2016年12月11日

非日常の王国で 08

 とある日の昼下がり。
 綾音部長さまからお呼び出しがかかり、メインルームの綾音さまのデスクの前で対面していました。

 その日もお昼休み後にリンコさまからメールでご命令をいただき、すでにとても恥ずかしい格好にさせられていました。
 ちょうどその日はインターネットで盛り上がっているナショナルノーブラデーというノーブラ推奨の日だったらしく、ノーブラなことが一目でわかるお洋服ということで選んだそうです。
 私が着ることを命ぜられたのは、おっぱいのところだけまあるくふたつ、ポッカリとくり抜かれたピチピチのタンクトップ。

 ふたつの穴からおっぱい部分だけを放り出すように全部露出させているのですが、タンクトップが濃い紺色なので白い素肌とのコントラストが余計に際立ち、嫌がらせのように飛び出たおっぱいばかりが目立つ姿でした。
 歩くたびにおっぱいが無造作にプルンプルン暴れるのが、自分の視点で嫌というほど見えていました。
 
 おへそまでに満たないタンクトップの下は、当然スッポンポン。
 タンクトップと同じ色のニーハイソックスを穿いているので、おっぱい部分と同じように、剥き出しな下半身の白さも卑猥に目立っていることでしょう。

 全裸よりも恥ずかしい、そんな破廉恥極まりない姿を更に強調するアクセサリーも用意されていました。
 ネットショップの宣伝用にレビューを書かなくてはいけない、ボディジュエリーの新作商品たち。

 紺色のチョーカーからゴールドチェーンで左右の乳首まで繋がれたニップルクリップ。
 乳首を絞るリングの下にはキラキラ光る金色の小さな鈴がぶら下がっています。

 下半身には、裂け目を囲む左右のラビアに挟んで装着するラビアチェーン。
 股間に垂れ下がったチェーンの先端にも、乳首のと同じ鈴がぶら下がり、動くたびに3つの鈴が軽やかにチリンチリンと小さく音をたてていました。

 本来なら秘めておくべき私の敏感な三箇所の恥部、尖った乳首と潤んだ秘唇を、一際目立たせるようにキラキラ金色に輝くチェーンと3つの鈴。
 そんなニンフォマニアックな私の姿をジロリと一瞥した綾音さまは、とくにご感想をおっしゃることもなくフッと艶っぽく微笑まれてから、おもむろにご用件を切り出されました。

「うちのネットショップがショールーム制度を始めたのは、以前ミーティングで伝えたわよね?」
「はい」

 ネットショップ部門がこちらのオフィス近くにお引っ越ししてきてスペースが広くなったのを期に、実際にアイテム実物を見てみたいというお客様向けに予約制でショールームを開いた、というお話でした。
 予約出来るのは、ネットショップでのご購入履歴が一万円以上ある女性のお客様のみ。
 毎週木曜日と金曜日の午後2時以降であれば、メールかお電話で日時をご予約いただき、ご来店いただいてごゆっくりとアダルティなラブトイズをお選びいただけるという、女性限定のサービスです。

「おかげさまで、コンスタントにご予約もいただいて、順調に売上も伸びているのだけれど」
 綾音さまがパソコンのキーを叩きながらおっしゃいました。
「あるお客様からご来店に際してのちょっとしたリクエストをいただいて、愛川さんからわたくしに相談があったの」
 愛川さんというのは、ネットショップの責任者でイベントのときもお手伝いしてくださった里美さまのことです。

「なんでもそのお客様は、セルフボンデージにご興味がおありで、ショールームに行ったときにロープの扱い方や自縛、自分で自分を縛ることね、について詳しく教えて欲しい、っておっしゃっているのだって」
 綾音さまの視線が、私のタンクトップから飛び出している剥き出しのバストに注がれます。

「そのかたは、購入履歴も多い優良なお客様だから無下にお断りするのもなー、って思ったときに、あなたの顔が浮かんだのですって、愛川さんの頭の中に」
「それでわたくしに相談した、というわけ。チーフに聞いてみたらあなた、チーフに教えられるくらいロープ捌きが上手って言うじゃない。よくひとりで自分を縛って遊んでる、って」
「高校生の頃に、百合草女史に仕込まれたのですってね。エリートじゃない?」

 おっしゃってから私の目を、じーっと5秒間くらい見つめてきました。
 綾音さまのお口からやよい先生のお名前が出て、私はドキン。

「次の金曜日、午後3時にショールーム。4時にご来店の約束だから、愛川さんと段取り打ち合わせして。終わったらこちらへ戻らず、直帰していいわ」
 ハナから私の都合やイエスかノーかの返事など聞くつもりもない、決定事項の業務命令でした。

 お電話の呼び出し音が鳴り、ほのかさまがお出になるお声が背後から聞こえます。
 ほのかさまのお席は綾音さまと3メートルくらいの空間を挟んだ向かい合わせ。
 ほのかさまは、私の剥き出しのお尻と、両腿のあいだにキラキラ光るゴールドチェーンを眺めながらお電話のご対応をされていることでしょう。

「そうそう、当日は、自分で使っている緊縛用の麻縄を持ってくること。それと扱い方をわかりやすくレクチャー出来るように頭の中を整理しておくこと」
「いらっしゃるお客様は、沿線の女子大の学生さんだそうだから、そんなにかしこまる必要は無いと思うわ。すべて愛川さんに従いなさい」
 最後に綾音さまがご命令口調でおっしゃられ、開放されました。

 まったく見知らぬ初対面のかたの前で、緊縛のレクチャーをする・・・
 扱い方をお教えしたら、そのかたをちょっと縛ってみたりするのだろうか?
 ううん、セルフボンデージにご興味、っておっしゃったから自縛の方法が知りたいのでしょう。
 そうすると、私がそのかたの前で実演することになりそう。
 やっぱり裸になるのだろうな・・・

 その日までドキドキしっぱなし。
 お家に帰ると、ずっと昔、私がまだ高校生の頃にやよい先生からいただいた、やよい先生のパートナーであるミイコさま主演の自縛講座DVDを何度も見返し、実際に自分を縛りながら復習しました。
 縛っているうちに自虐オナニーが始まり、ついついキツく縛りすぎて二の腕やおっぱいに縄の痕が残ってしまい、翌日オフィスでリンコさまたちにからかわれました。

 いよいよ当日。
 トートバッグの一番下に愛用の麻縄の束をひっそりと詰め込み、出社しました。
 その日のオフィス勤務者は、綾音さま、リンコさま、ミサさま、ほのかさま。
 黒い首輪型チョーカーを着けているのにお昼過ぎになっても珍しく誰からもえっちなご命令は無く、みなさまから、がんばって、とからかうような激励を受けつつ、3時15分前にオフィスを出ました。

 里美さまのオフィスは歩いて10分くらい。
 大きな通り沿いの地下鉄出入口から裏道に入り、少し歩いた雑居ビルの2階。
 訪問するのは初めてでした。

 一階がセレクトショップの店舗になった小洒落た外観のビル2階に到着したのは3時4分前。
 River of LOVE と書かれた可愛らしい小さな看板が掛かったえんじ色の鉄製ドアの前でインターフォンを押しました。
「ダブルイーの森下です」
 はーい、というお声とともにドアが開き、里美さまがニッコリ、可愛らしいお顔を覗かせました。

「直子ちゃん。わざわざありがとうね。さ、入って入って」
 普通のお家みたく玄関は沓脱ぎになっていて、フワフワしたスリッパを勧められました。
「お客様にゆっくりくつろいでいただきたいと思って、靴を脱いでいただくようにしたの」
 短い廊下の向こうにもう一枚ドアがあり、それを開くとカラフルな空間が広がっていました。

 一見、ファンシーショップのようなポップでキュートな印象。
 明るい壁紙、アートなポスター、整然と並ぶガラスショーケース、ゴージャスなマネキン人形たち。
 ただし、ショーケースに並ぶ色とりどりのグッズたちは、よく見るとみんな卑猥な形状。
 マネキンたちが着ているのは、布面積が極端に少ない下着だったり、スケスケだったり、ラテックスだったり。
 お部屋の中央に6人掛けくらいの大きなテーブルが置いてあり、その上にもアダルティなラブトイズがいくつか並べてありました。

 それでも全体の雰囲気はファンシー側に踏みとどまっていました。
 スイーツの充実した女子向けのオシャレカフェテラスの感じ?
 通りに面した側に並ぶ窓を飾る、真ん中分けの花柄ドレープカーテンがメルヘンチックな雰囲気を盛り上げています。

「ここって、もともとはけっこう広い喫茶店だったの。ショールーム部分は、その雰囲気を残して、壁で区切った向こう側がオフィスと倉庫ね」
 マネキンやトルソーが並んだ壁を指さして、里美さまが教えてくださいました。
 マネキン人形たちの隙間に、そちらへつづくのであろうドアが見えました。

「今日は、バイトの子達には先に上がってもらったから、今ここにはわたしと直子ちゃんだけ。そのほうがリラックス出来ると思って」
 グラスに注いだ飲み物をテーブルの上に置いて、里美さまが微笑まれます。
 今から見ず知らずの人に自分の恥ずかしい性癖をご披露すると思うと、とてもリラックスどころではありませんが、そのお心遣いが嬉しいです。

「ロープは持ってきた?おっけー。わたしも直子ちゃんの自縛レクチャー、楽しみだわ」
 やっぱり自縛を実演することになるようです。

「あの、えっと、縛るときは、やっぱり裸になったほうが、いいのでしょうか?」
 気になっていたことを恐る恐るお尋ねしてみました。
 里美さまは一瞬びっくりされたようなお顔になり、それからクスッと笑われました。

「そのへんは直子ちゃんに任せるわ。裸でも下着でも。なんならここにある衣装で気に入ったのがあったら、着てもいいわよ」
 そこでいったんお言葉を切り、私の顔をまじまじと見つめる里美さま。

「でも意外ね。そんなこと聞くなんて」
 少し苦笑いが混じったような笑顔を作って私に向け、里美さまがつづけました。
「直子ちゃんなら、こういう機会は喜び勇んで全裸に成りたがるんだろうと思っていたわ。ひょっとして何か常識的なしがらみかなにかで遠慮している?ショールームの運営に迷惑がかかるとか?責任者としてのわたし的にはぜんぜんかまわないのよ?」
 私の目を覗き込むような里美さまの視線。

 それまで里美さまとは、あまり親しくお話したことはありませんでした。
 出会いの場であったお姉さまのランジェリーショップでは、店員さんとお客さんの間柄でしたし、就職してからは、ネットショップのご担当者としてお仕事を通したおつきあい。
 イベントのときも、ミサさま指揮の元、パソコンのオペレーターとして楽屋で常にクールにお仕事されていました。

 ただし、それこそお姉さまとの出会いのときから、先日のイベントまで、里美さまは私のヘンタイ性癖の行状を間近でつぶさに目撃されていました。
 イベントの楽屋や打ち上げの席でのリンコさまたちの会話もすべてお耳に入っていたはず。
 私があの場でスタッフ、関係者全員のマゾペットとなったのは、ご存知のはずでした。
 
 それでも、今日も私のことを呼び捨てではなく、ちゃん、付けで呼んでくださったり、他のスタッフのかたたちみたいに、私を辱めて愉しもうとも思っていらっしゃらないようなご様子に見えました。
 そういうことには淡白なかたなのかな?
 でも、ランジェリーショップのときには、気絶した私の膣に指を挿れてイタズラされていたらしいですし・・・
 里美さまとは、あくまでも別々の会社の社員、という関係でもあり、どう接すれば良いのか、決めかねていました。

 出会ったときは、お姉さまと里美さまの店長と店員の関係を超えていそうな深い信頼関係に、お姉さまとの仲を疑ったりもしちゃったけれど、里美さまの品があって凛々しい佇まいは、ほのかさまと通ずるところもあり、大好きでした。
 里美さまもリンコさまたちのように、興味津々でエスっぽく振る舞ってくださったほうが、気持ち的には楽なのですが。

 まあ、いずれにせよ、綾音さまから今日は里美さまに従うように命ぜられていますので、先ほどの、わたし的にはぜんぜんかまわない、というお言葉が里美さまのご希望と解釈し、今日、お客様の前で裸になることは、私の中で決定しました。

「それでね、直子ちゃん、ちょっと変装しておいたほうがいいと思うのね」
 里美さまが真剣なお顔でおっしゃいました。
「今日来る3人の内のおひとりが、ご近所に住んでいらっしゃるらしくて、よくあのオフィスビルのモールにもお買い物に行かれるそうなの」
「今日のレクチャーの後で、そういうところでバッタリ出くわしてしまったら、お互いに気不味いでしょう?お客様も直子ちゃんも」

「えっ!?3人ですか?」
 びっくりして尋ねました。
「あれ?早乙女部長、教えてくださらなかったの?イジワルだなあ」
 苦笑いの里美さま。

「昨日メールが来たの。友達も連れて行っていいかって。同じ大学のサークルのお仲間らしいわ」
「調べてみたら、そのかたたちもうちで数回の購入履歴があったし、そのうちのおひとりは、どうしても欲しいものがあるっていうことだったからオッケーしたの。ちょうど在庫もあったから」

「倉島さん、っていうかたが予約を入れてくださったお客様ね。女子大で文芸系の同人サークルに所属されているみたい」
 
 唐突に里美さまが座っている私の背後に回り、私の髪を弄り始めました。
 私に変装を施してくださるみたい。
「直子ちゃんの髪って柔らかいのねえ。お手入れも行き届いてるからアレンジしやすそう」
 いつの間にかヘアスプレーまで持ち出してきて、左サイドの辺りをまとめ始めます。

「でーきたっと。うわー。すごく稚くなっちゃった」
 5分位の髪弄りの末にお声があがりました。
 コンパクトを目の前に差し出され、鏡を覗き込みました。

 両サイドの上の方で大きな赤いリボンに左右それぞれまとめられ、緩くウェーブのかかった髪が垂れ下がるツインテール。
 正面は真ん中分け。
 ツインテールなんて多分、小学校のとき以来でしょう。
 確かにずいぶん幼い感じの顔になっていました。

「このあいだの夕張小夜さんと比べたら、雰囲気に親子くらいの違いがあるわね。直子ちゃんて面白い、変幻自在。これなら普通の髪型に戻したら絶対別人」
 ご自分のお仕事にご満足気な里美さま。
「こんないたいけっぽい子が自縛するなんて、考えただけでゾクゾクしちゃう」
 嬉しそうに私をじーっと見つめています。

「そうだ。どうせなら徹底的に変身しちゃいましょう。今の直子ちゃんに、ピッタリのコスプレ衣装があったのを思い出したの」
 いそいそとマネキンの林を掻き分けてオフィスのお部屋へと入っていかれる里美さま。

 待つこと3分くらい。
 そのあいだ、テーブルの上に並んだグッズを眺めていました。
 レザーの首輪、スチールの手錠、棒枷に繋がった足枷、チェーン、ローソク、バイブレーター、ローション、クリップ・・・
 およそファンシーショップに似つかわしくないアブノーマルなものたちが、雑然と並べてあります。
 中には、私にも用途がわからないものも。

 この後、私はお客様の前で裸になって自縛して、それからどんなことをするのか、されるのか・・・
 マゾ気分がどんどん膨らんでいく中、里美さまがスーツカバーと紙袋を提げて戻られました。

「キャラ設定に合わせたサンプルだからサイズが小さいかもしれないけれど、まあ、どうせすぐ脱いじゃうのだし」
 テーブルの上にお洋服を並べながらおっしゃいます。

「同人活動をしているのならきっと、アニメもお好きなはずよね?これもお客様サービスの一環ということで」
「うちはコスプレ衣装のオーダーメイドも承っているから、ひょっとしたら何かオーダーもらえるかもしれないし」

 取り出された衣装は、一見して学校の制服風。
 白のシンプルな半袖ブラウス、茶系のベージュぽいニットベスト、グレイのプリーツミニスカート、そして白い三つ折りソックス。
「着てみて、着てみて」
 里美さまの楽しそうに弾んだお声。

 その日は、脱ぎやすいようにと前ボタン開きのゆったりしたワンピースを着てきました。
 下着は、濡れジミが目立たないように黒の上下。
 里美さまに促されて立ち上がり、ワンピースの前ボタンを外し始めます。

 里美さまの真っ直ぐな視線が注がれる中、ワンピースを脱いで下着姿に。
 今回はここまでで許されますが、お客様がいらっしゃったら、すべてを脱がなければいけないのです。
 乳首と肉芽にグングン血液が集まってくるのがわかりました。

 衣装は全体的に少し小さめでした。
 ブラウスとベストにおっぱいが押し潰される感じ。
 ミニスカートも付け根ギリギリで、少し伸びをしたら黒い股間が覗けそう。

 最後に三つ折りソックスを履いて鏡を覗くとわかりました。
 髪色こそ違いますが大きめな赤いリボンのツインテールに、学校の制服風衣装。
 少し前に流行ったラノベ原作近未来学園都市ものアニメの準主役級キャラクターでした。

「やっぱり似合うわよ直子ちゃん。作品設定通りに中学生って偽っても通っちゃいそう」
 いえいえ、それは絶対ナイです。
「マリみての衣装もあったのだけれど、こっちにして正解ね。マリみてだと今どきの女子大生は知らないかもしれないし」
「どっちのキャラも、お姉様にぞっこん、っていうところが直子ちゃんと一緒よね?」
 里美さま、意外と流行りの深夜アニメにお詳しいみたいです。

「そろそろいらっしゃる頃ね」
 時計を見ると午後4時まであと10分でした。

「いらしたら、接客はわたしがやるから、直子ちゃんはレクチャーまで、そこに座って適当にしていて」
「お客様のご希望を聞いて、アイテムを一通りご紹介したら声をかけるから、直子ちゃんの出番」
「わたしが聞いているのは、菱縄縛りの実演が見たい、っていうことだけなのだけれど、その他にも何かリクエストがあったら、出来る限り応えてあげてね」

「もちろん直子ちゃんの本名とかは教えないし、ダブルイーの社員ていうことも伏せておくわ。わたしの知り合いのドMの子、って紹介するつもり」
「ロープのお手入れの仕方とかも教えてあげて。けっこう高い本格的な麻縄のお買上げは決定しているから」

「それだけじゃなくて、わたしがお客様とセルフボンデージについてお話しているとき、何か気がついたことがあったらどんどん口出ししてきていいから。お客様も実践している人の言葉を聞きたいでしょうし」
「あ、それと、レクチャー中にわたしが写真を撮るけれど、御社の早乙女部長にご報告するためだから、気になさらないでね」
 慈愛に満ちた表情で、おやさしげに笑った里美さま。

 その笑顔を見て私は、里美さまに思い切り虐められたい、と強く思いました。
 こういうおやさしげなかたが、どのくらいイジワルに、残酷になれるのか、それを見てみたい。
 少し前にカフェでほのかさまに虐められたときに感じた、ビタースイートな被虐感が五感によみがえりました。
 そのためには、まずはマゾの私から、里美さまにかしずかなくては。
 
「わかりました。今日は綾音部長さまから、すべて里美さまに従うようにと言いつけられています。でも、そのお言いつけが無くても、私は素敵な里美さまにすべて従うつもりでここに来ました。何でもご遠慮なくご命令ください」
 自分の口から出る被虐的な言葉に、マゾ性がビンビン反応して粘膜が疼くのがわかりました。

「私はどうしようもない露出狂ヘンタイマゾ女ですから、里美さまと、本日いらっしゃるお客様がたのご要望に、どんなに恥ずかしいことでもすべて、お応えすることを誓います」
 里美さまの目をじっと見つめ、期待と不安にゾクゾクしながら、縋るようにそう宣誓しました。

「うふふ。可愛らしいマゾ子ちゃんだこと。愉しみだわ。期待しているわよ」
 里美さまの瞳にチラッと一瞬、妖しい光が宿ったように見えました。

 そのときチャイムがピンポーンと鳴り、インターフォンからお声が聞こえてきました。
「4時、あっと16時に予約を入れている倉島と申します。ちょっと早く着いちゃったのですけれど、大丈夫でしょうかー」
 緊張されて無理やりハキハキしているような、若い女性の上ずったお声が聞こえました。

「はいはーい。ようこそいらっしゃいませー」
 明るいお声でインターフォンに返し、いそいそと玄関へ向かわれる里美さま。

 私は立ち上がり、テーブルの傍らでお出迎えするべく、ドキドキしながらお客様が入ってこられるのを待ちました。


非日常の王国で 09


2016年12月4日

非日常の王国で 07

 オフィスに戻ると、綾音部長さまとリンコさまミサさまが、デスクの上に何枚ものデザイン画を広げ、打ち合わせの真っ最中でした。

「ただいまー。集めたサンプルや契約書類、間宮部長の分まで持ってきました。少しでも早いほうが良いかと思いまして」
 ほのかさまがツカツカと綾音さまたちに近づいていかれました。

「おお、たまほのー、おつかれー、お帰りなさい」
 ニコニコ手を振るリンコさまの横で、すごく嬉しそうなミサさま。
「ご苦労さま。今ちょうど、例のガールズバンドの衣装に取りかかったところだったから、ナイスタイミングよ。早速見せてくれる?」
 綾音さまがデスクの上を片付けながら、おっしゃいました。

 私は、おつかいを頼まれて買ってきた文房具類をお渡ししようと綾音さまに近づきました。
「ああ。ありがとう」
 受取りながら私を見た綾音さまのお顔が、おやっ?という感じに曇りました。

「あなた、出るときは確か、ブラジャーしていたわよね?」
 私の胸元を見つめつつの目ざといお尋ね。
「あ、はい・・・」
 やっぱり一目見てわかっちゃうほど、乳首のポッチ、目立ってるんだ・・・
 オフィスに戻るまでにすれ違った人たちの人数を考えて、ドキドキがぶり返してきます。

「わたしが命令してみたんです。お茶しているときに」
 カートから布地の束を取り出しながら、ほのかさまがおっしゃいました。
「たまほのがあ?」
 驚き顔のお三人を代表するみたいに、リンコさまがカン高いお声をあげました。
 傍らのミサさまは、信じられない、という感じで大きな瞳をまん丸くされています。

「チョーカーを着けているときは虐めて欲しいとき、というお話でしたし、直子さん、悦んでくれるかな、と思って・・・いけなかったですか?」
 不安げなお顔で、綾音さまたちのご様子を窺うほのかさま。
「ううん。ぜんぜんいけなくない、って言うか、むしろグッジョブ!」
 リンコさまのお返事で、お三人が一斉にお顔をほころばせました。

「そっかー。たまほのもナオコのヘンタイ性癖に興味津々なんだね。これからもどんどん、ナオコを悦ばせてあげるといいよ」
 リンコさまの明るいお言葉にほのかさまもホッと、笑顔が戻りました。

「その格好で、あのカフェからここまで戻ってきたんだ?」
 リンコさまが私に視線を移して尋ねてきます。
「あ、はい・・・」
「ジロジロ視られたでしょう?」
「・・・と、思います・・・」
 リンコさまの視線が私の下半身に移動しました。

「と、いうことは・・・」
 私ににじり寄ってきたリンコさまが素早く私のワンピースの裾に手をかけました。
「それーっ」
 掛け声とともにワンピの裾を盛大にずり上げられました。

「ああんっ」
 為す術もなく露になる私の下半身。
 腰にぴったりフィットしたタイトなニットですから、リンコさまが手を離しても元に戻りません。
 おへその下から下腹部全部が丸出しになりました。

「やっぱりねー。カフェの席で脱がせたの?」
 ほのかさまに振り向いたリンコさまのお声。
「あ、はい。先にショーツを脱いでもらって、写メを撮ったのですけれど、直子さん、まだつまらなそうだったから、ブラジャーも」
 ほのかさまが嬉しそうに私の恥ずかしい写真をみなさまにお見せしています。

「グッジョブ!グッジョブだよ、たまほの。そういう虐め方、いいなあ。今度アタシもやってみようっと」
 リンコさまのはしゃぎ声。
 ミサさまは、愛おしそうにほのかさまを見つめています。

「たまほのはよくやったけれど、リンちゃんはだめよ。バッドジョブね。せっかく直子がエロティックな姿をしているのに、そんな雑なめくり方ではエレガントではないわ」
 綾音さまからニヤニヤ笑いでクレームが入ります。
「あ、そうですね。失礼しました」
 リンコさまが手を伸ばし、私のワンピの裾を綺麗に折りたたむ形でまくり直してくださいました。

 ワンピースのスカート部分がおへそまで折りたたまれて固定されてしまいました。
 お尻丸出し。
 短かめなニットセーターだけを着ているような状態でした。

「お似合いよ直子。とてもエロティック。こういう普通の日常の場にひとりだけヌーディストがいるのって、西洋美術の名画みたいで、クリエイティヴなインスピレーションが湧いてくるわ」
 綾音さまの視線が艶かしく私の肌を撫ぜます。
「今日はその格好でお仕事なさい」
 決めつけるようにおっしゃいました。

 今日はお姉さまがお戻りになる日だというのに・・・
 みなさもそれはご存知のはずなのに・・・
 下半身丸出しノーブラニットの姿でお迎えすることになるんだ・・・
 あらためて、自分がオフィスの慰み者になってしまったことを思い知り、被虐感が全身を駆け巡ります。

「脱いだ下着はどうしたの?」
 リンコさまが私に尋ねました。
「あ、わたしが持っています」
 ご自分のバッグから私のブラとショーツを取り出すほのかさま。

「へー。これがナオコの勝負下着なんだ」
 ほのかさまから受け取って、みなさまに見えるように広げたリンコさま。
 やっぱりみなさま、私がお姉さまと会えるワクワク感を、見透かしていたみたい。

「フリルレースで可愛いけれど、もう汚しちゃってるじゃない。本当にスケベな子」
 イジワルくクロッチ部分を私に見せてくるリンコさま。
 純白の中そこだけ変色したシミに、カッと頬が熱くなりました。
「安心して。アタシらがもっとナオコらしく改造しといてあげる」
 何を安心すればいいのかわかりません。

 その後は、社長室にひとりこもり、お仕事をつづけました。
 もちろんご命令通り、下半身丸出しの姿で。
 綾音さまたちは、メインルームで打ち合わせをつづけられているご様子。
 途中1時過ぎに綾音さまがランチに行かれる、というご連絡があった以外、誰にも構われずに時間が過ぎて行きました。

 お姉さまが戻られたのは、午後2時を少し過ぎた頃でした。
 メインルームがざわつく気配を感じてわかったのですが、この姿でお出迎えに飛び出す勇気が出ませんでした。
 数分間の逡巡の後、やっぱりお出迎えしなくちゃ、と立ち上がったとき、コンコンとドアがノックされ、間髪を入れずに開かれました。

「あっ!」
 私の姿を一目見たときのお姉さまのお顔。
 ドアを閉めるのも忘れ、あ、の形でお口をポカンと開き、数秒間固まっていらっしゃいました。
「あはははは」
 つづいて弾ける哄笑。
 ドアの外からもクスクスというつられ笑いが聞こえてきました。

 私は、一瞬股間を隠しかけたのですが、お姉さまのとても嬉しそうなご様子と、久しぶりにお顔を見れた嬉しさに、自然と両手が後頭部へと上がっていました。

「あたしもさ、直子がすぐに出てこないから、すでに素っ裸にされていたりして、とか予想はしていたけれど、まさか、そんなに直子らしい姿で出迎えてくれるなんて」
 目尻に涙を浮かべるほど笑い疲れたふうのお姉さまが、ご自分のデスクにバッグを置いて、背中を投げ出すように椅子にお座りになりました。

「まったく。こういうことに対してのうちのスタッフの順応性と団結力は大したものよね」
 
 ドアを閉じてふたりきりになった後、お姉さまの出張中に他のみなさまからされたことを、ほのかさまにしたようにひとつひとつご説明しました。
 もちろん、つい数時間前のほのかさまのご命令も追加して。
 ご自分のバッグの中身を片付けながら聞いてくださっていたお姉さまが、聞き終えておっしゃったご感想が上のお言葉です。

「よかったじゃない?みんなで直子を虐めてくれて。直子がずっと思い描いていた理想のマゾ生活に今のこのオフィス、かなり近い状態じゃない?」
「それは、そうなのですけれど・・・でも、やっぱり恥ずかしいです・・・」

 お姉さまに服従ポーズをじーっと視られながら、ムラムラがどんどん昂ぶってくるのがわかりました。
 本当はワンピースなんか脱ぎ捨てて全裸になって、お姉さまに抱きしめて欲しい気持ちでいっぱいでした。

「あら?なんだか嫌々やっているような、うちのスタッフがガチ苛めしているような、可愛くないご感想ね?」
 私の気持ちを知ってか知らずか、お姉さまはイジワルモードに入りつつあるようです。
 
「何言ってるの?あたしたちは直子に、ちゃんと選択肢を残してあげているじゃない。チョーカーをしていないときは何もしない、って」
 お片付けが一段落されたらしいお姉さまは、椅子から私を非難するような険しい目つきで見上げておっしゃいました。
「それなのに直子は、ずっとチョーカーを着けて出社している。つまり全部、直子が望んだことでしょう?そうじゃない?」

 おっしゃる通りでした。
 イベント後ずっと朝起きると、今日は何をされちゃうのだろう、とドキドキしつつ、喜々として、どのチョーカーにしようかな、と選ぶのが日課となっていました。
 チョーカーを着けないで出社する、などという考えは、爪の先ほども浮かんだことはありませんでした。
 それくらい、今のオフィス生活にワクワクしているのは事実でした。

「言っておくけれど、あたしは直子とオフィスでは、シないわよ?」
 お姉さまが真面目なお顔でおっしゃいました。
「直子を虐めたり辱めたりすることはあっても、直子にシてもらったりベタベタしたりはしない。スタッフがいるオフィスで喘ぎ声あげるなんて、そんなはしたない真似、死んでも出来ない」

 ショックでした。
 久しぶりにお逢いしたのですから、抱き合ってキスのひとつくらいいただけると予想していましたから。
 ツンモードに入ったお姉さまが頑ななことは、経験上知っていました。

 私の落胆がわかったのでしょう、お姉さまはイジワルく目を細め、こうつづけました。
「でも直子は、あたし以外の誰かに頼まれたらちゃんとシてあげなさい。直子は我が社の秘書兼ご奉仕マゾペットなのだから」
 お姉さまの瞳は完全に、エス色に染まっていました。

「さあ、仕事をさっさと片付けちゃいましょう。さすがのあたしも今回の出張は疲れちゃった。幸い土日はゆっくり出来るから、早く帰って休みたいの」

 それから夕方まで、みなさまが取ってきた契約書や見積書の確認に時間を費やしました。
 お姉さまはスーツ姿、私は下半身丸出し姿で。
 資材の発注をしたり、工房にスケジュールの確認をしたり、お取引先に御礼のお電話をしたり、えっちな気分が顔を出すヒマもなく働きました。
 
 そのあいだずっと、お姉さまはこの週末をどう過ごされるおつもりなのだろう、と不安で仕方ありませんでした。
 お疲れのようだから、おひとりでゆっくりお休みしたいのかな・・・
 せっかく近くにいらっしゃるのに、私は放置プレイになっちゃうのかしら・・・
 お仕事が終わってしまうのが怖いと感じていました。

 午後5時前にお仕事がすべて終わり、お姉さまがんーーっと伸びをひとつ。
「ふぅー。これでやっと帰れるわね。お疲れさま」
 私の肩を軽くポンと叩いてねぎらってくださいました。

「ところで、出張中にずいぶん洗濯物が溜まってしまって、帰ってもあたしにそんな元気もないし、どこかにいい全裸家政婦さんはいないものかしら?」
 お姉さまがお芝居ぽくお道化た感じでおっしゃいました。

「はいっ!」
 元気よく真っ直ぐに挙手する私。
 お姉さまがデレモードに突入!
 お仕事の疲れが吹き飛ぶほどの嬉しいご提案でした。

「あら、あなた出来るの?うちは厳しいわよ?」
「はい。何でもします。どんなご命令にも従います」

「帰ってくるなりそんなエロい格好を見せつけられて、あたしもムラっとしちゃっているの。あなたはあたしを満足させることが出来る?」
「はい。必ず出来ます。全身全霊をかけてご奉仕させていただきます」

「出来なかったらキツーイお仕置きよ?」
「大丈夫です。私はマゾなので、お仕置きも大好物ですから」
「そう。それなら行きましょうか」

 お姉さまが私のまくり上げられたワンピースを直してくださり、そのまま、まだお仕事中の綾音さまやほのかさまに、良い週末をー、と冷やかされながら退社。
 お姉さまのお車で飯田橋のマンションに拉致監禁されました。

 それから丸二日間。
 生憎の雨模様だったので、ほとんど外出はしませんでしたが、全裸もしくはそれに近い格好のまま、お姉さまの言いなりとなり淫らに過ごしました。
 家事をして、虐められ、辱められ、晒されて、ご奉仕して、たっぷり愛し合いました。
 5月の連休のときに勝るとも劣らないほどの濃密な全裸家政婦生活でした。
 
 一週間分のお姉さま分を補給しても、私の旺盛な恥辱欲は衰えることを知らず、お姉さまが再び出張へと旅立たれた翌月曜日の朝からも、私は相変わらずチョーカーを着けて出勤しつづけました。

 オフィスでは、下半身裸が私のトレードマークのようになっていました。
 どんなに清楚な服装で出社したとしても、午後には少なくとも下半身はスッポンポンにされていました。
 生理が来ても、マゾマンコからタンポンの紐をプラプラ覗かせながら勤務していました。

 生理が去って私がレビューしたアダルティなラブトイズの数が二桁になった頃、綾音部長さまから私に、恥ずかし過ぎる業務命令が下されました。


非日常の王国で 08


2016年11月20日

非日常の王国で 06

「あの、えっと、つまり、今ここでショーツを脱ぐ、ということですか?」
 そんな卑俗なご命令が清楚なほのかさまのお口から出た、という事実が信じられない私。

「そうよ。そういうことをするのが、直子さんはお好きなのでしょう?」
「・・・はい」
 つぶらな瞳をワクワクに輝かせて問いかけられたら、私も正直にお答えするしかありません。

「そのワンピースの下は下着だけ?」
「はい」
「最近、雨が降らなくても蒸すものね。確実に夏に近づいている感じ。そのワンピース、からだのラインが綺麗に出て、とても似合っていてよ」
 たおやかな笑みを口許に浮かべ、イタズラっぽく私を見つめてくるほのかさま。

 私は首を後ろにをひねって、店内の様子を確認しました。
 私たちが座った場所はお店の突き当り奥、壁際の四人掛け席で、ほのかさまが壁側に、私がテーブルを挟んだ向かい側に座ったので、私は店内すべてを完全に背にしていました。

 そろそろお昼近くということで、広めな店内の七割方まで埋まっていました。
 男性六、女性四くらいの割合。
 おひとり客はケータイ、スマホや新聞に、グループ客はおしゃべりに夢中という感じで、みなさまそれぞれご自分の時間を楽しまれているご様子。

「あんまりキョロキョロ、不審な挙動をすると、却って目立っちゃうような気もするんだけどなあ」
 ほのかさまが可笑しそうにおっしゃいました。
「でも、直子さん的には、せっかく脱ぐのだから、誰かから注目されていないと面白くないのかしら?」
 無邪気な口調で、天然のお言葉責めを投げつけてくるほのかさま。

「いえ、そんなことは・・・」
 お答えしながらほのかさまに向き直り、居住まいを正しました。
 
 椅子の背もたれもあるし、背後から誰かに見られても何をしているのかまではかわからないはず。
 そう自分に言い聞かせます。
 ただひとつ気にかかるのは、お帰りになったお客様のテーブルのお片付けのために、ときどき出てくるウェイトレスさんの動きですが、今なら大丈夫そう。
 こういうことは躊躇せずササッとやってしまったほうがいいことは、シーナさまやお姉さまとの露出アソビの経験上知っていました。

「・・・脱ぎます」
 小声で宣言して、ほのかさまのお顔に視線を向けたまま、両手をワンピースの裾に潜り込ませます。
 
 今日穿いているのは、純白レースのタンガショーツ。
 リンコさまたちが毎日、私の手持ちの下着類を着衣のまま脱ぎやすいように魔改造してくださっているのですが、私物の下着すべてリフォームするというお約束なので、手持ちのあるうちはそれを身に着けてこなければなりません。
 したがって、その日の下着も私物、脱ぎやすく改造はされていないものでした。

 椅子から少し腰を浮かし、左右の腿に貼り付いた布地にかけた両手を一気に引き下げます。
 ワンピースの裾から、一直線に白く伸びた布地が現われ、膝のところで一旦停止。
 前屈みになって右足、左足とヒールに引っかっからないように慎重にくぐらせました。

「・・・脱ぎました」
 左手の中に、まだホカホカ体温の残るジットリ湿った小さな布片を、隠すように丸めて持ったまま、ほのかさまを見ました。

「すごーい。本当に脱いだんだ。わたし、見ているだけなのにすごくドキドキしちゃった。脱いでいる最中、お店の喧騒が聞こえなくなっちゃうほど集中して見入っちゃっていたわ」
 興奮されているのか、少し赤味の差したお顔でほのかさまがおっしゃいました。

「下着、見せて」
 ほのかさまのお言葉で、握り締めた左手のこぶしをゆっくりとテーブルの上に差し出します。
 指のあいだから白い布地が少し飛び出ています。
 ほのかさまが右手を伸ばしてきて、そのしなやかな指先で私の握りこぶしをおやさしく開かせました。

「素敵なのを穿いてきたのね。あ、そっか。今日はチーフが出張からお戻りになる日でしたものね」
 ショーツを広げた形でテーブルの上に置かれました。
 そ、そんな大胆な・・・
 カフェのオシャレ木調なテーブルに、これみよがしに置かれた布地少なめの真っ白なショーツは、アートっぽいような、ただお下品なだけのような、場違いな猥褻さを醸し出していました。

「やっぱりクロッチのところが湿っている。これは、直子さんが悦んでいるから、って理解していいのよね?」
 指先でヌメっているクロッチ部分を撫でるほのかさま。
「・・・はい」
 私の左手のひらもベトついていました。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。

「悦んでいるのは、わたしの命令に?それとも、今下着を脱いだ、っていう行為に対してかしら?」
「・・・どっちも、です」
 
 ほのかさまが私の性癖についてお話を始められた時点で、私のマゾマンコはジワジワとヌメり始めていましたから、正直な答えでした。
 ほのかさまは、その指先をご自分のお鼻のところに持っていき、クンと一度嗅いでから、傍らのおしぼりで丁寧に拭われました。

「今見ていて、直子さんのご趣味の醍醐味がわたしにもなんとなくわかった気がしたの。とてもスリリングよね。ハラハラドキドキ。こんなに人がいっぱいいるカフェでこっそり下着を脱ぐなんて、わたしには考えられないもの」

 ときどき背中の後ろを誰かが通るのを感じます。
 このテーブルは、奥のおトイレへつづく通路脇にあるのです。
 ショーツに気がつきませんように・・・
 私は、ワンピースの裾をひっぱるみたく股間の上に両手を置いて、テーブルのショーツを隠すように前屈み気味になり、自分が置かれた状況にゾクゾクキュンキュン感じていました。

 ほのかさまは、私が脱いだショーツを綺麗にハンカチのように折りたたみ、おしぼりの横に置きました。
「どう?自分が脱いだ下着がテーブルの上に置かれているのって」
「は、恥ずかしいです・・・」
「だけどそれが気持ちいいのでしょ?直子さん、ますますえっちなお顔になっているもの」
「・・・はい。その通りです。ごめんなさい」
 私の返答にご満足そうにうなずかれるほのかさま。

「せっかく脱いでも、ただ、そうして座っているだけでは、直子さんはつまらないわよね?」
 ほのかさまは、私をじっと見つめつつ、何かを考えられているご様子。
「片足、椅子の上に乗せてみて」
「えっ!?」

 小首をかしげての、ほのかさまの可愛らしいおねだりも、私にとっては絶対服従のご命令。
「直子さんがそのワンピースの下に何も身に着けていないっていうことを、実際にこの目で確かめたいの」
 ほのかさまのお言葉のイジワル度が、どんどん増している感じです。

 それ以上は何もおっしゃらず、期待に満ちたまなざしでじっと私を見つめてくるほのかさま。
 私は観念して、テーブルの下で右足のパンプスを脱ぎました。
 それからゆっくりと右膝だけを、テーブルの高さまで上げていきます。

 膝上20センチくらいのニットワンピースの裾が大きく割れ、それに従ってヌルみきった股間の亀裂が徐々に裂け始めるのがわかります。
 皮膚と皮膚が離れていく感覚はベトついていて、ヌチャっていう音さえ聞こえてきそう。
 やがて右足のかかとが椅子の縁に乗り、右の膝小僧がテーブルの上まで顔を出しました。

 お腹の方へとせり上がって大きく開いたワンピースの裾。
 無防備な下腹部の粘膜まで、外気に晒されているのがわかりました。
 テーブルに覆いかぶさるように身を乗り出し、その部分を覗き込んでくるほのかさま。

「すごい。全部見えちゃってる。ピンク色の中身まで全部。直子さん、とてもエロティックだわ」
 ほのかさまがケータイのレンズを私に向けながらおっしゃいました。
「でも周りを見渡すと、普通のオフィス街のカフェなのよね。そこのところがなんだかシュール」

「こっちを見て」
 ほのかさまのお言葉で、うつむいていた顔を向けました。
 カシャッとシャッターを切る音。
 同時に私はビクン。
「ずいぶんと辛そうなお顔なのね。イベントのときと同じ。でもそれがマゾの人の快感なのよね?」
 パックリ割れたマゾマンコからトロリと、淫液が椅子に滴りました。

「それにしても直子さんのハイジニーナ、いつ見ても惚れ惚れするほどツルンツルンで素敵」
 ケータイをかざしたままはしゃぐほのかさま。
 遠くのほうから、いらっしゃいませー、のお声。
 背後でガタンという、椅子を引くような音。
 眼下に剥き出しの自分のマゾマンコ。
 いやっ、もう許して・・・
 たまらず足を下ろそうとしてしまう私。

「だーめ。まだ足を下ろしてはだめよ。大丈夫。窓際のお客様が席を立っただけだから。もう一枚写真撮るから、足は上げたままよ」
 どんどんご命令口調が滑らかになってきたほのかさま。
 私は、片足を椅子に上げ直す、というそれだけの行為に、ハアハア息を荒げてしまいます。

「ほら、これが直子さんのえっちな姿」
 足を下ろしていい、というお許しをいただいてお水を一口。
 目の前にほのかさまのケータイが差し出されました。
 液晶に記録された私の浅ましい姿。

 頬を火照らせ唇は半開き、眉間を悩ましく寄せたいやらしい顔。
 顎の下に右の膝小僧。
 その下に白いワンピースの裾が大きく開かれて覗く肌色。
 その中心部に、顔と同じように下腹部の唇も半開きにして濡れそぼったピンクのヒダヒダを覗かせているマゾマンコ。
 唇の先端でこれみよがしに腫れ上がっている肉の芽までが鮮明に映っていました。

「シャッター切るときの音で、何人かがこちらに注目していたの。わたしは少し焦ったけれど、直子さんは、注目して欲しいのよね?」
「いえ、そ、そんなこと・・・」
「でも、その人たちからは直子さんの背中しか見えないから、こんな写真を撮っていたなんてわからないわよね。仲のいい女子が撮影ごっこしてるようにしか見えなかったかしら」
 ほのかさまがはんなりと微笑まれました。

「直子さん的にはちょっと物足りない?やっぱり恥ずかしい格好、誰かにちゃんと視られたいのでしょう?」
「いえ、今ので充分スリリングでした。こんな会社のご近所のお店で、自分のアソコを撮影されるなんて・・・それに、ほのかさまがじっくり視てくださいましたし・・・」
「本当に?ちゃんと興奮出来た?」
「は、はい・・・さっきもご覧になったように、私のマ、いえ、あの、性器は溢れるくらい濡れていますし、ち、乳首も、痛いほど尖っちゃってます。ほのかさまのおかげです」
 優雅なほのかさまがお相手だと、どうしてもお下品な言葉を使うのをためらってしまいます。

「そう・・・」
 ご納得されていないご様子のお顔で、しばし宙を仰ぐほのかさま。
 チラッと腕時計を覗いてから少し考え、パッと何か閃いたお顔になりました。

「それならこうしましょう。直子さん、ここでブラジャーも取ってしまうの。それで素肌にワンピース一枚だけになって、一緒にオフィスに戻りましょう」
「えっ!?」
「イベントのときも、裸に近い格好になればなるほど、どんどんえっちなお顔になっていったじゃない?辛そうなのに無理に無表情を作って。とてもエロティックだった」
「それに、わたしのせいで感じている直子さんのバストトップ、ブラを外せばワンピース越しでも、わたしにも実感出来るでしょう?わたし、直子さんのバストの形、とても好きよ」
 ご自分の思いつきに夢中なほのかさまが、無邪気に私を追い詰めてきます。

「で、でも、このワンピースってピッタリめですから、ブラを取ったら乳首が浮き出て、わ、私の乳首は大きめなのでとくに目立って、ノーブラが丸わかりになってしまいます・・・」
 とうとう私は、白昼に職場の周辺までもノーブラで闊歩することになるんだ、と、半ば観念しつつも、その行為に対する不安感から無駄な抵抗が口をついてしまいました。
「大丈夫よ。この時期にノーブラの女性なんて、街にいくらでもいるでしょう?誰もそんなに気にしないのではないかしら?」

 いいえ違います、ほのかさま。
 たとえ真夏にだって、ノーブラを誇示するように街を歩いている女性は、そんなに存在しません。
 ほのかさまだって、普段ノーブラで外出されないでしょう?
 それに、ノーブラの胸が他人の、とくに男性の視線を惹き付ける威力は、凄いんです。
 心の中で反論しつつ、どんどん疼いてきちゃってもいました。

「直子さんはスタイルいいし、ノーブラでなくたって注目を集める女性だと思うの。だから綺麗なからだは、より魅力的に視せてあげればいいのではなくて?」
「それに直子さん、視られたがり屋さんなのでしょう?欲望を我慢するのはからだに良くないわ」

 真剣なご表情でアドバイスしてくださるほのかさまを見ていて、ふと気づきました。
 ほのかさまは、こういうアソビに慣れていらっしゃらない。
 街中の露出行為に関しても、どこまでが安全で、どこからが危険なのか、その線引きがわかっていらっしゃらないんだ、と。

 お姉さまやシーナさまなら、こんな平日のお昼時に会社の近くをノーブラで歩かせるなんてことはしないでしょう。
 やらせるなら普段のテリトリー外、なるべくヘンな男性が出没しなそうなところ。
 私の身の安全を第一に考えてくださっていることを、経験上知っていました。
 でも、ほのかさまは、その加減がわかっていらっしゃらないので、無邪気に私を追い詰めてくるのです。
 それは、ほのかさまが私を悦ばせたい一心で、私の性癖に合うようなご命令を真剣に考え、私に接してくださっているからなのでしょう。

 新鮮でした。
 もちろん、怖い、という気持ちもあるのですが、お姉さまと一緒のプレイで感じているような、そこはかとない安心感を伴わない露出強要は、ひとりアソビばかりしていた頃、脳内ご主人様に従いながらビクビクしていた露出行為のときのスリルを思い出させました。

「わたしの命令、聞けない?」
 ほのかさまが私の顔を覗き込んできました。

 いずれにせよ、私に選択権は無いのです。
 チョーカーを着けて出社した以上、スタッフ全員のご命令に絶対服従の身なのですから。
 でも、や、だって、は絶対に許されない存在。
 ほのかさまが、脱げ、とおっしゃったら脱がなくてはいけないのです。
 それがいつであろうと、どこであろうと。
 ビタースイートな被虐感がゾクゾクっと背筋を走りました。

「口答えをしてしまい申し訳ありませんでした。ほのかさまがお望みなのですから、悦んでブラジャーも外します」
 マゾ度100パーセントでお詫びしました。

「よかった。直子さん、今日一番えっちなお顔になっている。悦んでもらえて嬉しいわ」
 ほのかさまが艶っぽくウフッと微笑みました。
 きっとほのかさまも今、両腿のあいだを熱くしていらっしゃる、となぜだか確信しました。

 こういった場でこっそりショーツを脱いだ経験は何度かありましたが、ブラジャーをこっそりひとりで外すのは初めてでした。
 えっと、どうすればいいのかな・・・
 ちょっと考えてからモゾモゾとからだを動かし始めました。

 ワンピースの両袖から内側に両腕を抜き、左手を背中に滑らせてブラジャーのホックを外しにかかります。
 リンコさまの改造ブラをしてこなかったことが悔やまれます。
 あれならワンピの上からでも後と肩のホックが外せてラクチンだったのに。

 それから左腕、右腕とストラップをくぐらせます。
 ワンピの中で両腕がおっぱいを無造作に愛撫して、声を我慢するのが大変。
 外側でもモゾモゾ動きに合わせてワンピの裾がどんどんせり上がってしまい、自分の視界に恥丘の白い肌が露わになっています。

「向こうの席のサラリーマン風の男性が怪訝そうにこちらを見ているわ」
 ほのかさまがヒソヒソ声で教えてくださいました。
 傍から見ても、布地がモゾモゾ動いているのや、中身が消えてダランと垂れ下がった両袖は不審に見えるでしょう。
「わたしが冷たく睨んだら、あわてて視線を外したけれど、急いだほうが良さそうね」
 ほのかさまの愉快そうなヒソヒソ声。

 やっと外れたブラを襟口から取り出そうか裾から取り出そうか、一瞬迷いましたが、襟口からだと動作が大きくなって目立ちぞうなので裾へ。
「あふっ!」
 ブラのカップの縁が尖った乳首を引っ掛けて、思わず小さく喘いでしまいました。
 テーブルの下に伸びてきたほのかさまの手で、私のブラジャーは人知れず回収されました。
 両袖に腕を急いで通し直します。

「うふ。まだ温かい」
 私から取り上げたブラジャーを、テーブルの上でたたみ直すほのかさま。
 うつむいて自分の胸元を見ると、やわらかい布地にうっすらとバストトップの位置が示されていました。
 うつむいてこうだと、胸を張ったら丸わかり確実・・・

「本当だ。わたしのために硬くしてくれているのね」
 私の素肌に貼り付く唯一の布地となった、ニットワンピースの胸元をじっと見つめてくるほのかさま。
「可愛い。ぴょこんと突き出ていて、思わずつまみたくなっちゃう」
 ほのかさまの右手が私のはしたないバストに伸びてきたとき・・・

「いらっしゃいませー」
 店員さんの元気のいいお声の後、ガヤガヤという一際大きいおしゃべり声が聞こえてきました。
 大人数のグループがご来店したみたい。

「もう少し楽しみたかったけれど、そろそろランチタイムだから混むでしょうし、長居しちゃ悪いから出ましょうか」
 さすがに社会人としての公共マナーはバッチリなほのかさま。
 ご自分のショルダーバッグに私のショーツとブラジャーを仕舞い込み、代わりに派手めのファッショングラスを差し出してきました。
 イベントの行き来のときに着けた、タレントさんがするような無駄に目立つ鼈甲縁。

「わたしがこんな格好だし、直子さんがそれしてふたりで歩けば、ファッションモデルとそのマネージャーっていう感じになるでしょ?モデルさんならノーブラだってファッションみたいなものよ」

 スーツ姿のほのかさまが立ち上がりました。
 やっぱりほのかさまも、少しは世間様の目のことを考えていらっしゃるんだ。
 ちょっぴり感心しつつ、私もあわててファッショングラスをかけ、つづきます。
「モデルウォークで颯爽とね。ランウェイのときみたいに」
 ほのかさまがイタズラっぽくウインクをくださいました。

「ごちそうさまー」
 少しわざとらしいくらいの、ほのかさまの明るいお声。
「ありがとうございましたー、したー」
 それを追いかける店員さんたちの元気なご唱和。
 お声にふとお顔を上げる他のお客様たち。
 その視線の幾つかが、吸い寄せられるように私の胸元に集中するのがわかりました。

 ほのかさまのカートの後ろを、背筋を伸ばして気取った感じで歩く私。
 その胸元にはふたつの突起がクッキリ、ボディコン気味な純白のやわらかいニット生地を押し上げ、私の勃起乳首の所在を公衆に知らしめていました。
 膝上20センチの裾下にもスースー風が入り込んできます。
 今の私は、素肌の上にボディライン通りのシルエットを描くワンピース一枚。

 そんな姿で、たくさんの人とすれ違いました。
 ちょうどランチタイムを迎えたオフィス街は、あちこちのビルからわらわらと人々が溢れ出てきていました。
 数え切れない視線が私のおっぱいや太腿付近を通り過ぎていくのがわかりました。
 そんな中をほのかさまと私は、小声でおしゃべりしながらゆっくり歩いていきました。

 話題は、イベント後から今日までのオフィスの様子。
 必然的に、私がリンコさまとミサさまからされた辱めのお話が主となってしまいます。

 いきなり全裸勤務を言い渡されたこと。
 コスプレ姿のミサさまに鞭打たれたこと。
 綾音部長さまのデスクの上で自慰行為を撮影されたこと。
 社長室に監視カメラを取り付けられたこと。
 裸白衣でお客様にお茶をお出したこと。
 下半身丸出しで綾音さまとお仕事の打ち合わせをしたこと、などなど。

 なるべくお下品にならないように言葉を選んで、ほのかさまにお話しました。
 ほのかさまは、びっくりしたり呆れられたり。
 ふたりで熱心に、まるで周りの人たちのことなんか気にもしていないそぶりでおしゃべりをつづけました。

 それでも信号待ちで立ち止まったりすると、四方八方から視線が飛んで来ているのがわかりました。
 信号の向こうからこちらを見て、何やらヒソヒソ話してい女子学生の集団。
 すれ違いざま露骨に振り向いて二度見してくる年配のサラリーマンさん。
 不躾にじーっと視つめてニコニコ笑いかけてくる外国人さん。
 おすまし顔を繕いながらも、私の無防備なマゾマンコはヒクヒク疼きっ放しでした。

 オフィスビルに入っても視線の洪水。
 ショッピングモールでは、ヤングミセスぽい女性たちからのあからさまな呆れ顔が目立ちました。
 オフィス棟では、スーツ姿のビジネスマンたちの好奇の視線。
 エレベーターホールでは、ちょうど降りてきたOLさんたちのグループが訝しげに私の全身をジロジロ眺めつつ散っていきました。
 唯一の救いは、ランチタイムの始まり時間だったからでしょう、上りエレベーター内はふたりきりだったこと。

 正面の大きな鏡に私の姿が映っています。
 ノーブラです、って宣言しているみたいにこれみよがしに浮き出ているバストの突起。
 ほんの10センチもずり上がったら、たちまち淫靡な亀裂まで露になってしまうニットワンピースの裾。
 背後から寄り添うように、スーツ姿のほのかさまの笑顔があります。
「直子さん、火照っちゃって、とてもえっちなお顔」

「すごく注目を集めちゃっていたわね。愉しかったでしょう?」
 屈託のないほのかさまの弾んだお声。
「わたし、来週も出張だけれど、次に戻るまでにまた、直子さんが悦ぶような命令、考えておくからね。楽しみにしていて」

 私は今すぐほのかさまにギュッと抱きついてキスしたい衝動を、必死に抑え込んでいました。


非日常の王国で 07