2010年10月9日

トラウマと私 03

「あっ。直子さん、おかえりなさーい」
ウッドデッキのドアを開けてお庭に出てきたのは、篠原さん。
今年の四月から週二ペースで我が家のお手伝いをしてくださっている女性です。

篠原さんは、父の親戚筋のかたで、我が家から歩いて15分くらいのマンションに住んでいます。
去年旦那様を交通事故で亡くしてしまい、今は5歳になる娘の智子ちゃんと二人暮らしの28歳。
パートを探していた篠原さんに父が相談にのってあげて、母が一人でこの広いお家をお掃除するのも大変だから、ハウスキーパーとして来てもらうことにしたそうです。
すごくたおやかな笑顔のおしとやかで華奢な感じの、これまた美人さんです。
我が家は、基本的に自分の部屋は自分でお掃除するルールですから、それ以外のリビングとかダイニング、廊下や階段などと、父母の寝室を除く各空部屋のお掃除やお庭のお手入れ、今日みたいな来客時のお世話をしてもらっています。

そんな篠原さんも、白いレオタードみたいなワンピースの水着の上に淡いピンクのレースのエプロンをしています。
「奥様が私も水着で参加なさいって・・・すごく恥ずかしいんですけど・・・」
頬を軽く赤らめて、篠原さんが照れています。
エプロンの紐で縛られている水着のウエストがすごく細い。

「あー。直子おねーちゃん、おかえりなさいー」
篠原さんの後ろから飛び出してきて、私の脚にじゃれついてくるのは、篠原さんの娘さんの智子ちゃんです。
我が家に働きにくるときは、いつも連れて来てくれます。
篠原さんが働いている間は、母か、私が家にいるときは私が、遊んであげています。

「ねえー、おねーちゃん、早くプールふくらましてー」
ともちゃんも真っ赤なセパレートのちっちゃな水着を着ています。
両手で小さな足踏み式の空気入れを抱えていました。
「今、子供用のビニールプールを膨らませようとしていたんですよ」
篠原さんが説明してくれます。

「よーし。じゃあおねーちゃん、お部屋でお着替えしてくるから、その後で膨らませてあげる」
「わーい。とも子もおねーちゃんのお部屋、行くー」
「こらこら・・・」
ともちゃんを諌めようとする篠原さんに笑いかけながら、
「よーし。じゃあ一緒に行こうかー」
言いながら、ともちゃんの小さなからだを抱き上げました。
「ごめんなさいねえ。智子、直子おねーさんを困らせたら、ダメよ」
「はーい」
兄弟姉妹のいない私は、ともちゃんのこと、大好きなんです。

篠原さんが深々と私にお辞儀してくれました。
エプロンの隙間から見えた水着の胸元が大きく開いていて、その谷間が予想外にふくよかで、ドッキリしました。

階段を上がって私の部屋に入ると、ともちゃんはいつものようにベッドにまっしぐらに駆けていって上に乗り、ぴょんぴょん飛び跳ね始めました。

「今日はいいお天気でよかったねー」
「そうだねー」
「おばちゃんたち、みんな裸ん坊みたいだったねー」
「そうだねー」
「早くプールはいりたいねー」
「そうだねー」
「今日は楽しいねー」
「そうだねー」

ともちゃんの無邪気な問いかけに空返事しながら私は、まず髪を頭の上に大きなおだんごにしてまとめました。
それから、Tシャツとショートパンツを脱ぎます。
「あれー。おねーちゃんもう水着、着てるー」
「これはね、さっき市民プールで泳いできたやつだから、お洗濯しなきゃいけないの」
確かに、このままお庭に出て行ってもいいのですが、さっきの母たちのセクシーな姿に刺激されてしまい、なんとなく、バレエのレオタードでお庭に出たいと思っていました。
「えー。もうプールにはいっちゃったのー。ずるいー」
「ごめんねー。今度はともちゃんと入ろうねー」
水遊びをするとなると白のレオタはマズイかな、透けちゃいそうだし。

私は、スクール水着の両肩紐を腕から抜いて、ゆっくり足元にずり下げていきました。
オナニーを覚えて、いろいろ妄想をするようになってから、誰かに見られながら全裸になるのは、このときが初めてのはず。
それがたとえ5歳の小さな女の子でも、めちゃくちゃ恥ずかしい気分です。
でも、裸を誰かに見られる、その恥ずかしさをすごく気持ちいいと感じてしまうのも事実でした。

私は、学校のプール授業の着替えのときでも、もちろん、まわりは女子だけなのですが、スカートを脱がずにショーツだけ下ろしてからとか、いろいろ工夫して、なるべく普段隠している肌を見せないように着替えをしていました。
中には、パッパと脱いで気にせず丸裸になって着替えている子もいました。
そういう子は、ぜんぜん恥ずかしがっていませんでした。
私もそうやってみたい気持ちは、すごくあるのですが、恥ずかしがらずに裸になることは、私には不可能でした。
そして、恥ずかしいのにワザとみんなの前でそれをやることは、私のヘンタイ性をみんなにバらしてしまうことと同じです。
それは絶対イヤでした。

「あー。おねーちゃん、裸ん坊さんになっちゃったー」
ともちゃんが無邪気に指さしてきます。
今の私には、ともちゃんぐらいの子に見てもらうのが、ちょうどいい刺激です。
「おねーちゃんの裸、どう?キレイ?」
私は、調子に乗って、ともちゃんの正面で腰に手をあてて、ちょっと気取ったポーズをとります。
「うん。きれーだよ。ママと同じくらいー」
ともちゃんは、私のおっぱいからアソコの薄い陰毛までをしげしげと見つめながら言ってくれました。
「ありがとー」
言いながら、やっぱり少しやりすぎたかな、と思い、急いでグリーンのレオタードを足から穿きました。
サポーターは着けませんでした。
下半身に大きな花柄模様のシフォンのラップスカートを巻いてから、
「はーい。準備完了。それじゃあお外へ行こう!」
私は、またともちゃんを抱き上げて、部屋を出ました。

お庭に出ると、すでに篠原さんが鉄の串に刺したお肉やお野菜を焼き始めていて、いい匂いが漂っていました。
「あら、なおちゃん。レオタ着てきたの?なかなかいい感じよ」
母が私をめざとくみつけて声をかけてきます。
ホットプレート2台を中心にして大きなテーブルが置かれて、それを囲むように、大きな日除けのパラソルとデッキチェアがいくつか並べられて、半裸の女性が4人、思い思いの格好でくつろいでいました。

空は、雲ひとつ無いライトブルーで、強い日差しが照りつけてきます。
ときどき、お庭の真ん中へんに置いてある園芸用のスプリンクラーから扇状にお水がピューーっと噴き出ています。

「なおちゃんは、バレエを習ってるの?」
聞いてきたのはミサコさんです。
「はい」
「それなら、後で何か一曲踊ってみせて、ね」
私とともちゃんに氷の入ったジュースのコップを渡しながら、色っぽい微笑を投げかけてきました。


トラウマと私 04

トラウマと私 02

夏休み中は、愛ちゃんたちとほぼ一日おきくらいに会っては、市民プールに泳ぎに行ったり、バレエ教室のある町まで電車で行って、繁華街のゲームセンターで遊んだり、誰かのお家でお泊り会をしたりして楽しく遊んでいました。

そして、本題に入る前にもう一つ、この年の夏休み中で鮮明に記憶に残っている出来事のこともお話しておきます。

その年の夏は、猛暑だったので、市民プールはいつも大混雑でした。
私の家は、市民プールから比較的近かったので、愛ちゃんたちと遊べないときは、一人でも頻繁に泳ぎに行っていました。
いつも更衣室が混んでいたので私は、スクール水着の上からゆったりめのTシャツとジーンズのショートパンツを穿いて自転車でプールに行って、帰りも濡れた水着をタオルで拭った上から、それらを着て帰ってくる、ということをしていました。

プールに行くのは、泳ぐのが好きだから、というのはもちろんですが、ときどきいる、ちょっと大胆な水着を着けている女の人をみつけるのも楽しみの一つでした。
市民プールですから、そんなにスゴイ水着を着けている人は来ませんが、高校生か大学生くらいのカレシと一緒な女の子や小さな子供連れの若い奥様たちの中には、何か勘違いしちゃってるんじゃないかな、と思うくらいの肌露出多めな水着を着けている人がたまにいました。

そういう人たちは、たいがいがほとんど泳がないで、プールサイドに寝そべったり、意味も無くプールのまわりをウロウロしたりして、気持ち良さそうにしていました。
市民プールでは、サンオイル禁止ですから、焼きにきているわけでもなさそう。
やっぱり、誰かに自分のセクシーな水着姿を見てもらいたいんでしょうか。
そして、プールに来ている、とくに若い男性たちや中年のおじさまたちは一様に、そんな大胆水着姿の彼女たちを、ことあるごとにチラチラニヤニヤと眺めているようでした。

私も大人になったら、あんな水着を着てみたいなあ、でもやっぱり恥ずかしいかなあ、なんて思いながら私も、そんな彼女たちを見つけるたびに、チラチラと目線で追ってえっちな妄想を楽しんでいました。

8月に入って2週目のある日。
朝から真夏日だったので、午前中早くに一人で市民プールに泳ぎに行って帰宅したお昼の12時少し前。
門を開けてお庭に入ると、裸の美女が4人、ウッドデッキでくつろいでいました。
「えっ!?」
私は一瞬、絶句してしまいました。

ソロソロと近づいていきながらよーく見ると、母と、同年齢くらいのご婦人方3人でした。
裸に見えたのは、皆さん、布面積の小さめなビキニを着用されているから。

「あら、なおちゃん。ちょうどいいところに帰ってきたわ。これからお庭でバーベキューするの。と言ってもホットプレートで、だけどね」
母が嬉しそうに私に寄ってきます。
母は、鮮やかな赤の布地小さめな大胆ビキニで、その豊満美麗なおっぱいを飾っています。
下半身は、ヒラヒラしたカラフルなパレオに隠れて見えません。

「こちら、ママのお友達の皆さん。ミサコさんには、会ったことあるわよね?」
「こんにちはー、なおちゃん。お邪魔してるわよー」
黒でラメみたいのがキラキラ光ってる、これまた布小さめなビキニで形の良い胸を隠した女性が挨拶してくれました。

そう言えば先月の初め頃、学校から帰ってきたら、この人と母がリビングでおしゃべりをしていて、ご挨拶したことを思い出しました。
その夜、母とミサコさんはずいぶんお酒を飲んだみたいで、泊まっていかれました。
母の大学時代の同級生だそうで、顔全体の作りが派手でお化粧もキッチリしていて、複雑にウェーブしたセミロングな髪が印象的なゴージャスな感じのキレイな人でした。
確かあのときはお名前、聞かなかったなあ。
今日のミサコさんは、つばの広い白い日除け帽子で、その印象的な髪型が隠れています。
とりあえず私はお辞儀しながら、
「こんにちはー」
と挨拶しました。

「こちらのお二人は、ママがフラのスクールでお知り合いになったかたたち。タチバナさんとオオヌキさん。」
タチバナさんとオオヌキさんは、母やミサコさんよりもっと若いみたいでした。
20代後半か30少し超えたくらい?

タチバナさんは、鮮やかなレモンイエローに小さく白い水玉が入った、母たちのよりもっと布部分が小さい水着を着けています。
おっぱいはどちらかというと控えめですが、それを幅が10センチ無いくらいの布を胸に巻いているだけみたいなデザインのストラップレスなビキニで隠しています。水着が今にも胸の隠すべき位置からずり落ちそうな感じで、あやういセクシーさです。
パレオも付けていなくて、ボトムは、腰骨フィットで極端に食い込んだTバック。
前は鋭角なV字、後ろはほぼ紐なので、お尻のお肉がほとんど見えています。
ボーイッシュなショートカットに大きな垂れ目のサングラスで、大きめな口の両端を上げて、ニッと笑いかけてくれました。

オオヌキさんのほうは、もっとスゴクて、ピンポイントに乳首とアソコを三角形に隠すだけ、みたいなスゴク小さな水着でした。
布部分以外は、透明なビニールの細い紐です。
オオヌキさんは、タチバナさんよりもおっぱいが大きいので、形の良い下乳が完全に露出しています。
加えて、その水着の色がベージュなので、遠くから見たらまるっきり裸に見えます。
髪は、漆黒で豊かなセミロングストレートを狭い額を露出して後ろにオールバックで結んでいます。
顔が小さくて目鼻立ちがクッキリしていて、まるでヨーロッパのアンティークドールみたくてすごく綺麗。
でも、4人の中ではオオヌキさんだけがなんだかすごく恥ずかしそうで、私を見てニコっと笑った後、うつむいてモジモジしていました。

「森下直子です。母がお世話になっています。今日はお越しいただいてありがとうございます。どうぞごゆっくり楽しんでいってください」
そんなお二人の姿を間近で見て、私は、なんだかドキマギしてしまい、上ずった声で早口にご挨拶してから、ペコリと頭を下げました。
4人全員、タイプは違うけれどみんな美人さんで、それぞれにキレイでセクシーなからだをしています。
私は、なぜだかドキドキしてきて、やがてどんどん嬉しくなってきました。

「ママの習い事って、フラダンスだったんだあ?」
明るい声で母に問いかけました。
「そうなの。そのお教室で偶然ミサコさんと再会して、このお二人ともお友達になったのよ」
「今日はパパも帰って来ないからミサコさんと相談して、皆さんをお招きしてガーデンパーティをすることにしたの」

「でも、そんな格好でお庭に出て、ご近所に見られちゃったりしない?」
「だいじょうぶよ。我が家は塀が高く作ってあるし、ご近所に高い建物もないし。今日は皆さんにどこか海辺にでも来たと思って、思う存分日光浴していただこうと思ってお招きしたのよ。よく晴れて本当に良かったわあ」
母は、のんびりとそんなことを言いました。
でも、お隣の二階からなら見えちゃうような・・・今はカーテン閉まってるけど・・・
考えながら、私は家の周りを見上げます。
「お隣さんなら両隣とも一昨日から旅行に行ってるはずよ。ママだってちゃんと考えてるの」
そう言ってパチンとウインクしてきます。
「それから、フラっていうのは踊りっていう意味なの。だからフラダンスじゃなくて、フラ、だけでいいのよ」
「ママもやっとフラ、一曲通して踊れるようになったから、今日なおちゃんに見せてあげる。ほら、なおちゃんも水着に着替えてらっしゃい。一緒にお昼食べましょ」
「はーいっ!」

お庭で白昼堂々水着になれる。
それも4人のキレイな大人の女の人たちと一緒に・・・
私は、すごくワクワクしてきました。


トラウマと私 03

2010年10月3日

トラウマと私 01

明日から中学二年生の夏休みという終業式の朝、登校すると靴箱の中に手紙が入っていました。
真っ白な封筒の中に、パソコンのワープロで打ち出したらしい文字が書かれた白い紙が一枚。

「森下様
僕はあなたのことが最初に見たときからずっと好きです。
よかったら夏休み中に僕と一緒に映画でも見に行きませんか?
返事を聞かせてください。
本日11時15分に通用門のところで待っています。」

そして、あまりキレイとは言えない字で、全然知らない男性の名前が黒のボールペンで書かれていました。

これって、ひょっとしてラブレター?
読んだ瞬間は、少しビックリしましたが、すぐに私は、なんだかメンドクサイことになっちゃったなあ、と思っていました。

その頃、自分が男の子とおつきあいするなんて、まったく考えたことなかったし、そんな気も全然ありませんでした。
中二にもなれば、クラスの女子たちの中には、上級生の男子に憧れてきゃーきゃー騒いでいる子たちとか、こっそりクラスの男子とつきあっているらしい子とかもいました。
でも、当時の私は、そういったことに一切関心がありませんでした。
恋愛をしたい、という欲求自体を持っていなかったんです。

当時すでに、オナニーでイくことも覚えてしまっていたけれど、かと言って、早くセックスを経験してみたい、とも全然思っていませんでした。
初めてのブラを買ってもらったとき、母に、自分を大事にしなさいね、って諭されていましたし、当時の私の中では、セックスと恋愛はイコールだったので、まず恋愛をしなければ、セックスもありえません。
そして、私が恋愛するのは、もっと自分のからだがキレイに成長してから、たぶん高校2年生くらい、となぜだか一途に思い込んでいたんです。

なので、当時の私に、どこの誰かもわからない男子と映画を見に行く、という選択肢はありえませんでした。

この呼び出しを無視しちゃおうか、とも思ったのですが、ちゃんとお返事してあげなきゃ悪いかな、とも思いました。
誰かに相談してみよう。
こういうとき、頼りになるのは、川上愛子さんです。

同じバレエ教室に通っている縁でお友達になった川上さんは、明るく活発な人好きのする性格で、クラスの女子の中心的人物でした。
川上さんは、男子女子分け隔てなく気軽におしゃべりできちゃう人気者でしたが、スポーツや学校行事など学校生活自体を楽しむことを一番大切にしているみたいで、童顔ポニーテールなカワイイ系女子なのに、男女交際とかにはあまり興味が向かないタイプのようでした。
バレエ教室の他に陸上部にも入っていて、一年生のときの運動会でも大活躍でした。
二年生になっても川上さんを中心とする仲良しグループがみんな同じクラスになれて、愛ちゃんは、私の一番の親友になってくれていました。

私は、終業式からお教室へ帰る途中に愛ちゃんを呼び止めて、ものかげに行き、手紙を見せました。

「うわー、これラブレターじゃない?」
「そうみたいなの。愛ちゃん、この人知ってる?」
「知らない。内田ねえ・・・何年生なのかなあ?」
「・・・無視しちゃっていいかな?」
「えっ?なんかもったいなくない?カッコいい人かもしれないじゃん?」
「でも・・・私今はそんな気が全然無いの・・・男子とおつきあいするなんて・・・」

「これ、なんか、あんまり頭の良さそうな文章じゃないね・・・」
愛ちゃんは、文面と私の顔を交互にしばらく見比べてから、
「じゃあ、どんな人なのか、顔だけでも見に行かない?あたしもつきあうからさ」
興味シンシンな顔で言いました。
「見てから決めてもいいんじゃない?ヘンなやつだったら、シカトして帰っちゃえばいいよ」
笑いながら私の肩に手をかけます。
「・・・そうだね。悪いけど、愛ちゃん、後で一緒に行ってくれる?」
「もちろんっ!」

私は、どんな人だったとしてもおつきあいする気はまったく無かったのですが、一人で断りに行くよりも愛ちゃんがいてくれたほうが何十倍も心強いので、とても嬉しくなりました。

手紙で指定されていた通用門は、正門から校庭と校舎を隔てた直線上の真裏にあります。
幅5メートルくらいの横開きの門のそばには、自転車通学の人たち用の駐輪場と先生方や来客用の駐車場があって、普段は主に先生方の出入りに使われていて、下校時だけ、生徒もこの門から帰ることができます。

呼び出しの時間の5分くらい前から、私と愛ちゃんは、ちょうどいい具合に駐車場に並んで停まっていた背の高いワゴン車二台の陰に身を潜めて、誰にもみつからないように通用門を見張っていました。
「どんな人なんだろうねえ?なんだかワクワクするねえ、探偵ごっこ」
愛ちゃんが、車の陰に屈んでときどき顔だけ出して通用門を覗き見る私の右肩に顎を乗っけて、同じように通用門に目を向けながら、耳元にヒソヒソ声で囁きます。
自転車を取りに来た生徒がぱらぱらとやって来ては帰っていく以外、あまり通用門を使う人はいないようです。

呼び出しの時間になっても、人待ち顔な男子は、その付近に現れません。
「ひょっとして、そいつも、なおちゃんが現れたら出てくるつもりなんじゃないかな?」
愛ちゃんが言います。
「だとしたらそいつ、サイテーだね。自分から呼び出しといてさ」

約束の時間から5分過ぎても、通用門の前で人を待っている風な男子の姿はありませんでした。
「自分で呼び出しといて時間守らないんだから、どっちみちそいつ、サイテーなやつだよ。なおちゃん、帰ろう」
愛ちゃんはプンプン怒って、私の手を引いてその場を離れました。

クラスのお教室に戻ろうと二人で裏庭を歩き出すと、ふいに後ろから、もりしたさん、と小さく声をかけられました。
「すんません、ちょ、ちょっと時間に遅れちゃって・・・」
振り向くと、息をきらしてハアハア言っている見知らぬ男子がいました。

背は高くもなく低くもなく、太ってもなく痩せてもなく、髪も長くもなく短くもなく、顔も・・・
見て、一回目をつぶるともう忘れてしまうような、そんな顔立ちでした。
愛ちゃんも振り向いて、その男子の顔を敵意丸出しで、まっすぐに睨みつけています。

そんな愛ちゃんを見て私は、なんだかホっとしていました。
こういう人なら、お断りしてもあまり心が咎めません。
最初からまったく縁が無かったのでしょう。
私は、スカートのポケットに入れていた封筒を黙って差し出しました。
その男子は、きょとんとしたまま、封筒を受け取りません。
私は、曖昧な笑顔を浮かべて、
「これ、お返しします」
とだけ言いました。
それでも封筒を受け取らないので、指をゆっくり広げました。
白い封筒がヒラヒラと地面に落ちていきました。
それから、愛ちゃんの手をぎゅっと握って、二度と振り返らずに二人で小走りに校舎の入口へ向かいました。

「あいつ、確かどっかの運動部の3年だよ。部活のときにあの顔、見た覚えがある」
愛ちゃんと教室に戻ると、もうみんな下校してしまったようで誰もいませんでした。
「なんか冴えないやつだったね。あれになおちゃんなんて、もったいなさ過ぎって感じ」
「だいたい3年て、もうすぐに受験じゃない?色気づいてるヒマなんてあるのかしら?」
愛ちゃんは、自分のことのようにご立腹です。
「愛ちゃん、つきあってくれてありがとうね。おかげでなんだかスッキリしたから」

私と愛ちゃんは、それから一緒に下校して、途中コンビ二でアイスの買い食いとかしながら、夏休みに何をして遊ぼうかをたくさんしゃべって、ラブレターのことは、その日のうちにすっかり忘れてしまいました。


トラウマと私 02