2016年4月11日

オートクチュールのはずなのに 45

 盛大にあわてました。

 えっ!?ど、どうしよう・・・私今、裸だし・・・メイクの人って?お会いしたこと、たぶんないし・・・あっ、今私、頭にタオル巻いたままだった・・・取ったほうがいいかな?でもまだ全然乾いていないし・・・
 初対面でタオル巻いたままなんて、失礼よね?でも、濡れ髪のザンバラじゃ、もっと失礼かも・・・ううん、失礼って言ったら、裸が一番失礼よね・・・
 そうだ、何かお飲み物のご用意もしなくちゃ・・・お湯は沸いているのかな?今から沸かしていたら遅くなっちゃうな・・・

 ピンポーン!

 ただただあたふたしているうちに、ご来訪を告げるチャイムが鳴り響きました。
 あ、はいはいーっ!
 反射的に大急ぎでインターフォンに飛びつきました。

「はいっ」
「あ、ヘアメイクの谷口と申します。早乙女部長様から、ここへ来るように言われまして・・・」
「は、はい。お待ちしておりました。少々お待ちください」
 
 受話器を戻して、今度は盛大にうろたえます。
 落とした視線のすぐ先に、剥き出しの乳房がプルプル震えていました。

 と、とにかくお出迎えしなくちゃ。
 左腕で胸を庇うように隠し、右手で股間を押さえた格好でペタペタと、玄関まで走りました。
 沓脱ぎで片足にサンダルをつっかけ、ドアノブに右手を伸ばして鍵を開けます。
 
 カチャン。

 自分でたてた音にビクンとしつつ、そーっと外開きのドアを開けていきます。
 左腕はずっとバスト、右手は伸ばしてドアノブにかけているので、股間は隠しようがありません。
 なので、内股でお尻だけ後方に突き出すように腰を引いた、絵に書いたような屁っ放り腰の私。

「このたびは、うちの絵理奈が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたっ!」
 
 ドアを半分くらい開けたところで、ドア前で黒ずくめな女性が、深々とお辞儀をされているのが見えました。
 両脚と上半身が腰で直角になるくらい折り曲げた、それはそれはご丁寧なお辞儀。
 そのかたの頭頂部のつむじを、私が見下ろすような格好で数秒が過ぎました。

「あ、いえ、あの、えっと、ど、どうぞ、とりあえず中へお入りください・・・」
 下を向きっ放しのそのかたへ、そうお答えする他ありません。
「はい。それではお邪魔させていただきます」
 多分そのかたも緊張されているのでしょう、ずいぶんと堅苦しい口調でおっしゃって、上半身をゆっくり起こし始めました。

 まだ沓脱ぎ内には入ってくださらないので、私の右手はドアノブを掴んだまま。
 股間を隠すことは出来ません。
 完全に上体を起こしたそのかたは、一瞬、呆気にとられた表情で私を見つめたまま固まりましたが、すぐにニッと白い歯を見せて微笑まれました。
 セシルカットっぽいショートヘアがよくお似合いな、人懐っこい感じの素敵な笑顔でした。

 身長は私と同じくらい。
 シンプルな黒のラウンドネックカットソーにブラックジーンズで、スリムなプロポーションがスラっと決まっています。
 胸元にゴールドの細いネックレスがキラキラ揺れて、いかにも仕事が出来そうな、華やかなギョーカイの人、という感じ。

「あ、ごめんなさい。間が悪かったみたいですね。シャワーの途中でしたか?」
「あ、いえ、そうじゃないんですけれど、あ、そうだ、スリッパ、スリッパ」
 なんとなくそのかたが、私が裸なことをさして気にされていないようなご様子だったので、私もなんとなく気がラクになり、バストを隠すのをやめ、しゃがみ込んでスリッパをご用意しました。

「えっと、とりあえず、こちらへおかけください。お荷物はテーブルの上にどうぞ」
 裸のお尻に強い視線を感じつつ先に立ち、お部屋の奥へと誘導しました。
 お部屋の真ん中にあるダイニングテーブルの椅子をひとつ引き、お勧めしました。
 そのかたは、右肩に大きなショルダーをかけ、アンティークなトランク風のオシャレなカートを引いていました。

「あ、今何か、お飲み物ご用意しますので、しばらくおくつろぎください」
「あ、いえいえ、おかまいなく。渡辺社長様は、まだお見えではないのですか?」
「あ、えっと、お姉さ、あ、いえ、社長、じゃなくてチーフは、今ちょっと別室で・・・あ、すぐに出てくるとは思います」
 ふたりでぎくしゃくした会話をした後、私はキッチンへと逃げ込みました。

 冷蔵庫にペットボトルの緑茶があったので、グラスに注いでお出しすることにしました。
 トレイにグラスを並べて注いでいると、リビングのほうからお声が聞こえてきました。

「わざわざありがとうね、しほりさん。今、ちょっと着替えていたところだったから、ご挨拶が遅れちゃった」
「あ、社長!」
 ここで、おそらくヘアメイクのかたがお席を立たれたのであろう、ガタガタッという物音。
「このたびは、うちの絵理奈がご迷惑をお掛けしてしまって・・・」

「いいっていいって。急病じゃ、仕方ないわよ。盲腸なんて、予防のしようがないもの」
「おかげで、うちとしても、思いがけなく面白そうな展開になってきたのよ。まあ、ある意味ギャンブルでもあるけれど」

「あのアイテムを着こなせる代理のモデルさん、よくみつけることができましたね?昨日の今日、いえ、今朝の今なのに」
「ラッキーだったわ。モデルを絵理奈さんに決めていたからこそ、みつけられたとも言えるのよ。絵理奈さんにそっくりな体型の子が、たまたま身近にいたから」

 ヘアメイクのかたの恐縮されたお声と、お姉さまの愉しそうなお声が交互に聞こえ、私は、お茶をお持ちするタイミングを掴めずにいました。

「そう言えばさっき、驚いたでしょう?いきなり真っ裸の子に出迎えられて」
「あ、はい。ちょっと焦りました。でもわたし、絵理奈とか、イメビの現場でそういうのは慣れていますから。それに、たまにアダルトの現場にも呼んでいただいていますし」
「へー。そういうお仕事もされるんだ。面白そうね。興味あるから、後でゆっくりお話聞かせて?」
「ええ。それはいいのですけれど、さっきの裸のかたが絵理奈の代役を務めてくださるのですね?確かにプロポーションがほぼ同じに見えました」

「そう。絵理奈さんに合わせたオートクチュールを、奇跡的に着こなせそうな、我が社を救ってくれる今回のイベントの救世主なの」
 お姉さまがご冗談ぽくおっしゃってから、声量を上げてこちらへお声をかけてきました。
「ほら、直子?早くこっちへ来てご挨拶なさい」

 グラスを載せた銀盆を両手で持って、しずしずとお姉さまたちに近づきました。
 お姉さまも、頭にはまだタオルを巻いたままで、ゆったり気味なマリンブルーのロングTシャツ一枚のセクシーなお姿。
 ファンデーションとアイブロウまでは終わった、みたいな、お化粧真っ最中なお顔でした。

 お姉さまもヘアメイクのかたも、にこやかなご様子でこちらを向いて、じーっと私を見つめてきます。
 両手が塞がっているので、おっぱいも股間も、もちろん隠せません。

「直子、こちらが今回お世話になる、ヘアメイクアップアーティストの谷口しほりさん」
 私がトレイをテーブルに置くのを待って、お姉さまがご紹介してくださいました。
「しほりさん、この子が今日、絵理奈さんの代わりをする、臨時モデルの森下直子」

「あ、はい。森下さん、はじめまして。よろしくお願いします」
 しほりさまが立ち上がられ、私に向けてペコリとお辞儀をしてくださいました。
「あ、こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
 私もあわててお辞儀を返します。
 おっぱいがプルンと揺れました。

「あら、いいのよ、しほりさん。この子のことは、直子って呼び捨てにしちゃって。うちの社員なの。今日いらっしゃる他のお客様がたには内緒にして欲しいのだけれど」
「えっ!?でも今日、モデルをやられるのですよね?ぶっつけ本番で」
 私とお姉さまのお顔を交互に見つつ、信じられない、というお顔をされるしほりさま。

「この子にしか、今回のアイテムは体型的に着こなせないから、苦肉の策なの。幸い本人もやる気になってくれたし、まあ、素養もあるみたいだから」
「そうだったのですか」
「だから、ショーのモデルのノウハウに関しては、ドが付くくらいの素人なの」

 そこまでおっしゃって、お姉さまがしほりさまに、再び腰掛けるよう促しました。
 しほりさまはお座りになられましたが、私にはご指示がないので、そのまま立っていました。

「それで今日はね、この子をメイクの力で、出来るだけ別人に仕立て上げて欲しいのよ。イベントにいらしたお客様が後日、素の直子に会っても気づかないくらいに」
「ああ、なるほど。あくまで実在する架空のモデルさん?あれ?変な言い方でしたね、だと思わせちゃうわけですね?」
 しほりさまが興味津々のお顔でうなずかれました。

「確かに、今日絵理奈が着るはずだったアイテムですと、ショーのモデルが社員さんてわかったら、後々のお仕事が、いろいろとやりづらいかもしれませんね、お取引先さんとか」
「でしょ?」
「絵理奈も本来なら今日は、名前は売らないイレギュラーなお仕事として、過剰気味なメイクで臨むはずでしたので、その点は用意もしてあるし、大丈夫と思います」

 腰掛けられたおふたりが、私をジロジロ眺めながら会話を弾ませていらっしゃいました。
 視線が来ているのはわかっていたのですが、今更バストや下を隠すのもヘンなので、両手をだらんと下げたまま、手持ち無沙汰で立っていました。
 ちゃんとお洋服を召したおふたりの前にひとり全裸で立ち尽くしている、というのは、見世物にでもされているようで、なんだかみじめで、とても恥ずかしいものでした。

 しほりさまは、とくに私の下半身を熱心にご覧になられているような気がしました。
 恥丘のあたりをじっと視て、それから顔を視て、私に向けてニッと微笑まれる。
 そんなことが数回、ありました。
 そのたびに私の頬は、どんどん火照っていきました。

「それで、直子の扱い方、なのだけれど、この子って、マゾなの」
 お姉さまが世間話するみたいに、サラッと言い放ちました。
「へっ?」
「それも、ドがつくほどのヘンタイマゾ」
「はあ・・・」
 しほりさまがリアクションに困られています。

「だから、何て言えばいいのかな、恥ずかしがりのクセに視られたがりで、人がたくさんいるところで裸になりたがり、って言うか」
「つまり、恥辱願望。露出狂女。恥ずかしいメに好んで遭いたがる、みたいな。そんな種類のドマゾなの」
「・・・」
「そうよね?直子?」

 お姉さまがこちらを向いて、冷たい瞳でニヤッと微笑まれ、一瞬間を置いて、顎を軽く上にしゃくられました。
 私とお姉さまにしか、わからない秘密の合図。
 その合図があったら、私は直ちに、あるポーズを取らなくてはいけません。

 両手を合わせて頭の後ろへ、両足を、やすめ、に広げ、顔はまっすぐお姉さまに向けて。
 おっぱいも腋の下もマゾマンコも、すべてを包み隠さずお姉さまにご覧いただく、マゾの服従ポーズ。
「・・・はい。おっしゃる通りです、お姉さま」

「ね?」
 お姉さまがしほりさまに微笑まれました。
 マゾの服従ポーズな私をまじまじと見つめ、唖然としたお顔のしほりさま。

「直子にとって、あたしはお姉さまで、あたしの言うことは何でも聞かなくてはいけないの。あたしたちは、そういう関係」
「それで、今日のイベントモデルは、そんな直子のヘンタイ性癖を、堂々と仕事として、たくさんのお客様がたにご披露出来る、直子にとってご褒美イベントでもあるの」

「その代わり、失敗は許されないから、イベントが終わるまで、あたしのどんな命令にも絶対服従。ううん。あたしだけではなく、早乙女部長にも、他のスタッフ全員にも。そう言い渡してあるの」
「そこに今、しほりさんも加わったというワケね。しほりさんのご命令にも絶対服従よ、いいわね?直子?」

「・・・はい。よろしくお願いいたします、しほりさま」
 マゾの服従ポーズのまま、しほりさまをすがるように見て、お辞儀をしました。
「好きなように弄っちゃって、もしも何かわがまま言ったら、ひっぱたいちゃっていいからね。多分それで、直子は悦んじゃうでしょうけれど」
 お姉さまがイジワルっぽくおっしゃって、しほりさまは困ったような苦笑い。
 でも、なんとんなく嬉しそうなご様子でした。

「とりあえずわかりました。それではまず、ウイッグから決めちゃいましょう」
 苦笑いが引っ込むと、抑えきれない好奇心で、そのおふたつの瞳が爛々と輝き始めたしほりさま。
 私の全身を遠慮無い視線で舐めるみたいにじっくりと眺められてから、お姉さまにお尋ねになられました。

「大きめな鏡ってありますか?違うお部屋にあるなら移動してもよいですけれど」
「ああ、洋間に姿見があったわね。ここに移動してくるから、そこのソファーのところを使いましょう」
 お姉さまが答えられ、席をお立ちになりました。

「ほら、直子も手伝って。しほりさんのお荷物をお持ちなさい」
「は、はい」
 マゾの服従ポーズを解くお許しが出て、テーブルに駆け寄りました。

「それじゃあ直子さん、これ、持ってくれる?」
 しほりさまが肩から提げられていたショルダーバッグを指さされました。
 なんだか急に気安くなったそのおっしゃりかたで、しほりさまも私を蔑むことに決めてくださったのだとわかりました。

「重いから、落とさないように気をつけてね」
 両手で持ち上げてもかなり重い。
 しほりさま、あの細い肩にこんなに重いバッグを提げられていたんだ。
 思わず尊敬の眼差し。
 両手で持ってヨタヨタとソファーまで運びました。

 お姉さまが洋間からキャスター付きの姿見を転がしてこられ、いったんソファーのところに置きましたが、壁際でちょっと暗い、ということになり、それからソファーごといろいろ移動して、最終的には中央のテーブルから少し離れた、照明下の明るい場所に落ち着きました。

 私の座るソファーを中心にして、周りにソファーやテーブルを囲むように置き、即席のメイクルームが出来上がりました。
 テーブルの上には、しほりさまのメイクアップお道具がズラリと並べられました。

「これが絵理奈が着けるはずだったウイッグです」
 しほりさまが黒髪がツヤツヤなウイッグを取り出しました。
「ちょっと失礼するわよ」
 鏡に向かっている私の背後に立ったしほりさまが、私の髪に巻いたタオルをスルスルッと解きました。

「あっ、まだ濡れているかもです」
「大丈夫よ、今は試すだけだから」
 地毛を手際よく頭上にまとめられ、慣れた手つきでネットをかぶせられました。

「こんな感じですね」
 明らかにお姉さまだけに向けられた、しほりさまのお言葉。
 緩いウエーブのサイド分け、胸に届かないくらいのセミロング。

「へー。なんだかゴージャスだけど、ちょっと重いかしら」
「もうひとつは、こんな感じです。黒髪限定ということだったので、今日は黒髪しか持ってきていませんが」
 スポッと外され、スボっとかぶされました。
 もっとウエーブの派手めな、もっとゴージャスなセミロング。

「ふーん。なんかピンとこないかな。あとは無いの?」
「あとは、これですね」
 目の上で前髪をまっすぐパッツン、ストレートセミロング。
「あっ!」
 思わずお姉さまと鏡の中で目が合いました。

「これね。これで決まりだわ」
 お姉さまと私の様子に、しほりさまは目をぱちくり。

 あれはまだお姉さまとおつきあいする前、大学一年の初秋の頃。
 ひとりで街に出て裸コート遊びをしていたら、偶然シーナさまにみつかってしまい、連れて行かれた西池袋のオシャレなアパレルセレクトショップ。
 そこではスキンアートという、素肌に絵を描くサービスをされていて、コートを脱がされ、当然のようにおっぱいやお尻を出すはめになりました。
 見知らぬお客様がたが頻繁に出入りする白昼の店内で、丸裸同然の姿で晒し者になった私。

 そのときシーナさまが、距離的には離れているとはいえ地元の駅でもあることだし、と私の身バレを心配してくださり、変装のためにかぶせてくださったウイッグ。
 もっと短かいフレンチボブタイプのウイッグでしたが、鏡に映った前髪パッツンな私の正面顔は、そのときのふしだら露出狂女にそっくりでした。
 お姉さまもシーナさまから、そのときの写真を見せてもらっているはずですから、瞬時に思い出されたようでした。

「このウイッグに合わせてメイクをお願い。そうね、かなり小生意気風に、ね」
 お姉さまが愉快そうにおっしゃいました。
「生意気風、とすると、キツネ顔っぽく、がいいのかな?でも直子さんて、どちらかと言えばタヌキ顔ですよね?」
「ああ、そう言われれば、そうね」

「絵理奈は、どちらかと言えばキツネ顔で、雰囲気変えるために今回、タヌキ顔っぽくしようとしていましたから、直子さんの場合、素の絵理奈に寄せればいいのかな。要は素顔から離れれば離れるほど、いいのですよね。」
「ええ、それでいいと思うわ。何て言うか、お高くとまりやがって、っていう感じ?それで、思わず虐めたくなっちゃうような」
 お姉さまがご冗談ぽくおっしゃいました。

「なんとなくわかりました。それでは、そういう方向で努力してみます」
「うん。あとはしほりさんに任せるから、お願いね。あたしも急いでメイクして、着替えもしなくちゃいけないし」

 お姉さまがチラッと壁の時計に目を遣りました。
 つられて見ると、お昼の12時を10分ほど過ぎていました。

「何かあったら、あたしはそこの部屋にいますから。直子は、ちゃんとしほりさんの言う通りにするのよ」
 それだけ言い残して和室に戻るお姉さま。

 お姉さまが引き戸の向こう側に消えると、しほりさまが好奇に溢れた、ちょっとイジワルそうなお顔で鏡の中の私を視つめ、嬉しそうにニッと微笑まれました。


オートクチュールのはずなのに 46

2016年4月3日

オートクチュールのはずなのに 44

「凄いわね。最初はギクシャクしていたけれど、今はもう、歩きかたも仕草も、プロのモデル顔負けじゃない?」
 マンションに着き、部室の階まで昇るエレベーターホールで、やっとお姉さまと向き合いました。
「後ろから見ていて、惚れ惚れしちゃった。すれ違う人のほとんど、男も女も、みんな直子に見蕩れていたわよ」

「そ、そうですか?」
 お姉さまのおやさしいお声に、フッと我に返るような感覚があり、同時に、過剰なほど張りつめていた背筋と心の緊張が解けていくのがわかりました。
 
 やがてエレベーターが到着。
 降りる人はなく、乗り込むのもお姉さまと私だけ。

 エレベーターの箱内に足を一歩踏み出したとき、とんでもないものが視界に飛び込んできました。
 私の真正面に、等身大以上の大きな鏡、そして、そこに映った自分の姿・・・

 鏡に映った私は、胸のVゾーンが乳首寸前まで大きくはだけ、裾もワレメギリギリまでせり上がった、目のやり場に困り過ぎるほど破廉恥な、裸コート姿でした。
 
 こんな姿で自信満々で前から歩いてこられたら、注目するのはあたりまえです。
 心の片隅に無理やり追いやっていた羞恥心が一気によみがえり、火照りとなって全身を駆け巡りました。

「わ、私・・・私、こんな姿でモールやお外を歩いてきたのですね・・・」
「そうよ。みんなの注目の的だったじゃない。でも直子もひるまずに堂々と歩き切って、偉かったわ」
 それって単に、驚いていたのか、呆れていたのだと思います。

「でもでも私、よく行くお店もあるし、知っている店員さんもたくさんいるし、どうしよう・・・もう恥ずかしくてお店に行けない・・・」
 やってしまったことの重大さに今更、からだが震えてきました。

「ううん。その点は大丈夫と思うな。注目の的は首から下だったし」
 お姉さまのからかうようなお声。

「まず服装に目が行って、それからあわてて顔を確認する、って具合だったわ」
「こんな格好したがる女って、どんな顔なんだろう、って感じでね。だけど、そのド派手なメガネでしょ?顔が半分以上隠れているから、知り合いだってわかりゃしなかったわよ」
 今度は真面目に、諭すみたいにおっしゃいました。

「それを貸してくれたアヤに感謝しなくちゃ、ね?」
 最後はおやさしくおっしゃり、不意にギュッと抱きしめてくださいました。
「あんっ!?」

「だから、さっきの感じでいいの。さっきの感じでイベントもしっかり頑張って。やっぱり直子はやれば出来る子なのよ。あたしのパートナーが直子で、本当に良かった」
 耳元でそうささやかれ、唇に甘いキス。
 
 それだけでさっきまでの不安が、綺麗サッパリ吹き飛んでしまうのですから不思議です。
 お姉さまが悦んでくださっているのだから、これでいいんだ・・・
 唇が離れたとき、タイミング良くエレベーターのドアが開きました。

 手をつないでエレベーターを降りました。
 目の前には、ホテルみたいな間接照明のオシャレな廊下が、シンと静まり返っています。
 エレベーターのドアが完全に閉まるのを待って、お姉さまがおっしゃいました。

「ここまで来たら、そのコートももう、脱いじゃって大丈夫でしょう」
「えっ!?」
「さっきのあたしのキスで気が緩んじゃった?直子には今日一日、でも、や、だって、は許されていないはずよ」
「あ、はい・・・ごめんなさい・・・」

 お姉さまからのキスで引っ込んだはずの羞恥心が、まだ少し、心のどこかでくすぶっていました。
 私にはイベントまで服は一切着せない、って、オフィスでお姉さまも断言されたじゃない?
 むしろ、ここまでコートを着せていただけたことに、感謝しなくちゃダメ。
 自分に叱るように言い聞かせ、コートの残りのボタン3つを、思い切るように手早く外しました。

 脱いだコートはニヤニヤ顔のお姉さまにお渡しし、今度はマンションの廊下で全裸。
 サングラスも一緒に外されました。
 お部屋へたどり着くまでに通り過ぎる、他所様のドアふたつが開きませんように、とドキドキお祈りしながら、携帯電話のカメラをこちらへ向けているお姉さまを追いました。

 お部屋へ入るとすぐ、お姉さまが着ていたスーツをスルスルと、お脱ぎになり始めました。
 そのとき、きっと私は、不思議そうな顔になっていたのでしょう。
 お姉さまが照れ隠しみたいに微笑みつつ、おっしゃいました。
「言ったじゃない?部室に着いたらご褒美上げる、って」

 ブラジャーも取り、ストッキングもショーツもお脱ぎになって、生まれたままのお姿になられたお姉さまが、そのままギュッと私を抱きすくめてくださいました。
「はぅぁぁー」
 お洋服を着ていらっしゃらなくても、いい匂いなお姉さま。

「これから直子を、シャワー浴びながらとことんイカせてあげる」
 耳元をくすぐる甘いささやき。
「今日は、あたしをイカせようとか、余計なことは考えないで、自分がイクことだけ考えていなさい」
 おっしゃるなり、お姉さまの右手人差し指が私のマゾマンコへズブリ。
「はぅっん!」

「相変わらずグッショグショなのね。スケベな子。モールでの注目がそんなに良かった?」
「イベントでは、それ以上の熱い視線が待っているからね」
「あうっ!あっ、あっ、あーっ}
 しばらくグチョグチョ掻き回されてから、唐突に指が抜かれました。

「おっと、その前にすることがあった。直子、今日のお通じは?」
「あん、えっ・・・お通じ、ですか?えっと、普通ですけれど・・・」
「いつしたの?」
「えっと、起きて、シャワーして、朝ごはん食べて、その後、です」

「朝食は何?」
「あのえっと、レタスとキュウリのサラダにジャムトースト一枚。あとミルクティで、食後にバナナを一本・・・」
「ふーん。ヘルシーね。今日は、イベント終わるまで何も食べられないけれど、我慢してね」
「はい。それは、構いません・・・」

「終わったら何食べてもいいから。あたしが何でもご馳走してあげる。だけど今はお腹の中、すっからかんにしちゃいましょう」
 おっしゃりながら全裸のお姉さまは、ご自分のバッグの中を物色されていらっしゃいました。

 バッグから引っ張りだされたのは、オフィスを出るときに綾音さまから手渡された小さなショッパー。
 その中から出てきたのは、私もお姉さまも見慣れている青地に白十字の箱に入ったあのお薬でした。

「そこに四つん這いになりなさい」
 お姉さまの右手が、ご自分の足元のフローリングの床を指しました。
「は、はい・・・」
 冷たさが戻ったお姉さまのご命令口調に、ゾクゾクっと鳥肌を立たせつつ、床に手を着きました。

 確か綾音さまは、あのショッパーをお姉さまに渡されるとき、絵理奈さまのためにご用意された、とおっしゃっていたっけ・・・
 ということは、本来なら絵理奈さまがイベントの前に、綾音さまの手でお浣腸されるはずだったんだ・・・

 ふと、そんな考えが浮かび、思わずその図を妄想していました。
 絵理奈さまの急病が無かったら今日の綾音さまは、盗聴のときとは打って変わって、絵理奈さまに対してエスのお役目をされていたんだ・・・
 その妄想は、私を凄く興奮させました。

「さっきアヤに診せていたときも思ったのだけれどさ、直子の肛門、確実に拡がっているわよね?少なくとも連休のときよりは」
 ギクッ!
 お姉さまのその一言で、綾音さまと絵理奈さまについての妄想が消し飛びました。

「連休明けからずっと、アヌスばっかり弄ってオナニーしていたんじゃない?凄い開発具合だもの」
 からかうようなお姉さまのあけすけなお言葉に、身を縮こませながらもキュンキュン感じちゃう私。
「・・・は、はい・・・そ、その通りです・・・」
 お姉さまに嘘をつくことは出来ません。

 アヌスばっかり、というワケではありませんが、ムラムラがひどくて激しくオナニーするとき、シャワーしながらお浣腸をして、がまんしながらイクこと、イッた後、シーナさまから就職祝いでいただいた柘榴石のアナルビーズを出し挿れすることが、ルーティーンワークとなっていました。
 
 さすがにまだ、直径40ミリの珠が付いたランダムなほうのアナルビーズは無理でしたが、直径10ミリから5ミリづつ大きくなるほうのであれば、8個の珠全部を収められるようにまでなっていました。
 あのなんとも言えない、もどかしい圧迫感がクセになっちゃったみたいなんです。

 そんなことを途切れ途切れに白状しました。

「ほら、もっと高く、お尻突き上げなさい、このヘンタイ女」
「はうっ!」
 ピシャっとお尻を叩かれて、ビクンとお尻が突き上がりました。

 お姉さまの指が私のマゾマンコから愛液をすくい取り、お尻の穴周辺になすりつけられます。
「あっ、はぅぅぅっ」
 お尻の穴が抉じ開けられ、指が内部へと埋没してくるのがわかります。
「ずいぶん挿れやすくなっているわよ?淫乱ケツマンコ」
「あう、あう、あうぅ」

「あたしにも開発の余地、残しておいてよね。一番大きな珠は、あたしの手で挿れるんだから。今度すっごく太いアナルバイブでも、買ってあげるわ。この穴が引き裂かれちゃうくらいのやつ」
 指がしばらくグリグリしてからスポンと抜け、代わりに今度は、何かもっと細いものが奥深く挿入されたのがわかりました。

「あああぁぁ・・・」
 間髪を入れず、直腸の中に冷たい刺激が注ぎ込まれてきます。
「今日は念のため、3つ入れておくわね」
 代わる代わるに細いものを突き立てられ、最後に何か柔らかいもので穴を塞がれました。

「うふふ。アナルプラグまで用意しちゃって、あのふたりも、かなりヘンタイな遊びを日常的にしているみたいね?」
 愉快そうなお姉さまのお声。
「そっか。あたしのプレゼントもアナルプラグにしようっと。これの2倍位太いやつ」

 挿入されたものは、柔らかいのですが中で膨らんでいる感じで、その圧迫感が妙に心地良くムズムズするものでした。
 でも、これの2倍って言ったら・・・
 本当に私の、裂けちゃうかも。

「直子って、マゾマンコにならあるでしょうけれど、ケツマンコに何か挿れっ放しで歩いたことって、あったっけ?」
「あ、いえ、お尻には、ないです・・・」
「今日のアイテムの中には、アナルにプラグ挿れっぱのものもあるから、それならいい練習にもなるわね。さ、バスルームへ行きましょう」

 お姉さまが差し伸べてくださった右手にすがって立ち上がり、手を引かれてバスルームに向かいました。
 お浣腸されたお尻の穴に、プラグを挿し込んだたままで。

 バスルームでのお姉さまとの行為は、いつもとちょっと違ったものになりました。
 ぬるめのシャワーを勢い良く全開にして、まず、その下で抱き合いました。
 髪の毛が顔にベッタリ貼りつくのもおかまいなく、唇を貪り合いました。
 湯気で曇る前の鏡に映った私のお尻には、赤ちゃんのおしゃぶりの先っちょのような輪っかが、滑稽に覗いていました。

 抱き合った胸元にボディソープを垂らし、からだを擦りつけ合います。
 やがて泡立つと、いったんシャワーの雨から避難して、お姉さまが私を愛撫し始めました。
 シャワーは出しっ放しで、相変わらず激しい水音がふたりを包んでいました。
 
 お姉さまは、これからモデルをする私の肌に痕を残してはいけない、と思われたのでしょう。
 いつものように叩いたりつねったり、もちろん縛ったりも無く、マッサージするみたいにやんわりジワジワとした愛撫がつづきました。
 おっぱいが念入りに揉みしだかれ、腋やうなじなど私が弱い場所を集中的に弄られたり。
 
 私の大好きな、痛い、という刺激は皆無なものの、お姉さまのおやさしいマッサージは執拗につづき、私が人肌に飢えていたこともあって、どんどん高揚してきました。
 焦らされていた乳首への責めで、最後はあっという間に昇りつめました。

 一度私がイッてからは、お姉さまの右手が、ずっと私の股間に吸い付きっ放し。
 最初から私の腫れた肉芽を執拗にいたぶってきました。
「んぐっ、んぐぅーーーっ!!!」
 お姉さまの唇で塞がれた自分の喉奥から、くぐもったような歓喜の嗚咽。
 それをかき消すような、激しいシャワーの水音。

 私がビクンビクンとイクたびに、お姉さまは攻撃の仕方を変えてきました。
 指が2本、マゾマンコ奥まで潜り込んで掻き回され、尖った乳首が噛み切られるくらい歯を立てられました。
「あああーーっ、あんあんっ、いぃぃーーーっ!!!」

 私の両手もお姉さまの乳房や秘唇をまさぐってはいるのですが、お姉さまは気にも留めていらっしゃらないご様子。
 ひたすら私を責め立てて、そして私はどんどん、お腹が痛くなってきました。

「あん、お姉さま、そ、そろそろダメです・・・出、出ちゃいそうですぅ・・・」
「うん、知っているわ。さっきから直子のお腹、グルグルゴロゴロ、煩いくらい鳴っているもの」
「だ、だから、あんっ、いったん離れてくださいぃ・・・でないと、お姉さまのおからだまで、わ、私の汚いもので汚してしまいますぅ・・・」

 私の膣壁をしたい放題いたぶってくる、お姉さまの指が与えてくださる快楽に飲み込まれそうになりながらも、なんとか必死に訴えました。
 そのあいだ下半身はずっと、プルプル震えっ放し。

「大丈夫よ、お尻に栓をしているのだから。直子の意志や諦めだけでは、派手に漏れだしたりしないはず」
「それに、出してもシャワーがすぐに流しれくれるから、あたしのことも気にしなくていいわよ」
 お姉さまが激しいシャワーの下で私のマゾマンコを責める手は止めず、クールにおっしゃいました。

 おっしゃる通りでした。
 一生懸命ガマンはしているのですが、お姉さまがくださる快感に気を許すと、どうしてもガマンのほうの力が緩んでしまうのです。
 栓をしていなかったら、もはやとっくに垂れ流してしまっていたはずでした。

「それに、もうちょっとがんばってみなさい。ほら、アヌスに力を入れて」
 ご命令通り、キュッと肛門を締め上げると、同時にお姉さまの指に陵辱されている穴の方も締め上げることになります。

「そう、その調子。あたしの指が奥へ奥へと咥え込まれていくわ。もう一本挿れちゃおうかしら、ほら締めて」
「んんーーっ!」
 膣壁がパンパンに圧迫され、尿意みたいなものまで催してきました。
 耐え難いお腹の痛みさえ、快感に変換されています。
 もちろん昂りも、頂上まであと一息のところまで。

「あうっ!お、お姉さま・・・もう、もうダメです・・・もう、もう・・・いやぁーー」
「なあに?イキそうなの?いいわよ、イっちゃいなさい、ヘンタイ直子らしく、あたしの目の前でウンチ垂れ流しながら、イっちゃいなさい」
 
 お姉さまの左手でグイッと抱き寄せられると同時に、膣内への摩擦も最高潮になりました。

「いやーーーっ、あっ、あっ、いや、いや、だめ、はぁっ、はぁっ、でちゃう、イッちゃぅぅぅ」
 膣内への刺激が一瞬途切れ、同時に肛門に筆舌に尽くし難い爽快な開放感が訪れました。
 栓を抜かれた瞬間、スポンという音さえ聞こえたような気がしました。
 間髪を入れず膣内への摩擦が戻り、昂りが何十倍にも増幅して戻ってきました。

 すさまじい快感が全身を駆け巡っていました。
 私の肛門は、自分でも制御不能。
 からだ中の穴という穴から、何かしらの液体が放出されているような感じでした。
 自分自身が液体となって、溶け出しているような絶頂感でした。

 集中豪雨のようにけたたましいシャワーの水音の中でも、自分の下半身から断続的に発せられた、はしたない破裂音は聞こえていました。
 そして、そこはかとなく香ってくる、懐かしくも不穏な臭い。
 それらの恥ずかしささえ、そのときの私には快感の増幅を呼ぶスパイスに過ぎませんでした。

「ああああーーーごめんなさいぃ、イキます、イキます、もうイキますうぅぅぅぅ!!!」
 お姉さまのおっぱいに顔を擦りつけ、シャワーの音に負けないくらいに叫びました。
 シオなのかオシッコなのか、マゾマンコからも何らかの液体がほとばしる感覚がありました。

 いつの間にか両膝が崩れ、シャワーの下で四つん這いに力尽きたまま、それでもたてつづけに何度もイキました。
 シャワーが背中に、お尻に当たる、その打擲の刺激だけで、果てしなくイッちゃいそう。
 そのくらい全身の肌がビンカンになっていました。

 シャワーの勢いがだんだん弱まり、やがて止まりました。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
 水音が消えたバスルームに、自分の荒い息遣いだけがエコーしていました。

「どうだった?あたしからのご褒美」
 裸のお姉さまがしゃがみ込んで、四つん這いでうなだれている私の顔を覗き込んできました。
「は、い・・・ありがとう、ございます・・・さ、サイコーでした・・・」
「これで底無しな直子のムラムラも、いくらかは落ち着いたでしょう。からだ拭いちゃって、イベントの準備に移りましょう」
「は、はい・・・」

 ぐったり疲れきったからだをお姉さまに助け起こされ、フラフラたどり着いた脱衣場では、ただ立ち尽くす小さな子供状態。
 お姉さまにからだの隅々まで丁寧に拭いていただきました。
 ブラジャーの跡もパンストのゴム跡も、跡形もなく消え去り、両手の指なんてもうシワシワ。

 頭にタオルを巻いてもらい、私は裸、お姉さまは真っ白なバスローブ姿で部室のメインルームであるリビングルームに移動しました。
 お姉さまがグラスに冷たいスポーツドリンクをたっぷり注いで、持ってきてくださいました。
 
 お部屋壁際のソファーにタオルを敷いて裸のお尻で腰掛け、最初はそれをグイッと、残りはゆっくりといただきました。
 お姉さまは、脱ぎ散らかしたご自分のスーツ類を拾い集めてはハンガーやトルソーに掛け、それからバスローブのまま和室に入られました。

 バスルームで、何回くらいイッたのかしら?
 さすがに今は大人しくなっている自分の乳首を見下ろしながら考えました。
 数えてみようか、とも思いましたが、イキグセがついてからはずっと、頭の中が真っ白に吹っ飛んでいて正確には思い出せないことに、すぐ気づきました。
 そのぐらいたくさんイッたはずです。

 だんだん冷静になるとともに、この場でまだ自分が全裸であることを恥ずかしく思い始めた頃、ご来客を告げるチャイムが室内に鳴り響きました。
 すぐにバスローブ姿のお姉さまが和室から出てこられ、インターフォンの受話器を取られました。

「はい。あ、どうも。わざわざありがとうございます・・・」
 その後、フロア階数とルームナンバーを告げられ、受話器を置かれました。

「メイクのしほりさんがみえたわ。今エントランスだから、ほどなく上がってこられるはず」
「あたし今、手を離せないから、次にチャイムが鳴ったら、直子、玄関でお迎えしてあげて」

 それだけ告げて、再び和室に戻られるお姉さま。
 和室の引き戸がピシャリと閉じられます。

 私、どうやら全裸のまま、見知らぬお客様をひとりで、お出迎えしなくてはいけないみたいです。


オートクチュールのはずなのに 45


2016年3月27日

オートクチュールのはずなのに 43

「あたし今、本気で外に出るところだった!」
 ご自分でもびっくりされたようなお顔で、お姉さまが私の顔をまじまじと見つめてきました。

「なぜ直子も何も言わないのよ?あなた今、真っ裸なのよ?普通は、何か着せてください、とか、あたしを引き留めるものでしょ?まさか、そのまま外に出ても構わなかったの?」
「いえ、あの、だって・・・」

 お姉さまにあまりに自然に手を引かれ、戸惑いながらも抗議出来る雰囲気でもなく、ただただパニクっていたのでした。
 あのままお外へのドアを開けようとされたら、さすがに声をあげていたことでしょう。
 だけど、それをどうお伝えすればいいのか適切な言葉が浮かばず、黙って顔を左右にブンブン振って否定の意思を表しました。

「ねえ・・・」
 やれやれ、というお顔をされたお姉さまが、ご自分のデスクでこちらに背を向けている綾音さまに呼びかけようと、お声をかけかけたのですが、綾音さまがお電話中とわかり尻すぼみで終わりました。
 すぐにお電話は終わり、綾音さまが受話器を置くのを待って、もう一度呼びかけるお姉さま。

「ねえ?デザインルームに何かガウンみたいな羽織れるもの、なかったかしら?コートとかジャケットとか。この際カーディガンでもバスローブでも、何でもいいわ」
 お声に呼ばれてこちらをお向きになった綾音さまが、私を見てニッと笑いました。

「あら?ナオコはこれから本番までずっと、裸で過ごさなくてはいけないのではなかったかしら?」
 イタズラっぽい目つきでからかうようにおっしゃる綾音さま。

「なーんてね。いくらなんでも、このビルからマンションまでオールヌードで歩き回らせる訳にはいかないわよね。大騒ぎになってイベントどころじゃなくなっちゃう」
 立ち上がった綾音さまがデザインルームに向かいかけ、すぐ立ち止まりました。

「そうだわ。今日わたくし、レインコート着てきたから貸してあげる」
 おっしゃってから、綾音さまのお顔が少し曇りました。
「夜明け前からずっとシトシト降りつづけているのよ、このイヤな雨」

 絵理奈さまは今日の明け方に苦しみ出したと、お姉さまがおっしゃっていたので、きっとそのときのことを思い出されているのでしょう。
 小さくお顔をしかめながら綾音さまが、更衣室のほうへと向かわれました。

 ほどなく戻られた綾音さまから、少しくすんだグリーンのオシャレなコートを手渡されました。
 裏地を見たら一目でわかる、イギリスを代表する有名なブランドものでした。

「あ、ありがとうございます・・・」
 うわー、このコート、おいくらぐらいするのだろう・・・なんて下世話なことを考えながら恐縮しつつ、おずおずと袖に腕を通しました。

 見た目よりもぜんぜん軽い感じのトレンチコート。
 綾音さまのほうが私より5センチくらい背がお高いので、ちょっぴりブカブカ気味なのはご愛嬌。
 羽織ると、いつも綾音さまがつけていらっしゃるミント系のフレグランスが香りました。

「ショートコートだからギリギリかな、と思ったけれど、ナオコだと股下5センチくらいは隠れるのね」
 綾音さまがからかうみたいにおっしゃいました。

 確かに、6つあるボタンを全部留めると、ミニのワンピースを着ているような着丈でした。
 うっかり前屈みにはなれないくらいの、微妙なキワドさ。
 生地が薄めで柔らかいので、乳首の出っ張りも微妙にわかります。

「おお。いい感じ。じゃあ行こうか」
 お姉さまが再び私の右手を握りドアへ向かおうとすると、綾音さまに止められました。
「待って。これもしていくといいわ」

 差し出されたのは、見覚えのある派手なサングラス。
 絵理奈さまがオフィスへお越しになるときいつも着けていた、いかにもタレントさんがオフのときにしていそうな、茶色いレンズでセルフレーム大きめなサングラスでした。

「昨日から東京に来られている地方のお客様が、イベントまでの暇つぶしに、下のショッピングモールとか観光されているかもしれないでしょ?」
「ナオコはともかく、絵美の顔は知られているから、みつかったらちょっとはお相手しなきゃ。そのときナオコの顔も覚えられちゃったら、後々マズイじゃない?」
「もしそうなったら、ナオコは失礼して、先に部室に行っちゃいなさい。くれぐれもお客様に、うちの社員とは思わせないこと」

 綾音さまのご説明に、はい、とうなずいてはみたものの、こんな目立つサングラスに、ミニワンピ状態のトレンチコートって、かえって人目を惹いちゃうのでは?と思いました。

「それと、メイクのしほりさんは、今原宿だから、大急ぎでこちらへ向かうって。3、40分てところね」
「おっけー。それじゃあ、後のことは任せたから。行こう、直子」

 期せずして、こんな平日のお昼前に勤務先のビル内で裸コートを敢行することになってしまった私は、お姉さまに右手を引っ張られ、オフィスを出ました。

「思いがけず、面白いことになっちゃったわね」
 エレベーター内はふたりきりでした。
 お姉さまが私の全身をニヤニヤ眺めながらおっしゃいました。

「まさかこんなことで、直子のヘンタイ性癖をうちのスタッフにカミングアウトすることになるなんて、思ってもみなかった。その上、ショーでうちのアイテムを身に着けるモデルまで直子になっちゃうなんて」
「こんなに大っぴらに、勤務中にみんなの前で堂々と直子を辱められるなんて、あたしもう、愉しくって仕方ないわ。ある意味、こんな機会を作ってくれた絵理奈さまさまね」

 本当に嬉しそうなご様子のお姉さまを見ていると、私も嬉しくなります。
 ただし、心の中は不安で一杯ですが・・・
 ほどなくしてエレベーターが一階へ到着しました。

 オフィスビルのエレベーターホールは、ずいぶん賑わっていました。
 お昼が近いからかな?
 大部分はスーツ姿のビジネスマンさんやOLさんたち。
 右へ左へ、忙しそうに行き交っていました。
 サングラスをかけるときに思ったことは杞憂に終わらず、エレベーターを降りた途端に、いくつもの不躾な視線が私に注がれるのを感じました。

 今までいた身内だけの空間から、見知らぬ人たちが大勢行き交う、公共、という場にいきなり放り出され、裸コートの私は途端に怖気づいてしまいました。
 こんな場所に私、コートの下は全裸で、短かい裾から性器まで覗けそうな格好で、立っているんだ。
 東京に来てから、頻繁にショッピングやお食事で立ち寄り、会社に入ってからは毎日通勤している、こんな場所で。
 怯えながらも甘く淫らな背徳的官能に、被虐マゾの血がウズウズ反応していることも、また事実でした。

「何早くもビビッているのよ?」
 私の緊張をいち早く察したお姉さまが、エレベーターホールの柱の陰へ私を連れ込みました。
「このくらいで怖気づいていたら、ショーのモデルなんて到底務まらないわよ?」
 壁ドンの形でヒソヒソ諭されました。

「いい?今日の直子はいつもの直子じゃないの。このビル内のオフィスに勤める一介のOLじゃなくて、これからファッションイベントで主役を務める、デザイナーから選ばれたモデルなの」
「直子にショーモデルとしての心得を教えてあげる。まず、モデル、つまり服を魅せるマネキンになりきりなさい。一流のモデルは人前で喜怒哀楽を出してはダメ。高飛車なくらいのポーカーフェイスが基本よ」

「恥ずかしさに照れ笑いとか困惑顔は、見ているほうがかえって気恥ずかしくなっちゃうの。それでなくても今日直子が着て魅せるアイテムは、一般論で言えば恥ずかし過ぎるようなものばかりなのだから」
「心の中では、どんなにいやらしく感じていてもいいから、表の顔はポーカーフェイスをキープ。不機嫌なくらいでちょうどいいわ」

「練習のために、ここから部室まで、ふたりでモデルウォークで歩いていきましょう。あたしもつきあってあげるから」
「当然、人目を惹くけれど、臆してはダメ。逆に人目を惹かなければ、モデルとしての価値なんて無いのだから。注目浴びて当然、あたし綺麗でしょ?って感じで澄まして颯爽と歩くこと」

「昨日、ランウェイでふざけてやっていたじゃない?雅と一緒に。上手いものだったわ。あの感じで歩けばいいから」
 そこまでおっしゃって、お姉さまの目が私の着ているコートへと移りました。

「それにしてもずいぶんキッチリとボタン留めたのね?こんなジトジト湿度なのに」
「それ、かえって不自然だわ。暑苦しい。上のボタン、二つ外しなさい」

 でも・・・と思ったのですが、ご命令口調には逆らえません。
 お姉さまのお顔をすがるように見つつ、首元まで留めていたボタンとその下を、そっと外しました。

「ほら、すぐそんなふうに嬉しそうな顔する。どんな命令にも淡々と無表情で従いなさい。内心はどんなに悦んでもいいから」
 叱るようにおっしゃりながら、ボタンを外した襟を開いて、整えてくださるお姉さま。
 視線を落とすとコートのVゾーンが、おっぱいの谷間が覗けるくらい、肌色に開いていました。

「うん、トレンチはやっぱり、この襟を開いた形が一番恰好いい。胸元が風通し良くなったでしょう?」
 いえ、お姉さま、前屈みになると隙間から乳首まで覗けちゃいそうなのですけれど・・・

「ついでに裾のほう、一番下も、外しましょう」
 えっ!?と思っても、表情に出してはいけないのでした。
 こんなに短かくて、生地が柔らかいから裾だって割れやすそうなのに、モデルウォークで歩いたら足捌きで・・・と思いつつも、努めて無表情で外しました。

 6つあるボタンのうち3つを外してしまいました。
 今留まっているのは、下乳の辺りからおへその辺りまでの3つだけ。
 何かの拍子で、いとも簡単にはだけてしまいそうな、なんとも頼りないコートになってしまいました。

「大丈夫よ。トレンチだからダブルだし内ボタンも留めているのでしょう?それにベルトもしているし、おいそれと全開にはならないわ」
 コートの裾をピラッとめくるお姉さま。
 内腿の交わりに外気が直に当たりました。

「うん。エレガントだし肌の見え具合もちょうどいい。やっぱり老舗のブランドものはシルエットが違うわね」
「直子も負けないでちゃんと着こなしているじゃない。そのド派手なメガネといい、もう立派なスーパーモデルね」
 お姉さまから、からかわれ気味に褒められても無表情。
 だけど心臓はドキドキで、今にもバクハツしそうでした。

「準備万端。モデルウォークの練習は、と・・・せっかくだし、こっちから行きましょう」
 えっ!?
 お姉さまが選んだのは、ショッピングモール側の通路。
 エレベーターホールから近い、道路沿いの通路のほうが人通りが少ないのに。

「せっかくの裸コートなのだから、見物人が多いほうが直子も嬉しいでしょ?」
 私の戸惑いを見透かしたみたいに、耳に唇を寄せてささやくお姉さま。

「さあ、行きましょう。ここからは手はつながないからね。まっすぐ前を見て視線は散らかさず、大きめのストライドで颯爽とね」

 おっしゃるなり、お姉さまが胸をスッと張った美しい姿勢で、颯爽と歩き始めました。
 うわー。
 お姉さまのモデルウォーク、なんて華麗で優雅。

 見惚れている場合ではありません。
 あわてて私も背中を追います。

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る・・・
 
 お姉さまのお背中を見つめ、一歩下がる感じで着いていきました。

 これからショッピングモールが本格的に始まる、という地点でお姉さまが立ち止まれました。

「ここからは、直子が先に歩きなさい。あたしは後ろに着くから」
 耳元でささやかれ、背中を軽く押されました。
 ご命令には絶対服従。
 そこからは、数メートル先の宙空に視点を置き、極力周りを見ないようにして進みました。
 
 ショッピングモールは、オフィスビルよりもっと賑わっていました。
 週末平日のお昼前。
 小さなお子様連れの若奥様風のかたたちが多いようでした。
 他には学生さん風とか、隣接のホテルの外国人宿泊客さんたち。
 モールのお店が若い人向けばかりなので、お年を召されたかたはあまり見かけません。

 そんな中を、場違いに気取ったモデルウォークで進んでいく女性ふたりの姿は、明らかに異質でした。
 前を行くのは、タレント然としたド派手なサングラスに、妙に肌の露出が多いトレンチのレインコートを着た若い女。
 その後ろに、仕立ての良いビジネススーツを優雅に着こなしたスラッとした美人さん。
 芸能人の端くれとそのプロダクションのマネージャー、くらいには、見えたかもしれません。
 
 すれ違う人たちの視線を惹きつけていることが、みなさまの頭の動きで如実にわかりました。
 私たちに気がつかれたみなさまは誰も、首がこちらのほうへぐるっと動くのです。
 私たちの姿を数メートル先で見つけ、すれ違うまでその場で固まったまま不思議そうに見つめつづける若い男性もいました。

 一歩進むたびに短かい裾を腿が蹴り、そのたびに裾が不安定に、股間ギリギリで揺れているのがわかりました。
 歩き始めると、ウエストで絞ったベルトを境に、下部分は少しづつせり上がり、上部分は胸元がたわんで広がってきました。
 見下ろす形の自分の視界的には、胸元のVゾーンからおっぱいのほとんどが見えていました。
 かと言って、必要以上に胸を張ると、乳首が裏地に張り付き、布を押し上げるのがわかります。

 いったい私の姿、周りの人にどんなふうに見えているのだろう・・・
 胸の谷間は?浮き出た乳首は?裾のひるがえりは?

 一番気になるのは裾でした。
 コートの布地が末広がりなので、自分では確認出来ませんが、歩いている感じでは、両腿のあいだを空気が直に通り過ぎていました。
 正面から見たら、すでにもうソコが露になっちゃっているのかもしれない・・・

 視線をまっすぐに定めていても、視界にはこれから通り過ぎる場所の情報が飛び込んできます。
 あそこのお店は、先週ワンピースを買ったところ、あそこのお店のマヌカンさんとは顔見知り、あそこのカフェのケーキは美味しかった・・・
 そんな日常的な場所を私は、キワドイ裸コート姿で、何食わぬ顔で歩いているのです。

 心の中はもう、収拾のつかないくらいの大混乱でした。
 視ないで、と、視て、の相反する想い。
 視られたくないのに視られているという被虐と、視せつけたいから視せているという自虐。
 ヘンタイマゾの願望を実践している自分に対する侮蔑と賞賛。
 それらが一体となった羞恥と快感のせめぎ合いで、全身にマゾの血が滾っていました。

 歩きつづけて周囲の視線に慣れてくるほどに、羞恥よりも快感が上回ってきました。
 あそこでふたり、こちらを見てヒソヒソしている。
 あの人、すごく呆れたお顔をされている。
 こっちの人は、なんだか嬉しそう・・・
 視線を動かさなくても、周りの雰囲気を肌で感じ取ることが出来ました。

 両腿のあいだは、自分でもわかるほどヌルヌルでした。
 このまま溢れ出た雫が腿を滑り落ちても構わないと思いました。
 むしろそのほうが、マゾな自分にはお似合いです。

 視ないで、と思うより、もっと視て、と思うほうがラクなことにも気がつきました。
 そのほうが私自身が悦べるし、皮膚感覚がどんどん敏感になって、ちょっとした視線の動きだけで、触れられたのと同じくらいに感じられるのです。
 どんどん視ればいい、舐めまわすように私を視て、ふしだらなヘンタイ女って蔑めばいい、それこそが私の望みなのだから。
 そんな気持ちになっていました。

 それは、ある種の開き直りなのかもしれません。
 恥ずかしさが極まり過ぎて、そこから逃げ出すよりも、いっそ身を委ねてしまおう、という選択。
 その選択をしてからの私は、人とすれ違うたびに、そのかたに、視てくださってありがとうと、と心の中でお礼を言いつつ、マゾマンコの奥をキュンキュン疼かせていました。
 
 いつの間にかモールを通り過ぎ、ビルの出口まで来ていました。
「いい感じよ直子。いい感じにトロンとして、すごく色っぽい無表情になっている」
「さあ、ここからは外、あと一息ね。部室に着いたらご褒美あげるわ」

「はい。ありがとうございます、お姉さま」 
 最愛のお姉さまにも褒められた、ということは、私の選択は間違っていなかった、ということ?
 
 思わずほころびそうになる口元を引き締めて無表情に戻り、再び歩き始めます。
 高速道路の高架下の薄暗い広場を抜け、スーパーマーケットのある通りへと。
 その裏が部室のあるマンションです。

 お外には、ビルの中とはまた違った種類の人たちが行き来していました。
 ご年配のスーパーへのお買い物客らしきおばさま、疲れた感じの初老なサラリーマンさん、何かの工事の人たち、宅配便の配達員さん・・・
 いっそう日常的となった空間を再び、場違いなモデルウォークで歩き始めました。
 視て、もっと視て、って心の中でお願いしながら。

 スーパーマーケット側へ渡るための横断歩道で、赤信号に止められました。
 お姉さまの傍らで、うつむかずまっすぐに立ち、信号が変わるのを待ちます。
 向こう側にも数人のかたたちが待っていて、そのあいだを時折、トラックやタクシーが走り抜けていきます。
 
 強めのビル風がコートの裾を乱暴に揺らしても、いつもみたいにあわてたりしません。
 もっと吹いて、マゾマンコが露わになっちゃえばいい。
 そう考える、私の中にいるもうひとりの私、自分を辱めたがる嗜虐的なほうの私の声が、思考を支配していました。

 道路の向こう側にいるご中年のサラリーマン風男性は、明らかに私のコートの下のことに気づいているようでした。
 遠くから、たとえ目を瞑っていてもわかるほど強烈に、熱い視線が私の下半身へと突き刺さっていました。
 信号が変わり、お互いが歩き出してからも、じーっと粘っこい視線が私の胸元と下半身にまとわりついていきました。
 
 私はそれを、身も心もとろけちゃいそうなほど、心地良く感じていました。