もう出ちゃいますぅ。だから、はぁ、はぁ、お姉さま、だから、だから見ないで・・・」
「いいのよ、出しちゃいなさい。わたしはそれで、直子を嫌いになったりしないから」
 小さな子供を諭すような、お姉さまのおやさしいお言葉。
 つづけて不意に、お姉さまのお顔が近づいてきて、はぁはぁ喘いでいる私の唇を、ご自分の舌でペロッと舐めてくださいました。
「あんっ!」
 一瞬気が緩んだ私を、せっぱつまった便意は見逃してくれませんでした。

「あうぅぅ、ごめんなさいぃぃぃぃーーっ!」
 絶望的な破裂音をかき消すように私の絶叫が響き、お尻の穴から水流が勢い良くほとばしりました。
「見ないでー、見ないでーーっ、許してーーっ!」
 泣き喚く私の意志に反して、肛門からの放水は止まることなく、バスルームにしばらく水音を撒き散らしました。
「いやー、いやー、だめぇー、見ないでーーーっ」
 放出が始まった途端、上半身を支えていた両腕が崩れ落ち、床のタイルに額を擦り付けるようにつっぷしていました。
 水流が止まった後も、そのままの姿勢で、見ないで、ごめんなさい、ばかりつぶやく私。
 心が混乱しきって、何も考えられなくなっていました。

「いい絵が撮れたわよ」
 シーナさまのお声が近づいてきました。
「直子さんがガクンと崩れたときに、噴水がゆらりと舞って、より高く吹き上げたのが見物だったわね。水も濁っていなかったし、余計なものも出なかったし、芸術的でさえあったわ。あら?どうしちゃったの?」
「なんだかかなりショックだったみたいです。出す寸前は、あたしに、見ないで、ばっかり言っていたし」
「ふーん。直子さん、意外にナイーブなところもあるのね。いいわ。わたしに任せて」

 不意に、バストを圧迫していたロープが緩みました。
「ほら、直子さん、終わったわよ。顔を上げなさい」
 シーナさまのお言葉と共に、人肌くらいのやさしいシャワーが肌を濡らしてきました。
「最初にしては上出来だったわ。エミリーも、ますます直子さんのこと好きになっちゃったって」
 シャワーのお湯で、いくらか気分が落ち着き、恐る恐る顔を上げました。
 シーナさまもお姉さまもしゃがみ込んで、目におやさしげな笑みをたたえて私を見つめていました。
 シーナさまが、その笑顔のまま私の顔を覗き込み、落ち着いたお声でおっしゃいました。

「ねえ、思い出してみて。さっきは動転して気がつかなかったかもしれないけれど、がまんにがまんを重ねて、とうとうがまんしきれなくなって放出した瞬間のこと」
「凄まじい羞恥心や背徳感、喩えようの無い屈辱感や被虐感、そういうのがごちゃ混ぜになって、直子さんは、今までに経験したことの無い性的な高揚と、圧倒的な開放感を味わったはずよ」
「浣腸プレイの醍醐味はそこにあるのだし、直子さんには、それが感じ取れるはずなの。なぜなら直子さんは正真正銘のマゾだから」
「ちょっとそこで仰向けになってごらんなさい」

 シャワーを止めたシーナさまが手伝ってくださり、棒枷の両足をひっくり返して、仰向けM字開脚になりました。
 緩んだロープはスルスルッと素肌から離れ、胸元にクッキリ食い込んだ縄の痕がありました。
 洗濯バサミはふたつとも、まだ乳首に噛み付いています。

「上半身を起こして、自分のオマンコ、見てごらんなさい」
 催眠術にかかったかのように、シーナさまのお言葉に従順に従う私。
 視線を下に向けました。
「ほらね。グショグショのヌルヌル。右手を伸ばしてさわってごらん?」
 恐る恐る、右手を股間に伸ばします。
 粘膜に触れる前から、そこが大きな熱をもっているのがわかるほど。
「熱くなっているでしょう?それに溢れるほどの愛液。直子さんがさっき、浣腸プレイをしたせいなのよ」
「早く満足したい、っておねだりしているのよ、オマンコが。慰めてあげなさい。がんばったご褒美なのだから」

 そのお言葉を聞いて顔を上げ、お姉さまのお姿を探しました。
 シーナさまのすぐ横にいたお姉さまと視線が合いました。
 コクンとうなずくお姉さま。
 つづいてシーナさまとも合わせます。
 ニッコリ微笑むシーナさま。

 それを合図に私は、ワレメの手前で止めていた右手を、ベッタリ股間に貼りつかせました。
 熱い。
 同時に左手は乳房へ。
 こっちも負けず劣らず熱い。

 それからの私は、気がヘンになったかのように、自分のからだを両手で貪りました。
 おっぱいを、乳首を、ラビアを、粘膜を、クリトリスを。
「お姉さま、シーナさま、見て、見て、見てください。ヘンタイ直子がオナニーする姿を、恥ずかしい姿を見てください・・・」
 濡れたタイルの上で、そんな言葉を何度も何度も喘ぎながらくりかえし、おふたりの目の前で何度も何度も何度もイきました。


就職祝いは柘榴石 11

2014年11月30日

就職祝いは柘榴石 10

「直子さんの場合はね、最低限ここを縛っておけば、それだけで何倍も感じやすくなっちゃうのよ」
 シーナさまが手馴れたご様子で私の胸元に、二つ折りにした麻縄をあてがいました。

「まずは、バストの膨らみ始めのところらへんでひとまわりさせて、それからロープの折り返しにもう片方の端を通すでしょ」
「そしたら、折り返し部分を背中にまわして、ギュッと絞るの」
「はぁうっ!」
 麻縄が肌に食い込んでくる、その痺れるような感覚に、思わず歓喜の声が出てしまいます。

「それから今度は、アンダーのほうへロープをまわして・・・」
 シーナさまの麻縄が、私の下乳に潜り込みます。
「あふぅん!」
「このときね、上下のロープで乳房を挟んで絞り出すように、きつめに縛るのがコツね」
「この子のおっぱいってほら、ちょっぴり垂れ気味じゃない?だからアンダーの裏側に潜り込ませるようにロープを入れて、上下に挟むように絞り出すの」
 余った麻縄が手際良く背中で結ばれます。

「ほら、見てよ、この乳首」
 シーナさまがニヤニヤ笑いで、私の乳首を指さします。
「ただでさえ存在感あるのが直子さんの乳首なのだけれど、こうすると、ロープで皮膚が引き攣って突っ張りながら背伸びしちゃって、痛々しいくらい尖っちゃっているでしょう?」
「思わず指で弾きたくなっちゃうわよね?この硬そうなもの。こうなっちゃったらもう、すっごくビンカンだから、息を吹きかけただけでも悶えちゃうはずよ、この子は」

 お姉さまが、私の恥ずかしいほど尖立したその部分を、食い入るように見つめてきます。
 そしておもむろに、右のそれに、フーッと息を吹きかけました
「ぁふぅん!」
 ゾクゾクッと快感が背筋を駆け上がり、同時にお腹がグルグルッと鳴りました。
 あわてて下腹を引き締めます。
「ほらね?」
 シーナさまがしたり顔で、愉快そうに笑いました。

「本当は、後ろ手にさせて二の腕ごと縛ったほうが捗るのだけれど、直子さんには、これからまだまだやってもらうことがあるから。まだ腕は自由にしておいてあげる」
 シーナさまがお姉さまに、残った麻縄を手渡しました。

「おっぱいだけでも、縛りかたはいろいろあるの。ブラみたく八の字にしたり、首から十字にかけたりね」
「独特の結びかたがたくさんあるから、それを先に覚えるといいわ。実生活でも活用できるし。あ、でも、エミリーは服飾だから、その辺は得意分野かもね」
「まあ、直子さんなら、自分でもいろいろ縛ること出来るひとだし、プレイのためだけだったら、エミリーが無理してロープにこだわる必要も無い気もするかな」
 お姉さまは、うんうんうなずいて、シーナさまのお話に真剣に聞き入っています。

「直子さんて、縛られかた云々よりも、何かしら拘束されること、が最優先ぽいのよね。だから手錠とか首輪だけでも、されただけであっさり乱れちゃうの」
「ただ、やっぱりきっちり縛ってあげると、本当にいい顔するわよ、この子。うっとりした顔して恍惚状態。縄酔いの気持ち良さ、誰かさんたちに教え込まされちゃったから」
「だから、菱縄縛りとか亀甲縛りくらいは、覚えて損は無いと思うわ」
 ずっとお姉さまに語りかけていたシーナさまが、チラッと私を見ました。

「そう言えば直子さん?あなた以前、ミーチャンからセルフボンデージレッスンのDVD、もらったのよね?」
「あ、はい・・・」
 まだ地元にいる頃、自縛の練習用にと、やよい先生がミイコさまをモデルにしてわざわざ作ってくださったものです。
 その映像で私もずいぶん、ロープの扱いかたが上手になりました。
「それ、あとでエミリーに貸してあげて。あれはとてもわかりやすいもの。エミリーならすぐ出来るようになるはずよ」
「ぁ、は、はい・・・」

 上ずった声でそうお答えしたものの、私はそれどころではありませんでした。
 緊急事態が差し迫っていました。
 お腹の中がひっきりなしにグルグル蠢き、中のモヤモヤしたものたちが、お外へ出たいと、しきりに私に訴えかけていました。
 棒枷で広げられているためにピッタリとは閉じられない膝立ちの両腿を出来る限り内股にして、お尻の穴を必死にすぼめてがまんしています。

「あ、あのぅ、今、わ、私、すぅごく、お腹が、痛いのですけれど・・・」
 お話がひと段落して、黙って私を見下ろしているおふたりに上目遣いで、すがるようにお願いします。
「もう、で、出ちゃいそうなんですぅ・・・」

 これから私の、もっとも動物的でお下品な姿を、おふたりに至近距離でご披露しなければならない・・・
 屈辱の瞬間を目前にして覚悟を決めると、恥辱と被虐がないまぜになった不思議な陶酔がありました。
 
「あら、もうとっくに5分、過ぎていたわね」
 腕時計をチラッと見たシーナさまが、その場にしゃがみ、私に目線を合わせてきました。
「もうそろそろ限界?」
「はい・・・」
「そう。だったら早く、そこに四つん這いになりなさい」

 ついに来た・・・
 絶望的なお言葉に、私はゆっくり上半身を前方へ倒し始めます。
「四つん這いになって、犬みたく大急ぎにトイレへ駆け込んで、思う存分出してきなさい」
 ???
 一瞬、お言葉の意味することがわかりませんでした。

「えっ!?えっと・・・」
「ほら、早く行かなくていいの?ここで漏らしちゃ嫌よ」
「い、いいんですか?」
「だって直子さん、からだ健康そうだし、今だったらきっと、それなりのしっかりしたものがたくさん出てくるでしょう?」
「そんなのをここにぶちまけられても お掃除だの臭いだの後始末だの、めんどくさいことになりそうだもの」
「とりあえずスッキリ出して、出し終わったらまたここに戻ってくること。いい?」
「は、はい・・・」
 イタズラが成功したときの子供のようなお顔で、シーナさまがニッと笑いました。

「エミリーは、ついていきたっかたらついていってもいいわよ」
 シーナさまに促され、私同様キョトンとしたお顔だったお姉さまが、ハッと我に返りました。
「あっ、え?あたしもいいですよ。ほら、直子、さっさと行ってきなさい。間に合わなくなるわよ?」
 お姉さまのお言葉が合図だったかのように、私のお腹の中が再び盛大に騒ぎ始め、お返事もそこそこ、バスルームの隣にあるおトイレへ四つん這いで駆け込みました。

 危機一髪!
 便座に腰を下ろすのと同時でした。
 シーナさまの予想どおり、かなりしっかりとしたものが私の予想以上に出て行きました。
 一通りの行為を終えて洗浄した後も、しばし呆然と佇んでしまいました。
 お下品な姿をおふたりに視られてしまうことを回避した安堵と、果たせなかった陶酔へのちょっぴりな後悔。
 でも、トイレ内に漂う、自分が今したことの残り香に気づき、そんな後悔はすぐかき消されました。

 気が抜けたような四つん這いでバスルームに戻ると、お姉さまとシーナさまは、バスタブの縁に腰掛けて何やら楽しげに談笑中でした。

「あ、おかえりー。どう?スッキリした?」
 私に気がついたシーナさまが明るくお声をかけてくださいます。
「はい、おかげさまで・・・」
 四つん這いのままでいるべきか、膝立ちの服従ポーズになるべきか迷いながら、四つん這いでお答えしました。

「すごい音してたわね?ここまで聞こえたわよ?」
 イジワル顔なシーナさまの蔑んだお声。
「ご、ごめんなさいぃ」
 恥辱感が一気にぶりかえし、四つん這いの身をさらにちぢこませて土下座のような私。
 尖った乳首が濡れたタイルを擦りました。

「さてと。さあ、ここからが本番よ」
 シーナさまが立ち上がり、私の首輪のリードをお姉さまに握らせました。
「直子さんは、四つん這いで待機していてね。あ、お尻はあっちの排水口に向けて」
 シャワーをぬるま湯にして床を流しているシーナさまのご命令で、私は方向転換、入口に顔を向け、お尻を奥に向けました。
 一体、これから何をされるつもりなのだろう?

 シャワーを止めたシーナさま。
 バスルーム内がジンワリと湿気を帯びて、ほの温かくなっています。
 大きな鏡も綺麗に洗い流され、私たちの姿がクッキリ映っています。
 シーナさまがタオルに包まれた何かを持って、私の傍らに立っているお姉さまに近づいてきました。

「今日からこれが、エミリーと直子さん専用の相棒ね」
 シーナさまがタオルを開き、目の前に現われたのは、ガラス製のお浣腸器でした。
「正真正銘の新品で煮沸消毒も済ませてあるから安心して。実物見ると、けっこう禍々しいでしょ?これも、わたしからふたりへのプレゼント」
 シーナさまが笑いながら、私の鼻先にそれを突き出してきました。

 以前、ご近所のお薬屋さんにお浣腸薬を買いにいったとき、そのお店のおばさまに見せていただいたことがありました。
 でも目の前にあるのは、それより少し小さい感じ。

「実物って、ずいぶん大きいんですね?」
 傍で覗き込まれていたお姉さまが、驚いたようにつぶやかれました。

「そう?これは標準的な50ミリリットルサイズ。大きいのだと100とか200とか。逆に小さいのだと30ミリのもあるわね」
「えっちビデオとかでは、見た目優先で大きなの使っているけれど、100ミリのは女性の手だと扱いづらいのよ、大き過ぎて」
「逆に30ミリだと小さくて、お医者さんごっこしているみたいだし」
「このくらいなら、見た目的にも、SMプレイで浣腸している、って思えるでしょ?」
 最後はクスクス笑いまじりで、シーナさまがご説明してくださいました。

「あのぅ、私、また、お浣腸されちゃうのですか?」
 たまらずお口を挟んじゃう私。
「そうよ。まさかわたしやエミリーがするわけないじゃない。今日のテーマは、あなたのアナル開発なのよ?」
 シーナさまの心底バカにしたようなツッコミ。
「さっきのは、プレイのための事前準備。これからするのは、直子さんにみじめな気持ちを味わってもらうためのSMプレイよ」
 シーナさまのあっけらかんとしたイジメ宣言に、マゾ心がズキンと疼きました。

「大丈夫。今度はぬるま湯しか入れないから。さっきのでたぶん、あらかた出ちゃっているはずだから、今度はもう水しか出ないはずよ」
「ただまあ、音とか臭いとかがどうなるかは、何とも言えないけれどね。でも、そういうのがいいのでしょう?直子さんはヘンタイドマゾなのだから」
 シーナさまのイジワルなご説明で、私の被虐メーターがグングン上昇していきます。

 ぬるま湯浣腸。
 ガラスのお浣腸器を見せてくれた薬屋さんのおばさまが、今度来たときやってあげる、とおっしゃってくれて、私も行く気満々だったのですが、いつしか機会を逸し、それきりになっていました。

 これから私は、それを体験するみたいです。
 それも、大好きなお姉さまの目の前で。
 顔を上げてお姉さまのほうを見ると、お姉さまと目が合い、意味ありげなウインクをくださいました。
 その瞳は、好奇心で爛々と輝いていらっしゃいました。

「考えてみたら、直子さんのエネマプレイを目の当たりにするのって、わたし、初めてなのよね」
 シーナさまがお姉さまに語りかけました。
「ご存知の通り、アナル開発禁止令が出ていたから。百合さまから」
「ね?わたし、ほとんど直子さんのお尻は、虐めなかったわよね?」
 今度は私に向けられたご質問。
「あ、えっと、そうですね。少なくともお浣腸姿は、お見せしていないと思います・・・」

「わたしは、直子さんがときどきひとりでこっそり、浣腸愉しんでいるのは知っていたわよ。だって、使用済み容器がバスルームに転がっていたことがあったもの」
 え!?私、そんな無用心なこと、していたんだ・・・
 みるみるからだが熱くなり、火照った頬でうつむきます。

「だけど百合さまには、初お泊りの日、ヴァージン破られた翌朝に浣腸されて、タンポンまで突っ込まれたのよね?高校二年で」
 シーナさまの悪意に満ちたからかい口調に、私は、お姉さまに申し訳なくて、消え入りたい気分で身をちぢこませました。
「ね?この子、素養があるのよ。これからはおふたりで、せいぜい存分に愉しむがいいわ」
 シーナさまのお言葉がお姉さまへ向き、お姉さまがフクザツそうなお顔をされました。

「だけど最後の最後に、直子さんのエネマプレイに立ち会えて、本当に良かったわ」
 少し間を置いて、しみじみとした口調でそうおっしゃってから、シーナさまがお姉さまをじっと見つめました。

「直子さんのお相手が、エミリー、あなたで本当に良かった。もしそうじゃなくて、わたしの知らない人だったら、わたし、いつか直子さんを拉致して、今までがまんしていたプレイのあれこれ、やっちゃうつもりだったから」
 最後のほうは冗談ぽい感じでしたが、しみじみとした雰囲気のままおっしゃいました。
「これからも仲良くしましょうね。いろいろと」
 一転してイタズラっぽく笑うシーナさまに、お姉さまも戸惑いつつもニッコリ返しました。

「さ、それじゃあ始めましょう。エミリーはこれ持って」
 シーナさまがお姉さまにガラスの浣腸器を渡しました。
「直子さんは、お尻突き出して、迎え入れる準備をしていてね」
 ご命令通り、四つん這いの腕を折りたたみ、腕を床に着けて上体を下げ、代わりにお尻を高く突き上げます。
 緊縛されたおっぱいがタイルの床に、べったり押し付けられました。

「それで、これを吸い上げて」
 床に這い蹲るような形の私の顔の前に、水らしき液体がなみなみと注がれたガラス製のボウルが置かれました。
「これはあらかじめ作っておいたぬるま湯。害はまったく無いから安心して。先端を浸して、そのピストンを上に引き上げて」
 私の見ている前で、シリンダーにぬるま湯がグングン吸い上げられていきます。
 これが全部、私のお腹の中へ入っていくんだ・・・
「最初だから、100ミリで様子を見ましょう。つまり、この浣腸器2回分」
 えーっ、2回も!?

「よくビデオや小説で2リットルとか3リットルとか言うけれど、そんなの危ないからね。腸は水を吸収するから、下手すると水中毒とかあるから」
「要は、排泄する恥ずかしい姿を愉しむためのプレイなのだから、がまん出来ないギリギリ分量だけ入れればいいの。うちのメス犬は、1リットルくらい入るけれどね」
 
 シーナさまが楽しそうに解説してくださいますが、私の目はお姉さまの持つガラス浣腸器に釘付けで、ドキドキが止まりません。
 あの冷たそうなガラスの先端が私のお尻の穴に突き挿さり、ピストンで無理矢理ぬるま湯を注入されて、それから・・・
 麻縄で絞り出された両乳首が痛いほど尖って、両腿の裂け目の粘膜がヌルヌル疼いています。

「水が入ると、けっこう重いですね?」
 ぬるま湯を注入し終えたガラス浣腸器を危なっかしく両手で持ったお姉さまが、シーナさまに尋ねました。
「でしょ?女性が扱うならそのくらいが限度よね?100ミリだと、水がその倍だもの」
「それに、このくらいならひとり遊びでも重宝するはずよ。その先っちょにホースを付ければ、ひとりでも不自由なく注入できるはず。専用ホースも一緒に持ってきてあげたから」

「これで直子さんも、気軽にひとりエネマプレイが愉しめるわね?」
 シーナさまがからかうように私の顔を覗き込みました。
「いいえ。そうはさせません」
 
 突然、お姉さまのきっぱりとした冷たいお声が、私の頭上から降ってきました。
 見上げると、お姉さまが真剣なお顔で、まっすぐに私を見つめていました。
 そして、その視線がシーナさまへと移りました。

「あたしは今後、直子の性生活の一切をあたしがコントロールしようと思っています。だってこの子、放っておくとどんどんエスカレートしそうだから」
「オナニーもあたしに断らずにするのは禁止って、言い渡してあります。これからは一緒にいる機会も増えると思うので、直子の性欲は、あたしが満足させてあげるつもりです」
「でも、やっぱり手に余ることがあったらまたご相談させていただきたいと思っていますので、そのときはシーナさんも、協力してくださいね?」

 右手に持ったガラス浣腸器を肩の高さくらいまで上げてニッコリ笑いかけるお姉さまに、今度はシーナさまがフクザツそうなお顔をされていました。


就職祝いは柘榴石 11


2014年11月24日

彼女がくれた片想い 01

 彼女に興味を持ったきっかけは学校のトイレでの、とある出来事だった。

 俗に五月病と呼ばれる症状が発症しやすいとされる若葉の頃。
 昼休みの後、次の講義まで丸々一限分時間が空いていた私は次の講義が行われる教室のフロアまで移動した。
 そして、その時間帯に講義が行われていない空き教室のひとつに忍び込み、読書をしていた。
 
 小さめなその教室内にも廊下にも人影はまるで無く、しんと静まり返って快適だった。
 しばらく読書に集中し、あと20分くらいで次の講義という頃、微かな尿意を覚え、講義前にトイレをすませてしまうことにした。

 開け放したままの出入口ドアに一番近い席に座っていた私は読みかけの本に栞をはさみ立ち上がった。
 愛用のバッグを肩に提げ、引いた椅子は戻さずに廊下へ出た。
 用を足したらここに戻り、もう少しだけ読書をするつもりだった。
 
 使用されていない教室は出入口ドアを開け放したままにしておくことが学校の規則となっているのでドアもそのまま。
 そのドアのほぼ真向かいがトイレの出入口ドアだった。

 女子トイレ、女子大なので校内のほとんどのトイレが女子トイレなのだが、には誰の姿も無く、5つ並んだ個室のうち一番奥の個室だけドアが閉ざされていた。
 使用中の個室から一番離れた出入口ドアに最も近い個室に籠もり、便座に腰を下ろした。
 
 微かな尿意はなかなか実体化せず、なかなか出てこない。
 だけど次の講義終了まで持ち越すのは気持ち悪いので気長に待つことにした。
 さっきまで読んでいた本があと数ページで終わることを思い出し、下着を下ろしたままその本を広げて読み始めた。

 そのとき…

「んぅふぅっ…」
 
 誰かが入っているのであろう一番奥の個室の方から、くぐもった、押し殺したような声が微かに聞こえた気がした。
 きっと難産なのだろう、お疲れさま。
 たいして気にも留めず、再び活字に視線を落とした、

 すると再び…

「ぁふうぅ…」
 
 さっきより明確に、せつなげな吐息が聞こえてきた。

「んふぅぅぅっ…」

 排泄行為に伴うそれとは明らかに異なる、ある種の息遣い。
 この手の鼻にかかった呻き声には心当たりがふたつある。
 意図を持って押し殺しているにも関わらず喉の奥から漏れてしまう、妙に艶っぽい扇情的な吐息。

 ひとつは、何かしら悲しいことでもあって個室で人知れず涙に暮れている、その押し殺した嗚咽。
 もうひとつは、こっそりと何か性的な行為で高揚している、そのひそやかな愉悦。

 そこまで考えた時、自分の排尿が始まった。
 静まり返った個室にチョロチョロという水音が響き、案の定、数秒で出尽くした。
 洗浄して下着を上げ、いざ流そうとした時、ふと考えた。
 
 ここで勢い良く水を流せば、奥にこもっている彼女は数十秒前に漏らした呻き声を誰かに聞かれたことに気づくだろう。
 そしてそれは彼女にとって、とても恥ずかしいことなのではないかと。

 だがすぐにそんな気遣いは何の意味も無いという結論に達した。
 私には奥の個室の彼女がその中で泣いていようが、あるいは自分を慰めていようがまったく関係の無いこと。
 彼女だって私がさっさと出て行ってしまえば安心することだろう。
 私がすべきことは何も無かったようにここを出て空き教室に戻り、あと数ページの本を読み終えてしまうことだ。

 普通に大きな音をたてて水を流し、普通に個室のドアを開けた。
 あれから一度も声は聞こえてこない。
 手を洗いながら奥の個室を見ると、相変わらずぴったりと閉ざされたままだった。

 廊下へと出る時、私と入れ違いにひとりの学生がトイレに駆け込んでいった。
 可哀相に奥の個室の彼女、誰にも邪魔されずゆっくりひとりになりたくて個室に籠ったのだろうに。
 切羽詰っているふうな学生の後姿を見送ってそんなふうに思った時、ふと小さな好奇心が湧き出てきた。

 スマホを見ると、次の講義まであと約10分。
 そろそろ現在進行形の講義終了チャイムが鳴る頃だ。
 
 そのあいだに奥の個室の彼女が出てくるか、待ってみようか。
 あんな艶っぽい呻き声を出す彼女がどんな顔をしているのか、見てみるのも面白いかも。
 行かなければならない教室はこのフロアの一番端で、ものの数秒でたどり着ける。

 ひとまず空き教室に戻り、元いた席に座って本を開いた。
 この席からなら少し首を右斜め後ろに捻って窺えば、背後にある開け放しの出入口ドアからトイレ出入口ドアの閉開は確認出来る。
 なんだか探偵みたいだな、なんて考えた時、講義終了のチャイムが鳴った。

 休み時間となり、廊下が騒がしくなっていた。
 教室移動の人たちが廊下や階段を行き来し、いくつかの教室を出たり入ったり。
 高めなトーンの嬌声がザワザワとフロア内を満たしている。
 幸いこの小さめな教室は次の講義でも使われないらしく、誰も入ってこない。

 読書しているフリをしながらトイレの入口ドアを監視しつづけた。
 その間、私と入れ違いになった学生も含めて5人の学生がトイレに入り、それぞれ数分の間を置いて全員出てきていた。
 服装を全部憶えて確認していたので間違いは無い。
 
 奥の個室はまだ閉じたままなのだろうか。
 そうであるなら彼女がいつ個室に入ったのかは知らないが、少なくとも20分近くは奥の個室に籠っていることになる。

 講義の時間が迫り、どうしようか迷った。
 すでに廊下に人はまばら、隣の教室からは女子集団独特の華やかながらやや品に欠ける喧騒が聞こえていた。
 
 奥の個室の彼女は次の講義も出ないつもりなのだろうか。
 考えていたら講義開始のチャイムが鳴り始めた。
 今なら廊下を走ればぎりぎり間に合う。
 どうしよう…

 結局私はチャイムが鳴り終わり、フロアに再び静寂が戻った後もトイレの出入口ドアを見つめていた。
 単位集めの滑り止めで取った選択科目だし、ま、いいか、と自分を納得させた。
 それよりも20分以上トイレにこもったままの彼女のほうが気にかかった。
 ひょっとして急な病気か何かで苦しんでいて動けないのではないだろうか。
 そんな嫌な予感も生まれていた。

 私が受けるはずの講義が始まってから早くも5分近く経った。
 奥の個室の彼女は一体何をしているのだろう。
 もう一度トイレに入って思い切って声をかけてみようか。
 
 もはや完全にからだをトイレの出入口ドアに向けて睨みつつ逡巡していると、そのドアがゆっくりと内側に動き始めた。
 あわてて背を向け、読書をしているフリをする。

 うつむきながらも首を少し右に曲げて横目で観察しているとトイレのドアはじれったくなるようなスピードで内側に開いていった。
 開き切る寸前、唐突にドアの陰からマンガなら絶対に、ひょい、という擬音が添えられる感じで首から上の小さな顔が空間に現われ、その顔が不安そうに廊下の左右をきょろきょろ見回した。
 
 それはまるで安っぽいテレビドラマにありがちな、不審者、の行動そのもので、私は思わず苦笑いしてしまった。
 同時に、その顔を見て驚いた。
 その不審者は廊下に人影ひとつも無いことに安心したようで、素早く廊下に躍り出た。

 シンプルな茶系のブレザーにえんじ色の膝丈チェックスカート。
 白いフリルブラウスと三つ折ソックス、そして焦げ茶のタッセルローファー。
 この、いまだに女子高生のようなファッションに身を包んだふんわりミディヘアーの彼女に私は見覚えがあった。

 廊下に出てからの彼女の行動は素早かった。
 空き教室の開けっ放しのドアから私の背中が見えたのだろう、一瞬ギョッとしたように立ち止まってからガクンとうつむいて、ささっと階段の方向へ消えた。
 
 彼女が視界から消えると私も素早く立ち上がり、教室の出入口ドアの陰から彼女の姿を目で追った。
 彼女の背中は無人の廊下を小走りに校舎突き当たりの階段方向へと小さくなり、そのまま右に折れて階段を下りていく。
 そこまで見送ってから廊下に出て、再びトイレの出入口ドアを開いた。

 5つある個室はすべてドアが内側へと開いている。
 すなわち、ここには私ひとりきり。
 まっすぐに一番奥の個室へ向かう。

 別におかしなところは無い。
 床にも便器にも汚れは無く、いたって普通。
 ここで何が行われていたのかを教えてくれるような形跡は何も残っていなかった。
 ただ、微かにフローラル系パフュームの残り香が漂っているような気がした。

 講義をひとつ無駄にしてしまった自分の行動に苦笑しながら空き教室に戻り、最後の数ページとなった小説に没頭することにした。


彼女がくれた片想い 02