2016年10月16日

非日常の王国で 02

「やっと一息つけたからさ、息抜きしに来たよ」
 外国のロックバンドのロゴが大きく描かれたダボッとした黒いTシャツにジーンズ姿のリンコさまがニコッと笑いました。
「あっ、お疲れさまです」
 ご挨拶しつつお隣のミサさまのお姿を見てびっくり。

 高校の制服ぽいキャメル色のブレザーにチェック柄のミニスカート姿なのですが、Vゾーンをブラウスごと胸元を大きく開いて、その豊満なおムネの谷間を惜しげもなく大胆に露出されていました。
 ハーフカップらしき黒いブラジャーの縁まで見えています。
 足元はピンヒールのロングブーツ、赤いリボンを首に直接巻いて結び、髪はひっつめにして頭頂部でお団子にまとめ、フォックス型のメガネの奥から私を睨みつけるようにジッと見つめています。

 ミサさまのことですから、おそらく何かのマンガかアニメのコスプレなのでしょうけれど、私には元ネタが何なのかわかりませんでした。
 でも、ミサさまのダイナマイトボディ、そのたわわなおムネの真っ白な谷間を間近に見せつけられ、あまりの艶めかしさに思わず息を呑んでしまいした。

「あらためてイベント、お疲れさま。ナオコのおかげでアタシたち、休む暇無しの大繁盛で感謝してるよ」
 リンコさまがイタズラっぽく微笑まれながら、お部屋の奥へと進まれ、窓際のソファーにお荷物を置かれました。
 ミサさまも無言でリンコさまにつづかれます。

「で、今日はさ、そんなナオコへの感謝と労いの気持ちを込めて、いろいろプレゼントを持ってきたんだ。ナオコのこれからのオフィス勤務がより愉しくなるようなものばかり」
「あ、はい、それは、あ、ありがとうございます・・・あ、何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」

 以前は、ナオっちとかナオちゃんとか、親しみを込めて呼んでくださっていたのに、ナオコ、という呼び捨てが定着してしまったリンコさま。
 そんなリンコさまの入口でのニコニコ顔が、お部屋に入った途端どんどんニヤニヤ笑いへと移行している気がして不穏な空気を感じている私。
 間がもたなくて冷蔵庫のほうへと一歩踏み出した私の肩を、リンコさまの右手ががっちり掴みました。

「飲み物なんていいから。それよりもとりあえず、裸になってくれる?」
 
 さも当然のことのように、あっけらかんとおっしゃったリンコさま。
 ハダカ、という単語が耳に届いた途端、全身がズキンと疼きました。

「えっ!?今ですか?なんで裸にならなくてはいけないのですか?」
 股間の粘膜がザワザワさざめき出したのを自覚しつつ、恐る恐るお尋ねしました。

「なんでって、ナオコ、今日もチョーカーしているじゃない?チョーカー着けて出社した日は、アタシらがどんなエロい命令をしても絶対服従、そういうルールじゃなかったっけ?」
 完全にニヤニヤ笑いで嗜虐的なまなざしとなったリンコさまが、とても愉しそうにおっしゃいました。

「プレゼント持ってきた、って言ったでしょ?ナオコが好きそうな衣装とかもあるから、着て見せて欲しいしさ」
 両腕を胸のところに組んで睥睨するように私を見つめてくるおふたりに気圧されて、私は観念しました。

「わ、わかりました・・・」

 やっぱり私はこれから、勤務中でもスタッフのみなさまの慰み者としてもてあそばれることになるんだ・・・
 自分の中に渦巻く被虐願望が勢いづき、常識的な理性の元で健全に保たれている日常的なオフィス空間がぐにゃっと歪んで、非常識な非日常的恥辱空間へと侵食されていく気がしました。

 その日の私の服装は、シンプルな白のシャツブラウスにグレイの膝丈タイトスカート、素足にチョーカーと同じえんじ色のアンクルストラップミュール。
 これからの私は、スタッフのどなたかが気が向いたとき、いつでもどこでも否応なく裸にされてしまう、そんなみじめで恥知らずな存在にならなくていけないんだ・・・
 そんなことを考えながら、少し震える指をシャツブラウスの一番上のボタンにかけたときでした。

「違うだろ?」
 お部屋にいらしてから一言もお口を開かなかったミサさまのお声でした。
 それも、普段とはまるで違う、咎めるような突き放すような、とても冷たいアルトなご発声。
 ミサさまは、いつの間にかお姉さまのピンクの乗馬鞭を片手に持たれていました。

「今日のミサミサはね、すっごく怒ってる。それで、すっごく張り切ってる」
 リンコさまが愉快そうにお口を挟んできました。

「怒ってるのはね、ほら、この子、イベント本番中はパソコンにつきっきりで司令塔状態だったじゃない?だからアタシらが部室や楽屋でナオコにオシッコさせたりオナニーさせたりしてアソんでだって聞いて、激おこなの。ボクも一緒にやりたかったー、って」
「だから今日はいっぱい虐めてやる、って張り切ってる。ミサミサってこう見えて、同人で書くSSとか、かなりのドS炸裂だから、覚悟しといたほうがいいよ?」

 嬉しそうに唇の両端を上げて忠告してくださるリンコさま。
「今日のこのコスプレだって、超レアものだよ。多汗症のドSで男嫌いな裏生徒会副会長。普段のコスプレイベじゃ、絶対ここまでしないもの」
「もしもレイヤーとしてのミサミサファンのオトコどもがこの姿見たら、大喜びでボタボタよだれ垂らしまくっちゃうはず」

 リンコさまのご説明が終わるのを待っていたかのように、ミサさまの、コスプレされているキャラの口調をおそらく真似されているのであろう、まさにSMの女王様のような冷たいお声がつづきました。

「貴様はマゾなんだろ?恥ずかしい姿を視られて悦ぶヘンタイ露出狂女なのだろう?」
 一歩前へと踏み込まれたミサさまの剥き出しの白い胸元が眼前に迫り、頭がクラクラしちゃう。

「あ、はい・・・その通りです・・・」
 履かれているブーツのヒールが高いので、小柄なミサさまでも私と同じくらいの目線となり、わざとなアルトのお声とも相俟っての凄い迫力な女王様ぷりにタジタジ。

「だったら視られて一番恥ずかしい部分を最初にさらけ出すのがマゾ女の作法ってものだろう?貴様の一番恥ずかしい部分はどこだ?」
 メガネ越しの冷たい視線に促され、私の目線はうなだれて自然とスカートの中央付近に。
「ふん。やっぱりそこなんだな。ならば下半身から脱ぎ捨てるのが貴様にはお似合いだ」
 ミサさまの乗馬鞭の先がタイトスカートの裾を揺らしています。

「は、はい・・・わかりました・・・」
 ブラウスの首元で止まっていた両手を下ろし、スカートの後ろホックを外しました。
ジッパーをジジジと下げるとウエストを締め付けていた感触が緩み、引力に引かれてストンとスカートが足元に落ちました。
 ピンク色のレースショーツが丸見えになります。

「し、下着も、ですよね?」
 更なる恥辱を味わいたくて、わざとお尋ねしてみました。
「あたりまえだろうっ!」
 間髪を入れずミサさまの怒声とともにヒュンと乗馬鞭がしなり、左太腿の側面を乗馬鞭のベロが痛打しました。

「あうっ!」
 パチーンと小気味よい音がした割にはそんなに痛くない、と思ったのも束の間、打たれた箇所が徐々にジンジンヒリヒリ疼いてきました。

 両手をショーツのゴムにかけます。
 ミサさまとリンコさまは腕組みして、じーっと私の下半身に注目されています。
 
 ショーツを膝まで一気にずり下ろしました。
 股間から短い糸がツツッと引いて、すぐ切れたのが見えた気がしました。
 膝上で引っかかったままの、だらしないピンクのショーツ。
 両膝を内股気味に閉じると、そのピンクの布片は足元までハラリと落下していきました。

「それを足元から抜いてこちらへ渡せ。靴は脱がなくていい」
 ミサさまからの、乗馬鞭の先で今脱いだショーツとスカートを指しながらのご命令。
 前屈みになってミュールのヒールにひっかからないようにショーツとスカートを足元から抜くと、リンコさまが素早く私の手からそれらを奪い去りました。

 恥丘の上10センチくらいまでにしか届かないブラウスの裾から下はスッポンポン。
 そんな中途半端な格好でオフィスのお部屋にいるという事実が、凄く淫靡に思えます。

「ああ、やっぱり濡らしてる。本当スケベなんだから」
 リンコさまが私から奪い去ったショーツを広げ、クロッチ部分をこちらに指し示されました。
 クロッチの穿いたらちょうど真下くらいに当たる部分に、濡れて濃いピンク色に変色したシミが数センチ出来ていました。

「ミサミサのドSっぷりにもう濡らしちゃってるんだ。ホント感度がいいと言うか、ドスケベって言うか」
 私が汚したショーツのシミを私の眼前に見せつけながら、呆れ声でおっしゃるリンコさま。
 喩えようもないみじめさ、恥ずかしさ・・・

 そのとき唐突に、私のデスクの上の電話が呼び出し音を奏で始めました。
 その場にいた誰もが一瞬、ビクンとたじろぎました。
 二回、三回と鳴り響く電子音。
 ふっと気づいたようにリンコさまが私を見ました。

「ナオコ、出なさい」
「は、はいっ」
 あわててデスクに駆け寄りました。
 剥き出しの両内腿のあいだをスースー風が抜けるのがわかりました。

「大変お待たせいたしました。ダブルイーです、お電話ありがとうございます」
 立ったまま受話器を取り、おふたりに裸のお尻を突き出してのご対応です。

「はい。生憎、早乙女も渡辺も出張中でして・・・はい、お電話のあったことを伝えておきますので・・・はい・・・」
 お電話はお取引先のひとつのご年配の女性からでした。
 綾音部長さまと至急にご連絡が取りたいとのことなので、お電話を終えた後、社のSNSに伝言メモの書き込みをしなければなりません。

 中腰になってパソコンを操作しながら、股間の奥がジンジンと痺れるように感じていました。
 普段何気なくこなしていた通常業務を、こんな破廉恥な姿で社の先輩かたに見守られながら行なっている、というアブノーマルな事実が私を凄く興奮させていました。

 お電話へのご対応中も、普段通り愛想の良い声を発しながらも、でも私今下半身丸出しなんです、剥き出しの女性器を空気に晒してご対応させていただいています、とお相手の女性に向かって心の中で何度も呟いていました。
 ミサさまたちに向けて突き出している裸のお尻の割れスジも、なぜだかジリジリと開いてしまう両足の足幅に比例して広がってしまうのです。

「下半身スッポンポンのクセに普通に仕事しているの見るのって、なんだかシュールでめちゃエロいね。アヌスまで丸見えだし」
 リンコさまも私と同じ気持ちになられたようです。
 そのお言葉にますます悶々と疼いてしまいます。

 パソコン操作を終え、おふたりのほうへと向き直ると、自然と両手が後頭部へと上がっていました。
「あーあ。ナオコ、完全にドマゾモードに入っちゃった」
 リンコさまがからかうようにおっしゃいました。

「よし。では脱衣をつづけろ。貴様のようなマゾ女には不要なその布っきれも、さっさと脱ぎ去れ」
 乗馬鞭が宙空をヒュンと一閃し、ミサさまのお芝居も再開です。

「はい・・・失礼します」
 後頭部に添えていた両手をゆっくり下ろし、ブラウスのボタンを外し始めます。
 ブラウスの両袖を抜いてから両手を背中へ回し、ブラジャーのホックも外しました。
 ブラのカップがハラリとずれて、見ているだけでも痛々しいほどに尖りきった両乳首が外気に晒されました。
 事実、私のふたつのバストトップはズキズキと、やるせない官能を股間と脳内に送り込んできていました。

「やっとマゾ女らしい格好になったな。いいか?貴様は今日一日退社まで、その姿で勤務しろ」
 首にえんじ色の首輪型チョーカー、足元にチョーカーと同じような色のアンクルストラップミュール以外全裸となり、後頭部に両手をあてがう私の裸身を、ミサさまが舐めるようにご覧になりながら冷たいお声をぶつけてきました。

 えっ、何か着せてくださるのではないの?
 たぶん破廉恥な衣装なのでしょうけれど、プレゼントを着せてくださるっておっしゃったのに・・・
 社長室のドアは開けっ放し。
 高層ビルとは言え、畳一枚よりも大きな何枚もの窓もカーテン全開でした。

「返事は?」
 ヒュンと一閃したミサさまの乗馬鞭のベロで、今度は右太腿の側面を痛打されました。
「あうっ!は、はいっ!」
「それから今後、貴様が服を脱ぐときは、今の順番を厳守。何があってもだ。守らなければ罰を与える」
「はいっ。わかりました」

「ところで貴様はその、一番視られたい恥ずかし場所のことを、自分で何と呼んでいる?」
 ミサさまの乗馬鞭の先が私の股間を指しました。
「えっ?えっと・・・」
 突然のあんまりなご質問に、口ごもる私。

「だからその、裂け目から牝クサイよだれを垂らしている貴様の恥知らずな女性器のことを、自分では何と呼ぶのか聞いている。二度も言わせるなっ!」
 バチンとまた右太腿を痛打されました。
「はうっ!」
 痛みとともに粘膜が痺れ、性懲りもなく恥知らずなよだれがトロリ。
 それにしてもミサさまってば、乗馬鞭の扱いがお上手。

「は、はい・・・ごめんなさい・・・マ、マゾマンコです・・・お姉さま、あ、いえ、チーフが名付けてくださいました」
「正確に言うと・・・な、直子の剥き出しマゾマンコ、とチーフが名付けてくださいました・・・わ、私も、気に入っています」

 マゾの服従ポーズのまま、ジンジンしている腿の痛打痕を意識しながらお答えしました。
 内腿をはしたないよだれがダラダラ垂れていきます。

「ふーん。剥き出しマゾマンコか。さすがチーフ。上手いこと名付けたものだ。貴様の無毛な恥知らず女性器にピッタリの名だな」
 ミサさまが乗馬鞭のベロで私の股間をさわるかさわらないかくらいにスリスリもてあそびながらおっしゃいました。
「あと、貴様はチーフのことを、私たちの前でも、お姉さま、と呼んでいいぞ。そのほうが萌える」
「あっ、ミサさま、そ、そこは・・・あんっ!」
 ベロの先が腫れて飛び出した肉芽にコソッと触れ、思わず淫ら声を洩らしてしまいました。

「神聖な職場でいやらしい声を出すな。がまんしろっ」
 すかさず左腿にバチンと乗馬鞭。
「あうっ!はいっ!申し訳ございません」
 内腿を滑るよだれが止まりません。

「今後貴様はいついかなるときでも、裸になれと言われたら真っ先に下半身から脱いで、貴様が言うところの、剥き出しマゾマンコ、をまっ先に世間様に露出するのだ」
「これは絶対服従の命令だ。わかったな?」
「は、はいっ」

 お答えしつつも、今はコスプレされているとはいえ、普段は童顔ロリ美少女のミサさまのお口から、剥き出しマゾマンコ、なんて、はしたな過ぎるお言葉が発せられるのをお聞きして、キュンキュン萌え死んでしまいそうでした。

 ミサさまとリンコさまがお互い目配せをされました。
「今日の来客の予定は?」
「あ、はい・・・今日はありません」
「そうか。もし貴様がマゾ女らしくふしだらな格好をしているときに来客がある場合のみ、この上着の着用を許す」
 ミサさまのお言葉につづいて、リンコさまがショッパーの中から白っぽい布地を取り出しました。

 広げてみるとそれは、お医者様などがよくお召しになっている、所謂白衣。
 ナース服のように柔らかなシルエットではなく、ストンとした、科学や化学関係の研究所員さんが羽織っていそうなドクターコートという感じの白衣でした。

「ニットのワンピとかも考えたんだけどさ、こういうオフィス空間で、すぐ着れてお客様にも失礼じゃない上着って、難しいんだよね」
 リンコさまが広げて見せてくださった白衣をハンガーに掛けながら、説明してくださいました。

「白衣ならなんかインテリっぽいし、高尚ぽいじゃん。ややこしそーなことしているムードも出て」
「理系の大学の教授の秘書にも、白衣着てるの多いって言うし。アカデミックって言うかさ。そんなに社内の雰囲気も崩れないかなーと思って」

「私が裸にされているときに、ご来客があったら、これを上に着てお茶を出したり、応対しなさい、ということなのですね?」
 そんなに私、オフィスで年中裸にされちゃうのだろうか、とゾクゾクしながらお尋ねしました。
「そう。室外のトイレにいくときとかもね。ナオコ、裸コートするの、好きなんでしょ?」
「は、はい、それはそうですけれど・・・」

 素肌に白衣一枚でご近所の郵便局までお使いに行く自分を想像してみます。
 背筋がゾクゾクっと震えました。

「ちゃんとナオコの好み考えて、軽めで上質のコットンで作ってあげたからさ。素肌に貼り付いたら、ちゃんと乳首も浮くはず」
 えーっ、そんな・・・
 そんなこと私、望んでいません。

「これはいつもここに掛けといて、マゾモードナオコの緊急時ユニフォームということで」
 リンコさまが、今日このお部屋に導入されたばかりの謎のスーツロッカーに、その白衣をさも当然のように掛けられました。
 私には一度も着せてくれずに。

 ふとソファーの上に目を遣ると、いつの間にかいろいろなものが散乱していました。
 おふたりがお持ちになったショッパーの中身なのでしょう。
 すなわち私へのプレゼントの数々。

 下着のような布きれ、何か機械のような器具と絡まったコードの塊、私ならどう使うか一目でわかってしまう形状をした卑猥なオモチャの数々。
 おふたりの肩越しにチラッと拝見しただけで、そういったものの存在が認められました。
 これから私、何をされちゃうんだろう?

「どう?ミサミサ。ナオコを虐めるのって、面白いでしょう?」
 リンコさまがミサさまに話しかけました。

「うん。凄く愉しい。直子がこんなにドスケベなマゾ女だとは思わなかった。虐めのアイデアがどんどん湧いてくる。いつものボクらしくなく、とても興奮している」
 素に戻られたミサさまが普段の口調でおっしゃり、メガネの奥から私の裸身をじーっと見つめてきます。

「でしょ?今日は来客もないって言うし、時間もまだあるから、もう少しアソんでいこっか?」
「うん。もちろん」

 おふたりがお顔を合わせてニヤッとうなずいたとき。
 再び電話の呼出音が唐突に鳴り響き始めました。


非日常の王国で 03


2016年10月2日

非日常の王国で 01

 イベント明けの月曜日。
 出勤前の朝、とてもドキドキしていました。

 お約束通り土曜日の午後に私のお部屋にいらしてくださったお姉さまから、私が帰った後のことをお聞きしました。
 
 凄い迫力のショーだった、とお客様がたにも大好評で、イベントでご披露したアイテムの売上も昨年の倍以上いきそうなこと。
 うちでもモデルで使いたい、とか、イメージビデオをぜひ撮らせてくれ、というご依頼も多く、ごまかすのが大変だったこと。
 夕張小夜の本業は学生で、現在イギリスの名門大学に留学中の身なので、日本で表立った活動は出来ない、と断ったそうです。

 お客様がたの中で夕張小夜を森下直子だと見破っていらしたのは、アンジェラさまたちとシーナさま御一行だけだったよう。
 でも、スタンディングキャット社の男性たちは、薄々勘付いていたかもしれない、とお姉さまはおっしゃいました。

「彼らって、同性でも異性でも、自分たちと同じような個性と言うか異端性を嗅ぎ分ける嗅覚、異常に鋭いからね」
 笑いながらおっしゃるお姉さま。

「あと、シーナさんの古いご友人、あ、残念ながら百合草女史ではなくてよ、も数名いらしていたわ。ひょっとしたら直子も知っている人たちかもね」
 どなたなのかすっごく知りたくてお姉さまにお尋ねしたのですが、そのうちわかるわよ、うちともつながりが出来たから、とイタズラっぽく微笑むだけで教えてくださいませんでした。

 そして私が一番気にかかる、社員スタッフのみなさまのご反応。
 これはもう絵に描いたような、興味津々、の一言だったそうです。

 パーティが終わって、それぞれお得意様がたとの二次会までのあいだ、スタッフ宿泊用に取ってあった隣接するホテルのお部屋でスタッフだけの軽い打ち上げをなさったそうなのですが、みなさま、お姉さまに対して、ご質問攻めだったそうです。

「あたしも気分良かったから、いろいろ包み隠さずしゃべっちゃった。あの子はこうしたら悦ぶとかこんな妄想しているとか」
「みんな真剣に聞いてくるから、つい言っちゃったのよね。これからも業務に支障がない程度になら、みんなも好きに虐めていい、って」

「ほら、あたしは忙しいからあまり直子をかまってあげられないでしょう?それで直子を放っておくと、無茶なひとり遊びとかしちゃいがちじゃない」
「だからどうせなら、安全なオフィス内で直子が適当にスタッフたちのオモチャになって発散するのもいいかな、って思ったの」
 
 バスタブに身を寄せ合って浸かり、私の股間をチャプチャプ弄りながらニヤニヤ笑いのお姉さまがおっしゃいました。

「オフィス内で裸にするくらいはぜんぜん構わない、って。それで直子のムラムラが幾分でも解消出来るのなら、あたしも安心だし」
「外に連れ出すときやお客様が来社されるときは、社のイメージを損なわない程度にほどほどに、とは言っておいたから、そんなにひどいことはされないと思うわ」
「まあ、取引先の中にもノリのいいかたいらっしゃるし、いつもお茶を出してくれるあの社長秘書の子はエロい、って評判になっても、あたしはかまわないって思っているのだけれど」

 そんなふうにして、私の扱いについて、社内的にいくつかのルールがみなさまのあいだですでに決められていました。

 私がムラムラして誰かにかまって欲しいときは、首にチョーカーを着けてくること。
 お姉さまとの秘密のお約束が、スタッフ全員とのお約束となっていました。
 逆に、お仕事が猛烈に忙しいとか集中したいとか、そういう気分になれないときはチョーカーを着けずに出社し、スタッフも手を出さない。

 チョーカーを着けて出社したからには、スタッフ全員が私のご主人様となり、性的なご命令には絶対服従すること。
 こういうのは慣れ過ぎてビッチぽくなってしまうと面白くないので、出勤時や退社時など、お外でひとりで行動するときは、きちんとした清楚な服装でお淑やかにしていること。
 当然、屋外での危ないひとり遊びは休日でも一切禁止、どうしてもしたいときはスタッフの誰かに必ず相談して同伴していただくこと。
 そのときはみんな気を配って、好色なドスケベ男性たちにつけいられる隙は、絶対に見せないこと。

「直子、あたしらがいなくなった部室や楽屋でも、いろいろしでかしたらしいじゃない?ルール決めるとき、リンコが一番ノリノリだった」
「それに、あの下ネタ耐性の低いアヤまで愉しそうにニヤニヤしていたのだから、直子が放つマゾオーラの魅力って相当なものよね」

 私が一所懸命に隠し通そうとしていた恥ずかしい性癖の数々は、あのイベントの日一日でスタッフのみなさま全員に知れ渡ってしまいました。

 モデルをすると決まったときから帰るときまで、どなたの前でもほとんど全裸で過ごし、おっぱいも無毛なマゾマンコも、お尻の穴までスタッフ全員にじっくり観察されました。
 初対面のしほりさまには、全身隅々までもてあそばれ、リンコさまの目前で強制的に自虐オナニーをさせられ、楽屋では、ほのかさまや里美さまにまでペットボトルに全裸で放尿する姿を目撃されました。
 
 そして本番では72名、お姉さまからお聞きしたお手伝いのスタッフさんがたも除いた、純粋なお客様としてイベント会場にお越しいただいた方々の数です、ものお客様がたの前で、キワドイ衣装に感極まってオーガズムに達してしまう姿を何度もご披露したのです。

 私という人間の淫乱さ、ヘンタイさ、ドマゾさは、その場にいらっしゃった全員の脳裏に深く刻み込まれたことでしょう。
 もはや後戻りは出来ません。
 私がこの会社に勤めつづける限り、夕張小夜が森下直子だとご存知なみなさま全員が私を、そういう目、で視つづけることでしょう。

 レッテルは貼られてしまいました。
 このレッテルから逃れたいのなら、お姉さまとのスール関係を解消して、この会社から離れるしかありません。
 そしてもちろん私は、お姉さまとお別れするくらいなら死んだほうがまし、とずっと思っています。

「そう言えば直子、しほりさんとも何か約束したんだって?絵理奈さんが退院されたら快気祝いに、どこかで一席設けなくちゃね」
 
 のんきにそんなことをおっしゃるお姉さまのしなやかなからだに、バスタブの中、無言でギュッとしがみつきました。
 月曜日から始まるオフィス勤務がどんなものになってしまうのか、不安六、期待四くらいの割合に胸を震わせながら。

「でもね、うちのスタッフ全員、直子にすっごく感謝しているのは事実よ。あんなアクシデントがあったのに、直子のおかげでイベント大成功だったのだから」
 お姉さまが私に負けないくらいの力で抱きしめ返してくださいました。

 月曜日の朝出社したら、お昼までには羽田へ行って九州行きの飛行機に乗らなければならないというお姉さまは、旅支度のために日曜日の夜9時頃、いったんご自宅に戻られました。

 玄関口まで全裸でお見送りした私にお姉さまは、今までで一番長かったかもしれない、くちづけをくださいました。
 玄関ドアを開け放したまま、全裸の私とスーツ姿のお姉さまは5分以上、互いの舌を絡ませ合いました。
 唇が離れると、したたるよだれを舌でベロっと舐めあげてから私の目を見つめ、ありがとう、と小さなお声でおっしゃり、最後にニッコリと素敵な笑顔をくださいました。

 玄関ドアが閉じるとひとりぼっち。
 でもタイミング良く急激な睡魔が襲ってきました。
 イベント当日から今日まで、張りつめつづけていたドキドキと、滾りつづけていた劣情が、まるで映画で観たことのある燃料切れの飛行機のように失速しつつありました。
 加えてこの三日のあいだ、数え切れないほどの回数昇りつめた、その体力の消耗も相当のものだったはずです。
 なんとか目覚まし時計をセットしてそのままベッドに倒れ込み、すぐに意識が失くなったようでした。

 そうして迎えた月曜日早朝、梅雨の晴れ間。
 朝9時集合を言い渡されていましたから、8時半までには行かなくちゃと7時に合わせていた目覚ましが鳴る前に、目が覚めていました。
 全裸のままシャワーへ直行、ゆっくりと全身を洗いました。
 
 二の腕にうっすらと縄の痕、鏡に映したらお尻にも鞭のミミズ腫れが薄く残っていました。
 その淫靡な痕跡を見て性懲りもなく疼き出すからだには、自分のことながら、その快楽に対する貪欲さに呆れてしまいます。

 丁寧にからだを拭き髪をまとめてから、下着を手に取ります。
 考えてみると、まともな下着を身に着けるのって丸四日ぶり?
 イベント当日からシーナさまと自宅に戻り土曜日にお姉さまと入れ替わりになって今朝目覚めるまで、ずっと裸で過ごしていましたから。
 
 そのあいだに身に着けたものと言えば、突起付きCストリングとか麻縄とか手錠とかハーネスとかバイブが落ちないように穿いたショーツとか洗濯バサミとかばかり。
 久しぶりの布地にやんわり包まれた乳首たちが、なんだかムズ痒い感じ。

 それからお気に入りの白いフリルブラウスに濃い目のベージュの膝丈フレアスカートを合わせます。
 これにリネンのショートジャケットを羽織って出勤するつもり。
 出勤ファッションはお淑やかに、がルールですから。

 鏡に向かってメイクを始めると、どんどんとありふれた日常生活へと戻っている感覚がありました。
 それと同時に昨日までの三日間のあれこれを思い出し、確実にこれまでとは変わるであろう今日からの自分のオフィス勤務に思いが至ります。

 いったい私はこれからどうなっちゃうのだろう。
 オフィスに入ったらすぐに、今日から直子には全裸で勤務してもらうことにします、なんて綾音部長さまからご命令されたりして。
 そこまではいかなくても、何かキワドイ制服を着せられたり、セクハラの慰み者にされたり。

 出勤時間が近づくにつれ、昨夜六対四だった不安と期待は、八対二くらいにまで不安のほうが勝ってきていました。
 しっかりなさい、小心者直子、お姉さまに逢いたくないの?
 そう自分を叱責して私は、オフィスへと向かいました。
 首には、お姉さまからいただいた涙型のチャームがぶら下がった白いレザーベルトのチョーカーを巻いて。

 8時25分、オフィス到着。
 ドアキーを解除しようとしたら、もう開いていました。
 あれ?もうどなたかいらしているんだ・・・
 ほのかさまかな?
 ドアを開けて、そっと中を覗き込むと大きな拍手の音が。

 すでにお姉さま以下スタッフ全員が揃っていました。
 里美さまのお顔まで見えます。
 みなさま、私が出社するのを待ち構えていてくださったみたいでした。

「おつかれさまー」
「おつかれー」
「ナオコにはイベント当日、きちんと御礼と挨拶、出来なかったからね」
「イベント大成功の立役者、VIPだから、ちゃんと感謝の気持ちを伝えたかったの」

 みなさまニコニコ、口々に褒め称えてくださいました。
 なんだか気持ち悪いくらいに。
 みなさま一様に、私がチョーカーを首に巻いているのをご確認され、嬉しそうなご様子をされているような気もしましたが。

 それから全員応接ルームに移動して、お紅茶とケーキで、あらためてお疲れさまー。
 お紅茶も今日は、雅部長さまとほのかさまが淹れてくださいました。
 ひとしきり花咲く雑談も、イベントにいらしていたお取引先様やお客様がたに関することばかり。

 やがて始まった反省会議。
 反省会と言っても、ネガティヴなご発言は全く無く、どのアイテムがどのお客様とご商談成立したかのご報告が相次ぎ、ショーの個人的な感想などに言及するのも一切無し。
 最後に、各々の今週これからのご予定を確認して、終始和やかな雰囲気で終わりました。

 10時前に会議が終了すると、お姉さまと綾音部長さま、それに営業の雅部長さまとほのかさまは、イベントで商談成立したお客様がたとの打ち合わせのために、それぞれ東京駅や羽田へと旅立っていきました。
 里美さまもご自分のオフィスへとお戻りになられ、オフィスに残されたのは、私と開発部のリンコさまとミサさまの三人に。
 そのリンコさまとミサさまも、ご自分たちの開発ルームにこもりきりとなられました。

 私も、イベント中の経費の精算や売上見込の集計、小口現金の出し入れのために銀行へ行ったりと、一日中あわただしく過ごしました。
 
 いつの間にか退社時刻となり、リンコさまたちに内線でご連絡をしてみました。
 開発部もイベントの余波で、たくさんのパターンを大急ぎで引かなければならず、出来るだけ済ませちゃいたいので今日はおふたりとも部室にお泊りになるとのこと。

「先に上がっていいよー。お疲れさまー、また明日ねー」
 いつもと変わらないご様子で明るくおっしゃってくださいました。
 私、どうされちゃうのだろう、って緊張していた分、なんだか肩透かしの気分でした。

 今日されたえっちなことと言えば、雅さまがいつものようにハグしてきたとき、右腕だけふたりのからだのあいだに入れ、右手で私の左おっぱいを服の上から強くモミモミされたことくらいでした。
 雅さまがそんなことをなさるのは初めてでしたが、私はほのかさまの視線が気になって仕方ありませんでした。
 やられながらチラ見するとほのかさまは、背筋がゾクッとするような妖艶な笑みを薄く浮かべて私たちのことを見ていました。
 ほのかさまがそんな表情をお見せになったのも、初めてな気がしました。

 お家に帰ると早速全裸になり、イベントショーの思い出しオナニーをしました。
 数回イッて落ち着くと、自然とまた、これからのことを考え始めてしまいます。

 社員のかたたちはみなさまオトナだから、私を自由にしてもいい、って言われても、がっつくケダモノみたいに、すぐ虐めてきたりはしないのだろうな。
 何かを企んで、いつか仕掛けてくるのでは、とも思うけれど。
 意外とこのまま普通に、軽いセクハラ程度の平穏なオフィス勤務のままなのかもしれないな。
 そう考えると、被虐を期待していた分がっかりするのと同時に、心の奥底で大きく安堵のため息をついていることにも気づきました。

 お姉さまは今日から九州で、戻られるのは週末、早く逢いたいな。
 数日ぶりに穏やかな眠りにつきました。

 でもそれは俗に言う、嵐の前の静けさ、に過ぎなかったようです。

 次の日、出社すると社長室内の壁際に、見慣れない茶色いチェック柄の不織布に覆われたスーツロッカーが設えてありました。
 不審に思ってチャックを開けてみると、中に吊るされているのは紛れもなくイベントでご披露したアイテムの数々。

 光が当たるとシースルーになるワンピース、透明ビニールのように見事にスケスケなベージュのスーツ上下、ぴったりフィットのキャットスーツ、恥丘丸出しな超ウルトラローライズジーンズ・・・
 どれも、イベント会場でお客様がたにご披露したときの、身を切るような羞恥と甘美な昂りを思い出させる破廉恥アイテムばかり。
 
 でもなぜ、これをこのお部屋に・・・
 イベントの最中、ちょうどあのローライズジーンズをご披露するときにリンコさまがおっしゃった、あるお言葉に思い当たり、マゾマンコがキュンと疼きました。

 見なかったフリをして業務に戻りました。
 その日は、綾音部長さまが朝からデスクでお電話をかけまくり取りまくりなさっていて、お姉さまと営業部のおふたりは出張中、開発部のおふたりは相変わらず開発ルームにこもりきり、という状況でした。
 私も綾音さまが取り切れないお電話に対応したり、そろそろ迫ってきた月末に向けてご請求とお支払の再チェックをしたりと午前中は忙しく過ごしました。

 午後になり、綾音さまが、直帰するから、とお出かけされて少し経ったとき、それは始まりました。

 私のお仕事も一段落して、ネットでも見で息抜きしようかな、と立ち上がったとき。
 社長室のドアがコンコンとノックされ、ドアを開けるとリンコさまとミサさまがニコニコなお顔で立っていらっしゃいました。
 おふたりともそれぞれ片手にひとつづつ、大きくふくらんだショッパーの紙袋をお持ちになっていました。


非日常の王国で 02


2016年9月25日

オートクチュールのはずなのに 59

 楽屋に戻ると、すぐにマントを脱がされ、つづいて乳首の輪っかを緩められました。
「あふうっ」
 尖りきった乳首をぞんざいにつままれた上に血流の戻る痛さも加わり、昂りきった淫声がふしだらに漏れました。
 ゴージャスなチョーカーも外されましたが、一番下のチェーンに繋がる部分は、首周りもシルバーのチェーンつづきになっていて、そこだけチョ-カーと別物になっているようで、クリットに繋がったまま残されました。

 あれよあれよという間に、突起付きCストリングとクリットチェーン、それにミュールだけの丸裸にされていました。
 リンコさまが脇腹に両手をあて、学校の体育の先生みたいな姿勢で私の前に立ちました。

「ほら、もたもたしてて5時近くなったら、他の会場のお客様たちがフロアに溢れて、小夜ちんが思いっきり恥ずかしい思いをすることになるよ?」
 背後から、ほのかさまでしょうか、ペラペラのビニールみたいなのが肩に掛けられました。

「袖通して、ボタン留めて、急いで!」
 リンコさまの叱責声に両腕をもぞもぞ動かしました。
 駅の売店で売っているような乳白色で薄っすら透けているようなビニールの使い捨てレインコート。
 着終わると絵理奈さまのゲーノー人サングラスを渡されて、右手を掴まれました。

「さあ、行くよ」
「行くって、どこへですか?」
「どこへって、小夜ちんはこれでお役ご免。お疲れさん。だからお家に帰るのよ」
「お家に・・・私だけ、ですか?」

「そう。きょうのエロ過ぎモデル、夕張小夜は、お客様たちにはマボロシにしときたいの。だからアヤ姉たちが足止めのためにトークで時間を稼いでいる今のうちに、さっさと消えるの。お客様とエレベーターで鉢合わせ、なんてイヤでしょ?」
「それに、うちのスタッフの森下直子は、今日は家庭の事情で欠勤、っていうことになっているんだから、この後の商談会でナオコが登場するのおかしいでしょ?」
「大丈夫よ。お家まで車で送ってあげるから。お家でゆっくり、ショーのこと思い出しながら、存分に思い出しオナニーでも何でもするといいわ」

 からかうような笑みを浮かべておっしゃるリンコさまのお言葉で、つい数分前のランウェイでの快感がよみがえりました。
 ステージに出てから楽屋へ戻るまでの断片的な記憶がフラッシュバックのように現れては消えていきます。

 一歩進むたびに張りつめてはたわむシルバーチェーン。
 張りつめたときにクイッと上へ引っ張られるクリトリスへのもどかしい刺激。
 そのもどかしさに呼応して膣壁を震わせてくるCストリングの突起。
 何度も真っ白になりかける頭の中。
 ちゃんと歩かなきゃ、と快楽に溺れることを律する、ほんのひとかけらの理性。

 食い入るように私の顔とからだを見つめてくるお客様がたの視線。
 満足そうに嗜虐的な笑みを浮かべられたお姉さま、シーナさま、アンジェラさまのお顔。
 両脚をダラダラと滑り落ちつづける淫らなおツユの感触。
 スクリーンにアップで映し出された両乳首を紐で絞られた剥き出しのおっぱい。
 おっぱいが揺れるたびにユラユラ綺麗な波を作るドレープドレス。

 ステージ上で、夕張小夜でした、と大きなお声で紹介してくださった綾音部長さま。
 お声につづいて、みなさまお立ち上がりになり沸き起こった嵐のような大拍手。
 その喝采で今までになく激しく振動を始める股間のローター。
 ついに頭の中が真っ白になり、崩れ落ちるところをリンコさまの腕で抱きとめられた私。

 すべてが夢の中の出来事のようでした。
 そしてまだ、その白昼夢から醒め切れていないみたい。
 全身が快感の余韻に酔い痴れていました。

「ほら、行くよ。さっきも言ったけど、今ならフロアに誰も居ないと思うから」
 リンコさまに強く手を引かれ、出口のドアまでつんのめりました。

「たまほの、あとは頼んだよ。商談会の最中には戻れると思うから」
「はい。お気をつけていってらっしゃい」
「うん」
 ドアを開けてフロアの廊下に出ました。

 フロアは、相変わらず眠たげなストリングスミュージックの低いBGMが流れている以外、しんと静まり返っていました。
 ドアの横に、私をここまで運んで来たダンボール箱と台車が折りたたまれ、壁に立てかけてありました。

「あっ、雨やんだみたい」
 独り言のようにおっしゃったリンコさまにつられて窓を見ると、大きな白い雲の合間に青空が覗いていました。
 まだお外はこんなに明るかったんだ。
 そうよね、5時前っておっしゃっていたし、夏至を過ぎたばっかりだものね。

 そんなことをのんきに考えながらもう一度窓を見て、ビクンッと焦りました。
 お外が見える窓ガラスにうっすら映った自分の姿に。

 素肌の上にペラペラのビニールレインコート一枚の私。
 乳白色のビニール地は曇ってはいるのですが、やっぱりうっすら透けていました。
 からだの中でとくに色の濃いところ、つまりふたつの乳首と股間のCストリングの赤は、それが何なのか職別出来るくらいには透けていました。
 更に、丈が腿の半分くらいまでは来ているのですが、最後のボタンが恥丘の上くらいのところなので、腿が裾を蹴ると前が割れて太腿が付け根まで丸見えになりそうでした。

 まさかこんな格好で、ショッピングモールやお外のスーパーマーケット前をまた、歩かされるのかしら・・・
 夢見心地な気分が急激にフェイドアウトしていくにつれ、代わりに日常に戻ったという現実感と片隅に追いやられていた理性が働き始めていました。
 恥ずかしい、と思う気持ちが膨らむほど、さっきまでのイベント会場での恥辱的なあれこれを、たまらなく愛おしく懐かしく感じ始めていました。

 そんな私の葛藤などおかまいなしに、リンコさまは私の右手を引いて無言でズンズン歩いていました。
 廊下を過ぎてフロアの中央付近まで出ても、お言葉通り人っ子一人見当たりませんでした。
 どの会場のドアもピッタリ閉じられたまま。
 私とリンコさまのヒールの音だけ、カツカツとやけに大きく響きました。

「ふー。計画通り、誰にも視られずに脱出できそう」
 あと少しでエレベーターホール、とういうところまで来てリンコさまが振り返り、お声をかけてきました。
「あ、そうですね」
「ひとりふたりは覚悟してたけど、今のナオコの格好だって、一般常識的にかなりエロい・・・」

 歩調を緩めずに歩いていたリンコさまがエレベーターホールへの角を曲がってすぐ、おしゃべりと足が同時にピタッと止まりました。

 振り向いて、私に向かって唇に人差し指を1本立て、シーッのポーズ。
 繋いでいた手を解き、ヒソヒソ声で、モデルウォーク、と耳元にささやかれました。

 それからカツカツとおひとりでエレベーターホールのほうへ歩き出されたリンコさま。
 私も少し間を置いて、モデルウォークで後につづきます。
 久々のチェーンがクリットを引っ張る刺激に顔が歪みそう。

 エレベータードアの前では、見るからにOLさんという感じなお揃いのグレイのベストの制服を着た女性おふたりがエレベーターを待っていらっしゃいました。
 リンコさまは、そのOLさんたちから5メートルくらい離れたところで立ち止まり、OLさんたちに一度会釈をして、澄ましたお顔でエレベーター待ちの状態に入られました。
 OLさんたちも会釈を返してくださったので、私も会釈して、リンコさまの脇に立ちました。

 OLさんたちがこちらをチラチラ窺い視ているのがわかります。
 おふたりとも20代半ばくらいの髪を濃い目の茶に染めた今どきOLさん風。
 おひとりはキレイ系、もうひとりは可愛い系で仲良さそう。
 可愛い系のかたが社名の入った大きなバインダーをお持ちになっているので、今このフロアの別の会場でイベントか会議をやってらっしゃる会社のかたなのかな。

 おふたりは好奇の瞳でこちらを盗み視つつ、ときどきヒソヒソお話されています。
 タレント?モデルさん?ファッションショー、エロい、といった単語が途切れ途切れに聞こえてきました。
 何をおしゃっているのかすっごく気になりながらの居心地悪い時間が流れ、やっとエレベーターがやって来ました。

 空のエレベーターにOLさんたちが先に乗り込み、階数パネルの脇に陣取って、開、のボタンを押してくださっています。
 リンコさまと私は会釈をしつつ奥へ。

「何階ですか?」
 可愛い系のOLさんが可愛らしいお声で尋ねてくださいました。
「あっ、恐れ入ります。地下3階をお願いします。ありがとうございます」
 
 リンコさまがバカ丁寧に答えると、OLさんは1FとB3のボタンを押しました。
 そっか、駐車場はこのビルの地下なんだ。
 この格好でショッピングモールやお外を歩くことは回避されたようで、ホッとするような、ちょっぴり残念なような。

 奥に乗り込んだ私は、OLさんたちに背中を向けるために、必然的に正面奥に貼られた大きな鏡と向き合う形になりました。
 綺麗に磨かれた鏡には、私の破廉恥な姿がクッキリと映し出されていました。

 乳白色のビニールの下にうっすらと透ける私のボディライン。
 バストの頂点二箇所で目立つ薄紅色の乳輪と突起。
 両脚の付根を逆三角形に狭く隠す赤いCストリング。
 首から股間へと一着線に走る不自然なシルバーチェーン。
 誰が視ても、レインコートの下にはそれしか身に着けていないことが明白でした。
 セミロングボブのウイッグとタレントサングラスで素顔が窺い知れないことがせめてもの慰め。
 さっき、この格好でお外を歩けないのがちょっぴり残念と思った気持ちを、全面的に取り消しました。

 OLさんたちは、私が背を向けているのをいいことに、薄いビニール一枚越しの私の剥き出しなお尻をジロジロ眺めているのが鏡越しにわかりました。
 ひょっとすると、お尻の穴にまで何か挿入されているのもわかっちゃうかも。
 時々する上を見上げる仕草で、鏡に映った私の正面を、天井隅の凸面鏡で盗み視ているのもわかりました。
 リンコさまは、ツンとお澄まし顔で階数パネルをじっと視ていらっしゃました。

 恥ずかしさにどんどんからだが熱くなってくる中、頭の片隅ではショーでの極まりすぎた羞恥がもたらしてくれた快感がぶり返していました。
 私はモデルだから、こんな格好でもぜんぜん恥ずかしくないの。
 さあ、視て、じっくり視て、私のからだ・・・
 この状況でそんなふうに思っている自分自身に驚きました。

 ポーンという音がして一階に着きました。
 ドアが開くと、そこには10人くらいの見知らぬ人たちが待ち構えていました。
 大半はスーツ姿の男性たち、それに着飾ったおばさまがたが少々。
 ああん、いやんっ。
 来るときも通った見慣れた景色とも相俟って、白昼夢気分が掻き消え、一気に現実に引き戻されました。

 OLさんたちが降りると、我先にと乗り込んできたひとりのおばさま。
「まだ下に行きますよ?」
 やんわりと追い出して、閉、を押すグッジョブなリンコさま。
 扉が閉まる寸前に、露出狂か?と誰かに問うような男性のお声が聞こえた気がしました。
 ふたりきりになって更に下降をつづけるエレベーター。

「危機一髪だったみたいね。そろそろ他の会場で入れ替え時間だから」
 リンコさまがやっと、愉快そうにお口を開かれました。

「もう一本遅れていたら、フロアに今のサラリーマンたちがごちゃごちゃいたはずだから、ナオコのからだは、さっきのOLさんたちとは全く質の違うオトコどもの好色な視線の餌食になってたはず」
「もっとも、さっきのOLさんたちだって、自分たちのオフィスで、さっきエレベーターにスケスケの露出狂女が乗ってた、って言いふらすでしょうけどね」
 ニヤニヤ笑いのからかい口調。

 エレベーターのドアが開くと、今度は誰もいませんでした。
 明るいエレベーターホールを抜けると、冷たそうに静まり返ったコンクリートの広い駐車場。
 その薄暗さが妙に心地よく、ホッと息をつきました。

 幸い駐車場内にも誰もいないようでシンと静まり返った中、カンカンカンとリンコさまと私がヒールの音を響かせて駐車場を進みます。
 壁際に見覚えのある青っぽい色の自動車。
 有名なサイダーのマークに似たエンブレムの、お姉さまの愛車でした。

「ナオコは後ろね。ナオコが朝、持ってきたバッグとかも全部、もう積んであるから。脱がされたスーツもね」
 お姉さまのお車の両端のライトが電子音とともにピカッと光り、リンコさまが右側の後部座席を開けてくださいました。
 私が乗り込むのを見届けて、自らは運転席にお座りになるリンコさま。

「リンコさまが送ってくださるのですか?」
「うん。送り届けたら速攻で戻って、商談会やパーティ。まだまだ仕事は終わらないよ」
「そうですか・・・」
「パーティ、出たかった?」
「うう・・・微妙です、ね」
「だろうね。あんな格好をお客様に披露しちゃった後だしね」
 愉快そうに笑うリンコさま。

「連絡事項ね。そのチェーンとCストは、ナオコのものだから、私物として使っていいって。ナオコの穴の間隔に合わせた、まさにオートクチュールだしね。ただし、どちらもオフィスに置いておくこと」
「あ、では今、外したほうがいいのですか?」
「ううん。今日はいいの。今外されたら車のシートがベトベトになってクサくなっちゃうでしょ?」
「月曜日にオフィスに持ってきて、それからは着けるのもオフィス限定、っていうこと」
 私、今後これをオフィスで着けるようなこと、あるんだ・・・

「あ。それから、そのウイッグはチーフがしほりんから買い取ったから、それもナオコの私物にしていいってさ。これは別にプライベートでもご自由に」
「はい」
「それ、ほんと似合うよね。アタシ今度、そういう髪型のアニメキャラのコスプレ、作ってあげる。これがナオコに超合いそうなんだ」
 久々に見る、普段のリンコさまのオタクっぽい笑顔。

「あと、7時位にケータリングが届くから。パーティに出れないナオコのために、ご馳走のお裾分け」
「だから7時までに一段落しときなさいよ?オナニー真っ最中だったとか、お店の人にうちらまで笑われちゃうから」
 あはは、って屈託ない笑い声。

「それで月曜は朝9時集合で、イベントの反省会議してから通常業務に戻るから。いつもより早いけど遅れずに来ること」
「はい」
 そこでお話が途切れ、しばし沈黙。

 それでもリンコさまは、お車を発進させません。
 誰か待っているのかしら?
 あ、ひょっとしたらお姉さまが・・・

 お尋ねしようと思ったとき、リンコさまがお声をあげました。
「ああ、来た来た」
 ルームミラーで後方を覗かれていたのでしょう、ドアのロックが外される音が微かにしました。
 私はあえて窓から覗かず、ドキドキ。

 カタッと軽い音がして左側の後部座席のドアが開きました。
「お待たせー」
 お声と共に乗り込んで来られたのはシーナさま。
 その意外なお顔にびっくりと一緒にちょっとがっかり。

「あ、今ナオコ、あからさまにがっかりしたー。チーフじゃないかって期待してた?」
 すかさずツッコんでくるリンコさま。
「あ、いえ、そんなことは・・・」
 図星を突かれてうろたえる私。
「あら、せっかくクリュッグロゼの誘惑を振り切って抜け出してきてあげたのに、ずいぶんなご挨拶ねえ」
 いつも通りなシーナさま。

「それにしても今日の直子さん、すごかったー。あ、そうか、直子さんじゃなくて、何だっけ?えっと帯広サトコさん?」
 シーナさまがズズっとお尻を滑らせて私に寄り添い、私を視つめて勢い込んでトンチンカンなことをおっしゃってきました。
「帯広じゃなくて夕張です。夕張小夜さん」
 すかさずリンコさまがツッコミました。

「そう。その夕張さんが出てきたとき、わたし、あれ?って思ったんだ。このからだには見覚えあるな、って」
「それで暗くなってヌードが見えたとき、確信したの。絶対直子さんだって」
「それで、直子さんだって思いながら視ていたら、どんどんワクワクしてきちゃって」
 シーナさまにしては珍しく、ちょっと興奮気味の口調でたたみかけてきました。

「直子さんたら、あんなにキワドイ衣装取っ換え引っ換え着せられちゃって、内心恥ずかしくて仕方ないクセに、一生懸命ツンと取り澄ました顔して歩いているんですもの」
「もうマゾオーラ全開。そっと忍び寄って、ウイッグひっぺがしてやろうか、って思うくらいムラムラしちゃった」
「最後のほうでは、完全に歩きながらイッちゃっているし、本当、ヘンタイマゾ女として一皮も二皮も剥けちゃった、っていう感じ」
 
 シーナさまの指がビニールレインコートの上から、私のまだ尖りつづけている左乳首をピンと弾きました。
「あうっ」

「やっぱり、今だにサカっているのね?わたしの見た感じではショーのあいだにお客さんの前で5、6回はイッてるように見えたけれど」
「楽屋でも2、3回、イッてましたよ」
 リンコさまがお口を挟みます。

「でしょ?なのにまだこんなにサカっちゃっているドヘンタイマゾ女。それでね、考えたんだって、このまま直子さんをひとりで家に帰したら危険だって。直子さんのお姉さまが」
 おっしゃってから、私の顔をじっと覗き込むように見つめてくるシーナさま。

「さすが直子さんのお姉さまね?性癖をよくご存知でいらっしゃること。それでエミリーに頼まれたのよ、明日まで直子の面倒を見てくれって」
「エミリーは社長さんだから、この後も商談会だ、パーティだってお客さんたちのご機嫌伺いで大変なのよ。地方から出てきたお得意さんたちに連れ回されて、おやすみなさいは明け方になるのじゃないかしら」
「わたしは、クリュッグロゼは飲みたかったし、アンジーたちとゆっくりおしゃべりもしたかったけれど、大人数のパーティは苦手でさ。直子さん虐めるの久しぶりだし、二つ返事で引き受けちゃった」

「エミリー、すごく心配していたわよ?直子をひとりにしておいてムラムラが極まって、あられもない格好で週末の夜の街をフラフラされたりしたら取り返しがつかないから、見張っていてくれって」
「その代わり、今夜は直子さんに何してもかまわないとまで、言ってくれたの。たぶん今の直子は、激しく虐められることを望んでいるはずだからって。そうなの?」
 私の顔を覗き込んでくるシーナさま。

 確かに今の私は、誰かにめちゃくちゃに虐めて欲しい気持ちでした。
 麻縄でギチギチに縛られて、身動きの出来ない格好でマゾマンコをぐちゃぐちゃに掻き回されたい・・・
 熱い蝋をおっぱいにダラダラ垂らされて、お浣腸を我慢して、お尻にバチバチ鞭打たれて・・・

 たくさんの人たちの前であんなに破廉恥な姿をさらけ出してしまったどうしようもないヘンタイマゾ女には、そのくらいのお仕置きは当然でした。
 もちろん、出来ればお姉さまの手で、それらをしていただきたいのですが・・・
 シーナさまに言葉でお返事する代わりに、コクリと一回うなずいて、すがるように見つめました。

「部下思いのいい上司じゃない?直子さんのお姉さまは。それにドレイ思いのいいご主人様でもあるし」
 シーナさまがしんみりとおっしゃいました。
「エミリーは、明日の夕方には直子さんのお家に駆けつけるそうよ。よかったわね直子さん、いいパートナーとめぐり逢えて」
「はい・・・」
 私もなんだかしんみりしてしまい、視界がちょっぴりぼやけそう。

「おーけー。それじゃあ直子、今夜はわたしがエミリーの代わりだから。帰ったらまず何して欲しい?」
「あ、はい、M字開脚で両手両足動かせないように縛られて床に転がされて、鞭でバシバシお尻を叩かれたいです」
「わかったわ。やってあげる、覚悟しなさい、小生意気な夕張さん?」
 おっしゃると同時に、私の首からたわんで垂れていたシルバーチェーンをグイッと上へ引っ張ったシーナさま。
「あうっぅー!!」
 クリトリスが千切れそうなほど引っ張られ、膣の中でローターが大暴れ。

「あははは」
 乾いたお声で愉快そうに笑われたリンコさまがブルンとエンジンを掛け、キュルキュルキュルとタイヤを鳴らして、3人を乗せたお姉さまの愛車が薄暗い駐車場をゆっくり滑り出しました。

 そんなふうにして、降って沸いたような私のヘンタイ性癖お披露目イベントショーモデル体験は、幕を閉じたのでした。


非日常の王国で 01