その後もいろいろお買物中、たまに私に選ばせることで、ゲームはつづきました。
ヨーグルト選びもドレッシング選びもパスタソース選びでも、悉くハズレでした。
前開きワンピースには、全部で10個のボタンが付いていました。
一番上とその次は、すでに駐車場で外していたので、残り8個。
それらのボタンたちが、パスタ売り場にたどり着いた頃には、ほとんど外されていました。
今現在留まっているのは、胸元の上から4番目と、裾の一番下、それにおへその上辺りのひとつ、合計たったの3箇所というキワドイ状態。
まっすぐ立っている分には、胸元が広めに開いている以外は普通のワンピース姿ぽく保たれていますが、からだを少し動かすと軽い生地がフワリと揺れ、今にも前立てが割れて隙間から肌が覗いてしまいそうな頼りなさ。
背筋をまっすぐ伸ばし、なるべくからだが揺れないようにしずしずとカートを押して、お姉さまの後ろを着いていきました。
胸を張るように背筋を伸ばしていると、その部分を覆う薄い生地の曲線頂点に、ふたつの大げさな突起がクッキリ浮き上がりっ放し。
他のお客様とすれ違うたびに、気づかれませんように、と、ビクビク祈る気持ちでしたが、気持ちとは裏腹に、下半身全体がムズムズ疼き、発熱量が増しているのもわかりました。
「さあ、あとはパスタを選べばショッピング終了かな。もう留まっているボタンも残り少ないみたいだから、がんばりなさいよ」
お姉さまが振り向いて、からかうみたいにおっしゃいました。
「今回は特別にヒントをあげる。あたしはね、太めの麺のほうが好きなの。長さはロング。あとはさっき選んだソースとの相性とで考えてみれば、たぶん外さないはずよ」
カートから離れ、陳列棚と向き合いました。。
六段に分けられた陳列棚の上から下までぎっしりと、さまざまなメーカーの袋入り乾燥パスタが並べられています。
上のほうが細くて、下のほうが太いみたい。
そして、お姉さまがお好きなのは太め。
そこまで考えて、小さくキュンと感じてしまう私。
私が当てようが当てまいが、お姉さまは最後に絶対、私にパスタを取るようにご命令されるはずです。
そして今度は、さっき耳打ちされたように、膝を曲げない前屈姿勢を守らなければならないのです。
パスタの太さは0.9ミリから2.2ミリまで。
お姉さまが選ばれたのは、カルボナーラソースでした。
カルボナーラなら確かに少し太めのほうが美味しそう。
以前、好奇心から2.2ミリのパスタを買ったことがあって、すごく太いのにびっくりしたことがありました。
お姉さまも、これは選ばないだろうな・・・
陳列棚の左のほうでは、若奥様風の女性がパスタソースを熱心に選んでいます。
私はなるべく直立不動のまま、目線だけ動かして棚のパスタたちを吟味しました。
若奥様風女性が棚を離れて去っていくのを確認してから、一種類のパスタを指さしました。
「これ、ですか?」
陳列棚の下から二段目に並べられた、青色の袋に包まれた1.9ミリのロングパスタ。
指さしたままお姉さまを、すがるように見つめました。
「惜しいなあ。太さは合っているけれど、あたしが好きなのは、こっちのブランドなの」
私が指さしたパスタのすぐ右隣を指さすお姉さま。
緑色の袋に入った、イタリアからの輸入物でした。
「せっかくヒントあげたのに、また外しちゃったのね。直子、ひょっとしてわざと間違えて、ボタン外すの愉しんでいるのじゃなくて?」
「そ、そんなことありません・・・」
ちっちゃな声で抗議します。
「ふーん。あと三箇所でしょ?直子の好きなところを外していいわよ」
お姉さまが冷たく微笑みました。
好きなところ、って言われても・・・
胸元を外したら、おへそのところまでVゾーンがはだけてしまうし、一番下を外したら、歩くたびに裾が大きく割れてしまうはず。
素早く周りを見渡した後、素早く真ん中のボタンを外しました。
その結果、今現在ワンピースが開いてしまうのを阻止しているボタンは、もしもブラジャーを着けていたらセンターモチーフが来るであろうところくらいに位置するボタンひとつと、裾の一番下のひとつ、合計たったのふたつに成り果てていました。
「やっぱりそこよね。ま、いいか。そのパスタをふたつ取ってカートに入れてくれる?」
お姉さまが、当然のようにおっしゃいました。
お目当てのパスタは、私の脛くらいの位置。
そのパスタを、膝を曲げない前屈姿勢で取らなくてはなりません。
そんな格好になれば、現在辛うじてお尻全体を隠している背中側の裾が大きくせり上がり、営業中のスーパーマーケットの明るい蛍光灯が、私の剥き出しとなったお尻を煌々と照らし出すことになるでしょう。
「ほら、早く」
「ほ、はい・・・」
陳列棚のそばに一歩踏み出しました。
念のため一度通路側を振り返ると、私の背後には薄い笑みを浮かべたお姉さまだけ。
この通路全体に他のお客様はひとりもいません。
今がチャンスと棚に向き直り、素早く右手を伸ばして前屈みになりました。
裸のお尻全体が外気にさらされるのが、はっきりわかりました。
その上、上半身を折り曲げたせいで、たわんだワンピースの襟ぐりの空間が視界に飛び込んできて、その中の自分の乳房の尖った乳首まで全部見てしまいました。
真ん中のボタンも外したので、胸元から太腿のあいだの生地も楕円に開き、その隙間から、おへそ、下腹部、土手までもが覗いていました。
自分が今、いかに危うい服装で人前に出ているのか、ということを、一瞬のうちに目の前に突きつけられた気がしました。
パスタを2束握って上体を起こしたとき私の顔は、火傷しそうなくらいに火照っていたはずです。
お姉さまのほうに向き直り、カートにパスタをそっと置きました。
お姉さまの満足そうなニヤニヤ笑い。
その笑顔から視線を外したとき、更なる事実が待ち受けていました。
私の視界の右端に、まったりとカートを押していく、いかにも休日の旦那様風な若い男性の姿がありました。
そして、その男性と手をつないだ小学校低学年くらいの女の子。
男性は私たちから5メートルくらい離れた対面側の棚で立ち止まり、何かを選び始めました。
その傍らで女の子が、手をつながれたままこちらを振り向き、私のことをじーっと見ていました。
何か不思議なものでも目撃したような、ぽかんとした表情でした。
「直子が前屈みになったとき、ちょうどあの人たちが後ろを通過して行ったのよ」
お姉さまが再び、私にヒソヒソ耳打ちしてきます。
「残念ながらパパは気づかなかったみたいだけれど、あの子には見られちゃったみたいね」
「お尻丸出しだったもの。私の位置からだと、スジが濡れているのも、肛門のシワまでハッキリ見えていたのよ、こんな営業中のスーパー店内で」
私をいたぶるのが愉しくて仕方ないご様子な、お姉さまのイジワル声。
「あの子、びっくりしたでしょうね。なんであのお姉さん、お尻見せているのだろう?パンツ穿いていないのだろう?って」
「きっと今、迷っているはずよ。パパに今見たことを教えたほうがいいのかな、って」
そんなやり取りをしているあいだにも、陳列棚の陰から学生さん風の男性が現われ、私たちをチラチラ見ながら通路を通り過ぎていきました。
その男性の粘り気ある視線が束の間、私の首の赤い首輪に絡みついたことを、私は全身で感じていました。
首輪を見て、あの人はどう思ったろう?
首輪はマゾ女の象徴だと、理解してくれたかな・・・
そう考えた瞬間、からだ中が官能的な陶酔感に包まれました。
私はこの場の、晒し者なんだ。
こんな目立つ首輪を嵌めて、素肌に羽織った前開きワンピースのボタンのほとんどを外したままうろうろしているヘンタイ女なのだから、注目されるのはあたりまえ。
そしてこれは、私自身が望んだこと。
全身を駆け巡る激しい羞恥と同じくらい、いえ、それを凌駕するほどの性的興奮を感じていました。
もっと興奮したい、もっと視てもらいたい。
どうせならボタンを全部外すまで、お姉さまがご命令してくださればいいのに。
そんな自虐的な願望すら、躊躇無く湧き出てきました。
自分をもっと辱めたくて、仕方なくなっていました。
あれほど恐れていた男性からの視線さえ、まったく恐怖に感じていませんでした。
それはつまり、お姉さまが一緒にいてくださるがゆえの安心感がもたらした、今まで抑え込んできた欲求の発露だったのだと思います。
「完全なドマゾ顔になっているわよ、直子。トロンとしちゃって。やっぱり視られて嬉しいのね?」
「はい・・・」
「あら、ずいぶんと素直になったのね。でも残念。ショッピングはもうおしまいよ。お会計しましょう」
先に立ってスタスタと歩き出すお姉さま。
ふらふらと後を追う私。
レジカウンターへ向かう道すがら少し遠回りして、先ほどの女の子連れパパさんと、もう一度すれ違うようにしてくださったのは、お姉さまの計らいだったのかもしれません。
女の子は私の姿をみつけると、みつけてからすれ違うまで、可愛らしいお顔を180度動かして、再びじーっと見つめてきました。
私はドキドキしつつも、曖昧な笑みを唇に浮かべ、ゆっくりすれ違いました。
女の子の視線が、今度は首輪に釘付けなことに、背徳感を感じてしまいます。
レジカウンターには先客がふたり。
ひとりは、さっきの学生さん風男性でした。
みっつあるレジのうち、一番奥にある右端だけ空いていました。
そちらに向かっていたお姉さまが不意に立ち止まり、少しわざとらしく大きめな声をあげました。
「あっ!ホットケーキミックス!忘れてた。あたしこれ、大好きなの!」
レジ前の棚に方向転換。
お姉さまのそのお声に、レジ係の店員さんとお客様、全員が私たちのほうを向きました。
注目されている・・・
それだけでキュンとしてしまう私。
学生さん風の男性を含め、すべての視線が私の首輪に注がれている気がしました。
「直子んちに行ったときも作ってくれたっけね。あれ、美味しかった。うちでも作ってよ。このブランドのが一番好きなの」
「あ、はい・・・」
お姉さまが棚に手を伸ばそうとして、なぜだかすぐひっこめました。
「直子が取って」
「あの、えっと・・・」
お姉さまを見ると、無言のイタズラっぽい笑顔。
ホットケーキミックスは、幸いなことに私の胸くらいの高さの棚に並んでいたので、前屈姿勢にはならずにすみます。
お姉さまが伸ばしかけた腕の角度から推理して、恐る恐るひとつの箱を手にしました。
ここのスーパーのオリジナルブランド製品のようでした。
「ううん。それも美味しいのだけれど、あたしの一推しは、そっちの青い箱。シロップが絶妙なの」
「以前はレモンタイプっていうのもあったのだけれど、いつの間にか見なくなっちゃったのよね。人気無かったのかな、あれも美味しかったのに」
お姉さまの腕が横から伸びてきて、青い箱を掴み、カートに入れました。
「そうなると、ミルクも必要ね。あたし取って来る」
普通のお声でそうおっしゃった後、嬉しそうに私の耳に唇を近づけてきました。
「また間違えた。あたしが戻ってくるまでに一番下のボタンを外しておきなさい」
絶望的なヒシヒソ声が、私の耳奥に吹き込まれました。
腿の付け根から脳天へと、眩暈にも似た痺れるような快感がつらぬきました。
「ぁぅぅ・・・はぃ」
小さくうなずいた私は、小さくイってしまいました。
お姉さまがその場を離れ、私は右手を裾に伸ばします。
このボタンを外したら、その後は一歩、歩を進めるたびに、股間を覆う布が割れてしまうことでしょう。
お姉さまから命名された剥き出しマゾマンコを、文字通り剥き出しにしながら、少なくともここからお姉さまの車までは、歩いていかなければなりません。
望んだ恥辱が現実となるのです。
そう、これは私が望んだことなのだから。
覚悟を決めてボタンを外し終えたとき、お姉さまが戻っていらっしゃいました。
「おっけー。これでバッチリね。お会計しちゃいましょう」
持ってきた牛乳パックをカートに入れて屈託ない笑顔のお姉さま。
「はい、これ」
ご自分のバッグからお財布を取り出し、何枚かのお札を剥き出しで握らされました。
「これだけあれば足りるでしょう。あ、変な気は遣わないでね、これはあたしの買い物だから、直子は一銭も出さなくていいの」
「あたしはレジ出たところで待っているから、よろしくね」
スタスタと私の傍から遠ざかるお姉さま。
急に心細くなる私。
私たちがホットケーキミックスでごたごたしているうちに、レジに並ぶお客様はいない状態に戻っていました。
ということは、しばらくのあいだレジ係の女性店員さんたちは、私たちの挙動に注目していたかもしれません。
私は始終レジには背を向けていたから、自らワンピースの一番下のボタンを外したことには気づかれていないはず、と自分に言い聞かせ、しずしずとカートを押してレジカウンターに向かいました。
思った通り、一歩足を踏み出すたびに腿がワンピースの裾を蹴り、フワリハラリと生地が左右に割れてしまいます。
カートに下半身を押し付けるみたいにして隠しながら、3名いるレジ係さんのうち、一番お優しそうなお顔をされた左端の女性店員さんを選んで、カートを進めました。
「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
カウンターに入ると、カートをからだから引き剥がされ、無防備になりました。
レジ係さんは、なんだか困ったような笑顔を浮かべながら、商品を丁寧にスキャンしてはレジ袋にてきぱき詰めていきます。
そのプロフェッショナルなお仕事ぶりの合間にときどきチラチラ、ボーっと突っ立っている私へと視線を走らせてくることに気づきました。
首輪をチラッ、開きすぎた胸元をチラッ、生地を浮かせているふたつの突起をチラッ、外れているボタンをチラッ、そして顔をチラッ。
湧き上がる好奇心を隠し切れないご様子。
それはそうでしょう。
赤い首輪を嵌めて胸元を大きく開いたノーブラ丸分かり女が、前開きワンピースのボタンをほとんど外して顔を赤らめているのですから。
私とあまり変わらないお年頃っぽいレジ係さんでしたから、何かしら不純なえっちぽい雰囲気を感じ取っていたとしても、何の不思議もありません。
ああん、恥ずかし過ぎる・・・早くこの場から立ち去りたい・・・
レジを出てすぐの左斜めでは、お姉さまが壁にもたれて、そんな私を愉しそうにじっと見つめていました。
「ありがとうございます。合計で・・・円になります」
突然の元気良いお声に、遠くのお姉さまと見つめ合っていた私は大げさにビクン。
レジ係さんが相変わらず困ったような笑顔で、私をまっすぐ見つめていました。
私たちが選んで買った荷物は、大きなレジ袋ふたつ分になっていました。
「あ、はいっ」
お金払わなくちゃ、と動揺した私は、あわてて一歩踏み出しました。
ワンピースの裾が一瞬大きく割れて、私の目にもハッキリ、無毛の土手が丸見えになりました。
ハッとして思わずレジ係さんに視線を移すと、レジ係さんの目線はまさしく私の股間の位置。
その可愛らしいお口をポカンと開けて、唖然とした表情になっていました。
すぐに見つめている私に気づいたようで、こちらに向き直り、取り繕うような笑顔を無理矢理みたく引っ張り出した後、さっきよりも一層困ったような笑顔に落ち着きました。
その一連の表情の変化を見ていた私のほうも大パニック。
視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった・・・
その言葉だけが頭中に渦巻いていました。
それでもなんとか、お姉さまから預かったお札をトレイに置くことは出来たようでした。
「・・・円お預かりしまーす。・・・円のお返しでーす」
レジ係さんのお言葉に反応したのはお姉さまでした。
ツカツカと近寄ってきて、レジ袋をひとつ持ちました。
「ありがとう。お釣りとレシートはあたしにちょうだい」
突然のお姉さまの登場に、レジ係さんは一瞬驚かれたご様子でしたが、店内で私がずっとお姉さまと一緒だったのをご存知だったのでしょう、すぐになんだかホッとされたようなお顔になって、お釣りをお姉さまに渡しました。
「ありがとうございましたー。またのご利用をお待ちしていまーす」
お姉さまに向けてにこやかに微笑んだ後、私を一瞥して、憐れむような表情を見せてくださいました。
この人、私がマゾ女だって理解してくれた。
そのとき私は、直感的にそう思いました。
お姉さまと私の関係性もわかっている。
そして、私は蔑まれ、しょうがないヘンタイ女だと思われた、と。
一番下のボタンを外しておきなさい、とご命令されたときに勝るとも劣らない快感が、再び私の下半身を震わせました。
このレジ係さんにもっと私を視て欲しい。
私がどんな女なのか、もっと深くわかって欲しい。
そして心の底から蔑んで欲しい。
「ほら直子、もうひとつのほう持って。行くわよ」
「あ、はい」
お姉さまに促され、大きなレジ袋を左手に持って、片足を一歩踏み出しました。
もはや裾が割れるのも気にしていません。
二歩、三歩。
立ち止まって待っていてくださったお姉さまに追いつきました。
チャリーン!
私を待つあいだ、お財布にお釣りを戻していたお姉さまが、誤って小銭を落としてしまわれたようでした。
いいえ、たぶんわざとでしょう。
レジカウンターからはまだ3メートルも離れていない距離でした。
「あ、500円玉一個落ちちゃった。悪い、直子、拾って」
500円玉は、レジカウンターに背を向けている私の足元50センチくらい先に転がっていました。
さっきのチャリーンという音で、レジカウンター周辺の人たちの注目も集まっていることでしょう。
私はレジ袋を床に置き、そのまま躊躇せずに上半身を前に傾け始めます。
両膝は折らず、お尻をレジカウンターに突き出すように。
心の中で、視て、視て、よく視ていて、ってレジ係さんに訴えながら。
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*オートクチュールのはずなのに 09へ
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