2014年7月12日

ランデブー 6:42 02

「あっ、いえ、あの、えっと、はい・・・」
 
 不意を突かれてあわてた私は、持っていた梅酒ソーダのグラスをあやうく落としそうになってしまいました。
 目の前で絵美さまが薄く微笑んでいます。
 ついに本題です。
 落ち着いてお話しなくちゃ。
 梅酒ソーダを一口ゴクンと飲んで、姿勢を正しました。

 私は今日、絵美さまに私の恥ずかしい嗜好と性癖を、すべて包み隠さずお話しすることに決めていました。
 すべてを知っていただいた上で、絵美さまが私のパートナー、いいえ、ご主人様になっていただけるよう、お願いするつもりでした。

「いつも、というわけではないのですけれど・・・」
 すっごくドキドキしながら、私は話し始めました。
 
 子供の頃、SMの写真集を盗み見たことから始まって、トラウマのこと、やよい先生とのこと、しーちゃんのこと、シーナさまとのこと・・・

 絵美さまがとても聞き上手で、基本的には黙って聞いていてくださり、私の話が散らかりそうになったときだけ的確に誘導して、更に新たな話題を引き出してくださいました。

「へー。そのときはどんな感じだった?」
「通っている学校の門の前で全裸って、すごいわねー」
「その人、次から次へとよくそんな恥ずかしいこと、思いつくものね?」
「そんなに感じちゃったんだ?えっちな子ねー」
 
 興味津々のお顔で、じーっと私を見つめつつ真剣にお耳を傾けてくださる絵美さまに性的な興奮さえ感じながら私は、東京に来てからのはしたない独りアソビのことまで、ほとんど洗いざらい白状していました。

「ふーん。なるほどね。あなたはそういう女の子なんだ?」
 私の告白がひと段落すると、絵美さまがまっすぐに私の顔を見ながらおっしゃいました。
 涼しげなふたつの瞳が少し笑っています。
「・・・はい」
 私は小さくコクンとうなずきました。
 言わなくちゃ。
 ここでちゃんと言わなくちゃ。
 覚悟を決めて、絵美さまのふたつの瞳に視線を合わせました。

「それで・・・」
「うん?」
「それで、こんな私なのですけれど、ぜひこれからもずっと、私とおつきあいしていただけませんか?」
 絵美さまのお顔が一瞬、えっ?という表情になりました。
 それからゆっくりと、淡い微笑が広がっていきます。

「おつきあい?」
「はい。私、恋しちゃったみたいなんです。お姉さ、あ、いえ、絵美さまのことが大好きになっちゃったんです」
 戸惑いのような表情を浮かべた絵美さまが、ふっと目を伏せました。

 その後の沈黙は、私にはすっごく長く感じられました。
 どんなお答えが返ってくるのか・・・
 絵美さまに嫌われてしまっただろうか・・・
 やっぱりすでにおつきあいされているかたがいらっしゃるのだろうか・・・

「あたしはかまわないけれど、本当にいいの?」
 実際には5秒くらいの沈黙の後、絵美さまが、拍子抜けするようなお答えをくださいました。
 あまりに予想外すぎて、今度は私が戸惑う番。

「えっ?」
「だってあなた、あたしのこと何も知らないでしょ?」
「あ、それはそうですけれど・・・あ、誰かもう、おつきあいしているかたが・・・?」
「ううん。あたしもあなたと同じで、オトコには興味ないたちだし、かといって、同性の決まった相手もいない」
「それならぜひ、おつきあいしてください。私、なんでもやりますから」
 すがるように絵美さまを見ました。

「実を言うと、あたしもあなたのこと、このあいだのアレでとても気に入ったから、おつきあいするのはいいのだけれど・・・」
 気に入った、というお言葉に天にも昇る気分。
「だけどあたしはね、けっこうめんどくさいオンナよ?」
 絵美さまが自嘲気味につづけました。
「誰かとつきあってもあまり長続きしないのよ。わがままだし、気分屋で飽きっぽいし、嫉妬深いし、仕事忙しいし・・・」
 ここは押すしかない、と思った私は、思い切り恥ずかしい科白で攻め込みました。
「だいじょうぶです・・・どんな仕打ちをされても耐えられます。私、マゾですから」
 あはは、って笑った絵美さまが美味しそうに、グラスに少し残っていたワインを飲み干しました。

「なるほどね。それならあたしたち、つきあってみようか?」
 絵美さまがニッコリ笑って、注ぎ直したワイングラスを私のほうに差し出してきました。
「ほんとですか!」
 チーンッ!
 勢いよく差し出した私の梅酒ソーダのグラスとワイングラスが触れ合い、綺麗な高音が響きました。

「それにしても、あなたが百合草女史と知り合いだったなんて、世の中ってほんとに意外と狭いのね」
「あ、やよい先生、いえ、百合草先生を、ご存知でしたか?」
「ご存知も何も、お店によく遊びに行っているし、水野さんがあたしの高校の先輩なのよ」
「ああ、ミイコさまですね」
 水野美衣子さま、やよい先生のパートナーで、ご一緒に新宿でレズビアンバーをやっていらっしゃる女性です。
「そう。お店でシーナさんにもお会いしたことあるし」
「そうだったんですか?」
「まあ、こういう嗜好を持つと、同じ嗜好の人たちが、自然に顔見知りになってしまうのかもね」
 絵美さまが感慨深そうにおっしゃいました。

「それで今のあなたの話だと、百合草女史やシーナさんが、今までさんざんあなたのからだをおもちゃにしてきたのでしょ?」
「これからあなたとつきあう身としては、彼女たちになんだかジェラシーを感じちゃうわ」
 からかうような口調でしたが、なんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。
「ご、ごめんなさい・・・」
「冗談よ。これからあなたは、あたしだけのものだものね?たくさん愉しいことをしましょう」
「はいっ!」

「と言ってもあたし、自分ではそんなにエスっぽいとも思っていないのよね」
「いえいえ。私を虐めるの、すっごくお上手でしたよ。ずいぶん慣れている感じで」
「高校のときに、あなたみたいな子がひとりいたのよ。人前で裸にされて悦んじゃうような子が」
「もちろんいわゆるイジメじゃないわよ?仲良しグループの中の悪ふざけの延長みたいな、他愛も無いじゃれあい。その子もやられて嬉しそうだったし」
「へー」
「服飾部だったのよ。洋服作って着せあったり、学校祭ではファッションショーしたり」
「そのお話、すっごく聞きたいです」
「詳しいことは今度ゆっくり聞かせてあげるわ。そのときに、その子を辱めることに快感を覚えるようになっちゃったみたいなのね」

「あたしはね、顔フェチなの。イキ顔フェチ」
「可愛い女の子がせつなげに顔を歪めているのを見るのが大好物なの」
「綺麗な子が苦痛に苛まれている顔とか、気持ち良すぎて涙目になっていたり」
「可愛ければ可愛いほどいいのはあたりまえよね。そういうのを見ているのが好きなの」
「だから虐めたり責めたりするのは、別にあたしの手でじゃなくてもぜんぜんよくて、誰かがしているのを傍で見ているだけでもよかったのだけれど・・・」
 絵美さまがそこでいったんお口をつぐみ、私を真正面からじーっと見つめてきました。
「あなたの場合は違ったの。あたしが自分の手で、その可愛い顔をどんどんどんどん歪ませてみたい、って心の底から思ったのよ」

 私の心臓は、嬉しさで飛び出しそうなほど。
 今すぐ絵美さまに抱きつきたい、と思いました。

「だから・・・」
 腰を浮かせかけた私を制するように、絵美さまのお言葉がつづきました。
「SMで言う、ご主人様と奴隷、みたいな関係はピンと来ないのよね。なんだか字面が生々しくて。それよりも、なんて言うか・・・」
 絵美さまが視線を落とし、ご自分の思考の中に沈まれました。

「そうだ!」
 お顔を上げた絵美さまの妖艶な微笑み。
「あなた、マンガとかアニメが好きだって言ったわよね?」
「はい」
「だったら、スール、って知ってる?」
「あ、はい。全部読んでます。絵美さまもお好きなのですか?」
「うん。あのシリーズは面白いわよね。甘酸っぱくて」

 その頃人気のあった、由緒正しいお嬢様学校が舞台の少女小説でアニメにもなった作品内の設定。
 スール、とはフランス語で、姉妹。
 学園生活を清く正しく美しく過ごすために、上級生が下級生と、姉妹、になって、姉が妹を導く関係。

「あたしたち、スールになりましょう」
「はい、喜んで」
「そうなるとあたしはあなたを、直子、って呼ぶことになるわね」
「はい。私は絵美さまを、お姉さま、とお呼びします」
 私はルンルン気分でお答えしました。
「実は私、絵美さまのお名前がまだ分からないときからずっと、心の中で、お姉さま、ってお呼びしていたんです」

 チーン!
 もう一度グラスを軽く合わせ、私とお姉さまはめでたくスールとなりました。
 でも、私とお姉さまとのスール関係は、清く正しく、とはいかないでしょうけれど。

「さて・・・と」

 お料理もあらかたいただいて、お話もひと段落。
 お姉さまが少し目を細め、イタズラっぽい目つきで私を見つめてきました。
 イジワルそうな笑みが唇の端を歪めています。

「直子はもうお料理はいい?食べたいものある?」
「いえ、だいじょうぶです。お腹一杯。ごちそうさまでした」
「そう。だったら少し食休みしましょうか」
 絵美さまが呼び出しベルを押して、駆けつけた店員さんにアイスティとデザートのアイスクリームを二人分頼みました。

「そろそろ8時半ね。お店もけっこう混んできているみたいね」
 確かに四方の仕切りの向こう側は、来たときよりもずいぶんガヤガヤしています。
「週末ですからね」
「あたしちょっと、おトイレに行ってくるわね」
 お姉さまが席を立ってしばらくしてからデザートとグラスが運ばれてきて、そのすぐ後にお姉さまが戻られました。

 お姉さまは、出入り口側のご自分の席に座ってから、私を呼びました。
「直子の顔、もっとよく見せて。あたしの隣にいらっしゃい」
 ご自分の右隣を指差しました。
「あたしたちがめでたくスールになった、記念の儀式をしましょう」
「はい」
 私は自分のグラスを持ち、お姉さまの右隣に腰を下ろしました。
 お姉さまの右手が私の顎を軽くつまみ、ふたり、至近距離で向き合いました。
 アルコールが少し回ったのか、お姉さまの目元がほんのりピンクに染まっていて艶かしい。
 キスしてくれるのかな?
 ドキドキしたまま目をつぶりました。

「本当に、虐めたくなるお顔だこと。ねえ、直子、裸を見せて」
 左耳に吹きかかる吐息にゾクっとしつつも、おっしゃられたお言葉の意味にビクンとからだが跳ねました。
「えっ!?今ここで、ですか?」
「もちろん今ここでよ。大丈夫。もう注文したお料理は全部出ているし、そこの呼び出しベルを押さない限りお店の人は来ないから」
「で、でも・・・」
「それに直子は、あたしにそういうことをまたされたくて、あたしに会いに来たのでしょう?恥ずかしい思いがしたいのでしょう?」
 お姉さまがニッと笑って、私のスカートを捲り上げました。
「あっ、いやんっ!」
「こら。大きな声は出さないの。まわりは酔っ払いのオトコばっかりよ?ヘンな声出したら襲われちゃうわよ?」
 お姉さまったら、その振る舞いはどこから見ても立派に、SMで言うところのご主人様です。

「あら、このパンツを穿いているということは、ブラもピンクのアレね?」
「はい・・・」
「それなら、あの日直子が言っていたこと、今すぐここで実行出来るじゃない?ほら、服を着たまま下着を取るって」
「そ、そうですね」
「だったらあたしがボトムは取ってあげるから、直子は自分でブラをはずしなさい。いつでもどこでもすぐ脱げる、っていう露出マゾなコンセプトのフロントホックストラップレスブラを」

 愉快そうなお姉さまのお声が左耳をくすぐり、座っている私の下半身に膝枕するように上体を傾けてきました。
 スカートの裾から潜り込んだ手があれよあれよと言う間に、腰で結んだパンティの紐をスルスルっと左右とも、解いてしまいました。
「少し腰を浮かせて」
 お言いつけ通りにすると、私のスカートの裾から手品のように、一片のピンク色の布地がお姉さまの右手につままれて現われました。

「ねえ直子?このパンツ、ここのところ、グッショリ濡れているわよ?」
 パンティのクロッチ部分が私の鼻先に突き出されました。
「きょうはまだ、濡れるようなことしていないのに、なんでこうなっているの?ねえ?」
「あん、それは・・・」
「ひょっとして、あたしと話すだけで感じちゃってたの?そんなにあたしが好き?」
「は、はい・・・」
「それならちゃんと言いつけも守らなきゃ。早くプラも取りなさい」

 ブラウスの上からフロントホックをはずすと、乳房がプルンと跳ねてブラが肌の上を滑り落ちました。
 これをどうやって取り出そうか?
 長袖だから袖からとはいかないし、ボタンをちょっとはずして首周りから・・・
 考えていたら、お姉さまの手が私のブラウスに伸び、ブラウスの裾がスカートのウエストからたくし上げられ、ついでにブラジャーもブラウスの裾から引っ張り出されました。

「これで直子はノーパンノーブラね。今の気分はどう?」
「恥ずかしいです・・・」
「嘘おっしゃい。気持ちいいクセに。お顔が蕩けちゃっているわよ?」
 からだ全体が上気して、粘膜がヌルヌルピクピクと蠢き始めていました。

「次はブラウスのボタンを全部はずしてみようか」
「えっ!本気ですか?」
「本気、って聞くのは失礼よね。あたしはさっき、直子の裸を見せて、って言ったじゃない?」
「裸って言うのは服を着ていない状態のことよ。あたしは直子の、たぶんもうツンツンに尖っている、あの日みたいな乳首を今すぐ見たいのよ」
 もう!イジワルなお姉さま・・・
「わ、わかりました」

 私がブラウスのボタンを上からはずし始めると同時に、お姉さまがテーブルの上の呼び出しベルを勢いよく押しました。


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