2010年8月14日

グノシエンヌなトルコ石 42

車をガレージの扉の前の車止めに停めてもらいました。

「へーー。本当に大きなお家だねえ。すごーい」
やよい先生が素で驚いています。
「そ、そんなことありません。それより先生、あがって冷たいものでも飲んで行ってください。母も先生の大ファンなんです」
「うーん。やめとくよー。あたしそういうの苦手だし」
「だいじょうぶですよー」
「いやいや、悪いしー」

「それじゃあ私、家に戻ってトルコ石のイヤリング取ってきますから、ここで待っていてくださいね。母も連れてきますから」
「うん。わかったわ。その前にじゃあこれを渡しとく」
やよい先生が大きなブティックのビニール袋を渡してくれました。

「イヤリングとか子猫ちゃんとか写真とかローターとか、その他いろいろ。あの黄色いわっかの洗濯バサミはミーチャン作のオリジナルで一つしかないから、今はあげられないけど、ミーチャンに言ってもう一つ作ってもらったら送ってあげる。今日撮った写真もね」
「ヤバそうなものは、下のほうに入ってるから。くれぐれもご家族にみつからないように保管場所に知恵を絞りなさい。上のほうは、あたしのお古の洋服。なお子に似合いそうなのを選んだつもりだけど、気に入らなかったらあっさり捨てちゃっていいからさ」
「ありがとうございます。一生大切にします」
「いやいや。それほどのもんじゃないからさー」

「あのー。はしたないんですけど、その赤いワンピもいただけますか?私すっごく気に入っちゃったんです」
後部座席に放ってある、さっきまで着ていた赤いワンピースを指さして、おずおずと言いました。
「あ。これ気に入ってくれたんだ。いや、いろいろ汚れちゃったからいらないかなーと思ってさ。どうぞどうぞ。着てちょうだい。ついでにこれもあげちゃう」
ピンクのレインコートもビニール袋に押し込んでくれます。

一瞬二人で沈黙して、見つめ合いました。
どちらからともなく唇を近づかせていき、しっかりと重なり合わせました。
お互いに軽く肩を抱き合い、舌をゆったりとからませて、静かに深くくちづけ合います。
時間が止まってしまったように、しばらくそうしていました。
私の目から涙がポロポロ落ちて頬をつたいます。

始まったときと同じように、どちらからともなく唇が離れました。
私は頬の涙を手で拭い、無理矢理笑顔を作ります。
「じゃあ先生、ちょっと待っててくださいね」
私は、もらったビニール袋を手に持って、万が一、先生が帰ってしまわないように、持ってきたボストンバッグは後部座席に置いたまま助手席のドアを開けて外に出ました。

そのとき、ガレージの扉がスルスルと左右に開いていきました。
開いた隙間から玄関のほうを見ると、母が部屋着にガウンをひっかけてこちらへ歩いて来るところでした。
私は、また助手席側のドアを開けて、やよい先生に呼びかけます。
「先生、ママが出てきちゃった」

「なおちゃん、おかえりなさいー。あらー。三つ編みおさげに結ってもらったの?かっわいいわー。とっても似合ってるわよー」
母は上機嫌で、やよい先生の車の前までやって来ました。

「百合草先生。ようこそおいでくださいました。このたびはうちの直子がご迷惑をおかけして・・・」
やよい先生は、頭をかきながら車から降りて、直立不動になってから、母にペコリと頭を下げました。
「いつもいつも直子がお世話になりっぱなしで。百合草先生、お夕食は?どうぞあがって召し上がっていって」
「ありがとうございます。でもあたし8時までには帰って、引越し屋さんと打ち合わせをしなければならないもので・・・」
「あらー。でもまだ6時前ですわよ。篠原さんがご実家に戻っているので、たいしたおもてなしもできませんけれど、どうぞ遠慮なさらず一休みしていってくださいませ」
母は、身内にしかわからない言い訳をしています。
「私、一度でいいからゆっくりと百合草先生とお話してみたかったんですの。今日は嬉しい日になるわー」
「さ、とにかく、こんなところで立ち話もアレですから、さ、お車を中に入れて」
父の車は、海外出張で空港に停めてあるので、一台分スペースが空いています。

やよい先生が車を中へ入れている間に、私はお庭で尋ねました。
「ねえママ。なんで私たちが外にいること、わかったの?」
「もうそろそろ帰ってくる頃かなー、って、門の監視カメラのモニターつけっ放しにいといたの。そしたら赤い自動車がスルスルスルって来て、ガレージの前にずっと停まっているから、ガレージの扉を開けてみたの」
「あのカメラ首振りだから、ずっと同じところは映らないのよね。ちょうどなおちゃんがお外に出てきたところが映ったから、私も出てきたの」

良かった。
やよい先生とのキスは映ってなかったみたい。
たぶん。

やよい先生が車を駐車し終えたので、私は車に走って行って、自分のボストンバッグをおろしました。
やよい先生は、また別のブティックのビニール袋を持って、車から降りてきます。
母は、玄関のところでニコニコしながら手を振っています。

「なお子、本当にスゴイお家ねー。なお子って本当にお嬢様だったんだねー」
「もう、先生ったらー、やめてくださいよー」
私は、いつもの調子でやよい先生にからだをすり寄せます。
そこで、あっ、そうだ、母が見てるんだった、と思い出し、あわててからだを離しました。

「さ、どうぞどうぞ。お掃除してなくて汚れてて、お恥ずかしいのですけれど」
やよい先生は、玄関に入ってからリビングに着くまで、落ち着き無くキョロキョロと周囲を見回しています。
「さ、そちらにお掛けになって。お時間が無いのでしたら、何かつまむものでも持ってまいりますわ。今日もお暑いですからお飲み物は冷たいのがよろしいですわね?」
「いえいえ、どうぞ、おかまいなく・・・」
やよい先生は、緊張しているみたいです。
母がダイニングに消えました。

私は、やよい先生を一人にしてしまうのもかわいそうなので、ボストンバッグとお土産の入ったビニール袋を持ったまま、ソファーのやよい先生の隣に腰掛けます。
なんていう偶然なのか、家のリビングにもサティのジムノペディが流れています。

「本当に広いお家ねえ。ここに3人で住んでいるの?」
やよい先生がヒソヒソ声で話しかけてきます。
「はい。あとハウスキーパーの篠原さんとその子供の可愛いともちゃんもいるんだけど、今は田舎に帰ってます」
「へー。ハウスキーパーねえ。なお子の部屋は2階?」
「そうです。後で見ます?」
そんなことを話していると、母がグレープフルーツの切ったやつと、大きなお皿に盛ったサンドイッチをまず運んで来てから、つづいてアイスペールとグラスとリンゴジュースの大きなペットボトルを持ってきて、テーブルに置きました。

「あらあら、なおちゃん。そちらはお客様のお席でしょう?なおちゃんはこっちに座って、お飲み物を作ってちょうだい」
おしぼりをやよい先生に渡しながら、私に言いました。
私は母の隣に座り直して、両手を冷たいおしぼりで拭いてから、人数分のグラスに氷を入れてリンゴジュースを注いでかきまわします。
「直子が帰ってきたら一緒に食べようと思って、作っておいたものなんですけど。このサンドイッチ。どうぞ召し上がって」
「はい。いただきます」
やよい先生は、パクリとサンドイッチを食べました。

もう大丈夫かな。
私は立ち上がって、母に言いました。
「私、自分のお部屋に荷物置いてくるね」
私がビニール袋を手に取ると、母が、
「あら、なおちゃん。それはなあに?」

ぎくっ!

「先生にいただいたの。先生が着ていたお洋服なの。とってもキレイなのばかり」
「あらー。百合草先生、ありがとうございます。本当にお世話かけっぱなしで。ママにも後で見せてね」
「うん。整理したら見せてあげる」
そう言いながら、私は小走りに階段を上がって、自分の部屋に飛び込みました。

ビニール袋を逆さにしてベッドに中身を投げ出して、お洋服の下のヤバソウナモノ袋を中身も見ずに他の袋に移し変えてから、とりあえずベッドの下に押し込んで隠しました。
それからもう一度お洋服だけビニール袋に押し込んで、机の上に置きました。
次に、やよい先生にプレゼントするトルコ石のイヤリングをアクセサリー箱から取り出して、タオルで軽く磨いてから、大事にとっておいたケースに収めてワンピースのポケットに入れました。

ワンピースのポケットには、昨日の午後、やよい先生と最初のプレイを始めるとき、あのユルユルレオタに着替える前に、私が期待に昂ぶって濡らした、いやらしい液を拭ったティッシュが丸められて入っていました。
テイッシュはもうすっかり乾いていました。
それをみつけた瞬間、私は、昨日と今日で体験したさまざまなプレイを一気に思い出して、あらためて、その恥ずかしさに、どこかに身を隠してしまいたいほど赤面してしまいます。

火照った頬を洗面所で洗ってからリビングに戻ると、母が熱心にやよい先生に語りかけていました。
どうやら、3月に開催されたバレエ教室の発表会で、最後にやよい先生がメインで踊った「花のワルツ」がいかに素晴らしかったかを語っているようです。
やよい先生は、グレープフルーツをスプーンで突っつきつつ、テレテレになりながらも時折冗談を交えて、まんざらでもないようです。
確かにあのときのやよい先生、すごくステキでした。
でも、母がそんなに熱心に見ていたこと、そして、それをこんなに嬉しそうに、楽しそうに語っているのが意外でした。
母がこんなに楽しそうに誰かとお話しているのを見るのは、久しぶりな気がします。

母とやよい先生。
私の大好きなキレイな大人の女性二人が、楽しそうに会話しているのを見ていると、私もなんだか幸せな気分になってきて、急にお腹が空いてきました。
サンドイッチをパクパク食べて、リンゴジュースをゴクゴク飲みます。

ガウンを脱いだ母は、下は黒のピッチリしたレギンスで上はゆったり長めの無地な黒いTシャツでした。
どうもノーブラみたいです。
胸のところが二箇所、ポチっと浮き出ているように見えます。
見ていると、やよい先生もときどき、そこに視線を泳がせているみたい。
私はますます幸せな気持ちになってきます。

ようやく会話が途切れたところで、私が口を挟みます。
「でもママ。ママがサティって珍しいね」
「あら、私サティ大好きよ。ほら、今日は午後から雨だったじゃない?こんな日は気分が滅入りがちになるから、サティを聞いて落ち着かすのよ。サティのピアノ曲聞いてると心が落ち着くの。選曲間違えるともっと滅入ったりもするけどね」
そう言って、母は、あははって笑いました。
やよい先生も、そうそう、って感じで頷いています。


グノシエンヌなトルコ石 43

2010年8月8日

グノシエンヌなトルコ石 41

「メール調教、っていうのですね。ネットで見たことあります。ご主人様がM奴隷に、ノーパンで公園に行ってオナニーしてきなさい、とか。私、ちょっと憧れてたんです」

「えーとね。まず、調教、って言葉は、あたしあんまり好きじゃないの。なんだか傲慢で。ヤル側の目線よね。英語で言うとトレーニングなんだけどさ。そっちのほうがまだマシ」
「プレイ中なら使うこともあるけどね。あと、そういう侮蔑的な言葉を言われたほうが、より萌えちゃう、っていうMな人が多いみたいだけどさ。あたしは、素のときはあんまり使いたくない。それがSとしては甘いって、ミーチャンにもよく言われるんだ・・・」
「でも、あたしが本当に好きな人となら、プレイ中はともかく日常では・・・ね。だから、あたしがなお子に出すのは、課題、ね」

「それと、ネットのメール調教の告白文なんて、たいていSMプレイを実際にしたこともないような男の妄想作文よ。あんなの真に受けると、ご近所の笑いものになるか、すぐケーサツに捕まっちゃうから」
「もちろん、妄想の中でならどんなに非常識なことだって、やっちゃってかまわないんだけどさ。ただ、それを現実でもできると思って、やろうとするおバカさんがけっこういるのよね」
「ネットで野外露出の写真を披露してる人たちだって、たいがいちゃんとしたパートナーがいつも傍らにいて、見つからない場所探したり、マズイ事態に陥らないように目を光らせてるの。なお子も今日やってみてわかったでしょ?」
「・・・はい・・・」

「なお子は、けっこうネットでえっちなページ、見てるの?」
「はい。高校入学のときにパソコン買ってもらって、両親も制限ロックとかとくにかけなかったんで、自由にいろいろ見てみました」
「もちろんキャッシュはいちいち全部消すようにして。気に入った画像や動画は、外付けのハードディスクに保存するようにして」
「あらあ、キャッシュとか知ってるんだ。なお子らしいわあ。パソコンの使い方にも研究熱心ね」
やよい先生が笑います。

「でもでも、私の場合、難しいんです。男の人がダメだから・・・」
「最初の頃、調子に乗ってワクワクしながらいろんなサイト見ていたんです。百合とか露出とかレズSMとかって検索して」
「今思うと運が良かったんだと思います。注意深くやってたのもあるんでしょうけど、私好みのサイトがけっこう順調にみつかって・・・」
「だけど、ある日、なんのサイトだったか、いきなり無修正の男の人のアレが出てきて・・・」
「私、あわててパソコンの電源コード抜いちゃいました」
やよい先生が声をあげて、あっはっは、と笑いました。

「笑いごとじゃないんですう。私、その後しばらく恐くてネット見れなかったんですからー」
「それからすごく慎重になって、あの、グロテスクな形のバイブレーターもあんまり見たくないし・・・」
「今は女の人しか絶対出てこない外国のレズビアンSMのサイトとか、文字だけのサイト、さっき言った調教告白のとか官能小説とかばっかりを見ています」
「でも、文字だけのやつも、結局男の人が出てきちゃうのが多いんですよね。男の人が苛めているまではだいじょうぶなんですけど、少しでも男の人のアレがからみそうな気配の描写が出てきたら閉じちゃいます」

「ふーん。なお子はなお子なりに、いろいろと苦労があるんだねえ。なお子の場合は、トラウマが絵で刷り込まれちゃってるからねえ・・・」
「わかった。あたしがなお子でもだいじょうぶなえっちサイトをいろいろ教えてあげるよ。あと、なお子用に編集したオススメビデオとかも送ってあげる」
「ありがとうございます。すごく助かります」
私は、本気で感謝しています。

「それと、縛りのほうも、なお子のからだはまだ完全に成長しきってはいないから、そんなにハードなことはまだしないほうがいいと思った。もう少しからだが成長して、熟してからのほうが、苛め甲斐もあるからね」
「だからバレエのストレッチとか、これからもサボっちゃダメよ。常時ノーブラもまだ早いわね」
「はーい」
「そんなことを踏まえて課題を考えてあげるわ。もちろん、なお子の被虐心が満足できて、すごく気持ち良くなれるように工夫してね。まかせておいて。あたしも無駄にミーチャンのパートナー7年もやってきたわけじゃないから」
「だから、私の課題をやっておけば、近い内になお子は、世界中のレズビアンのためのセクシーMアイドルになれるわよ」
やよい先生が冗談めかして、私にウインクしました。

「あ、でも、何かの拍子でなお子のトラウマが治って、男性を受け入れられるようになったら、スグに言ってね。人間的にはそっちのほうが喜ばしいことだろうし。あたしも絶対怒らないから。すごくがっかりはするだろうけど・・・」
「それは、絶対にない、です」
私は、力強く断言してしまいました。

「それじゃあ、とりあえず最初の課題ね。なお子は、あたしが次に許すまでマン毛を剃らないこと」
「なお子、ずいぶん気に入ってたみたいだから、ちょろっと生えてきたらすぐ剃っちゃいそうだからね。その年であんまり頻繁にカミソリあてるのも良くないような気がするし」
「はいっ!。わかりましたっ!ゆり様っ!」
私の陰毛は、やよい先生にコントロールされるんだ、と思ったらゾクゾクしてきて、思わず元気良く答えてしまいました。

車はようやく渋滞を抜け出して、国道を私の家のほうへ快調に進んで行きます。

「おーけー。これで本当にヘンタイなお子モードは終了ね。お家に入る前に通常なお子モードに切り替えなきゃ。まじめな質問するわよ」
「はい。先生」
「なお子は高校卒業したら、どうするつもりなの?」
「一応、女子大に進もうかな、って思ってます。できれば東京の」
「でも私、どこかの会社に入って、男の人にまざってOLさんとかできそうもないんで、保育園か幼稚園の先生を目指そうかな、ってこの前から考えてたんです」
「うん。それはいいねえ。なお子ならピッタリだよ。でも、あなたピアノ弾ける?」
「えっ?」
「幼稚園の先生になるなら、ピアノは必須だよ」
「そうなんですか?私小学校3年までは習っていたのだけど・・・」
「なら基本は知ってるんだ。じゃあだいじょうぶそうね。なお子の飲み込みの早さなら、ちょっと練習すれば、ちょちょいのちょいだよ」

「がんばってお勉強して、東京においで。それでまた、みんなでえっちな遊びをしようよ」
「あ、でもなお子だったら、その前にいいパートナーが見つかっちゃいそうな気もするな」
「そんな。無理です。私はやよい先生が一番いいです」
「ううん。なお子には、あたしよりもっとしっくり来る女性が現れるはずよ。だから焦らないで、じっくりいい人探しなさい。その間は、あたしがミーチャンの目を盗んで、出来る限り遊んであげるから」
私は、ミーチャンさんが本当に羨ましいです。

「バレエはどうするの?」
「つづけるつもりです。夏休みが終わったら、また通うことにしました。今度の先生は・・・」
私がその先生の名前を告げると、
「あらー。彼女が次にあたしのマンションの部屋に入るのよ。あたしの友達よ。やさしくってすごくキレイ。踊りもうまいわ」
「はい。先週お会いしてきました。やさしそうなかたでした」
「でも彼女は、ちゃんと男性の恋人がいるマジメな女性だからね。なお子、ヘンなことして困らせちゃダメよ」
やよい先生は、笑いながら左手で私の右手を握りました。

気がつくと、私の家のすぐそばまで来ていました。
時計は5時15分。
ちょっと早いかな、とも思いましたが、車はどんどん家に近づいていきます。

「あっ、あの信号を左です」
私は、正直に道順を告げました。
「ここを道なりに。あの高い塀の家です」


グノシエンヌなトルコ石 42

グノシエンヌなトルコ石 40

ずいぶん久しぶりに、ちゃんと下着を着けて服を着た私は、なんだかうまく服に馴染めなくて、そんな自分がおかしくてクスクス笑ってしまいます。

「あらー、なお子、なんだかリラックスしてるわね、スッキリした感じ?」
「はい。先生。すっごく楽しい二日間でした。ユマさんともお友達になれたし」
「でも、やよい先生とお別れかあ、と思うと悲しいです」
「何言ってるの。二度と逢えなくなるワケじゃないんだから」
「でもお・・・」

ユマさんに手を引かれて、あの小柄で愛らしいけどSならしいウエイトレスさん、シーナさんがやって来ました。
「悪いね、シーナ。仕事中に」
「いいえ。ゆり様のためならいつでも、どこへでも」
シーナさんは、やよい先生に向けてニッコリ笑ってから、私の顔を見ました。
「おかえりなさい。楽しかった?」
「は、はい・・・とっても」
私は、どぎまぎしてしまいます。

「あ。私はシーナ。百合草先生とは古くからおつき合いさせてもらってるの。あなたは、なお子さんよね?」
「は、はい。もりしたなお子です。やよい、いえ、百合草先生のバレエレッスンの生徒です。よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。それで、今日はどんな風に苛めてもらったの?子猫ちゃん」

「それは、あたしが後でゆっくり聞かせてあげるわよ。写真もいっぱい撮ったから、ね」
やよい先生が、お話に割って入ってきて、シーナさんにパチンとウインクしてみせました。
「なお子ったら、シーナにも苛めてもらいたいみたいよ。いつかあたしがチャンス作るわ」
「それより記念写真を撮っちゃいましょう。悪いけどシーナ、カメラマンね。なお子、ケータイ貸して」
私のケータイをシーナさんに渡すと、私とユマさんの手を引いて、やよい先生の車をバックに、私を真ん中にして3人並びました。

「なお子の待ち受けにしてもらうんだから、ユマ、おっぱいとか出しちゃダメよ。じゃあシーナ、お願いね。チーズ!」
カシャ。
シーナさんがシャッターを押してくれました。
「じゃあ次は3人とも一番色っぽい顔をしましょう」
やよい先生が提案します。
私は、眉根にシワを寄せて、悩ましげな顔を作りました。
他の2人がどんな顔をしたかはわかりませんが、シーナさんはプっと吹き出して、笑いながらシャッターを押しました。

それから、やよい先生、ユマさん、シーナさんの順に私とツーショット撮影をしました。
やよい先生とは、頬と頬をくっつけてニッコリ笑って。
ユマさんとは、お互いに背中から手を回して、お互いのおっぱいに手を置いて。
シーナさんとは、私は少し緊張しましたが、シーナさんが私の左肩に頭をもたれかけて甘えてくれました。
どうしてもSとは思えない、あどけない仕草でした。
やよい先生がシャッターを押してくれました。

「はいはい。シーナ、ありがとね。それじゃあここでひとまず解散しましょう。ユマ、気をつけて帰んなさいよ。今日事故ったら、あなたカッコ悪いわよー。その下、裸なんだから」
「あー。そーなんだー」
シーナさんがそう言って、ユマさんのレインコートのボタンとボタンの間から手を入れてモミモミしています。
「あーんー。シーナさまあ、お許しくださいー」
なんだかみんな、大胆です。

「子猫ちゃん。アタシのケータイ番号とメアドはもう子猫ちゃんのケータイに登録してあるからねー。さみしくなったらいつでも電話してねー」
そう大声で言いながら、ユマさんが小脇に脱いだお洋服を抱えて、ブルーのレインコートの裾をヒラヒラさせながら自分の車のほうに歩いて行きました。

ユマさんの車は、ペッタンコな白いスポーツカーでした。
なんていう名前のやつか私は知りませんが、とにかく超有名なカッコイイやつです。
左ハンドルで二人乗りで、たぶん、すっごく高いはずです。
駐車場に入ったとき、一番最初に目についた車でした。
あれ、ユマさんのだったんだ。
「ユマさん、すごい車に乗っているんですねえ」
「あれはユマのダーリンのもの。でもユマもああ見えて、すっごく運転うまいのよ」
やよい先生が私の肩に手を置いて、ユマさんを見送りながら言いました。

ユマさんは、運転席の窓を開けて左手を出してヒラヒラさせながら駐車場を出て、ブオンと一回大きな音をたてて、国道を走り去っていきました。
カッコイイー。

「それでは、なお子さん。またきっと逢いましょうね」
シーナさんは、そう言うと、私の唇をチュッと軽く唇で塞いでから、お店の中に戻っていきました。
シーナさんのルージュも甘い味がしました。
「あたしたちも帰ろうか?」
やよい先生と私は、しっかり手をつないで、赤くてまあるい車のほうへ歩いて行きます。

「ねえ、なお子・・・」
私が助手席に座って、車が走り出し、しばらくの間二人とも無言でした。
私は、目を閉じて、まったりとサティの旋律に耳を傾けていました。
ターミナル駅前で渋滞に捕まったとき、やよい先生が口を開きました。

「この二日間、どうだった?楽しめた?」
「はい。すっごく楽しかったです。でも、ちょっとやり過ぎちゃったかな、とも思ってます」
「そう。良かった。少しは反省もあるのね。やっぱり、なお子はいい子ね」
やよい先生がやさしく微笑んでくれます。

「なお子は、一人でやるとき、自分で自分を縛ったりしてるの?」
「は、はい。カーテンタッセルとか、電気の延長コードとかで・・・でも今日みたいにきっちりと縛ったことはありませんでした。勉強になりました」
「勉強はいいんだけど、ね・・・」

「ねえ、なお子。昨日今日とさんざんあんなことやっといて、あたしがこんなこと言うのもおかしいんだけどさ・・・」
「はい?」
「なお子はね、人前で裸になることや、誰かに苛められることに慣れちゃダメ。って思うのよ」
「なお子の性癖はわかっているけど、それを無闇に人前で出さないで、普通のときは、普通でいるようにしていたほうが、魅力的だと思うのよね。なんかうまく言えないけど・・・」
「なお子はきっと、自分の恥ずかしい姿を誰かに見られてしまうかもしれない、知られちゃうかもしれない、っていうスリルが好きなのよね。でも男性を含む誰にでも見られたい、知られたいってワケではないでしょ?」
「はい。もちろんです」

「あたしが思ったのは、あなたのいやらしいからだを見たり、ヘンタイプレイで苛めたりすることができるのは、あなたに選ばれた、限られた人たちだけなのよ。それが今は、あたしであり、ユマなの」
「なお子のからだ、ううん、からだだけじゃなくて、性格も含めたなお子という女には、それだけの価値があるし、選ぶ権利も持っているの」
「もちろん、なお子の人生だから、あなたがそんなのイヤだ、私はみんなの前で脱ぎたいの、苛められたいのって思うなら、それはそれだけどね」
「見てもらうことに喜ぶのは、あなたの性癖だからいいんだけど、ありふれた言葉だけど、恥じらい、だけは忘れないでいて欲しいのよ」

「男向けのアダルトビデオによく出てくる、街中で大勢の前で裸になって、ひどいことされてるのにヘラヘラ笑って、いたずらに下品なことして男に媚びているような目線の女が、あたしはキライなの。男に言われてやらされてるにしても、いくらお金のためでもね。もちろん、なお子はそんな風にはならないでしょうけど」
「性欲、性癖は人それぞれだし、中には不特定多数の男にめちゃくちゃにされて、本気で喜ぶ女もいるらしいけど」
「人前で裸になる、とか、自分でイケナイことだとわかっているんだけどやってみたいなあと思ってることは、普通の人から見たらすごく恥ずかしいことなんだ、っていう根本を忘れなければ、なお子はもっといやらしくなれるし、過剰に下品なことしなくても、もっと気持ち良くなれるはずよ」
「なんて言えばいいのかなあ。あたしは、なお子にずっとエレガントな女性でいて欲しいの。なお子がエレガントでいるうちはあたしが絶対、何があっても守ってあげるから。遠くに離れていたって、何かあったらすぐ相談してくれれば、守ってあげることはできるから・・・」

「私、中学のときに母からも、エレガントでいなさい、って言われたことあります」
「エレガントって、どういうことなんだろう?って私もよくわからなかったけれど、今のやよい先生のお話でなんとなくだけど、わかった気がします」
「この二日間、あんなにヘンタイなことばっかりやった私でも、まだエレガントだって先生が言ってくれて、私すごく嬉しいです」
「でも・・・これからまた一人遊びに戻って、ムラムラしたときに、何か突拍子もないことをやってしまいそうで、そんな自分が怖いのもあります・・・」
「とくにこの二日間で、SMプレイや露出遊びの楽しさと怖さを知ってしまったので・・・なおさら・・・」

やよい先生は、ちょっと考え込むような顔をしてから、ふいに明るい声で言いました。

「そうだ。あたしが東京行って落ち着いたら、メールや電話で課題を出してあげるよ。なお子がムラムラしてるときに、こうやって遊びなさい、って」


グノシエンヌなトルコ石 41