2018年3月4日

三人のミストレス 21

 ドアの向こう側からミイコさまにリードを引かれジャクリーンさまと私も、そのお部屋に素足を踏み入れました。
 長方形の狭めな空間は、広いお部屋の端っこを無理やり壁で仕切った、みたいな感じ。

 床はタイル貼りで、長方形スペースの短いほうの辺の突き当りに細長いロッカーと棚がいくつか設えてあるだけ。
 私たちが入ってきたドアの2メートルくらい先にもう一枚扉があり、雰囲気としては、手狭な更衣室、という趣でした。
 つづいて里美さまとしほりさまがお入りになると、お部屋内はもはやちょっと息苦しい感じです。

「狭いからジャクリーンとナオちゃんは、そっちのドアの前で待機していて」
 もっと奥のお部屋へつづくのであろう扉を指さされるミイコさま。
 そのあいだにもロッカーから脱衣カゴみたいなものやお風呂桶みたいなものを次々にテキパキとお出しになっています。

「里美さんとしほりさんは、とりあえずふたりをシンプルな裸にしちゃって。首輪と手足のベルトだけ残して、あとは全部外すの。リードも手錠もいったん外しちゃっていいわ」
「了解でーす」
 ミイコさまのリクエストに里美さまが弾んだお声でお応えになりました。

「じゃあしほりんは直子をお願いね。わたしはこちらのマダムを担当するわ」
 里美さまがジャクリーンさまの背後に立たれ、しほりさまは私の目の前へ。

「あ、いえ、あの、お嬢様、えーと里美さまでしたね?恐れ入ります、どうか奴隷のことをマダムなどと、分不相応な呼称でお呼びにならないでくださいませ。ドミナに叱られてしまいます」
 ジャクリーンさまが媚びるように、里美さまに懇願されています。

「奴隷のことはご自由に、牝ブタとでも、淫乱エロババアでも公衆肉便器でも、お好きなように、どうか蔑んでくださいませ」
 後ろ手錠を外されると同時に、自然に両手が頭の後ろへと上がるのは、シーナさまのジャクリーンさまへの、厳しい躾の賜物なのでしょう。

「わかったわ、牝ブタおばさん。本当によく躾けられていること」
 私と同じご感想をお持ちになったらしい里美さまが、すごく嬉しそうにニヤリと、嗜虐感たっぷりの笑顔になりました。
 里美さまは、手際よくジャクリーンさまのリードと後ろ手錠を外してあげた他には何もされず、そのままマゾの服従ポーズで立ち尽くすジャクリーンさまの肢体を上から下まで、ニヤニヤしげしげと見つめられています。

 しほりさまは、私のボディハーネスのベルトを丁寧に外してくださっています。
 あらかたのベルトが緩められ、あとはもうからだから取り去るだけとなったときやっと、後ろ手錠とリードが外されました。
 もちろんジャクリーンさまを見習って、すかさず私もマゾの服従ポーズになりました。

「それと、エプロン使うなら、このロッカーに入っているから、ご自由にどうぞ。これからたくさん水使うことになるから、あなたたちのお洋服も濡れちゃうかもしれないわよ」
 ロッカー傍のミイコさまからお声がかかりました。

 お声につられてそちらを視た途端にギョッ!
 同じくそちらに視線を走らせた里美さまとしほりさまも瞬間、肩をヒクっと震わせていらっしゃいました。

 ミイコさまは、いつの間にかメイド衣装をすべてお脱ぎになり、私やジャクリーンさまと同じように裸になっていらっしゃいました。
 いいえ、正確にはまるっきりの全裸ではなく、お出迎えくださったときに私が気づいた通り、ミイコさまの裸体には麻縄が這っていました。
 後ろ向きの背骨のラインやウェストを、生成りの麻縄が素肌に吸い付くみたいにピッタリと、ミイコさまの色白な素肌を飾っていました。

「これからスレイブたちにはシャワーを浴びせるからね。そのドアの向こうは浴室スペースになっているの。ジャッキーは知っているでしょうけれど」
 ジャッキーと呼ばれたのはジャクリーンさまのことでしょう。
 私たちの戸惑いなど意に介さないご様子で、朗らかにおっしゃったミイコさま。
 形の良いお尻をこちらに突き出してロッカー内をゴソゴソされながらつづけます。

「ボンデージっぽいので良ければ着替えの衣装もあるけれど、なんだったらあなたたちも、いっそ裸になっちゃう?」
「あ、でもあなたたち、うちの店、初めてだもんね。ショーが進んだらお客さんたちも大半が下着姿かトップレス、ボトムレスになっていたりするのだけれど、初めての人が初っ端から裸は恥ずかしいか」

「このエプロン、撥水性いいから着けているだけでだいぶ違うよ。服濡らしたままエアコンあたると風邪ひくかもでしょ?」
 そこまでおっしゃって、ミイコさまがこちらをお向きになられました。

 生成りの麻縄による端正な亀甲柄で飾られた、ミイコさまのお美しい裸身。
 首元からおっぱい、ウエスト、下半身まで、規則正しい六角形の縄模様が素肌を這っています。
 もちろん、おっぱいも女性器も丸出しで。

 お久しぶりに拝見したミイコさまのヌードは、相変わらずのお美しさ。
 小ぶりながらもツンと天を衝く美乳の桃色乳首が、ミイコさまもまた興奮されていることを示しています。
 股の裂け目に食い込むコブ付きの縄目のすぐ上に、綺麗に刈り揃えたポストイットみたいな長方形の陰毛が申し訳程度に残っています。
 ミイコさまに作っていただいた自縛ビデオで何度も拝見した、恥丘の向かって右斜上にポツンとある小さなホクロを含めて、懐かしくもお美しいまま変わらない裸体が、目前数メートル先にありました。

 更にミイコさまは、ご自分の裸身に艶めかしいアレンジを施していらっしゃいました。
 俗に言うバニーガールさんがよく着けていらっしゃる、蝶ネクタイ付きの付け襟と手首のカフス状の付け袖。
 フォーマルなYシャツの襟と袖口の部分だけの装飾アイテム。
 それらをご自分の裸身に付け加えていらっしゃいました。

 つまり、バニーガールさんからウサ耳とボディスーツ、網タイツを剥ぎ取り、その代わり裸体に麻縄の亀甲縛りを施したお姿。
 縄で絞られた窮屈そうなおっぱい、股のワレメに食い込む麻縄、そんな被虐性とは正反対のフォーマルな雰囲気を醸し出す白いカラーの付け襟タイとカフス。
 そのアンバランスなコーディネートが、絵画にして美術館にでも飾りたくなるような、妙に品のあるアートっぽさと強烈なエロティシズムを同時に放っていました。

 真っ白な襟に黒くて可愛らしい蝶ネクタイと真っ白な袖口を亀甲縛りヌードに付けただけで、ミイコさまのヌードはとてもエレガントに見えました。
 ワンちゃんの首輪と拘束用ベルトを手足首に巻かれた私とジャクリーンさまが並んだら、たとえ中身は同じマゾ女だとしてもミイコさまのほうが格段にチャーミングに見えることでしょう。

「何わたしのこと、そんなにジロジロ視ているの?」
 両手にいろいろお荷物を持ったミイコさまが、照れ隠しみたいに少し怒っているような口調でおっしゃりながら近づいてこられます。

「わたしだって基本エム女だからね。裸を視られるのは好きなのよ。お店で裸になるのには慣れているし、わたしのからだ目当てのお客様だって少しはいるからね、サービスしなくちゃ」
 言い訳っぽくおっしゃりながら目前までいらしたミイコさまを、ジャクリーンさまが羨ましそうに見つめています。

「あ、そういうことならわたし、エプロンお借りします!」
「あ、わたしも」
 ミイコさまが床にお荷物を置いたガタッという音で、ハッと夢から醒められたように我に返った里美さまとしほりさまが、相次いでおっしゃいました。

「うん。じゃあこれ使って。あとスレイブたちの私物はこのカゴの中にね。あなたたちに渡したバッグとこの中が責め具類。このボトルが消毒液だから、体内に挿入する類の責め具は仕様前使用後によく消毒してね」
 ミイコさまのご注意に、はい、とお返事しつつも、魅入られたようにミイコさまのヌードに釘付けな里美さまとしほりさま。

「ミイコさんて本当、お綺麗なからだなんですね?プロポーションもバツグンだし、お顔もウィッグ映えしそうだし、着せ替え人形遊びとか、したくなっちゃう」
 しほりさまが珍しく、ご興奮気味なご様子でミイコさまを褒めちぎられます。

「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。最近、やよいママともマンネリ気味だから、今度内緒でお手合わせ願っちゃおうかな」
 小悪魔的な笑顔で不穏なことをおっしゃるミイコさま。

「確かにミイコさんも魅力的だけれど、わたしはこっちの牝ブタおばさんの、ビミョーにラインが崩れたようなからだのほうが萌えちゃうな。お腹の脂肪の具合とかいやらしくて、縛り甲斐ありそうじゃない?」
 里美さまがジャクリーンさまの下腹部をしげしげと見つめつつ、すごくいやらしい感じでおっしゃいました。
 同じく裸なのに、どちらからも話題にされない私の裸って・・・

 そんな軽口を叩かれつつ、里美さまとしほりさまがそれぞれ、手渡された真っ白なエプロンを身に着けています。
 しほりさまは今日も真っ黒なゆったり目のTシャツにブラックスリムジーンズ。
 里美さまはカチッとしたYシャツ風ブラウスに濃茶の膝上タイトスカートというOLさん風いでたち。

 その上に真っ白で清楚な膝下丈ロングエプロンを纏われたおふたり。
 派手すぎないフリルがヴィクトリア朝ぽくて、この場がなんだか一段と格調高くなった感じ。
 5名いる女性のうち3名が裸ですけれど。

「ストッキング類はここで脱いで、裸足になっておいたほうがいいよ。床は間違いなく水浸しになるから」
 ミイコさまのアドバイスに、あわててエプロンごとスカートをたくし上げる里美さま。

「あれ?ジャッキーのブタの尻尾、まだ抜いていないの?ニップルクリップも」
 服従姿のジャクリーンさまを怪訝そうにご覧になりつつおっしゃったミイコさま。
 そのお言葉にご反応されたのも里美さまでした。

「あ、いっけない。ミイコさんの可憐なヌードに見惚れていて忘れちゃっていたわ」
 バツの悪そうな笑みを浮かべた里美さまが、お脱ぎになったパンストを器用に丸めつつ私を見ました。

「わたし、その役は直子にやらせようと思っていたんだ。手錠とリードだけ外して、しほりさんの直子の世話が終わるのを待っているうちに忘れちゃってた」
 テヘペロな笑顔で朗らかにおっしゃる里美さま。

 すでに私は、しほりさまからボディハーネスをすべて外していただき、ミイコさまおっしゃるところの、シンプルな裸、になっていました。
 すなわち首輪と、手枷、足枷用に巻かれた手足首用リング付きベルト以外、何も身に着けていない姿で、すべて剥き出しなマゾの服従ポーズ。

「それじゃああらためて命令するわ。直子、そちらのマゾおばさんの乳首クリップとアナルの栓、直子の手で外してやりなさい」
 里美さまから、わざとらしく重々しいお芝居口調でのご命令。

「は、はい・・・」
 ご命令を聞くや否や、私のほうに向き直り、その豊満なおっぱいを突き出してくるジャクリーンさま。
 私は服従ポーズを解き、おずおずとジャクリーンさまのおっぱいへと両手を伸ばします。

「お願いします、直子さま・・・」
 私の手がおっぱいに触れる前から、眉間にシワを寄せてギュッと目をつぶり、悩ましいお顔をお見せになられるジャクリーンさま。
 そう言えばジャクリーンさまは、いったいいつ頃から、かけはりに乳首を噛まれつづけていたのでしょう?

 ジャクリーンさまがテーブルの下にうずくまられていたときからチェーンはぶら下がっていたようです。
 その後、銀盆をぶら下げられ空いたグラスの重さ責めに苛まれて、今まで。
 長時間噛まれているほど、外すときにより大きな激痛が走ることは、私も自分のからだで知っていました。

 恐る恐る、まず右手をジャクリーンさまの左おっぱいへと伸ばします。
 かけはりの金具にそっと手をかけ、スプリングの効いた持ち手をやんわりと絞りました。
 意外にバネは軽いんだ・・・
 柔らかいものに食い込んでいた先端がそのものから離れるムニッとした微かな感触が、かけはりのスチールを伝わって私の右手に感じられました。

「あうぅぅっ・・・」
 その感触と同時にジャクリーンさまの唇から悲痛な呻き声が零れ出ます。
 端正なお顔が大きく歪み、左肩がビクンと上がり、おっぱいがブルンと暴れました。

 かけはり自体は予想外に軽かったのですが、繋がったチェーンは見た目よりもかなり重量がありました。
 多分このチェーンだけでも、乳首に中身の詰まった缶ビールを一本ぶら下げているくらいの重力がかかっていたはずです。

 ジャクリーンさまは相変わらず目をつぶったまま唇を噛みしめ、次の右乳首への激痛に備えていらっしゃるご様子。
 そのご様子を見て思わず、私の手の中で落下を免れているこの重い鎖を、パッと手を放して落下させたら面白そう、というサディスティックな衝動が湧き上がります。

 ふと見るとジャクリーンさまの大きめな左乳首は、噛まれていた場所が同じように未だ凹んだまま。
 その生々しい責め痕に、私までどうしようもなくゾクゾクしてきて、とてもそんな可哀想なことは出来なくなり、衝動を頭から振り払いました。

 外したかけはりを左手に移し、ジャクリーンさまの左乳首のかけはりに右手を伸ばします。
「んぐむぅぅぅ・・・」
 右のときよりももっと痛々しい、喉奥からほとばしるような呻き声。
 凹んだ責め痕も右より深いみたい。

「あうぅっ・・・な、直子さま、いやらしい奴隷を苦痛から解放してくださり、ありがとうございますぅ・・・」
 眉間にシワを寄せたまま、縋るような涙目で御礼をおっしゃってくるジャクリーンさま。
 きっとまだ両乳首は疼痛でズキズキ疼いているはずです。
 今度は、ジャクリーンさまのふくよかなおっぱいを、いたわるようにやさしく愛撫してさしあげたくて仕方ありません。

「おーけー直子。その乳首クリップはこちらにちょうだい」
 里美さまがイジワルさ満点のお顔で右手を伸ばしてきました。
「あ、はい・・・」
 お渡してしまうと、今度は直子に付けてあげる、とおっしゃられそうで躊躇っていたら、横からミイコさまの右手がひったくるようにかけはりチェーンを攫っていきました。

「大丈夫よ。直子のかけはり初体験をエミリーに抜け駆けしてわたしたちがこっそり奪ったりしないから。直子がこれを体験するのはお客様の前でって、さっきみんなで決めたじゃない」
 里美さまを諌めるようにミイコさまが、かけはりチェーンをバッグにしまわれました。
 イタズラがみつかっちゃった子供さんみたく、テヘペロでごまかされる里美さま。
 
「残りはブタのシッポね。ほら、直子?さっさと抜いちゃって」
 ミイコさまが私と里美さまに向けておっしゃいました。
「そうですね。ほらマゾおばさん?直子にケツを突き出しなさい」
 里美さまもお気を取り直し、イジワル声でご命令。

「はい、ミストレス・・・」
 ジャクリーンさまが回れ右をされ、上半身を前傾してお尻を私に突き出してきました。

 間近で視るジャクリーンさまのお尻は、まさしく、卑猥、の一言でした。
 お尻の割れスジを横切る、細いブーメラン型に日焼けしていない白い尻肉。
 ちょうどその中心にある穴に挿し込まれた、ピンク色の渦巻きアナルプラグ。

 休め、の姿勢くらいに開かれた両脚のあいだからは、女性器まであられもなく見えていました。
 少し開いたピンク色の肉襞はヌラヌラと濡れそぼリ、溢れ出た婬汁が内腿から足先へと何本もスジを描いています。
 さっきの両乳首の激痛にマゾ性が反応した結果でしょう。

 何よりも淫猥に思えたのはジャクリーンさまの年季の入った女性器の形でした。
 私よりもずっと長い期間、弄られ、なぶられ、辱められてきたであろう女性器は、すっかりラビアが弛緩して、大げさにお外へはみ出していました。
 おそらくピッタリ両脚を閉じてまっすぐに立っていても目視出来るはず。
 熟し切った柘榴のような赤黒い肉襞が、いやらしく割れスジから垂れ下がっていました。

 裂け目の突端で、はちきれんばかりに腫れ上がっている肉芽も柘榴色。
 私よりもひとまわり以上大きくて、フードは切除しちゃったらしく根本まで剥き出し。
 そんなある意味グロテスクな見た目なのに、ラビアの隙間から覗けるヌメヌメな中身は艶かしくも鮮明なピンク色で、そのギャップが導き出す印象はまさしく、淫乱オマンコという言葉しか思い当たりません。

 突き出されたブタさんのシッポを指先で摘み、ギュッと力を込めます。
「んぬぅっ・・・」
 ジャクリーンさまの切なそうな溜息。

 指先にもっと力を込め、腕全体で引っ張ると、かなりの抵抗を感じます。
「むぅぅ、んむぅぅっ・・・」
 ジャクリーンさまの喘ぐお声もどんどん高まります。

 なお一層の力を込めて引っ張ると、目の前でジャクリーンさまの肛門がブワッと拡がりました。
 菊の花弁のようだった紋様がまあるくお口を空けます。
 そこからお顔を覗かせたのは、直径3センチ以上はありそうなピンク色の球体。

 なおも引っ張ると、ますますアンアン呻かれるジャクリーンさま。
 結局、その奥にもうひとつ、手前のよりももうひと回り大きい球体が数珠繋ぎになったアナルストッパーをジャクリーンさまはお尻に埋め込まれていたのでした。

「直子?今そのおばさんの肛門から引っ張り出したシッポの、ボール状になっているところ、鼻を近づけてみなさい」
 里美さまがイジワルさ全開のニヤニヤ笑いでご命令をくださいます。
 そんなの、お鼻を近づけなくたってわかりきっているのに・・・

「あぅぅ、いやんっ!恥ずかしいですぅ、それだけはご勘弁をぉぉ・・・」
 ジャクリーンさまが、可愛らしく羞じらわれます。
「何マゾおばさんがブリっ子しているのよ?ほら、直子?早くっ!」
 吐き捨てるような里美さまの冷たいお声。

「は、はいっ・・・」
 シッポ部分を指先で摘んだまま、ピンク色の球体部分に恐る恐る鼻を近づけていきます。
 見た目こそ黄ばんではいないけれど、表面を覆うヌラヌラが発散してくる、プーンという擬音まで聞こえてきそうなアレな臭い。
 私が自分のを嗅ぐと、その途端に理性のタガが吹き飛んでしまう禁断の香り。
 自分のとは違うけれど、明らかに排泄物を連想させる、獣じみた背徳の臭い。

「直子?嗅いだ?どんな匂い?」
 嬉しそうに尋ねてくる里美さま。
「あ、はい・・・とても、く、クサイです・・・」
 自分の鼻先にアナルプラグをぶら下げたまま、その野生の香りにむせ返りつつお答えする私。

「だから、どんな臭いかって聞いているのっ?」
 容赦の無い里美さまのご追求。
「あ、はい・・・で、ですから、う、うんちの臭いが、し、しています・・・」
 なぜだかいたたまれないほどの恥ずかしさに包まれ、耳たぶまで熱くなって、やっとお返事出来ました。

 ヒャハハハハーという弾けたような笑い声の後、里美さまがまだ追い打ちを駆けてきました。
「聞いた?おばさん?おばさんのケツの穴に突っ込まれていたシッポ、直子がとってもクサイってさ。同じマゾドレイにディスられちゃったわよ?」
 再び、ヒャハハと、いささか品の無い爆笑。

「あぁうぅぅ、奴隷は、奴隷は恥ずかしい限りでございますぅぅっ・・・」
 ジャクリーンさまが切なげなお声で、なのにとても嬉しそうに身悶えされています。
 お声とは裏腹に、柘榴色のだらしないオマンコからは白濁液がダラダラ。
 私が見ても、このヘンタイもっと虐めてやりたい、と思ってしまうほどのドMっぷり。
 やっぱりキャリアの差なのでしょう、マゾペットとしての立ち居振る舞いは、ジャクリーンさまのほうが一枚も二枚も上手です。

「そのシッポは直子が洗いなさい。この後自分に突っ込まれるかもしれないのだから、そのつもりで丁寧に洗っておくことね」
 すっかりドS全開となられた里美さまの冷たいお声。

「あ、ミストレス、それはいけません。奴隷が汚したものは奴隷の責任で洗浄いたします。直子さまにそんな不浄なことをお願い出来ません」
 私を弁護をしてくださるおやさしいジャクリーンさま。

「奴隷は奴隷らしく口答えは慎みなさい。これは直子への躾なの。同じマゾドレイなのに相方のアナルをクサイなんて言い放つのは失礼じゃない。かぐわしくい香りがします、かなんか答えれば許してあげたのに」
 ニヤニヤ笑いで撥ねつける里美さま。

「へー、里美さんて見かけによらず、ずいぶんSっ気が強いのね。頼もしいわ。その調子でどんどんアイデアを出してくれると、今夜のショーも一層盛り上がると思うから、よろしくね。あ、もちろんしほりさんも負けずに、はっちゃけちゃっていいから」
 ミイコさまがその場をまとめるようにおっしゃいました。

「はい。わたし、ネコもタチもいけるリバですから。それにお芝居が好きなので、なりきるの得意なんです。だから今夜は冷酷なサディストになりきるつもりで来ているんです」
 先日の女子大生さまがたへの自縛レクチャーのときよりもノリノリな感じの里美さま。
 
 私も、里美さまって、こんなにお茶目な一面もお持ちなんだ、ってびっくりしていました。
 お酒のせいもあるのでしょうが、普段のお仕事のときの生真面目で頼れる知的な里美さまとは別人のよう。
 その視線がずっと追っているのは私よりもジャクリーンさまな気がして、里美さまが本気で虐めたいのはジャクリーンさまのほうなのかな、とふと思いました。

「では、奥の部屋に移動します」
 ミイコさまが扉を全開にされました。

 明るいシャンデリアに煌々と照らし出された大理石ぽいタイル張りなお部屋。
 奥に欧米映画で見かけるような真っ白な陶器で猫足の浴槽が見えました。
 壁も荘厳な大理石風で、金色の枠で縁取られ、シャワー類らしき銀色の金具類もみんなお洒落なフォルム。
 確かにそこは、とてもゴージャスで広々としたバスルームのようでした。


三人のミストレス 22




2018年2月25日

三人のミストレス 20

「そう言えば直子はまだ、ジャクリーンのしているあの乳首クリップは、されたことがなかったんだっけ?」
 お姉さまが私の尖り乳首をじっと見つめながら尋ねてきました。
 気がつくとお姉さまの背後に、里美さまとしほりさまも仲良く肩を並べてお立ちになり、私をニヤニヤ見下ろしていました。

「あ、はい・・・外国のSMの動画や画像ではよく見かけて、見るからに痛そうだなー、とは思っていました。日本でも売っているのですか?」
 普通の単純なクリップとは違い、冷たそうで重そうな銀色メカニカルでいかめしい外見が、いかにも西洋の拷問具という感じがしていました。

「あはは。やっぱり直子は可愛いね。そういうボケ方、あたし好きよ」
 やよいママさまがご愉快そうに笑いました。
「直子はあんまりお裁縫とかしなさそうだものね。あれは元を正せば、和裁をする人ならおなじみのお裁縫道具だよ」
 お姉さまも嬉しそうに笑っています。

「あのクリップはですね、かけはり、っていう、昔からある純和風なお裁縫道具なんです。和服の反物を縫ったり染色するときに布地をピンと張っておくために使うんです」
 小野寺さまが解説してくださいます。

「布をピンと張ってキープするために、突起の金具が引っ張られるとより強く噛むように出来ていて、挟む部分にはギザギザの滑り止めゴムも付いています。普通のクリップみたいにバネの挟む力任せではなく、一度挟んだら外れないように工夫されているのですね」
「だから今のジャクリーンさんは、かなりの激痛に苛まれていると思いますよ。お盆の重さが増すたびに金具が引っ張られて、ニップルをより強く挟んで引っ張ってくるのですから」

「当然、昔のSMマニアな人たちも古くから責め具として活用していて、それに目を付けた欧米のボンデージグッズ業者が、かけはりを仕入れて鉄のチェーンを付けて拷問具ぽくアレンジしたSMグッズとして、ジャパニーズニップルクランプスなんて呼び名で普及しているようです」
 小野寺さまったら、澄ましたお顔してえっちな雑学にもずいぶんお詳しいんだ。

「あたしも実家帰れば、いくつか年季の入ったやつがお裁縫箱にあるはずだわ。高校の頃、浴衣づくりに凝ったことあるから」
 お姉さまが私をニヤリと一瞥しておっしゃいました。

 シーナさまが、まるで他人事、みたいなシレッとしたお顔でつづけます。
「確かにあれ、かなり痛いみたいよ。いくら強く引っ張っても絶対外れないから。て言うより引っ張るほど強く挟まれるわけじゃない。うちの牝ブタも最初のうちは、あれを見せられると一瞬、絶望的な顔をしていたもの。今は、悦んで付けているけれどね」

「へー、いいなー、あたしも早く直子の絶望的な顔、見てみなくっちゃ」
 からかうような笑顔で私の顔を覗き込んでくるお姉さま。

「あ、あのえっと、し、シーナさまのことをジャクリーンさまは、ドミナ、ってお呼びされていましたけれど、ドミナって、何なのですか?シーナさまのミドルネームか何か、とか?」
 かけはり、というものがかなり痛そうなのでゾクゾクしてしまい、直子に付けてみよう、なんてならないうちに急いで話題を変えようと、ずっと気になっていたことを焦ってお尋ねしてみました。

「直子は、ミドルネーム、が好きねえ。何か思い入れでもあるの?」
 やよいママさまが半笑いで、呆れたようにおっしゃいます。
「あ、いえ、別に・・・」
 なんだか急に恥ずかしくなって、うつむく私。

「ドミナという言葉はですね、ミストレスと同じような意味のSM用語だと思えばいいですよ。ご主人様、女王様、みたいな意味の」
 おやさしくて博識な小野寺さまが、理知的に解説してくださいます。

「英語で、支配、を意味するdominationという単語からきた、という説と、これも英語のdominatrix、女性支配者とか女主人という意味の単語からきたという説があるみたいですね。いずれにしましても、女性支配者を、ドミナ、と隷属する側が尊称するのは、昭和中期頃からの日本のSM小説では定番の表現のようです」

「わたくしとしましては、ドミナ、と称した場合、支配者の中でも女性に限定するところから、dominatrixが語源、という説を推したいところですね。ちなみにdomination、支配、の対義語は、submission、服従です」
 小野寺さまは、横文字部分の単語を完璧にネイティヴな発音でお話しされていました。

「へー、小野寺さんて、そういう下ネタもやけにお詳しいのね。もっとカタブツさんかと思ってた。でもまあ、インテリにはムッツリが多い、って言うし」
 シーナさまがニヤニヤ笑いで茶化しにかかります。

「あ、いえ、わたくしもアンジェラと長くおつきあいしていますから、知識だけは増えていきますもので・・・でも、先ほどのジャクリーンさんとのショーは、わたくしも、あのお綺麗なお尻に思い切り鞭を振るってみたい、なんて興奮してしまいました」
 照れ笑いをお浮かべになり、目の前のオンザロックをグイッと飲み干された小野寺さま。
 小野寺さまのように品があって理知的なかたのSっ気って、凄く怖そう・・・

「アレが勝手に呼び始めたのよ、ドミナって。わたしも語源までは知らないけれど、ミストレスと同じような意味だってことは知っていたから、好きにさせたの」
 シーナさまがニンジンのスティックをポリポリ齧りつつおっしゃいます。

「ずっとご主人様とかシーナさま、って呼んでいたのが、数年前くらいにミストレスになって、いつだったか北欧から帰ってきたら、これからはドミナとお呼びさせていただきます、って宣言されたのよ。飛行機で読んだ本の中にそういう場面があって、わたしにピッタリだと思ったんだって」

「あの牝ブタ、スケベなことには貪欲だから、そういう小説とかビデオとか山ほど集めているの。わたしも、アレを牝ブタだの売女だのおばさんだの好きに呼んでいるからさ、勝手にすれば、ってほっといたの」
 まんざらでも無さそうな、おやさしい目になられたシーナさま。

 そこにジャクリーンさまが、空になった銀盆を乳首に吊り下げたまま、お戻りになられました。
 ジャクリーンさまの柔らかそうなおっぱい、左右の下乳のお肉に、事務用の標準的な目玉クリップがひとつづつ、新たに噛み付いてぶら下がっていました。

「ほら、プラッター外してあげるから、こっち来なさい」
 シーナさまがジャクリーンさまを手招きされます。

「ちゃんと言いつけ通り、手は使わずに回ってきたのでしょうね?」
 目の前にひざまづかれたジャクリーンさまの、腰のベルトをぞんざいに外しつつ、シーナさまが詰問されます。

「はい、ドミナ。どんなに重くなっても手では支えずに、みなさまの空いたグラスをカウンターまで運ばせていただきました。トレイに乗り切ら無さそうになると、アキコさまが助けてくださいました」
 アキコさま、というのは、ミイコさまから、アキちゃん、と呼ばれていた、もうひとりのメイド服姿の女性、おそらくお店のスタッフさんのことでしょう。

「お客様がたが面白がって、オマンコをさすったりお尻を叩いたりお酒をご馳走してくださったり、いろいろ虐めてくださいました、このクリップはエンドウさまがくださいました」
 やっぱり乳首が痛いのでしょう、眉間にシワを寄せて少し辛そうに色っぽいお顔のジャクリーンさまがシーナさまを見つめ、神妙にご報告されています。

「ふーん。それじゃあ後でエンドウさんにご奉仕しなくちゃね」
 シーナさまが無造作に目玉クリップを外し、より痛そうに歪むジャクリーンさまのお顔。

「こんなに乳首をビロンビロンに伸ばしちゃって、みっともなくお乳が垂れ下がっちゃって、本当にだらしないおっぱいよね」
 銀盆が外れたチェーンを再び中央で繋ぐシーナさま。
 ジャクリーンさまのふたつの乳首を起点に半円形を描く鎖が、胸元からお腹にかけて重そうにユラユラ揺れています。

「直子がおまえの乳首クリップに、ずいぶん興味津々みたいなのよ。もっと近くで見せてやりなさい」
 シーナさまに促され、ジャクリーンさまが膝歩きで、私の目の前へと進み出られました。

 間近で拝見するジャクリーンさまの豊満な生おっぱいは、地肌の青白さを際立たせる小麦色の日焼けとのコントラストとも相俟って妖艶の一言。
 そのたわわに熟しきったふたつの果実のそれぞれの頂点に、禍々しい形の金属の嘴が大きめな乳首の根本を食いちぎらんばかりに、しっかりと噛み付いています。
 その先の重そうな鎖に乳房全体が引っ張られ、房の付け根付近には数本のシワが走るほど。
 思わず生ツバをゴクリと呑み込んでしまうほどの淫靡さ、いやらしさ、痛々しさ。

「どう?なんだったら今こいつから外して、直子のを挟んであげよっか?」
 シーナさまがからかうみたいに聞いてきます。

「あ、いえっ!・・・」
 首を左右にフルフル振りながら、とっさに自分のおっぱいを庇おうとしますが、後ろ手錠では庇うも何もありません。
 首の動きに合わせて無駄にブルブルと左右に揺れる私のおっぱい。

「まあまあ、この後すぐにショーなんだからさ、そういう面白そうなことはステージの上で、みんなでゆっくり見物しようよ」
 やよいママさまがイタズラっぽい笑顔で、助け舟を出してくださいました。
 と言っても、せっかくならみなさまの前で晒し者にしよう、という意味にも取れますから、私にとってあまり助けにはなっていないのですが。

「それじゃあそろそろ始めましょうか?」
「そうね」
 ミイコさまの呼びかけにやよいママさまが応えられました。

「シーナちゃんとエミリーはわたしの後に着いてステージに上ってね。あ、ジャクリーンとナオちゃんは裸足になって」
 ミイコさまに促され、うつむいて足だけでスニーカーを脱ごうとしていると、背後から里美さまがお声をかけてくださいます。
「靴、ひとりで脱げる?」

「あ、はい、なんとか大丈夫そうです・・・」
 かかとをスリ合わせて脱いだスニーカーを、里美さまが拾い上げてくださいました。
 ジャクリーンさまはミュールを履かれていたので脱ぐのは楽だったみたい。
 ジャクリーンさまの両足首を繋いでいたチェーンもいつの間にか外されていました。

「では、ステージに上がりましょう」
 ミイコさまの号令でお姉さまとシーナさまが立ち上がられます。
 それぞれの右手にはそれぞれのペットの首輪に繋がるリードチェーン。
 場内が暗くなる等の演出は無く、フロア、ステージ共に昼間みたいに明るいままです。

 まず、片手に乗馬鞭を持たれたミイコさまと、手ぶらのやよいママさまが並んでステージ上へ。
 ここで、気づかれたお客様がたから盛大な拍手。

 つづいてシーナさまにリードを引かれ、後ろ手錠にされたジャクリーンさまがしずしずとステージ上に。
 少し遅れてお姉さまにリードを引かれた私も、おずおずと舞台上へ。

 私、ボディハーネスだけの裸で後ろ手錠のまま、みなさまが注目されている明るいステージに上るんだ・・・
 階段2段分くらいの段差を跨ぐとき、マゾマンコの奥がキュゥンと疼きました。

「それではみなさま、お待たせしました!これより百合草会夏の感謝祭、第二部のイベントショーを始めたいと思いますっ!」
 マイクを通したミイコさまのお声が場内に響き、ステージ前に詰めかけたお客様がたから、やんやの拍手。

 ステージの一番下手に、片手にマイク、もう片方に乗馬鞭を握られたミイコさま。
 そのお隣にジャクリーンさまの首輪リードを持たれたシーナさま。
 そのまたお隣、ステージのほぼ中央付近に、黒いレザーの首輪と両手足首にリング付きのベルトを巻かれ、両乳首のかけはりチェーンはまだそのまんま、他はオールヌードなジャクリーンさま。

 ジャクリーンさまと並んでのステージほぼ中央は、赤い首輪と手足首ベルト、肝心な場所は何ひとつ隠せないくすんだ赤いボディハーネスで裸身を飾った私。
 その横には、私の首輪のリードを持たれたお姉さま。
 お姉さまのお隣、一番上手端に、これまたマイクを持たれたやよいママさま、という布陣です。

 舞台下のお客様がたも含めて数十名いる女性の中で、ジャクリーンさまと私だけが異質でした。
 おっぱいも女性器も剥き出しにして、後ろ手錠の為に自ら隠すことは出来ず、為す術も無く自分の秘部を衆目に晒していました。
 もちろん、品定めでもするかのような容赦の無い好奇の視線が、中央のふたりに浴びせ掛けられています。
 親子ほども歳の離れたふたりの女性の裸体が、同性たちの眼前でまさに見世物となっていました。

「今夜は、おなじみのジャクリーンに加えて、ニューフェイスのマゾペットを迎え、対戦形式でショーを進めたいと思っています」
 ミイコさまのお言葉にヒューヒューと愉しそうにざわつくお客様がた。

「ご紹介しましょう。みなさまよくご存知のエミリーの部下にして、絶対服従なマゾペットセクレタリー、社会人一年生ながら経験豊富なオールラウンダーヘンタイ娘、森下直子ちゃんでーすっ!」

 えーっ!?ミイコさまったら、モロに私の本名をバラしちゃった・・・
 一瞬目の前が真っ暗になりました。
 拍手と共に私の素肌、乳首やワレメに、より激しい好奇の視線が突き刺さってくるのがビンビンわかります。

「このナオちゃんはまだ若いんだけどね、高校生の頃、初めてのご主人様が、当時まだお店開く前のやよいママで、エミリーの前にはシーナちゃんのスレイブもしていたっていう、ヘンタイマゾペットのエリートコースを歩んできているのよ」
 ミイコさまがご冗談ぽくおっしゃると、おおーっ、とどよめくお客様がた。

「そう。あたしが指で、この子のヴァージン、いただいちゃったの。初エネマもね」
 やよいママさまがマイクを使って可笑しそうにおっしゃると、すかさずシーナさまがミイコさまのマイクに近づきます。

「それで、この子のマン毛をマゾ女らしく永久脱毛させたのが、わ・た・し」
 シーナさまのお道化た仕草にイェーイと盛り上がるお客様がた。
 お姉さまのお顔をそっと盗み見ると、呆れたような面白がっているような、フクザツな半笑いを浮かべていらっしゃいました。

 そっか、今このステージの上には、私の人生歴代お三人の女王様が上がっていらっしゃるんだ・・・
 それでこれから、やよいママさまのパートナー、ミイコさまの司会で、シーナさまのパートナー、ジャクリーンさまと、見知らぬみなさまの見守る中で、辱めを受けるんだ・・・

 バレエを始めた幼気な中学生の頃には、毛ほどの想像も出来なかった破廉恥でヘンタイなシチェーション。
 ずいぶん遠くまで来ちゃったな、という感慨と共に、今までにお三人からされた様々な陵辱や辱めが脈絡なく次から次へと脳裏によみがえり、ほろ苦くも甘酸っぱい懐かしさの入り混じった羞恥と被虐感が全身を駆け巡りました。
 そんな感傷的な背徳感を吹き飛ばし、紛れも無く直面しているアブノーマルな現実へと引き戻したのは、ミイコさまのお声。

「では今夜のショーを始める前に、大事な儀式をしておきましょう。これをしておかないと、みなさんが愉しめませんものね?」
 ミイコさまがイタズラっぽくお客様がたに問いかけると、一層ガヤガヤヒューヒューざわつくギャラリーのみなさま。

「これからショーを進めるにあたり、ミストレスおふたりがお持ちのマゾペット調教権をいったん、わたしたちに預けていただきます。つまり、ジャクリーンと直子を、わたしたちが好きにしていい、という絶対服従の権利です。わたしたち、というのは、ここにいるバー百合草スタッフと百合草会会員のお客様がた全員、という意味です」
 ミイコさまのお芝居がかったお声が響き、フロアが束の間、シーンと静まり返りました。

「まずミストレスであるおふたかた、よろしいですか?」
「もちろん」
「はい」
 ミイコさまの問い掛けに、さも当然のようにうなずかれたシーナさまとお姉さま。

「次にスレイブたち。ミストレスが承諾した以上拒否権は無いのだけれど、一応聞くわ。絶対服従、いいわね?」
「はい、喜んでっ!」
「・・・はい・・・」
 
 喜々としてお答えになるジャクリーンさまと、うなだれ気味の私。
 同時にフロアのほうだけ照明が薄暗くなり、ミイコさまの重々しいお芝居声とも相俟って、雰囲気が一気に禍々しくなりました。

「契約完了。これで今夜この二匹のマゾペットは、イベントお開きまで今ここにお集まりのみなさん全員の共有スレイブとなりました。とは言っても、ショーのあいだは手を出したくなっても我慢してね。これだけの人数が勝手に動いちゃうと収拾つかなくなっちゃうから」
 ニッコリとお客様がたに語り掛けるミイコさま。

「これからスレイブたちに、恥ずかしいゲームをいくつかさせます。もちろん勝負ですから勝ち負けが決まります。トータルで勝ったほうにはご褒美、負けたほうにはお仕置きが待っています」
 ここでちょっと間を置き、ニヤッと笑ったミイコさま。

「でもまあ筋金入りのマゾ女たちですから、お仕置きがご褒美なのかもしれないですけれど・・・」
 クスクスアハハと嘲るように笑うお客様がた。

「そのお仕置きタイムには、みなさん全員、自由に参加して責めてくださって結構です。もちろんスレイブが死なない程度の常識は守ってくれないと困りますが」
 ミイコさまってば、サラッと恐ろしいことを・・・

「あと、さっきもお願いしたけれど、個人的な写真とか動画の撮影や録音はNGね。そちらの彼女が撮影しているビデオは、後日お店で上映会を企画するから」
「その他はショーのあいだも、ムラムラしてきたらオナるのもよし、パートナーとコトに及ぶとか、脱ぎたくなったらどんどん脱いじゃって結構です。レッツ、オージー!」

 ミイコさまの煽りにイェーイッ!とノリ良く応えられるお客様がた。
 下手側のボックス席から小野寺さまのレンズが、私たちをジーッと記録しています。

「それじゃあまず、みなさんに失礼が無いようにスレイブたちのからだを清めてくるから、しばしご歓談ね。そのあいだにアキちゃん、ステージ上の準備を」
 シーナさまとお姉さまから渡されたリードの持ち手を右手で一緒くたに握ったミイコさまが、ちょっとキョロキョロ思案顔。

「誰かわたしのアシスタントがふたりぐらい欲しいのだけれど・・・」
 お独り言のようにつぶやかれたミイコさまに、ステージを下りようとされていたお姉さまがご反応されました。

「それだったらうちの里美としほりさんが適任よ。しほりさんは本業がヘアメイクだからこういう現場にも慣れているし、里美もエログッズの扱いには長けているから」
 そのお言葉が終わらないうちにおふたりがミイコさまの傍らに駆けつけていらっしゃいました。

 まるで示し合わせていたかのよう・・・
 いいえ、多分事前に打ち合わせていて、最初からそういう段取りだったのでしょう。
 それが証拠におふたりとも、片手に見慣れない大きめなバッグをおのおの下げていらっしゃいます。
 おふたりの私物のバッグとは違う、おそらくミイコさまたちがご用意された、これからショーで使うお道具か何か。

 どうやら今夜のこのイベントは、やよいママさまやお姉さまたちが事前に入念に打ち合わせされた上でのもので、これからの展開をまったく知らされていないのは、私とお客様がただけなのかもしれません。
 でも、見知っているおふたりがご一緒くださるのは、私にとって心強いことでした。

 ミイコさまが握るリードに引かれ、裸のマゾペットたち、ジャクリーンさまと私がステージ上手から、おトイレへの矢印サインが示す狭い通路へと誘導されます。
 場内のBGMは、軽快なソウルミュージックに変わっていて、フロアでは幾人かが軽くおからだを揺すり始めていらっしゃいます。
 私の目前にはジャクリーンさまの剥き出しのお背中、背後にはニヤニヤ笑いの里美さまとしほりさま。

「ドキドキしている?」
 からかうようなお声で里美さま。
「何をされるかわからなくって、ドM心がジンジン疼いちゃってるんでしょう?」
 愉しそうなしほりさまからのお問い掛け。

「は、はい・・・」
 眼前のジャクリーンさまのお尻からまだ覗いているブタさんの尻尾型アナルストッパーを見つめて、おそらく共感性羞恥というのでしょう、いたたまれない羞じらいを感じている私。

 通路の一番奥に女性トイレを示す赤いアイコンが見え、そこで何かえっちな衣装にでも着替えるのかな?なんて思っていたら行進がストップ。
 ミイコさまがそのドア手前の、何も書かれていないもうひとつの真っ白なドアのノブにお手を掛け、ガチャっと手前に引かれました。


三人のミストレス 21


2018年2月11日

三人のミストレス 19

「ごきげんよう。お久しぶりです、シーナさん」
 お姉さまだってシーナさまの足下でうずくまる裸身の存在には気づかれているはずなのに、そこにはまったく触れずニコヤカにご挨拶。

「本宮から、今降ろした、って連絡入ってから30分以上も現われないからさ、てっきり直子が怖気づいて逃げ出しちゃったかな、と思っていたわよ。このまま来なかったら二度目のショーは牝ブタに何やらせようかって、考えていたところ」
 ご機嫌ナナメっぽいご様子なシーナさまが、細長いグラスに入った水色のお飲み物をクイッと一口、お飲みになりました。

 シーナさまたちがお座りになっているテーブルの上には、そのお飲み物の他に、チーズとクラッカーが乗ったお皿、グラスに刺さったお野菜スティックが置いてあり、小野寺さまの前には、茶褐色の液体に氷を浮かべたお飲み物。
 それらに加えて、見た瞬間にドキッとしてしまう、ひときわ私の目を惹くものがふたつ、無造作に置いてありました。

 ひとつめは、全体が真っ黒で少し古びた乗馬鞭。
 ずいぶんと使い込まれているようで、持ち手の革が黒光りしてテラテラ光っています。
 長い柄の細い部分が弾力のありそうな素材で、とてもよくしなりそう。
 先端のベロ部分は弓矢の矢羽根みたいな形で大きめ。
 これで尻たぶをジャストヒットされたら、クッキリ矢羽根の形の赤い打痕が残っちゃいそうです。

 もうひとつは、小野寺さまの前に置いてあるハンディビデオカメラ。
 新人エステティシャンの研修用教材という名目で、私のマゾマンコがワックス脱毛でツルツルにされる一部始終を録画されたときに使われたカメラと同じものよう。
 ということは、これから私がしなくてはいけないバトルショーとやらも、このカメラで撮影、記録されることになるのでしょう・・・

 シーナさまに促され、先ほど空けてくださったストゥールに腰掛けようとすると、すかさず脇からミイコさまが、ストゥールの腰掛け部分の上にたたんだバスタオルを敷いてくださいました。
 お姉さまと小野寺さまは初対面らしく、お名刺の交換をされています。
 腰掛けた私は、足下にいらっしゃる、裸の人、が気になって仕方ありません。

「そう言えばエミリー?本宮から名刺、もらった?」
 シーナさまがお姉さまにお尋ねになりました。

「ええ。車を降りるとき、どうぞ今後共ご贔屓に、ってくださったわよ。あのかた、個人営業なのね」
 小野寺さまのお名刺をポーチにしまうついでに、一枚の小さな紙片をヒラヒラさせるお姉さま。

「へー、ていうことは気に入られたんだ。だったらエミリー、これから直子と遊ぶとき、わたしが使わないときならいつでも本宮の車、使っていいってことよ」
 少しご機嫌が直られたらしいシーナさまの、弾んだお声。

「わたしが牝ブタと移動するときは、こいつは、大抵ほとんど裸だから、本宮はそういうヘンタイの扱いに慣れているの。だから、あなたたちも大胆に愉しめるはずよ」
「もちろん料金は、どこへ行こうが、北海道だろうが沖縄だろうが牝ブタ持ちだし、本宮はああ見えて合気道とか護身術全般身につけた優秀なガードウーマンでもあるし、オマケにSっ気も旺盛だから、いろいろ頼もしいはずよ」
 シーナさまが、こいつ、とおっしゃったとき、同時に足でテーブル下の人に何かしたみたいで、んぐぅ、という苦しげな呻き声がテーブル下から聞こえました。

「エミリーは小野寺さんとは初対面だったわね?アンジェラのサロンで事務方全般を一手に仕切っている、超有能なセクレタリー」
「あ、アンジェラさんとはこのお店で何度かお会いしたことあります。その節はうちの直子がずいぶんお世話になったみたいで、ありがとうございました」
 シーナさまのご紹介でお姉さまが小野寺さまに深々と頭を下げ、つられて私もペコリとお辞儀。

「今日のこちらでのイベントには、うちのアンジェラがとても来たがっていたのですが、どうしても外せない先約があり、代わりにわたくしが送り込まれました」
 小野寺さまが数年前と変わらない理知的かつ滑舌の良いハッキリとした口調でおっしゃいました。

「それで、観られないのであればせめて映像だけでも、ということでわがままをお許しいただき、本日はショーの一部を撮影させていただくことになりますので、どうぞよろしくお願いいたします」
 
 私を見つつの小野寺さまのお言葉に、やっぱり、とじんわりマゾマンコを潤ます私。
 そのとき、私たちの背後で立ったまま会話を見守っていたミイコさまが、お口を挟んできました。

「安心してナオちゃん。撮影するのはこのビデオだけで、他のお客様はケータイでもスマホでも一切撮影禁止になっているから。ネットに画像流出して顔バレ身バレとかは絶対に無いって約束するわ」
 イタズラっぽく微笑まれるミイコさま。
「お店で上映会とか、BGVとしてそのモニターに流すことは考えているけれどね」

「そんなことより、早くナオちゃんにジャクリーンを紹介してあげて。エミリーはここで何度か会ったことあるけれど、ナオちゃんは初対面でしょ?」
 ミイコさまがシーナさまに、新しいお飲み物を手渡しながらおっしゃいました。

「ううん。直子はずっと以前に、うちの牝ブタと顔合わせしているわ。もっともそのときは生意気にこいつ、人並みの格好をしていたと思うけれど」
 シーナさまがニヤニヤ笑いつつ、テーブル上の乗馬鞭を手にお取りになります。

「ほら、ヘンタイ牝ブタドマゾおばさん?オットマン役はもういいわ。立ち上がっておまえのお仲間にご挨拶なさい。ほら、早くっ!」
 シーナさまがテーブル下に潜らせた乗馬鞭がご活躍されているのか、テーブル下から人の肌を打擲する拍手のようなペチペチ音が聞こえてきます。

「ん、むぐぅ・・・」
 テーブルが少しガタガタ揺れ、シーナさま側のテーブル端からウェーブのかかった髪の毛が見えてきました。
 やがて、肘、肩、背中と露わになり、紛れも無い全裸女性の全身が現われました。

 首には太くて幾つもリングがぶら下がった黒い首輪、肩までのウェーブヘアが汗で額に貼り付き、黒色のボールギャグをかまされたお口からはだらだらとよだれを垂らされ。
 目鼻立ちの大きな日本人離れした端正なお顔は紅潮し、眉根に深く苦悩のシワが刻まれていましたが、そのお美しいお顔には、確かに見覚えがありました。

 シーナさまのパトロンさんにして、うんとお歳の離れた専属マゾドレイ。
 シーナさまのお住まいでもある私と同じマンション最上階の持ち主であり、どなたでも知っている有名上場会社の社長夫人。
 確かお名前は、ワカバヤシさま。

「直子、会ったことあるよね?うちに遊びに来たときに」
「あ、は、はい・・・」
 シーナさまに問われ、そのときのことをあざやかに思い出しました。

 東京に出て来て、シーナさまと恥辱満点の刺激的な再会を果たした初夏の数日後。
 ペントハウス風になっているマンション屋上で遊ぼうとシーナさまに呼び出され、伺ったときのことでした。
 玄関先でお出迎えしてくださった、仕立ての良いサマースーツを品良く着こなされた女優さんのようにお綺麗なお顔立ちの見るからにセレブマダム風な女性。
 身長は私より少し高いくらいなのに、何て言うのか、キラキラしたオーラに満ち溢れていて、生まれて初めて、貴婦人、と呼ばれる人種を目の当たりにした、と感じました。

 そのときは、その女性が外出される直前だっため、お顔を合わせただけだったのですが、ごゆっくりしていってくださいね、というおやさしいお言葉と、たおやかに香る甘ったるいコロンの香りが印象的で、なんて絵に描いたようにお上品なご婦人なのだろう、と思ったものでした。
 
 その後にシーナさまのお口から、そのご婦人こそがシーナさまの慰み者マゾドレイだと聞かされ、もっとビックリしてしまったのですが。
 その優雅なマダム、ワカバヤシさまが今、私たちの目の前に全裸で、いえ、全裸よりももっと浅ましいお姿で仁王立ちされていました。

 両手は頭の後ろで手錠されているらしく、立ち上がったときからすでにマゾの服従ポーズ。
 ご年齢は私の母と同じくらいか少し上とお聞きしていましたが、とてもそうとは思えない、シミやシワが少しも見えない艶やかな肌に引き締まったプロポーション。
 
 バストは大きく、ウェストはキュッと絞られ、ヒップはドーンと豊かで美脚がスラリ。
 もちろん腋と股間は完全剃毛済みのツルッツル。
 一見してお歳を感じさせない若々しいセクシーボディなのですが、いくつかの理由で、見ているこちらが恥ずかしくて目を背けたくなるくらい、艶めかしい色香を全身から発散されています。

 まず、目につくのは、そのおからだに残る日焼け跡。
 全体にこんがり健康的な小麦色に焼けていらっしゃるのですが、バスト部分と下半身にだけ、青白いほど生々しく普通の肌色が残っていました。
 
 おっぱい部分は、小さめなハーフカップブラビキニの形通り、乳輪を含むおっぱい周りだけ白い肌。
 下半身は、恥丘の膨らみ始めくらいから腿の付け根までがブーメラン型に白く焼け残り、凄くローライズでローレグな水着を身に着けていらっしゃったのであろうことが推測できます。
 
 その二箇所の未日焼け部分の青白さと小麦色の他部分とのコントラストで、結果的に白いおっぱいと乳輪、そして無毛の股間の割れスジを、ひときわ生々しく猥褻に目立たせる日焼け跡となっていました。

 更に、そのおっぱいの先端にはステンレス製らしい禍々しい形をしたクリップが両乳首に噛みつき、ふたつのクリップを繋いだ重そうなスチールチェーンに引っ張られ、豊満なおっぱいが盛大にうなだれて垂れ下がり、熟れ過ぎて今にもポタリと落ちそうな果実のよう。
 乳首も乳輪も私より大きく、色も濃い目ですごく淫猥な感じ。

 そしてとどめは、二の腕や胸元、太股付近のあちこちに刻まれている、ついさっきまで縄でギリギリと絞られていたのであろう生々しい縄目痕。
 太腿には矢羽根型に鞭打たれた痕も、ところどころに残っていて、私たちがここに来る前までに、このかたがいったいどんな扱いを受けられていたのか、いけない妄想が膨らんでしまいます。

 そんな感じに、見るからにふしだらと言うか、いやらしくも美しい裸体を目の当たりにして、私の心臓はドキドキ早鐘のよう。
 思わずお隣のお姉さまにからだを摺り寄せてしまいました。

「ほら、牝ブタ?口枷取ってやるから、今夜の対戦相手に一応挨拶しときな」
 シーナさまがぞんざいにおっしゃると、すかさずワカバヤシさまが服従ポーズのままひざまずき、お顔をシーナさまの胸元に差し出します。
 シーナさまがボールギャグのベルトを緩めると、その唇の端からよだれがダラダラ、首筋からおっぱいへと流れ落ちていきました。

 ワカバヤシさまの額にひっついた髪の毛を丁寧に払い、乱れた髪型を整えてあげる、おやさしいシーナさま。
 口枷を解かれ髪を直されたワカバヤシさまって、やっぱり凄い美人さん、今流行の言葉で言えば、まさしく、美魔女、さんという感じです。

「お久しぶりです、直子さま。直子さまのことはいつもドミナから聞かされていましたから、ぜひ一度、ちゃんとお目にかかりたいと思っていました。本日はよろしくお願いいたします」
 再び立ち上がられたワカバヤシさまが、座っている私を見下ろすように、服従ポーズのまま深々とお辞儀をしてくださいました。

「え、あ、あの、いえ、こちらこそ・・・」
「うちの直子だって同じマゾドレイなんだからさ、ジャクリーンも別に、直子さま、なんてあらたまらなくたっていいのに」
 しどろもどろな私に代わって、お姉さまがワカバヤシさまに、茶化すようにお応えになりました。

「いえいえ、ドミナは直子さまのことをいつも褒めていらっしゃいますから、奴隷にとっても直子さまはドミナのご友人で崇拝すべきおかたでございます。奴隷はここでは最下層の身分ですので」
 ワカバヤシさまが恐縮されたようにおっしゃいました。

 ドミナ、って、シーナさまのことよね?
 えっ?シーナさまって私のこと、ワカバヤシさまの前で褒めてくださっているの?
 それにワカバヤシさまは、ご自分のことを、奴隷、ってお呼びになるんだ・・・

 そんなことを考えていたらシーナさまの右手が一閃し、乗馬鞭のベロがワカバヤシさまのお尻をピシャリと打ち据えました。
「ひっ!」

「何、あたりまえのことを得意げに言っているの?おまえが最下層のヘンタイセックススレイブだってことは、ここにいる誰もがわかりきっているわよ」
「でも今夜はエミリーのマゾペットと、どちらのドレイがより従順でヘンタイかを競う対決、勝負は勝負だからね?もしおまえが直子みたいなこんな小娘に負けたら、明け方に素っ裸で表に連れ出して、道端や近くの公園にたむろしているホームレスのを5、6本、しゃぶらせるからねっ!」
 
 シーナさまがワカバヤシさまの乳首からぶら下がったチェーンを無造作に引っ張りながら、怖いお顔で吐き捨てるようにおっしゃいました。
 ワカバヤシさまの両乳首がおっぱいもろとも痛々しいくらい伸び切っています。

「あうぅっ、そ、それだけはお赦しください。ドミナはいつもその罰の後は、わたくしをしばらく可愛がってくださらなくなるではないですか・・・」
 シーナさまの手を離れた鎖でおっぱいがブランブランと揺れるのにも構わず、ワカバヤシさまが憐れそうに懇願されます。

「あたりまえでしょ?そんな男どもで穢された牝ブタのからだなんて、たとえグローブしていたって触りたくないわよ」
「皮膚の細胞は約一ヶ月で入れ替わる、っていうから、穢れたからだが生まれ替わるまで、おまえは貞操帯嵌めて、セックスもオナニーも、わたしとの謁見も禁止よ!」

 今度はパシッとワカバヤシさまの右おっぱいを打ち据えるシーナさま。
 やっと鎮まっていた鎖が、再び派手にブランブランと暴れ始めます。

「あぁうぅっ、わ、わかりました。奴隷もその罰だけは受けたくないので、いくら可憐な直子さまと言えども、手加減なしでお相手させていただきます」
 私をまっすぐ見て、縋るような目つきで微笑まれるワカバヤシさま。

「そうね、せいぜいがんばんなさい。ほら、そろそろ始めるから、おまえは席を回って空いたグラスやお皿を集めてきなさい」
 シーナさまがおっしゃると、傍らのミイコさまが四角い銀盆をシーナさまに差し出されました。
 もうひとりのメイド服姿の女性がワカバヤシさまの背後に回り、両手の手錠を外されます。

「かしこまりました、ドミナ。奴隷は仰せのままに」
 ワカバヤシさまが膝立ちになると、シーナさまがふたつの乳首から半円状に垂れ下がったチェーンを金具からふたつに分け、銀盆の左右の持ち手部分に装着しています。
 えっ?それってもしかして・・・

 やがて装着が終わったらしく、ワカバヤシさまが立ち上がられました。
 ワカバヤシさまのウエスト部分から、駅弁の売り子さんのように銀色のお盆が飛び出ています。

 そのお盆を支えるのは左右の乳首に噛み付いた2本のチェーン。
 ウェスト部分でもベルトを巻いて銀盆を安定させてはいるようですが、あの状態では銀盆にグラスを乗せるたびに重さで両乳首が引っ張られちゃうはずです。

「ほら、時間押しているんだから、さっさと回ってきな。重くても絶対手を使って支えるんじゃないよっ?」
「は、はいーっ!」
 シーナさまにお尻をピシャリと打たれ、ヨタヨタと全裸でフロアにお出になるワカバヤシさまの後姿。

 そのお尻にはアナルプラグなのでしょう、クルンと円を描いた、まさしく豚さんの尻尾のようなプラスティックの尻尾が生えていました。
 裸足の両足首には黒いベルトの足枷、もちろんその両足首は歩幅くらいのチェーンで繋がれています。

「はーい、みなさーん。そろそろイベント第2部を始めますから、空いたグラスやお皿は、今場内を回っているジャクリーンのお盆に乗せてあげてくださーい」
 ミイコさまがフロアに向かって、ひときわ大きなお声で呼びかけられました。
 気がつくとフロアのお客様の大半が、あるかたは椅子をご持参で、あるかたは立ったまま、私たちのテーブルを取り囲むように集まっておられました。

「ショーのあいだは、中央テーブルに各種お酒のボトルと氷やお水やジュースを置いておくので、各自勝手に作って飲んでね。おつまみはアキちゃんに言えば、簡単なものなら作ってくれると思うわ」
 中央のテーブルにせっせとウィスキーのボトルなどを並べている、もうひとりのメイド服姿な女性を指さされるミイコさま。

「ショーのあいだは、私やママには何を言っても無駄よ。わたしはショーの進行で忙しいし、ママはかぶりつきで観ているでしょうから。それくらいママも今夜のイベントを愉しみにしていたの」
 ドッとあがるみなさまの笑い声。
 そんなあいだもワカバヤシさまはフロア内を全裸で練り歩き、お腹の前の銀盆のグラスの山が高くなるにつれて、乳首の痛々しさが増していました。

「まだちょっと準備に時間かかるから、ナオちゃんはまだここでリラックスしていていいわよ」
 一通りフロアへの呼びかけを終えて私の傍らに戻ってこられ、おやさしくお声をかけてくださるミイコさま。

「あの、ワカバヤシさまの乳首クリップ、あんなにグラスいっぱい乗せて、大丈夫なのですか?もし外れてグラスが落ちてしまったら・・・」
 他人事とは言え、痛々しくて見ていられなくて、思わずミイコさまにお尋ねしてしまいました。

「シィーッ、彼女のことはここではジャクリーンて呼んでね。ドマゾヘンタイ熟女のジャクリーンと社長令夫人のワカバヤシさんとは別人なのだから」
 ミイコさまがイタズラっぽく唇に人差し指を当てておっしゃいました。

「まあ、でも今は公然の秘密みたいになっちゃったけれどね。少なくとも今夜来ている人は全員、彼女の素性の噂は聞いているだろうし」
 いつの間にかいらっしゃったのか、やよいママさまがお話に加わられました。

「シーナも彼女を最初連れてきたときは、ベネチアンマスクっていうんだっけ?あの仮面舞踏会みたいな目の周りだけのマスク着けさせてミステリアスに振る舞っていたのに、何度か通ううちに結局酔っ払って、自分たちでベラベラ白状しちゃうんだもの」

「会社名までは知らないまでも、彼女がどっかの大会社の社長夫人で、おしのびで夜毎ヘンタイ行為に耽っているらしい、って噂は有名よ」
 シーナさまがソファー上のお尻を少し小野寺さま側にずらされ、シーナさまのお隣に窮屈そうに腰掛けられるやよいママさま。

「でも彼女の変装っぷりは見事よ。あたしは会社名まで知っているから、たまにテレビで社長夫人として映るのも見たことあるのよ。だけどまったく別人。髪型もメイクも服装も。テレビに出ているお上品で優雅なご婦人と、今素っ裸で乳首の痛みに耐えているヘンタイマゾ女とが同一人物なんて、とても思えないものね」

 やよいママさまのお言葉に、ニンマリとお応えになるシーナさま。
「表に出るときの名前だってワカバヤシじゃないからね。ワカバヤシは旧姓なの」

「ワカバヤシ・・・ああ、だからジャクリーンさんなのですね?」
 それまで静かに会話を聞かれていた小野寺さまが、唐突にお声をあげられました。

「あ、あなたは気づいたのね?どう?直子はわかった?」
 やよいママさまが突然私に振ってきました。

「えっ?あ、あのいえ、えっと、お綺麗だから欧米系ハーフのかたで、ミドルネーム、とか?・・・」
 まったく見当がつかず、咄嗟に思ったことを口走る私。

「ブーッ!それっぽい顔立ちだけれどアレがハーフじゃないことは確かよ。あのだらしなくいやらしい体型を見ると、数代前にコーカソイド系の血が混ざっていそうではあるけれど」
 シーナさまが可笑しそうにおっしゃいました。

「もっと単純でバカらしいこと。小野寺さん?答えてみて」
 愉しそうに小野寺さまを促されるシーナさま。

「はい。わたくしの考えでは、ワカバヤシさんの漢字を音読みにしただけ。若いと林、すなわち、ジャクとリン」
「大正解!」
 周りを囲むお客様の方々も聞き耳を立てていらしたらしく、パチパチとまばらな拍手が起こりました。


三人のミストレス 20




2018年1月28日

三人のミストレス 18

 捻っていたからだをカウンター側に戻すと、目の前にやよいママさまがいらっしゃいました。
 私と目が合うと、ニッコリ笑いかけてくださいました。

「ずいぶんと熱心にフロアを観察していたじゃない?何か興味を惹くものでもあった?好みな女性がいたとか?」
 カウンター越しに、からかうように尋ねてくるやよいママさま。

「あ、いえ、そいうのではなくて、お客様がいっぱいだなー、って・・・」
 真正面から見つめてくるやよいママさまにドギマギしつつ、あわてて付け加えます。

「それに、暗いし恥ずかしいしで、お客様ひとりひとりのお顔まで、ちゃんと見ていられません・・・」
 お答えしながら気がつくと、お姉さまは左隣の、里美さまとしほりさまは右隣の、それぞれお隣に座られた見知らぬお客様がたと、私にお背中を向けて楽しげにおしゃべりされていました。

 その隙を窺って、という訳ではないのでしょうが、すごく近くまでお顔を近づけてくるやよいママさまと、お久しぶりの親密ムード。
 私の格好が恰好なので、胸はドキドキからだはソワソワ、懐かしい羞じらいがよみがえってきます。

「そうね。お店始めたばっかりの頃は、どうなることやら、とも思ったけれど、おかげさまで徐々に常連さんが増えてきて、最近やっと軌道に乗ってきたところ」
「ミーチャンやシーナが顔広いからね。連れてきてくれたお客様からの口コミで輪が広がった、って感じかな」

 傍らに置いた薄いレモン色のお飲み物が入ったグラスを、ときどき唇に運び舌先でチロチロ舐めつつ、ご説明してくださるやよいママさま。
 ミイコさまを、ミーチャン→と、平坦にアクセント無しでお呼びになる、地元の頃と同じやよい先生のイントネーションが懐かしい。

「あ、でも、お外には看板もネオンも出ていませんでしたよね?それで中に入ったら、こんなにたくさんいっらっしゃったので、単純にびっくりしたんです」
 会話を途切らせてはいけないと、店内に入ったときに感じた素直な感想を、そのまま言葉にしてみました。

「ああ、だからさっき言ったように、今日は特別なの。普段はちゃんと7時には表の階段前に看板出して、入り口の二重扉も外側は開け放しにしているわ」
 なぜだか可笑しそうに微笑混じりのご説明。

「ドアには会員制って書いたけれど、一度でも来てくださったお客様と一緒の女性ならば、基本的にオールウェルカム。レズビアンではないノンケ女性でもね」
「イベントの日だけは、表向きお休みにしているの。フリのお客様が入ってこれないように」
 唇に運ばれたグラスが少し傾き、やよいママさまのなめらかな喉がゴクリと上下します。

「いろいろイベント企画しているのよ、月に2度くらい。あたしらも愉しみたいじゃない?」
「軽めのカップリングパーティから、夏だったら水着デーとか。ディープなほうだとセクシー女優さん呼んでトークショーとか女性緊縛師の緊縛講座とか」

「中でも今夜のイベントはトップシークレット扱いだから、今居るお客様はうちのVIP待遇なお得意様と言えるわね」
「つまり、今ここにいるお客様たちは、マニアックなスケベさん揃い、ってわけ」
 少しご苦笑気味に、イタズラっぽい笑顔をお見せになるやよいママさま。

「まあ、あたしたちのことはいいとして、直子はどうなの?エミリーと、いろいろ楽しくやってる?」
 やよいママさまの視線が、私の顔から丸出しなおっぱいへと、あからさまにゆっくり移動しました。

「あ、はい。お姉さまはお忙しくてオフィスでも毎日はお逢い出来ないのですが、そんなときでも他の社員のみなさまから・・・」
 私ったら、やよいママさまに何をお話しようとしているのでしょう。
 はたと口をつぐんだ私の言葉を、聞かれていたのかいないのか、唐突にこんなことをおっしゃってきました。

「ねえ?直子のおっぱい、乳輪が一回り以上大きくなったんじゃない?あたしと遊んでいた頃に比べて」
 私の右の乳首をまじまじと見つめつつの、やよいママさまのお声。

「あんっ、いやんっ・・・」
 触られたわけでもないのに、若干の揶揄をも含んだようなそのおっしゃりかたに、ヒクッと疼いてしまう私のマゾマンコ。

「いやん、じゃないわよ。いい感じじゃない?いい感じにいやらしさが増しているわ」
 嬉しそうに再び私の顔に視線を戻されたやよいママさま。

「直子って元から乳首、大きめだったじゃない?それがもっと大きくなっていて、それにつれて乳輪も広がったって感じ。左右ともほぼ完全な鴇色の円を描いていて、とても綺麗よ」
 今度は左の乳首を凝視してくるやよいママさま。

「あたしと会えないあいだに、いろんな人にいろいろ弄られたのでしょうね。今だって、あたしに向かって痛々しいくらい尖っちゃって、弄って欲しくて堪らない、って感じ。すんごくビンカンそう」
「隣にエミリーがいなかったら、なりふり構わず両腕伸ばして、ギューっとわしづかみしちゃっているでしょうね。そのくらいふしだらにえっちで、魅力的よ」

 少しお声を落とされ、とんでもないことを笑顔でおっしゃるやよいママさま。
 マゾマンコの奥がまたヒクヒクととわななき、少し開いたラビアをトロリと濡らします。

「あ、あの、やよい先、あ、いえ、百合草先生は、私が学校行っているうちは、お店に来てはいけない、っておっしゃいましたよね?あれは何か意味が、あったのですか?」
 動揺をごまかしたくて焦って話題を逸らそうと、ずっと気にかかっていたことが口から出ていました。

 以前と変わらない、いえ、以前にも増して魅力的になられたやよいママさまのお顔を見ていると、そんなことおっしゃらずに、どうぞ、わしづかんでください、なんて口走ってしまいそう。
 今の私、すごく物欲しげな顔をしているはずです。

「あれ?そんなこと言ったっけ?」
 しばし上目遣いで記憶を辿るやよいママさま。

「あー、思い出した。あの頃、うちの店に直子の行っていた女子大の関係者がよく来ていたのよ、40代手前くらいで先生なのか事務方なのかは知らないけれど。見た目にも気を使っていて、まあまあ美人」
 完全に思い出されたようで、スラスラとお答えくださいます。

「いつもおひとりで来られて、若い子中心に声かけていたわ。話題も豊富みたいで、浅い時間はまあ楽しいお酒なんだけれど、量が過ぎると豹変するの。簡単に言えば酒癖が悪かったのね」
 綺麗な眉間に少しシワを寄せられたやよいママさま。

「悪酔いすると、やたら他の子のからだベタベタ触りたがってさ、そのへんのキャバクラで飲んでるスケベオヤジみたいになっちゃうんだ。それで拒否ると居丈高に怒り出すし」
「他のお客様も、最初は笑って相手していたんだけれど、段々もてあましちゃってさ。絡み方がしつこいんだこれが」

「ジェンダーの話題になると声高になっちゃうような人でね、そのへんもちょっとめんどくさかったかな、お酒の席だしね」
「他のお客様から、彼女は女子大にお勤めらしいって聞いて、その学校名が直子の通う学校だったから、直子が彼女と鉢合わせしちゃったらマズイと思ったのよ」
 困ったような苦笑いのやよいママさまも、アンニュイな感じでお美しいです。

「それで直子が東京に出てきたとき、一番最初に釘を刺しておいたんだ。あたしの店には近づくな、って」
「直子、彼女の好みっぽかったし、顔を覚えられて学校内で関わったりしちゃったら、相当面倒なことになりそうでしょ?」

「一年くらい熱心に通ってくれていたんだけれど、いつの間にか来なくなって、噂で聞いたら別のお店に鞍替えしたみたい。ステディな子をみつけらしいわ」
「だから今夜はもちろんここには来ていないし、これからも安心して遊びに来ていいわよ、エミリーと一緒に」
「それと、あたしのことを百合草先生って呼ぶのはやめてね。もう先生でも何でもないんだし、やよいママ、でいいからね」

 いつもの笑顔にお戻りになられたやよいママさま。
 すると、ちょうどそこにミイコさまがおいでになり、やよいママさまのお耳にコショコショっと何事かお耳打ちされました。

「おーけー。直子もそろそろ落ち着いたでしょうから、始めましょうか」
 私に同意を促すように、おだやかな微笑を向けてくるやよいママさま。

「えっと、始める、って、何を始めるのですか?」
 私の問にお答えくださったのはミイコさま。
「何って決まっているでしょ?イベントの第2部、みなさんお待ちかねのスレイブバトルショーよ」
 とても嬉しそうなミイコさまのお声。

「まずはこれから対戦するお相手にご挨拶しなくてはね。わたしが紹介してあげる」
 ミイコさまが私の肩に手を置き、立ち上がるように促してきます。

「えっ、えっと、どういうことなのでしょう?バトルショーとか対戦とか・・・」
 薄々予感はしていたのですが、やっぱり私はこのお店でも、みなさまの見世物にされちゃうみたい。
 でも、あまりに突然で単刀直入だったので、戸惑いが言葉になってミイコさまを見上げました。

「あれ?エミリーに聞かされていなかったの?ナオちゃんはこれから、うちのお店で一番人気なマゾスレイブと公開バトルをするの。ぶっちゃけて言えばSMショーみたいなものね。あんな格好で現われたから、てっきり覚悟の上だと思っていたわ」
 ミイコさまのご説明に、ウンウンとうなずかれるお姉さま。

「直子ならすんなり空気を呼んでくれると思ってさ、あえて何も説明しなかったんだ。それにもし嫌がったとしても、あたしの命令は絶対だもの」
 お姉さまがお得意げに笑って、リードを手に立ち上がられました。

「あらあら、羨ましいくらいの姉妹愛ね。日頃のトレーニングの成果をじっくり鑑賞させてもらおうっと」
 やよいママさままで、からかうようにおっしゃいます。

「ト、トレーニングって・・・バ、バトルとかSMショーとか、私、別にこれといって・・・」
「トレーニングっていうのはね、あたしら的に訳すと、調教、って意味なの。直子はエミリーにマゾペットとして調教されているんでしょ?その調教がどのくらい進んだのか、見せてくれるってエミリーが言ってきたから、今夜のイベントを組んだのよ、ね?」
 ご説明してくださったやよいママさまとお姉さまが、愉しげにお顔を見合わせてニッコリ微笑みました。

 トレーニングって、そういう意味もあったんだ・・・
 私はお姉さまやオフィスのみなさまといろいろえっちな遊びをしていても、調教されている、という自覚はありませんでした。
 たまにお芝居っぽく、調教、というセリフを使うこともありましたが、それはロールプレイでの役割分担のようなもの。
 でも、傍から見ると私は、お姉さまにSM調教されている、ということになるのでしょう。

 そうするとこれから私がやらされるのは、SM公開調教?
 アダルトビデオでしか見たことの無かった、見ず知らずの大勢の方々の目の前で恥ずかしくも惨めな痴態を晒し、侮蔑と嘲笑の的となる生贄マゾ女。
 
 妄想やフィクションの世界だけのことと思っていた状況が、現実になっちゃうんだ・・・
 やよいママさまがおっしゃるところの、マニアックなスケベさん揃いなお客様がたの前で、きっとすっごく恥ずかしいことをさせられちゃうんだ・・・
 興奮なのか怯えなのか、心の奥底からゾクゾクっとくる震えが全身を駆け巡りました。

「ほら、直子?立ちなさい。里美?また後ろで両手、繋いじゃって」
 お姉さまのご命令でストゥールから立ち上がると、里美さまによって有無を言わせず、再びチェーンで後ろ手錠にさせられた私。

「それでは行きましょう。アキちゃん?電気点けて」
 ミイコさまがフロアに呼びかけると、薄闇だった場内がサーッと明るくなっていきます。
 
 ああん、だめっ、明るくしないで!
 心の中では叫べても、実際に口に出すことなんて出来ません。
 明るくなりかけたとき、おおっ、というどよめき、つづいて沈黙、少ししてヒソヒソ声のさざ波が広がりました。

 真昼のように明るくなった店内すべての方々の視線が、ボディハーネスだけな私の全裸に集中していました。
 おひとりおひとりの好奇に満ちたご表情がハッキリと見えてしまい、いたたまれずに思わずうつむいてしまいます。

 店内のBGMはカイザーワルツ、皇帝円舞曲に変わっています。
「直子?うつむいちゃダメよ?ランウェイのときみたいに優雅に、音楽に乗って歩きなさい」
 私の首輪に繋がるリードのチェーンをお持ちになったお姉さまが、ご自身もゆっくりとモデルウォークされながら、小声でご命令。

 後ろ手錠で背筋を伸ばすと、剥き出しのおっぱいを誇示しているみたいになっちゃいますが、ご命令なので仕方ありません。
 顔をまっすぐ前に向けていると、否が応にも店内のお客様のご様子がハッキリ視界に入ってきます。

 ある人は唖然としたお顔で、ある人はニヤニヤ笑いで、20名以上の見知らぬ女性の方々が私の姿を目で追っています。
 サマードレスで着飾ったかた、ラフにジーンズとTシャツなかた、ブラウスにスカートなOL風のかた・・・
 ミイコさまと同じようなメイド服姿の女性もいらっしゃいます。

 当然ですがみなさまちゃんと何かしらきちんとお洋服を召されている中で、たったひとり、おっぱいも性器もお尻も丸出しな私。
 文字通りの見世物状態。
 急に明るくなってしまった分、恥ずかしさとみじめさが倍増です。

 会社のイベントショーでモデルをしたときの、今すぐ逃げ出したくなるような恥ずかしさがよみがえります。
 ただ、あのときとは、私を見つめる視線の強さが違っていました。
 イベントショーのときは、あきらかに戸惑ったような、照れたように伏し目がちになってしまうご遠慮がちなかたも目立ちましたが、今は皆無。
 
 すべての視線が私の裸身を、食い入るように、値踏みでもしているかのように、好奇と嗜虐と侮蔑を感じ取れるまなざしで、注目していました。
 顔とおっぱいと性器周辺とお尻に痛いほどの視線を感じつつ、ゆっくりと歩きます。

 先導されるミイコさまは、ステージ脇の大きめなテーブル席に向かわれています。
 その頃には店内におしゃべりが戻り、始まるみたいね、とか、ずいぶん若そうな子じゃない?などの弾んだつぶやきも聞こえていました。
 待ちに待ったコンサートがこれから始まる、みたいな雰囲気と同じ、みなさまのワクワクな高揚感が伝わってきます。

 近づくにつれ、そのテーブルの壁際のほうのお席に、見知ったお顔の女性が私をニヤニヤ眺めていることに気づきました。
 その壁際のお席だけ、3人並んで座れそうなゆったりとしたソファー。
 そこにおふたり並んで座られている、すごくよく知っているお顔と、もうひとりのかたは確か・・・

「ごめんさいね、ちょっとジャクリーンに今日のゲストの子を紹介するので、この席一瞬、空けてくれる?ショーが始まったらまた戻っていいから」
 ミイコさまが、テーブル席の壁とは反対側のストゥールにお座りになられていたおふたりの女性にお声をかけました。

「ハーイ!いよいよ始まるんですねっ!?」
 色違いのピチピチタンクトップにショートパンツというセクシーな格好をされた可愛らしい系なおふたり連れが、ご自分たちのグラスを手にそそくさと立ち上がられ、お席を空けてくださいました。

「やっと来たのね?もう待ちくたびれちゃったわよ」
 ぶっきらぼうにお声をかけてくださったのは、ざっくりした白いTシャツ姿の、いつになくラフなファッションのシーナさま。

 そのお隣で涼し気な微笑をお見せになられているシルクっぽいブラウスの凛とした女性は、確か小野寺さま。
 私が脱毛などですっかりお世話になっているエステサロンにお勤めのかたで、支配人さまの秘書をなさっています。

 そのエステサロンには、シーナさまが連れて行ってくださいました。
 そこでも私は、施術中に幾度となくあられもない痴態をさらけ出し、小野寺さまは、そんな私をつぶさにご観察なさっていたはずなのですが、最後まで冷静沈着で理知的に接してくださった、まさしくクールビューティな女性です。

 お珍しい組合わせ、と思いつつも思わぬ見知ったお顔のご登場に、今の私のまさしくマゾドレイな格好を思い出し、あらためて羞じらいが再燃。
 だけど、それ以上にショッキングな光景が視界に入り、唖然としてしまいました。

 先にお座りになられていたおふたりが退かれ、二脚のストゥールの脚のあいだから覗くテーブル下に、身を縮こませてうずくまっているらしい人影が見えました。
 全体的に肌色なので、おそらく裸、そしておそらく女性。

 乱れた髪がお顔の側面にかかり、お顔はわかりません。
 土下座でひれ伏したように身を屈められ、艶かしくカーブを描く剥き出しのお背中の上に、シーナさまの伸ばした生脚が乗せられていました。

 そのお姿を見た途端、ビクンと全身が震え、すぐに直感的に、あ、このかたもマゾドレイなんだ、と確信しました。


三人のミストレス 19


2018年1月14日

三人のミストレス 17

「いらっしゃーい。遅かったわね?週末だから道が混んでいた?」
 この理知的で落ち着いたお声はミイコさま。
 ミイコさまというかたは、私が地元にいたときからやよい先生最愛のパートナーの座におられる女性で、私の一番最初の恋敵。

 フルネームは水野美衣子さま、お姉さまの高校の先輩でもあるそうです。
 そう言えばさっきお外で、これからやよい先生のお店に伺うとわかったときも、ミイコさまのことはなぜだかぜんぜん思い出さなかった私。
 やよい先生とのお別れの日や、わざわざ私だけの為に撮影して作ってくださった自縛のハウトゥビデオ、えっちなグッズ製作などなどで、さんざんお世話になったかたなのに・・・
 ちょっと反省。

「あ、いえ。直子にニチョやエルの小路を案内したくて寄り道しちゃって遅れてしまいました。ごめんなさい・・・」
 お姉さまのテヘペロ気味なお返事。
 でも、ニチョって何?

「ナオちゃんもいるのよね?みんなお待ちかねよ。でもその前に一応お約束、秘密の合言葉ね。いい?百合草会は?」
 インターフォンの向こうのミイコさまのお声が、イタズラっぽい笑い混じりになりました。

「・・・安全、迅速、丁寧、仲良し」
 お姉さまが標語を暗唱するみたいに、照れ気味でお応えになります。

「合格よ、ちょっと待っていて。今ドアを開けるから」
 プツッという音でインターフォンが切れました。

「なんですか?今の」
 里美さまが怪訝そうにお姉さまへお尋ね。

「さあ?あたしもよく知らないけれど合言葉。来たときに言うように言われていたの。何かのマンガだかアニメだかの有名なセリフらしいわよ」
 お姉さまも苦笑いでおっしゃったとき、ドアの向こうでガチャンと音がしました。
 外開きの分厚いドアがゆっくりと開いてきて、私たちは2歩3歩、後ずさります。

「エミリー、お久しぶりー。あ、ナオちゃんっ。それに新顔さんもいらっしゃるのね」
 インターフォンと同じお声と共に現われたミイコさま。
 最後にお会いしたときと変わらない、アイドルさん並の可憐さ。
 
 それにお姉さま、ここではエミリーって呼ばれているんだ。
 そう言えばシーナさまも、3人でお会いしたときにそう呼んでいたっけ。

 目の前のミイコさまは、俗にフレンチメイドスタイルと呼ばれるモノトーンなメイド服姿。
 黒基調のノースリーブミニスカドレスに、白フリルのエプロンとメイドカチューシャがアクセント。
 ミイコさまの透き通るような白いお肌と漆黒のメイド服とのコントラストが鮮烈です。

 何より目を惹いてしまうのは、大胆に開けた胸元から覗く、生成りな麻縄の縛り目。
 よく見るとピッタリフィットなボディコン仕様の生地下から、全身を走っているのであろう縄目の凹凸がけっこう露骨に浮き上がっています。
 おそらくメイド服の下に下着はまったく着けておられず、全身を麻縄で緊縛されているのでしょう。
 申し遅れましたがミイコさまは、まだ高校生だった私にSMの手ほどきをしてくださったやよい先生の長年に渡るパートナーさまですから、もちろんエム属性です。

 全身から妖艶な色香を放出しまくっているのに、縄目に気がつかなければ清純無垢で可憐な美少女に見えてしまうミイコさま。
 そんなミイコさまがお姉さまの先輩で、お姉さまよりお年上なんて信じられません。
 あ、念のため、決してヘンな意味ではありませんよ。
 私のお姉さまが世界中で一番素敵なのは、動かない事実ですから。

「あらら、ナオちゃんはお風呂上がりなの?」
 ミイコさまがからかうようにおっしゃいました。
「あ、いえ、えっと・・・」
 後ろ手錠なので胸元を隠すことも出来ず、ただモジモジからだをくねらせてしまう私。

「ふふふ、まあ、そんなところ。それで、こちらのふたりがあたしの仕事の」
 お姉さまが会話を引き取ってくださり、里美さまたちをご紹介されようとすると・・・

「うん、でも立ち話もアレだから、まずは入って入って。ご紹介はその後でね。ママも中でお待ちかねだから」
 お姉さまのお言葉を遮って、ドアをより大きく開け放してくるミイコさま。
 ミイコさまが、ママ、とお呼びになられたかたがつまり、やよい先生なのでしょう。

「今夜は久しぶりのスペシャルイベントナイトだから、お客様一杯なの。とりあえずはカウンター席を4名分空けたから、そこに座ってママと積もる話をするといいわ」
 私たちをドアの内側へと招かれるミイコさま。

 入口ドアの向こうにもう一枚、重そうな扉があるので、ここは玄関ホールになるのかしら。
 女性5人が入っても窮屈ではないくらいの広さで、足元は真っ赤な絨毯、両脇の壁は鏡張り、収納らしき棚の上に見事な山百合のアレンジが活けてありました。

 内側の扉は真中部分がガラス張りになっていて、どうやら二重ガラスみたい。
 場内が暗めなので、目を凝らしてもここからでは、中のご様子はよくわかりません。
 こちらも外開きらしい大きめな扉の把手の上に、Bar 百合草、段を変えて、FOR LESBIANS ONLY、と洒落たレタリング文字で描かれたプレートが貼ってあります。

「では、ご案内いたしますね」
 ミイコさまの右手が扉の把手にかかり、捻ろうとしてフッと、何かを思いつかれたように手を離されました。

「そうそう、そちらのお客様?」
 イタズラっぽい目付きで私をまっすぐご覧になるミイコさま。
 把手にかかっていたしなやかな右手が、私のほうへと伸びてきました。

「その上着、お邪魔でしょうから、こちらでお預かりいたしましょう」
 可憐なお顔でニッコリ微笑みかけられました。

「えっ!?」
 と口から出るよりも早く、お姉さまの右手がさも当然というようにヒラリとひるがえり、背中のほうからスルスルッとバスタオルが剥ぎ取られました。
「あぁんっ!?」
 後ろ手錠なのでもちろん、剥ぎ取られても自分では一切、どこも隠すことは出来ません。

「悪いわね。よろしくお願いします」
 剥ぎ取ったバスタオルを素早く丁寧にたたまれ、ミイコさまにお渡しになるお姉さま・・・

 えーーっ!?私、最初からこの姿、全部丸出し状態でお店に入るの?
 いずれはバスタオルを取ることになるだろうな、と覚悟はしていたけれど・・・
 見知らぬお客様がたくさんいらっしゃるらしい店内に、いきなりほぼ全裸で・・・

 ミイコさまが先ほどと同じ微笑みを浮かべ、私の剥き出しになった尖り乳首をじーっとご覧になっています。
 徐々に視線をお下げになり、これまた剥き出しの無毛なワレメまで。
 そこに数秒視線が留まった後、もう一度私の顔に視線が戻り、今度はさっきよりも小悪魔的な、とても嬉しそうな笑みを見せてくださいました。

「それではあらためまして、ご案内いたしますね」
 お姉さまから手渡された私のバスタオルをトーションのように左腕に掛け、再び右手を扉の把手に伸ばされたミイコさま。
 そのまま扉を右のほうへ、ガラガラガラッとスライドさせました。

 あ、引き戸だったんだ・・・
 ドキドキして心臓が飛び出しそうなのに、どうでもいいことに感心している自分が不思議です。

「いらっしゃませー!」
 扉を開いてワンテンポ置いて、よく通る大きなお声でミイコさまが店内へご挨拶。
 あ、別にそんなことされなくても・・・

 ガヤガヤさざめいていた場内のおしゃべりがフッと途絶え、そこにおられるみなさま全員のご注目が扉のところに集中してしまうのは当然でした。
「さあ、こちらへどうぞ」

 ミイコさまのご先導に揚々とつづかれるお姉さま。
 お姉さまの右手にはリードの持ち手。
 リードチェーンの端には私の赤い首輪。
 その首輪の下には全裸同様なボディハーネス姿の私のからだ。
 後ろ手錠されているので当然のこと、どこもかしこも隠すことなんて出来ません。

 店内全体がムーディに暗めなのは幸いですが、すべての視線がこちらに集まっているのはわかります。
 間接照明の真下を通ると、尖りきったふたつの乳首がライトにクッキリ浮かび上がります。
 ヒソヒソからザワザワへ、徐々に店内にガヤガヤが戻ってきました。

 カウンター席は10名くらいが並んで座れる長さ。
 そのうちほぼ中央の4席だけポッカリ空いて、他のお席すべて、すでにどなたかがお座りになられています。

「うわー、直子?すんごい久しぶりじゃない?元気そうね。それに今日はすんごいオメカシさせてもらっているのねー」
 カウンターの中から、やよい先生の懐かしくも嬉しそうなお声。
 カウンター前の丸いストゥールにミイコさまがササッと私の上着、いえ、さっきまで巻いていたバスタオルを敷いてくださり、私はおずおずとその上に生尻を乗せました。

 カウンター内は当然ですがそれなりに明るく、やよい先生からはハッキリと、くすんだ赤いレザーハーネスで飾られた私の剥き出し乳房が見えていることでしょう。
 こうなってしまったらもう、開き直るしかありません。

 私はこのお店内で、どなたにでも裸をご覧いただくことを義務付けられたマゾペットなんだ。
 さーこママさまのお店と違い、ここにいるみなさまは全員、同性がお好きな女性の方々らしいし、きっとえっちなこともお好きな方々なのでしょう。
 マゾマンコ丸出しでも、少なくともツーホーとか、いきなり男性に襲われるなどの心配はまったく無いはず。
 ここでこの後私が何をさせられるのかはまったくわかりませんが、お姉さまもご一緒だし、場の流れに身を任せてみよう。
 そう思うことにしました。

 気持ちの整理が少しついたので、あらためてカウンターの奥で何やら包丁を振るっているやよい先生を見つめます。
 ざっくりした黒いTシャツにスリムなサブリナパンツとバレエシューズっぽいぺたんこパンプス。
 最後にお逢いしたときより髪はかなり短かめで、映画のローマの休日の人みたい。

 何よりも、出逢ったときからほとんどプロポーションが変わっていないのが凄いです。
 スレンダーなのに適度に筋肉が付いていて、それでいて女性らしい。
 私から見えているやよい先生は、横向きなのですが、胸を反らし気味にするとTシャツのバストの先がツンと尖っているように見えました。
 あれ?ノーブラなのかな?
 目を逸らせません。

「あれ?ヴァージンキラーに久しぶりにお会いして、見惚れちゃっているの?」
 私の左横にお座りになられたお姉さまが冷やかすようにおっしゃいました。
「あ、いえ、そんなことは・・・」

 私がしどろもどろになりそうなところでタイミング良く、ミイコさまがお飲み物を持ってきてくださいました。
「はい、みなさん一次会でたくさんお飲みになったでしょうから、乾杯は軽めで口当たりのいいシードルにしてみたわ」
 おのおのの前のカウンターにお飲み物を置いてくださるミイコさま。

「あ、里美?直子の手錠、いったん外してやって」
 お姉さまが里美さまにおっしゃり、後ろ手錠のチェーンが外され久々の自由。
 お姉さまのおっしゃった、いったん、という但し書きが気にはなりますが。

 いざ手錠を外されてしまうと、今の自分の格好に一層の羞じらいを感じてしまいます。
 だって、手錠をさせられていれば、おっぱい丸出しでも、隠そうにも隠せない状態だから仕方なく、っていう言い訳が出来ます。
 私は、この人たちにもてあそばれて無理矢理こんな格好をさせられているんです、というエクスキューズ。

 手錠を外されたからって、こんな和やかな雰囲気の中、急に胸元を隠そうとするのもカマトトぶりっ子でわざとらしい感じですし、乾杯なのですから自由になった手でグラスを持つしかありません。
 そうなると、なんだか自分の自由意志で、みなさまに視ていただきたくておっぱい丸出しにしているみたいで・・・
 でもその通りだろう?直子はそういうヘンタイ趣味を持つ女だろう?とおっしゃられてしまえば、何も反論は出来ないのですが。

 いつの間にかやよい先生も私たちの目の前まで来られています。
「それじゃあ、エミリーや直子との久々の再会と、イベントナイト第二部の開幕を祝して、カンパーイ!」

 やよい先生、あ、いえ、今はやよいママさまの音頭で、私たちとミイコさま、そしてカウンターの他のお席にお座りになっていた見知らぬお客様がたもご一緒になってグラスを高く掲げ、チーンと軽くぶつけ合いました。
 私もお姉さまと里美さまとしほりさま、それにやよいママさまとチーン。
 腕をお上げになったときハッキリわかったのですが、やよいママさまはやっぱりノーブラでした。

 林檎の香りな炭酸のカクテル?
 スッキリしていて美味しい!
 お外の熱気で喉が乾いていたこともあり、ゴクゴク飲み干してしまいます。

「第二部、なのですか?」
 カウンターに空いたグラスを置かれたお姉さまが、やよいママさまに尋ねます。

「うん。今日は7時に開けて、8時からイベントのボンデージショー第一部。9時半過ぎに終わって、それからみんなずっと、あなたたちの到着を待っていたのよ」
 やよいママさまが私の顔を見つめながらお応えになります。

「今日は、久しぶりの特別イベントなんだ。けっこうキワドイ内容になりそうだから、お客様も常連さんの中で信用出来る人にしか、お声かけしていないの」
「それにしては大盛況じゃないですか?テーブル席も全部埋まっちゃっているし」
 やよいママさまのご説明に、お姉さまがカウンターの後ろを振り返りつつご感心されています。

「それはそうよ。ジャクリーンの公開トレーニングは久々だし、それに加えて今夜はニューフェイスのゲストが参加するっていうんだから、これは何を差し置いても駆けつけないわけにはいかないわよ、百合草ママのお店のファンとしては」
 お姉さまのお言葉にお応えくださったのは、お姉さまのお隣にお座りになられた見知らぬ妙齢の女性でした。

 お勤め帰りなのか、白ブラウスにグレイのタイトスカートというOLさんぽい格好。
 緩くウエーブのかかったセミロングでナチュラルメイクなお顔は、お姉さまと同世代くらい?
 そのお隣のかたも同じような恰好でウンウン頷いていらっしゃるので、おふたり連れカップルさんぽい。

 おふたりの前には、オンザロックのグラスと乾き物のお皿が置いてあり、それなりに酔われているご様子。
 お姉さまのおからだ越しに、私の剥き出しなおっぱいに遠慮一切無しでニヤニヤ視線を投げかけてきます。

 それにしても今、その女性がおっしゃったお言葉は謎だらけ。
 ジャクリーン?
 公開トレーニング?
 ゲスト?

 ゲスト、に関してはすぐに謎が解けました。
「その、ゲスト、が、この子なんだけどね」
 お姉さまがイタズラっぽくおっしゃると、OLさんおふたり、ほらーっ、と大喜び。

「だと思った、そんな格好でいきなり入ってくるんだもん!」
「ドミナの旧いお知り合いなんでしょ?ドミナから直々にトレーニングされたりもしたの?」
「今日はまさか、ずっとその格好のままお店まで連れて来られたの?」
「そんな姿なのだから当然マゾなのよね?露出も好きなの?どう?恥ずかしい?」
 
 ご興奮気味にお姉さまと私へご質問攻めにかかるOLさんたち。
 ドミナ?
 またひとつ、謎が増えました。

「まあまあ、この子の本性は後々段々わかることだし、夜は長いのだから焦らずじっくり愉しみましょう。それにこの子、まだ着いたばかりで、いろいろ戸惑っているみたいだから」
 助け舟?を出してくださったのは、やよいママさま。
 見ると小さめなトレイに何か乗せて、捧げ持っています。

「ほら、直子のために作っておいたの。麦とろごはんとしじみのお味噌汁。それにキューリと山芋千切りの酢の物。愛情定食」
「あなた昔から、えっちモードにはいると食欲二の次になっちゃっていたでしょ?どうせ今夜も一次会でほとんど食べていないだろうと思って、作っておいたのよ」

 カウンターに置かれたお椀から、お味噌汁の良い香りが漂ってきます。
 やよい先生が私のために、わざわざ手作りのお食事を・・・
 そう考えただけで、忘れていた食欲がみるみるよみがえってきました。

「わー美味しそう!」
「いいなーっ!」
 OLさんとお姉さまから同時に、羨ましそうなお声。

「あなたたちも食べたい?ごはんは一口分程度になっちゃうけれど、とろろはたっぷりあるの。千切りもあるから、お醤油垂らしてワサビ混ぜれば、お酒のアテくらいにはなるわよ。もちろんサービス」
 やよいママさまがおっしゃると、カウンターほぼ全員の手が、はーいっ、と挙がりました。

「いただきます」
 小ぶりのお茶碗に7分目くらいの麦ごはんとたっぷりのとろろ。
 一口食べるとお箸が止まらなくなり、スルスル入ってしまいます。
 やっぱりお腹、空いていたんだ。

 お味噌汁も酢の物もすごく美味しい。
 何よりもやよいママさまが私のために作ってくださった、ということが嬉しい。
 あっという間に全部食べてしまいました。

 ズルズルシャクシャクととろろを啜る、お洒落なバーには似つかわしくない音がしばらく、カウンター周辺に響きました。
 みなさまがお相伴に預かっちゃったので、私のためだけに、ということにならなかったのが少し残念ですが、考えてみればここは飲食店なので、お客様はみなさま毎晩、やよいママさまの手作りお料理を食べていらっしゃるわけで、がっかりしても意味のないこと。
 一息ついた気安さもあって、そっと背後を振り向いてみました。

 店内は意外に広い感じ。
 天井のところどころから光を放つ間接照明は、照度を落としているらしく、けっこう暗めで、上映中の映画館のスクリーン前くらい?
 そんな薄闇の中、カウンター席を除いてもおそらく20名くらいの見知らぬお客様がたが、お酒とおしゃべりを楽しまれています。
 
 カウンター席の背後はフローリングのフロアになっていて、中央に大きめでおへその高さくらいな楕円形テーブル。
 その周囲に椅子はなく、スタンディングで飲む仕様なのでしょう。
 事実、今も数名の方々がそのテーブルに取りついて、立ったまま談笑されています。
 
 確かに、必要以上に身を寄せ合う仲睦まじいカップルさんが目立ちます。
 フロアのところどころにスチール枠の小洒落た椅子が置いてあって、テーブル無しでグラス片手で腰掛けて飲んでいるカップルさんもいらっしゃいます。

 壁際はテーブル席になっていて、おふたり掛けと4人掛けのお席がゆったり並んでいます。
 もちろん満席。
 地下なので窓は無く、窓風のアンティークミラーと、レプリカであろうどこかで見覚えのある大きめな裸婦画や外国映画のポスターらしきエロティックな写真が数枚、品良く飾られています。

 カップルさん6割で、残りは数名づつのグループさんぽい感じ。
 暗いのでご年齢層まではわかりませんが、女性だけのご集団らしい、デパートのお化粧品売り場フロアみたいな甘い匂いがただよっています。
 お客様はみなさまだいたいお知り合いらしく、あちこち移動されてはおしゃべりされているかたもいらっしゃり、全体的にアットホームで和気あいあいな雰囲気。

 カウンターが途切れた先は通路になっていて、もっと奥におトイレがあるいうことを示す、よくある女性の形のアイコンマークと矢印。
 その通路脇に一段高くなったステージっぽいスペース。
 普通の4人編成くらいのバンドなら乗れそうな広さと奥行きで、カラオケらしき機械も置いてあり、実際ステージなのでしょう。

 ステージ背面の壁は全面鏡張り、頭上にミラーボール。
 店内の床が木質系のフローリングなのに対して、ステージ上だけ濃いグレイのリノリウムなので、全面鏡とも相俟って、雰囲気がバレエのレッスンスタジオっぽい。
 思わずやよい先生とのレッスンの日々を思い出してしまいます。
 
 お店に入ったときから、耳障りにならないくらいの音量で、流麗なシンフォニーワルツがずっと流れていました。
 今流れているのは、美しく青きドナウ。

 確か一番最初の発表会の講師演技で、やよい先生が踊られた曲。
 水色のキラキラしたチュチュで、すっごく綺麗だったな・・・
 私がこの曲をハミングすると、なぜだか途中からスケーターズワルツになっちゃって、いつもやよい先生に笑われたっけ。

 そんなノスタルジックな感慨も、ステージ脇のデイスプレイに映っている映像の正体がわかったとき、吹き飛びました。
 どうやら外国ポルノのレズビアンボンデージものらしき映像。
 もちろん音声は消してありますが、50インチ以上ありそうな画面いっぱいに、欧米女性おふたりの肌色とピンク色が大きく映し出されていました。
 
 そうでした、ここにいらっしゃる方々、どなたもみなさま、異性ではなくて同性に惹かれる女性の方々なのでした・・・
 半身を捻った私に向けた刺すような好奇の視線をあちらこちらから素肌に浴びながら、一時大人しくなっていたムラムラが息を吹き返し、マゾマンコの奥底から狂おしく突き上げて来るのを感じていました。


三人のミストレス 18


2018年1月7日

三人のミストレス 16

 そのままの格好で恐る恐る、上目遣いで辺りを見回してみます。
 立ち並ぶ雑居ビルの壁から突き出している、ピンク、ブルー、オレンジ、色とりどりに光る袖看板。
 車道と歩道の境目にメニューの書かれた黒板式の看板も立ち並び、街灯とネオンで夜の11時前とは思えないほどの明るさ。

 ひっきりなし、と言って良いほどに楽しげに歩道を行き交う人たち。
 本宮さまが停めたお車の脇を、タクシーや乗用車が頻繁に通り過ぎていきます。
 ガヤガヤザワザワ、まさしく、歓楽街、という感じ。

 やっと助手席のドアが開き、お姉さまが降りてこられました。
 つづいて運転席側から本宮さまも。

「それでは、ご利用ありがとうございました。どうぞ存分に週末の夜をお愉しみくださいませ。また後ほど、お迎えに上がりますので」
 制帽をお取りになり、深々と綺麗なお辞儀姿でご挨拶くださる本宮さま。

 キリッとした黒スーツ姿の本宮さまは、それでなくても薄着なかたが多いこの熱帯夜の中、スレンダーなプロポーションとも相俟って、余計に人目を惹いているみたい。
 お顔をお上げになると、明るい街灯の下、少し色を抜いたセシルカットが細面によくお似合いな、某老舗女流歌劇団に居らっしゃいそうな物凄いマスキュリン美人さんでした。

 お姉さまが私に近づいてこられます。
「直子は、ここ、初めてよね?ほら、そんなふうにモジモジ縮こまっていないで、もっとシャキッとしていないと悪目立ちしちゃうわよ?」

 私にぴったり寄り添って剥き出しの肩をポンと叩いてくださいますが、バスタオル一枚のこんな心細い格好で、どうシャキッとすれば良いのでしょう。
 余計に胸元を押さえる手に、力が入ってしまいます。

「あ、そっか。直子は露出願望の見せたがり屋さんだから、目立ってもっとみんなに注目して欲しいんだ?」
 ご愉快そうにイジワルになったお顔を寄せてこられるお姉さま。

「直子のそばに寄ると、やっぱりけっこう臭うわね、淫乱マゾメスの臭い。タオルにもグッショリ沁みついちゃっているのね」
 お酒のせいなのでしょうけれど、普段よりずいぶんご陽気で、いささか品を欠く言動なお姉さま。

「ほら、ちょっと臭い消ししてあげる」
 肩から提げたバッグから何か取り出し、首筋やタオルにシュッシュと吹き付けてくださいました。

 鼻腔をくすぐる、嗅ぎ慣れた麗しのお姉さまの香り。
 お姉さまが普段おつけになっているグリーン系ローズマリーな香りに全身が包まれます。

 お姉さまとおそろいだ・・・お姉さまに抱き寄せられているみたい・・・
 束の間の天にも昇りそうなシアワセ気分。

「ついでに、これもね」
 うっとりしている私の顔にお姉さまの右手が近づいて来た、と思ったら、その右手が首のほうに下がり、カチンと小さく金属的な音が聞こえました。

 視線を落とすと私の首輪のリングに、細めな銀色の鎖のリードが繋がっていました。
 私の足元くらいまでありそうなそのリードの先端は、もちろんお姉さまの右お手元に。

「さあ、酔い醒ましにちょっとお散歩しましょう。あたしの可愛いマゾペットちゃん」
 お姉さまが嬉しそうにおっしゃり、鎖をグイッと引っ張られました。

 本宮さまのお車がスーッと発進され、通りの向こう側から私たちを隠すものが何もなくなりました。
 私を取り囲むようにしてくださっていた里美さまとしほりさまも私の半歩くらい手前を並ぶように歩き始め、リードに繋がれた私が群れの最後尾で一番目立つような隊列になってしまっています。

 真夏の夜更け、ほとんど無風。
 裾が煽られる心配が無いのは不幸中の幸い。
 だって、ヒラリとめくれたらすぐにワレメの割れ始めがコンバンハ、しちゃいそうな超ミニスカ仕様ですから。

 だけど風が無い分、熱帯夜の湿った熱気が全身にまとわりつき、火照ったからだが一層汗ばんでしまいます。
 全身を縮こませているので、腋や両腿のあいだは、もうヌルヌル。

「ほら直子?だからそれじゃあ悪目立ちだってば。ショーのときみたいに背筋伸ばして、堂々と歩きなさい。視たいのなら視なさい、って感じで」
 お姉さまが振り向いて、呆れたようにおっしゃいますが、胸元を庇う両手を外すことは出来ません。

 だってこの頼りないバスタオルがハラリと解けてしまったら、恥部全部丸出しなハーネスひとつの、正真正銘マゾメス姿を天下の往来で曝け出すことになってしまうのですから。
 そんなふうに考えているあいだも、四方八方から無数の視線を感じています。

 せめてリードのチェーンだけでも目立たないように、と小走りでお姉さまのお背中に近づきました。
 里美さましほりさまと女性4人、狭い歩道を横並びで歩くような形。
 他のかたの通行の妨げとなり、かえって目立ってしまっているかもしれないと思い、やっぱり下がろうとしたとき、前方から女性のおふたり連れ。

 里美さまとしほりさまが後方へ退いてくださり、それからはお姉さまと私、里美さまとしほりさまの二列縦隊。
 その代わり女性おふたり連れからは、擦れ違いざまマジマジと、ご興味津々な視線をいただいてしまいました。

「直子も話に聞いていると思うけれど、この一帯はゲイの社交場、同性好きな人たちが集まるエリアなのよ」
 わざとでは?と思うくらいゆっくり歩きながら、お姉さまがご説明してくださいます。

「男性向けのお店のほうが圧倒的に多いけれど、女性向けのお店も結構あるの。同性愛者全般が日常としてすんなり受け入れられているのよ」
「女装した男性とかも普通に歩いているし、夏だから女性も男性もセクシーな格好多めでしょ?だから少しくらいキワドイ格好をしていても目くじら立てる人なんていないのよ、ここでは」
「他の繁華街と違ってここは、自分の性的な性癖に正直になっていい場所なの。都内で唯一、しがらみ抜きで性的にオープンになれるオトナの社交場」

 お姉さまのご説明を踏まえてもう一度周りをおどおど見渡すと・・・
 確かに歩いている人たちは、圧倒的におふたり連れが多いみたい。
 それも同性同士が。

 会社帰りのOLさんらしきおふたり連れ、ピチピチな黒のタンクトップから筋骨隆々な二の腕を覗かせているマッチョさんと長髪ミュージシャン風な男性おふたり連れ、どう見ても女装さんなたぶん男性おふたり連れ・・・
 年齢層もさまざまで、ご中年ぽい男性と若いかたの組み合わせや、夏休みのせいか、まだ高校生くらいじゃない?と思うような童顔の女の子同士も。
 
 私たちと擦れ違っても、こちらを一瞥もされないほど、ご自分たちおふたりの世界に浸っているようなかたたちが多いみたい。
 このかたたちみなさま、同性がお好きなかたたちなんだ・・・
 幾分気がラクになりましたが、それでも格好が格好ですから、堂々とモデルウォーク出来るような気分にはまだなれません。

 擦れ違うときに、驚いたような好奇の視線で私をマジマジと視つめてこられた男女のカップルさんがおられ、少しラクになっていた気分がたちまち緊張、思わずお姉さまに抗議してしまいました。
「あの、男女のカップルさんもいらっしゃいますよね?」

「そりゃあ、ここは基本的に飲み屋街だからね。ノンケ出入り禁止の店もあるけれど、オールオッケーなお店もけっこうあるし」
 あっけらかんとおっしゃりながら、より細い路地へと歩みを進めるお姉さま。

「直子、あたしがいくら言ってもおどおどしたままなのね?いいわ。里美?直子の両手、背中で繋いじゃって」
「はいはーいっ!」
 路地に入って足を止められたお姉さまから里美さまへご指示が飛び、里美さまの待っていました、とでもおっしゃりたげに嬉しそうなお返事。

 里美さまとしほりさまが、ササッと私の両脇に立たれました。
 胸元を押さえている両手を、しほりさまがやんわり握ってきます。

「さ、大人しくその両手を背中に回しなさい。抵抗するならタオルごと引っぺがすわよ?」
 唇の両端を押し上げた、しほりさまのゾクゾクしちゃうイジワルい微笑み。

「は、はい・・・」
 為す術無く胸元から両手を離し、お尻の側へ回す私。
 すかさず里美さまがどこから取り出されたのか、両端にナスカンの付いた短かい鎖を私の目の前にぶら下げてきます。

 あらかじめ装着されていたレザーリストベルトが、早くも威力を発揮します。
 右手首のベルトのリングにナスカンが嵌められ、すぐに左手首にも。
 私の両腕は、お尻の割れ始めのあたりで、短かい鎖に繋がれた後ろ手錠状態になりました。

 これでもう、どなたかにバスタオルを剥ぎ取られても、自分では一切どこも隠すことが出来なくなってしまいました。
 ゾクゾクっという戦慄がマゾマンコの奥をキュンキュン潤ませてきます。

 後ろ手になってすぐに、里美さまの右手がバスタオルの折り込み部分に伸びてきたとき、早々と絶望感が駆け巡りました。
 でもそれは、緩み気味になっていたバスタオルの巻付けを直してくださったのだとわかり、盛大な安堵感。

 手錠を掛け終え、再びゆるゆると歩き始めます。
 でも、お酒でご陽気になられているお姉さまがたがいつイタズラ心をお出しになり、バスタオルにお手を伸ばしてくるか、気が気でなりません。

「この路地周辺はね、とくに女性向けのお店が密集していて、エルの小路、なんて呼ばれているんだって」
 頭上で光るカラフルな袖看板を見上げながら、お姉さまのご説明。

「エルはもちろんレズビアンのエルと思うでしょう?フランス語で彼女って意味のELLEだったらオシャレだけれど、実際は小路がL字型に曲がっているから、っていう風情の無い理由が真相らしいわよ」
 可笑しそうに笑われるお姉さま。

 確かにこの小路に入ると、女性カップルさんのお姿が目立ちました。
 そして女性のほうが男性より、あからさまに興味津々で不躾なまなざしを私に投げてくるような気がしました。

 後ろ手錠にされているときも、数組のカップルさんが私たちの傍を通り過ぎていかれましたが、みなさま一瞬ギョッとしたように歩みを止められ、それからクスクスと言うかニヤニヤ言うか、好奇に満ちた瞳で私たちをジロジロ眺めつつ去っていかれました。

 長身スリムなショートカットさまと、見るからにフェミニンなロリータ系ファッションさまという、典型的なレズビアンカップルさまは、私たちを見つけると同時に、こちらにも聞こえるようなお声でこうおっしゃっていました。

「・・・やだ何あれ?AVの撮影?」
「カメラマンがいないからプレイなんじゃない?」
「3対1かあ、凄そう。このへんでアオカンでもすんのかな」

「あれってバスタオルよね?きっとあの下、ハダカで縛られてるんだよ」
「あの子、見るからにドエムって顔してるもんね。いいな愉しそうで」
「絶対マンコ、グショグショに濡らしちゃっているんだろうね・・・」

 私たちの前を通り過ぎた後も、数メートル先で立ち止まってもう一度振り返り、お顔を見合わせて二言三言、何かお話されていました。
 おふたりが私に投げかけてきた、蔑みと羨望が複雑に入り混じったようなまなざしに、ここに来てから一番激しく身悶えしたいほどの羞恥と劣情を感じていました。

 首輪に後ろ手錠バスタオルな自分のドマゾ姿が見世物にされている、という恥辱感の反面、そんな姿でもここでは咎められることも無く好奇の視線ながら許容されている、と思える安心感もあり、最終的にそれらすべてが被虐を経由した欲情となり、キュンキュンムラムラからだを火照らせます。
 内腿からふくらはぎへ、トロトロ滑り落ちていく液体は、汗だけではありませんでした。

 小路の両側にも色とりどりの小さめな袖看板とネオンサインが連らなり、ダンスミュージックっぽい音楽や弾けたような黄色い笑い声が、どこからか漏れ聞こえています。
 こんな格好をしていても、なんだか居心地の良いところ・・・
 そんなふうに思えてきました。

 やがてお姉さまがおっしゃった通り、小路はほぼ直角に右側へと折れていきます。
 曲がり角を折れると、向かって左側だけ妙に暗め。

「あ、お墓・・・」
 見たままのことが素直に口から出ていました。

「そう。こっち側は向こうに見えるお寺さんの敷地。このへん一帯は江戸時代から昭和の半ば頃まで遊郭として栄えたところでね、戦後は所謂、赤線、て呼ばれた色街の一画だったんだって」
「それで、あのお寺は江戸時代から、お女郎さんの投げ込み寺、って呼ばれて、男性の性欲の捌け口となって命尽きた女性たちをずっと、弔ってきたそうよ」

「そう聞くとお墓でも、なんとなく怖くなくなるでしょう?直子の大好きなえっちなことに、大いにゆかりのあるお寺さんなのだから」
 ご冗談ぽくそうおっしゃって、リードをグイッと引かれました。

「ところで、ここまで来たらもう、直子がこれからどこへ連れて行かれるのか、わかったのではなくて?」
 くちづけしそうな勢いでお姉さまに顔を覗き込まれ、後ろ手錠の私はトットットとつんのめってしまいます。

「あ、は、はい・・・」
 実を言うと、二次会は新宿、とお聞きして、少し期待していました。
 この場所で降ろされ歩き始めたとき、期待は確信に変わりつありました。

「やよいせ、あ、いえ、百合草先生の、お店、バー、ですか?」
「ピンポーン!大当たりー。直子がヴァージンを指で破られた忘れじのご主人さまのところに向かっているの。超お久しぶりよね?愉しみでしょう?」
 相変わらず少し品を欠き、それになぜだか幾分トゲも感じるお姉さまのお言葉。

 私が中学の頃からのバレエの先生、やよい先生にお逢い出来るとしたら、本当にすごく久しぶりでした。
 私が東京に出てきてからは、入学直後から一年生のときに数回お逢いしたきり。

 お電話やメールはときどきしていましたが、それも、お姉さまとおつきあいし始めてからは途絶えていました。
 もちろん東京に来たからには、やよい先生のお店にすぐにでもお伺いしたかったのですが、やよい先生から、卒業するまで絶対にダメ、と固く禁じられていました。
 卒業とほぼ同時期にお姉さまと出逢いましたから、それ以降、伺う機会はありませんでした。

「はい・・・すごく久しぶりです」
「今夜は、会えないあいだに直子がどれほど立派なマゾ女に育ったか、百合草女史に、じっくり視てもらわなくちゃね?」
 満面の笑みでおっしゃるお姉さま。

 そう言えばお姉さまは、私がおつきあいをお願いしたとき、わざわざやよい先生とご連絡を取ってお会いになり、交際のご報告をなさっていたのでした。
 それに、私と出会う前から、やよい先生のお店はご存知で、伺ったこともあるようなご様子でもありました。
 
 お姉さまは、おつきあいが始まってすぐ、直子が百合草女史やシーナさんから今までにされてきたえっちなアソビの記憶を、あたしとのことで全部上書きしちゃうつもりだから、とおっしゃってくださいました。
 そのお言葉はとても嬉しく、事実お姉さまの会社に入ってからは、それ以前を上回るヘンタイな毎日を余儀なくされ、やよい先生のことを思い出すことも少なくなっていました。

 でもやっぱりお姉さま、私の過去のこと、お気にされているのかな・・・
 そう言えばご自分で、飽きっぽいのに嫉妬深い、っておっしゃっていたっけ。
 私の心は出逢ってからずっと、お姉さま一途なのに・・・
 
 それで、こういう破廉恥な姿で私をお店に連れて行って、昔の直子とは違う、ということを、やよい先生に知らしめようとしているのかもしれないな。
 それなら私も、お姉さまと出会ってオトナなマゾ女に成長した私を、やよい先生にしっかりご覧いただかなくちゃいけないな。
 あ、でもお店でこの格好だったら、やよい先生からもまた、虐めてもらえるのかもしれない・・・
 歩きながら、そんなふうなことをとりとめもなく考えていました。

「たけど、百合草ママのお店は、このエルの小路ではないんだなー」
 お姉さまのお言葉通り、L字型の路地は、そろそろ終わろうとしていました。
 正面にここの3倍くらい広そうな道路が見え、ヘッドライトを照らした車が右へ左へ横切っていきます。
 リードを引っ張られ、その道を左折しました。

「直子にあの界隈の雰囲気を味わってもらいたくてさ、わざわざ寄り道したのよ?どう?いい感じだったでしょ?」
「あ、はい。こんな格好をしていても、通るみなさまになんだか面白がっていただけていたみたいで、恥ずかしかったけれど居心地も良かったです」
 素直にお姉さまのご配慮を嬉しく感じました。

「へー、このへんは打って変わって、ごく普通のオフィス街なんですね」
 里美さまとおしゃべりしつつ後ろを歩かれていた、しほりさまのお声。
 確かに、まるでさっきの小路の出口が現実世界への出口だったみたいに、ネオンキラキラの歓楽街から灯り少なめ地味めな、よくある夜更けのオフィス街へと景色が変貌していました。

 オフィスビルなのかマンションなのか、ところどころ窓辺に明かりが灯る低めのビルが立ち並び、駐車場や遠くに見える信号機。
 歩いている人もまばら、みんなおひとりで足早。
 全体がグレイに沈み、車の通る音だけ響く見慣れた夜更けの街。

 そんな日常な風景に戻ると、私の今の異常な格好を一層思い知らされます。
 首輪をリードで引かれ、後ろ手錠、からだにはバスタオル一枚、その下はおっぱいもマゾマンコも丸出しなボディハーネス。
 エルの小路の居心地の良さで忘れかけていた罪悪感寄りの羞恥が、理性をお供に一気にぶり返してきました。

 私を見つけたのであろう通行人の方々のご反応も、小路のときとは違って冷たい感じ。
 一瞬チラッと視て、すぐ目を背け歩き去るかた、立ち止まってじーっと目を凝らし、呆れたようにフッと笑うかた、うつむいてスマホを見つめたまままったく気づかずに擦れ違うかた・・・
 小路を歩いていたときのような安心感は消え失せ、イケナイことをしているというドキドキで、性懲りもなく淫ら汁が内腿を濡らしてしまいます。

「もう少しで着くわよ」
 道路を渡り二つ三つ路地を折れて、お姉さまがおっしゃいました。
 さっきの道路と垂直に交わるのであろう車が行き交う通りの少し裏手、細い路地に面したあまり新しくはなさそうな四階建てくらいのビルの入口前で、お姉さまの歩みが止まりました。

「ずいぶんわかりにくいところにあるのですね?」
 里美さまがそうおっしゃるということは、里美さまも初訪問なのでしょう。
 しほりさまも物珍しそうに辺りを見回しています。
 ビルの入口付近にはネオンも看板も、お店を示すようなものは何も見当たりません。

「ううん。直子がこんなだからさ、わざと人目につかなそうな道を選んで来ただけよ。普通ならさっきの道をまっすぐ行って、交差点右に折れて路地入ればすぐ。あのまま車に乗っていれば、あっさり20分くらい前に着いていたわ」
 
 お姉さまが笑いながらおっしゃり、オフィスビルっぽい入口脇の地下へと向かう階段を下り始めます。
 さすがのお姉さまたちも、天下の往来で私のバスタオルを剥ぐというような、キチク的行為はなさらなかったことにホッとしつつ、つづいて私も。
 
「直子は後ろ手錠だから、ゆっくり下りてあげる。つんのめって転んだら受け身出来ないで大怪我しちゃうものね」
 相当年季の入っていそうなコンクリートの壁に寄り添うように歩を進め、地下に到着。

 お客様商売のお店にしては、ずいぶんと暗めな間接照明でコンクリート打ちっ放しなエントランス。
 バレエのレッスン場や音楽スタジオのようにスチール製の重そうな紺色のドアがピタリと閉ざされています。

 ドアの目線の位置に、会員制、と黒字で書かれた白いプレート、その下に小さく赤字の英語で Members Only 。
 お店のお名前とか、レズビアンバーとかは一切書かれていませんでした。

 ドアの横にインターフォン。
 お姉さまが慣れた手つきでボタンを押し、こう告げました。

「こんばんは。遅くなりました。ダブルイーのエミリー他3名です。本日はお招き、ありがとうございます」
 少しの沈黙の後、インターフォンのスピーカーから、懐かしいお声が聞こえてきました。


三人のミストレス 17


2018年1月3日

三人のミストレス 15

 週末で賑わう夜更けの幹線道路をひた走るハイヤー?の後部座席、赤い首輪以外生まれたままの姿な私。
 スモークフィルムのせいで透過性の低下した黒ずんだガラス窓がすっかり鏡と化し、私の横向きおっぱいの先端、誇示するように尖りきった勃起乳首がクッキリ鮮明に映り込んでいます。

「本宮さんが外からは見えないっておっしゃっているのだから、一切隠しちゃだめよ!」
 おっぱいを隠したくて自由になった右手を動かそうとしたら、すかさずお姉さまからピシャリとダメ出し。

「あ、はい・・・」
 結局両手は剥き出しな太腿の上に。
 裸の私を映したままな窓の向こうを流れていく、きらびやかな街の夜景にドキドキと心細さが止まりません。

 車内に低く流れている厳かなピアノコンチェルト。
 これは、ラフマニノフだっけ?

 左隣の里美さまが、ご自分のバッグを何やらガサゴソされています。
「これから直子のからだにおめかししてあげる」
 そうおっしゃって取り出されたのは、一見、ベルトの束みたいに見えるもの。

「今日の直子はスペシャルゲスト、兼、生贄デビューでもあるからね。それらしい格好になってエレガントに伺わなくちゃ」
 前の席のお姉さまが、ご愉快そうにおっしゃいました。

「ちょっと両手を上に上げていて。頭の後ろで組んでもいいわ」
 里美さまのご命令でマゾの服従ポーズ。
 腋の下から両乳房まで丸出しになると同時に、お車が信号待ちで止まりました。

 里美さまが取り出されたのは、俗にボディハーネスと呼ばれるレザーの拘束具でした。
 私が今しているような首輪と同じ色合いの沈んだ赤のレザーベルトが金具で繋がれ、装着するとロープで菱縄縛りをされたような姿になる、SMプレイ定番のボンデージファッション。
 以前、通販ショップ用のモニターとして一度試着させられたものと同じやつなのかもしれません。

 首輪はしたまま、首輪の下に首の後ろからホルターネック状におっぱいのほうへと、ブラジャーの紐ように革紐が垂れ下がりました。
 乳房を左右に振り分けるようにベルトが交差し、おっぱいが菱形模様の革紐で絞り込まれます。
 
 ブラジャーであれば乳房を包むカップがあるのですが、ハーネスなので乳房の根本を締め付けるだけ。
 普通のブラジャーからカップ部分を取り去り、外縁部分だけのオープンカップブラ状態となり、おっぱい全体が絞られた分、突き出た乳首がより飛び出し、露骨に目立ちます。

 里美さまは手慣れた手つきで手際よく金具を調整し、あっと言う間に上半身がくすんだ赤色のベルトで作る菱形で飾られました。
 そして、余っているベルト部分を見ると、私がモニターで着けたやつと違っているみたい。

「今度はちょっと腰を浮かせてくれる?」
「はぁうっ!」
 里美さまに突き出た乳首を指でピンと弾かれ、思わず喘ぎ声でお答してしまう私。

 普通のボディハーネスであれば、下半身部分は、たとえ紐一本分くらいの細さでも、一応パンツ状になっているものが多いのですが、おへその下あたりまで装着の終わったハーネスの残り部分に、パンツ的な形状をしたレザー部分はありませんでした。

「これはね、直子みたいなドスケベマゾ女のために、特別にデザインしたのよ。オマンコも丸出しの慰み者スレイブ用ボディハーネス」
 里美さまが嬉しそうに解説してくださいます。

 座席のシートから腰を浮かせて前屈みの中腰になった私の両太腿に、残りのレザーベルトが脚の付け根付近の内腿を通って左右へと、それぞれ股間の皮膚、つまり大陰唇を押し開くように巻き付けられました。
 ウエストくらいの高さから垂れ下がった左右2本のベルトは、恥丘を覆い隠すこと無く、ガーターベルトのように太腿に巻き付いて装着終了でした。

「やだ直子、座席のシートに愛液、滴らせちゃっているじゃない?」
 私の左太腿にベルトを巻き付け終えた里美さまが、呆れたようなお声をあげられます。

「あうぅ、ごめんなさい・・・」
 腰を浮かせたとき、剥き出しの股間と高級そうな灰色のレザーシートとのあいだに、恥ずかしいか細い糸が納豆のように粘っこく糸引いているのが自分でも見えていました。
 かろうじてお尻に敷かれていたバスタオルを剥ぎ取られてしまったのですから、仕方のないことではあるのですが、ベルトでラビアを引っ張られ裂け目も開いてしまったので、尚更ネットリ溢れ出していました。

「あらら。本宮さん?ごめんなさいね。うちのペットが粗相して。シートを汚してしまったみたい」
 助手席のお姉さまが運転手の本宮さまへ、申し訳なさそうにお詫びされます。
 でも、おっしゃりかたがお芝居がかって、なんだか愉しんでいらっしゃるっぽい。

「ああ、いいですよ、そういうのにもわたくしは慣れていますから。泥酔したお客様の吐瀉物に比べれば数倍マシですよ」
 気さくに寛容なお言葉を返してくださる本宮さま。
 でも私の愛液、酔っぱらいさんの嘔吐物と比べられちゃった・・・

「それに、そのシートはすでに、あのかたの同じような液体がこの一ヶ月でふんだんに沁み込んでしまっていますからね。来週シートごと取り替える予定なんです」
 なんでもないことのように、大らかにお応えくださる本宮さま。

「そうなんですか。だからこの車に乗ったとき、芳香剤に混じってなんとなく淫靡なメス臭い匂いがするなって、思ったんだ」
 興味深そうに相槌を打たれるお姉さま。

「あたしはてっきり直子のせいだと思っていたけれど、それだけではなかったんですね?」
「ええ。ほんの3時間くらい前にも、あのかたたちをお乗せしまして、あのかたはずっと、後部座席で全裸でしたから」
 可笑しそうに笑いながらおっしゃる本宮さま。

「この子も濡れやすい子なんですよ。さっきお店から車まで行くときも手を引いていたのですけれど、人と擦れ違うたびに手のひらが熱くなって汗ばんで、恥ずかしさに発情しているのがすぐわかっちゃうんです」
「それまで一次会のお店で、さんざん発情してイキまくっていたのにですよ?本当にいやらしい子」
 嬉しそうに本宮さまに暴露されるお姉さま。

「ええ、わかりますよ。こんな状況なのに、視ていて痛々しいくらい尖り切ったお嬢さんのそのニップルを拝見すれば、お嬢さんが根っからの視られたがりマゾヒストということは、一目瞭然ですね」
 本宮さまの、どこまでも冷静なお声。

「今夜は、あのかたたちとお愉しみ、ですか?」
「そうなの。この子がちょっとワケアリで、初お披露目なんです。本宮さんも観に来ればいいのに」
「いえ、わたくしはまだ勤務中ですので・・・お迎えにも上がる予定ですから、おそらくお帰りのときも、お目にかかることになるとは思いますが」

「そうなんだ。じゃあまた今度改めて、本宮さんにも、このマゾペットとアソブ機会を作りますね。シートを汚してしまったお詫びも兼ねて。この子、直子っていうんです。森下直子」
「あ、いえ、お気を遣われなくても結構ですよ。でも確かに、こんな可愛らしいお嬢さんが乱れるところなら、拝見してみたい気もしますが・・・」
 
 お姉さまと本宮さまの謎だらけで不穏な会話がつづいています。
 あのかた、ってどなたなのだろう?
 お姉さまと本宮さま共通のお友達か何かなのかしら・・・
 
「それなら里美たちがちょいちょいっと直子弄って、本宮さんに直子のエロいイキ顔をお見せする、っていうのはどう?」
 ノリノリでおっしゃったお姉さま。

「でもチーフ?直子をイカせると、今よりもっとシートを汚しちゃうことになるのでは?」
 私の唇にテカテカしたルージュを塗ってくださっていたお手を休め、しほりさまがご心配そうにご指摘されました。

「あ、ですからわたくしと車のことはお気になさらないでください。この車の後部座席では、何をなさっても結構なんです。そういう契約になっていますので」
「マスターベーションされて潮を吹かれても失禁されても、なんならローソクをポタポタ垂らされても、すべてあのかた経由でクリーニング諸々全部、必要経費で落ちますので」
 大らかにおっしゃる本宮さま。

「へー。やっぱり超セレブはスケールが違いますね。それならお言葉に甘えちゃいましょう。本宮さんも事故らない程度にルームミラーで視てやってください、我がオフィスの淫乱マゾペットのいやらしいメスの顔」
 お姉さまのお言葉が終わらないうちに、左右から手が伸びてきました。

「あうっぅぅ!」
 イジワル笑顔なしほりさまに両方のおっぱいをわしづかまれ、これまたイジワル顔の里美さまの指が二本、マゾマンコに突き挿さり・・・

 さーこママさまのお店で失神して以来、ほとんど物理的刺激を受けていなかった私の敏感な秘部たちが待ち侘びていたように、一斉に歓喜の嬌声をあげます。
 タオル一枚の街中歩行や、ハイヤー内全裸、みなさまからの蔑みお言葉責めで蓄積されていた精神的恥辱感が、すべて肉体的快感へと昇華していきます。

「あっ、いやっ、いいっ、そこっ、そぉ、そこっ・・・・」
「だめっ、んっ、いいっ、あーーっ、んーーっ、もっとっ、もっとぉーっ!・・・」
「あ、もうイク、イクぅ、あっ、そこっ、そこーっ、もっと、い、い、イカせて、あんっ、イカせていただいて、よ、よろしいでしょうかっ?」
「あんっ、しほりさまぁ、さとみさまぁ、イキますぅ、イカせてくださいぃぃ・・・」

「違うでしょ直子?直子がお願いしなくちゃいけないのは身内じゃなくて、そんなヘンタイ娘をお車に乗せてくださっている運転手さんにでしょう?」
 お姉さまから鋭く叱責のお言葉が投げつけられました。

「あぁんっ、はいぃぃ、ごめんなさいぃ、そうでしたぁ、も、本宮さまぁ、い、イカせていただいて、よ、よろしいでしょうかぁ?・・・」
 目先のオーガズムに向けてグングン高まっていく自分のからだ。
 
 初対面の運転手さまにあられもない姿をお視せしている、という恥辱の状況がマゾ性の炎にガソリンを注ぎ、快感の波がからだの奥底から湧き上がってきます。
 膣奥深く突っ込まれて高速ピストンをくりかえす里美さまの三本の指がジュブジュブピチャピチャ囀り、薄灰色のレザーシートにドス黒いシミがみるみる広がってしまいます。

「ちゃんとお許しを乞うなんて、さすがに躾が行き届いていますね?お嬢さん?あ、えっと、直子さん?イキたいのですか?」
 本宮さまのからかうようなお声。
「はいぃ、イカせてくださいぃ、あっ、もうっ、もおーっ・・・」

「でしたら恐れ入りますが両隣のお嬢様がた、そのマゾ女を悦ばせることをいったん中止してください」
 まっすぐ前をお向きになられたまま、本宮さまがひんやりしたお声でおっしゃいました。
 しほりさまの両手がおっぱいから離れ、里美さまの指が止まり、無情にもスルッと抜けていきます。

「もうイク寸前なのですよね?でしたらあとはご自分の指でつづけなさい。わたくしがイキなさい、と命令したらすぐイケるように、ここからはご自分の指で盛り上がりながら、ギリギリでイクのを我慢していなさい」
 変わらずのご丁寧な口調ながら冷たさの増した本宮さまのドエスなお声。

「は、はい・・・お許しいただいてありがとうございます・・・」
 ご返事をして、おずおずと自分の股間に手を伸ばします。
 
 さっきまでは両隣の手で強引にもてあそばれ、昂ぶった末の懇願でした。
 今度は自分の手で、つまり自慰行為をしてイケ、というご命令。
 こんな場所で、こんな姿で、みなさまの視ているその前で。
 自分が本当に淫乱なドスケベマゾ女だということを、自らの手によって証明しなさいというご命令・・・
 
 お車はところどころ窓から灯の漏れるオフィスビルが立ち並ぶ幹線道路を、時折信号につっかえながらも順調に走っています。
 自分がイキたいから、ところ構わず自分の性器に指を突き挿してしまうヘンタイ女。
 少しの理性が働き始めたのか、第三者の指でイカされるより、自慰行為でイクほうが数倍はしたなく思え、マゾマンコに当てた指の動きが鈍ってしまいます。

「ほら、遠慮しないで思い切り弄らないと、命令通りイケないのではなくて?」
 お声がかかり顔を上げると、ルームミラーの中の本宮さまの切れ長な瞳と、バッチリ視線が合いました。

「は、はい・・・」
 ラビアを軽く撫ぜているだけでビクンビクン反応してしまう火照りきったからだ。
 でも、ご命令通りにイクためには、もっと敏感なところを積極的に責めておかなければイケません。
 何よりも私の全身が、一刻も早くイキたくて仕方なくなっていました。

 ルームミラーに視線を合わせつつ、右手人差し指と中指を、ズブリとマゾマンコの膣穴に潜り込ませました。
「あうふぅぅぅ・・・」

 熱い、そしてビチャビチャ・・・
 こんなところで、みなさまに視られて私、オナニーしているんだ・・・
 そう思った途端、私の意志とは関係なく、指だけが別の生き物のように動き始めました。

「あっ、あっ、あんっ、んーっ・・・」
「いい声ね、いやらしく身悶えて、そう、もっと盛り上がりなさい、でもまだイッてはだめよ」
 短かい渋滞を抜け出したようで、お車の速度が上がったような気がします。

「本宮さん、見事なミストレスっぷりじゃない?そんな感じで直子をじっくり虐めてくださるところも、ますます見たくなっちゃった」
 お姉さまが心底感心されたような驚きのお声を出されました。

「そうですか?まあ、わたくしも伊達に数年間、あのかたたちの運転手を務めてているわけではありませんから」
 少し恐縮されたように、照れ気味にお応えになる本宮さま。
 そのあいだも私は、自分の指戯でずっとアンアン喘ぎっ放し。

「はい、じゃあここでイキなさい。今すぐ」
 本宮さまからお許しが出たとき、お車は赤信号で停車していました。

「あんっ、はいぃ、も、本宮さまぁ、ぁ、ありがとうございますぅ、ぃ、イカせていただきますぅぅ・・・」

 片側3車線くらいある、ずいぶん大きな交差点。
 私たちのお車は真ん中の一番前にいて、左右を他のお車が囲んでいます。
 交差する道路にも右へ左へ流れるヘッドライトの河。
 舗道にもたくさんの人達が行き来しています。

「あんっ、イキますぅ、イッちゃいますぅぅぅ・・・」
 左手で右おっぱいを激しく揉みしだき、右手のひらでクリットを押し潰しつつ膣内の指をグイッと奥に押し込んだとき・・・

 またしても後部座席左右の窓がスルスルっと下り、熱帯夜の熱気にモワッとからだが包まれました。
 大きく耳に飛び込んでくる街の雑踏、ざわめき・・・

「あーーっ、ぅぅぅぅ・・・」
 それまであられもなく大きな声で悶え喘いでいた私の声が、弾かれたようにフェイドアウト。
「んぐぅ、ぬぐぐぐぅぅぅぅぅ・・・」
 それでも容赦無く快感はスパークし、抑えきれないくぐもった歓喜の叫びが喉奥からせり上がってしまいます。

「やだっ、直子、全身がヒクヒク痙攣してる・・・腰もビクビクガクガク跳ねっ放し・・・」
 左隣からしほりさまの呆れたようなお声。
「ピチャピチャヌチャヌチャいやらしい音・・・それにやっぱりシートが漏らしたみたいにシミで真っ黒・・・」
 右隣から里美さまの呆れたようなお声。

 いやっ、視ないで・・・視ちゃイヤっ、あ、でも、ううん、視て・・・恥ずかしい直子をもっと視て・・・
 こんなところで真っ裸にされて、マゾペットのシルシなボディハーネスを着せられて、自分のマゾマンコに自分の指を突き立てて身悶えている、浅ましいマゾメス直子の姿を、みなさまじっくりご覧になって・・・

「ほら、隣の車のカップルさんが呆れた顔で視ているわよ?」
 お姉さまの心底ご愉快そうなからかい声が聞こえましたが、私に確かめる術はありません、ひたすらうつむいて、からだを何度も震わせるような凄まじい快感に身を任せていました。
 
「んぐぅぅぅ・・・ぬぅぅぅ・・・みぃてぇぇ、いぃぃぐぅぅぅぅっ!!!」
 やがて信号が変わったのか再びお車は滑り出し、窓もスルスルっとせり上がり、エアコンの冷気と低いピアノコンチェルトの密室に戻りました。

「いいイキっぷりでしょ?この子」
「そうですね。まだお若そうなのに、ゾクゾクッとする色香を感じました。何て言うか、もっともっと、じっくり時間をかけて、虐め尽くしたくなるような・・・」

 本宮さまの冷静なご感想をお聞きしつつ、超快感の余韻に束の間ハアハア息を切らしてグッタリ。
 スタイリッシュな外見通り、本宮さまって、かなりのドエスタイプでいらっしゃるみたい・・・なんて考えていました。

 お車はいつの間にか、新宿東口の繁華街に侵入していました。
 今までに増してきらびやかなネオンの洪水、週末に浮かれた人たちのさざめきと雑踏。
 少し走ってはすぐ信号に捕まるノロノロ運転。
 そんなお車の中で私は、見るからにマゾドレイな姿でした。

 せっかく身に着けても大事なところは何一つ隠してくれないオープンバスト、オープンプッシーなボディハーネス。
 両手首と両足首にも同じ色合いのリング付きレザーカフを巻き付けられ、ナスカンとか南京錠、チェーンひとつでどんな恥ずかしい格好にも即拘束出来るよう準備万端。
 
 そんな自分の姿が、後部座席の窓に映っています。
 ハイヤーに乗ったときはほぼスッピンだった顔も、しほりさまによって艶かしめにメイクされていました。
 イッたばかりなこともあり、呆けた顔が見るからに淫乱そう。

「そろそろ目的地の近くですけれど、いかがいたします?お店前まで着けますか?」
 本宮さまのお声でフロントグラスのほうに目を向けると、お車は幹線道路を外れ、背の低めな雑居ビルが立ち並ぶ道路をゆっくり走っていました。

「あらもう?今日は道が空いていたのね」
 お姉さまが窓越しにお外をキョロキョロ見回しました。

「そうね、あたしも来るの久しぶりだから、ちょっと歩こうかな。あの、例の路地の入口で降ろしてくださる?」
 お姉さまがチラッと私を振り返りつつ、お返事されました。

「かしこまりました。この辺りは一方通行ばかりなので助かります。小路の手前辺りでお止めしますね」
 本宮さまがおっしゃりながら、もっと細い路地へとゆっくり左折しました。

「おーけー、それじゃあ直子はバスタオルを巻きなさい。いくらここでも、さすがにおっぱい丸出しのハーネス姿じゃツーホーされちゃうから」
 ご愉快そうにおっしゃるお姉さま。
 里美さまがバスタオルを渡してくださり、私は中腰になってハーネスの上から急いで巻きつけます。

 再びタオル地のボディコンチューブトップ超ミニワンピ姿になった私。
 でも今度は、いろいろ淫猥でアブノーマルな異物がタオル地からはみ出しています。

 赤い首輪は元からですが、もうひとつブラ紐のように首にかかるレザーハーネス。
 両手足首に巻かれた、首輪と同じ素材のレザーカフ。
 それぞれに銀色に輝くリングが目立ち、どなたが見ても、ひと目で、SMボンデージ方面の人だ、とわかるいでたち。

 こんな姿で、いくら夜更けとはいえ、お外に出ていいのだろうか・・・
 さっきオナニーでイッたばかりなのに、いえ、イッたからこそなのかもしれませんが、マゾマンコの奥がウズウズと疼き出し、全身がポーッと火照ってきました。

「着きました」
 一方通行らしい道路の左端に静かに停車された本宮さまのお車。
 後部座席左側のドアがスッと開き、再び真夏の夜の熱気にからだが包まれました。

 最初に里美さまが降りられ、次は私・・・
 本当にこんな格好でお外を歩くんだ、タオル一枚剥がされたら菱形模様ハーネスの、SMボンデージな格好で・・・

 ドキドキムラムラ躊躇していたら、しほりさまに押し出される格好で無理矢理お外の歩道に着地。
 しっかり外灯の真下。
 すぐ前には眩しいくらいに派手な飲料水の自動販売機。
 いやん、明る過ぎ・・・
 
 胸元を両手で押さえ、身を縮こませていたら目の前を、互いの手をしっかり恋人繋ぎした男性同士のカップルさんが、仲睦まじく身を寄せ合い、幸せそうな笑顔で通り過ぎていきました。


三人のミストレス 16