2016年3月27日

オートクチュールのはずなのに 43

「あたし今、本気で外に出るところだった!」
 ご自分でもびっくりされたようなお顔で、お姉さまが私の顔をまじまじと見つめてきました。

「なぜ直子も何も言わないのよ?あなた今、真っ裸なのよ?普通は、何か着せてください、とか、あたしを引き留めるものでしょ?まさか、そのまま外に出ても構わなかったの?」
「いえ、あの、だって・・・」

 お姉さまにあまりに自然に手を引かれ、戸惑いながらも抗議出来る雰囲気でもなく、ただただパニクっていたのでした。
 あのままお外へのドアを開けようとされたら、さすがに声をあげていたことでしょう。
 だけど、それをどうお伝えすればいいのか適切な言葉が浮かばず、黙って顔を左右にブンブン振って否定の意思を表しました。

「ねえ・・・」
 やれやれ、というお顔をされたお姉さまが、ご自分のデスクでこちらに背を向けている綾音さまに呼びかけようと、お声をかけかけたのですが、綾音さまがお電話中とわかり尻すぼみで終わりました。
 すぐにお電話は終わり、綾音さまが受話器を置くのを待って、もう一度呼びかけるお姉さま。

「ねえ?デザインルームに何かガウンみたいな羽織れるもの、なかったかしら?コートとかジャケットとか。この際カーディガンでもバスローブでも、何でもいいわ」
 お声に呼ばれてこちらをお向きになった綾音さまが、私を見てニッと笑いました。

「あら?ナオコはこれから本番までずっと、裸で過ごさなくてはいけないのではなかったかしら?」
 イタズラっぽい目つきでからかうようにおっしゃる綾音さま。

「なーんてね。いくらなんでも、このビルからマンションまでオールヌードで歩き回らせる訳にはいかないわよね。大騒ぎになってイベントどころじゃなくなっちゃう」
 立ち上がった綾音さまがデザインルームに向かいかけ、すぐ立ち止まりました。

「そうだわ。今日わたくし、レインコート着てきたから貸してあげる」
 おっしゃってから、綾音さまのお顔が少し曇りました。
「夜明け前からずっとシトシト降りつづけているのよ、このイヤな雨」

 絵理奈さまは今日の明け方に苦しみ出したと、お姉さまがおっしゃっていたので、きっとそのときのことを思い出されているのでしょう。
 小さくお顔をしかめながら綾音さまが、更衣室のほうへと向かわれました。

 ほどなく戻られた綾音さまから、少しくすんだグリーンのオシャレなコートを手渡されました。
 裏地を見たら一目でわかる、イギリスを代表する有名なブランドものでした。

「あ、ありがとうございます・・・」
 うわー、このコート、おいくらぐらいするのだろう・・・なんて下世話なことを考えながら恐縮しつつ、おずおずと袖に腕を通しました。

 見た目よりもぜんぜん軽い感じのトレンチコート。
 綾音さまのほうが私より5センチくらい背がお高いので、ちょっぴりブカブカ気味なのはご愛嬌。
 羽織ると、いつも綾音さまがつけていらっしゃるミント系のフレグランスが香りました。

「ショートコートだからギリギリかな、と思ったけれど、ナオコだと股下5センチくらいは隠れるのね」
 綾音さまがからかうみたいにおっしゃいました。

 確かに、6つあるボタンを全部留めると、ミニのワンピースを着ているような着丈でした。
 うっかり前屈みにはなれないくらいの、微妙なキワドさ。
 生地が薄めで柔らかいので、乳首の出っ張りも微妙にわかります。

「おお。いい感じ。じゃあ行こうか」
 お姉さまが再び私の右手を握りドアへ向かおうとすると、綾音さまに止められました。
「待って。これもしていくといいわ」

 差し出されたのは、見覚えのある派手なサングラス。
 絵理奈さまがオフィスへお越しになるときいつも着けていた、いかにもタレントさんがオフのときにしていそうな、茶色いレンズでセルフレーム大きめなサングラスでした。

「昨日から東京に来られている地方のお客様が、イベントまでの暇つぶしに、下のショッピングモールとか観光されているかもしれないでしょ?」
「ナオコはともかく、絵美の顔は知られているから、みつかったらちょっとはお相手しなきゃ。そのときナオコの顔も覚えられちゃったら、後々マズイじゃない?」
「もしそうなったら、ナオコは失礼して、先に部室に行っちゃいなさい。くれぐれもお客様に、うちの社員とは思わせないこと」

 綾音さまのご説明に、はい、とうなずいてはみたものの、こんな目立つサングラスに、ミニワンピ状態のトレンチコートって、かえって人目を惹いちゃうのでは?と思いました。

「それと、メイクのしほりさんは、今原宿だから、大急ぎでこちらへ向かうって。3、40分てところね」
「おっけー。それじゃあ、後のことは任せたから。行こう、直子」

 期せずして、こんな平日のお昼前に勤務先のビル内で裸コートを敢行することになってしまった私は、お姉さまに右手を引っ張られ、オフィスを出ました。

「思いがけず、面白いことになっちゃったわね」
 エレベーター内はふたりきりでした。
 お姉さまが私の全身をニヤニヤ眺めながらおっしゃいました。

「まさかこんなことで、直子のヘンタイ性癖をうちのスタッフにカミングアウトすることになるなんて、思ってもみなかった。その上、ショーでうちのアイテムを身に着けるモデルまで直子になっちゃうなんて」
「こんなに大っぴらに、勤務中にみんなの前で堂々と直子を辱められるなんて、あたしもう、愉しくって仕方ないわ。ある意味、こんな機会を作ってくれた絵理奈さまさまね」

 本当に嬉しそうなご様子のお姉さまを見ていると、私も嬉しくなります。
 ただし、心の中は不安で一杯ですが・・・
 ほどなくしてエレベーターが一階へ到着しました。

 オフィスビルのエレベーターホールは、ずいぶん賑わっていました。
 お昼が近いからかな?
 大部分はスーツ姿のビジネスマンさんやOLさんたち。
 右へ左へ、忙しそうに行き交っていました。
 サングラスをかけるときに思ったことは杞憂に終わらず、エレベーターを降りた途端に、いくつもの不躾な視線が私に注がれるのを感じました。

 今までいた身内だけの空間から、見知らぬ人たちが大勢行き交う、公共、という場にいきなり放り出され、裸コートの私は途端に怖気づいてしまいました。
 こんな場所に私、コートの下は全裸で、短かい裾から性器まで覗けそうな格好で、立っているんだ。
 東京に来てから、頻繁にショッピングやお食事で立ち寄り、会社に入ってからは毎日通勤している、こんな場所で。
 怯えながらも甘く淫らな背徳的官能に、被虐マゾの血がウズウズ反応していることも、また事実でした。

「何早くもビビッているのよ?」
 私の緊張をいち早く察したお姉さまが、エレベーターホールの柱の陰へ私を連れ込みました。
「このくらいで怖気づいていたら、ショーのモデルなんて到底務まらないわよ?」
 壁ドンの形でヒソヒソ諭されました。

「いい?今日の直子はいつもの直子じゃないの。このビル内のオフィスに勤める一介のOLじゃなくて、これからファッションイベントで主役を務める、デザイナーから選ばれたモデルなの」
「直子にショーモデルとしての心得を教えてあげる。まず、モデル、つまり服を魅せるマネキンになりきりなさい。一流のモデルは人前で喜怒哀楽を出してはダメ。高飛車なくらいのポーカーフェイスが基本よ」

「恥ずかしさに照れ笑いとか困惑顔は、見ているほうがかえって気恥ずかしくなっちゃうの。それでなくても今日直子が着て魅せるアイテムは、一般論で言えば恥ずかし過ぎるようなものばかりなのだから」
「心の中では、どんなにいやらしく感じていてもいいから、表の顔はポーカーフェイスをキープ。不機嫌なくらいでちょうどいいわ」

「練習のために、ここから部室まで、ふたりでモデルウォークで歩いていきましょう。あたしもつきあってあげるから」
「当然、人目を惹くけれど、臆してはダメ。逆に人目を惹かなければ、モデルとしての価値なんて無いのだから。注目浴びて当然、あたし綺麗でしょ?って感じで澄まして颯爽と歩くこと」

「昨日、ランウェイでふざけてやっていたじゃない?雅と一緒に。上手いものだったわ。あの感じで歩けばいいから」
 そこまでおっしゃって、お姉さまの目が私の着ているコートへと移りました。

「それにしてもずいぶんキッチリとボタン留めたのね?こんなジトジト湿度なのに」
「それ、かえって不自然だわ。暑苦しい。上のボタン、二つ外しなさい」

 でも・・・と思ったのですが、ご命令口調には逆らえません。
 お姉さまのお顔をすがるように見つつ、首元まで留めていたボタンとその下を、そっと外しました。

「ほら、すぐそんなふうに嬉しそうな顔する。どんな命令にも淡々と無表情で従いなさい。内心はどんなに悦んでもいいから」
 叱るようにおっしゃりながら、ボタンを外した襟を開いて、整えてくださるお姉さま。
 視線を落とすとコートのVゾーンが、おっぱいの谷間が覗けるくらい、肌色に開いていました。

「うん、トレンチはやっぱり、この襟を開いた形が一番恰好いい。胸元が風通し良くなったでしょう?」
 いえ、お姉さま、前屈みになると隙間から乳首まで覗けちゃいそうなのですけれど・・・

「ついでに裾のほう、一番下も、外しましょう」
 えっ!?と思っても、表情に出してはいけないのでした。
 こんなに短かくて、生地が柔らかいから裾だって割れやすそうなのに、モデルウォークで歩いたら足捌きで・・・と思いつつも、努めて無表情で外しました。

 6つあるボタンのうち3つを外してしまいました。
 今留まっているのは、下乳の辺りからおへその辺りまでの3つだけ。
 何かの拍子で、いとも簡単にはだけてしまいそうな、なんとも頼りないコートになってしまいました。

「大丈夫よ。トレンチだからダブルだし内ボタンも留めているのでしょう?それにベルトもしているし、おいそれと全開にはならないわ」
 コートの裾をピラッとめくるお姉さま。
 内腿の交わりに外気が直に当たりました。

「うん。エレガントだし肌の見え具合もちょうどいい。やっぱり老舗のブランドものはシルエットが違うわね」
「直子も負けないでちゃんと着こなしているじゃない。そのド派手なメガネといい、もう立派なスーパーモデルね」
 お姉さまから、からかわれ気味に褒められても無表情。
 だけど心臓はドキドキで、今にもバクハツしそうでした。

「準備万端。モデルウォークの練習は、と・・・せっかくだし、こっちから行きましょう」
 えっ!?
 お姉さまが選んだのは、ショッピングモール側の通路。
 エレベーターホールから近い、道路沿いの通路のほうが人通りが少ないのに。

「せっかくの裸コートなのだから、見物人が多いほうが直子も嬉しいでしょ?」
 私の戸惑いを見透かしたみたいに、耳に唇を寄せてささやくお姉さま。

「さあ、行きましょう。ここからは手はつながないからね。まっすぐ前を見て視線は散らかさず、大きめのストライドで颯爽とね」

 おっしゃるなり、お姉さまが胸をスッと張った美しい姿勢で、颯爽と歩き始めました。
 うわー。
 お姉さまのモデルウォーク、なんて華麗で優雅。

 見惚れている場合ではありません。
 あわてて私も背中を追います。

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る・・・
 
 お姉さまのお背中を見つめ、一歩下がる感じで着いていきました。

 これからショッピングモールが本格的に始まる、という地点でお姉さまが立ち止まれました。

「ここからは、直子が先に歩きなさい。あたしは後ろに着くから」
 耳元でささやかれ、背中を軽く押されました。
 ご命令には絶対服従。
 そこからは、数メートル先の宙空に視点を置き、極力周りを見ないようにして進みました。
 
 ショッピングモールは、オフィスビルよりもっと賑わっていました。
 週末平日のお昼前。
 小さなお子様連れの若奥様風のかたたちが多いようでした。
 他には学生さん風とか、隣接のホテルの外国人宿泊客さんたち。
 モールのお店が若い人向けばかりなので、お年を召されたかたはあまり見かけません。

 そんな中を、場違いに気取ったモデルウォークで進んでいく女性ふたりの姿は、明らかに異質でした。
 前を行くのは、タレント然としたド派手なサングラスに、妙に肌の露出が多いトレンチのレインコートを着た若い女。
 その後ろに、仕立ての良いビジネススーツを優雅に着こなしたスラッとした美人さん。
 芸能人の端くれとそのプロダクションのマネージャー、くらいには、見えたかもしれません。
 
 すれ違う人たちの視線を惹きつけていることが、みなさまの頭の動きで如実にわかりました。
 私たちに気がつかれたみなさまは誰も、首がこちらのほうへぐるっと動くのです。
 私たちの姿を数メートル先で見つけ、すれ違うまでその場で固まったまま不思議そうに見つめつづける若い男性もいました。

 一歩進むたびに短かい裾を腿が蹴り、そのたびに裾が不安定に、股間ギリギリで揺れているのがわかりました。
 歩き始めると、ウエストで絞ったベルトを境に、下部分は少しづつせり上がり、上部分は胸元がたわんで広がってきました。
 見下ろす形の自分の視界的には、胸元のVゾーンからおっぱいのほとんどが見えていました。
 かと言って、必要以上に胸を張ると、乳首が裏地に張り付き、布を押し上げるのがわかります。

 いったい私の姿、周りの人にどんなふうに見えているのだろう・・・
 胸の谷間は?浮き出た乳首は?裾のひるがえりは?

 一番気になるのは裾でした。
 コートの布地が末広がりなので、自分では確認出来ませんが、歩いている感じでは、両腿のあいだを空気が直に通り過ぎていました。
 正面から見たら、すでにもうソコが露になっちゃっているのかもしれない・・・

 視線をまっすぐに定めていても、視界にはこれから通り過ぎる場所の情報が飛び込んできます。
 あそこのお店は、先週ワンピースを買ったところ、あそこのお店のマヌカンさんとは顔見知り、あそこのカフェのケーキは美味しかった・・・
 そんな日常的な場所を私は、キワドイ裸コート姿で、何食わぬ顔で歩いているのです。

 心の中はもう、収拾のつかないくらいの大混乱でした。
 視ないで、と、視て、の相反する想い。
 視られたくないのに視られているという被虐と、視せつけたいから視せているという自虐。
 ヘンタイマゾの願望を実践している自分に対する侮蔑と賞賛。
 それらが一体となった羞恥と快感のせめぎ合いで、全身にマゾの血が滾っていました。

 歩きつづけて周囲の視線に慣れてくるほどに、羞恥よりも快感が上回ってきました。
 あそこでふたり、こちらを見てヒソヒソしている。
 あの人、すごく呆れたお顔をされている。
 こっちの人は、なんだか嬉しそう・・・
 視線を動かさなくても、周りの雰囲気を肌で感じ取ることが出来ました。

 両腿のあいだは、自分でもわかるほどヌルヌルでした。
 このまま溢れ出た雫が腿を滑り落ちても構わないと思いました。
 むしろそのほうが、マゾな自分にはお似合いです。

 視ないで、と思うより、もっと視て、と思うほうがラクなことにも気がつきました。
 そのほうが私自身が悦べるし、皮膚感覚がどんどん敏感になって、ちょっとした視線の動きだけで、触れられたのと同じくらいに感じられるのです。
 どんどん視ればいい、舐めまわすように私を視て、ふしだらなヘンタイ女って蔑めばいい、それこそが私の望みなのだから。
 そんな気持ちになっていました。

 それは、ある種の開き直りなのかもしれません。
 恥ずかしさが極まり過ぎて、そこから逃げ出すよりも、いっそ身を委ねてしまおう、という選択。
 その選択をしてからの私は、人とすれ違うたびに、そのかたに、視てくださってありがとうと、と心の中でお礼を言いつつ、マゾマンコの奥をキュンキュン疼かせていました。
 
 いつの間にかモールを通り過ぎ、ビルの出口まで来ていました。
「いい感じよ直子。いい感じにトロンとして、すごく色っぽい無表情になっている」
「さあ、ここからは外、あと一息ね。部室に着いたらご褒美あげるわ」

「はい。ありがとうございます、お姉さま」 
 最愛のお姉さまにも褒められた、ということは、私の選択は間違っていなかった、ということ?
 
 思わずほころびそうになる口元を引き締めて無表情に戻り、再び歩き始めます。
 高速道路の高架下の薄暗い広場を抜け、スーパーマーケットのある通りへと。
 その裏が部室のあるマンションです。

 お外には、ビルの中とはまた違った種類の人たちが行き来していました。
 ご年配のスーパーへのお買い物客らしきおばさま、疲れた感じの初老なサラリーマンさん、何かの工事の人たち、宅配便の配達員さん・・・
 いっそう日常的となった空間を再び、場違いなモデルウォークで歩き始めました。
 視て、もっと視て、って心の中でお願いしながら。

 スーパーマーケット側へ渡るための横断歩道で、赤信号に止められました。
 お姉さまの傍らで、うつむかずまっすぐに立ち、信号が変わるのを待ちます。
 向こう側にも数人のかたたちが待っていて、そのあいだを時折、トラックやタクシーが走り抜けていきます。
 
 強めのビル風がコートの裾を乱暴に揺らしても、いつもみたいにあわてたりしません。
 もっと吹いて、マゾマンコが露わになっちゃえばいい。
 そう考える、私の中にいるもうひとりの私、自分を辱めたがる嗜虐的なほうの私の声が、思考を支配していました。

 道路の向こう側にいるご中年のサラリーマン風男性は、明らかに私のコートの下のことに気づいているようでした。
 遠くから、たとえ目を瞑っていてもわかるほど強烈に、熱い視線が私の下半身へと突き刺さっていました。
 信号が変わり、お互いが歩き出してからも、じーっと粘っこい視線が私の胸元と下半身にまとわりついていきました。
 
 私はそれを、身も心もとろけちゃいそうなほど、心地良く感じていました。


2016年3月20日

オートクチュールのはずなのに 42

「せっかく直子のために手に入れたのに、ずっと使いそびれていたのよ」
 
 お姉さまが魔法少女の変身シーンみたいに、魔法のステッキならぬ乗馬鞭を軽やかに振り回すと、ヒュンヒュンッ!と空気が切り裂かれる煽情的な悲鳴が私の鼓膜を揺らしました。
 私はもうそれだけで、全身鳥肌立つほどゾックゾクッ!

「あら、それって老舗のブランドもの、それもレアものじゃなくて?」
「うん。そうらしい。エイトライツの竹ノ宮さんから譲っていただいたの」
「ああ。あのかた、乗馬がご趣味だったわね」
 お姉さまから乗馬鞭を手渡された早乙女部長さまも、物珍しげにその場でヒュンヒュンさせています。

「彼女、乗馬に興味を持つ人が増えるのが、嬉しくて仕方ないみたい。あたしも鞭を一本、手元に置いておこうかな、って何気に言ったら、喜々としてこれを譲ってくださったのよ」
「まさか、馬じゃなくて人間の躾で使う、なんて思ってもいないのでしょうね」
 おっしゃってから、クスクス笑うお姉さま。

「でもまあ、これからお客様の前に出るモデルのお尻を、真っ赤に腫れ上がらせちゃうのもどうかと思うから、今日もちゃんと本格的には、使えないけれどね」
「あら、少しくらいなら、アクセントになっていいのではなくて?何て言うか、デカダンスなムードが出るかも」
 部長さまが、鞭の先のベロの部分を指先でプルプルさせながら、真面目なお顔でおっしゃいました。

「以前どこだったかで、そういう写真を見たことがあるのよ。真っ白なお尻のアップに一か所だけ、鞭のこのフラップの形の赤い痕がクッキリと残っている写真」
「形のいい綺麗なお尻の割れスジ付近に一か所だけポツンて。それはそれは耽美で退廃的で、ゾクッとするくらいエロティックだったわ」
 
 そのお写真を思い出しておられるのでしょう。
 両目を瞑って夢見るようなお顔つきで、部長さまがおっしゃいました。

 すぐに目を開けて、冷えた視線に戻られた部長さま。
「少なくとも、そのウエストにある忌々しいパンストのゴム跡とか、背中のブラのストラップ跡とかよりは、数倍マシだわ」
 視線と同じく冷えた口調で、そうおっしゃいました。

 確かに自分でも気になっていました。
 慣れないパンストを久しぶりに穿いたせいなのか、締め付けられていたゴムの跡が、薄っすらしつこくお腹に赤く残っていました。
 下乳には、ブラのカップ跡もクッキリあるし。

「うん、わかってるって。それはこの後、シャワーでも浴びさせて消すわ。それに、これから本番まで、直子には一切、下着も服を着せないつもりだから」

 お姉さまが冷静なお声で助け舟を出してくださいました。
 だけど、その後半部分にドッキン。
 えーーっ!?お姉さま、そんなおつもりなの!?
 私、裸のままで、イベント会場まで移動することになるのかしら・・・

「それはそれとして、今は直子のアヌスの話だったわよね?」
 早乙女部長さまから乗馬鞭を返してもらったお姉さまが、乗馬鞭の先を私のほうへと伸ばしてきました。
 おふたりに背を向けたまま、顔だけひねって会話に聞き耳を立てていた私は、またもやドッキン。

「ほら、その机のほうへ前屈みになって、お尻をこちらへ突き出しなさい」
 ご命令と同時に、鞭の先のベロが私の左の尻たぶを、スススッと撫でました。
「あはぁっ・・・」
 瞬間、総毛立つほどゾクゾク感じてしまい、思わず淫らな声が漏れてしまいました。

「脚はもっともっと開いて、もっと前屈みになって、お尻を高く突き上げるのっ」
「は、はい・・・」
 
 鞭の先が私の両脚のあいだに入り込んで左右に揺れ、両方の内腿を軽くペチペチ叩いてきます。
 それにつれてどんどん広がる私の両足の幅。

 最初はデスクの上に突いていた両手もデスクを離れ、今は床に着くほどの前屈姿勢。
 両足幅も1メートル近く広がり、腰高の四つん這い、と言ってもよい姿勢になっていました。

 お姉さまが操る鞭の先端ベロは、絶えず私のお尻周辺を這い回っていました。
 お尻の割れスジに沿った、と思ったら尻たぶへ。
 そこから内腿へと滑り、だんだんと左右が交わる地点へと。

 早乙女部長さまもいらっしゃるのだから・・・
 しきりに声帯を震わせたがる淫らな昂ぶりを、唇を真一文字に結んで一生懸命がまんしました。
 今は優しく撫で回すだけのベロが、いつ牙を剥いてお尻にキツイ一発がバチンとくるか、気が気ではなく怯えていました。

「ほら。これがお待ちかねの直子のアヌス」
 ベロの感触が消えた、と思ったら、お姉さまのお声。

「へー、アヌスと性器のあいだにも、まったくヘアが生えていないのねえ。毛穴さえわからないくらいツルツル」
 部長さまの弾んだお声がすぐに追いかけてきました。

「それに森下さん、絵理奈より上付き気味なのね。アヌスも少し後ろめで、穴と穴のあいだ、会陰が広いわ」
 私のお尻に微かに息がかかっているような気がするのは、部長さまがそれだけ、お顔をお近づけになっているのでしょう。

「ふふふ。それにしても、こんな午前中の明るいオフィスで、うちの社員の裸のお尻をこんなに近くで覗き込んでいるなんて、何だかキマリ悪くて照れちゃうわね」

 それは、覗き込まれている私のほうのセリフです、部長さま。
 大開脚状態ですからスジも割れ、濡れそぼった肉襞まで全部見えてしまっているはず。
 私の顔が真っ赤に火照っているのは、窮屈な前屈姿勢のせいだけではありませんでした。

「ちょっと触ってみてもいいかしら?」
 私にではなくお姉さまにお伺いを立てる部長さま。

「どうぞどうぞ、もちろん。ちょっとと言わず、いくらでも、お好きなだけ」
 半分笑っているような、お姉さまのお声が聞こえました。

 お尻に何か触れた、と思ったらいきなり割れスジが左右に割られ、肛門が押し拡げられたのがわかりました。
「ああんっ、いやんっ」

「あら、可愛らしい声だこと。驚いちゃった?」
 私の返事は期待されていないらしく、すぐにお言葉がつづきました。

「見た感じ、穴がこのくらいまで広がるなら大丈夫そうね。柔らかいし、皺の放射も慎ましくて美しいわよ、森下さんのアヌス」
 穴は押し拡げられたまま、前と後ろの穴と穴のあいだを、何かでツツツツと撫ぜられました。
 たぶん指の爪の先。

「ひゃんっ!」
 思わず膝がガクンと落ちるほど感じてしまい、悲鳴に近い声まであげてしまいました。

「あらあら。姿勢が崩れちゃったわね?ここは誰でも弱いものね?いい鳴き声を聞かせてもらったわ」
 部長さまのからかうようなお声で、あわてて元の姿勢に戻ろうとすると、部長さまに手で制せられました。
「ううん、お尻はもういいから。もう一度わたくしのほうを向いてくださる?」

 絵理奈さまとの秘め事を盗聴したときは、オフィスでのお仕事ぶりがらは想像できないほど、完全に絵理奈さまの言いなりエムだったのに、今日の早乙女部長さまは打って変わって見事なエスっぷりでした。
 部長さまって、お相手次第でエムにもエスにもなれる人なんだ・・・
 おずおずと振り向くと、同じ種類の妖しい光を湛えたお姉さまと部長さまの瞳が待ち構えていました。

「最初は両脚揃えて、気をつけ、の姿勢ね。はい、気をつけっ!」
 学校の朝礼での先生みたいなきっぱりとした部長さまの号令に、あわてて直立不動になりました。
 その瞳はずっと一点、私の両腿の付け根が交わる部分、を凝視しています。

「はい、やすめっ!」
 反射的に両足を軽く開き、両手は背後へ。
 部長さまの瞳は、定位置で不動。

「最後に、その机の上にお尻乗っけて座ってみてくれる?」
「あ、はい・・・」
 振り向かずに後ずさりして、手探りでデスクにぶつかり、縁に両手を掛けてお尻を持ち上げました。

「座ったら、両足も机の上に引き上げて」
「はい・・・」
 両脚を出来るだけ閉じたまま膝を曲げ、デスクの上に体育座りするような格好になりました。

「ふふん。さすがに長年バレエをやっていただけあって、からだが柔らかいのねえ。脚閉じたまま机の上に上げられちゃうんだ」
 なぜだか愉快そうな部長さまのお声。
 だけどその瞳には、嗜虐の炎がユラユラゆらめいていました。

「だけどそれではダメなの。両脚は思い切り開きなさい」
 部長さまの、開きなさい、のお言葉が終わるか終らないかのときに、部長さまの横で成り行きを見守っていたお姉さまが、ヒュンと乗馬鞭を素振りされました。
 
 鞭は宙空を切り裂いただけでしたが、私は盛大にドッキーン!
 あわてて両腿をガバッと、盛大に開きました。
 同時にお姉さまのほうを見ると、すっごく愉しそうに笑っていました。

「もうちょっとわたくしに性器を突き出すみたいに後ろにのけぞって、アヌスまで見えるようにね」
「膝が閉じないように、両手で自分の太腿をそれぞれ、押さえておくといいわ」
 
 部長さまのご命令通りにすると、なんとも破廉恥なM字大股開脚姿になりました。
 それも、自分の両手で左右の膝を押し拡げ、大きく開いた内腿の中心に楕円の粘膜を見せて息づくマゾマンコを、自らすすんで見せつけているような。

「あたしが知っている直子に、これ以上無いくらい、お似合いな格好になっているわよ」
 お姉さまが鞭をヒュンヒュン素振りしながら、嬉しそうにおっしゃいました。

「今、直子が言いたいこと、あたしにはわかるわよ?部長さま、あ、違うな、アヤネさま、か。アヤネさま、どうぞ直子のいやらしいマゾマンコを、じっくりご覧ください、でしょ?」

 でしょ?と問われてうなずく訳にもいきませんが、まさに心の中でつぶやいていたことでした。
 お姉さまは、その先は何もおっしゃらず、薄い笑みを浮かべて私の顔をジーッと見つめていました。
 部長さまと同じ種類の炎にゆらめくその瞳が、ほら、早く言っちゃって、ラクになっちゃいなさい、とそそのかしていました。

「・・・ア、アヤネさま・・・」
 
 いつしか私の思いは声帯をか細く震わせ、唇が言葉を紡ぎ始めでいました。

「アヤネさま、ど、どうぞ、どうか直子の・・・直子のいやらしい・・・いやらしいマゾ、マゾマンコを・・・」
 
 さすがに最初は驚いたご様子だった部長さまのお顔が、私の言葉が進むうちにどんどん、嬉しそうなお顔へと変わっていきました。

「・・・マゾマンコをじっくり、じっくりとご覧になられて、く、くださいませ・・・」
 
 言い終えた途端に左の内腿をドロリと、溢れ出た愛液が滑り落ちたのがわかりました。
 部長さまのふたつの瞳は、その一部始終を、まるで脳内で録画でもされているかのように、じっと凝視されていました。

「森下さんて、本当に凄い子だったのねえ。何て言うか、ここまで性的に貪欲な子だったなんて・・・」
 
 私の恥部からやっと視線を外され、少し呆然とされたような部長さまのお声。
 だけど私にはまだ、お赦しのご命令が下されないので、自ら両内腿を押し拡げている姿勢のままです。

「絵美がさっき言っていた、部長さまじゃなくてアヤネさま、っていう呼び方の違いって、何なの?」
 部長さまがお姉さまにお尋ねられました。

「ああ、それはね、見ての通り直子はドマゾなのだけれど、肩書にかしずくのではなくて、人にかしずいて、その人のドレイになるの。そういう志の高いマゾなの」
 お姉さまが茶化すみたいに、薄い笑顔でおっしゃいました。

「よくわからないのだけれど、今さっき、森下さんはわたくしにかしずいてくれたのかしら?」
「そう。さっきはっきり直子は、アヤネさま、って言ったのだから、ダブルイーの早乙女企画開発部長にではなくて、早乙女綾音っていう個人のマゾドレイになることを宣言したのよ」

「ふーん」
 今一ご納得されていないご様子の部長さま。
 矢面の私でさえ、何が何やら・・・

「だから、アヤもいつまでも森下さんなんて他人行儀に呼んでいないで、直子!って呼び捨てにしちゃいなさい。今日からあなたのドレイでもあるのだから。そうよね?直子?」
「えっ?あっ、はいっ!」
 突然私に振られ、条件反射で肯定しちゃいました。

「絵美がそう言うのなら、そうするけれど・・・森下、あ、いえ、ナオコもそれでいいのね?」
「あ、は、はい・・・お願いします」
 部長さまのお見事な虐めっぷりに、私があがらえるはずがありません。

「直子はアヤのこと、これからは、綾音さま、と呼びなさい。今日一日直子はイベントのモデルとしての別人で、うちの社員でもないのだから。他のスタッフについては、来たら後でまた考えるから」
 お姉さまがキッパリとおっしゃり、部長さま、いえ綾音さまも、うなずかれました。

「ところで絵美?わたくし、ずっと観察して思ったのだけれど、森下、いえ、ナオコって、つくづく今日のイベントモデル、いえ、今後のうちの開発モデルとしても、まさにピッタリな人材だと思うの」
 綾音さまが姿勢解除のお赦しを出してくださらないので、私はまだデスクの上で大股開き状態。

「ナオコって性器が上付き気味で、真正面からだと割れ始めが少し表に出るじゃない?まず、そこが妙にエロティック」
「この通り、ハイジーニーナも毛穴さえわからないくらい会陰まで完璧、ツルツルスベスベでしょう?恥丘も綺麗だし、清潔感だって申し分無し」

「大陰唇はぷっくりしていてラビアの外へのはみ出しが皆無だから、見た目がとてもシンプルで、ヘンに目を引く余分なアクセントが無いの」
「それにどういう意味があるかと言うと、隠しやすいのよ。幅が8ミリくらいの紐があれば、あ、パールのロザリーとかでもいいわね、そんなのがあれば、スジからアヌスまでキレイに隠せちゃう」

「こういう品のいいヴァジャイナを、オシャレに、綺麗に見せるアイテムを作って発表したら、それを見た人も、自分の性器周辺の身だしなみに、気を遣い始めると思うのよね」

 綾音さまが突如として、私の恥ずかしい箇所に関して、お姉さまに熱く語り始めました。
 服飾デザイナーをされていると、普通の人とは違うフェティシズムが生まれるのかもしれません。
 
 いまだに大開脚の体勢で見せつけている部分へ、それを指さしながらの論評でした。
 それは当然、ものすごく恥ずかしいことだったのですが、基本的には褒められているようなので、不思議と悪い気分はせず、こそばゆい感じもしていました。

「ほら、これ見てよ。この子のラビアって、アジア系にしては色素沈着が少なくて、少しも黒ずんでいないのよ。膣内が綺麗なピンクの薔薇みたいでしょ?それが柏餅みたいにぷっくりした大陰唇に包まれているの」

「だからワレメがこそっと割れたとき、中の襞のピンクが眩しいくらいで、凄くエロティックなの。初めて見たとき、驚いちゃったもの。ワザと膣内を見せちゃうのもアリだな、なんて思っちゃう」
 私がさらけ出しているマゾマンコを前に、綾音さまの熱弁がつづきました。

「ナオコの裸視ていたら、エロティックなアイテムのデザインがいくつも浮かんできたわ。来年は、もっと凄いのが作れそう」
「わたくしが知る限り、この裸と同じくらいエロティックなのって、絵理奈くらいのものね」
 最後の最後に、綾音さまがノロケられました。

「でも今回は、そのステキな絵理奈ちゃんがドジ踏んだのを、マゾドレイの直子に助けられるのよね、ダブルイーの早乙女部長さんは?」
 お姉さまにしては珍しく、わざとらしいくらい憎たらしい感じでからかうように、綾音さまを冷やかしました。
 私もハッとしたくらいですから、綾音さまもムッとされたお顔でお姉さまを睨みつけられました。

「ふんっ!来年は、ナオコを素材にどんどん凄いアイテムをデザインして、絵理奈に着せるわよ。見ていなさい。ショーでは絵理奈が完璧に着こなしてくれるはずよっ!」
 綾音さまがたたきつけるようにおっしゃり、しばらくお姉さまの涼しげなお顔を睨みつけていらっしゃいました。
 やがて、ふっと眉間の皺を緩められた綾音さま。

「でも絵美?わたくし、ひとつだけ、とても心配なことがあるのだけれど・・・」
 真顔に戻られた綾音さまが、お姉さまと私を交互に見ながらおっしゃいました。

「ナオコって、ちょっと敏感過ぎやしない?」
「正真正銘のマゾって、こういうものなの?さっきからずっと、乳首もクリットも腫らしっ放しじゃない」
 
 綾音さまの視線は、私が押し拡げている楕円形の襞の頂点で、萼をすっかり脱ぎ捨ててツヤツヤ輝いている小豆大の突起を見つめていました。

「それに、この愛液。机の上まで溢れ出しちゃって。感じちゃっているから濡らしているのでしょう?」
「ナオコはつまり、今わたくしたちに裸を視られて、まあ、こんな恥ずかしい格好もさせられて、それで感じちゃって、興奮しちゃってこうなっているのよね?そういう種類のマゾなのよね?」
「今でさえこうなのに、うちのアイテム身に着けて、たくさんのお客様の前に出たとき、この子、正気でいられるのかしら?興奮しすぎちゃって、何か大変なことになったりしないかしら?」

「うん。それはあたしも一抹の不安があるのだけれど・・・」
 お姉さまが少し動揺されたように私を見ました。
 でもすぐに、無理矢理な明るいお声で、こうつづけました。

「でもきっと大丈夫。これから直子を部室に連れて行って、あたしなりに対策も取るからさ」
「今回のアイテムに関してのアヤのお墨付きももらえたし、直子をモデルにして行けるところまで行きましょう。何か起きたらその都度の現場主義でいいじゃない?」
「本番は待ってくれないから、どうなるかわからないことで悩んでいるよりも、とにかく動きましょう」
 
 お姉さまが私に右手を差し伸べてくださり、私のマゾマンコさらけ出しタイムがようやく終わりました。

「絵理奈さん担当のヘアメイクさんは、手伝ってくれるのだったわね?」
「ええ。呼べば30分以内に駆けつけてくれるはずよ」
「じゃあ、すぐ電話して直接部室にきてもらって。黒髪のウイッグを何種類かお願いね」
「わかったわ」

「これからあたしは、直子と部室にふたりきりでこもるから、他のスタッフが来ても、こちらからいいと言うまで部室には来させないで、ここで待機していて。メイクさんだけ寄越して」
「わかったわ。うちのスタッフには経緯を、わたくしから説明しておくわ」

「あたしがアヤに教えたことは、全部言っちゃっていいから。直子がどんな女なのかも含めてね。それで、対外的には、直子は本日、急な家庭の事情で欠勤ね。里美たちやスタンディングキャットの連中にも、そう伝えて」
「シーナさんにはバレちゃいそうだから、頃合い見てあたしから言うわ」
「それも了解。これ、持っていくといいわ。今日、絵理奈に使うはずだったものだけれど」
 
 綾音さまが小さめのショッパーをお姉さまに手渡されました。
 お姉さまは中身も見ずに、それをショッパーごと、ご自分のバッグに詰め込みました。

「アヤもちゃんとお召かししなさいよ?ヘアサロンは残念だったけれど、ドレスは持ってきているのでしょう?」
「ええ。わかっているわよ。絵美もね」

 急にあわただしく時間が動き始めました。
 時計を見ると午前11時を5分ほど過ぎたところでした。
 でも、お姉さまと綾音さまの会話をお聞きするだけで、全裸の私は何も出来ません。

「おっけー、直子?それじゃあ、部室に行こうか」
「えっ!?」
 
 私の右手を握って引っ張って、強引に一歩ドアへと向かいかけ、不意にお姉さまが振り向いて私をまじまじと見てきました。
 全裸の私をオフィスの外へ連れ出そうとしていることに、今更ながら気づかれたようでした。


オートクチュールのはずなのに 43


2016年3月14日

オートクチュールのはずなのに 41

「・・・はい、お姉さま」
 私がコクンとうなずくと、お姉さまが私のそばまで寄ってこられ、応接テーブルの傍らで向き合うような形になりました。

 お姉さまにじっと見つめられながら、おずおずと両手を動かし始めます。
 まず、スーツの上着から両腕を抜きました。
 お姉さまが無言で右手を差し伸べてくださり、その手に脱いだ上着をお渡ししました。

 次にブラウスの襟元に結んだタイを外し、ブラウスのボタンを外し始めます。
 ひとつ、またひとつとボタンを外して素肌が露わになるにつれ、私は、自分がどこか遠いところへと連れ去られるような感覚に陥っていました。

 今、私はここで裸になろうとしています。
 これまでも、オフィスで裸になったことは幾度かありましたが、それは、お姉さまとふたりきりのときだけでした。
 
 でも今回は、応接ルームの閉じたドアの向こう側に、早乙女部長さまがいらっしゃいます。
 平日のまだ午前中、それに何よりも勤務中なのです。
 私が裸になったら、間違いなくお姉さまは裸の私を、早乙女部長さまの前に連れ出すでしょう。
 そして、やがて他のスタッフのみなさま、更にもっとたくさんのみなさまの前へ。

 今ならまだ引き返せる・・・
 頭ではそう思うのですが、両手の指はためらいながらも義務のようにせっせと動き続け、いつの間にかブラウスのボタンは、全部外れていました。

 ううん、もう引き返せない。
 行けるところまで行くしかないの。
 迷いを断ち切るようにブラウスの両袖から腕を抜くと、スッとお姉さまの右手が私のブラウスを取り上げました。

 自分の胸元に視線を落としてみます。
 上半身で肌色でないのは、お気に入りの淡いピンクレースのブラジャーに包まれた部分だけ。
 固くなった乳首がブラジャーの薄い布を押し上げているのがわかりました
 先にスカートを取ろうと両手をウエストへ伸ばします。

「違うでしょ?」
 ずっと無言だっお姉さまから、低く短く、叱責されました。
「先にブラ」
「は、はい・・・」

 おっぱいが丸出しになることを少しでも先延ばしにしたいという、私の上っ面の羞恥心を見事に粉砕するお姉さま。
 勤務中のオフィスで裸になる、という非日常的な行為に反応しまくりな私のふたつの乳首は、窮屈なブラが外れるのを待っていたかのように勢いよくお外へ飛び出し、その尖り切った切っ先をお姉さまに向けて、媚びるように揺れました。

 上半身丸裸になって、スカートを脱ぎます。
 ホックを外してパンプスを脱ぎ、上半身を屈めると、おっぱいが重力に引かれてだらしなく垂れ下がりました。
 そのとき視界に入ってきたパンティストッキングの股間は、あまりにもはしたないありさまになっていました。
  
 床に落としたスカートを拾うと同時に、それもお姉さまの手によって素早く攫われました。
 上体をゆっくり起こし、そっとお姉さまを盗み見ました。

 お姉さまは、私が脱いだお洋服をすべて、慣れた手つきでたたんでくださっていました。
 上着、タイ、ブラウス、ブラジャー、そして今脱いだスカート。
 
 どれも、これからお店のディスプレイに並べて売り物にするかのように、丁寧に綺麗にたたまれていました。
 その行為を見て、お姉さまが無言の背中で、もはやあなたには、こんな服なんて必要ないものね、とおっしゃっているような気がしました。

 残るはパンストと、その下のショーツだけ。
 ただ、その股間がある意味、裸よりも生々しく破廉恥な状態となっていたので、逆にさっさと脱ぎ捨てたい気分でした。
 お姉さまが背中を向けているうちに、と、パンスト内側のショーツもろとも、思い切って一気にずり下げました。
 
 再び前屈みになり、片膝を上げると内腿も開きます。
 妙に滑りの良い肌同士がヌルヌル擦れ、クチュクチュッという淫靡な音さえ聞こえてきそう。

 まず右足から抜こうと、更に膝を深く曲げたとき、お姉さまが振り向きました。
 膝で引っかかっているショーツの内側と私のマゾマンコのあいだを、透明で粘性のあるか細い糸が数本伸びては切れ、どちらかの端に収束していました。
 そんな私の無様な姿を見て、お姉さまが嬉しそうにニッと笑いました。

「あらあら。ずいぶんと濡らしちゃったのねえ。パンストの表面にまでたっぷり愛液が滲み出ちゃってる」
 お渡ししたくなかったショーツ入りパンストを私の手から奪い取ったお姉さまは、わざわざそれらを大きく広げ、私のマゾマンコが包まれていた部分を私の鼻先に突き付けてきました。

「ショーツなんて、前のほとんどがヌルヌルベチョベチョ。モデルの話で、そんなにサカっちゃったんだ?」
「いえ・・・そ、それは・・・」
「それにすごい匂いよ?サカった牝の臭い。あーあ。あたしの指もベットベト」

 ついに全裸になってしまった上に、自分が汚した下着類を見せつけられ、その臭いにまで言及されてしまった私は、ますます被虐的に興奮し、すがるようにお姉さまを見つめました。

「いいのよ。どんどん感じちゃって。どんどん感じて、どんどんエロくなりなさい」
 汚れたパンストとショーツも丁寧にたたんでテーブルに並べ終えたお姉さまは、ウエットティッシュで指を拭ってから、私にまた一歩、近づいてきました。
 間髪を入れず、お姉さまの右手が私の下腹部へ。

「あっ!お姉さまっ!な、何を?・・・」
「うわっ、お尻のほうまでぐっしょぐしょ。それに熱もって、ほっかほか」
 お姉さまの人差し指と中指が無造作に、ズブリと私の膣に突き挿さりました。

「はぁうぅっ!!」
 思わず淫らな声が出て、あわてて口をつぐみました。
 お姉さまの指たちが膣内でウネウネと動き回り、私の官能をいたぶってきます。

「あぅ、お姉さま・・・ダメです、ダメですってば・・・む、向こうには、ぶ、部長さまも・・・」
 喘ぎ喘ぎの掠れ声で赦しを乞いましたが、お姉さまは知らん顔。
 指の動きがどんどん激しくなってきました。

「アヤのことなら気にしなくていいわ。あたしと直子の関係、もう知っているもの。それより今は、直子のサカったからだを鎮めるのが先決。ほら、イッていいのよ」
「ほらほら、いつもみたいにいやらしい声あげてイキなさい。中だけじゃダメ?ならここも」

 ずっと腫れっぱなしだったクリトリスを擦られ、ぐぐっと頂上に近づきました。
 それでも早乙女部長さまに気が引けて、悦びの声を洩らすまいと唇を真一文字に結び、必死に我慢します。
「んーーっ、んーーっ、んんーーっ、んんんーっ!!」

「喘ぎ声、我慢しているんだ?ふーん。アヤに聞かれるのが恥ずかしいの?ま、好きにすればいいわ。ほら、もう一度イク?」
「直子のマゾマンコが、あたしの指を逃がしたくないって、すごい力で締め付けてるわよ?」
「ほら、ほら、何度でもイッていいから。もっと?もっと?」
「んんーーーーーっ!!!」

 お姉さまが、絵理奈さまの代わりを私にやらせるおつもりらしい、とわかったときから、被虐と恥辱の予感に打ち震え、疼きっ放しだった私のからだは、お姉さまの本気の指技の前に呆気なく、ほんの数分のあいだに立て続けに5回、昇りつめました。

「はあ、はあ、はぁ、はぁ・・・・」
 崩れ落ちそうになる腰を、なんとか両脚を踏ん張って支え、荒い吐息の中、私の股間から離れていくお姉さまの右手を見送りました。
 いつの間にか両手は、後頭部で組んでいました。

「見て、あたしの指。マゾマンコの熱気とよだれのせいで、フニャフニャにふやけちゃった」
 お風呂上りみたいな指先を、私の鼻先に突き付けてくるお姉さま。
 紛れもない私の臭いが、プーンと漂ってきました。
 自分の臭いなのだもの、顔をそむける訳にもいきません。

「うん。ますますいい顔になった。今日は、イベントのショー本番まで、直子を好きなだけイカせてあげるわ。イジワルな焦らしとか、一切なしでね」
 お姉さまがウエットティッシュで私の股間を拭いてくださりながら、おっしゃいました。
 ティッシュがまだ腫れの引かないクリトリスにちょっとでも触れると、途端にビクンと性懲りも無くまた感じてしまいます。

 お姉さまにオフィスでイカせていただいちゃった・・・
 この後も好きなだけイカせてくださるって・・・
 それは何て、夢のようなお言葉・・・

「ショーまでに、直子のムラムラを出来るだけ解消しておいたほうがいいと思ってさ。溜め込んだまま本番になって、とうとう我慢出来なくなってお客様におねだりなんてし始めたら、目も当てられないから」
 ご冗談めかして、そんなことをおっしゃるお姉さま。

「でも逆に、何度イッたとしても、直子の淫欲の泉が枯れることは無いとも思っているの。今だって乳首もクリトリスも相変わらずビンビンだものね」
 クスッと微笑んでから、不意に真面目なお顔に変わったお姉さま。

「直子って、イクたびにエロくなるから、それが狙いかな。今だってからだじゅう、ものすごく敏感になっているでしょう?その、ひとの嗜虐性を煽るような妙な色気が、ひとの目を惹きつけるのよね」
「その感じで今日のモデルをしてくれれば、今回のアイテムの特徴もより引き立ちそうだし、お客様の心が掴めるような気がするのよ」

「今日のイベントで直子が体験することは、あたしが知っているヘンタイドマゾな直子の妄想をも、軽く超えるものになると思うの。何て言うか、露出マゾとしての新しい扉を開く、みたいな?」
「だから、直子も自分の性癖に素直になって、さらけ出して、愉しみながら頑張って、って言いたいかな?お姉さまとしては」
 この場をまとめるみたいなお言葉をおっしゃりながら、私が脱いだ衣服をひとまとめにして小脇に抱えました。

「さあ、次は早乙女部長に、そのからだを隅々まで、存分に視てもらおっか。彼女、きっとお待ちかねよ」
 さも当然のことのように、イタズラっぽくおっしゃるお姉さま。
 お姉さまがイジワルでワザとおっしゃったのであろう、早乙女部長、というお堅い呼びかたで、私は性的快感の余韻から現実へと、一気に引き戻されました。

 ここは現実のオフィス。
 早乙女部長さまがいらっしゃるのも現実。
 私が今、全裸なことも現実。
 そして今日、キワドイ衣装を着てショーのモデルをしなくてはいけないのは、紛れもなく現実の私でした。
 
「おっけーお待たせーっ。交渉成立。イベント決行よ!」
 私の衣服一切を持ったお姉さまだけ、スタスタと応接ルームのドアへ向かわれ、何の躊躇無く開け放つと、大きなお声でメインルームに向けて宣言されました。
 そのままメインルームへと消えるお姉さまのお背中。

 取り残された私には、開け放たれたままのドアの向こう側が、前人未到の奥深いジャングルのように思えました。
 出来ることなら出たくない。
 今更ながら、急に怖気ついてしまいました。
 あのドアからメインルームへと一歩踏み出したとき、現実の私の、この会社での立場がガラッと変わってしまう・・・
 それがわかっていたからでしょう。

 あらためて自分のからだを見下ろしました。
 今日はチョーカーも着けてこなかったので、文字通りの一糸纏わぬ姿。
 私が着てきたお洋服は全部、お姉さまに没収されていました。
 そして、当然のことながら、お姉さまとお約束した私は、いつまでもここに隠れている訳にはいかないのです。

 唯一床に残されていたベージュのパンプスを裸足に履き直し、ゆっくりとドアに近づいていきました。
 なんだか慣れない感じがする。
 考えてみると、全裸にハイヒールだけで歩くの、って初めてかも。
 
 そんなどうでもいいようなことを考えて現実から目を逸らしつつ、おずおずとドアの外へと足を踏み出しました。
 早乙女部長さまがいらっしゃるということで、さすがに、堂々と、とは出来ず、左腕で胸を、右手で股間を隠しながらしずしずと歩みました。

 あらま、というお顔になってお口を軽く押さえていらっしゃる早乙女部長さまのお姿が、視界に飛び込んできました。
 お隣には、薄くニヤニヤ笑いを浮かべたお姉さまのお姿。
 おふたりとも応接ルームのドアすぐ近くまでいらっしゃっていました。
 私が近づくたびに早乙女部長さまは、一歩一歩後ずさりされました。

「ほら直子、こっちのもっと明るいところまで来なさい」
 お姉さまに窓際の、たまに私がメインルームでお仕事するときに使っているデスクのほうへと誘導されました。
 左腕で胸を右手で股間を押さえた姿の私は、そのデスクの前に立たされました。
 
「森下さん、イベントのモデル、引き受けて、くださったのね?」
 ドアのところでお見せになった、あれま、のお顔は引っ込んだものの、それでもまだ、信じられない、という雰囲気のままの早乙女部長さまが、ゆっくりとワンセンテンスごと区切って、お声をかけてくださいました。
 区切りの合間には、ゴクリと唾を飲み込まれる音が聞こえてきそうでした。

 それはそうでしょう。
 お仕事柄、女性の素肌には慣れていらっしゃるでしょうが、昨日まで普通にオフィスで顔を合わせていた社員のひとりが、パンプスだけの全裸姿で目の前にいるのですから。
 それも、チーフとの応接ルームでの話し合いの後、ひとりだけ全裸で出てきたのです。

 私も、部長さまのお顔をまともに見ることは出来ませんでした。
 全裸ということに加えて、私の顔は今さっき、お姉さまの指で立てつづけにイカされた直後、という、ふしだらなオマケ付きなのです。

「はい・・・わ、私しか、身代わりになれないとお聞きしましたので、僭越ながら、やらせていただきます・・・」
 胸と股間を押さえたまま視線を合わさずに、ペコリとお辞儀をしました。
 
「そう、ありがとう・・・このイベントの責任者のひとりとして、お礼を言わせてもらうわ」
 瞳を宙空に泳がせたままそうおっしゃり、私にひとつお辞儀を返してくださった部長さまを、お姉さまが嬉しそうに見ていました。

「さあ、そういうことだから、いつまでもグズグズしていないで、イベントに集中しましょう」
 なかなか本来のお姿にお戻りになれない部長さまに焦れたのか、お姉さまがワザとらしいくらい明るいお声でそう宣言され、早乙女部長さまの肩を励ますように軽くポンとお叩きになりました。
 それで部長さまも我に返られたのか、何か呪縛が解けたようなため息を、小さくホッとつかれました。

「そうね。集中しましょう。せっかくイベントが中止にならずに済むのだから」
 ご自分に言い聞かせるようにおっしゃった部長さま。
「それにしても、森下さんて、本当にそういう、女の子だったのね・・・」
 心の中のお気持ちがついお口から出てしまったようにポツリとつぶやかれ、あらためて私を見てくる部長さまの呆れたような瞳。
 部長さまの頭の中で、私という人物に対する認識が、ギュンギュン書き換えられているのが、手に取るようにわかりました。

「まずは早乙女部長に、モデルのからだを確認してもらわないと・・・」
 おっしゃりながら、私の顔を睨みつけてくるお姉さま。
「直子?あなたの両手は、そこではないでしょう?あなたのすべき、あなたも大好きなポーズが、あるのじゃなくて?」
 お姉さまったら、急なエスモード全開で、私はビクン!

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」
 いずれは注意されると覚悟はしていたものの、見知った部長さまに初めてすべてをお見せすることは、気恥ずかしさの上に肉体的な恥ずかしさ、更に自分の性癖をお披露目する恥ずかしさまで重なって、普通の何倍もの恥ずかしさでした。

 両足は、休め、の広さに開き、両手は重ねて後頭部へ。
 両腋の下からおっぱい、そして両腿の付け根まで、すべてが露わになって隠せない、マゾの服従ポーズ。
 部長さまがグイッと身を乗り出してくるのがわかりました。

 早乙女部長さまの射るようなプロの視線が、私の全身を隅々まで舐めるように、吟味していくのがわかりました。
 頭の天辺から爪先まで、5度6度と往復して、最後は下半身に留まりました。

「ずいぶんと綺麗なハイジニーナなのね?永久脱毛かしら?」
 部長さまの口調は、いつものお仕事のときと変わらない、クールな感じに戻っていました。
 私のからだをプロの目で吟味することで、いつものペースを思い出されたのでしょう。

「あ、あの、えっと・・・」
 私が、どうお答えしようか、と口ごもっていたら、お姉さまがお口を挟んできました。
「この子、エンヴィでやってもらったのよ」

「エンヴィって、あのアンジェラさんのところ?それはまたずいぶんと、お金がかかっているのねえ」
 部長さまが呆れたようなお声でおっしゃいました。

「この子は、シーナさんのお気に入りだったからね。あたしのモノになる前に、シーナさんからいろいろと仕込まれているのよ」
「高校生の頃から、自分で剃ってパイパンにしては、学校や街でこっそりノーパン遊びして悦に入っていたっていうから」
 きっとワザとなのでしょうが、お姉さまが思い切り蔑み切った口調でおっしゃいました。

「ふーん。そんなに以前からハイジニーナがお好きだったのね。いったいなぜなのかしら?」
 お姉さまの口調に引きずられるように、部長さまのお言葉にもイジワルな響きが混じり始めていました。
「そう言えば以前、森下さんにここでバレエを踊ってもらったとき、薄いな、とは思ったのだけれど、まさかここまでツルッツルとは思いもよらなかったわ」
 部長さまが薄い笑みを浮かべ、私の顔と股間を不躾に見比べながらおっしゃいました。

「ほら、直子?部長さんに、正直にお答えなさい」
 お姉さまに薄いニヤニヤ笑いで促されます。

「は、はい・・・それは、私が、マ、マゾだからです・・・」
 自分でお答えして、自分でゾクゾク感じていました。

「そう。マゾなの。マゾって、虐められたり、イタい思いをワザとしたがるような人たちのことよね?それと、ハイジニーナと、どうつながるの?」
 わたくしそんなこと、まったく存じません、みたいな感じで、シレッと私に問い返す部長さま。
 
 だけど、これは部長さまからの、私をからかうためのお言葉責め。
 いくら知らないフリをされたって、現に今、部長さまだって絵理奈さまのために、ご自分でヘアを処理されて、そのパンツスーツの奥がパイパンなこと、知っているんですから・・・
 心の中ではそんなふうに、部長さまに反撃してみるのですが、もちろん言える訳ありません。
「そ、それは・・・」

「露出狂のマゾだから、毛なんてジャマで、中身までよーく視てもらいたいのよね?」
 お姉さまの茶化すような合いの手。
「は、はい・・・その通り、です・・・ろ、露出狂マゾには、ヘアはいらないんです・・・」
「あらあら。露出狂でもあるんだ?それはそれは、多趣味だこと」

 おふたりで私を虐めにかかっている雰囲気がありました。
 部長さまから、最初の戸惑ったようなご様子は掻き消えていました。
 おふたりとも嗜虐的な瞳で、私を見下していました。
 それはきっと私が、そうさせるようなオーラを放っているからなのでしょう。

「身が美しいって書いて躾、って言うけれど、本当に良く躾けられた、美しいからだだこと。合格よ。あなたなら今回のモデル、絵理奈と遜色ないわ」
 部長さまが薄く微笑み、それからお姉さまを見ました。

「絵美ったら、いつの間にかこんな面白そうな子と愉しんでいたのね。わたくしに内緒で」
「アヤだって、いつの間にか絵理奈ちゃん、たらしこんでいたんでしょう?お互い様よ」
 束の間のおふたり、学生同士みたいな和気藹々な会話。

「でもまあ、直子の場合は、イベント終わったら本性バレで、うちの社員の共有ペットみたいになっちゃいそうだけれどね。とにかくこの子、恥ずかしがりたくて、虐めてほしくて仕方ないドマゾだから」
「今日のモデルの件は、あたしのプライベート調教ということになっているから、アヤも躊躇せず、どんなことさせてもいいからね。すべて従う約束だから」
 そこまでおっしゃって、お姉さまが私のほうを向きました。

「直子もここからは、アヤも含めてスタッフ全員の言葉は、すべてあたしからの命令だと思うこと。誰のどんな言葉にも絶対服従よ。それでイベントを必ず成功させましょう」
 傍に部長さまがおられて張り切っていらっしゃるせいでしょうか、お姉さまのエス度がいつにも増してストレートに感じられました。
「はい・・・わかりました。精一杯、やらせていただきます・・・」
 
 もはや私は、取り返しのつかない地点まで足を踏み入れたことを、今の一連のお姉さまのお言葉で実感しました。
 会社のスタッフ全員の共有ペット・・・
 ポイント・オブ・ノーリターン、というやつです。
 
「そうそう。どんなことでも、で思い出したけれど、この子、アヌスのほうは、どうなの?使えるの?」
 部長さまが、私の股間から視線を外さず、お姉さまに尋ねました。
 普段の部長さまなら、とてもお使いにならなそうな、お上品とは言い難い単語が、そのお口からスルッと出たので、妙にドキッとしました。

「ああ。プラグを使うアイテム、あったわね、大丈夫よ。直子、お見せしなさい」
「えっ?」
「こちらにお尻向けて前屈しなさい。あっ、その前に、ちょっと待ってて」

 ご命令通りお姉さまたちに背中を向けているあいだに、お姉さまは、社長室のほうにとっとっとっと駆けて行き、すぐに戻られました。
 その右手にはあの、ピンクのブランドもの乗馬鞭が握られていました。


オートクチュールのはずなのに 42