2011年6月11日

しーちゃんのこと 10

ドキッ!
私は、しーちゃんの無邪気な言葉に内心、大いに動揺していました。
美術室で、みんなの前で全裸になっちゃうような人と私が、似ているって・・・

「でも、実際におしゃべりしてみたら、外見や顔は、そんなに似てなかったけどネ。背なんか、なおちゃんよりもっと高いし」
「でも、なんて言うのかなー、物腰?たたずまい?ちょっとした仕草?みたいのが、なおちゃんぽいかナー、って、あらためて思ったけど」
しーちゃんは、あくまで無邪気に言葉をつづけます。
お話を聞いた限り、ニノミヤ先輩っていう人は、確かに私と似た性癖、と言うか、嗜好を持っているみたいです。
しーちゃんには、そういうのがなんとなくな雰囲気でわかっちゃうのかなあ?
しーちゃんのお顔を上目遣いで盗み見ながら、なんだかすごくドキドキしてきてしまいました。

「ソファーとかを元通りにしたら、ニノミヤ先輩もやっと服を着始めたのネ」
しーちゃんがお話を、唐突に再開しました。
「ワタシ、ニノミヤ先輩が服を着るのを、突っ立ってボーッと見ていたの、それこそ放心状態で」
「そしたら三年の先輩がポンてワタシの肩たたいて、どうだった?って」
「びっくりしたでしょ?って聞くからワタシ、はい、とても、って」
「でもなんだかヒミツめいててワクワクもしない?とかいろいろ聞いてくるのを、ワタシ、ただ黙って首を縦にウンウン振って、うなずくだけだったヨ」

「ニノミヤ先輩がソファーに腰掛けてソックス履いてるのをまだボーッと眺めてたら、三年の先輩が、明日は課題勉強会だから、遅れないようにね、って、もう一度肩をたたかれたの」
「これは、今日はもうあなたは帰りなさい、っていう意味だな、と思って、空気読んで、ワタシはお先に失礼したのネ」
「ワタシがいなくなってから、きっと5人で、今のワタシの反応とかを話題にして盛り上がるんだろうなあ、なんてちょっと思ったけど、ワタシもかなり動揺していたし、気持ちを落ち着かせたくて、早く一人になりたかったから・・・」
しーちゃんは、コップのお水をゴクッと一口飲んで、じっと私を見つめてきました。

「お家に帰って、自分の部屋で、さっき部室でニノミヤ先輩がしたことを思い出していたら、なんだか無性に不安になってきちゃったのネ」
「ニノミヤ先輩は、別にイヤイヤやってるようでも、脅されてやらされてるようでもなかったから、イジメ、みたいなことではないんだと思うんだけど・・・」
「むしろ、裸を見られるのが嬉しい、みたいな雰囲気さえ、ワタシには感じられたんだけどサ・・・」
私の胸が、またドキンと波打ちます。

「もしも、もしもさあ、美術部にはそういう伝統って言うか、しきたりみたいのがあって、部員はみんな、一度は裸婦のモデルをやらなきゃいけない、みたいなルールがあったりしたら、ワタシ、イヤだなー、って思ってサ」
「みんなの前で一人だけ裸になるなんて、ワタシ絶対出来ないから・・・」
「すんごく不安になってきちゃって、そういうのがもしあるんだったら、美術部やめよう、とまで思い込んじゃってサ・・・」
しーちゃんが自嘲っぽく小さく笑いました。

「それで今日、勉強会の後に先輩にこっそり聞いてみたのネ」
「勉強会早めに終わったから、昨日その場にいた先輩、三年のトリゴエ先輩と二年のオガワ先輩を捕まえて、廊下の隅でヒソヒソと」
「トリゴエ先輩とオガワ先輩は、いっつも一緒にいるのネ。すんごく仲いい感じ」
「先輩たち、ワタシがせっかくヒソヒソと話してるのに、聞いた途端に盛大に笑い転げちゃってたヨ」
「美術部にそんなしきたりなんて全然無いし、もちろんニノミヤ先輩へのイジメとかでもなくって、あれはニノミヤ先輩がしたくってしてること、なんだって」
「でも、先輩たちがときどきそういうことをしてるのを知っているのは、ニノミヤ先輩を含めた昨日の5人の先輩たちと、昨日初参加のワタシだけだから、絶対他の部員には言わないように、って固く口止めされたヨ。とくに他の新入部員には絶対に、だってサ」
「ワタシ、ヒミツの悪い仲間に選ばれちゃったみたいだヨ?」
しーちゃんが嬉しそうに笑いました。

「なんでも、去年の部の合宿のとき、その5人グループで一緒にお風呂に入ったんだって。で、ニノミヤ先輩の裸がとてもキレイだったから、冗談半分本気半分でヌードモデルやってよ、って、当時二年生のトリゴエ先輩が熱心に口説いたら、その夜、合宿してたホテルのお部屋で、モジモジ恥ずかしがりながらも、脱いでモデルしてくれたんだって」
「合宿の部屋割もその5人だったから、その後もずっと、その5人だけがヒミツを共有してるんだって」

「ワタシが、ニノミヤ先輩、恥ずかしそうなのはもちろんなんだけど、何て言うか、嬉しそうな感じでもありましたよネ?って聞いたのネ」
「そしたらオガワ先輩が、しのぶちゃんでも気づいてたんだ、ってクスクス笑って、クリスはね・・・」
「あ、クリスっていうのはニノミヤ先輩の名前ネ。正確にはクリスティーナだかクリスティーヌだか。お父さんがイギリスだかフランス人だかで、ハーフなんだって」
「でもそんなにそれっぽい顔ではないんだけど。あ、もちろん、すんごく綺麗な顔であることは間違いないヨ」

「それで、オガワ先輩が、クリスはね、露出症なんだよ。って。裸とか恥ずかしい格好を誰かに見られることが気持ちいいんだって」
「オガワ先輩とニノミヤ先輩は、同じ中学出身の幼馴染なのネ。それで、ニノミヤ先輩はちっちゃい頃からその傾向があったんだって」
「近所の子供たちとお医者さんごっこするときも決まって患者さん役だったし、小学校や中学校のときも、女子だけのお泊り会で王様ゲームとか、負けたら脱ぐのを賭けたゲームしたりして、みんなでクリスをよく裸にしてたんだ。って、オガワ先輩が言ってた」
「そのたんびにクリスったら、恥ずかしいくせになんだか嬉しそうなのよねー。それがまた可愛くってさー。って」
「クリスは、もちろんナイスプロポーションだから、それを見せびらかしたい、っていうナルシスも少し混じってるんだろうけど、それだけじゃないんだろうねー。あれ、絶対ビンビン感じちゃってると思う。なんだかちょっぴりうらやましいから、こっちもなんだかウズウズしちゃって、なおさらイジワルしたくなっちゃうんだよねー・・・って、オガワ先輩がしみじみ言ってた」

「ワタシは、恥ずかしいのは、やっぱり恥ずかしいだけで、気持ちいい、っていうのがよくわかんないんだけど、世の中にはそういう人もいるんだネ?」
しーちゃんが当惑したような、私に同意を求めるような、ビミョーなお顔をして私を見つめてきます。

今にして思えば、このときはチャンスでした。
「実は、私もニノミヤ先輩のその気持ちがわかるの。私にもそういう傾向があるの。しーちゃんに私の裸を見て欲しいの」
って、勇気を出して言えたら、私としーちゃんのお話も、また違った展開になっていたのかもしれません。

でも、その頃もまだ、私はしーちゃんに自分の性癖について、チラッともお話していませんでしたし、オナニーしていることさえもヒミツでした。
しーちゃんと仲良くなればなるほど、しーちゃんが時折見せてくれる性的なことに対する無垢な純粋さや無邪気さと、私がひた隠しにしている、すでに身につけてしまったヘンタイ性や歪んだ妄想癖とのギャップが絶望的に見えて、しーちゃんに対して、安易な性的アプローチがとれない理由となっていました。

さらに、放課後の美術室で全裸を晒すニノミヤ先輩のお話を聞いて、私の妄想回路が今やフル回転、緊急のムラムラモードに突入していました。
しーちゃんとどうこう、っていうのより、早くお家に帰って、今のお話を元に、自分なりの妄想展開で思いっきりオナニーしたい、っていう欲求が私の頭の中を埋め尽くしていました。

「露出症っていう趣味嗜好の人がいる、っていうのは私も何かで読んだことがあるよ・・・」
あたりさわりのない答えでごまかしました。
「ふーん。見ているワタシがすんごくドキドキしちゃうんだから、見せているほうは、ものすごーくコーフンしちゃうんだろうナー」
しーちゃんは、あくまで無邪気に夢見る目つきです。
「そんな話をしてたんで、今日は教室に戻るの、ちょっと遅れちゃったんだヨ。でも、なおちゃんに話せてなんだかスッキリした。部活、これからいろいろ楽しくなりそうだナー」
言いながら、しーちゃんが何気なく自分の腕時計を見て、ギョッとしたお顔になりました。
「もう、こんな時間だヨ。夕飯に遅れたら叱られちゃうヨー」
夢中でお話していて、ずいぶん時間が経っちゃったようです。
バタバタとあわただしく喫茶室を出て、駅前の交差点のところでお別れしました。
「バイバーイ。来週また、学校でネー」

夕食を終えて入浴も済ませ、バスタオル一枚のまま身繕いを終えた私は、ベッドの前に姿見を移動しました。
パソコンで裸のマハを検索し、そのポーズを頭の中に焼き付けます。
学校で使っている絵画用具セットの中から、絵筆を2本、太いのと細いのを取り出して枕元に置きました。
それから、バスタオルを取って裸になると、下着は着けず、素肌の上にじかに、高校の制服、ブラウスとスカートとネクタイとベストとソックスをいそいそ身に着けました。
おっと、お部屋の鍵も閉めておかなくちゃ。


しーちゃんのこと 11

2011年6月6日

しーちゃんのこと 09

毎週金曜日は、しーちゃんは美術部で勉強会の日、私は文芸部図書室受付当番の日だったので、部活が終わった後、クラスのお教室に戻って待ち合わせて、一緒に下校していました。
しーちゃんはその日、いつもより15分くらい遅れてクラスのお教室に現われました。

電車に乗って地元の駅に着くまでは、いつもの他愛も無いおしゃべりをしていたのですが、駅を出たとき、
「ちょっとお茶していこうヨ?」
って、意味あり気にしーちゃんに誘われて、駅ビルの地下の喫茶室に入りました。

「昨日サ、なおちゃんバレエだったから放課後ツマンナイし、部活に顔を出したのネ」
ウエイトレスさんが二人分の紅茶を置いて立ち去ったのを見届けてから、しーちゃんが話したくってしょうがなかった、っていうお顔で、内緒話をするみたいなヒソヒソ声で切り出しました。

「昨日は自由参加の日だから、美術室には二年の先輩3人と三年の先輩2人だけがいて、ワタシはコンピューターグラフィックを練習しようと思っていたのネ」
「先輩たちは、その日は絵とかは描いてなくて、ソファーや椅子に座って、ただおしゃべりしてたみたいだったの」
「その一週間くらい前にコンピューターを教えてくれた二年生の先輩、ニノミヤ先輩っていうんだけど、その先輩もいたからラッキーって思って、その先輩の隣に座ったのネ」
「でも、みんなまったりおしゃべりしてるから、コンピューター起動するのもKYかなと思って、しばらく一緒におしゃべりしていたのネ」
しーちゃんは、ずーっと声をひそめたまま、思わせぶりにつづけます。

「おしゃべりが一段落したとき、三年生の先輩の一人が、今日はしのぶちゃんも来たから、あ、ワタシ先輩たちからしのぶちゃんって呼ばれてるのネ」
しーちゃんが少し照れたお顔をしました。
「今日はしのぶちゃんも来たから、久しぶりにクロッキー、やろうか?って言い出したのネ」
「クロッキーっていうのは、人とか人形とかモデルを見ながら、スケッチを短時間でやるやつ。線画みたいな感じで単色で、濃淡で質感出したり、っていうスケッチ」
「ちなみに、時間かけてやるのは、デッサン、ネ」
「そう言ったとき、その三年の先輩がニノミヤ先輩のほうを見て、ニッって笑ったような気がしたの。ワタシの隣のニノミヤ先輩もなんだかモジモジし始めて」
しーちゃんがティカップに唇をつけて、またソーサーに戻しました。

「先輩たちが座っていたソファーから立って、そのソファーをフロアの中央に運んだり、ドアの鍵を閉めたりカーテン引いたりし始めたのネ。ワタシ、何が始まるのか、と思ったヨ」
「しのぶちゃん、スケッチブック持ってきた?って聞かれたから、いえ、今日はCGやろうかと思っていたんで・・・って言いながらニノミヤ先輩のほう向いたら、ニノミヤ先輩は席を立って、ソファーのほうに行ってた」
「二年の先輩が、じゃあこれあげる。入部記念に特別よ。ってロッカーから真新しいクロッキー帳を出してきて、笑顔で手渡してくれた。あとエンピツも」
「ロッカーのほうに行ってたワタシがそれらをもらって、元の場所のほうへ戻ろうと振り返ったら・・・」
そこでしーちゃんが言葉を止め、私の顔をまじまじと見つめてきました。
私もしーちゃんを見つめ返します。

「振り返ったら、ソファーの前でニノミヤ先輩がスルスルって、制服、脱ぎ始めてたの」
「えーーっ!」
私は、思わず大きめの声を出しながら前屈みになっていた背中を起こしてしまい、あわてて口を手で押さえ、また背中を丸めてテーブル越しにしーちゃんと見つめ合います。

「ベスト取って、ネクタイ抜いて、ブラウス脱いで、ブラジャー取って、上履き脱いで、ソックスも脱いで、スカート脱いで、パンツも脱いで、一糸まとわぬオールヌード・・・蛍光灯全開ですんごーく明るい夕方の美術室でだヨ」
「ニノミヤ先輩、けっこうサバサバ脱いでるようだったんだけど、顔を見るとやっぱりすごーく恥ずかしそうなのネ。頬が薄っすら赤くなっちゃって、でも脱いだ服を裸のまま丁寧にたたんだりして、余裕があるような、やっぱり恥ずかしがっているような・・・」

「ニノミヤ先輩が脱いでいる間、他の先輩たちは腕組みとかしてじーーーっとそれを見てるの。服を脱いでいくのを」
「こっちにお尻を向けて服をたたんでたニノミヤ先輩がたたみ終わったらしくこっちを向いて、ポーズをつけるみたいに私たちの前にスクッと立ったの。右手でバストを隠して、左手をアソコの前に置いて・・・ほら、ヴィーナスの誕生、みたいなポーズ」

「それが、すごーーーーーっくキレイなの!」
「ニノミヤ先輩、スタイルすんごくいいの。バストはそんな大きくないけど形が良くって、ウエストはキュッってくびれてて、キレイな髪が裸の肩にフワリと垂れて・・・」
「肌も滑らかそうな、白いとかそういうんじゃなくて、本当の肌色って言うか、薄桃色みたいな感じで、ツヤがあって」
しーちゃんが私を見つめてきます。

「三年の先輩が大きなクッションを2つ持ってきて、今日はしのぶちゃん初めてだから、基本っていうことでマヤで行こうか、なんて言いながらクッションをソファーの上と下に置いたのネ」
「そしたらニノミヤ先輩、裸のままソファーの下のクッションにお尻ついて、背中をもう一個のクッションの上に乗せて、両腕を枕にするように上にあげて、両腋の下全開で・・・」
「なおちゃん、裸のマヤっていう絵知ってるでしょ?スペイン語読みだとマハだったっけかナ。ググッたらすぐ出てくるヨ。その絵のポーズでソファーにもたれたの」

「しのぶちゃんは、このへんで描いてって、椅子を置かれたのがニノミヤ先輩の下半身の前あたりでサ。2メートルくらいの距離があるんだけど、ニノミヤ先輩、頬や首筋がピンク色に上気して、目も少し潤んでるみたいで・・・」
「じゃあ、15分ね。あの時計で4時25分まで。クロッキー、スタート!って三年の先輩が言って、みんな真剣に描き始めたの」
「ワタシも描き始めたヨ。昔、絵画教室でクロッキーやってたから慣れてたし」

「でもネ・・・」
しーちゃんがまた、ティーカップに手を伸ばしました。
私は、お話に引き込まれてしまい、動くこともできません。

「ワタシの位置からだと、ニノミヤ先輩のアソコが至近距離でモロ、なのネ。ニノミヤ先輩の毛、アソコのネ、も薄くてチョロチョロなの。左膝を少し曲げ気味にしてたから。あの、なんて言うか、スジまで丸見えなのネ」
「ニノミヤ先輩の頬はさっきより上気しているし、恥ずかしいんだろうナーって思ったら、ワタシも恥ずかしくなってきて・・・」
お話している、しーちゃんの頬もピンクに上気していました。

「描きながらずーっとドキドキしっぱなしで、思うようにエンピツが動かなくて・・・」
「それで、ときどきニノミヤ先輩がワタシのほうにかすかな目線をくれるのネ。それで目が合うと、本当にかすかに、笑いかけてくれてるような気がして、それでドキドキがゾクゾクッていう感じになっちゃって・・・」
「それで結局、15分で輪郭くらいしか描けなかったヨ」
しーちゃんが、ここまででお話一段落、みたいな感じで背中を起こしました。
私もつられて背中を起こします。

しばらく無言で見つめ合ってから、またしーちゃんが身を乗り出しました。
すかさず私もつづきます。

「先輩たちがワタシのクロッキー帳取り上げてサ、なーんだ、まだぜんぜん描けてないじゃなーい、なんて、からかうように言ってくるのネ。たぶん本当にワタシ、からかわれているんだと思うんだけどネ」
「それで、その輪にニノミヤ先輩も裸のまんま加わってるの。笑顔浮かべて、ワタシの背後でキレイなバスト、プルプル揺らして・・・」
「三年の先輩が、しのぶちゃんのがぜんぜん未完成だから、今度またこの6人が集まったら、つづきをやりまーす。って宣言して、そのクロッキー大会は終わったんだけどネ」

「それでネ、みんなでソファーとか片付け始めたんだけど、ニノミヤ先輩ったら、なかなか服着ないの。裸のまんまソファー運んだリ、他の先輩とおしゃべりしたり」
「ワタシのところにも来て、CGはまた今度、教えてあげるわね、なんて恥ずかしそうな笑顔で言われて」
「ワタシ、思わず言っちゃった。先輩のハダカ、すごーくキレイですね、って。だって本当にキレイだと思ったから」
「そしたら、アリガト、次が楽しみね、だって。なんだかとっても嬉し恥ずかし、って感じだった・・・」

「・・・ねえ、なおちゃん、どう思う?」

どう思う、って聞かれても・・・
私の頭の中は、しーちゃんのショーゲキの報告に大混乱していました。

まず、まだ普通に生徒たちがいる学校の一室で、正当な理由で全裸になって、みんなに裸を見てもらえる部活動がある、っていうのがショーゲキでした。
美術部ならば確かに、裸婦画っていうのは一つの芸術のジャンルですから、そのモデルを一生徒がやっても問題は無いのかもしれません。
でも、鍵をかけているところをみると、やっぱり先生たちには内緒のアソビなのかしら?
その裸を他の人たちがちゃんと真剣にスケッチしている、っていうのも、芸術家としては当然なのでしょうが、事情を知らない人から見ると、なかなかにシュールでエロい光景に思えます。
写真部とかでも、やってたりして・・・

女子校だから、っていうも大きいのかな、とも思いました。
私たちのクラスでも、6月になってムシ暑くなってきたので、授業中にネクタイを緩めて、胸元のボタンも3つくらい開けて、ブラをチラチラ見せながらアチーーとか言っている豪快なクラスメイトが何人かいました。
先生もそれに関して、とくに注意とかしないんです。
休み時間にスカートをバサバサやって涼を取り、可愛いショーツを見せびらかせている、たぶん本人にそんなつもりはないのでしょうが、人がいたり、体育の着替えのとき、あっけらかんとおっぱい丸出しで普通のブラからスポーツブラに着替える人がいたり。

男性の目が無い、女性同士なら別に下着を見られようが裸を見られようが恥ずかしくない、っていう油断と安心感は、やっぱり女子校だと強いんだと思います。

でも、今しーちゃんから聞いたニノミヤ先輩のお話は、それだけでは説明できないショーゲキでした。
絶対、ニノミヤ先輩は、みんなの前で裸になることを楽しんでいるはずです。
すっごく恥ずかしいのに、楽しんでいるはずです。
そして私はそれを、心底うらやましいと思っていました。

「どう、って言われても・・・」
私は、慎重に言葉を選んで答えようとしましたが、うまく言葉がみつかりません。
仕方が無いので、ごまかすようにしーちゃんに聞きました。
「そのニノミヤ先輩っていう人は、どんな感じの人なの?」
「うんとネー、オトナっぽい感じで、背が高くて、髪は肩くらいまでのサラサラで顔が小さくて、プロポーション抜群で・・・」
「そうだっ!前に言わなかったっけ?憶えてない?春になおちゃんと部活見学行ったとき、ワタシが、なおちゃんにどことなく雰囲気が似てる人がいたネー、って言ったでしょ?あの人だヨ」


しーちゃんのこと 10

2011年6月5日

しーちゃんのこと 08

「ねえねえ、なおちゃん、中川さん。もう部活決めた?」
入学式から二週間ほどたったある日のお昼休み、しーちゃんが私の席まで来て、聞いてきました。
私は、お隣の席の中川ありささんとおしゃべりをしていました。

中川さんとは、すでにすっかり仲良しになっていました。
背は小さめだけど元気一杯で、いつもニコニコしている人なつっこい中川さんは、お話しているだけでこちらにも元気がもらえるようなポジティブまっすぐな女の子でした。
「あたしは、演劇部に決めたんだ」
中川さんがしーちゃんに答えます。
しーちゃんと中川さんもすでに仲良しさんになっていました。

「わたしは、軽音部に入ってバンド組むつもり」
しーちゃんの後ろからこちらへやって来たのは、しーちゃんのお隣の席の友田有希さん。
背が高くてストレートのロングヘアーでからだの発育もいい、なんだかカッコイイ感じの女の子です。
しーちゃんとアニソンのお話で盛り上がり、たちまち意気投合したんだそうです。
そして、ステキな偶然もあるもので、中川さんと友田さんは、同じ中学出身なお友達同士でした。

「アタシもまだ決めてないんだよねー」
会話に混ざってきたのは、私の後ろの席の山科洋子さん。
なんだか色っぽい感じのウルフカットでスレンダーな美人さん。
私とは違うバレエ教室に通っているそうで、もちろんバレエのお話がきっかけでお友達になれました。

私たちのクラスには、派手に髪を染めていたり、極端に短かいスカートを穿いてくるような、いわゆるギャルっぽい人は一人もいなくて、なんだかみんないい人っぽい、おだやかな感じの女の子ばかりでした。
この学校の制服のデザインだと、短かいスカートは絶対合わないのは誰の目にも明らかなので、そうい人は最初からこの学校に来ないのでしょうけど。
さすが、まわりからお嬢様学校、と思われているだけあって、なんとなくお上品というか、マイペースな感じの人ばかりみたい。
私には、とても居心地のいい雰囲気でした。

そんなクラスで早くもお友達になれた3人としーちゃんとで、しばらく部活のことについておしゃべりしました。
「ワタシ、美術部にするかマンガ研究会にするか、迷ってるんだよネー」
しーちゃんが言うには、マン研は、すでに部員がいっぱいいて活気がある感じなんだけれど、なんだかみんな理屈っぽそうな雰囲気がしたんだそうです。
それに較べて美術部は、先輩がたがみんな落ち着いた感じで、人数も少なくて、逆に言うとちょっと暗い感じ。
「お姉ちゃんに聞いたら、私には美術部のほうが合っている、ってニヤニヤしながら言うんだよネー。どういう意味なんだろう?」
しーちゃんのお姉さんは、三年生に進級して、生徒会会長になっていました。
BL大好きな、フジョシな生徒会長さん、です。

「森下さんは、バレエ習ってるんだから、新体操部とかダンス部とか、いいんじゃない?」
山科さんが聞いてきます。
「うーん・・・そう言う山科さんは、そういうところへ入るつもりなの?」
「アタシは、体育会系はパスかなあ・・・バレエ教室で充分て言うか・・・部活になっちゃうとしんどそうだし、教えてくれる先生によって指導も違いそうだし」
「そうでしょ?私も同じ気持ちなの。だから文芸部に入ろうかなあって思ってる」
「うちは全員、何かしら部活に入らなきゃいけない決まりだからねえ。アタシも演劇部にでも入ろうかなあ・・・」
「あ、それいいよ。あたしと一緒に演劇やろう。山科さんなら舞台栄えしそー。男装の麗人とか」
「何それ?アタシのおっぱいが男子並、って言いたいの?」
「いやいやいや、そーじゃなくてー」
中川さんが嬉しそうに山科さんの手を引っぱりました。

「なおちゃんは、中学のとき、ずーっと図書委員だったんだヨ。すっごくたくさん本読んでるの」
しーちゃんがみんなに説明しています。
しーちゃんも、一対一じゃなくても普通にみんなの会話に混ざるように努力しているようでした。

この高校には、図書委員っていう制度は無くて、図書室の運営や管理をしているのは文芸部なのだそうです。
入学した次の日に訪れた図書室はとても立派で、まだ読んでいない本がたくさんあったので、高校でもまた図書委員に立候補しようと思っていたのですが、そのことを聞いたので、文芸部しか考えられなくなっていました。
部活見学で再度訪れて説明を聞いたら、読むだけではなく、小説やエッセイを執筆して機関誌の発行とかもするようで、小学校の頃から一応日記みたいなものを書いていた私は、ますます興味を惹かれました。
ちゃんとした文章の作法とかも勉強できそうだし。

「なおちゃんがエッセイ書いたら、ワタシがイラスト付けてあげるヨ」
しーちゃんがニッって笑いかけてくれます。
そんな感じでお昼休みの間中、ガヤガヤとおしゃべりしました。

「ねえ、なおちゃん。ワタシ、もう一回美術部見学に行くから、なおちゃん、つきあってくれない?」
その日の放課後、しーちゃんと一緒に帰ろうとしたとき、しーちゃんが言いました。
「いいよ」
私は、軽い気持ちで引き受けて、二人で3階の美術室を訪れました。

3階校舎のはずれにある美術室は、普段並んでいる椅子や机がきれいに片付けられ、広いフロアにイーゼルが7台、みんな思い思いの方向に向けられて立っていて、その前で7人の部員さんたちが、真剣な面持ちでキャンバスに絵筆を滑らせていました。
「あっ、いらっしゃい。えーっと確か藤原さん、だったっけ?どう?決心はついた?」
先輩らしき一人がキャンバスから顔を上げて、こちらに声をかけてきました。
髪の長い、落ち着いた感じのオトナっぽいキレイな人でした。
「あっ、はいっ。まあだいたいは・・・」
しーちゃんが緊張した声で答えています。
「そちらは?」
「あっ、彼女はワタシのお友達で、彼女は文芸部に入る予定なので、付き添いです」
「そう。ゆっくりしていってね」
その人が私を見つめて、ニッコリ笑ってくれました。
「今日は、自由参加の日だから、今描いているのはみんな好き好きの自由な個人作品なの。部全体での課題勉強会は水曜日と金曜日だけ。その他の日は来ても来なくてもいいし、自由参加の日は、こうして自分の作品を描いててもいいし、そこのソファーでおしゃべりしててもいいわ。結構ラクな部活よ」
しーちゃんのほうを向いてそれだけ言うと、その人はまた顔をキャンバスに向けて、自分の作品に戻りました。

私としーちゃんは、なるべく迷惑にならないようにそーっと歩いて、それぞれの絵を描いている先輩がたの背後に回り、それぞれの作品を見せていただきました。
私たちが近寄っていくと、みんなお顔をこちらに向けて、ニコっと会釈してくれます。
私には、絵の上手下手はまったくわかりませんが、みなさん上手いように思えました。

木目の綺麗な壁で囲まれたシックな感じの美術室には、油絵の具の香りがただよい、レースのカーテンがひかれた西側の窓から春の夕方の陽射しがやわらかく射し込み、しんと静まりかえった中に時折サラサラと絵筆が滑る音・・・
みんな耳にイヤフォンをしているということは、思い思いに好きな音楽を聴きながら、絵を描いているのでしょう。
7人の先輩がたは、みんな真剣で、オトナな感じで、カッコイイと思いました。

「コンピューターでの絵の描き方も教えてくれるって言うし、美術部に決めちゃおうかナ」
見学を終えて、しーちゃんと帰宅する道すがら、しーちゃんがウキウキした感じで言いました。
しーちゃんも高校進学のお祝いにパソコンを買ってもらったそうです。
「先輩たちみんな、カッコイイ感じだったね。決めちゃえば?」
「中に一人、すごーく雰囲気のある、オトナっぽい感じの人、いたでしょ?」
「えーっと、みんなオトナっぽく見えたけど・・・」
「一番背が高くて、抽象画を描いていた人。あのひと雰囲気がどことなくなおちゃんに似てたヨ」
「へー。どの人だろう?」
私は、全然覚えていませんでした。

結局、私は文芸部、しーちゃんは美術部、中川さんと山科さんは演劇部、友田さんは軽音部に入部しました。

部活とバレエ教室以外の日は早めに帰宅してパソコンのお勉強をし、そうしている間に初めての中間試験を迎え、という具合に4月と5月があわただしく過ぎていきました。

5月の連休までには、パソコンのだいたいの操作を覚えた私は、連休初日にいよいよインターネットのえっちサイトデビューを果たしました。
最初に訪れたのは、相原さんのお家で見せてもらったえっちな告白サイト。
サイトの名前を覚えていたので、検索エンジンで検索するとすぐ見つかり、貪るように思う存分読み耽りました。
その後は、画像探しの旅です。
いろいろ検索して、いきなり無修正の男の人のアレ画像が出てきて、あわててパソコンの電源コード抜いちゃうようなこともありましたが、夜な夜なのえっちなネットサーフィンは、私の妄想オナニーの頼もしいオカズ元になっていました。

そんなこんなで迎えた6月初旬の金曜日。
しーちゃんと二人で帰宅する途中に立ち寄った喫茶店で、しーちゃんからスゴイお話を聞かされました。


しーちゃんのこと 09