2016年6月19日

オートクチュールのはずなのに 49

 あまりの気持ち良さに、背中が弓なりにのけぞりました。
 同時に左乳首への刺激が緩みます。
 ああん、もっと・・・

 カシャン!
 足元で聞こえた音に上体を戻すと、ドレス姿のリンコさまは、いつの間にか椅子のほうへと戻られ、今まさに腰掛けようとされているところでした。
 私と目が合うとニコッと微笑み、黙って私の足元を指さされました。
 まつげビューラーが床に落ちていました。

「使っていいよ」
 リンコさまのお言葉に弾かれたように上体を屈め、ビューラーを右手で拾い上げます。
 からだを起こしたときにはすでに、持ち手の2つの穴に親指と中指を潜り込ませていました。
 迷うことなくビューラーのシリコンゴム部分を今度は右乳首にあてがい、指に力を込めました。

「はうっ、んんんんんーーーーっ!」
 再びあの痛みの快感が戻ってきました。
 今度は背中がのけぞっても、自分で押し当てているビューラーは乳首から外れることなく、噛みつかれたまんまです。

「あっ、あっ、あっ・・・」
 噛みつかせたままビューラーを引っ張ったり捻ったり。
 濃い桜色に染まった乳暈がゴムのように伸びたり縮んだり。
 
 そのあいだに左手は当然のように下腹部へと伸び、中指と薬指が折れ曲がって膣内へ。
 手首の手前、掌の盛り上がった部分で膨らみきったおマメをギュウギュウ潰しながら擦っていました。

「あんっ、あっ、あっ、あーっ」
「んーーっ、あっ、あっ・・・」
「んーっっ、んんーーっ、あんっ、ああんっ、んんーっ!」

 期せずして始まっちゃったオナニーは、もう無我夢中。
 バスルームでお姉さまからイカせていただいて以来今まで、必死に抑え込んできた欲情が暴発しちゃったみたい。
 ギュッと目をつぶった瞼の裏側で、全身の細胞が快感だけを追い求めていました。
 
 股間に貼り付いた左手が、そこだけまるで別の生き物のように、せわしない複雑な動きをくりかえします。
 浅ましくがに股気味に折れた膝がガクガク震え、みるみるうちにグングン高まっていきました。

「あああ、いぃっ、いいっ、いぃぃぃ・・・」
「あっ、いぃ、いく、いくぅぅ・・・」
 からだ中を快感が駆け巡り、その快楽に前のめりになって酔い痴れていると・・・

「あれ?もうイッちゃうの?イクときは、どうするんだっけ?」

 唐突にやけにハッキリとしたお声が、鼓膜を揺らしました。
 そうでした。
 目の前にリンコさまがいらっしゃるのでした。
 とにかくイキたい一心で、完全に自分だけの世界に没入していた私は、リンコさまの存在さえ、すっかり忘れ去っていたのでした。

 私ったら、なんの羞じらいもなく、いつのまにかリンコさまの目の前で、オナニーを始めちゃっていたんだ・・・
 つぶっていた目を薄く開けると、目の前にリンコさまの愉しげな笑顔。
 
 遅まきながらの羞恥が全身に広がり、それは快感の炎を更に燃え立せる油となりました。
 もちろんそうしているあいだも私の両手は欲望に忠実に休むことなく、自分のからだを瀬戸際へと追い立てていました。

「あぅ、イ、イッていいですか?リ、リンコさまぁ、ぁんっ」
 リンコさまをじっと見つめてお願いしました。

 リンコさまに視られている、ということを意識した途端、快感の質がグンと研ぎ澄まされました。
 リンコさまの視線が釘付けとなった私の左手は、その注目に精一杯応えるべく、マゾマンコの内側を抉るように激しく陵辱しています。
 手のひらはクリトリスを、摩擦熱で火が点いてしまいそうなほど乱暴に上下しています。

 視てください、リンコさま・・・私のどうしようもなくふしだらな本当の姿・・・
 もはや待ったなしのところまで来ていました。

「ああん、お願いですぅ、いぃっ、イッていいですかぁ、リンコさまぁぁ・・・」
 両膝がガクガク震え、もう立っていられないかも・・・

「いいよ、最初だしね。そのまま、イッチマイナー」
 最後の部分だけなぜだか外国人のカタコト日本語みたいな発音で、ご冗談ぽくおっしゃったリンコさま。
 そのお言葉を聞いた途端、からだがフワッと浮き上がるような感覚とともに、頭の中が真っ白になりました。

「ああっ、視て、視ててくださいぃリンコさまぁ、イキます、直子、イキますぅぅぅ・・・」
「あぁぁいぃぃぃーーーっ、イクっ、イクっ、イっクぅぅぅーーっ!!!」

 マゾマンコをリンコさまのほうへと見せつけるみたいに突き出して、大きく後ろへのけぞったまま快感に打ち震えました。
 ヒクつく腰をなんとか支えようと、両足が大きく開いていました。
 膝をついてはダメ、というご命令が頭の片隅に残っていたようで、砕けたがる膝を踏ん張りつつ、オーガズムの余韻に酔い痴れていました。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「これで一回ね。気持ち良かった?」
 リンコさま、呆れたようなお顔をされている・・・

「アタシが見ていようが、おかまいなしなんだ?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「恥ずかしくないの?」
「はぁ、はぁ、恥ずかしい・・・です・・・」
「それでもイッちゃうんだ?」
「「はぁ、はぁ、ごめんなさい・・・」

「まだまだイケるよね?ナオコのオマンコ、ポカンて大きく口開けちゃって、ぜんぜん物足りなさそうだもん」

 私は、がに股の両膝に両手を置いた中腰の前屈み姿勢で、快感の余韻に息を荒くしていました。
 座っていらっしゃるリンコさまの視点からだと、腰は引いているものの、私の無防備な股間は丸見えなのでしょう。
 そして、リンコさまも私を、ナオコ、と呼び捨てにし始めたことにも気づきました。

「はぁ、はぁ、はいぃ・・・」
「本番前にエロい気持ち、全部発散させとかなくちゃ、ね?」
 からかうようにおっしゃったリンコさまの瞳に宿った妖しいゆらめきに、私のマゾ性がビンビン反応しています。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・はいぃ」
「それじゃあ今度はさ、アタシの顔をずっと見ながらやってみてよ。うつむいたり目をつぶっちゃダメ、ってことで」
 唇の端に薄い笑みを浮かべたリンコさまは、ゾクゾクするほどお綺麗でした。

 そんなふうにして私は、リンコさまの目の前で何度も、イキつづけました。
 最後のほうは、イク間隔がどんどん短かくなり、触ったらすぐ達しちゃうような状態。
 だから、自分でも何回イッたのか、わからないくらいでした。

 自分の手で膣口を大きく押し広げ、指三本を奥深くまで侵入させて掻き回しました。
 目線はずっとリンコさまを見つめ、イッていいか、何度もお許しを乞いました。
 
 ときにはあっさり許され、ときには無慈悲なまでに焦らされ・・・
 焦らされた代償は、私のマゾマンコからシオとなり、リンコさまの目前までほとばしりました。
 そのときリンコさまが、まさしくネコさんのように敏捷に、椅子を立って避けられるのを見ることが出来ました。

 途中、リンコさまがケータイのカメラを私に向けたことにも気づきましたが、私に拒絶する権利なんてありません。
 リンコさまのケータイの中に、私の浅ましい姿が記録される・・・
 リンコさまがその気になれば、私の恥ずかしい姿を誰にでも容易に見せることが出来るんだ・・・
 そんな考えが私のマゾ性をいっそう激しく煽り立てました。

 リンコさまから時間切れを告げられたとき、私はしゃがみ込み、快感の余韻に全身でハアハア息をしていました。

「残念だけど、そろそろ出かける準備をしなくちゃの時間。どう?ちょっとは落ち着いた?」
 近づいてきたリンコさまにウイッグをスポッと外され、肩にバスタオルを掛けられました。 
「汗びっしょりだから、それで拭くといいわ。あ、でもゴシゴシ擦っちゃダメ。肌をポンポンって叩く感じでね」
 
 いただいたタオルに、まずは顔を埋めて汗やよだれを拭き取りました。
 タオルがフワッとしていて気持ちいい。
 さすがにプロのモデルさん仕様のウォータープルーフ。
 タオルから顔を離すと、白地のタオルにメイクがまったく色移りしていませんでした。

 それからヨロヨロと立ち上がり、お言いつけの通りにからだをタオルでポンポン叩きました。
 そんな私をじっとご覧になっていたリンコさまが立ち上がり、近づいてこられました。

「やっぱし拭っただけじゃ、まだからだがベトベトしてそうね。バスルームに行きましょう」
 リンコさまに促され、バスルームへと移動しました。

 つい数時間前にお姉さまと裸で愛し合い、更にお浣腸までしていただいたバスルームは、全体がまだほんのり湿っていました。

「ナオコはそのバスタブの前辺りに立って、アタシの言う通りにするのよ?」
 おっしゃりながらリンコさまは、シャワーヘッドを何やら弄っていらっしゃいます。
「シャワーのままだと雫が飛び散って、アタシまで濡れちゃいそうだからさ」

「よし、っと。じゃあナオコ?」
 私から2メートルくらい離れた場所でニヤッと笑ったリンコさまが、お芝居っぽいわざとらしさでご自身の顎をグイッと手前にしゃくられました。
 
 ああ、やっぱり・・・
 薄々勘付いていた私は、ゆっくりと両手を挙げ、マゾの服従ポーズを取ります。
 それを見て、なんとも嬉しそうなリンコさまの笑顔。

「汚物は消毒だ~ひゃっはー」
 愉しそうなお声とともに間髪を入れず、勢いのある一筋の水流が私のからだめがけて飛んできました。

「あうっ、冷たいーっ」
 水流は真水で、当たった場所の皮膚が少しへこむほど水圧がありました。
 一直線の水流が、私の両腋の下を狙い、おっぱい、おへそを撃ち抜いて今は恥丘に襲いかかっています。

「ほら、後ろ向きなさい」
 ご命令に、おずおず背中を向けました。
 たちまち背中がびしょ濡れとなります。
 最初は冷たいと思ったお水も、火照ったからだにはちょうどいい気持ち良さに感じていました。

「そのまま前屈みになって、お尻をこっちへ突き出しなさい。マンコの中まで洗ってあげるから」
 お尻の割れスジに水圧を感じながら、すっかり板についてきたリンコさまのご命令口調通りの姿勢になりました。

「もうちょっと脚を広げて」
 そのお声に両足を左右へ滑らせると、水流が一直線に、私の膣付近に当たるようになりました。
 激しい水圧で抉じ開けるように、膣内まで水が侵入してくる感じです。
「んんーっ」
 その気持ち良さに、思わず淫らな声が洩れてしまいました。
 
「またえっちな声出しちゃって。もうすぐにイベントが始まるんだから、切り替えてよね?」
 お口では咎めるように、そんなことをおっしゃるリンコさまですが、その水流は執拗に、私が突き出している下半身のふたつの穴をせわしなく交互に狙っていました。

「あうっ、は、はいぃ・・・ご、ごめんなさいぃ・・・」
 口では謝っているものの、水圧に包皮をめくりあげられ完全に露出したクリトリスへの乱暴な刺激がたまりません。
 ああん、もっとぉ・・・

「ま、こんなもんか」
 肌を嬲る水流と、やかましく響いていた水音が唐突に途絶えました。
 目をつぶって徐々に昂りつつあった私は、なんだかがっかり。

「ほら、早くこっちへおいで。拭いてあげるから」
 シャワーヘッドを所定の場所へと戻されたリンコさまが、白いバスタオルを広げておっしゃいました。

 脱衣所で再びマゾの服従ポーズにされ、全開となった私の全身を、リンコさまが持たれたバスタオルでポンポン水気を拭ってくださいました。
 タオル越しの手のひらで私のおっぱいをふんわり包み込み、やんわりとタオル地を押し付けてくるリンコさま。
 
 タオル越しとはいえ、リンコさまの体温が素肌に伝わってきます。
 お腹、下腹、太腿、背中、お尻・・・
 リンコさまの至近距離でのバスタオルの愛撫に、うっとり、されるがままの私。

「おーけー。これでよしっと。なんとか間に合いそう。ナオコ、服着て」
 リンコさまのバスタオルがからだから離れ、手を引かてれて再びリビングへ。

「早く着て。ちょっと早いけれどもう会場へ出かけちゃいましょう。あ、下着は着けなくていいよ」
「えっと、あの・・・」
「だから、ここに来るときに着てきた服、どこに置いたの?」
「えっと、それは・・・」

 あわててお部屋中を見渡しましたが、それらしいものは見当たりません。
 トルソーもみんな裸ん坊。

 綾音部長さまにお借りしたレインコートは、お部屋に入る前の廊下で脱いでお姉さまにお渡しして・・・
 お姉さまは、お部屋に入ってからすぐにご自分もお洋服を脱いで、そのあとすぐ始めちゃったから・・・
 あのコートを、お姉さまはどこに置かれたのだろう?

「あの、あのですね・・・」
 リンコさまに手短かに、オフィスからここまで来たときのことをご説明しました。
 ご説明しながら、悪い予感が胸に渦巻いてきました。

「ふーん。オフィスでチーフとアヤ姉の前で丸裸にされて、そのままアヤ姉に借りたレインコート一枚で、ここまで来たんだ?」
「はい」
「裸コートっていうやつよね?ヘンタイさんがよくやる。ショッピングモール歩いて興奮した?」
「あ、えっと・・・はい・・・」
「だよね。ナオコは露出願望マゾッ娘だもんね」
 すっごく愉しそうなリンコさまのイジワル口調。

「そのコートなら、アヤ姉がさっき持って帰ったよ」
 リンコさまが素っ気なく、なんでもないことのようにおっしゃいました。

「さっきみんなが会場へ向かったとき、アヤ姉、左手にそれ提げてたもん。渋目のグリーンのやつでしょ?」
「そう・・・です・・・」
「さすがアヤ姉は、いいモノ揃えてるなー、って感心したから、覚えてる」

 ということは・・・

「ということは、今ここにナオコの着るべき服は無い、っていうことになるよね?」
「・・・はい」
「どうする?」
「あの・・・どうするって言われましても・・・」
「その素っ裸のまんま、会場まで行くしかないか。もう入り時間迫ってるし」
 からかうように私を見つめてくるリンコさま。

 全裸のままお部屋を出て、全裸のままマンションのエレベーターに乗り、全裸のまま通りに出て、全裸のまま交差点を渡り、全裸のままオフィスビルに入り・・・
 瞬時にそんな恥ずかし過ぎる情景が、鮮やかな走馬灯のように脳裏を駆け巡りました。
 そんなこと・・・出来る訳ありません。

「なーんてね」
 リンコさまの戯けたお声に顔を上げると、相変わらず超愉しそうな笑顔。

「それってぜひともやらせてみたいけれど、普通に考えて、見た誰かにすぐ通報されちゃうよね?公然ワイセツで。そうなったらイベントもろともアウトだし」
「たぶん羽織るものくらい、何かあるでしょ」

「あの、そう言えばお姉さまが、お風呂上がりにバスローブを着ていらっしゃいました。白くてピカピカした」
 私も必死に考えて思い出しました。
 バスローブを羽織っただけで公共の場に出るのもかなり恥ずかしいことですが、全裸よりは何百倍もマシです。

「なるほどね。私物だろうけど、チーフがそれ、そのままここに置いてってくれたらいいけど」
 おっしゃるや否や、お姉さまがお着替えに利用されていた和室の中へ入られました。

 しばらくして手ぶらで出てこられたリンコさまは、すぐに洋間のほうへ。
 ものの数分で、やっぱり手ぶらで出てこられました。

「いいニュースと悪いニュースがあるの。まず悪いほうね」
 お芝居がかった口調でそうおっしゃったリンコさまは、私の返事も待たずに嬉しそうにつづけました。

「残念ながら今この部屋内には、服のようなものは一切無かった。イベント準備期間中は、けっこうみんなの私物でごちゃごちゃいていたんだけどね。パジャマとかジャージとか」
「イベント前日にチーフがここに泊まるの、みんな聞いていたから、その前に急いで片付けたんだろうね。ナオコの言ってたバスローブもチーフが持っていったみたい」

 えーっ!

「あのあの、リンコさまは、お着替えとか、お持ちじゃないのですか?そのバッグの中に」
 絶望的な気持ちになりながら、お部屋の隅にぽつんと置かれたリンコさまのであろうバッグを指さして、すがるようにお尋ねしました。

「うん。残念ながらねー。今日はこのドレスで家から来ちゃったし。入っているの、スカーフくらいかな」
 相変わらずお芝居っぽく、わざとらしいくらい、さも残念そうにリンコさまがおっしゃいました。

「そ、それなら、会場の誰かにお電話して、大急ぎで綾音さまのレインコートを持ってきてもらうしかないです。リンコさま、ケータイ今お持ちですよね?」

「そんな泣き出しそうな声出さなくても大丈夫よ。アタシ、いいニュースもある、って言ったじゃない?」
 心の底から愉しそうなお顔のリンコさまは、間違いなく私をいたぶることに快感を感じられているようでした。

「アタシ、閃いちゃったんだ。ナオコが裸を晒さずに外へ出て会場まで行ける方法」
 ニコッと微笑んだリンコさまの冷たいお顔は、ゾクッと肩が震えるくらいサディスティックでした。


オートクチュールのはずなのに 50


2016年5月1日

オートクチュールのはずなのに 48

「まだ、そのポーズしているんだ?」
 しほりさまのお見送りから戻られたリンコさまが、ニヤニヤなお顔で私をじーっと見つめてきました。

「こういう見慣れた場所で、マッパの知り合いとふたりきり、って、なんかヤバイ感じ。無駄に照れちゃう」
 そんなお言葉とは裏腹に、リンコさまの舐めるような視線を全身に感じます。

 とくに下半身。
 私の半開きパイパンマゾマンコ。
 リンコさまの視線は、私の顔と上半身をたゆたっては、必ずそこに舞い戻っていました。

「恥ずかしい、よね?」
「・・・はい」
「だけど、その恥ずかしさが、いいんでしょ?」
「・・・はい」
「ふーん。マゾかあ。あの純情そうだったナオっちがねぇ」
 リンコさま、愉しくってたまらない、っていうお顔。

「そのポーズは、勝手にやめちゃいけないんだ?」
「・・・はい。次に何かご命令が、下されるまでは」
「ふーん。ここにはアタシしかいないんだから、次にナオっちが命令をきくのはアタシ、っていうことになるわよね?」
「・・・はい。そうです」

「それなら、もうしばらくそのポーズでいて。あ、違うか。命令だもんね?そのポーズでいなさい、だな」
「はい・・・」
 リンコさまをすがるように見つめながらお答えすると、とても嬉しそうにニッと微笑まれました。

 全裸で立ち尽くす私をしげしげとご覧になりながら、リンコさまが私の周りをゆっくりと一周されました。

 胸元に大きなリボンをあしらったシフォンドレープのベアトップドレス。
 こんな感想は大変失礼なのですが、普段のリンコさまの服装からは想像出来ないほどフェミニンなそのお姿は、意外なことに、とてもお似合いでした。
 パステルパープルがフワフワ揺れる女性的なシルエットの中で、剥き出しの華奢な両肩と端正なネコさん顔にショートヘアが、アンドロジナスな妖しさを醸し出していました。

「こんなふうにアタシに視られているだけでも、感じちゃってる?」
「・・・はい」
「わかってて聞いたんだ。だって、さっきからナオっちのソコ、よだれタラタラだもん」
 
 私の下半身を指さすリンコさま。
 唇が少しだけ開いた無毛のマゾマンコからは、ときどき思い出したようにツツーっと、はしたないおツユが内腿を、かかとのほうへと滑り落ちていました。

「チーフと初めて会ったとき、インナーの試着しながら、フィッティングルームでイッちゃったんだって?」
「あ、えっと・・・はい」

 お姉さまってば、そんなことまで、みなさまにお教しえされちゃったんだ。
 あ、違うか。
 お姉さまが綾音さまにお伝えして、綾音さまからみなさまへ、かな。

「お店、営業中だったんでしょ?」
「はい・・・」
「他にお客さん、いなかったの?」
「えっと、数人いらっしゃったかもしれません・・・ずっと中にいましたから、確かなことは・・・」
「中って言っても、仕切りはカーテン一枚でしょ?大胆ねえ。声は我慢してたんだ?」
「・・・はい」

 興味津々なご様子のリンコさまから、矢継ぎ早なご質問。
 ランジェリーショップのあの日を、鮮やかに思い出しました。
 あのときも狭い試着室の中で、同じポーズになって、お姉さまにされるがまま、だったっけ。

「こないだのアイドル衣装の試着テストのときも、ナオっち、なんだかずいぶんエロっぽかったから、ひょっとしたら、とは思ったけれど、ここまでだったとはねえ」
 感心されているような呆れられているような、ビミョーなまなざしで私を見つめるリンコさま。

「まあ、外面は清純そうなお嬢様タイプの女子の頭の中が実は・・・っていうシチュは、エロ系創作物の定番、腐るほどありがちなんだけれどさ」
「実際こうして目の当たりにしちゃうと戸惑っちゃう。今、ナオっちはアタシの命令、なんでもきいちゃうつもりなんでしょ?」
「・・・はい。そ、そいうことに・・・なります」
 リンコさまが少し困ったような、だけどとても嬉しそうに微笑まれ、私の真正面に立たれました。

「ナオっちは、人様から辱められたいタイプのマゾなんだって?」
「・・・はい」
「みんなの中で、ひとりだけ裸だったり、恥ずかしい服装をさせられたり。そういうのでコーフンしちゃうんだ?」
「はい・・・」

「だったら、今日のイベントなんて、ナオっちの好みにドンピシャのシチュじゃん。マゾっ子としては、夢のような体験になるんじゃない?」
「あ、でも、そう言えば、どんなアイテムなのかは、知らないんだっけ?」

「さっきパンフレットだけは見せていただきました。午前中にモデルのお話をお願いされたときに」
「そりゃそうだよね。どんなの着せられるかわからないまま、引き受ける訳ないか」
 愉快そうに笑うリンコさま。

「見て、どう思った?」
「ただただ、すごいな、って」
「でしょ?テーマがエロティック・アンド・エクスポーズだもの。エクスポーズって、晒す、とか、陳列、露出、っていう意味ね」

「普段、公序良俗的に公衆で見せてはいけない部分を、いかに見せつけるか、っていうコンセプト。まさにナオっちのために作られたようなもんだよね」
 そこまでおっしゃって、ハッと何か思いつかれたような表情になったリンコさま。

「ひょっとしてチーフ、イベントのテーマをナオっちの影響で決めていたりして。ナオっちがチーフと出会ったのって、いつって言ってたっけ?」
 身を乗り出すようにリンコさまが尋ねてきました。

「横浜のランジェリーショップにお邪魔したのは今年の春、3月の始めです」
「なんだ。それじゃあ違うな。テーマが決まって準備を始めたの、1月の終わり頃だったから」
 せっかくの面白そうな思いつきが、あっという間に萎んでしまい、リンコさまがつまらなそうなお顔でおっしゃいました。

「でも、ああいう普段にはとても着られそうもないお洋服を買ってくださるお客様って、いらっしゃるのですか?」
 会話をつづけなくちゃ、と思ったので、パンフレットを見てからずっと思っていた疑問をぶつけてみました。

「それは至極真っ当な疑問よね。でもね・・・」
 リンコさまが、待ってました、という感じの得意げなお顔になられ、説明してくださいました。

「広い世間には、ああいう非日常的なアイテムに対する需要が、意外と大きくあるものなの。ある種の場所や人、ギョーカイでね」
「今日来るお客様は、そういう、ある意味、浮世離れしたところとパイプの繋がっている人たちばかりだから、余裕があったら、お客様の顔をいろいろ観察すると、面白いことがわかるかもしれないよ」

 イタズラっぽくおっしゃるリンコさま。
 ショーモデル初体験の私にお客様がたを観察するなんて、そんな余裕があるとは到底思えませんけれど。

「つまり、世間には意外と、ナオっちみたいな人種も少なからず生息している、っていうことよ。もっともアタシも、直で知り合いになるなんて、初めてだけどさ」
「そういう人たちが、着てみたいな、または、パートナーに着せてみたいな、って思うようなアイテムを、アタシたちは、一生懸命考えて、悩んで、作って、今日めでたく発表する訳」

「だから、アタシらには、そういう性癖の人たちに対して、一切の偏見はないの。もちろんナオっちにもね」
「むしろ、そういう人が仲間になって、企画とかデザインとか断然やりやすくなった、っていう感じ」
「今回のイベント、絵理奈さんよりナオっちのほうが、だんぜんお似合いだと思う。エロさのオーラが一桁違うもん。きっと大成功するよ」

 褒められているのか、面白がっているだけなのか。
 だけど、リンコさまの人懐っこい笑顔を見ていたら、モデルのお役目がんばらなくちゃ、と、今更ながら思いました。

「ついでに言うと、ナオっちがもし気に入ったのがあったら、イベント後は、ナオっちがプライベートやオフィスで着てもいいんじゃない?オートクチュールのサンプルなんだし」
「オフィスで着るのって、いいな。ナオっちがそういう格好で働いていてくれたら、アタシ、すんごくヤル気出ちゃう」

「オフィスは法人で、プライベートとは言えないけれど、万人に開かれたお店でもないんだから、そこでどんな服装で勤務してようが、そこの社員全員に文句がなけりゃ、無問題だよね?」
「アタシらはもう、ナオっちのそういうセーヘキを知っちゃったし、身に着けるのは自社ブランド製品だもの、ブランドショップの店員さんと同じよ。昔で言うところの、ハウスマヌカンだっけ?」

 ご自分の思いつきに酔ってらっしゃるのか、何の屈託なく、ものすごいことをおっしゃるリンコさま。

 そのご提案をお聞きして、少し前から頭をよぎり始めた、イベント後のオフィスでの自分の立場、という妄想が、みるみるうちに広がりました。

 さっき見たパンフレットで、うわすごい、と思ったアイテムを身に着けた自分を想像してみます。
 その姿の自分を勤務中のオフィスに置き、社員のみなさまがいらっしゃる中で、たとえば、お電話を受けたり、打ち合わせをしたり、お客様にお茶をお出ししたり・・・
 それは、考えただけでも、ものすごく恥ずかしいことでした。
 たちまちキュンキュンと粘膜が蠢き、全身がヒクヒクひくつきました。

「おっと、あんまりおしゃべりしていると、どんどん時間がなくなっちゃう。ナオっち、大丈夫?」
「へっ!?」
 話しかけられてパッと妄想が破られ、マヌケな声を出してしまう私。

「ぜんぜん大丈夫じゃないみたいね。どんどん溢れてる」
 リンコさまが私の足元を指さしました。
 内腿を滑り落ちたはしたない液体が、右足のかかとのところにこんもりと、粘っこそうに白濁した水溜りを作っていました。

「一度発散しちゃったほうがよさそう。こんなんじゃアイテムがみんなベトベトになっちゃうもの」
 ちょっとイジワルそうなニヤニヤ笑いを浮かべたリンコさまが、私に一歩近づきました。

「していいよ。そうね、20分あげる。2時45分までね。思う存分しちゃいなさい」
「・・・えっと・・・???」
「だから、ウズウズしてるんでしょ?自分で慰めなさい、っていうこと。クリちゃん、そんなに腫らしちゃって」

「あの、私がひとりでする、っていうことですか?」
「そう。アタシも出来ることなら、ものすごく手伝いたいんだけれど、このドレス、シルクだから水シミになりやすいんだよね」

「そういうおツユとか飛び散っちゃうと、これから人前に出るのに、ちょっとヤバそうだからさ。ナオっちのからだは、さっきからずっと、すぐにでも弄ってみたいんだけど、今日のところは我慢しとく」
 リンコさまが本当に残念そうにおっしゃいました。

「ちなみにチーフからは、キスとアヌス虐め以外なら、どこをどうしてもかまわない、っていう許可も、もらってるんだけどね。本当残念」
 たぶん、みなさまが会場へ行かれる前、おふたりでヒソヒソ話をされていたときにでしょう。

「ナオっち、アヌスも開発済みなんだ?チーフにしてもらったの?」
「は、はい・・・」
「ふーん。チーフもあんな顔して、やることはやってるんだね。あ、でもそっか。今日のアイテムにはプラグ挿すのも、あったんだっけ」

「でも、キスにNG出すっていうのは、恋人同士らしいよね。ナオっち、愛されてるじゃん」
 リンコさまのひやかしに、たちまちすっごくシアワセな気持ちになりました。

「ま、とにかく今日は、ナオっちのオナニー鑑賞で我慢しておくことにする。この先、また何度もチャンスありそうだし」
 明るい笑顔で、ゾクゾクしちゃうようなことをサラッとおっしゃるリンコさま。
 マゾの服従ポーズのまま立っている私の真正面、2メートルくらい離れたところに椅子を移動し、そこにお座りになりました。

「ほら、早く始めないと時間なくなっちゃうよ?ポーズはもう解いていいから」
「は、はい・・・」
「ここからナオっちのアヘ顔、じっくり視ててあげる。あ、でも今日は、スーパーモデル、夕張小夜ちゃんのアヘ顔だったか」

 目の前のリンコさまを見つめながら、ゆっくり両手を下ろしました。
 恥ずかしさより戸惑いが勝っている感じで、どうやって始めたものか、と考えてしまいます。

「そっか。命令されないと、その気になれないのかな?じゃあ、命令してあげよう」
 リンコさまが立ち上がられ、近づいてきました。

「まず、その1。立ったまますること。どんなに気持ち良くてもひざまずいちゃダメ。膝小僧赤くなってるモデルなんて、超カッコワルイでしょ?」
「しゃがむのはオーケーだけど、お尻を床についちゃダメ。理由は膝と同じ」

 間近に見るリンコさまの瞳が、エス色に染まりつつあるように感じました。
「返事は?」
「あ、はいっ」

「その2。なるべくたくさんイクこと。イッた後も手を休めず、アタシがいいと言うまでイキつづけるの。どんどんどんどん。エロい気持ちがすっからかんになるまで」
「はい」

「その3。イキそうなときは、必ずアタシに許可を取ること。イキそうです、イッていいですか?って。まあ、こういうプレイのお約束だけれど」
「アタシがいいって言ったらイッて、ダメっていったら許可するまで我慢ね」
「はい」

「その4。なるべく肌を虐めないように。全身よ。これから人前に出て裸を晒すんだから、おっぱい揉み過ぎて赤く腫らしたりしないように」
「必然的に、弄れるのはオマンコの中と乳首くらいになっちゃうけれど、今のナオっちなら充分よね?」
「は、はい。大丈夫、です」

 リンコさまのお口から、さりげなくオマンコなんていうお下品なお言葉が出てドキン。
 いつになく冷たく響くリンコさまからのご命令のお声を聞いているうちに、全身がどんどん疼いてきて、いてもたってもいられなくなってきました。

「そんなとこかな。あ、あとそれからね・・・」
 リンコさまが一度テーブルのほうへ向かわれ、ご自分のバッグをちょっとガサゴソされてから戻られました。

「さっき、しほりんが別れ際、こんなもの渡してくれたんだ」
 右手に持っていたある物を見せてくださいました。
「これで、ナオコの尖った乳首や腫れ上がったクリットを挟んだら、面白そうじゃない?なんて言ってた」

 その、ある物は、ビューラーでした。
 まつげを挟んでクルンとさせる、別名アイラッシュカーラー。
 ハサミみたいな持ち手が付いて、ハサミみたいにチョキチョキすると、まつげを挟むシリコン部分が開いたり閉じたりする仕組み。
 実は私も、自虐オナニーで使ったことのある、お気に入りのお道具。

 見た瞬間にその感触を思い出しゾクゾクしていたとき、ほぼ同時に実際に、左乳首を同じ快感がつらぬきました。
 リンコさまが素早く、私の左の乳首をビューラーに挟み、力任せにギュッと挟み込んだようでした。

「はぁっぅぅぅーーっんぅんぅんぅうっ!」

 カチコチに固くなった乳首を思い切り絞り上げられ、激痛とともに得も言われぬ快感が脳天を突き抜け、自分の耳にもおぞましいほどの、はしたない歓喜の淫声が喉奥からほとばしり出ました


オートクチュールのはずなのに 49


2016年4月24日

オートクチュールのはずなのに 47

 即席のメイクルームとした場所は、リビングルーム中央にあるダイニングテーブルのすぐ脇。
 リビングへ入った途端、真っ先に視界へと飛び込んでくる場所で、私はご丁寧にもリビングの入口のほうに向いて立っていました。

 先頭を歩いていらした早乙女部長、いえ、綾音さまと目が合うと同時に、ガヤガヤがピタリと止まり、お部屋の中が静まり返りました。
 綾音さまだけが笑みを浮かべられ、他の4名の方々は、立ち止まったままギョッとしたようなお顔で私を見ていました。
 咄嗟に胸と股間を隠そうと、両手がピクッと動いたのですが、訪れた沈黙の重さにそのまま固まってしまい、結局、元の立ち尽くし姿勢のままでいました。

「すごくいいじゃない?しほりさん」
 綾音さまがツカツカと近づきながら、私の横のしほりさまにお声をかけられました。
「ええ。わたし自身も納得のいく出来栄えです」
 しほりさまが満足そうにおっしゃって、私を視ました。

 綾音さまから数歩遅れで、恐る恐るという感じでこちらへとジリジリ近づいてこられる他のみなさま。
「ナオっち・・・だよね?」
 私の顔を穴が空くほど見つめたまま、リンコさまが尋ねてきました。
「あっ、しほりん、オハヨー」
 取ってつけたようにしほりさまに小さく手を振るリンコさま。

「違うわよ。わたくしが東奔西走してようやくみつけてきた、代役のモデルさんよ」
 綾音さまがご冗談ぽくおっしゃる横で、コクンと首を縦に振る私。

「やっぱりナオちゃんなんだ。すごい、見違えちゃったじゃない」
 間宮部長、いえ、雅さまのお顔がパッとほころび、私に駆け寄ってきました。
 
 いつものように抱きつこうとされたのでしょうが、私が全裸なことに今更ながらお気づきになったようで、50センチ手前くらいで立ち止まると、嬉しそうなお顔であらためて、私の全身を吟味するようにしげしげと見つめてきました。
 ほのかさまとミサさまはまだ、信じられない、という微妙なお顔つき。

 不躾な視線、好奇の視線、気まずそうな視線・・・
 それらをいっぺんに集中放火され、私、どうにかなっちゃいそう。
 それも昨日までは普通に、同じオフィスでお仕事をご一緒してきたかたちから。

「みんな揃ったわね。早乙女部長から聞いたと思うけれど、そういうことになっちゃったの。今日は破れかぶれでいいから、イベントが成功するように、一丸となってがんばりましょう」
 いつの間にか背後にいらしたお姉さまが、私の頭越しにみなさまにおっしゃいました。
 それから私の正面に来られ、顔をじーっと見つめられました。

「いい感じじゃない、しほりさん。これなら直子を知っている人が見ても、絶対、直子とは思わないはずよ」
 お姉さまのご登場で、ようやく場が和み始めたようでした。

「そうですよね。アタシ、部屋に入った途端、なんだ、絵理奈さん来ているんじゃない、って思いましたもの。ウイッグ変えたんだ、って」
 リンコさまのお言葉に雅さまも大きくうなずかれました。
「うんうん。ワタシは絵理奈さんをよく知らないから、単純に、ずいぶんセクシーなモデルさんがいるな、って思った」

 さすがに晴れのイベントの日。
 みなさま、とてもおめかしされていました。

 シックな黒のタイトスーツでビシっとキメたお姉さま。
 光沢のあるワインレッドのイブニングドレスを艶やかに着こなした綾音さま。
 ストライプのパンツスーツがマスキュリンかつエレガントな雅さま。
 ミルキーベージュのアフタヌーンドレスで清楚に佇むほのかさま。
 いつもの服装からは想像できないベアトップのパーティドレスで超フェミニンなリンコさま。
 本番でパソコンや機材をを駆使しなくてはならないミサさまは、動きやすそうなミリタリーっぽいオシャレな制服風、きっと何かのアニメのコスプレなのでしょう。

 しほりさまも含めて、そんなオシャレに着飾ったレディたちに取り囲まれた私だけ、一糸も纏わぬ丸裸。
 顔だけは綺麗に飾っていただいたとは言え、女性として普段みなさまに隠しておかなければいけない、性的な箇所はすべて剥き出しのまま立ち尽くす、みじめな私。
 今日何度目かわからない、ほろ苦くも甘酸っぱい羞じらいと屈辱に、全身が熱く火照りました。

「ねえ、ナオっちの顔って、なんか、ゴーゴー、って感じがしない?」
 リンコさまが誰に、というわけでもなさそうな感じでポツンとおっしゃいました。
「わかる。キルビルでしょう?」
 逸早く応えられたのは、雅さまでした。
「ワタシ、あの女優さん、大好きなんだ」

「ハーイ!」
 突然ミサさまに向けて、お顔の横で小さく手を振るリンコさま。
「ゴーゴーダネ」
 すかさずミサさまが、外国人さんぽいカタコトな発音で受けられました。
「ビンゴ。そっちはブラックマンバ」

 そこまでつづけたリンコさまが、ミサさまとお顔を合わせてクスクス。
 雅さまもほのかさまもしほりさまもお姉さまも、知ってる、というふうにうなずく中、ただおひとり、綾音さまだけが怪訝そうなお顔。

「なにそれ?」
 そのお顔のまま綾音さまが、傍のリンコさまに尋ねられました。
「キル・ビルっていう、そこそこ話題になったヘンテコな映画がありまして、それに出てくるゴーゴー夕張っていう女子高校生の殺し屋が、今の森下さんの顔によく似ているんです」

「へー、そうなの?わたくしは、こんなヘアスタイルを見ると真っ先に、山口小夜子さんを思い出してしまうけれど」
「ああ。パリコレに日本人モデルで初めて出演されたっていう、伝説のモデルさんですね」
 一同が深く頷かれました。

「なるほどね。それじゃあ直子のモデルとしての芸名は、夕張小夜、にしましょう。ちょうどさっきひとりで、どんな芸名にしようか考えていたところだったの」
 お姉さまが私の顔を見ながらおっしゃいました。

「ゆうばりさよ、なんだかカッコいいじゃない?」
「ええ。この容姿にぴったりな、聞いた途端、なるほど、って思う、らしい名前ね。いいと思うわ」
 ひとしきり、いいねいいね、のざわめきが立ちました。

 私の顔についての議論が一段落してモデル名が決まる頃には、みなさまの視線は当然の事ながら、私の顔以外に散らばり始めていました。
 とくに、胸のふくらみの先端と下腹部に、興味津々な好奇の視線が頻繁に突き刺さってきます。
 誰も何もおっしゃらず、しばし決まりの悪い沈黙がつづきました。

「さあ、本番前の最終確認をするから、みんなホワイトボードの前に集まって」
 沈黙のあいだ、ずっとニヤニヤとみなさまのご様子を眺めていたお姉さまが、ふと時計を見てあわてたようにパンッとひとつ拍手をし、少し離れたホワイトボードの方へとみなさまを誘導されました。
 ホワイトボードには、今日のイベントの段取りや会場の見取り図が書かれていて、結婚式の二次会パーティみたいに着飾った華やかなみなさまが、ぞろぞろそちらへと移動していきました。

「さ、わたしたちも仕上げてしまいましょう。座って」
 しほりさまに促されて座ると右手を取られ、マニキュアが始まりました。

 ホワイトボードの前では、お姉さまと綾音さまを中心にキビキビと、最終打ち合わせをされています。
 時折お姉さまがこちらを指さし、みなさまが一斉にこちらを振り向きます。
 みなさまから見ると横向きに座っている私は、相変わらず尖りきっている乳首が恥ずかしくてたまりません。

 マニキュアが終わり、つづいてペディキュアのために両脚を向かい側のソファーへ投げ出すように指示されたとき、打ち合わせが終わったようでした。
 みなさまが再びこちらへ集まってこられ、私は座ったまま、右足を向かいのソファーの上に、股を30度くらい開いた左足をしほりさまの手に取られた格好で、みなさまを迎えました。

 立っているみなさまから、私の30度くらいに開かれた両腿の無毛な付け根を、ちょうど真下に見下ろされるような姿勢でした。
 当然のことながら、みなさまからの視線はソコに集中していました。

 ちょっと離れたところでは、お姉さまとリンコさまがおふたりで、私のほうをチラチラ見ながら何かヒソヒソとお話しされていました。
 その他のみなさまは私としほりさまを取り囲み、ペディキュアされつつある私の足先を含む下半身全体を、じっと無言で見守っていました。

 おそらくみなさまも、裸の私に内心ではドギマギされていたのだと思います。
 おちゃらけて冷やかしたり、からかうワケにもいかないし、かといって、会社のためにごめんね、とか、がんばって、ていうのもなにか違うし。
 かける言葉がみつからないから、黙っている。
 そんな、何て言うか、お気遣いをされているような重苦しい雰囲気でした。

 少しして、お話しが終わったらしいお姉さまとリンコさまが輪に加わりました。

「直子、じゃなくて夕張小夜さんは、開演時間、つまり3時になったらここを出て会場に向かって」
 戻ってこられたお姉さまがみなさまにもお聞かせするみたいに、少し大きめなお声でおっしゃいました。
 ようやく沈黙が破られ、私はホッ。

「えっ!?そんな時間で大丈夫なのですか?」
 再び場が沈み込むのが怖かったのと、実際、段取りが不安になったので、間髪を入れずにお尋ねしました。

「もうそろそろお客様が集まって来る頃だからね。開場して、お客様を会場に収容し終わってからのほうがいいと思って」
「入場待ちのお客様がゾロゾロいるところにノコノコ出て行って、せっかくのシークレットモデルが開演前に顔バレしちゃったらつまらないじゃない」

「大丈夫よ。最初はあたしの挨拶だし、早乙女部長の挨拶もあるし。それに、しょっぱなのアイテムは着付けに手こずらないシンプルなやつだから」
「直子も、楽屋入ってスグ本番、無駄にドキドキする時間が無いほうが気がラクでしょう?3時20分見当でお願いね」

「という訳で、あたしたちは先に会場に入っているから。夕張さんの付き人はリンコね。もともと絵理奈さんだったとしてもリンコがする役目だったから、問題無いわよね?」
「はい。もちろんです」
 リンコさまが、なぜだかずいぶん嬉しそうにうなずかれました。

「夕張さんは、あとはリンコの指示に全面的に従って。しほりさんは頃合いを見計らって楽屋でスタンバってください。それじゃあみんな、無事終演までがんばりましょう」
「おーーっ」
 お姉さまの後ろをみなさまがゾロゾロとついて、玄関へと向かわれました。

 私の傍を離れるとき、ほのかさまが私の右耳に唇を寄せてきました。
「なんだか大変なことになっちゃったけれど、がんばってね。今日の直子さん、とっても素敵よ」
 ヒソヒソ声で早口におっしゃってからニコッと微笑まれ、あわててみなさまの後を追っていかれました。
 雅さまとミサさまは笑顔で振り向きつつ、大げさに手を振ってくださいました。

 玄関ドアが閉じる音がして、再び静寂が訪れました。
「ふぅー。これにてすべて終了。乾くまであと5分くらい、動かず、触らずでお願いね」
 私の右足をソファーに戻され、しほりさまが立ち上がられました。
 私の両手両足の爪はすべて、艶やかなローズピンクに染まっていました。

「わたしも大急ぎで片付けて、楽屋でまたお店を広げなくちゃだわ」
 しほりさまがお道具のお片付けを始められました。
「アタシも手伝うよ」
 リンコさまが姿見をどかしたり、散らばったティッシュを拾い始めます。
「ありがと」
 リンコさまに向けてニコッと微笑むしほりさま。

「しっかし驚いたよねえ。ナオっちがこんなことになっちゃうなんて」
 テキパキとお片づけしながらも、おしゃべりは止まらないリンコさま。
 興味津々なご様子が、全身からほとばしっています。

「わたしだって驚いたわよ。いきなり全裸の女の子に出迎えられて、社長さんからは、この子マゾだから、って紹介されたのよ?」
「そうなんだ。それはびっくりするよねー」
 おふたりでキャハハと屈託なく笑い合うお姿は、どうやらとっくに仲良しさんのようでした。

「ナオっちがマゾっちていうのは薄々感じていたけれど、チーフとSMスールの関係だったなんて、アタシには晴天の霹靂だったよー」
「ロープもローソクも楽しんでいらっしゃるご関係だそうよ」
 そのへんはとっくに取材済みよ、とでもおっしゃりたげな、しほりさまのお得意げなお顔。

「さっきもナオコ、じゃなくて夕張さんにボディローション塗っていたら、どんどん感じちゃって苦しそうだったの。だから、イカセてあげようか?って聞いたら、とても嬉しそうだったわ」
「うわー。しほりん大胆。って言うか、しほりんまで、ナオコって、呼び捨てなんだ?」
「うん。社長さんがそう呼べって。それにナオコも自分から、わたしに絶対服従するって宣言してくれたのよ」
「うわー。なんだかエロ小説の世界だね。でもアタシも、さっきチーフに言われたんだ。ナオっちを好きにオモチャにしていい、って。スタッフ全員に絶対服従って言い聞かせてある、って」

 そうおっしゃって、私の顔をイタズラっぽく覗き込んでくるリンコさま。
 ペディキュアが乾くまで動くなというご命令ですから、私は同じ姿勢のまま、気弱に微笑み返すくらいしか出来ません。

「それに、もしナオっちがサカっているようだったらイカせちゃってくれ、って頼まれちゃった。裸を視られているだけで感じちゃうような子だから、本番でヘマをしないように、って」
「それが賢明よね。今だって、ほら」

 しほりさまが呆れたようなお顔で、私の股間を指さされました。
 しほりさまは、気心の知れたリンコさまとおふたりきりになってリラックスされているのか、私に対する口調や表情、態度にエス度が露骨に増していました。

 その指さされた股間は、自分で形容するのがためらわれるくらい、はしたない状態でした。
 しほりさまとリンコさまの、私の性癖に関する情け容赦無いあけすけな会話をお聞きしていて、羞恥と被虐が股間に蓄積された結果でした。
 脚を30度くらいにしか開いていないのに、ラビアがパックリ開ききり、溢れ出た淫液が合皮のソファーにこんもり水溜りを作っていました。

「うわー。これってつまり、感じちゃっているんだよね?ナオっち、インラーン」
「わたしは仕事だから、もう行かなくちゃだけれど、リンちゃんは役得ね、いいなあ」
「ガンガンイカせちゃっても大丈夫よ。メイクもボディも、イベント中保つように強力なウォータープルーフにしたから、ちょっとやそっとじゃ崩れないはず」

 臨時のメイクルームはすっかり片付き、テーブルの上にはしほりさまの大きなバッグだけ。
「ナオコももう動いていいわよ。ただ、まだあんまり塗った所をさわらないこと」
 お言葉に促され、投げ出していた両脚をそっと床に下ろしました。
 潤んだ股間を閉じるとひんやり。

「おおー。しほりん女王様、っていう感じじゃん」
 リンコさまのからかうお声に、ニッと微笑むしほりさま。
「もっと面白いもの、見せてあげる。ナオコ、立ちなさい」
 すっかりエスモードとなった冷たいお声のご命令に、私はゾクゾクしながら立ち上がりました。

「わたしの真正面に」
 しほりさまが照明の真下の明るい場所に移動され、私もついていきました。
 もちろんリンコさまも。

「いい?よく見ていてね」
 斜め後ろのリンコさまを一度振り向いて念を押し、再び私と向き合います。
 あれだろうな、と思ったら、やっぱりあれでした。

 正面に立たれたしほりさまが私を無表情で見つめ、一瞬間を置いて、少し上を向くような仕草をされました。
 お綺麗に尖った顎が私に向けられます。
 同時に私は、下ろしていた両手をまず、降参、みたいな形に肩のところまで上げ、それから頭の後ろ側に回して重ねました。
 
「なにそれ?なにそれ?なんかヤバイ。ゾクッとした」
 リンコさまが身を乗り出してこられ、私としほりさまを交互に見比べています。

「マゾの服従ポーズ、っていうみたいよ。恥ずかしい箇所を無防備にして、服従の意志を表わしているんですって」
「もともとは社長さんとナオコのあいだだけの取り決めだったらしいけれど、なぜだか今日、わたしも使えるようになっちゃった」
 しほりさまが可笑しそうにおっしゃいました。

「顎をしゃくるだけでいいの。もちろんリンちゃんも使えるはずよ。そうよね?ナオコ?」
「・・・はい、もちろんです・・・よろしくお願いいたします、リンコさま」

 私はこんなふうにして、社員のみなさまに服従を誓い、全員の共有マゾドレイになっていくんだ・・・
 そんな想いに全身を震わせながら、すがるようにリンコさま見つめました。
 すっごく嬉しそうなお顔のリンコさま。

「ああん、もうこんな時間。早く行って準備しなくちゃだわ」
 しほりさまが時計をご覧になって、残念そうにショルダーバッグに手をかけました。
「開演まであと一時間ちょっと。わたしにはギリギリだけれど、リンちゃんにはたっぷりよね?羨ましい」
 しほりさまが右肩にバッグを担ぎ終え、私を正面から見つめたままつづけました。

「あたしの代わりにナオコをたっぷり可愛がってあげて。本番でサカッちゃわないように」
「うん。任せといて。あ、カートは玄関までアタシが引いていってあげるよ」
 弾んだお声のリンコさまが、しほりさまのカートに手をかけました。

「それじゃあ、また後ほどね、ドマゾの夕張小夜さん。それと、さっきの約束、忘れないでよ」
 背中を向けたしほりさまをリンコさまが追いかけました。

 私はマゾの服従ポーズのまま、おふたりのお背中を眺めていました。
 この後ふたりきりになったら、リンコさまは私を、どう扱われるおつもりなのだろう?
 人懐っこくて気さくで、いつも明るいリンコさまをよく知っているだけに、お姉さまや綾音さま、そしてしほりさまのように、エスに傾いたリンコさま、というのが、ちょっと想像しにくい感じでした。
 心の中で期待と不安が半分ずつ、シーソーのようにギッタンバッコンしていました。


オートクチュールのはずなのに 48