2016年1月3日

オートクチュールのはずなのに 31

 戸惑っている私を察してくださったのか、早乙女部長さまがフッと微笑み、表情を柔らげて説明してくださいました。

「森下さんはうちに来てまだ間もないから、恥ずかしがるのもわかるわ。突然、スタッフみんなの前でブラを取れと言われてもね」
「でも、これはわたくしたちの大切な仕事なの。クライアントに頼まれて、その要求がエロティックさの追求であれば、それに応えなければならないのよ。スタッフみんなで協力して、いろいろアイデア出し合って」

「今まで見てきたところでは、森下さんて、とても恥ずかしがり屋さんのようね?でも、自信持っていいのよ。あなたのからだは、とても奇麗だわ」
「バレエやっていただけあって、柔軟でリズム感もいい。わたくしの要求に応えられる素養がある。アパレル開発のフィッティングモデルにうってつけなの」
「だから、協力して、ね?」
 私の目をじっと見つめながら、諭すように丁寧におっしゃってくださいました。

 お役御免となって見物側にまわったほのかさまを含め、八つの瞳が私の顔をじっと見つめていました。
 どなたのまなざしも真剣そのもので、お仕事に集中されているときにお見せになるお顔でした。

 そうでした。
 これは大事なお仕事なのです。
 みなさま、より良いものを造ろうと知恵を出し合っている現場なのです。
 それなのに私だけ、えっちな妄想ばかり先走ってしまって・・・
 性的な意味のほうでは無く、自分を恥ずかしく思いました。
 
「わかりました。やります」
 私もちゃんとお仕事に徹して、少しでもみなさまのお役に立たなければ。
 そんな決意を込めてうなずき、あらためてインナーのジッパーに手をかけました。

「恥ずかしいのなら、わたくしたちに背中を向けて着替えていいわよ」
 部長さまからのおやさしいお言葉。
「あ、はい」
 お言葉に甘えてみなさまに背を向けると、目の前に広がる青い空。
 そう、ここは窓際でした。

 だけど、見えるのは空だけの超高層ビルの窓。
 地上までだって二百メートルくらいあるのですから、覗かれる心配なんていりません。
 思い切ってジッパーを一気に下ろし、インナーの前を開きました。

「ホック、外してあげる」
 背中に回そうとした腕を遮るようにリンコさまが近づいてきて、コソッと外してくださいました。
「あ、ありがとうございます」
 
 インナーを脱ぎ去り、ブラのストラップを肩から外します。
 リンコさまが背後で待機してくださっているのがわかります。
 ヘンにおっぱいを隠したりせず、出来るだけ自然に、堂々と。

 上半身、裸になりました。
 脱いだ衣服はリンコさまが受け取ってくださり、代わりに着替えるべきインナーを無言で手渡して、退かれました。
 
 手渡されたインナーを広げながら、まっすぐ窓を向き、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をひとつ。
 さっきより陽が傾いて少しだけ翳り始めた青い空が、曇りひとつ無く磨かれた素通しガラスの向こうに広がっていました。

 窓の外、辛うじて視界に入る低いところを、一羽のカラスさんがスーッと横切って行きました。
 私、今、お外に向けておっぱいを丸出しにしているんだ・・・
 ついさっきの、お仕事に徹する、という決意はどこへやら。
 すぐにいやらしい妄想が頭をもたげてしまう、どうしようもない私。

 それと同時に気づいてしまいました。
 ピカピカのガラス窓に薄っすらですがハッキリと、私の姿が映りこんでいることを。

 首には、マゾの首輪と見紛うような赤いチョーカー。
 一糸纏わずさらけ出したおっぱいの先端はふたつとも、誰かに摘んで欲しくてたまらない、といった様子で尖りきっています。
 おへそからなだらかに下降する下腹部を、申し訳程度に覆い隠す幅の狭いスカート。
 その裾ギリギリにチラリと姿を見せている、黒い濡れジミの逆三角形。
 なんてはしたない、恥ずかしい姿。
 そして、私の後方1メートルくらいのところにズラリと並び、私をじーっと見つめているみなさまの目、目、目。

 その視線は、私の背中を通り越してガラスに映った私のおっぱいに集中しているように感じました。
 見られてる、視られちゃってる・・・
 こんな恥ずかしい状況で、露骨に反応してしまっている私のふしだらな乳首。
 ついにチーフ以外の会社のみなさまにも、私のいやらしい性癖をご披露してしまった・・・
 ドキドキが高鳴り、全身がキュンキュンざわめき始めました。

 ううん、いけない、いけない。
 このままマゾの血が騒ぐに任せてえっちな妄想に囚われていたら、またみなさまにご迷惑をかけてしまう。
 これはお仕事、これはお仕事なのだから・・・
 自分にそう言い聞かせながら、急いで着替えのインナーに腕を通しました。

「着終えたようね。こっち向いて、またわたくしたちのリクエストに応えてちょうだい」
 ジジーッというジッパーを上げ終わる音が合図だったようで、部長さまからお声がかかりました。
「はいっ」
 これはお仕事、これはお仕事と、呪文のように頭の中でくりかえしつつ、みなさまの前に向き直りました、

「今度のは、あまりピチピチではないでしょう?」
「はい。ウエストにも余裕があって、これならせり上がることはないと思います」
 そうお答えはしたものの、実際は問題大有りでした。

 さっきまでのインナーよりルーズフィットになった分、胸元も腋も浮きやすくなってしまい、少し前屈みになると胸ぐりからバスト全体が覗けそうなほど。
 たぶん腋からも。
 バスト周りも数ミリの余裕があるので、ノーブラになった分動くたびに裏地に乳首の先が直に擦れて、ますます尖ってしまいそう。
 薄い生地ですからもちろん、まっすぐ立っているだけでもバストトップの位置が丸わかりなくらいに布を浮かしていました。
 これでさっきみたいに飛んだり跳ねたりしたら・・・
 淫らな妄想に嵌まり込みそうになっているところを、部長さまのお声が遮りました。

「それではまず、さっきみたいにジャンプしてみて。いくわよ?はい、ワンツーワンツー」
 パンッパンッ!パンッパンッ!
 真剣なまなざしで両手を打ち始める部長さま。
「あ、はい」

 拍手を聞いた途端、条件反射のように跳ね始める私。
 さっきみたい、ということは、腕の動きも付け加えなくちゃ。
 両腕を水平から頭上へ、ワンツーのツーのところでパンッと両手を打ち鳴らします。

「ジャンプしながら90度くらいづつその場で回転してみてくれる?360度見たいから」
「は、はい」
 ぴょんと飛び跳ねたらからだをひねり、着地するときはみなさまに対して右向きになるように、次は背中、次は左向きとグルグル回りながら跳ねつづけます。
 ジャンプし始めてすぐに、さっき考えかけた妄想が現実になったことを知りました。

 ブラジャーの支えを失った乳房が、ジャンプするたびにインナーの中で自由奔放に暴れまわります。
 尖った乳首が裏地に擦れまくり、そのたびにピリピリと全身に心地良い刺激が走り、どうにかなちゃいそう。
 両腕を挙げると胸ぐりはがら空きで、今にもおっぱい全体がこぼれ出そう。
 肩紐は落ちそうになり、腋も全開。
 腋の空間から乳首まで、丸ごと見えてしまっているかも。
 もちろん超ミニスカートは、黒ジミショーツを隠す暇もなくひるがえりっ放しでした。

 部長さまは手を叩きながら私の全身にくまなく視線を走らせ、時折傍らのリンコさまに何かコショコショ耳打ちされています。
 逐一それをメモするリンコさま。
 ほのかさまとミサさまは、微動だにせず視線だけが上下していました。

「はい、そのくらいでいいわ。ありがとう」
 二分くらい連続でジャンプさせられ、ようやくお赦しが出ました。
 ハア、ハア、ハア・・・
 私の頬が火照り、息が上がり気味なのは、急に運動させられたせいだけではありませんでした。
 みなさまに、こんな裸に近い姿をずーっと見つめられつづけていることに、私のからだが私の意志とは関係なく大興奮していました。

「こちらのほうが、何て言うか、ダイナミックな感じがしない?布地の動き、とくにシワが動くことで柄も躍動して」
 部長さまが誰に尋ねるというわけでもなく、おっしゃいました。
「そうですね。ピッタリめだとからだのラインは奇麗に出るけれど、小じんまりしちゃうかもしれませんね」
 リンコさまのお答え。
「だけど、こっちの場合、胸元とサイドは再考の余地有りです。無防備に過ぎる、と言うか」
 そんなことをおっしゃるということは、やっぱり乳首まで見えてしまっていたのでしょうか。

「森下さんは、実際に着ていて、何か気がついた点、ある?」
 部長さまからの突然のご指名。
「あ、はい。気がついた点、ですか?あの、えっと・・・」
「遠慮しないで。率直な意見を聞きたいの」
 語気鋭い部長さまの、真剣そのものなお顔。
「は、はい・・・」
 その迫力に気圧されて、思ったことを素直に告げることにしました。

「えっと、ノーブラになって、激しくからだを動かすとですね、あの、ちく、あ、いえ、バストトップがお洋服の裏地に擦れて、な、何て言うか、気まずいって言うか、落ち着かないと言うか・・・」
「ああ。なるほどね」
「あ、その点は、当然ニップルパッドを着けることになるので、本番では問題ないかと」
 リンコさまがすかさず解決策を示されました。
「そう。でもかなり激しく動き回ることになるから、強力な接着力が必要になるわね。剥がれ落ちないように」
「はい。いっそ医療用のバンソーコーのほうがいいかもしれませんね」

「その他には?」
 部長さまが私に向き直りました。
「あとは、とくに、別に・・・」
「そう。では、森下さん的には、今のとさっきの、どちらがいいと思う?」
「私的には・・・うーん、こちらでしょうか。踊っていて裾がせり上がってしまうのは、やっぱり落ち着かないです」
「そっか。なるほどね。ありがとう。参考にさせていただくわ」
 そうおっしゃってから、少し考え込むような仕草をなさった部長さまが、思い切るようにお顔を上げ、まっすぐ私を見つめてきました。

「ねえ、森下さん?あなた、何かアイドルの曲で振付けまで憶えているような曲、ある?」
 突然のお尋ねに面食らう私。
「アイドル、ですか?・・・私、そういうの、ぜんぜん疎くて・・・」
 パッと思い浮かんだのはスパイスガールズでしたが、ダンスを全部憶えているワケではないし。
 日本のアイドルさんの曲は、まったくと言っていいほど知らないし。

「それならバレエでもいいわ。長くやっていらしたのでしょ?」
「はい。バレエであればいくつかは・・・でも、音楽がないと・・・」
「あら、わたくしのクラシックライブラリーは凄いのよ。プレイヤーにデーターにして詰め込んでいるのだけれど、CDで言えば優に1000枚は超えているはず」
 オフィスに絶えず低く流れているクラシック曲は、早乙女部長さまのライブラリーだったんだ。

「でもバレエ音楽は、あまりなかったかな・・・あ、そうそう。チャイコフスキー。チャイコなら定番よね?」
 クラシック音楽の話題になって、いつになくウキウキした感じの部長さまが新鮮です。
「白鳥の湖と眠れる森の美女、くるみ割り人形。この3つなら何種類かづつ入ってるはずよ」

「白鳥の湖なら、オディールのヴァリエーションはずいぶん練習したので、今でも憶えているとは思いますが・・・」
「よかった。それは何ていう曲で踊るの?」
「あの、えっと、第三幕のパ・ド・シスの・・・あの、今、ここで踊るのですか?」
 ご自分のデスクの上に置いてある音楽プレイヤーらしきものを操作し始めた部長さまに向けて、戸惑いながら問いかけました。

「お願いしたいのよ。さっきみたいにぴょんぴょん跳ねるだけではなくて、実際に曲に乗ってダンスしているところを見ることで、何かインスピレーションが湧いてくるかも、って思ったの」
「せっかく踊れる人材がいるのだもの、使わない手はないな、って」
 最後の部分だけ、お仕事の鬼な部長さまらしい言い回しでした。
「はあ・・・」

「やっぱりトゥシューズ履かないと難しい?」
 私があまり乗り気でないのがわかったのか、少ししょんぼりした感じの部長さまらしくないお声が聞こえて、胸がズキンと痛みました。

「いえ、そんなことはありません。裸足になれば何とかなるとは思いますが。でもちゃんと出来るかどうかは・・・」
 部長さまをがっかりさせたくなくて、期待させてしまうようなことを返してしまう私。
「出来なんて気にしなくていいわ。バレエ音楽はあまり詳しくはないけれど、見るのは好きなの。こんなに間近で見れるなんて嬉しい」
 部長さまをすっかりその気にさせてしまったようでした。

「それで、何ていう曲をかければいいの?」
「あ、えっと確か第三幕の第19曲目。パ・ド・シスのf、ヴァリシオン5という曲です」
「なんだか呪文みたいな曲名」
 ミサさまが独り言のようにポツンとつぶやかれました。
「この曲かな」

 麗しいハープの調べがボリュームの上がったスピーカーから流れてきました。
 つづいて始まる、どことなくオリエンタルで軽快なメロディ。
 懐かしさと共に、その振付けをはっきり思い出しました。
 やよい先生のご指導の下、ひとつひとつ身につけていったアラベスク、フェッテ、ピルエット・・・
 覚えるたびにうれしくなって夢中で練習した日々。

「ずいぶん短かい曲なのね」
 しばしノスタルジーに浸っていた私を、部長さまのお声が現実に引き戻しました。
「でも耳に残る面白い曲。この曲にどんなダンスが乗るのかしら?ここはどういう場面なの?」
「あ、はい。オディールっていうのは悪魔の娘の化身の黒鳥で、物語のヒロインである白鳥の女王オデットとそっくりさんなんです。それで、そのオディールが主人公を騙して誘惑するという場面です」

「誘惑の場面ということは、バレエだとしても何かしらセクシーな感じになったりするのかしら。ますます楽しみだわ」
 セクシー・・・
 部長さまの弾んだお言葉に、私もハッと思い出しました。
 バレエのお話と思い出に夢中になっていて、すっかり忘れていました。
 今の自分の服装のことを。

 この曲の振付けは、かなり大きな動きがいろいろ出てきます。
 クルクル回るフェッテやピルエットでは、短すぎるスカートがひるがえりショーツが丸出しになるでしょう。
 脚を大きく振り上げれば、ショーツの両腿の付け根まで丸見え。
 腕は常に鳥のように羽ばたいていますから、腋もがら空き。
 最後のほうでは、両脚を前後に広げて跳ぶグラン・パ・ドゥ・シャもあったはず。
 すべてやったら、おそらくショーツは股深く食い込み、肩紐はずれて、胸元ははだけて・・・
 踊り終えた後、私はどんな姿になっているのでしょうか。

 唐突に、ずいぶん昔、バレエレッスンのときに試してみた、ある冒険のことを思い出していました。
 
 あれはまだ高校生の頃。
 自分のヘンタイ性癖には気づいていたけれど、それにどう対処すればいいのかわからなかった臆病者の私が好奇心を抑えきれず、公然露出の心境を味わってみたいと精一杯勇気を出して挑戦したプチヘンタイ行為。
 その頃憧れていたバレエ講師のやよい先生の気を惹きたい、という気持ちもあったと思います。
 いつものバレエレッスンのとき、インナーショーツとタイツをわざと忘れて、素肌に直にレオタードだけ着てレッスンルームに出たのでした。

 ルームには他の生徒さんたち、学校の親友さえもいるのに、股間を濡らして、布をスジに食い込ませて、その姿を鏡に映して。
 あのときはまだ、薄めだけれど毛も生えていたっけ。
 
 タイツを忘れてきた私への罰、それはスジを食い込ませた恥ずかしい私の姿をみなさまに晒すこと・・・
 視ないで・・・でも視て・・・
 鏡の前で課題のパをひとり黙々と練習しながら、そんな行為に人知れず、まだ幼いマゾマンコを疼かせていた私。

 あのとき何食わぬお顔で話しかけてきたやよい先生。
 後にやよい先生と初めてSMプレイをしたときに、気づいていたことを知らされたけれど、そのときはバレていないと信じ込み、鏡に映った自分のいやらしい姿に心臓がバクバク波打っていました
 
 あのとき感じた、ほろ苦い中にもちょっぴり甘酸っぱい自虐の快感。
 スリル、羞恥、恥辱、背徳・・・
 それらが鮮やかによみがえってきました。
 
 あの感覚を、もう一度味わいたい。

「森下さん、準備はいい?曲、流すわよ?」
 部長さまからお声がかかり、我に返りました。
「あ、はいっ」

 みなさまの前で精一杯踊ろう。
 服装がどうなろうとなりふり構わず、私のすべてを視ていただこう。
 だって私は視て欲しくて、それがお仕事のためにもなるのだから。
 
 バレエ教室での最初の発表会のとき、確か中二だったかな、みたいにドキドキしていました。
 ひとつ深呼吸をしてから目をつぶり、最初の音を聞き逃さないように耳を澄ませました。


オートクチュールのはずなのに 32


2015年12月27日

オートクチュールのはずなのに 30

「着けてあげる」
 リンコさまがスルスルっと近寄ってきて、私の背後に立ちました。
「ちょっと上向いててくれる?」
「あ、はい」
 首筋を伸ばすように顎を前に突き出していると、喉にヒヤッと冷たいものが触れました。

「はふぅん・・・」
 その瞬間、からだ中にゾワゾワっと不穏な電流が走り、思わずヘンな声を洩らしてしまいました。
「ひんやりした?スベスベのレザー使っているからね。どう?キツクない?」
「あ、はい。大丈夫です」
 首の後ろをコソコソさわるリンコさまの指にうっとりしそうになるのを、ここはオフィスで今はお仕事中なのだから、と自分に言い聞かせて戒めました。

「なるほど。こうして見ると、チョーカーっていうのも悪くはないわね」
 リンコさまからチョーカーを着けられる私を、じーっと見つめていた早乙女部長さまが、感心したようにおっしゃいました。

「着けると何て言うか、その子が従順そうに見えてくる。何でも思い通りになりそうな。着ける子の雰囲気にもよるのでしょうけれど」
 部長さまの視線が私の全身にもう一度、素早く走りました。

「生意気そうな子が着けていたら、それはそれで征服感みたいなものを感じるかもね。確かにオタク受けは良さそうだわ」
 部長さまの傍らに戻ったリンコさまも、そのお言葉にウンウンと真剣に頷いていらっしゃいます。

「一応、上着も着てみましょう」
 部長さまに促され、テーブルの上の上着を手に取りました。
 これも思っていたよりペラペラ。
 ほのかさまが着ているブレザーとデザインや色使いは同じですが、布地が違うみたい。
「着終わったら、ふたり並んでみて」
 部長さまのお声で、ほのかさまが私に近づいてきました。

「これにあと、ソックスとシューズ、よね?」
 ほのかさまと並んで直立不動の私の前に、早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまが立ちはだかるように並び、私たちをジロジロ見つめていました。
「はい。Aタイプは白のハイソ、Bタイプは三つ折です。靴はどちらもブラウンのローファー」
 リンコさまが何かの書類をめくりながら、部長さまの質問にテキパキお答えされています。

 ほのかさまとこうして並んでみると、あらためて私の穿いているスカートの短かさが際立ちました。
 私より少し背の高いほのかさまのスカートの裾と私のとを較べると、身長差を差し引いても10センチ以上の差がありました。
 股下0センチ、クロッチ部分ギリギリ丈の頼りないペラペラなスカート。
 少し背伸びしただけでも覗いてしまうその部分が今、どんな状況になっているのか、気が気ではありませんでした。

 朝からいろいろと発情していた私ですから、この試着を始める前からすでに、たとえばもしも真下からスカートの中を覗かれたらわかる範囲には確実に、銀色ショーツに黒い濡れジミを作っているはずでした。
 問題は、その後でした。
 このお着替えを始めてからも、何度も奥の潤みを感じていました。
 溢れ出したおシルは確実に前へ後ろへ、ショーツの布への侵食を広げているはずです。
 おそらく正面から見ても、クロッチ部分の先端が黒ずんでいるのがわかるほどには。

 だけど今のところ、みなさまからそういうご指摘はありません。
 知ってか知らずか・・・
 たとえ気づいていたとしても、事が事ですからご指摘を憚られているのかもしれませんが。

 チョーカーを嵌められてマゾ性へ大きく傾きがちになっている私は、みなさまにそんな姿を気づかれ呆れられることを欲していましたが、辛うじて残っている理性の部分では、この試着が一刻も早く終わり、普段の服装に戻れることを願っていました。

「おーけー。ここは狭いから、ちょっと広いところへ行きましょう」
 リンコさまとあれこれ打ち合わせをされていた部長さまがおっしゃるなり、スタスタ歩き始めました。
 ぞろぞろと後につづく私たち。
 会議室のドアを出て、オフィスのメインフロアのデスクやロッカーが置いていない、窓際の広めなスペースに誘導されました。
 ロールカーテン全開の大きな素通し窓からは、抜けるような青空。

「窓を背にして、ふたり並んで立ってくれる、あ、もう少し間隔を空けたほうがいいわ」
 五月らしい晴天の明るい陽射しが差し込む大きな窓を背に、ほのかさまと私が2メートル位の間隔を空けて並びました。
 窓は、私の膝よりも低い位置から始まっていますから、お尻ギリギリのスカート直下から剥き出しな私の生足が、ガラスを挟んでお外へ丸見えとなっていることでしょう。
 もっとも、地上数百メートルの高さですから、見上げて目を凝らさなければわからないでしょうが。

 お近くのデスクに寄りかかるように、私たちの前で並んだお三方。
 部長さまを真ん中に、私の側にリンコさま、ほのかさまの側にミサさま。
 これから何を始める気なのだろう・・・
 怖いような待ち遠しいような、ヘンな胸騒ぎを感じていました。

「ここであなたたちに、いろいろ動いてもらいたいの。ほら、アイドルって、かなり激しいダンスをしながら歌うから、それ風なダンスっぽい動きをね」
 部長さまが私とほのかさまを交互に見ながらおっしゃいました。
 ウンウンとうなずくほのかさま。
 つられてうなずく私でしたが、心の中は大騒ぎ。

 こんな、少し背伸びしただけでも下着が出てしまう衣装でダンスなんてしたら・・・
 ひるがえるスカート、丸出しのショーツ、一目瞭然な銀色と黒のグラデーションを描く恥ずかし過ぎるシミ・・・
 そんな光景が即座に頭に浮かび、あきらめにも似た陶酔感に襲われます。
 視られちゃう・・・
 心の中の大部分が、もはやマゾ色に染まっていました。

「それではまず手始めに、その場で軽くジャンプしてみてくれる?ぴょんぴょんぴょん、って感じで」
 部長さまは、普通におっしゃっているのでしょうが、私の耳にはエスなかたからの冷たいご命令口調に変換されていました。

「はい」
 ほのかさまがお返事と共に、ぴょんぴょんと軽やかにジャンプし始めました。
 ミニスカートが微妙にひるがえり、ブレザーの中でバストが波打っているのがわかりました。
 うわっ!可愛い!
 ジャンプに合わせて髪の毛がフワフワ揺れて、跳び方もいかにも女の子っぽい可憐さで、本当のアイドルさんみたい。

 しばし見惚れていると強い視線を感じ、部長さまが私をじっと見ているのに気づきました。
 私もあわてて、ほのかさまに合わせて跳ね始めました。

 思っていた通りでした。
 膝を軽く曲げて跳び上がると同時に、ペラペラの頼りないスカートが風を受け、おへそのところらへんまでフワリと舞い上がりました。
 当然のことながらショーツ丸出し。
 2度3度、ジャンプするたびに、面白いくらい大げさにスカートがはためきます。
 着地すると、腿の付け根辺りに辛うじて布の感触が戻ります。

 そしてついに、自分の目で確認出来てしまいました。
 銀色ショーツの正面下部、クロッチ部分で言うとほぼ全体、銀色の布地が濡れて黒く変色しているのを。
 私が、こんな恥ずかしいことをさせられながらもはしたなく感じて、淫らに濡れてしまっている決定的な証拠。
 私がマゾであることの証。
 目前に並んだ六つの瞳に、バッチリ視られている・・・・

 パンパン!
「はい、いいわ。ありがとう。どこか動きづらいところとか、あった?肩や袖が窮屈とか」
 私たちの動きを真剣に見つめていた部長さまが手を叩き、尋ねてきました。
「いえ、これといって・・・」
 ほのかさまが即答。
 内心ドキドキな私も顔を上下にコクコクうなずきました。

「今度は、ジャンプすると同時に両腕を上に挙げてくれる?こんな感じで」
 部長さま自ら、上半身だけでお手本を示してくださいました。
 パチン!
 小気味の良い拍手の音が響きました
 それはなんだか、コンサートの最後で両手を頭の上に挙げて、アンコール!ってやっているような動きでした。

「こうですか?」
 ほのかさまがすかさず、その場でやってみせてくださいました。
 ぴょんと跳び上がりながら水平に開いた両腕を左右から上げていき、ジャンプの頂点のときに頭上で拍手をパチンッ。
「そうそう。うまいわ」
 部長さまが満足そうに微笑みました。

「それと、森下さんは上着、取ってくれる?」
 突然、部長さまがおっしゃいました。
「えっと、はい?」
「Bタイプはステージ用で、ブレザーは最初の数曲で脱いじゃうのよ。ステージの大部分はインナーだけで踊ることになるから」
 あくまで真面目なお顔でご説明くださる部長さま。
「あ、はい。そういうことでしたら、わかりました」

 薄っぺらなブレザーを脱ぐと、ノースリーブのボディコンビスチェ風。
 大胆に開いた胸元からおっぱいの谷間が、ハーフカップのブラジャーの布まで見えそうなほど、これ見よがしに露出していました。
 両腕は腋まで丸出し、おっぱいの谷間丸出し、おへそ丸出し、両脚も付け根まで丸出し。
 それが今の自分の格好でした。
 そして私は、みなさまの前でそんな格好になることを、心地良く感じ始めていました。

「それではやってみて。いい?はいっ!ワンツー、ワンツー」
 部長さまの手拍子と号令に合わせて、ほのかさまと一緒に跳び始めました。
 跳ねるたびに丸見えになるショーツ。
 薄い布越しのバストも露骨なほど上下に跳ねています。

 更に、両腕を大きく動かしていると、上半身に貼り付いていたインナーの布がどんどん肌をせり上がって行くのがわかりました。
 おへそ上だった丈がウエストをせり上がり、お腹丸出しになって、遂にはアンダーバストのすぐ下あたりまでたくし上がってしまいました。
 
 まるでスポーツブラをしているみたいな見た目。
 伸縮性のあるピッタリ布地なので、一度せり上がってしまうとそこで留まったまま、自然には直りません。
 その分、胸元の布がたるみ、私の視界には、余裕の出来た隙間からハーフカップブラの浅めな布地まで丸見えになっていました。

 さすがにこれは直したほうがいいだろう、と思い、いったん動きを止めようとしたら、すかさず部長さまから鋭いお声。
「直しちゃだめっ!そのままでもう少しつづけて!」
 真剣な目で睨まれました。
「はいっ!」
 あわててほのかさまの動きに合わせました。

「おーけー。ちょっと止まって。森下さんはインナー直していいわ」
 部長さまのお言葉に、すばやく布地を引っ張って、お腹を隠す私。
 部長さまは何かコソコソ、リンコさまとご相談。

「今度は上半身の動きはさっきと同じ。ただし、ジャンプじゃなくて、拍手のタイミングで脚を左右交互に蹴り上げて見せて。いくわよ。はいっ、ワンツー、ワンツー」
 少し戸惑ったようなご様子だったほのかさまが、部長さまのリズムに乗って唐突にからだを動かし始めました。
「こんな感じでいいですか?」
 ほのかさまが再び、率先してお手本を見せてくださいました。
 
 拍手のタイミングでラインダンスのように右、左と交互に蹴り上がるしなやかなおみ足、ひるがえるスカート。
 真正面に陣取るお三方には、そのたびにほのかさまの純白ショーツが露になっていることでしょう。
 
 絶望的なのに、なぜだか甘美な被虐感が全身をつらぬき、私もいつしかほのかさまの動きに合わせていました。
 たちまちせり上がるインナー。
 全開になる両腿の付け根。

「うん、いい感じよ。もう少しテンポを上げてみましょう。ワンツーワンツー」
 部長さまの手拍子に合わせて、若干遠慮がちに脚を上げる私。
「森下さんはバレエ経験者でしょう?もっと高く脚を上げられるのじゃない?」
 手拍子を打ちながら部長さまが叱責するようにおっしゃいました。
 その目は真剣に私たちの動きを追っています。
「は、はいっ!」
 それにお応えするべく、もう、なるようになれ、という気持ちで、グランバットマンのように高く右脚を蹴り上げました。

 もはや絶対、完全に気づかれている。
 こんな短かい、スカートの役も果たしていないような布を腰に巻き、盛んに脚を高く振り上げている私。
 丸出しとなっているはずの銀色ショーツの布地に隠された、女性の女性たる部分。
 その部分を中心として外へと広がっているはずの黒い濡れジミ。
 こんなに至近距離で、これだけ高く脚を振り上げていれば、その異変に気がつかない人がいるはずがありません。

 それでも、部長さまもリンコさまもミサさまも、そのことについては何もおっしゃらず、真剣な表情で私たちの即興ラインダンスを凝視しつづけていらっしゃいました。
 ときどき何かメモを取り、私たちの前に回ったり後ろに回ったりしながら。
 私が脚を振り上げるたびに、そのシミは今もジワジワ広がっているはずなのに。

 両脚を激しく動かしているせいで、フルバックなショーツの後ろ側も、お尻の割れスジに沿って布地が集まってきてしまい、食い込むようなTバック状態になっていました。
 お尻の皮膚に当たる空気の感触が増えたせいで、それがわかりました。
 もちろん、前も食い込んできているはずです。
 結果、シミの範囲も広がって・・・
 そこまで考えたとき、ストップがかかりました。

「Bタイプのインナーは少しフィットさせ過ぎたかしら?」
「そうですね。でも、たくし上がりは、妙にエロティックで、見方によってはクライアントの要望に沿っているとも言えますよ」
「それはそうなのだけれど・・・確かもう少しルーズなタイプも作ったわよね?」
「その場合、襟ぐりや腋の余裕の調整が難しそうですね。隙間からポロリ問題が」
「Aタイプのほうは、問題無さそうね。スカートのひるがえり方もそこそこだし」
「重めにつくりましたから。あの程度のチラリなら、メディアでも許容範囲かと・・・」
「ミスリードさせたいなら、両タイプ共Tバック着用が必須のようね・・・」

 私たちに休憩を命じた部長さまは、リンコさまにミサさまも加わって、何やら真剣にディスカッションされています。
 私は急な運動で乱れた呼吸を整えるため、窓と窓のあいだの柱に背中を預けてうなだれていました。
 そこへ、こちらも少し息を切らせた感じのほのかさまが、お声をかけてくださいました。

「こんな衣装を着て歌って踊らなきゃならないなんて、アイドルさんて、意外と大変な職業なのね」
 顔を上げると、ほんのり火照ったような、ほのかさまの可憐な笑顔。
 私の顔を嬉しそうに覗き込んできます。
「あ、はい。私もそう思います・・・」
「わたしは、この衣装、すごく恥ずかしいわ。こんな超ミニ、私生活では絶対に穿かないもの」
 おっしゃってから私の下半身にチラッと視線を投げるほのかさま。

「でも直子さんが着ると、セクシーですっごくいい。やっぱり若いっていいな。肌もプルンプルンでうらやましい。プロポーションだって抜群だし」
 インナーのせり上がりで丸見えになっているまま直しそびれていたお腹を中心に、ほのかさまからの熱い視線を素肌に感じ、モジモジするばかり。
「そ、そんなこと・・・ほのかさんのほうがずーっとお綺麗ですし・・・」
「ここに入ってからいろんな衣装を着せられたけれど、今日のはかなりキワドイ部類。直子さん、よくがんばったわ」
 ほのかさまがニッコリと微笑み、イタズラっぽくウインクまでしてくださいました。

「それに直子さんて、お若いわりにずいぶんイロっぽい表情されるのね。隣で踊っているとき、横目でチラチラ見ながら見惚れちゃった」
「そ、そんな・・・」
「ううん。すごくいじらしいお顔だったわよ。なんだかギュッと抱きしめたくなっちゃうような」
 憧れのほのかさまのお言葉に何てお答えすればいかわからず、ただドギマギするだけの私。
「ねえ?ちょっとお腹、さわっていい?」
「えっと、あの・・・」

 そんな会話に、部長さまが不意に割り込んできました。
「はいっ、おつかれさま。Aタイプのほうには、大きな問題は無いみたい。たまほのはそのまま、休んでいていいわ」
 ほのかさまへ向いて、おやさしくおっしゃる部長さま。

「Bタイプのほうは、もう少し見てみたいの。悪いけれど、森下さんはもう少しつきあってください」
 部長さまがいつもの業務命令と同じ口調でおっしゃいました。
「は、はい・・・」
「上をこっちに着替えてくれる?」
 今着ているのと同じようなインナーを差し出されました。

「今のよりルーズフィットなサイズ。これに着替えてもう一度踊ってみて」
 私の顔を真正面から見つめて、無表情でおっしゃる部長さま。
「わかりました」
 その手から衣装を受け取り、部長さまの端正なお顔を見つめてうなずきました。
 部長さまの形の良い唇が、つづけて確かにこう動きました。
「今度はブラも取ってください」

「えっ!?」
 着替えようとインナーのジッパーに伸ばしかけていた指が宙ぶらりんに止まりました。
「ブラって、ブラジャー、も、ですか?」
「そう。ユニットの中に何人かノーブラを売りにする子もいる、っていう話なのよ。だからそっちの具合も見ておきたいの」
「は、はい・・・」
 突然の羞恥責め的なご命令に、とりあえずそう答える以外の言葉が出てきませんでした。


オートクチュールのはずなのに 31


2015年12月20日

オートクチュールのはずなのに 29

 ふと横を見ると、ほのかさまがワンピースをすっかり脱ぎ終えていました。

 ペールホワイトと呼ぶのでしょうか、ひんやりとした雰囲気の色素薄めな肌色の素肌が、応接室の窓から差し込む日差しにクッキリ照らし出されていました。
 どちらも少しだけフリルで飾られた、清楚という言葉がぴったりな真っ白なハーフカップブラとフルバックのショーツ。

 ほのかさまって、確実に着痩せするタイプです。
 思っていた以上にボリューミーなバスト、キュッとくびれたウエスト、そこから流れるような曲線を描いてツンと上を向く逆ハート型のヒップ。
 早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまも、見惚れたようにほのかさまの神々しいまでの肢体を凝視していました。

 私も吸い寄せられるように見惚れかけたのですが、ハッと、自分が今置かれている状況を思い出しました。
 ええい、もうなるようにしかなりません。
 
 もしもノーパンだったら、ついうっかり、で思い切りドジっ子になって、なんとかお笑いでごまかそう。
 幸いなことに、私の本性をご存知なチーフもいらっしゃらないことだし。
 ほのかさまに注目が集まっているうちに、と思い、急いでシャツブラウスのボタンを上から外し始めました。

 ブラウスのボタンを3つまで外し、着けていたブラジャーがチラッと見えたとき、はっきり思い出しました。
 大丈夫、今日はちゃんとショーツも穿いている。
 ホッと一息、胸を撫で下ろしました。
 今朝、なぜこの下着たちを身に着けることにしたのかまで、ハッキリ思い出していました。
 と同時に、昨夜、どんなオナニーをしたのかまでも。

 昨夜は、お姉さまとの連休中のあれこれの思い出し自虐オナニーシリーズ。
 お姉さまのお部屋のベランダで白昼、人間洗濯物干しにさせられる妄想でした。

 全裸でベランダに連れ出された私は、ベランダの下からもよく見えるところに立たされ、両腕を左右へ水平に挙げるよう命令されます。
 お姉さまが私の腕に、タオルやハンカチを洗濯バサミで留めていきます。
 皮膚とお洗濯物を一緒に挟んで留めるのです。
 
 更に、長い紐を結んだ洗濯バサミを私の乳首に噛みつかせ、紐のもう一方の端を洗濯物干しの柱に結び付けて、その紐にもお洗濯物をどんどん掛けていくのです。
 お洗濯物の重さで乳首が引っ張られ、ついには激痛と共に外れてしまいます。
 外れてしまってお洗濯物を落としてしまったら、もちろん更にキツイお仕置きが待っているのです。

 そんな妄想をしながら、自分のからだにたくさんの洗濯バサミをぶら下げました。
 私の大好きな、おっぱいを絞り出すような形に麻縄で乳房を縛り、ツンと尖った乳首に洗濯バサミを噛ませて引っ張りました。
 クリットローターとバイブレーターはずっと震わせっぱなし。

 頭の中には、私の恥ずかしい姿をベランダにみつけた通行人やお隣の女子校の窓から、情け容赦の無い嘲りや蔑みが絶えず聞こえていました。
 棒枷で大の字に開きっ放しのマゾマンコからは、愛液が始終ポタポタと床に垂れていました。
 そんなふうに私は、鏡張りのお仕置き部屋で首輪から垂れたリードの鎖をユラユラ揺らしながら、夜が更けるまでアンアン身悶えしつづけたのでした。

 その流れで、今朝起きて下着はどうしようかと迷ったとき、実際にもその後、お姉さまからご指示いただいて身に着けたアレにしよう、と決めたのでした。
 元々はお姉さまの持ち物であった、シルバーのオシャレなブラジャーとショーツ。
 そこまで思い出したとき、急に別の不安が頭をもたげてきました。

 昨夜の痕跡が肌に残っていないだろうか?
 たとえば縄の痕とか、洗濯バサミの小さな鬱血とか、鞭で叩いたミミズ腫れとか・・・
 オナニー後はゆっくりお風呂に入って素肌マッサージはしましたが、今朝はまったくそんなことを気にせずお洋服を着てしまいました。
 自分でもどうなっているか、脱いでみなければわかりません。

 ブラウスのボタンはすべて外し終えていました。
 開いた隙間から肌を見た感じでは、大丈夫そう。
 他のみなさまは、インナー、ブレザー、スカートとすでに身に着け終えたほのかさまに、今度はアクセサリー類を着けるお手伝いをされています。
 そのあいだに、ささっと脱いで、ささっと上だけでも着てしまおう。
 ブラウスの前を開き、あたふたと袖を抜きにかかりました。

「あら、森下さんは、うちのランジェリー、着けてくださっているのね?」
 いきなり早乙女部長さまからお声がかかって、盛大にドッキン!
 いつの間にか部長さまが私の前に来られていました。
 
 不意を突かれた私は、脱いだブラウスをテーブルの上に置くのが精一杯。
 咄嗟に自分の上半身に視線を走らせ、左脇腹に赤い点みたいのが見えた気がしてサッと右手で隠しました。
 それだけでは不自然なので左腕をその上に交差させ、お腹の前で両腕を組むような格好、その格好でフリーズ。

「でもおかしいわね。そのシリーズはまだ流通に乗っていないはずじゃなかったかしら?」
 部長さまが私のバストをまじまじと見つめながらおっしゃいました。
 お腹の前で両手を組む格好ですから、見方によっては、おっぱいをこれ見よがしに突き出して強調しているふうに見えちゃったかもしれません。
 部長さまのお声につられるように、リンコさまとミサささま、そしてほのかさまの視線も私を追いかけてきました。

「あ、あの、これは、お休み中にチーフのお家のお掃除のお手伝いに伺いまして、そのときに貸していただいたと言うか、譲っていただいたと言うか」
 フリーズしたまま説明する私の上半身を、みなさまの視線が舐めるように這い回るのがわかりました。
「そんなことがあったのね。着け心地はどう?」
「はい、とてもいいです。やわらかで軽くて・・・」
 布地がソフト過ぎて、私の尖った乳首が露骨に布を押し上げているのが、生々しくわかる程でした。

「そうでしょう。いいシルクなのよ、それ。でもそのサイズでは、森下さんにはちょっとキツイでしょう?合わないブラ着けていると、バストの形が崩れちゃうわよ?」
「あ、そ、それはチーフからもご助言いたただきましたけれど、そんなに気になるほどではなかったので・・・」

「だーめ。せっかく奇麗なバストしているのだから、丁寧に育てないと。確か森下さんに合うサイズでそのカラーのサンプルも倉庫にあったはずだから、後ほどわたくしが交換してあげます」
「あ、はい。それは、ありがとうございます」
 部長さまと会話をしているあいだ中、みなさまの視線が私のバストに集中しっぱなしで、それを感じて乳首は益々尖り、早く何か着たくてたまりませんでした。

「たまほののほうはだいたい終わったから、今度は森下さん。まずそれを着て」
 リンコさまがほのかさまの着付けに戻り、部長さまが直々に私を担当してくださるみたいです。
 ミサさまは、私とほのかさまを交互に見ています。

 部長さまが指さされたのは、真っ赤をベースに緑のチェック柄を散りばめたノースリーブのシャツ、と言うよりタンクトップみたいな形の前開きのインナーでした。
 前開きは、ダミーのボタンがデザインで付いているものの、実際はジッパーで開閉する形。
 あらためて手に取ってみると、ずいぶん薄い生地で若干伸縮性もあるみたい。
 一刻も早く脇腹を隠したいという一心で、ささっと両袖を通し、テキパキとジッパーを上げました。

 ジッパーを閉じると、かなりピチピチフィットなボディコンシャス。
 両腋、胸元、背中のどれもが大胆に開いていて、雰囲気的にはビスチェに近い感じ。
 丈も短くて、おへそがもろに覗く長さで終わっています。

「うん。いい感じ。それにブレザーを羽織ってアクセを付けるのだけれど、とりあえず先にボトムを穿いてしまいましょう。ジーンズ、脱ぎなさい」
 部長さまがおっしゃった口調がお姉さま、いえ、チーフに似ていてドキンとしたとき、同時にふっと新たな懸念が急浮上してきました。
 そうだった・・・
 ドキドキが急激に高まる中、リンコさまからお声がかかりました。

「部長、Aタイプのほうは、最終こんな感じでよかったでしょうか?」
 見ると、ほのかさまの着付けが終わり、リンコさまと連れ立って部長のそばにお立ちになりました。
「うん。いい感じね。アクセも全部着けた?」
「はい。ソックスと靴以外は仕様通りのはずです」

 私が着ているのと同じ色柄のインナーの上に、緑と赤をオシャレに配色したブレザーを羽織っています。
 ただし、ほのかさまの襟元にはYシャツ風のカラーが付いていて、ソコから結んだフワッとした赤いリボンが、大きく開いた胸元を絶妙に隠していました。
 なるほど、最終的には、ああいう形になるんだ・・・
 自分のがら空きな胸元を見下ろして、少し安心しました。

 赤と緑の可愛らしいチェックのミニスカートは、けっこうローライズでほのかさまもおへそが見えています。
 丈は膝上20cm位。
 これで激しく歌って踊ったら、下着が見えてしまうことは確実です。
 だけどああいう人たちは、俗に言う、見せパン、を穿いているはずだから。

 そんな姿でスクッと立っているほのかさまは、見るからに可憐で、チラッと見えるおへそが小悪魔的にセクシーで、本当に芸能人タレントさんと言われても誰も否定出来ないほど、華やかなオーラを放っていました。

「たまほのって、どんなファッションしてもそれなりにすっごく似合っちゃうんだから、反則よね」
 リンコさまの本気半分からかい半分のお声に、頬をポッと染めて反応するほのかさま。
「でも、わたし、これはかなり気恥ずかしいです・・・おへそが・・・」
 スカートの裾を引っ張りつつ照れたお声でポツンとつぶやいたほのかさまの、その可愛らしさと言ったら。
 魅入られたようにほのかさまを見つめているミサさまのお顔が、子猫のようにデレていました。

「おーけー。たまほのはちょっとそこで待っていて。森下さんのほうも片付けてしまいましょう」
 部長の一声に、再び4人の視線が私に集中しました。
 途端に私の懸念も再浮上。

 これから私は、みなさまの前でジーンズを脱ぐわけですが、ノーパンでないことはわかり、サイアクの事態は避けることが出来ました。
 でも、穿いてきたショーツが問題でした。
 頭の中で、お姉さまとのあの日の場面が、まざまざと再生されました。

「出発前に、もうひとつだけネタバレしてあげる。あたしがなぜ、直子にグレイのパンツを穿かせたと思う?」
「・・・わ、わかりません・・・」
「グレイのシルク地だとね、直子がいやらしい気持ちになってマゾマンコを濡らしちゃったとき、そのシミが一番クッキリ目立つのよ。黒々と、遠くから見てもわかるくらい」
「・・・」
「そんなのみんなに見られたら、ある意味ノーパン見られるより恥ずかしくない?サカっている証拠だし、ぱっと見でもお漏らしみたいだし。だからせいぜい濡れないように、がんばりなさい」

 手遅れでした。
 その日は朝から、マゾマンコがキュンキュンしちゃう出来事が何度もありましたし、今だって窮地に立たされた自分の被虐に、自分の意志とは関係の無いところで、ウルウル疼いていしまっています。
 自分のからだですから、今現在私が濡れていることはわかっていました。
 問題は、それが今、どのくらいまでショーツに滲み出てしまっているか、でした。

 逃げ場所のないこともわかっていました。
 私は、何がどうしたって今ここで、みなさまの目前でジーンズを脱がなくてはならないのです。
 でも、そんなふうに考えるほど、余計に濡れてきてしまうマゾな私・・・
 いっそのこと、誤ったフリをして、ショーツごとジーンズを脱いでしまい、剥き出しパイパンマゾマンコをみなさまにご披露してしまおうか・・・
 そんな自虐的な妄想まで浮かんでくる始末。
 
 もはや仕方ありません。
 覚悟を決めて靴を両方脱ぎました。

 ゆっくりとボタンを外し、ジッパーを下げました。
 それから大げさに身を屈め、縮こまるみたいな体勢でゆっくりとジーンズを下ろしていきました。
 視界にショーツの銀色な布地が見えました。
 パッと見では、それとわかる程の変色は無いみたい。
 大急ぎで足元まで下ろし、両脚を抜きました。

 再び立ち上がると、目の前にスカートが差し出されました。
「はい、これ」
 リンコさまが差し出してくれています。
 他のかたがたの視線は、私の下腹部に集中しているように感じました。

 手にしたスカートも、思ったよりも薄くて軽い生地でした。
 広げてみると巻きスカート。
 ボタンで調節するようです。

 いつものスカートの感じでウエスト少し下にあてがうと、丈がぜんぜん短くて、ショーツがほとんど隠れません。
 あれ?
「あ、それはね、ローライズだからもっと下で穿くの。腰骨のちょっと上くらい」
 リンコさまが寄ってこられ、私の足元にひざまづきました。
「やってあげる。ここにこうして・・・」
 私の右側にひざまづいたリンコさまが私の腰にスカートをあてがい、ボタンを留めてくださいました。
 
 スカートを持ったときから気がついていたのですが、私のスカートはほのかさまのに較べて、格段に短かい仕様のようでした。
 現に、リンコさまに穿かせていただいた後でも、スカートの裾は股の付け根ギリギリ。
 ちょっとでも動けばお尻全開、クロッチ丸見えとなることでしょう。

「うん。そんな感じね。デザイン通り。あとは小物」
 部長さまが満足そうにうなずきました。
 えーーーっ!?
 私の心中、大騒ぎ。

「あのあの、でも、このスカート、ほのかさまのと較べて、すごく短かすぎませんか?」
 我慢出来ずに思わず言ってしまいました。
 あわて過ぎたので、いつも心で思っている、ほのかさま、と呼んでしまいました。

「問題は無いの。Bタイプはその仕様」
 部長さまが真面目なお顔で、キッパリとおっしゃいました。
「でもこれでは、何て言うか、動くたびに、し、下着が丸出しになっちゃいますけれど・・・」
「いいのよ。彼女たちはそれを見越して、見せるための下着を身に着けるから」
 さも当然という感じでお澄まし顔の部長さま。

 そんなこと、私だって知っています。 
 これを着るタレントさんは、そうなのでしょうけれど、そんなキワドイものを今ここで着ている私は、見せパンではなくて、自分の日常的な下着なのですけれど・・・
 そう抗議したいのですが、もちろん出来るはずありません。
 そんな自分の可哀相な立場に、被虐大好きマゾの私がまた反応して、という悪循環。
 奥の潤みを感じて、そっとスカートの裾を引っ張るように股間を両手で隠しました。

「この衣装はね、基本、同じデザインで2タイプ作れっていう依頼なの。たまほのが着ているのがAタイプ。森下さんのがBタイプ」
 部長さまが出来の悪い生徒を諭す先生みたいに、ゆっくり説明してくださいました。

「アウェイとホームみたいなものよ。Aタイプは、テレビや、スポンサー主催のイベントライブで数曲披露するとか、言わばメディア用。Bタイプは、彼女たちの事務所が企画するライブステージ用」
「事務所は、彼女たちを色っぽい感じ、セクシー路線で売り出すつもりなの。それで口コミでファンを増やす作戦。だから基本的に露出度多め。でもテレビとかのメディアはいろいろと小うるさいから、Aタイプみたいにおへそまで。スカートも見えるか見えないかくらいに抑えたチラリズム路線」
「その分、ホームではキワドイくらい大胆に挑戦したい、っておっしゃるから、こうなったの」

「そ、そうだったのですか。それでは仕方ありませんね」
 クライアント様のご要望なら、私が文句を言ってもはじまりません。
 そういうことであれば、早くこの試着テストを終えて普通の服装に戻ろう、と頭を切り替えました。

「そういうことですと、ほのかさんのようなカラーや胸元のリボンも、私のには無いのですね?」
 自分の、えげつないくらい大胆に開いた胸元を見下ろしながら、一応お聞きしました。
 ハート型に開いたゾーンにはおっぱいの谷間がクッキリ三分の一くらい露出して、おまけにブラジャーもインナーも生地が薄めなので、私のやんちゃな乳首は、外から見ても生地越しにうっすら位置がわかりました。

「そうね。アウェイ用はブレザー着たままが前提だから、ホルタートップにしてカラーを付けてリボンを結ぶことにしたの。その代わり、背中側は全開よ」
 部長さまがおっしゃると、待ってました、とばかりに、ほのかさまがつづけました。
「それなんです。わたしが一番落ち着かないのは。上着を脱いだら背中側のブラのストラップが丸見えですよね?」
「それは、さっきも言ったようにAタイプは本番中ブレザーを脱がない前提なので、たまほのは気にしなくていいの」
 ほのかさまの抗議を、部長さまがあっさり退けました。

「あ、それでBタイプのネックアクセは、これね。チョーカー」
 部長さまがテーブルからつまみ上げ、私の目の前に突き出してきたのは、以前、シーナさまが私にプレゼントしてくださったのとよく似た形の、エンジ色に近い濃い赤色のチョーカーでした。
 男性の腕時計のベルトくらいの幅の、ワンちゃんの首輪にそっくりなチョーカー。
 中央付近にハート型のリングが三つ、ぶら下がっていました。

「アイドルオタクの人たちに受けそうだからって、事務所のプロデューサーのゴリ押しで決まったの。なんだか気味の悪い分析をしていたわ。わたくしたちは、もっとエレガントなアクセをいくつか推薦したのだけれど」
 部長さまがさもつまらなそうにおっしゃいました。

 私は、それを見た瞬間にゾクゾクっとからだが震え、まずシーナさまにいただいたチョーカーが思い浮かび、それが消えるとすぐ、今も社長室の自分のバッグの中にこっそり忍ばせている、お姉さまへの服従の証である愛用の首輪を思い出していました。
 そして、私がそれを着けて行なった、破廉恥な行為の数々。

 私、これからみなさまの前で、このチョーカーを着けるんだ・・・
 私の中のマゾを具現化してしまう、禁断の装飾具。
 からだがカッと熱くなり、その日最大の奥の潤みを股間に感じていました。


オートクチュールのはずなのに 30