2023年12月24日

肌色休暇三日目~避暑地の言いなり人形 19

 「…きなさい、ほら、着いたわよ、お勤めの時間よ…」

 どなたかのくぐもったお声とともに頬を軽くペチペチと叩かれる感触で意識が戻ります。
 束の間の、ここはどこ?私は誰?状態はお約束。
 ここはまだお車の中で、私はぐっすり眠りこけていたよう。
 起こしてくださったのはお姉さまでした。

「広場に着いたのよ。もう5時半過ぎだからジョセが散歩に向かっちゃってて、あたしらと同時くらいにここで鉢合わせたの」

 お姉さまがご説明くださりながら、私の首輪にリードを繋いでくださっています。
 と、私の胸元を見るといつの間にかエプロンは外されて、首輪とサンダルだけの全裸に剥かれていました。

「今はかなちゃんがジョセの相手してるから、早く行っておあげなさい」

 お車は広場の入口脇に駐められていて、お車の中には私とお姉さましか残っていません。
 まだ半分寝呆け頭ながらも中腰になった私のお尻をパチンと叩かれ、首輪のリードを引っ張られて車外に連れ出されました。

 幾分陽が翳ったとは言え夕陽の熱気がまだ残る高原の夕暮れ。
 この辺りはゲリラ豪雨には襲われなかったらしく、水溜りも見当たらず木々も芝生も青々と乾いたまま。
 時折心地良いそよ風が素肌を撫ぜていきます。

 広場の東屋がある場所から少し離れた芝生を中村さまがゆっくりこちらへ歩かれてきます。
 どうやら木立から東屋へ戻られる途中みたい。
 今朝方私が東屋のテーブル下の簀子の上に置いたジョセフィーヌさまお散歩用のバッグを片手にぶら下げています。

「ジョセのうんちはもうワタシが埋めといたから。ジョセは今パトロール中、程なく戻ると思う」

 おっしゃりながらお姉さまと私の前までいらっしゃった中村さま。
 ジョセフィーヌさまのお散歩グッズバッグを私に差し出してきます。

「はい、タッチ交代。それでこれはジョセ用のおやつね」

 バッグと一緒に中村さまから渡されたのは、わんちゃん用の一口ビスケットの袋。

「今回はペーストのおやつはナシ。今夜は屋敷の庭でバーベキューディナーするから直子もジョセといつまでもイチャイチャしてないで、早めに切り上げて戻ってくること」

 水道でシャベルを水洗いしつつ中村さまがつづけられます。

「もっと人数が多いときはここでやるんだけど今日は6人だし時間も押しちゃったから。それに庭のほうが準備も後片付けもラクだしね」
「ジョセも勘付いてるみたいだから早く帰りたがるはず。ディナーのあいだにゆっくりイチャイチャすればいいよ」

 からかうような笑顔で中村さまがおっしゃり、洗ったシャベルをタオルで拭ってタオルごと私に差し出してきます。
 それらを受け取ってバッグにしまい、他の方々は、と辺りを見回すと、五十嵐さまは角田さまを被写体に広場のあちこちで写真を撮られていました。
 お姉さまはいつの間にか私の傍らを離れ、広場の入口近くにしゃがんでお背中を向けていました。

 何をされているのだろう?と考えていたら、木立の奥からジョセフィーヌさまが私たちに向けてまっしぐらに駆け込んできました。
 まず中村さまに纏わり付かれ頭をワシワシと撫でられています。

 しばらくそうされた後、傍らにいた私と目が合ったもののプイとそっぽを向かれ、タッタッタと芝生の中央付近まで駆け出されるジョセフィーヌさま。
 お散歩の時間に遅れたことに怒ってらっしゃるのかな?お名前を呼んで私も後に付いていったほうがいいのかな?なんて考えていたら、急にまたUターンして戻っていらっしゃいました。

 私の足元まで来られるとやおら、私の首輪に繋がったリードの持ち手をガブリ。
 そのまま力任せに引っ張られトットットとつんのめる私。
 強い力で首輪を引っ張られ、前のめりに歩き出した私の剥き出しなおっぱいがブルンブルンと大袈裟に跳ねています。

 そのままいつもフリスビーをする広々とした空間までリードを引かれて連れて行かれます。
 これでは本当にどちらが飼い主でペットなのかわかりません。

 私がバッグの中からご愛用の青いフリスビーを取り出すと、ジョセフィーヌさまはやっとリードの持ち手からお口を離してくださいました。
 ブランと戻った縄状ロープのリードが尖り始めた左乳首を軽く弾いて、ビクンと感じてしまいます。

「あんっ!」

 と、一声悶えて顔を上げると、お姉さまがまたいつの間にか私の傍らにいらっしゃっていました。
 両手にピンクのゴム手袋をお嵌めになり、右手になにやら草の束を握られて。

「ほらこれ、摘んどいてあげたわよ」

 私の目の前に差し出されたのは見紛うこと無きおぞましきイラクサさまの草束。
 青ジソに似た青々とした葉がまばらに茂る20センチくらいの茎を4、5本の束にして、一括りにした持ち手のところにはご丁寧にウエットティッシュが白く巻かれています。

「今回はペーストのおやつはナシなんでしょう?ジョセが構ってくれなくて刺激が欲しくなったら使うといいわ」

 ジョセフィーヌさまに強引にリードを引かれたことでマゾ心に小さく火の点いた私を見透かすみたいに目を細められた笑顔で、芝生に置いたバッグの上にその草束をソッと置かれたお姉さま。
 その横にはおまけみたいに、ドライブ中の雨宿りで私が下と上のお口で味わった栄養ドリンク剤の空き瓶も。

「だけどまあほどほどにして、早めに帰ってきなさいね」

 ついでみたいに付け足されたお姉さまは踵を返され、スタスタとお車の方に戻られます。
 私はそのあいだ中イラクサさまに目が釘付けで、一昨日あるじさまからいただいた、そのもどかしくも意地の悪い甘美な苦痛に思いを馳せていました。

 やがて遠くでお車のドアを閉じるバタンバタンという音が数回響いた後、エンジン音が遠ざかっていきます。
 これでこの広場にはジョセフィーヌさまと全裸に首輪リードの私だけ。
 ジョセフィーヌさまはブンブン尻尾をお振りになり、私の右手のフリスビーと私の顔を交互に見ています。

「それではジョセフィーヌさま、運動のお時間です。フリスビーを一緒に楽しみましょう」

 まるでご主人さまのご子息と遊ぶ召使いのようなへりくだった気持ちで、ジョセフィーヌさまに語りかける私。
 フルネームを呼ばれて益々ブンブン尻尾をお振りになるジョセフィーヌさま。

「ジョセフィーヌさま、いきますよ。はい、フェッチです」

 はい、の後に思い切りバックスイングして、フェッチです、という号令と一緒にフリスビーを放り投げます。
 捻ったからだを戻すとき剥き出しの両乳房も左右に思いっきり暴れています。
 ジョセフィーヌさまはフリスビーめがけてまっしぐら。

 ジョセフィーヌさまのお姿を目で追いかけながらふと考えます。
 今の私の状況。

 人っ子ひとりいない山中の夕暮れに芝生広場で首輪とサンダル以外素っ裸の私が他人様のワンちゃん相手にフリスビー遊び。
 おっぱいもお尻もマゾマンコも丸出しなのに少しの不安も感じていないばかりか、超リラックスしている私。
 普通に都会で日常生活をしていたら絶対に味わえない気分と体験です。

 裸を視てもらいたいというマゾの露出症的な快楽とはまた別の、普通に野外で裸でいることの自然回帰的な開放感。
 俗に言う裸族への沼に嵌ってしまいそう。

 そんなことを考えていたらジョセフィーヌさまがフリスビーを咥えられて一目散に戻ってらっしゃいます。
 フリスビーを受け取りジョセフィーヌさまの頭をワシワシ撫ぜながら左手に握ったご褒美のビスケットを差し出します。
 私の左手にジョセフィーヌさまの鼻先が当たり生温かい舌で掌がペロペロ舐められます。

「よーし、もう一回です、ジョセフィーヌさま」

 そんな感じで3回4回とフリスビーに興じますが、私には段々と良からぬ欲求が。
 掌をジョセフィーヌさまに舐められるたびに、あのペーストを自分の秘部に塗りつけてジョセフィーヌさまに舐められる、気絶しそうなほどのめくるめく快感が体内によみがえるのです。
 でも今はペーストが無いので、その快感は望めません。

 私がなんとなく気落ちしてしまっていることにジョセフィーヌさまも勘付かれたのでしょうか。
 6度目のご褒美が終わって私の掌から離れたジョセフィーヌさまがそのまま後肢立ちになられ、私に覆い被さるように身体を預けて私のお腹を舐めてきました。

「いやん、くすぐったいー」

 一瞬腰が引けたものの、その反動で思わず前屈みになる私。
 ジョセフィーヌさまのお口との距離が縮まり、私のおっぱいまで舌が届き、左右のそれを入念に舐めてくださっています。

「ああんっ…」

 ペースト無しでも舐めてくださるんだ…
 汗はうっすらかいているので塩味が気に入ったのかな…
 なんて考えながら芝生にお尻を突いた私は、いつしかジョセフィーヌさまに押し倒される格好に。

 仰向けに横たわった私を四本肢で跨ぐ形に覆い被さったジョセフィーヌさま。
 私のからだを踏まないように器用に肢を動かしながら顔もからだも、おっぱいも下腹部もペロペロペロペロ舐めてくださっています。

 尖った乳首を舌で転がされるとビビッと電流が走り、うぅーんと身悶えてしまいます。
 やがて下腹部の裂け目から透き通った粘液が滲み出し、ジョセフィーヌさまはすかさずそこへと舌を這わせます。

「はぁぁんっ!」

 尖った肉芽が転がされ、思わず大きな淫声が迸ります。

「そう、そこを、もっとぉぉ…」

 仰向けの両脚の膝を立て180度近くまで広げ、その部分を誇示するようにジョセフィーヌさまに差し出す私。
 でもジョセフィーヌさまはその部分にはそれ以上ご興味を示さず、私の広げた両膝のあいだにポツンと横たわるリードの持ち手を咥えられました。

 その途端に思い出したのが昨日、初めてのお散歩帰りの玄関先での出来事。
 ジョセフィーヌさまが咥えられた持ち手に繋がるリードの太くてザラザラした感触が私の股間に食い込む股縄のような陵辱。
 すかさず私は仰向けなからだを反転し、ジョセフィーヌさまに背を向けてしゃがみ込む体勢なります。
 お尻の後方にリードを咥えたジョセフィーヌさま。

 私の首輪からからだ前面にピンと張り詰めた縄状リードが股間で直角に折れ、ジョセフィーヌさまによってグイグイ引っ張られます。
 撓んでは張り詰め撓んでは張り詰め、腫れた肉芽ごと潰されては緩み、食い込んでは離れをくりかえす蹂躙。

「あんっ、いたいぃ、いいっ、いいぃぃーっ、もっとぉぉ…」

 苦痛のほうがより勝るような快感なのに頭がボーッとしてきてどんどん気持ち良くなってきます。
 股間への緩急出鱈目でランダムな刺激でも、快感が着実に下腹部の奥底に蓄積されています。
 ああん、もっとぉ、もっと刺激を…

 知らず知らず目の前のバッグの上に横たわる草束に右手が伸びていました。
 これで素肌を嬲れば更なる苦痛が訪れるはずですが、更なる苦痛はより大きな快楽に変わるはずです。

 茎の束を手に取り目をつぶって胸に近づけます。
 触れたか触れないかという刹那、左おっぱいにチクンとする刺激が広がります。
 今すぐにでも草束を放り出したいのですが、逆に自暴自棄のような感情の高まりで草束を左おっぱいから右おっぱいへと押し付けるように擦り付けました。

「あーーっっ、いっつぅーーー!」

 葉っぱたちが滑る感触に一瞬遅れて、素肌の皮一枚下からジンジンウズウズ痺れくる無数の痛痒い疼痛。
 瞬時に両乳房への刺激が許容を超え、右おっぱい上を通り過ぎた草束は芝生上に放り投げられました。
 同時に両おっぱいを乱暴に鷲掴む私の両手。

 思い切り掻き毟りたいけれど赤く爛れてしまうから駄目。
 僅かに残った理性がお姉さまのアドバイスを思い出させます。
 だから決して爪は立てずに乱暴に揉みしだきます。
 シクシク疼く両方の乳房をむんずと掴み、人差し指と薬指のあいだに逃した勃起乳首をギュウギュウ押し潰します。

 ふと気づくと下半身への刺激は失くなっていました。
 ジョセフィーヌさまは私がイラクサさまの草束に手を伸ばしたのをご覧になって、とばっちりは御免とばかりに避難されたのかもしれません。
 少し離れた芝生にゴロンと寝そべって、私の痴態を横からぼんやり眺めていらっしゃいました。

 それならと、私の左腕が眼の前の栄養ドリンク剤の空き瓶を掴みます。
 右手は腕まで使って両乳房を激しく擦りつつ左手は躊躇なくズブリと両足の裂け目へ。
 もちろん飲み口の細いほうからです。

 しとどに濡れた粘膜は空き瓶を難なく呑み込み、底を握って抽送運動開始。
 継続的にもどかしく苛んでくるおっぱいへの疼痛とチュプチュプ音を立てて粘膜を摩擦する硬く冷ややかな感触にどんどん昂ぶる私。
 芝生に左頬を埋めて腰だけ高く突き出した顔面支点の四つん這いで昇天間近。

「ああん、いいっ、いいのー、もっともっとぉーっ!!」
「いくっ、いっちゃうっ!あんっ、ジョ、ジョセフィーヌさま、イッてもいいですかっ、イッてもいいですかぁーっ!」
「もっとかきまわしてっ!めちゃくちゃにっ!ああーいいっ、いくぅ、いくぅ、いいーーーーくぅーーーっ!!!」

 頭の中に無数の星が弾け飛び、やがて真っ白になるほどの快感。
 意識も弾け飛び、束の間気を失なったと思います。
 気がつくと芝生の上にうつ伏せで突っ伏していました。
 さっきからハアハアとうるさいのは自分の呼吸でした。

 おっぱいはまだしつこくシクシクと疼いていますが、いつになく深く充実した快感の余韻を感じていました。
 屋外で何の不安も無く生まれたままの姿で自慰行為に耽るという行為は、子供の頃から憧れていたものでした。
 お尻がムズムズするなと思ったら、ジョセフィーヌさまが舐めてくださっていました。

 全身のあちらこちらがまだヒクヒクと痙攣している中、なんとかからだを起こし一息つきます。
 からだを弄り始めた頃よりも太陽が少し翳っていますが、一体どのくらい時間が経ったのかはわかりません。
 ジョセフィーヌさまは入口近くの東屋の屋根の下で私に視線を向けてブンブン尻尾を振っておられます。
 もはやフリスビー遊びは切り上げて早く帰りたがっていらっしゃるのは一目瞭然でした。

 バッグからバスタオルを取り出し全身を軽く拭ってから、私も後片付けを始めます。
 私を慰めてくださった栄養ドリンクの空き瓶さまの中には、乳白色に濁った粘液が瓶の三分の一くらいに生暖かく溜まっていました。
 遠くの芝生まで飛んでいたイラクサさまの草束も一応怖々拾い、東屋のテーブルの上に、空き瓶さまは水道で洗ってバッグへ。

 ひと通りの片付けを終えて私が肩にバッグを提げると、ジョセフィーヌさまが私のリードの持ち手を再びパクリと咥えられます。
 でも今度は強引に引っ張るようなことはされず、私の四、五歩先を私に合わせたペースで歩く形で帰途につくジョセフィーヌさまと私。
 首輪に繋がったリードをジョセフィーヌさまに引かれている私は完全にご主人さまの下僕ペットでした。

 最初こそゆったり歩いてくださったジョセフィーヌさまでしたが、お屋敷が近づくに連れて段々と早足になっていかれました。
 帰路の三分の二くらい過ぎた頃には走っていると言っても良いくらいグングン首輪が引っ張られます。
 それでなくても山道の上り坂ですから、私はハアハア肩で息をつきながら従います。

 とうとう我慢しきれなくなられたのか、お屋敷の門が見えるとジョセフィーヌさまはお口に咥えられたリードの持ち手をポロリとお離しになられ、全速力で敷地内に駆け込んでいかれました。
 ギターの弦みたいに張り詰めていたリードがブランとお腹に戻り、息を切らせた私もトボトボ敷地内に入ります。

 玄関へとつづくアプローチにはどなたもおらず、木立越しの芝生側で何やら物音がしていました。
 木立の向こう側がぼんやり明るく照らされているように見えるのは、何か明かりを灯しているから?
 さっきよりまた少し薄暗くなった夕暮れのせいか、そこはかとなく幻想的です。

 みなさまがバーバキューの準備をされているのだな、と察した私は、玄関には向かわず木立を抜けて芝生のお庭のほうへ歩を進めました。

「ああ、帰ってきたのね。結構早かったじゃない」

 お屋敷のほうから何やらカートを押してきたお姉さまが気づかれてお声をかけてくださいます。
 お姉さまったら、一昨日に温泉旅荘さまからいただいた紫色寄りの青い浴衣をお召しになられ、優艶に微笑まれています。
 足元にはひと足お先に到着されたジョセフィーヌさまがブンブン尻尾を揺らしてじゃれつかれています。

 今朝方お洗濯物が干されていた一帯にテーブルや椅子が置かれ、カートに載せたお料理がいくつかすでに運ばれているみたい。
 お洗濯物の物干し紐に小洒落たデザインのカンテラがいくつも吊るされて、その灯りが暗くなり始めた夕暮れを淡く照らし出しています。

「今日はあんまり汚れてないのね。でも汗まみれだからチャッチャとシャワーしてきなさい。もたもたしてたら先に始めちゃうからね」

 芝生に置かれたコンロの脇にカートを置かれたお姉さまがこの位置からも内部が丸見えな例のシースルーバスルームを指差されます。
 お姉さまが押されていたカート上にはステンレスの串に刺されたお肉やソーセージ、とうもろこし、各種お野菜などが並んでいて、いかにもこれからバーベキューという感じです。
 私が肩から提げていたバッグはお姉さまが引き取ってくださいました。

「はいっ」

 私もなんだかワクワクしてきて元気よくご返事し、首輪から垂れたリードをブラブラ盛大に揺らしながらいそいそとバスルームに駆け出しました。


2023年10月9日

彼女がくれた片想い 06

 隣室の来客が立ち去った後もしばらく物音ひとつしない静寂がつづいた。
 私は端の個室の壁に向いて蓋を閉じた便座の上にそっと腰掛け聞き耳を立てている。
 幸いなことに尿意も便意も感じていないので、ゆっくりとお付き合い出来そうだ。

 壁の向こうで彼女が今、どんな姿なのかを想像する。
 3番めの個室の彼女にひとりの時間を邪魔されたのは明白であるから、その間にトイレ本来の目的を済ませたのかもしれない。
 そうであれば便座の上でショーツを下ろしたままなのか。
 私が見咎めたように彼女の着衣がコンビメゾンであったならばオールインワンゆえ上半身ごと脱がなければならない。
 そうなると彼女は上半身も下着姿ということになる。

 そんな風に想像を逞しくしていたら端の個室からカタンという小さな音が聞こえた。
 3番めの彼女が去ってから二分も過ぎた頃だった。
 それからカサコソと衣擦れの音。
 彼女はまだ脱衣していなかったようである。
 その用心深さがこれからの展開に期待を抱かせる。
 私は便座の蓋からそっと離れ、中腰になって端の個室の壁に左耳を密着させた。

 どうやら彼女は立った姿勢で衣服を脱いでいるようだ。
 衣擦れの音が始め上の方から聞こえ、だんだんと下がっていく。
 下の方でコツコツと小さな音がしたのは脱いだ衣服を足元から抜いて完全に脱ぎ去ったのだろう。
 
 やはりオールインワンだったようだ。
 ひょっとすると今日のこの行動は計画的で、彼女はトイレで裸になるためにワザと不自由な上下ともに脱がざるを得ない構造の衣服を選んだのかもしれない。
 そんないささか彼女に失礼な妄想がふと浮かんだ。

 少しの間を置いて上方で小さくパチンと響いたのはブラジャーのホックを外した音。
 また少しの間を置いて下方でコツンコツンと小さく響いた足音はショーツをも脱ぎ去った音に思えた。
 そして何より私を驚かせたのは次の瞬間だった。

「…脱ぎました…」

 押し殺したようなか細い彼女の声が聞こえて来たのである。

 彼女は誰かと会話している。
 おそらくスマホでであろうが、これで脅迫者の線が一段と濃厚になってきた。
 その後長い沈黙がつづき、やがてまた彼女の押し殺した声が聞こえた。

「…はい…」

「…恥ずかしいです…」

 テレビ電話機能で送信しながらの行為なのだろうか。
 その割に相手の声が一切聞こえて来ないのは彼女がインカムを使用しているからと考えればいいのだろうか。
 いずれにせよ彼女がこの薄い個室の壁の向こうで全裸になっているのは確実と思えた。
 その割に身体をまさぐるような物音は聞こえてこないな、と思った矢先、再び彼女の押し殺した声が聞こえてきた。

「…だってそれは、この間やよい先生が綺麗に剃り上げちゃったからじゃないですかぁ…」

 押し殺しながらも甘えるような媚を含んだ声音。
 ゾクゾクっとしながら完全にしゃがみ込んで左耳を壁に痛いほど押し付ける私。
 何かを手にしたようなカタカタッという小さな音がしてから今度は少し明瞭な声が聞こえた。

「…ち、乳首にください…」

 えっ?何を?

「…痛い、痛いですぅ…」

 それと同時に身体をまさぐるようなワサワサした音とンフゥーッという押し殺した溜息がしばらくつづいた。

 私は混乱していた。
 彼女がつぶやいた、やよい先生、剃り上げちゃった、乳首にください、痛いです、という科白が頭の中を渦巻いていた。
 その間も彼女の押し殺した悩ましい溜息が途切れ途切れにつづいている。

 やよい先生って、その先生は女性?脅迫者は女性?いやいや名字っていうことも有り得るし、UFO研究で有名な矢追という姓の聞き間違いということも…
 剃り上げちゃった、というのは陰毛を指しているはずだから、つまり彼女は今パイパンなのだろうか?
 この間というのは、今週の体育後に目撃した鞭の痕、先週末に行われたかもしれないSMプレイ疑惑のことなのだろうか?
 痛いって、テレビ電話で物理的に相手に苦痛を与えることは不可能だし、彼女が自分で自分を痛くしているということなのか?

 頭の中をクエスチョンマークがグルグル飛び交うにつれて私の下半身はどんどん熱くなっていく。
 ジーンズに包まれていても、その一番内側が中の方から濡れてくるのがわかるほどに。
 彼女の押し殺した吐息は切なげにつづいている。

 そして数分間ほど自分の上半身をまさぐったであろう彼女がつぶやいた、相変わらず押し殺した科白で私はすべてを理解出来た気がした。

「…やよい先生の指をください…指を直子のオマンコに挿れて滅茶苦茶に掻き回してください…」

 おおよそ清楚に見える彼女には似つかわしくない女性器の俗称をはっきり口にしたことにも驚いたが、その後につづいた物音が強烈だった。
 彼女の懇願に自分ですぐに応えたのだろう、プチュプチュクチュクチュ、どう考えても卑猥な音が聞こえてくる。
 十分に濡れそぼった女性器を指で愛撫抽挿蹂躙する自慰行為の音。

 声は極力押し殺しているようだが、粘液を掻き回す音は押し殺しようが無い。
 激しく掻き回せば水音も激しくなる。
 それにつれて押し殺している吐息、溜息もより激しくなってしまう。

「…んふぅーーっ、んぐぅぅーーーーっ…」

 最初に彼女と遭遇したときに聞いたような押し殺しきれない嬌声が聞こえ、しばらく沈黙。
 達したのだろうか?
 壁越しにハァハァハァハァという荒い彼女の息遣いが聞こえてくる。
 しばらくしてそれも収まり本当の静寂が訪れたと思ったのだが…

「…あぁんっ、またぁ…」

 彼女の少し大きめな声とともにプチュプチュクチュクチュが再び始まる。
 いつの間にか私もジーンズのボタンを外しジッパーを下ろし、露わになったショーツの上から自分の陰部をそっとまさぐっていた。

「…もっと、そうそこ、そこを…」

 彼女に合わせて自分を慰めながら考える。

 彼女はこの行為を嫌がってはいない、むしろ愉しんでいる。
 脅迫の線は薄いのではないか、つまり自発的な行為。
 だとするとテレビ電話の線も薄れ、これは彼女の独り芝居、妄想に没入しての密やかな自慰行為なのではないか。
 恥ずかしいです、も、痛いです、も彼女の妄想の中で自分に課した行為がフッと言葉に出ただけで、実際には彼女の頭の中では妄想の相手と絶えず会話をしている。

 やよい先生は女性でおそらく実在の人物、そして妄想の相手。
 男性であれば、指をください、ではなくもっと具体的なそのものズバリをねだるであろうから。
 ということは彼女はレズビアン?
 陰毛を剃り上げられてパイパンとなっていることもおそらく事実だろう。
 自宅ではなくこういった日常のパブリックな場所、誰かに気づかれるかもしれないスリリングな場所での行為が好みなのであれば、体育後のノーパンの意味も理解出来る。
 つまり彼女は、あんな顔をしてかなりアブノーマルな性癖の持ち主ではないのか。

「…んふぅーっ、あんっ、いいっ、んんーーっ…」

 彼女はだいぶ声を抑えきれなくなっている。
 私もかなり昂ぶっていた。

「…ああっ、いいっ、いいっ、んぐぅぅーーーっ…」

 一際低く唸るような彼女の押し殺した咆哮。
 その後ハァハァハァと息を荒くしている。
 オーガズムを迎えたようだ。

 私もほぼ同時に同じ状態に達した。
 左耳を壁に押し付けしゃがみ込んだままジーンズを膝まで下ろし、ショーツの上から腫れたクリトリスを思い切り摩擦して。
 口を真一文字に結び、絶対に声を漏らさないと覚悟を決めて。
 彼女と一緒に昇り詰められたことが無性に嬉しかった。

 徐々に収まっていく彼女の息遣い。
 私もまだ肩が大きく上下している。

 と、その時唐突に三限めの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
 すぐにトイレ内にも教室から解き放たれた廊下の喧騒が聞こえてくる。
 彼女の密やかな禁断の時間も終わりを告げた。
 トイレ出入口のドアを開くバタンという音がふたつつづき、個室のドアを閉じる音がそれにつづく。
 トイレ内の足音やおしゃべりも騒がしくなっていた。

 どうしようか迷っていた。
 おそらく彼女は休み時間が終了し次の講義が始まるまで個室から出てこない。
 あの日のように静けさが戻ってからそっと退散するつもりだろう。

 それに付き合って私も彼女と一緒に立て籠もり一緒に個室を出るのも面白いと思った。
 彼女が自慰行為をしている間中、隣の個室に誰かがいて一部始終を聞かれていたと知ったら彼女はどんな顔をするだろうか。
 でもそれは現実的ではない。
 私は今の所、彼女との関係性を変化させる気はないし、休み時間中ふたつの個室が閉じたままなのは大迷惑だ。

 現実的には休み時間中の喧騒に紛れて私が先に退出し、尾行を続行するのがベストと判断した。
 学校のトイレの個室で人知れずオーガズムに達した彼女がどんな顔で日常に復帰し、どんな風にプライベートを過ごすのか。
 学内に残るにしても学外に出るにしても、まだ三時前、時間はたっぷりある。
 四限の自主休講が決定した。

 そうと決まれば急がなくては。
 ショーツが濡れそぼっているので、このままジーンズを穿き直すのは気持ち悪い。
 幸いトイレ内はドアの開け閉めやおしゃべりで騒がしいので、私は音を立てることを気にせずにジーンズを脱ぎ去った。
 
 それから濡れたショーツも脱いで小さく畳みフェイスタオルに包んでバッグへ。
 最後に濡れた陰部をトイレットペーパーで丁寧に拭った後、ジーンズを穿き直す。
 これで私は今から帰宅までノーパンで過ごすことになってしまった。
 体育後の彼女とお揃いである。

 最後に捨てたトイレットペーパーを盛大な音を立てて水洗に流し、普通にドアを開けて個室を出た。
 一番端の個室のドアは相変わらず固く閉ざされている。
 外ではふたりの学生がトイレ内に並んで個室が空くのを待っていた。


2023年10月7日

彼女がくれた片想い 05

 木曜日の二限目が終わった後、私は彼女の行動に注目していた。
 彼女は親しい友人三人と楽しげに何か話しながら教室を出ていく。
 二階端の教室から廊下を少し進み、階段を下りて一階へ。
 昼休みの人波に紛れ、気づかれないように後を追う。

 やがて建物の正面玄関。
 先週はここで友人たちと別れ、彼女はひとり学外へと消えていった。
 今日もそうであれば先週無事にレポート提出も済ませたことだし、四限目の講義をパスして彼女を尾行するつもりだった。

 彼女がプライベート時間をどう過ごすのか、あわよくば彼女の住まいまでつきとめられるかもしれない。
 そう思って気づかれぬように変装する準備まで用意していた。

 だが彼女は友人たちと玄関を素通りし、その奥へと進んでいく。
 この廊下の果てにあるのは学食ホール、どうやら今日の彼女は友人たちとランチを済ませていくらしい。
 その後どうするつもりなのかはまだわからないが、私ももちろん付き合うことにする。
 気づかれぬようにこっそりとだが。

 今日の彼女は珍しく茶系の膝丈キュロットスカート。
 同系色のトップスを合わせて薄手のベージュのカーディガンを羽織っていた。
 彼女にしてはいつになく垢抜けたコーデなので、ひょっとするとこの後カレシとデート?なんていう懸念も生まれる。

 予想通り彼女たちは学食に入り、四人がけテーブルを確保すると食券売り場に並び始める。
 私も自分の定位置である出入口近くのぼっち飯相席ひとつを確保し、彼女の監視体制に入った。
 彼女と同じのものが食べたいと思ったので、彼女の注文を確認してから食券を買うつもりだ。

 やがて彼女がトレイをしずしずと捧げ持って所定の位置に着席する。
 トレイ上の平皿に盛られた料理はドライカレー。
 私が彼女を追いかけ始めてから彼女がそれを学食で食べる姿を見るのは二度目だから、気に入ったメニューなのだろう。
 私はよやく立ち上がって同じものを手に入れるべく食券売り場に並んだ。

 食事中の彼女はほとんど聞き役。
 他の三人がかまびすしいのもあるが、スプーンを動かしながら適度に相槌を打ち適度に笑っている。
 友人たちも彼女をより笑わせようとしているように感じた。
 ドライカレーは適度にスパイスが効いて美味だった。

 彼女たちは食事後、隣接している喫茶スペースに移り雑談続行。
 彼女はアイスミルクティーを飲んでいた。
 私は彼女を見失わないように注意しつつ食器を片付け、同じ場所で読書のフリを始めた。

 やがて昼休み終了、三限目の講義開始時刻が迫り、友人らが席を立つ。
 私も席を離れ、人混みに紛れて彼女らの近くまで近づいた。
 別れ際に、それじゃあまた明日ね、の声も聞こえたので彼女がこの後に講義が無いのは確定だ。
 が、彼女はひとり喫茶スペースに残り、持っていたトートバッグから文庫本を取り出して読書モードに突入した。

 私も喫茶スペースまで踏み込もうかとも思ったが、ランチタイムが終わり空席の目立つ学食の喫茶スペースに近い位置に無料のお茶片手に陣取り読書のフリで、そっと彼女を見守る。
 素通しガラスで仕切られた喫茶スペースで彼女が読んでいる文庫本は表紙カバーも取り外され表紙もやや黄ばんでいて、ずいぶん古い本のように見えた。
 私は広げている文庫本の活字も追わないまま、彼女が本から顔を上げ周りを見渡すような仕草をする度に頭を下げ、読書に没頭するフリをしていた。

 三限に入って食堂も喫茶スペースも閑散としてきた二十分を過ぎた頃、彼女が動いた。
 飲み終えたグラスを返却口に戻し、文庫本をトートバッグに押し込んで学食出口のドアに向かう。
 私も慌ててお茶のコップを戻し、気づかれないように彼女がドアの向こうに消えるのを待ってから追尾した。

 学食のドアを出ると彼女の背中が10メートル先くらいに見えた。
 三限の講義中だが、私のようにその時間が空いている学生もいるので廊下にはそこそこの人影があった。
 少し早足な彼女は正面玄関も素通りした。
 その先にあるのは先程下ってきた階上へつづく階段である。

 それを見て私は確信した。
 彼女はあの日のようにあのトイレに向かっているのだろうと。
 三階まで階段を上って廊下を少し行ったところにあるトイレ。
 私が時間潰し用に使っている空き教室の斜め前。
 この時間のその階はほとんどの教室で講義中、おまけに三階なので余計な人も来ず、非常に静かなのである。

 私が階段の麓までたどり着いた時、彼女は折返し階段の踊り場を曲がったところだった。
 背中しか見えなかったので気づかれてはいないはずだ。
 静寂の中遠ざかる彼女のパンプスの控えめなヒールの音が小さく聞こえる。
 学外への尾行にも備えてスニーカーを履いてきたのは大正解だった。

 ヒールの音が垂直の高さでどんどん小さくなっていくのを聞きながら、二階へ三階へと極力静かに階段を上がっていった。
 三階に辿り着き、壁に隠れてそっと廊下を見遣ると、まさしく彼女がトイレのドアを開けているところだった。
 いつの間にかカーディガンを脱いで左手に持っている。
 あれ?あれってコンビネゾン?

 やっぱり、という気持ちで私は静かに興奮していた。
 ここまで来ればもう焦る必要もないだろう。
 いつもの空き教室に忍び込み、いつもの席に荷物を置いて一息ついた。

 机の上に文庫本を置きながら考える。
 彼女が意図的に人のいないトイレを目指していたのは明白だ。
 それは悲嘆に暮れる為ではなく別の目的で。
 あの日彼女が洩らしていた艶っぽいため息から思うと、おそらく自慰行為。

 今日も彼女はトイレの個室で自慰行為に耽るのだろうか?
 それは脅迫者の命令で?それとも自発的に?
 いずれにしてもこんな時間に意図的にトイレに籠るのは単純に排泄の為だけではないだろう。
 逸る気持ちを束の間落ち着けてから私もトイレに向かった。

 極力音をたてないように内開きのドアを押す。
 今日は彼女の隣の個室で、こっそりじっくり耳をそばだてるつもりだ。
 スニーカーを履いてきた自分をもう一度褒め称えた。

 抜き足差し足でトイレ内を進み個室が5つ並ぶフロアへ。
 おや?
 5つある個室のうち2つの扉が閉じている。
 一番奥と、ひとつおいてその隣、真ん中に位置する3番めの扉が。

 彼女がトイレ内へ入ってから5分くらいが過ぎている。
 先客がいたのか、はたまた私が一息ついているあいだに誰かが駆け込んだのか。
 どちらにしても私には好都合、両方の個室の様子を窺える4番めの個室に忍び込む。
 内開きのドアは今は閉めず、ドアの陰に隠れるように身を潜めた。

 結論から言えば3番めの個室内では普通に排泄行為が行われているようだった。
 私が入ったときにはすでにチョロチョロという水音がそちらの壁の向こうから聞こえていた。
 やがて水音が止まり少しの沈黙の後、新たな大きめな水音はビデを使う音だろう。

 それにしても聴覚に集中すると個室の薄い壁の向こうの様子が手に取るようにわかるものだ。
 水音が止まりカラカラとトイレットペーパーを引き出す音。
 小さな咳払い、つづいてショーツを上げているのであろう衣擦れの音。

 それに比べてもう一方の端の個室は物音ひとつしない静寂がつづいている。

 排泄物を流したのであろうザザーッという一際大きな水音が流れた時、私は個室の内開きのドアをそっと閉めた。
 間髪をいれずガタンと個室のドアを開ける音。
 カツンカツンと大袈裟なヒールの音が遠ざかっていき、小さくザザーッと手を洗っているのであろう水音。
 少しの沈黙の後キーッバタンと廊下に出ていく足音。

 これでこのトイレ内には隣同士の個室で彼女と私の二人きりとなったはずだ。